溶銑の精錬方法

【課題】転炉型精錬容器を用いて、上吹きランスから粉体副原料を酸素含有ガスとともに上吹きして溶銑を精錬する際に、発生するスピッティングを少なく抑える。
【解決手段】酸素含有ガス及び粉体副原料の混合体の流路6aを有するランス内管6と、ランス内管6の先端のノズルスロート8を介して流路6aに連通して延設される噴出孔7aを有するノズル部7とを備え、かつ、ノズルスロート8における、噴出孔7aの延設方向と直交する断面における噴出孔7aの横断面積の総和S0と、流路6aの最大の横断面積A0との比(S0/A0)が0.1〜0.6であるとともに、流路6aにおけるノズルスロート8よりも上流側に位置する内壁面6dにおける、内壁面6dに接する平面9とランス中心軸6bとのなす角度θが45°以上である部分6eの、ランス中心軸6bに垂直な面への投影面積Aが(A/A0)≧0.40を満足する上吹きランス5から、酸素含有ガスとともに粉体副原料を溶銑に吹付けて精錬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の精錬方法に関し、具体的には、酸素含有ガスとともに粉体副原料を例えば上底吹き転炉型精錬容器に収容された溶銑の浴面へ吹き付ける溶銑の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品に求められる性能が一段と高くなり、精錬プロセスにおける不純物の除去効率をいっそう向上することが求められている。転炉型精錬容器における精錬では、酸素含有ガスとともに粉体副原料である生石灰含有粉体を上吹きランスから上吹きする方法が、脱りん効率の向上を目的として開発されてきた。なお、本明細書では、「酸素含有ガス」とは、酸素を80体積%以上含有し、残りはAr、N、CO等の常温では酸素と不活性なガス成分からなるガスを意味するとともに、「生石灰含有粉体」とは、CaOを80質量%以上含有する粒径1mm以下の物質を意味する。
【0003】
例えば特許文献1には、転炉型反応器に収容された溶銑に上吹きランスから酸素とともに酸化カルシウム粉を吹き付けて脱りん処理する方法が開示されている。しかし、溶銑に粉体を上吹きすると、特許文献2にも記載されているように、上吹きのジェットと粉体が有する運動エネルギーが増加し、浴面衝突時に発生するスピッティング量が増加する。
【0004】
スピッティングは、それが大量に炉壁やランスに付着すると操業効率の低下を招き、また、炉口から炉外へ飛散すると鉄歩留りを低下させるため、可能な限り抑制する必要がある。
【0005】
特許文献2には、カバースラグを形成した後に粉体を吹き付ける方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−311523号公報
【特許文献2】特開2001−64713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2により開示された方法では、カバースラグを形成する前に粉体を吹き付けることは難しい。また、[Si]濃度の低い溶銑や脱珪処理済の溶銑に対して粉体を上吹き吹錬をする場合、カバースラグが形成され難いため、この方法を適用することはできない。
【0008】
本発明の目的は、酸素含有ガスとともに粉体副原料を例えば上底吹き転炉型精錬容器に収容された溶銑の浴面へ吹き付けて溶銑を精錬する際に、スピッティングを抑制することができる上吹きランスと、この上吹きランスを用いる溶銑の精錬方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上吹きランスから酸素含有ガスとともに粉体副原料を上吹きする場合、通常は、上吹きランスの上端部において酸素含有ガスの配管と粉体副原料の配管とが接続され、そこで酸素含有ガスと粉体副原料とが混合され、酸素含有ガス及び粉体副原料の混合体は、1本のランス内管の内部を通って、ランス内管の先端に接続されるノズル部の1個又は2個以上の噴出孔から噴出される。
【0010】
本発明者らは、これまでは殆ど検討されることがなかった、ランス内管の断面積とノズル部の噴出孔の断面積との比、さらには、ランス内管とノズル部との接続部の形状に着目し、これらがスピッティングに及ぼす影響を検討した結果、ランス内管の断面積とノズル部の噴出孔の断面積との比を適正に設定すること、さらには必要に応じて、ランス内管とノズル部との接続部の形状を適正に設定することによって、上吹き時におけるスピッティングを抑制できることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0011】
本発明の特徴は、図1、2に例示するように、上吹きランスから酸素含有ガスとともに粉体副原料を転炉型精錬容器に収容された溶銑へ吹き付ける溶銑の精錬方法において、上吹きランスが酸素含有ガス及び粉体副原料の混合体の流路2a、6aを有するランス内管2、6と、ランス内管2、6の先端に流路2a、6aに連通して延設される1個又は2個以上の噴出孔3a、7aを有するノズル部3、7とを備える上吹きランス1、5であって、噴出孔3a、7aにおいて最も横断面積が狭くなるノズルスロート部の横断面積の総和(S0)と、ランス内管2、6の流路の最大の横断面積(A0)との比(S0/A0)が0.1〜0.6を満たすランスであることを特徴とする溶銑の精錬方法である。
【0012】
図1、2には、噴出孔の形状が円筒である例(ストレートノズルの例)を示したので、これらの場合にはノズルスロート部を、ランス内管2、6の流路2a、6aとノズル部3、7の噴出孔3a、7aとの接続部4、8のことと解してよい。しかし、上吹きランスにおいて慣用されている、噴出孔の形状がラバールノズルである場合には、ランス内管の流路とノズル部の噴出孔との接続部よりはガス流れの下流側に位置している、いわゆるノズルスロート部が本発明におけるノズルスロート部に該当する。
【0013】
この本発明に係る上吹きランスでは、図2に例示するように、ランス内管6の流路6aにおけるノズルスロートよりも上流側に位置する内壁面6dにおける、この内壁面6dに接する平面9とランス中心軸とのなす角度θが45°以上である部分6eの、ランス中心軸に垂直な面への投影面積(A)が(1)式:A/A0≧0.40を満足することが、スピッティングを抑制するために好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、転炉型精錬容器を用いて、上吹きランスから酸素含有ガスとともに粉体副原料を上吹きして溶銑を精錬する際に、スピッティングを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、単孔ランスの縦断面を示す説明図である。
【図2】図2は、単孔ランスの縦断面を示す説明図である。
【図3】図3は、モデル実験における比(S0/A0)とスピッティング発生速度との関係の測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、モデル実験における比(A/A0)とスピッティング発生速度との関係の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、比(A/A0)の調整方法の一例を概念的に示す説明図である。
【図6】図6は、単孔ラバールランスの縦断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を説明する。以降の説明では、先ず、ランス内管と1個の噴出孔を有するノズル部とを備える単孔ランスを例にとり、この単孔ランスにおけるランス内管の断面積とノズル部の噴出孔の断面積との比、さらには、ランス内管とノズル部との接続部の形状を変更した場合に、粉体がどのようにノズル部から吐出されるかを説明する。
【0017】
図1は、単孔ランス1の縦断面を示す説明図である。
図1に示すように、単孔ランス1は、ランス内管2とノズル部3とを備える。
ランス内管2は、転炉型精錬容器に収容された溶銑に吹き付ける酸素含有ガス及び粉体副原料である生石灰含有粉体の混合体の流路2aを有する。また、ノズル部3は1個の噴出孔3aを有する。噴出孔3aは、ランス内管2の先端に流路2aに連通して下方へ向けて延設される。
【0018】
ランス内管2とノズル部3とは、それぞれの中心軸2b、3bが一致するように、配置される。その接続部(ノズルスロート4)は、中心軸2b、3bに対して垂直に配置される面4aにより構成される。さらに、単孔ランス1では、流路2aの断面積A0は中心軸2bの延設方向(図1における上下方向)について一定であり、また噴出孔3aの断面積S0は中心軸3bの延設方向(図1における上下方向)について一定である。
【0019】
単孔ランス1において、噴出孔3aの半径rを一定にするとともにランス内管2の半径Rを変更することによって、ノズルスロート4における噴出孔3aの横断面積S0と、ランス内管2の流路2aの横断面積A0の最大値との比(S0/A0)を変更した複数種の単孔ランス1を準備し、これらの単孔ランス1から生石灰含有粉体を酸素含有ガスとともに、転炉型精錬容器に収容された溶銑に吹き付ける実験を行った。
【0020】
なお、流路2aの断面積A0は中心軸2bの延設方向について一定であるから、ランス内管2の流路2aの横断面積A0の最大値は流路2aの横断面積A0に一致する。
上記実験の結果、
(A)ランス内管2の半径Rを大きくして比(S0/A0)の値を小さくするほど、生石灰含有粉体がノズル部3の噴出孔3aの中心軸3b付近により多く集中・偏在して流れる傾向にあること、及び、
(B)ランス内管2の半径Rを小さくして比(S0/A0)の値を大きくするほど、生石灰含有粉体がノズル部3の噴出孔3aの内部の全域に分散して流れる傾向にあること
が判明した。
【0021】
このように、ノズル部3の形状が同一であってもランス内管2の半径Rの大きさによって、ノズル部3の噴出孔3aにおける生石灰含有粉体の流動挙動が大きく変化する。
図2は、単孔ランス5の縦断面を示す説明図である。
【0022】
図2に示すように、ランス内管6は、転炉型精錬容器に収容された溶銑に吹き付ける酸素含有ガス及び生石灰含有粉体の混合体の流路6aを有する。また、ノズル部7は1個の噴出孔7aを有する。噴出孔7aは、ランス内管6の先端に流路6aに連通して下方へ延設される。ランス内管6と、ランス内管6の先端に装着されるノズル部7とは、ランス内管6及びノズル部7それぞれの中心軸6b、7bが一致するように、配置される。さらに、ランス内管6の流路6aの半径Rは、図示を省略した上部から最下流部6cまでの間では一定であり、この間の流路6aの断面積はA0で最大である。
【0023】
そして、内壁面6dの形状を、最下流部6cから流路6aの断面積が最も狭くなるノズルスロート8までの間において、ランス内管6の半径が半径Rからノズル部7の半径rと同一になるまで徐々に減少するように、変更することによって、最下流部6cからノズルスロート8までの内壁面6dにおける、内壁面6dに接する平面9とランス中心軸とのなす角度θが45°以上である部分6eのランス中心軸6bに垂直な面への投影面積Aと、ノズルスロート8よりも上流側におけるランス内管6の最大の横断面積A0の比(A/A0)が変更された複数種の単孔ランス5を製作した。
【0024】
なお、図1に示す単孔ランス1は、ランス内壁面3dが段差状の形状を有する場合であり、図2に示す単孔ランス5は、図1に示す単孔ランス1の変形例である。
これらの単孔ランス5から生石灰含有粉体を酸素ガスとともに上吹きする実験を行った。
【0025】
その結果、単孔ランス5の比(A/A0)の値を大きくするほど、ノズル部7の噴出孔7aにおいて、生石灰含有粉体が中心軸7b付近により多く集中・偏在して流れるとともに、単孔ランス5の比(A/A0)の値を小さくするほど、生石灰含有粉体は噴出孔7aの内部の全域に分散して流れることが確認された。
【0026】
すなわち、ノズル部7の形状、及びランス内管6の流路6aの半径の最大値が同じであっても、ランス内管6からノズル部7への接続部をなすランス内壁面6dの形状によって、ノズル部7の噴出孔7aにおける粉体の流動挙動が変化するのである。
【0027】
以上の説明は、ノズル部の噴出孔が円筒形(ストレートノズル)の場合に関するものであるが、ノズル部の噴出孔がいわゆるラバール形(ラバールノズル)である場合にも同様に当てはまる。ラバール形の場合でも、ランス内管の流路2a、6aと噴出孔の流路3a、7aとの接続部の断面積とラバールノズルのスロート部の断面積との差は、本発明に係る知見に影響を及ぼすほどには実際違わない。したがって、それぞれに「噴出孔3a、7aにおいて最も横断面積が狭くなる箇所」をノズルスロート部と定義することにより、両者を共通して取り扱うことができる。
【0028】
以上のように、ノズル部3、7の噴出孔3a、7aにおける生石灰含有粉体の流動挙動には、ノズル部3、7のノズルスロート部における噴出孔3aの横断面積S0と、ランス内管2、6の流路2a、6aの最大の横断面積A0との比(S0/A0)、さらには、ランス内管2、6とノズル部3、7との接続部であるランス内壁面3d、6dの形状が影響する。具体的には、比(S0/A0)の値が小さいほど、さらには、比(A/A0)の値が大きいほど、噴出孔3a、7aにおいて生石灰含有粉体が中心軸3b、7b付近により多く偏在して流れるのに対し、比(S0/A0)の値が大きいほど、また、比(A/A0)の値が小さいほど、噴出孔3a、7aにおいて生石灰含有粉体が噴出孔3a、7aの内部の全域に均等に分散して流れることが確認された。
【0029】
そこで、ノズル部3、7のノズルスロート4、8における噴出孔3a、7aの断面積S0とランス内管2、6の横断面積の最大値A0との比(S0/A0)、さらには、ランス内管2、6とノズル部3、7との接続部であるランス内壁面3d、6dの形状が、スピッティングの発生速度に及ぼす影響を調査するため、水を用いたモデル実験を行った。
【0030】
このモデル実験では、転炉型容器としてアクリル樹脂製容器を用い、このアクリル樹脂製容器に溶銑の代りに水を収容し、ランスから粉体をキャリアガスとともに上吹きし、スピッティングを以下の手順で測定した。
【0031】
転炉型容器の直胴部の内径を570mmとし、浴深360mmの溶銑に相当する水を入れた。ポリエチレン製の粒子径0.18mm以下の粉体を、圧縮空気をキャリアガスとして、粉体供給装置から配管を通じて供給した。ランスの上部には圧力計を取り付け、ランス前のガス圧力を測定した。スピッティング量は、水面から高さ350mmの位置に吸水紙を設置して水の飛沫を採取し、実験の前後での吸水紙の重量変化から求めたスピッティング発生速度を用いて評価した。
【0032】
このモデル実験では、図1に示すように比(S0/A0)の値が0.1から0.9までの範囲で異なる複数の単孔ランス1と、図2に示すようにランス内管6とノズル部7との接続部である内壁面6dの形状を異ならせることによって比(A/A0)の値が0.1から0.9までの範囲で異なる複数の単孔ランス5とを、それぞれ準備して用いた。ただし、ノズル部3、7は、全て、直径6mm、長さが20mmのストレートノズルとした。
【0033】
スピッティング測定時には、キャリアガス流量を600l/minで一定とし、粉体供給速度を10〜1000g/minの範囲で変更し、単孔ランス1、5のノズル部3、7の先端及び水面間の距離、すなわちランス高さを300mmで一定とし、ランス前のガス圧力の測定と、水浴の挙動の観察も行った。
【0034】
まず、図1に示す単孔ノズル1において、ノズルスロート4における噴出孔3aの横断面積S0と、ランス内管2の流路2aの最大の横断面積A0との比(S0/A0)を変更した場合のスピッティングを測定した。
【0035】
図3は、モデル実験における比(S0/A0)の値とスピッティング発生速度との関係の測定結果を示すグラフである。なお、図3のグラフにおけるスピッティング発生速度は、S0/A0=0.7とした場合のスピッティング発生速度を基準値(1.0)として、スピッティング発生速度を相対値により示す。
【0036】
図3にグラフで示すように、比(S0/A0)の値が小さいほど、スピッティング発生速度が減少することがわかる。さらに、比(S0/A0)の値が変わってもランス前のガス圧力は殆ど変化しなかった。このことから、ランスから噴射されるジェットのエネルギーは変わらないものの、ノズル部3を通過する際の粉体の分布とスピッティング発生速度との間に相関があることが推測され、比(S0/A0)の値が小さいほど、粉体が噴出孔3aの中心軸3b付近に多く偏在して流れ易くなるため、スピッティングが減少するものと考えられる。
【0037】
次に、図2に示す単孔ノズル5において、比(A/A0)の値を変えた場合のスピッティングを測定した。
図4は、モデル実験における比(A/A0)の値とスピッティング発生速度との関係の測定結果を示すグラフである。なお、図4のグラフにおいても、図3においてS0/A0=0.7とした場合のスピッティング発生速度を基準値(1.0)として、スピッティング発生速度を相対値により示している。
【0038】
図4にグラフで示すように、比(S0/A0)の値が同じランス5であっても、比(A/A0)の値を変化させることによってスピッティング発生速度が変化し、比(A/A0)の値が大きいほどスピッティングが減少することがわかる。さらに、比(A/A0)の値が変わってもランス前のガス圧力は殆ど変化しなかった。このことから、上述したのと同様に、ランス5から噴射されるジェットのエネルギーは変わらないものの、ノズル部7を通過する際の粉体の分布とスピッティング発生速度との間に相関があると推測され、比(A/A0)の値が大きいほど、粉体が噴出孔7aの中心軸7b付近に多く偏在して流れ易くなるため、スピッティングが減少するものと考えられる。
【0039】
特に、図3、4のグラフを対比することから理解されるように、比(S0/A0)の値が及ぼすスピッティング発生速度への影響は、比(A/A0)の値が及ぼすスピッティング発生速度への影響よりも大きい。比(S0/A0)の値が0.6以下であるとスピッティングを抑制できるものの、比(S0/A0)の値が0.6を超えてしまうと、スピッティングが大幅に増加してしまう。ただし、比(S0/A0)の値が0.1未満であると、ランス内管2の径が非常に大きくなり、これに伴ってランス1の重量も非常に大きくなって設備コストが増加する。
【0040】
以上より、粉体上吹きランスを設計する際は、ノズル数やノズル径だけでなく、スピッティングを抑制するために、比(S0/A0)の値が0.1以上0.6以下となるように、ランス内管2の径も考慮する。同様の観点から、比(S0/A0)の値は0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。また、比(S0/A0)の値は0.57以下であることが好ましく、0.40以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、図3、4のグラフを対比することから理解されるように、比(A/A0)が及ぼすスピッティング発生速度への影響は、比(S0/A0)が及ぼすスピッティング発生速度への影響よりも小さいものの、比(A/A0)の値を0.4以上とすることにより、スピッティング発生速度を低位に抑制できる。
【0042】
したがって、粉体上吹きランスを設計する際は、ランス内管6とノズル部7との接続部である内壁面6d及び部分6eの形状も考慮し、比(A/A0)の値を0.4以上とすることが好ましい。同様の観点から、比(A/A0)の値は0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることがさらにいっそう好ましい。
【0043】
以上のモデル実験の結果から理解されるように、同じ形状のノズル部3を有するランス1や同じ形状のノズル部7を有するランス5のいずれであっても、粉体がノズル部3、7の噴出孔3a、7aの中心軸3b、7b付近に多く偏在して流れ易いように、ランス内管2、6の内径を調整し、さらには必要に応じてランス内管2、6及びノズル部3、7の接続部である内壁面3d、6d及び部分6eの形状を調整したランスを用いることによって、粉体上吹き時のスピッティングを低減可能である。
【0044】
以上の説明では、単孔ランス1、5を例にとったが、ノズル部3、7が噴出孔3a、7aを2個以上有する多孔ランスの場合にも、上記と同様に取り扱うことができる。粉体がノズル部3、7の噴出孔3a、7aの中心軸3b、7b付近に多く偏在して流れ易いようにすれば良いのであるから、噴出孔を2個以上有する場合には、横断面積S0として「噴出孔3a、7aにおいて最も横断面積が狭くなるノズルスロート部の横断面積の総和」を用いればよいだけである。
【0045】
また、必要に応じてランス内管2、6及びノズル部3、7の接続部である内壁面3d、6d及び部分6eの形状を調整するに際しても、比(A/A0)の値が大きいほど、粉体が噴出孔7aの中心軸7b付近に多く偏在して流れ易くなる事情は、単孔ランスと多孔ランスとで変わらない。
【0046】
多孔ランスは、単孔ランスに比べて、個々のジェットの運動量が低減されるため、ジェット中心の動圧が低下してスピッティングを低減できることから、転炉型精錬容器におけるガス吹込み用ランスとして一般的に使用されている。
【0047】
ガスや粉体が流れるランスの内管部は、ノズル部に至るまで、ほぼ均一の内径を有する管状となっており、ノズル部と接続する部分については、管状部の断面積を徐々に縮小したところでノズル部を接続し、ジェット進行方向に対し、通過断面積が急激に変化しないような形状に一般的に製作されているのであるが、こうした多孔ランスから粉体をガスとともに吹くと、粉体は各ノズルの中心近くに多くが集まり流れ出るのである。
【0048】
本発明者らは、別途数値流動解析で粉体の流れを解析し、内管を進行してきた粉体がノズル部に差し掛かったところにおいて、そのまま直進してノズル部には進入できない経路で進行してきた粉体の場合、内管で行着いた内壁に衝突し、その後、最も近距離のノズルの方向に進路を変え、直進してきた粉体と衝突を繰り返しながら、衝突した粉体ともども、ノズル入口中心部に向かって進行することを把握している。
【0049】
したがって、多孔ランスのノズル入口中心部に多くの粉体が集まるようにするには、粉体がノズル入口中心部に集まる最初の要因である、粉体の一部が内管を進行してきた後、ノズルに直接進入できずに一端、内管の行着いた先端部に衝突して、その粉体の進行方向が最も近いノズルの方向に向きを変えること、また、その進行方向がランス中心軸に対して大きい角度であることから、内壁に衝突しないでノズルに向かう他の粒子との衝突が多くなることを利用すればよい。
【0050】
よって、内壁に衝突した粉体がノズルの入口に進むまでの区間において、内壁に衝突してノズルに向かう他の粒子との衝突頻度を高めることのできる構造にすればよい。
そのために、粉体とガスが通るランス内の流路において、最も断面積が狭くなるノズルスロートよりも上流側の全ての内壁面について、内壁面の接平面とランス中心軸とのなす角度が45°以上のランス内壁面のランス中心軸に垂直な面への投影面積Aが、ノズルスロートよりも上流側のランス内管における断面積A0に対する割合をパラメータとして、いくつかの多孔ランスを製作し、粉体の歩留まりについて転炉を用いた溶銑脱りん実験によって調査した結果、単孔でも多孔でも、比(A/A0)の値が大きいほど、粉体が噴出孔7aの中心軸7b付近に多く偏在して流れ易くなる事情は変わらないことを確認した。
【0051】
図5は、比(A/A0)の調整方法の一例を概念的に示す説明図である。
多孔ランスにおけるランス形状、すなわち比(A/A0)の調整方法の一例として、図5に示すように、ランス内管の直径をノズルとの接続部にかけて小さくしていく方法がある。ただし、この際、ランス中心軸を通る垂直断面で図を描いた際に、ランス内管壁とランス中心軸のなす角が45°以内になるようにする。
【0052】
上記の方法によって、図5に示すように、内壁面の接平面とランス中心軸とのなす角度が45°以上のランス内壁面の、ランス中心軸に垂直な面への投影面積の合計Aを調整できる。
【0053】
この方法は、一例であって、他の方法によっても比(A/A0)を調整し、その値が0.40以上であれば、粉体が噴出孔7aの中心軸7b付近に多く偏在して流れ易くなり、粉体上吹き時のスピッティングを低減することができる。
【0054】
また、ノズルの形状は上記のストレートノズルに限らず、ラバールノズルやコンバージェント型のノズル等であっても、比(S0/A0)、及び、比(A/A0)の調整を上述のように行うことで、本発明による効果を発揮することができる。それは、ノズルへの粉体の流入の挙動は、主に、本発明で示された比(S0/A0)、及び、比(A/A0)によって決まってしまい、ノズル部の形状が粉体の挙動に及ぼす影響は非常に小さいためである。比(S0/A0)と比(A/A0)が同じであるストレートノズルとラバールノズルにおける粉体の流動挙動を流動解析によって調査した結果においても、粉体やガスの流速分布は大きく変化したが、ノズル横断面における粉体の分布変化は小さいことが確認された。したがって、本発明で明らかになった比(S0/A0)、及び、比(A/A0)の調整方法はノズル形状に関係なく、スピッティング抑制効果を得ることができるのである。
【実施例】
【0055】
成分組成が、[C]濃度=約4.5質量%、[Si]濃度=約0.3質量%、[P]濃度=約0.10%であり、温度が約1320℃である溶銑2.0トンを上底吹き転炉に装入し、上吹きランスから生石灰含有粉体を酸素含有ガスとともに溶銑へ5分間吹き付けた。
【0056】
上吹きランスは単孔ストレートランス、単孔ラバールランス、及び、5孔ストレートランスを用いた。
単孔ストレートランスは、図2に示したストレートノズルを有するランスであり、図2におけるノズル径rは9.0mm、中心軸7bの延設方向への噴出孔7aの長さは20.0mmとし、中心軸6bの延設方向への、最下流部6c及びノズルスロート8間距離は10.0mmとした。
【0057】
そして、ランスの内管径R、及び、ランス内管とノズルの接続部である6dと部分6eの形状については複数の条件の単孔ランスを用意し、比(S0/A0)や比(A/A0)の値が本発明で規定する範囲を満足する単孔ランス、あるいは満足しない複数の単孔ランスで吹錬を行った。
【0058】
図6は、単孔ラバールランスの縦断面を示す説明図である。
単孔ラバールランスは、図6に示すラバールノズルを有するランスであり、スロートである円管部の半径は9.5mm、長さは10.0mmで、スロート出口から径が拡大し、ノズル出口における半径は20.0mmとした。また、スロート出口からノズル出口部の間の距離はランス中心軸方向で10.0mmとした。
【0059】
ランスの内管径R、及び、ランス内管とノズルの接続部の形状については複数の条件の単孔ラバールランスを用意し、比(S0/A0)や比(A/A0)の値が本発明で規定する範囲を満足する単孔ラバールランス、あるいは満足しない複数の単孔ラバールランスで吹錬を行った。
【0060】
5孔ストレートランスは、図5に示した4孔ランスの形状と同様のランスを用いた。ノズルは半径rが4.0mmのストレートノズルとし、ノズル中心軸とランス中心軸のなす角は15°とした。ノズルスロート部の横断面積の総和は、rを半径とする円の面積の5倍として計算した。また、単孔ノズルの場合と同じように、ランスの内管径R、及び、ランス内管とノズルの接続部の形状については複数の条件の5孔ランスを用意し、比(S0/A0)や比(A/A0)の値が本発明で規定する範囲を満足する5孔ランス、あるいは満足しない複数の5孔ランスで吹錬を行った。
【0061】
なお、ランスの内管はノズルとの接続部等を除いては、円柱から構成されているので、内管の流路の最大の横断面積は、内管径を半径とする円の面積から求められる。
表1〜表3に示すように、比(S0/A0)の値が本発明で規定する範囲を満足するランス(本発明例1〜13)と、比(S0/A0)の値が本発明で規定する範囲を満足しないランス(比較例1〜6)を用いて吹錬を行い、単孔ストレートランス、単孔ラバールランス、及び、5孔ストレートランス使用時の各々の場合において、スピッティング量を比較した。なお、本発明例1〜3、6、7、9〜11は比(A/A0)の値が本発明で規定する好適範囲をも満足するランスである。
【0062】
生石灰含有粉体の流量は、6.0kg/minとするとともに、酸素含有ガスの流量は8.0Nm/minとし、ランス高さは、単孔ストレートランスの場合は1000mmとし、単孔ラバールランスの場合は1100mmとし、5孔ストレートランスの場合は600mmとした。
【0063】
スピッティング量は、溶銑面から高さ1000mmの位置に捕集箱を設置し、実験後に中に捕集された粒鉄の質量を測定し、単孔ストレートランスの場合は比較例1のスピッティング量を基準とし、単孔ラバールランスの場合は比較例3のスピッティング量を基準として、5孔ストレートランスの場合は比較例5のスピッティング量を基準として、単孔ストレートランス、単孔ラバールランス、及び、5孔ストレートランスの各々の場合で分けて相対的に評価した。
【0064】
本発明例と比較例の条件及び結果について、単孔ストレートランスの場合を表1にまとめて示し、単孔ラバールランスの場合を表2にまとめて示し、5孔ストレートランスの場合を表3にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表1、表2、表3に示すように、スピッティング量は、比(S0/A0)の値を0.6以下とすることによって、比(S0/A0)の値が0.6超である場合に比較して、大幅に抑制された。
【0069】
さらに、本発明例1〜3、6、7、9〜11では、比(A/A0)の値が0.4以上であるため、本発明例1〜3では比較例1の場合よりも、本発明例6、7では比較例3の場合よりも、本発明例9〜11では比較例5の場合よりも、30%以上スピッティングを低減することができた。
【符号の説明】
【0070】
1 単孔ランス
2 ランス内管
2a 流路
2b 中心軸
3 ノズル部
3a 噴出孔
3b 中心軸
4 ノズルスロート
4a 面
5 単孔ランス
6 ランス内管
6a 流路
6b 中心軸
6c 最下流部
6d 内壁面
6e 部分
7 ノズル部
7a 噴出孔
7b 中心軸
8 ノズルスロート
9 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上吹きランスから酸素含有ガスとともに粉体副原料を転炉型精錬容器に収容された溶銑へ吹き付ける溶銑の精錬方法において、
前記上吹きランスが酸素含有ガス及び粉体副原料の混合体の流路を有するランス内管と、当該ランス内管の先端に前記流路に連通して延設される1個又は2個以上の噴出孔を有するノズル部とを備える上吹きランスであって、
前記噴出孔において最も横断面積が狭くなるノズルスロート部の横断面積の総和(S0)と、前記内管の流路の最大の横断面積(A0)との比(S0/A0)が0.1〜0.6を満たすランスであること
を特徴とする溶銑の精錬方法。
【請求項2】
前記上吹きランスが前記噴出孔におけるノズルスロート部よりも上流側に位置する内壁面における、該内壁面に接する平面とランス中心軸とのなす角度が45°以上である部分の、前記ランス中心軸に垂直な面への投影面積(A)が下記(1)式を満足する請求項1に記載の溶銑の精錬方法。
A/A0≧0.40 ・・・・・・・(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251199(P2012−251199A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124147(P2011−124147)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】