説明

溶融Sn−Zn系めっき鋼板

【課題】 優れた耐食性を有し、特にコモンレール式ディーゼルエンジンにも対応可能である自動車燃料タンク材料として好適な溶融Sn-Zn系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】
鋼板表面に、Sn:91.2〜99.0質量%、Zn:1〜8.8質量%、残部が不可避的不純物からなる溶融Sn-Znめっき層を形成した溶融Sn-Zn系めっき鋼板であって、前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが10mg/m2〜100mg/m2存在し、好ましくは、前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが25mg/m2〜60mg/m2存在することを特徴とする溶融Sn-Zn系めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐食性を有し、特に自動車燃料タンク材料として好適な溶融Sn-Zn系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンク材料として耐食性・加工性・はんだ性(溶接性)等の優れたPb-Sn合金めっき鋼板が主として用いられ、自動車用燃料タンクとして幅広く使用されてきた。しかしながら、Pbフリー化が進められ、現在ではSnを主体とするSn-Zn合金めっき鋼板が優れた燃料タンク材料としての特性を有することが知見され、下記特許文献1〜特許文献8の公報において、溶融Sn-Znめっき鋼板が開示されており、Pbフリーの燃料タンク材料として広く使用されている。
【0003】
また、下記特許文献9の公報には、Sn含有めっき鋼板において、表層にNiめっきまたはNi合金めっきを積層させスポット溶接性を向上させる発明が記載されている。この特許文献9では被覆すべき対象がSnであり、表層に存在するNiにより、抵抗溶接時の高温下でのSn-Cu合金化反応を抑制することを目的としている。スポット溶接時には電極中に水管を通し、電極/鋼板間の冷却を行っているが、それでもナゲット形成部位は2500℃近くまで昇温され、電極/鋼板間の温度も700℃程度までは上昇する。このため特許文献9ではめっきの主成分のSnと電極の主成分のCuの反応を抑制するために、上層のNi系めっきはNi分で0.1〜1.0g/m2を必要としており、本発明の想定する適正なNiめっき量より多くなっている。また、めっき層の構成から、バリヤー型めっき皮膜として耐食性を持たせることになり、疵部や端面におけるZnによる犠牲防食能は十分に発現されないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-269734号公報
【特許文献2】特開平09-071879号公報
【特許文献3】特開2000-119867号公報
【特許文献4】特開2002-332556号公報
【特許文献5】特開2003-268521号公報
【特許文献6】特開2003-268522号公報
【特許文献7】特開2005-320554号公報
【特許文献8】特開2011-006732号公報
【特許文献9】特開2010-100867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した溶融Sn-Znめっき鋼板は、確かに優れた耐食性および燃料タンク製造工程における加工性、接合特性を有するものであり、ガソリン用、エタノール混合ガソリン用、軽油用の燃料タンクとしては極めてバランスのとれた材料である。
【0006】
しかし、近年、ディーゼルエンジンに対する排ガス規制や燃費規制が年々強化される傾向にある為、エンジンの駆動力の損失を引き起こす機械式噴射ポンプは徐々に廃れつつあり、代わって、電磁式高圧噴射ポンプが登場している。その代表がコモンレール式ディーゼルエンジンであり、このシステムを用いると非常に高度な燃焼制御が可能となり、高出力かつクリーンなエンジンを実現する事ができる。
【0007】
しかし、このコモンレール式ディーゼルエンジンが噴射口は口径が小さくかつ燃料が高温度・高圧下となり、特にBio Diesel Fuel(以下BDFと略す)使用時には噴射口のノズル詰まりにより、出力が低下するという懸念がある。BDFは種々あるが、原料の植物油をメチルエステル交換反応により製造されており、原料に含まれる二重結合、三重結合がそのままBDFに含まれているので、軽油と比較すると容易に分解、重合をおこす。このため各自動車メーカーおよび自動車部品メーカーは、「コモンレール式ディーゼルエンジンはBDF使用時に主に燃料循環系から燃料中に溶出する金属イオンが、噴射口においてBDF劣化物と金属イオンとで金属石鹸を生成もしくは堆積しやすく、これが噴射口のノズル詰まりの原因である。」と考えており、Znが悪影響を及ぼすという元素の一つという見解を持っている。
【0008】
これまでの技術で、溶融Sn-Znめっき鋼板で過度のZnの溶出を抑制するためにめっき層の組成および組織制御を行っているが、Znの微量溶出は不可避であるために、Zn溶出を更に低減させる技術を検討することにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまではSn-Znめっき層を有し、偏析Znがめっき層を貫通しないようにZnを微細分散させたものを燃料タンク材料として活用してきた。Snは燃料タンク内外面環境に対しバリヤー型で地鉄を防食し、Znは犠牲防食で地鉄を防食するというように防食効果を機能分担させ、その各々の効果を最大限に引き出そうという設計思想であった。今回は表層のZnをより貴な金属にすることに着眼した。具体的にはNiを使用し、めっき最表層のZnをNiに置換し、その後に化成処理皮膜を付与することにより、Znの溶出抑制を試みた。
【0010】
本発明の要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)鋼板表面に、Sn:91.2〜99.0質量%、Zn:1〜8.8質量%、残部が不可避的不純物からなる溶融Sn-Znめっき層を形成した溶融Sn-Zn系めっき鋼板であって、前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが10mg/m2〜100mg/m2存在することを特徴とする溶融Sn-Zn系めっき鋼板。
(2)前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが25mg/m2〜60mg/m2存在することを特徴とする(1)に記載の溶融Sn-Zn系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によって、耐食性、加工性、溶接性に優れる燃料タンク用の鉛フリー防錆鋼板が得られ、コモンレール式ディーゼルエンジンのように溶出金属量に対してセンシィテブな方式でも、好適な特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。鋼鋳片を熱間圧延・酸洗・冷間圧延・焼鈍・調質圧延等の一連の工程を経た焼鈍済みの鋼板、また圧延材を被めっき材として、圧延油あるいは酸化膜の除去等の前処理を行った後、めっきを行う。鋼成分については、燃料タンクの複雑な形状に加工できる成分系であること、鋼-めっき層界面の合金層の厚みが薄くめっき剥離を防止できること、燃料タンク内部および外部環境における腐食の進展を抑制する成分系である必要がある。例えば、質量%でC;0.003、Si;0.006、Mn;0.06、P;0.01、S;0.01、Ti;0.055、Nb;0.003とし、更にBを数ppm添加した成分系で良い。また、薄手化対応としハイテンを適用しても良い。
【0013】
本発明ではSn-Zn合金めっきは溶融めっき法で行うことを基本とする。溶融めっき法を採用した最大の理由は、めっき付着量の確保のためである。電気めっき法でも長時間の電解を行えばめっき付着量は確保できるが、経済的ではない。本発明で狙うめっき付着量範囲は、20〜100g/m2 (片面)と比較的厚目付の領域であり、溶融めっき法が最適である。さらにSnとZnの様にめっき元素の電位差が大きい場合、適切に組成を制御することは困難を伴うため、Sn-Zn合金は溶融めっき法が最適である。
【0014】
次に、めっき組成のZnの限定理由であるが、燃料タンク内面と外面における耐食性のバランスにより限定したものである。燃料タンク外面は、完璧な防錆能力が必要とされるため燃料タンク成形後に塗装される。したがって、塗装厚みが防錆能力を決定するが、素材としてはめっき層のもつ防食効果により赤錆を防止する。特に、塗装のつきまわりの悪い部位ではこのめっき層のもつ防食効果は極めて重要となる。Sn基めっきにZnの添加でめっき層の電位を下げ、犠牲防食能を付与する。そのためには1質量%以上のZnの添加が必要である。Sn-Zn二元共晶点である8.8質量%を超える過剰なZnの添加は、粗大なZn結晶の成長を促進する、融点上昇をひきおこしめっき下層の金属間化合物層(いわゆる合金層)の過剰な成長につながる等の理由で8.8質量%以下でなくてはならない。粗大なZn結晶はZnの有する犠牲防食能が発現する点は問題ないが、一方で粗大なZn結晶部で選択腐食をおこしやすくなる。また、めっき下層の金属間化合物層の成長は金属間化合物自体が非常に脆いため、プレス成形時にめっき割れが生じやすくなり、めっき層の防食効果が低下する。
【0015】
一方、燃料タンク内面での腐食は、正常なガソリンのみの場合には問題とならないが、水の混入・塩化物イオンの混入・ガソリンの酸化劣化による有機カルボン酸の生成等により、激しい腐食環境が出現する可能性がある。もし、穿孔腐食によりガソリンが燃料タンク外部に漏れた場合、重大事故につながる恐れがあり、これらの腐食は完全に防止されねばならない。上記の腐食促進成分を含む劣化ガソリンを作製し、各種条件下での性能を調べたところ、Znを8.8質量%以下含有するSn-Zn合金めっきは極めて優れた耐食性を発揮することが確認された。
【0016】
Znを全く含まない純SnまたはZn含有量が1質量%未満の場合、腐食環境中に曝露された初期より、めっき金属が地鉄に対し犠牲防食能を持たないため、燃料タンク内面ではめっきピンホール部での孔食、タンク外面では早期の赤錆発生が問題となる。一方、Znが8.8質量%を超えて多量に含まれる場合、Znが優先的に溶解し、腐食生成物が短期間に多量に発生するため、燃料タンクに用いた場合にエンジン用のキャブレターの目詰まりを起こしやすい問題がある。また、耐食性以外の性能面では、Zn含有量が多くなることによってめっき層の加工性も低下し、Sn基めっきの特長である良プレス成形性を損なう。さらに、Zn含有量が多くなることによるめっき層の融点上昇とZn酸化物に起因し、はんだ性が大幅に低下する。したがって、本発明において、Sn-Zn合金めっきにおけるZn含有量は、1〜8.8質量%の範囲、更により十分な犠牲防食作用を得るには4.0〜8.8質量%の範囲にすることが望ましい。
【0017】
次にSn-Znめっき層と地鉄の界面に不可避的に生成する合金層であるが、プレめっきの活用、溶融めっき浴温、浸漬時間の調整により制御可能である。めっき濡れ性確保のためには合金層生成は必要不可欠であるが、過剰に合金層が成長するのは加工性等に悪影響を与え好ましくない。以下に推奨される条件を示す。
【0018】
<プレめっきの種類および付着量>
Ni単体めっき・・・Niめっきが被覆されている箇所は溶融Sn-ZnとFe(地鉄)の合金化は抑制される。一方、Niめっきが被覆されていない箇所は溶融Sn-ZnメタルとFe(地鉄)の合金化は進行する。その結果、微細な凹凸の合金相が生成する。プレめっき量としては片面あたり0.01〜0.5g/m2の範囲であれば、微細な凹凸の合金相が生成し、めっき濡れ性を確保でき過剰な合金層成長につながらない。Niめっきは一般的に用いられるワット浴で十分である。参考にワット浴の代表組成は硫酸ニッケル240〜350g/L、塩化ニッケル 30〜60g/L、ホウ酸 30〜45g/Lであり、めっき条件はpH=2.5〜4.5、浴温度 40〜60℃、電流密度 2〜10A/dm2の範囲で操業可能である。
【0019】
Fe-Ni合金めっき・・・Ni単体の説明と重複するがFeとNiでは溶融Sn-Znメタルとの合金化挙動が異なり、Feと溶融Sn-Znメタルでは合金化が進行し、NiとSn-Znメタルでは合金化が抑制される。 その結果、微細な凹凸の合金相が生成する。 したがいFe-Ni合金めっきをプレめっきとしたときも、同様の効果が得られる。Fe-Ni合金めっきの組成はどちらかの元素に対して極度に偏らなければ問題なく、Fe-10質量%Ni〜Fe-80質量%Niの範囲ではプレめっき組成の影響はない。好ましくはFe-25質量%Ni〜Fe-60質量%Niの範囲で安定する領域となる。Fe-Ni合金めっき浴は前記のNiめっきのワット浴に対して、硫酸鉄を30〜200g/L添加したもので使用可能である。Ni単体のように不均一被覆である必要はないので上限を設ける必要はないが、経済的にはプレめっき付着量は片面あたり0.5〜1.5g/m2が適当である。
【0020】
<溶融めっき浴温、浸漬時間>
溶融めっき浴温と浸漬時間はともに合金相の成長に影響を及ぼす。溶融めっき浴温は著しく低い場合、合金相は成長せず、著しく高い場合、合金相は成長が促進される。ただし、溶融めっき浴温は操業性の観点から、下限は溶融メタルの液相線温度+10〜50℃、上限はせいぜい液相線温度+100℃に設定することが多い。浴温が低いと、溶融めっき釜内の浴温ばらつきによる溶融メタル凝固の危険性があり、一方、浴温が高いと、過度の合金相成長、溶融めっき後の凝固の冷却能力必要、不経済というデメリットが生じるためである。本発明のSn-Zn系では、Sn-Zn組成範囲も考慮すると、240〜300℃が溶融めっき浴温の適正範囲となり、この温度範囲においては、上記プレめっきと後述する浸漬時間の組み合わせにより適正な合金相の生成は可能である。
【0021】
浸漬時間は短時間側では合金相の成長が不十分であり、長時間側では合金相の成長が過度となる傾向が一般的にある。ただし、本発明においては1秒の浸漬で合金相は既に成長しており、かつ、長時間浸漬しても合金相の成長は徐々に飽和している。実際の連続溶融めっきにおいては、浸漬時間は少なくとも約2秒かかり、溶融めっき槽の大きさから15秒以上浸漬することは通常はない。浸漬時間が長いことは生産性の低下を意味し、不経済でもある。この浸漬時間、2〜15秒の範囲においては、上記プレめっきと溶融めっき浴温の組み合わせにより適正な合金相の生成は可能である。
【0022】
次に溶融Sn-Znめっき層の付着量であるが、10〜150g/m2 (片面)、更に好ましくは30〜50g/m2(片面)を狙うことを推奨する。10g/m2未満であると、溶融Sn-Znめっき被覆性が不完全となる懸念があり、逆に150g/m2を超えると不経済であるばかりか、抵抗溶接性が低下する。抵抗溶接性が低下する理由は抵抗溶接機の電極に主に使われるCuと溶融Sn-Znめっきの主成分がSn-Cu合金(青銅)を容易に生成するために電極の損耗が激しくなるためである。
【0023】
次に本発明のポイントであるSn-Znめっき層の上層にあるNi系めっきであるが、10mg/ m2〜100mg/m2付着させることが好ましい。この上層Ni系めっきはSn-Znめっき層のZnの溶出を防ぐ役割を果たす。Sn-Znめっき層のSnはバリヤー型防食なので、Snの溶出は特段考慮しなくても良い。本発明のSn-Znめっき組成では、めっき組織は“初晶Sn”と“Sn-Zn二元共晶”となり、SnとZnの間では金属間化合物を生成しないので、ZnはSn-Zn二元共晶にbroken-lamellarもしくはfiberとして存在する。今回の目的とするとNiはSn-Znめっき上層に均一に存在している必要はなく、Sn-Znめっき層のZn相の箇所に選択的に存在し、Sn-Znめっき最表層のZnを被覆すれば十分である。Sn-Znめっき最表層のZnを選択的に被覆するには10mg/m2のNiめっき付着量が必要であり、100mg/m2以上被覆すると効果が飽和するとともに不経済である。
【0024】
また、めっき組成のZnの限定理由であるが、燃料タンク内面と外面における耐食性のバランスにより限定したものである。燃料タンク外面は、完璧な防錆能力が必要とされるため燃料タンク成形後に塗装される。したがって、塗装厚みが防錆能力を決定するが、素材としてはめっき層のもつ防食効果により赤錆を防止する。特に、塗装のつきまわりの悪い部位ではこのめっき層のもつ防食効果は極めて重要となる。Sn基めっきにZnの添加でめっき層の電位を下げ、犠牲防食能を付与する。そのためには1質量%以上のZnの添加が必要である。
【0025】
上層NiめっきがSn-ZnめっきのZnと置換めっきにより反応が進行するような場合、あまりにZnがNiに置換されすぎると、めっき層中のZnの絶対量が減り、犠牲防食能が低下する。このような状態で地鉄に到達するような疵が入ると、Znが本来果たすべき犠牲防食能が十分に発現されない。車体のロアー部に設置されることが多い自動車燃料タンクは、実環境では路面の小石、あるいは融雪剤(岩塩が使用されることもある)の跳ね上げによって、地鉄に到達するような疵が生じる可能性もある。したがって、Ni系めっきの上限は経済上の理由とともに犠牲防食能の観点からも100mg/m2とする。更に好ましくは、Niめっき法が置換めっきであればSnとZnで卑な金属であるZnが選択的にNiと置換されるため、上層にNi系めっきが25mg/m2〜60mg/m2であれば経済的に良好なZn溶出抑制が可能である。
【0026】
また上層Niめっきの方法であるが、プレめっきの方法と同じワット浴ベースの電気Niめっきでも可能である。しかしながら、電気Niめっきは比較的付き回り性が良く、均一に被覆してしまうのでSn上にも不必要にNiめっきが施され、全体の必要Niめっき量が増える。
【0027】
一方、Niめっきは無電解めっきも可能であり、この場合はSn-ZnめっきのZnが卑な金属であるために貴なNiと置換反応が進行する。無電解めっきは各種浴生成が提案されているが特に限定するものではない。例えば次亜りん酸を還元剤とする(塩化ニッケル;50g/L、クエン酸ナトリウム;10g/ L、次亜りん酸ナトリウム;10g/ L、 pH=4〜6、80〜90℃)、水酸化ホウ素化合物を還元剤とする(硫酸ニッケル・7水和物;30g/ L、マロン酸ナトリウム;34g/ L、ジメチルアミンボラン;0.06mol/ L、pH=5.1〜6.0、温度;70℃)などを使用すれば良い。また、無電解めっき浴中に被めっき体が浸漬されるときは、その表面で水素ガスの発生と同時にニッケルが析出し、その中にりん(P)が混入することがある。したがって析出物はNi-Pめっきとなることもあるが特に問題ではなく、Ni付着量で管理すれば良い。なお無電解Niめっきの場合の付着量制御は、浸漬時間、浴温で制御可能である。
【0028】
本発明では、Niめっき後に更に無機化合物あるいは有機化合物、またはその複合物よりなる化成処理を行うことにより万全の耐食性が期待される。化成処理は塗料との密着性、摺動抵抗、抵抗溶接性にも影響を与え得るので、適宜、適当な化成処理を選択すると良い。
【実施例1】
【0029】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。板厚0.8mmの焼鈍・調圧済みの鋼板に、電気めっき法によりFe-Niめっき浴(硫酸ニッケル:125g/L、塩化ニッケル:100g/L、ホウ酸:30g/L、硫酸鉄: 110g/L pH=2.5)からFe-Niめっきを1.0g/m2 (片面あたり 浴温度 50℃、電流密度 10A/dm2)施した。 この鋼板に塩化亜鉛・塩化アンモニウム及び塩酸を含むめっき用フラックスを塗布した後、260℃の各種組成のSn-Zn溶融めっき浴に導入した。めっき浴と鋼板表面を5秒間反応させた後めっき浴より鋼板を引き出し、ガスワイビング法により付着量調整を行い、めっき付着量(Sn+Znの全付着量)は40g/m2 (片面あたり)に制御した。ガスワイビングの後、エアジェットクーラーにて冷却し溶融めっき層を凝固した。
【0030】
上層のNiめっきは無電解めっきを行い、浴条件(塩化ニッケル;50g/ L、クエン酸ナトリウム;10g/ L、次亜りん酸ナトリウム;10g/ L、pH=4、浴温90℃)に浸漬し、浸漬後、水洗・乾燥した。上層のNiめっき付着量は浸漬時間を変更し制御した。作製した鋼板は絞り比=2.2で、深さ35mmのツバ付の50mmφの円筒カップ状に成形した。
【0031】
燃料中への金属溶出試験を次に示す。菜種油由来のBDF(RME)を20vol%と軽油を80vol%混合した燃料を24時間酸化劣化(JIS-K2287に準拠)し、劣化BDFを作製した。新品の燃料と劣化BDFを混合し、全酸価;TAN(Total Acid Number)を0.13mgKOH/gに調整し、これに水を0.1vol%添加し試験燃料とした。この燃料を上述した各種鋼板の円筒カップに50mL封入し、90℃の防爆型恒温槽に静置した。燃料入りの円筒カップを168時間後に取り出し、燃料中の浮遊物(燃料重合成分)と供に全燃料を灰化処理した後、硝酸・塩酸の混酸にリーチングし、適宜希釈してICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置で燃料中に溶出したZn量を算出した。
【0032】
評価はZn溶出量が0.05mg/L未満を優(◎)、0.05〜0.1mg/Lを良(○)、0.1〜0.5mg/Lを可(△)、0.5mg/L以上を不可(×)とした。また、犠牲防食能を評価するために70×150mmサイズの平板の端面をシーリングし地鉄に到達するようにクロスカットを付与し、JIS-Z2371に準ずる塩水噴霧試験も別途実施した。960時間後の赤錆面積率で評価し、赤錆面積率5%未満を優(◎)、5〜10%を良(○)、10〜20%を可(△)、20%以上を不可(×)とした。犠牲防食能が不足していればクロスカットからの赤錆発生が早期に発生することになる。表1に結果を示す。
【0033】
#1、#2はSn-ZnめっきのZn含有率が不足しているために、塩水噴霧試験で十分な犠牲防食能を示さなかった。逆に#12、#13はSn-ZnめっきのZn含有率が共晶組成を超えているため、粗大なZn晶が成長し、Zn溶出を抑制できなかった。#14、#15、#16は上層Niの付着量が十分ではなく、Zn溶出を抑制できなかった。#29はZnがNi置換めっきされ過ぎたため、塩水噴霧試験で犠牲防食能が低下している。一方、本発明例は金属溶出試験、塩水噴霧試験とも十分な耐食性を有する。
【実施例2】
【0034】
板厚0.8mmの焼鈍・調圧済みの鋼板に、電気めっき法によりFe-Niめっき浴(硫酸ニッケル:125g/L、塩化ニッケル:100g/L、ホウ酸:30g/L、硫酸鉄: 110g/L pH=2.5)からFe-Niめっきを1.0g/m2 (片面あたり 浴温度 50℃、電流密度 10A/dm2)施した。この鋼板に塩化亜鉛・塩化アンモニウム及び塩酸を含むめっき用フラックスを塗布した後、260℃のSn-8%Zn溶融めっき浴に導入した。めっき浴と鋼板表面を5秒間反応させた後めっき浴より鋼板を引き出し、ガスワイビング法により付着量調整を行い、めっき付着量(Sn+Znの全付着量)は40g/m2 (片面あたり)に制御した。ガスワイビングの後、エアジェットクーラーにて冷却し溶融めっき層を凝固した。
【0035】
上層のNiめっきは電気めっき法によりワット浴(硫酸ニッケル240g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L、pH=4.0 浴温;50℃)で行い、上層のNiめっき付着量は通電時間を変更し制御した。以降の評価方法は実施例1と同じである。表2に結果を示す。
【0036】
#30〜#32は上層Niの付着量が十分ではなく、Zn溶出を抑制できなかった。#45は犠牲防食能が低下している。一方、本発明例は金属溶出試験、塩水噴霧試験とも十分な耐食性を有するが上層Niを電気めっきで行った場合、Sn上にNiが被覆されるため、Zn溶出を抑制するためには、置換めっきよりもNi付着量としてやや多めの量必要となった。
【実施例3】
【0037】
板厚0.8mmの焼鈍・調圧済みの鋼板に、電気めっき法によりワット浴(硫酸ニッケル240g/L、塩化ニッケル 45g/L、ホウ酸 30g/L pH=4.0)からNiめっきを0.1g/m2 (片面あたり 浴温度 50℃、電流密度 10A/dm2)施した。 この鋼板に塩化亜鉛・塩化アンモニウム及び塩酸を含むめっき用フラックスを塗布した後、260℃のSn-8%Zn溶融めっき浴に導入した。めっき浴と鋼板表面を5秒間反応させた後めっき浴より鋼板を引き出し、ガスワイビング法により付着量調整を行い、めっき付着量(Sn+Znの全付着量)は40g/ m2 (片面あたり)に制御した。ガスワイビングの後、エアジェットクーラーにて冷却し溶融めっき層を凝固した。
【0038】
上層のNiめっきは無電解めっきを行い、浴条件(硫酸ニッケル・7水和物;30g/ L、マロン酸ナトリウム;34g/ L、ジメチルアミンボラン;0.06mol/ L、pH=5.1〜6.0、温度;70℃)に浸漬し、浸漬後、水洗・乾燥した。上層のNiめっき付着量は浸漬時間を変更し制御した。以降の評価方法は実施例1と同じである。表3に結果を示す。
【0039】
#46〜#48は上層Niの付着量が十分ではなく、Zn溶出を抑制できなかった。#61はZnがNi置換めっきされ過ぎたため、塩水噴霧試験で犠牲防食能が低下している。一方、本発明例は金属溶出試験、塩水噴霧試験とも十分な耐食性を有し、上層Niの無電解Niめっき条件を変更しても、上層Ni量が確保できれば良いことが明確となった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、Sn:91.2〜99.0質量%、Zn:1〜8.8質量%、残部が不可避的不純物からなる溶融Sn-Znめっき層を形成した溶融Sn-Zn系めっき鋼板であって、前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが10mg/m2〜100mg/m2存在することを特徴とする溶融Sn-Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記溶融Sn-Znめっき層の上層にNi系めっきが25mg/m2〜60mg/m2存在することを特徴とする請求項1に記載の溶融Sn-Zn系めっき鋼板。


【公開番号】特開2012−207271(P2012−207271A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73764(P2011−73764)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BDF
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】