説明

滑り軸受

【課題】低コスト、簡易な構造であるとともに、封入するグリースの有効利用が図れ、摩擦トルクを低く維持できる滑り軸受を提供する。
【解決手段】
滑り軸受1は、一方向のみに回転する回転体を支持する軸受であり、内輪2と外輪3との間にグリースが封入され、内輪2の外周面にグリースを保持するグリース保持溝4が形成されてなり、このグリース保持溝4は、内輪2の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪2の回転方向に向くように形成されるとともに、回転方向側の矩形辺から、その対向辺に向かって溝が深くなる傾斜溝である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像記録装置における定着装置の加熱ローラなどの支持に用いる滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像記録装置は、光学装置で形成された静電潜像にトナーを付着させ、このトナー像をコピー用紙に転写し、さらに定着させるものである。この定着工程では、ヒータを内蔵した定着ローラと加圧ローラとの間にトナー像を通過させる。これにより、トナー像からなる転写像がコピー用紙上に加熱融着によって定着される。
【0003】
定着ローラは、線状ないし棒状のヒータを軸心部に内蔵した軟質の金属製であり、両端に小径の軸部が突出した円筒状に形成されている。定着ローラは、アルミニウム、またはアルミニウム合金(A5056、A6063)などの熱伝導性に優れた金属材料からなり、旋削や研磨などで表面が仕上げられ、表面にはフッ素樹脂などの非粘着性の高い樹脂がコーティング、または被覆してある。定着ローラの表面の温度は、ヒータにより180〜250℃前後に加熱される。
【0004】
また、コピー用紙を定着ローラに押圧して回転駆動する加圧ローラは、シリコンゴムなどで被覆された鉄材、または軟質材からなり、加熱ローラからの伝熱により、約70〜150℃に加熱される。
【0005】
特に、高温に加熱される定着ローラは、両端の軸部で深溝玉軸受からなる転がり軸受を介してハウジングに回転自在に支持されており、この転がり軸受と定着ローラの軸部との間には、定着ローラの加熱時に両端部の転がり軸受から熱が逃げて定着ローラの軸方向に沿う温度分布が不均一になるのを防止するのとともに、軸受の高温劣化を防止するために、合成樹脂などからなる断熱スリーブが介在させてある。
【0006】
また、定着ローラの支持軸受としては、樹脂製滑り軸受を用いるものもあり、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略す)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの合成樹脂から形成している。具体例としては、耐熱性および機械的強度の優れたPPS樹脂などをリング状の軸受本体として、その摺動面にフッ素樹脂層が接着されるか、または、フッ素樹脂を配合したPPS樹脂などで滑り軸受全体を一体成形する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−117678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した画像記録装置における定着装置の定着ローラ用軸受の深溝玉軸受は、構造が複雑で製造コストも高価である。また、温度分布の不均一化、軸受の高温劣化を防止するために、上述の樹脂製断熱スリーブが必要となり、さらに高価になる。
【0009】
これに対して、PPS樹脂製などの樹脂製滑り軸受は、断熱スリーブを介在させることなく使用でき、構造が簡単で射出成形できることから、低コストで生産できるという利点を有する。しかし、この樹脂製滑り軸受は、深溝玉軸受と比べて、摩擦トルクが約2〜5倍程度も高いという問題がある。特に、定着ローラの軸受摺動面粗さが粗いと、さらに摩擦トルクが大きくなり、同時に摩耗も大きくなり仕様を満足できなくなるといった問題がある。
【0010】
また、摩擦トルクを小さくするため、軸受摺動面にグリースを塗布するとしても、荷重を強く受ける部分などではグリース不足となり、仕様を満足できなくなる場合がある。
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、低コスト、簡易な構造であるとともに、封入するグリースの有効利用が図れ、摩擦トルクを低く維持できる滑り軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の滑り軸受は、内輪と外輪との組み合わせからなり、上記内輪と上記外輪との間にグリースが封入され、一方向のみに回転する回転体を支持する滑り軸受であって、上記内輪の外周面に、上記グリースを保持するグリース保持溝が形成されてなり、該グリース保持溝は、上記内輪の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、上記ハ字の下側が上記内輪の回転方向に向くように形成されていることを特徴とする
【0013】
上記矩形の複数の溝は、上記回転方向側の矩形辺から、その対向辺に向かって溝が深くなる傾斜溝であることを特徴とする。
【0014】
上記グリース保持溝の深さは、前記複数の溝それぞれにおいて、最深部で0.01〜0.5mmであることを特徴とする。
【0015】
上記内輪の外周面が凸曲面であり、上記外輪の内周面が該凸曲面に対応する凹曲面であることを特徴とする。
【0016】
上記外輪は径方向に2分割された形状であり、上記内輪は、2分割された上記外輪の間に挟み込まれ、上記外輪の内周面と上記内輪の外周面とが摺接するように組み込まれたものであることを特徴とする。
【0017】
上記内輪および外輪は、合成樹脂の成形体であることを特徴とする。また、上記合成樹脂は、PPS樹脂であることを特徴とする。
【0018】
上記グリースは、フッ素グリースおよびウレアグリースから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0019】
上記回転体は、画像記録装置におけるトナー像を用紙に定着させる定着ローラまたは加圧ローラであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の滑り軸受は、内輪と外輪との組み合わせからなり、上記内輪と外輪との間にグリースが封入されてなり、内輪の外周面にグリースを保持するグリース保持溝が形成されてなるので、該グリース保持溝にグリースが保持されて摩擦トルクを低く維持できる。また、内輪と外輪とから構成される簡易な構造のため、転がり軸受と比べて、低コストで製造できる。この結果、摩擦トルクが低いものの製造コストが高い深溝玉軸受と、製造コストが安いものの摩擦トルクが高い樹脂製滑り軸受(グリース保持溝なし)との比較において、摩擦トルクと製造コストとのバランス面で、両者の中間に位置することができる。
【0021】
また、この滑り軸受は、一方向のみに回転する回転体を支持する軸受であり、上記グリース保持溝は、内輪の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の短冊型の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪の回転方向に向くように形成されているので、内輪回転時において、グリースが各溝のハ字の下側から上側、すなわち、軸受幅方向の中央部に常に掻き寄せられる。よって、軸受が荷重を最も受ける軸受幅方向の中央部において、グリースによる膜が容易に継続的に形成され、滑らかで、かつ低摩擦トルクの回転が得られる。
【0022】
また、矩形の複数の溝が、回転方向側の矩形辺からその対向辺に向かって溝が深くなる傾斜溝であるので、グリースが掻き寄せられやすく、上記効果が向上する。また、グリース保持溝の深さが、複数の溝それぞれにおいて、最深部で0.01〜0.5mmであるので、該溝に充分かつ無駄なくグリースを保持できる。
【0023】
また、内輪の外周面が凸曲面であり、外輪の内周面が該凸曲面に対応する凹曲面であるので、調心性を付与できる。
【0024】
また、外輪は径方向に2分割された形状であり、内輪は、2分割された外輪の間に挟み込まれ、外輪の内周面と内輪の外周面とが摺接するように組み込まれたものであるので、内輪の外周面が凸曲面であり、外輪の内周面が該凸曲面に対応する凹曲面であっても組み込みできる。また、内輪の外周面のグリース保持溝にグリースを充分に塗布した上で、内輪を挟み込み組み立てることができる。
【0025】
また、内輪および外輪が、PPS樹脂などの合成樹脂の成形体であるので、断熱スリーブを介在させることなく、画像記録装置における定着ローラや加圧ローラの支持に使用でき、また、射出成形できることから低コストで生産できる。
【0026】
また、封入するグリースがフッ素グリースおよびウレアグリースから選ばれた少なくとも一つであるので、優れた耐熱性を示す。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の滑り軸受の斜視図および内外輪の合体前の状態を示す斜視図である。
【図2】図1における滑り軸受の内輪(全体図)を示す斜視図である。
【図3】図1における滑り軸受の外輪の下半分を示す斜視図である。
【図4】図2におけるグリース保持溝の一部拡大斜視図である。
【図5】図1における滑り軸受を軸方向に切断した部分断面図である。
【図6】軸加熱式高温ラジアル試験機の概略図である。
【図7】回転トルク比較試験結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の滑り軸受の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の滑り軸受の斜視図および内外輪の合体前の状態を示す斜視図であり、図2は本発明の滑り軸受の内輪を示す斜視図であり、図3は本発明の滑り軸受の外輪の下半分を示す斜視図である。図1に示すように、本発明の滑り軸受1は、内輪2(全体図は図2)と外輪3との組み合わせからなり、内輪2の外周面に、グリースを保持するグリース保持溝4が形成されている。内輪2と外輪3との間にグリース(図示省略)が封入されている。図1および図2において、白抜き矢印で示す方向が内輪2の回転方向である。
【0029】
滑り軸受1は、内輪2の内径において、画像記録装置におけるトナー像を用紙に定着させる定着ローラまたは加圧ローラなどの回転体を支持する。回転体が軸を有する場合には、該軸を内輪2で支持する。画像記録装置の定着ローラおよび加圧ローラなどの回転体は、一方向にしか回転せず、上記内輪2の回転方向が、該回転体の回転方向である。
【0030】
図1に示すように、滑り軸受1において、外輪3は径方向に2分割された形状であり、内輪2が、2分割された外輪3の外輪下部3aと外輪上部3bとの間に挟み込まれ、外輪3の内周面と内輪2の外周面とが摺接するように組み付けられている。組み付けの際、予めグリース保持溝4にグリースを充分に塗布(封入)した内輪2を外輪3に組み込むことが好ましい。
【0031】
図1および図3に示すように、外輪下部3aの径方向に2分割された分割面の一方にキー3cおよび他方にキー溝3dが左右対象位置に設けられ、外輪上部3bの分割面にはこれらに対応するキー溝およびキーが設けられている。このようにすることで、外輪下部3aと外輪上部3bとを共通の成形体として使用可能である。また、図1のようにフランジ付きの外輪であっても、前後を誤って組付けることができなくなり、組付け作業性に優れるようになる。外輪下部3aと外輪上部3bとの組み合わせは、外輪下部3aに内輪2を組み付けた後、外輪下部3aのキー3cを外輪上部3bのキー溝に、外輪下部3aのキー溝3dを外輪上部3bのキーに嵌合させることで、容易にできる。
【0032】
外輪3は、2分割の場合を例示して説明したが、3分割以上とすることもできる。また、内輪を組み込み可能であれば外輪は分割しない構造であってもよい。
【0033】
図2および図4に基づいて、グリース保持溝4を詳細に説明する。図4は、図2における一部拡大斜視図である。図2および図4に示すように、グリース保持溝4は、内輪2の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪2の回転方向に向くように形成されている。内輪2の回転時において、内輪2と外輪との間に封入されているグリースは、各溝4内においてハ字の下側から上側に向かって掻き寄せられて移動する。各溝4におけるハ字の上側は、内輪2の幅方向の中央部に位置しているため、上記移動によりグリースは該中央部2aに移動することになる。なお、内輪2の回転時とは、内輪2が外輪3に対して相対的に回転するときであり、内輪2が固定で外輪3が回転する場合も含む。
【0034】
図4に示すように、グリース保持溝4は、回転方向側の矩形辺4aから、その対向辺4bに向かって溝が深くなる傾斜溝とすることが好ましい。回転方向側からその反対側に向かって溝を深くする形状とすることで、内輪2の回転時において、該傾斜がない場合よりもグリースを掻き寄せやすくなる。
【0035】
グリース保持溝4の深さは、複数の溝それぞれにおいて、最深部で0.01〜0.5mmであることが好ましい。なお、該溝の深さとは、内輪2の外周面(表面)から溝底部までの距離であり、該溝が傾斜溝である場合は、深い側(対向辺4b側)の深さを上記範囲とすることが好ましい。溝深さが0.01mm未満であると、溝が浅すぎて潤滑に充分なグリースを保持できない。また、溝深さが0.5mmをこえると、溝が深すぎて溝底部においてグリースが溜まり潤滑に寄与しないグリース量が増える。
【0036】
以上のようなグリース保持溝4を内輪2の外周面に形成することで、荷重を最も受ける軸受(内輪)幅方向の中央部において、グリースによる膜が容易に継続的に形成され、滑らかで、かつ低摩擦トルクの回転が得られる。なお、以上のグリース保持溝は、外輪の内周面に形成することもできる。
【0037】
図5に図1の滑り軸受を軸方向に切断した部分断面図を示す。図5に示すように、内輪2の外周面が凸曲面であり、外輪3の内周面が該凸曲面に対応する凹曲面である。また、上記凸曲面を有する内輪2の外周面は、軸方向の断面において、内輪2の幅方向の中央部のみを平面とすることが好ましい。内輪2および外輪3がこのような形状であっても、外輪3が分割形状であるため、内輪2の外輪3への組み込みは容易である(図1参照)。また、該形状とすることで、滑り軸受1に調心性を付与できる。なお、内輪の外周面および外輪の内周面における凹凸関係はこの実施形態と反対の関係であってもよい。
【0038】
本発明の滑り軸受において、外輪および内輪は合成樹脂で形成することが好ましい。合成樹脂の種類は特に限定されないが、少なくとも該軸受の使用条件(耐熱性、機械的強度など)に見合う特性を有する合成樹脂である必要がある。また、射出成形可能な合成樹脂であれば製造が容易であり、寸法精度も均一にできるので嵌合隙間を管理する上でも好ましい。なお、外輪については、構造材を用い、金属の切削加工品や、焼結金属体であってもよい。
【0039】
合成樹脂としては、例えば、ポリアセタール(POM)樹脂、ナイロン樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、分子鎖中に芳香族環を有する半芳香族ナイロンなど)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)樹脂などの射出成形可能なフッ素樹脂、射出成形可能なPI樹脂、PPS樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、PEEK樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを挙げることができる。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。あるいは、上記以外の潤滑特性の低い合成樹脂に上記の合成樹脂を配合したポリマーアロイであってもよい。
【0040】
これらの合成樹脂の中で、耐熱性、機械的強度に優れ、比較的安価なPPS樹脂を用いることが好ましい。PPS樹脂を用いることで、本発明の滑り軸受は、画像記録装置の高温下で作動する定着ローラなどを支持する滑り軸受にも好適に使用できる。
【0041】
また、これらの合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカー)を配合して強度を高めてもよい。また、これらの合成樹脂に、固体潤滑剤などや潤滑油を添加することで潤滑特性を高めることが可能である。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどを挙げることができる。
【0042】
本発明の滑り軸受において、内輪と外輪との間およびグリース保持溝に封入されるグリースは、通常、軸受に用いられるグリースであれば特に制限なく用いることができる。グリースを構成する基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブテン油、ポリ-α-オレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物などの炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、りん酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油などの非炭化水素系合成油などが挙げられる。これらの基油は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0043】
また、グリースを構成する増ちょう剤としては、例えば、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素樹脂粉末が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0044】
本発明の滑り軸受を、画像記録装置の高温下で作動する定着ローラなどの支持に使用する際には、グリースにも耐熱性が必要となることから、上記の中でも、フッ素化油を基油としフッ素樹脂粉末を増ちょう剤とするフッ素グリース、または、ウレア系化合物を増ちょう剤とするウレアグリースを用いることが好ましい。また、これらを混合したグリースを用いることもできる。なお、上記各グリースには必要に応じて公知の添加剤を含有させることができる。
【実施例】
【0045】
実施例1
フッ素樹脂を配合したPPS樹脂からなる摺動性樹脂材を用いて、図2の内輪を金型での射出成形で全体を一体成形した。合成樹脂材料としては、NTN製ベアリーAS5054(PPS樹脂系組成物)を用いた。外輪は、合成樹脂材料として、PPS樹脂をガラス繊維で強化したNTN製ベアリーAS5040材を用いて、図1の外輪を複数個金型での射出成形で成形した。得られた滑り軸受の寸法は内輪内径φ30mm、外輪外径φ37mm(フランジ外径φ39mm)、総幅7mm(フランジ幅1mm)である。グリースとして、フッ素グリース(デュポン社製:クライトックスGPL205)5gを、内輪のグリース保持溝に満遍なく塗布した。グリース塗布後に、該内輪を外輪に組み入れて軸受試験片11を得た。得られた軸受試験片11を以下に示す回転トルク試験に供し、回転トルクを求めた。結果を図7に示すとともに、製造コストを考慮した総合判定を表1に併記した。
【0046】
<回転トルク試験>
図6に示す軸加熱式高温ラジアル試験機10を用いて軸受試験片11の回転トルクを測定した。軸加熱式高温ラジアル試験機10は、複写機の定着装置の定着ローラを模した定着ローラ12について、その内径からカートリッジヒータ13で加熱し、熱電対14で定着ローラ12表面温度を所定の温度にコントロールするものである。試験は、軸受試験片11をハウジング15内に組み付け、軸受試験片11の内輪内径に定着ローラ12を挿入する。ハウジング15の下部より、ボールベアリング17を介して押し上げ、300Nの荷重16を負荷した。定着ローラ12材にアルミニウム(A5052)の旋削加工品(表面粗さRa0.5〜0.7μm)を用い、定着ローラ12の回転数は73rpm、定着ローラ12の表面温度は200℃、試験時間は50hである。潤滑は、軸受試験片11は、ドライで試験を行なった。この状態で、定着ローラ12はカップリング18を介して、駆動モータ19で回転させ、軸受試験片11の回転トルクは、共回りするハウジング15の回転力をロードセル(図示せず)で測定して算出した。
【0047】
<製造コスト>
製造コスト(算出コスト)については、実施例1を100とした場合の相対評価で数値化し、それぞれ記録した。
【0048】
<総合判定>
図7の回転トルク試験結果と、表1の製造コストとを考慮して、回転トルクおよび算出コストともに劣るものがない場合は、両者のバランスが良好であると総合判定し「○」印を、回転トルクと算出コストのうちどちらか一つでも劣るものがあれば、両者のバランスが不良であると総合判定し「×」印を、それぞれ記録した。
【0049】
比較例1
NTN製ボールベアリング:止め輪付6706ZZ(内輪内径、外輪外径と幅が実施例1で用いた滑り軸受と同寸法)を、軸受試験片として用いたこと以外は実施例1と同様の試験および評価を実施した。結果を図7および表1に併記する。
【0050】
比較例2
フッ素樹脂30重量%含有のPPS樹脂系組成物からなる摺動性樹脂材を射出成形して得られた滑り軸受(実施例1で用いた滑り軸受と同寸法)を、軸受試験片として用いたこと以外は実施例1と同様の試験および評価を実施した。結果を図7および表1に併記する。
【0051】
【表1】

【0052】
図7のトルク比較試験結果、実施例1の滑り軸受は、比較例1のボールベアリングと比べ約13%の回転トルクアップで、比較例2の樹脂製滑り軸受より約17%の回転トルクの軽減が確認された。表1の結果からも明らかなように、実施例1の滑り軸受は、グリース保持溝のない樹脂製滑り軸受やボールベアリングより、総合的に優れているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の滑り軸受は、内輪と外輪との組み合わせからなり、内輪と外輪との間にグリースが封入されてなり、内輪の外周面にグリースを保持する所定形状のグリース保持溝が形成されてなるので、摩擦トルクと製造コストとのバランスのとれた滑り軸受となり、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像記録装置における定着装置の加熱ローラに用いる滑り軸受として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 滑り軸受
2 内輪
2a 内輪の幅方向の中央部
3 外輪
3a 外輪下部
3b 外輪上部
3c キー
3d キー溝
4 グリース保持溝
4a 回転方向側の矩形辺
4b 4aの対向辺
10 軸加熱式高温ラジアル試験機
11 軸受試験片
12 定着ローラ
13 カートリッジヒータ
14 熱電対
15 ハウジング
16 荷重
17 ボールベアリング
18 カップリング
19 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との組み合わせからなり、前記内輪と前記外輪との間にグリースが封入され、一方向のみに回転する回転体を支持する滑り軸受であって、
前記内輪の外周面に、前記グリースを保持するグリース保持溝が形成されてなり、該グリース保持溝は、前記内輪の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、前記ハ字の下側が前記内輪の回転方向に向くように形成されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
前記矩形の複数の溝は、前記回転方向側の矩形辺から、その対向辺に向かって溝が深くなる傾斜溝であることを特徴とする請求項1記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記グリース保持溝の深さは、前記複数の溝それぞれにおいて、最深部で0.01〜0.5mmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記内輪の外周面が凸曲面であり、前記外輪の内周面が該凸曲面に対応する凹曲面であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記外輪は、径方向に2分割された形状であり、前記内輪は、2分割された前記外輪の間に挟み込まれ、前記外輪の内周面と前記内輪の外周面とが摺接するように組み込まれたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記内輪および前記外輪は、合成樹脂の成形体であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項7】
前記合成樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂であることを特徴とする請求項6記載の滑り軸受。
【請求項8】
前記グリースは、フッ素グリースおよびウレアグリースから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項9】
前記回転体は、画像記録装置におけるトナー像を用紙に定着させる定着ローラまたは加圧ローラであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−74979(P2011−74979A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225489(P2009−225489)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】