説明

滑油性部材

【課題】油の流動性を向上させることができる滑油性部材であり、該滑油性部材でレンジフードを形成した場合は、滑油性部材の表面に付着した油が留まることなく流動することができ、油の回収率を向上し、特に、傾斜の低いキャッチパネルを用いたレンジフードであっても油の回収性を低下させないようにすることができるものである滑油性部材を提供する。
【解決手段】オレイン酸に対する滑油角が20°以下である被膜1を基材2の表面に設けてなることを特徴とする滑油性部材であり、被膜が、ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂、及びアミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物から形成されて成ることを特徴とする滑油性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンジフードなどに適用される滑油性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンジフードは、キッチンの中で最も油汚れが蓄積するものでお手入れが大変な機材である。レンジフードとしては、従来から油分をキャッチするフィルター、吸い込みの能力を備えたファンから構成されているものがあり、近年ではお手入れ性を向上したフィルターを使わないフィルターレスの構造のものが市場に投入されてきている。フィルタータイプのものは、図3(a)(b)に示すように、ファン11の回転により油の蒸気をフィルター10に通過させてその網目に油をキャッチし、付着した油を回収するものである。また、フィルターレスタイプのものは、図4(a)(b)に示すように、整流板20やキャッチパネル21及びファン22等に付着した油を結露させ、オイルキャッチ(回収口)23で油を回収し、定期的に除去していくものである。近年メンテナンスの手間からフィルターレスタイプのレンジフードが増加している。
【0003】
フィルターレスタイプのレンジフードは、上記に示すように整流板20上に設置されているキャッチパネル21に付着した油を結露させ、油の流動性をもって回収する仕組みが一般的である。また、キャッチパネル21がなくファン22に付着した油を遠心力によって吹き飛ばし、回収する仕組みもある。ここで、キャッチパネル21、ファン22、その周辺の部材に付着した油は、オイルキャッチ23に到達するまで流動性をもつことが重要であり、オイルキャッチ23に到達するまでの途中で油が蓄積したままで周囲に付着したまま放置されると、その油は空気中の酸素などによって酸化重合反応し、徐々に粘性があがり逆にお手入れがしにくくなるといった悪影響を与えてしまう。よって、キャッチパネル21、ファン22、その周辺の部材に付着した油をは、オイルキャッチ23に到達するまで流動させて効率よく回収し、洗浄できるシステムの開発が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、傾斜面をつけたり回収口の配置を代えることで、レンジフードの回収率を向上したものが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のものには、表面に滑油性を保持するものを設置して回収率を向上させるようなものではない。また、散水設備でフィルターの清掃の手間を低減するようなものも提案されているが(特許文献2、3参照)、散水設備を設けることでレンジフードが複雑化するおそれがある。
【0005】
これらの従来技術に示されるように、レンジフード内部の機構や洗浄装置などのシステムによって回収率や洗浄性を高める提案例はあるものの滑油性表面材料によって回収性や清掃性を高めるものはない。このようなオイルキャッチに回収するレンジフードを形成するための部材に最適な表面設計としては、表面に付着した油が流動性をもつ、いわゆる小さな傾斜角でも油が転がりやすい低滑油表面材料が望まれている。尚、特許文献4では、撥水・撥油性に優れたフッ素樹脂がレンジフードなどの幅広い基材に適用できることが提案されてあるが、油の滑り性について言及したものではない。
【特許文献1】特開2001−133003号公報
【特許文献2】特開2007−163009号公報
【特許文献3】特開2007−162979号公報
【特許文献4】特開平9−72256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、油の流動性を向上させることができる滑油性部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の滑油性部材は、オレイン酸に対する滑油角が20°以下である被膜1を基材2の表面に設けて成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2に記載の滑油性部材は、請求項1において、前記被膜1上のオレイン酸の前進角と後退角の差が0〜10°であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3に記載の滑油性部材は、請求項1又は2において、前記被膜1が、ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂、及びアミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物から形成されて成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に記載の滑油性部材は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記被膜1が、Tgが40〜100℃で、水酸基を含有するアクリル樹脂を含有して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、油の主成分であるオレイン酸に対する滑油角が20°以下である被膜を有するため、表面に付着した油の流動性を高めることができるものである。従って、本発明での滑油性部材でレンジフードを形成した場合は、滑油性部材の表面に付着した油が留まることなく流動することができ、油の回収率を向上させることができるものである。特に、傾斜の低いキャッチパネルを用いたレンジフードであっても油の回収性を低下させないようにすることができるものである。
【0012】
請求項2の発明では、被膜上のオレイン酸の前進角と後退角との差が0〜10°であるので、表面に付着した油の流動性を高めることができるものである。
【0013】
請求項3の発明では、ジメチルシリコン基により被膜の撥油性を高めることができ、表面に付着した油の流動性を高めることができるものである。また、アミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物を含有するので、被膜の硬化性を高めることができるものである。
【0014】
請求項4の発明では、アクリル樹脂により被膜の耐汚染性を向上させることができるものである。また、アクリル樹脂のTgが100℃以下であるので、被膜が脆くならないようにすることができ、被膜の劣化を抑えることができるものである。また、アクリル樹脂のTgが40℃以上であると、塗膜の表面硬度は高くなり、磨耗性が向上し、傷などに対する耐性も向上し、また、傷が入りにくくなることでその隙間に汚れが蓄積しにくくなることで汚染性が向上する。また、Tgの低い樹脂と組み合わせた場合と比較して高い樹脂を補助マトリックスとして使用することでフッ素樹脂中のシリコン基が表面で固定化され、より油のすべり性が向上し、油の蓄積が少なくなることで耐汚染性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
本発明の滑油性部材は、オレイン酸に対する滑油角が20°以下である被膜1を基材2の表面に設けて形成されるものである。ここで、滑油角とは、図1に示すように、転落角αのことであり、被膜1上のオレイン酸の液滴(油玉)Oが転落を始める傾斜角度である。この転落角αが小さいほど、滑油性は良好となる。従って、オレイン酸に対する滑油角が20°より大きい場合は油の流動性が低下して滑油性が低くなり、レンジフード等に用いた場合は付着した油が滞留して回収率が低くなるおそれがある。
【0017】
また、上記のように転落角αを小さくし、被膜1の表面が高い滑油性を示すためには、被膜1の表面に対する被膜1上のオレイン酸の液滴Oの前進・後退角の差が0〜10°の範囲内であることが好ましい。一般に傾斜する斜面に油の液滴Oを滴下すると、図2に示すように、液滴Oは表面が湾曲した形状となって滑り落ち、進行方向の前側の液滴Oの接触角が前進角(前進接触角)θa、後側の液滴Oの接触角が後退角(後退接触角)θrとなる。通常、傾斜面にある液滴Oは一定の重力の影響を受けているので、前進の接触角θaのほうが後退の接触角θrより大きい。後退角θrが小さいということは、液滴Oと被膜1の接触界面で付着力があるということであり、後退角θrがなるべく大きく、後退角θrが前進角θaと近いほど、液滴Oは滑落し易く、転落角αが小さくなって滑水性が高くなる。このために、前進角θaと後退角θrの差が0〜10°の範囲内にあれば、高い滑油を示すものであり、前進角θaと後退角θrの差が10°を超える場合には、表面の液滴Oを瞬時に転がらせて排出することが難しくなる。
【0018】
上記のような被膜1は、ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂、及びアミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物から形成される塗膜である。
【0019】
ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂は、側鎖にジメチルシリコン基を結合させたフッ素樹脂と、水酸基含有のラジカル重合性単体などとを反応させることにより合成することができる。
【0020】
側鎖にジメチルシリコン基を結合させたフッ素樹脂は下記の一般式(1)で示されるものである。
【0021】
【化1】

【0022】
ここで、式(1)において、nは2以上250以下の整数、Xは主鎖のフッ素樹脂の骨格を表している。従って、ジメチルシリコン基とは、式(1)中のX以外の部分で示されるものであり、ジメチルポリシロキサンの側鎖(末端がメチル基)のことを意味する。この官能基は、下記に式(2)〜(6)に示すような反応性シリコーンモノマーを使用することにより、フッ素樹脂の骨格への導入が可能となる。ジメチルシリコン基は、フリーの側鎖で存在するため高分子のマトリックス中でフリーで存在するために、分子の主骨格よりも表面に配向し、すべり抵抗が非常に低い表面構造をとるため、表層に付着した油の転落角αが低くなる被膜設計が可能である。尚、上記の「フリー」とは、この樹脂の中で主鎖にぶら下がっている側鎖基であると言う意味であり、側鎖基は、樹脂を硬化剤で反応させ3次元架橋をさせても分子内でフレキシブルに動くことが可能である。この場合、表面張力の低いジメチルシリコン基を側鎖に使用しているために塗膜の表層に配向し、油の滑落性に寄与するものである。撥油性のフリーの側鎖としてはフロロオレフィン基などのフッ素系の側鎖もあるが、本発明においてはジメチルシリコン基が好ましい。油をはじく官能基としては、大きく分けてフッ素系とシリコン系に分かれるが、側鎖にフッ素系のものを使用すると、油の接触角は高くなるが、滑落角も高く、本発明のように油に対する滑落角が低い用途に対する場合は不向きとなることがある。一方、ジメチルシリコン基は油の接触角はフッ素系よりも低いが、滑落角はフッ素系より低く、本発明の用途に適しているものである。このようなジメチルシリコン基は、単に塗料中に添加されるだけでなく、フッ素樹脂の主骨格に導入されているために、磨耗などによって容易に脱落せず、長期的にも撥油性の維持性に優れる。ジメチルシリコン基の主骨格への導入方法は、いろいろな方法が考えられるが、以下に示すような末端に不飽和基を持つジメチルシリコンをフッ素樹脂に反応させることで可能になる。以下に、本発明で使用可能なジメチルシリコンの材料を示す。
【0023】
末端がメタクリレート基である片末端ジメチルシリコン
CH2=C(CH3)-COO-C3H6-Si(CH3)2-(O-Si(CH3)2)p-R2 …(2)
(Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。pは1〜250の整数)
末端がアクリレート基である片末端ジメチルシリコン
CH2=C(CH3)-COO-C3H6-Si(CH3)2-(O-Si(CH3)2)q-R3 …(3)
(Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。qは1〜250の整数)
両端がアクリレート基またはメタクリレート基で表される両末端ジメチルシリコン
R4―C3H6-Si(CH3)2-(O-Si(CH3)2)r―R4 …(4)
(R4は、−OOC(CH3)C=CH2あるいは−OOCHC=CH2、rは1〜250の整数)
エステル結合を持たないジメチルシリコン
CH2=CH-Si(CH3)2-(O-Si(CH3)2)s-R5 …(5)
(R5は、炭素数1〜6のアルキル基あるいは-CH=CH2を示す。sは1〜250の整数)
これらの式(2)〜(5)で示すモノマーをラジカル重合性フロロオレフィン化合物やアクリレート化合物、メタクリレート化合物などのラジカル重合性単体などと共重合させることにより、ジメチルシリコン基を導入したフッ素樹脂を合成することが可能になる。ラジカル重合性フロロオレフィン化合物は、例えば、以下の式(6)で示すようなモノマーの構造を有するものであり、ラジカル重合することにより主鎖の分子内にフッ素基などの導入が可能になる。
【0024】
【化2】

【0025】
式(6)中、XはFまたはH、YはH、Cl、F、CFである。フッ素基は、耐薬品性、耐候性、撥水性に優れるために側鎖のジメチルシリコン基との相互作用により、長期的に撥油性の維持性に優れた塗膜構造を形成することが可能になる。例えば、何らかの影響で側鎖のジメチルシリコン基が脱落したとしても主骨格にフッ素化合物が存在することでさらに撥油性が持続する。
【0026】
また本発明に使用するフッ素樹脂中にはイソシアネート化合物などと反応するための水酸基の導入も必要である。水酸基は例えば下記に示すような水酸基含有のビニルエーテル基などを保持するラジカル重合性単体を用いることで導入が可能である。水酸基含有不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、プラクセルFM1(ε−カプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート、ダイセル化学社製)、ポリエチレングリコールモノアクリレートまたはモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートまたはモノメタクリレートなどが挙げられる。また、他のモノマーとして前記水酸基含有不飽和モノマー以外のものとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボン酸類などが挙げられる。さらに、他の不飽和モノマーとして、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ラウリルなどのエステル基含有アクリル系単量体;ビニルアルコールと酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸とのビニルアルコールエステル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレンなどの不飽和炭化水素系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド系単量体などを共重合しても良い。
【0027】
本発明で用いる被膜1は、上記のジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂と硬化剤とを反応させることで、より優れた滑油性を引き出すことができる。硬化剤としては、アミノ樹脂かイソシアネート化合物(樹脂)のどちらかが好適に用いられる。
【0028】
まず、硬化剤(架橋剤)としてアミノ樹脂を用いた場合について説明する。アミノ樹脂にはいろいろな種類があるがなかでもメラミン樹脂が好ましい。メラミン樹脂には、様々な種類があるがブチル化メラミン樹脂とメチル化メラミン樹脂とメチル・ブチル混合アルキル化樹脂に大別される。メチル化メラミン樹脂は、完全アルキル型、イミノ型、メチロール型、メチロール・イミノ型に分けられる。完全アルキル型は、外部の触媒を添加しないと主剤の水酸基との反応性が低く高温でないと反応しない。しかし、触媒を添加すると主剤樹脂との反応性が他のメラミン樹脂よりも高いという特徴がある。一般にメラミン樹脂は主剤と反応するだけでなく自己縮合性ももつことが言われているが、このタイプのメラミン樹脂は、自己縮合性は低いため触媒存在化では主剤としっかり反応する。イミノ型メラミン樹脂やメチロール型メラミン樹脂については、外部触媒がなくても比較的低温で反応する。しかし、自己縮合性はメチル化メラミン樹脂よりも高いため主剤との反応が乏しくなるデメリットもある。メチロール・イミノ型メラミン樹脂の場合、メチロール・イミノ型の両方の反応性を有しており中間的な性質を表したものである。
【0029】
本発明においては、硬化促進作用の目的で硬化触媒を添加することができる。硬化触媒としては、強酸、強酸の中和物などがあり、例えば、P−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸などの強度の酸であるスルホン酸化合物、これらのスルホン酸化合物のアミン中和物、リン酸及びリン酸化合物などを挙げることができる。本発明においては、自己縮合性がなく主剤(フッ素樹脂)の水酸基との反応性に優れたメチル化メラミン樹脂と上記の触媒などを組み合わせると非常に良好な滑油角を示す。メラミン樹脂の添加量は、上記のフッ素樹脂(撥水性樹脂)の固形分に対して10〜50%の範囲で添加することが好ましく、更に好ましくは15〜40%の範囲で添加することが好ましい。また、硬化触媒である酸の添加量が少ないと架橋密度が低い塗膜が得られるし、多すぎると脆い塗膜になる傾向になる。この酸の添加量は、塗料組成物中に0.1〜1.0%の範囲で添加するとよい。
【0030】
次に、硬化剤(架橋剤)としてイソシアネート化合物を用いた場合について説明する。イソシアネート化合物としては、例えば、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4(または2,6)−ジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどの環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類;リジントリイソシアネ−トなどの3価以上のポリイソシアネートなどの如き有機ポリイソシアネートそれ自体、またはこれらの各有機ポリイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等との付加物、あるいは上記した如き各有機ジイソシアネート同志の環化重合体(例えば、イソシアヌレート)、ビウレット型付加物などが挙げられる。これらのうち、なかでもヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートが好適である。これらは、1種で又は2種以上混合して使用することができる。
【0031】
ポリイソシアネート化合物の使用量は、この中に含まれるイソシアネート基(NCO)が、上記のフッ素樹脂中の水酸基(OH)に対して、NCO/OHの当量比で、通常、0.2〜2.0、好ましくは0.5〜1.5となる範囲内となるように選択されることが適当である。
【0032】
本発明では、密着力を向上する成分として、オルガノシリケートや触媒を使用することができ、親溶剤としてはアルコール系溶剤を一部添加することが好ましい。通常、イソシアネート化合物は、アルコール中に含まれる水酸基と反応するために、イソシアネート基をブロック剤でブロックし、加熱するとそのブロック剤が解離し反応するブロックイソシアネート化合物が好適に用いることができる。ブロック剤は、活性水素化合物であって、その例としては、例えば、ケトオキシム誘導体、ラクタム誘導体等をあげることができ、その他にフェノール、活性メチレン、アルコール、メルカプタン、酸アミド、イミド、イミダゾール、尿素、カルバミン酸塩等の化合物の誘導体をあげることができる。それらの具体例としては、例えば次のものが挙げられる。
【0033】
・ケトオキシム誘導体:メチルエチルケトンオキシム、ブタノンオキシム、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、メチルアミルケトンオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルヘキサノンオキシム等。
【0034】
・ラクタム誘導体:ε−カプロラクタム、δ−カプロラクタム、β−ブチロラクタム、β−プロピオラクタム等。
フェノール誘導体:フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ノニルフェノール、イソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、チモール、p−ニトロフェノール、p−ナフトール、p−クロロフェノール、p−tert−オクチルフェノール等。
【0035】
・活性メチレン誘導体:アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等。
アルコール誘導体:メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、2−エチルヘキサノール等。
・メルカプタン誘導体:ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオフェノール等。
【0036】
・酸アミド誘導体:アセトアニリド、アセトアニシジド、酢酸アミド、アクリルアミド、ベンズアミド等。
・イミド誘導体:コハク酸イミド、マレイン酸イミド等。
・イミダゾール誘導体:2−フェニルイミダゾリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール等。
【0037】
・尿素誘導体:尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ジフェニル尿素等。
カルバミン酸塩誘導体:N−フェニルカルバミン酸フェニル、2−オキサゾリドン等などがある。
【0038】
また、本発明では、樹脂中にアクリル樹脂を好適に混合して耐汚染性を向上することができる。特に好適なのは、混合するアクリル樹脂のTg(ガラス転移点)が40℃〜100℃の範囲のものを混合することが好ましい。更に好ましくは50℃〜90℃、更に好ましくは70℃〜90℃の範囲のもので、Tgとしてはなるべく高いものが好ましい。Tg100℃以上にすると樹脂の物性が脆いものになり、被膜1の物性が劣る傾向にあるため好ましくない。通常、アクリル樹脂のTgを上げるためにはシクロ環やベンゼン環を骨格に持つようなアクリルモノマーを重合して調製することができる。このようにバルキーな構造を持つアクリル樹脂は、油などの汚染物質を塗膜内部に浸透しにくいために、上記に示したフッ素樹脂を含む被膜1の耐汚染性を向上させることができる。アクリル樹脂を添加する場合は、フッ素樹脂との固形分比率で30〜90質量%の範囲が好ましい。さらに好ましくは50〜80質量%の範囲で添加することが好ましい。アクリル樹脂が多すぎると添加するフッ素樹脂のすべり性や撥油性の効果を阻害していしまうため十分な効果を引き出すことができない。またアクリル樹脂が少なすぎるとフッ素樹脂の特性のみになってしまうので滑落性が劣る傾向にある。
【0039】
本発明において、被膜1を形成するにあたっては、ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂、アミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物からなる硬化剤、及び必要に応じて、アクリル樹脂や触媒等を所定量ずつ配合し、これを溶剤に溶解して塗料を調製し、この塗料を基材2の表面に塗布した後、硬化させることによって、基材2の表面に被膜1を形成することができる。ここで、溶剤としては、特に限定はされないが、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;および、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム、ジアセトンアルコール等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上を使用することができる用いることができる。また、溶剤の使用量は塗料の塗布のしやすさなどに応じて適宜設定可能である。イソシアネート化合物を用いる場合は、アルコール類は反応してしまうためできるだけ使用を避けることが好ましい。
【0040】
本発明において、基材2としては各種の材料のものを用いることができ、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン重合合成樹脂)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)等の熱可塑性樹脂、、アクリルやFRPなどの熱硬化性樹脂などで形成されたプラスチック基材、鋼材、アルミニウム材、ステンレス鋼材、溶融亜鉛メッキ鋼板等で形成された金属基材などを例示することができる。基材2の形状は特に限定されず、例えば、板状等に形成することができる。被膜1を形成するための塗料を基材2の表面に塗布するにあたっては、スプレー塗布などの公知の手段を用いることができる。この塗料の塗布量はウェット(wet)重量として110〜100/mにすることができる。また、塗料を基材2の表面に塗布した後、温度が常温〜180℃で時間10〜60分で乾燥硬化させることができる。また、乾燥硬化後の被膜1の膜厚は5〜50μmにすることができる。
【実施例】
【0041】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、「部」はすべて質量部である。
【0042】
(実施例1)
ジメチルシリコン基と水酸基を含むフッ素樹脂として、「KD−270R」(関東電化株式会社製、固形分(NV)30%、水酸基価(OH価)105)を100部、架橋剤のメラミン樹脂として、「サイメル303」(日本サイテック株式会社製、メチル化メラミン樹脂、固形分(NV)98%)を9部混合し、硬化触媒としてキャタリスト6000(三井化学株式会社製、酸触媒)を0.5部添加し、希釈溶剤として酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。基材としては150cm×70cmのサイズのSUS304で形成される金属板(ステンレス鋼板)を用いた。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は8°であり、前進・後退の接触角の差は5°であった。
【0043】
オレイン酸の滑油角としては、角度が可変式である水平板上に試験パネルを設置し、協和界面化学株式会社製の動的接触角測定装置を用いて滑落法を用いてパソコンに映し出される画面上から油が滑り落ちて消える点を滑油角として測定した。前進角と後退角は、油が滑り落ちる角度での前進後退角をそれぞれ測定することにより算出した。
【0044】
(実施例2)
ジメチルシリコン基と水酸基を含むフッ素樹脂として、「ZX−022」(富士化成工業株式会社製、固形分(NV)45%、水酸基価(OH価)120)を100部、架橋剤のメラミン樹脂として、「サイメル303」(日本サイテック株式会社製、メチル化メラミン樹脂、固形部(NV)98%)を13.5部混合し、硬化触媒として「キャタリスト6000」(三井化学株式会社製、酸触媒)を0.5部添加し、希釈溶剤として酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は10°であり、前進・後退の接触角の差は6°であった。
【0045】
(実施例3)
ジメチルシリコン基と水酸基を含むフッ素樹脂として、「KD−270R」(関東電化株式会社製、固形分(NV)30%、水酸基価(OH価)105)を100部、架橋剤のイソシアネート樹脂として「TPA−80X」(旭化成ケミカル株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂、固形分(NV)80%)を20.8部混合し、溶剤として酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は12°であり、前進・後退の接触角の差は8°であった。
【0046】
(実施例4)
Tgの高いアクリル樹脂(設計上のTg=79℃)として、「AR−3329」(三菱レイヨン株式会社製、固形分(NV)50%、水酸基価(OH価)43)を100部、ジメチルシリコン基と水酸基を含むフッ素樹脂として、「KD−270R」(関東電化株式会社製、固形分(NV)30%、水酸基価(OH価)105)を50部、架橋剤のメラミン樹脂として、「サイメル303」(日本サイテック株式会社製、メチル化メラミン樹脂、固形分(NV)98%)を16.3部混合し、硬化触媒として「キャタリスト6000」(三井化学株式会社製、酸触媒)を0.5部添加し、希釈溶剤として酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は4°であり、前進・後退の接触角の差は3°であった。
【0047】
(実施例5)
Tgの高いアクリル樹脂(設計上のTg=79℃)として、「AR−3329」(三菱レイヨン株式会社製、固形分(NV)50%、水酸基価(OH価)43)を100部、ジメチルシリコン基と水酸基を含むフッ素樹脂として、「KD−270R」(関東電化株式会社製、固形分(NV)30%、水酸基価(OH価)105)を50部、架橋剤のイソシアネート樹脂として、「TPA−80X」(旭化成ケミカル株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂、固形分(NV)80%)を21.2部混合し、酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は18°であり、前進後退の接触角の差は9°であった。
【0048】
(比較例1)
ジメチルシリコン基を持たないフッ素樹脂成分として、「フルオネートK−704」(大日本インキ株式会社製、固形分(NV)50%)を50部、架橋剤のイソシアネート樹脂として、「コロネートHX」(日本ポリウレタン株式会社製)20部配合し、希釈溶剤として酢酸ブチル20部、キシレンを20部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量で30g/mで塗布した。塗装後の基材1を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は22°であり、前進・後退の接触角の差は15°であった。
【0049】
(比較例2)
アクリル樹脂として「LR−199」(三菱レイヨン株式会社製、固形分(NV)50%)を100部、架橋剤のメラミン樹脂として、「サイメル303」(日本サイテック株式会社製、メチル化メラミン樹脂、固形分(NV)98%)を30部混合し、硬化触媒としてキャタリスト6000(三井化学株式会社製、酸触媒)を0.5部添加し、希釈溶剤として酢酸ブチルを100部添加しよく混合した。この溶液(塗料)を上記と同様の基材の表面にエアースプレーにてWET重量として30g/mで塗布した。この後、塗装後の基材を乾燥炉で150℃×30分で硬化し、撥油塗膜からなる被膜を基材の表面に有する滑油性部材を得た。この滑油性部材のオレイン酸に対する滑油角は25°であり、前進・後退の接触角の差は18°であった。
【0050】
また、上記の実施例1〜5及び比較例1、2で形成した被膜と同様の配合の被膜を、松下電工(株)製のレンジフードRのファン22の外面、キャッチパネル21の全面、整流板20の全面に形成し、設置した。このレンジフードRを稼動させながら、図1に示すように、レンジフードRの直下にフライパンFを250℃の高温で加熱し、油と水の液滴Oを30分間交互に滴下した。試験終了後にオイルキャッチ23に付着した油の量を測定し、以下の次式により回収率を計算した。尚、オイルキャッチ23は溝部23aと、溝部23aの上端に延設されてファン22の下方に配置される底板23bと、底板23bに立設されてファン22の背方に配置される背板23cとからなり、ファン22やキャッチパネル21や整流板20に付着した油が底板23bや背板23cを通じて溝部23aに流れ込み、回収されるものである。
回収率=オイルキャッチに溜まった油量/仕込みの油量(30g)
実施例1〜4では50%以上の回収率を有して良好であり、実施例5では回収率が45%あり、実用上問題がなかった。一方、比較例1、2では回収率が30〜32%であり、回収率が低くなった。
【0051】
また、上記レンジフードRの各部位の汚染の状態を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す
○:油の汚染が目立たなく外観が良好
△:部分的に油の汚染が目立つ
×:油の汚染性が目立つ
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】実施例において、回収率を測定するための実験方法を示す概略図である。
【図3】レンジフードの一例を示し、(a)は斜視図、(b)は概略図である。
【図4】レンジフードの他例を示し、(a)は斜視図、(b)は概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1 被膜
2 基材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸に対する滑油角が20°以下である被膜を基材の表面に設けて成ることを特徴とする滑油性部材。
【請求項2】
前記被膜上のオレイン酸の前進角と後退角との差が0〜10°であることを特徴とする請求項1に記載の滑油性部材。
【請求項3】
前記被膜が、ジメチルシリコン基と水酸基とを有するフッ素樹脂、及びアミノ樹脂あるいはイソシアネート化合物から形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の滑油性部材。
【請求項4】
前記被膜が、Tgが40〜100℃で、水酸基を含有するアクリル樹脂を含有して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑油性部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−76166(P2010−76166A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245267(P2008−245267)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】