説明

溶鋼の精錬方法

【課題】脱硫処理の開始から終了まで溶鋼中のAl含有量を高く保持して、溶鋼中のO活量の上昇を抑制することによって、脱硫反応の進行を促進し、低硫鋼を安定して得られる精錬方法を提供する。
【解決手段】真空脱ガス槽2の頂部に設けたランス7から酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを主成分とする脱硫用フラックス8を、キャリアガス,燃料ガス9および酸化性ガス10とともに噴射して真空脱ガス槽内の溶鋼3に吹き付ける精錬方法において、脱硫用フラックス8の供給速度を溶鋼トンあたり0.5〜0.8kg/分とし、かつ脱硫用フラックス8を吹き付ける前の溶鋼のAl含有量[%Al]MEを([%Al]SP+0.025M)以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低硫鋼を溶製するにあたって、転炉から出鋼された溶鋼を真空脱ガス槽に収容して真空脱ガス処理を行ないながら脱硫用フラックスを供給して、溶鋼中の硫黄を除去する精錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
許容されるS含有量が数十ppm以下である低硫鋼を製造するにあたって、溶銑に溶銑予備処理を施してSを除去(いわゆる脱硫)した後、転炉に送給して精錬を行なう。ところが、近年、転炉ではスクラップの使用量が増加しており、転炉に投入される炭材や鉄スクラップからSが溶鋼に混入(いわゆる復硫)するのは避けられないので、転炉から出鋼した溶鋼のS含有量が、製品規格で許容されるS含有量の上限値を超える頻度が増している。そのため、溶鋼を転炉から出鋼した後でさらに脱硫するための処理を施す必要性が高まっている。
【0003】
出鋼後の脱硫処理としては、取鍋精錬設備を用いて取鍋内の溶鋼に多量のフラックスを添加し、溶鋼を加熱しつつ攪拌することによってSを除去する方法(いわゆるLF法)が実用化されている。しかしLF法を採用すると、一連の精錬工程にLF工程が付加されることになり、低硫鋼の製造コストの上昇を招く。
そこで、LF法を採用せずに溶鋼の脱硫を行なう技術が求められている。
【0004】
たとえば、転炉から出鋼した溶鋼は、一般に介在物の低減や合金成分の調整を行なうために真空脱ガス処理(いわゆる二次精錬)を施される点に着目して、低硫鋼の溶製において真空脱ガス処理(たとえばRH脱ガス処理等)と脱硫処理を同時に行なう技術が検討されている。つまり、真空脱ガス槽の頂部に設置されたランスからフラックスを供給して、真空脱ガス槽内で脱硫処理を行なう技術である。
【0005】
特許文献1には、金属カルシウムを含有するフラックスを真空脱ガス槽内の溶鋼に供給して、脱硫処理を施す技術が開示されている。しかしこの技術では、高価な金属カルシウムを用いるので低硫鋼の製造コストの上昇を招く。
特許文献2には、フッ化カルシウムを含有するフラックスを真空脱ガス槽内の溶鋼に供給して、脱硫処理を施す技術が開示されている。しかしこの技術では、スラグにフッ素が混入するので、スラグの処理コストが上昇する。
【0006】
このような問題を解決するために、特許文献3には、酸化カルシウムと酸化アルミニウムをプリメルトしたフラックスを使用する技術が開示されている。しかし、その酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含有するフラックスは、金属カルシウムやフッ化カルシウムを含有するフラックスに比べて、脱硫能が劣るので、真空脱ガス槽内にフラックスを大量に供給しなければならない。その結果、脱硫処理に要する所要時間が延長される、あるいはフラックスの顕熱によって溶鋼温度が低下する等の問題が生じる。
【0007】
真空脱ガス槽における溶鋼温度の低下を補うためには、転炉の出鋼温度を上げて溶鋼を真空脱ガス槽に供給する、あるいは真空脱ガス槽内に酸素とともにAlを供給して燃焼させることによって溶鋼を加熱する等の対応が必要である。ところが出鋼温度を上げて転炉を操業すると、転炉における精錬コストが上昇するばかりでなく、炉壁耐火物の溶損が進行する。また、真空脱ガス槽内でAlを燃焼させると、真空脱ガス槽における二次精錬コストが上昇するばかりでなく、Alの酸化によって生じたアルミナ系介在物が溶鋼に混入するという問題が生じる。
【0008】
そこで、酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含有するフラックスを真空脱ガス槽内で使用しながら溶鋼の温度低下を抑制する技術が検討されている。
特許文献4には、酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含有するフラックスを、真空脱ガス槽の頂部に設けたランスから、キャリアガス,燃料ガス,酸素ガスとともに槽内に供給することによって、溶鋼の温度低下を抑制する技術が開示されている。つまり、ランスから燃料ガスと酸素ガスを噴射して燃焼させ、その火炎内をキャリアガスとともにフラックスを通過させることによって、溶鋼に到達する前にフラックスを加熱するものである。この技術では、酸素ガスは燃料ガスの燃焼に消費されるが、余剰の酸素ガスが溶鋼に到達し、さらにその酸素が溶鋼に溶解して、脱硫処理の進行に悪影響を及ぼす。
【0009】
脱硫処理においては、下記の(2)式の反応が進行する。この反応はOとSの置換反応であり、溶鋼中のO含有量が増加すると(2)式に示す脱硫反応の進行が停滞する。
CaO+S→CaS+O ・・・(2)
そこで溶鋼中のO含有量を低減するために、真空脱ガス槽にて溶鋼にAlを添加して酸素を除去(いわゆる脱酸)しながら脱硫処理を行なう技術が検討されている。しかしこの技術では、上記した余剰の酸素ガス中のOと溶鋼に添加されたAlとが反応してAl酸化物を生成するので、Alを添加したにも関わらず添加量に見合うAl含有量の増加は達成されない。そのため、溶鋼中のO含有量を低減する効果が得られなくなり、Oの活量が上昇して、(2)式に示す脱硫反応の進行が停滞する。
【0010】
したがって、酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含有するフラックスを、真空脱ガス槽の頂部に設けたランスから、キャリアガス,燃料ガス,酸素ガスとともに槽内に供給して脱硫処理を行なう際には、脱硫処理の開始から終了まで溶鋼中のAl含有量を高く保持することによって、溶鋼中のO含有量を低減する必要がある。
しかし、そのための技術は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003-342631号公報
【特許文献2】特開平11-6009号公報
【特許文献3】特開2008-63647号公報
【特許文献4】特開平7-41826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含有するフラックス(以下、脱硫用フラックスという)を、真空脱ガス槽(たとえばRH脱ガス槽等)の頂部に設けたランスから、キャリアガス,燃料ガス,酸素ガスとともに槽内に供給して脱硫処理を行なうにあたって、脱硫処理の開始から終了まで溶鋼中のAl含有量を高く保持して、溶鋼中のO活量の上昇を抑制することによって、上記の(2)式の脱硫反応の進行を促進し、低硫鋼を安定して得られる精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、真空脱ガス槽の頂部に設けたランスから酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを主成分とする脱硫用フラックスを、キャリアガス,燃料ガスおよび酸素ガスとともに噴射して真空脱ガス槽内の溶鋼に吹き付ける精錬方法において、脱硫用フラックスの供給速度を溶鋼トンあたり0.5〜0.8kg/分とし、かつ脱硫用フラックスを吹き付ける前の溶鋼のAl含有量を下記の(1)式を満足する範囲内に調整する溶鋼の精錬方法である。
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME ・・・(1)
[%Al]ME:脱硫用フラックスを吹き付ける前の溶鋼のAl含有量(質量%)
[%Al]SP:製品規格のAl含有量上限値(質量%)
M:溶鋼トンあたりの酸素の供給量(Nm3/ton)
本発明の精錬方法においては、[%Al]ME の上限を[%Al]SP+0.025M+αとすることが好ましい。すなわち、(1)式は
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME≦([%Al]SP+0.025M+α)
が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、真空脱ガス槽内で脱硫用フラックスを溶鋼に吹き付けて脱硫処理を行なうにあたって、脱硫反応の進行を促進し、低硫鋼を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用する装置の例を模式的に示す断面図である。
【図2】酸素ガスの供給量とAlの酸化ロスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明を適用する装置の例としてRH真空脱ガス装置を模式的に示す断面図である。取鍋1内に収容した溶鋼3に真空脱ガス槽2の浸漬管6が浸漬され、かつ吸引口4から吸引することによって真空脱ガス槽2内が減圧されて、取鍋1内の溶鋼3が浸漬管6を通って真空脱ガス槽2へ吸い上げられる。さらに、片方の浸漬管6に配設されたガス導入管5から不活性ガス(たとえばAr等)を供給することによって溶鋼3を取鍋1から真空脱ガス槽2へ上昇させるとともに、他方の浸漬管6から溶鋼3を取鍋1に下降させる。
【0017】
図1に示すような装置を用いて精錬を行なう前に、あらかじめ溶銑予備処理にて脱硫された溶銑を転炉に供給して溶鋼のCを除去(いわゆる脱炭)する。脱炭処理が終了して転炉から溶鋼を取鍋に出鋼する際には、不可避的にスラグが混入する。スラグにはFeOやMnOが多量に含有されるので、取鍋内でスラグ上面に脱酸剤(たとえばAl等)を添加して還元する。
【0018】
次に、取鍋を真空脱ガス装置へ搬送して、図1に示すように、溶鋼3を取鍋1から真空脱ガス槽2へ吸い上げた後、復硫を防止するためにスラグ固化剤(たとえば酸化マグネシウム,酸化カルシウム等)を真空脱ガス槽2内に添加して、転炉から持ち込んだスラグと溶鋼を遮断する。
次いで、真空脱ガス槽2の頂部に設けたランス7へ、脱硫用フラックス8(すなわち酸化カルシウムと酸化アルミニウムを主成分とするフラックス)をキャリアガスによって供給し、燃料ガス9および酸素ガス10とともに溶鋼3に吹き付ける。
【0019】
このようにしてランス7から燃料ガス9と酸素ガス10を噴射して燃焼させ、その火炎内をキャリアガスとともに脱硫用フラックス8を通過させることによって、溶鋼3に到達する前に脱硫用フラックス8を加熱する。しかし、脱硫用フラックス8を過剰に供給すると、火炎中を通過させても十分に加熱できないので、脱硫用フラックス8に起因する溶鋼3の温度低下が大きくなる。一方で、脱硫用フラックス8の供給量が少なすぎると、溶鋼3の脱硫反応が進行しない。したがって、脱硫用フラックス8の供給量は、溶鋼トンあたり4kg程度とすることが好ましい。
【0020】
脱硫用フラックス8の供給量は、その供給時間に応じて供給速度として規定され、脱硫用フラックス8の供給速度は溶鋼トンあたり0.5〜0.8kg/分とする必要がある。脱硫用フラックス8の供給速度が0.5kg/分未満では、燃料ガス9の燃焼時間を延長しなければならないので、酸素ガス10の供給量が増大して、溶鋼3に介在物(たとえばAl酸化物等)が混入するばかりでなく、真空脱ガス槽における二次精錬コストの上昇を招く。一方、脱硫用フラックス8の供給速度が0.8kg/分を超えると、火炎中を通過させても十分に加熱できないので、脱硫用フラックス8に起因する溶鋼3の温度低下が大きくなることに加え、脱硫剤の単位重量あたりの反応効率が低下する。
【0021】
脱硫用フラックス8の供給時間は、10分以下が好ましい。脱硫用フラックス8の供給時間が10分を超えると、酸素ガス10の供給量が増大して、溶鋼3に介在物(たとえばAl酸化物等)が混入する。一方、2分未満では、脱硫用フラックス8が火炎中を通過しても十分に加熱できない。したがって、脱硫用フラックス8の供給時間は2〜10分の範囲内が一層好ましい。
【0022】
このようにして所定量の脱硫用フラックス8を供給する間に、溶鋼3の脱硫反応が進行する。脱硫反応の進行を促進するために、脱硫用フラックス8の供給開始から供給終了まで、溶鋼3中のAl含有量を高く保持して、O活量の上昇を抑える必要がある。そこで、脱硫用フラックス8の供給を開始する(すなわち脱硫処理の開始)前に、溶鋼3に金属Alを添加してAl含有量を調整する。
【0023】
脱硫処理の開始前に行なうAl含有量の調整について以下に説明する。
真空脱ガス装置2にて脱硫用フラックス8とともにランス7から噴射される酸素ガス10のうち、燃料ガス9の燃焼に寄与しなかった余剰の酸素ガス中のOが溶鋼3中のAlと結合してAl酸化物を生成することによって生じるAlの酸化ロスは、発明者らの研究によれば、図2に示すように、酸素ガス10の供給量と相関関係を有している。酸素ガス10の供給量を溶鋼トンあたりM(Nm3/ton)とすると、Alの酸化ロス(質量%)は、下記の(3)式で近似される。つまり脱硫用フラックス8の噴射に伴う溶鋼3中のAlの酸化ロスは、酸素ガス10の供給量Mから(3)式によって推定できる。
Alの酸化ロス=0.025×M ・・・(3)
そこで、脱硫用フラックス8の供給を開始する前に溶鋼3のAl含有量(以下、[%Al]MEという)を、その溶鋼3が充当される製品の規格で許容されるAl含有量の上限値(以下、[%Al]SPという)に酸化ロス分を上乗せした値(=[%Al]SP+0.025M)以上とするように調整する。その関係を(1)式に示す。脱硫用フラックス8の供給を開始する前の溶鋼3のAl含有量[%Al]MEの調整は、転炉から取鍋1に出鋼した溶鋼3に金属Alを添加する等の方法で容易に行なうことができる。
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME ・・・(1)
その後、脱硫用フラックス8の供給を開始すれば、Alの酸化ロスが生じるので、脱硫用フラックス8の供給を終了した後の溶鋼3のAl含有量は、調整されたAl含有量[%Al]MEよりも減少する。ここで生じるAlの酸化ロスは、(1)式中の0.025M(すなわちAlの酸化ロスの推定値)とは必ずしも一致しない。そのため、脱硫用フラックス8の供給を終了した後の溶鋼3のAl含有量は、
(a)溶鋼が充当される製品の規格で許容される範囲内を満足する、
(b)溶鋼が充当される製品の規格で許容される下限値を下回る、
(c)溶鋼が充当される製品の規格で許容される上限値[%Al]SPを上回る
という3通りに分類される。
【0024】
上記の(a)の場合は、溶鋼3を真空脱ガス装置2から次工程へ送給する。
上記の(b)は稀であるが、その場合は溶鋼に金属Alを添加することによって、Al含有量を増加させ、規格で許容される範囲内を満足させる。
上記の(c)の場合は、酸素ガス10をさらに供給することによりAlの酸化ロスを生じさせて、Al含有量を低下させ、規格で許容される範囲内を満足させる。
【0025】
脱硫用フラックス8の供給を開始する前の溶鋼3のAl含有量[%Al]MEを(1)式に基づいて調整する際に、[%Al]MEを高くしすぎると、上記の(c)の発生頻度が高くなる。その結果、脱硫用フラックス8の供給を終了した後のAl含有量を[%Al]SPより低減させるために、多量の酸素ガス10を供給しなければならいので、溶鋼3に介在物が混入するばかりでなく、真空脱ガス槽における二次精錬コストの上昇を招く。そのため、脱硫用フラックス8の供給を開始する前の溶鋼3のAl含有量[%Al]MEに上限値を設けることが好ましい。つまり(1)式のAl含有量[%Al]MEを、下記の(4)式に示すように調整することが好ましい。
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME≦([%Al]SP+0.025M+α) ・・・(4)
この(4)式において、αを0.001〜0.005の範囲内とすることが一層好ましい。αが0.001未満では、Al含有量[%Al]MEの調整が極めて難しくなる。一方で、図2に示すAlの酸化ロスのデータは全て下記の(5)式で表わされる直線よりも低位にあることから、αが0.005を超えないように設定してAl含有量[%Al]MEを調整することによって、脱硫用フラックス8の供給を終了した後のAl含有量を[%Al]SPより低くすることが容易になる。
Alの酸化ロス=0.025M+0.005 ・・・(5)
以上に説明した通り、低硫鋼の溶製における脱硫用フラックス8の供給を開始する前の溶鋼3のAl含有量と脱硫用フラックス8の供給速度,酸素ガス10の供給量には密接な関係がある。本発明では、それらを規定することによって、脱硫反応の進行を促進し、低硫鋼を安定して得ることができる。
【実施例】
【0026】
溶銑予備処理にて十分に脱硫された溶銑300tonを転炉に送給して、脱炭精錬を行なった。その溶鋼が充当される製品のAl含有量の上限値[%Al]SPは0.03質量%である。
転炉にて脱炭精錬が終了して取鍋に出鋼した溶鋼にAlを100kg投入して、スラグを還元した。次いで取鍋をRH真空脱ガス装置へ搬送して、適宜、Alを追加投入した後、図1に示すように、真空脱ガス槽2の浸漬管6を溶鋼3に浸漬した。Alを追加投入した後の溶鋼3中Al含有量は、表1に脱硫用フラックス供給前の溶鋼中Al濃度として示す通りである。
【0027】
さらに取鍋1内の溶鋼3浴面のスラグからの復硫を抑止するために、真空脱ガス槽2内の溶鋼3に塊状のドロマイト500kgを添加して、スラグを固化した。
次に、ランス7から酸素ガス10と燃料ガス9(液化天然ガス:LNG)を噴射して、燃料ガス9を燃焼させ、その火炎中をキャリアガス(Arガス)とともに脱硫用フラックス8を通過させて溶鋼3に吹き付けた。脱硫用フラックス8は、カルシウムアルミネート系の脱硫材を使用し、その溶鋼トンあたりの供給速度は表1に示す通りである。酸素ガス10,燃料ガス9(LNG),キャリアガス(Arガス)の流量は表1に示す通りである。
【0028】
脱硫用フラックス8の供給が終了すると、酸素ガス10,燃料ガス9(LNG),キャリアガス(Arガス)の供給を停止し、その後、ガス導入管5から不活性ガスを10分間供給して、溶鋼3を循環させた。
そして、溶鋼3のAl含有量を測定した。脱硫用フラックス8の供給が終了した後の溶鋼3中Al含有量は、表1に脱硫用フラックス供給後の溶鋼中Al濃度として示す通りである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1中の発明例は、脱硫用フラックスの溶鋼トンあたりの供給速度が本発明の範囲を満足し、かつ脱硫用フラックスを供給する前の溶鋼のAl含有量[%Al]MEが(1)式を満足する例である。比較例のうち、比較例1は、脱硫用フラックスの溶鋼トンあたりの供給速度と脱硫用フラックスを供給する前の溶鋼のAl含有量[%Al]MEが本発明の範囲を外れる例、比較例2〜5は、脱硫用フラックスの溶鋼トンあたりの供給速度が本発明の範囲を外れる例、比較例6〜12は、脱硫用フラックスを供給する前の溶鋼のAl含有量[%Al]MEが本発明の範囲を外れる例である。なお、(1)式の左辺における[%Al]SPは0.03であり、溶鋼トンあたりの酸素供給量MはO2供給量(Nm3)を300で除した値である。
【0031】
表1中の脱硫効率指数は、単位脱硫剤原単位あたりの脱硫率(S濃度低下量/初期S濃度)を指数化したものである。脱硫効率指数が大きいほど脱硫反応が促進されることを示す。表1から明らかなように、発明例では脱硫効率指数が0.95〜1.2であったのに対して、比較例2〜12では0.1〜0.8であった。比較例1は、脱硫効率指数が1.0であったが、酸素ガス10と燃料ガス9を使用しなかったので、脱硫用フラックスを供給する前後の溶鋼の温度降下が最も大きく、45℃であった。これに対して発明例では溶鋼の温度降下は19〜31℃であり、比較例1よりも温度降下が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
真空脱ガス槽内で脱硫用フラックスを溶鋼に吹き付けて脱硫処理を行なうにあたって、脱硫反応の進行を促進し、低硫鋼を安定して得ることができるので、産業上格段の効果を奏する。
【符号の説明】
【0033】
1 取鍋
2 真空脱ガス槽
3 溶鋼
4 吸引口
5 ガス導入管
6 浸漬管
7 ランス
8 脱硫用フラックス
9 燃料ガス
10 酸素ガス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空脱ガス槽の頂部に設けたランスから酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを主成分とする脱硫用フラックスを、キャリアガス、燃料ガスおよび酸素ガスとともに噴射して前記真空脱ガス槽内の溶鋼に吹き付ける精錬方法において、前記脱硫用フラックスの供給速度を溶鋼トンあたり0.5〜0.8kg/分とし、かつ前記脱硫用フラックスを吹き付ける前の溶鋼のAl含有量を下記の(1)式を満足する範囲内に調整することを特徴とする溶鋼の精錬方法。
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME ・・・(1)
[%Al]ME:脱硫用フラックスを吹き付ける前の溶鋼のAl含有量(質量%)
[%Al]SP:製品規格のAl含有量上限値(質量%)
M:溶鋼トンあたりの酸素の供給量(Nm3/ton)
【請求項2】
前記脱硫用フラックスを吹き付ける前の溶鋼のAl含有量を下記の(4)式を満足する範囲内に調整することを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の精錬方法。
([%Al]SP+0.025M)≦[%Al]ME≦([%Al]SP+0.025M+α) ・・・(4)


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172213(P2012−172213A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36508(P2011−36508)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】