説明

溶血性貧血を診断するための手段および方法

本発明は、溶血性貧血またはその素因を診断する方法に関する。また、化合物が被験体において溶血性貧血誘導能を有するかどうかを判定する方法、および溶血性貧血を治療するための薬物の同定方法にも関する。さらに本発明は、代謝物質の特性値を含むデータ集合、該データ集合を含むデータ記憶媒体、ならびに溶血性貧血を診断するためのシステムおよびデバイスに関する。最後に、本発明は、被験体において溶血性貧血を診断するための診断用デバイスまたは組成物の製造のための、代謝物質群またはそれを測定する手段の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶血性貧血またはその素因を診断する方法に関する。また、化合物が被験体において溶血性貧血誘導能を有するかどうかを判定する方法、および溶血性貧血を治療するための薬物の同定方法にも関する。さらに本発明は、代謝物質の特性値を含むデータ集合、該データ集合を含むデータ記憶媒体、ならびに溶血性貧血を診断するためのシステムおよびデバイスに関する。最後に、本発明は、被験体において溶血性貧血を診断するための診断用デバイスまたは組成物の製造のための、代謝物質群またはそれを測定する手段の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
溶血性貧血は、赤色血液細胞(RBC)の破壊の増大によって引き起こされる。溶血性貧血は、この破壊部位に応じて、溶血が血管内で起こる血管内溶血性貧血と、溶血が食細胞(中でも脾臓内の)によって行われる血管外溶血性貧血とに分けられる。溶血性貧血は、種々の因子、例えば遺伝因子又は環境因子の結果でありうる。環境因子としては、例えば、環境汚染の結果としての毒性化合物との接触がある。溶血性貧血の誘導因子として知られる化合物は、例えば芳香族アミン類、ヒドロキシルアミン類またはオキシム類、およびそれらの塩がある。このタイプの溶血性貧血は、血管外型であると考えられる。
【0003】
溶血性貧血を診断するための毒性学的研究においては、血液学的、臨床学的及び組織病理学的パラメータが現在使用されている。具体的には、溶血性貧血の指標となる血液パラメータは、低減したRBC数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値;増大した平均赤血球容積(MCV;=大赤血球溶血性貧血);場合により、低減した平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC;=低色素性溶血性貧血);増大した網状赤血球数(2〜3日内);異常な赤色血液細胞形態(例えば赤血球不同、多染性、球状赤血球、奇形赤血球)の存在、ならびに正赤芽球、ハインツ小体の発生;場合により増大した白色血液細胞数である。臨床化学に基づく溶血性貧血のパラメータは、増大した血清ビリルビンレベル(中でも8〜10時間以内の血管内溶血性貧血);増大した血清乳酸脱水素酵素(イソ酵素1)活性;増大した遊離血清ヘモグロビンおよび低減したハプトグロビンレベル(中でも血管内溶血性貧血);増大したエリスロポエチンレベル;ヘモグロビン尿症である。溶血性貧血の組織病理学的基準は、赤脾髄の拡大を特徴とする脾臓重量の増大、および増大した赤色血液細胞ファゴサイトーシス;髄外造血(中でも肝臓および脾臓における);ヘモジデリン沈着症(肝臓、脾臓、腎臓);肝臓におけるクッパー細胞活性化、骨髄における増大した赤血球生成である。
【0004】
臨床病理学パラメータのこれらの変化は、赤色血液細胞の破壊の結果として起こる。溶血性貧血を診断するための特有のマーカーは存在しない。溶血性貧血の過程で生じる多くの生化学的変化は、破壊された赤色血液細胞(すなわち、網状赤血球、異常な赤色血液細胞形態、エリスロポエチン)の置き換えのための病態生理学的反応である。しかしながら、溶血を生じる事象と顕在的になる病態生理学的兆候との間には否定しようのない時間間隔がある。さらに、臨床学的兆候を示すには溶血性病毒の顕著な可能性が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶血性貧血を、特にはその発症初期又はその素因を効率的かつ確実に判定するための高感度かつ特異的な方法は、高く評価される可能性があるにもかかわらず、利用可能ではない。
【0006】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、溶血性貧血および/またはその素因を効率的かつ確実に診断するための手段および方法の提供とみなされる。この技術的課題は、特許請求の範囲に特徴付けられておりかつ本明細書の以下に記載されている実施形態により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、
(a)溶血性貧血に罹患しているかまたはその素因を有している疑いのある被験体の被験サンプル中のデオキシシチジン量を測定するステップ、および
(b)ステップ(a)で測定した量を基準とを比較し、それにより溶血性貧血またはその素因を診断するステップ
を含む、溶血性貧血またはその素因の診断方法に関する。
【0008】
本発明において参照される「診断方法」という表現は、本方法が上述のステップより本質的になるかまたはさらなるステップを含んでもよいことを意味する。しかしながら、本方法は、好ましい実施形態では、ex vivoで行われる方法、すなわち、人体または動物体で実施されない方法であることを理解されたい。本明細書中で用いられる診断とは、被験体が疾患に罹患している可能性を評価することを意味する。当業者であればわかるであろうが、そのような評価は、診断される被験体の100%に対して正しいことが好ましいが、通常はそうでない可能性がある。しかしながら、この用語は、統計学的に有意な一部の被験体を疾患に罹患しているかまたはその素因を有していると同定可能であることを必要とする。当業者であれば、あとは苦もなく、種々の周知の統計学的評価ツールを用いて、たとえば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、一部が統計学的に有意であるかどうかを判定することが可能である。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見いだされる。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.2、0.1、0.05である。
【0009】
本発明に係る診断は、関連疾患またはその症状のモニター、確認、および分類を包含する。モニターとは、たとえば、疾患の進行を分析したり、疾患期間中または疾患の奏効的治療の後に生じる疾患または合併症の進行に及ぼす特定の治療の影響を分析するために、すでに診断された疾患を追跡することを意味する。確認とは、他の指標またはマーカーを用いてすでに行われた診断を強化または実証することを意味する。分類とは、症状の強さまたは種類に基づいて診断結果をさまざまなクラスに割り当てることを意味する。
【0010】
「溶血性貧血」という用語は、赤色血液細胞量の低減を特徴とする被験体における病態生理学的状態を指す。本明細書において用いられる溶血性貧血は、好ましくは、血液学的、臨床病理学及び組織病理学的パラメータによって特徴付けることができる。溶血性貧血の指標となる血液パラメータは、低減したRBC数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値;増大した平均赤血球容積(MCV;=大赤血球溶血性貧血);場合により、低減した平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC;=低色素性溶血性貧血);増大した網状赤血球数(2〜3日内);異常な赤色血液細胞形態(例えば赤血球不同、多染性、球状赤血球、奇形赤血球、正赤芽球、ハインツ小体)の存在;場合により増大した白色血液細胞数である。臨床化学に基づく溶血性貧血のパラメータは、増大した血清ビリルビンレベル(中でも8〜10時間以内の血管内溶血性貧血);増大した血清乳酸脱水素酵素(イソ酵素1)活性;増大した遊離血清ヘモグロビンおよび低減したハプトグロビンレベル(中でも血管内溶血性貧血);増大したエリスロポエチンレベル;ヘモグロビン尿症である。溶血性貧血の組織病理学的基準は、例えば赤脾髄の拡大を特徴とする脾臓重量の増大、および増大した赤色血液細胞ファゴサイトーシス;髄外造血(中でも肝臓および脾臓における);ヘモジデリン沈着症(肝臓、脾臓、腎臓);肝臓におけるクッパー細胞活性化、骨髄における増大した赤血球生成である。より好ましくは、溶血性貧血は血管外溶血性貧血である。最も好ましくは、これは、芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類、およびそれらの塩によって引き起こされる、あるいは同じ型の溶血性貧血の生化学的および生理学的パラメータに似ているものである。
【0011】
ヒトにおける貧血の指標となる血液パラメータの基準値を以下の表1に示す。
【表1】

【0012】
げっ歯動物における貧血の指標となる血液パラメータの基準値を、ラットを例として以下の表2に示す。
【表2】

【0013】
参照文献:
1.Gretener, P., Reference Values for HanBrl:WIST (SPF) Rats, version Aug 2003
2.Kuz’minskaya, U.A. and Alekhina, S.M. Effect of Chlorocamphene on the Isoenzyme Spectrum of Lactate Dehydrogenase in the Rat Serum and Liver. Environmental Health Perspectives, 13:127-132, 1976
3.Giglio J. et al., Depressed Plasma Erytrhopoietin levels in rats with hemodynamically-mediated acute renal failure, Acta Physiol.Pharmacol Latinoam. 40, 299-308, 1990
4.Jelkmann W. et al, Dependence of erythropoietin production on blood oxygen affinity and hemoglbin concentration in rats, Biomed Biochim Acta 46, S304-308, 1987
5.Wang R-Y et al., Effects of aging on erythropoietin secretion in female rats, Mechanisms of Ageing and Development 103, 81-90, 1998
【0014】
本明細書中で用いられる「素因」という用語は、被験体がまだ疾患もしくは上述した疾患のいずれの症状を発症していない、または他の診断基準のいずれをも呈していないが、それにもかかわらず、将来的に特定の確率(likelihood)で規定の予測期間(prognostic window)内に疾患を発症するであろうことを意味する。予想期間(predivtive window)とは、被験体が予想確率に従って溶血性貧血を発症すると思われる期間のことである。予想期間は、本発明に係る方法による分析時の被験体の残りの全寿命でありうる。しかしながら、好ましくは、予想期間は、本発明に係る方法により分析されるサンプルを取得した後の1ヶ月間、6ヶ月間、または1、2、3、4、5、もしくは10年間の期間である。素因の場合、その確率は、溶血性貧血の統計学的出現の確率とは有意に異なるものとする。好ましくは、溶血性貧血発症の確率は、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは100%である。素因の診断は、被験体が疾患を発症する確率の予測診断または予測と呼ばれることもある。
【0015】
本明細書で使用する用語「デオキシシチジン」とは、好ましくは、以下の式Aに開示される化学構造を有する代謝物質を指す:
【化1】

【0016】
本発明の方法において、デオキシシチジンに加えて、代謝物質を測定することが好ましいことが理解されよう。本明細書において用いられる代謝物質とは、特定の代謝物質の少なくとも1つの分子から特定の代謝物質の複数の分子までを指す。さらに、代謝物質の群とは、各代謝物質ごとに少なくとも1分子〜複数分子が存在しうる複数の化学的に異なる分子を意味することが理解されよう。本発明において、代謝物質は、生物などのような生物学的材料に含まれるものをはじめとするすべてのクラスの有機または無機の化学化合物を包含する。本発明において、代謝物質は、小分子化合物であることが好ましい。より好ましくは、複数の代謝物質が想定される場合、該複数の代謝物質とは、メタボローム、すなわち、特定の時間に特定の条件下で生物、器官、組織または細胞に含まれる代謝物質の集合を意味する。
【0017】
代謝物質とは、代謝経路の酵素の基質、そのような経路の中間体、または代謝経路により得られる産物のような小分子化合物のことである。代謝経路は、当技術分野で周知であり、種間で異なりうる。好ましくは、該経路は、少なくとも、クエン酸回路、呼吸鎖、光合成、光呼吸、解糖、糖新生、ヘキソース一リン酸経路、酸化的ペントースリン酸経路、脂肪酸の産生およびβ酸化、尿素回路、アミノ酸生合成経路、タンパク質分解経路たとえばプロテアソームによる分解、アミノ酸分解経路、次の物質の生合成または分解を包含する:脂質類、ポリケチド類(たとえば、フラボノイド類およびイソフラボノイド類を包含する)、イソプレノイド類(たとえば、テルペン類、ステロール類、ステロイド類、カロテノイド類、キサントフィル類を包含する)、炭水化物類、フェニルプロパノイド類およびその誘導体、アルカロイド類、ベンゼノイド類、インドール類、インドール硫黄化合物類、ポルフィリン類、アントシアン類、ホルモン類、ビタミン類、補因子たとえば補欠分子族または電子伝達体、リグニン、グルコシノレート類、プリン類、ピリミジン類、ヌクレオシド類、ヌクレオチド類、および関連分子、たとえば、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、またはmRNA。したがって、小分子化合物代謝物質は、好ましくは、次のクラスの化合物を包含する:アルコール類、アルカン類、アルケン類、アルキン類、芳香族化合物類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸、エステル類、アミン類、イミン類、アミド類、シアニド類、アミノ酸類、ペプチド類、チオール類、チオエステル類、ホスフェートエステル類、スルフェートエステル類、チオエーテル類、スルホキシド類、エーテル類、または上述の化合物類の組合せもしくは誘導体。代謝物質のうちの小分子は、正常な細胞機能、器官機能、または動物の成長、発育、もしくは健康に必要とされる一次代謝物質でありうる。さらに、小分子代謝物質は、不可欠な生態学的機能を有する二次代謝物質、たとえば、生物をその環境に適応できるようにする代謝物質をも包含する。そのうえさらに、代謝物質は、該一次代謝物質および該二次代謝物質に限定されるものではなく、人工小分子化合物をも包含する。該人工小分子化合物は、投与されるかまたは生物により取り込まれるが上で定義したような一次代謝物質でも二次代謝物質でもない外因的に提供される小分子に由来する。たとえば、人工小分子化合物は、動物の代謝経路により薬剤から得られる代謝物質でありうる。さらに、代謝物質は、ペプチド類、オリゴペプチド類、ポリペプチド類、オリゴヌクレオチド類、およびポリヌクレオチド類、たとえば、RNAまたはDNAをも包含する。より好ましくは、代謝物質は、50Da(ダルトン)〜30,000Da、最も好ましくは30,000Da未満、20,000Da未満、15,000Da未満、10,000Da未満、8,000Da未満、7,000Da未満、6,000Da未満、5,000Da未満、4,000Da未満、3,000Da未満、2,000Da未満、1,000Da未満、500Da未満、300Da未満、200Da未満、100Da未満の分子量を有する。しかしながら、好ましくは、代謝物質は、少なくとも50Daの分子量を有する。最も好ましくは、本発明において、代謝物質は、50Da〜1,500Daの分子量を有する。
【0018】
デオキシシチジンに加えて本発明の方法により測定することが好ましい代謝物質は、副腎コルチコステロイドである。具体的には、本発明においては、さらに少なくとも1つの副腎コルチコステロイドを測定することが想定される。本明細書で用いられる「副腎コルチコステロイド」という用語は、好ましくは、18-ヒドロキシコルチコステロン、アルドステロン、11-デオキシコルチゾール(desoxycortisol)、コルチゾールおよびコルチゾンを包含する。被験体としてヒトを調べようとする場合、この少なくとも1つの副腎コルチコステロイドは、好ましくはコルチゾールである。被験体としてげっ歯動物を調べようとする場合、この少なくとも1つの副腎コルチコステロイドは、好ましくは18-ヒドロキシコルチコステロンまたは11-デオキシコルチゾールであり、より好ましくは両方の副腎コルチコステロイドを測定する。18-ヒドロキシコルチコステロンおよび11-デオキシコルチゾールを一緒に測定する場合には、より好ましくは、NMRに基づく技法または抗体に基づく方法(ELISAまたはLC-MS/MSなど)によって測定を実施することが想定される。
【0019】
本明細書中で用いられる「被験サンプル」という用語は、本発明に係る方法により溶血性貧血またはその素因を診断するために使用されるサンプルを意味する。該被験サンプルは生物学的サンプルである。生物源に由来するサンプル(すなわち生物学的サンプル)は、通常、複数の代謝物質を含む。本発明に係る方法に使用される好ましい生物学的サンプルは、体液、好ましくは、血液、血漿、血清、唾液、尿、もしくは脳脊髄液に由来するサンプル、または生検などにより細胞、組織、もしくは器官から得られるサンプルである。サンプルは、より好ましくは血液、血漿または血清サンプルであり、最も好ましくは血漿サンプルである。生物学的サンプルは、本明細書中の他の箇所に明記されるような被験体に由来する。上述のさまざまなタイプの生物学的サンプルを取得するための技術は、当技術分野で周知である。たとえば、血液サンプルは、血液採取により取得可能であり、一方、組織または器官のサンプルは、生検などにより取得可能である。
【0020】
上述のサンプルは、好ましくは、本発明に係る方法に使用される前に前処理される。以下にさらに詳細に記載されるように、この前処理としては、化合物の放出もしくは分離または過剰の材料もしくは廃物の除去に必要な処理が挙げられうる。好適な技術としては、化合物の遠心分離、抽出、分画、限外濾過、タンパク質沈降とそれに続く濾過および精製、ならびに/または濃縮が挙げられる。さらに、化合物分析に好適な形態または濃度で化合物を提供するために、他の前処理が行われる。たとえば、本発明に係る方法でガスクロマトグラフィ連結質量分析を使用する場合、該ガスクロマトグラフィを行う前に化合物を誘導体化する必要があろう。好適な所要の前処理は、本発明に係る方法を実施するために使用される手段に依存し、そして当業者に周知である。上に記載したように前処理されたサンプルもまた、本発明に従って用いられる「サンプル」という用語に包含される。
【0021】
本明細書中で用いられる「被験体」という用語は、動物、好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、またはウシのような哺乳動物、および同様に好ましくはヒトを意味する。被験体は、より好ましくはげっ歯動物であり、最も好ましくはマウスである。本発明に係る方法を適用して診断しうる他の動物は、魚類、鳥類または爬虫類である。好ましくは、被験体は、溶血性貧血誘導能を有すると疑われる化合物と接触させた、または接触させているものである。溶血性貧血を誘導すると疑われる化合物と接触させている被験体は、例えば実験動物(ラットなど)、たとえば化合物の毒性に関するスクリーニングアッセイに用いられる動物である。溶血性貧血誘導能がある化合物と接触させた疑いのある被験体は、好適な治療を選択するために診断する必要がある被験体でありうる。本明細書において用いられる溶血性貧血誘導能を有する化合物は、好ましくは芳香族アミン類またはヒドロキシルアミン類を指す。
【0022】
本明細書中で用いられる「量の測定」という用語は、本明細書中で参照されるサンプルに含まれる上述の代謝物質の少なくとも1つの特徴的特性を測定することを意味する。本発明に係る特徴的特性とは、代謝物質の物理的性質および/または化学的性質(生化学的性質を包含する)を特徴付ける特性のことである。そのような性質としては、たとえば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、色、蛍光、化学発光、元素組成、化学構造、他の化合物と反応する能力、生物学的読取りシステムで応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)などが挙げられる。該性質の値は、特徴的特性として機能しうる。また、当技術分野で周知の技術により測定可能である。さらに、特徴的特性は、標準的操作、たとえば、乗算、除算、または対数計算のような数学的計算により代謝物質の物理的性質および/または化学的性質の値から導かれる任意の特性でありうる。最も好ましくは、少なくとも1つの特徴的特性は、該少なくとも1種の代謝物質およびその量の測定および/または化学的同定を可能にする。従って、特性値はまた、その特性値を導いた代謝物質の存在量に関する情報を含むことが好ましい。例えば、代謝物質の特性値は、質量スペクトルのピークでありうる。かかるピークは、代謝物質の特徴的な情報、すなわち質量対電荷比(m/z)情報、ならびにサンプル中のその代謝物質の存在量(すなわちその量)に関する強度値を含む。
【0023】
上述したように、被験サンプルに含まれる上述の1または複数の代謝物質は、好ましくは、本発明に従って定量的または半定量的に測定可能である。定量的測定では、本明細書において上で参照した特徴的特性(複数可)に関して測定される値に基づいて、代謝物質の絶対量もしくは正確な量が測定されるかまたは代謝物質の相対量が測定されるかのいずれかであろう。代謝物質の正確な量を測定できないかまたは測定しない場合、相対量を測定しうる。この場合、代謝物質の存在量が、該代謝物質を第2の量で含む第2のサンプルと対比して増大または低減されているかどうかを、測定することが可能である。従って、代謝物質の定量分析は、代謝物質の半定量分析と呼ばれることもある分析をも包含する。
【0024】
さらに、本発明に係る方法に使用される測定は、好ましくは、上で参照した分析ステップの前に化合物分離ステップを使用することを含む。好ましくは、該化合物分離ステップでは、サンプルに含まれる代謝物質の時間分解分離が得られる。したがって、好ましくは、本発明において使用される分離に好適な技術は、すべてのクロマトグラフィ分離技術、たとえば、液体クロマトグラフィ(LC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、ガスクロマトグラフィ(GC)、薄層クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、またはアフィニティークロマトグラフィを包含する。これらの技術は、当技術分野で周知であり、当業者であればあとは苦もなく適用可能である。最も好ましくは、LCおよび/またはGCが、本発明に係る方法で想定されるクロマトグラフィ技術である。代謝物質のそのような測定に好適なデバイスは、当技術分野で周知である。好ましくは、質量分析、特には、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析もしくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィ連結質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の逐次連結質量分析たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MS、誘導結合プラズマ質量分析(IPC-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析、または飛行時間質量分析(TOF)が使用される。最も好ましくは、以下に詳細に記載されるようにLC-MSおよび/またはGC-MSが使用される。この技術については、たとえば、Nissen, Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37-57、米国特許第4,540,884号、または米国特許第5,397,894号(その開示内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。質量分析技術の他の選択肢としてまたはそれに追加して、次の技術を化合物測定に使用可能である:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外(UV)分光、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光、またはフレームイオン化検出(FID)。これらの技術は、当業者に周知であり、あとは苦もなく適用可能である。本発明に係る方法は、好ましくは、自動化により支援されるものとする。たとえば、サンプルの処理または前処理をロボット工学により自動化することが可能である。データの処理および比較は、好ましくは、好適なコンピュータプログラムおよびデータベースにより支援される。上で本明細書に記載したような自動化を行えば、本発明に係る方法をハイスループット方式で使用することが可能である。
【0025】
さらに、代謝物質はまた、特異的な化学的アッセイまたは生物学的アッセイにより測定可能である。該アッセイは、サンプル中の少なくとも1種の代謝物質を特異的に検出できるようにする手段を含むものとする。好ましくは、該手段は、代謝物質の化学構造を特異的に認識可能であるか、または他の化合物と反応する能力もしくは生物学的読取りシステムで応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいて代謝物質を特異的に同定可能である。代謝物質の化学構造を特異的に認識可能な手段は、好ましくは、化学構造と特異的に相互作用する抗体または他のタンパク質、たとえば、レセプターもしくは酵素である。たとえば、特異的抗体は、当技術分野で周知の方法により代謝物質を抗原として用いて取得可能である。本明細書中で参照される抗体は、ポリクロナール抗体およびモノクロナール抗体の両方、さらにはそれらのフラグメント、たとえば、抗原またはハプテンに結合可能なFv、Fab、およびF(ab)2フラグメントを包含する。本発明はまた、所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を包含する。さらに、一本鎖抗体も包含される。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造上および/または機能上適合するアミノ酸残基をも含みうる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製可能である。代謝物質を特異的に認識可能な好適なタンパク質は、好ましくは、該代謝物質の代謝変換に関与する酵素である。該酵素は、代謝物質を基質として使用可能であるかまたは基質を代謝物質に変換可能である。さらに、該抗体は、代謝物質を特異的に認識するオリゴペプチドを生成する基礎として使用可能である。これらのオリゴペプチドは、たとえば、該代謝物質に対する酵素の結合ドメインまたは結合ポケットを含むものとする。好適な抗体および/または酵素に基づくアッセイは、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫検査、電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光免疫アッセイ(DELFIA)、または固相免疫検査でありうる。さらに、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち、特異的な化学反応により、代謝物質を同定することも可能である。さらに、生物学的読取りシステムで応答を引き起こす能力に基づいて、サンプル中の代謝物質を測定することが可能である。生物学的応答は、サンプルに含まれる代謝物質の存在および/または量を示す読取り値として検出されるものとする。生物学的応答は、たとえば、遺伝子発現の誘導または細胞もしくは生物の表現型応答でありうる。
【0026】
さらに、代謝物質の量の測定に使用される技術に応じて、測定技法により測定されるアナライトは、サンプル中に存在する代謝物質とはその化学的性質の点で異なることがある。そのようなアナライトには、サンプルに使用される前処理方法、または測定技法自体によって生じる代謝物質の誘導体が含まれる。しかしながら、定性的および定量的に測定しようとする代謝物質の誘導体(すなわちアナライトである)が代謝物質を表すことが理解されるだろう。上で参照したデオキシシチジンについては、特に質量分析法に基づく技法、より好ましくは本明細書に記載のLC-MSおよび/またはGC-MSを測定技法として使用する場合には、シトシンおよび/またはリバール(ribal:1,4-アンヒドロ-2-デオキシ-D-エリスロ-ペンタ-1-エニトール)が好適なアナライトである。従って、溶血性貧血またはその素因を診断するために、シトシンおよび/またはリバールの量をデオキシシチジンの代わりとして測定し、好適な基準と比較して、それにより溶血性貧血またはその素因を本明細書で参照するように診断することが好ましい。シトシンおよびリバール(本明細書中以下「MetID 407」ともいう)は、GC/MS分析を用いて、70eVで電子衝撃質量分析法を適用し、その後ピリジン中の2%O-メチルヒドロキシルアミン-ヒドロクロリドと続くN-メチル-N-トリメチルシリルトリフルオロアセトアミドによる誘導体化を行って検出した場合に、ラットの血漿サンプルのアナライトであることが見出されている。リバールは、以下の特徴的な見かけ質量(相対比)によって同定されている:170 (100 +/-20 %), 169 (90 +/-20 %), 155 (64 +/-20 %), 103 (34 +/-20 %), 127 (18 +/-20 %)。シトシンおよびリバールの化学構造は当技術分野で周知であり、例えばSmar 1991, Biochemistry 30: 7908-7912を参照されたい。
【0027】
「基準」という用語は、溶血性貧血またはその素因に相関付けることのできる、代謝物質の特徴的特性の値を意味する。そのような基準結果は、好ましくは、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させた被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患したまたはその素因を有する被験体に由来するサンプルから得られる。被験体には、芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類が生体利用可能である限り、局所または全身投与形態の各形態で芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させることができる。基準結果は、代謝物質の量に関して本明細書中上述したように測定することができる。あるいは、とはいえ同様に好ましいことであるが、基準結果は、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患していないことがわかっている被験体またはその素因を有していないことがわかっている被験体、すなわち、溶血性貧血に関して、より好ましくは他の疾患に関しても、健常な被験体、に由来するサンプルから取得可能である。さらに、基準は、同様に好ましくは、計算された基準、最も好ましくは、検査される被験体を含む個体集団に由来する代謝物質についての相対量または絶対量の平均値または中央値でありうる。しかしながら、基準計算値を測定するために検査しようとする被験体の集団は、好ましくは、見かけ上健常な被験体(例えば未処置)からなるか、またはその集団内の検査対象被験体(複数でもよい)の存在のために平均または中間値の有意な変化に対して統計学的に耐えるのに十分に大きい数の見かけ上健常な被験体を含むものと理解されよう。該個体集団の代謝物質の絶対量または相対量は、本明細書中の他の箇所に明記されるように測定可能である。好適な基準値、好ましくは平均値または中央値の計算方法は、当技術分野で周知である。上で参照した被験体集団は、複数の被験体、好ましくは、少なくとも5、10、50、100、1,000、または10,000名の被験体を含むものとする。本発明に係る方法により診断される被験体と該複数の被験体の被験体とは、同一種であることが理解されよう。
【0028】
より好ましくは、基準結果、すなわち、代謝物質の少なくとも1つの特徴的特性の値は、データベースのような好適なデータ記憶媒体中に記憶されて、したがって、将来の診断にも利用可能となる。これによりまた、疾患の素因の効率的な診断が可能となる。なぜなら、対応する基準サンプルの取得の対象となった被験体が(実際に)溶血性貧血を発症したことを(将来的に)確認した後、データベース中の好適な基準結果を同定しうるからである。
【0029】
「比較」という用語は、上に詳細に記載した測定の結果、すなわち、代謝物質の定性的または定量的な測定の結果が、基準結果と同一であるかもしくは類似しているか、または基準結果と異なっているかを評価することを意味する。
【0030】
(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させた被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患しているかまたはその素因を有している被験体に由来するサンプルから基準結果を取得する場合、被験サンプルから得られる検査結果と上述の基準結果との間の同一度または類似度に基づいて、すなわち、上述の代謝物質に関する同一もしくは類似の定性的もしくは定量的な組成に基づいて、溶血性貧血疾患またはその素因を診断することが可能である。特徴的特性の値、定量的測定の場合は強度値が同一であれば、被験サンプルの結果と基準結果とは同一である。特徴的特性の値は同一であるが強度値に差があれば、それらの結果は類似している。そのような差は、好ましくは、有意ではなく、強度の値が基準値に基づいて少なくとも1〜99パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、40〜60パーセンタイルの範囲内、基準値に基づいて50、60、70、80、90、もしくは95パーセンタイルであることにより特徴付けられるものとする。
【0031】
(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患していないことがわかっているかまたはその素因を有していないことがわかっている被験体から基準結果を取得する場合、被験サンプルから得られる検査結果と上述の基準結果との間の差、すなわち、上述の代謝物質に関する定性的もしくは定量的な組成の差に基づいて、溶血性貧血または素因を診断することが可能である。上に明記されたように計算された基準を使用するのであれば、同じことがあてはまる。差は、代謝物質の絶対量もしくは相対量の増大(代謝物質の上方調節と呼ばれることもある;実施例も参照されたい)または該量のいずれかの減少もしくは代謝物質の検出可能量の不在(代謝物質の上方調節と呼ばれることもある;実施例も参照されたい)でありうる。好ましくは、相対量または絶対量の差は、有意である。すなわち、基準値に基づいて、45〜55パーセンタイル、40〜60パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、1〜99パーセンタイルの範囲外にある。具体的には、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患していないことがわかっているかまたはその素因を有していないことがわかっている被験体から得た基準、あるいは計算基準値と比較した、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量の増大は、溶血性貧血の指標となる。さらに、それに加えて少なくとも副腎コルチコステロイド(例えば、コルチゾール、アルドステロン、コルチゾン、18-ヒドロキシコルチコステロンまたは11-デオキシコルチゾール)を測定する場合には、前記基準と比較した少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの量の低減は、溶血性貧血の指標となる。
【0032】
本明細書中で参照される特異的代謝物質の場合、相対量の変化(すなわち、変化「倍率」)の好ましい値または変化の種類(すなわち、より多いもしくはより少ない相対量および/もしくは絶対量をもたらす「上方」調節もしくは「下方」調節)は、以下の表3および実施例に示される。被験体において所与の代謝物質が「上方調節」されることが該表で示されるのであれば、相対量および/または絶対量は増加するであろう。「下方調節」されるのであれば、代謝物質の相対量および/または絶対量は減少するであろう。さらに、変化「倍率」は、増加または減少の度合いを示す。たとえば、2倍増加とは、代謝物質の量が基準と比較して2倍量であることを意味する。
【表3】

【0033】
比較は、好ましくは、自動化により支援される。たとえば、2つの異なるデータセット(たとえば、特徴的特性(複数可)の値を含むデータセット)を比較するためのアルゴリズムを含む好適なコンピュータプログラムを使用することが可能である。そのようなコンピュータプログラムおよびアルゴリズムは、当技術分野で周知である。上に述べたとおりであるが、手動で比較を行うことも可能である。
【0034】
代謝物質(複数可)を測定するための上述の方法は、デバイスにおいて実装することが可能である。本明細書中で用いられるデバイスとは、少なくとも上述の手段を含むものとする。さらに、デバイスは、好ましくは、代謝物質の検出された特徴的特性(複数可)、同様に好ましくは、測定されたシグナル強度を、比較および評価するための手段をも含む。デバイスの手段は、好ましくは、互いに作動可能に連結される。作動可能に手段を連結する方法は、デバイスに組み込まれる手段のタイプに依存するであろう。たとえば、自動で定性的もしくは定量的に代謝物質を測定するための手段を適用する場合、診断を容易にするために、自動作動手段により得られたデータを、例えばコンピュータプログラムなどにより処理することが可能である。好ましくは、そのような場合、手段は、単一のデバイス内に含まれる。したがって、該デバイスは、代謝物質用の分析ユニットと、得られた診断用データを処理するためのコンピュータユニットとを含みうる。他の選択肢として、検査ストリップ(stripes)のような手段を代謝物質の測定に使用する場合、診断手段は、上で述べたように溶血性貧血を伴なうことがわかっている結果データまたは健常被験体の指標となる結果データに測定結果データを割り当てる対照ストリップまたは対照表を含みうる。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なもの、たとえば、単にサンプルを充填することだけを必要とする検査ストリップまたは電子デバイスである。
【0035】
他の選択肢として、代謝物質(複数可)の測定方法は、好ましくは互いに作動可能に連結されたいくつかのデバイスを含むシステムに組み込むことが可能である。具体的には、上に詳細に記載したように本発明に係る方法を実施できるように手段を連結する必要がある。したがって、作動可能に連結された(operatively linked)とは、本明細書中で用いられる場合、好ましくは、機能的に連結されたことを意味する。本発明に係るシステムに使用される手段に応じて、該手段間のデータ伝送を可能にする手段、たとえば、ガラスファイバーケーブルおよびハイスループットデータ伝送用の他のケーブルを用いて各手段を他の手段に接続することにより、該手段を機能的に連結することが可能である。それにもかかわらず、本発明では、たとえばLAN(無線LAN、W-LANなど)を介する手段間の無線データ転送も想定される。好ましいシステムは、代謝物質を測定する手段を含む。本明細書中で用いられる代謝物質の測定手段とは、代謝物質の分離手段(たとえばクロマトグラフィデバイス)、および代謝物質の測定手段(たとえば質量分析デバイス)を含むものである。好適なデバイスについては、上に詳細に記載されている。本発明に係るシステムに使用される好ましい化合物分離手段としては、クロマトグラフィデバイス、より好ましくは、液体クロマトグラフィ用、HPLC用、および/またはガスクロマトグラフィ用のデバイスが挙げられる。好ましい化合物測定デバイスは、質量分析デバイス、より好ましくは、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析デバイス、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析デバイス、逐次連結質量分析デバイス(たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MSまたはTOFを含む。好ましくは、分離手段と測定手段とを互いに結合させる。最も好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されるように、LC-MSおよび/またはGC-MSを本発明に係るシステムに使用する。さらに、代謝物質(複数可)の測定手段から得られた結果の比較手段および/または分析手段も含まれるものとする。結果の比較手段および/または分析手段は、少なくとも1つのデータベース、および結果を比較するために組み込まれたコンピュータプログラムを含みうる。また、上述のシステムおよびデバイスの好ましい実施形態については、以下に詳細に記載する。
【0036】
有利なことに、本発明の根底となる研究において、デオキシシチジンの量が、溶血性貧血、具体的には芳香族アミン類、オキシム類およびヒドロキシルアミン類により誘導される溶血性貧血のバイオマーカーとして機能するということが見出された。上記の代謝物質に加えて、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドを測定して、それによって本方法の特異性および精度をより改善することができる。これらの特異的な代謝物質に関してメタボロームの定量的および/または定性的組成の変化は、溶血性貧血またはその素因の指標となる。溶血性貧血を診断するために現在使用されている血液パラメータは、本発明によって提供されるバイオマーカーの測定と比較して特異性が低く、また感度も低い。本発明によって、溶血性貧血を、その疾患の症候が顕在化する前でさえ、より効率的かつ確実に診断することができる。さらに、上記知見に基づいて、例えば毒性学的評価に関して、溶血性貧血誘導能があると疑われる化合物のスクリーニングが可能となる。さらに上記知見は、溶血性貧血の治療に有効な薬物のスクリーニングアッセイの基礎ともなる。
【0037】
従って、本発明はまた、化合物が被験体において溶血性貧血誘導能を有するかどうかを判定する方法であって、
(a)溶血性貧血誘導能があると疑われる化合物と接触させた被験体のサンプル中の、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量を測定するステップ、ならびに
(b)ステップ(a)で測定した量と基準とを比較して、それにより該化合物の溶血性貧血誘導能を判定するステップ
を含む方法に関する。
【0038】
さらに本発明は、溶血性貧血を治療するための物質を同定する方法であって、
(a)溶血性貧血の治療のための候補物質と接触させた溶血性貧血罹患被験体のサンプル中の、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量を測定するステップ、ならびに
(b)ステップ(a)で測定した量と基準とを比較して、それにより薬物が同定されるステップ
を含む方法をも包含する。
【0039】
上記の用語の定義および説明は全て、以下で特に述べない限り、上述した方法および以下にさらに記載する全ての他の実施形態に準用する。具体的には、溶血性貧血の治療に有用な物質を同定する方法の場合には、前記基準は、好ましくは(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させた被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患した被験体から導かれる。より好ましくは、被験サンプルと基準とで異なる(差がある)代謝物質の量は、溶血性貧血の治療に有用な物質の指標となる。具体的には、基準と比較した、デオキシシチジン(またはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバール)の量の低減は、溶血性貧血の治療薬の指標となる。さらに、上記に加えて少なくとも1つのグルココルチコイド(例えばコルチゾール、コルチゾン、アルドステロン、18-ヒドロキシコルチコステロンまたは11-デオキシコルチゾール)を測定する場合には、前記基準と比較した少なくとも1つのグルココルチコイドの量の増大は、溶血性貧血の治療に有用な物質の指標となる。あるいは、前記基準は、好ましくは、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血またはその素因を有していないことがわかっている被験体から導かれてもよいし、あるいは被験体集団における代謝物質について計算された基準であってもよい。このような基準を使用する場合、被験サンプルと基準における代謝物質の量が同一または類似であることは、溶血性貧血の治療に有用な物質の指標となる。
【0040】
「溶血性貧血の治療のための物質」という用語は、溶血性貧血の過程で誘導される溶血カスケードを直接妨害することができる化合物を指す。従って、溶血酵素の活性が阻害されることになる。あるいは、溶血性貧血の過程で、例えば溶血に必要な溶血酵素または他の因子の発現をモジュレートすることによって、間接的に溶血カスケードに影響を及ぼすことができる物質も想定される。本明細書の上で参照する物質は、拮抗的に作用する、すなわち溶血酵素または他の因子の効果を中和することによって作用しうる。本発明の方法によってスクリーニングされる物質は、有機および無機化学物質、たとえば小分子、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド(抗体など)、または他の人工的もしくは生物学的多量体でありうる。好ましくは、物質は、薬物、プロドラッグ、または薬物もしくはプロドラッグの開発のためのリード物質である。
【0041】
本発明の方法を、溶血性貧血の治療のための薬物の同定、または化合物の毒性学的評価(すなわち化合物が溶血性貧血誘導能があるかどうかを判定する)に用いようとする場合、統計学的理由のために複数の被験体の被験サンプルを検査することが理解されるだろう。好ましくは、検査被験体のコホート内のメタボロームは、例えば検査対象の化合物以外の要因によって生じる差異を避けるために可能な限り類似である。前記方法に用いられる被験体は、好ましくはげっ歯動物などの実験動物、より好ましくはラットである。さらに、実験動物は本発明の方法の完了後に犠牲にすることが好ましいことが理解されるだろう。コホート検査および基準動物の全ての被験体は、あらゆる種々の環境的影響を避けるために同一条件におくべきである。本質的に同一のメタボロームを有するラットのために好ましい条件は、本質的に同じ年齢の動物集団をコンパイルし、該動物集団を下記の居住条件下で馴化させるのに十分な時間維持することによって提供することができる:(i)一定の温度、(ii)一定の湿度、(iii)その動物集団の動物の物理的分離、(iv)餌は自由に摂取させる、その餌は本質的に化学物質による汚染または微生物汚染のないものとする、(v)水分は自由に摂取させる、その水分は本質的に化学物質による汚染または微生物汚染のないものとする、(vi)一定の照明時間、ならびに、該期間終了後にその動物集団が提供される。上記のコンパイルとは、何らかのソースから動物を選択して本発明の方法に供することとなる動物集団を確立することを意味する。従って、それらの動物は同一の母動物の子孫または異なる母動物の子孫のことがある。1匹の母動物の単一の子孫をソースとして用いる場合には、動物集団をコンパイルするために子孫全体を用いることができ、またはその子孫のうちの選択された動物を用いることができる。本明細書で用いているコンパイルは、動物の齢に関して行われる、すなわち、下記に詳述するように、その集団の全個体が本質的に同じ齢である。しかし、さらに別の特徴を考慮に入れることができる。さらに、体重、サイズ、性別、全般的な外観(例えば、外見で健康な動物のみが選択される)が考慮される。本質的に同じ齢であることとは、動物が同様な発生段階、例えば、胚、若年、成年であることを意味する。本発明の方法で用いるための好ましい動物の齢は、青年期、好ましくは青年期の前期である。動物集団の動物は、好ましくは、実験開始時の齢としてX日±1日の範囲であり、ここでXは動物集団の想定齢である。言い替えれば、集団のある動物は、その動物集団の平均齢の動物より、多くとも1日年上であるかまたは年下である。最も好ましくは、その集団の全ての動物の齢がXである。そのような動物は1匹の母体の子孫である動物、すなわち同腹子をコンパイルすることによって提供されるか、または同じ日に異なる母体から生まれた動物をコンパイルすることによって提供される。胚を用いる場合には、本質的に同じ齢とは、胚の発生段階に関してのものであることを理解すべきである。様々な動物種の胚の発生段階は当業界では周知の技法によって決定することができる。発生段階は、例えば、受精の時点に基づいて計算することができる。さらに、個々の胚は、既知の形態学的特徴によって発生段階を定めることができる。さらに、胚を用いる場合には、該胚を身ごもっている母は本明細書中に示す条件下で維持されることが理解されよう。例えば、本発明の方法の動物としてラットまたはマウスを用いる場合には、動物がX±1日の齢で、そのXが生後1〜3ヶ月であることが好ましい。最も好ましくは、Xは生後64日である。イヌでは好ましい齢(X)は6ヶ月である。本発明の方法で用いている、維持する、とは動物集団の動物に適用される特別の居住場所、食餌、飲料、および環境条件を意味する。動物が、OECD Guideline for Testing of Chemicals No:407に規定する条件下で維持されることが好ましい。さらに特定の条件を下記に示す。
【0042】
i)動物集団の全ての動物は同一の一定温度のもとで維持される。本発明の方法を行うための、動物にストレスを与えない温度の選択には注意を払うべきである。好ましくは温度は20〜24±3℃、より好ましくは、22±3℃、最も好ましくは22、23、または24℃である。
【0043】
ii)さらに、動物集団の全ての動物は同一の一定の湿度のもとで維持される。その湿度は、少なくとも30%とすべきであるが、70%を超えるべきではない。しかし、例外的なまれな状況においては(例えば飼育室やケージの清掃の際)、湿度は70%を超えても良い。好ましくは、湿度は50〜60%である。
【0044】
iii)動物集団の動物の物理的分離も本発明の方法にとって重要であることが見出されている。従って、動物集団の各動物は別々のスペース内、例えば、別々のケージ内で維持されなければならない。
【0045】
iv)動物集団の動物は餌を自由に摂取させる。用いる餌は本質的に化学的汚染物または微生物の汚染物を含まないものとしなければならない。適用すべきスタンダードについては、Fed. Reg. Vol.44, No.91, May 09, 1979, p.27534中に述べられている。最も好ましくは、細菌などの微生物の汚染物は餌の1gあたり5×105個以下である。そのような餌はProvimi Kliba SA, SwitzerlandからGround Kliba mouse/rat maintenance diet "GLP" mealを購入することができる。
【0046】
v)動物集団の動物には飲料は自由に供給される。好ましくは、該飲料は水である。しかし他の水をベースとした飲料も同様に用いることができる。そのような飲料は、例えば、その動物に必要な栄養素、ビタミンまたはミネラルを含んだものとすることができる。飲料として水を用いた場合には、European Drinking Water Directive 98/83/EGに述べられているように、その水は化学的汚染物または微生物の汚染物を含まないものとしなければならない。
【0047】
vi)最後に、動物集団の各動物は同じ一定の照明時間でなければならない。一定の照明は、好ましくは、人工光源(太陽光のスペクトルを有するもの)によって行われる。照明時間は12時間の明、その後12時間の暗とする。その後、照明時間を再度開始する。好ましい照明時間は明の時間が6時から18時までの12時間で、暗の時間が18時から6時までの12時間である。
【0048】
上述の居住条件は、物理的に分離された動物が入っているケージ用の共通の保管スペースを用いることによって、動物に適用することができる。該共通の保管スペースは動物室または動物棟とすることができる。集団の全動物を同じ部屋で維持することによって、一定の湿度、温度、および照明時間はその部屋全体または棟全体についてそれらのパラメータを調節することによって容易に達成することができる。それらのパラメータの調節は好ましくは自動化によってアシストされ、それらのパラメータは常にモニターされている。馴化するために十分な長さの第1の期間では、動物集団の動物は、それらの動物の代謝活性が同期してその結果それらの動物が馴化され本質的に同一のメタボロームを有するようになる期間、上述の特定の居住条件下で維持されなければならない。具体的には、第1の期間はその集団の個体の全てが同じサーカディアンリズム、食物消化リズム、または鎮静/活動期に適応することができるようになるのに十分な長さである。さらに、その第1の期間は、各動物がその生化学的および生理学的パラメータを与えられた環境条件、例えば湿度や温度などに応じて調整できるようになる期間である。好ましくは、第1の期間は、好ましくは5〜10日、より好ましくは6〜8日、最も好ましくは7日の長さである。
【0049】
また本発明は、代謝物質デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールについての特性値を含むデータ集合に関する。
【0050】
より好ましくは、データ集合は、本明細書の他の箇所で説明されている、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドについての特性値を含む。
【0051】
「データ集合」という用語は、物理的および/または論理的に一まとめにしうる一群のデータを意味する。したがって、データ集合は、単一のデータ記憶媒体または互いに作動可能に連結された物理的に分離されたデータ記憶媒体に組込み可能である。好ましくは、データ集合は、データベースを利用して実装される。したがって、本明細書中で用いられるデータベースとは、好適な記憶媒体上のデータ集合を包含するものである。さらに、データベースは、好ましくは、データベース管理システムをも含む。データベース管理システムは、好ましくは、ネットワーク型、階層型、またはオブジェクト指向型のデータベース管理システムである。そのうえさらに、データベースは、連邦データベースまたは統合データベースでありうる。より好ましくは、データベースは、分散型(連邦)システムとして、たとえばクライアントサーバーシステムとして実装されるであろう。より好ましくは、データベースは、検索アルゴリズムにより被験データセットをデータ集合に含まれるデータセットと比較できるように構築可能である。具体的には、そのようなアルゴリズムを用いて、溶血性貧血またはその素因の指標となる類似もしくは同一のデータセットが得られるように、データベースを検索することが可能である(たとえば、クエリー検索)。したがって、データ集合で同一もしくは類似のデータセットを同定できれば、被験データセットは、溶血性貧血またはその素因に関連付けられるであろう。その結果として、データ集合から得られた情報を用いることにより、被験体から得られた被験データセットに基づいて溶血性貧血またはその素因を診断することが可能である。
【0052】
また本発明には、上述の本発明のデータ集合を含むデータ記憶媒体が包含される。
【0053】
本明細書中で用いられる「データ記憶媒体」という用語は、単一の物理的要素に基づくデータ記憶媒体、たとえば、CD、CD-ROM、ハードディスク、光記憶媒体、またはディスケットを包含する。さらに、この用語は、好ましくはクエリー検索に好適な方式で上述のデータ集合を提供するように互いに作動可能に連結された物理的に分離された要素よりなるデータ記憶媒体をも包含する。
【0054】
本発明はさらに、
(a)サンプルの代謝物質の特性値を比較するための手段と、それと作動可能に連結された
(b)上に定義したようなデータ記憶媒体
とを含むシステムに関する。
【0055】
本明細書中で用いられる「システム」という用語は、互いに作動可能に連結された異なる手段を意味する。該手段は、単一のデバイスに組み込みうるか、または互いに作動可能に連結された物理的に分離されたデバイスでありうる。代謝物質の特性値を比較するための手段は、好ましくは、上で述べたような比較のアルゴリズムに基づいて動作する。データ記憶媒体は、好ましくは、それぞれの記憶データセットが溶血性貧血またはその素因の指標となる上述のデータ集合またはデータベースを含む。したがって、本発明に係るシステムを用いれば、データ記憶媒体に記憶されたデータ集合に被験データセットが含まれるかどうかを同定することが可能である。その結果として、本発明に係るシステムは、溶血性貧血またはその素因を診断する際の診断手段として適用可能である。
【0056】
システムの好ましい実施形態では、サンプルの代謝物質の特性値を測定するための手段が含まれる。
【0057】
「代謝物質の特性値を測定するための手段」という用語は、好ましくは、代謝物質を測定するための上述のデバイス、たとえば、質量分析デバイス、NMRデバイス、または代謝物質の化学的アッセイもしくは生物学的アッセイを行うためのデバイスを意味する。
【0058】
本発明はまた、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバール、あるいはその測定手段を含む診断用組成物を包含する。
【0059】
前記診断用組成物の好ましい実施形態において、前記組成物は、本明細書の他の箇所で説明されている、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドをさらに含む。
【0060】
さらに本発明は、
(a)デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの特性値を測定するための手段、ならびに
(b)(a)の手段で測定された特性値に基づいて溶血性貧血またはその素因を診断するための手段
を含む診断用デバイスを包含する。
【0061】
より好ましくは、前記デバイスは、本明細書の他の箇所で説明されている、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの特性値を測定するための手段をさらに含む。
【0062】
「診断手段」という用語は、好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に明記されるような診断用デバイス、システム、または生物学的アッセイもしくは化学的アッセイを意味する。
【0063】
「特性値(characteristic value)を測定するための手段」という表現は、代謝物質(複数可)を特異的に認識可能なデバイスまたは作用剤を意味する。好適なデバイスは、分光測定デバイス、たとえば、1台もしくは複数台の質量分析デバイス、NMRデバイス、または代謝物質の化学的アッセイもしくは生物学的アッセイを行うためのデバイスでありうる。好適な作用剤は、代謝物質を特異的に検出する化合物でありうる。本明細書中で用いられる検出とは、二工程プロセスであってもよい。すなわち、最初に、化合物を検出対象の代謝物質に特異的に結合させ、続いて、検出可能なシグナル、たとえば、蛍光シグナル、化学発光シグナル、放射性シグナルなどを発生させることが可能である。検出可能なシグナルを発生させるために、さらなる化合物が必要になることもある。こうした化合物はすべて、「代謝物質群の特性値を測定するための手段」という用語に包含される。代謝物質に特異的に結合する化合物は、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されており、好ましくは、酵素、抗体、リガンド、レセプター、または代謝物質に特異的に結合する他の生物学的分子もしくは化学物質を包含する。
【0064】
最後に、本発明は、被験体において溶血性貧血を診断するための診断用デバイスまたは診断用組成物を製造するための、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバール(ribal)、あるいはその測定手段の使用に関する。
【0065】
前記使用の好ましい実施形態においては、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールに加えて、本明細書の他の箇所で説明されている少なくとも1つの副腎コルチコステロイドを使用する。
【0066】
上で参照した参考文献はすべて、以上の説明で明示的に参照されたそれらの具体的な開示内容だけでなくそれらの全開示内容に関して、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0067】
以下の実施例は、本発明を説明する目的のためにすぎない。これらは、本発明の範囲をなんらかの観点で限定するものと何ら解釈されるべきではない。
【実施例】
【0068】
アニリン誘導性の溶血性貧血のためのバイオマーカー
それぞれ5匹の雄および雌のラットの群に、強制飼養によりアニリンを10及び100mg/kg体重で1日1回、28日間にわたり投与した。それぞれ5匹の雄および雌のラットの別の群を対照として使用した。処置期間の開始前に、供給時に62〜64日齢であった動物を7日間かけて居住および環境条件に順応させた。動物集団の全ての動物を同じ一定温度(20〜24±3℃)および同じ一定湿度(30〜70%)の条件に置いた。動物集団の各動物は別のケージに維持した。動物集団の動物には不断給餌を行った。使用する食餌は、化学物質または微生物の汚染物を実質的に含まないものとした。飲料水も自由に給餌した。従って、水は、欧州飲料水指令(European Drinking Water Directive)98/83/EGにある規定に従って化学物質および微生物の汚染物を含まないものとした。日照時間は、明条件12時間の後、暗条件12時間とした(6:00〜18:00の12時間の明るさ、および18:00〜6:00の12時間の暗闇)。
【0069】
7日目、14日目および28日目の朝に、絶食させた麻酔動物の眼窩後(retroorbital)静脈叢から血液を採取した。各動物から、EDTAを抗凝血剤として用いて1mlの血液を採取した。サンプルを遠心して血漿を調製した。全ての血漿サンプルをN2雰囲気を用いて回収し、その後分析まで-80℃で保存した。
【0070】
質量分析法に基づく代謝物質のプロフィール分析のために、血漿サンプルを抽出し、極性および非極性画分を得た。GC-MS分析のため、非極性画分を酸性条件下で加水分解し、脂肪酸メチルエステルを得た。分析前に両方の画分をさらにシリル化剤を用いて誘導体化した。LC-MS分析においては、両方の画分を適当な溶媒混合物中で再構成した。逆相分離カラムを用いた勾配溶出によってHPLCを実施した。質量分析法による検出のため、メタノミクス(metanomics)専用技術を適用して、標的および高感度MRM(多重反応モニター)プロフィールを並行して行い、完全なスクリーニング分析を行った。この方法により、半定量的分析には215の特有のアナライトが生じ、そのうち約80は既知であり、約135は未知であった。さらに、この方法には、サンプルのフィンガープリントを生じる数百ものさらなる分析を含めた。
【0071】
総合的な分析検証ステップの後、各アナライトについてのデータを、プールサンプルからのデータに対して正規化した。これらのサンプルは、プロセスの変動性を把握するため全プロセスにおいて並行して分析した。性別、用量群および代謝物質に特異的な処置群値の有意性を、処置群の平均値とそれぞれの未処置対照群の平均値とをスチューデントのt検定を用いて比較することによって判定した。正規化された処置群の値およびそれらの有意性は、さらなる統計処理およびデータマイニングプロセスのためにデータベースに供給した。
【0072】
ラットのアニリン処置後の溶血性貧血の指標となる血漿代謝物質の群の変化を以下の表に示す:
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶血性貧血またはその素因を診断する方法であって、
(a)溶血性貧血に罹患しているかまたはその素因を有している疑いのある被験体の被験サンプル中の、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量を測定するステップ、ならびに
(b)ステップ(a)で測定した量と基準とを比較して、それにより溶血性貧血またはその素因を診断するステップ
を含む方法。
【請求項2】
被験体が、溶血性貧血誘導能があると疑われる化合物と接触させたものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化合物が被験体において溶血性貧血誘導能を有するかどうかを判定する方法であって、
(a)溶血性貧血誘導能があると疑われる化合物と接触させた被験体のサンプル中の、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量を測定するステップ、ならびに
(b)ステップ(a)で測定した量と基準とを比較して、それにより該化合物の溶血性貧血誘導能を判定するステップ
を含む方法。
【請求項4】
化合物が芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
基準が、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させた被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患した被験体、から導かれたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
被験サンプル中のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量と基準とが同一または類似であることは溶血性貧血またはその素因の指標となる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
基準が、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血またはその素因を有していないことがわかっている被験体、から導かれたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
基準が、被験体集団のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールについて計算された基準である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
基準と比較して被験サンプル中のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量が異なることは溶血性貧血またはその素因の指標となる、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
基準と比較した、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量の増大は、溶血性貧血の指標となる、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの測定ステップをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
基準と比較した、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの量の低減は、溶血性貧血の指標となる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
溶血性貧血を治療するための物質を同定する方法であって、
(a)溶血性貧血の治療のための候補物質と接触させた溶血性貧血罹患被験体のサンプル中の、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量を測定するステップ、ならびに
(b)ステップ(a)で測定した量と基準とを比較して、それにより薬物が同定されるステップ
を含む方法。
【請求項14】
基準が、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させた被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血に罹患した被験体、から導かれたものである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
被験サンプル中のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量と基準とが異なることは、溶血性貧血を治療するための物質の指標となる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
基準と比較した、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量の低減は、溶血性貧血を治療するための物質の指標となる、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの測定ステップをさらに含む、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
基準と比較した、少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの量の増大は、溶血性貧血を治療するための物質の指標となる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
基準が、(i)芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類と接触させていない被験体、あるいは(ii)血管外溶血性貧血またはその素因を有していないことがわかっている被験体、から導かれたものである、請求項13記載の方法。
【請求項20】
基準が、被験体集団のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールについて計算された基準である、請求項13記載の方法。
【請求項21】
被験サンプル中のデオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの量と基準とが同一または類似であることは溶血性貧血を治療するための物質の指標となる、請求項21または20記載の方法。
【請求項22】
溶血性貧血が血管外溶血性貧血である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
血管外溶血性貧血が、芳香族アミン類、オキシム類またはヒドロキシルアミン類により誘導される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
代謝物質群の測定ステップが、質量分析法(MS)を含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
質量分析法が、液体クロマトグラフィ(LC)-MS、またはガスクロマトグラフィ(GC)-MSである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
サンプルが被験体の体液サンプルである、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
体液が血液である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
被験体が哺乳動物である、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールについての特性値を含むデータ集合。
【請求項30】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイドの特性値をさらに含む、請求項29記載のデータ集合。
【請求項31】
請求項29または30記載のデータ集合を含むデータ記憶媒体。
【請求項32】
(a)サンプルの代謝物質の特性値を比較するための手段と、それと機能的に連結された
(b)請求項31記載のデータ記憶媒体
とを含むシステム。
【請求項33】
サンプルの代謝物質の特性値を測定するための手段をさらに含む、請求項32記載のシステム。
【請求項34】
デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバール、あるいはその測定手段を含む診断用組成物。
【請求項35】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイド、またはその測定手段をさらに含む、請求項34記載の診断用組成物。
【請求項36】
(a)デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバールの特性値を測定するための手段、ならびに
(b)(a)の手段で測定された特性値に基づいて溶血性貧血またはその素因を診断するための手段
を含む診断用デバイス。
【請求項37】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイドを測定するための手段をさらに含む、請求項36記載の診断用デバイス。
【請求項38】
被験体における溶血性貧血の診断のための診断用デバイスまたは組成物の製造のための、デオキシシチジンまたはそのアナライトであるシトシンおよび/もしくはリバール、あるいはその測定手段の使用。
【請求項39】
少なくとも1つの副腎コルチコステロイドまたはその測定手段をさらに使用する、請求項38記載の使用。

【公表番号】特表2010−501868(P2010−501868A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525993(P2009−525993)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055472
【国際公開番号】WO2008/025579
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(507030645)メタノミクス ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】