説明

滅菌システム

【課題】滅菌対象となる処理室を滅菌する滅菌システムにおいて、処理室の滅菌効果を維持しつつ、過酸化水素の使用量を低減し且つ滅菌システムの構成部品等の経時劣化を抑制する。
【解決手段】処理室(2)の排気口(2a)と給気口(2b)とを繋ぐ循環流路(11)を含み処理室(2)内の空気を循環させる空気循環機構(10)と、循環流路(11)に配置されプラズマ放電を行うことにより空気中の菌を分解する活性種を生成するプラズマ放電部(21)と、循環流路(11)へ過酸化水素を供給する過酸化水素供給部(30)と、を備える滅菌システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理室を滅菌する滅菌システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、密閉可能な処理室(例えば、医薬品製造室等)に対し、過酸化水素を供給して該処理室内を滅菌処理する滅菌システム(滅菌装置)が知られている。例えば、特許文献1の滅菌装置は、過酸化水素蒸気を発生させる過酸化水素蒸気発生器が設けられた過酸化水素供給通路と、処理室に無菌空気を供給する空気供給通路とを備えている。この滅菌装置では、過酸化水素供給通路から処理室へ過酸化水素蒸気が供給される。その後、空気供給通路から処理室へ無菌空気が導入されて処理室の過酸化水素が分散されることにより、処理室の滅菌処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−328276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、過酸化水素で処理室を滅菌する場合、充分な滅菌効果を得るためには、処理室内の空気中の過酸化水素の濃度を数百ppm程度で約2〜3時間維持しなければない。そうなると、比較的大量の過酸化水素水が必要となる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、滅菌対象となる処理室を滅菌する滅菌システムにおいて、処理室の滅菌効果を維持しつつ、過酸化水素水の使用量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、滅菌対象となる処理室(2)を滅菌する滅菌システム(1)を対象とし、前記処理室(2)の排気口(2a)と前記処理室(2)の給気口(2b)とを繋ぐ循環流路(11)を含み前記処理室(2)内の空気を循環させる空気循環機構(10)と、前記循環流路(11)に配置されプラズマ放電を行うことにより空気中の菌を分解する活性種を生成するプラズマ放電部(21)と、前記循環流路(11)へ過酸化水素を供給する過酸化水素供給部(30)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、処理室(2)内の空気が循環する循環流路(11)にプラズマ放電部(21)を配置している。プラズマ放電部(21)によりプラズマ放電が行われると反応性の高い活性種(高速電子、イオン、オゾン、OHラジカルなど)が生じる。これらの活性種が空気中の菌と反応することにより空気中の菌が分解される。
【0008】
更に、第1の発明では、過酸化水素供給部(30)によって循環流路(11)へ過酸化水素が供給される。この過酸化水素によっても空気中の菌が分解される。更に、過酸化水素は、OHラジカル等と比べると空気中に残留しやすい。従って、過酸化水素は、循環流路(11)や処理室(2)内等、比較的広範囲に亘って供給され、これらの空間中の菌を分解する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記プラズマ放電部(21)は、ストリーマ放電を行うように構成されていることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、循環流路(11)を流れる空気中でストリーマ放電が行われる。ストリーマ放電は、他の放電方式(グロー放電やコロナ放電等)と比べて放電範囲が広いため、比較的多くの活性種が生成される。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明によれば、滅菌対象となる処理室(2)を滅菌するために、循環流路(11)に過酸化水素を供給するだけでなく、循環流路(11)を流れる空気中でプラズマ放電を行っている。こうすると、過酸化水素のみで処理室(2)を殺菌する場合と比べて処理室(2)内をより清浄に保てる。言いかえれば、過酸化水素の使用量を減らしても、処理室(2)内の清浄度を維持できる。そして、過酸化水素の使用量を減らすことにより、循環流路(11)や処理室(2)内を流れる空気中の湿度も低減できる。従って、例えば処理室(2)の壁部や循環流路(11)を形成するダクト等に水分が付着しこれらの部材が劣化してしまうのを抑制できる。更に、過酸化水素の使用量を低減すると空気中における過酸化水素の濃度が低減するため、処理室(2)や循環流路(11)を形成するダクト等が腐食してしまうのを抑制できる。
【0012】
上記第2の発明によれば、ストリーマ放電により多く活性種が生成されるため、空気中の菌をより多く分解できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施形態に係る滅菌システムの全体構成を示す図である。
【図2】図2は、放電部の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0015】
−全体構成−
本実施形態に係る滅菌システム(1)は、薬品の生産ライン等が設置された密閉状の処理室(2)を滅菌するためのものである。処理室(2)内は比較的高い清浄度で保たれているものの、例えば処理室(2)内に作業員が出入りする際などに、外部から菌などが侵入する場合がある。これに対して、滅菌システム(1)を用いることにより、処理室(2)内に流入する菌を分解できる。この滅菌システム(1)は、図1に示すように、空気循環機構(10)と、空気浄化部(20)と、過酸化水素供給部(30)とを備えている。
【0016】
空気循環機構(10)は、循環流路(11)と、ファン(12)とを備えている。循環流路(11)は、例えばステンレスの鋼管等で形成されている。循環流路(11)の始端は、処理室(2)の排気口(2a)に繋がり、終端は処理室(2)の給気口(2b)に繋がっている。これらの排気口(2a)及び給気口(2b)には、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air フィルタ、図示省略)が取り付けられている。ファン(12)は、循環流路(11)に配置されている。ファン(12)は、循環流路(11)の始端側から終端側の方向(図1の太矢印方向)へ空気を搬送する搬送機構を構成している。
【0017】
空気浄化部(20)は、放電部(21)と、触媒フィルタ(22)とを備えている。放電部(21)及び触媒フィルタ(22)は、循環流路(11)を流れる空気の上流側から下流側へ向かって、放電部(21)、触媒フィルタ(22)の順に配置されている。
【0018】
放電部(21)は、図2に示すように、放電電極(23)と、該放電電極(23)に対向する対向電極(24)と、放電電極(23)と対向電極(24)との間に電圧を印加する電源部(25)とを備えている。放電部(21)は、放電電極(23)と対向電極(24)との間でプラズマ放電の一種であるストリーマ放電を行うプラズマ放電部を構成している。
【0019】
触媒フィルタ(22)は、例えばハニカム構造の基材の表面に触媒を担持したものである。この触媒には、マンガン系触媒や貴金属系触媒など、放電によって生成される低温プラズマ中の反応性の高い物質をさらに活性化し、空気中の有害成分や臭気成分の分解を促進するものが用いられる。さらに、この触媒フィルタ(22)には、活性炭が担持されており、被処理空気中の被処理成分に対して吸着性能を有している。
【0020】
過酸化水素供給部(30)は、過酸化水素発生器(31)と、過酸化水素供給路(32)と、供給路開閉機構(33)とを備えている。過酸化水素供給部(30)は、循環流路(11)のうち空気浄化部(20)よりも上流の部分から分岐する分岐路(13)と繋がっている。
【0021】
過酸化水素発生器(31)は、過酸化水素水から過酸化水素ガスを生成するように構成されている。具体的には、この過酸化水素発生器(31)は、過酸化水素ガスを生成する生成部(31a)と、該生成部(31a)へ過酸化水素水を供給する供給部(31b)とを備えている。生成部(31a)は、生成部(31a)は、供給部(31b)から滴下されて供給される過酸化水素水を熱風により微細化して気化することにより、過酸化水素ガスを生成するように構成されている。供給部(31b)は、詳しくは後述する濃度制御部(16)からの信号に応じて、生成部(31a)に供給する過酸化水素水を増減するように構成されている。なお、過酸化水素水としては、例えば過酸化水素の濃度が35%の原液が用いられる。
【0022】
過酸化水素供給路(32)は、過酸化水素発生器(31)で発生した過酸化水素ガスを、循環流路(11)における空気浄化部(20)が配置されている部分へ供給するための供給路である。過酸化水素供給路(32)は、第1供給路(32a)と第2供給路(32b)とを備えている。第1供給路(32a)の始端は過酸化水素発生器(31)に繋がり、終端は空気浄化部(20)における放電部(21)よりも上流側の部分に繋がっている。また、第2供給路(32b)の始端は過酸化水素発生器(31)に繋がり、終端は空気浄化部(20)における放電部(21)と触媒フィルタ(22)との間の部分に繋がっている。
【0023】
供給路開閉機構(33)は、2つの開閉弁(34a,34b)と、該2つの開閉弁(34a,34b)を制御するための開閉弁制御部(35)とを備えている。2つの開閉弁は、第1供給路(32a)に設けられ該第1供給路(32a)を開閉する第1開閉弁(34a)と、第2供給路(32b)に設けられ該第2供給路(32b)を開閉する第2開閉弁(34b)とで構成されている。これらの開閉弁(34a,34b)は、開閉弁制御部(35)からの信号に応じて開閉するように構成されている。開閉弁制御部(35)は、第1開閉弁(34a)を開状態にする信号又は閉状態にする信号を該第1開閉弁(34a)へ送信するように構成されているとともに、第2開閉弁(34b)を開状態にする信号又は閉状態にする信号を該第2開閉弁(34b)へ送信するように構成されている。
【0024】
滅菌システム(1)は、過酸化水素濃度計(15)と、濃度制御部(16)とを備えている。過酸化水素濃度計(15)は、処理室(2)内における過酸化水素の濃度を計測するためのものであって、該処理室(2)内の所定の位置に取り付けられている。濃度制御部(16)は、上記過酸化水素濃度計(15)により計測された過酸化水素濃度の値に応じて、過酸化水素発生器(31)から発生する過酸化水素ガスの量を制御するためのものである。具体的には、濃度制御部(16)は、処理室(2)内の過酸化水素の濃度が所定値よりも高くなると、生成部(31a)に供給される過酸化水素水の量を減らす旨の信号を供給部(31b)へ送信し、処理室(2)内の過酸化水素の濃度が所定値よりも低くなると、生成部(31a)に供給される過酸化水素水を増やす旨の信号を供給部(31b)へ送信するように構成されている。
【0025】
−運転動作−
滅菌システム(1)において空気循環機構(10)のファン(12)が駆動されると、処理室(2)内の空気は、排気口(2a)から排気され、循環流路(11)及び空気浄化部(20)を流れた後、給気口(2b)から処理室(2)へ流入する。これにより、処理室(2)内の空気が循環流路(11)を循環する。
【0026】
《空気浄化部及び過酸化水素供給部の動作》
放電部(21)の電源部(25)が起動されると、放電部(21)によって循環流路(11)を流れる空気中でストリーマ放電が行われる。ストリーマ放電が行われると、OHラジカル等の活性種が生成される。このようにして発生する活性種が空気中の菌を分解する。更に、これらの活性種は、触媒フィルタ(22)によって更に活性化されるため、空気中の菌を強力に分解する。
【0027】
また、過酸化水素供給部(30)は、過酸化水素発生器(31)で生成された過酸化水素ガスを循環流路(11)へ供給する。具体的には、過酸化水素発生器(31)では、供給部(31b)が生成部(31a)へ過酸化水素水を供給する。生成部(31a)は、この過酸化水素水を熱風により微細化することにより過酸化水素ガスを生成する。なお、過酸化水素発生器(31)の供給部(31b)から生成部(31a)へ供給される過酸化水素水の量は、濃度制御部(16)によって制御される。これにより、過酸化水素発生器(31)で生成される過酸化水素の濃度が一定に保たれる。
【0028】
過酸化水素ガスは、第1供給路(32a)又は第2供給路(32b)を通じて空気浄化部(20)へ流入する。具体的には、開閉弁制御部(35)により第1開閉弁(34a)が開けられ且つ第2開閉弁(34b)が閉じられている場合、過酸化水素ガスは、第1供給路(32a)を通じて空気浄化部(20)における放電部(21)よりも上流側の部分に流入する。また、開閉弁制御部(35)により第1開閉弁(34a)が閉じられ且つ第2開閉弁(34b)が開けられている場合、過酸化水素ガスは、第2供給路(32b)を通じて空気浄化部(20)における放電部(21)と触媒フィルタ(22)との間の部分に流入する。このようにして循環流路(11)に供給された過酸化水素は、空気中の菌と反応することにより菌を分解する。
【0029】
放電部(21)で生成されたラジカル等の活性種、及び過酸化水素供給部(30)により空気浄化部(20)へ供給された過酸化水素は、循環流路(11)を流れる空気とともに処理室(2)内へ流入する。その結果、処理室(2)内の空気は、上記活性種及び過酸化水素によって滅菌される。特に、過酸化水素は、ラジカル等の活性種と比べて空気中に残留しやすいため、処理室(2)内において比較的広範囲に供給される。このため、過酸化水素発生器(31)で生成された過酸化水素は、特に処理室(2)内の壁面に付着した菌の分解に寄与する。一方、処理室(2)内で浮遊する菌は、排気口(2a)より循環流路(11)を通じて空気浄化部(20)の放電部(21)へ流れる。そして、この菌は、放電部(21)付近で発生する活性種により分解される。
【0030】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態に係る滅菌システム(1)では、循環流路(11)に、ストリーマ放電を行う放電部(21)を配置するとともに、循環流路(11)に過酸化水素ガスを供給する過酸化水素供給部(30)を設けている。これにより、ラジカル等の活性種と、過酸化水素ガスとの両方で空気中を滅菌することができる。従って、過酸化水素ガスの使用量を減らしても、過酸化水素ガスのみで空気中を滅菌する場合と同等の殺菌効果を維持できる。更に、過酸化水素ガスの使用量を減らすことにより、処理室(2)や循環流路(11)における過酸化水素の濃度が低減する。このため、空気中の湿度を低減できるため、循環流路(11)を構成する配管や処理室(2)の壁面等が劣化するのを抑制できる。更に、過酸化水素の濃度が低減することにより、上記配管や壁面等が腐食するのを抑制できる。
【0031】
また、上記実施形態では、放電部(21)でストリーマ放電を行っている。ストリーマ放電は、他の放電方式(グロー放電やコロナ放電等)と比べ広い範囲に亘って放電が行われる。その結果、比較的多くの活性種が生成されるため、空気中を効率的に滅菌できる。
【0032】
また、上記実施形態では、処理室(2)に取り付けられた過酸化水素濃度計(15)の値に応じて過酸化水素ガスの生成量を調整するようにしたため、処理室(2)内の過酸化水素の濃度を所定の範囲内に保つことができる。
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0033】
上記実施形態では、放電部(21)を、ストリーマ放電を行う構成としたが、この限りでなく、例えばその他のプラズマ放電(コロナ放電やグロー放電)を行う構成にしてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、過酸化水素発生器(31)で生成された過酸化水素ガスを、第1供給路(32a)又は第2供給路(32b)のいずれかを通じて供給する構成としたが、この限りでなく、例えば過酸化水素発生器(31)から循環流路(11)へ連通する供給路が1つだけ設けられていてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、滅菌システムを薬品の生産ラインに適用したが、この限りでなく、病院などにも適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明は、薬品の生産ライン等、滅菌対象となる処理室を滅菌するのに特に有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 滅菌システム
2 処理室
2a 排気口
2b 給気口
10 空気循環機構
11 循環流路
21 放電部(プラズマ放電部)
30 過酸化水素供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌対象となる処理室(2)を滅菌する滅菌システムであって、
前記処理室(2)の排気口(2a)と前記処理室(2)の給気口(2b)とを繋ぐ循環流路(11)を含み、前記処理室(2)内の空気を循環させる空気循環機構(10)と、
前記循環流路(11)に配置され、プラズマ放電を行うことにより空気中の菌を分解する活性種を生成するプラズマ放電部(21)と、
前記循環流路(11)へ過酸化水素を供給する過酸化水素供給部(30)と、を備えることを特徴とする滅菌システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記プラズマ放電部(21)は、ストリーマ放電を行うように構成されていることを特徴とする滅菌システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−95737(P2012−95737A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244332(P2010−244332)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】