説明

溶血方法および溶血試薬

【課題】迅速に完全溶血することができ、且つ酵素活性への阻害もない、界面活性剤を使用する溶血方法および溶血試薬を提供する。
【解決手段】糖化タンパク質を検出するための、界面活性剤を用いる溶血方法において、該界面活性剤がHLB値11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査分野において、ヒトやその他の動物の血球を破壊し、特定な成分に対し分析を行うための溶血方法および溶血試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査分野おける血液検査において、例えば、検体が全血であり、かつ、分析対象となる物質が血球中に含まれる成分の場合、血球の破壊、つまり溶血する工程が必要となる。例えば、測定対象がグリコヘモグロビンHbA1cである場合、検体中の赤血球を十分溶血させて、赤血球中のヘモグロビンが溶液中を可溶化させる必要がある。
【0003】
従来から、操作が簡便である等の理由から、赤血球を溶血するために界面活性剤が溶血剤として用いられている。例えば、界面活性剤CTABを用いて、赤血球を細胞破壊して血液から核酸を分離する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
界面活性剤を溶血剤として使用する際に、最も懸念される問題は、界面活性剤には、生体に対し毒性が強いものもあり、酵素活性の失活をもたらすことである。特に陰、陽イオン性界面活性剤分子は電荷をもつため、特定の成分を検出するための酵素(例えば標識酵素)と相互作用して、酵素の活性を低下させる。
【0005】
特許文献2には、血液試料を、pH5.0〜9.5を有するイオン性洗剤(イオン性界面活性剤)を含む溶血試薬で処理し、全ヘモグロビン含量を溶血試料中で比色測定する一方、グリコヘモグロビンHbA1c(以下、単に「HbA1c」とも言う。)を溶血試料中で免疫学的に測定する技術が提案されている。イオン性洗剤、例えばSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)などのアニオン性洗剤や、TTAB(テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド)などのカチオン性洗剤は、溶血試薬として既によく知られているものである。しかしながら、このようなイオン性洗剤は蛋白変性作用もあるので、同じく蛋白質である標識酵素にも悪影響を与え、その酵素活性を抑制することになる。B/F分離を行わない均一系エンザイムイムノアッセイでは、イオン性洗剤が酵素活性を抑制するので実用上の感度を得ることができなかった。
【0006】
特許文献3には、エンザイムイムノアッセイ法でHbA1cの濃度を測定する際、2−ブタノールとともに併用される溶血試薬として界面活性剤が挙げられ、通常用いられる多くの標識酵素(例えば、アミラーゼ)の酵素活性を低下させないため、ノニオン性界面活性剤が好ましいことが開示されている。
【特許文献1】特表平8−501208号公報
【特許文献2】特開平6−11510号公報
【特許文献3】特開平9−166594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年、検査の緊急性、救急医療、在宅検査などに対応できる迅速・簡便(且つ正確)な検査:ポイント・オブ・ケア検査(POCT)のニーズが高まっており、特に検査のスピードが要求されている。そのため、検査ための検体前処理として、溶血工程の時間も短縮する必要性がますます高まっている。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3のいずれも、イオン性界面活性剤もしくはノニオン性界面活性剤を用いて溶血処理を行うことが開示されているものの、どの界面活性剤が短時間
で完全溶血できるのか明確ではなく、通常の溶血工程は数分間の時間がかかっていた。
【0009】
本発明の目的は、迅速に完全溶血することができ、且つ酵素活性への阻害もない、界面活性剤を使用する溶血方法および溶血試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許文献3に記載されているノニオン性界面活性剤は、非常に広範囲のものが挙げられており、これらのノニオン性界面活性剤には、(イ)溶血できるが酵素活性に阻害があるもの、(ロ)酵素活性に阻害がないが溶血できないもの、(ハ)迅速に完全溶血できず、かつ酵素活性に阻害があるもの、(ニ)迅速に完全溶血でき、かつ酵素活性に阻害がないものが含まれているものと考えられる。本発明者らは、どのようなノニオン性界面活性剤が、(a)迅速完全溶血、(b)酵素への阻害がないという、(a)および(b)の二つの条件を同時に満足するのか、鋭意検討を行った結果、以下の構成によって、上記課題を達成することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
本発明に係る溶血方法は、糖化タンパク質を検出するための、界面活性剤を用いる溶血方法であって、該界面活性剤がHLB値11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤であることを特徴とするものである。
【0012】
より好ましくは、糖化タンパク質を検出するに際し、酵素活性により糖化タンパク質を検出し、該酵素が、タンパク質を分解する酵素、酸化酵素、脱水素酵素、または多糖を分解する酵素である。
【0013】
更に好ましくは、前記ノニオン性界面活性剤が、下記一般式(1)で表わされるポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤である。
一般式(1)
R−(OCH2CH2nOH
上記一般式(1)中、Rは、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよい脂肪族炭化水素基、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい脂環式炭化水素基、または、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい芳香族炭化水素基であり、nは5〜20の整数である。
【0014】
特に好ましくは、前記ポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル及び、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよいポリオキシエチレンフェニルエーテルよりなる群から選ばれる。
【0015】
本発明に係る溶血試薬は、HLB値が11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤であって、該界面活性剤を含有し、糖化タンパク質を検出するための酵素が有する活性を阻害しないことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る溶血方法および溶血試薬によれば、迅速に赤血球を完全溶血することができ、且つ酵素への活性阻害もない。
また、本発明に係る溶血方法および溶血試薬は、糖尿病用のHbA1c測定マイクロチップに使用するのに特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
「細胞破壊」は、細胞の表面膜を化学或いは物理的な方法で崩壊させ、細胞内容物を水中に分散或いは溶解させることを言う。細胞破壊は、細胞内部の特定の成分を分析するために行なわれる。
「溶血」は、血液(例えば全血)に含まれる細胞(例えば赤血球)の表面膜を化学或いは物理的な方法で崩壊させ、細胞内容物を水中に分散或いは溶解させることを言う。溶血は、血液に含まれる細胞内部の特定の成分を分析するために行なわれる。
【0018】
「特定の成分」とは、本明細書においては、本発明で検出対象とされる、糖化タンパク質を指す。糖化タンパク質としては、グリコアルブミン、グリコヘモグロビン(例えば、HbA1c等)が好ましいものとして挙げられる。
「(特定の成分を)検出するための酵素」は、糖化タンパク質を分析するために使用される検出用酵素である。糖化タンパク質を検出するための酵素としては、タンパク質を分解する酵素、酸化酵素、脱水素酵素および多糖を分解する酵素が好ましいものとして挙げられる。タンパク質を分解する酵素としてはプロテアーゼが好ましく、酸化酵素としてはグルコースオキシダーゼ(GOD)、ペルオキシダーゼ(POD)及びフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)が好ましく、脱水素酵素としてはグルコース脱水素酵素(GDH)が好ましく、多糖を分解する酵素としてはアミラーゼおよびグリコアミラーゼが好ましいものとして挙げられる。例えば、特開平9−166594号公報に記載のα−アミラーゼは、本発明においても乾式エンザイムイムノアッセイ(EIA)でHbA1cを測定する場合には、標識酵素として該検出用酵素を用いることが好適である。また、例えば特開2001−54398号公報、特開平11−155596号公報に記載されているプロテアーゼも、検体中の検出対象となる糖化タンパク質を、プロテアーゼ等により分解したのち、プロテアーゼ処理物中の糖化アミノ酸を、糖化アミノ酸酸化酵素等により、生成した過酸化水素を検出することにより、該糖化タンパク質を検出することができる。
【0019】
「完全溶血」とは、血液試料中の細胞(例えば、血球)が部分的にではなく、全部が破壊される状態と定義される。本発明の場合、血球数の計測によって、溶血の程度を評価する方法を採用したため、計測した血球数から求めた溶血率が100%の場合は完全溶血という。血球数の計測には、血球カンウターF−520(シスメックス社)を用いた。
【0020】
「迅速溶血」とは短時間で血液試料中の細胞(例えば、血球)が破壊されることである。本発明では1分以内をいい、好ましくは10秒以内の完全溶血である。
【0021】
ノニオン性界面活性剤は親水基としてイオン化する原子団を有しない界面活性剤の一群で、疎水基を水に可溶にするために、いずれも−OH基を有し且つ比較的親水基は少ないが、分子内の主要なる結合の仕方によって、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型、及びその他に分類される。代表的な非イオン性界面活性剤には下記のものがある。
1)エステル型
グリセリン、ソルビトール、蔗糖などの多価アルコールと脂肪酸がエステル結合でつながっている構造をもつ。なお、このタイプの非イオン界面活性剤は「多価アルコール型」と呼ばれることもある。例えば、Tween20が挙げられる。
2)エーテル型
高級アルコールやアルキルフェノールなど水酸基を持つアルコール系原料に、主として酸化エチレン(エチレンオキサイド)を付加して製造されるタイプで、非イオン性界面活性剤の中では最も代表的な界面活性剤である。
2−1)ポリオキシエチレンアルキルエーテル
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、AE、アルキル(またはアルコール)エトキシレート、アルキル(またはアルコール)ポリエトキシレートともいう。例えば、ポリオ
キシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。
2−2)ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、APE、アルキルフェニル(またはフェノール)エトキシレート、アルキルフェニル(またはフェノール)ポリエトキシレートともいう。例えば、TritonX−100が挙げられる。
2−3)その他のエーテル型
疎水基としてポリプロピレングリコールを用いたポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は泡立ちが少ない為、低起泡性界面活性剤として各種用途に利用されているものである。
3)エステル・エーテル型
脂肪酸や多価アルコール脂肪酸エステルに酸化エチレンを付加したタイプである。また、「エーテル型」や「エステル・エーテル型」はともに酸化エチレンを付加したタイプなので「ポリエチレングリコール型」とも呼ぶことがある。
4)その他
疎水基と親水基がアミド結合で結合しているタイプの脂肪酸アルカノールアミド型が挙げられる。また、最近登場した糖類(ブドウ糖等)を原料とするアルキルポリグリコシドもある。
【0022】
本発明者らは、前記特定の成分を検出するための酵素の活性を低下させることがなく、同時に迅速に完全溶血の能力を持つ溶血試薬を探索するために、数多くのノニオン性界面活性剤について検討した結果、HLB値が11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤が迅速に完全溶血でき、且つ酵素の活性に阻害がないことを見出すに至った。
また、上記特性値を満たすノニオン性界面活性剤は、さらにエーテル型ノニオン性界面活性剤であることにより、完全溶血するまでの時間をさらに短くすることができた。
HLB値とは界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であり、Hydrophile-Lipophile Balanceの頭文字を取ったものである。親水親油バランスともいう。この概念は1949年にAtlas Powder Companyのウィリアム・グリフィンによって提唱された。計算によって決定する方法がいくつか提案されている。
(1)アトラス法:
エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1−S/A)で定義する。
(2)グリフィン法:
HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量で定義する。
(3)デイビス法:
官能基によって決まる基数を定め(例えばメチル基やメチレン鎖は親油基で0.475、水酸基は親水基で1.9など)、HLB値=7+親水基の基数の総和−親油基の基数の総和で定義する。界面活性剤の混合物のHLB値は各成分のHLB値の加重平均となる。
(4)標準試料にHLB値を決定したい界面活性剤を添加して乳化し、実験的に決定する方法もあるが煩雑であるためあまり行われない。
(5)高速液体クロマトグラフィーでの保持時間から決定する方法もある。
本発明には、有機概念図(甲田善生,「有機概念図 −基礎と応用−」,p.227(1984)三共出版)に基づくIOB方法で求めたHLB値を用いた。IOB値は界面活性剤の無機性値と有機性値の比で、HLB値はIOB値×10の値である。
【0023】
本発明においては、下記一般式(1)で表わされるポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
一般式(1)
R−(OCH2CH2nOH
上記一般式(1)中、Rは、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよい脂肪族炭化
水素基、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい脂環式炭化水素基、または、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい芳香族炭化水素基であり、nは5〜20の整数である。
上記脂環式炭化水素基としては、1つの環の炭素数が5〜6であり、脂環式炭化水素環の数が1〜4であるものが好ましく挙げられる。
上記芳香属炭化水素基としては、1つの環の炭素数が5〜6であり、芳香属炭化水素環の数が1〜4であるものが好ましく挙げられる。
【0024】
ポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤として好ましくは、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル及び、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよいポリオキシエチレンフェニルエーテルが挙げられる。
【0025】
本発明においてさらに好ましく使用されるノニオン性界面活性剤としては、
ポリオキシエチレンセチルエーテル(オキシエチレン単位10〜17のもの)、
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(オキシエチレン単位12〜20のもの)、
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(オキシエチレン単位11〜20のもの)、
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(オキシエチレン単位7〜12のもの)、
ポリオキシエチレンイソセチルエーテル(オキシエチレン単位10〜15のもの)、
ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル(オキシエチレン単位10〜20のもの)、
ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、
ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル(オキシエチレン単位16〜20のもの)及び
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(該アルキル基は、炭素数が8〜20であり、直鎖でも分岐していてもよい。例えば、オキシエチレン単位平均9〜10含有 Triton X−100)が挙げられる。
【0026】
本発明において溶血剤に用いられる上記界面活性剤の使用濃度は、0.05%〜5%(質量濃度)が好ましく、好ましくは0.05%〜1%、より好ましくは0.1%〜1%、さらに好ましくは0.1%〜0.2%である。この濃度範囲であれば、迅速な溶血能力を持つと同時に、エンザイムイムノアッセイで通常用いられる多くの標識酵素の酵素活性に悪影響を与えることもない。
【0027】
本発明の溶血試薬は水系溶液で使用する。この水系溶液には、必要に応じてpH緩衝剤、安定化剤などの成分を添加してもよい。
緩衝液としては、免疫反応及びその後の酵素反応を抑制しない緩衝液であればよく、従来のものを広く使用できる。好ましくは10〜200mMの濃度のMES、HEPES、Tris緩衝液を使用する。使用する酵素標識抗体の酵素反応の最適pHに一致するpH値とするのが好ましい。一般に、pH約5.5〜約8.5の範囲で選択するのが好ましい。
また酵素標識抗体の安定化剤としてBSA(ウシ血清アルブミン)、MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーなどを含有させてもよい。
【0028】
本発明の溶血試薬を用いて、血液試料を処理する時、超音波処理と併用すると赤血球膜を破壊する工程は速くなる。5秒以内で完全溶血が確認された。
【0029】
本発明の溶血試薬は酵素活性を低下させることがなく、かつ迅速に完全溶血する能力を持つため、エンザイムイムノアッセイ(酵素免疫測定法)、特に免疫反応後にB/F分離を行わない均一系エンザイムイムノアッセイに好適に用いることができる。また、微量で、迅速検出するためのマイクロ一体化診断チップ(特願2004−078210号)に使用するのは最も効果的であり、好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を詳しく説明する。使用した溶血剤として用いた化合物とその特性は表1に示す。本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
[酵素活性の評価法]
以下の実施例では、乾式多層分析要素(標識酵素としてアミラーゼを含有)を用いて、一定使用濃度の溶血剤の存在下で、発色ODへの影響を調べることによって、アミラーゼへの阻害性を評価した。
評価用の乾式多層分析要素は以下のように作製した。
下記の被覆量になるように架橋剤含有試薬溶液を塗布し、乾燥して試薬層を設けた。
【0032】
アルカリ処理ゼラチン 14.5g/m2
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール
(オキシエチレン単位平均9〜10含有) 0.2g/m2
グルコースオキシダーゼ 5000u/m2
ペルオキシダーゼ 15000u/m2
グルコアミラーゼ 5000u/m2
2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル−4−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−5−フェネチルイミダゾール(ロイコ色素)酢酸塩
0.38g/m2
ビス[(ビニルスルホニルメチルカルボニル)アミノ]メタン
0.1g/m2
【0033】
この試薬層の上に下記の被覆量になるように接着層を、塗布、乾燥することにより設けた。
【0034】
アルカリ処理ゼラチン 14.5g/m2
ビス[(ビニルスルホニルメチルカルボニル)アミノ]メタン
0.1g/m2
【0035】
ついで接着層の表面に下記の被覆量になるように下記試薬含有水溶液を塗布し、ゼラチン層を膨潤させ、その上に50デニール相当のポリエチレンテレフタレート(PET)紡績糸36ゲージ編みした厚さ約250μmのトリコット編物布地をほぼ一様に軽く圧力をかけてラミネートして多孔性展開層(編物層)を設けた。
【0036】
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール
(オキシエチレン単位平均9〜10含有) 0.15g/m2
ビス[(ビニルスルホニルメチル カルボニル)アミノ]メタン
0.4g/m2
【0037】
次に、下記の被覆量になるように基質を塗布、乾燥することにより、CRP分析用多層分析要素を調製した。
【0038】
カルボキシメチル化澱粉 5g/m2
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール
(オキシエチレン単位平均9〜10含有) 0.2g/m2
【0039】
さらに、展開層兼秤量層であるトリコット編物層にアミラーゼ−抗CRP・IgG結合物を3mg/m2の被覆量となるようにしてエタノール溶液を塗布し、含浸させ乾燥させてCRP分析用多層乾式分析要素を得た。
【0040】
次いで上記の乾式多層分析要素を12mm(13mm四方のチップに裁断し、特開昭57−63452号公報に記載のスライドの枠に収めて、酵素活性評価用多層乾式スライドとした。
【0041】
このスライドに、0.1%(質量濃度)溶血剤を含有するpH7の50mMグリセロ燐酸緩衝溶液10μLを点着し、37℃に保って、分光光度計(MCPD−2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、ΔOD値の変動が許容範囲(ΔOD値の平均値±2SD:0.3745±0.049)外にはみ出したら、酵素に対して阻害性があると判断する。
【0042】
実施例化合物と比較化合物の酵素活性に対する影響の評価結果を表1にまとめて示す。上記許容範囲内を○とし、外れるものを×とした。
【0043】
[迅速溶血評価法]
0.05%、0.1%、0.2%、0.5%および1%の各濃度の溶血剤をそれぞれ1.5mLチューブに980μLづつ分注する。全血を20μLチューブに添加して、ミキサーでよく混ぜる。一定時間(10秒)後、直ちに食塩水で高倍率(一般的には500倍以上、本実施例では1000倍を希釈することによって、溶血剤の作用を停止させた。希釈した直後、溶液中の血球数を血球カンウターF−520(シスメックス社)で、時間の経過による血球数の減少を計測する。血液サンプルの溶血剤処理と未処理の場合の血球数の変化から溶血率に換算する。
【0044】
表1に、使用濃度0.1%における各化合物の特性と迅速溶血評価結果、酵素阻害評価結果をまとめて示す。完全溶血を○とし、それ以外を×とした。また、0.05%、0.2%、0.5%および1%の各濃度においても同様の結果を得た。
【0045】
上記のノニオン性界面活性剤の溶血性能と酵素への阻害評価の結果から、本願発明のノニオン性界面活性剤(化合物1〜化合物6)、すなわち、11〜13という特定のHLB値範囲内のポリオキシエチレンエーテルが優れた溶血能力を有し、且つ酵素活性の阻害性も無いことがわかった。比較化合物1〜比較化合物3はイオン性界面活性剤であり、強力な溶血力を有するが、酵素活性を阻害性した。比較化合物4はノニオン性界面活性剤のポリオキシエチレンラウリルエーテルであるが、HLB値が10であり、酵素活性を阻害し、弱い溶血力が確認された。また、比較化合物5、6はエステル系のノニオン性界面活性剤であり、酵素活性の阻害を示さなかったが、強力な溶血力を持っていなかった。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖化タンパク質を検出するための、界面活性剤を用いる溶血方法であって、該界面活性剤がHLB値11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤であることを特徴とする溶血方法。
【請求項2】
酵素活性により糖化タンパク質を検出し、該酵素が、タンパク質を分解する酵素、酸化酵素、脱水素酵素または多糖を分解する酵素である請求項1記載の溶血方法。
【請求項3】
ノニオン性界面活性剤が、下記一般式(1)で表わされるポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤である請求項1または2記載の溶血方法。
一般式(1)
R−(OCH2CH2nOH
上記一般式(1)中、Rは、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよい脂肪族炭化水素基、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい脂環式炭化水素基、または炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよい芳香族炭化水素基であり、nは5〜20の整数である。
【請求項4】
ポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル及び、炭素数8〜20の直鎖でも分岐していてもよいアルキル基を置換基として有していてもよいポリオキシエチレンフェニルエーテルよりなる群から選ばれる請求項3記載の溶血方法。
【請求項5】
HLB値が11〜13の範囲のノニオン性界面活性剤であって、該界面活性剤を含有し、糖化タンパク質を検出するための酵素が有する活性を阻害しないことを特徴とする溶血試薬。


【公開番号】特開2007−163182(P2007−163182A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356738(P2005−356738)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】