説明

溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法及び溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法

【課題】GLめっき浴の浴底で堆積固化したボトムドロスを従来よりも容易に除去することが可能な、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法、及び、該ボトムドロス除去方法を用いる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用する、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴中のボトムドロスを除去する際に、めっき浴の組成を変更することにより、単斜晶の結晶構造の金属間化合物が20%以上含有されるようにボトムドロスを変態させる第1工程と、該第1工程に続いて、ボトムドロスをめっき浴から除去する第2工程と、を有する、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法とし、該方法を用いてボトムドロスを除去する工程と、該工程の後にめっき浴の組成を調整する工程とを有する、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造時に使用される、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴(以下において、「溶融Al−Zn系合金めっき浴」ということがある。)中に堆積した、ボトムドロスを除去する方法、及び、該方法を用いる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融めっきは安価に鋼材を防食する手法として幅広く使われており、様々な種類がある。その中でも、JIS G3321に規定されるような溶融55質量%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(以下「GL」と称する。代表的なめっき組成としては、約55質量%Al−約1.6質量%Si−残部Znである。以下において、「質量%」を単に「%」と表記することがある。)は、Znの犠牲防食性能及びAlの強固な保護皮膜の両方を有する高耐食性めっきとして、幅広く使われている。
【0003】
しかしながら、GLの製造においては、製造中にめっき浴中にドロスと呼ばれる金属間化合物粒子が発生し、それがめっき浴底に堆積してボトムドロスとなり、更にそれが固化して除去できなくなるという問題がある。GLの製造に使用するめっき浴(以下、単に「GLめっき浴」という。)のドロスは、Alが10%程度以下のAl−Zn系の合金めっき鋼板(例えば、JIS G3302に規定される溶融亜鉛めっき鋼板やJIS G3317に規定される溶融亜鉛−5%アルミニウムめっき鋼板が挙げられる。)に使用するめっき浴と比較して、生成したドロスの成長速度が非常に速く、数ヶ月で数mm程度の大きさに成長する。成長したドロスは浴底に堆積し、堆積したドロス同士が成長時に結合して巨大な塊となる。この堆積ドロス塊は非常に硬く、通常の掘削では破壊が困難である。そのため、ボトムドロスの堆積量が多くなりすぎてめっき鋼板の製造ができなくなると、最悪の場合、非常に高額な費用をかけて、めっきポット自体を新たに作製し直すこともあった。そのため、このGLめっき浴の浴底で固化したボトムドロスをより簡単に除去する方法の開発が求められている。
【0004】
ボトムドロスの除去に関する技術として、例えば特許文献1には、溶融高Al−Zn合金めっきまたは溶融Alめっきに使用するめっき浴の浴中Zn濃度を5%以上上昇させ、そのZn濃度操作により浮上したボトムドロスを系外へ排出するボトムドロス除去方法が開示されている。また、特許文献2には、Alを少なくとも40%含むAl−Zn系溶融合金めっき浴に、溶融亜鉛めっき浴で発生したドロスを添加し、Al−Zn系溶融合金めっき浴中のドロスを浴面に浮上させた後、めっき浴外へ排出するドロス除去方法が開示されている。また、特許文献3には、溶融めっき浴中に溶解させたボトムドロスを装置表面に析出させて浴中から除去するドロス除去装置であって、系外から搬入されてめっき浴に浸漬され、内部を流通する冷却媒体により強制冷却されると共に、めっき浴から引き上げて系外へ搬出することができる可搬式の冷却体により構成されており、且つ、当該冷却体が、浴体積をA(cm)とし浸漬部表面積をB(cm)として、A/B≦300cmの表面積をもつドロス除去装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2907006号公報
【特許文献2】特開平8−337862号公報
【特許文献3】特許第2904006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に開示されている技術では、めっき浴中のZn濃度を上昇させてめっき浴の比重を大きくし、ボトムドロスの比重を相対的にめっき浴よりも小さくすることにより、ボトムドロスを浮上させることを目的としている。しかし、一旦浴底で塊状に固化したドロスは、めっきポットの壁や底に凝着しており、単にめっき浴の比重を大きくしただけでは浮かんでこない。それゆえ、これらの技術では、除去できるボトムドロスの量が少ない。本発明者らによる再現実験によっても、浴Zn濃度を5%以上上昇させて50%程度のZn濃度にしても、浴底のドロスのうち固化していない砂状のドロスが浴面に浮遊する程度で、浴底で塊状に成長し堆積固化したドロスは自然に浮上もしないし破砕して除去することも困難であった。また、特許文献3に開示されている技術では、冷却した装置表面にドロスを析出させて除去している。しかしながら、ドロスの析出は非常にゆっくりであるため、浴底に堆積固化したドロスをすべて除去するには非常に時間がかかるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、めっき浴の浴底で堆積固化したボトムドロスを従来よりも容易に除去することが可能な、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法、及び、該ボトムドロス除去方法を用いる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記再現実験からさらに検討を進めたところ、めっき浴中のZn濃度が73%程度までは、GLめっき浴の浴底で堆積固化した塊状のドロスに大きな変化は認められないが、例えば、めっき浴中のZn濃度を更に上昇させて高Zn化し、高Zn化した状態を数時間以上に亘って保持すると、GLめっきの浴底に堆積固化した塊状のドロスが急激に脆化し、塊状のドロスを破砕するために必要な力を従来よりも低減できることを知見した。破砕されたドロスは、高Zn化しためっき浴よりも比重が軽いため、浴面に浮上し、容易に除去できた。さらに、ドロスの結晶構造を観察した結果、めっき浴を高Zn化して破砕されやすくなったドロスは、それまでのドロスと結晶構造や結合状態が異なることを知見した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。以下、本発明について説明する。
【0009】
本発明の第1の態様は、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用する、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴中のボトムドロスを除去する方法であって、めっき浴中のZn濃度を80質量%以上にして、ボトムドロスを脆化させる第1工程と、該第1工程に続いて、ボトムドロスをめっき浴から除去する第2工程と、を有する、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法である。
【0010】
上記本発明の第1の態様において、第1工程で、Zn濃度が80質量%以上である状態を6時間以上に亘って維持することが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様は、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用する、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴中のボトムドロスを除去する方法であって、めっき浴の組成を変更することにより、ボトムドロスを、立方晶の結晶構造の金属間化合物主体のものから単斜晶の結晶構造の金属間化合物が20%以上含まれるように変態させる第1工程と、該第1工程に続いて、ボトムドロスをめっき浴から除去する第2工程と、を有する、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法である。
【0012】
ここに、「立方晶の結晶構造の金属間化合物主体のもの」とは、ボトムドロスを細かく砕いて粉末にしたサンプルから得られるX線(Co−Kα線)の回折パターンから、29.5°(θ相に由来)、47.6°(τ5c相に由来)、及び、48.1°(τ2m相に由来)でのピーク強度を、バックグラウンドを差し引いて求め、それらのピーク強度の和に対する、29.5°のピーク強度と48.1°のピーク強度との和の割合が、20%未満であるボトムドロスをいう。また、「単斜晶の結晶構造の金属間化合物が20%以上含まれる」とは、ボトムドロスを細かく砕いて粉末にしたサンプルから得られるX線(Co−Kα線)の回折パターンから、29.5°(θ相に由来)、47.6°(τ5c相に由来)、及び、48.1°(τ2m相に由来)でのピーク強度を、バックグラウンドを差し引いて求め、それらのピーク強度の和に対する、29.5°のピーク強度と48.1°のピーク強度との和の割合が、20%以上であることをいう。例えば、55%Al−43.4%Zn−1.6%Siめっき浴では、ボトムドロスを形成するほぼすべての金属間化合物が立方晶のτ5c相であるが、本発明によってめっき浴中のZn濃度を十分上昇させると、ボトムドロスは結晶構造が立方晶系の金属間化合物と結晶構造が単斜晶系の金属間化合物とが混在する状態に変化し、さらに反応が進むと、ほぼ単斜晶系の結晶構造の金属間化合物の状態になることもある。
【0013】
本発明の第3の態様は、上記本発明の第1の態様又は上記本発明の第2の態様にかかる溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を用いてボトムドロスを除去する工程と、該工程の後に、めっき浴に50質量%以上60質量%以下のAlが含有されるようにめっき浴の組成を調整する工程と、を有することを特徴とする、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、めっき浴の浴底で堆積固化したボトムドロスを、第1工程によって脆化させることができるので、ボトムドロスをめっき浴外へと容易に除去することが可能になる。また、第1工程で、Zn濃度を上昇させた状態を6時間以上に亘って維持することにより、ボトムドロスを脆化させやすくなる。したがって、本発明によれば、めっき浴の浴底で堆積固化したボトムドロスを従来よりも容易に除去することが可能な、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を提供することができる。また、この除去方法を用いることにより、ボトムドロスが容易に除去されるので、生産性を向上させることや、めっき品質を安定させることが可能な、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、ボトムドロスが容易に除去されるので、めっきラインの長寿命化を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を説明するフローチャートである。
【図2】Zn濃度を上昇させる前のボトムドロスの断面形態を示す写真である。
【図3】Zn濃度を91%とした溶融Al−Zn合金浴中に1週間に亘って浸漬された後のボトムドロスの断面形態を示す写真である。
【図4】ボトムドロスの破壊強度及び浴中Zn濃度と保持時間との関係を示す図である。
【図5】ボトムドロスの破壊強度及び保持時間と浴中Zn濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、めっき浴がGLめっき浴である場合について主に説明するが、本発明はGLめっき浴が用いられる形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を説明するフローチャートである。図1に示すように、本発明にかかる溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法は、第1工程(S1)及び第2工程(S2)を有している。
【0018】
第1工程は、50%以上60%以下のAlを含有するめっき浴中のZn濃度を上昇させて、めっき浴底に堆積したボトムドロスを脆化させる工程である。めっき浴中のZn濃度を上昇させて数時間〜数日に亘って保持すると、後述する実施例で示すように、ボトムドロスを破砕するのに必要な力を格段に低下させることができる。本発明では、ボトムドロスを脆化させやすくする観点から、Zn濃度を上昇させた状態を6時間以上に亘って保持することが好ましい。
【0019】
第1工程で上昇させるめっき浴中のZn濃度は、80%以上とする。Zn濃度が70%程度ではボトムドロスを破砕するために必要な力(破砕力)を十分に低減することが困難である。めっき浴中のZn濃度は、好ましくは85%以上とする。一方、Zn濃度をあまりに高くしても、破砕力の低減余地は飽和し、かえって、めっき浴を元の組成へと調整する際に多量のAlが必要となり、また調整時間も長くなる。めっき浴中のZn濃度は、好ましくは91%以下である。
【0020】
第1工程におけるめっき浴の温度は、例えば、操業中のGLめっき浴温である600℃前後でよく、ドロスの脆化を促進するために、高温化しても良い。但し、あまりに高温化すると、設備や安全上の問題が懸念される虞がある。かかる観点から、めっき浴の温度は、580℃以上700℃以下とすることが好ましい。
【0021】
ここで、図2及び図3を用いて、めっき浴中のZn濃度の上昇によるボトムドロスの変化を説明する。図2は、GLめっき浴の浴底に堆積するボトムドロスを強制的に粉砕して採取した、ボトムドロス破砕片の断面顕微鏡写真である。GLめっき浴の浴底に堆積するボトムドロスは、τ5c相(代表化学式:Al20SiFe、体心立方晶)主体であり、図2に示すように、結晶粒子が大きく、隣接する結晶同士が密に結合している。
【0022】
一方、図3は、GLめっき浴から取り出した前述のボトムドロス破砕片を、亜鉛濃度91%とした溶融Al−Zn合金浴に浸漬し、1週間に亘って保持された後の、ボトムドロス破砕片の断面顕微鏡写真である。このボトムドロスは、τ2m相(代表化学式:AlFeSi)やθ相(代表化学式:AlFe)のような、結晶構造が単斜晶の組織が主体となり、さらに、図3に示すように、図2に示した形態と比較して結晶粒が微細化し、ドロス塊の中に多数の鬆(す)が観察された。第1工程で、ボトムドロスの形態がこのように変化することにより、堆積したボトムドロスが脆化し破砕されやすくなったと考えられる。
【0023】
この現象は、ボトムドロスの結晶構造の変化に伴うものと考えられる。より具体的には、Zn濃度を上昇させる前のGLめっき浴中での安定相であるτ5c相が立方晶であり比較的等方性が良いため、ドロス同士が結合した際に強固に結びつくのに対し、高Zn化後のドロス相であるτ2m相やθ相は、等方性の低い単斜晶であるため、変態時の成長方向に異方性が大きく内部応力が大きくなる結果、変形時に容易に破壊するものと考えられる。
【0024】
したがって、第1工程は、めっき浴の組成を変更することにより、ボトムドロスを立方晶の金属間化合物主体のものから単斜晶の金属間化合物を多く含むものに変態させる工程、ということもできる。具体的には、めっき浴の組成を変更することにより、単斜晶の金属間化合物が20%前後含まれるようになると、ボトムドロスの脆化が認められはじめ、50%以上になるとボトムドロスは大きく脆化するため好ましい。
【0025】
第1工程において、めっき浴の亜鉛濃度を高くするには、亜鉛比率の高いインゴット(例えば純亜鉛インゴット)をめっき浴に投入すればよい。併せて、ポットからめっき浴があふれないよう、且つ、効果的に高亜鉛濃度となるように、必要に応じめっき浴をくみ出しておく。
【0026】
亜鉛インゴット投入後のめっき浴は、できるだけ強制的に撹拌をされない方が好ましいと考えられる。融解した亜鉛は(めっき浴温は亜鉛の融点よりずっと高いので、亜鉛インゴットは比較的短時間で融解する。)、インゴット添加前のめっき浴よりも比重がかなり大きい。そのため、めっき浴を撹拌しないと、しばらくの間は、ボトムドロスに近いめっき浴の下方の亜鉛濃度が高いままの状態となり、この方がボトムドロスの脆化に有利と考えられる。
【0027】
第2工程は、上記第1工程の後に、ボトムドロスをめっき浴の外へと除去する工程である。上記第1工程によって、ボトムドロスは脆化されている。そのため、上記第1工程の後に第2工程を行なうことにより、ボトムドロスをめっき浴外へと容易に除去することができる。第2工程における除去の方法は、例えばショベルカーをめっき浴内に入れてボトムドロスを掘削しそのまま掬い出してもよい。または、ショベルカーやドリル等を用いてボトムドロスを一旦細かく破砕し、浮上したドロス(めっき浴の亜鉛濃度が高くなっているので、細かく破砕されたドロスは自然に浮上する)を系外に除去してもよい。後者の方が、めっき浴の系外への持ち出し量を少なく抑えやすい。
【0028】
また、ボトムドロスの掘削及び除去(又は、ボトムドロスの破砕及び除去。以下において同じ。)は、堆積したボトムドロスが多量の場合は特に、数時間ごとに複数回にわたって行うのが好ましい。上記第1工程でボトムドロスを脆化させるには、脆化させるための反応時間(例えば、数時間〜数日程度)が必要であり、ボトムドロスの堆積量が多いと、ボトムドロスの内部まで脆化反応が進行するには非常に長時間が必要となる。そこで、ボトムドロスの掘削及び除去を、例えば数時間ごと(例えば、3時間以上ごと)に行えば、新たに露出したボトムドロス表面から内部に脆化反応が進行するので、ボトムドロスを除去するための作業時間を短くすることができる。
【0029】
なお、めっき浴中のZn濃度を上昇させた状態を長時間に亘って保持しすぎると、変態後のドロスが再び固化し始め、除去が困難になる可能性があるほか、長時間の作業は経済的にも劣る。そのため、第2工程の作業日数は30日以内とすることが好ましく、途中の掘削作業も10日程度毎には実施することが望ましい。
【0030】
上記第1工程及び第2工程を経てボトムドロスが除去されるめっき浴の代表的な組成としては、55%Al−43.4%Zn−1.6%Siを例示できるが、本発明が適用されるめっき浴はこの組成に限定されない。本発明が適用されるめっき浴は、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用される、50%以上60%以下のAlを含有するめっき浴であればよく、実際には多少の組成のばらつきや、意図的、不可避によらず第3元素成分を含む場合であっても、めっき浴中で強固に固化するドロスを含む場合には、本発明を応用することができる。例えば、めっき浴中にMg、Fe、Ni、Cr、Pb、Snなどが含まれていても良い。
【0031】
上述のように、本発明の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法によれば、ボトムドロスを従来よりも容易に除去することができる。したがって、本発明の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を用いて溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を製造することにより、生産性を向上させることや、めっき品質を安定させることが可能な、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、ボトムドロスを容易に除去されるので、めっきラインの長寿命化を図ることも可能になる。
【実施例】
【0032】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明する。
【0033】
長期間製造に供されたGLめっき鋼板製造設備(標準的なめっき浴組成は55%Al−43.4%Zn−1.6%Si)のめっき浴(めっき浴の温度:600℃)の浴底に固着したボトムドロスをドリルで強制的に破砕して、破砕片を採取した。このボトムドロス破砕片を、Zn濃度を種々の濃度(73%、85%、91%、94%、及び、98%)に調整した融解Al−Zn合金浴に浸漬し、浸漬から所定時間経過後のボトムドロスの脆化挙動を観察した。その際、ドロスの脆化度合いを評価するため、浴中のドロスに先端角度70゜の円錐ステンレス棒を持つフォースゲージ(日本電産シンポ株式会社製、FGP−50)を押し当てて破壊時の力を測定し、これをドロスの破壊強度とした。
【0034】
また、取り出したドロスの結晶構造をX線回折により調査した。具体的には、取り出したドロスを細かく砕いて粉末にしたサンプルから得られるX線(Co−Kα線)の回折パターンから、29.5°(θ相に由来)、47.6°(τ5c相に由来)、48.1°(τ2m相に由来)でのピーク強度(バックグラウンドは差し引く)を求め、それらのピーク強度の和に対する、各々の角度におけるピーク強度の比を算出した。このピーク強度の比は、各相(金属間化合物)の存在割合を厳密に定量するものではないが、簡易的に存在割合を示す指標として採用した。
【0035】
結果を表1、図4、及び、図5に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示したように、めっき浴のZn濃度が80%以上の浴に6時間以上に亘って浸漬することにより、ドロス破壊強度が更に低減された。また、表1に示したように、破砕しやすくなったボトムドロスは、もともとのτ5c相(体心立方晶)主体の結晶構造から、τ2m相やθ相(何れも単斜晶)を含む結晶構造に変化していた。さらに、図2及び図3に示したように、もともとのボトムドロス(図2)に比べ、破壊強度が低下したボトムドロス(図3)は鬆が多い構造になっていた。これらの結果から、本発明によってボトムドロスの構造が変化して、ドロス破壊強度が低下するので、ボトムドロスを破砕し除去しやすくなると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用する、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴中のボトムドロスを除去する方法であって、
前記めっき浴中のZn濃度を80質量%以上にして、前記ボトムドロスを脆化させる第1工程と、
前記第1工程に続いて、前記ボトムドロスを前記めっき浴から除去する第2工程と、
を有する、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法。
【請求項2】
前記第1工程で、Zn濃度が80質量%以上である状態を6時間以上に亘って維持することを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法。
【請求項3】
溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造に使用する、50質量%以上60質量%以下のAlを含有するめっき浴中のボトムドロスを除去する方法であって、
前記めっき浴の組成を変更することにより、前記ボトムドロスを、立方晶の結晶構造の金属間化合物主体のものから単斜晶の結晶構造の金属間化合物を20%以上含有するように変態させる第1工程と、
前記第1工程に続いて、前記ボトムドロスを前記めっき浴から除去する第2工程と、
を有する、溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の溶融Al−Zn系合金めっき浴のボトムドロス除去方法を用いてボトムドロスを除去する工程と、
該工程の後に、めっき浴に50質量%以上60質量%以下のAlが含有されるように前記めっき浴の組成を調整する工程と、
を有することを特徴とする、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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