説明

滑り軸受

【課題】下ケースに当接する相手部材の製作精度が低い場合においても、下ケースと相手部材との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入、ひいては、下ケースと上ケースとの間への塵埃、雨水、泥水等の侵入をより高いシール性をもって防止することができる滑り軸受を提供すること。
【解決手段】滑り軸受1は、環状下面2を有した上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りで回転自在となるように重ね合わせると共に上ケース3の環状下面2に対面した環状上面4を有した下ケース5と、環状下面2及び環状上面4間の環状空間6に配された環状のスラスト滑り軸受片7と、環状空間6の外周側に配されたシール手段8と、環状空間6の内周側に配されたシール手段9とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受、特に四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)のスラスト滑り軸受として組み込まれて好適な滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1においては、合成樹脂製の下ケースと、この下ケースに重ねられた合成樹脂製の上ケースと、上及び下ケース間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片と、上及び下ケース間において外周側に配された弾性シール手段とを具備しており、弾性シール手段は、下ケースの外周側に取り付けられた円筒状本体部と、この円筒状本体部の一端側から折り返されて徐々に拡径して円筒状本体部の他端側に向かって伸び、円筒状本体部と同軸であって円筒状本体部の外側に配されて、上ケースの外筒部の内周面に弾性的に当接している環状の弾性リップ部と、下ケースの下面外周側に形成された環状の段部凹所に配されており、円筒状本体部の他端から一体的に伸びていると共に内周端に環状リップを有した鍔部とを備えている滑り軸受が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−326758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる滑り軸受では、例えば、下ケースの下面に当接する相手部材が板金加工されてなるばね座からなる場合には、板金加工されてなるばね座の製作精度が低い傾向にあるために、下ケースとばね座との間に不要な隙間が生じて塵埃、雨水、泥水等が侵入する虞があり、ひいては、弾性シール手段と下ケースとの間を介してスラスト滑り軸受片が配される下ケースと上ケースとの間の環状空間に塵埃、雨水、泥水等が侵入する虞がある。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、下ケースに当接する相手部材の製作精度が低い場合においても、下ケースと相手部材との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入、ひいては、下ケースと上ケースとの間への塵埃、雨水、泥水等の侵入をより高いシール性をもって防止することができる滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の滑り軸受は、環状下面を有した上ケースと、この上ケースに当該上ケースの軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に上ケースの環状下面に対面した環状上面を有した下ケースと、環状下面及び環状上面間の環状空間に配された環状のスラスト滑り軸受片と、環状空間の外周側に配されたシール手段とを具備しており、シール手段は、環状空間の外周側を密閉するように上ケースと下ケースとの間に配されている外周シール部と、この外周シール部の下面に形成されていると共に下ケースの下面に当接する相手部材に向かって突出した環状の弾性突起部とを具備している。
【0007】
本発明の滑り軸受によれば、特に、シール手段が、外周シール部の下面に形成されていると共に下ケースの下面に当接する相手部材に向かって突出した環状の弾性突起部を具備しているために、下ケースに当接する相手部材の製作精度が低い場合においても、当該弾性突起部を相手部材に弾性的に当接させることで、下ケースと相手部材との間に不要な隙間、特に下ケースと上ケースとの間に通じる隙間を生じさせずに当該下ケースと相手部材との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入、ひいては、下ケースと上ケースとの間への塵埃、雨水、泥水等の侵入をより高いシール性をもって防止することができる。
【0008】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、上ケースは、環状下面を有した上側環状板部と、この上側環状板部の外周面側の下面に一体的に形成された上側外筒部とを具備しており、下ケースは、環状上面を有した下側環状板部を具備しており、この下側環状板部は、大径環状板部と、大径環状板部の下面に一体的に形成された小径環状板部とを具備しており、大径環状板部の下面及び小径環状板部の外周面は、互いに協働して下ケースの外周面側の下面に環状段部を形成しており、外周シール部は、下側環状板部に嵌着若しくは固着されている断面L字状であって環状の芯金と、芯金に当該芯金を覆うように固着されている環状の弾性シール部材とを具備しており、弾性シール部材は、芯金を覆うように当該芯金に固着された環状本体と、この環状本体の外周側に配されて当該環状本体の上端に一体的に形成されていると共に環状空間の外周側を密閉するように上側外筒部の内周面に滑接する可撓性を有した外側薄肉環状突縁部と、環状本体の内周側に配されて当該環状本体の下端に一体的に形成されていると共に環状空間の外周側を密閉するように環状段部に滑接する可撓性を有した内側薄肉環状突縁部とを具備している。このような好ましい例によれば、弾性突起部により下ケースとこの下ケースの下面に当接する相手部材との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができ、しかも、内側薄肉環状突縁部により下ケースと上ケースとの間への塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができ、而して、より高いシール性をもって塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができる。
【0009】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、外側薄肉環状突縁部は、上側外筒部に近接するに連れて次第に上側環状板部から離反するように傾斜しており、外側薄肉環状突縁部の最大径は、上側外筒部の内周面の径よりも大きいか又は当該径と同径である。このような好ましい例によれば、外側薄肉環状突縁部が上側外筒部から離反する虞をなくすことができて、高いシール性を発揮し得る。
【0010】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、内側薄肉環状突縁部は、小径環状板部の外周面に近接するに連れて次第に上側環状板部から離反するように傾斜しており、内側薄肉環状突縁部の最小径は、小径環状板部の外周面の径よりも小さいか又は当該径と同径である。このような好ましい例によれば、内側薄肉環状突縁部によっても高いシール性を発揮し得る。
【0011】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、弾性突起部は、外周シール部の下面に一体的に形成された小径の環状突起部と、外周シール部の下面に一体的に形成されていると共に小径の環状突起部よりも外側に配された大径の環状突起部とを具備している。このような好ましい例によれば、小径の環状突起部及び大径の環状突起部の夫々がばね座に当接する小径環状板部よりも外周側に配されるので、ばね座と下側環状板部との間であって特に小径の環状突起部及び大径の環状突起部よりも下側環状板部の内周側に塵埃、雨水、泥水等が侵入すること、ひいては塵埃、雨水、泥水等が環状段部、大径環状板部及び外周シール部間を介して環状空間に侵入することをも防止している。また、このような好ましい例によれば、小径の環状突起部及び大径の環状突起部によりばね座と下ケースとの相対的な滑りを抑えて、上ケースとスラスト滑り軸受片間及び/又は下ケースとスラスト滑り軸受片間の良好な滑りを長期にわたって維持できる。
【0012】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、外周シール部及び弾性突起部は、架橋ゴム又は熱可塑性エラストマーからなる。
【0013】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、上ケース及び下ケースのうちの少なくともいずれか一方は合成樹脂製であり、上ケース及び下ケースのうちの少なくともいずれか一方を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む。
【0014】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、スラスト滑り軸受片は合成樹脂製であり、スラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む。
【0015】
本発明の滑り軸受の好ましい例では、環状空間の内周側に配されたシール手段を更に具備している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下ケースに当接する相手部材の製作精度が低い場合においても、下ケースと相手部材との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入、ひいては、下ケースと上ケースとの間への塵埃、雨水、泥水等の侵入をより高いシール性をもって防止することができる滑り軸受を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例の一部拡大断面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例の一部拡大断面説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例の下面側の一部拡大説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例の使用に関する一部拡大断面説明図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態の他の例の一部拡大断面説明図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態の他の例の一部拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態の例を、図に示す例に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0019】
図1から図5において、本例の滑り軸受1は、環状下面2を有した上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りで回転自在となるように重ね合わせると共に上ケース3の環状下面2に対面した環状上面4を有した下ケース5と、環状下面2及び環状上面4間の環状空間6に配された環状のスラスト滑り軸受片7と、環状空間6の外周側に配されたシール手段8と、環状空間6の内周側に配されたシール手段9とを具備している。
【0020】
上ケース3は、前記環状下面2を有した円環状の上側環状板部11と、上側環状板部11の外周面12側の下面13(環状下面2を含む)に一体的に形成された円筒状の大径の上側外筒部14と、上側外筒部14の下面16側の内周面15の部位に一体的に形成された円環状の環状膨大部18と、上側環状板部11の内周面19側の下面13に一体的に形成された円筒状の小径の上側内筒部21とを具備している。
【0021】
環状下面2は、スラスト滑り軸受片7の環状の上面26にR方向に関して滑動自在に接している。
【0022】
上側外筒部14の内周面15は、上側環状板部11から離反するに従って拡径する部位を有しており、本例では、上側環状板部11から環状膨大部18までの内周面15の部位17が当該上側環状板部11から環状膨大部18に向かって漸次拡径している。
【0023】
環状膨大部18は、径方向において上ケース3の外側から内側に向かって膨出して形成されており、このように形成されているために上側環状板部11から下方に向かって漸次縮径した部位を有している。
【0024】
上側内筒部21は、下ケース5の下側筒部34に挿入されており、上側内筒部21によって画されている中央孔91には、ピストンロッド等からなる軸体が挿通されるようになっている。
【0025】
下ケース5は、環状上面4を有した円環状の下側環状板部31と、下側環状板部31の内周面32側の下面33に一体的に形成された円筒状の下側筒部34とを具備している。
【0026】
下側環状板部31は、大径環状板部36と、大径環状板部36の下面33aに一体的に形成された小径環状板部37とを具備している。
【0027】
大径環状板部36の上面41には、環状上面4としての底面を有した円環状の環状窪み部42が形成されている。環状窪み部42には、スラスト滑り軸受片7が配されるようになっている。環状上面4は、スラスト滑り軸受片7の環状の下面27にR方向に関して滑動自在に接している。
【0028】
小径環状板部37の外周面43b及び大径環状板部36の下面33aは、互いに協働して下ケース5の外周面43側の下面33に外周シール部61の下部が配される環状段部44を形成している。
【0029】
下側筒部34の内周面51は、上側内筒部21の外周面25にR方向に関して滑動自在に接している。このように下側筒部34の内周面51と上側内筒部21の外周面25とが滑接している部位は、ラジアル軸受部50として形成されている。
【0030】
尚、下側環状板部31の下面33及び下側筒部34の外周面52には、図5に示すように、板金加工されてなる相手部材、例えばストラット型サスペンションアセンブリにおけるコイルばねの上部のばね座53が当接するようになっている。
【0031】
スラスト滑り軸受片7には、例えば図2に示すように、シリコーン系グリース等のグリースが配されるグリース溜め溝60が形成されていてもよい。スラスト滑り軸受片7はその環状の上面26で環状下面2に滑接すると共にその環状の下面27で環状上面4に滑接するようになっている。また、スラスト滑り軸受片7は、例えば図7に示すように、環状の上面26に一体的に形成されていると共に環状下面2に滑接する二つ以上の円環状突出部28と、環状の下面27に一体的に形成されていると共に環状上面4に滑接する二つ以上の円環状突出部38とを具備していてもよい。スラスト滑り軸受片7と上ケース3及び/又は下ケース5との間には、例えば図7に示すように、スラスト滑り軸受片7と上ケース3及び/又は下ケース5とのうちの少なくともいずれか一方に滑動自在に接する環状のシート59が介在されていてもよい。斯かるシート59は、例えば0.05mmから1.0mmの厚みを有しており、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっている。シート59と円環状突出部28及び/又は円環状突出部38とによって閉塞される閉塞凹所63には、グリースが充填されていてもよい。
【0032】
上ケース3、下ケース5及びスラスト滑り軸受片7は合成樹脂製であることが好ましく、スラスト滑り軸受片7を構成する合成樹脂は、特に自己潤滑性を有することが好ましく、上ケース3及び下ケース5を構成する合成樹脂は、耐摩耗性、耐衝撃性、耐クリープ性、剛性等の機械的特性に優れていることが好ましい。具体的には、スラスト滑り軸受片7を構成する合成樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む。上ケース3及び下ケース5を構成する合成樹脂としては、スラスト滑り軸受片7を構成する合成樹脂と同様の合成樹脂が使用され得るが、特にスラスト滑り軸受片7を構成する合成樹脂と摩擦特性の良好な組合わせであって、比較的剛性の高い合成樹脂であることが望ましい。その望ましい組合わせについて例示すると、スラスト滑り軸受片7と上ケース3及び下ケース5とに対して、ポリアセタール樹脂とポリアミド樹脂との組合わせ、ポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせ、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせ及びポリアセタール樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせがあり、より好ましくは、ポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合わせである。
【0033】
シール手段8は、環状空間6の外周側を密閉するように上ケース3と下ケース5との間に配されている外周シール部61と、下ケース5の下面33に当接するばね座53に向かって下方に突出した環状の弾性突起部62とを具備している。
【0034】
外周シール部61は、下側環状板部31に嵌着若しくは固着されている断面L字状であって環状の芯金71と、芯金71に当該芯金71を覆うように固着されている環状の弾性シール部材75とを具備している。
【0035】
芯金71は、大径環状板部36の外周面43aに装着される鉛直方向に伸びた長尺部76と、環状段部44に配されて下ケース5の外周面43側の下面33に装着される水平方向に伸びた短尺部77とを具備している。芯金71の外周面72、外周面72の上縁に連接する上縁面73及び外周面72の下縁に連接する下縁面74は、弾性シール部材75に覆われている。芯金71は、下側環状板部31に嵌着若しくは固着されている。
【0036】
弾性シール部材75は、芯金71を覆うように当該芯金71に固着された環状本体86と、環状本体86の外周側に配されて当該環状本体86の上端、本例では後述の部位56に一体的に形成されていると共に環状空間6の外周側を密閉するように上側外筒部14の内周面15に滑接する可撓性を有した外側薄肉環状突縁部87と、環状本体86の内周側に配されて当該環状本体86の下端、本例では後述の部位57に一体的に形成されていると共に環状空間6の外周側を密閉するように下側環状板部31の環状段部44に滑接する可撓性を有した内側薄肉環状突縁部88とを具備している。弾性シール部材75は、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の架橋ゴム、エステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーから選択された材料からなる。
【0037】
環状本体86は、芯金71の外周面72、上縁面73及び下縁面74を覆っている。芯金71の外周面72を覆っている環状本体86の部位55は環状であって断面略L字状であり、芯金71の上縁面73を覆っている環状本体86の部位56及び芯金71の下縁面74を覆っている環状本体86の部位57の夫々は環状である。環状本体86の部位55の下面58は、本例では下面33と面一である。
【0038】
外側薄肉環状突縁部87は、上側外筒部14に近接するに連れて次第に上側環状板部11から離反するように傾斜している。このように傾斜している外側薄肉環状突縁部87の最大径は、上側外筒部14の内周面15の径、本例では内周面15の最大径よりも大きいか又は当該径と同径である。外側環状突縁部87は、径方向において環状本体86と上ケース3との間に介在される。外側薄肉環状突縁部87は、下ケース5が上ケース3の上側外筒部14内に押し込まれて当該上側外筒部14内に配されると、内周面15に滑接しながら撓められて、例えば図2に示すように専ら外側薄肉環状突縁部87の上面81において内周面15に滑接することになる。斯かる外側薄肉環状突縁部87によれば、前記内周面15に滑接していることから、塵埃、雨水、泥水等の侵入を高いシール性をもって防止している。
【0039】
内側薄肉環状突縁部88は、小径環状板部37の外周面43bに近接するに連れて次第に上側環状板部11から離反するように傾斜している。このように傾斜している内側薄肉環状突縁部88の最小径は、外周面43bの径よりも小さいか又は当該径と同径である。内側薄肉突縁部88は、径方向において小径環状板部37と環状本体86との間に介在される。内側環状突縁部88は、芯金71が下側環状板部31に嵌着若しくは固着される際に環状段部44内に押し込まれて当該環状段部44に配されると、外周面43bに滑接しながら撓められて、例えば図2に示すように専ら内側薄肉環状突縁部88の上面82において滑接することになる。
【0040】
弾性突起部62は、環状本体86の部位55の下面58に一体的に形成された小径の環状突起部95と、環状本体86の下面58に一体的に形成されていると共に環状突起部95よりも外側に配された大径の環状突起部96とを具備している。環状突起部95及び96の夫々の突出端は、下側環状板部31の下面33よりも下方に位置している。弾性突起部62は、弾性シール部材75と同材料からなる。
【0041】
環状突起部95及び96は、本例では夫々互いに等しい突出量を有しており、例えば、下面33及び58よりも下方に向かって0.1mm程度突出する。環状突起部95及び96の夫々は、本例では断面円弧状であるが、例えば断面三角状、断面四角状、断面台形状であってもよい。斯かる環状突起部95及び96の夫々は、下面58に一体的に形成されていることからばね座53に当接する小径環状板部37よりも外周側に配されるので、ばね座53と下側環状板部31との間であって特に環状突起部95及び96よりも下側環状板部31の内周側に塵埃、雨水、泥水等が侵入すること、ひいては塵埃、雨水、泥水等が環状段部44、大径環状板部36及び外周シール部61間を介して環状空間6に侵入することをも防止している。また、斯かる環状突起部95及び96の夫々によれば、ばね座53と下ケース5との相対的な滑りを抑えて、上ケース3とスラスト滑り軸受片7間及び/又は下ケース5とスラスト滑り軸受7間の良好な滑りを長期にわたって維持できる。本例の滑り軸受1は、小径環状板部37の外周面43bに滑接した可撓性を有した内側薄肉環状突縁部88をも具備しており、上述のような塵埃、雨水、泥水等の侵入を更に高いシール性をもって防止するようになっている。尚、環状突起部95は、環状突起部96よりも下方に突出していてもよく、また、環状突起部96は、環状突起部95よりも下方に突出していてもよい。
【0042】
尚、シール手段8は、上述の構成に加えて、例えば図6に示すように、下側環状板部31に一体的に形成されていると共に上側環状板部11に向かって凹状の環状凹部65及び上側環状板部11に一体的に形成されていると共に下側環状板部31に向かって凸状の環状凸部66を有しており、径方向に関して外周シール部61とスラスト滑り軸受片7との間に配されたラビリンス構造67を具備していてもよい。
【0043】
シール手段9は、例えば図3に示すように、下側筒部34の下端に一体的に形成されている上方に向かって凹状の環状凹部97と、環状凹部97に画される空間に配されていると共に上側内筒部21の下端に一体的に形成されている下方に向かって凸状の環状凸部98とを具備している。シール手段9は、斯かる環状凹部97と環状凸部98とからなるラビリンス構造99を有しており、当該ラビリンス構造99によって上ケース3と下ケース5との間において環状空間6の内周側を密閉するようになっている。尚、シール手段9は、本例ではラビリンス構造99を有してなるが、これに代えて、例えば上側内筒部21の下端と下側筒部34の下端との間に介在された弾性シール手段(図示せず)を有していてもよい。
【0044】
以上の滑り軸受1は、例えば、ストラット型サスペンションアセンブリにおけるコイルばねの上部の板金加工されてなるばね座53と、油圧ダンパのピストンロッドが固着される車体側の取付部材との間に装着されて用いられる。この場合、滑り軸受1の中央孔91にピストンロッドの上部が上ケース3及び下ケース5に対して軸心Oの回りでR方向に回転自在になるようにして挿通される。滑り軸受1を介して装着されたストラット型サスペンションアセンブリでは、ステアリング操作に際してコイルばねを介するばね座53の軸心Oの回りでの相対的なR方向の回転は、上ケース3に対する下ケース5の同方向の相対的な回転で行われる。尚、ストラット型サスペンションは車輌走行中に塵埃、雨水、泥水等に晒される車輌の部分に配されるために、ストラット型サスペンションに組み込まれる滑り軸受1の使用環境は極めて過酷なものとなることから、滑り軸受1のシール性の向上を図ることは重要である。
【0045】
本例の滑り軸受1によれば、環状下面2を有した上ケース3と、上ケース3に当該上ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように重ね合わされると共に上ケース3の環状下面2に対面した環状上面4を有した下ケース5と、環状下面2及び環状上面4間の環状空間6に配された環状のスラスト滑り軸受片7と、環状空間6の外周側に配されたシール手段8とを具備しており、シール手段8は、環状空間6の外周側を密閉するように上ケース3と下ケース5との間に配されている外周シール部61と、外周シール部61の下面58に形成されていると共に下ケース5の下面33に当接する相手部材としての板金加工されてなるばね座53に向かって突出した環状の弾性突起部62とを具備しているために、下ケース5に当接するばね座53の製作精度が低い場合においても、当該弾性突起部62をばね座53に弾性的に当接させることで、下ケース5とばね座53との間に不要な隙間、特に下ケース5と上ケース3との間に通じる隙間を生じさせずに当該下ケース5とばね座53との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入、ひいては、下ケース5と上ケース3との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入をより高いシール性をもって防止することができる。
【0046】
滑り軸受1によれば、上ケース3は、環状下面2を有した上側環状板部11と、上側環状板部11の外周面12側の下面13に一体的に形成された上側外筒部14とを具備しており、下ケース5は、環状上面4を有した下側環状板部31を具備しており、下側環状板部31は、大径環状板部36と、大径環状板部36の下面33aに一体的に形成された小径環状板部37とを具備しており、大径環状板部36の下面33a及び小径環状板部37の外周面43bは、互いに協働して下ケース5の外周面43側の下面33に環状段部44を形成しており、外周シール部61は、下側環状板部31に嵌着若しくは固着されている断面L字状であって環状の芯金71と、芯金71に当該芯金71を覆うように固着されている環状の弾性シール部材75とを具備しており、弾性シール部材75は、芯金71を覆うように当該芯金71に固着された環状本体86と、環状本体86の外周側に配されて当該環状本体86の上端に一体的に形成されていると共に環状空間6の外周側を密閉するように上側外筒部14の内周面15に滑接する可撓性を有した外側薄肉環状突縁部87と、環状本体86の内周側に配されて当該環状本体86の下端に一体的に形成されていると共に環状空間6の外周側を密閉するように環状段部44に滑接する可撓性を有した内側薄肉環状突縁部88とを具備しているために、弾性突起部62により下ケース5とこの下ケース5の下面33に当接するばね座53との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができ、しかも、内側薄肉環状突縁部88により下ケース5と上ケース3との間への塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができ、而して、より高いシール性をもって塵埃、雨水、泥水等の侵入を防止することができる。
【0047】
滑り軸受1によれば、外側薄肉環状突縁部87は、上側外筒部14に近接するに連れて次第に上側環状板部11から離反するように傾斜しており、外側薄肉環状突縁部87の最大径は、上側外筒部14の内周面15の径よりも大きいか又は当該径と同径であるために、外側薄肉環状突縁部87が上側外筒部14から離反する虞をなくすことができて、高いシール性を発揮し得る。
【0048】
滑り軸受1によれば、内側薄肉環状突縁部88は、小径環状板部37の外周面43bに近接するに連れて次第に上側環状板部11から離反するように傾斜しており、内側環状突縁部88の最小径は、小径環状板部37の外周面43bの径よりも小さいか又は当該径と同径であるために、内側環状突縁部88によっても高いシール性を発揮し得る。
【符号の説明】
【0049】
1 滑り軸受
2 環状下面
3 上ケース
4 環状上面
5 下ケース
6 環状空間
7 スラスト滑り軸受片
8、9 シール手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状下面を有した上ケースと、この上ケースに当該上ケースの軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に上ケースの環状下面に対面した環状上面を有した下ケースと、環状下面及び環状上面間の環状空間に配された環状のスラスト滑り軸受片と、環状空間の外周側に配されたシール手段とを具備しており、シール手段は、環状空間の外周側を密閉するように上ケースと下ケースとの間に配されている外周シール部と、この外周シール部の下面に形成されていると共に下ケースの下面に当接する相手部材に向かって突出した環状の弾性突起部とを具備している滑り軸受。
【請求項2】
上ケースは、環状下面を有した上側環状板部と、この上側環状板部の外周面側の下面に一体的に形成された上側外筒部とを具備しており、下ケースは、環状上面を有した下側環状板部を具備しており、この下側環状板部は、大径環状板部と、大径環状板部の下面に一体的に形成された小径環状板部とを具備しており、大径環状板部の下面及び小径環状板部の外周面は、互いに協働して下ケースの外周面側の下面に環状段部を形成しており、外周シール部は、下側環状板部に嵌着若しくは固着されている断面L字状であって環状の芯金と、芯金に当該芯金を覆うように固着されている環状の弾性シール部材とを具備しており、弾性シール部材は、芯金を覆うように当該芯金に固着された環状本体と、この環状本体の外周側に配されて当該環状本体の上端に一体的に形成されていると共に環状空間の外周側を密閉するように上側外筒部の内周面に滑接する可撓性を有した外側薄肉環状突縁部と、環状本体の内周側に配されて当該環状本体の下端に一体的に形成されていると共に環状空間の外周側を密閉するように環状段部に滑接する可撓性を有した内側薄肉環状突縁部とを具備している請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項3】
外側薄肉環状突縁部は、上側外筒部に近接するに連れて次第に上側環状板部から離反するように傾斜しており、外側薄肉環状突縁部の最大径は、上側外筒部の内周面の径よりも大きいか又は当該径と同径である請求項2に記載の滑り軸受。
【請求項4】
内側薄肉環状突縁部は、小径環状板部の外周面に近接するに連れて次第に上側環状板部から離反するように傾斜しており、内側薄肉環状突縁部の最小径は、小径環状板部の外周面の径よりも小さいか又は当該径と同径である請求項2又は3に記載の滑り軸受。
【請求項5】
弾性突起部は、外周シール部の下面に一体的に形成された小径の環状突起部と、外周シール部の下面に一体的に形成されていると共に小径の環状突起部よりも外側に配された大径の環状突起部とを具備している請求項1から4のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項6】
外周シール部及び弾性突起部は、架橋ゴム又は熱可塑性エラストマーからなる請求項1から5のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項7】
上ケース及び下ケースのうちの少なくともいずれか一方は合成樹脂製であり、上ケース及び下ケースのうちの少なくともいずれか一方を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む請求項1から6のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項8】
スラスト滑り軸受片は合成樹脂製であり、スラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む請求項1から7のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項9】
環状空間の内周側に配されたシール手段を更に具備している請求項1から8のいずれか一項に記載の滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−97904(P2012−97904A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23522(P2012−23522)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2006−134544(P2006−134544)の分割
【原出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】