説明

滑水性皮膜及び表面滑水性部材

【課題】滑水性に優れる滑水性皮膜及び前記滑水性皮膜を備えてなる表面滑水性部材を提供する。
【解決手段】撥水性を有する撥水性領域3と親水性を有する親水性領域4とが露出形成され、水滴が前記撥水性領域3と前記親水性領域4との両方に接触するように、平面から見て前記撥水性領域3と前記親水性領域4との少なくとも一方の領域が分断されて成り、前記撥水性領域3と前記親水性領域4とが露出形成された面の水の接触角が10°〜50°であることを特徴とする滑水性皮膜1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、滑水性皮膜及び表面滑水性部材に関し、更に詳しくは、滑水性に優れた滑水性皮膜、及びその滑水性皮膜を有することにより滑水性を有効利用する表面滑水性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の生活環境においては、曇り止めなどの撥水処理が望まれ、また、必要とされる各種の設備、装置、機械器具が多数存在する。これらは、たとえば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡など、きわめて多岐に亘っている。
このような設備、装置、機械器具の撥水処理方法として、たとえば、自動車の窓ガラスの表面に、低分子フッ素化合物、フッ素樹脂、シリコンなどを塗布又は化学蒸着することにより薄膜を形成して、撥水処理する方法が知られている。これらの方法によれば、水滴の接触角が80〜150度となるような撥水性を実現することができる。
しかしながら、この従来の方法にあっては、撥水性を付与することはできるものの、付着した水滴が重力などによって速やかに流れ落ちる性質(滑水性)が弱いため、付着した水滴がそのままの状態で留まることになり、種々の不都合を招いていた。
たとえば、自動車のフロントガラスに多数の水滴が付着した状態のままになっていると、街灯などの光によってフロントガラスが乱反射して、運転者の視界を妨げるという不都合があった。このような効果をシャンデリア効果と称している。このシャンデリア効果を防止するために、フロントガラスに撥水性を付与すると共に、滑水性を向上させる処理法が要望されている。
【0003】
近年、滑水性を向上させる方法が種々検討されており、そのうちの1つの方法が特許文献1に提案されている。特許文献1によれば、一定の親水性化合物と一定の疎水性化合物とを重量配合比1:1〜1:60の割合から成る処理剤で構成した表面処理層を、基材表面上に形成して成る表面処理基材とすることにより、親水基と疎水基とのバランスをとり、水滴滑落性を向上させることができると記載されている(特許文献の請求項1、段落番号0008及び0029参照。)。
【0004】
また、特許文献2の請求項1には、「基材上に親水性部位と疎水性部位を有する水滑落性表面を有する表面処理基材であって、少なくとも親水性部位が基材と結合していることを特徴とする表面処理基材。」が記載されており、この発明によれば、「付着水滴の滑落性に優れた基材、特に微小水滴であっても小さな傾斜角度で落下させることを可能とし、かつ耐久性にも優れた表面処理基材を得ることができる。」(段落番号0014参照。)と記載されている。特許文献2には、このような表面処理基材の製造方法については記載されているものの、付着水滴の滑落性や耐久性について実証されていない。
【0005】
このように、滑水性を向上させる方法が検討されてはいるものの、さらに滑水性に優れた滑水性皮膜の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−8026号公報
【特許文献2】特開2007−238352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、滑水性に優れる滑水性皮膜を提供すること及び前記滑水性皮膜を備えてなる表面滑水性部材を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 撥水性を有する撥水性領域と親水性を有する親水性領域とが露出形成され、水滴が前記撥水性領域と前記親水性領域との両方に接触するように、平面から見て前記撥水性領域と前記親水性領域との少なくとも一方の領域が分断されて成り、前記撥水性領域と前記親水性領域とが露出形成された面の水の接触角が10°〜50°であることを特徴とする滑水性皮膜であり、
(2) 前記撥水性領域と前記親水性領域との両方が互いに分断されて、前記撥水性領域と前記親水性領域とのいずれか一方の領域が複数の第1分断部を形成し、他方の領域が複数の第2分断部を形成することを特徴とする前記(1)に記載の滑水性皮膜であり、
(3) 前記第1分断部と前記第2分断部とは、平面から見て一方向に延在して成る長形状を有し、この長形状の長軸が一方向に揃うように互いに隣接して前記長軸に直交する方向に交互に配列されて成ることを特徴とする前記(2)に記載の滑水性皮膜であり、
(4) 前記長形状である、前記第1分断部と前記第2分断部との幅が、100μm〜10mmであることを特徴とする前記(3)に記載の滑水性皮膜であり、
(5) 前記撥水性領域が連続領域を形成し、この連続領域上に分断されて成る前記親水性領域が配列されて成るか、或いは前記親水性領域が連続領域を形成し、この連続領域上に分断されて成る前記撥水性領域が配列されて成ることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の滑水性皮膜であり、
(6) 前記撥水性領域と前記親水性領域との両方が、平面に直交する方向から見て、平面を横切るように互いに分断されて成り、分断されたそれぞれの領域が互いに隣接して平面方向に交互に配列されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の滑水性皮膜であり、
(7) 前記撥水性領域がハフニア、ジルコニア及びイットリアから成る群より選ばれる少なくとも1つを含有し、前記親水性領域がチタニア、アルミナ及びシリカから成る群より選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の滑水性皮膜である。
前記他の課題を解決するための手段は、
(8) 前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載された滑水性皮膜とその滑水性皮膜を表面に備えてなる基材とを有することを特徴とする表面滑水性部材である。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る滑水性皮膜は、撥水性を有する撥水性領域と親水性を有する親水性領域とが露出形成され、水滴が前記撥水性領域と前記親水性領域との両方に接触するように、平面から見て前記撥水性領域と前記親水性領域との少なくとも一方の領域が分断されて成り、前記撥水性領域と前記親水性領域とが露出形成された面の水の接触角が10°〜50°である。したがって、付着した水滴が重力などによって速やかに流れ落ちる性質すなわち滑水性に優れた滑水性皮膜を提供することができる。その結果、滑水性皮膜に付着した水滴を容易に除去することができる。また、この発明に係る表面滑水性部材は、この発明に係る滑水性皮膜を表面に有するので、滑水性を活用して自動車のウインドウ、ビルなどの窓ガラス等に使用することができ、また、滑水性を活用して砂漠などの乾燥地域における水分捕集装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はこの発明に係る滑水性皮膜の一例を説明をするための説明図であり、図1(a)は、この発明に係る滑水性皮膜の一例である滑水性皮膜の正面図である。図1(b)は、図1(a)のX−X’で切断したときの滑水性皮膜の断面図である。
【図2】図2は、接触角を示す概略図である。
【図3】図3は、転落角を示す概略図である。
【図4】図4はこの発明に係る滑水性皮膜の他の一例を説明をするための説明図であり、図4(a)は、この発明に係る滑水性皮膜の他の一例である滑水性皮膜の正面図である。図4(b)は、図4(a)のY−Y’で切断したときの滑水性皮膜の断面図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、この発明に係る滑水性皮膜の別の一例である滑水性皮膜の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明に係る滑水性皮膜の一実施例である滑水性皮膜を、図面を参照して説明する。図1(a)は、この発明に係る滑水性皮膜の一例である滑水性皮膜の正面図である。図1(b)は、図1(a)のX−X’で切断したときの滑水性皮膜の断面図である。
【0012】
この実施の形態における滑水性皮膜1は、基材2上に設けられており、撥水性を有する撥水性領域3と親水性を有する親水性領域4とが、表面に露出するように形成され、この撥水性領域3と親水性領域4とは互いに分断されて形成されている。なお、互いに分断しているとの形容は、滑水性皮膜の平面を観察したときに、撥水性領域と親水性領域とが隣接し、しかも撥水性領域が親水性領域により分断乃至分離し、また親水性領域が撥水性領域により分断乃至分離した状態となっていることを意味する。
【0013】
この実施形態においては、撥水性領域3は、基材2上の全面に渡って形成されて連続領域3を形成している。親水性領域4は、撥水性領域3の表面上に分散するように形成されて複数の第1分断部4’を形成している。この滑水性皮膜1を平面の上方すなわち滑水性皮膜1の上方から観察すると、連続領域3を形成する撥水性領域3は、複数の第1分断部4’によって分断されているので、この連続領域3’を複数の第2分断部3’と称することもある。
【0014】
複数の第1分断部4’は、平面から見て一方向に延在して成る長形状を有するのが好ましく、この実施形態においては所定の幅を有する帯状又は短冊形状をなし、この短冊形状の長軸が一方向に揃うように配列されている。複数の第1分断部4’は、所定間隔を有して離れるように撥水性領域3の表面上に重畳するように形成されており、平面を観察すると撥水性領域3上にストライプ状にパターニングされている。なお、親水性領域が基材上の全面に渡って形成されて連続領域を形成し、その表面上に撥水性領域が分散するように形成されて複数の第1分断部を形成しても良い。
【0015】
この実施形態の滑水性皮膜1は、水滴を滑水性皮膜1に滴下したときに、水滴が撥水性領域3と親水性領域4との両方に接触するように、撥水性領域3の表面上に親水性領域4が分散するように形成されている。すなわち滴下された水滴が撥水性領域3と親水性領域4との両方に接触するように、所定の大きさを有する複数の第1分断部4’が連続領域3上に所定間隔を有して離れて配列されている。
【0016】
滑水性皮膜1の表面に露出する複数の第1分断部4’それぞれの大きさは、滑水性が良好である限り特に限定されないが、この実施形態のように第1分断部4’の形状が帯状、換言すると短冊形状であるときには、短冊形状である個々の第1分断部4’の幅は、水滴の滑水性皮膜1に対する接触面の直径以下であるのが好ましい。例えば、水滴の滑水性皮膜1に接触する面の直径が1〜10mmであるとすると、短冊形状の個々の第1分断部4’の幅が0.1〜10mmであるのが好ましく、0.2〜5mmであるのが特に好ましい。
【0017】
第1分断部4’とそれに隣接する第1分断部4’との間隔、換言すると短冊形状をなす個々の第2分断部3’の幅は、滑水性が良好である限り特に限定されないが、水滴の滑水性皮膜1に対する接触面の直径以下であるのが好ましい。例えば、水滴の滑水性皮膜1に接触する面の直径が1〜10mmであるとすると、個々の第1分断部4’は、短冊形状である個々の第1分断部4’の長軸に直交する方向に0.1〜10mmの間隔で離れて配列されるのが好ましく、0.2〜5mmの間隔で離れて配列されるのが特に好ましい。
【0018】
第1分断部4’の幅及び第1分断部4’同士の間隔を前記範囲内にすると、水滴が親水性領域である第1分断部と撥水性領域である連続領域との両方に接触し易くなり、このような状態のとき滑水性に優れた滑水性皮膜を提供することができる。
【0019】
滑水性皮膜1における撥水性領域3と親水性領域4とが露出形成された面、換言すると、滴下された水滴が撥水性領域3と親水性領域4との両方に接触するように撥水性領域3と親水性領域4とがパターニングされて成る滑水性皮膜1の表面は、親水性である。この親水性の程度は水の接触角で評価することができ、滑水性皮膜1の水の接触角は、10°〜50°、特に20°〜40°であるのが好ましい。
【0020】
水の接触角は、図2に示されるように、室温で水平な試料台8の上に載置された滑水性皮膜1に2μLの水滴9を滴下して、水滴9における空気と滑水性皮膜1とに接する点から水滴の曲面に接線を引いたときのこの接線と滑水性皮膜1表面との角度αを接触角計を用いて測定することにより求めることができる。
【0021】
この発明の滑水性皮膜は、上記表面形状を有し、かつ表面の水の接触角が10°〜50°のとき、優れた滑水性を有し、その結果滑水性皮膜に付着した水滴を容易に除去することができる。滑水性皮膜の滑水性は、転落角により評価することができる。
【0022】
転落角は、転落角計を用いて測定することができる。図3に示されるように、室温で水平に調整した試料台5に滑水性皮膜1を載置して、この滑水性皮膜1に50μLの水滴6を滴下した後に、試料台を角速度2°/秒で傾けた際に、水滴6の上部7が動き始めたときの角度θが転落角である。この発明の滑水性皮膜の転落角は、10°〜30°という低転落角を示す。
【0023】
従来は、皮膜に対する接触角と転落角との関係は、高接触角すなわち撥水性を有する表面であれば、低転落角すなわち高滑水性を有するのが一般的であった。換言すると、よく水を弾く皮膜の表面は、よりよく水を滑落させるのである。これに対して、低接触角すなわち親水性を有する表面であると、高転落角すなわち低滑水性を有するのが一般的であった。換言すると、よく水が濡れる皮膜の表面は、水と表面との相互作用が大きく、つまり接着力が大きく、水が滑落し難いのである。
【0024】
これまでに知られている現象に反して、この発明の滑水性皮膜1は、低接触角すなわち親水性を有しつつ、低転落角すなわち高滑水性を示すという特長を有する。
【0025】
また、滑水性皮膜が、上記表面形状を有していると、転落角が小さくなる理由は、次のように推測される。すなわち、親水性領域と撥水性領域との両方の領域に接触している水滴は、親水性領域からは引力を、撥水性領域からは斥力を受ける。一方、滑水性皮膜を傾けることにより、水滴は傾斜面の下方向に向かって重力を受ける。また、水滴は表面張力により丸くなろうとする力が働く。滑水性皮膜が、水滴が親水性領域と撥水性領域との両方に接触するような表面形状を有していると、換言すると水滴が親水性領域と撥水性領域との両方に接触するように、親水性領域と撥水性領域とが表面に露出してパターニングされていると、これらの力のバランスが崩れ易くなり、水滴が容易に動き、さらに別の親水性領域と撥水性領域とに接触することで、さらに水滴が動き易くなっていくものと推測される。
【0026】
連続領域3の厚みは、基材の種類、適用対象物に応じて適宜決定することができるが、通常、0.01〜2μmであるのが好ましく、0.01〜0.5μmであるのが特に好ましい。個々の第1分断部4’の厚みは、0.01〜2μmであるのが好ましく、0.01〜0.5μmであるのが特に好ましい。連続領域3の厚みが前記範囲内であると、擦過によっても容易に地である基材表面が露出することがないという意味での耐久性に優れるとともに、水滴がより滑りやすいので好ましい。個々の第1分断部4’の厚みが前記範囲内にあると、水滴が連続領域と個々の第1分断部4’との両方に接触し易くなる。水滴が個々の第1分断部4’と連続領域3との両方の領域に接触するように、第1分断部4’と連続領域3とが形成されていると、滑水性に優れた滑水性皮膜を提供することができる。
【0027】
撥水性領域は、撥水性を有する領域であり、撥水性は水をはじく性質をいう。この撥水性の程度は水の接触角で評価することができ、撥水性領域の水の接触角は70°〜150°であるのが好ましい。
【0028】
親水性領域は、親水性を有する領域であり、親水性は水との親和性がある性質をいう。この親水性の程度は水の接触角で評価することができ、親水性領域の水の接触角は0°〜50°であるのが好ましい。
【0029】
撥水性領域の水の接触角と親水性領域の水の接触角との差は、10°以上であるのが好ましく、20°以上であるのが特に好ましい。
【0030】
水の接触角の値が大きいほど撥水性が大きいことを示し、小さいほど親水性が大きいことを示す。撥水性領域と親水性領域とのそれぞれの水の接触角が上記範囲内であると、滑水性に優れた滑水性皮膜を提供することができる。
【0031】
撥水性領域を形成する材料は、撥水性を有する材料である限り特に限定されず、例えば、ハフニア、ジルコニア、イットリア等の無機酸化物、フッ素を含む有機化合物、疎水性高分子化合物、疎水性官能基を有するシリコン化合物及び前記化合物の少なくとも2つ以上を含有する化合物等を挙げることができる。
【0032】
この発明においては撥水性領域を、ハフニア、ジルコニア及び/又はイットリアから成る群より選ばれる少なくとも1つの硬質膜で形成することができる。
【0033】
ハフニア、ジルコニア及び/又はイットリアの硬質膜は、ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルから形成された薄膜を硬化させて成る。
【0034】
前記ハフニアゾルは、Hfイオンを含み、Hf−O−Hfの構造を持つ無機ポリマーであり、その中に有機物を含んでも良い。前記ジルコニアゾルは、Zrイオンを含み、Zr−O−Zrの構造を持つ無機ポリマーであり、その中に有機物を含んでも良い。前記イットリアゾルは、Yイオンを含み、Y−O−Yの構造を持つ無機ポリマーであり、その中に有機物を含んでも良い。
【0035】
前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及びイットリアゾルは、まず、ハフニウムアルコキシド、ハフニウム塩等のハフニウム化合物、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウム塩等のジルコニウム化合物及びイットリウムアルコキシド、イットリウム塩等のイットリウム化合物を、アルコール等の溶媒に溶解して溶液とする。次いで水を添加して必要なら加熱することにより、ゾルを調製する。このとき、ゾル化反応を促進するために酸又は塩基を加えることが好ましい。ゾルのもう1つの好ましい調製法は、前記溶液にアンモニア水又はアミン類(このアミン類は、水、アルコール等、アミン類を溶解する溶媒に溶解した溶液であっても良い。)を加えて、水酸化物の沈殿を生成させる。このとき、必要により、加熱しても良い。続いて、生成した沈殿をろ別する。ろ別された沈殿は水又はアルコールで洗浄することが好ましい。このようにして得た沈殿に水、アルコール等の溶媒を加え、無機酸又は有機酸を添加し、必要により加熱して調製することができる。
【0036】
前記ハフニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド及びイットリウムアルコキシドに特に制限はないが、炭素数5以下のアルコキシド、具体的には、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ペントキシドが好ましい。また、前記ハフニウム塩、ジルコニウム塩及びイットリウム塩としては、ハロゲン化物塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等を挙げることができ、好適な塩はハロゲン化物塩である。
【0037】
前記ハフニウムハロゲン化物塩としては、四塩化ハフニウム、四フッ化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウムを挙げることができる。中でも、四塩化ハフニウムが好ましい。前記ジルコニウムハロゲン化物塩としては、四塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物等、ハフニウムハロゲン化物に準じたハロゲン化物塩を挙げることができる。前記イットリウムハロゲン化物塩としては、三塩化イットリウム、三フッ化イットリウム、三臭化イットリウム、三ヨウ化イットリウム等を挙げることができる。
【0038】
前記溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、ビニルアルコール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン等のケトン、アミン、アミド等を挙げることができ、好ましく用いられる溶媒は、水又はアルコールである。
【0039】
前記酸としては、無機酸として、塩酸、硝酸及び硫酸等を挙げることができ、好適な無機酸は、硝酸及び硫酸である。また、有機酸としては、炭素数3以下の有機酸が好ましく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸等を挙げることができる。中でも、ギ酸、シュウ酸及びマロン酸が特に好ましい。
【0040】
また、前記アミン類としては、第1級アミン類、第2級アミン類、第3級アミン類等を挙げることができる。第1級アミン類として、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン等を、第2級アミン類としては、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ(2−プロペニル)アミン、ジ(2−メチル−2−プロペニル)アミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミンタクリレート)等を、第3級アミン類としては、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジメチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジエチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジエチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジメチル−3−プロペロイロキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−プロペロイロキシプロピルアミンN,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン等を挙げることができる。
【0041】
さらに、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアリールアンモニウム、水酸化テトラアリールアンモニウム等の第4級アンモニウム化合物をも使用することができる。また、アミン類としては、前記第1級アミン類〜第3級アミン類の塩類をも使用することができる。このようなアミン類は、そのまま使用してもよく、アミン類を含有した水溶液として使用してもよい。
【0042】
前記ハフニウムアルコキシド溶液、ジルコニウムアルコキシド溶液、イットリウムアルコキシド溶液、ハフニウム塩溶液、ジルコニウム塩溶液及びイットリウム塩溶液の濃度には、特別な限定はないが、通常は、質量基準で1〜70%、好ましくは、1〜50%である。1%未満では、生成する水酸化物が微粒子となって濾過が困難となり、70%を超えると、水酸化物の凝集が顕著となって、濾過が困難となることがある。
【0043】
前記ハフニウムアルコキシド溶液、ジルコニウムアルコキシド溶液及びイットリウムアルコキシド溶液は、前記アルコキシドと前記溶媒とを混合することにより、また、前記ハフニウム塩溶液、ジルコニウム塩溶液及びイットリウム塩溶液は、前記塩と前記溶媒とを混合することにより、容易に調製することができる。続いて、これら溶液にアンモニア水、アミン類又は水とアミン類との溶液を添加してハフニウム、ジルコニウム及び/又はイットリウムの水酸化物を得る。アンモニア水は、そのアンモニアの好適な濃度が、通常は1〜29質量%である。水とアミン類との溶液を調製するときの条件についても制限はないが、通常は、0〜100℃、好ましくは、10〜50℃で、攪拌、混合して調製される。アミン類の溶液におけるアミン類の濃度は任意である。
【0044】
このようにして得られたハフニウム、ジルコニウム及び/又はイットリウムの水酸化物を濾別し、この水酸化物と水及び/又はアルコール並びに無機酸及び/又は有機酸とを混合することによって、ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルが形成される。この場合、これらの混合順序には特別な制限はない。例えば、前記水酸化物と水及び/又はアルコール並びに無機酸及び/又は有機酸とを一挙に混合してもよく、前記水酸化物と水及び/又はアルコールとを混合し、次いで、無機酸及び/又は有機酸を混合してもよい。また、前記水酸化物と無機酸及び/又は有機酸とを混合し、次いで、水及び/又はアルコールを混合してもよい。
【0045】
前記水酸化物と混合する水及び/又はアルコール並びに無機酸及び/又は有機酸の量は、この水酸化物を解膠するに足る量であればよく、前記水酸化物に対し、通常は、質量基準で1〜100倍、好ましくは、1〜50倍である。1倍未満では、ハフニウムイオン、ジルコニウムイオン及び/又はイットリウムイオンの濃度が高くなって、解膠が困難となり、100倍を超えると、ゾル中のハフニウムイオン、ジルコニウムイオン及び/又はイットリウムイオンの濃度が低くなり好ましくない。
【0046】
ここにおいて用いられるアルコールには特に制限はないが、炭素数5以下のアルコールが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2−プロパノール、n-ブタノール、2−メチルプロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール等を挙げることができる。
【0047】
水及び/又はアルコール並びに無機酸及び/又は有機酸における配合割合に特別の制限はなく、全量を100質量部としたとき、無機酸及び/又は有機酸を、通常は、0.1〜50質量部、好ましくは、0.1〜20質量部とする。
【0048】
前記配合割合が0.1質量部未満では、水酸化物が解膠しないことがあり、50質量部を超えると、用いる無機酸及び/又は有機酸により、金属表面が損傷することがあるので好ましくない。また、多量の無機酸及び/又は有機酸を用いると、塗布時、それら酸の蒸発によって、環境に悪影響を与えることもあるので好ましくない。
【0049】
このようにして、ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルが調製されるが、場合によっては、前記水酸化物と水及び/又はアルコール並びに無機酸及び/又は有機酸とを混合するに先立ち、前記水酸化物を水又はアルコールにより洗浄することが好ましい。
【0050】
この洗浄に用いるアルコールとしては、炭素数5以下のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2−プロパノール、n-ブタノール、2−メチルプロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール等を挙げることができる。この洗浄は、前記水酸化物のpHを調整すると共に、水酸化物に付着又は含有した夾雑物や不純物を除去するためである。
【0051】
この発明に係る滑水性皮膜が形成される基材がガラス、金属、セラミック及びプラスチック等であるならば滑水性皮膜と基材との密着性を向上させるために前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルにシランカップリング剤を含めておくのが好ましい。又は、基材表面をシランカップリング剤で処理しておくことが好ましい。
【0052】
前記シランカップリング剤としては、官能基を有するシラン化合物を挙げることができ、前記官能基としては、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、メタクリロキシル基、アルコキシル基、グリシジル基、ビニル基等を挙げることができる。
【0053】
このようなシランカップリング剤の中でも、一般式、RlmSiR2n(式中、Rはアルキル基を、Xはアルコキシ基又はハロゲン化物イオンを、R2は有機官能基を有するアルキル基を示し、l、m及びnはそれぞれ0、1、2、3又は4であり、l+m+nは4である。)で表されるシリコン化合物が好ましい。Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。R2で示されるアルキル基に結合する有機官能基としては、−Y−Z(ただし、Yは単結合、又は炭素数が1〜3のアルキレン結合を示し、Zはビニル基、エポキシ基、グリシジル基、−X(CH)=CH、−NH、−CHCl、−SH、グリシジルオキシ基、1−メチルビニルカルボオキシ基、2−アミノ−エチルアミノ基、3、4−エポキシシクロヘキシル基等である。)で示される基を挙げることができ、特にビニル基、エポキシ基、グリシジル基、1−メチルビニル基、アミノ基、クロロメチル基、メルカプト基、グリシジルオキシプロピル基、1−メチル−ビニルカルボオキシプロピル基、2−アミノ−エチルアミノプロピル基等を好適例として挙げることができる。このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピル−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−トリヒドロキシシリルメチルホスホネートナトリウム塩、ニトクロトリス(メチレン)トリホスホン酸、トリス(トリメチルシリル)ホスフエート、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト、ジエチルホスフエートエチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0054】
撥水性領域を形成することのできる前記硬質膜は、ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを基材の表面に塗布した後、前記基材の表面に塗布されたハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを乾燥してハフニアゲル膜、ジルコニアゲル膜及び/又はイットリアゲル膜とし、これを硬化処理することにより、形成することができる。
【0055】
基材の表面に前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを塗布する方法としては、例えば、前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾル中に基材を浸漬し、これをゆっくりと引き上げるディップ法、固定された基材表面上に前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを流延する流延法、前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルの貯留された槽の一端からゾル組成物に基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上に前記ハフニアゾルジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを滴下し、基材に作用する遠心力によって前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを基材上に流延するスピンナー法、基材の表面に前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを吹き付けるスプレー法及びフローコート法等を挙げることができる。
【0056】
続いて、前記基材の表面に塗布された前記ハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを乾燥することにより得られたハフニアゲル膜、ジルコニアゲル膜及び/又はイットリア膜を硬化する硬化処理は、電磁波照射、好ましくは紫外線照射による硬化処理であってもよく、加熱による硬化処理であってもよい。紫外線照射による硬化処理に際して、照射する紫外線の光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザー等を使用することができる。これらを使用することにより、紫外線を廉価に照射することができる。照射時間は、1分〜1時間である。
【0057】
基材の表面に塗布及び乾燥された前記ハフニアゲル膜、ジルコニアゲル膜及び/又はイットリアゲル膜を加熱処理によって硬化する場合、その加熱処理条件は、通常は、50〜1000℃、好ましくは、50〜600℃、1分〜5時間、好ましくは、10分〜2時間である。加熱手段に制限はなく、電気炉を用いる手段、熱風を吹き付ける手段、加熱気体内に据置する手段等が採用される。前記硬化処理は、紫外線照射処理と加熱処理とを組み合わせて行ってもよい。このときの処理工程の順序は任意である。
【0058】
親水性領域を形成する材料は、親水性を有する材料である限り特に限定されず、例えば、親水性高分子化合物、チタニア、アルミナ、シリカ及び前記化合物の少なくとも2つ以上を含有する化合物等を挙げることができる。
【0059】
親水性高分子化合物は、水酸基、カルボキシル基等の親水性基を有する高分子化合物、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリアクリル酸等の高分子化合物を挙げることができる。
【0060】
この発明においては親水性領域を、チタニア、アルミナ及びシリカから成る群より選ばれる少なくとも1つの硬質膜で形成することができる。
【0061】
チタニア、アルミナ及び/又はシリカの硬質膜は、チタニアゾル、アルミナゾル及び/又はシリカゾルから形成された薄膜を硬化させて成る。
【0062】
チタニアゾル、アルミナゾル及びシリカゾルは、例えば、チタン化合物、アルミニウム化合物及びケイ素化合物を加水分解することによって調製することができる。この加水分解は、チタン化合物等を溶媒に溶解し、得られる溶液を一定の条件下で処理することにより行うことができる。
【0063】
前記チタニアゾル、アルミナゾル、シリカゾルを調製するための原料であるチタン化合物、アルミニウム化合物及びケイ素化合物としては、水または水性有機溶媒等の溶媒中でゾルを形成することのできるゾル形成性チタン化合物、アルミニウム化合物及びケイ素化合物を挙げることができる。
【0064】
チタン化合物、アルミニウム化合物及びケイ素化合物としては、チタン、アルミニウム、ケイ素の有機酸塩、アルコキシド及び無機酸塩が好ましく、特にチタン、アルミニウム、ケイ素のモノカルボン酸塩及びTi(OR)4、Al(OR)、Si(OR)4(Rは、炭素数が1〜10、好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基である。)が好ましい。
【0065】
前記チタニアゾル、アルミナゾル及び/又はシリカゾルは前記原料を溶媒に加え、水を添加することにより加水分解させて形成することができる。加水分解の際に酸または塩基を触媒として存在させてもよい。
【0066】
前記チタニアゾルの原料に加える溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びグリコールエーテル系溶媒を挙げることができる。
【0067】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2―メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、及びシクロヘキサノール等の1価アルコール類、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、及び1,4−ブタンジオール等の2価アルコール類を挙げることができる。
【0068】
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、ホロン、イソホロン、及びシクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0069】
そして、グリコールエーテル系溶媒としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブ、ヘキシルセロソルブ、及びフェニルセロソルブ等を挙げることができる。
【0070】
前記原料を水と反応させる際に、触媒として用いることのできる酸としては、無機酸及び有機酸を挙げることができる。無機酸としては、例えば塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸、硝酸、及び硫酸等を挙げることができる。有機酸としては、例えば低級のモノカルボン酸を挙げることができ、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸、及びイソ酪酸等を挙げることができる。
【0071】
触媒に用いることのできる塩基としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム等の苛性アルカリ類、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミン等のアミン類、第四級アンモニウム化合物及びエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチル−N−エタノールアミン等のアルカノールアミン類を挙げることができる。
【0072】
チタニアゾル、アルミナゾル及び/又はシリカゾルは、前記原料と溶媒と酸又は塩基との混合物を、通常、室温〜100℃、好ましくは40〜100℃に、通常0.1〜50時間、好ましくは0.1〜10時間、特に好ましくは0.5〜4時間加熱することにより、形成することができる。
【0073】
上記のようにして形成されたチタニアゾル、アルミナゾル及び/又はシリカゾルを、上記のように形成された撥水性領域を形成することのできる、ハフニア、ジルコニア及び/又はイットリアの硬質膜の表面に、例えばストライプ状になるように塗布し、乾燥することにより短冊形状の複数の第1分断部を形成する、チタニアゲル膜、アルミナゲル膜及び/又はシリカゲル膜が形成される。
【0074】
次いで、ハフニア、ジルコニア及び/又はイットリアの硬質膜の表面に形成されたチタニアゲル膜、アルミナゲル膜及び/又はシリカゲル膜が硬化処理されて硬質膜が形成される。硬化処理は、前述したハフニアゲル膜、ジルコニアゲル膜及び/又イットリアゲル膜を硬化する硬化処理と同様の方法により行なわれ、具体的には電磁波照射、紫外線照射、加熱による硬化処理及びこれらを組み合わせた硬化処理により硬質膜が形成される。
【0075】
加熱により硬化処理する場合には、50〜1000℃、特に50〜600℃の範囲内でこのチタニアゲル膜、アルミナゲル膜及び/又はシリカゲル膜を焼成するのが好ましい。焼成雰囲気は、通常の空気雰囲気であればよく、窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気等を選択することもできる。
【0076】
なお、複数の第1分断部を形成する方法として、印刷法例えば凸版印刷、グラビヤ印刷等の凹版印刷及びスクリーン印刷等の孔版印刷等の手法を採用することもできる。
【0077】
以上において、この発明の一例である滑水性皮膜について説明したが、この発明に係る滑水性皮膜は、図1に示されるように、連続領域3の上に複数の第1分断部4’を重畳させるようにして形成されていてもよく、また、以下のように形成することにより、連続領域の上表面と第1分断部の上表面とが実質的に同一平面となるように、或いは、撥水性領域と親水性領域との両方が基材の表面上に結合されるように、形成されていても良い。
【0078】
すなわち、基材表面に、第2分断部の形状に相当する大きさの複数の開口部を有するマスク板を重ね、次いで第2分断部を形成することのできる、例えばハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルを前記マスク板上に塗布する。そうすると、前記マスク板における複数の開口部にハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルが満たされる。開口部以外のマスク板表面にはハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルが残らないようにする。次いで前記マスク板における開口部に充填されているハフニアゾル、ジルコニアゾル及び/又はイットリアゾルをゲル化し、硬化させる。その後に、マスク板を除去し、形成されたハフニア、ジルコニア及び/又はイットリアの硬質膜の間隙にマスク板を用いて、例えばチタニアゾル、アルミナゾル及び/又はシリカゾルを流延し、ゲル化し、硬化させることにより親水性領域である第1分断部が形成される。
【0079】
次に、この発明に係る滑水性皮膜の他の実施例である滑水性皮膜について説明する。図4(a)は、この発明に係る滑水性皮膜の他の実施例である滑水性皮膜の正面図である。図4(b)は、図4(a)におけるY−Y’で切断したときの滑水性皮膜の断面図である。この実施の形態における滑水性皮膜10は、連続領域11が親水性領域であり、複数の第1分断部12’が撥水性領域であり、矩形を有する個々の第1分断部12’は、直交する2方向に、それぞれ所定間隔離れて連続領域11上に配置されている。すなわち第1分断部12’が連続領域11内に行列状に配置されていること、及び平面から見ると撥水性領域が親水性領域により分断されており、親水性領域が連続していて分断されていない状態となっていること以外は図1に示された滑水性皮膜1と同様である。
【0080】
図4に示される実施形態の滑水性皮膜10は、第1分断部12’の大きさ、形状及び第1分断部12’の配置間隔が同一であるが、これらのパターン形状は滑水性が良好である限り特に限定されず、水滴をこの滑水性皮膜10に滴下したときに、撥水性領域12と親水性領域11との両方に接触するようなパターン形状を有していれば良い。例えば、水滴の滑水性皮膜に接触する面の直径が1〜10mmであるとすると、この実施形態の滑水性皮膜10の第1分断部12’における矩形の一辺が0.1〜10mm、特に0.2〜5mmであるのが好ましく、それぞれの第1分断部12’が最短距離で0.1〜10mm、特に0.2〜5mmの間隔で離れて連続領域に分散するように配置され、滑水性皮膜の表面に露出されているようにパターニングされているのが好ましい。
【0081】
また、図4に示される実施形態の滑水性皮膜10は、連続領域11が親水性領域であり、第1分断部12’が撥水性領域であるが、連続領域11が撥水性領域であり、第1分断部12’が親水性領域であっても良い。
【0082】
図4に示されるパターンを有する滑水性皮膜10は、図1に示される滑水性皮膜1と同様の方法により、基材13表面に連続領域11を形成し、次いで複数の第1分断部12を形成することにより得ることができる。
【0083】
このように、滑水性に優れた滑水性皮膜を、各種の建物、設備、装置、機械器具、例えば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡などの表面に形成することによって、その機能を存分に果たすこととなる。
【0084】
この発明に係る滑水性皮膜は、前記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の課題を達成することができる限り種々の変更が可能である。
【0085】
例えば、図1に示される滑水性皮膜1の例においては、連続領域3上に短冊形状をなす複数の第1分断部4’が、この短冊形状の長軸に直交する方向にそれぞれ離れて配列されているが、図5(a)に示されるように第1分断部4aがジグザグ形状を有していても良いし、図5(b)に示されるように玉鎖形状を有していても良い。また、図5(c)に示されるように先細り形状の複数の第1分断部4cが放射状に配置されていても良い。また、連続領域上に渦巻き模様、市松模様といった連続する模様をなす第1分断部が形成されていても良い。
【0086】
図4に示される滑水性皮膜の例においては、連続領域11上に矩形をなす複数の第1分断部12’が分散するように形成されているが、第1分断部の平面形状は、滑水性が良好である限り特に限定されず、円形、楕円形、多角形、線状形等の種々の形状を採ることができる。また、個々の第1分断部の大きさ及び配置間隔は、滑水性皮膜の滑水性が良好である限り特に限定されず、それぞれ異なる大きさ及び配置間隔を有していても良い。
【0087】
また、複数の第1分断部は、連続領域上に突出するように形成されていても良いし、連続領域の上表面と第1分断部の上表面とが実質的に同一表面となるように、形成されていても良い。
【0088】
図1及び4に示される滑水性皮膜の例においては、連続領域上に第1分断部が重畳するように形成されているが、断面から観察した場合に、連続領域を形成せずに撥水性領域と親水性領域との両方が分断されて、撥水性領域と親水性領域との両方が基材に直接に接触するように形成されていても良い。
【0089】
また、図1及び4に示される滑水性皮膜の例においては、X−X’及びY−Y’で切断したときの第1分断部4、12の断面形状は矩形であるが、滑水性が良好である限り特に限定されず、例えば半円状に形成されていても良い。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
(ハフニアゾルの製造)
窒素雰囲気下で四塩化ハフニウム 5.44gを99.5%エタノール(COH) 41mLに溶解した。この溶液に水 3.06g、98%ギ酸液(HCOOH) 7.18g、60%硝酸(HNO) 1.79gを添加した。この混合溶液を、50±3℃で4時間、加熱撹拌して、ハフニアゾルを得た。
【0091】
(チタニアゾルの製造)
チタニウムテトライソプロポキシド 13.3gに水 50.0g及び35%塩酸(HCl) 2.0gを加え、60℃で1時間、加熱撹拌して、チタニアゾルを得た。
【0092】
(シリカゾルの製造)
テトラエトキシシラン 12.9gを99.5%エタノール(COH) 110mLに加えた。この溶液に水 2.26gと60%硝酸(HNO) 1.25mLとの混合溶液を加えて、室温で3日放置して、シリカゾルを得た。
(パターニング膜Aの製造)
50mm×50mm角の無アルカリガラス(AF−45 ショット社製)を中性洗剤で洗浄後、純水でリンスし、エアガンで水滴を除去して乾燥させて、基材を用意した。この基材表面にハフニアゾルを、塗布バー(ROD No.3)を用いて塗布し、ハフニアゲル膜を得た。このハフニアゲル膜を有する無アルカリガラスを電気炉で550℃、30分焼成して膜厚90nmのハフニア膜を得た。
【0093】
次いで、得られたハフニア膜上に帯(短冊形状)の幅及び配置間隔がそれぞれ500μmのストライプパターンを形成したメタルマスクを装着して、スクリーン印刷機(TU−2030−B型 セリテック社製)を用いてチタニアゾルを塗布した。この試料を電気炉で550℃、30分焼成して、ハフニア膜上に膜厚80nm、帯の幅及び配置間隔がそれぞれ500μmのチタニアのストライプパターンが形成されたチタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Aを得た(図1参照。)。
【0094】
なお、「チタニア/ハフニア」という記載は、上層がチタニア膜で下層がハフニア膜から形成されてなるパターンニング膜であることを示す。
(パターニング膜Bの製造)
帯の幅及び間隔がそれぞれ1mmのストライプパターンとした以外はパターニング膜Aと同様の方法で、チタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Bを得た。
(パターニング膜Cの製造)
帯の幅及び間隔がそれぞれ1.5mmのストライプパターンとした以外はパターニング膜Aと同様の方法で、チタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Cを得た。
(パターニング膜Dの製造)
帯の幅及び間隔がそれぞれ2.0mmのストライプパターンとした以外はパターニング膜Aと同様の方法で、チタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Dを得た。
(パターニング膜Eの製造)
ストライプパターンを矩形パターンにして、矩形の縦、横及び間隔をそれぞれ500μmとした以外はパターニング膜Aと同様の方法で、チタニア/ハフニア矩形パターンニング膜Eを得た(図4参照。)。
(パターニング膜Fの製造)
矩形の縦、横及び間隔がそれぞれ1mmの矩形パターンとした以外はパターニング膜Eと同様の方法で、チタニア/ハフニア矩形パターンニング膜Fを得た。
(パターニング膜Gの製造)
矩形の縦、横及び間隔がそれぞれ2mmの矩形パターンとした以外はパターニング膜Eと同様の方法で、チタニア/ハフニア矩形パターンニング膜Gを得た。
(パターニング膜Hの製造)
下層をチタニア膜とし、上層をハフニア膜とした以外はパターニング膜Dと同様の方法で、ハフニア/チタニアストライプパターンニング膜Hを得た。
(パターニング膜Iの製造)
チタニアゾルをシリカゾルに変えてシリカ膜を形成した以外はパターニング膜Bと同様の方法で、シリカ/ハフニアストライプパターンニング膜Iを得た。
(パターニング膜Jの製造)
ハフニアゲル膜及びチタニアゲル膜を焼成することによりハフニア膜及びチタニア膜を形成する焼成処理に代えて、以下のように紫外線照射処理としたこと以外はパターニング膜Aと同様の方法で、チタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Jを得た。
【0095】
50mm×50mm角の無アルカリガラス(AF−45 ショット社製)を中性洗剤で洗浄後、純水でリンスし、エアガンで水滴を除去して乾燥させて、基材を用意した。この基材表面にハフニアゾルを、塗布バー(ROD No.3)を用いて塗布し、ハフニアゲル膜を得た。得られたハフニアゲル膜を高圧水銀灯(H1000L、東芝ライテック(株)製)を用いて紫外線(UV)照射(10分)して、膜厚90nmのハフニア膜を得た。
【0096】
次いで、得られたハフニア膜上に、帯の幅及び間隔がそれぞれ500μmのストライプパターンを形成したメタルマスクを装着して、スクリーン印刷機(TU−2030−B型 セリテック社製)を用いてチタニアゾルを塗布した。この試料を高圧水銀灯(H1000L、東芝ライテック(株)製)を用いて紫外線(UV)照射(10分)して、ハフニア膜上に膜厚80nm、ストライプの幅及び間隔がそれぞれ500μmのチタニアのストライプパターンが形成されたチタニア/ハフニアストライプパターンニング膜を得た。
(パターニング膜Kの製造)
帯の幅及び間隔がそれぞれ2.0mmのストライプパターンとした以外はパターニング膜Jと同様の方法で、チタニア/ハフニアストライプパターンニング膜Kを得た。
(評価方法)
上記の通りに製造されたパターニング膜A〜Kについて、以下のように接触角及び転落角の測定を行い、撥水性及び滑水性の評価をした。結果を表1に示す。
<接触角>
室温で水滴2μLをパターンニング膜A〜K上に滴下して、接触角計CA−D(協和界面化学株式会社製)を用いて、パターンニング膜A〜Kの表面と水滴との接触角を測定した。
<転落角>
パターンニング膜A〜Kの転落角は、転落角計を用いて測定した。水平に調整した試料台にパターンニング膜A〜Kを載せ、このパターンニング膜A〜K上に、室温で水滴50μLを滴下した後、ステッピングモータコントローラにより転落角計の角度を角速度2°/1秒で上昇させ、水滴の最上部が動いたときの角度θを転落角とした。
【0097】
なお、表1において、ストライプパターンニング膜については、水滴の滑り落ちる方向を、パターンの長手方向と一致させて測定したものを転落角(長手)と表記し、パターンの垂直方向としたものを転落角(垂直)と表記した。
【0098】
【表1】

【0099】
実施例1〜19の滑水性皮膜の接触角は、いずれも32〜39°という低い値であり、親水性を示している。一方、転落角は、13〜27°という低い値を示し、高滑水性を示している。
【符号の説明】
【0100】
1、10 滑水性皮膜
2、13 基材
3 連続領域、撥水性領域
3’ 第2分断部
4 親水性領域
4’ 第1分断部
5、8 試料台
6、9 水滴
7 上部
11 連続領域、親水性領域
12 撥水性領域
12’ 第1分断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性を有する撥水性領域と親水性を有する親水性領域とが露出形成され、水滴が前記撥水性領域と前記親水性領域との両方に接触するように、平面から見て前記撥水性領域と前記親水性領域との少なくとも一方の領域が分断されて成り、前記撥水性領域と前記親水性領域とが露出形成された面の水の接触角が10°〜50°であることを特徴とする滑水性皮膜。
【請求項2】
前記撥水性領域と前記親水性領域との両方が互いに分断されて、前記撥水性領域と前記親水性領域とのいずれか一方の領域が複数の第1分断部を形成し、他方の領域が複数の第2分断部を形成することを特徴とする請求項1に記載の滑水性皮膜。
【請求項3】
前記第1分断部と前記第2分断部とは、平面から見て一方向に延在して成る長形状を有し、この長形状の長軸が一方向に揃うように互いに隣接して前記長軸に直交する方向に交互に配列されて成ることを特徴とする請求項2に記載の滑水性皮膜。
【請求項4】
前記長形状である、前記第1分断部と前記第2分断部との幅が、100μm〜10mmであることを特徴とする請求項3に記載の滑水性皮膜。
【請求項5】
前記撥水性領域が連続領域を形成し、この連続領域上に前記親水性領域が配列されて成るか、或いは前記親水性領域が連続領域を形成し、この連続領域上に前記撥水性領域が配列されて成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の滑水性皮膜。
【請求項6】
前記撥水性領域と前記親水性領域との両方が、平面に直交する方向から見て、平面を横切るように互いに分断されて成り、分断されたそれぞれの領域が互いに隣接して平面方向に交互に配列されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の滑水性皮膜。
【請求項7】
前記撥水性領域がハフニア、ジルコニア及びイットリアから成る群より選ばれる少なくとも1つを含有し、前記親水性領域がチタニア、アルミナ及びシリカから成る群より選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の滑水性皮膜。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか一項に記載された滑水性皮膜とその滑水性皮膜を表面に備えてなる基材とを有することを特徴とする表面滑水性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−57528(P2011−57528A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211909(P2009−211909)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】