説明

滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法

【課題】 かなりの量の過酸化水素が機器に吸収され、または凝縮される前に滅菌サイクルを中止できるように、滅菌チャンバ内の機器の負荷が適切であるか否かを迅速に判定する方法を提供する。
【解決手段】 滅菌チャンバ12内に負荷を配置し、滅菌チャンバを真空ポンプ14で排気し、滅菌チャンバ内の負荷を殺菌剤18の蒸気または気体と接触させ、殺菌剤18の蒸気または気体の濃度を時間の関数として過酸化水素モニタ34でモニタリングし、殺菌剤18の蒸気または気体の濃度の時間に対するグラフの曲線が時間軸との間になす面積を求め、面積から負荷の適合性を判定し、負荷は、面積が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた面積より大きいときに、適切であると判定される。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の詳細な説明〕
〔発明の属する技術分野〕
この発明は、殺菌薬の気体または蒸気、例えば過酸化水素を用いた化学的な滅菌によって滅菌される用具の負荷が許容されるものか否かを迅速に判定する方法に関する。
【0002】
〔従来の技術〕
医療用具などの物品は滅菌されなければならないことは、良く知られている。加熱する方法および化学的な方法を含む様々な滅菌方法がある。加熱する滅菌方法は、通常、蒸気を用いて行われる。蒸気からの熱および/または湿気は、傷つきやすい医療用具に損傷を与えることがある。その結果、滅菌する間に医療用具に与えられる損傷を最小にするために化学的な滅菌方法が広く用いられている。
【0003】
化学的な滅菌では、密閉されたチャンバ内でエチレンオキシド(ethylene oxide)、二酸化塩素(chlorine dioxide)、ホルムアルデヒド(formaldehyde)、または過酢酸(peracetic acid)などの滅菌用の流体を用いて医療用具を滅菌する。化学的な滅菌の1つの市販されている形態として、Ethicon,Inc.の事業部である、アメリカ合衆国カリフォルニア州アーバイン(Irvine)のAdvanced Sterilization Productsから販売されているSTERRAD(登録商標)滅菌システムがある。このSTERRAD(登録商標)滅菌システムの方法は、過酸化水素と低温ガスプラズマとを用いて医療用具を滅菌している。
【0004】
STERRAD(登録商標)滅菌システムの方法は、次のように実行される。滅菌される物品が滅菌チャンバ内に配置され、滅菌チャンバが閉じられて、真空に引かれる。過酸化水素の水溶液が滅菌チャンバ内に注入されて気化される。低温ガスプラズマが、無線周波数(RF:radio frequency)の電力を供給して電界を発生させることにより、生み出される。過酸化水素の蒸気はプラズマ中で、微生物と反応して微生物を殺す反応性の種(reactive species)に分離する。活性化された成分(反応性の種)が微生物と反応しまたは成分同士が反応した後に、それらの成分はエネルギーを失い、再結合して酸素、水、およびその他の非毒性の副産物を形成する。この過程が完了するとき、RFの電力の供給が停止され、真空状態が解除されて、滅菌チャンバは換気されて大気圧に戻される。
【0005】
この滅菌方法が有効であるためには、十分な過酸化水素が滅菌チャンバ内に導入されなければならない。滅菌チャンバ内の機器が過酸化水素と反応し、過酸化水素を吸収し、または過酸化水素を凝縮した場合、滅菌方法を有効にするための十分な過酸化水素が滅菌チャンバ内に残っていないことがある。したがって、滅菌チャンバ内の過酸化水素の蒸気の濃度がモニタリングされて、十分な過酸化水素が存在することが確かめられる。滅菌チャンバ内の機器による吸収、凝縮、または反応によって、過酸化水素が過剰に滅菌チャンバ内から除去された場合、そのサイクルは中止され、滅菌チャンバ内に残った過酸化水素は、滅菌チャンバを排気することによりおよび/またはプラズマを導入して過酸化水素を分解することにより、除去され、新たなサイクルが開始される。
【0006】
Cummingsらは、米国特許第4,956,145号において、過酸化水素の濃度がモニターされて、過酸化水素を滅菌が有効であるための飽和限界より低いレベルに保つために、過酸化水素が追加される方法を記載している。しかし、Cummingsらは、滅菌チャンバ内の機器が大量の過酸化水素を吸収し、凝縮し、または分解したことを判定する方法については記載していない。
【0007】
〔発明が解決しようとする課題〕
従来の滅菌方法は、以上のように滅菌チャンバ内の機器が大量の過酸化水素を吸収し、凝縮し、または分解したことを判定するものではないので、過酸化水素が機器に吸収または凝縮された場合、機器を安全に滅菌チャンバから取り外すために、過酸化水素を除去するのに多くの時間を必要とするという課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、かなりの量の過酸化水素が機器に吸収され、または凝縮される前に滅菌サイクルを中止できるように、滅菌チャンバ内の機器の負荷が適切であるか否かを迅速に判定する方法を提供することを目的とする。負荷の不適切さを迅速に判定できれば、滅菌チャンバ内の機器によって吸収、または凝縮された過酸化水素の量が多くなる前に、そのサイクルを中止して、過酸化水素を滅菌チャンバから除去することができるようになる。このようにして、サイクルを中止して新たなサイクルを開始するまでに必要な時間が、最小にできる。
【0009】
〔課題を解決するための手段〕
この発明に係る殺菌剤の蒸気または気体で滅菌するための負荷の適合性を判定する方法は、負荷を滅菌チャンバ内に配置する過程と、滅菌チャンバを排気する過程と、殺菌剤の蒸気または気体と滅菌チャンバ内の負荷とを接触させる過程とを有するものである。この方法は、更に、滅菌チャンバ内の殺菌剤の蒸気または気体の濃度を時間の関数としてモニタリングする過程と、滅菌チャンバ内の殺菌剤の蒸気または気体の濃度の変化率を求める過程と、変化率から負荷の適合性を判定する過程とを有する。負荷は、変化率が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた変化率より小さい場合に適切なものとされる。
【0010】
予め決められたレベルの滅菌とは、微生物が初期のレベルに対して10-6のレベルにまで削減されるものであることが好都合である。より好ましくは、負荷の適合性は、負荷が殺菌剤の蒸気または気体と接触してから100秒経過するまでに判定される。好ましい実施の形態では、濃度の変化率はlogx (c/co )の時間に対するグラフの初期の勾配から求められ、ここで、xは任意の数であり、cは殺菌剤の蒸気または気体の濃度であり、co は滅菌チャンバ内の殺菌剤の蒸気または気体の最大の濃度である。
【0011】
より好ましくは、logx は、log10(常用対数)またはln(自然対数(loge ))である。殺菌剤の蒸気または気体は過酸化水素の蒸気であると好都合である。好ましい実施の形態では、負荷は過酸化水素の蒸気に接触する前にプラズマに接触する。ある実施の形態では、負荷は初期の負の勾配が0.016秒-1以上(ここで、logx はln)である場合に不適切であると判定される。滅菌は負荷が不適切であると判定された場合に中止されるのが好都合である。滅菌の中止は、滅菌チャンバを排気すること、または滅菌チャンバ内にプラズマを発生させることで行われる。
【0012】
他の実施の形態では、負荷が不適切であると判定された場合に、更に過酸化水素が滅菌チャンバ内に追加される。モニターリングは、分光計で過酸化水素の蒸気の濃度を測定して、または過酸化水素が化合物と反応して生ずる熱の量を測定して行われるのが好都合である。
【0013】
この発明に係る殺菌剤の蒸気または気体で滅菌するための負荷の適合性を迅速に判定する方法は、滅菌チャンバ内に負荷を配置する過程と、滅菌チャンバを排気する過程と、滅菌チャンバ内の負荷を殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、滅菌チャンバ内の殺菌剤の蒸気または気体の濃度を時間の関数としてモニタリングする過程とを有するものである。この方法は、更に、時間に対するcの曲線のグラフにおいて曲線cと時間軸との間の面積を求める過程を有し、ここでcは殺菌剤の蒸気または気体の濃度である。この方法は、更に、負荷の適合性を判定する過程を有し、負荷は、面積が予め決められたレベルの滅菌が達成されるような経験的に導かれた面積よりも大きい場合に、適切であると判定される。
【0014】
より好ましくは、殺菌剤の蒸気または気体は、過酸化水素を含む。曲線cと時間軸との間の面積は、殺菌剤の蒸気または気体の濃度が最大の値である時刻から負荷と殺菌剤の蒸気または気体との接触が終了する時刻までの間の時間から求められるのが好都合である。ある実施の形態では、負荷は、曲線cと時間軸との間の面積が400mg秒/リットルより大きい場合に適切であると判定される。好ましい実施の形態では、滅菌は、負荷が不適切であると判定された場合に、中止される。
【0015】
この発明に係る殺菌剤の蒸気または気体で滅菌するための負荷の適合性を迅速に判定する方法は、滅菌チャンバ内に負荷を配置する過程と、滅菌チャンバを排気する過程と、滅菌チャンバ内の負荷を殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、殺菌剤の蒸気または気体の濃度を求める過程とを有する。この方法は、更に、濃度から負荷の適合性を判定する過程を有し、負荷は、濃度が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた濃度より大きい場合に適切であると判定される。
【0016】
より好ましくは、滅菌は、負荷が不適切であると判定された場合に、中止される。殺菌剤の蒸気または気体は、過酸化水素を含むのが好都合である。ある好ましい実施の形態では、負荷は、殺菌剤の蒸気または気体の濃度が0.47mg/リットル以上の場合に、適切であると判定される。
【0017】
〔発明の実施の形態〕
この発明の方法の実施の形態は、医療器具の負荷が、殺菌剤の気体または蒸気での滅菌に適切か否かを迅速に判定する手段を提供する。負荷が適切でない場合、大量の殺菌剤の気体または蒸気が器具に吸収され、分解され、または凝縮される前に滅菌サイクルを中止することができ、新たな滅菌サイクルを開始するのに必要な時間を短縮することができる。過酸化水素が、この発明の方法のさまざまな実施の形態で用いられる例示的な殺菌剤である。
【0018】
図面を参照すると、図1には、滅菌装置10のブロック図が描かれている。滅菌装置10およびその構成要素、およびその使用方法は、米国特許第4,643,876号および同第4,756,882号により十分に記載されている。その他の滅菌装置もこの発明の方法で用いるのに適していて、図1の滅菌装置10はこの発明の方法を限定することを意図するものではない。多くの異なる周波数および構成が、ガスプラズマを発生させるために用いることができる。ガスプラズマは、誘導性でまたは容量性で、滅菌チャンバの内側または外側の電極により発生させることができる。ガスプラズマは、更に、別のチャンバで発生されて、その別のチャンバから滅菌装置に供給されてもよい。
【0019】
滅菌装置10は、真空チャンバ12、ラインおよび弁16を介して真空チャンバ12と接続された真空ポンプ14、および弁20が内部に設けられたラインを介して真空チャンバ12と接続された過酸化水素などの適切な反応性の殺菌剤18または蒸発可能な殺菌剤の供給源を含む。滅菌装置10は、更に、適切なカップリング24によって真空チャンバ12の内側の電極32に電気的に接続されたRF発生器などのプラズマ発生器22と、弁28を備えたラインを介して真空チャンバ12に接続されたHEPA(High Efficiency Particulate Filtered Air)換気機26とを含む。プロセス制御論理部30は、好ましくはプログラム可能なコンピュータからなり、真空チャンバ12に接続された各構成要素に接続されている。プロセス制御論理部30は、適切なタイミングで真空チャンバ12に接続された各構成要素の動作を指令して、滅菌操作を実行してゆく。
【0020】
真空チャンバ12は滅菌されるべき目的物を収容し、300ミリトル以下の真空状態を保つように十分にガス密(gas-tight)である。真空チャンバ12の内側には、カップリング24を通してRF発生器22からのRF電力が供給されるRFアンテナまたは電極32が設けられていている。過酸化水素モニタ34が、真空チャンバ12に流体接続(fluidly connected)され、プロセス制御論理部30に接続されている。
【0021】
過酸化水素モニタ34は、真空チャンバ12内の気相の過酸化水素の濃度を測定することのできる任意の装置であってよい。真空チャンバ12内の過酸化水素の濃度を測定する方法には、圧力を測定するもの、近赤外(NIR)領域での過酸化水素の吸収を測定するもの、および紫外線(UV)領域での過酸化水素の吸収を測定するものがある。Cummings(米国特許第4,843,867号)によって記載された装置を用いて真空チャンバ12内の露点を測定するものなどのその他の過酸化水素をモニタリングする方法をこの発明の方法の実施の形態で用いてもよい。米国特許出願第09/468,767号は、過酸化水素がヨー化カリウム(potassium iodide)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)、カタラーゼ(catalase)、または酢酸鉄(II)(iron(II) acetate)と反応して発生する熱の量を測定して過酸化水素の濃度を求める方法を開示している。過酸化水素の濃度は、発生した熱の量と、その熱を生じた反応とから求めることができる。発生した熱の量を測定して過酸化水素の蒸気の濃度を求める方法も、この発明の実施の形態で用いるのに適している。この発明の方法の実施の形態は、真空チャンバ12内の気相の過酸化水素の濃度を測定する方法によって限定されるものではない。
【0022】
例示的なある実施の形態では、真空チャンバ12内の過酸化水素の濃度は、紫外線領域での気相の過酸化水素の濃度を測定してモニタリングされる。
【0023】
過酸化水素モニタ34は、真空チャンバ12の内側または外側に取り付けられてよい。更に、過酸化水素モニタ34の一部分が真空チャンバ12の内側に取り付けられて、過酸化水素モニタ34のその他の部分が真空チャンバ12の外側に取り付けられてもよい。
【0024】
いくつかの実施の形態では、過酸化水素モニタ34は真空チャンバ12内で移動できるものであってよい。過酸化水素モニタ34が移動できるものである場合、過酸化水素モニタ34は、滅菌されるべき医療器具が配置される棚に置くことができる。その他の実施の形態では、移動できる過酸化水素モニタ34は、負荷または滅菌されるべき医療器具のトレイが配置される棚に置くことができる。他の実施の形態では、移動できる過酸化水素モニタ34は、滅菌されるべき医療器具を収容した容器の中に配置することができる。
【0025】
この発明の実施の形態の方法が、過酸化水素以外の殺菌剤の気体または蒸気に用いられる場合には、過酸化水素モニタ34を、使用されているその殺菌剤の気体または蒸気の濃度を測定できる任意の装置にすることができる。
【0026】
STERRD(登録商標)滅菌システムの方法を用いた滅菌装置10の動作が、図2および図3に記載されていて、図2は、滅菌装置10の動作の順序を示すフロー図であり、図3は真空チャンバ12内の圧力を時間の関数として表すグラフである。図2および図3に示された滅菌方法は、例示的な滅菌方法であるが、この発明のさまざまな実施の形態の方法は他の滅菌方法に用いるのにも適したものである。
【0027】
滅菌されるべき目的物が真空チャンバ12内に配置されて真空チャンバ12が密閉された後に、プロセス制御論理部30が真空ポンプ14および弁16を動作させて真空ポンプ12を排気する(図2のステップ36)。滅菌方法が実施されている間の真空チャンバ12内の圧力の曲線38が、図3に定性的に示されている。排気ステップ36の間の圧力の曲線40が図3に示されている。真空チャンバ12は、好ましくは5000ミリトル以下の圧力まで排気され、より好ましくは200ミリトル乃至2000ミリトルまでの圧力まで排気され、最も好ましくは300ミリトル乃至1500ミリトルまでの圧力まで排気される。
【0028】
所望の圧力まで排気されると、例示的な実施の形態では、プロセス制御論理部30はRF発生器22に信号を送って真空チャンバ12内の電極32に電力を供給する。この動作は、注入前プラズマステップ(図2のステップ41)で真空チャンバ12の内側にガスプラズマを発生させる。滅菌されるべき物品は空気および水蒸気が存在する中で真空チャンバ内に積み込まれるので、注入前プラズマステップ41でプラズマを生成する残留ガスは、主に空気と水蒸気とからなる。注入前プラズマステップ41は所望に応じて行われるものであるが、注入前プラズマステップ41を実行するのが通常好ましい。
【0029】
米国特許第5,656,238号および同第6,060,019号に記載されているように、注入前プラズマステップ41では、エネルギーが真空チャンバ内の濃縮された水に伝達されるので、真空チャンバ12および真空チャンバ12内の機器の乾燥が援助される。プラズマが発生する間、真空ポンプ14は動作し続けて更に真空チャンバを排気して真空チャンバから残留ガスおよび水蒸気を除去する。注入前プラズマスップ41の間の真空チャンバ12内の圧力の曲線42が、図3に描かれている。注入前プラズマステップ41の間、真空チャンバ12内の圧力は蒸気の発生により上昇する。約0分乃至約60分までの時間が経過した後、RF発生器22は停止される。経過時間が0分ということは、所望に応じた注入前プラズマステップ41が行われないということである。
【0030】
滅菌方法の過程中のこの時点で、排気はプラズマがない状態で続けられる。RF発生器22が停止された後の真空チャンバ12内の圧力の曲線44が、図3に描かれている。例示的な実施の形態では、排気は約300ミリトルの圧力が達成されるまで続けられる。
【0031】
所望の真空の閾値に達すると、反応性の殺菌剤18が図2のステップ46で注入される。ステップ46での殺菌剤18の注入により、真空チャンバ12の内側の圧力が急速に上昇する。例示的な実施の形態では、圧力は5000ミリトル以上のレベルまで上昇する。注入期間の開始48が図3に示されている。この注入期間は約6分続く。殺菌剤18が真空チャンバ12に注入された後に、図2のステップ50で殺菌剤18が真空チャンバ12全体にわたって完全にかつ均一に拡散される。このステップ50は、反応性の殺菌剤18が真空チャンバ12内で実質的に平衡状態となるのに要する時間である約1分間乃至45分間までの時間続く。注入期間および拡散期間の間の真空チャンバ12内の圧力の曲線52が、図3に描かれている。
【0032】
拡散期間が終了した時点で、プロセス制御論理部30は、再び真空ポンプ14を駆動させ、弁16を開いて、図2のステップ54の間に真空チャンバ12を約400ミリトル乃至約2000ミリトルまでの真空に引く。ステップ54の間の真空チャンバ12内の圧力曲線56が図3に描かれている。真空チャンバ12内の圧力が約400ミリトル乃至約2000ミリトルまでに達すると、プロセス制御論理部30は、RF発生器22にRF信号を発生させるように指令し、そのRF信号が電極32に伝達される。この動作によって、ガスプラズマが図2のステップ58の間に真空チャンバ12内に発生する。このプラズマ発生ステップ58は、注入後プラズマステップとも呼ばれる。注入後プラズマステップでプラズマを生成する要素は、真空チャンバ12内に残留している、例えば過酸化水素などの反応性の殺菌剤18の分離種(dissociation species)および残留ガスの分子である。
【0033】
プラズマ発生ステップ58の開始60が図3に示されている。プラズマの発生より、図3のプラズマ発生ステップ58の開始60の後の圧力の曲線で示されているように、真空チャンバ12内の圧力がわずかに上昇する。図2の滅菌ステップ62の間、電極32には約1分間乃至約15分間にわたって電力が供給される。プラズマおよび過酸化水素が、真空チャンバ12内に存在する病原体を効果的に破壊する。注入後プラズマステップ58および滅菌ステップ62の間の真空チャンバ12内の圧力の曲線64が、図3に描かれている。滅菌ステップ62の大部分は、圧力の曲線64の残りの部分で示されているように約400ミリトル乃至約2000ミリトルまでのほぼ一定の圧力で行われる。滅菌ステップ62の終了する時点で、RF発生器22への電流が停止され、プラズマが消滅される(図2のステップ66)。
【0034】
滅菌ステップ62が完了した後、真空チャンバ12は図2の換気ステップ68の間にHEPA換気機26を通して換気される。換気ステップ68の間の真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の圧力の曲線70が、図3に描かれている。次に、真空チャンバ12が排気されて、真空チャンバ12内に存在していることがある残留した反応性の殺菌剤18が除去される。真空チャンバ12は、図3の真空チャンバ12内の圧力の曲線72によって示されているように、約300ミリトル乃至約1000ミリトルのまでの圧力まで排気される。このステップに続いて、真空チャンバ12は、図3の真空チャンバ12内の圧力の曲線74によって示されているように、HEPA換気機26を通して大気圧までに再び換気される。次に、滅菌された物品が真空チャンバ(滅菌チャンバ)12から取り出される。
【0035】
図4は、他の滅菌サイクルであるSTERRAD(登録商標)200サイクルを示す図である。図4において時間軸は一定の尺度で描かれたものではなく、曲線は定性的に描かれたものである。このSTERRAD(登録商標)200サイクルは、上述されたSTERRAD(登録商標)サイクルとは、以下に詳細に記載される2つの点を除いて、ほぼ一致している。STERRAD(登録商標)200サイクルでは、注入前プラズマステップ41の後に、図4の真空チャンバ12内の圧力の曲線42で示すように、プラズマが図4のプラズマの遮断80で示す時点で遮断される。プラズマが遮断された後、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12が、ほぼ大気圧まで換気される。換気中の真空チャンバ12内の圧力の曲線82が、図4に描かれている。注入前プラズマステップ41の後に換気することにより、電極32および真空チャンバ12の壁の熱が負荷に伝達されて、負荷を暖めることにより、滅菌の有効性が高められると考えられる。したがって、STERRAD(登録商標)サイクルに対するSTERRAD(登録商標)200サイクルの第一の相違点は、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12が注入前プラズマステップの後に換気されることである。
【0036】
例示的な実施の形態では、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12は、換気後にごくわずかの間ほぼ大気圧に保たれる。他の実施の形態では、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12は、換気後に10分間未満の間大気圧に保たれ、より好ましくは換気後に5分間未満の間大気圧に保たれ、最も好ましくは換気後に1分間未満の間大気圧に保たれる。
【0037】
換気後に、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12は、再び排気される。換気後の排気ステップの間の真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の圧力の曲線84が、図4に示されている。真空チャンバ12は、5000ミリトル未満の圧力まで排気され、より好ましくは200ミリトル乃至2000ミリトルまでの圧力まで排気され、最も好ましくは300ミリトル乃至1500ミリトルまでの圧力まで排気される。真空チャンバ12内の圧力が所望の圧力に達した後に、注入ステップにおいて過酸化水素が真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内に注入される。注入ステップの間の真空チャンバ12内の圧力の曲線86が、図4に示されている。注入は60分間未満にわたって行われ、より好ましくは20分間未満にわたって行われ、最も好ましくは10分間未満にわたって行われる。
【0038】
STERRAD(登録商標)200サイクルでは、真空チャンバ12は好ましくは注入ステップの後に換気される。換気された後の真空チャンバ12内の圧力曲線88が図4に描かれている。換気された真空チャンバ12をさらに換気することにより、過酸化水素の蒸気が内腔およびその他の拡散が制約される器具の内側へ押し込まれることが援助されて、拡散が制約された領域に対する滅菌が改善されると考えられる。真空チャンバ12は、好ましくはほぼ大気圧まで換気される。換気の後に、過酸化水素は60分間までの間拡散され、より好ましくは0分間乃至10分間までの間拡散され、最も好ましくは0分間乃至5分間までの間拡散される。注入ステップ後の拡散ステップの間に真空チャンバ12を換気する点が、STERRAD(登録商標)200サイクルがSTERRAD(登録商標)サイクルと異なる第二の点である。
【0039】
過酸化水素が注入された後に真空チャンバ12が換気されると、その後はSTERRAD(登録商標)200サイクルはSTERRAD(登録商標)サイクルと等しい。真空チャンバ12は図2のステップ54におけるのと同様に排気され、ガスプラズマが真空チャンバ12内に発生して、図2のステップ62におけるのと同様に滅菌が完了する。真空チャンバ12は換気ステップ68の間に換気され、滅菌された物品が真空チャンバ(滅菌チャンバ)12から取り出される。
【0040】
したがって、STERRAD(登録商標)200サイクルがSTERRAD(登録商標)サイクルと異なる点は、STERRAD(登録商標)200サイクルでは真空チャンバ12が注入前プラズマステップの後と、過酸化水素の注入の後との2度にわたって換気されることである。
【0041】
滅菌サイクルおよび殺菌剤18が用いられるといっても、滅菌プロセスを有効なものにするためには、真空チャンバ12内の殺菌剤18の濃度が滅菌するために十分高い値でなければならない。例示的な実施の形態では、殺菌剤18は過酸化水素からなる。注入直後の真空チャンバ12内の過酸化水素の濃度が滅菌を有効なものにするために十分高い値であったとしても、過酸化水素は凝縮、吸収および分解を含むさまざまなプロセスによって真空チャンバ(滅菌チャンバ)12から取り除かれてゆく。過酸化水素が気相状態から取り除かれた場合、過酸化水素が真空チャンバ12内の負荷を有効に滅菌するのに不十分なものになることがある。もし真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の負荷が多量の過酸化水素を分解、吸収または凝縮していることを迅速に判定できれば、その滅菌サイクルを中止してその無効なサイクルを続行することにより大量の時間を浪費する前に新たなサイクルを開始できる。
【0042】
更に、真空チャンバ12内の機器が多量の過酸化水素またはその他の蒸発可能な殺菌剤を吸収または凝縮する場合、その殺菌剤を除去するのに長い時間を要する。一般的に、作業者が真空チャンバから機器を取り出す前に、吸収されたまたは凝縮された過酸化水素またはその他の蒸発可能な殺菌剤をその機器から除去しておくことが、安全面から考えて好ましい。したがって、滅菌されるべき負荷としての機器が過酸化水素またはその他の蒸発可能な殺菌剤を吸収、凝縮または分解しているか否かを迅速に判定できることで、機器が多量の殺菌剤を吸収または凝縮する前に滅菌作業を中止して時間を節約することができる。少量の過酸化水素または蒸発可能な殺菌剤ならば、すぐに除去することができる。
【0043】
実験条件.
約270リットルの容積の真空チャンバを備えた滅菌装置であるSTERRAD(登録商標)200滅菌装置を用いた一連の実験作業が行われて、過酸化水素を用いた滅菌のための負荷の適合性を評価するための変数が決定された。図4に示されたSTERRAD(登録商標)200サイクルで実験が行われた。滅菌プロセスの実験作業が以下の条件のもとで行われた。
【0044】
【表1】

【0045】
注入前プラズマステップ41の間の真空チャンバ12内の圧力は300ミリトルおよび600ミリトルの何れかである。滅菌の有効性は、少なくともこの圧力の範囲内では注入前プラズマスの圧力にはっきりと左右されるものではなかった。過酸化水素の注入量は8.6mg/リットルおよび9.3mg/リットルのいずれかであった。滅菌の結果は、過酸化水素の注入量が少なくとも8.6mg/リットルであれば過酸化水素の量にはっきりと左右されるものではなかった。最後に、注入前プラズマの出力は380ワット(W)乃至450ワット(W)までの範囲内であった。滅菌の結果は、この出力範囲内では注入前プラズマの出力に応じてはっきりと変わるものではなかった。
【0046】
真空チャンバ内の気相の過酸化水素の濃度は、紫外線分光計および水銀灯の光源を用いて真空チャンバ(滅菌チャンバ)12の気相の過酸化水素の吸光度を測定することで、時間の関数として測定され、ここで、紫外線分光計の光路は真空チャンバ内にあった。過酸化水素の吸光度は254nmで測定され、過酸化水素の濃度は過酸化水素の濃度に対する吸光度の較正曲線との比較により求められた。
【0047】
測定された負荷のタイプ.
滅菌実験は4つの異なるタイプの負荷について行われた。
1.確認負荷(validation load)−この確認負荷は、標準として選択された広く用いられている医療器具の組立品である。確認負荷は有意の量の過酸化水素を吸収または分解しない負荷である。確認負荷は、滅菌作業が正常な動作条件のもとでは中止されることのない「問題のない」負荷である。
【0048】
2.重い負荷(heavy load)−この重い負荷は、細動除去器(defibrillator)のパドル(paddle)および細動除去器のケーブル(cable)が加えられた確認負荷である。重い負荷のうちのいくつかでは、濾紙、シリコーンマットまたは真ちゅうの細片などの滅菌するための試みが追加される。濾紙およびシリコーンマットは適度な量の過酸化水素を吸収する。真ちゅうの細片は過酸化水素を分解する。重い負荷は適度に困難な負荷として設計された。
【0049】
3.重い新しいタオル(heavy new towel)−この重い新しいタオルという負荷は、新しい布地のタオルが加えられた重い負荷である。新しい布地のタオルは、過酸化水素を吸収する材料である綿から作られている。新しいタオルが断片に切断されて、新しいタオルの断片が器具の各トレーに配置された。
【0050】
4.重い古いタオル(heavy old towel)−この重い古いタオルという負荷は、数回洗濯された布地の古いタオルが加えられた重い負荷である。古いタオルが断片に切断されて、古いタオルの断片が器具の各トレーに配置された。布地の古いタオルは、タオルに吸収される過酸化水素の量を増加することが見出された。
【0051】
実験結果.
微生物の植え付けられたクーポン(coupon)およびさまざまな負荷を収容したトレーが、滅菌ラップで包まれて滅菌テープで密閉された。次に、トレーが真空チャンバ12内に配置されて表1に示された滅菌条件で処理された。過酸化水素が、等しい大きさの2回の連続した注入によって真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内に注入された。注入された過酸化水素は59重量%の過酸化水素の水溶液であった。過酸化水素の量(mg/リットル)は、純粋な過酸化水素をベースとして計算された。
【0052】
滅菌プロセスの有効性は、生物学的指標(BIs)としてバシラス−ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)の胞子の106 超過を植え付けられたステンレス鋼のクーポンを3mm×400mmのステンレス鋼の内腔内に配置することにより判定された。ステンレス鋼の内腔は、滅菌されるべき医療器具の負荷と共に二重に包まれた滅菌トレー内に配置された。滅菌サイクルの終了時点で、BIsが内腔から回収されてTSB(Tryticase soy broth)培地の管の中に配置されて、14日の間55度乃至60度の温度で培養された。次に、生物学的活性が決定された。
【0053】
真空チャンバ12内の気相の過酸化水素の濃度が紫外線過酸化水素モニタによって時間の関数としてモニタリングされた。真空チャンバ12内の圧力も時間の関数としてモニタリングされた。滅菌サイクルが完了した後に、真空チャンバ12は換気されて、器具が取り出され、微生物が植え付けられたクーポンが培地内での成長の試験を行われた。時間の関数としての過酸化水素の濃度のデータが、数日にわたって分析された。滅菌の結果と過酸化水素の濃度のデータを分析したさまざまな方法の概要が、以下の表2に示されている。
【0054】
【表2】



【0055】
用語Cf 、Co 、Po およびPf の定義は、以下により詳しく記載される。
【0056】
表2の作業は、負荷のタイプおよび作業の条件によってグループに分類されている。以下の表3は、滅菌作業のさまざまなグループ対する負荷のタイプと作業の条件についての情報をまとめたものである。
【0057】
【表3】

【0058】
グループは、負荷のタイプ、過酸化水素の濃度、負荷の初期の温度、負荷のトレーの数、および、注入前プラズマ処理の長さが異なっている。
【0059】
グループ3の作業91乃至12では、40.64cm×63.5cm(16インチ×25インチ)の寸法のタオルが等しい寸法の8個の断片に切断された。タオルの1つの断片が作業91乃至12のトレーに配置された。したがって、この作業のトレーは1/8のタオルを収容している。グループ3およびグループ4のその他の作業では、タオルは等しい寸法の6個の断片に切断されて、6個のトレーの各々に断片1つが配置された。同様に、グループ7およびグループ8の作業では、タオルは等しい寸法の4個の断片に切断されて、4個のトレーの各々に断片1つが配置された。
【0060】
滅菌の結果.
滅菌の結果が表2に示されている。大まかに言って、滅菌の結果は、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内に配置された負荷のタイプと十分に相関を有するものである。すなわち、表2のグループ1、グループ5およびグループ6は、その他のグループの負荷よりも刺激的ではない負荷である確認負荷を用いている。確認負荷を用いた全ての作業において生物学的指標はすべて負の成長を示した。
【0061】
確認負荷を用いたグループ5およびグループ6の作業では、負荷は最初に5℃に冷却されて、病院の冷凍された準備室に貯蔵された負荷が直ちに滅菌チャンバ内に配置された状況を模擬した。冷却された負荷は、過酸化水素の一部を凝縮するので、滅菌サイクルの少なくとも初期において真空チャンバ12内の気相の過酸化水素の一部を除去する。冷却された負荷を用いたグループ5およびグループ6の作業において生物学的指標はすべて負の成長を示した。したがって、冷却された確認負荷を用いた滅菌は、負荷の温度が低いにもかかわらず有効であった。
【0062】
グループ5の作業では、冷却された負荷は15分間注入前プラズマにさらされた。注入前プラズマは、負荷から水を除去するのに加え、負荷を加熱して、少なくともある程度は、負荷が真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内に配置されたときに負荷の低い温度を中和する(負荷の温度を上昇させる)。一方、グループ6の作業では、冷却された負荷は注入前プラズマにはさらされない。グループ5の作業とは異なり負荷が注入前プラズマによって暖められないにもかかわらず、全ての生物学的指標が負の成長を示した。
【0063】
重い負荷を用いたグループ2の作業では、滅菌作業は、1つの生物学的指標(BI)が成長を示した(1つの正のBIを伴う)初期の量子的領域(initial quantal region)にあった。重い負荷および新しいタオルを用いたグループ3の作業では、有意な数の正のBIを伴う中間の量子的領域(mid-quantal region)にあった。新たなタオルは、過酸化水素を吸収するセルロース(cellulose)から作られている。重い負荷および古いタオルを用いたグループ4の作業でのBIは、全て正であった。数回洗濯されたタオルからなる古いタオルは、新しいタオルに比べてより多くの過酸化水素を吸収することが見出された。グループ3およびグループ4の作業に対する滅菌結果は、グループ4の作業の古いタオルがグループ3の作業の新しいタオルよりも多くの過酸化水素を吸収するという事実と矛盾しないものであった。
【0064】
同様に、グループ7およびグループ8の作業において作業に用いる確認負荷に1つまたは2つのタオルを加えることにより、確認負荷のみでタオルを用いないグループ1、グループ5およびグループ6の作業ではすべて負のBIであったのに比べ、少数の正のBIが導かれた。タオルが過酸化水素を吸収するので、滅菌プロセスの間に真空チャンバ内の利用できる気相の過酸化水素の量が低減された。
【0065】
したがって、負荷のタイプは、滅菌プロセスの有効性と強い相関を有する。予め負荷の特性を知っていれば、すなわちその負荷が過酸化水素を吸収、凝縮または分解するか否かを知っていれば、その負荷の好ましくない特性によってその作業を中止しなければならないか否かを判定するとこができる。
【0066】
普通は、滅菌されるべき負荷が過酸化水素を吸収、凝縮または分解するか否かを予め知ることはない。したがって、負荷が、確認負荷、冷却された負荷、重い負荷、重く新しいタオルの負荷、および重く古いタオルの負荷のうちのいずれの負荷のようにふるまうかを予め知ることはない。負荷が有意の量の過酸化水素を吸収、凝縮または分解するのでその負荷が滅菌には不適切であることを迅速に判定できれば、その滅菌作業を直ちに中止して新たな滅菌作業を開始する前にその負荷から不適切な物質を除去することができる。
【0067】
データの分析.
真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の気相の過酸化水素の濃度が、滅菌作業の間に時間の関数として測定された。観測されたデータがさまざまに分析されて、負荷の滅菌に対する適合性を迅速に判定する方法が求められた。
【0068】
気相の過酸化水素の濃度の変化率が、次のマスバランス(mass balance)方程式で表現される。
dc/dt=流れ込む(質量/体積)の流速−流れ出る(質量/体積)の流速−反応による(質量/体積)率
【0069】
ここで、dc/dtは、真空チャンバ12内の気相の過酸化水素の濃度の時間変化率である。流れ込む(質量/体積)の流速および流れ出る(質量/体積)の流速は、各々、真空チャンバ12に流れ込むおよび真空チャンバ12から流れ出る過酸化水素の対流による流速に等しい。反応による(質量/体積)率は、凝縮、反応、吸収および分解を含む任意の形態の過酸化水素の減量である。
【0070】
滅菌装置の系は、過酸化水素が注入された後は閉じた系として取り扱われる。したがって、対流による流速は0であり、すなわち、流れ込む(質量/体積)の流速=流れ出る(質量/体積)の流速=0である。過酸化水素が時刻t=0で1弾として注入され、反応が一次的であると仮定すると、
dc/dt=−kc
となり、ここで、kは気相からの過酸化水素の減量に関する変化率を表す定数である。
【0071】
方程式は、次のように変形されて、積分形式で表現される。
【数1】

ここで、co は初期時刻to での気相の過酸化水素の濃度であり、cは任意の時刻tでの気相の過酸化水素の濃度である。時間の関数としての過酸化水素の濃度を初期の過酸化水素の濃度で除算することにより、濃度が正規化されて除算による商が無次元となる。
o =0のとき、ln(c/co )=−kt
【0072】
過酸化水素の減量率が一次動力学(first-order kinetics)に従うならば、時間に対するln(c/co )の曲線は、傾きが−kの直線となる。時間に対するlog10(c/co )の曲線は、傾きが−mの直線となり、ここでk=2.3mである。より一般的には、時間に対するlogx (c/co )の曲線は、その傾きがxに応じて変わる直線となり、ここでxは任意の数である。
【0073】
時間に対する過酸化水素の減量のグラフ.
図5乃至図8は、確認負荷(図5)、重い負荷(図6)、新しいタオルと重い負荷(図7)、および古いタオルと重い負荷(図8)の時間に対するln(c/co )のグラフである。真空チャンバ12内の過酸化水素の濃度が最大の濃度に達した時刻を時間t=0として選択し、過酸化水素の最大の濃度をco とした。確認負荷(作業34−1−3)を用いた滅菌作業についての図5に良く表されているように、時間に対するln(c/co )の曲線は短時間にわたっては直線的(線形的)で、長時間にわたっては直線性(線形性)からはずれている。短時間にわたっては、過酸化水素の減量は、吸収および凝縮による減量モードをその主な原因とすると考えられる。初期の減量期間の後に、真空チャンバ内および機器の凝縮および吸収部位が飽和するので、過酸化水素の減量速度が低下する。長時間にわたる過酸化水素の蒸気の濃度の減量は、通常は凝縮および吸収よりも遅いプロセスである過酸化水素の分解を原因とすると考えられている。曲線の初期の部分では、過酸化水素の分解は、より速い過酸化水素の凝縮および吸収に「埋もれて」いる。長時間にわたっては、凝縮および吸収の速度が低くなり、過酸化水素の分解の速度が観測される。
【0074】
図6は、重い負荷を用いた作業(作業46−6−2)についての時間に対するln(c/co )の曲線を表している図である。過酸化水素の濃度の急速な減少は、図5の確認負荷に比べてより長い時間にわたって続いている。図6に示された重い負荷を用いた作業では、図5に示された確認負荷を用いた作業に比べ、過酸化水素がより多く吸収および/または分解された。
【0075】
図7は、新しいタオルを含む負荷を用いた作業(作業91−12)についての時間に対するln(c/co )の曲線を表している図である。図7の曲線の左側部分と右側部分の両方とも、確認負荷および重い負荷についての図5および図6の曲線よりも急勾配であり、図6の重い負荷を用いた作業および図5の確認負荷を用いた作業に比べて新しいタオルを含む負荷を用いた図7の作業ではより多くの吸収および/または分解が起こっていることを示している。
【0076】
図8は、古いタオルを含む負荷を用いた作業(作業c12038)についての時間に対するln(c/co )の曲線を表している図である。図8のy軸は、図5、図6および図7のy軸とは異なる目盛りになっている。古いタオルを含む負荷を用いた作業についての曲線は、短時間および長時間の両方にわたって、図6に示された重い負荷を用いた作業についての曲線および図7に示された新しいタオルを含む負荷を用いた作業についての曲線よりも急勾配となっている。図8の古いタオルを含む負荷を用いた作業での過酸化水素の吸収および/または分解の速度は、図5の確認負荷を用いた作業、図6の新しいタオルを含む負荷を用いた作業、および図7の古いタオルを含む負荷を用いた作業のいずれの作業よりも速い。
【0077】
図5乃至図8に示された時間の経過に伴う過酸化水素の減少を示す曲線は、表2に示され滅菌条件と相関を有する。図5の曲線によって例示されているグループ1の確認負荷の滅菌は、図6の曲線によって例示されているグループ2の重い負荷の滅菌よりも、より効果的であった。同様に、グループ2の重い負荷の滅菌は、図7の曲線によって例示されているグループ3の新しいタオルを含む重い負荷の滅菌よりも、より効果的であった。次に、グループ3の新しいタオルを含む重い負荷の滅菌は、図8の曲線によって例示されているグループ4の古いタオルを含む重い負荷の滅菌よりも、より効果的であった。したがって、これらのグループは、滅菌がどのように有効となるかを定性的に表している。
【0078】
初期の傾き.
短時間にわたっては、過酸化水素の濃度の減少は、吸収および凝縮の減量モードを原因とすると考えられる。その後の時間では、減少は過酸化水素の分解を原因とすると考えられる。したがって、時間に対するln(c/co )の曲線の初期の部分は、負荷のタイプの特徴を表している。図5乃至図8の時間に対するln(c/co )の曲線のグラフに表れているように、過酸化水素の濃度がピークに達した後の最初の約50秒間の曲線は、図5乃至図8の全てのグラフにおいてほぼ直線的(線形的)になっている。したがって、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の過酸化水素の蒸気の濃度が最大の濃度に達した後の最初の50秒間の曲線は、吸収および凝縮の減量モードを示す曲線の部分として選択された。
【0079】
過酸化水素と反応する有意の量の物質を含む負荷は、更に、初期の負の傾きを大きくする。真空チャンバ12内の過酸化水素の蒸気の濃度が最大値に達した後の最初の50秒間の曲線の初期の傾きが、表2において初期の傾き−kとして記載されている。表2の初期の傾きは、データの記録を簡単にするために初期の傾きの符号を反転した(負の)値が記載されている。全ての場合において、初期の傾きは、負の数値であることを注意しておく。
【0080】
過酸化水素が最大の濃度となった後の50秒間を初期の傾きが測定される期間として選択したが、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の過酸化水素の濃度が最大となった後のその他の時間間隔が、時間に対するln(c/co )のグラフの初期の傾きの特性として選択されてもよい。初期の傾きは、過酸化水素の蒸気が最大の濃度になった後の100秒未満の時間で測定されてよく、より好ましくは過酸化水素の蒸気が最大の濃度になった後の75秒未満の時間で測定され、最も好ましくは過酸化水素の蒸気が最大の濃度になった後の25秒未満の時間で測定される。例示的な実施の形態では、初期の傾きは真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の過酸化水素の蒸気が最大の濃度になった後の約50秒間で測定される。
【0081】
表2に表されているように初期の傾きは負荷のタイプに応じて明らかに変化する。確認負荷を用いたグループ1の作業についての初期の傾きは、0.008秒-1乃至0.011秒-1までの範囲にあり、平均値は0.00983秒-1であった。グループ1の確認負荷での全てのBI(生物学的指標)は負の成長を示し、すべての場合において滅菌が有効であることが示された。
【0082】
重い負荷を用いたグループ2の作業についての初期の傾きは、0.012秒-1乃至0.017秒-1までの範囲にあり、平均値は0.0145秒-1であった。グループ2の重い負荷での60個のBIのうち1つのBIのみが正の成長を示し、滅菌が量子的領域(quantal region)にあることが示された。
【0083】
重い負荷および新しいタオルを用いたグループ3の作業についての初期の傾きは、0.019秒-1乃至0.028秒-1までの範囲にあり、平均値は0.0243秒-1であった。グループ3の重い負荷および新しいタオルでのBIのうち全体の14/30のBIが正の成長を示した。
【0084】
重い負荷および古いタオルを用いたグループ4の作業についての初期の傾きは、0.025秒-1乃至0.039秒-1までの範囲にあり、平均値は0.032秒-1であった。グループ4の重い負荷および古いタオルでの20個のBIのすべてが正の成長を示した。
【0085】
冷却された確認負荷および15分間の注入前プラズマを用いたグループ5の作業についての初期の傾きは、0.008秒-1乃至0.012秒-1までの範囲にあり、平均値は0.0095秒-1であった。グループ5での72個の全てのBIは負の成長を示し、滅菌が有効であることが示された。
【0086】
注入前プラズマを用いずに冷却された確認負荷を用いたグループ6の作業についての初期の傾きは、0.013秒-1乃至0.023秒-1までの範囲にあり、平均値は0.0164秒-1であった。グループ6での全てのBIは負の成長を示し、滅菌が有効であることを示した。
【0087】
確認負荷および1つのタオルを用いたグループ7の作業についての初期の傾きは、0.018秒-1乃至0.021秒-1までの範囲にあり、平均値は0.0195秒-1であった。グループ7でのBIのうち全体の4/72のBIが正の成長を示した。
【0088】
確認負荷および2つのタオルを用いたグループ8の作業についての初期の傾きは、0.027秒-1乃至0.029秒-1までの範囲にあり、平均値は0.028秒-1であった。グループ8でのBIのうち全体の3/73のBIが正の成長を示した。
【0089】
時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾きは、凝縮および吸収を原因とする気相の過酸化水素の減量に対する反応速度の定数(−k)を表している。初期の傾きは負荷のタイプに応じて大きく変わり、確認負荷に対しては0.010秒-1であり、重い負荷に対しては0.015秒-1であり、冷却された負荷に対しては0.016秒-1であり、タオルを含む重い負荷に対しては0.020秒-1超過であった。したがって、初期の反応速度の定数は、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内に存在する負荷のタイプを表示するのに用いられる。負荷のタイプが滅菌の有効性に対する相関を示しているので、どのタイプの負荷が真空チャンバ12内に存在するかを知ることにより、その滅菌プロセスが有効となるか否かを判定することができる。
【0090】
時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾きは、例えば表2の結果では50秒というように、過酸化水素の濃度のピークに達した後に迅速に判定することができるので、滅菌プロセスに対する負荷の適合性を、滅菌プロセスを開始した後に迅速かつ簡便に判定できる。負荷が過酸化水素の吸収、凝縮または分解を原因として滅菌プロセスに適合しないものである場合、滅菌作業を迅速に中止することができ、適合しない物質を負荷から除去した後に他の滅菌サイクルを開始することができるようになる。
【0091】
実験によって求められたデータからの許容される傾きは、大まかに言って、少なくとも6logに、すなわち初期のレベルに対して10-6以下に微生物が減少するように定められる。表2に示された初期の傾きおよび滅菌データに基づいて、時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾きに−を1かけた値が、0.016秒-1以下のときに、その滅菌作業は中止されるべきであり、より好ましくは0.014秒-1以下のときに、その滅菌作業は中止されるべきであり、最も好ましくは0.013秒-1以下のときに、その滅菌作業は中止されるべきである。ここで、初期の傾きは、過酸化水素の濃度がそのピークの濃度に達した後のほぼ最初の50秒間の傾きである。
【0092】
他の殺菌剤の蒸気または殺菌剤の気体についても同様の一連の実験をおこなって、そのような他の殺菌剤の蒸気または殺菌剤の気体についての時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾きの限定値を実験的に求めることができる。この発明の方法に用いるのに適した蒸発可能な殺菌剤としては、限定を意図するものではないが、過酢酸(peracetic acid)およびホルムアルデヒド(formaldehyde)がある。適切な殺菌剤の気体としては、限定を意図するものではないが、二酸化エチレン(ehtylene dioxide)および二酸化塩素(chlorine dioxide)がある。
【0093】
最終的な過酸化水素の濃度.
最終的な過酸化水素の濃度は、負荷の適合性を表すもうひとつの適切な指標である。最終的な濃度は、排気して注入後プラズマを発生させる前に、拡散ステップ50の終了時点で測定される。表2のグループ1の確認負荷を用いた作業では、過酸化水素の最終的な濃度Cf は0.86mg/リットル乃至1.02mg/リットルであり、全てのBI(生物学的指標)が負の成長を示した。
【0094】
重い負荷を用いたグループ2の作業では、過酸化水素の最終的な濃度は、0.46mg/リットル乃至0.51mg/リットルであり、BIは量子的領域の境界にあった。
【0095】
重い負荷およびタオルを用いたグループ3およびグループ4の作業では、過酸化水素の最終的な濃度は、0mg/リットル乃至0.24mg/リットルまでの範囲にあり、多くのBIが正の成長を示した。
【0096】
負荷が滅菌に適さない場合、その負荷は過酸化水素を吸収、凝縮または分解し、真空チャンバ内の過酸化水素の濃度が減少する。過酸化水素の濃度が減少しているので、最終的な濃度も減少し、滅菌が有効ではなくなる。
【0097】
したがって、真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の過酸化水素の最終的な濃度は、負荷の滅菌に対する適合性を示すもうひとつの指標として使える。真空チャンバ(滅菌チャンバ)12内の過酸化水素の最終的な濃度が、0.47mg/リットル以上のとき、より好ましくは0.86mg/リットル以上のとき、最も好ましくは0.90mg/リットル以上のとき、作業者はその滅菌が有効であることを確かめられる。過酸化水素の最終的な濃度の限定値は、滅菌サイクルの条件に応じて変わる。滅菌サイクルの時間および温度によっては、より低い濃度が有効となる。
【0098】
過酸化水素の最終的な濃度を負荷の適合性の判定に用いる場合、過酸化水素の最終的な濃度は、拡散期間が終了してから、すなわち過酸化水素が注入されてから約1分乃至45分までの時間が経過してから求められる。
【0099】
これとは対照的に、時間に対するln(c/co )の曲線の傾きは過酸化水素の濃度がピークに達してから約1分後に求めることができる。時間に対するln(c/co )の曲線の傾きが、滅菌に適さない負荷と一致するときには、その滅菌作業を中止して新たなサイクルを開始できるので、たくさんの時間を節約でき、器具および作業者の両方の効率を高めることができる。更に、迅速に中止することで、器具が過酸化水素を吸収または凝縮する時間がほとんどなくなり、器具から過酸化水素を除去するための時間を最小にできる。
【0100】
最終的な濃度の指標は、おそらく、グループ1の確認負荷とグループ2の重い負荷とを明確に区別するのに最も有効なものである。グループ1の確認負荷に対する過酸化水素の最終的な濃度の平均値が0.92mg/リットルであったのに対して、グループ2の重い負荷に対する過酸化水素の最終的な濃度の平均値は0.48mg/リットルであった。したがって、最終的な濃度は、グループ1の確認負荷とグループ2の重い負荷とを明確に区別する。
【0101】
真空チャンバ12内に十分な過酸化水素がない場合には、負荷を滅菌できないことは明らかである。したがって、真空チャンバ12内の過酸化水素の濃度は、注入ステップ46が完了するまで待たずに求められる。過酸化水素の濃度が許容レベルより低くなると、直ちに滅菌サイクルが中断または中止される。したがって、注入ステップ46は、その注入ステップ46が行われることが計画されている期間の間に、真空チャンバ内に注入された過酸化水素の蒸気の濃度が許容される値に達した時点で終了とされる。この場合、滅菌サイクルは許容されるサイクルであると考えられて、正常なサイクルの残りの過程が実行される。
【0102】
代わりに、注入ステップ46は、気相の過酸化水素の濃度が許容される値より低くなった時点で終了されてもよい。この場合、滅菌サイクルは許容されないサイクルであると考えられ、その滅菌サイクルは中止されて、新たな滅菌サイクルが開始される。
【0103】
曲線が時間軸との間になす面積.
表2の曲線が時間軸との間になす面積は、負荷のタイプによって変わるひとつの指標によって注入ステップの間の濃度の変化を表している。その面積は、注入が開始された時点から、または過酸化水素の濃度が最高になった時点から計算される。表2の面積は、過酸化水素の濃度が最高になった時点から測定されたものである。
【0104】
グループ1の確認負荷を用いた作業についての曲線が時間軸との間になす面積の平均値は、512mg・秒/リットルであり、グループ2の重い負荷を用いた作業では399mg・秒/リットルであった。グループ3の重い負荷および新しいタオルを用いた作業では曲線が時間軸との間になす面積の平均値は177mg・秒/リットルに減少し、グループ4の重い負荷および古いタオルを用いた作業では、面積の平均値は97mg・秒/リットルに減少した。曲線のなす面積は、好ましくは400mg・秒/リットル超過であり、より好ましくは450mg・秒/リットル超過であり、最も好ましくは500mg・秒/リットル超過である。
【0105】
したがって、曲線が時間軸との間になす面積は、負荷の適合性を示す指標として使用できる。しかし、曲線が時間軸との間になす面積は、注入ステップ46が終了するまで求められず、初期の傾きを求める方法に比べて、滅菌作業のうちの後のほうで求められる。曲線が時間軸との間になす面積を求める方法は、その他の方法に比べて、グループ1の確認負荷とグループ2の重い負荷とをより良好に区別するものなので、広く用いることができる。グループ1の負荷をグループ2の負荷と区別するためのより有効な唯一の方法は、過酸化水素の最終的な濃度を求める方法である。
【0106】
したがって、時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾きを求める方法が、滅菌に対する器具からなる負荷の適合性を判定する便利で迅速な方法である。負荷をなす器具が有意の量の過酸化水素を吸収、凝縮または分解する場合、曲線の初期の傾きは、負荷をなす器具が滅菌に適したものである場合に比べて、より急勾配となる。器具が滅菌に適していない場合、その滅菌作業を中止できるので、作業員の時間が節約され、器具によって吸収または凝縮される過酸化水素の量を最小にできる。
【0107】
初期の傾きを求める方法をその他の蒸発可能な殺菌剤を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定するために用いる場合、許容される滅菌をもたらす初期の傾きの範囲は実験的に求められる。
【0108】
負荷の適合性は、過酸化水素の最終的な濃度または曲線が時間軸との間になす面積によっても判定できる。許容される負荷に対しては、注入ステップ46での注入時間は、負荷が確実に滅菌される予め決められた注入時間とされる。許容されない負荷に対しては、注入ステップ46の注入時間は、プロセス制御論理部30が許容されない濃度または許容されない面積を検出するまでの時間となる。許容されない負荷に対しては、滅菌サイクルは直ちに中止されて、負荷に吸収または凝縮される過酸化水素の量を最小にする。
【0109】
図9は、蒸発可能な殺菌剤または殺菌剤の気体を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定するための決定ツリーを表しているフロー図である。この発明の方法の実施の形態では、真空チャンバは第一の圧力まで排気される(図9のステップ36)。所望に応じてプラズマが真空チャンバ内に導入されて、滅菌されるべき器具を乾燥させる(図9のステップ41)。次に、反応性の殺菌剤が真空チャンバ内に注入される(図9のステップ46)。大まかに言って反応性の殺菌剤を注入する前に真空チャンバ内にプラズマを導入するのが好ましいが、プラズマの導入は所望に応じて行われるもので必須のものではない。
【0110】
反応性の殺菌剤を注入した後に、負荷の適合性が判定される(ステップ100)。負荷の適合性は、限定を意図するものではないが、時間に対するln(c/co )の曲線の初期の傾き、時間に対するlog10(c/co )の曲線の初期の傾き、時間に対するln(c/co )の曲線が時間軸との間になす面積、時間に対するlog10(c/co )の曲線が時間軸との間になす面積、または最終的な反応性の殺菌剤の濃度を用いる方法を含む任意の適切な方法によって判定される。
【0111】
負荷が適したまたは許容されるものである場合(ステップ102)、その滅菌サイクルは続行される(ステップ104)。負荷が適さないまたは許容されないものである場合(ステップ106)、その滅菌サイクルは中止される(ステップ108)。代わりに、負荷の非許容性を克服するために、更に反応性の殺菌剤が注入されてもよい(ステップ110)。反応性の殺菌剤が2度目に注入された後も(ステップ110からステップ100に戻る)負荷が依然として許容されないものである場合(ステップ106)、その滅菌サイクルを中止する(ステップ108)のが好ましい。
【0112】
この発明の方法が、例として過酸化水素を用いるものとして説明されたが、この発明の方法を任意の蒸発可能な殺菌剤または殺菌剤の気体に用いることもできる。蒸発可能な殺菌剤または殺菌剤の気体の各々についての時間に対するln(c/co )の曲線の許容される傾きは、本明細書中で過酸化水素を例として記載したさまざまなタイプの負荷を用いた一連の実験を実行して求められる。
【0113】
この発明の方法の実施の形態が、蒸発可能な殺菌剤に用いられた場合、その蒸発可能な殺菌剤は、負荷をなす器具によって吸収、分解または凝縮されてよい。この発明の方法の実施の形態が、殺菌剤の気体に用いられた場合、その殺菌剤の気体は、負荷をなす器具によって吸収、分解または凝縮されてよい。
【0114】
この発明の方法の実施の形態に適した蒸発可能な殺菌剤の例としては、限定を意図するものではないが、過酢酸(peracetic acid)およびホルムアルデヒド(formaldehyde)がある。この発明の方法の実施の形態に適した殺菌剤の気体の例としては、限定を意図するものではないが、二酸化エチレン(ethylene dioxide)および二酸化塩素(chlorine dioxide)がある。
【0115】
この発明のさまざまな変形および変更が、この発明の範囲および真髄を逸脱せずに可能なことは、当業者には明らかであろう。この発明が明細書中に記載された実施の形態に限定されるものではなく、従来の技術が許す限りにおいて特許請求の範囲が広く解釈されるべきものであることを理解されたい。
【0116】
この発明の具体的な実施態様は以下の通りである。
(A)殺菌剤の蒸気または気体を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法であって、
滅菌チャンバ内に上記負荷を配置する過程と、
上記滅菌チャンバを排気する過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を時間の関数としてモニタリングする過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度の変化率を求める過程と、
上記変化率から上記負荷の上記適合性を判定する過程であって、上記負荷は、上記変化率が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた変化率より低いときに、適切であると判定される、上記適合性を判定する過程とを有することを特徴とする滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法。
(1)上記予め決められたレベルの滅菌が、微生物が初期のレベルの10-6以下のレベルまで減少することであることを特徴とする実施態様(A)記載の方法。
(2)上記負荷の適合性が、上記負荷が上記殺菌剤の蒸気または気体と接触した後の100秒が経過するまでに判定されることを特徴とする実施態様(A)記載の方法。
(3)上記濃度の変化率が、時間に対するlogx (c/co )の曲線の初期の傾きとして求められ、xは任意の数であり、cは上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度であり、co は上記滅菌チャンバ内の上記殺菌剤の蒸気または気体の最大の濃度であることを特徴とする実施態様(A)記載の方法。
(4)logx がlog10およびlnからなる集合から選択されることを特徴とする実施態様(3)記載の方法。
(5)上記殺菌剤の蒸気または気体が、過酸化水素の蒸気を含むことを特徴とする実施態様(3)記載の方法。
【0117】
(6)上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程の前に、上記負荷をプラズマと接触させる過程を更に有することを特徴とする実施態様(5)記載の方法。
(7)上記初期の傾きに−1をかけた値が、0.016秒-1以上であるときに、上記負荷が適していないと判定する過程を更に有し、logx がlnであることを特徴とする実施態様(5)記載の方法。
(8)上記負荷が適していないと判定された場合に、滅菌作業を中止する過程を更に有することを特徴とする実施態様(A)記載の方法。
(9)上記滅菌作業を中止する過程が、上記負荷の適合性を判定する過程の後に上記滅菌チャンバを排気する過程または上記負荷の適合性を判定する過程の後に上記滅菌チャンバ内にプラズマを発生させる過程を有することを特徴とする実施態様(8)記載の方法。
(10)上記滅菌チャンバ内に過酸化水素を追加する過程を更に有することを特徴とする実施態様(7)記載の方法。
【0118】
(11)上記モニタリングする過程が、分光計を用いて過酸化水素の蒸気の濃度を測定する過程または上記過酸化水素が化合物と反応して生じた熱の量を測定する過程を有することを特徴とする実施態様(5)記載の方法。
(B)迅速に殺菌剤の蒸気または気体を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法であって、
滅菌チャンバ内に上記負荷を配置する過程と、
上記滅菌チャンバを排気する過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を時間の関数としてモニタリングする過程と、
上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を表すcの時間に対する曲線が時間軸との間になす面積を求める過程と、
上記面積から上記負荷の上記適合性を判定する過程であって、上記負荷は、上記面積が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた面積より大きいときに、適切であると判定される、上記適合性を判定する過程とを有することを特徴とする滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法。
(12)上記殺菌剤の蒸気または気体が、過酸化水素を含むことを特徴とする実施態様(B)記載の方法。
(13)上記面積が、上記殺菌剤の蒸気または気体が最大の濃度になった時刻から上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程が終了する時刻まで求められ、上記面積が400mg・秒/リットルを超えるときに、上記負荷が適していると判定されることを特徴とする実施態様(B)記載の方法。
(14)上記負荷が適していないと判定された場合に、滅菌作業を中止する過程を更に有することを特徴とする実施態様(B)記載の方法。
(C)迅速に殺菌剤の蒸気または気体を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法であって、
滅菌チャンバ内に上記負荷を配置する過程と、
上記滅菌チャンバを排気する過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、
上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を求める過程と、
上記濃度から上記負荷の上記適合性を判定する過程であって、上記負荷は、上記濃度が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた濃度より大きいときに、適切であると判定される、上記適合性を判定する過程とを有することを特徴とする滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法。
(15)上記負荷が適していないと判定された場合に、滅菌作業を中止する過程を更に有することを特徴とする実施態様(C)記載の方法。
(16)上記殺菌剤の蒸気または気体が、過酸化水素を含むことを特徴とする実施態様(C)記載の方法。
(17)殺菌剤の蒸気または気体の濃度が0.47mg/リットル以上のときに、上記負荷が適していると判定されることを特徴とする実施態様(16)記載の方法。
【0119】
〔発明の効果〕
以上のように、この発明によれば、初期の反応速度を用いて負荷の適合性を判定するようにしたので、負荷が適切でない場合、大量の殺菌剤の気体または蒸気が器具に吸収され、分解され、または凝縮される前に滅菌サイクルを中止することができる効果があり、また新たな滅菌サイクルを開始するのに必要な時間を短縮することができる効果がある。
この発明によれば、滅菌剤の蒸気または気体の最終的な濃度を用いて負荷の適合性を判定するようにしたので、負荷が適切であるか否かを確実に判定できる効果がある。
この発明によれば、滅菌剤の蒸気または気体の濃度の曲線が時間軸との間になす面積を用いて負荷の適合性を判定するようにしたので、負荷が適切でない場合、直ちに滅菌サイクルを中止することができる効果があり、また新たな滅菌サイクルを開始するのに必要な時間を短縮することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】この発明に係る方法の実施の形態で用いるのに適した滅菌装置の簡略化された構成図である。
【図2】プラズマ滅菌方法のフロー図である。
【図3】プラズマ滅菌方法を実施中の滅菌チャンバ内の圧力を示す曲線のグラフである。
【図4】他のプラズマ滅菌方法を実施中の滅菌チャンバ内の圧力を示す曲線のグラフである。
【図5】確認負荷による滅菌実験のln(c/co )の時間に対するグラフであり、cは任意の時刻での過酸化水素の濃度であり、co は過酸化水素の最大の濃度である。
【図6】注入過程中の重い負荷を用いた滅菌実験での過酸化水素の濃度についてのln(c/co )の時間に対するグラフである。大の濃度である。
【図7】綿のタオルなどの吸収性の材料を含む重い負荷を用いた滅菌実験での過酸化水素の濃度についてのln(c/co )の時間に対するグラフである。
【図8】使用されたタオルを含む重い負荷を用いた滅菌実験での過酸化水素の濃度についてのln(c/co )の時間に対するグラフである。
【図9】反応性物質を用いた滅菌のための負荷が許容されるものか否かが判定された場合の他の実施の形態を示す決定ツリーのフロー図である。
【符号の説明】
【0121】
10 滅菌装置
12 真空チャンバ
14 真空ポンプ
16 弁
18 殺菌剤
18A 殺菌剤の供給源
20 弁
22 プラズマ発生器
24 カップリング
26 HEPA換気機
28 弁
30 プロセス制御論理部
32 電極
34 過酸化水素モニタ
38 真空チャンバ内の圧力の曲線
40 排気ステップの間の圧力の曲線
42 真空チャンバ内の圧力の曲線
44 真空チャンバ内の圧力の曲線
48 注入期間の開始
52 真空チャンバ内の圧力の曲線
56 真空チャンバ内の圧力曲線
60 プラズマ発生ステップの開始
64 真空チャンバ内の圧力の曲線
70 真空チャンバ内の圧力の曲線
72 真空チャンバ内の圧力の曲線
74 真空チャンバ内の圧力の曲線
80 プラズマの遮断
82 真空チャンバ内の圧力の曲線
84 真空チャンバ内の圧力の曲線
86 真空チャンバ内の圧力の曲線
88 真空チャンバ内の圧力の曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
迅速に殺菌剤の蒸気または気体を用いた滅菌に対する負荷の適合性を判定する方法であって、
滅菌チャンバ内に上記負荷を配置する過程と、
上記滅菌チャンバを排気する過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程と、
上記滅菌チャンバ内の上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を時間の関数としてモニタリングする過程と、
上記殺菌剤の蒸気または気体の濃度を表すcの時間に対するグラフの曲線が時間軸との間になす面積を求める過程と、
上記面積から上記負荷の上記適合性を判定する過程であって、上記負荷は、上記面積が予め決められたレベルの滅菌が達成される実験的に導かれた面積より大きいときに、適切であると判定される、上記適合性を判定する過程と、
を含む、方法。
【請求項2】
上記殺菌剤の蒸気または気体が、過酸化水素を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記面積が、上記殺菌剤の蒸気または気体が最大の濃度になった時刻から上記負荷を上記殺菌剤の蒸気または気体と接触させる過程が終了する時刻まで求められ、上記面積が400mg・秒/リットルを超えるときに、上記負荷が適していると判定される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
上記負荷が適していないと判定された場合に、滅菌作業を中止する過程、
を更に含む、請求項1〜3のいずれか記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−72809(P2011−72809A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280215(P2010−280215)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2001−193611(P2001−193611)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】