説明

溶鋼の脱硫方法

【課題】製鋼二次精錬工程における溶鋼の脱硫方法に関し、Al23介在物による脱硫能低下を抑制することで二次精錬工程での高い脱硫率を実現し、脱硫剤使用量を少なくしても低硫域まで脱硫でき、さらに耐火物溶損も軽減する方法を提供する。
【解決手段】脱炭精錬後に転炉から取鍋へ溶鋼を出鋼する際にフェロシリコンをSi換算で溶鋼1t当たり2kg以上投入し、続く二次精錬工程の真空脱ガス設備において、Alを溶鋼1t当たり0.2kg以上投入し、溶鋼を3分以上10分以下循環した後に脱硫剤をArとともに吹き込むことを特徴とする溶鋼の脱硫方法である。CaO、CaF2、MgOおよび不可避的不純物から構成され、その組成が1.0≦CaO/CaF2≦3.0を満たし、かつMgOが10質量%以上40質量%以下である脱硫剤を使用すると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼二次精錬工程における溶鋼の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を製造する際の脱硫処理は溶銑予備処理工程で行うのが一般的であるが、次の転炉工程にてスラグおよびスクラップから復硫が生じるため、低硫鋼精錬においては二次精錬工程でも脱硫処理を行って鋼材の品質要求に応じたレベルまで硫黄を低下させる。
【0003】
二次精錬時の溶鋼温度は1550〜1650℃であるため、高温で分解あるいは蒸発を起こしにくいCaO系脱硫剤が使用されている。CaOは融点が2500℃以上と高く単体では反応性に乏しいため、通常はCaF2(蛍石)、Al23、SiO2等の溶融促進剤(滓化剤)と共に使用する。特にCaF2は融点が1423℃と低いため溶融促進効果が大きく、かつCaOの脱硫能を低下させないことから、例えば特許文献1のように高効率の滓化剤として利用されている。CaF2以外の滓化剤を利用した例としては、例えば特許文献2のようにCaO、Al23、MgO等の配合比を規定した脱硫剤が開示されている。
【0004】
脱硫反応は下記式(1)で表され、溶鋼中の酸素(溶存酸素)が低いほど進行しやすい。よって脱硫処理に先立つ、転炉出鋼時あるいは二次精錬初期に金属Alを添加して脱酸処理を行うのが常である。
CaO+=CaS+ (1)
【0005】
また、出鋼時あるいは二次精錬での脱酸により、溶鋼中にはAl23介在物が生成する。このAl23介在物は粗大なクラスターを形成することが多いため、脱硫剤粒子と合体すると脱硫剤粒子中のAl23濃度が40〜50質量%以上となりサルファイドキャパシティーを大きく低下させる。そこで、特許文献3においてはAl投入から所定時間おいてAl23介在物を浮上させた後に脱硫剤を吹き込む方法、特許文献4においては脱硫剤添加前にAl23介在物除去用の粉体を吹き込む方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−59011号公報
【特許文献2】特開昭61−106706号公報
【特許文献3】特開昭62−205220号公報
【特許文献4】特開昭62−196317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3のようにAl投入から所定時間経過後に脱硫剤を吹き込む方法において、出鋼時にAlを投入する場合はAl投入直後、溶存酸素は一旦低下するが、その後は大気からの酸素吸収が起こるためAlの歩留まりは低く、大きな脱酸効果は得られにくい。また二次精錬工程でAlを投入する場合は実質10分以上溶鋼を循環させてから脱硫剤を添加することになるため、温度低下および生産性の点で好ましい方法とはいえない。
【0008】
特許文献4のようにAl23介在物除去用の粉体を事前に吹き込む方法は、使用量の適正範囲が未知のため、Al23介在物量に対して粉体量が不足の場合は脱硫能低下を抑制できず、過剰の場合は粉体が介在物として残留する。また、複数の粉体を使用することから、タンク等の新たな設備投資が必要となる。
【0009】
低硫域まで脱硫する際、特許文献1のようにCaF2を含む脱硫剤の方が特許文献2のようにCaF2を含まない脱硫剤よりも溶融速度が速いため有利である。CaF2を含まない脱硫剤の多量使用かつ長時間処理は不可能ではないが、実質的に困難である。よって脱硫剤成分としてCaF2は不可欠であるが、一方で耐火物を侵食する作用も持つため、多量に使用すると耐火物補修に伴うコストおよび非稼動時間が増大することになる。加えて、脱硫剤とAl23介在物の合体は脱硫の阻害だけでなく脱硫剤の使用量増加を招き、CaF2による耐火物溶損を助長する結果となる。
【0010】
これらの問題を鑑み、本発明は二次精錬工程での脱硫効率を高めることで従来技術より脱硫剤使用量を少なくしても低硫域まで脱硫でき、さらには耐火物の溶損も軽減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、Si脱酸を利用することで二次精錬処理前の溶存酸素を安定制御し、その後の二次精錬工程でAlを投入し、所定の時間経過後に脱硫剤を吹き込むことで高い脱硫率を得る方法を見出した。この方法では、耐火物溶損を軽減することも可能である。
【0012】
本発明は以下の構成を要旨とする。
(1)脱炭精錬後に転炉から取鍋へ溶鋼を出鋼する際にフェロシリコンをSi換算で溶鋼1t当たり2kg以上投入し、続く二次精錬工程の真空脱ガス設備において、Alを溶鋼1t当たり0.2kg以上投入し、溶鋼を3分以上10分以下循環した後に脱硫剤をArとともに吹き込むことを特徴とする溶鋼の脱硫方法。
(2)CaO、CaF2、MgOおよび不可避的不純物から構成され、その組成が1.0≦CaO/CaF2≦3.0を満たし、かつMgOが10質量%以上40質量%以下である脱硫剤を使用することを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、脱硫剤使用量を少なくしても高い脱硫率が得られ、さらに耐火物溶損も軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の最良の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
転炉で脱炭精錬を終了した溶鋼には酸素が400〜1000ppm含まれていることから、出鋼時にフェロシリコンをSi換算で溶鋼1t当たり5kg以上添加する。図1にSi添加量(kg/t)と溶存酸素(ppm)の関係を示す。5kg/t以上の領域ではSi添加量に対する溶存酸素の変化は小さいことが分かる。すなわち、5kg/t以上添加すれば溶存酸素を安定制御でき、さらに大気からの酸素吸収が起こっても溶存酸素の急激な変化は起こりにくい。
【0016】
フェロシリコン投入量の上限は最終成品Siに応じて決まる。本発明は最終成品Siが低い鋼種には適用できないが、低硫鋼は自動車用高張力鋼板のように高い強度を発現するためにフェロシリコンを添加すること多いので、そのような鋼種に対して本発明は大きな効果を発揮する。
【0017】
次に、二次精錬設備にてAlを添加して脱酸する。設備としてはRHのような真空脱ガス設備を用いれば、脱酸後の溶鋼に添加する脱硫剤粉体が含有する水分による水素ピックアップを防止することができる。図2にAl添加量(kg/t)と溶存酸素(ppm)の関係を示す。溶存酸素は0.2kg/tのAl添加により大きく低下することが分かる。よってAl添加量の下限を0.2kg/tとする。Al添加量が0.6kg/tを超えてもそれ以上の溶存酸素の低下量は小さくコストが高くなるだけなので、Al添加量の上限は0.6kg/tとすることが好ましい。
【0018】
Al添加では式(2)および(3)の反応が起こる。
Al+3=Al23 (2)
Al+3SiO2=2Al23+3Si (3)
式(2)はAlによる溶存酸素の脱酸反応、式(3)は出鋼時のフェロシリコン添加で生成したSiO2介在物をAlが還元する反応である。ここで、式(2)の反応で生成したAl23介在物は100μm超のクラスターとなるため、脱硫剤粒子と合体すると脱硫能を大きく低下させる。一方、式(3)の反応で生成したAl23介在物は粒径がおおむね50μm未満となるため、脱硫剤粒子と合体しても粒子中Al23濃度が大きく上昇することは少ない。発明者らの研究では、この場合のAl23濃度上昇は10質量%以下であり、この程度であればAl23はCaOの滓化を促進し脱硫率向上に寄与することを新たに知見した。このように、SiO2の還元により微小なAl23介在物とすることが必要であるので、出鋼時にフェロシリコンとAlを同時に添加してしまうとそのままAl23が生成してしまい、本発明の効果は得られ難くなる。
【0019】
同じAl23介在物でも、式(2)で生成する場合と式(3)で生成する場合とでは脱硫剤粒子に及ぼす影響が異なることから、Al添加後は溶鋼を循環して両者の分離を図る。ここでの循環とは取鍋から真空脱ガス設備の真空槽に溶鋼を吸引して流動させる作業を意味し、例えばRH、またはDHでの処理がそれに当てはまる。Al添加後の循環時間とAl23介在物指数の関係を図3に示す。この指数はAl添加直後のAl23介在物量を1とし、それとの相対値で表示したものである。Alを添加してから3分以上循環すれば粗大なAl23介在物は半分以下に減少するが、10分以上循環すると微小なAl23介在物も半分以下に減少する。
【0020】
図4に循環時間と脱硫率の関係を示す。脱硫率は式(4)で定義される。
脱硫率=([Si]i−[Si]f)/[Si]i×100 (4)
ここで、[S]iは初期溶鋼中S濃度、[S]fは終点溶鋼中S濃度である。循環時間が3分未満では粗大なAl23介在物と脱硫剤粒子の合体、10分超では微細なAl23介在物の減少によりいずれも脱硫率が低下するため、Al添加後の好適な循環時間は3分以上10分以下である。脱硫反応は高温ほど進行しやすいことから、長時間の循環は溶鋼温度低下の点からも好ましくない。循環時間の上限はより好ましくは5分以下である。
【0021】
式(3)の還元反応が一部の介在物で完全に起こらず、介在物がAl23−SiO2複合組成となる場合もあるが、SiO2もAl23と同様にCaOの滓化作用を有する。このときもAl23とSiO2濃度上昇の和が10質量%以下であれば良く、Al23−SiO2複合介在物であっても同じ効果を得ることができる。
【0022】
真空槽に溶鋼を吸引する浸漬管は、溶鋼面上のスラグと処理中は常に接触しており、CaF2を含む脱硫剤を使用すると最も溶損しやすくなる。しかし本発明は従来技術よりも脱硫剤使用量を少なくしても高い脱硫率が得られるため、耐火物の溶損を軽減することができる。
【0023】
さらに、本発明ではCaO−CaF2−MgO系脱硫剤を使用すると耐火物溶損を大きく抑制することができることがわかった。MgOの存在によりCaF2が希釈され、耐火物の浸食作用が抑えられるからである。但し、CaF2が希釈させるとCaOの溶融速度は遅くなって脱硫率が低下し易くなるため、好適な組成範囲がある。
【0024】
まず、CaOとCaF2の比率は1.0≦CaO/CaF2≦3.0である。CaO/CaF2<1.0ではCaF2比率が高いため耐火物の溶損が激しく、またCaO/CaF2>3.0では滓化が不十分で高い脱硫率を得にくくなる。MgOは10質量%以上40質量%以下である。MgOが10質量%未満ではCaF2希釈効果を得にくく、40質量%超では滓化が不十分になりやすい。MgOの比率はより好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
【実施例】
【0025】
転炉で脱炭精錬した溶鋼400tを取鍋へ出鋼する際にSi濃度75%のフェロシリコンを投入した。次に、二次精錬工程であるRHにてAlを投入して循環した後、取鍋に浸漬したランスからArを搬送ガスとして粉体脱硫剤を吹き込んで脱硫した。
【0026】
RH処理前S濃度は30〜40ppm、処理中の温度は1580〜1620℃、脱硫剤の吹き込み速度は50kg/分であった。この処理を表1の水準で連続5チャージずつ行った。連続処理後にはRH浸漬管(Al23−MgO系耐火物)の内径変化を測定し、1チャージ当たりの溶損量を求めた。水準1〜11は発明例、水準12〜15は比較例であり、表中で「*」の表示は、本願発明の範囲外であることを示すものである。
【0027】
【表1】

【0028】
表2に上記表1で処理した各溶鋼を用いて水準1〜15に示す脱硫剤を添加して脱硫処理を行った場合の試験結果を5チャージの平均値で示す。脱硫処理はS濃度が10ppm以下になるまで実施したが、比較例の水準12、13は脱硫の進行が遅く、長時間処理による溶鋼温度異常低下および浸漬管異常溶損の懸念があったため、処理時間30分、脱硫剤原単位3.8kg/tとなった時点で処理を終了した。
【0029】
本発明例である水準1〜11ではいずれも70%以上の高い脱硫率が得られた。特に、脱硫剤組成が1.0≦CaO/CaF2≦3.0を満たし、かつMgOが10質量%以上40質量%以下である水準4〜7では浸漬管溶損量が1チャージ当たり3mm未満に抑制された。この結果を図5および6に示す。水準1〜3あるいは水準8〜9では浸漬管溶損量が若干増大するものの1チャージ当たり5mm未満だった。また水準10および11ではS濃度を10ppm以下にするまで3.5〜3.7kg/tの脱硫剤原単位を要したが、浸漬管溶損量は1チャージ当たり3mm未満であった。
【0030】
一方、比較例である水準12は出鋼時にフェロシリコンを投入しなかったため、比較例である水準13はRHでのAl投入量が少ないため、いずれもS濃度が10ppmまで到達せず且つ浸漬管は1チャージ当たり8mm以上溶損した。比較例である水準14および15はいずれも10ppm以下までS濃度が到達したが、前者はAl投入後の循環時間が短すぎるため、後者はAl投入後の循環時間が長すぎるために3.0kg/t以上の脱硫剤を必要とし、浸漬管が1チャージ当たり6.5〜6.9mm溶損した。
【0031】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】溶鋼1t当たりのSi添加量と溶存酸素の関係を示す図である。
【図2】溶鋼1t当たりのAl添加量と溶存酸素の関係を示す図である。
【図3】Al添加後循環時間と介在物指数の関係を示す図である。
【図4】Al添加後循環時間と脱硫率の関係を示す図である。
【図5】CaO/CaF2と脱硫率および浸漬管溶損量の関係を示す図である。
【図6】MgOと脱硫率および浸漬管溶損量の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭精錬後に転炉から取鍋へ溶鋼を出鋼する際にフェロシリコンをSi換算で溶鋼1t当たり5kg以上投入し、続く二次精錬工程の真空脱ガス設備において、Alを溶鋼1t当たり0.2kg以上投入し、溶鋼を3分以上10分以下循環した後に脱硫剤をArとともに吹き込むことを特徴とする溶鋼の脱硫方法。
【請求項2】
前記脱硫剤が、CaO、CaF2、MgOおよび不可避的不純物から構成され、その組成が1.0≦CaO/CaF2≦3.0を満たし、かつ、MgOが10質量%以上40質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−260997(P2008−260997A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103951(P2007−103951)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】