説明

滅菌済み輸液製剤の製造方法

【課題】軟質バッグと、該軟質バッグに取り付けられた筒状の排出ポートと、該排出ポートを取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部と、該連通阻害用弱シール部より排出ポート側の前記軟質バッグ内空間と前記排出ポート内空間との連通空間として形成された用時混合用薬液室と、該用時混合用薬液室に収容された、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する用時混合用薬液とを有する輸液製剤を、高温で加熱滅菌後に室温まで冷却すると、容器の一部に粘性の高い析出物が生じる場合において、 安定剤の複雑な製剤的処置を施さずに、粘性の高い析出物を生じさせない加熱滅菌方法を提供する。
【解決手段】前記用時混合用薬液の70%以上が該排出ポート内空間に収容された状態になるよう該輸液製剤の設置角度を調整して加熱滅菌を行うことにより、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌済み輸液製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経口・経腸管栄養補給が不能または不充分な患者には、経静脈からの高カロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤としては、糖製剤、アミノ酸製剤、電解質製剤、混合ビタミン製剤、脂肪乳剤などが市販されており、病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていた。しかし、病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに、かかる混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題があった。このため連通可能な隔壁で区画された複数の室に糖、アミノ酸、電解質、ビタミン等を含有する薬液を分けて収容し、用時に隔壁を開通して混合した上で投与することができる総合輸液製剤が使用されている。
【0003】
このような総合輸液製剤に配合されるビタミンは水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンに大別されるが、脂溶性ビタミンはそれ自体では水に不溶性であるため、輸液製剤に収容する場合は水に可溶化し、脂溶性ビタミン可溶化製剤とする必要がある。脂溶性ビタミンの可溶化には一般に界面活性剤が用いられており、静脈投与で使用できる界面活性剤としては、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤が多用されている。
【0004】
ところで、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤は、水に溶解すると親水性の酸素が外側に、疎水基は内側に向かい、外側のエーテル結合の酸素原子に水素結合によって水分子がゆるく結合する状態となる。非イオン界面活性剤を含有する薬液を加熱していくと、ゆるく結合していた水分子がはがれて、親水性が次第に低下し、ある閾値を越えると急に溶液全体が白濁する。これは、曇点現象と呼ばれる現象であり、このときの温度を曇点という。
上記の脂溶性ビタミン可溶化製剤のような、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する薬液を曇点以上に加熱すると、上記曇点現象を生起して白濁が生じる。更に温度を上昇させると、モヤ状となる段階が発生する。そして更に温度を上昇させると、ほとんどの重合度の非イオン界面活性剤は完全に脱水和し、凝集を起こして粒子として析出する(特許文献1)。
【0005】
輸液製剤の加熱滅菌時の温度は100℃以上であることが多く、この場合、ほとんどの重合度の非イオン界面活性剤は薬液中で完全に脱水和した状態となる。通常、加熱滅菌後に室温まで冷却する場合、加熱滅菌時に生じた凝集粒子は冷却されるにつれモヤ状となり、室温にて生じているモヤ状析出物は、時間が経てば分散・溶解し、薬液はやがて透明で均一な外観に戻る。しかしながら、薬液を収容した容器が複雑な形状を有する場合等には、容器の一部に粘性の高い析出物が生じ、更には時間が経っても析出物が溶解しない場合がある。このような析出物は有害なものではないが、析出物に薬剤が含まれている場合もあるため、輸液の投与時に必要な薬剤量が患者に投与されない結果となる可能性がある。また、輸液容器は通常透明または半透明であることから外観上問題となる場合がある。
【0006】
このような析出物の生成抑制のためには、薬液に糖アルコール類等の安定剤を配合し、その配合量を適切に設定するか、ポリエチレングリコール類またはプロピレングリコール類等の安定剤を配合し、曇点を滅菌温度以上となるように調整する等の製剤的処置による解決策が提唱されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、ポリエチレングリコール類またはプロピレングリコール類等の安定剤を配合した、非イオン界面活性剤を含有する薬液を透明なプラスチック製の容器に封入した場合、薬剤の容器への吸着等による含量低下の問題が生じる。特にポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系重合体は、人体に有害な成分を含まず安全性に優れ、化学的にも安定で耐薬品性に優れ、さらに強度、透明性、ヒートシール性、連通口(ポート)などの部材の接合性に優れ、しかも安価であることから、輸液製剤の容器として汎用されているが、それらの容器に封入した場合に含量低下の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−88879
【特許文献2】特許第2787364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する薬液を収容した区画を有する輸液製剤を加熱滅菌した後冷却した場合に、粘性の高い析出物が発生することを防止し、かつ、薬剤含量低下の問題が生じ得るポリエチレングリコール類またはプロピレングリコール類等の安定剤を配合する必要のない滅菌済み輸液製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
(1)周縁部を有する軟質バッグと、該軟質バッグ内と連通可能に取り付けられた筒状の排出ポートと、該排出ポートを取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部と、該連通阻害用弱シール部と、前記排出ポートと、前記周縁部により形成された用時混合用薬液室と、該用時混合用薬液室に収容された、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する用時混合用薬液とを有する輸液製剤を準備する工程と、
該用時混合用薬液の70%以上が該排出ポート内空間に収容された状態になるように前記輸液製剤を設置して加熱滅菌を行う滅菌工程とを行うことを特徴とする輸液製剤の製造方法。
(2)前記滅菌工程において、前記輸液製剤の設置角度を調整することにより、前記用時混合用薬液の70%以上が前記排出ポート内空間に収容された状態になるようにする(1)に記載の輸液製剤の製造方法。
(3)前記滅菌工程において、排出ポートを下にして傾斜のついた載置用部材に載せることで輸液製剤の設置角度を調整する(2)に記載の輸液製剤の製造方法。
(4)前記滅菌工程において、排出ポートを下にして輸液製剤を懸垂することで輸液製剤の設置角度を調整する(2)に記載の輸液製剤の製造方法。
(5)前ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである(1)乃至(4)のいずれかに記載の輸液製剤の製造方法。
(6)前記用時混合用薬液が、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKから選ばれる少なくとも1種の脂溶性ビタミンを含有するものである(1)乃至(5)のいずれかに記載の薬液充填済み輸液製剤の製造方法。
(7)前記用時混合用薬液が、糖アルコールを含有するものである(1)乃至(6)のいずれかに記載の薬液充填済み輸液製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の輸液製剤の製造方法によれば、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する薬液を収容した輸液製剤を加熱滅菌した後冷却した場合に、容器の一部に粘性の高い析出物が生じず、外観による製品価値の低下を防ぐことができる。
また、薬剤を含んだ粘性の高い析出物の溶け残りにより、必要な薬剤量が患者に投与されないという問題を解消することができる。
さらに、析出物の生成を抑制するために、糖アルコール類等の安定剤の配合量を適切に設定することや、さらにポリエチレングリコール類またはプロピレングリコール類等の安定剤を配合する等の複雑な製剤的処置を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例で製造される輸液製剤の一例である。
【図2】図2は、本発明の実施例である輸液製剤の製造方法を説明するための説明図であり、輸液製剤を傾斜のついたチャンバ内部材の上に載せて設置角度を調整しながら滅菌工程を行っている状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適実施態様に基づいて、本発明を説明する。
本発明の輸液製剤の製造方法は、周縁部を有する軟質バッグと、該軟質バッグ内と連通可能に取り付けられた筒状の排出ポートと、該排出ポートを取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部と、該連通阻害用弱シール部と、前記排出ポートと、前記周縁部により形成された用時混合用薬液室と、該用時混合用薬液室に収容された、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する用時混合用薬液とを有する輸液製剤を準備する工程と、該用時混合用薬液の70%以上が該排出ポート内空間に収容された状態になるように前記輸液製剤を設置して加熱滅菌を行う滅菌工程とを行うことを特徴とする。
【0014】
まず、輸液製剤を準備する工程について、実施例に基づいて説明する。
図1に示す、本発明の好適実施態様に係る輸液製剤1は、周縁部を有し、周縁部の上端に上端側シール部9を、周縁部の下端に下端側シール部7を有するとともに、仕切用弱シール部8により第1の薬液室3および第2の薬液室4に仕切られた軟質バッグ2と、第1の薬液室3に連通するように軟質バッグ2に取り付けられた排出ポート6と、排出ポート6を取り囲むように、具体的には、一端が周縁部(下端側シール部)より排出ポートを取り囲むように延び、他端が周縁部(下端側シール部)へ戻るように軟質バッグ2に形成された連通阻害用弱シール部10と、連通阻害用弱シール部10と排出ポート6と下端側シール部7とにより形成される閉鎖空間を利用した用時混合用薬液室である第3の薬液室5と、第1の薬液室3に充填された第1の薬液31および第2の薬液室4に充填された第2の薬液41と、第3の薬液室5に充填された用時混合用薬液である第3の薬液51とを備えている。
【0015】
軟質バッグ2は、軟質樹脂製シートにより作製されている。軟質バッグ2は、インフレーション成形法により筒状に成形されたものが好ましい。なお、軟質バッグ2は、例えば、Tダイ法、ブロー成形法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、共押出インフレーション法、共押出Tダイ法、ホットプレス法等の種々の方法により製造されたものでもよい。そして、図1の軟質バッグ2は、インフレーション成形法により製造された場合、製造過程において折り曲げられることにより2つの側辺が形成される。また、必要により軽くプレスすることにより、折り曲げられた側辺を形成してもよい。
【0016】
また、軟質バッグ2は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が、50g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは1g/m2・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
このように軟質バッグ2が水蒸気バリヤー性を有することにより、輸液製剤1の内部からの水分の蒸散が防止できる。その結果、充填される液体の減少、濃縮を防止することができる。また、輸液製剤1の外部からの水蒸気の侵入も防止することができる。
【0017】
このような軟質バッグ2の材質は、ある程度の耐熱性のある樹脂が好ましい。このような樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体などのエチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンまたはポリブテンとの混合物或いはそれらの部分架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、軟質塩化ビニル樹脂などを挙げることができ、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいは環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂を主成分とし必要に応じて各種エラストマーなどを添加することにより軟質化した樹脂組成物が使用される。
また、軟質バッグ2は、前述したような材料よりなる単層構造のもの(単層体)であってもよいし、また種々の目的で、複数の層(特に異種材料の層)を重ねた多層積層体であってもよい。多層積層体の場合、複数の樹脂層を重ねたものであってもよいし、少なくとも1層の樹脂層に金属層を積層したものであってもよい。
【0018】
軟質バッグ2を構成するシート材(単層または多層積層体)の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100〜500μm程度であるのが好ましく、200〜360μm程度であるのがより好ましい。
【0019】
また、軟質バッグ2は、筒状のフィルムを用いた場合、上端部には上端側シール部9が設けられ、下端部には下端側シール部7が設けられている。軟質バッグ2の上端側シール部9および下端側シール部7は、熱融着(ヒートシール)、高周波融着等により形成されることが好ましく、特に、熱融着により行うことが好ましい。
仕切用弱シール部8は、図1に示すように、軟質バッグ2の内部空間を仕切るように形成された剥離可能な弱シール部である。軟質バッグ2は、仕切用弱シール部9により、第1の薬液室3と第2の薬液室4とに仕切られている。仕切用弱シール部8は、軟質バッグ2の幅方向に対して水平に帯状に形成されており、その両端部は拡径している。また、仕切用弱シール部8の両端部には、実質的に剥離しない強シール部11が形成されている。また、本発明の実施例では、仕切用弱シール部8は、第1の薬液室3の内容積が第2の薬液室4の内容積より大きくなる位置に形成されている。
【0020】
仕切用弱シール部8は、薬液が充填された第2の薬液室4もしくは第1の薬液室3を指等で押圧することにより剥離可能な程度のシール強度を備える。このように仕切用弱シール部8により軟質バッグ2内を仕切ることにより、反応等による変質、劣化を生じる物質を含有する液体を使用するまでは別々に保存でき、使用に際し、使用直前など両液を混合することが好ましいとき等に適用することができる。このような液体としては、例えば、アミノ酸電解質液とブドウ糖液、ブドウ糖液と重曹液等の組み合わせが挙げられる。また、上記のような仕切用弱シール部を備えない場合には、どのような液体を充填してもよく、例えば、生理食塩水、電解質溶液、リンゲル液、高カロリー輸液、ブドウ糖液、注射用水が挙げられる。
【0021】
また、仕切用弱シール部8は帯状に形成され、中央側弱シール部8bと、中央側弱シール部8bより剥離しにくい側部側弱シール部8aとを備える。さらに、輸液製剤1は、仕切用弱シール部8の中央弱シール部8bの下方に位置し、第1の薬液室3と排出ポート6との連通を阻害する連通阻害用弱シール部10を備えている。
このような構成により、第2の薬液室4を押圧することにより、側部側弱シール部8aが剥離することなくもしくは側部側弱シール部8aの剥離に先だって、中央側弱シール部8bが剥離する。そして、第2の薬液室4から剥離部(剥離した中央側弱シール部)を通り、第2の薬液41が第1の薬液室3に流入する。この第2の薬液の流入により第1の薬液室3が押し広げられるとともに第2の薬液室4の押圧の継続により第1の薬液室3の内圧も上昇する。第2の薬液41の流入時には、中央側弱シール部8bが剥離部となり、弱シール部8の全体が剥離しない。このため、第1の薬液室3はその容量があまり増加しない状態において、第2の薬液41の流入を受けることになる。よって、第1の薬液室3は確実に押し広げられ、これに従って、連通阻害用弱シール部10が確実に剥離する。また、第1の薬液室3を押圧することによっても、中央側弱シール部8bとともにもしくは若干遅れて連通阻害用弱シール部10が剥離する。よって、いずれの薬液室を押圧しても、第1の薬液室と第2の薬液室との連通操作および連通阻害用弱シール部10の剥離操作を一方の薬液室を押圧するという単一の作業により行うことができる。
本発明により製造される輸液製剤1としては、このような仕切用弱シール部8を備えるものが好適であるが、仕切用弱シール部8を有さず、連通阻害用弱シール部10のみを有するものであってもよい。
【0022】
また、軟質バッグ2の上端側シール部9には、ハンガー等に吊り下げるための懸垂孔12が設けられていることが好ましい。
【0023】
軟質バッグ2の下端側に取り付けられる排出ポート6としては公知のものを使用することができる。例えば、図1に示すように、筒状部材6aと、キャップ部材6bと、キャップ部材6bによって筒状部材6aの開口を封止するように固定されるとともに、投与時等に針管を挿通可能な弾性部材6cを備えるものが一般的である。
【0024】
排出ポート6の筒状部材6aおよびキャップ部材6bの構成材料としては、軟質バッグ2と相溶性を有する樹脂であることが好ましい。また、硬質材料であることが好ましい。例えば、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、環状ポリオレフィン(具体的には、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社)、APEL(登録商標、三井化学株式会社製))、ポリプロピレン、ポリプロピレンホモポリマー、高密度ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド等の各種樹脂、あるいはこれらを任意に組み合わせたものが挙げられる。
【0025】
また、排出ポート6の弾性部材6cは、自己閉塞性を有し、針管を弾性体から抜き取った後は、その穿刺孔が閉塞し、薬液の漏れを防止するものであることが好ましい。弾性部材6cの構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミドなどの可撓性高分子材料、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムのような各種ゴム材料等の弾性材料、あるいはこれらのうちの任意の2以上を組み合わせたものが挙げられ、刺通性、再閉塞性の点からは弾性材料を含有しているものが好ましい。
【0026】
そして、輸液製剤1は、軟質バッグ内2と連通可能に取り付けられた筒状の排出ポート6と、該排出ポートを取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10と、該連通阻害用弱シール部10と、前記排出ポート6と、前記周縁部により形成された用時混合用薬液室である第3の薬液室5を備えている。換言すれば、連通阻害用弱シール部10より排出ポート側の前記軟質バッグ内空間と前記排出ポート内空間との連通空間として用時混合用薬液室である第3の薬液室5が形成されている。
このような構成により、上述した連通阻害用弱シール部10の剥離に伴って、第3の薬液室5に充填された第3の薬液51が第1の薬液室および第2の薬液室に充填された薬液と混合され、他の特段の混合操作を行わなくとも輸液剤の用時調製が完了するものとすることができる。
【0027】
なお、第3の薬液室は、上記連通阻害部の剥離操作を行わないまま排出ポートに投与用針管(瓶針)が挿通され、混合前の第3の薬液51のみが患者に誤投与されてしまうことを防止するための針管進入阻害部を備えるものであってもよい。このような針管進入阻害部としては、本願出願人による特開2007−50085号公報に記載されているもの等を使用することができる。
【0028】
排出ポート6は、図1に示すように、軟質バッグ2の下端側シール部7に形成された排出ポート取付部に、熱融着、高周波融着等により取り付けられる。第1の薬液31、第2の薬液41は、それぞれ下端側シール部7、上端側シール部9に形成された薬液注入孔から注入されることが好ましい。薬液注入孔は、軟質バッグ2の下端側シール部7、上端側シール部9の一部分をシールしないことにより形成されることが好ましい。注入孔は、第1の薬液室3もしくは第2の薬液室4に薬液を注入後、ヒートシールされることにより封止されることが好ましい。
また、第3の薬液室5は、排出ポート6の筒状部材6aより第3の薬液51を注入後、弾性部材6cを押し込み嵌合した蓋部材6bを筒状部材6aに超音波融着や熱融着することにより封止されることが好ましい。ただし、各薬液室への薬液の注入順序は規定されず、どの薬液室から薬液を注入してもよい。
【0029】
第1の薬液31、第2の薬液41は、混合すると化学反応による変質や劣化を生じる物質を含有する薬液を、使用するまでは別々に保存するものであることが好ましく、このような薬液を充填した輸液製剤1は、患者への投与直前などに両薬液を混合して投与するために優れたものとなる。このような薬液としては、例えば、アミノ酸電解質液とブドウ糖液、ブドウ糖液と重曹液等の組み合わせが挙げられ、これらの薬液は第1および第2の薬液室のどちらに収容してもよい。
【0030】
上記のような糖溶液は、糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなどの1種または2種以上を含有することができる。前記した糖のうち、血糖管理の面などの点からブドウ糖を用いることが好ましい。糖の含有量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決めることができるが、本発明の被滅菌物である輸液製剤の、複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合した後の混合液(輸液)中の糖濃度が3〜30w/v%、特に7.5〜25w/v%となる量であることがより好ましい。
糖溶液は、必要に応じてpH調節剤を用いて、pH4.0〜5.5、好ましくはpH4.0〜5.0に調節する。糖溶液のpHが前記範囲であることによって、糖溶液中に含まれる各種成分の凝集、沈殿、変質などを防ぐことができる。糖溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
また、上記のようなアミノ酸溶液は、アミノ酸として、従来から生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に含有されている各種アミノ酸(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)を含有するようにすればよい。収容するアミノ酸溶液に用いるアミノ酸として、例えば、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、L−セリン、L−チロシン、L−グルタミン酸、L−システイン、L−シスチンなどを挙げることができる。これらのアミノ酸は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いられる必要はなく、無機酸塩(例えば、L−リジン亜硫酸塩、L−リジン塩酸塩、L−システイン塩酸塩(1水和物)など)、有機酸塩(例えば、L−システインリンゴ酸塩、L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩など)、生体内で加水分解可能なエステル体(例えば、L−チロシンメチルエステル、L−メチオニンメチルエステル、L−メチオニンエチルエステルなど)、N−置換体(例えば、N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−プロリンなど)などの形態で用いてもよい。また、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(例えば、L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニンなど)などの形態で用いてもよい。アミノ酸の含有量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決定できるが、本発明の被滅菌物である輸液製剤の、複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合した後の混合液(輸液)中のアミノ酸濃度が1〜10w/v%となる量であることが好ましく、1〜6w/v%となる量であることがより好ましい。
アミノ酸溶液は、必要に応じてpH調節剤を使用して、pH6.0〜8.5、好ましくはpH6.0〜7.5に調節する。アミノ酸溶液のpHが前記範囲であることによって、アミノ酸溶液中に含まれる各種成分の凝集、沈殿、変質などを防ぐことができる。アミノ酸溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、アミノ酸溶液には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩を安定化剤として添加してもよい。
【0032】
本発明により製造される輸液製剤の、第1の薬液室31または第2の薬液室41に充填される糖溶液またはアミノ酸溶液は、電解質をさらに含有することができ、電解質としては、一般の電解質輸液などに用いられる化合物と同様のものを使用でき、生体に必須の電解質であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル、リンなどを挙げることができる。電解質の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、これらの水和物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。
【0033】
本発明において、第3の薬液室3に充填される第3の薬液51は、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する薬液である。ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤は、脂溶性薬剤や脂溶性栄養成分の可溶化に一般的に用いられる。このような界面活性剤としては、非経口投与してもアナフィラキシー型のショック症状をもたらすおそれがないことから、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類の具体例としては、日光ケミカルズ株式会社製「ポリソルベート80」(商品名:TO−10M)、「ポリソルベート20」(商品名:TL−10)などを挙げることができ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0034】
第3の薬液は、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤により可溶化される脂溶性薬剤を含有することが好ましく、このような脂溶性薬剤としては脂溶性ビタミンを挙げることができる。ここで、脂溶性ビタミンの種類は特に制限されず、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどを用いることができる。例えば、本発明により製造される輸液製剤が静脈栄養輸液であるときは、ビタミンA、ビタミンDおよびビタミンEの3種を少なくとも含有するか、或いはビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKの4種を少なくとも含有することが望ましい。ビタミンAとしては、ビタミンA(レチノール)活性を有するパルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなどを挙げることができる。ビタミンDとしては、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、これらの活性型などを挙げることができる。ビタミンEとしては、酢酸トコフェロール、琥珀酸トコフェロール、dl−α−トコフェロールなどを挙げることができる。また、ビタミンKとしては、フィトナジオン、メナテトレノン、メナジオン、これらの誘導体などを挙げることができる。
【0035】
脂溶性ビタミンの含有量は、特に制限されず、第3の薬液の使用目的、使用形態、給与対象の年齢や状態などに応じて決めることができる。一般に、成人が1日に必要なビタミン摂取量は、ビタミンAが2000〜5000IU、ビタミンDが200〜1000IU、ビタミンEが2〜20mg、ビタミンKが0.1〜10mgとされているので、前記量を考慮して決めればよい。
【0036】
また、上記ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤の配合量は、薬液中に含まれる脂溶性ビタミンの重量(2種以上の脂溶性ビタミンを含有する場合はその合計重量)1重量部に対して、2〜12重量部であることが、脂溶性ビタミンの可溶化が良好になり、且つ保存安定性に優れることから好ましく、2.5〜10重量部であることがより好ましい。ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤の配合量が2重量部未満では、可溶化が不充分になる恐れがあり、一方12重量部よりも多くても、可溶化に関し、その配合量に見合うだけの効果が期待できなくなる。
【0037】
本発明において、第3の薬液51は、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤と共に、糖アルコール等の安定剤を含有していてもよい。このような安定剤を含有することによって、薬液の調製時に系の状態が変わらず、脂溶性ビタミンを極めて安定に且つ良好に系中に可溶化することができる。安定剤として用いる糖アルコールの具体例としては、ソルビトール、マルチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。本発明における第3の薬液は、安定剤として、ソルビトールを含有することが好ましい。糖アルコールの配合量(2種以上を含有する場合はその合計配合量)は、第3の薬液の全重量に基づいて、6〜40重量%であることが、脂溶性ビタミンの可溶化が良好になり好ましく、8〜30重量%であることがより好ましい。
【0038】
第3の薬液51の溶媒としては、一般に、ビタミンの溶解または分散に従来から用いられている注射用水、蒸留水などのような水性媒体が用いられる。第3の薬液51のpHは、5.0〜7.0、特に5.5〜6.5であることが、人体に対する安全性、液中での脂溶性ビタミンの可溶化性および安定性などの点から好ましい。第3の薬液51のpHを前記した範囲に調節するに当たっては、医薬品添加物として使用できる化合物であればいずれも使用でき、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸などの有機酸、炭酸、硼酸、リン酸、硫酸、塩酸などの無機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ性化合物などを用いてpH調節を行うことができる。
【0039】
本発明において、第3の薬液51は、上記した成分と共に、必要に応じて水溶性ビタミン類、糖類、アミノ酸類、電解質成分などの他の成分の1種または2種以上を含有していてもよい
【0040】
次に、滅菌工程について説明する。
本発明の滅菌工程は、上記のように製造された輸液製剤1を、高圧蒸気滅菌、熱水滅菌、熱水シャワー滅菌などの公知の方法で加熱滅菌する工程である。滅菌処理時の条件、例えば滅菌温度、滅菌時間などは通常輸液製剤の滅菌操作で採用されているのと同様の条件を採用することができるが、高圧蒸気滅菌が最も好ましい。高圧蒸気滅菌を行う場合の加熱条件は一般的には、約100〜140℃で5〜30分が好ましく採用される。しかしながら、本発明の方法は高温処理後の冷却による界面活性剤の析出を防止する技術であるため、少なくとも曇点以上の高温処理を行う滅菌方法であれば限定されない。さらに、このような加熱滅菌処理は、必要に応じて、窒素などの不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0041】
加熱滅菌工程は、非イオン界面活性剤を含有する第3の薬液51の70%以上が、排出ポート6内空間(排出ポート6の、筒状部材6aの周状側壁と、弾性部材6cと、筒状部材6aの軟質バッグ2に連通する開口端の断面とにより形成される空間)に収容された状態になるよう輸液製剤1を設置して行う。第3の薬液51の全量のうち、排出ポート6の筒状部材6aの内腔に収容される量が70%以上である場合には、加熱滅菌後に輸液製剤が室温まで冷却されても、第3の薬液に含有される非イオン界面活性剤の析出は起こらない。これは、排出ポート6が硬質であることから加熱滅菌工程中も形状が維持されていることにより、該筒状の内腔内で薬液51の対流が十分に発生するためであると考えられる。一方、排出ポート6の筒状部材6aの内腔に収容される量が70%未満であると、加熱滅菌中および加熱滅菌後の冷却過程において薬液51の対流がうまく起こらず、界面活性剤の析出が発生するものと推察される。
【0042】
第3の薬液51の70%以上が排出ポート6内空間に収容された状態になるよう輸液製剤1を設置する方法は特に限定されないが、輸液製剤の設置角度を調整することにより、このような状態を形成するのが好ましい。設置角度の調整は、例えば、傾斜のついた台13の上に排出ポート6側を下にして輸液製剤1を横たえて載置した状態で行うことができる。このとき、台13の傾斜角度は、第3の薬液51の70%以上が、筒状部材6aの内腔に収容される状態になるような角度であればよく、該内腔の容積や充填された第3の薬液51の量により適宜決定することができる。また、このような設置角度の調整は台によって行うものに限られず、例えば、懸垂孔12のような医療容器1に設けられた孔をフック等により懸垂することによっても輸液製剤1の設置角度を調製することができる。この場合、輸液製剤1は、第3の薬液51の70%以上が排出ポート6の筒状部材6aの内腔に収容された状態を維持できる限り、図2に示すのと同じように斜めに固定されていても、排出ポート6側を下にして完全に垂直に懸垂された状態で固定されていてもよい。また、輸液製剤1の排出ポート6の首の部分を金具等で固定することで、輸液製剤1の設置角度を調製してもよく、これらの方法を適宜組み合わせて、滅菌中に設置角度が変化することがないよう確実に固定することが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0044】
(実施例1)
(1)下記の表1に示す成分組成を有するブドウ糖含有溶液700mLを調製した。ブドウ糖含有溶液はpH4.5となるように希塩酸とコハク酸を適量添加して調整した。
(2)下記の表2に示す成分組成を有するアミノ酸含有溶液300mLを調製した。アミノ酸含有溶液はpH6.5となるようにクエン酸とコハク酸を適量添加して調整した。
(3)ビタミンA(レチノールパルミチン酸エステル)、ビタミンD(コレカルシフェロール)、ビタミンE(トコフェロール酢酸エステル)、ビタミンK(フィトナジオン)およびポリソルベート80とポリソルベート20を、最終的に得られる脂溶性ビタミン可溶化液中でのこれらの成分の含有量が下記の表3の割合になる量で混合して、脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。
(4)上記(3)とは別に、シアノコバラミン、葉酸、ビオチンおよびソルビトールを、最終的に得られる脂溶性ビタミン可溶化液中でのこれらの成分の含有量が下記の表3の割合になる量で注射用水に溶解して水溶性ビタミン溶液を調製した。
(5)上記(3)で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液と、上記(4)で調製した水溶性ビタミン溶液を混合し、20分間室温下に撹拌した後、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整し、注射用水によりメスアップして下記の表3に示す成分組成を有する脂溶性ビタミン可溶化液(用時混合用薬液)を調製した。
(6)図1に示すような、隔壁によって3つの室に仕切られたポリプロピレン製の輸液製剤の第1の薬液室に上記(1)で調製したブドウ糖含有溶液(第1の薬液)を700mL充填し、第2の薬液室に上記(2)で調製したアミノ酸含有溶液(第2の薬液)を300mL充填し、第3の薬液室に(5)で得られた脂溶性ビタミン含有液(第3の薬液=用時混合用薬液)を3mL充填し、総合輸液製剤を製造した。
(7) 上記(6)で得られた輸液製剤を、30度の傾斜のついたチャンバ内部材の上に、輸液製剤の上端側が上になるように載置し、105℃10分高圧蒸気滅菌を行った後、室温まで冷却した。このとき、脂溶性ビタミン含有液は、3mL中約2.4mL、すなわち全量の約80%が排出ポート内空間に収容された状態であった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
(比較例1)
(1)上記実施例1と同様に製造した輸液製剤を、傾斜のない滅菌チャンバ内部材の上に水平に載置し、常法に従い高圧蒸気滅菌した。このとき、脂溶性ビタミン含有液は、3mL中約1.5mL、すなわち全量の約50%が排出ポート内空間に収容された状態であった。
【0049】
(実施例1および比較例1)
比較例1の製造方法のように、脂溶性ビタミン可溶化液入り容器を平らな状態で滅菌すると、加熱滅菌後室温まで冷却した場合にモヤ状析出物発生し、時間が経っても分散・溶解せず、粘性の高い析出物として残った。一方、実施例1の製造方法によれば、このような粘性の高い析出物が残らなかった。
【符号の説明】
【0050】
1 輸液製剤
2 軟質バッグ
3 第1の薬液室
4 第2の薬液室
5 第3の薬液室
6 排出ポート
6a 筒状部材
6b キャップ部材
6c 弾性部材
7 下端側シール部
8 仕切用弱シール部
9 上端側シール部
10 連通阻害用弱シール部
11 強シール部
12 懸垂孔
13 載置用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部を有する軟質バッグと、該軟質バッグ内と連通可能に取り付けられた筒状の排出ポートと、該排出ポートを取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部と、該連通阻害用弱シール部と、前記排出ポートと、前記周縁部により形成された用時混合用薬液室と、該用時混合用薬液室に収容された、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤を含有する用時混合用薬液とを有する輸液製剤を準備する工程と、
該用時混合用薬液の70%以上が該排出ポート内空間に収容された状態になるように前記輸液製剤を設置して加熱滅菌を行う滅菌工程とを行うことを特徴とする輸液製剤の製造方法。
【請求項2】
前記滅菌工程において、前記輸液製剤の設置角度を調整することにより、前記用時混合用薬液の70%以上が前記排出ポート内空間に収容された状態になるようにする請求項1に記載の輸液製剤の製造方法。
【請求項3】
前記滅菌工程において、排出ポートを下にして傾斜のついた載置用部材に載せることで輸液製剤の設置角度を調整する請求項2に記載の輸液製剤の製造方法。
【請求項4】
前記滅菌工程において、排出ポートを下にして輸液製剤を懸垂することで輸液製剤の設置角度を調整する請求項2に記載の輸液製剤の製造方法。
【請求項5】
前ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1乃至4のいずれかに記載の輸液製剤の製造方法。
【請求項6】
前記用時混合用薬液が、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKから選ばれる少なくとも1種の脂溶性ビタミンを含有するものである請求項1乃至5のいずれかに記載の薬液充填済み輸液製剤の製造方法。
【請求項7】
前記用時混合用薬液が、糖アルコールを含有するものである請求項1乃至6のいずれかに記載の薬液充填済み輸液製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−200420(P2012−200420A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68017(P2011−68017)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】