説明

溶融金属浴用の浸漬部材、溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法、溶融金属めっき装置、及び溶融金属めっき鋼板の製造方法。

【課題】溶融金属めっき浴に浮遊する異物が付着し難い溶融金属めっき浴用の浸漬部材を提供する。
【解決手段】セラミックス複合材の全質量基準で、窒化硼素(BN)を20質量%以上70質量%以下配合した窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を用いて溶融金属浴用の浸漬部材742を形成する。この浸漬部材742を溶融金属めっき装置1に付設される異物除去装置(ガスリフトポンプ7)に用いると、浸漬部材742に対する異物(ドロスD)の付着や固着が起こり難くなるので、浸漬部材742の交換頻度を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶融金属浴用の浸漬部材、溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法、溶融金属めっき装置、及び溶融金属めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融めっき鋼板を得る方法として、加熱焼鈍された鋼板をスナウトを介して亜鉛(Zn)やアルミニウム(Al)等の溶融金属めっき浴に導き、鋼板へ溶融金属をめっきし、ポットロールを介して鋼板を引上げ、連続的にめっき鋼板を得る方法が汎用されている。
該めっき浴において、鋼板の浸漬によって溶出した鉄がめっき金属と反応することでドロス(主にFeZn、FeAl)が生じる。このドロスは、めっき浴面を浮遊し、めっき鋼板に付着してめっき品質を低下させる原因となったり、浴中の浸漬部材に付着し、配管詰まりや回転不良を生じさせたり、または、浴中の浸漬部材を侵食したりする。そのため、めっき鋼板にドロスが付着しないように対策を施したり、浴中の浸漬部材の定期的な交換及びメンテナンスを行ったりする必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、不活性雰囲気を維持するために用いる筒状のスナウトの内側溶融金属浴面に浮遊する異物(ドロス)を、異物除去装置として使用されるメタルポンプの流速を制御することによって、スナウト外に除去する方法が開示されている。
しかしながら、ポンプ部材の溶損やドロスの固着によって短期間でポンプ機能が損なわれてしまうため、ポンプ部材の交換または酸洗等による交換及びメンテナンスを頻繁に行わなければならなかった。
【0004】
このような問題に対して、例えば特許文献2では、ポンプ部材に耐食性のコーティングを施してポンプ部材の長寿命化を図る技術の開示がある。
しかしながら、この方法ではコーティング層の剥離やドロスの固着などが起こるため、交換サイクルの延長を十分に図ることができなかった。
【0005】
そこで、ドロスが付着し難いセラミックス材料で構成した溶融金属浴用の浸漬部材が開発された(例えば特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−293107号公報
【特許文献2】特開2003−328990号公報
【特許文献3】特開2007−145642号公報
【特許文献4】特開2008−137844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3及び4に記載された浸漬部材を用いても、浴中の浸漬部材に対するドロスの付着や侵食を長期間防止することができず、溶融金属めっき浴用の浸漬部材に対するドロスの難居着き性(浸漬部材に対するドロスの付着し難さ)及び溶融金属中での耐侵食性(浸漬部材の侵食され難さ)をさらに向上させた浸漬部材の開発が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、難居着き性及び耐侵食性を大幅に向上させ、溶融金属浴中の浸漬部材への異物付着や侵食に起因する該浸漬部材の交換頻度を少なくしつつ、高品質、即ち外観性に優れた溶融金属めっき鋼板を製造するための溶融金属浴用の浸漬部材及びその製造方法を提供することにある。併せて、この溶融金属めっき浴用の浸漬部材を異物除去装置へ用いた溶融金属めっき装置及びこの溶融金属めっき装置を用いてめっきする溶融金属めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、耐熱性や耐衝撃性に優れる窒化珪素(Si)に、溶融金属に対して濡れ難い窒化硼素(BN)をセラミックス複合材全質量基準で少なくとも20質量%以上70質量%以下配合した窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織制御、及び、製造方法を見出し、ドロスの難居着き性と溶融金属浴中での耐侵食性を両立させた。
【0010】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下に示される。
(1) セラミックス複合材の全質量基準で、少なくとも窒化硼素(BN)を20質量%以上70質量%以下含有する窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を用いる溶融金属浴用の浸漬部材。
【0011】
(2) 前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)は、薄片状及び層状の少なくともいずれか一方の形状を有する凝集体として存在しているものであることを特徴とする(1)に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【0012】
(3) 前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)は、前記窒化硼素の平均中心間距離が前記窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように分散していることを特徴とする(1)又は(2)に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【0013】
(4) 前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)濃度は、前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の内層と比べて表層ほど高くなる傾斜機能構造を形成していることを特徴とする(1)から(3)までのいずれか一つに記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【0014】
(5) 前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材中に焼結助剤として、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、希土類酸化物(RE:REは希土類元素)、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)のうち少なくともいずれか一種を含有し、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び希土類酸化物(RE)の含有量はそれぞれ0.2質量%以上5.0質量%以下とし、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)の含有量はそれぞれ0.5質量%以上5.0質量%以下とすることを特徴とする(1)から(4)までのいずれか一つに記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【0015】
(6) セラミックス複合材を用いる溶融金属浴用の浸漬部材を製造する溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法であって、セラミックス複合材の全質量基準で、少なくとも窒化硼素(BN)を20質量%以上70質量%以下含有する窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を成形する際に、前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の原料粉に対して、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウムを添加するとともに、結合剤としてポリアクリル酸系エマルジョンを添加した後、成形、焼結及び部材加工することを特徴とする溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【0016】
(7) さらに、焼結助剤として、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、希土類酸化物(RE;REは希土類元素)、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)の内の少なくとも1種を添加し、添加する焼結助剤がAl、SiO、MgO、REの場合、焼結助剤の添加量はそれぞれ0.2質量%以上5.0質量%以下、添加する焼結助剤がZrSi、TiSiの場合、焼結助剤の添加量はそれぞれ0.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする(6)に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【0017】
(8) 前記焼結が、1600℃以上1850℃以下の温度条件下での、常圧焼結、ホットプレス焼結、雰囲気加圧焼結の少なくともいずれか一つの焼結であることを特徴とする(6)又は(7)に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【0018】
(9) 前記焼結の後に、さらに、1550℃以上1800℃以下の温度条件で熱間等方加圧(HIP)焼結を行うことを特徴とする(8)に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【0019】
(10) 加熱焼鈍された鋼板をスナウトを介して溶融金属浴中へ導き、溶融金属めっきを鋼板へ施し、ポットロールを介して鋼板を引き上げて連続的にめっき鋼板を製造する溶融金属めっき装置において、(1)から(5)までのいずれか一つに記載の溶融金属浴用の浸漬部材を、前記スナウト内浴面に発生する異物の除去装置に適用したことを特徴とする溶融金属めっき装置。
【0020】
(11) 前記異物の除去装置はガス散気筒及び配管部材を備え、前記溶融金属浴用の浸漬部材を前記ガス散気筒及び前記配管部材の少なくともいずれか一方に適用したことを特徴とする(10)に記載の溶融金属めっき装置。
【0021】
(12) (10)又は(11)に記載の溶融金属めっき装置を用いることを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐熱性や耐衝撃性に優れる窒化珪素(Si)と溶融金属に対して濡れ難い窒化硼素(BN)とが前記配合量で配合されているので、溶融金属浴用の浸漬部材として必要な耐熱性や耐衝撃性を有すると共に、優れた難居着き性及び耐侵食性を有する溶融金属浴用の浸漬部材を得ることができる。そして、溶融金属浴中の浸漬部材への異物付着や侵食等に起因する該浸漬部材の交換頻度を低減し、頻繁に装置を停止させることなく安定して高品質、即ち外観性に優れた溶融金属めっき鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶融金属めっき装置の正面断面図。
【図2】図1におけるスナウト内側浴面を鋼板を導入する方向から見た図。
【図3】図1における溶融金属めっき装置の側面断面図。
【図4】図3におけるガスリフトポンプの内筒管の要部縦断面図。
【図5】図4における内筒管のガス散気筒の平面断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る浸漬部材断面の成分分析結果の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態に係る溶融金属浴用の浸漬部材、当該浸漬部材の製造方法、溶融金属めっき装置、及び溶融金属めっき鋼板の製造方法について説明する。
溶融金属浴用の浸漬部材としては、スナウト、ポットロール、案内ロール、メタルポンプ、ガスリフトポンプ等が挙げられる。本実施形態では、ガスリフトポンプに供されるガスを放出するためのガス散気筒に対して本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材を適用した場合について説明する。なお、本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材は、本実施形態で説明する適用形態に限られず、その他、ガスリフトポンプの配管部材や、メタルポンプの構成部材(例えば、配管部材や吐出口部材等)、スナウトの溶融金属浴浸漬部分、ガスワイピングノズル、ポットロールや案内ロール(例えば、ロール表面の被覆部材、軸受け部材や軸部スリーブ等)にも適用することができる。
【0025】
図1は、本発明の溶融金属めっき装置1の正面断面図である。
加熱焼鈍された鋼板2は、溶融金属めっき装置1のスナウト3から溶融金属浴としての溶融金属めっき浴4中へ浸漬される。浸漬された鋼板2はポットロール5及び案内ロール6によって引上げられる。その後、鋼板2に付着しためっき付着量は、ガスワイピングノズル(図示せず)によって調整される。
溶融金属めっき浴4の浴面には、鋼板の浸漬によって溶出した鉄がめっき金属と反応することで異物としてのドロスDが生じる。ドロスDは、主にFeZn、FeAlからなる。ドロスDは鋼板2が浸漬されるスナウト3の内側浴面にも浮遊している。そのため、ドロスDは、鋼板2に付着してめっき品質を低下させる原因となる。
溶融金属めっき装置1には、ドロスDをスナウト3の内側浴面からスナウト3の外側浴面に排出するために、異物除去装置としてメタルポンプ(図2又は図3参照)及びガスリフトポンプ7が付設されている。
【0026】
図2は、スナウト3の内側浴面を、鋼板2が導入される方向に見た場合の図である。なお、図2においては、スナウト3の外側部分の詳細については省略してある。
図2に示すように、メタルポンプ8の吐出口81(本実施形態では2つの吐出口が設けられている)と、ガスリフトポンプ7の吸入口71とが、スナウト3の内側浴面において鋼板2の幅方向両端近傍に、お互いに対向するように、溶融金属めっき装置1に備え付けられている。メタルポンプ8の吐出口81からガスリフトポンプ7の吸入口71への溶融めっき液は、図2に示す矢印の方向に流れる。
【0027】
図3は、溶融金属めっき装置1の側面断面図である。
メタルポンプ8は、断面略U字管状に形成された本体管82に対して、前記した吐出口81とスナウト3の外側浴面から溶融めっき液を吸入するための吸入口83とが備え付けられている。メタルポンプ8の吸入口83から吸入した溶融めっき液をスナウト3の内側浴面に配置された2つの吐出口81から吐出し、ドロスDをガスリフトポンプ7の吸入口71へと移動させる(図2参照)。吐出口81は、鋼板2の表側と裏側にそれぞれ浮遊するドロスDを移動させるために2つ設けられている(図2参照)。
【0028】
ガスリフトポンプ7は、断面略U字管状に形成された外筒管72に対して、スナウト3の内側液面側には前記吸入口71が備え付けられ、スナウト3の外側浴面には吸入した溶融めっき液及びドロスDをスナウト3の外側浴面へ排出するための排出口73が備え付けられている。
【0029】
ガスリフトポンプ7の排出口73側から外筒管72の内部に、内筒管74が挿入されている。内筒管74はガスを導入するためのガス導入管741と、導入したガスを放出するためのガス散気筒742と、ガス導入管741及びガス散気筒742を接続するための接続具743とで構成されている。
内筒管74の一端(ガス散気筒742の下端側)は外筒管72の底部(略U字の湾曲部)よりも上側に達するように挿入されている。
内筒管74の図示しない他端(ガス導入管741の上端側)は、ガス導入源(図示せず)と接続されている。導入されるガスの種類は、例えば不活性ガスとしての窒素ガスである。
【0030】
図4は、ガスリフトポンプの内筒管74の要部を示す縦断面図である。
溶融金属浴用の浸漬部材としてのガス散気筒742は、底部が閉じた円筒状に形成されたものである。ガス散気筒742には複数のガス放出孔742Aが水平方向に貫通形成されている。このガス放出孔742Aは、ガス導入管741からガス散気筒742内部に導入されたガスをガス散気筒742内部と外筒管72の内部とで形成された空間に気泡Bとして放出するためのものである。
ここで、図5はガス散気筒742の平面断面図である。本実施形態では、図4及び図5に示すようにガス放出孔742Aが3列形成されている。このうち、2列は3つのガス放出孔742Aが上下に並んで形成され、1列は4つのガス放出孔742Aが上下に並んで形成されている(図4参照)。そして、ガス放出孔742Aの上下方向の位置が、ガス放出孔742Aが3つの列と4つの列とでは段違いになっており、均一にガスを放出することができる。また、図5に示すようにガス散気筒742を平面断面図で見ると、ガス散気筒742の中心と各列のガス放出孔742Aとを結ぶ線分が約120°の角度を成している。なお、ガス放出孔742Aが形成される位置、角度、数、寸法等については、本実施形態に示すものに限定されるものではない。
【0031】
ガスリフトポンプ7は次のようにして動作する。まず、ガスの供給源からガス導入管741にガスが送り込まれると、ガスはガス導入管741の下端からガス散気筒742内に供給される。ガス散気筒742内に供給されたガスは、ガス放出孔742Aを通り、ガス散気筒742内部と外筒管72の内部とで形成された空間へと放出される。ガス散気筒742の外部と外筒管72の内部とで形成された空間は、ガスリフトポンプ7が溶融めっき液に浸漬されている時には、溶融めっき液で満たされているため、ガスはガス放出孔742Aから気泡Bとなって放出され、溶融めっき液とともに混合流体となる。このとき気泡Bは大気中に放出しようと浮上するため、混合流体に外筒管72内部を浮上しようとする力が働き、溶融めっき液が上昇する流れが生ずる。このようにして、ガスリフトポンプ7の動作が得られる。
前記したメタルポンプ8の動作とガスリフトポンプ7の動作とが組み合わさり、スナウト3の内側浴面に浮遊するドロスDを効率的にスナウト3の外側浴面へと移動させることができる。
【0032】
前記したように、本実施形態はガス散気筒に対して本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材を適用するものである。
ガス散気筒には、ガス放出孔が複数形成されているが、従来用いられていたガス散気筒にはドロスが付着し易かった。
従来用いられていたガス散気筒は、その素材がSUS(SUS316等)や窒化珪素Siセラミックスで形成されているものであった。SUS製のガス散気筒は、SUSと溶融亜鉛とが反応して合金が形成され、合金化された部分にドロスが付着し易いという性質がある。窒化珪素セラミックス製のガス散気筒は、合金化は起こらないが、セラミックス成分中のケイ素が溶融亜鉛と反応し、ZnSi皮膜が形成され、この皮膜部分にドロスが付着し易いという性質がある。
そのため従来用いられていたガス散気筒のガス放出孔もドロスによって塞がれ易かった。ガス放出孔が塞がれてしまうと、前記したガスリフトポンプ7の動作が生じなくなってしまうので、頻繁にガス散気筒の交換及びメンテナンスを行わなければならなかった。
【0033】
そこで本実施形態では、耐熱性や耐衝撃性に優れる窒化珪素(Si)に少なくとも溶融金属に対して濡れ難い窒化硼素(BN)をセラミックス複合材の全質量基準で20質量%以上70質量%以下配合した窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を成形加工し、溶融金属浴用の浸漬部材であるガス散気筒742として適用した。
このガス散気筒742は、浸漬部材として必要な耐熱性や耐衝撃性を有すると共に、従来の浸漬部材と比較して大幅に改善された難居着き性及び耐侵食性を有する。
窒化珪素(Si)基セラミックス複合材において、窒化硼素(BN)の配合量が20質量%未満の場合、ドロスが溶融金属浴用の浸漬部材に付着し易く、ドロスの難居着き性としては不十分である。また、窒化硼素(BN)の配合量が70質量%を超えると、窒化珪素(Si)の配合量が30質量%未満となり、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の強度(耐熱性や耐衝撃性)が低いため、溶融金属浴用の浸漬部材としての強度が不十分である。
より好ましくは、窒化硼素(BN)の配合量が30質量%以上50質量%以下の範囲内であれば、耐熱衝撃性などの機械的特性は変わらないが、ドロスの難居着き性が長期間にわたって安定化する。
【0034】
また、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材には、焼結時の焼結促進や安定化のために添加される焼結助剤を含めることができる。焼結助剤としては、酸化物系の酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、希土類酸化物(RE:REは希土類元素)、珪化物系の珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)のうち少なくともいずれか一種を添加することができ、複数種の焼結助剤を添加することもできる。本実施形態では、酸化アルミニウム(Al)及び酸化イットリウム(Y)を添加した。
酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び希土類酸化物(RE)を添加する場合の添加量はそれぞれセラミックス複合材の全質量基準で0.2質量%以上5.0質量%以下とするのが好ましい。このような酸化物系の焼結助剤の添加量範囲とすることで、溶融金属中で反応が起こり難く、強度(耐熱性や耐衝撃性)を十分に確保できるからである。
珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)を添加する場合、添加量はそれぞれセラミックス複合材の全質量基準で0.5質量%以上5.0質量%以下添加するのが好ましい。このような珪化物系の焼結助剤の添加量範囲とすることで、溶融金属と反応層を形成し難くなるからである。
また、焼結助剤の合計添加量としては、10質量%以下とするのが好ましい。この合計添加量範囲とすることで、耐熱性と耐食性が高位安定する傾向があるからである。さらに、当該焼結助剤の合計添加量範囲内で、酸化物系の焼結助剤と珪素化合物系の焼結助剤とが組み合わせて配合されることによって、セラミックス複合材は、より優れた強度及び難居着き性を得ることができる。
【0035】
また、窒化硼素(BN)の形状は球状で製造することが困難なため、本実施形態では、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素(BN)は、薄片状及び層状の少なくともいずれか一方の形状を有する凝集体として存在している。このような凝集体として存在していることによって、ドロス難居着き性効果がより確実に付与されるとともに、強度付与の効果が強い窒化珪素(Si)が窒化硼素(BN)の凝集体同士の間に広く跨ることとなって、浸漬部材としての強度がより確実に付与される。
【0036】
また、本実施形態では、窒化硼素(BN)-窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素(BN)が、窒化硼素の平均中心間距離が前記窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように分散するように制御されている。
窒化硼素は当該組織中で凝集体として存在していても、このように分散していることによって、難居着き性がさらに安定に確保されるという効果が生じる。これは、窒化硼素(BN)の難居着き性効果が高いという理由に基づいている。
【0037】
図6は、本実施形態における当該浸漬部材断面の成分分析結果の概略図である。図は、ガス散気筒742の断面についてEDAX装置のマッピングを用いて元素分析(対象元素は、硼素、窒素、珪素、酸素、亜鉛、アルミニウム)を行い、硼素が存在する部位を濃く表示し、存在しない部位を薄く表示させたものである。ガス散気筒742を構成する窒化珪素(Si)基セラミックス複合材中の硼素元素の由来となる成分は窒化硼素(BN)であるので、硼素元素の存在分布を窒化硼素(BN)の存在分布としてみなして考えることができる。一方で、窒化硼素(BN)の存在しない部位には、主に窒化珪素(Si)が存在していると考えることができる。
そうすると本実施形態では、図6に示されているように、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素(BN)は、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の内層と比べて表層ほど窒化硼素(BN)濃度が高くなる傾斜機能構造を形成している。
このように表層ほど窒化硼素(BN)が多く存在しているので、ガス散気筒742の外表面に対するドロスの付着がさらに起こり難くなる。ガス散気筒742の場合、ドロスが接触するのは外表面なので、表面側だけを窒化硼素(BN)濃度を高くすれば、窒素ガス(不活性ガス)と接触する内表面に窒化珪素(Si)だけが存在している傾斜機能構造であっても、ドロスの付着を防ぐことが出来る。
なお、浸漬部材断面分析の観察試料は、次のようにして作成した。浸漬部材を樹脂に埋め込んで固定し、樹脂中に固定された状態の浸漬部材を切断して浸漬部材断面を露出させ、その断面を研磨して、観察試料を得た。研磨した面が分析対象の断面となる。図6の表層酸素は、浸漬部材の固定に用いた樹脂に基づく酸素に由来するものである。
【0038】
次に、本実施形態に係る溶融金属浴用の浸漬部材としてのガス散気筒742を製造する方法を説明する。
まず、窒化珪素(Si)粉末と窒化硼素(BN)と必要に応じて焼結助剤とを所定量添加及び混合し、原料粉とする。配合量は前記した範囲とする。
本実施形態において使用される窒化珪素(Si)粉末は、β型の結晶構造を有する窒化珪素(Si)粉末である。窒化珪素(Si)粉末の純度は99.8%以上のものが好ましい。
また窒化珪素(Si)粉末は、焼結体の強度を確保する観点から、平均粒径が2μm以下のものが好ましく、より好ましくは0.6μm以下のものが好ましい。
本実施形態において使用される窒化硼素(BN)粉末は、粒子間距離を狭め、アスペクト比の影響を小さくする観点から、平均粒子径が10μm以下のものが好ましく、より好ましくは8μm以下のものが好ましい。窒化硼素(BN)粉末の純度は99.8%以上のものが好ましい。
【0039】
窒化珪素(Si)粉末と窒化硼素(BN)と必要に応じて焼結助剤からなる原料粉に対して蒸留水、バインダー(結合剤)、及び分散剤を加え、ボールミルにて混練し、得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、造粒物を得る。造粒物としては、平均粒子径50μm程度のものが好ましい。
バインダーは、本実施形態ではポリアクリル酸系エマルジョンを用いるが、その他、ポリビニルアルコール等を用いることもできる。
また、分散剤は、本実施形態ではポリアクリル酸アンモニウムを用いるが、その他、ポリスルホン酸アンモニウム等を用いることもできる。ポリアクリル酸アンモニウム若しくはポリスルホン酸アンモニウムを用いることによって、窒化硼素(BN)-窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素の平均中心間距離が前記窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように、窒化硼素(BN)が分散するように制御することができる。
造粒方法は、その他、攪拌造粒法や流動層造粒法等を用いることもできる。
なお、本願発明における平均粒子径の測定法としては、レーザー法や沈降法の他、三次元直接観察法による画像処理で求める方法を採用することができ、平均粒子径やアスペクト比などを求めることができる。
【0040】
造粒物を、ガス散気筒742の中心穴成形用の金型、及び外側成形用のゴム型により構成される成形型に充填して、静水圧プレス機により成形し、円筒成形体を得る。
ここで、前記した傾斜機能構造は、次のようにして形成することができる。例えば、内側から外側に向かって窒化硼素(BN)濃度が高くなる複数層構造の円筒を作製し、この複数層構造の円筒を静水圧プレス(CIP)成形によって焼成前に一体化する手法が挙げられる。具体的には、原料粉の配合が段階的に異なる複数種類のスラリーを調製する。ここで、各配合のスラリーが複数層構造の各層を形成することになる。
次に、この配合に基づく各スラリーから得た各層に対応する造粒物を調製し、これら造粒物ごとに金型内へ充填し、後の静水圧加圧よりも低い圧力で成形して片閉じ構造(円筒の一方の開口が閉じた構造)の円筒を各層ごとに作製する。このとき、各層に対応する円筒の内径及び外径寸法は、窒化硼素(BN)濃度の低い層に対応する円筒が窒化硼素(BN)濃度の高い層に対応する円筒に内挿可能となるようにする。そして、複数層構造の円筒の最外層には、窒化硼素(BN)濃度の最も高い層が配置されるようにし、順次窒化硼素(BN)濃度が低くなるように円筒を内挿し、複数層構造の円筒を作製する。さらに、複数層構造の円筒を真空パック(ビニル袋やゴム袋等で円筒を包み真空引きする)し、その後、静水圧プレス(CIP)成形して一体化する。
また、円筒成形体の最内層となる円筒を作製し、その外表面に窒化硼素(BN)濃度が異なるスラリーを最外層に向かって濃度が高くなるように段階的に塗布する方法も挙げられる。
その他、組成が段階的に異なるスラリー(泥漿)を金型内に塗布し、当該組成ごとに層を形成して積み重ねて静水圧加圧することで、傾斜機能構造を形成することができる。また、組成が段階的に異なる各スラリーから得た造粒物を、組成ごとに金型内に充填して静水圧加圧よりも低い圧力で成形して薄片を作成する。この薄片を層状に重ねて静水圧加圧することでも、傾斜機能構造を形成することができる。
成形方法は、その他、金型プレス成形法や、押し出し成形法等を用いることもできる。また、これらの方法を組み合わせることもできる。
【0041】
円筒成形体をガス散気筒742の形状に素地加工し、得られた素地加工体に対して大気中にて600℃の温度で4時間脱脂処理を行い、脱脂体を得る。
脱脂体を、常圧焼結法により焼結し、焼結体を得る。窒化珪素(Si)の焼結中の揮発分解の観点から焼結温度は1600℃以上1850℃以下であることが好ましい。さらに二次処理として1550℃以上1800℃以下の熱間等方加圧成形(HIP)を行うことが好ましい。熱間等方加圧成形(HIP)によって、焼結体中の窒化珪素(Si)相の緻密化が進むので、浸漬部材の高強度化を図ることができる。
焼結方法は、その他、常圧焼結法、ホットプレス焼結法、雰囲気加圧焼結法等を用いることができる。また、これらの方法を組み合わせることもできる。
上記加圧によって、窒化硼素(BN)は、当該加圧方向に対して垂直方向に配向するので、ガス散気筒742の外表面に窒化硼素(BN)が敷き詰められことになる。そのため、ドロスのガス散気筒742の外表面に対する付着が起こり難くなる。
【0042】
焼結体に対する仕上げ加工として切削加工し、ガス放出孔742Aを形成し、ガス散気筒742が得られる。なお、本実施形態におけるガス散気筒742の寸法は、外径が30mm、内径が10mm、長さが110mmであり、ガス放出孔742Aの直径は2mmである。但し、ガス散気筒742の寸法は本実施形態に示すものに限定されるものではない。
【0043】
本実施形態によれば、次の効果を奏することができる。
(1)ガス散気筒742に用いられるセラミックス複合部材が、耐熱性や耐衝撃性に優れる窒化珪素(Si)に溶融金属に対して濡れ難い窒化硼素(BN)をセラミックス複合材の全質量基準で20質量%以上70質量%以下配合した窒化珪素(Si)基セラミックス複合材なので、ガス散気筒742は、溶融金属浴用の浸漬部材として必要な耐熱性や耐衝撃性を備えつつ、優れたドロス難居着き性及び耐食性を備えたものとなる。
【0044】
(2)窒化硼素(BN)-窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素(BN)は、薄片状及び層状の少なくともいずれか一方の形状を有する凝集体として存在しているので、難居着き性及び強度が容易に確保される。
【0045】
(3)窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における窒化硼素(BN)が、窒化硼素の平均中心間距離が窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように、分散するように制御されているので、難居着き性が安定に確保されるという効果が生じる。
【0046】
(4)窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中において、窒化硼素(BN)は、窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の表層ほど窒化硼素(BN)が多く存在しているので、ガス散気筒742表面に対してドロスが、より付着し難くなるようにすることができる。
【0047】
(5)窒化珪素(Si)基セラミックス複合材には、焼結助剤が含まれているので、焼結時の焼結促進や安定化を図ることができる。
【0048】
(6)窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の原料粉に対して、分散剤及び結合剤を用いて造粒しているので、静水圧プレス機による成形加工時の作業性を向上させることができる。
【0049】
(7)溶融金属めっき装置1は、ドロスが付着し難いガス散気筒742を用いたガスリフトポンプ7を備えているので、ガス散気筒742に形成されたガス放出孔742Aの目詰まりが起こり難くなり、ガス散気筒742の交換頻度を少なくすることができる。すなわち外観性に優れた溶融金属めっき鋼板を、頻繁に装置を停止させることなく安定して製造することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
〔オフライン試験〕
まず、溶融金属浴用の浸漬部材として必要な強度及び難居着き性を備えたセラミックス複合材であることを確認するため、実際に稼動する溶融亜鉛めっき装置のめっき浴から取出した溶融金属めっき液を溜めた簡易試験浴を用いて評価した。
(実施例1)
以下の粉末、
・窒化珪素(Si)粉末:SN-9グレード
(電気化学工業製、純度99.8%、平均粒子径0.7μm)
・窒化硼素(BN)粉末:GPグレード
(電気化学工業製、純度99%、平均粒子径8μm)
・酸化アルミニウム(Al)粉末:AL−160SG−3
(昭和電工製、平均粒子径0.6μm)
・酸化イットリウム(Y)粉末:RU-Pグレード
(信越化学工業製、平均粒子径2.2μm)
・珪化ジルコニウム(ZrSi)粉末:99.9%純度
(高純度化学研究所製、平均粒子径2.5μm)
・珪化チタン(TiSi)粉末:99.9%純度
(高純度化学研究所製、平均粒子径2.1μm)
を表1に示す所定量(質量%)添加して原料粉とした。次に、原料粉に対して精製水を、原料粉と精製水の質量比が3:7となるように加えた。さらに、バインダー(結合剤)としてポリアクリル酸系エマルジョンAS−1800(東亜合成製)を原料粉に対して5質量%(外掛け)添加した。また、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウムA-6114(東亜合成製)を原料粉に対して0.5質量%(外掛け)添加した。
【0051】
【表1】

【0052】
その後、ボールミルにて混合し、得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、造粒粉とした。これを、圧力140MPaの条件下で円柱体状に静水圧プレス(CIP)成形した後、大気中600℃で脱脂を行った。この脱脂した成形体について、実施例1、下記実施例4及び5、並びに下記比較例1、2及び3では、温度1750℃、圧力0.098MPaの条件下で8時間の常圧焼結を行った。常圧焼結後、温度1650℃、圧力200MPaの条件下で熱間等方加圧成形(HIP)を行い、焼結体を得た。
一方、下記実施例2及び3、並びに下記比較例4、5及び6では、脱脂した成形体について、温度1750℃、圧力0.098MPaの条件下で8時間の常圧焼結だけを行い、焼結体を得た。
得られた焼結体をΦ30mm×L120mmのサイズに切削加工し、試験体を得た。
【0053】
傾斜機能構造付与に関しては、内側から外側に向かって窒化硼素(BN)濃度が高くなる3層構造の円筒を作製し、この3層構造の円筒を静水圧プレス(CIP)成形によって焼成前に一体化する手法を用いた。
具体的には、実施例1では、傾斜機能構造を形成するために、表2に示すように原料粉の配合が段階的に異なる3種類のスラリーを調製し、各配合のスラリーがそれぞれ層1〜層3を形成するようにした。
次に、この配合に基づく各スラリーから得た層1〜層3に対応する造粒物を調製し、これら造粒物ごとに金型内へ充填し、後の静水圧加圧よりも低い圧力(10MPa)で成形して片閉じ構造の円筒を3つ作製した。このとき、3つの円筒の内径及び外径寸法はそれぞれ異なり、層2に対応する円筒には層1に対応する円筒が内挿可能とし、層3に対応する円筒には層2に対応する円筒が内挿可能とした。そして、各円筒を内挿し3層構造の円筒を作製し、ビニル袋でこの円筒を包んでから真空引きし、その後、圧力140MPaの条件下でこの円筒を静水圧プレス(CIP)成形して一体化した。
【0054】
【表2】

【0055】
得られた試験体の強度については、室温曲げ強度及びビッカース硬さで評価した。
室温曲げ強度は、JIS R 1601に従って測定した。
ビッカース硬さは、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重98N(10kgf)、保持15秒にて測定した。
評価結果を表3に示す。
【0056】
試験体のドロス難居着き性は、試験体を簡易試験浴中の溶融亜鉛めっき液(浴温450℃)に48時間浸漬し、浸漬後溶融亜鉛めっき液から引き上げた試験体に付着するドロスの有無によって評価した。
用いた溶融亜鉛めっき液は、実際に溶融金属めっき鋼板の製造を行っている溶融亜鉛めっき装置(溶融亜鉛浴、アルミニウム0.13質量%添加)から一部取出したものであって、ドロスが浮遊しているものである。浸漬試験中は常に攪拌を行い、ドロスが表面に固着し、成長が起こる実使用環境に近づけた。
評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
組成分析機能付きの電子顕微鏡観察(装置名:定量分析機能付き電子顕微鏡JXA−8100型、日本電子製によって求めた各配合系の窒化硼素(BN)の存在形態について、表4に示す。表4において、窒化硼素(BN)が薄片状、層状、凝集体として存在している場合、窒化硼素の平均中心間距離が前記窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように分散している場合、試験体の内層と比べて表層ほど窒化硼素濃度が高くなる傾斜機能構造を形成している場合には「○」と表示し、該当しない場合には「−」と表示した。
【0059】
【表4】

【0060】
(実施例2〜5)及び(比較例1〜6)
・配合
原料粉を表1に従って配合した。
・傾斜機能構造の形成
実施例3については、表3に従って傾斜機能構造を形成するための工程を実施例1と同様にして行ったが、それ以外の実施例2,4及び5、並びに比較例1〜6については当該工程を行わなかった。
・焼結
上記実施例1で示した条件の下で、焼結を行った。
これ以外は、実施例1と同様に試験体を作製し、評価した。その結果を表3及び表4に示す。
また、実施例1では用いなかったが、実施例2〜5及び比較例1〜6のいずれかで用いた粉末の詳細を次に示す。
・酸化珪素(SiO)粉末:クリスタライトC5X(龍森製、平均粒子径2.2μm)
・酸化マグネシウム(MgO)粉末:99.9%純度
(高純度化学研究所製、平均粒子径1.2μm)
【0061】
表3が示すように、実施例1〜5の試験体は、溶融金属浴用の浸漬部材として必要な強度を備えており、浸漬試験においてもドロスの付着が発生しなかった。
一方、比較例1及び4の試験体は、浸漬試験の結果、ドロスが大量に付着していた。特に、比較例4の試験体は溶融金属浴用の浸漬部材として必要な強度を備えているものの、窒化硼素(BN)の配合量が10質量%と少ないため、ドロスの付着が発生した。
比較例2、3、5及び6の試験体は、溶融金属浴用の浸漬部材として必要な強度を得ることができず、浸漬試験に供することができなかった。
【0062】
〔実機試験〕
次に、実際に稼動する溶融亜鉛めっき装置のガスリフトポンプに本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材(ガス散気筒)を取り付けて、ドロスの難居着き性について評価した。
(実施例6)
実施例5と同様に造粒まで行い、造粒粉(粒径50μm)を、前記実施形態と同様にして圧力140MPaの静水圧プレス機により成形し、円筒成形体を得た。
円筒成形体をガス散気筒742の形状に素地加工し、得られた素地加工体に対して大気中にて600℃の温度で4時間脱脂処理を行い、脱脂体を得た。
脱脂体を、温度1750℃、圧力0.098MPaの条件下で8時間の常圧焼結後、温度1650℃、圧力200MPaの条件下で熱間等方加圧成形(HIP)法により焼結し、焼結体を得た。
焼結体に対して仕上げ加工として切削加工し、ガス放出孔を形成し、ガス散気筒を得た。ガス散気筒は、外径30mm、内径10mm、長さ110mm、ガス放出孔の直径は2mmとした。ガス放出孔は、前記実施形態で説明したように、孔が上下3箇所並んだ列が2列、上下4個並んだ列が1列の計10箇所形成した。
【0063】
得られたガス散気筒を前記実施形態で説明した溶融金属めっき装置のガスリフトポンプに取り付け、窒素ガスを20L/minの流量で流しながら、連続的に溶融金属めっき鋼板を製造した。なお、溶融金属めっき浴は、アルミニウムが0.13質量%添加された溶融亜鉛めっき浴を用い、浴温度は450℃とした。
【0064】
ガス散気筒へのドロス難居着き性は次のようにして評価した。
ガスリフトポンプの窒素ガス供給側の背圧を測定し、背圧が19.6MPa(2kgf/cm)を超えた時点で、ドロスが付着してガス散気筒のガス放出孔が詰まったと判断し、試験開始から背圧上昇が発生するまでの期間が長いほどドロスの難居着き性が優れていると評価した。評価結果を表5に示す。
【0065】
(比較例7)
ガス散気筒にSUS製のものを用いた以外は、実施例6と同様にして評価した。
(比較例8)
比較例1と同様に造粒まで行った以外は、実施例6と同様にして評価した。
これらの評価結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
比較例7の期間が3〜4日間、比較例8の期間が5日間であったのに対し、実施例6の期間が試験開始から背圧上昇まで11.5〜13日間であったことから、本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材(ガス散気筒)は、ドロスの難居着き性及び耐食性において極めて優れていることが分かった。
このように、ガス散気筒のメンテナンスを行うまでの期間が約2倍長くなれば、ガス散気筒の交換頻度が約2分の1になり、交換に伴うライン停止回数を少なくすることができる。すなわち、溶融金属めっき鋼板を安定して効率的に製造することができる。
なお、実施例6の試験終了後、溶融亜鉛めっき浴からガス散気筒を取出したところ、ガス散気筒の割れは発生していなかった。このことから、本発明に係る溶融金属浴用の浸漬部材(ガス散気筒)は、高温のめっき浴への出し入れに伴う熱衝撃やガスリフトポンプ内での窒素ガス流れによる温度勾配に基づく熱応力に対しても、優れた耐性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、鋼板等の連続溶融金属めっき装置に付設された溶融金属浴用の浸漬部材として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 溶融金属めっき装置
2 鋼板
3 スナウト
4 溶融金属めっき浴(溶融金属浴)
5 ポットロール
6 案内ロール
7 ガスリフトポンプ
8 メタルポンプ
71 吸入口
72 外筒管
73 排出口
74 内筒管
81 吐出口
82 本体管
83 吸入口
741 ガス導入管
742 ガス散気筒(溶融金属浴用の浸漬部材)
742A ガス放出孔
743 接続具
D ドロス
B 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス複合材の全質量基準で、少なくとも窒化硼素(BN)を20質量%以上70質量%以下含有する窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を用いる溶融金属浴用の浸漬部材。
【請求項2】
前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)は、薄片状及び層状の少なくともいずれか一方の形状を有する凝集体として存在しているものであることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【請求項3】
前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)は、前記窒化硼素の平均中心間距離が前記窒化硼素の平均粒子径の2倍以内となるように分散していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【請求項4】
前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の組織中における前記窒化硼素(BN)濃度は、前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の内層と比べて表層ほど高くなる傾斜機能構造を形成していることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【請求項5】
前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材中に焼結助剤として、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、希土類酸化物(RE:REは希土類元素)、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)のうち少なくともいずれか一種を含有し、
酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び希土類酸化物(RE)の含有量はそれぞれ0.2質量%以上5.0質量%以下とし、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)の含有量はそれぞれ0.5質量%以上5.0質量%以下とすることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の溶融金属浴用の浸漬部材。
【請求項6】
セラミックス複合材を用いる溶融金属浴用の浸漬部材を製造する溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法であって、
セラミックス複合材の全質量基準で、少なくとも窒化硼素(BN)を20質量%以上70質量%以下含有する窒化珪素(Si)基セラミックス複合材を成形する際に、
前記窒化珪素(Si)基セラミックス複合材の原料粉に対して、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウムを添加するとともに、結合剤としてポリアクリル酸系エマルジョンを添加した後、成形、焼結及び部材加工することを特徴とする溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【請求項7】
さらに、焼結助剤として、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、希土類酸化物(RE;REは希土類元素)、珪化ジルコニウム(ZrSi)及び珪化チタン(TiSi)の内の少なくとも1種を添加し、添加する焼結助剤がAl、SiO、MgO、REの場合、焼結助剤の添加量はそれぞれ0.2質量%以上5.0質量%以下、添加する焼結助剤がZrSi、TiSiの場合、焼結助剤の添加量はそれぞれ0.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする請求項6に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼結が、1600℃以上1850℃以下の温度条件下での、常圧焼結、ホットプレス焼結、雰囲気加圧焼結の少なくともいずれか一つの焼結であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【請求項9】
前記焼結の後に、さらに、1550℃以上1800℃以下の温度条件で熱間等方加圧(HIP)焼結を行うことを特徴とする請求項8に記載の溶融金属浴用の浸漬部材の製造方法。
【請求項10】
加熱焼鈍された鋼板をスナウトを介して溶融金属浴中へ導き、溶融金属めっきを鋼板へ施し、ポットロールを介して鋼板を引き上げて連続的にめっき鋼板を製造する溶融金属めっき装置において、
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の溶融金属浴用の浸漬部材を、前記スナウト内浴面に発生する異物の除去装置に適用したことを特徴とする溶融金属めっき装置。
【請求項11】
前記異物の除去装置はガス散気筒及び配管部材を備え、
前記溶融金属浴用の浸漬部材を前記ガス散気筒及び前記配管部材の少なくともいずれか一方に適用したことを特徴とする請求項10に記載の溶融金属めっき装置。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の溶融金属めっき装置を用いることを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−168832(P2011−168832A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33378(P2010−33378)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】