説明

滅菌装置を有するクライオスタット

【課題】稼動中であっても内部の完全な滅菌の実行が可能なクライオスタット。
【解決手段】ナイフホルダを有するミクロトームを収容するためのチャンバと、該チャンバを閉鎖する蓋部材と、制御回路に配された滅菌装置とを含んで構成されたクライオスタットが提供される。このクライオスタットにおいて、前記滅菌装置はUV光源を有し、該UV光源はUV−C光源として構成されかつ前記チャンバの内部に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオスタットに関し、とりわけナイフホルダを有するミクロトームを収容するためのチャンバと、該チャンバを閉鎖する蓋部材と、制御回路に配された滅菌装置とを含んで構成されたクライオスタットに関する。
【背景技術】
【0002】
クライオスタット・ミクロトームは、切断されるべき対象物を予め設定可能な所定の温度に冷却することができるように設計されている。この温度は、通常、−10℃〜−50℃である。温度の恒常性を保証するために、ミクロトームは大掛かりに構成されたカプセル室に配設される。このカプセル室の内部には、ミクロトームを収容するための特殊鋼製容器が含まれる。クライオスタットは、更に、閉鎖可能な透視ディスクないし蓋を有するが、利用者は、この閉鎖可能な透視ディスクないし蓋を介して特殊鋼製容器ないし内部空間にアクセスする。
【0003】
ミクロトームの作動中、切断屑も必然的に生じるが、この切断屑は時々クライオスタットから取り除かなければならない。この生成する切断屑は生物学的又は化学的に不利に作用することもあり得るので、クライオスタットの清掃の際にはハウジング内部の滅菌も実行される。
【特許文献1】DE 88 14 284U1
【特許文献2】DE 103 24 646A1
【特許文献3】DE 103 52 575A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような清掃ないし滅菌の際には、クライオスタットは除霜(霜取り)が行われ、清掃流体及び/又は滅菌流体は噴霧装置によってクライオスタットの内部空間に撒布される。この手作業による方法は、確実であることは確かだが、いうまでもなく著しく時間がかかる。
【0005】
滅菌剤で充填された切断屑受槽を有するクライオスタットについて記載した文献は存在する(上掲特許文献1参照)。しかしながら、この切断屑受槽はクライオスタット内部の小さい領域にわたってしか延在していないため、清掃及び/又は滅菌を完全に実行することは不可能である。
【0006】
本出願(日本国出願)の基礎をなす(第1国)出願(ドイツ国出願)の出願時には未公表の文献(上掲特許文献2参照)には、クライオスタットのための自動滅菌システムが記載されている。このクライオスタットには、ポンプと結合した複数の噴霧ノズルであって、当該ノズルを介して清掃ないし洗浄流体がクライオスタットの内部においてプログラム制御されて撒布されるようにされたノズルが配設されている。
【0007】
この種の自動清掃ないし滅菌の場合もクライオスタット内の温度は上昇する。このため、クライオスタットは、相当長い時間の間、次の試料の処理に使用することができない。作動温度までの迅速な冷却従って使用可能(準備)状態の早急な確立を保証するには、冷却装置のエネルギ消費量を大きくする必要が生じることもある。
【0008】
本出願(日本国出願)の基礎をなす(第1国)出願(ドイツ国出願)の出願時には未公表の文献(上掲特許文献3参照)には、内部チャンバを有するクライオスタットについて記載されている。このクライオスタットでは、内部チャンバは可溶性銀イオンを含むコーティングを有するか又は内部チャンバは可溶性銀イオンがドープされた材料から製造される。この内部チャンバの表面の抗菌作用は、流入する室空気の凝縮(液化)に依存する。最良の抗菌作用は、この場合も、クライオスタットが霜取りされかつクライオスタットが最早作動可能(準備)状態にない場合に達成される。
【0009】
それゆえ、本発明の課題は、クライオスタット内部における清掃及び/又は滅菌過程を改善し、作動中であっても完全な滅菌の実行を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一視点により、ナイフホルダを有するミクロトームを収容するためのチャンバと、該チャンバを閉鎖する蓋部材と、制御回路に配された滅菌装置とを含んで構成されたクライオスタットが提供される。このクライオスタットにおいて、前記滅菌装置はUV光源を有し、該UV光源はUV−C光源として構成されかつ前記チャンバの内部に配設されることを特徴とする(形態1・基本構成)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の独立請求項1により、上記課題に対応する効果が達成される。即ち、稼動中であってもクライオスタット内部の完全な滅菌の実行することが可能となる。
更に、各従属請求項により、それぞれ付加的な効果が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、上記基本構成を形態1として示すが、形態2以下は従属請求項の対象でもある。
(形態1) 上掲。
(形態2) 上記形態1のクライオスタットにおいて、前記UV−C光源は、(前記チャンバ内に収容された場合に)ミクロトームのナイフホルダ(が位置すべき位置)の直上に配置されること、及び該UV−C光源によって放射される波長はλ=254nmであることが好ましい。
(形態3) 上記形態1のクライオスタットにおいて、前記閉鎖可能な蓋部材には安全スイッチが配され、前記制御回路は前記UV−C光源及び前記安全スイッチと電気的に結合され、前記UV−C光源は前記安全スイッチが反応ないし応答(Ansprechen)したとき前記制御回路を介して不活性化されることが好ましい。
(形態4) 上記形態1のクライオスタットにおいて、前記制御回路は自動的時間制御器(タイマ)を有することが好ましい。
(形態5) 上記形態1のクライオスタットにおいて、前記チャンバ又はその(1又は2以上の)部分は、二酸化チタン・ナノパーティクルが包埋されているか(eingebettet)及び/又は銀イオン・ナノパーティクルを含むコーティングを有する(二酸化チタン・ナノパーティクル、又は二酸化チタン・ナノパーティクル及び銀イオン・ナノパーティクルを含有する)ことが好ましい。
【0013】
本発明の特徴の1つは、滅菌を行うために、クライオスタットにUV光源を配したことである。このUV光源は、任意の時点において、オン・オフすることができる。その際、クライオスタットは、除霜(霜取り)する必要はない。UV光線によって、短時間で真菌類、酵母、細菌等に対するクライオスタットの完全な滅菌を実行することが保証される。
【0014】
本発明の一実施形態では、UV光源はUV−C光源として構成され、付加的にクライオスタットの内部に配設される。UV−C光源を使用することにより、クライオスタットの迅速(凡そ30秒)かつ確実な滅菌が達成される。その際、光源は、クライオスタットの内部に配されるか組み込まれると有利である。UV−C光源は、(クライオスタット内にミクロトームが配設されたとした場合に、ミクロトームの)切断ナイフないし試料ホルダ(が位置すべき位置)の直上(直ぐ上方)に配置されると有利であることが明らかとなっている。というのは、そのような領域は、最も汚染された材料が生成するからである。
【0015】
本発明の一実施形態において、とりわけ効果的なUV−C光源は、λ=254nmの波長の光を放射する。この光線はX線(の領域)に近接するため、この光源の作動に際しては、種々の安全性の側面が顧慮される必要がある。クライオスタットの内部に光源を一体的に組み込みかつクライオスタットの閉鎖可能な蓋部材に安全スイッチを設けることにより、蓋部材が閉じている場合にのみ光源が作動可能であること及び蓋部材が開かれたときには直ちに制御回路を介して光源がオフされることが保証される。
【0016】
本発明の更なる一実施形態では、制御回路には自動時間制御器ないしタイマ(Zeitsteuerung)が備えられる。このため、予め設定可能な(任意の)時点における完全自動的滅菌(処理)を実行することができる。本発明では、クライオスタットは、滅菌過程の間、除霜(霜取り)する必要はないので、滅菌を任意の時点において中断し、(直ちに)凍結試料の切断を実行することができる。
【0017】
本発明の一展開形態では、(クライオスタット)チャンバ又はクライオスタットチャンバの部分(複数)に、二酸化チタン・ナノパーティクルを含有するコーティングないし被膜が配される。この種のコーティングは、UV光による光触媒(作用)によって水(分子)を開裂してOHラジカルを生成し、かつ同時に空気中の酸素によって過酸化水素(H)を生成する性質を有する。この2つの物質は、クライオスタットの滅菌に役立つ。
【0018】
本発明の更なる一実施形態では、コーティングは、付加的に、銀イオン・ナノパーティクルを含有する。このため、水との相互作用により、クライオスタットの滅菌に寄与する銀イオン(Ag)の遊離が実現される。
【0019】
以下に、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例は、発明の理解の容易化のためのものに過ぎず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加・置換等の適用を排除することは意図しない。また、特許請求の範囲に付した図面参照符号も発明の理解の容易化のためのものに過ぎず、本発明を図示の態様に限定することは意図しない。なお、これらの点に関しては補正・訂正後においても同様である。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明のクライオスタットの一例の外観を示す。このクライオスタット1は、ハウジング10と、ハウジング10に配設されたチャンバ2とを含んで構成される。チャンバ2は、切断ナイフを有するミクロトーム(不図示)を収容する。チャンバ2の内部には、UV−C光源5が固定的に配設され、電気的伝送路8を介して制御回路4と結合される。ハウジング10には、チャンバ2を閉鎖する蓋部材3が取り付けられる。ハウジング10と蓋部材3との間には、伝送路9を介して制御回路4と電気的に結合される安全スイッチ6が設けられる。更に、蓋部材3には、電気的に作動するロック装置12が配される。
【0021】
図2は、その内部に配設されるUV−C光源5と冷却装置11とを有するチャンバ2を示す。チャンバ2は、その内側(の面)に、コーティング7を有する。コーティング7は、二酸化チタン・ナノパーティクルと、付加的に銀イオン・ナノパーティクルとを含有する。
【0022】
チャンバ2の滅菌のために、UV−C光源5は、制御回路4に組み込まれたタイマ(タイムスイッチ)によって、手動的又は自動的に、始動され予め設定可能な時間の間作動される。滅菌の間、蓋部材3が閉鎖されていることが保証される必要がある。この(閉鎖)状態は、安全スイッチ6を介して確認される。付加的に、蓋部材3に、蓋部材3を電磁的にロックするロック装置12を設けることも可能である。ロック装置12は、制御回路4と電気的に結合される。
【0023】
安全スイッチ6とロック装置12とによって、UV−C光源5の作動は、蓋部材3が閉鎖されている場合にのみ可能とすることができる。
【0024】
予め設定可能な時間の経過後又は手動による終了操作により、UV−C光源5をオフにし、ロック装置12のロック作用を再び解除可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のクライオスタットの一例。
【図2】本発明のクライオスタットのチャンバの一例。
【符号の説明】
【0026】
1 クライオスタット
2 チャンバ
3 蓋部材
4 制御回路
5 UV−C光源
6 安全スイッチ
7 コーティング
8 4−5間の電気的伝送路
9 4−6間の電気的伝送路
10 ハウジング
11 冷却装置
12 ロック装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイフホルダを有するミクロトームを収容するためのチャンバと、該チャンバを閉鎖する蓋部材と、制御回路に配された滅菌装置とを含んで構成されたクライオスタットにおいて、
前記滅菌装置はUV光源(5)を有し、該UV光源(5)はUV−C光源(5)として構成されかつ前記チャンバ(2)の内部に配設されること
を特徴とするクライオスタット。
【請求項2】
前記UV−C光源(5)は、ミクロトームのナイフホルダの直上に配置されること、及び該UV−C光源(5)によって放射される波長はλ=254nmであること
を特徴とする請求項1に記載のクライオスタット。
【請求項3】
前記閉鎖可能な蓋部材(3)には安全スイッチ(6)が配され、
前記制御回路(4)は前記UV−C光源(5)及び前記安全スイッチ(6)と電気的に結合され、
前記UV−C光源(5)は前記安全スイッチ(6)が反応したとき前記制御回路(4)を介して不活性化されること
を特徴とする請求項1又は2に記載のクライオスタット。
【請求項4】
前記制御回路(4)は自動的時間制御器を有すること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクライオスタット。
【請求項5】
前記チャンバ又はその部分は、二酸化チタン・ナノパーティクルが包埋されているか及び/又は銀イオン・ナノパーティクルを含むコーティング(7)を有すること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のクライオスタット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−145539(P2006−145539A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335602(P2005−335602)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(500113648)ライカ ミクロズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー (45)
【Fターム(参考)】