説明

溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び測定装置

【課題】本発明は、ガラス溶解窯の操業を継続したまま、溶融鋳造耐火物からなる側壁の厚さをより正確に測定できる溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】ガラス溶解窯の側壁に用いられた溶融鋳造耐火物の残厚測定にあたって、溶融鋳造耐火物の被測定面に接触させる、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板2と、断熱板2を介してパルス状電磁波を被測定面に向かって送信アンテナ31から送信させる送信機32と、該パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物からの反射波を受信アンテナ33で受信して反射波データを取得する受信機34と、を有する電磁波探査機3と、から構成される溶融鋳造耐火物の残厚測定装置1及びこれを用いた残厚測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶解窯に使用される溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び測定装置に係り、特に、操業中のガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚を、操業を妨げることなく測定できる測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス溶解窯は、ガラスを溶融させるために非常に高温で使用され、かつ、溶融したガラスへの悪影響を及ぼさないような性質を有する溶融鋳造耐火物を側壁に用いて構成されている。
【0003】
このガラス溶解窯においては、操業を継続していくうちに、溶融ガラスと接触している溶融鋳造耐火物が徐々に浸食され、その厚みが減少していく。そして、その厚さが所定範囲よりも薄くなった場合に、窯の修理を行って延命を図ったり、窯の寿命として窯を停止したりする。
【0004】
これを適切に行わずに限界を超えて操業を継続してしまうと、溶融鋳造耐火物に穴が開いて、溶融ガラス素地が窯外へ漏れてしまう重大な事故などが発生してしまう。その一方で、安全を見て、まだ十分に残厚があり、耐用が充分なのに窯を停止してしまった場合は、コスト的にも大きなロスとなってしまう。
【0005】
以上の理由で、耐火物の残厚を操業を継続しながら把握することは、非常に重要であり、ガラス窯ユーザーからの強い要求がある。
【0006】
この耐火物の残厚を測定するために、従来用いられていた方法としては、ガラス接触部の溶融鋳造耐火物の目地から、金属製の物差しを挿入し、溶融ガラスに接触するまでの長さから残厚を測定する方法がある。この方法では、目地部分のみの残厚しかわからない上に、溶融鋳造耐火物の競り合いが弱く、目地が開いている場合にガラスが目地部ににじみ出してしまうため正確な残厚が測定できないケースが多々ある。
【0007】
また、残厚が薄くなった場合、耐火物の窯外温度が上昇することを利用し、この窯外温度変化から残厚を推定する方法がある。しかし、実際には窯外面を空気で強制冷却していることが一般的で、窯外温度変化には、空気冷却条件の変動、季節変動による外気温変動、窯内温度の変動などの様々な要因が関係している。そのため、窯外温度の変化を、そのまま耐火物の侵食状況と関連付けるには、これら要因を正確に分析しなければならず、実用に耐えるレベルでの厚み測定は極めて困難である。
【0008】
また、X線探傷方法や超音波探傷法により残厚を測定することも考えられる。しかしX線探傷法では、X線透過率の低い物質、例えばジルコニアなどの重い元素を含む大型のセラミックスの厚み測定には大出力のX線装置が必要であり、超音波探傷法では、被測定物である溶融鋳造耐火物内部まで超音波をよく伝えるため、溶融鋳造耐火物とセンサ接触界面に、水やグリースなどの良好な超音波伝達媒体が必要となり、時には500℃を超える溶融鋳造耐火物表面からの超音波測定は実現性に問題があった。
【0009】
このような状況のなか電磁波探傷センサを用いる方法が検討され、センサ部を高熱から保護するため、セラミックスファイバー等の断熱材でカバーして、窯炉耐熱煉瓦厚測定装置及び方法が提案されている(特許文献1参照)。電磁波の場合、超音波とは異なり、水やグリースなどの伝達媒体が不要であり、電磁波を耐火物の中に伝達させ、背面からの反射波が返ってくる遅れ時間を測定できる。したがって、溶融鋳造耐火物の比誘電率がわかれば、耐火物内の電磁波の伝達速度が決まるため、容易に厚みに換算することが可能である。
【0010】
また、このような電磁波の特性を活用して、溶融鋳造耐火物における、常温での内部欠陥品質の測定手法として、電磁波を用いた測定方法も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−81679号公報
【特許文献2】特開平5−322800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ガラス溶解窯の操業中は、窯内温度が1500℃以上の高温とされ、耐火物の窯外側温度は数百℃以上であることが一般的である。このように、耐火物が高温になると、その比誘電率が室温の値から大きく変化してしまう。また、耐火物が高温になると電磁波の耐火物内部の減衰が非常に大きくなり、窯内面での反射波を得ることが室温で測定するよりもずっと困難になってしまうという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであり、ガラス溶解窯の操業を継続したまま、溶融鋳造耐火物からなる側壁の厚さをより正確に測定できる溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法は、ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚を測定する方法であって、測定すべき溶融鋳造耐火物と同一組成の対照用溶融鋳造耐火物の一方の面を前記ガラス溶解窯の窯内温度とほぼ同一の温度に加熱しつつ、前記対照用溶融鋳造耐火物の他方の面に、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板を接触させ、前記断熱板を介して中心周波数が0.5〜3GHzのパルス状電磁波を前記対照用溶融鋳造耐火物に向かって送信する工程と、前記パルス状電磁波の前記対照用溶融鋳造耐火物の前記加熱される側の面からの反射波データを取得して前記対照用溶融鋳造耐火物の見かけの比誘電率を求める工程と、前記ガラス溶解窯の測定すべき溶融鋳造耐火物の外周面に、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板を接触させ、前記断熱板を介して前記対照用溶融鋳造耐火物に送信したパルス状電磁波と同一周波数の電磁波を前記測定すべき溶融鋳造耐火物に向かって送信する工程と、前記パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物の炉内周面からの反射波データを取得する工程と、前記パルス状電磁波の反射波データから求めた前記パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物内の伝播時間と、前記対照用溶融鋳造耐火物について求めた見かけの比誘電率から前記溶融鋳造耐火物の残厚を算出する工程と、を有することを特徴とする。
なお、本明細書において、比誘電率は、特に断わりがない限り、常温(25℃)、周波数1GHzでの空洞共振法によって測定した値をいうものとする。
【0015】
本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定装置は、ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚測定にあたって、前記溶融鋳造耐火物の外周面に接触させる、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板と、前記断熱板を介してパルス状電磁波を前記溶融鋳造耐火物の外周面に向かって送信アンテナから送信させる送信機と、該パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物からの反射波を受信アンテナで受信して反射波データを取得する受信機と、を有する電磁波探査機と、から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び残厚測定装置によれば、簡便な操作で、従来の測定に比べ、ガラス溶解窯の側壁についてより正確な残厚を測定できる。特に、ジルコニア含量の多い溶融鋳造耐火物においても、また、高温条件であっても安定して測定を行うことができ、ガラス溶解窯の操業の継続の要否を実用レベルの精度で的確に判断できる。
【0017】
これにより、ガラス溶解窯末期において、まだ残厚が残っており、耐用が充分なのに溶解窯を停止してしまったり、局所的に浸食が進んで危険な箇所を発見したりでき、ガラス溶解窯から溶融ガラス素地が流れ出すような事態の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定装置の概略構成を示した図である。
【図2】ガラス溶解窯の構造を示した側断面図である。
【図3】被測定物である溶融鋳造耐火物の構造の部分拡大図及び残厚測定方法を説明する図である。
【図4】第1の実施形態に係る溶融鋳造耐火物の残厚測定方法のフローチャートである。
【図5】本発明における溶融鋳造耐火物の残厚測定方法の対照試験を説明する図である。
【図6】時間経過に溶融鋳造耐火物の侵食状況を説明する図である。
【図7】第2の実施形態に係る溶融鋳造耐火物の残厚測定方法のフローチャートである。
【図8】実施例1の高温における対照試験の測定結果を示した図である。
【図9】実施例1の常温における対照試験の測定結果を示した図である。
【図10】実施例1の実窯の測定結果を示した図である。
【図11】実施例2の対照試験の測定結果を示した図である。
【図12】実施例2の実窯の測定結果について、走査方向(水平方向)と溶融鋳造耐火物の残厚との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法及び測定装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
〔第1の実施形態〕
図1に示したように、本発明の一実施形態である溶融鋳造耐火物(以下、単に、鋳造耐火物とも称す)の残厚測定装置1は、ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の外周面に接触させる断熱板2と、断熱板2上を走査させてパルス状電磁波を溶融鋳造耐火物に向けて送信し及び該パルス状電磁波の溶融鋳造耐火物からの反射波を受信する電磁波探査機3と、から構成される。
【0021】
ここで、断熱板2は、後述する電磁波探査機3を保護しながら測定を安定させるために用いられる。測定に当たっては、被測定物であるガラス溶解窯の側壁の外周面に断熱板2を接触させ、その接触させた他方の面に電磁波探査機3を接触させ走査させる。すなわち、溶融鋳造耐火物と電磁波探査機3とを断熱板2を介して間接的に接触させるものであり、電磁波探査機3側の温度の上昇を有効に抑えるために、断熱板2には高い断熱性が求められる。
【0022】
なお、本発明に用いる断熱板2の材質としては、他用途で用いられているガラスウールやセラミックスファイバー等の空隙を多く含む断熱材は使用しない。その理由としては、このような断熱材は空隙を大きく含むため比誘電率が1に近づく。例えば、被測定物である側壁がジルコニアを多く含む鋳造耐火物で構成されている場合、この鋳造耐火物の比誘電率は10以上であり、断熱材の比誘電率との比誘電率差が大きくなってしまうためである。電磁波の特徴として、比誘電率の差が大きい物質の界面では電磁波の反射率が大きくなるが、その場合、電磁波の反射は増えるが耐火物内部に伝達される電磁波が少なくなってしまう。
【0023】
前述した通り、高温では溶融鋳造耐火物内を伝達する電磁波の減衰が非常に大きくなるため、効率良く溶融鋳造耐火物の内部に電磁波を送り込まないと、反射波のピークを検知することが困難になってしまう。したがって、上記のような界面における電磁波の反射率の上昇を抑制することが好ましい。
【0024】
上記理由のため、本発明に用いる断熱板2としては、電磁波探査機3を高温から保護しつつ、溶融鋳造耐火物の炉内面での電磁波の反射波のピークを十分に検知できるレベルに保持するものを用いる。以下、より具体的な性質について説明する。
【0025】
本発明に用いる断熱板2としては、まず、高温のガラス溶解窯の側壁と直接接触させるため、少なくともその側壁の外周面温度に対する耐熱性を有することが必要である。この断熱板2としては、通常、低くても250℃程度の耐熱温度を有することが求められ、500℃以上の耐熱温度を有することが好ましい。なお、耐熱温度又はそれに相当する温度は、測定中の接触時間が数分(好ましくは数十秒)以内と短時間であるので、その短時間内で耐熱性を有すれば十分である。
【0026】
また、測定時に断熱板2と溶融鋳造耐火物との界面における電磁波の反射を抑制し、溶融鋳造耐火物側に電磁波を伝達させるため、その常温(25℃)における比誘電率εが2以上20以下である。比誘電率εが5以上が好ましく、10以上であるとより好ましい。一方、比誘電率εが18以下が好ましく、15以下であるとより好ましい。
【0027】
さらに、溶融鋳造耐火物との直接接触による断熱板2の外側(電磁波探査機3の接触側)への温度上昇を効果的に抑制するために、断熱板2の温度拡散率(熱伝導率÷密度÷比熱)が2×10−6/sec以下であることが好ましく、1×10−6/sec以下であることがより好ましい。このように断熱性の好ましい材料を用いることで、電磁波探査機3が高熱に晒されることを防止し、安定して測定できる。
【0028】
なお、伝熱計算によれば、温度拡散率が1×10−6/secの10mm厚みの断熱板の場合、断熱板2の初期温度を20℃均一とし、溶融鋳造耐火物外周面との接触により接触面が600℃に瞬時に上昇したと仮定しても、7秒後に、断熱板外側(電磁波探査機3の接触面)の温度は、20℃から31℃へ上昇するだけである。このため電磁波探査機3は耐熱温度範囲内に保たれアンテナ、送信機、受信機等のセンサの熱破損の心配はない。
【0029】
このような特性を満たす断熱板2としては、べニア板等の木材、ガラス繊維含有セメント板、溶融鋳造耐火物等が挙げられる。中でも、耐熱性が良好で、断熱板2とガラス溶解窯との界面での電磁波の反射を抑制でき、側壁の熱を電磁波探査機3側に伝達するのを抑制できる温度拡散率を有する断熱板としては、ガラス繊維含有セメント板、溶融鋳造耐火物であることが好ましい。これにさらに、取扱性を考慮すると、より軽量であるガラス繊維含有セメント板が特に好ましい。このガラス繊維含有セメント板としては、例えば、ヘミサル15(ニチアス社製、商品名)等が挙げられる。
【0030】
ちなみに、上記断熱板2の特性の具体例を以下に示す。木材であるべニア板は温度拡散率が3.6×10−7/sec、比誘電率が2.2、発火温度が400℃、ガラス繊維含有セメント板であるヘミサル15は、温度拡散率が3.1×10−7/sec、比誘電率が12.0、耐熱温度が 500℃、溶融鋳造耐火物(AGCセラミックス社製、商品名:ZB−X9510)は、温度拡散率が6.0×10−7/sec、比誘電率が13.7、耐熱温度が1700℃以上であった。
【0031】
この断熱板2としては、用いる素材の特性により異なるが、例えば、その厚さが10〜50mmであることが、電磁波探査機3側に溶解窯の側壁との接触による断熱性を良好にして測定時間を十分に確保でき、電磁波の減衰を抑制して十分な反射波を得られる点で好ましい。
【0032】
この断熱板2の大きさは、電磁波探査機3の温度上昇を有効に抑制できる大きさであればよく、例えば、縦方向の長さ;150〜200mm、横方向の長さ;150〜500mm、厚さ;10〜50mmの大きさとすることが好ましい。また、電磁波探査機3は、測定時に固定してピンポイントに耐火物の残厚を測定することもできるが、被測定面である溶融鋳造耐火物の外周面を水平方向に走査することで連続的に水平方向の側壁の残厚を測定することもでき、その場合、断熱板は水平方向へ走査できるように、横方向の長さを十分に確保する。
【0033】
次に、電磁波探査機3は、被測定面である溶融鋳造耐火物(ガラス溶解窯の側壁)に向かってパルス状電磁波を送信し、そのパルス状電磁波の溶融鋳造耐火物からの反射波を受信できるものであり、パルス状電磁波を送信するための送信アンテナ31及び該送信アンテナ31からパルス状電磁波を送信させる送信機32と、溶融鋳造耐火物からの反射波を受信するための受信アンテナ33及び受信した反射波を反射波データとして取得、記録する受信機34と、を有する。
【0034】
ここで送信アンテナ31から送信するパルス状の電磁波は、中心周波数が0.5〜3GHzであることが好ましく、0.7〜2GHzであることがより好ましい。0.5GHz未満であると、電磁波の波長が長くなってしまうために、厚みに対する測定誤差が大きくなってしまい、実用上必要な測定精度が得られないという問題が生じる可能性があり、3GHzを超えると、溶融鋳造耐火物内部における電磁波の減衰が大きくなるため、高温条件における反射波を検知しにくくなり、測定が安定しないという問題が生じる。
尚、上記周波数は、あくまでも中心周波数での規定であり、中心周波数が上記範囲で、かつ使用される周波数帯域が上記範囲を出る場合を除外するものではない。
【0035】
そして、送信機32と受信機34とは、送信機32でパルス状電磁波を送信してから、そのパルス状電磁波が溶融鋳造耐火物内を伝播し、その窯内周面で反射した反射波が受信機34で検知されるまでの時間(伝播時間)を測定できるようになっている。測定された伝播時間に対して、所定の比誘電率を適用し、ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚がどの程度あるかを求めることができる。
【0036】
この電磁波探査機3としては、コンクリートの内部探傷装置等で用いられている公知の電磁波探査機(例えば、日本無線社製、商品名;NJJ−95A)等を用いることができる。
【0037】
なお、後述する対照試験によって、見かけの比誘電率が求められるが、電磁波探査機3には、この見かけの比誘電率を記憶する記憶手段を設け、さらに、その見かけの比誘電率を用いて、溶融鋳造耐火物の測定を行った際に得られる反射波データから残厚を算出する演算手段を設けておくと、電磁波探査機3単独で残厚の算出まで行うことができ好ましい。
【0038】
この電磁波探査機3は、断熱板2上を走査させることによって連続的に測定できるが、電磁波探査機3の断熱板2との接触部分をタイヤとし、滑かに移動できるようにすることが好ましい。このようにタイヤを設ければ、断熱板2上の走査が安定してでき、測定が効率的にできる。なお、上記した断熱板2と電磁波探査機3とは、それぞれ物理的に独立して存在しても良いし、一体物として固定した構造としてもよい。
【0039】
次に、この溶融鋳造耐火物の残厚測定装置1を用いた、溶融鋳造耐火物の残厚測定方法について説明する。
【0040】
ここで、測定対象であるガラス溶解窯について、図2にその全体像である側断面図を、図3に図2中のA部分の拡大図をそれぞれ示した。このガラス溶解窯11は、内部でガラスを溶融し、この溶融ガラス12を流動させながら成形容器へ供給するものである。このガラス溶解窯11は、上下面及び側壁を溶融鋳造耐火物で囲って構成され、内部を1500℃以上の高温とし、ガラス材料を溶融状態に保つことができる。ここで、側壁として用いられている溶融鋳造耐火物13が被測定物となる。
【0041】
このガラス溶解窯11の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物13の残厚を測定するに当たっては、本発明においては、まず、試験炉を用いた対照試験を行ってから、ガラス溶解窯11における残厚測定を行うこととなる。本発明の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法の操作について、そのフローチャートを図4に示した。
【0042】
図4に示したように、本発明においては、まず、対照試験で比誘電率を算出する(S1)。このとき算出される比誘電率は、実窯であるガラス溶解窯11と条件を合わせるように、溶融鋳造耐火物が高温加熱状態となっている場合の比誘電率である。ここで求められる比誘電率は、室温や異なる加熱状態の溶融鋳造耐火物においては大きく異なるため、このように測定用の比誘電率を予め求めておくことで、誤差の少ない残厚測定ができる。
【0043】
ここで算出される比誘電率は、ガラス溶解窯の側壁を構成する溶融鋳造耐火物13と同じ組成の溶融鋳造耐火物を用意して対照用溶融鋳造耐火物とし、この既知の厚さの対照用溶融鋳造耐火物の一方の面を測定するガラス溶解窯の炉内温度とほぼ同一の温度に加熱しておく。対照試験は、例えば、図5に示した試験炉21を用いて行う。ここで、図5(a)は試験炉21の斜視図、図5(b)は図5(a)のV−V断面図である。
【0044】
試験炉21は、その内部にヒータ22及び断熱材23aを有する(加熱側)試験炉21aと、その中央に断熱材23bを介して対照用溶融鋳造耐火物24を固定できる(耐火物固定側)試験炉21bと、から構成されている。そして、ヒータ22の加熱温度は、近傍に設けられた熱電対25により温度を検知して、所定の温度に炉内を加熱できるように制御されている。
【0045】
この試験炉21を用いれば、既知の厚さの対照用溶融鋳造耐火物24の片面をヒータ22により実窯内温度と同等の温度に加熱し、対照用溶融鋳造耐火物24の加熱状態を実窯であるガラス溶解窯11の側壁と近似した加熱状態とできる。このときの加熱温度は、測定するガラス溶解窯の窯内温度に合わせて行うものであり、その温度は、窯内温度に対して±150℃の範囲をいい、±50℃の範囲であることが好ましい。また、実窯において、窯外面を冷却している場合には、試験炉においても同等の条件で冷却を行うことで、対照用溶融鋳造耐火物と実窯の溶融鋳造耐火物の温度分布を可能な限り近似した状態とするようにする。
【0046】
そして、試験炉21で対照用溶融鋳造耐火物24を十分に加熱した後、対照用溶融鋳造耐火物24の加熱される面の他方の面(試験炉21の炉外面)から、溶融鋳造耐火物の残厚測定装置1を用いて、対照用溶融鋳造耐火物24に向かってパルス状電磁波の送信を行う。それと同時に、送信した電磁波の対照用溶融鋳造耐火物24からの反射波データを取得する。すなわち、断熱板2を対照用溶融鋳造耐火物24にあてがい、断熱板2を介して電磁波探査機3により、対照用溶融鋳造耐火物24に対してパルス状電磁波の送受信を行って反射波データを取得する。
【0047】
得られた反射波データから、電磁波の送信から対照用溶融鋳造耐火物24の加熱される側の面(試験炉の炉内面)からの反射波ピークが特定できる。この反射波ピークから、電磁波の送信から反射波の受信までの時間差(伝播時間)がわかり、このときの対照用溶融鋳造耐火物24と断熱板2とを合わせた材質、厚さについての見かけの比誘電率εpを次式により求めることができる。
【0048】
電磁波探査機3による対照用溶融鋳造耐火物の厚さDは、対照用溶融鋳造耐火物中の電磁波の速度Vと対照用溶融鋳造耐火物に対して送信した電磁波の送信時刻から反射波の受信時刻までの時間差Tから(数1)により求めることができる。
【0049】
【数1】

この式において、Vは(数2)により求められる。
【0050】
【数2】

ここで、Cは真空中(空気中)での電磁波の速度(3×10m/s)であり、εpは対照用溶融鋳造耐火物(断熱板込み)の比誘電率である。
【0051】
上記対照試験では、Dは対照用溶融鋳造耐火物24と断熱板2を合わせた厚さであって既知の値であり、Tは電磁波探査機3により測定される値であって、測定用電磁波の送信から反射波の受信までの時間差をそのまま用いる。また、Cは上記の通り定数である。したがって、上記対照試験を行うことにより、加熱状態における対照用溶融鋳造耐火物と断熱板をあわせた、見かけの比誘電率εpを算出できる。
【0052】
なお、対照用溶融鋳造耐火物24としては、実窯であるガラス溶解窯11に用いられている溶融鋳造耐火物13の侵食された状況と合わせることで、より測定の精度が向上するため、溶融鋳造耐火物から切り出したものが好ましい。これは、溶融鋳造により得られた耐火物は、完全に均一な組成、組織でないことが一般的であり、溶融後、鋳型に流し込まれ冷却凝固される際に、場所により冷却速度が異なる等の理由により結晶サイズ、組成などの違いが生じるためである。
【0053】
図6(a)に示したように、例えば、溶融鋳造により得られた溶融鋳造耐火物は、製造の際に、その表層付近は冷却速度が速くなり結晶サイズが小さく、濃度も内部とは若干異なる急冷部分13aとして形成される。また、その内部は表層付近とは異なり、徐々に冷却されていき結晶サイズが大きく、濃度も高くなりやすい徐冷部分13bとして形成される。そして、これがそのままガラス溶解窯11の側壁として使用される。
【0054】
つまり、これを実窯に適用した場合には、最初は図6(a)のような断面で操業が開始されるが、操業を継続していくことで、溶融ガラスと接触するガラス溶解窯側が徐々に溶融鋳造耐火物が侵食され図6(b)のように薄くなり、さらには、図6(c)のようにさらに侵食が進んでいく。
【0055】
すなわち、本発明において測定対象となる溶融鋳造耐火物13は、図6(b)や図6(c)のように薄くなった状態であるため、より正確な測定を行うためには、一旦、図6(a)に示した操業前の溶融鋳造耐火物13と同じ厚さとなるように成形し、ここから侵食状況を想定して図6(b)や図6(c)のような一側面を切り出し、対照用溶融鋳造耐火物として用いることが好ましい。このように、実窯の耐火物配置時に使用された部位を考慮し、それと同等部位、配置状況で試験を実施することで、さらに測定誤差を小さくすることができる。
【0056】
次に、実窯である溶解窯の側壁である溶融鋳造耐火物の残厚の測定を行う(S2)。
【0057】
図3は、図2のガラス溶解窯11の破線部分Aの部分拡大断面図である。図3に示したように、測定対象である溶融鋳造耐火物13の被測定面に断熱板2の一面を接触させ、電磁波探査機3をその断熱板2上に当接させながら、水平方向(図3で言えば、前後方向)に走査する。この水平方向の走査において、電磁波探査機3の位置は、ガラス溶解窯内の溶融ガラス12の界面の高さであることが好ましい。これは、溶融ガラスの界面において、溶解窯の側壁が侵食され易く、他の箇所に比べて厚さが薄くなるため、溶解窯の停止等の判断を行うのに適しているからである。
【0058】
そして、この走査によって、電磁波探査機3の送信機32は送信アンテナ31から所定の電磁波を被測定面である溶融鋳造耐火物13に向かって連続的に送信し、それと同時に、該電磁波の溶融鋳造耐火物13からの反射波を受信アンテナ33で受信し、その受信状態を受信機34によって検知して、電磁波の反射波データを取得する。
【0059】
次に、得られた反射波データに基づいて、溶融鋳造耐火物の窯内周面からの反射波ピークの位置を判定する(S3)。この反射波ピークは、通常、一番大きな波形として表れ、また溶融鋳造耐火物とガラス素地の比誘電率の大小関係より、溶融鋳造耐火物→ガラス素地界面での反射率は、正の値となるため、反射波の位相を考慮すれば、容易に判定できる。
【0060】
そして、窯内周面からの反射波ピークの位置が判定できたら、その位置における反射波の測定時間から断熱板込みの溶融鋳造耐火物の厚さを算出する(S4)。具体的には、電磁波の送信時刻から反射波ピークの測定時刻の時間差が電磁波の伝播時間であるため、これを上記(数1)のTに当てはめると、対照試験でVは算出できているから、厚さDを算出できる。ただし、ここで算出される厚さは、溶融鋳造耐火物13と断熱板2とを合わせた厚さである。
【0061】
次に、溶融鋳造耐火物13単独の厚さを算出する(S5)。これは、上記S4で断熱板込みの厚さが既に算出されており、断熱板2の厚さは既知であるから、上記算出された厚さから実際に用いた断熱板2の厚さを差し引くことで、溶融鋳造耐火物13単独の残厚を算出できる。
【0062】
このS1〜S5のステップを、電磁波探査機3の水平方向への走査により複数個所で連続的に測定を行って、各測定箇所において、同じステップによりそれぞれの厚さを算出できる。これにより、ガラス溶解窯11の窯内周面の状態を把握できる。
【0063】
なお、上記方法では、S4とS5の各ステップにより溶融鋳造耐火物13の残厚を算出しているが、S4において、断熱板2と溶融鋳造耐火物13の界面における反射波ピークの位置を完全に特定できる場合は、その反射波ピークと溶融鋳造耐火物13の窯内周面の反射波ピークとの時間差が溶融鋳造耐火物13単独の厚さを電磁波が往復した伝播時間に相当するため、この時間差から溶融鋳造耐火物13の残厚を算出してもよい。
【0064】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態は、対照試験による比誘電率を対照用溶融鋳造耐火物の厚さを変えて複数個算出しておき、得られた複数の比誘電率を適用した溶融鋳造耐火物の厚さをそれぞれ算出し、その算出した厚さの中で最も適したものを溶融鋳造耐火物の厚さとして決定する点で第1の実施形態とは異なる。
【0065】
この実施形態のフローチャートを図7に示したが、S12〜14までは、第1の実施形態のS2〜S4と同一の操作を行う。また、S16はS5に対応するステップであり、同一の操作を行う。以下、相違点を中心に説明する。
【0066】
この実施形態では、まず、第1の実施形態のS1と同様に対照試験で比誘電率を算出する(S11)。ただし、本実施形態では、次に説明するように比誘電率を複数個算出する。
【0067】
これは、実窯の溶融鋳造耐火物の残厚がどの程度の厚さであるかがわからないため、対照試験において、複数の厚さの溶融鋳造耐火物について、それぞれの比誘電率を算出しておくものである。例えば、対照用溶融鋳造耐火物として、断熱板込みの対照用溶融鋳造耐火物の厚さ(Tα)として40mm、70mm、100mm、130mmのものについて、それぞれの比誘電率εp、εp、εp、εpを求めておく。
【0068】
実窯測定(S12)、実窯内周面ピーク位置判定(S13)、断熱板込みの厚さ算出(S14)は、それぞれS2〜S4に対応するステップで、同一の操作により行う。ただし、S14において用いる比誘電率は、S11で算出した複数の比誘電率全てを用い、それぞれの比誘電率を適用した時の厚さを求める。
【0069】
そして、本実施形態においては、S14で算出された断熱板込みの溶融鋳造耐火物の換算厚み(Tβ)について、いずれの数値が最も妥当であるか判定を行う(S15)。ここでは、それぞれの計算に用いた比誘電率の基になる断熱板込みの対照用溶融鋳造耐火物の厚さ(Tα)と算出された溶融鋳造耐火物の換算厚み(Tβ)からその絶対値|Tα−Tβ|を算出し、一番小さい値となったものを最適なものとして、これを耐火物込みの溶融鋳造耐火物の厚さとして決定する。
【0070】
なお、このとき絶対値が5.0mm以内となっていることが好ましく、それより大きくなっている場合には、誤差が大きいものとして、再度測定条件を変更する等により検討することが望ましい。
【0071】
そして、溶融鋳造耐火物13単独の残厚を算出する(S16)。これは、第1の実施形態のS5に対応するステップであり、同一の操作により、S15で決定された断熱板込みの溶融鋳造耐火物13の換算厚みから断熱板の厚さを除くことで行えばよい。
【0072】
本実施形態により、溶融鋳造耐火物の残厚について、より誤差の少ない測定ができ、ガラス溶解窯の操業の可否判断を最適化することが可能となる。
【0073】
以下、上記した第2の実施形態に基づいて、対照試験によって複数の厚みに対する比誘電率を求める場合の厚み算出例を以下に示す。ここでは2種類の比誘電率を用いる場合、例えば、断熱板込みの対照用溶融鋳造耐火物の厚さ(以下、Tαと称する。)が70mmと100mmの厚さのものを用いた場合を説明する。
【0074】
まず、それぞれの厚さの見かけの比誘電率εpを求める。このように厚みが変わった場合、断熱板と溶融鋳造耐火物の体積比の変化、窯の温度分布の変化等によりそれぞれ比誘電率が変化する。得られた結果を表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
そして、実窯での測定による反射波データから、電磁波の送信から反射波の受信までの時間差から、上記で得られた比誘電率を用い、それぞれの換算厚みTβを算出する。このとき、TαとTβの差の絶対値も計算する。得られた差の絶対値を比較し、絶対値が最も小さいデータが妥当であると判断し、使用する換算厚みTβを決定する。この結果を表2に示した。
【0077】
【表2】

【0078】
ここでは、Tαが70mm厚のとき、絶対値は30.3mmであり、Tαが100mm厚のとき、絶対値は1.8mmであり、絶対値の小さい100mm厚の対照用溶融鋳造耐火物に基づく算出値が妥当であると判断する。最後に、この換算厚みTβから断熱板の厚みを引いて、溶融鋳造耐火物の残厚とする。
【0079】
なお、複数の比誘電率を用いる場合においても、上記の残厚決定の方法は一例であり、他の残厚の決定方法として、Tαに対するεpの変化が極値を持つ様な変化ではなく、単調増加または単調減少である限り、反復法などの数学的解法を用いても良いし、各厚みデータ間の値を線形補間等により内挿し用いてもよい。
少なくとも、実施例に示す溶融鋳造耐火物に関する限りTαに対するεpの変化が極値を持つような変化は観測されておらず、第2の実施形態により、溶融鋳造耐火物の残厚がどのような厚さであってもより精度高く測定することを可能とする。
【0080】
なお、第2の実施形態によれば、溶融鋳造耐火物の残厚がどのような厚さであってもより精度高く測定できるが、ガラス溶解窯の使用限界を見極めるという点では、第1の実施形態において、対照用溶融鋳造耐火物を使用限界と同程度の厚さとして用いていれば、限界値における算出値は妥当であるため問題はない。
【実施例1】
【0081】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によってなんら限定されるものではない。
【0082】
実施例に使用する溶融鋳造耐火物は、ジルコニア成分を約95%含む、ガラス溶解窯用の溶融鋳造耐火物(AGCセラミックス社製、商品名:ZB−X9510)である。比誘電率測定に使用した対照用の溶融鋳造耐火物の寸法は、400mm×200mm×60mm、一個の質量が約26kgである。
【0083】
試験炉としては、図5に示した比誘電率測定用の対照試験設備である試験炉を用いた。なお、炉外面に相当する低温部が外気に接触しているが、さらに、実際のガラス溶解窯と同様に、炉外面に対し強制空気冷却を行うことにより、炉内側の温度と、炉外側の温度をコントロールしている。
【0084】
また、電磁波探査機としては、日本無線社製のレーダーNJJ−95A(商品名)を使用した。この装置には、メモリカードが設けられており、測定結果である反射波データが保存可能となっている。得られたデータは、外部のコンピューターで処理して、反射波ピーク位置の検出、溶融鋳造耐火物の残厚の算出を実施した。
【0085】
図5の試験炉を用い、厚み60mmの対照用の溶融鋳造耐火物を片面加熱炉に固定した状態で、試験炉内温度を測定すべきガラス溶解窯の窯内温度と同じ1500℃に加熱し、外面は強制空気冷却を実施したところ溶融鋳造耐火物の炉外面温度は、480℃となった。
【0086】
この状態で、炉外側の対照用溶融鋳造耐火物の表面に、170mm×300mm×15mm厚のベニア板;温度拡散率:3.6×10−7/sec、比誘電率:2.2、発火温度:400℃)を接触させ、このベニア板の温度が上昇する前に、素早く電磁波探査機をベニア板の表面に接触させ測定した。なお、ここで、ベニア板の温度拡散率は、ベニア板の密度500〔kg/m〕、熱伝導率0.18〔W/(m・K)〕、比熱1000〔J/kg/K〕として計算した。
【0087】
上記の通り参照実験炉の炉外面温度が480℃であるが、これはベニア板の発火温度400℃を超えている。しかし実際に測定は5秒以内で終了するため測定自体は問題なく実施できた。しかしベニア板の端部が焦げてしまうなどの現象が見られ、実施例2に後述する、より耐熱性に優れる断熱板を用いる方が望ましい。
【0088】
この測定では、電磁波探査機により中心周波数が0.9GHzの電磁波を、断熱板を介して対照用の溶融鋳造耐火物に向かって送信し、その電磁波の溶融鋳造耐火物からの反射波を受信して反射波データを得た。電磁波探査機の電磁波の送信したときの反射波データは、送信してからの時間経過と反射波の波形との関係を示す画像データとして得られる。得られた反射波データに対して、その反射波のピーク位置(伝播時間)と対照用溶融鋳造耐火物及び断熱材の厚さとから(数1)及び(数2)を用いて、断熱板を含んだ見かけの比誘電率を算出したところ、εp=15.7となった。なお、見かけの比誘電率εpを15.7としたときの、反射波ピークと断熱板込みの対照用溶融鋳造耐火物の換算厚みとの関係について図8に示した。破線が反射波ピークの位置であり、以下の反射波データにおいても同様である。
【0089】
まず、この実施例を元に、溶融鋳造耐火物の温度が上昇した際に、溶融鋳造耐火物内部の電磁波の減衰が大きくなることについて説明する。図8の高温での対照試験と同様の測定を常温にて行った結果を図9に示す。図9の反射波ピークは非常に大きくはっきりしているが、図8の反射波ピークは非常に小さい。これは、前述したとおり、高温になると溶融鋳造耐火物内での電磁波の減衰が増加するためである。例えば、常温から1500℃まで温度を上げていく途中において段階的に同様の測定を行うと、図9の反射波ピークが徐々に小さくなり、図8に近づいていき、図8のピークは間違いなく背面反射波ピークであることがわかっている。
【0090】
しかし、断熱板の比誘電率がさらに小さくなり、溶融鋳造耐火物との界面反射が増加したり、さらに煉瓦厚みが厚くなって煉瓦内部での電磁波減衰が増えた場合などは、さらに背面における反射波ピークが小さくなってしまい、ピークが検出できない可能性がある。このため電磁波をできるだけ効率的に被測定対象である溶融鋳造耐火物に送り込むことが重要であり、前述した範囲の比誘電率を有する断熱板を用いる必要がある。
【0091】
また、この実施例を元に、溶融鋳造耐火物の比誘電率が温度によって変化することについて説明する。図9の常温の結果より、断熱板を含んだ見かけの比誘電率を算出したところεp=9.8となった。図8の高温の場合は、εp=15.7であったので温度が上昇したことにより比誘電率の値が全く異なる値となることがわかる。このため、実窯での残厚測定のためには、実窯状態に近い高温条件での比誘電率を把握しておかなければ誤差の少ない測定はできない。
【0092】
次に、実際に操業している板ガラスの窯末期停止直前に、測定した。このガラス溶解窯については図3に示したように、側壁である溶融鋳造耐火物13の溶融ガラス12の液面の高さにおいて測定した。この実窯測定により得られた反射波データについて、対照試験のεp=15.7を適用することで、反射波ピークの測定時間(伝播時間)から断熱板込みの換算厚みを算出した。その結果を図10に示した。
【0093】
この結果から、板ガラス窯の測定箇所の残厚は、72mm(ピーク位置)−15mm(断熱板厚さ)=57mmと測定された。この測定実施から数日以内に窯が停止され、冷却された後に窯内に入って測定実施部位の残厚を確認したところ、60mmであり電磁波による測定結果と実際の厚みの誤差は+3mmであった。上記のように本発明を用いることで、少なくとも50mm以上の厚さの溶融鋳造耐火物の熱間使用時における残厚を高い精度(例えば、±5.0mm程度)で測定できるため、窯の停止、修理実施の判断を適切に行うことができる。
【実施例2】
【0094】
実施例2では、実施例1と、ほぼ同じ条件で対照試験を実施した。実施例1との違いは、溶融鋳造耐火物の厚みと断熱板の種類である。溶融鋳造耐火物の厚みとして90mmのものを使用した。サイズは400mm×200mm×90mm、一個の質量が約39kgである。また、実施例2では、実施例1に述べた断熱板の耐熱性の問題や、電磁波を効率よく溶融鋳造耐火物に送る点を改良するために、より耐熱性が高くかつ比誘電率が大きい次の断熱板を使用した。
【0095】
ガラス繊維含有セメント板(ニチアス社製、商品名:ヘミサル15:温度拡散率が3.6×10−7/sec、比誘電率が12.0、耐熱温度が 500℃)
使用したサイズは、170mm×450mm×10mm厚。
【0096】
実施例1と同様に、炉内温度を1500℃に加熱し、外面を強制空気冷却を実施したところ、溶融鋳造耐火物の炉外面温度は、408℃となった。
さらに実施例1と同様の方法で、断熱板を含んだ見かけの比誘電率を算出したところεp=17.4となった。なお、見かけの比誘電率εpを17.4としたときの、反射波ピークと断熱板込みの対照用溶融鋳造耐火物の換算厚みとの関係について図11に示した。
【0097】
次に、実際に操業している板ガラス窯において、測定を実施した。このガラス溶解窯については図3に示したように、側壁である溶融鋳造耐火物13の溶融ガラス12の液面の高さにおいて、電磁波探査機を水平方向に走査し連続的に測定した。断熱板の位置を変えた測定を合計3回実施した。断熱材の位置を変える際に、前回測定との重複部分が存在する様にし、またその変位代を把握しておき、これらの測定結果をコンピューター上でつなぎ合わせた。その結果、溶融鋳造耐火物の目地をはさんだ、長手方向約700mmにわたる反射波ピークを連続的に捉えた。この実窯測定により得られた反射波データについて、対照試験のεp=17.4を適用することで、反射波ピークの測定時間(伝播時間)から断熱板込みの換算厚みを算出した。
【0098】
この換算厚みについて、走査したときの複数の測定地点全てで算出し、得られた換算厚みから断熱板の厚さを引いて、それぞれの溶融鋳造耐火物の残厚を算出した。得られた溶融鋳造耐火物の残厚について、これを走査した水平方向の距離を横軸に、溶融鋳造耐火物の残厚を縦軸にとって、図12に示した。なお、横軸は水平方向の距離を表わすが、溶融鋳造耐火物の目地を0点として表わした。
【0099】
この結果から、溶融鋳造耐火物の残厚は、目地付近の最も薄い部分で90mmとなっている。実際の厚みは操業中であることから、目地からの物差挿入による測定値のみであり少なくとも70mm以上であることはわかっているが、絶対値の確認はできなかった。
【0100】
一方、場所による相対的な厚みの変化について、溶融鋳造耐火物が目地に向けて薄くなっている様子が測定されている。通常のガラス溶解窯を停止した際の観察において、水平方向の厚み分布については、目地部分の残厚が他の部分の残厚よりも薄くなることが一般的であり、操業中においても同様の厚み分布であることが推察できる。
【0101】
また右側の煉瓦に比べて左側の煉瓦の方が、残厚が少ない測定結果であるが、実際の炉でも左側の煉瓦の方が、煉瓦に接している溶融ガラスの温度が高い事が確認されており、左の煉瓦の方が浸食が早く進むことは容易に推察できる。以上のことから、場所による残厚の相対的な変化について、本測定結果が妥当性であることが確認された。上記のように、場所による浸食量の違いが把握できることは、素地漏れの可能性が高い場所を特定できることにつながり、ガラス素地漏れ事故防止の観点で極めて有用な情報となる。
【0102】
上記のように、本発明を用いることで、少なくとも50mm以上の厚さの溶融鋳造耐火物の熱間使用時における残厚を高い精度(例えば、±5.0mm程度)で測定でき、また残厚が薄くなっている部分を探し出せるため、炉の停止、修理実施の判断を適切に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、高温状態における溶融鋳造耐火物の厚さを測定するのに有効な測定方法及び測定装置であり、さらに、経時的に厚さが変化する溶融鋳造耐火物の残厚測定に極めて有効である。
【符号の説明】
【0104】
1…溶融鋳造耐火物の残厚測定装置、2…断熱板、3…電磁波探査機、31…送信アンテナ、32…送信機、33…受信アンテナ、34…受信機、11…ガラス溶解窯、12…溶融ガラス、13…溶融鋳造耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚を測定する方法であって、測定すべき溶融鋳造耐火物と同一組成の対照用溶融鋳造耐火物の一方の面を前記ガラス溶解窯の窯内温度とほぼ同一の温度に加熱しつつ、前記対照用溶融鋳造耐火物の他方の面に、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板を接触させ、前記断熱板を介して中心周波数が0.5〜3GHzのパルス状電磁波を前記対照用溶融鋳造耐火物に向かって送信する工程と、
前記パルス状電磁波の前記対照用溶融鋳造耐火物の前記加熱される側の面からの反射波データを取得して前記対照用溶融鋳造耐火物の見かけの比誘電率を求める工程と、
前記ガラス溶解窯の測定すべき溶融鋳造耐火物の外周面に、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板を接触させ、前記断熱板を介して前記対照用溶融鋳造耐火物に送信したパルス状電磁波と同一周波数の電磁波を前記測定すべき溶融鋳造耐火物に向かって送信する工程と、
前記パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物の炉内周面からの反射波データを取得する工程と、
前記パルス状電磁波の反射波データから求めた前記パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物内の伝播時間と、前記対照用溶融鋳造耐火物について求めた見かけの比誘電率から前記溶融鋳造耐火物の残厚を算出する工程と、
を有することを特徴とする溶融鋳造耐火物の残厚測定方法。
【請求項2】
前記対照試験において、複数の異なる厚さの対照用溶融鋳造耐火物を用いて複数個の見かけの比誘電率を求めておき、
前記溶融鋳造耐火物の残厚を算出する工程において、複数個それぞれの見かけの比誘電率を適用して前記溶融鋳造耐火物の残厚をそれぞれ算出し、
得られた複数の溶融鋳造耐火物の残厚について、用いた比誘電率の算出の基礎となった対照用溶融鋳造耐火物の厚さとの差が最も小さいものを残厚として決定する請求項1記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法。
【請求項3】
前記得られた複数の溶融鋳造耐火物の残厚と、その算出の基礎となった対照用溶融鋳造耐火物の厚さとの差が±5.0mm以内である請求項2記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法。
【請求項4】
前記残厚の算出を、被測定対象面に対して水平方向に走査しながら連続的に行う請求項1乃至3のいずれか1項記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定方法。
【請求項5】
ガラス溶解窯の側壁に用いられている溶融鋳造耐火物の残厚測定にあたって、前記溶融鋳造耐火物の外周面に接触させる、耐熱温度が250℃以上、比誘電率が2以上20以下、温度拡散率が2×10−6/sec以下の断熱板と、
前記断熱板を介してパルス状電磁波を前記溶融鋳造耐火物の外周面に向かって送信アンテナから送信させる送信機と、該パルス状電磁波の前記溶融鋳造耐火物からの反射波を受信アンテナで受信して反射波データを取得する受信機と、を有する電磁波探査機と、
から構成されることを特徴とする溶融鋳造耐火物の残厚測定装置。
【請求項6】
溶融鋳造耐火物の残厚測定にあたって、対照用溶融鋳造耐火物の厚さと比誘電率との関係を記憶する記憶手段と、
前記電磁波探査機により前記溶融鋳造耐火物から得られた反射波データに対し、前記記憶手段に格納されている比誘電率を適用して溶融鋳造耐火物の残厚を測定する演算手段と、
を有する請求項5記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定装置。
【請求項7】
前記断熱板が、ガラス繊維含有セメント板である請求項5又は6記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定装置。
【請求項8】
前記電磁波探査機の前記断熱板接触面にタイヤを設けた請求項5乃至7のいずれか1項記載の溶融鋳造耐火物の残厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−13512(P2012−13512A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149659(P2010−149659)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(391040711)AGCセラミックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】