説明

滅菌処理方法、無菌充填方法、滅菌処理装置、及び無菌充填装置

【課題】フィルム、特に、無菌包装用フィルムの滅菌処理工程に好ましく適用可能であり、殺菌効果が高く、処理が迅速であり、後工程で過酸化水素を除去する手間が実質的になく、しかも過剰な過酸化水素を消費せずに済むフィルムの滅菌処理方法、無菌充填方法、フィルムの滅菌処理装置および無菌充填装置を提供する。
【解決手段】フィルム表面を滅菌する滅菌処理方法であって、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着工程と、該過酸化水素ガス吸着工程の後に過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離工程とを有することを特徴とするフィルムの滅菌処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム表面を滅菌する滅菌処理方法及び滅菌処理装置、更には、これらを一部に含む無菌充填方法及び無菌充填装置に関し、特には、無菌包装用フィルムの滅菌に好適に使用可能な滅菌処理方法及び滅菌処理装置、更には、これらを一部に含む無菌充填方法及び無菌充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無菌包装用フィルムの滅菌方法として、例えば特許文献1:特公昭48−4078号公報に記載されているような高濃度の過酸化水素水を使用する方法が知られている。しかし、過酸化水素水のみにより十分な殺菌効果を得るためには、包装材料に大量の過酸化水素水を吸着させたり、過酸化水素水と包装材料との接触時間を比較的長く設定したりする必要があった。また、包装材料表面に付着した大量の過酸化水素水を除去するためには熱風での分解除去工程や無菌水での洗浄工程といった後工程に長時間を要する場合が多く、近年の生産効率向上(ラインスピード向上)の要望に鑑みれば、より速やかな滅菌方法、及び後処理工程の簡略化が望まれていた。
【0003】
このような要望に応える滅菌方法として、例えば特許文献2:特開平10−28722号公報や特許文献3:特表2001−514531号公報には、過酸化水素水を基材表面に吸着させた後、減圧条件下で過酸化水素水をプラズマ化させ、高い滅菌効果と後処理工程の簡略化を図る方法が提案されている。しかし、減圧条件下でプラズマ処理を施す場合には装置が大掛かりになり、ランニングコストも嵩むので、生産コストの観点からは好ましくない。
【0004】
また、引用文献4:特開2001−54556号公報には、過酸化水素水等を気化させて大気圧低温プラズマ発生領域に導入し、発生したプラズマ活性種を包装材料等に吹き付けること等により、包装材料を短時間かつ連続的に殺菌する大気圧低温プラズマ殺菌方法、乃至大気圧低温プラズマ殺菌装置が提案されている。
この方法は大気圧下で過酸化水素プラズマを被処理物に吹きつけるものであり、ラインスピードに見合った処理が可能で、しかも、装置も小型化できる等のメリットを備えるものであるが、一般にプラズマ状態の気体がプラズマ状態を維持可能な時間は短く、該プラズマ状態を維持したままの気体を被処理物に的確かつ速やかに吹きつけることは相当な困難を伴う。また、滅菌状態をより確実なものとするためには、このような“吹き付け法”は実際に滅菌に寄与する過酸化水素プラズマ量よりも過剰量の過酸化水素プラズマを吹きつける必要がある。
【0005】
また、同文献には被処理物を過酸化水素水に浸漬した後、フィルム上に付着する過酸化水素水に高電圧を印加して過酸化水素をプラズマ化する方法(同文献図5参照)も提案されているが、滅菌に必要な量以上の過酸化水素水が被処理物に付着することから、処理後の過酸化水素水を除去する工程が必要になる場合があること、必要以上の過酸化水素水が消費される場合があること、等の問題が危惧される。
しかも、そもそもフィルムを過酸化水素水に浸漬した場合、その後、ドクターブレードやスキージー、あるいは送風により余剰の過酸化水素水を除去する必要がある。この時に比較的変形し易い包装用フィルム、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンの単層フィルム、あるいは、シーラントがポリエチレンやポリプロピレンである積層フィルムが滅菌の対象となる場合には、過酸化水素水除去時にフィルムにシワがよる等の不都合が生じる場合がある。
【0006】
したがって、上述した種々の問題点、即ち、殺菌効果が高く処理が迅速であると共に、後工程で残留過酸化水素を除去する手間がなく、しかも過剰な過酸化水素を消費せずに済む滅菌処理方法が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特公昭48−4078号公報
【特許文献2】特開平10−28722号公報
【特許文献3】特表2001−514531号公報
【特許文献4】特開2001−54556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、フィルム、特に、無菌包装用フィルムの滅菌処理工程に好ましく適用可能であり、殺菌効果が高く、処理が迅速であり、後工程で過酸化水素を除去する手間が実質的になく、しかも過剰な過酸化水素を消費せずに済むフィルムの滅菌処理方法、無菌充填方法、フィルムの滅菌処理装置および無菌充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、滅菌対象がフィルムやシート(以下、これらを総称して単に「フィルム」という。)であり、薄葉状であることに着目して、ガス状の過酸化水素をフィルム表面に薄く吸着させた後、過酸化水素ガスを吸着したフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体(不活性ガスまたは空気)の少なくとも一部を電離させることで、吸着した過酸化水素ガスもフィルム表面で電離させ、少なくともその一部をプラズマ化させることにより、活性化された過酸化水素に由来するプラズマ(以下、「過酸化水素プラズマ」ということがある。)が失活する前に確実にフィルム表面を滅菌し得ると共に、過剰な過酸化水素を消費することがほとんどなく、少量の過酸化水素を効率的に使用可能であり、しかも過酸化水素プラズマが失活した後は無害な非常に少量の水分となるため速やかに蒸発し、実質的に後工程で過酸化水素を除去する必要のない殺菌処理方法を実現し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の滅菌処理方法、無菌充填方法、滅菌処理装置、及び無菌充填装置を提供する。
請求項1:
フィルム表面を滅菌する滅菌処理方法であって、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着工程と、該過酸化水素ガス吸着工程の後に過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離工程とを有することを特徴とするフィルムの滅菌処理方法。
請求項2:
前記気体電離工程が、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部も電離する工程である請求項1記載のフィルムの滅菌処理方法。
請求項3:
前記気体電離工程が、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部を分解する工程である請求項1又は2記載のフィルムの滅菌処理方法。
請求項4:
前記気体電離工程が、空気雰囲気下で高電圧パルスを印加して気体の少なくとも一部を電離させる工程である請求項1、2又は3記載のフィルムの滅菌処理方法。
請求項5:
請求項1ないし4のいずれかに記載の滅菌処理方法で滅菌処理された包装用フィルムを、その滅菌状態を維持しつつ内部が無菌環境に保持された無菌室に導入して、製袋および充填を行なうことを特徴とする無菌充填方法。
請求項6:
フィルム表面を滅菌する滅菌処理装置であって、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着部と、該過酸化水素ガス吸着部の下流側に位置し、フィルム表面が暴露される空間に、大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離部とを有することを特徴とするフィルムの滅菌処理装置。
請求項7:
前記過酸化水素ガス吸着部が過酸化水素ガス給気部と過酸化水素ガス吸引排気部とを備える請求項6に記載のフィルムの滅菌処理装置。
請求項8:
請求項6又は7記載の滅菌処理装置と、内部が無菌環境に保持された無菌室と、該無菌室に収納された製袋充填包装装置とを備えることを特徴とする無菌充填装置。
請求項9:
前記滅菌処理装置と前記無菌室とが気密に接続された請求項8記載の無菌充填装置。
【発明の効果】
【0011】
本願請求項1に係る発明のフィルムの滅菌方法によれば、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着工程と、該過酸化水素ガス吸着工程の後に過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離工程とを有するので、活性化された過酸化水素に由来するプラズマが失活する前に確実にフィルム表面を滅菌し得ると共に、過剰な過酸化水素を消費することがほとんどなく、少量の過酸化水素を効率的に使用可能であり、しかも過酸化水素プラズマが失活した後は無害な非常に少量の水分となるため速やかに蒸発し、実質的に後工程で過酸化水素を除去する必要がないため、信頼性、殺菌効果が高く、処理が迅速であり、後工程で過酸化水素を除去する手間が実質的になく、しかも過剰な過酸化水素を消費せずに済む。
【0012】
本願請求項2に係る発明においては、前記気体電離工程が、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部も電離する工程であるので、過剰な過酸化水素を消費せずに済み、効率がよい。
【0013】
本願請求項3に係る発明においては、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部を分解するので、後工程で過酸化水素を除去する手間が実質的になく、過酸化水素が残存することがない。
【0014】
さらに、本願請求項4に係る発明においては、空気雰囲気下でも高電圧パルスを印加してプラズマを発生させる事ができるので、高価な希ガス等の不活性ガスを使用しなくても滅菌処理が可能である。
【0015】
本願請求項6に係る発明のフィルムの滅菌処理装置によれば、簡易な装置で、信頼性、殺菌効果が高く、処理が迅速なフィルムの滅菌処理が可能となる。
【0016】
本願請求項7に係る発明においては、過酸化水素ガス吸着部が過酸化水素ガス給気部と過酸化水素ガス吸引排気部とを備えるので、不必要な過酸化水素ガスが下流の気体電離部に流入することがなく、未分解の過酸化水素ガスが気体電離部から流出することがない。
【0017】
本願請求項5,8,9に係る発明の無菌充填方法および装置によれば、容易に、信頼性、殺菌効果が高く、処理が迅速な無菌充填包装が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の滅菌処理方法は、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着工程と、該過酸化水素ガス吸着工程の後に過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離工程とを有することを特徴とする、フィルム表面を滅菌する滅菌処理方法である。
【0019】
本発明のフィルム表面の滅菌処理方法においてはガス状の過酸化水素をフィルム表面に薄く吸着させた後、吸着した過酸化水素ガスをフィルム表面でプラズマ化させ、活性化された過酸化水素プラズマが失活する前に確実にフィルム表面を滅菌し得ることとしたため、少量の過酸化水素を効率的に使用可能であり、過剰な過酸化水素を用いずに済む。そして、少量の過酸化水素ガスから生じた過酸化水素プラズマが失活した後は、酸素が揮発して速やかに極少量の水蒸気又は水分に変換されることとなるため、フィルム表面に過酸化水素が残留せず、実質的に後工程で過酸化水素を除去する手間が必要ない。しかも、本発明の滅菌方法はフィルムを液体中に浸漬する工程を必須としない、いわゆる乾式滅菌法であるため、液体中に浸漬すると不都合の生じるフィルムに対しても適用可能な汎用性に優れる滅菌方法である。
更に、本発明における気体電離工程は空気中で行なうこともできるものであることから、コスト的にも優れ、過酸化水素ガスを容易にプラズマ化することができる。もちろん、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行っても良い。そして、本発明の滅菌方法は一連の工程を大気圧条件下に行なうものであるため、制御が容易であり、滅菌ライン上での処理が可能で処理効率に優れ、用いる処理装置を簡素化することも容易である。
【0020】
本発明において、前記過酸化水素ガス吸着工程としては、滅菌処理の対象となるフィルムの滅菌処理予定面に過酸化水素ガスが接触して残留する工程であれば特に制限されないが、例えば、以下の(a)又は(b)のような工程を採用することができる。
(a)過酸化水素ガス雰囲気中にフィルムを通過させる工程。
(b)過酸化水素ガスをフィルムの一面又は両面に吹きつける工程。
特に、上記(b)のような工程を採用すると、過酸化水素ガスをフィルム表面に吹きつけることで、フィルム表面に常に所定の濃度の過酸化水素ガスが接触することとなるため好適であり、工程(a)であっても、工程(b)を併用することが好ましい。
【0021】
本発明において、気体電離工程としては、過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において、大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させ得る工程であれば特に制限されず、大気圧条件下において高電圧パルスを印加する工程、交流高電圧を印加する工程、マイクロ波を用いてプラズマを発生させる工程等を採用することができる。
特に、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下において大気圧条件下、高電圧パルスを印加する工程を採用する場合、雰囲気中のガスが不必要に励起されて変質することがなく、臭気の発生も少なく出来るというメリットがあるため好適である。
【0022】
本発明の滅菌処理装置は、上述した本発明の滅菌処理方法を実施するのに好適な滅菌処理装置である。
以下、図面を参照し説明すると、図1は本発明の一実施形態にかかる滅菌処理装置1の概略図である。滅菌処理装置1は、フィルムロール2から繰り出されるフィルム3上に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着部11と、この過酸化水素ガス吸着部11に対してフィルム3の繰り出し方向下流側に位置し、大気圧条件下かつ不活性ガスまたは空気雰囲気下において、気体を電離すると共に、フィルム3の表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部をプラズマ化させる過酸化水素プラズマ化部(気体電離部)12と、過酸化水素ガス吸着部11と過酸化水素プラズマ化部12との間に排気口13とを具備するものである。
【0023】
過酸化水素ガス吸着部11は、過酸化水素ガスチャンバー111にフィルム取り込み口112、フィルム送り出し口113、及び過酸化水素ガスの給気口114が備えられたものである。滅菌処理装置1においてフィルム3は、一定処理環境に調整された過酸化水素ガスチャンバー111内を通過することにより、その表裏面に過酸化水素ガスが吸着される。
なお、過酸化水素ガス吸着部11において過酸化水素ガスと共に微量の酸素ガスを混入させると、後に行なわれる過酸化水素プラズマ化工程(気体電離工程)において滅菌効率が向上するため好適である。
過酸化水素ガスチャンバー111内の処理環境としては、例えば以下のような処理環境を採用し得る。
【0024】
<過酸化水素ガスチャンバー内の処理環境>
処理温度
通常室温〜60℃である。処理環境温度が当該範囲より低いと、過酸化水素ガスチャンバー111内の温度を下げるエネルギーが無駄であると共に、過酸化水素ガスが結露したり、滅菌が不十分となる場合がある。また、当該範囲より高いとフィルムの耐熱性によっては、フィルムに皺等の発生を生じる場合がある。
処理時間
過酸化水素ガスチャンバー111で暴露される時間(通過に要する時間)は、フィルムに付着している菌の種類にもよるが、通常5〜60秒である。処理時間を長く設定するためにはライン速度を低く設定しても良いが処理スピードが下がるので、フィルムを支持するガイドロールを過酸化水素ガスチャンバー111内に増設する等の手段を講じてフィルムの搬送経路長を長くすることが好ましい。
過酸化水素ガスチャンバー内の過酸化水素ガス濃度
過酸化水素ガスがチャンバー容積に占める割合として通常500〜3000ppm、好ましくは1000〜2000ppmである。過酸化水素ガスチャンバー内の過酸化水素ガス濃度が上記範囲より低いと殺菌が不充分となる場合があり、上記範囲より高いと過酸化水素ガスが結露する場合があり、好ましくない。
【0025】
なお、過酸化水素ガスチャンバー内のベースガスとしては、本発明においては、過酸化水素ガスが吸着すれば良いので、通常の空気で十分であるが、後工程の気体電離工程で、電離が容易で雰囲気中のガスが過剰に励起されて異なる気体分子同士が反応することがなく、臭気の発生も少ないなどの観点から、不活性ガスをベースガスとしたり、不活性ガスが空気のベースガスに混入されていることが好ましい。そのような不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウム等の希ガスや窒素ガス等を用いることができる。
【0026】
一方、過酸化水素プラズマ化部12は放電電極122,122を具備するプラズマチャンバー121からなり、この放電電極122,122間を上記フィルム3が通過する際に電圧を印加することにより、フィルム3上に吸着した過酸化水素ガスをプラズマ化させ、生じた過酸化水素プラズマによってフィルム3の表面を滅菌することができる。
【0027】
ここで、プラズマ化し活性化した過酸化水素プラズマは、フィルム表面に作用して滅菌に寄与するとしないとに関わらず、一定時間後には失活するが、過酸化水素プラズマが失活した後には酸素や水蒸気等の無害な気体が生じることとなる。そして、上記過酸化水素ガス吸着部11においてフィルム3上に吸着する過酸化水素ガス量は非常に微量であることから、フィルム3表面上に吸着した過酸化水素ガスを、過酸化水素プラズマ化部12においてほぼ全量プラズマ化することが可能である。つまり、過酸化水素ガス吸着部11において吸着した過酸化水素ガスのほぼ全量を、この過酸化水素プラズマ化部12において無害な気体とし、揮発させることが可能である。従って換言すれば、過酸化水素プラズマ化部12は、プラズマ化された過酸化水素によりフィルム3表面を滅菌する部分であるのみならず、フィルム3表面に吸着した過酸化水素ガスを無害化/分解して揮発、除去する部分であるともいえる。
プラズマ化環境としては、例えば以下のような処理環境を採用し得る。
【0028】
<プラズマ化環境>
ベースガス(雰囲気)
通常の空気又は不活性ガス雰囲気である。このような不活性ガスとしては、例えばアルゴンガス、ヘリウム等の希ガスや窒素ガス等を用いることができる。
処理温度
通常は常温〜60℃である。処理温度が当該範囲より低いと、プラズマチャンバー121内の温度を下げるエネルギーが無駄であると共に、過酸化水素ガスが結露したり、滅菌が不十分となったりする場合がある。また、当該範囲より高いとフィルムの耐熱性によっては、皺等の発生を生じる場合がある。
処理時間
通常5〜60秒である。処理時間を長く設定するためにはライン速度を低く設定しても良いが、処理スピードが下がるので、フィルムを支持するガイドロールをプラズマチャンバー121内に増設する等の手段を講じてフィルムの搬送経路長を長くすることが好ましい。
電圧印加方法
高電圧パルスを印加する方式、交流高電圧を印加する方式、マイクロ波を用いてプラズマを発生させる方式等を採用し得る。
高電圧パルス方式を採用する場合、その周波数としては通常50Hz〜100kHz、好ましくは50Hz〜50kHzであり、その印加電界強度としては通常1kV/cm〜100kV/cm、好ましくは30kV/cm〜60kV/cmである。また、マイクロ波放電を採用する場合、電力100W〜100kW、好ましくは500W〜10kWである。なお、パルス幅の制限は特になく、パルス立ち上がり時間は、50nsから1ms程度の範囲であれば、その中で好適な条件を決めることができる。
【0029】
なお、放電電極122の構造としては、フィルムを介して対向する構造が好ましく、例えば、平行平板型、曲面対向平板型、双曲面対向平板型等が挙げられる。気体を電離してプラズマ状態を発生させるパルス・ストリーマ放電からアーク放電への移行を防ぐためには、外側電極の放電領域側に誘電体(電気的絶縁体)を有するものがより好ましい。より具体的な構造としては、例えば対向平板電極などの対向する電極の少なくとも一方の電極に誘電体を貼付する。そのような誘電体としては、電極間でパルス・ストリーマ放電からアーク放電への移行しないようにするものであればどのようなものでもよく、石英ガラス等の無機物、テフロン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0030】
上記滅菌処理装置1において排気口13は、過酸化水素ガス吸着部11のフィルム送り出し口113から過酸化水素ガスチャンバー本体111の外側へ流出する過酸化水素ガス、及び/又は前記過酸化水素プラズマ化部12で発生する過酸化水素ガスの分解物等を吸引して、さらに下流へ流出することを防止するために配設されたものである。
このような排気口13を通じて滅菌処理装置1内の過酸化水素ガス等を排気することにより、装置下流側に過酸化水素ガスが流出することを防止し得、また、フィルム3が滅菌処理装置1内で、フィルム3の表面に残留する過酸化水素ガスや過酸化水素ガス分解物を揮発除去し得る。
【0031】
なお、本発明の滅菌処理装置は、上記の実施形態に限定されるものではなく、過酸化水素ガス吸着装置や過酸化水素プラズマ化装置などは適宜変更することができ、その他の構成についても本発明の要旨を逸脱しない限り種々変更して差し支えない。
【0032】
本発明の無菌充填方法は、上述した滅菌処理方法で滅菌処理された包装用フィルムを、その滅菌状態を維持しつつ内部が無菌環境に保持された無菌室に導入して、製袋および充填を行なうことを特徴とする無菌充填方法である。また、本発明の無菌充填装置は、上述した滅菌処理装置から滅菌処理が施されたフィルム無菌状態を維持したまま受け取る機構を一部に含むと共に、内部が無菌環境に保持された無菌室と、該無菌室に収納された製袋充填包装装置とを備えるものである。なお、本発明においては、内部が無菌環境に保持された無菌室と、該無菌室に収納された製袋充填包装装置とを総称して「無菌充填機」と略記することがある。
【0033】
図2に、本発明の滅菌処理装置の下流側に用いられる無菌充填機の一例を示す。図2に示す無菌充填機4は、無菌室8内を殺菌する殺菌ガス発生装置(殺菌手段)5、殺菌ガス発生装置5と無菌室8内とを連結する連結具6、この連結具6にエアレーション装置(触媒にて殺菌ガスを分解する装置)7を介して接続される無菌室8、及び、無菌室8内に収納された充填機9を具備するものである。
【0034】
無菌室8は、上記した滅菌処理装置1を通過し、滅菌処理が施されたフィルム3を無菌状態のまま導入するフィルム導入口81、導入されたフィルム3を案内する複数の案内ローラー82を備えている。
また、充填機9は、図2に示すように、フィルム3を所定幅に折り畳む折り畳み手段(図示省略)、フィルム3を所定形状にシールする縦シール部91a、横シール部91b、冷却部91cとを備えた製袋手段91、内容物を供給する内容物供給手段92、UV殺菌灯93が順次配置され、更に、シャッター94を介して、内容物が充填された包装袋を個々の包装袋に切り分けたり、包装袋を開封するための切り欠き部を形成したり、ミシン目をつけたりするためのオプション部95を経て排出口96が備えられており、これらが無菌室8の外に設置された自動制御装置97により制御されて、製品となる密封充填包装袋(図示せず)を自動的に連続して製造する充填機である。
【0035】
なお、上記無菌室8の壁面には、各々一組のシリコンゴム製長手袋83が、室内との気密状態を維持することができ、且つ室外から作業者が装着して、各種作業ができるように気密に取り付けられている。この長手袋の材質は、非通気性及び柔軟性を有する材料であれば、その種類は特に制限されず、例えばウェットスーツ等に使用されているゴム材、シリコンゴム材、塩化ビニルなどのプラスチック材等を挙げることができ、これらの中でも特にシリコンゴム材が可撓性、弾力性や耐薬品性に富むことから好適に使用される。
【0036】
以下、実施例及び比較例を示すが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0037】
〔実施例1,2、比較例1,2〕
図1に示す滅菌処理装置を用い、表1に示す滅菌処理条件にて厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルムと厚さ30μmのポリエチレンフィルムとの押出ラミネートフィルムの両表面を滅菌処理した。処理後のポリエチレン表面に残留する過酸化水素量、及び殺菌効果を評価した。残留する過酸化水素量は、フィルム表面を100ml精製水へ洗い出し、過酸化水素の濃度として、また、殺菌効果は生残菌数として評価した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
<過酸化水素ガス吸着部>
ベースガス(雰囲気)
空気を用いた。
過酸化水素ガス濃度
過酸化水素ガスチャンバーの容積に占める過酸化水素ガスの容積(ppm)
処理時間
過酸化水素ガスチャンバーを通過するに要した時間(sec)
【0040】
<過酸化水素プラズマ化部>
ベースガス(雰囲気)
空気を用いた。
電圧印加時間
プラズマチャンバーを通過するに要した時間(sec)
【0041】
洗い出し液の残留過酸化水素濃度
5cm角のフィルムについて、フィルム表面に付着した過酸化水素を100ml精製水へ洗い出し、これを試料液として厚生省の通知(昭和56年5月環食化第30号)に記載された酸素電極法に準拠して測定した。
生残菌数
フィルム表面から付着菌を洗い出し、これを試料液として社団法人日本食品衛生協会2004年版食品衛生検査指針に記載の標準平板計測法に準拠して測定した。なお、フィルム表面には、106個の付着菌数となるように、枯草菌胞子液を滴下乾燥させた検体を用いた。
【0042】
〔比較例3〕
図1に示す滅菌処理装置において、過酸化水素ガス吸着部の代わりに35%過酸化水素水浴を準備し、フィルムを当該35%過酸化水素水浴に浸漬後、ドクターブレードで表面の余分な過酸化水素水をこそぎ落とした。その後、実施例2と同様の条件で、フィルム表面に吸着した過酸化水素水に対しプラズマ化処理を行なった。
滅菌処理後、生残菌数はほぼ0であったが、残留過酸化水素量は、フィルム表面から洗い出した試料液の過酸化水素濃度として20ppmであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態にかかる滅菌処理装置の概略図である。
【図2】本発明の滅菌処理装置の下流側に用いられる無菌充填機の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 滅菌処理装置
11 過酸化水素ガス吸着部
111 過酸化水素ガスチャンバー
112 フィルム取り込み口
113 フィルム送り出し口
114 過酸化水素ガスの給気口
12 過酸化水素プラズマ化部
121 プラズマチャンバー
122 放電電極
13 排気口
2 フィルムロール
3 フィルム
4 無菌充填機
5 殺菌手段
6 連結具
7 エアレーション装置
8 無菌室
81 フィルム導入口
82 案内ローラー
83 長手袋
9 充填機
91 製袋手段
92 内容物供給手段
93 UV殺菌灯
94 シャッター
95 オプション部
96 排出口
97 自動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面を滅菌する滅菌処理方法であって、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着工程と、該過酸化水素ガス吸着工程の後に過酸化水素ガスを吸着させたフィルム表面が暴露される空間において大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離工程とを有することを特徴とするフィルムの滅菌処理方法。
【請求項2】
前記気体電離工程が、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部も電離する工程である請求項1記載のフィルムの滅菌処理方法。
【請求項3】
前記気体電離工程が、フィルムの表面に吸着した過酸化水素ガスの少なくとも一部を分解する工程である請求項1又は2記載のフィルムの滅菌処理方法。
【請求項4】
前記気体電離工程が、空気雰囲気下で高電圧パルスを印加して気体の少なくとも一部を電離させる工程である請求項1、2又は3記載のフィルムの滅菌処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の滅菌処理方法で滅菌処理された包装用フィルムを、その滅菌状態を維持しつつ内部が無菌環境に保持された無菌室に導入して、製袋および充填を行なうことを特徴とする無菌充填方法。
【請求項6】
フィルム表面を滅菌する滅菌処理装置であって、フィルムの少なくとも片側表面に過酸化水素ガスを吸着させる過酸化水素ガス吸着部と、該過酸化水素ガス吸着部の下流側に位置し、フィルム表面が暴露される空間に、大気圧下で気体の少なくとも一部を電離させる気体電離部とを有することを特徴とするフィルムの滅菌処理装置。
【請求項7】
前記過酸化水素ガス吸着部が過酸化水素ガス給気部と過酸化水素ガス吸引排気部とを備える請求項6に記載のフィルムの滅菌処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の滅菌処理装置と、内部が無菌環境に保持された無菌室と、該無菌室に収納された製袋充填包装装置とを備えることを特徴とする無菌充填装置。
【請求項9】
前記滅菌処理装置と前記無菌室とが気密に接続された請求項8記載の無菌充填装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−167160(P2007−167160A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365793(P2005−365793)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】