滑膜由来間葉幹細胞(MSCs)の軟骨・半月板再生への応用
【課題】本発明の目的は、滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成を使用して、関節軟骨欠損または半月板欠損を治療する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患に対する治療方法を提供する。本発明において、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患に対する治療方法は次の工程を含む:ex vivoで自家滑膜由来間葉幹細胞を培養すること;間葉幹細胞を移植して軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞により覆うこと;そして間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨細胞を再生させること。
【解決手段】本発明は、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患に対する治療方法を提供する。本発明において、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患に対する治療方法は次の工程を含む:ex vivoで自家滑膜由来間葉幹細胞を培養すること;間葉幹細胞を移植して軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞により覆うこと;そして間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨細胞を再生させること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成を利用して、患者の関節軟骨欠損または半月板欠損を治療する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[0002] 関節軟骨欠損や半月板欠損は、関節痛、可動域の減少、関節水腫、運動障害などを生じる。外傷で生じた関節軟骨欠損や半月板欠損で困っている患者は、通常整形外科医の治療を受ける。軟骨欠損や半月板欠損に対する外科的治療は、関節をさらに悪化させる要因となる破片を取り除き、患部関節の機能を回復させることを目的とする。
【0003】
[0003] 損傷の重篤度に応じて、関節軟骨損傷に対して、整形外科医によりいくつかの方法がしばしば推奨される。整形外科医により使用される方法の例としては骨髄刺激法、モザイクプラスティー法(骨軟骨柱移植、あるいは骨/軟骨プラグ移植とも呼ばれる)、及び自家軟骨細胞移植が含まれるある。
【0004】
[0004] 骨髄刺激法は、骨髄幹細胞を損傷部位に誘導することによって、軟骨修復を促進する方法である。軟骨下骨(subchondral bone plate)の一部を穿孔、除去し、骨髄(marrow cavity)からの出血を促すことにより行うものであり、2 cm2までの表面積の損傷部位に対して行うことができる。この方法は、シンプルで関節鏡視下で行うことができる点で利点があるが、欠損が硝子軟骨でなく線維軟骨で修復されるという点で欠点があり、そのために治療効果が不確実である。
【0005】
[0005] モザイクプラスティー法は、関節の非荷重部位から骨軟骨柱を採取し、モザイク様に軟骨損傷部に挿入することにより行うものである。本法は高い外科的正確性を要するので、骨軟骨自家移植(モザイクプラスティー)は、限られた施設でのみ行われている。しかし、骨髄刺激法により治療可能な損傷部位よりも、わずかに大きめな損傷部位を治療するために使用することができるという利点がある。さらに軟骨欠損部を硝子軟骨で修復できるという利点があり、より良い結果が期待できる。しかし正常軟骨組織に損傷を生じる点が依然として問題となる。
【0006】
[0006] 自家軟骨細胞培養移植(ACI)は現在欧米で実際に行われている方法である。この方法は2つのステップからなり、初めに患者自身の細胞を培養し、次にその細胞を移植する。最初のステップでは関節の非荷重部位から軟骨のバイオプシーサンプルを採取し、そのサンプルから軟骨細胞を単離し、軟骨細胞を二週間以上培養し、その後体内に戻す。次のステップで培養細胞を軟骨損傷部に移植し、必要であれば自家骨膜などの生体膜で欠損部を覆う。この方法では切り出す正常軟骨組織の総量をモザイクプラスティー法よりも減少させることが出来る。
【0007】
[0007] しかし、自家軟骨細胞培養移植(ACI)は正常軟骨組織に損傷を引き起こす点でやはり問題があると考えられる。また、取り出された軟骨細胞をin vitroで培養しなければならず、初代軟骨細胞はヒト血清で増殖させることが難しく、通常は10倍前後にしか増殖させることができないため、ウシ胎児血清などのヒト以外の動物血清が必要となり、または牛表皮由来のコラーゲンゲルなどの人工材料を使用することも必要である;手術法が侵襲が大きく複雑であるため、小さな軟骨欠損しか治療できない。
【0008】
[0008] 間葉幹細胞(MSCs)は細胞治療の潜在的な細胞源として期待されている。というのも、優れた自己再生(self-renewal)能と多分化能を有するからである(Pittenger et al., 1999, Science. 284:143-7)。骨髄が間葉幹細胞の細胞源として最も一般的なものであるという事実に加えて(Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4)、様々な研究により間葉幹細胞は種々の成体の間葉系組織、たとえば滑膜(De Bari, C. et al., 2001, Arthritis Rheum. 44:1928-42)、骨膜(Fukumoto, T. et al., 2003, Osteoarthritis Cartilage. 11:55-64)、脂肪組織(Zuk, P.A. et al., 2002, Mol Biol Cell. 13:4279-95)、筋肉組織(Cao et al., 2003, Nat Cell Biol. 5:640-6)などから単離できることが報告されている。
【0009】
[0009] 本発明者は、これまでに、ペレット重量が軟骨マトリクスの生成を反映することを報告してきた(Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402)。これらの結果により、骨髄由来間葉幹細胞は軟骨分化能を有し、in vitroで軟骨を形成することが示された。従って、間葉幹細胞は、自己の組織由来の細胞を使用できること、正常軟骨組織における損傷および侵襲を最小にできること、そして軟骨再生のために十分な数の細胞を確保できる可能性があること、といった観点から軟骨再生のための魅力的な細胞源と考えられている。
【0010】
[0010] 動物での多数の移植研究で、ex vivoで増殖された間葉幹細胞は周囲組織の細胞に分化することができ、外傷や疾患で損傷した組織の修復を行うことができたと報告されている(Awad et al., 1999, Tissue Eng. 5:267-77;Li and Huard, 2002, Am J Pathol. 161:895-907)。間葉幹細胞や細胞治療の情報の種類や量が増えているにもかかわらず、自己複製能や多分化能の機序に関しては現在も十分にはわかっていない。
【0011】
[0011] 全層関節軟骨欠損に対して、骨膜で覆いながらコラーゲンゲルに包埋した間葉幹細胞を移植する方法が試みられている。良好な結果を報告している研究もあるが(Adachi et al., 2002, J Rheumatol. 29:1920-30;Wakitani et al., 2002, Osteoarthritis Cartilage. 10:199-206)、ドナー細胞が直接軟骨細胞に分化したかどうか、ドナー細胞が軟骨形成にどのように寄与したかなどに関する多くの疑問が依然としてあり、軟骨損傷に対する臨床応用を制限している。
【0012】
[0012] 半月板は線維軟骨およびコラーゲンから構成される組織であり、大腿骨からの荷重分散、衝撃吸収、安定性に関する役割を有し、膝関節を安定化させその動きを円滑にする。半月板損傷は、捻挫や打撲などの外傷により、半月板が断裂することから生じる。半月板損傷に対する治療法はいくつかあり、半月板損傷の程度による。損傷範囲が狭い場合(例えば外縁部のわずかな断裂)には、外科医は損傷の保存治療を選択する。広範囲な損傷に対しては、外科医は、半月板縫合術や切除術を選択する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Pittenger et al., 1999, Science. 284:143-7
【非特許文献2】Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4
【非特許文献3】De Bari, C. et al., 2001, Arthritis Rheum. 44:1928-42
【非特許文献4】Fukumoto, T. et al., 2003, Osteoarthritis Cartilage. 11:55-64
【非特許文献5】Zuk, P.A. et al., 2002, Mol Biol Cell. 13:4279-95
【非特許文献6】Cao et al., 2003, Nat Cell Biol. 5:640-6
【非特許文献7】Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402
【非特許文献8】Awad et al., 1999, Tissue Eng. 5:267-77
【非特許文献9】Li and Huard, 2002, Am J Pathol. 161:895-907
【非特許文献10】Adachi et al., 2002, J Rheumatol. 29:1920-30
【非特許文献11】Wakitani et al., 2002, Osteoarthritis Cartilage. 10:199-206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
[0013] 本発明の目的は、滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成を利用して、関節軟骨欠損や半月板欠損を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[0014] 本発明者は、過去にヒトの骨髄などのさまざまな間葉系組織由来のヒト間葉幹細胞を比較し、他の組織由来の間葉幹細胞よりも滑膜由来の間葉幹細胞がex vivoで高い増殖能及び軟骨形成能を有することを報告した(Sakaguchi, et al. Arthritis Rhum. 2005)。これは、滑膜由来間葉幹細胞が軟骨再生の細胞源として最も優れていることを示すものである。
【0016】
[0015] したがって本発明は、軟骨欠損及び半月板欠損に関連する疾患の治療方法を提供する。本発明において、軟骨欠損及び半月板欠損に関連する疾患の治療方法は、次の工程
自家滑膜由来間葉幹細胞をex vivoで培養すること;
間葉幹細胞を移植して軟骨欠損部及び半月板欠損部を間葉幹細胞により被覆すること;そして
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることにより、in situで軟骨欠損部または半月板欠損部で軟骨組織を再生すること;
から構成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】[0016] 図1は、ウサギ由来の初代滑膜間葉幹細胞(MSC)の増殖中の形態を示す。
【図2】[0017] 図2は、ヒト自己血清またはウシ胎児血清を用いて培養した滑膜由来及び骨髄由来間葉幹細胞の単離および特徴を示す。
【図3】[0018] 図3は、継代数1での滑膜由来間葉幹細胞の分化の特徴を示す。
【図4】[0019] 図4は、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成能を示す。
【図5】[0020] 図5は、滑膜由来間葉幹細胞を用いた、軟骨欠損部に移植するための低侵襲手技を示す。
【図6】[0021] 図6は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから1日、4、8、12、24週後の軟骨欠損部の肉眼所見を示す。
【図7】[0022] 図7は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから1日後の軟骨欠損部の組織学的解析像を示す。
【図8】[0023] 図8は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから4週後の軟骨欠損部の弱拡大の組織学的解析像を示す。
【図9】[0024] 図9は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから4週後の軟骨欠損部の強拡大の組織学的解析像を示す。
【図10】[0025] 図10は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから24週後の組織学的解析像を示す。
【図11】[0026] 図11は、滑膜由来間葉幹細胞を移植した後の軟骨欠損部の組織学的スコアを示す。
【図12】[0027] 図12は、軟骨欠損部のMRI像を示す。
【図13】[0028] 図13は、局所接着法の手技の概略図を示す。
【図14】[0029] 図14は、注射されたルシフェラーゼ/LacZ二重陽性滑膜由来間葉幹細胞が半月板欠損部に効果的に集まることを示す。
【図15】[0030] 図15は、注射したルシフェラーゼ/LacZ二重陽性滑膜間葉幹細胞が、間葉幹細胞が移植された膝以外の組織では検出されないことを示す。
【図16】[0031] 図16は、移植した滑膜間葉幹細胞が直接半月板軟骨細胞に分化したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[0032] 本発明を以下に詳細に記述する。
[0033] 本研究において、本発明者らは滑膜から間葉幹細胞を分離した。ex vivoで増殖した後、過塩素酸1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン(DiI)で標識した間葉系幹細胞を全層関節軟骨欠損部に移植した。詳細な組織学的解析により、移植した間葉幹細胞は時間経過とともに局所微小環境に応じて変化することが示された。局所微小環境は、骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域に分類された。分化培地により事前に誘導させなくても、間葉幹細胞のin situ軟骨形成により、関節軟骨欠損は修復された。このシステムは間葉幹細胞を軟骨に移植した後の細胞動態を詳細に解析することを可能にし、軟骨損傷に対する、間葉幹細胞の治療への応用を発展させた。
【0019】
[0034] 関節軟骨は硝子軟骨から構成され、半月板は線維軟骨から構成される。本発明者らはさらに、ヒト関節軟骨がヒト滑膜由来幹細胞の移植により再生されること、またラットの半月板がラット滑膜幹細胞移植により再生されることを確認した。
【0020】
[0035] 従って、本発明者らは、本研究において、半月板欠損部に、ルシフェラーゼ標識した間葉幹細胞を移植した。詳細な組織学的解析により、移植した間葉幹細胞は、局所微小環境に従って時間経過とともに変化し、そして半月板軟骨に分化することが示された。半月板欠損は、分化培地による事前の誘導を行うことなく、間葉幹細胞のin situ軟骨形成により修復された。
【0021】
[0036] したがって、本発明の方法は、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明において提供される軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための方法は、少なくとも次の工程:
自家滑膜由来間葉幹細胞(MSC)をex vivoで培養する工程;
軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞により覆うように、間葉幹細胞を移植する工程;そして
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨組織を再生させる工程;
を含む。本発明において移植された間葉幹細胞は、局所微小環境に従って軟骨細胞に分化する。間葉幹細胞のin situ軟骨形成の結果、軟骨欠損部または半月板欠損部で軟骨組織が再生されて、欠損部が修復され、そして軟骨欠損の場合には骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域をもとの軟骨が天然軟骨組織として形成され、または半月板欠損の場合には半月板軟骨が形成される。
【0022】
[0037] 本発明においては、本発明の方法により治療される軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患は、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷からなる群より選択されるが、これらの疾患のみに限定されるものではない。
【0023】
[0038] 本発明の文脈において、間葉幹細胞は骨髄、滑膜、骨膜、脂肪組織、筋肉組織に存在することが知られており、そして骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、および筋細胞に分化する能力を有することが知られている。間葉幹細胞の軟骨細胞への分化に関連して、BMPあるいはTGF-βを培養液に添加することにより、未分化間葉幹細胞の軟骨細胞への分化が促進され、そして従って軟骨組織がin vitro条件下で再生できることが知られている。
【0024】
[0039] 本発明の方法において使用される移植した細胞は、未分化の間葉幹細胞である。私たちは以前の研究により、様々な間葉幹細胞(骨髄由来、骨膜由来、脂肪由来、筋肉由来の間葉幹細胞を含む)の中でも滑膜由来間葉幹細胞が高い軟骨形成能を有することを示した(Sakaguchi, et al. Arth Rheum. 2005)。このことは、滑膜由来間葉幹細胞がin situ軟骨再生の最適な細胞供給源である可能性があることを示している。従って、本発明の方法において移植される滑膜由来間葉幹細胞を使用することが好ましい。さらに、患者が移植後の同種移植片拒絶反応を起こすことを防ぐ観点から、本発明の方法において、自家滑膜由来間葉幹細胞を使用することが好ましい。
【0025】
[0040] トランスフォーミング増殖因子β3(TGF-β3)、デキサメタゾン、骨形成因子2(BMP-2)を添加した軟骨形成培地中で培養させる場合、間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させてin vitroで軟骨組織を作製することが可能であることが知られている。従って、本発明では、間葉幹細胞が軟骨細胞へ分化しないようにするため、TGF-β3、デキサメタゾン、またはBMP2の非存在下で、単離した間葉幹細胞を培養することが好ましい。
【0026】
[0041] 滑膜由来間葉幹細胞はin vitroでの間葉幹細胞の継代数と反比例して、in situ軟骨形成能が低下することも知られている。従って、未分化の培養間葉幹細胞を調製するため、初代あるいは第1継代での間葉幹細胞を用いることが好ましい。
【0027】
[0042] ex vivoで培養される滑膜組織は、麻酔下で関節の非荷重部分から採取される。切除された滑膜組織はコラゲナーゼやトリプシンなどのプロテアーゼで酵素処理され、そして処理した細胞を70μmのナイロンフィルター等のメッシュフィルターを通して濾過した。上記の方法で単離された有核細胞を、本発明において、滑膜由来幹細胞として使用する。例えば、自家血清を使用する場合、外科医は患者自身の血液を患者から滑膜組織を採取すると同時に、あるいは別の時に採血する。
【0028】
[0043] 軟骨欠損または半月板欠損を患う患者から単離された自己滑膜由来間葉幹細胞は、分化培地(TGF-β3、デキサメタゾン、またはBMP2を添加したα-MEM等)により事前に分化誘導させることなく、ex vivoで培養される。増殖された未分化滑膜由来間葉幹細胞は、次に滑膜由来間葉幹細胞が由来する患者に移植し戻される。増殖した間葉幹細胞を利用して軟骨欠損部または半月板欠損部を効率的に治療するため、10 cm2程度の大きさの軟骨欠損部または半月板欠損部あたり、少なくとも5×107個の未分化間葉幹細胞、より好ましくは1×108個の間葉幹細胞を適用することが、効率的に治療するために必要となる。
【0029】
[0044] 培養間葉幹細胞の培養期間と軟骨形成能との関係に関して、滑膜由来間葉幹細胞の軟骨細胞への分化は、培養期間が長くなるほど進行し、従って培養期間が特定の長さを超えると滑膜由来間葉幹細胞のin situでの軟骨形成能は減少することが知られている。そのため、本発明においては、滑膜由来間葉幹細胞を未分化の状態で、そして良好なin situ軟骨形成能を有する状態で増殖させるために、培養期間を調整することが好ましい。さらに本発明においては、軟骨欠損部を覆い、そして患部を再生させるために十分な数の未分化滑膜幹細胞を用意する必要性を考慮することが必要である。従って、単離された間葉幹細胞は、移植前に5日から28日間in vitroで培養し、最も好ましくは14日から28日間培養する。さらに本発明においては、数千万の細胞が得られるまで間葉幹細胞を培養する必要がある。
【0030】
[0045] このようにして培養した未分化間葉幹細胞を軟骨欠損部または半月板欠損部に移植し、それにより軟骨欠損部または半月板欠損部は間葉幹細胞で覆われる。間葉幹細胞の移植は、観血的手術により、または関節鏡視下手術により行われる。侵襲を出来る限り小さくするために、関節鏡視下に間葉幹細胞を移植することが好ましい。
【0031】
[0046] 軟骨欠損部または半月板欠損部は間葉幹細胞の懸濁液で覆われても、間葉幹細胞の細胞シートで覆われてもよい。例えば、ゼラチンやコラーゲンなどの生体吸収性のゲルをゲル状物質として使用することができる。間葉幹細胞は、軟骨欠損部や半月板欠損部に接着する能力が高い。結果として、本発明は、軟骨または半月板の欠損を治療するための新しい低侵襲性手技を提供する。
【0032】
[0047] 軟骨欠損の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、間葉幹細胞により軟骨欠損部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
軟骨損傷部を上方に向けるように体位を保持すること;
間葉幹細胞の細胞シート、間葉幹細胞の懸濁液、または間葉幹細胞を含むゲル状物質を関節軟骨欠損部の表面に静置すること;そして
特定の時間体位を保持して、それにより間葉幹細胞を軟骨欠損部の表面に接着させること;
を含む。
【0033】
[0048] 半月板欠損の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、間葉幹細胞により半月板欠損部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
半月板欠損部が下向きになるように体位を保持すること;
間葉幹細胞の懸濁液を膝関節内に注射すること;そして
特定の時間体位を保持して、間葉幹細胞を半月板欠損部に接着させること;
を含む。
【0034】
[0049] 軟骨欠損部あるいは半月板欠損部の表面に間葉幹細胞を確実に接着させるために、移植した間葉幹細胞を、軟骨欠損部あるいは半月板欠損部の表面に少なくとも10分間、好ましくは15分間、保持することが好ましい。これを実現するため、軟骨欠損部または半月板欠損部を上方に向けること、そして上方に向けた軟骨欠損部または半月板欠損部に間葉幹細胞を保持すること目的として、体位を少なくとも10分間、好ましくは15分間保持する。
【0035】
[0050] 間葉幹細胞を伴う軟骨欠損部や半月板欠損部をさらに、間葉幹細胞の軟骨欠損部または半月板欠損部への接着をより強固にするため、骨膜で覆うことができる。間葉幹細胞を軟骨欠損部の表面や半月板欠損部の表面に少なくとも10分間保持したのち手術は完了する。
【0036】
[0051] 本発明において、移植した間葉幹細胞は、軟骨欠損部や半月板欠損部で軟骨細胞に分化し、そして軟骨欠損部または半月板欠損部にてin situで軟骨組織を再生する。間葉幹細胞のin situでの軟骨形成過程のあいだ、局所微小環境(栄養供給およびサイトカイン環境など)に従って、軟骨組織が再生するため、外部からの操作は必要とされない。間葉幹細胞のin situ軟骨形成の結果、軟骨組織が軟骨欠損部または半月板欠損部にて再生されて、欠損を修復し、そして軟骨欠損の場合には骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域をもとの軟骨組織として形成し、または半月板欠損の場合には半月板軟骨を形成する。
【0037】
[0052] 上述の通り、本発明者らは、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患(外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷など)が、間葉幹細胞(MSCs)を用いて治療できることを証明した。従って、本発明においては、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための調製物をも提供することができる。調製物は、軟骨欠損部や半月板欠損部に移植される間葉幹細胞を含むことを特徴とする。
【0038】
[0053] 上述の調製物により治療される適応例は、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
[0054] 本発明について、特定の好ましい態様に関して記述してきた。以下の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供されるが、これらの実施例は本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【0040】
[0055] 実施例において、差を評価するための分散分析(ANOVA)およびスチューデントのt-テストを用いた。P<0.05を統計学的有意とした。
【実施例】
【0041】
実施例1 ウサギ滑膜由来間葉幹細胞の分離
[0056] 本実施例は、ウサギから滑膜由来間葉幹細胞を採取するための方法を示すものである。
【0042】
[0057] 平均3.2 kg(2.8〜3.6 kg)の骨格的に成熟した日本白色家兎を研究に用いた。動物実験は東京医科歯科大学動物実験委員会のガイドラインに厳密にしたがって、行なった。25 mg/kg塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgペントバルビタールナトリウムの静脈内注射により誘導された麻酔下で、滑膜を採取した。
【0043】
[0058] 得られたウサギの滑膜はαMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)中3 mg/mlコラゲナーゼD溶液(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)で、37℃で酵素処理された。3時間の酵素処理の後、処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)を用いて濾過し、そして残存した細胞を廃棄した。
【0044】
[0059] 得られた有核細胞を完全培地中〔10%FBS(Invitrogen;骨髄由来間葉幹細胞が急速に増殖するように選択されたロット)、100 units/mlペニシリン(Invitrogen)、100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)、および250 ng/mlアンホテリシンB(Invitrogen)を添加したαMEM〕にて5×104細胞/cm2で60 cm2培養ディッシュ(Nalge Nunc International, Rochester, NY, USA)中に播種し、そして加湿、5%CO2、37℃条件下の細胞インキュベーター中で培養した。3,4日ごとに培地交換し、非接着細胞を取り除き、その後まき直しをすることなく初代として14日間培養した。細胞をトリプシン処理し、回収し、そして第1継代細胞として50細胞/cm2で145 cm2培養ディッシュに播種した(Sekiya, I., et al., 2002, Stem Cells. 20:530-41)。さらに14日間増殖させた後、回収した細胞を5%ジメチルスルホキシド(Wako, Osaka, Japan)および20%FBSを含むαMEM中1×106細胞/mlの濃度で再懸濁し、凍結保存した。一部(1 ml)をゆっくりと凍結し、そして液体窒素中で凍結保存した(第2継代細胞)。細胞を増殖させるため、細胞の凍結バイアルを融解し、完全培養液を入れた145 cm2培養用ディッシュに播種し、リカバリープレート中で37℃、5%CO2、加湿条件下で4日間培養した。
【0045】
[0060] 接着細胞を連続的に観察したところ、多角形細胞と紡錘形細胞の2種類の単一細胞由来コロニーが示された:大型で高密度のコロニーは、小型で紡錘形の細胞から構成され、小さくて低密度のコロニーは、大型で多角形の細胞から構成された(図1)。細胞を示された日数に写真撮影した(バー:100μm)。紡錘形の細胞は、多角形の細胞よりもはるかに早く増殖し;その結果14日後には多数の紡錘形の細胞により構成されるに至った。
【0046】
実施例2 ヒト自己血清を用いたヒト滑膜由来間葉幹細胞の分離と特徴
[0061] 本実施例において、本発明者らはヒトの滑膜由来間葉幹細胞と骨髄由来間葉幹細胞を分離し、その特徴を明らかにした。
【0047】
(i) ヒト間葉幹細胞の分離とその増殖効果
[0062] 本研究は東京医科歯科大学の学内倫理委員会により承認され、全ての被験者の同意を得て行われた。ヒト滑膜と骨髄は8人の患者(27±5歳)から膝前十字靭帯(ACL)再建術の際に採取された。
【0048】
[0063] 脛骨由来の骨髄は再建靱帯を挿入するためにドリルで穴を開ける直前に18ゲージ針で吸引した。大腿骨内側顆の非軟骨領域を覆う内側関節包の内側から得られた滑膜下組織を伴う滑膜は、鋭匙鉗子を用いて関節鏡視下にて採取した。前十字靭帯(ACL)再建術1日前に、すべてのドナーから100 mlの全血を採取し、ヒト血清を分離した。骨髄由来の有核細胞は比重法(Ficoll-Paque; Amersham Biosciences)で分離した。
【0049】
[0064] 滑膜は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS; Invitrogen)中3 mg/mlコラゲナーゼD溶液(Roche Diagnostics)で、37℃にて酵素処理した。3時間後、処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Beckton Dickinson)を通し、そして残存した組織は廃棄した。
【0050】
[0065] 滑膜由来の有核細胞を1×104細胞/cm2で播種し、そして骨髄由来の有核細胞はコロニーを形成する細胞密度で直径10 cmディッシュに播種し、完全培地中で培養した。完全培地は、10%自己ヒト血清、または20%ウシ胎児血清(骨髄由来間葉幹細胞の急速な増殖に関して選択したロット)を含有する、α改変イーグル培地(αMEM)、100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB(全てInvitrogen)であった。初代培養の段階で次の4つの群の細胞を調製した:1)ヒト自己血清とともに培養する滑膜間葉幹細胞、2)FBSとともに培養する滑膜間葉幹細胞、3)ヒト自己血清とともに培養する骨髄間葉幹細胞、4)FBSとともに培養する骨髄間葉幹細胞。培養開始14日後に、0.25%トリプシンと1 mM EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸;Invitrogen)添加して37℃、5分間反応させて、4群の細胞を回収し、血球計算盤を使用して細胞数を測定し、初代細胞の数を計測した。
【0051】
[0066] ヒト自己血清とともに培養した初代のヒト滑膜間葉幹細胞および骨髄間葉幹細胞の採取数を図2Aに示した。221±113 mgの滑膜由来の有核細胞、または2±2 mlの骨髄液由来の有核細胞を播種し、14日間培養し、そして回収した。これらの組織は、10人のドナーから回収し、そして採取数を個々に示している。
【0052】
[0067] 増殖能を調べるために、上述の4グループのそれぞれから得た細胞を50細胞/cm2で第1継代細胞として播種し、そして10%ヒト自己血清または20%FBSとともに14日間培養した。播種後14日後に細胞を回収し、細胞数を求めた。
【0053】
[0068] 第1継代の滑膜間葉幹細胞及び骨髄間葉幹細胞に対する、ヒト血清及びウシ胎児血清の増殖効果の比較を図2Bに示す。10人のドナー由来の滑膜間葉幹細胞及び骨髄間葉幹細胞を50細胞/cm2で播種し、ヒト自己血清またはFBSとともに14日間培養し、その結果の増殖率と標準偏差が示してある(ドナーについてn=3)。
【0054】
[0069] 図2は、ヒト滑膜由来間葉幹細胞はヒト自己血清を使用するほうが、ウシ胎児血清を使用するよりもよく増殖することを示している。反対に、骨髄由来間葉幹細胞はウシ胎児血清を使用するほうがヒト自己血清を使用するよりも、よく増殖することを示す。確かに、骨髄由来間葉幹細胞はヒト自己血清の存在下で増殖することができる;しかし、骨髄由来間葉幹細胞の増殖速度は細胞間での差が大きい。これらのデータを検討し、そしてヒト以外の動物由来の材料を使用することが好ましくないことを考慮すると、ヒト自己血清を用いて増殖させた滑膜由来間葉幹細胞を再生医療用の細胞として用いるのが望ましいことは明らかである。
【0055】
(ii)分化アッセイ
[0070] 間葉幹細胞は、間葉系組織由来の細胞として、そしてコロニー形成単位-線維芽細胞アッセイ(Friedenstein, A.J., 1976, Int Rev Cytol. 47:327-59)により一般的に特定される自己再生能と、多数の分化した子孫を生み出す多分化能(McKay, R., 1997, Science. 276:66-71;Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4)を有するものと定義される。
【0056】
[0071] 細胞コロニー形成能を調べるために、第1継代の滑膜由来細胞を60 cm2培養ディッシュあたり100個、6枚に播種し、14日間培養して、細胞コロニーを形成させた。3枚のディッシュはメタノール中0.5%のクリスタル・バイオレットで5分間染色した。細胞を蒸留水で2回洗浄し、そしてディッシュあたりのコロニー数を測定して、コロニー形成効率を評価した(図3A)。直径2 mm以下で、わずかに染色されるコロニーは除外した。残りの3枚のディッシュからは、全細胞数を測定し、そして1コロニーあたりの細胞数を求めて、増殖活性を評価した(Sakaguchi et al., 2004, Blood. 104:2728-35)。
【0057】
[0072] より大きくて細胞が密集したコロニーは、紡錘形の細胞から構成されている(図3B;バー:50μm)。第1継代の細胞のコロニー形成単位効率は60±5%(平均±SD、n=3)であり、1コロニーあたりの細胞数は6774±437細胞であった。
【0058】
[0073] 脂肪形成能に関して、60 cm2ディッシュあたり100個の細胞を播種し、α-MEMに基づく完全培地中で14日間培養して、細胞コロニーを形成させた(上述の通り)。10-7M デキサメタゾン(Sigma-Aldrich Corp. St. Louis, MO, USA)、0.5 mMイソブチルメチルキサンチン(Sigma-Aldrich Corp.)、そして50μMのインドメタシン(Wako, Tokyo, Japan)を添加した完全培地からなる脂肪形成培地に切り替え、そして細胞をさらに21日間培養した。脂肪形成培養物は、4%パラフォルムアルデヒドで固定し、新しいオイルレッド-O溶液で染色し、そしてオイルレッド-Oに陽性なコロニーを数えた。直径2 mm以下で、わずかに染色されるコロニーは除外した。脂肪形性培養物は、クリスタルバイオレットで染色後、全細胞コロニーを数えた(Sekiya, I, et al., 2004, J Bone Miner Res. 19:256-64)。赤色の脂肪細胞コロニーは赤色で示され(図3C)、またオイルレッド-O陽性細胞の強拡大像を図3Dに示す(バー:25μm)。
【0059】
[0074] 骨形成能に関して、150 cm2ディッシュあたり100細胞を播種し、完全培地中で14日間培養した。次いで培地を、1×10-9 M デキサメタゾン、20 mMβ-グリセロールホスフェート(Wako)、50μg/mlのアスコルベート-2-ホスフェート(Sigma-Aldrich Corp.)を添加した完全培地からなる骨分化培地に変え、そしてさらに21日間培養した。骨分化させた細胞は0.5%アリザリン・レッド溶液で染色し、アリザリン・レッド陽性コロニー数を数えた。その後、骨分化培養物をクリスタルバイオレットで染色し、全細胞コロニー数を数えた。直径2 mm以下、または黄色のコロニーは除外した(Sakaguchi et al., 2004, Blood. 104:2728-35)。骨分化したコロニーを赤色で示した(図3E);アリザリン・レッド陽性細胞の強拡大像を図3Fに示す(バー:250μm)。
【0060】
[0075] 脂肪形成させたオイルレッド-O陽性コロニーの割合は74±6%(n=3)、そしてアリザリン・レッド陽性コロニーの割合は79±6%であった(n=3)。
実施例3 滑膜由来間葉幹細胞の軟骨形成能
[0076] 本実施例は、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞の体外での軟骨形成能を示すものである。
【0061】
[0077] ex vivoでの軟骨形性のため、25万個の細胞を15 mlのポリプロピレンチューブ(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)に入れ、450 Gで10分間遠心した。ペレットを軟骨形成培地で培養した。軟骨形成培地は高グルコース入りダルベッコ改変イーグル培地(DMEM高グルコース;Invitrogen Corp, Carlsbad, CA, USA)に500 ng/ml BMP-2(骨形成因子-2;Yamanouchi Pharmaceutical, Tokyo, Japan)、10 ng/ml TGF-β3(トランスフォーミング増殖因子-β3;R&D Systems. Minneapolis, MN, USA)、100 nMデキサメタゾン(Sigma-Aldrich Corp. St. Louis, MO, USA)、50μg/mlアスコルベート-2-ホスフェート、40μg/mlプロリン、100μg/mlピルビン酸、1:100希釈ITS+Premix(BD Biosciences. Bedford, MA, USA;6.25μg/mlインスリン、6.25μg/mlトランスフェリン、6.25 ng/mlセレン酸、1.25 mg/mlウシ血清アルブミン、5.35 mg/mlリノレン酸)を添加したものである。顕微鏡的評価のために、ペレットをパラフィン包埋し、5μm切片に薄切し、トルイジンブルーで染色した。
【0062】
[0078] 第2継代の細胞を、αMEM中1×106 細胞/mlで再懸濁し、そして蛍光脂溶性トレーサー過塩素酸1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン(DiI;Molecular Probes, Eugene, OR, USA)をαMEM中5μl/mlで添加した。37℃にて5%加湿下CO2で20分間インキュベートした後、細胞の一部を450 gで10分間遠心した。ペレットを軟骨形成培地中で培養した。蛍光顕微鏡用に、ペレットをパラフィンに包埋し、5μm厚の切片に薄切した。核はDAPIで対比染色した(Sekiya, I., et al., 2001, Biochem Biophys Res Commun. 284:411-8;Sekiya, I., et al., 2005, Cell Tissue Res. 320:269-76)。
【0063】
[0079] ペレットのマクロ像を、1 mmのスケールとともに示す(図4A)。細胞ペレットは培養期間の経過とともに大きくなり、そして21日後に透明の球状となった(図4A左)。DiIで標識した細胞ペレットも増大し球状となったが、全体的にはピンクがかった色となった(図4A右)。
【0064】
[0080] DiIで標識しない細胞(図4B)、DiIで標識した細胞(図4C)の組織切片をトルイジンブルー染色した。組織学的解析により、軟骨基質の存在が示された(図4B)。
[0081] DiIで標識しない細胞(図4D)、DiIで標識した細胞(図4E、図4F)の蛍光顕微鏡による観察像を示す。核をDAPIで対比染色した(図4F)。DiIの蛍光は細胞外基質に漏出することなく、少なくても21日間高度に保たれた(図4E、図4F)。
【0065】
[0082] DiIで標識しない細胞、およびDiIで標識した細胞ペレットの湿重量を示す(図4G)。DiIで標識した細胞のペレットの重量は、対照細胞由来のものよりも軽かった(図4G)。
【0066】
[0083] 本発明者らは、これまでペレットの重量は軟骨基質の産生を反映することを報告した(Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402)。これらの結果から、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞はDiIで標識した後も軟骨に分化する能力を維持するが、軟骨形成はいくらか抑制されることが示された。
【0067】
[0084] バーは、50μm(図4B、図4C);250μm(図4D、図4E);25μm(図4F)を示す。データは平均±標準偏差で示される。非対応t-テストによりP<0.05(n=3)である。
実施例4 軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技の開発
[0085] 本実施例においては、軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技を提示する。
【0068】
[0086] 軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技のスキームを図5に示す。
[0087] 間葉幹細胞は軟骨欠損部に対する接着能力が高い。間葉幹細胞を軟骨欠損部に留めておくために、軟骨欠損部を真上に向けるように体位を保持し、そして次いで、間葉幹細胞を上方に向いた軟骨欠損部に設置することができる。
【0069】
[0088] その後、間葉幹細胞の懸濁液により、またはコラーゲンゲルに包埋した間葉幹細胞により、軟骨欠損部を覆う。軟骨欠損部の表面に間葉幹細胞を10分間保持した後、操作を終了する。
【0070】
[0089] 本実施例においては、軟骨欠損部への間葉幹細胞の接着をより確実にするために、間葉幹細胞を伴う軟骨欠損部を骨膜によりさらに覆った。
実施例5 in vivoへの移植と組織学的解析
[0090] 本実施例において、本発明者らは滑膜由来間葉幹細胞の移植後に、軟骨欠損の肉眼的観察を行なった。
【0071】
[0091] 平均2.9 kg(2.6〜3.3 kgの範囲)の骨格的に成熟した日本白色家兎が実験に用いられた。動物の管理は東京医科歯科大学の動物実験委員会の指針に厳密に沿って行なわれた。
【0072】
[0092] 滑膜と全血は、25 mg/kgの塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgのペントバルビタールナトリウムの静注により誘導された麻酔下で、採取された。ウサギ血清は、ヒト血清と同様の方法で、全血から分離された。
【0073】
[0093] 滑膜組織を左膝より採取し、HBSS中3 mg/mlのコラゲナーゼD溶液中で37℃にて酵素処理した。3時間後、処理細胞を、70μmのナイロンフィルターに通し、残りの組織を廃棄した。有核細胞を直径150 mmのディッシュ3枚に播種し、抗生物質および10%自家ウサギ血清、または20%ウシ胎児血清を添加したαMEM中で培養した。細胞を播種してから14日後に、0.25%トリプシンと1 mM EDTAを37℃にて5分間使用して細胞を間葉幹細胞として回収し、そして血球計算板を用いて細胞数を算出した。
【0074】
[0094] 細胞は、実施例3で記述した方法に従い、DiI標識した。DiIを使用して、以下に記載するように、動物実験で移植細胞を検出した。回収したDiI標識細胞を450 gで5分間遠心し、PBSで2回洗浄し、そして5×106個のDiI標識細胞を、20%ウシ胎児血清を添加したαMEM、50μlに再懸濁させた。次に、同量のコラーゲンゲル(アテロコラーゲン;3%の1型コラーゲン、Koken, Tokyo, Japan)と混合し、5×107細胞/mlの濃度で100μlのコラーゲンゲル-間葉幹細胞混合物中で包埋し、それを移植用に使用した。
【0075】
[0095] 手術は麻酔下で行なった。間葉幹細胞を軟骨欠損部に移植する詳細な方法は、実施例4で記述した。25 mg/kgの塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgのペントバルビタールナトリウムの静注によりウサギを麻酔し、右膝関節を内側傍膝蓋アプローチで切開し、膝蓋骨を外側に移動させた。5 mm×5 mmの大きさ、深さ3 mmの全層骨軟骨欠損を大腿骨の膝蓋骨溝に作成し、そしてウサギは、「欠損群」「ゲル群」「FBS群」「自家血清群」の4群に分けた。
【0076】
[0096] 「欠損群」では、欠損部に対して何も処置をしなかった。「ゲル群」では、細胞を含有せず、20%ウシ胎児血清を含むα-MEMとコラーゲンゲルを等量含む混合物により欠損部を充填した。「FBS群」では、20%ウシ胎児血清を添加したα-MEM中で培養し、5×107細胞/mlの濃度でコラーゲンゲル中に均一に包埋したDiI染色した自家間葉幹細胞により欠損部に充填した。「自家血清群」では、10%自家血清を添加したαMEM中で培養し、5×107細胞/mlの濃度でコラーゲンゲルに均一に包埋したDiI染色した自家間葉幹細胞により欠損部を充填した。「FBS群」、「自家血清群」では、軟骨欠損部を骨膜でさらに覆った。術後、すべてのウサギをケージに戻し、運動、および飲食を自由にさせた。
【0077】
[0097] 動物は術後1日、4、8、12、24週後に、致死量のペントバルビタールナトリウムを用いて安楽死させた。サンプルをまず、色調、周囲組織との連続性、平滑さの観点から、肉眼的に観察した。変形性関節症性の関節の変化と滑膜炎の有無も調べた。その後、大腿骨遠位部を摘出し、写真撮影した。手術後1日、4、8、12、24週後の大腿骨顆部を図6に示す。
【0078】
[0098] 1日後、「欠損群」では、軟骨欠損部が血餅で覆われていた。一方、「FBS群」と「自家血清群」では、軟骨欠損部が間葉幹細胞層で覆われていた。4週後、「欠損群」では軟骨欠損部の中央がわずかに白く見えた。一方、「FBS群」と「自家血清群」では、軟骨欠損部が移植した間葉幹細胞由来の軟骨基質で充填された。「FBS群」と「自家血清群」では、再生軟骨組織と隣接軟骨組織の連続性が、「欠損群」より良好であった。
【0079】
[0099] 「欠損群」では8週後、軟骨欠損が斑点状の白っぽい外観を呈し、12週では大きさが少し小さくなり、24週にはさらに小さくなった。しかしながら、欠損は依然として観察された。「ゲル群」では、骨膜と隣接軟骨とのあいだの境界が8週になるとさらに平滑になった。しかし、24週になっても骨膜はまだはっきりと観察された。「欠損群」と「ゲル群」のサンプルのなかには、滑車溝の辺縁に緩やかな骨棘形成が観察されるものがあった。「FBS群」と「自家血清群」では、8週で、骨膜で覆われた軟骨欠損は光沢を増し、平滑となり、隣接軟骨と同様となり、そして12週以降では、修復された組織の辺縁部は周囲の正常軟骨と連続した(図6)。
【0080】
実施例6 組織学的検討と蛍光顕微鏡による観察
[0100] 本実施例において、本発明者は組織学的検討と蛍光顕微鏡による観察を行なった。
【0081】
[0101] 摘出された大腿骨遠位部は、4%パラフォルムアルデヒド溶液ですぐに固定した。標本は4%EDTA溶液で脱灰し、段階的エタノール系列で脱水し、パラフィンブロックに包埋した。各欠損部の中心を通る矢状切片(厚さ5μm)を観察し、そしてトルイジンブルー染色した。DiIの蛍光顕微鏡可視化のための専用の切片は、トルイジンブルーによる染色を行なわず、そして核をDAPIで対比染色した。
【0082】
[0102] 免疫組織学的検討を次のように行った。パラフィン包埋した切片をキシレンで脱パラフィン化し、段階的アルコールで脱水した。サンプルを、Tris-HCl中0.4 mg/mlのプロテイネースK(DAKO, Carpinteria, CA, USA)で、室温で15分抗原検索のために前処理した。残りの酵素活性をPBS中での洗浄で取り除き、10%正常ウマ血清を含有するPBSにより室温で20分間非特異的染色をブロックした。一次抗体(1型、及び2型コラーゲン;Daiichi Fine Chemical, Toyama, Japan)を切片上で、室温で1時間反応させた。PBSで十分に洗浄した後、ビオチン化した抗マウスIgGウマ抗体(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を二次抗体として切片上で、室温で30分反応させた。免疫染色はベクタステインABC試薬(Vector Laboratories)を使用し、その後DAB染色することにより検出した。マイヤーヘマトキシリンで、対比染色した。
【0083】
[0103] 本実施例において、本発明者らは、移植後1日、4、8、12、24週に組織学的データを回収した。結果として、移植後1日、4週、24週の組織学的データを示す。
(i) 移植後1日の組織学的解析
[0104] 移植後1日の組織学的解析を図7に示す。軟骨欠損の矢状切片を、「欠損群」(図7A上)、「ゲル群」(図7A下)、および「FBS群」(図7B上)において、トルイジンブルーで染色した。蛍光顕微鏡での「FBS群」の連続切片を図7B下に示す。
【0084】
[0105] 1日後、「欠損群」では、欠損部が血餅で充填された(図7A上)。「ゲル群」では、欠損部でコラーゲンゲルを骨膜で被覆し、ゲルと骨梁との間に血餅が観察された(図7A下)。「FBS群」では、欠損が間葉幹細胞を含有するコラーゲンゲルで充填され、骨膜で覆われた(図7B上)。DiI標識とDAPIでの核染色により、移植した間葉幹細胞が「FBS群」の欠損領域に存在することが確認された(図7B下)。
【0085】
[0106] 図7B上の、トルイジンブルーで染色された四角で囲った領域の強拡像(図7C左)と「FBS群」に関する蛍光顕微鏡下での像である(図7C右)。図7C右では核はDAPIで対比染色している。大腿骨遠位部は右側に位置している。バーは1 mm(図7Aおよび図7B);50μm(図7C)を示す。
【0086】
(ii)移植後4週の組織学的解析
[0107] 移植後4週の「欠損群」(図8A上)、「ゲル群」(図8A下)の、トルイジンブルー染色した軟骨欠損部の矢状断像を示す。移植後4週には「欠損群」では、線維組織が部分的に欠損を充填した(図8A上)。「ゲル群」では骨膜がまだ残存し(図8A下)、少数の細胞を伴うコラーゲンゲルが認められる(データは未掲載)。軟骨細胞様細胞が欠損の周縁領域で部分的に認められるが(データは未掲載)、軟骨基質の産生量は乏しいように見えた。
【0087】
[0108] 図8B上の四角で囲ったトルイジンブルー染色した領域の強拡像(図9左)と蛍光顕微鏡像(図9右)を示す。核はDAPIで対比染色している(図9右)。大腿骨遠位部は右に位置する。バーは1 mm(図8);50μm(図9Bおよび図9D);25μm(図9Aおよび図9C)を示す。
【0088】
[0109] 「FBS群」では欠損のほとんどと骨膜は軟骨基質で満たされていた(図9B上)。DiI陽性細胞の数は減少したが(図9B下)、それらは軟骨細胞に分化した(図9A)。骨膜の残りは薄くなり、残った骨膜の軟骨基質量(図9B)は再生軟骨中央部(図9A)よりも少なかった。残った骨膜内の細胞はDiI陰性であったが、残った骨膜に隣接する領域に存在する多くの軟骨細胞はDiI陽性であった(図9B)。DiI陽性の肥大軟骨細胞は軟骨部(cartilage zone)の深層部で観察された(図9C)。また、欠損の深層部は部分的に新しく形成された海綿骨で置換され、その骨を構成する細胞のなかにはDiI陽性細胞も観察された(図9D)。対照的に、髄腔内の細胞はDiI陰性であった。
【0089】
(iii)移植後24週の組織学的解析
[0110] 移植後24週の、トルイジンブルー染色による軟骨欠損部の矢状断像を示す。「欠損群」(図10A上)、「ゲル群」(図10A下)、「FBS群」(図10B上)。「FBS群」の連続切片を蛍光顕微鏡下で観察した(図10B下)。図10B上の四角で囲った領域の強拡像を図10Cに示し、そこでトルイジンブルー染色した切片を図10C左に示し、そしてその蛍光顕微鏡下で観察された切片を図10C右に示す。図10C右において、核はDAPIで対比染色されている。大腿骨遠位部は右に位置する。バーは1 mm(図10Aおよび図10B);50μm(図10C)を示す。
【0090】
[0111] 24週で、「欠損群」と「ゲル群」において、軟骨欠損が治癒していなかった(図10A)。「FBS群」では軟骨下骨がリモデリングされ、骨軟骨接合部が形成され、そして再生軟骨の厚さが正常軟骨とほぼ同様となった(図10B)。正常軟骨と再生軟骨との連続性は改善し、近位側ではその境界が明瞭でなくなった。DiI陽性細胞は軟骨部(cartilage zone)において依然として観察される(図10B右、図10C)。
【0091】
実施例7 軟骨再生の組織学的スコア
[0012] 本実施例では、発明者らは軟骨再生の組織学的スコアを調べた。
[0113] 以前に記載された軟骨欠損の組織学的評価尺度(Wakitani et al., 1994, J Bone Joint Surg Am. 76:579-92)を用いて、盲検組織学的観察を、定量化した(表1)。
【0092】
【表1】
【0093】
[0114] 組織学的スコアは盲検組織学的観察により調べられた。完全なスコアは14点であり、より少ないスコアが改善したことを示す。平均±SD(n=3)で記載する(表2)。
【0094】
【表2】
【0095】
[0115] 8週の「ゲル群」および24週の「欠損群」を除き、各時期において「FBS群」のスコアは、「ゲル群」および「欠損群」よりも顕著に高いスコアを示した(図11)。
実施例8 ヒトの軟骨再生に向けた滑膜間葉幹細胞を用いた新しい移植方法
[0116] 新規の薬剤や医療技術の開発にあたり、たとえ動物実験がよいデータを示したとしても、臨床研究がしばしば期待に沿わない結果や予期しない副作用を生じる。このことは、動物実験の結果が必ずしも臨床研究の結果と対応していないことを意味する。これは、細胞や組織の機能がヒトと他の動物との間で異なることによるものである。それゆえ、動物実験においてある仮説が真実だとしても、臨床応用のためにヒトにおいて、必ず確認する必要がある。
【0096】
[0117] それゆえ、本実施例では、軟骨損傷を治療するための、別のあらたな低侵襲性手技を提供する。本研究は東京医科歯科大学の学内倫理委員会で承認されたものであり、そしてすべてのヒト被検者には、患者本人の説明の上での同意を得た。
【0097】
[0118] 患者は25歳の男性であり、大腿骨内顆に軟骨欠損を生じている。滑膜採取1日前に、この患者から閉鎖式バッグシステム(JMS Co., Ltd, Hiroshima, Japan)中に100 mlの全血を採取した。この閉鎖式バッグシステムはガラスビーズが含まれる献血バッグからなる。バッグ内のこのガラスビーズは、30分間穏やかに振盪することにより、血小板を活性化剤として機能し、そしてフィブリンを除去する効果がある。血液バッグを7分間2000 Gで遠心後、血清を分離し、56℃で30分間非働化した後、-20℃で保存した。
【0098】
[0119] 腰椎麻酔下で、滑膜下組織を含む滑膜を内側関節包の内側から関節鏡下で鋭匙鉗子で採取した。
[0120] このようにして得られた滑膜(0.2 g)は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS; Invitrogen, Carlsbad, CA)中3 mg/mlのコラゲナーゼを含有する溶液中で37℃にて酵素処理した。3時間後に、酵素処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Beckton Dickinson)に通した。有核細胞(1300万個)は150 cm2のディッシュ25枚に播種し、そして完全培地〔α-改変イーグル培地(α-MEM;Invitrogen)、100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB(Invitrogen)に10%自己ヒト血清を添加したもの〕中で14日間培養した。TrypLE(Invitrogen)を37℃にて15分間使用して細胞を回収し、血球計算板を使用して計数して、初代の細胞数を調べた。
【0099】
[0121] 自家滑膜間葉幹細胞は、採取してから14日後に、移植した。腰椎麻酔下で、関節鏡視下にて、軟骨欠損部を覆う線維組織を郭清した。その後、大腿骨顆部の軟骨欠損部を上方に向けた。還流液をすべて排出した。1 mlの乳酸リンゲル(Lactec, Otsuka Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan)に4000万個の細胞を含む自家滑膜間葉幹細胞の懸濁液を1 mlの注射器を用いてゆっくりと注射することにより、軟骨欠損部を充填した。その後、体位を10分間保持した。
【0100】
[0122] 手術後1日後、膝の屈伸、および部分的体重付加運動(両松葉歩行)を開始した。患者は術後4週で松葉杖なしで歩行した。術後4日と2ヶ月時にMRI検査を行なった。
[0123] 4日時のMRI検査によると、大腿骨内顆の軟骨欠損が示され、一方2ヶ月時のMRI検査によると、軟骨欠損が軟骨様組織で充填されていた(図12)。
【0101】
実施例9 ラット広範囲半月板切除モデルの外来性滑膜間葉幹細胞による半月板再生
[0124] 本実施例において、本発明者らは、滑膜間葉幹細胞を移植することによる半月板再生を検討した。すべての研究は東京医科歯科大学の動物実験委員会の承認後に行なわれた。
【0102】
[0125] オスのルシフェラーゼ/lacZダブルトランスジェニックラットに、ペントバルビタールナトリウム(25 mg/kg)を腹腔内投与して麻酔をかけた後に、膝関節から滑膜を採取した。滑膜組織を細切し、V型コラゲナーゼ(0.2%;Sigma, Lakewood, NJ)で37℃にて3時間酵素処理後、70μmのフィルター(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を通した。滑膜由来の有核細胞を150 cm2ディッシュあたり104個播種し完全培地〔αMEM、Invitrogen, Carlsbad, CA;20%FBS、ヒト間葉幹細胞の急速な増殖について選択されたロット、Invitrogen;100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB、そして2 mM L-グルタミン、Invitrogen〕中で14日間、培養した。その後、0.25%トリプシンと0.02%EDTAにより処理した後に細胞を回収し、血球計算盤で細胞数を算定後、50細胞/cm2の細胞密度で再び播種した。細胞を14日後に回収し、Cryo 1℃Freezing Container(Nalgene Nunc International, Rochester, NY)を使用し、1 mlの凍結用保存液に106細胞を第1継代細胞として加えて、-80℃で凍結保存した。凍結細胞は37℃のウォーターバス内で急速に解凍し、150 cm2ディッシュに播種し、5日後に3〜4×106個の細胞を回収した。次いで、第2継代の細胞を104細胞/cm2で播種し、14日間培養後、第3継代細胞をさらなる解析および移植用に使用した。
【0103】
[0126] ラット(Sprague-Dawleyラット、n=30)を使用し、麻酔した。その後、膝前面に直皮切を置き、内側側副靭帯とともに関節包の前内側部を膝関節面で横切し展開後、内側半月板前半分を切除した。
【0104】
[0127] 閉創直後、27ゲージ針を膝蓋靭帯内側、内側大腿顆、そして内側脛骨顆により形成される三角形の中心に大腿骨顆間腔に向けて刺入した。50μlのPBSに浮遊させた5×106個のルシフェラーゼ/lacZダブルポジティブの滑膜間葉幹細胞を右膝関節内に注射した。コントロールとして、同量のPBSを左膝に注射し、その後、膝の屈伸を5回繰り返し、10分間、仰臥位とした(図13)。
【0105】
[0128] 局所接着群に対しては、切除半月板を下向きになるように膝を保持し(側臥位)、その体位を10分間保持した(図13)。その後、ラットをケージ内で自由に歩かせた。
[0129] 注射したルシフェラーゼ/lacZダブルポジティブの滑膜間葉幹細胞を、In Vitro Imaging System(IVIS)とX-gal染色により検出した。再生半月板は肉眼的に評価された。
【0106】
[0130] 注射1日後に行ったIn Vitro Imaging Systemによると、注射したルシフェラーゼ/LacZダブルポジティブ滑膜間葉幹細胞は、関節内に注射する場合よりも局所接着術による場合の方が内側半月板切除部位に、効率よく集簇した(図14)。
【0107】
[0131] 正常膝に注射された細胞よりも、半月板切除膝に注射された細胞の方が、より長く検出できた。重要なことに、注射したルシフェラーゼ/LacZダブルポジティブ滑膜間葉幹細胞は、注射した右膝以外の他の組織では検出されなかった。
【0108】
[0132] 滑膜間葉幹細胞は半月板再生を促進し、再生部位はLucZ陽性であったことから移植した間葉幹細胞があり、注射した細胞が直接半月板細胞に分化したことが示された(図16)。
【0109】
[0133] 関節軟骨は硝子軟骨から構成され、半月板は線維軟骨から構成される。ヒトの関節軟骨はヒト滑膜幹細胞の移植により再生することができ、ラットの半月板はラット滑膜幹細胞の移植により再生することができることを、私たちは確認した。これらのことは、ヒトの滑膜幹細胞移植がヒトの半月板欠損の再生を促進することを、軟骨・半月板の研究者に必然的に予測させるものである。
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成を利用して、患者の関節軟骨欠損または半月板欠損を治療する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[0002] 関節軟骨欠損や半月板欠損は、関節痛、可動域の減少、関節水腫、運動障害などを生じる。外傷で生じた関節軟骨欠損や半月板欠損で困っている患者は、通常整形外科医の治療を受ける。軟骨欠損や半月板欠損に対する外科的治療は、関節をさらに悪化させる要因となる破片を取り除き、患部関節の機能を回復させることを目的とする。
【0003】
[0003] 損傷の重篤度に応じて、関節軟骨損傷に対して、整形外科医によりいくつかの方法がしばしば推奨される。整形外科医により使用される方法の例としては骨髄刺激法、モザイクプラスティー法(骨軟骨柱移植、あるいは骨/軟骨プラグ移植とも呼ばれる)、及び自家軟骨細胞移植が含まれるある。
【0004】
[0004] 骨髄刺激法は、骨髄幹細胞を損傷部位に誘導することによって、軟骨修復を促進する方法である。軟骨下骨(subchondral bone plate)の一部を穿孔、除去し、骨髄(marrow cavity)からの出血を促すことにより行うものであり、2 cm2までの表面積の損傷部位に対して行うことができる。この方法は、シンプルで関節鏡視下で行うことができる点で利点があるが、欠損が硝子軟骨でなく線維軟骨で修復されるという点で欠点があり、そのために治療効果が不確実である。
【0005】
[0005] モザイクプラスティー法は、関節の非荷重部位から骨軟骨柱を採取し、モザイク様に軟骨損傷部に挿入することにより行うものである。本法は高い外科的正確性を要するので、骨軟骨自家移植(モザイクプラスティー)は、限られた施設でのみ行われている。しかし、骨髄刺激法により治療可能な損傷部位よりも、わずかに大きめな損傷部位を治療するために使用することができるという利点がある。さらに軟骨欠損部を硝子軟骨で修復できるという利点があり、より良い結果が期待できる。しかし正常軟骨組織に損傷を生じる点が依然として問題となる。
【0006】
[0006] 自家軟骨細胞培養移植(ACI)は現在欧米で実際に行われている方法である。この方法は2つのステップからなり、初めに患者自身の細胞を培養し、次にその細胞を移植する。最初のステップでは関節の非荷重部位から軟骨のバイオプシーサンプルを採取し、そのサンプルから軟骨細胞を単離し、軟骨細胞を二週間以上培養し、その後体内に戻す。次のステップで培養細胞を軟骨損傷部に移植し、必要であれば自家骨膜などの生体膜で欠損部を覆う。この方法では切り出す正常軟骨組織の総量をモザイクプラスティー法よりも減少させることが出来る。
【0007】
[0007] しかし、自家軟骨細胞培養移植(ACI)は正常軟骨組織に損傷を引き起こす点でやはり問題があると考えられる。また、取り出された軟骨細胞をin vitroで培養しなければならず、初代軟骨細胞はヒト血清で増殖させることが難しく、通常は10倍前後にしか増殖させることができないため、ウシ胎児血清などのヒト以外の動物血清が必要となり、または牛表皮由来のコラーゲンゲルなどの人工材料を使用することも必要である;手術法が侵襲が大きく複雑であるため、小さな軟骨欠損しか治療できない。
【0008】
[0008] 間葉幹細胞(MSCs)は細胞治療の潜在的な細胞源として期待されている。というのも、優れた自己再生(self-renewal)能と多分化能を有するからである(Pittenger et al., 1999, Science. 284:143-7)。骨髄が間葉幹細胞の細胞源として最も一般的なものであるという事実に加えて(Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4)、様々な研究により間葉幹細胞は種々の成体の間葉系組織、たとえば滑膜(De Bari, C. et al., 2001, Arthritis Rheum. 44:1928-42)、骨膜(Fukumoto, T. et al., 2003, Osteoarthritis Cartilage. 11:55-64)、脂肪組織(Zuk, P.A. et al., 2002, Mol Biol Cell. 13:4279-95)、筋肉組織(Cao et al., 2003, Nat Cell Biol. 5:640-6)などから単離できることが報告されている。
【0009】
[0009] 本発明者は、これまでに、ペレット重量が軟骨マトリクスの生成を反映することを報告してきた(Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402)。これらの結果により、骨髄由来間葉幹細胞は軟骨分化能を有し、in vitroで軟骨を形成することが示された。従って、間葉幹細胞は、自己の組織由来の細胞を使用できること、正常軟骨組織における損傷および侵襲を最小にできること、そして軟骨再生のために十分な数の細胞を確保できる可能性があること、といった観点から軟骨再生のための魅力的な細胞源と考えられている。
【0010】
[0010] 動物での多数の移植研究で、ex vivoで増殖された間葉幹細胞は周囲組織の細胞に分化することができ、外傷や疾患で損傷した組織の修復を行うことができたと報告されている(Awad et al., 1999, Tissue Eng. 5:267-77;Li and Huard, 2002, Am J Pathol. 161:895-907)。間葉幹細胞や細胞治療の情報の種類や量が増えているにもかかわらず、自己複製能や多分化能の機序に関しては現在も十分にはわかっていない。
【0011】
[0011] 全層関節軟骨欠損に対して、骨膜で覆いながらコラーゲンゲルに包埋した間葉幹細胞を移植する方法が試みられている。良好な結果を報告している研究もあるが(Adachi et al., 2002, J Rheumatol. 29:1920-30;Wakitani et al., 2002, Osteoarthritis Cartilage. 10:199-206)、ドナー細胞が直接軟骨細胞に分化したかどうか、ドナー細胞が軟骨形成にどのように寄与したかなどに関する多くの疑問が依然としてあり、軟骨損傷に対する臨床応用を制限している。
【0012】
[0012] 半月板は線維軟骨およびコラーゲンから構成される組織であり、大腿骨からの荷重分散、衝撃吸収、安定性に関する役割を有し、膝関節を安定化させその動きを円滑にする。半月板損傷は、捻挫や打撲などの外傷により、半月板が断裂することから生じる。半月板損傷に対する治療法はいくつかあり、半月板損傷の程度による。損傷範囲が狭い場合(例えば外縁部のわずかな断裂)には、外科医は損傷の保存治療を選択する。広範囲な損傷に対しては、外科医は、半月板縫合術や切除術を選択する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Pittenger et al., 1999, Science. 284:143-7
【非特許文献2】Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4
【非特許文献3】De Bari, C. et al., 2001, Arthritis Rheum. 44:1928-42
【非特許文献4】Fukumoto, T. et al., 2003, Osteoarthritis Cartilage. 11:55-64
【非特許文献5】Zuk, P.A. et al., 2002, Mol Biol Cell. 13:4279-95
【非特許文献6】Cao et al., 2003, Nat Cell Biol. 5:640-6
【非特許文献7】Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402
【非特許文献8】Awad et al., 1999, Tissue Eng. 5:267-77
【非特許文献9】Li and Huard, 2002, Am J Pathol. 161:895-907
【非特許文献10】Adachi et al., 2002, J Rheumatol. 29:1920-30
【非特許文献11】Wakitani et al., 2002, Osteoarthritis Cartilage. 10:199-206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
[0013] 本発明の目的は、滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成を利用して、関節軟骨欠損や半月板欠損を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[0014] 本発明者は、過去にヒトの骨髄などのさまざまな間葉系組織由来のヒト間葉幹細胞を比較し、他の組織由来の間葉幹細胞よりも滑膜由来の間葉幹細胞がex vivoで高い増殖能及び軟骨形成能を有することを報告した(Sakaguchi, et al. Arthritis Rhum. 2005)。これは、滑膜由来間葉幹細胞が軟骨再生の細胞源として最も優れていることを示すものである。
【0016】
[0015] したがって本発明は、軟骨欠損及び半月板欠損に関連する疾患の治療方法を提供する。本発明において、軟骨欠損及び半月板欠損に関連する疾患の治療方法は、次の工程
自家滑膜由来間葉幹細胞をex vivoで培養すること;
間葉幹細胞を移植して軟骨欠損部及び半月板欠損部を間葉幹細胞により被覆すること;そして
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることにより、in situで軟骨欠損部または半月板欠損部で軟骨組織を再生すること;
から構成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】[0016] 図1は、ウサギ由来の初代滑膜間葉幹細胞(MSC)の増殖中の形態を示す。
【図2】[0017] 図2は、ヒト自己血清またはウシ胎児血清を用いて培養した滑膜由来及び骨髄由来間葉幹細胞の単離および特徴を示す。
【図3】[0018] 図3は、継代数1での滑膜由来間葉幹細胞の分化の特徴を示す。
【図4】[0019] 図4は、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞のin vivoでの軟骨形成能を示す。
【図5】[0020] 図5は、滑膜由来間葉幹細胞を用いた、軟骨欠損部に移植するための低侵襲手技を示す。
【図6】[0021] 図6は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから1日、4、8、12、24週後の軟骨欠損部の肉眼所見を示す。
【図7】[0022] 図7は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから1日後の軟骨欠損部の組織学的解析像を示す。
【図8】[0023] 図8は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから4週後の軟骨欠損部の弱拡大の組織学的解析像を示す。
【図9】[0024] 図9は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから4週後の軟骨欠損部の強拡大の組織学的解析像を示す。
【図10】[0025] 図10は、滑膜由来間葉幹細胞を移植してから24週後の組織学的解析像を示す。
【図11】[0026] 図11は、滑膜由来間葉幹細胞を移植した後の軟骨欠損部の組織学的スコアを示す。
【図12】[0027] 図12は、軟骨欠損部のMRI像を示す。
【図13】[0028] 図13は、局所接着法の手技の概略図を示す。
【図14】[0029] 図14は、注射されたルシフェラーゼ/LacZ二重陽性滑膜由来間葉幹細胞が半月板欠損部に効果的に集まることを示す。
【図15】[0030] 図15は、注射したルシフェラーゼ/LacZ二重陽性滑膜間葉幹細胞が、間葉幹細胞が移植された膝以外の組織では検出されないことを示す。
【図16】[0031] 図16は、移植した滑膜間葉幹細胞が直接半月板軟骨細胞に分化したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[0032] 本発明を以下に詳細に記述する。
[0033] 本研究において、本発明者らは滑膜から間葉幹細胞を分離した。ex vivoで増殖した後、過塩素酸1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン(DiI)で標識した間葉系幹細胞を全層関節軟骨欠損部に移植した。詳細な組織学的解析により、移植した間葉幹細胞は時間経過とともに局所微小環境に応じて変化することが示された。局所微小環境は、骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域に分類された。分化培地により事前に誘導させなくても、間葉幹細胞のin situ軟骨形成により、関節軟骨欠損は修復された。このシステムは間葉幹細胞を軟骨に移植した後の細胞動態を詳細に解析することを可能にし、軟骨損傷に対する、間葉幹細胞の治療への応用を発展させた。
【0019】
[0034] 関節軟骨は硝子軟骨から構成され、半月板は線維軟骨から構成される。本発明者らはさらに、ヒト関節軟骨がヒト滑膜由来幹細胞の移植により再生されること、またラットの半月板がラット滑膜幹細胞移植により再生されることを確認した。
【0020】
[0035] 従って、本発明者らは、本研究において、半月板欠損部に、ルシフェラーゼ標識した間葉幹細胞を移植した。詳細な組織学的解析により、移植した間葉幹細胞は、局所微小環境に従って時間経過とともに変化し、そして半月板軟骨に分化することが示された。半月板欠損は、分化培地による事前の誘導を行うことなく、間葉幹細胞のin situ軟骨形成により修復された。
【0021】
[0036] したがって、本発明の方法は、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明において提供される軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための方法は、少なくとも次の工程:
自家滑膜由来間葉幹細胞(MSC)をex vivoで培養する工程;
軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞により覆うように、間葉幹細胞を移植する工程;そして
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることによって、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨組織を再生させる工程;
を含む。本発明において移植された間葉幹細胞は、局所微小環境に従って軟骨細胞に分化する。間葉幹細胞のin situ軟骨形成の結果、軟骨欠損部または半月板欠損部で軟骨組織が再生されて、欠損部が修復され、そして軟骨欠損の場合には骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域をもとの軟骨が天然軟骨組織として形成され、または半月板欠損の場合には半月板軟骨が形成される。
【0022】
[0037] 本発明においては、本発明の方法により治療される軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患は、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷からなる群より選択されるが、これらの疾患のみに限定されるものではない。
【0023】
[0038] 本発明の文脈において、間葉幹細胞は骨髄、滑膜、骨膜、脂肪組織、筋肉組織に存在することが知られており、そして骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、および筋細胞に分化する能力を有することが知られている。間葉幹細胞の軟骨細胞への分化に関連して、BMPあるいはTGF-βを培養液に添加することにより、未分化間葉幹細胞の軟骨細胞への分化が促進され、そして従って軟骨組織がin vitro条件下で再生できることが知られている。
【0024】
[0039] 本発明の方法において使用される移植した細胞は、未分化の間葉幹細胞である。私たちは以前の研究により、様々な間葉幹細胞(骨髄由来、骨膜由来、脂肪由来、筋肉由来の間葉幹細胞を含む)の中でも滑膜由来間葉幹細胞が高い軟骨形成能を有することを示した(Sakaguchi, et al. Arth Rheum. 2005)。このことは、滑膜由来間葉幹細胞がin situ軟骨再生の最適な細胞供給源である可能性があることを示している。従って、本発明の方法において移植される滑膜由来間葉幹細胞を使用することが好ましい。さらに、患者が移植後の同種移植片拒絶反応を起こすことを防ぐ観点から、本発明の方法において、自家滑膜由来間葉幹細胞を使用することが好ましい。
【0025】
[0040] トランスフォーミング増殖因子β3(TGF-β3)、デキサメタゾン、骨形成因子2(BMP-2)を添加した軟骨形成培地中で培養させる場合、間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させてin vitroで軟骨組織を作製することが可能であることが知られている。従って、本発明では、間葉幹細胞が軟骨細胞へ分化しないようにするため、TGF-β3、デキサメタゾン、またはBMP2の非存在下で、単離した間葉幹細胞を培養することが好ましい。
【0026】
[0041] 滑膜由来間葉幹細胞はin vitroでの間葉幹細胞の継代数と反比例して、in situ軟骨形成能が低下することも知られている。従って、未分化の培養間葉幹細胞を調製するため、初代あるいは第1継代での間葉幹細胞を用いることが好ましい。
【0027】
[0042] ex vivoで培養される滑膜組織は、麻酔下で関節の非荷重部分から採取される。切除された滑膜組織はコラゲナーゼやトリプシンなどのプロテアーゼで酵素処理され、そして処理した細胞を70μmのナイロンフィルター等のメッシュフィルターを通して濾過した。上記の方法で単離された有核細胞を、本発明において、滑膜由来幹細胞として使用する。例えば、自家血清を使用する場合、外科医は患者自身の血液を患者から滑膜組織を採取すると同時に、あるいは別の時に採血する。
【0028】
[0043] 軟骨欠損または半月板欠損を患う患者から単離された自己滑膜由来間葉幹細胞は、分化培地(TGF-β3、デキサメタゾン、またはBMP2を添加したα-MEM等)により事前に分化誘導させることなく、ex vivoで培養される。増殖された未分化滑膜由来間葉幹細胞は、次に滑膜由来間葉幹細胞が由来する患者に移植し戻される。増殖した間葉幹細胞を利用して軟骨欠損部または半月板欠損部を効率的に治療するため、10 cm2程度の大きさの軟骨欠損部または半月板欠損部あたり、少なくとも5×107個の未分化間葉幹細胞、より好ましくは1×108個の間葉幹細胞を適用することが、効率的に治療するために必要となる。
【0029】
[0044] 培養間葉幹細胞の培養期間と軟骨形成能との関係に関して、滑膜由来間葉幹細胞の軟骨細胞への分化は、培養期間が長くなるほど進行し、従って培養期間が特定の長さを超えると滑膜由来間葉幹細胞のin situでの軟骨形成能は減少することが知られている。そのため、本発明においては、滑膜由来間葉幹細胞を未分化の状態で、そして良好なin situ軟骨形成能を有する状態で増殖させるために、培養期間を調整することが好ましい。さらに本発明においては、軟骨欠損部を覆い、そして患部を再生させるために十分な数の未分化滑膜幹細胞を用意する必要性を考慮することが必要である。従って、単離された間葉幹細胞は、移植前に5日から28日間in vitroで培養し、最も好ましくは14日から28日間培養する。さらに本発明においては、数千万の細胞が得られるまで間葉幹細胞を培養する必要がある。
【0030】
[0045] このようにして培養した未分化間葉幹細胞を軟骨欠損部または半月板欠損部に移植し、それにより軟骨欠損部または半月板欠損部は間葉幹細胞で覆われる。間葉幹細胞の移植は、観血的手術により、または関節鏡視下手術により行われる。侵襲を出来る限り小さくするために、関節鏡視下に間葉幹細胞を移植することが好ましい。
【0031】
[0046] 軟骨欠損部または半月板欠損部は間葉幹細胞の懸濁液で覆われても、間葉幹細胞の細胞シートで覆われてもよい。例えば、ゼラチンやコラーゲンなどの生体吸収性のゲルをゲル状物質として使用することができる。間葉幹細胞は、軟骨欠損部や半月板欠損部に接着する能力が高い。結果として、本発明は、軟骨または半月板の欠損を治療するための新しい低侵襲性手技を提供する。
【0032】
[0047] 軟骨欠損の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、間葉幹細胞により軟骨欠損部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
軟骨損傷部を上方に向けるように体位を保持すること;
間葉幹細胞の細胞シート、間葉幹細胞の懸濁液、または間葉幹細胞を含むゲル状物質を関節軟骨欠損部の表面に静置すること;そして
特定の時間体位を保持して、それにより間葉幹細胞を軟骨欠損部の表面に接着させること;
を含む。
【0033】
[0048] 半月板欠損の治療の場合、本発明の低侵襲性手技は、間葉幹細胞により半月板欠損部を覆うことを特徴としており、以下のステップ:
半月板欠損部が下向きになるように体位を保持すること;
間葉幹細胞の懸濁液を膝関節内に注射すること;そして
特定の時間体位を保持して、間葉幹細胞を半月板欠損部に接着させること;
を含む。
【0034】
[0049] 軟骨欠損部あるいは半月板欠損部の表面に間葉幹細胞を確実に接着させるために、移植した間葉幹細胞を、軟骨欠損部あるいは半月板欠損部の表面に少なくとも10分間、好ましくは15分間、保持することが好ましい。これを実現するため、軟骨欠損部または半月板欠損部を上方に向けること、そして上方に向けた軟骨欠損部または半月板欠損部に間葉幹細胞を保持すること目的として、体位を少なくとも10分間、好ましくは15分間保持する。
【0035】
[0050] 間葉幹細胞を伴う軟骨欠損部や半月板欠損部をさらに、間葉幹細胞の軟骨欠損部または半月板欠損部への接着をより強固にするため、骨膜で覆うことができる。間葉幹細胞を軟骨欠損部の表面や半月板欠損部の表面に少なくとも10分間保持したのち手術は完了する。
【0036】
[0051] 本発明において、移植した間葉幹細胞は、軟骨欠損部や半月板欠損部で軟骨細胞に分化し、そして軟骨欠損部または半月板欠損部にてin situで軟骨組織を再生する。間葉幹細胞のin situでの軟骨形成過程のあいだ、局所微小環境(栄養供給およびサイトカイン環境など)に従って、軟骨組織が再生するため、外部からの操作は必要とされない。間葉幹細胞のin situ軟骨形成の結果、軟骨組織が軟骨欠損部または半月板欠損部にて再生されて、欠損を修復し、そして軟骨欠損の場合には骨領域、軟骨と骨との境界、軟骨中心部、表面領域、そしてもとの軟骨に隣接する領域をもとの軟骨組織として形成し、または半月板欠損の場合には半月板軟骨を形成する。
【0037】
[0052] 上述の通り、本発明者らは、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患(外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷など)が、間葉幹細胞(MSCs)を用いて治療できることを証明した。従って、本発明においては、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患を治療するための調製物をも提供することができる。調製物は、軟骨欠損部や半月板欠損部に移植される間葉幹細胞を含むことを特徴とする。
【0038】
[0053] 上述の調製物により治療される適応例は、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨炎、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
[0054] 本発明について、特定の好ましい態様に関して記述してきた。以下の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供されるが、これらの実施例は本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【0040】
[0055] 実施例において、差を評価するための分散分析(ANOVA)およびスチューデントのt-テストを用いた。P<0.05を統計学的有意とした。
【実施例】
【0041】
実施例1 ウサギ滑膜由来間葉幹細胞の分離
[0056] 本実施例は、ウサギから滑膜由来間葉幹細胞を採取するための方法を示すものである。
【0042】
[0057] 平均3.2 kg(2.8〜3.6 kg)の骨格的に成熟した日本白色家兎を研究に用いた。動物実験は東京医科歯科大学動物実験委員会のガイドラインに厳密にしたがって、行なった。25 mg/kg塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgペントバルビタールナトリウムの静脈内注射により誘導された麻酔下で、滑膜を採取した。
【0043】
[0058] 得られたウサギの滑膜はαMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)中3 mg/mlコラゲナーゼD溶液(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)で、37℃で酵素処理された。3時間の酵素処理の後、処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)を用いて濾過し、そして残存した細胞を廃棄した。
【0044】
[0059] 得られた有核細胞を完全培地中〔10%FBS(Invitrogen;骨髄由来間葉幹細胞が急速に増殖するように選択されたロット)、100 units/mlペニシリン(Invitrogen)、100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)、および250 ng/mlアンホテリシンB(Invitrogen)を添加したαMEM〕にて5×104細胞/cm2で60 cm2培養ディッシュ(Nalge Nunc International, Rochester, NY, USA)中に播種し、そして加湿、5%CO2、37℃条件下の細胞インキュベーター中で培養した。3,4日ごとに培地交換し、非接着細胞を取り除き、その後まき直しをすることなく初代として14日間培養した。細胞をトリプシン処理し、回収し、そして第1継代細胞として50細胞/cm2で145 cm2培養ディッシュに播種した(Sekiya, I., et al., 2002, Stem Cells. 20:530-41)。さらに14日間増殖させた後、回収した細胞を5%ジメチルスルホキシド(Wako, Osaka, Japan)および20%FBSを含むαMEM中1×106細胞/mlの濃度で再懸濁し、凍結保存した。一部(1 ml)をゆっくりと凍結し、そして液体窒素中で凍結保存した(第2継代細胞)。細胞を増殖させるため、細胞の凍結バイアルを融解し、完全培養液を入れた145 cm2培養用ディッシュに播種し、リカバリープレート中で37℃、5%CO2、加湿条件下で4日間培養した。
【0045】
[0060] 接着細胞を連続的に観察したところ、多角形細胞と紡錘形細胞の2種類の単一細胞由来コロニーが示された:大型で高密度のコロニーは、小型で紡錘形の細胞から構成され、小さくて低密度のコロニーは、大型で多角形の細胞から構成された(図1)。細胞を示された日数に写真撮影した(バー:100μm)。紡錘形の細胞は、多角形の細胞よりもはるかに早く増殖し;その結果14日後には多数の紡錘形の細胞により構成されるに至った。
【0046】
実施例2 ヒト自己血清を用いたヒト滑膜由来間葉幹細胞の分離と特徴
[0061] 本実施例において、本発明者らはヒトの滑膜由来間葉幹細胞と骨髄由来間葉幹細胞を分離し、その特徴を明らかにした。
【0047】
(i) ヒト間葉幹細胞の分離とその増殖効果
[0062] 本研究は東京医科歯科大学の学内倫理委員会により承認され、全ての被験者の同意を得て行われた。ヒト滑膜と骨髄は8人の患者(27±5歳)から膝前十字靭帯(ACL)再建術の際に採取された。
【0048】
[0063] 脛骨由来の骨髄は再建靱帯を挿入するためにドリルで穴を開ける直前に18ゲージ針で吸引した。大腿骨内側顆の非軟骨領域を覆う内側関節包の内側から得られた滑膜下組織を伴う滑膜は、鋭匙鉗子を用いて関節鏡視下にて採取した。前十字靭帯(ACL)再建術1日前に、すべてのドナーから100 mlの全血を採取し、ヒト血清を分離した。骨髄由来の有核細胞は比重法(Ficoll-Paque; Amersham Biosciences)で分離した。
【0049】
[0064] 滑膜は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS; Invitrogen)中3 mg/mlコラゲナーゼD溶液(Roche Diagnostics)で、37℃にて酵素処理した。3時間後、処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Beckton Dickinson)を通し、そして残存した組織は廃棄した。
【0050】
[0065] 滑膜由来の有核細胞を1×104細胞/cm2で播種し、そして骨髄由来の有核細胞はコロニーを形成する細胞密度で直径10 cmディッシュに播種し、完全培地中で培養した。完全培地は、10%自己ヒト血清、または20%ウシ胎児血清(骨髄由来間葉幹細胞の急速な増殖に関して選択したロット)を含有する、α改変イーグル培地(αMEM)、100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB(全てInvitrogen)であった。初代培養の段階で次の4つの群の細胞を調製した:1)ヒト自己血清とともに培養する滑膜間葉幹細胞、2)FBSとともに培養する滑膜間葉幹細胞、3)ヒト自己血清とともに培養する骨髄間葉幹細胞、4)FBSとともに培養する骨髄間葉幹細胞。培養開始14日後に、0.25%トリプシンと1 mM EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸;Invitrogen)添加して37℃、5分間反応させて、4群の細胞を回収し、血球計算盤を使用して細胞数を測定し、初代細胞の数を計測した。
【0051】
[0066] ヒト自己血清とともに培養した初代のヒト滑膜間葉幹細胞および骨髄間葉幹細胞の採取数を図2Aに示した。221±113 mgの滑膜由来の有核細胞、または2±2 mlの骨髄液由来の有核細胞を播種し、14日間培養し、そして回収した。これらの組織は、10人のドナーから回収し、そして採取数を個々に示している。
【0052】
[0067] 増殖能を調べるために、上述の4グループのそれぞれから得た細胞を50細胞/cm2で第1継代細胞として播種し、そして10%ヒト自己血清または20%FBSとともに14日間培養した。播種後14日後に細胞を回収し、細胞数を求めた。
【0053】
[0068] 第1継代の滑膜間葉幹細胞及び骨髄間葉幹細胞に対する、ヒト血清及びウシ胎児血清の増殖効果の比較を図2Bに示す。10人のドナー由来の滑膜間葉幹細胞及び骨髄間葉幹細胞を50細胞/cm2で播種し、ヒト自己血清またはFBSとともに14日間培養し、その結果の増殖率と標準偏差が示してある(ドナーについてn=3)。
【0054】
[0069] 図2は、ヒト滑膜由来間葉幹細胞はヒト自己血清を使用するほうが、ウシ胎児血清を使用するよりもよく増殖することを示している。反対に、骨髄由来間葉幹細胞はウシ胎児血清を使用するほうがヒト自己血清を使用するよりも、よく増殖することを示す。確かに、骨髄由来間葉幹細胞はヒト自己血清の存在下で増殖することができる;しかし、骨髄由来間葉幹細胞の増殖速度は細胞間での差が大きい。これらのデータを検討し、そしてヒト以外の動物由来の材料を使用することが好ましくないことを考慮すると、ヒト自己血清を用いて増殖させた滑膜由来間葉幹細胞を再生医療用の細胞として用いるのが望ましいことは明らかである。
【0055】
(ii)分化アッセイ
[0070] 間葉幹細胞は、間葉系組織由来の細胞として、そしてコロニー形成単位-線維芽細胞アッセイ(Friedenstein, A.J., 1976, Int Rev Cytol. 47:327-59)により一般的に特定される自己再生能と、多数の分化した子孫を生み出す多分化能(McKay, R., 1997, Science. 276:66-71;Prockop, D.J., 1997, Science. 276:71-4)を有するものと定義される。
【0056】
[0071] 細胞コロニー形成能を調べるために、第1継代の滑膜由来細胞を60 cm2培養ディッシュあたり100個、6枚に播種し、14日間培養して、細胞コロニーを形成させた。3枚のディッシュはメタノール中0.5%のクリスタル・バイオレットで5分間染色した。細胞を蒸留水で2回洗浄し、そしてディッシュあたりのコロニー数を測定して、コロニー形成効率を評価した(図3A)。直径2 mm以下で、わずかに染色されるコロニーは除外した。残りの3枚のディッシュからは、全細胞数を測定し、そして1コロニーあたりの細胞数を求めて、増殖活性を評価した(Sakaguchi et al., 2004, Blood. 104:2728-35)。
【0057】
[0072] より大きくて細胞が密集したコロニーは、紡錘形の細胞から構成されている(図3B;バー:50μm)。第1継代の細胞のコロニー形成単位効率は60±5%(平均±SD、n=3)であり、1コロニーあたりの細胞数は6774±437細胞であった。
【0058】
[0073] 脂肪形成能に関して、60 cm2ディッシュあたり100個の細胞を播種し、α-MEMに基づく完全培地中で14日間培養して、細胞コロニーを形成させた(上述の通り)。10-7M デキサメタゾン(Sigma-Aldrich Corp. St. Louis, MO, USA)、0.5 mMイソブチルメチルキサンチン(Sigma-Aldrich Corp.)、そして50μMのインドメタシン(Wako, Tokyo, Japan)を添加した完全培地からなる脂肪形成培地に切り替え、そして細胞をさらに21日間培養した。脂肪形成培養物は、4%パラフォルムアルデヒドで固定し、新しいオイルレッド-O溶液で染色し、そしてオイルレッド-Oに陽性なコロニーを数えた。直径2 mm以下で、わずかに染色されるコロニーは除外した。脂肪形性培養物は、クリスタルバイオレットで染色後、全細胞コロニーを数えた(Sekiya, I, et al., 2004, J Bone Miner Res. 19:256-64)。赤色の脂肪細胞コロニーは赤色で示され(図3C)、またオイルレッド-O陽性細胞の強拡大像を図3Dに示す(バー:25μm)。
【0059】
[0074] 骨形成能に関して、150 cm2ディッシュあたり100細胞を播種し、完全培地中で14日間培養した。次いで培地を、1×10-9 M デキサメタゾン、20 mMβ-グリセロールホスフェート(Wako)、50μg/mlのアスコルベート-2-ホスフェート(Sigma-Aldrich Corp.)を添加した完全培地からなる骨分化培地に変え、そしてさらに21日間培養した。骨分化させた細胞は0.5%アリザリン・レッド溶液で染色し、アリザリン・レッド陽性コロニー数を数えた。その後、骨分化培養物をクリスタルバイオレットで染色し、全細胞コロニー数を数えた。直径2 mm以下、または黄色のコロニーは除外した(Sakaguchi et al., 2004, Blood. 104:2728-35)。骨分化したコロニーを赤色で示した(図3E);アリザリン・レッド陽性細胞の強拡大像を図3Fに示す(バー:250μm)。
【0060】
[0075] 脂肪形成させたオイルレッド-O陽性コロニーの割合は74±6%(n=3)、そしてアリザリン・レッド陽性コロニーの割合は79±6%であった(n=3)。
実施例3 滑膜由来間葉幹細胞の軟骨形成能
[0076] 本実施例は、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞の体外での軟骨形成能を示すものである。
【0061】
[0077] ex vivoでの軟骨形性のため、25万個の細胞を15 mlのポリプロピレンチューブ(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)に入れ、450 Gで10分間遠心した。ペレットを軟骨形成培地で培養した。軟骨形成培地は高グルコース入りダルベッコ改変イーグル培地(DMEM高グルコース;Invitrogen Corp, Carlsbad, CA, USA)に500 ng/ml BMP-2(骨形成因子-2;Yamanouchi Pharmaceutical, Tokyo, Japan)、10 ng/ml TGF-β3(トランスフォーミング増殖因子-β3;R&D Systems. Minneapolis, MN, USA)、100 nMデキサメタゾン(Sigma-Aldrich Corp. St. Louis, MO, USA)、50μg/mlアスコルベート-2-ホスフェート、40μg/mlプロリン、100μg/mlピルビン酸、1:100希釈ITS+Premix(BD Biosciences. Bedford, MA, USA;6.25μg/mlインスリン、6.25μg/mlトランスフェリン、6.25 ng/mlセレン酸、1.25 mg/mlウシ血清アルブミン、5.35 mg/mlリノレン酸)を添加したものである。顕微鏡的評価のために、ペレットをパラフィン包埋し、5μm切片に薄切し、トルイジンブルーで染色した。
【0062】
[0078] 第2継代の細胞を、αMEM中1×106 細胞/mlで再懸濁し、そして蛍光脂溶性トレーサー過塩素酸1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン(DiI;Molecular Probes, Eugene, OR, USA)をαMEM中5μl/mlで添加した。37℃にて5%加湿下CO2で20分間インキュベートした後、細胞の一部を450 gで10分間遠心した。ペレットを軟骨形成培地中で培養した。蛍光顕微鏡用に、ペレットをパラフィンに包埋し、5μm厚の切片に薄切した。核はDAPIで対比染色した(Sekiya, I., et al., 2001, Biochem Biophys Res Commun. 284:411-8;Sekiya, I., et al., 2005, Cell Tissue Res. 320:269-76)。
【0063】
[0079] ペレットのマクロ像を、1 mmのスケールとともに示す(図4A)。細胞ペレットは培養期間の経過とともに大きくなり、そして21日後に透明の球状となった(図4A左)。DiIで標識した細胞ペレットも増大し球状となったが、全体的にはピンクがかった色となった(図4A右)。
【0064】
[0080] DiIで標識しない細胞(図4B)、DiIで標識した細胞(図4C)の組織切片をトルイジンブルー染色した。組織学的解析により、軟骨基質の存在が示された(図4B)。
[0081] DiIで標識しない細胞(図4D)、DiIで標識した細胞(図4E、図4F)の蛍光顕微鏡による観察像を示す。核をDAPIで対比染色した(図4F)。DiIの蛍光は細胞外基質に漏出することなく、少なくても21日間高度に保たれた(図4E、図4F)。
【0065】
[0082] DiIで標識しない細胞、およびDiIで標識した細胞ペレットの湿重量を示す(図4G)。DiIで標識した細胞のペレットの重量は、対照細胞由来のものよりも軽かった(図4G)。
【0066】
[0083] 本発明者らは、これまでペレットの重量は軟骨基質の産生を反映することを報告した(Sekiya, I., et al., 2002, Proc Natl Acad Sci U S A. 99:4397-402)。これらの結果から、ウサギ滑膜由来間葉幹細胞はDiIで標識した後も軟骨に分化する能力を維持するが、軟骨形成はいくらか抑制されることが示された。
【0067】
[0084] バーは、50μm(図4B、図4C);250μm(図4D、図4E);25μm(図4F)を示す。データは平均±標準偏差で示される。非対応t-テストによりP<0.05(n=3)である。
実施例4 軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技の開発
[0085] 本実施例においては、軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技を提示する。
【0068】
[0086] 軟骨欠損を治療するための新たな低侵襲性手技のスキームを図5に示す。
[0087] 間葉幹細胞は軟骨欠損部に対する接着能力が高い。間葉幹細胞を軟骨欠損部に留めておくために、軟骨欠損部を真上に向けるように体位を保持し、そして次いで、間葉幹細胞を上方に向いた軟骨欠損部に設置することができる。
【0069】
[0088] その後、間葉幹細胞の懸濁液により、またはコラーゲンゲルに包埋した間葉幹細胞により、軟骨欠損部を覆う。軟骨欠損部の表面に間葉幹細胞を10分間保持した後、操作を終了する。
【0070】
[0089] 本実施例においては、軟骨欠損部への間葉幹細胞の接着をより確実にするために、間葉幹細胞を伴う軟骨欠損部を骨膜によりさらに覆った。
実施例5 in vivoへの移植と組織学的解析
[0090] 本実施例において、本発明者らは滑膜由来間葉幹細胞の移植後に、軟骨欠損の肉眼的観察を行なった。
【0071】
[0091] 平均2.9 kg(2.6〜3.3 kgの範囲)の骨格的に成熟した日本白色家兎が実験に用いられた。動物の管理は東京医科歯科大学の動物実験委員会の指針に厳密に沿って行なわれた。
【0072】
[0092] 滑膜と全血は、25 mg/kgの塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgのペントバルビタールナトリウムの静注により誘導された麻酔下で、採取された。ウサギ血清は、ヒト血清と同様の方法で、全血から分離された。
【0073】
[0093] 滑膜組織を左膝より採取し、HBSS中3 mg/mlのコラゲナーゼD溶液中で37℃にて酵素処理した。3時間後、処理細胞を、70μmのナイロンフィルターに通し、残りの組織を廃棄した。有核細胞を直径150 mmのディッシュ3枚に播種し、抗生物質および10%自家ウサギ血清、または20%ウシ胎児血清を添加したαMEM中で培養した。細胞を播種してから14日後に、0.25%トリプシンと1 mM EDTAを37℃にて5分間使用して細胞を間葉幹細胞として回収し、そして血球計算板を用いて細胞数を算出した。
【0074】
[0094] 細胞は、実施例3で記述した方法に従い、DiI標識した。DiIを使用して、以下に記載するように、動物実験で移植細胞を検出した。回収したDiI標識細胞を450 gで5分間遠心し、PBSで2回洗浄し、そして5×106個のDiI標識細胞を、20%ウシ胎児血清を添加したαMEM、50μlに再懸濁させた。次に、同量のコラーゲンゲル(アテロコラーゲン;3%の1型コラーゲン、Koken, Tokyo, Japan)と混合し、5×107細胞/mlの濃度で100μlのコラーゲンゲル-間葉幹細胞混合物中で包埋し、それを移植用に使用した。
【0075】
[0095] 手術は麻酔下で行なった。間葉幹細胞を軟骨欠損部に移植する詳細な方法は、実施例4で記述した。25 mg/kgの塩酸ケタミン筋注と45 mg/kgのペントバルビタールナトリウムの静注によりウサギを麻酔し、右膝関節を内側傍膝蓋アプローチで切開し、膝蓋骨を外側に移動させた。5 mm×5 mmの大きさ、深さ3 mmの全層骨軟骨欠損を大腿骨の膝蓋骨溝に作成し、そしてウサギは、「欠損群」「ゲル群」「FBS群」「自家血清群」の4群に分けた。
【0076】
[0096] 「欠損群」では、欠損部に対して何も処置をしなかった。「ゲル群」では、細胞を含有せず、20%ウシ胎児血清を含むα-MEMとコラーゲンゲルを等量含む混合物により欠損部を充填した。「FBS群」では、20%ウシ胎児血清を添加したα-MEM中で培養し、5×107細胞/mlの濃度でコラーゲンゲル中に均一に包埋したDiI染色した自家間葉幹細胞により欠損部に充填した。「自家血清群」では、10%自家血清を添加したαMEM中で培養し、5×107細胞/mlの濃度でコラーゲンゲルに均一に包埋したDiI染色した自家間葉幹細胞により欠損部を充填した。「FBS群」、「自家血清群」では、軟骨欠損部を骨膜でさらに覆った。術後、すべてのウサギをケージに戻し、運動、および飲食を自由にさせた。
【0077】
[0097] 動物は術後1日、4、8、12、24週後に、致死量のペントバルビタールナトリウムを用いて安楽死させた。サンプルをまず、色調、周囲組織との連続性、平滑さの観点から、肉眼的に観察した。変形性関節症性の関節の変化と滑膜炎の有無も調べた。その後、大腿骨遠位部を摘出し、写真撮影した。手術後1日、4、8、12、24週後の大腿骨顆部を図6に示す。
【0078】
[0098] 1日後、「欠損群」では、軟骨欠損部が血餅で覆われていた。一方、「FBS群」と「自家血清群」では、軟骨欠損部が間葉幹細胞層で覆われていた。4週後、「欠損群」では軟骨欠損部の中央がわずかに白く見えた。一方、「FBS群」と「自家血清群」では、軟骨欠損部が移植した間葉幹細胞由来の軟骨基質で充填された。「FBS群」と「自家血清群」では、再生軟骨組織と隣接軟骨組織の連続性が、「欠損群」より良好であった。
【0079】
[0099] 「欠損群」では8週後、軟骨欠損が斑点状の白っぽい外観を呈し、12週では大きさが少し小さくなり、24週にはさらに小さくなった。しかしながら、欠損は依然として観察された。「ゲル群」では、骨膜と隣接軟骨とのあいだの境界が8週になるとさらに平滑になった。しかし、24週になっても骨膜はまだはっきりと観察された。「欠損群」と「ゲル群」のサンプルのなかには、滑車溝の辺縁に緩やかな骨棘形成が観察されるものがあった。「FBS群」と「自家血清群」では、8週で、骨膜で覆われた軟骨欠損は光沢を増し、平滑となり、隣接軟骨と同様となり、そして12週以降では、修復された組織の辺縁部は周囲の正常軟骨と連続した(図6)。
【0080】
実施例6 組織学的検討と蛍光顕微鏡による観察
[0100] 本実施例において、本発明者は組織学的検討と蛍光顕微鏡による観察を行なった。
【0081】
[0101] 摘出された大腿骨遠位部は、4%パラフォルムアルデヒド溶液ですぐに固定した。標本は4%EDTA溶液で脱灰し、段階的エタノール系列で脱水し、パラフィンブロックに包埋した。各欠損部の中心を通る矢状切片(厚さ5μm)を観察し、そしてトルイジンブルー染色した。DiIの蛍光顕微鏡可視化のための専用の切片は、トルイジンブルーによる染色を行なわず、そして核をDAPIで対比染色した。
【0082】
[0102] 免疫組織学的検討を次のように行った。パラフィン包埋した切片をキシレンで脱パラフィン化し、段階的アルコールで脱水した。サンプルを、Tris-HCl中0.4 mg/mlのプロテイネースK(DAKO, Carpinteria, CA, USA)で、室温で15分抗原検索のために前処理した。残りの酵素活性をPBS中での洗浄で取り除き、10%正常ウマ血清を含有するPBSにより室温で20分間非特異的染色をブロックした。一次抗体(1型、及び2型コラーゲン;Daiichi Fine Chemical, Toyama, Japan)を切片上で、室温で1時間反応させた。PBSで十分に洗浄した後、ビオチン化した抗マウスIgGウマ抗体(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を二次抗体として切片上で、室温で30分反応させた。免疫染色はベクタステインABC試薬(Vector Laboratories)を使用し、その後DAB染色することにより検出した。マイヤーヘマトキシリンで、対比染色した。
【0083】
[0103] 本実施例において、本発明者らは、移植後1日、4、8、12、24週に組織学的データを回収した。結果として、移植後1日、4週、24週の組織学的データを示す。
(i) 移植後1日の組織学的解析
[0104] 移植後1日の組織学的解析を図7に示す。軟骨欠損の矢状切片を、「欠損群」(図7A上)、「ゲル群」(図7A下)、および「FBS群」(図7B上)において、トルイジンブルーで染色した。蛍光顕微鏡での「FBS群」の連続切片を図7B下に示す。
【0084】
[0105] 1日後、「欠損群」では、欠損部が血餅で充填された(図7A上)。「ゲル群」では、欠損部でコラーゲンゲルを骨膜で被覆し、ゲルと骨梁との間に血餅が観察された(図7A下)。「FBS群」では、欠損が間葉幹細胞を含有するコラーゲンゲルで充填され、骨膜で覆われた(図7B上)。DiI標識とDAPIでの核染色により、移植した間葉幹細胞が「FBS群」の欠損領域に存在することが確認された(図7B下)。
【0085】
[0106] 図7B上の、トルイジンブルーで染色された四角で囲った領域の強拡像(図7C左)と「FBS群」に関する蛍光顕微鏡下での像である(図7C右)。図7C右では核はDAPIで対比染色している。大腿骨遠位部は右側に位置している。バーは1 mm(図7Aおよび図7B);50μm(図7C)を示す。
【0086】
(ii)移植後4週の組織学的解析
[0107] 移植後4週の「欠損群」(図8A上)、「ゲル群」(図8A下)の、トルイジンブルー染色した軟骨欠損部の矢状断像を示す。移植後4週には「欠損群」では、線維組織が部分的に欠損を充填した(図8A上)。「ゲル群」では骨膜がまだ残存し(図8A下)、少数の細胞を伴うコラーゲンゲルが認められる(データは未掲載)。軟骨細胞様細胞が欠損の周縁領域で部分的に認められるが(データは未掲載)、軟骨基質の産生量は乏しいように見えた。
【0087】
[0108] 図8B上の四角で囲ったトルイジンブルー染色した領域の強拡像(図9左)と蛍光顕微鏡像(図9右)を示す。核はDAPIで対比染色している(図9右)。大腿骨遠位部は右に位置する。バーは1 mm(図8);50μm(図9Bおよび図9D);25μm(図9Aおよび図9C)を示す。
【0088】
[0109] 「FBS群」では欠損のほとんどと骨膜は軟骨基質で満たされていた(図9B上)。DiI陽性細胞の数は減少したが(図9B下)、それらは軟骨細胞に分化した(図9A)。骨膜の残りは薄くなり、残った骨膜の軟骨基質量(図9B)は再生軟骨中央部(図9A)よりも少なかった。残った骨膜内の細胞はDiI陰性であったが、残った骨膜に隣接する領域に存在する多くの軟骨細胞はDiI陽性であった(図9B)。DiI陽性の肥大軟骨細胞は軟骨部(cartilage zone)の深層部で観察された(図9C)。また、欠損の深層部は部分的に新しく形成された海綿骨で置換され、その骨を構成する細胞のなかにはDiI陽性細胞も観察された(図9D)。対照的に、髄腔内の細胞はDiI陰性であった。
【0089】
(iii)移植後24週の組織学的解析
[0110] 移植後24週の、トルイジンブルー染色による軟骨欠損部の矢状断像を示す。「欠損群」(図10A上)、「ゲル群」(図10A下)、「FBS群」(図10B上)。「FBS群」の連続切片を蛍光顕微鏡下で観察した(図10B下)。図10B上の四角で囲った領域の強拡像を図10Cに示し、そこでトルイジンブルー染色した切片を図10C左に示し、そしてその蛍光顕微鏡下で観察された切片を図10C右に示す。図10C右において、核はDAPIで対比染色されている。大腿骨遠位部は右に位置する。バーは1 mm(図10Aおよび図10B);50μm(図10C)を示す。
【0090】
[0111] 24週で、「欠損群」と「ゲル群」において、軟骨欠損が治癒していなかった(図10A)。「FBS群」では軟骨下骨がリモデリングされ、骨軟骨接合部が形成され、そして再生軟骨の厚さが正常軟骨とほぼ同様となった(図10B)。正常軟骨と再生軟骨との連続性は改善し、近位側ではその境界が明瞭でなくなった。DiI陽性細胞は軟骨部(cartilage zone)において依然として観察される(図10B右、図10C)。
【0091】
実施例7 軟骨再生の組織学的スコア
[0012] 本実施例では、発明者らは軟骨再生の組織学的スコアを調べた。
[0113] 以前に記載された軟骨欠損の組織学的評価尺度(Wakitani et al., 1994, J Bone Joint Surg Am. 76:579-92)を用いて、盲検組織学的観察を、定量化した(表1)。
【0092】
【表1】
【0093】
[0114] 組織学的スコアは盲検組織学的観察により調べられた。完全なスコアは14点であり、より少ないスコアが改善したことを示す。平均±SD(n=3)で記載する(表2)。
【0094】
【表2】
【0095】
[0115] 8週の「ゲル群」および24週の「欠損群」を除き、各時期において「FBS群」のスコアは、「ゲル群」および「欠損群」よりも顕著に高いスコアを示した(図11)。
実施例8 ヒトの軟骨再生に向けた滑膜間葉幹細胞を用いた新しい移植方法
[0116] 新規の薬剤や医療技術の開発にあたり、たとえ動物実験がよいデータを示したとしても、臨床研究がしばしば期待に沿わない結果や予期しない副作用を生じる。このことは、動物実験の結果が必ずしも臨床研究の結果と対応していないことを意味する。これは、細胞や組織の機能がヒトと他の動物との間で異なることによるものである。それゆえ、動物実験においてある仮説が真実だとしても、臨床応用のためにヒトにおいて、必ず確認する必要がある。
【0096】
[0117] それゆえ、本実施例では、軟骨損傷を治療するための、別のあらたな低侵襲性手技を提供する。本研究は東京医科歯科大学の学内倫理委員会で承認されたものであり、そしてすべてのヒト被検者には、患者本人の説明の上での同意を得た。
【0097】
[0118] 患者は25歳の男性であり、大腿骨内顆に軟骨欠損を生じている。滑膜採取1日前に、この患者から閉鎖式バッグシステム(JMS Co., Ltd, Hiroshima, Japan)中に100 mlの全血を採取した。この閉鎖式バッグシステムはガラスビーズが含まれる献血バッグからなる。バッグ内のこのガラスビーズは、30分間穏やかに振盪することにより、血小板を活性化剤として機能し、そしてフィブリンを除去する効果がある。血液バッグを7分間2000 Gで遠心後、血清を分離し、56℃で30分間非働化した後、-20℃で保存した。
【0098】
[0119] 腰椎麻酔下で、滑膜下組織を含む滑膜を内側関節包の内側から関節鏡下で鋭匙鉗子で採取した。
[0120] このようにして得られた滑膜(0.2 g)は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS; Invitrogen, Carlsbad, CA)中3 mg/mlのコラゲナーゼを含有する溶液中で37℃にて酵素処理した。3時間後に、酵素処理細胞を70μmのナイロンフィルター(Beckton Dickinson)に通した。有核細胞(1300万個)は150 cm2のディッシュ25枚に播種し、そして完全培地〔α-改変イーグル培地(α-MEM;Invitrogen)、100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB(Invitrogen)に10%自己ヒト血清を添加したもの〕中で14日間培養した。TrypLE(Invitrogen)を37℃にて15分間使用して細胞を回収し、血球計算板を使用して計数して、初代の細胞数を調べた。
【0099】
[0121] 自家滑膜間葉幹細胞は、採取してから14日後に、移植した。腰椎麻酔下で、関節鏡視下にて、軟骨欠損部を覆う線維組織を郭清した。その後、大腿骨顆部の軟骨欠損部を上方に向けた。還流液をすべて排出した。1 mlの乳酸リンゲル(Lactec, Otsuka Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan)に4000万個の細胞を含む自家滑膜間葉幹細胞の懸濁液を1 mlの注射器を用いてゆっくりと注射することにより、軟骨欠損部を充填した。その後、体位を10分間保持した。
【0100】
[0122] 手術後1日後、膝の屈伸、および部分的体重付加運動(両松葉歩行)を開始した。患者は術後4週で松葉杖なしで歩行した。術後4日と2ヶ月時にMRI検査を行なった。
[0123] 4日時のMRI検査によると、大腿骨内顆の軟骨欠損が示され、一方2ヶ月時のMRI検査によると、軟骨欠損が軟骨様組織で充填されていた(図12)。
【0101】
実施例9 ラット広範囲半月板切除モデルの外来性滑膜間葉幹細胞による半月板再生
[0124] 本実施例において、本発明者らは、滑膜間葉幹細胞を移植することによる半月板再生を検討した。すべての研究は東京医科歯科大学の動物実験委員会の承認後に行なわれた。
【0102】
[0125] オスのルシフェラーゼ/lacZダブルトランスジェニックラットに、ペントバルビタールナトリウム(25 mg/kg)を腹腔内投与して麻酔をかけた後に、膝関節から滑膜を採取した。滑膜組織を細切し、V型コラゲナーゼ(0.2%;Sigma, Lakewood, NJ)で37℃にて3時間酵素処理後、70μmのフィルター(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を通した。滑膜由来の有核細胞を150 cm2ディッシュあたり104個播種し完全培地〔αMEM、Invitrogen, Carlsbad, CA;20%FBS、ヒト間葉幹細胞の急速な増殖について選択されたロット、Invitrogen;100 units/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB、そして2 mM L-グルタミン、Invitrogen〕中で14日間、培養した。その後、0.25%トリプシンと0.02%EDTAにより処理した後に細胞を回収し、血球計算盤で細胞数を算定後、50細胞/cm2の細胞密度で再び播種した。細胞を14日後に回収し、Cryo 1℃Freezing Container(Nalgene Nunc International, Rochester, NY)を使用し、1 mlの凍結用保存液に106細胞を第1継代細胞として加えて、-80℃で凍結保存した。凍結細胞は37℃のウォーターバス内で急速に解凍し、150 cm2ディッシュに播種し、5日後に3〜4×106個の細胞を回収した。次いで、第2継代の細胞を104細胞/cm2で播種し、14日間培養後、第3継代細胞をさらなる解析および移植用に使用した。
【0103】
[0126] ラット(Sprague-Dawleyラット、n=30)を使用し、麻酔した。その後、膝前面に直皮切を置き、内側側副靭帯とともに関節包の前内側部を膝関節面で横切し展開後、内側半月板前半分を切除した。
【0104】
[0127] 閉創直後、27ゲージ針を膝蓋靭帯内側、内側大腿顆、そして内側脛骨顆により形成される三角形の中心に大腿骨顆間腔に向けて刺入した。50μlのPBSに浮遊させた5×106個のルシフェラーゼ/lacZダブルポジティブの滑膜間葉幹細胞を右膝関節内に注射した。コントロールとして、同量のPBSを左膝に注射し、その後、膝の屈伸を5回繰り返し、10分間、仰臥位とした(図13)。
【0105】
[0128] 局所接着群に対しては、切除半月板を下向きになるように膝を保持し(側臥位)、その体位を10分間保持した(図13)。その後、ラットをケージ内で自由に歩かせた。
[0129] 注射したルシフェラーゼ/lacZダブルポジティブの滑膜間葉幹細胞を、In Vitro Imaging System(IVIS)とX-gal染色により検出した。再生半月板は肉眼的に評価された。
【0106】
[0130] 注射1日後に行ったIn Vitro Imaging Systemによると、注射したルシフェラーゼ/LacZダブルポジティブ滑膜間葉幹細胞は、関節内に注射する場合よりも局所接着術による場合の方が内側半月板切除部位に、効率よく集簇した(図14)。
【0107】
[0131] 正常膝に注射された細胞よりも、半月板切除膝に注射された細胞の方が、より長く検出できた。重要なことに、注射したルシフェラーゼ/LacZダブルポジティブ滑膜間葉幹細胞は、注射した右膝以外の他の組織では検出されなかった。
【0108】
[0132] 滑膜間葉幹細胞は半月板再生を促進し、再生部位はLucZ陽性であったことから移植した間葉幹細胞があり、注射した細胞が直接半月板細胞に分化したことが示された(図16)。
【0109】
[0133] 関節軟骨は硝子軟骨から構成され、半月板は線維軟骨から構成される。ヒトの関節軟骨はヒト滑膜幹細胞の移植により再生することができ、ラットの半月板はラット滑膜幹細胞の移植により再生することができることを、私たちは確認した。これらのことは、ヒトの滑膜幹細胞移植がヒトの半月板欠損の再生を促進することを、軟骨・半月板の研究者に必然的に予測させるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患の治療方法であって、以下の工程:
自家滑膜由来間葉幹細胞をex vivoで培養し、
間葉幹細胞を移植して、それにより軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞で覆い、
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることにより、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨組織を再生させる、
ことを含む前記方法。
【請求項2】
軟骨欠損または半月板損傷欠損に関連する疾患が、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
間葉幹細胞が、骨形成因子(BMP)やトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の非存在下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
間葉幹細胞が、移植前に5〜28日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
間葉幹細胞が、数千万細胞を採取できるまで培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
間葉幹細胞が、初代または第1継代の細胞で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
軟骨欠損部を間葉幹細胞で覆う工程が、次の工程:
軟骨欠損部を上方にむけるように体位を保持し、
間葉幹細胞の懸濁液を関節軟骨欠損部の表面に静置し、
間葉幹細胞が軟骨欠損部の表面に接着するまで、一定時間、体位を保持する、
ことによってなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
半月板欠損部を間葉幹細胞で覆う工程が、次の工程:
半月板欠損部を下方にむけるように体位を保持し、
間葉幹細胞の懸濁液を膝関節内に注射し、
間葉幹細胞が半月板欠損部に接着するまで、一定時間、体位を保持する、
ことによってなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
間葉幹細胞の懸濁液または間葉幹細胞を含むゲル状の物質が、関節軟骨欠損部に少なくても10分間静置される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ヒトの間葉幹細胞を含む、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患の治療剤。
【請求項11】
軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患が、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、および半月板損傷からなる群より選択される、請求項10に記載の治療剤。
【請求項1】
軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患の治療方法であって、以下の工程:
自家滑膜由来間葉幹細胞をex vivoで培養し、
間葉幹細胞を移植して、それにより軟骨欠損部または半月板欠損部を間葉幹細胞で覆い、
間葉幹細胞を軟骨細胞に分化させることにより、軟骨欠損部または半月板欠損部でin situで軟骨組織を再生させる、
ことを含む前記方法。
【請求項2】
軟骨欠損または半月板損傷欠損に関連する疾患が、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性関節症、および半月板損傷からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
間葉幹細胞が、骨形成因子(BMP)やトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の非存在下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
間葉幹細胞が、移植前に5〜28日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
間葉幹細胞が、数千万細胞を採取できるまで培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
間葉幹細胞が、初代または第1継代の細胞で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
軟骨欠損部を間葉幹細胞で覆う工程が、次の工程:
軟骨欠損部を上方にむけるように体位を保持し、
間葉幹細胞の懸濁液を関節軟骨欠損部の表面に静置し、
間葉幹細胞が軟骨欠損部の表面に接着するまで、一定時間、体位を保持する、
ことによってなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
半月板欠損部を間葉幹細胞で覆う工程が、次の工程:
半月板欠損部を下方にむけるように体位を保持し、
間葉幹細胞の懸濁液を膝関節内に注射し、
間葉幹細胞が半月板欠損部に接着するまで、一定時間、体位を保持する、
ことによってなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
間葉幹細胞の懸濁液または間葉幹細胞を含むゲル状の物質が、関節軟骨欠損部に少なくても10分間静置される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ヒトの間葉幹細胞を含む、軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患の治療剤。
【請求項11】
軟骨欠損または半月板欠損に関連する疾患が、外傷性軟骨損傷、離断性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、および半月板損傷からなる群より選択される、請求項10に記載の治療剤。
【図5】
【図11】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2010−501547(P2010−501547A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525260(P2009−525260)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国際出願番号】PCT/JP2007/066708
【国際公開番号】WO2008/023829
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(509052230)株式会社サイメッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国際出願番号】PCT/JP2007/066708
【国際公開番号】WO2008/023829
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(509052230)株式会社サイメッド (1)
【Fターム(参考)】
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