説明

滑らかな表面を有する無機質成形体とその製造方法

【課題】軽量であって滑らかな表面を有する無機質成形体を提供する。
【解決手段】主成分が以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ、
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種である無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、当該最表面の光沢度が4%以上であることを特徴とする無機質成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑らかな表面を有する無機質成形体とその製造方法に関する。本明細書における「滑らかな表面」とは、成形体を形成する少なくとも一面(3次元曲面よりなる模様面を含む)の光沢度が4%以上であることを言う。このような無機質成形体は、内装材、内装仕上げ材、外装材等の用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、滑らかな表面を有する無機質成形体としては、例えば、珪酸カルシウム成形体の表面に塗装をしたり、表面を研削することにより滑らかにしたものが知られている。
【0003】
上記塗装や研削をする場合には、製品の歩留まりが低下するとともに工程も増えるため余分なコストが発生する。そのため、塗装や研削によらずに滑らかな表面を有する無機質成形体を得ることが望まれている。
【0004】
滑らかな表面を有する珪酸カルシウム板を研削によらず製造する方法として、例えば、特許文献1に、「珪酸質原料10〜45重量%、石灰質原料10〜45重量%、石膏原料0〜30重量%、補強繊維2〜15重量%、無機充填材0〜40重量%の配合物のスラリーを抄造して珪酸カルシウム板を製造する方法において、予め珪酸質原料、石灰質原料または石膏原料と酸化アルミニウム原料を混合焼成した粉末を、上記配合物に外割で15〜75重量%配合してスラリーとし、このスラリーを抄造してグリーンシート(生シート)を得、このグリーンシートを積層等して所定の厚みにし、平滑な磨き鉄板で挟んでプレスした後、オートクレーブ養生(水熱合成)する軽量珪酸カルシウム板の製造方法」が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、プレス後にオートクレーブ養生するため、磨き鉄板でプレスした成形板の表面に珪酸カルシウム水和物の結晶が成長することにより、部分的に光沢度が低下するなど一様な光沢度が得られず、滑らかな表面が損なわれるという欠点がある。
【0006】
他方、珪酸カルシウム板以外に、滑らかな表面を有するフレキシブル板(セメント板)等が市販されているが、これは成形体の比重が1.6程度と大きく、施工性を上げるべく大板化しようとしても、成形体が重くなり過ぎて取扱いが困難になるという問題がある。
【0007】
そこで、これらの従来品とは異なる材料で滑らかな表面を有する無機質成形体を簡便に得ることが思案されているが、未だ開発されていない。
【特許文献1】特開2000−191359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、軽量であって滑らかな表面を有する非晶質シリカを主成分の一つとして含む無機質成形体を製造する方法及び当該製造方法により得られる無機質成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の製法により得られる無機質成形体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の無機質成形体とその製造方法に関する。
1.主成分が以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ、
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種である無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、当該最表面の光沢度が4%以上であることを特徴とする無機質成形体。
2.前記無機質成形体の主成分中の「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」が、それぞれ、「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」の一次粒子が絡合してなる集塊物及び/又はその圧縮変形物である、上記項1に記載の無機質成形体。
3.以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とし、これと水を含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
4.前記水性スラリーの主成分中の「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」が、「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」の一次粒子が絡合してなる集塊物である、上記項3に記載の無機質成形体の製造方法。
5.珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体又は生成形体を乾燥して得られた成形体を、更に中和処理することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
6.珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体又は生成形体を乾燥して得られた成形体を、更に中和処理した後、水洗するか又は酸処理後水洗することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
7.前記押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形する際に、加熱した押圧板を用いる、上記項3〜6のいずれかに記載の無機質成形体の製造方法。

以下、本発明の無機質成形体とその製造方法について詳細に説明する。
【0011】
無機質成形体
本発明の無機質成形体は、主成分が以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ、
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種である無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面(例えば、板状成形体の上面及び/又は下面)に於いて、当該最表面の光沢度が4%以上であることを特徴とする。
【0012】
上記特徴を有する本発明の無機質成形体は、光沢度が4%以上であり表面が滑らかで、且つ軽量で実用強度を有している。よって、表面を研削しなくてもそのまま内装材、内装仕上げ材、外装材として使用可能である。また、施工性も良いため、従来から表面の見映え等を良くするために行われてきた塗装や壁紙の貼り付け等の表面仕上げ工程を省略でき、コスト削減が可能である。
【0013】
本発明の無機質成形体は、前記の通り、(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩の混合物、(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ、(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩の混合物、(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とする。
【0014】
(a)の粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩の混合物としては、珪酸カルシウムを中和処理することにより得られるものが利用できる。即ち、中和処理することにより、珪酸カルシウムよりカルシウムが溶脱して、珪酸カルシウムの結晶の外観を残した非晶質シリカとカルシウム塩を生成するので、これらの混合物を利用できる。例えば、特公昭55−23790号公報などに示されるように珪酸カルシウムを炭酸ガスで炭酸化処理(中和処理)して得られるもの、特公平4−11488号公報などに示されるように珪酸カルシウムを薄めた鉱酸(塩酸,硝酸など)で処理(中和処理)して得られるもの、特開昭61−6118号公報などに示されるように珪酸カルシウムを有機酸(スルファミン酸,ベンゼンスルホン酸など)で処理(中和処理)して得られるもの、特公昭51−34852号公報や特公平5−4480号公報や特開2003−126696号公報などに示されるように珪酸カルシウムを亜硫酸ガスや硫酸や硫酸塩(硫酸アルミニウム,硫酸鉄,硫酸銅など)で処理(中和処理)して得られるものなどを用いることができる。
【0015】
なお、珪酸カルシウムを硫酸塩(硫酸アルミニウム,硫酸鉄,硫酸銅など)で処理した場合は、前記非晶質シリカとカルシウム塩の混合物以外にアルミニウム化合物や鉄化合物や銅化合物なども生成するが、これらが上記混合物に含まれていても良い。また、珪酸カルシウムを主成分とする本発明の無機質成形体を成形体のまま炭酸化したものを利用することもできる。
【0016】
(b)の粒径が1〜500μmの非晶質シリカとしては、前記(a)の粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩の混合物を水洗するか又は酸処理後水洗することにより得られるものが利用できる。カルシウム塩が水溶性のものであれば、水洗だけでカルシウム塩を取り除くことが可能であり、カルシウム塩が水に不溶性(難溶性)のものであれば、塩酸や硝酸などの酸で処理して不溶性(難溶性)のカルシウム塩を水溶性のカルシウム塩に変換した後、水洗することによりカルシウム塩を取り除くことが可能である。例えば、特公昭55−23790号公報などに示されるように、珪酸カルシウムを炭酸ガスで炭酸化処理して得られた前記非晶質シリカと炭酸カルシウムの混合物を塩酸などで酸処理した後、水洗することにより炭酸カルシウムを取り除くことができる。また、珪酸カルシウムを硫酸塩で処理した場合に生成する前記のアルミニウム化合物や鉄化合物や銅化合物が上記の非晶質シリカに含まれていても良い。なお、非晶質シリカは水洗時に濾過などの方法により固液分離して取り出すことができる。
【0017】
(c)の粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩の混合物としては、珪酸カルシウムに珪酸アルカリを添加した後、中和処理(炭酸ガスや弱酸などで処理)することにより得られるものが利用できる。即ち、中和処理することにより、珪酸カルシウムよりカルシウムが溶脱して、珪酸カルシウムの結晶の外観を残した非晶質シリカとカルシウム塩を生成すると伴に、上記非晶質シリカに珪酸アルカリ由来の粒径が50〜2000Åの微細な粒状シリカが付着して非晶質シリカ複合物となり、最終的には非晶質シリカ複合物とカルシウム塩の混合物となり、これを利用できる。特に、特公平6−99139号公報に示されるように、珪酸カルシウムに珪酸アルカリを添加した後,炭酸ガスを用いて中和処理(炭酸化処理)することにより得られる非晶質シリカ複合物と炭酸カルシウムの混合物が好適に利用できる。なお、上記混合物には炭酸アルカリも含まれてくるが、含まれていても問題なく利用できる。
【0018】
(d)の粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物としては、前記(c)の非晶質シリカ複合物とカルシウム塩の混合物を水洗するか又は酸処理後水洗することにより得られるものが利用できる。特に、特公平6−99139号公報に示されるように、非晶質シリカ複合物と炭酸カルシウムの混合物を塩酸等で酸処理後水洗して得られる非晶質シリカ複合物が好適に利用できる。
【0019】
上記(a)〜(d)に示されている非晶質シリカ及び非晶質シリカ複合物に於いて、珪酸カルシウムの二次粒子からなる珪酸カルシウムを出発原料に用いて得られる、二次粒子からなる非晶質シリカ及び二次粒子からなる非晶質シリカ複合物が成形性や成形体の強度や成形体の軽量化の点で好ましい。
【0020】
また、出発原料の珪酸カルシウムとしては,「ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレート」などの既存の珪酸カルシウムが利用できる。これらの中でも機械的強度等に優れ工業的に利用されているトバモライトやゾノトライトを好ましく使用できる。
【0021】
本発明の無機質成形体には、主成分以外に、無機質成形体の性能(効果)を損なわない範囲で、顔料、染料、繊維、重合体(樹脂)、凝集剤、撥水剤、充填剤など既存の添加物が含有されていても良い。特に、重合体(樹脂)を含有させると光沢度が向上するので好ましい。また、添加物の含有量は上記主成分の含有量より少なく、且つ本成形体の光沢度等の性能を損なわない範囲で、用途に応じて適宜決定すれば良い。また、本成形体の密度についても、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0022】
無機質成形体の製造方法
本発明の無機質成形体は、(i)「前記主成分(前記(a)〜(d)の1種又は2種以上よりなる主成分)と水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥する」方法により得られる。また、(ii)「珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体又は生成形体を乾燥して得られた成形体を更に中和処理するか、又は中和処理後に水洗するか、又は中和処理後に酸処理して水洗する」ことによっても得られる。
「(i)の方法の場合」
前記水性スラリーは、前記主成分と水とが均一に分散されていれば良く、例えば、前記方法で得られた主成分に、適量の水を加えて水性スラリーにしたものなどを利用できる。水性スラリーの固形分濃度は限定されず、ペースト状のものも含まれる。また、必要に応じて、前記顔料、染料、繊維、重合体(樹脂)、凝集剤、撥水剤、充填剤など既存の添加物を加えてもよい。
【0023】
前記水性スラリーは、次に押圧板を用いてプレス脱水成形されるが、上記プレス脱水成形の前に、必要に応じて水性スラリーを脱水しても良い。
【0024】
脱水方法としては、前記水性スラリーが脱水できれば良く、既存の方法が利用できる。例えば、吸引濾過方法、抄造方法、濾布及び/又は金網を用いてプレス脱水する方法などが挙げられる。中でも抄造方法、濾布及び/又は金網を用いてプレス脱水方法が生産性等の観点から好ましい。また、抄造には連続式抄造(丸網式,長網式,短網式等)やバッチ式抄造(CTC法,チャップマン法等)等の既存の抄造方法が利用でき、例えば、特許第2519075号公報に開示されている方法などが好適に利用できる。上記抄造において、抄造物を単独又は複数枚重ねてプレス脱水することもできる。
【0025】
なお、水性スラリーが希薄な場合は、上記方法で一旦脱水したものを、押圧板を用いてプレス脱水成形した方が、プレス脱水成形時の脱水効率が向上するので好ましい。
【0026】
押圧板には、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板を用いる。なお、十点平均粗さは旧JIS B 0601(1994年)の方法により測定したものである。また、押圧板はプレス脱水成形する際にプレス面の少なくとも一方(一面)に使用する。例えば、前記水性スラリーを投入したプレス金型(プレス装置)の上面又は下面のいずれか一方の片面に押圧板を設置して使用するか、上面と下面の両方に設置して使用する。なお、片面のみに使用する場合には、他方の面には濾布又は金網などを使用すれば良い。この際、押圧板はプレス脱水成形する際に使用するプレス機本体と一体にしても良い。また、押圧板は滑らかな表面よりなる三次元の凹凸模様が施されていても良いし、押圧板の表面にテフロン(登録商標)コーティングやクロムメッキやセラミックコーティングが施されても良い。また、離型性を高める為に、押圧板の表面に離型剤やグリスを塗布したり、離型時にバイブレーターなどで振動を与えても良い。
【0027】
押圧板を用いてプレス脱水成形された生成形体は、次いで乾燥され、本発明の成形体が得られる。乾燥方法は公知の方法が利用でき、乾燥温度は成形体の組成や目的・用途に応じて適宜設定すれば良い。また、押圧板を直接又は間接的に加熱しながらプレス脱水成形することにより、成形しながらそのまま乾燥することもできる。加熱した押圧板を用いることにより、無機質成形体の製造工程を簡便化できる。
【0028】
乾燥させて得られた本発明の成形体は、押圧板が接していた面の光沢度が4%以上となり、表面が滑らかになっている。また、主成分中の「非晶質シリカ、非晶質シリカ複合物」がそれぞれ「非晶質シリカ、非晶質シリカ複合物」の一次粒子が絡合してなる集塊物を用いたものは、集塊物がプレス成形過程で圧縮変形されて、少なからず集塊物の圧縮変形物となる。また、水性スラリーに前記添加物を混合してプレス脱水成形した場合は、本成形体の性能を損なわない範囲で添加物の一部が最表面に存在してもよい。
「(ii)の方法の場合」
中和処理前の成形体を得るまでの工程は、(i)の方法の前記主成分を珪酸カルシウムに置き換えた以外は、(i)の方法と同様である。また、(ii)の方法で用いられる中和処理及び酸処理の方法は、前記「無機質成形体」のところで述べた方法が利用でき,珪酸カルシウムを主成分とする成形体又は生成形体の押圧板と接していた面の少なくとも表面部が、中和処理されるか、又は中和処理後に水洗されるか、又は中和処理後に更に酸処理して水洗されていれば良い。
【0029】
なお、本発明の成形体の光沢度については前記条件(光沢度4%以上)を満足する範囲で、用途に合わせて適宜選択すれば良い。また、光沢度はJIS Z 8741の方法3(60度鏡面光沢法)により測定した値であり、光沢度は成形体の密度が大きくなるほど高くなる傾向がある。
【発明の効果】
【0030】
本発明の無機質成形体は、前記主成分とすることにより、軽量であり、また、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板を用いてプレス脱水成形することにより、成形体の押圧板が接していた面の光沢度が4%以上で、表面が滑らかで粉っぽくない。よって、更に表面を研削しなくてもそのまま内装材・外装材として使用可能であり、表面の見映えを良くするために行われている塗装や壁紙の貼り付け等の表面仕上げ工程の省略やコスト削減を図ることができるようになる。また、塗装や壁紙で表面を仕上げる必要がないため、前記主成分が本来有する性能、例えば、湿気の吸放湿性能やVOC等の吸着性能などが損なわれない。
【0031】
なお、前記主成分が有する吸着性能や多孔性を利用して、上記内装材・外装材以外の用途、例えば、濾過材・保湿材・触媒担体・断熱材・吸着剤等にも本発明の無機質成形体を利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例・比較例を示して本発明を説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0033】
実施例1
ゾノトライトの二次粒子よりなる水性スラリーを一旦乾燥して得られた乾燥粉に、少量の水を加えて水分調整したものを炭酸化した後、酸処理・水洗・濾過したものに、水を加えて得られた非晶質シリカの二次粒子よりなる水性スラリー93重量部(固形分換算)に、ガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入し、片面に表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)を用い、他方の面に金網を用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体を170℃で乾燥して得られた成形体の物性を表1に示す。
【0034】
実施例2
トバモライトの二次粒子よりなる水性スラリーを一旦乾燥して得られた乾燥粉に、少量の水を加えて水分調整したものを炭酸化したものに、水を加えて得られた非晶質シリカの二次粒子と炭酸カルシウムよりなる水性スラリー93重量部(固形分換算)に、ガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体の物性を表1に示す。
【0035】
実施例3
トバモライトの二次粒子よりなる水性スラリーを一旦乾燥して得られた乾燥粉に、硫酸バンド水溶液を加えて得られた非晶質シリカの二次粒子と石膏とアルミナゾルよりなる水性スラリー93重量部(固形分換算)に、ガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体の物性を表1に示す。
【0036】
実施例4
ゾノトライトの二次粒子よりなる水性スラリーを一旦乾燥して得られた乾燥粉に、硫酸バンド水溶液を加えて得られた非晶質シリカの二次粒子と石膏とアルミナゾルよりなる水性スラリー93重量部(固形分換算)に、ガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体の物性を表1に示す。
【0037】
実施例5
トバモライトの二次粒子よりなる水性スラリーを一旦乾燥して得られた乾燥粉に、少量の水を加えて水分調整したものを炭酸化した後、酸処理・水洗・濾過したものに、水を加えて得られた非晶質シリカの二次粒子よりなる水性スラリー93重量部(固形分換算)に、ガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体の物性を表1に示す。
【0038】
実施例6
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で90重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部とアクリル樹脂3重量部を混合した後、混合物を抄造し、抄造した生シートを積層・加圧して脱水した後、得られた生積層体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生積層体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して成形体(厚さ12mm)を得た。その成形体に水を加えて含水率10%に調整した後、その成形体をポリエチレン袋に入れ,さらにその袋の中に成形体を炭酸化するのに必要な炭酸ガス量の2倍の炭酸ガスを投入して密閉し,大気圧下で48時間炭酸化した。炭酸化後に乾燥させて得られた成形体の物性を表1に示す。
【0039】
比較例1
粒径0.016〜0.022μmの非晶質シリカ(含水珪酸,商品名「ニプシル」,日本シリカ工業製)を用いて、実施例2と同様の方法で成形体を作製したところ、成形体に亀甲状の微細なクラックが発生して所望の成形体が得られなかった。
【0040】
【表1】

【0041】
図1、2に実施例5の光沢度を測定した面のSEM観察写真(10000倍、40000倍)を示す。成分粒子が配向していることが分かり,所定の光沢度を得るのに寄与しているものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例5の無機質成形体の光沢度を測定した面のSEM観察像(10000倍)を示す図である。
【図2】実施例5の無機質成形体の光沢度を測定した面のSEM観察像(40000倍)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ、
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種である無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、当該最表面の光沢度が4%以上であることを特徴とする無機質成形体。
【請求項2】
前記無機質成形体の主成分中の「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」が、それぞれ、「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」の一次粒子が絡合してなる集塊物及び/又はその圧縮変形物である、請求項1に記載の無機質成形体。
【請求項3】
以下の(a)〜(d)
(a)粒径が1〜500μmの非晶質シリカとカルシウム塩との混合物、
(b)粒径が1〜500μmの非晶質シリカ
(c)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物とカルシウム塩との混合物、
(d)粒径が1〜500μmの非晶質シリカに、粒径が50〜2000Åの粒状の非晶質シリカが多数不規則に付着した非晶質シリカ複合物、
からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とし、これと水を含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
【請求項4】
前記水性スラリーの主成分中の「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」が、「非晶質シリカ,非晶質シリカ複合物」の一次粒子が絡合してなる集塊物である、請求項3に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項5】
珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体又は生成形体を乾燥して得られた成形体を、更に中和処理することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
【請求項6】
珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた生成形体又は生成形体を乾燥して得られた成形体を、更に中和処理した後、水洗するか又は酸処理後水洗することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
【請求項7】
前記押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形する際に、加熱した押圧板を用いる、請求項3〜6のいずれかに記載の無機質成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−18985(P2009−18985A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2008−146042(P2008−146042)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】