説明

滑材、地山の安定化方法、地山の安定化構造、並びにトンネルの構築方法及びこの方法により構築されたトンネル

【課題】掘削装置の推進時には、推進管と地山との間に生じる摩擦を低減し、かつ、推進施工中には、地山を保持することが可能な滑材及びこの滑材を用いた地山の安定化方法を提供する。
【解決手段】地中管路7を構築する際に、推進管17の周囲に滑材11が充填されている。滑材11は、骨材12と粘性流体14と微粉末16とを含み、滑材11に占める粘性流体14の体積割合が地山3の間隙率と同程度になるように混合されている。骨材12は、球状の焼成スラグからなり、空隙部2内に互いに密着して隣接するように充填されている。骨材12は地山3を保持し、地山3の空隙部2での崩落を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削時の地山の安定化方法及び安定化構造に関し、特に推進施工中における地山の安定化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、推進工法でトンネルを掘削する際は、推進管の周囲に形成された空隙部に、推進管と地山との摩擦を低減するための滑材を充填する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベントナイト等の粘性材料と、セメント成分を含む水硬性物質と、水硬性物質の硬化を遅らせるための遅延硬化剤とを含む滑材が開示されている。この滑材は、推進施工中は流動状態で滑材としての性能を有し、施工後は地山と同程度の強度に硬化して裏込め材としての性能を発現するものである。滑材としての性能を保持する期間は、遅延硬化材の添加量を調整することにより適宜変更可能である。
【特許文献1】特許第3193233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の滑材では、次のような問題点があった。(1)推進施工中の滑材は、地山を保持する性能を有していないので、推進施工中に地山が崩落する可能性がある。このため、線路、道路、ビル等の重要構造物の直下や低土被り区間等の数mmの沈下をも許容されない厳しい条件下では、安全面から推進工法を適用することができない。(2)空隙部に充填された滑材が地下水に希釈されてしまい配合割合が変化し、滑材としての性能が低下してしまう可能性がある。(3)滑材を充填した後にトラブル等で掘削装置が長期間停止すると、滑材には硬化材が添加されているために、滑材が硬化して滑材と推進管とが一体化してしまい、掘削装置が推進できなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、掘削装置の推進時には、推進管と地山との間に生じる摩擦を低減し、かつ、推進施工中には、地山を保持することが可能な滑材及びこの滑材を用いた地山の安定化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の滑材は、地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際に、前記地山と推進管との間に形成された空隙部に充填される滑材であって、骨材と、前記骨材間に介在して、前記推進管が推進する際に前記地山と前記推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含むことを特徴とする(第1の発明)。
【0007】
本発明による滑材によれば、骨材を含んでいるので、地山と推進管との間に充填された状態で地山を確実に保持し、地山の空隙部での崩落を防止することが可能となる。また、骨材が地山と推進管との間に存在するので、長期間にわたって地山を確実に保持することが可能となる。したがって、トンネル構築後に裏込材を充填する必要が無く、施工期間を短縮することが可能となる。
【0008】
さらに、粘性流体を含んでいるので、掘削装置が推進する際に地山と推進管との間に生じる摩擦が低減され、推進管はスムーズに推進することが可能となる。また、粘性流体を含んでいるので、材料分離抵抗性が高くなり、骨材同士の粘着性が増し、確実に地山と推進管との間に存在することが可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする。
本発明による滑材によれば、骨材は楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有するので、推進管の周囲に接する骨材は推進管の推進に伴い回転し、推進管と地山との摩擦を低減することが可能となる。
また、骨材は丸みを帯びた形状を有するとともに、隣接する骨材同士間には粘性流体が介在しているので、骨材同士の摩擦はほとんど無くなる。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記粘性流体は、前記滑材に占める前記粘性流体の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合されていることを特徴とする。
本発明による滑材によれば、粘性流体を地山の間隙率と同等となるように滑材に混合すると、骨材は滑材中に地山の土粒子と同程度の体積割合で含まれるために、粘性流体が何らかの理由により消失した場合にも、この骨材により地山と同程度の圧縮強度を有し、地山を保持することが可能となる。
【0011】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、フライアッシュ等の微粉末を更に含むことを特徴とする。
本発明による滑材によれば、フライアッシュ等の微粉末を混合することにより、高価な骨材の量を低減することができるので、滑材の材料費を削減することが可能となる。
【0012】
第5の発明の地山の安定化方法は、地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際の前記地山を安定化するための安定化方法において、骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材を、前記推進管の周囲に形成された空隙部に充填し、前記骨材により地山を保持することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、骨材と粘性流体とを含んだ滑材を推進管の周囲に形成された空隙部に充填するので、推進工法でトンネルを掘削する際にこの滑材が地山を確実に保持し、地山の空隙部での崩落を防止することが可能となる。また、骨材が地山と推進管との間に存在するので、長期間にわたって地山を確実に保持することが可能となる。したがって、トンネル構築後に裏込材を充填する必要が無く、施工期間を短縮することが可能となる。
【0013】
第6の発明は、第5の発明において、前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、骨材は楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有するので、推進管の周囲に接する骨材は推進管の推進に伴い回転し、推進管と地山との摩擦を低減することが可能となる。
また、骨材は丸みを帯びた形状を有するとともに、隣接する骨材同士間には粘性流体が介在しているので、骨材同士の摩擦はほとんど無くなる。
【0014】
第7の発明は、第5又は6の発明において、前記滑材は、前記粘性流体を、前記滑材に占める前記粘性流体の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合したものであることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、粘性流体を地山の間隙率と同等となるように滑材に混合すると、骨材は滑材中に地山の土粒子と同程度の体積割合で含まれるために、粘性流体が何らかの理由により消失した場合にも、この骨材により地山と同程度の圧縮強度を有し、地山を保持することが可能となる。
【0015】
第8の発明は、第5〜7のいずれかの発明において、前記滑材は、フライアッシュ等の微粉末を更に含むことを特徴とする。
本発明による切羽の安定化方法によれば、フライアッシュ等の微粉末を混合することにより、高価な骨材の量を低減することができるために、滑材の材料費を削減することが可能となる。
【0016】
第9の発明の地山の安定化構造は、地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際の前記地山を安定化するための安定化構造であって、骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材が、前記推進管の周囲に形成された空隙部に充填されてなることを特徴とする。
【0017】
第10の発明は、第9の発明において、前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする。
【0018】
第11の発明のトンネルの構築方法は、地山内に推進工法によりトンネルを構築するトンネルの構築方法において、骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材を、前記地山と前記推進管との間に形成された空隙部に充填して前記地山を保持しつつ、前記掘削装置で地山内を推進することを特徴とする。
【0019】
第12の発明は、第11の発明において、前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする。
【0020】
第13の発明のトンネルは、第11又は12の発明のトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の滑材及びこの滑材を用いた地山の安定化方法により、掘削装置の推進時には、推進管と地山との間に生じる摩擦を低減し、かつ、推進施工中には、地山を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る地山の安定化方法及び安定化構造の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、掘削装置として泥水式の推進機を用いて地山を掘削する場合について説明するが、この掘進機に限定されるものではなく、例えば、土圧式等の一般的な推進機にも適用可能である。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る推進機1にて地山3内に構築された地中管路7の縦断面図で、図2は、図1のA−A’矢視図である。なお、添付の図面において、本発明の説明に不要な部分の図示は省略している。
【0024】
図1及び図2に示すように、泥水式の推進機1で地山3内に地中管路7を構築する際に、その推進機1の余堀掘削によって推進管17と地山3との間に生じた空隙部2に滑材11が充填されている。
【0025】
滑材11は、骨材12と、推進機1が推進する際に、地山3と推進管17との間に生じる摩擦を低減するとともに、骨材12同士を粘着するための粘性流体14と、フライアッシュ等の微粉末16とを含んでいる。この滑材11に占める粘性流体14の体積割合が地山3の間隙率(例えば、一般的な砂層の場合約30〜60%程度)と同程度になるように混合する。
【0026】
骨材12は、球状の焼成スラグからなり、空隙部2内に互いに隣接して密着するように充填されている。空隙部2内に充填されている骨材12は、地山3と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているので、地山3を保持し、地山3の空隙部2での崩落を防止する。
【0027】
粘性流体14は、スルホン基を有する芳香族化合物とアルキルトリメチルアンモニウム塩とからなり、水を添加して所定の粘度に調整して用いられる。この粘性流体14は、分子間相互作用により内包する材料を近接する機能を有しているので、材料分離抵抗性の高い滑材11が得られる。すなわち、骨材12同士、微粉末16同士及び骨材12と微粉末16とは互いに密着した状態で空隙部2内に存在する。
【0028】
微粉末16は、フライアッシュ、高炉スラグ、ベントナイト、廃ガラス等を用いる。なお、微粉末16を混合しなくてもよい。
【0029】
推進機1が推進する際は、推進管17の外周面に接する骨材12が回転することにより外周面との摩擦抵抗が低減される。また、その回転する骨材12と隣接する骨材12との間に生じる摩擦抵抗は骨材12同士間に薄く膜状に介在している粘性流体14により低減される。
【0030】
次に、上述した滑材11を用いた場合における地山3と推進管17との間に生じる摩擦の低減効果について検討した結果を説明する。
骨材12の量が異なる複数の滑材11を作製し、回転摩擦計を用いて、これらの滑材11の摩擦係数を測定し、摩擦抵抗を確認した。また、一般的な滑材22の摩擦係数と比較した。
【0031】
図3は、試験体No.1〜No.3及び比較試験体No.4の配合割合を示す一覧図である。
図3に示すように、骨材12の量が異なる3種類の滑材11の試験体No.1〜No.3及び一般的な滑材22からなる比較試験体No.4を作製した。
【0032】
試験体No.1〜No.3は、粘性流体14の180mlを水2820mlに添加し、ミキサーで混合して増粘液を作製し、その増粘液に、それぞれ増粘液の重量の5倍、6倍、7倍の骨材12を添加して、更にミキサーで混合することにより作製される。本実施形態においては、粘性流体14としてビスコトップ(商品名、花王株式会社製)を用い、骨材12として球状の焼成スラグのCKハイパーグリッド(商品名、株式会社星野産商製)を用いた。
また、比較試験体No.4は、高吸水性樹脂からなる滑材15mlを水2985mlに添加して、ミキサーで混合することにより作製される。本実施形態においては、滑材22は、市販されている一般的なものを用いた。
そして、これらの試験体No.1〜No.3及び比較試験体No.4の摩擦係数を回転摩擦計で測定した。測定時の回転摩擦計の回転数は0.12rpmとした。
【0033】
図4は、各試験体における経過時間と摩擦係数との関係を示す図である。
図4に示すように、試験体No.1〜No.3の摩擦係数は、経過時間にかかわらずほぼ同程度の値を示した。具体的には、測定開始直後は、それぞれ0.21、0.19、0.19で、その後、時間の経過とともに少しずつ増加するが10分以降は、ほぼ一定となり、すべての試験体で0.42程度となった。すなわち、骨材12の量の違いでは、摩擦係数に差異がほとんど認められなかった。
また、比較試験体No.4の摩擦係数は、時間の経過とともに少しずつ増加するが10分以降は、ほぼ一定となり、0.45程度となった。
これらの結果より、試験体No.1〜No.3の試験体の摩擦係数は、比較試験体No.4の摩擦係数よりも小さいので、滑材11の摩擦抵抗は、一般的な滑材22の摩擦抵抗よりも小さくなる。つまり、滑材11は、推進機1が推進する際の推進管17の外周面に作用する摩擦抵抗を低減する機能を有することが確認された。
【0034】
次に、本実施形態に係る滑材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。
図5は、本実施形態に係る推進設備4の概略全体図である。図5に示すように、地中管路7は、発進立坑5内に設けた推進ジャッキ6により推進機1を押圧して地山3内を掘進させつつ、この推進機1の後部に推進管17を順次継ぎ足して構築される。
【0035】
推進機1は、切羽対向面に回転するとともに地山3を掘削するカッター15と、掘削土砂に一定の圧力を与えてこれを保持するための隔壁18と、泥水をチャンバー21内に送給するための泥水管25と、掘削土砂をチャンバー21内から排出するための排泥管27と、チャンバー21内の掘削土砂を撹拌、混練するためのアジテータ28と、チャンバー21内の圧力を測定する圧力計(図示しない)等を備える。
【0036】
推進管17は、空隙部2に滑材11を注入するための注入孔29と、一端が滑材用注入ポンプ38(後述する)に、他端が注入孔29に接続され、滑材11を注入孔29に送給するための注入管31と、注入孔29付近に設けられ、空隙部2内の圧力を測定する圧力計(図示しない)とを備える。注入孔29は、推進管17の上方部及び下方部に複数設けられている。
【0037】
一方、地上には、滑材11を製造・供給するための注入装置23が設けられている。注入装置23は、粘性流体14と骨材12と微粉末16とを混合した滑材11を貯留する滑材用プラント37と、この滑材11を注入管31及び注入孔29を介して空隙部2に供給するための滑材用注入ポンプ38とから構成される。
【0038】
上記のように構成した推進機1を推進ジャッキ6で押圧することにより推進させると、推進管17の周囲と地山3との間に空隙部2が生じる。
【0039】
図6は、本実施形態に係る推進機1にて地山3を掘削した状態を示す地中管路7の側断面図で、図7は、本実施形態に係る空隙部2に滑材11を充填した状態を示す地中管路7の側断面図であり、推進管17の外周面近傍を拡大したものである。
【0040】
図6に示すように、推進機1のカッター15による掘削径は推進機1の径よりもやや大きいために、推進機1及び推進管17の外周面と地山3との間にカッター15の余堀掘削による空隙部2が生じる。この空隙部2を放置すると推進機1周辺の地山3が緩み、地山3が空隙部2で崩落する可能性があるために、図7に示すように、空隙部2に滑材11を充填する。
【0041】
滑材用プラント37内で流動状態にされた滑材11を滑材用注入ポンプ38にて注入管31及び注入孔29を介して供給し、空隙部2に注入する。複数の注入孔29からそれぞれ滑材11が空隙部2に注入されるので、推進管17の全外周にわたって良好に滑材11の注入が行われる。
【0042】
滑材11を注入する際は、注入圧が、予め設計等により決定された所定の圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、地山3の変形を防止する。
【0043】
空隙部2内に注入された滑材11のうち骨材12は、骨材12同士が隣接するように充填されているので、空隙部2から流出することが無く、また、地山3と同等の一軸圧縮強度を有するために、地山3を保持し、空隙部2での崩落を防止する。
【0044】
図8は、地中管路7の側断面図であり、推進管17の外周面近傍を拡大したものである。
図8に示すように、推進機1で地山3を掘進して推進管17を推進させると、推進管17の外周面に接する骨材12aがその存在している位置で推進機1の推進に伴い回転する。そのとき推進管17の外周面に接する骨材12aが回転するので、推進管17の外周面と滑材11との間に生じる摩擦抵抗が小さくなり、推進機1及び推進管17はスムーズに推進する。また、推進機1の推進に伴い回転する骨材12aとこの骨材12aに隣接する地山3側の他の骨材12bとの間には粘性流体14が介在しているので、骨材12aと骨材12bとの間に摩擦はほとんど生じない。
【0045】
また、粘性流体14の分子間相互作用により骨材12同士が互いに密着するように充填されているので、骨材12が空隙部2から外部に流出しない。
【0046】
さらに、推進機1が推進する際は、推進管17の外周面に接する骨材12aの回転に伴って、地山3側の他の骨材12bも多少回転するが、その回転数は骨材12aよりも少なく、地山3側に向かうにしたがい骨材12の回転数は少なくなり、地山3に接する骨材12cはほとんど回転しないので、骨材12cの回転により地山3を傷めることは無い。
【0047】
そして、所定の距離だけ掘進すると、推進作業を停止し、新たに形成された空隙部2に滑材11を注入して地山3を保持する。
【0048】
上述したように、発進立坑5に設けた推進ジャッキ6により推進管17を押圧することにより推進機1を掘進させ、この掘進により生じた空隙部2に滑材11を注入し、推進管17の後部に新たな推進管17を継ぎ足し、再び推進機1を掘進させるという一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返し、図9、図10に示すように、地中管路7を構築する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の地山3の安定化構造によれば、球状の骨材12と、粘性流体14と、微粉末16とを含む滑材11が空隙部2に充填されており、推進機1及び推進管17が推進する際は、滑材11中の骨材12が推進に伴い回転するので、滑材11と推進管17の外周面との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。
【0050】
また、滑材11は、骨材12を含んでいるので、推進施工中も地山3を確実に保持し、地山3の空隙部2での崩落を防止することが可能となる。この骨材12は球状で、かつ、骨材12同士の間に粘性流体14が介在しているので、骨材12同士の摩擦はほとんど無い。
【0051】
また、粘性流体14は骨材12同士を密着させる性質を有するので、空隙部2から外部に流出せず、推進管17を推進させても地山3を確実に保持し、地表面の沈下を防止することが可能となる。
【0052】
さらに、粘性流体14を地山3の間隙率と同程度となるように滑材11に混合することにより、骨材12及び微粉末16は滑材11中に地山3の土粒子と同程度の体積割合で含まれるので、粘性流体14が時間の経過により消失した場合にも、骨材12は空隙部2に存在し、地山3を保持することが可能となる。したがって、地中管路7の構築後に裏込材を充填する必要が無く、施工期間を短縮することが可能となる。
【0053】
また、滑材11にフライアッシュ等の微粉末16を混合することにより、高価な骨材12の量を低減することができるので、滑材11の材料費を削減することが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態においては、注入孔29は推進管17の上方及び下方に設けたが、これらの位置に限定されるものではなく、地中管路7の構築断面規模に応じて注入孔29の数及び位置は適宜変更することが可能である。
【0055】
また、本実施形態においては、円形断面の推進機1を用いた場合について説明したが、円形断面の推進機1に限定されるものではなく、例えば、矩形断面等の様々な推進機1に広く適用が可能である。
【0056】
そして、本実施形態においては、骨材12が球状の場合について説明したが、この形状に限定されるものではなく、卵形状、楕円球状等の丸みを帯びた形状を有する骨材12であればよい。
【0057】
さらに、本実施形態においては、粘性流体14として、スルホン基を有する芳香族化合物とアルキルトリメチルアンモニウム塩と水とを混合したものを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、骨材12同士を離れないようにする性質及び骨材12同士の摩擦を低減する性質を有するものであれば他の材料を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る推進機にて地山内に構築された地中管の縦断面図である。
【図2】図1のA−A’矢視図である。
【図3】試験体No.1〜No.3及び比較試験体No.4の配合割合を示す一覧図である。
【図4】各試験体における経過時間と摩擦係数との関係を示す図である。
【図5】本実施形態に係る推進設備の概略全体図である。
【図6】本実施形態に係る推進機にて地山を掘削した状態を示す地中管路の側断面図である。
【図7】本実施形態に係る空隙部に滑材を充填した状態を示す地中管路の側断面図であり、推進管の外周面近傍を拡大したものである。
【図8】地中管路の側断面図であり、推進管の外周面近傍を拡大したものである。
【図9】推進機にて地山内を推進する状態を示す図である。
【図10】推進機にて地山内を推進する状態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 推進機 2 空隙部
3 地山 4 推進設備
5 発進立坑 6 推進ジャッキ
7 地中管路 11 滑材
12 骨材 12a、12b、12c 骨材
14 粘性流体 15 カッター
16 微粉末 17 推進管
18 隔壁 21 チャンバー
22 一般的な滑材 23 注入装置
25 泥水管 27 排泥管
28 アジテータ 29 注入孔
31 注入管 37 滑材用プラント
38 滑材用注入ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際に、前記地山と推進管との間に形成された空隙部に充填される滑材であって、
骨材と、
前記骨材間に介在して、前記推進管が推進する際に前記地山と前記推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含むことを特徴とする滑材。
【請求項2】
前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする請求項1に記載の滑材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の滑材において、前記粘性流体は、前記滑材に占める前記粘性流体の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合されていることを特徴とする滑材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の滑材において、フライアッシュ等の微粉末を更に含むことを特徴とする滑材。
【請求項5】
地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際の前記地山を安定化するための安定化方法において、
骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材を、前記推進管の周囲に形成された空隙部に充填し、前記骨材により地山を保持することを特徴とする地山の安定化方法。
【請求項6】
前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする請求項5に記載の地山の安定化方法。
【請求項7】
前記滑材は、前記粘性流体を、前記滑材に占める前記粘性流体の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合したものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の地山の安定化方法。
【請求項8】
前記滑材は、フライアッシュ等の微粉末を更に含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項9】
地山内に推進工法によりトンネルを掘削する際の前記地山を安定化するための安定化構造であって、
骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材が、前記推進管の周囲に形成された空隙部に充填されてなることを特徴とする地山の安定化構造。
【請求項10】
前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする請求項9に記載の地山の安定化構造。
【請求項11】
地山内に推進工法によりトンネルを構築するトンネルの構築方法において、
骨材と、前記骨材間に介在して、推進管が推進する際に前記地山と当該推進管との間に生じる摩擦を低減するための粘性流体とを含む滑材を、前記地山と前記推進管との間に形成された空隙部に充填して前記地山を保持しつつ、前記掘削装置で地山内を推進することを特徴とするトンネルの構築方法。
【請求項12】
前記骨材は、卵型状、楕円球状、球状等の丸みを帯びた形状を有することを特徴とする請求項11に記載のトンネルの構築方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載されたトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とするトンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−114672(P2009−114672A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286496(P2007−286496)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】