説明

溶血干渉を抑制する高精度な生体成分測定試薬及び測定方法

【課題】溶血によって検体中に混在したヘモグロビンの干渉を抑制し、測定対象生体成分に非依存的な吸光度の変化を抑制する、生体成分の簡便かつ高精度な測定試薬及び測定方法を提供する。
【解決手段】前記測定試薬は、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定による生体成分の測定であって、試料中のヘモグロビンの影響を抑制して生体成分を測定する試薬および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において生体成分を測定する際に、検体中の溶血が測定系に干渉することがあることが知られている。通常は血清・血漿検体中にはヘモグロビンは存在しないが、溶血がおこると赤血球中のヘモグロビンが検体中に混在することとなる。例えば、アルカリホスファターゼ活性測定において用いられる測光波長は405nmであるが、アルカリ条件においてヘモグロビンはこの波長の吸光度を経時的に減少させる。結果として検体中にヘモグロビンが存在すると濃度に依存して大きな負誤差を生じることとなる。
【0003】
このようなアルカリホスファターゼ活性測定におけるヘモグロビンの干渉の問題に対し、これを抑える方法がいくつか開示されている。検体中のヘモグロビンを酸化することによって干渉を抑える方法(特許文献1)、アニオン性界面活性剤や含硫黄化合物を用いて影響を軽減する方法(特許文献2)、測定の際の主波長、副波長を本来の波長からずらし、見かけの影響を排除する方法(特許文献3)などである。酸化剤や還元剤を用いる場合、それらの保存安定性に問題があり、かつ、測定の正確性を損なう可能性があるし、波長設定による方法では十分な感度が確保できないなどの問題がある。アニオン性界面活性剤や含硫黄化合物も酵素活性に影響を与え、干渉の回避も不十分である。
【0004】
また、上記の回避方法のほか、アルカリホスファターゼ測定に限定しないヘモグロビンの影響回避に関して、一級アミン化合物、塩化ベンザルコニウム、塩化セタルコニウムなど特定の四級アミン化合物を用いた方法も開示されている(特許文献4)。しかし、本発明者は本明細書の実施例でも示すように、アルカリホスファターゼ測定において、アミノメチルプロパノールやエチルアミノエタノールなどの一級アミンが緩衝液として用いられているにも関わらず、ヘモグロビンの影響を強く受けたり、試料と塩化ベンザルコニウムを添加した試薬の混合後に、測定対象の生体成分に非依存的な濁りによる経時的な吸収増大を生じたりして、測定系に大きく影響を及ぼすため、この方法も適当ではないことを見出した。
【0005】
一方、酸化酵素を用い、発生した過酸化水素により生体成分を定量する試薬において、カチオン性界面活性剤または/及び両性界面活性剤を存在させる方法が開示されており、この中で、カチオン性界面活性剤界面活性剤や両性界面活性剤と検体成分とにより濁りが発生した場合は、非イオン性界面活性剤(例えばトリトンX−100、HLB=13.5)や糖類を添加して濁りを防止しても差し支えないとの説明がある(特許文献5)が、非イオン性界面活性剤の種類や濃度によっては溶血の影響がさらに増大することがあることも公知であり、特に、高濃度では溶血の溶血ヘモグロビンの影響が増大する危険性があることが知られていた(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−515012号公報
【特許文献2】国際公開WO2002/086151号パンフレット
【特許文献3】特許第3598273号明細書
【特許文献4】特公平3−58467号公報
【特許文献5】特公平8−78号公報
【特許文献6】特開2000−93200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、上記問題点を解決することのできる、生体成分の測定試薬及び方法であって、溶血によって検体中に混在したヘモグロビンの干渉を抑制し、測定対象生体成分に非依存的な吸光度の変化を抑制する、生体成分の簡便かつ高精度な測定試薬及び測定方法を提供することである。特には、アルカリホスファターゼ測定において上記の簡便かつ高精度な測定試薬及び測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
[1]カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を含む、生体成分の測定試薬、
[2]前記ノニオン性界面活性剤がHLB15以上である、[1]の測定試薬、
[3]前記試薬に含まれる前記ノニオン性界面活性剤の濃度が0.2〜2.0%である、[1]又は[2]の測定試薬、
[4]前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレートから少なくとも一つ選ばれる、[1]〜[3]のいずれかの測定試薬、
[5]前記生体成分がアルカリホスファターゼである、[1]〜[4]のいずれかの測定試薬、
[6]前記測定試薬が第一試薬及び第二試薬で構成され、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤が少なくとも第一試薬、第二試薬いずれかに含まれる、[1]〜[5]のいずれかの測定試薬、
[7]生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がアルカリ性緩衝液を含み、前記第二試薬がリン酸エステルの人工基質を含む、[6]のアルカリホスファターゼ活性測定試薬、
[8]生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がリン酸エステルの人工基質を含み、前記第二試薬がアルカリ性緩衝液を含む、[6]のアルカリホスファターゼ活性測定試薬、
[9]カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を用いることを特徴とする、生体成分の測定方法、
[10]前記ノニオン性界面活性剤がHLB15以上である、[9]の測定方法、
[11]前記試薬に含まれる前記ノニオン性界面活性剤の濃度が0.2〜2.0%である、[9]又は[10]の測定方法、
[12]前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレートから少なくとも一つ選ばれる、[9]〜[11]のいずれかの測定方法、
[13]前記生体成分がアルカリホスファターゼである、[9]〜[12]のいずれかの測定方法、
[14]測定試薬が第一試薬及び第二試薬で構成され、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤が少なくとも第一試薬、第二試薬いずれかに含まれる、[9]〜[13]のいずれかの測定方法、
[15]前記生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がアルカリ性緩衝液を含み、前記第二試薬がリン酸エステルの人工基質を含む、[14]のアルカリホスファターゼ活性測定方法、
[16]前記生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がリン酸エステルの人工基質を含み、前記第二試薬がアルカリ性緩衝液を含む、[14]のアルカリホスファターゼ活性測定方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定対象となる生体成分の反応特異性に影響を与えず、しかも測定時に特別な工夫をせずに、溶血によって生じた検体中ヘモグロビンの干渉を抑制することが可能となり、簡便かつ高精度に生体成分を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】塩化ベンザルコニウム添加における第一試薬と管理血清(イアトロセーラCC−I)混合後の測定波長での吸光度変化を示すグラフである。
【図2】ノニオン性界面活性剤添加による吸光度変化抑制効果を示す、第一試薬と管理血清(イアトロセーラCC−I)混合後の測定波長での吸光度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における生体成分は、その測定時に、溶血によって生じた検体中ヘモグロビンの干渉を受けるものであれば限定しないが、例えば、アルカリホスファターゼ、γ−GTP等が挙げられる。アルカリホスファターゼ活性測定系は、特に影響を受けやすいので好ましい。
本発明で使用する生体試料としては、血液が含まれる試料であれば限定しないが、例えば、全血、血漿、血清、リンパ液、髄液、唾液、尿などが挙げられる。特には、血漿、血清での影響は大きいので好ましい。
【0012】
本発明は、一試薬系、あるいは、二試薬系等の複数試薬系のいずれにも適用できるが、例えば、二試薬系としては、試料と、反応開始に必要な要件を満たさない第一試薬とを混合し、次いで、残りの反応開始に必要な成分を含む第二試薬を添加して、反応を開始させ、吸光度の変化速度から試料中の生体成分の測定をするような測定系に使用することができる。
具体的には、本発明の生体成分測定試薬及び測定方法は、その測定対象の生体試料を、両性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤の存在下で混合して測定するものである。
【0013】
本発明に使用可能な両性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤としては、特公平3−58467号に記載されている物質を使用することができる。
本発明に使用可能な両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。
本発明に使用可能なカチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルコキシプロピルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、セチルリン酸化ベンザルコニウム等が挙げられる。
好ましくは、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウムが挙げられ、更に好ましくは、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
本発明においては、両性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤から少なくとも一つ以上選べばよく、一種類を単独で、あるいは、二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明に使用可能なノニオン性界面活性剤としては、ヘモグロビンの干渉を抑制することができるノニオン性界面活性剤であれば限定しないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化アルキルエーテル、オクチルフェノールエトキシレートが挙げられる。
特に、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance:親水性−疎水性バランス)が15以上であれば好ましく、16以上であることがより好ましく、17以上であることがより好ましい。HLBは、購入先のカタログや関連する論文や資料の記載を参考にすることができるし、公知の方法に従って測定することも可能である。
具体的には、化合物名としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレート等が挙げられ、商品名としては、例えば、エマルゲンA500(花王)、エマルゲン1135S−70(花王)、TritonX−105(シグマアルドリッチ)、TritonX−305(シグマアルドリッチ)、TritonX−405(シグマアルドリッチ)として販売されているノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
本発明においては、ノニオン性界面活性剤から少なくとも一つ以上選べばよく、一種類を単独で、あるいは、二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明の生体成分の測定は、測定対象の生体試料を、両性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤の存在下で混合して測定すること以外は、公知の測定方法と同様に実施することができる。
以下、アルカリホスファターゼ活性測定を例として、具体的に説明する。
【0016】
アルカリホスファターゼ活性試薬における反応系のpHは通常9.5〜11.0である。前記反応に基づく発色は、適宜、測定に好適な波長を設定し、測定する。
アルカリホスファターゼ活性試薬の構成としては、アルカリ性緩衝液を含む第一試薬とリン酸エステルの人工基質を含む第二試薬から構成されているもの、または、リン酸エステルの人工基質を含む第一試薬とアルカリ性緩衝液を含む第二試薬から構成するものが挙げられる。更に第一試薬および第二試薬には適宜、緩衝液、塩類や防腐剤などを添加できる。
本発明で使用する界面活性剤は、少なくとも生体試料と試薬成分の反応を測定開始する前に添加されていれば良く、これにより、生体試料と試薬の混合の際に生じる濁りの影響を受けること無く、ヘモグロビンの経時的な吸光度変化を抑え、溶血干渉を抑制することができる。よって、本発明で使用する界面活性剤は少なくとも第一試薬または第二試薬のうちいずれかに添加されていれば良く、第一試薬および第二試薬の両方に添加することもできる。ただし、反応開始前に検体と試薬の安定化をより長時間行うことのできる第一試薬に添加されていることがより望ましい。
【0017】
測定手順は、測定対象物を含む生体試料を、第一試薬と一定時間反応させた後、次いで第二試薬を添加して一定時間反応させた後、第二試薬混合後の吸光度変化速度を測定し、それらの変化から、測定対象物の有無や量を決定することによる。前記反応に基づく発色は、適宜、測定に好適な波長を設定し、測定できる。また、測定は、汎用の自動分析装置(例えば、日立7180型)を使用可能である。
【0018】
試薬に添加するカチオン性界面活性剤または両性界面活性剤の濃度は、0.005〜0.5%が好ましく、更に好ましくは0.001〜0.1%である。試薬に添加するノニオン性界面活性剤の濃度は、0.2〜2.0%が好ましく、更に好ましくは0.2〜1.0%が好ましい。濃度が不十分であると十分にヘモグロビンによる干渉を抑制することができないし、ノニオン性界面活性剤濃度が過剰であると粘性が増したり気泡しやすくなり、正確な測定の障害となる。当業者であれば、測定対象、測定方法に合わせて、好適な条件を設定することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
《実施例1:JSCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬への塩化ベンザルコニウムの添加効果の確認》
本実施例では、特許文献4で効果があるとされた塩化ベンザルコニウムに注目し、これをアルカリホスファターゼ活性測定試薬の第一試薬に添加し、ヘモグロビンによる干渉抑制効果を確認した。
【0021】
試料
生理食塩水
生化学検査用キャリブレーター(酵素キャリブレータープラス、シスメックス株式会社)
生化学検査用コントロール血清(イアトロセーラCC−I、三菱化学メディエンス株式会社)に各濃度(0、100、200、500、10000mg/dL)のヘモグロビン濃度である溶血液を添加したもの。溶血液は社内ボランティアから採取した全血より血漿成分を除き、血球のみを精製水にて破裂させ、血球成分を抽出することで調製した。

試薬
第一試薬
pH10.0
1.27mol/L エチルアミノエタノール(関東化学株式会社)
0.63mmol/L 塩化マグネシウム(和光純薬工業株式会社)
第一試薬に各濃度(0、0.05、0.20%)の塩化ベンザルコニウムを添加した。
50%塩化ベンザルコニウムとしてサニゾールB50(花王株式会社)を用いた。

第二試薬
75.8mmol/L pニトロフェニルリン酸(和光純薬工業株式会社)
【0022】
測定
測定は、以下の手順で行った。自動分析装置(日立7180型)を用い、試料2.0μLと第一試薬160μLとを37℃にて5分間保温し、第二試薬40μLを添加してさらに5分間保温した。主波長405nm/副波長505nmでの第二試薬混合後の吸光度変化速度からアルカリホスファターゼ活性の定量を行った。アルカリホスファターゼ活性の測定値を表1に示す。図1では測定波長における吸光度の経時変化を示す。以下、特に断りの無い限り、測定値の単位はU/Lである。
【0023】
【表1】

【0024】
表1では塩化ベンザルコニウムによるヘモグロビンの干渉回避効果を確認した。この結果から、0.05%の塩化ベンザルコニウムによりヘモグロビンの干渉は大幅に回避できるものの、ヘモグロビン無添加サンプルの測定結果を比較すると、塩化ベンザルコニウム濃度依存で測定値が大幅に変化することが明らかとなった。また、図1に示すように、塩化ベンザルコニウム添加により、塩化ベンザルコニウムと検体由来成分の反応により濁りが生じ、アルカリホスファターゼ活性に依存せず、測定波長における吸光度の変化がおこると考えられた。0.05%の塩化ベンザルコニウム添加においても、小さいながらもアルカリホスファターゼ活性に非依存的な吸光度の上昇がおこり、ヘモグロビンの干渉を抑制する効果はあったとしても、正確に測定できているとは言えず、アルカリホスファターゼ活性に非依存的な吸光度の変化を生じる場合には塩化ベンザルコニウムの使用は適当では無いと言える。
【0025】
以上の結果から塩化ベンザルコニウムによるヘモグロビンの干渉の抑制は、適当ではないと考えられた。そこでヘモグロビンの干渉を有意に抑制でき、更に、検体との混合で異常反応を引き起こさず、正確な測定が可能な界面活性剤を見出すことが必要であると考えた。
【0026】
《実施例2:界面活性剤によるヘモグロビンの干渉回避の検討》
実施例1の結果から、ヘモグロビンの干渉を抑制することのできる界面活性剤をスクリーニングした。実施例1と同様に各界面活性剤を第一試薬に添加した試薬を調製し、ヘモグロビン添加サンプルの測定値を確認した。表2に、使用した界面活性剤の種類と添加濃度を示す。
【0027】
【表2】

【0028】
また、表2の右欄には実施例1と同様にアルカリホスファターゼの測定値を示し、左欄には各界面活性剤の添加効果を示した。アルカリホスファターゼの測定値として、非常に効果のあったものに◎、十分な効果の認められたものに○、十分ではないものの有意な効果があったものに△、有意な効果が認められなかったものに×として評価を行った。以上の結果から塩化ベンザルコニウムを含むカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤においてはHLB15以上と水溶性の高いものにおいてヘモグロビンの干渉回避に有意な効果が認められた。また、詳細に記載しないが、ノニオン性界面活性剤は0.1%でも同等の効果があることがわかった。
また、コータミンD2345Pやアンヒトール20YBを添加した系では、ヘモグロビン無添加のベース血清サンプルにおいて測定値が変動しており、これらカチオン性、両性界面活性剤においても塩化ベンザルコニウムと同様に反応液の濁りが問題となることが示唆された。そこで以下では濁りを生じる界面活性剤と上記ノニオン界面活性剤を組み合わせることで溶血干渉を抑制する効果はそのままに、反応系に悪影響を及ぼす濁りのみを消去し、利用できないかを検討した。
【0029】
《実施例3:界面活性剤の組み合わせによるヘモグロビンの干渉抑制の検討1》
実施例1、2と同様に第一試薬にエマルゲンA500を1%、各カチオン性/両性界面活性剤を0.1%ずつ添加し、測定を行った。
表3にアルカリホスファターゼの測定値を示し、図2に測定波長における吸光度の経時変化を示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3の結果から、塩化ベンザルコニウムからなるサニゾールB50だけでなく、実施例2で、カチオン性界面活性剤あるいは両性界面活性剤であっても十分な効果が認められなかったコータミンD2345P、アンヒトール20YBにおいても、ノニオン性界面活性剤を組み合わせることによって、十分な効果が認められた。更に、図2の結果から、サニゾールB50単独では吸光度の上昇が認められていたが、サニゾールB50にエマルゲンA500を加えることによって、吸光度の上昇は全く認められず、界面活性剤の添加によるアルカリホスファターゼ活性に非依存的な吸光度の変化が抑制できることがわかった。よって、カチオン性界面活性剤あるいは両性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤を組み合わせることで試料と界面活性剤の混合の際に濁りを生じる事無く、溶血干渉を抑制できることが確認できた。
【0032】
《実施例4:界面活性剤の組み合わせによるヘモグロビンの干渉回避の検討2》
次に、サニゾールB50と7種のノニオン性界面活性剤の組み合わせによって、溶血干渉抑制効果が認められるか確認した。実施例1〜3と同様に第一試薬にサニゾールB50を0.1%、各ノニオン性界面活性剤を0.1%ずつ添加し、測定を行った。結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表2と同様に、表4の右欄にはアルカリホスファターゼの測定値を示し、左欄には各界面活性剤の添加効果を示した。表4の結果より、実施例2において単独でも有意な効果が認められなかったエマルゲンA60(HLB12.8)、エマルゲンA90(HLB14.5)はサニゾールB50と組み合わせても効果がなかった。一方、実施例3でもサニゾールB50と組み合わせて十分な効果があったエマルゲンA500を含むHLB15以上のノニオン性界面活性剤(エマルゲン1135S−70、TritonX−105、TritonX−305、TritonX−405)は、実施例2において単独でも若干の効果があったが、サニゾールB50と組み合わせることによって、更に高い効果があった。 更に、Hb濃度が0の場合の測定値を比較すると、実施例1で示したように塩化ベンザルコニウム単独でも若干の測定値の上昇が認められていたのに対し、実施例4では、塩化ベンザルコニウムとノニオン性界面活性剤の全ての組み合わせにおいて、測定値が一定していたことから、ノニオン性界面活性剤と組み合わせることにより、検体由来成分と塩化ベンザルコニウムの混合による濁りは消去できていると考えられる。
以上より、カチオン性界面活性剤あるいは両性界面活性剤と、HLB15以上のノニオン性界面活性剤を組み合わせることで、試料と界面活性剤の混合の際に濁りを生じる事無く、溶血干渉を抑制できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、臨床検査診断試薬分野における生体成分測定(特にはアルカリホスファターゼ活性測定)の用途に適用することができる。本発明によれば、ヘモグロビン共存条件においても簡便かつ正確に生体成分を測定することが可能であり、臨床検査診断試薬分野で極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を含む、生体成分の測定試薬。
【請求項2】
前記ノニオン性界面活性剤がHLB15以上である、請求項1に記載の測定試薬。
【請求項3】
前記試薬に含まれる前記ノニオン性界面活性剤の濃度が0.2〜2.0%である、請求項1又は2に記載の測定試薬。
【請求項4】
前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレートから少なくとも一つ選ばれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項5】
前記生体成分がアルカリホスファターゼである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項6】
前記測定試薬が第一試薬及び第二試薬で構成され、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤が少なくとも第一試薬、第二試薬いずれかに含まれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項7】
生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がアルカリ性緩衝液を含み、前記第二試薬がリン酸エステルの人工基質を含む、請求項6に記載のアルカリホスファターゼ活性測定試薬。
【請求項8】
生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がリン酸エステルの人工基質を含み、前記第二試薬がアルカリ性緩衝液を含む、請求項6に記載のアルカリホスファターゼ活性測定試薬。
【請求項9】
カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を用いることを特徴とする、生体成分の測定方法。
【請求項10】
前記ノニオン性界面活性剤がHLB15以上である、請求項9に記載の測定方法。
【請求項11】
前記試薬に含まれる前記ノニオン性界面活性剤の濃度が0.2〜2.0%である、請求項9又は10に記載の測定方法。
【請求項12】
前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、オクチルフェノールエトキシレートから少なくとも一つ選ばれる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項13】
前記生体成分がアルカリホスファターゼである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項14】
測定試薬が第一試薬及び第二試薬で構成され、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤から選ばれる少なくとも一つの界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤が少なくとも第一試薬、第二試薬いずれかに含まれる、請求項9〜13のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項15】
前記生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がアルカリ性緩衝液を含み、前記第二試薬がリン酸エステルの人工基質を含む、請求項14に記載のアルカリホスファターゼ活性測定方法。
【請求項16】
前記生体成分がアルカリホスファターゼであり、前記第一試薬がリン酸エステルの人工基質を含み、前記第二試薬がアルカリ性緩衝液を含む、請求項14に記載のアルカリホスファターゼ活性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51907(P2013−51907A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191447(P2011−191447)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】