滑膜肉腫の治療方法
被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、有効量のFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを該被験体に投与することを含む上記方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願についての相互参照
本出願は、2003年7月11日出願の米国特許仮出願第60/486,195号の優先権を主張し、これを参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
2.発明の背景
2.1 発明の分野
本発明は、被験体におけるFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患(特に滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病)の治療及び/又は予防方法に関する。また本発明は、被験体におけるFZD10関連疾患の診断方法に関する。さらに本発明は、FZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.2 関連分野の説明
最近、ヒト化モノクローナル抗体、例えばErbB2に対するトラスツズマブ(ハーセプチン)(非特許文献1)、及びCD20に対するリツキシマブ(リツキサン)(非特許文献2)などを用いた分子標的治療が、乳癌及び悪性リンパ腫の数事例において治療結果の改善に寄与している。これらの有望な治療は、腫瘍細胞の表面上に存在する標的化タンパク質に直接結合する、ゲノム研究に基づく抗癌薬の最初の例である。ヒト化抗体は、細胞表面受容体の阻害による増殖シグナル伝達の阻害と、特異的抗体との相互作用及び/又は抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)による標的分子のダウンレギュレーションを介して、抗腫瘍作用を発揮すると考えられている。抗体に基づく抗腫瘍効果の正確な機構はまだ解明されていないが、これらの治療は、特に化学療法剤耐性癌又は放射線耐性癌の治療において有望な方法である。
【0004】
間葉組織に生じる悪性腫瘍として定義される肉腫のうち、骨肉腫、ユーイング肉腫及び黄紋筋肉腫は一般的に化学療法に対して感受性がある。しかしながら他の肉腫の多く(特に成人の紡錘細胞肉腫)は、化学療法剤耐性及び放射線耐性のために治療することが困難な疾患である(非特許文献3〜6)。滑膜肉腫(SS)は、そのような腫瘍の典型であり、SSの予後は集学的治療の発達により改善されているが、治療結果をさらに改善するには抗体に基づく治療を含む新規な治療方法を開発する必要がある。
【0005】
標的の腫瘍に対する抗体に基づく治療の開発については、標的腫瘍の大部分において過剰発現され、かつ正常な器官組織においては発現されないか最小限しか発現されない細胞表面分子を同定することが重要である。しかしながら、腫瘍において特異的に発現されるタンパク質を同定することは困難であり、抗体に基づく治療の確立が望まれている滑膜肉腫や他の腫瘍において特異的に発現されているタンパク質に関する報告はない。
【0006】
【非特許文献1】Fendly, B. M. et al., Cancer Res. 50: 1550-8., 1990年
【非特許文献2】Maloney, D. G. et al., Blood. 90:2188-95., 1997年
【非特許文献3】Crist, W. M. et al., J Clin Oncol. 19: 3091-102., 2001年
【非特許文献4】Wunder, J. S. et al., J Bone Joint Surg Am. 80: 1020-33., 1998年
【非特許文献5】Ferguson, W. S. and Goorin, A. M., Cancer Invest. 19: 292-315., 2001年
【非特許文献6】Adjuvant chemotherapy for localised resectable soft-tissue sarcoma of adults: meta-analysis of individual data. Sarcoma Meta-analysis Collaboration, Lancet. 350: 1647-54., 1997年
【発明の開示】
【0007】
3.発明の概要
滑膜肉腫の治療法の開発に関する上記の問題及び要求を検討した結果、本発明者のグループは、23,040種の遺伝子からなるcDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現パターンのゲノムワイドな分析によって、SSが神経冠細胞を起源とする可能性があることを報告し、またSSの生物学的特徴が悪性末梢神経鞘腫瘍に類似していることに着目した(Nagayama, S. et al., Cancer Res. 62:5859-66., 2002)。その結果、本発明者はSSにおいて共通してアップレギュレートされている26種の遺伝子を同定し、その産物が新規な治療薬の開発の好適な分子標的となりうると考えた。これらのアップレギュレートされる遺伝子のうち、本発明者は、以下の基準に沿ってSSの分子標的治療の開発に好適な1つの候補遺伝子を選択した。すなわち、(i)脳、心臓、肺、肝臓、腎臓及び骨髄などの重要な器官における発現が比較的低いため、決定的な有害な副作用を回避する;(ii)遺伝子産物が細胞膜内在性タンパク質であると予測される。これらの基準に基づき、本発明者はWntの細胞表面受容体の1つであり、7回膜貫通タンパク質のFrizzledファミリーに属するFrizzledホモログ10(FZD10)に着目した。FZD10の発現は原発性直腸結腸癌(Terasaki, H. et al., Int J Mol Med. 9: 107-12., 2002)及び原発性胃癌(Kirikoshi, H. et al., Int J Oncol. 19: 767-71., 2001)並びにSSにおいてアップレギュレートされることが証明されているが、腫瘍形成におけるFZD10の正確な生物学的作用は明らかとなっていない。従って、腫瘍増殖におけるFZD10の関与の可能性は、FZD10のシグナル伝達の阻害によって解明されうる。
【0008】
今回、本発明者は、滑膜肉腫(SS)の抗体に基づく治療の開発のために、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識する特異的なポリクローナル抗体(TT641 pAb)及びモノクローナル抗体(mAb)を作製した。上述の分子標的の選択に関する基準の通り、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析によって、FZD10が、いくつかの器官組織の上皮を除いて、正常な重要器官においては発現されない又は発現が低いことが明らかとなった。さらに、この特異的な抗体が、FZD10を過剰発現するSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の媒介に有効であることが証明された。加えて、ヌードマウスを用いたin vivo実験によって、TT641 pAbの腫瘍内注射によって、おそらく腫瘍細胞のアポトーシスの誘導によって、SS異種移植片の増殖が軽減したことが示された。
【0009】
以上の知見に基づいて、本発明者はFZD10に対する抗体がSS及び他のFZD10過剰発現腫瘍の治療及び診断において治療薬及び予防薬の可能性を有すると結論付けた。
【0010】
従って、一態様において、本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、有効量のFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを該被験体に投与することを含む方法を提供する。「FZD10に関連する疾患(FZD10関連疾患)」とは、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。そのような疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。
【0011】
本発明の方法において使用する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体でありうる。抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチド、特に配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されていることが好ましい。
【0012】
さらに、別の態様において、本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法であって、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む方法を提供する。
【0013】
「FZD10に関連する疾患(FZD10関連疾患)」とは、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。そのような疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。本発明の方法において使用する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体でありうる。抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチド、特に配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されていることが好ましい。
【0014】
またさらに、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメント、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0015】
さらにまた、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントを含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットを提供する。
【0016】
本発明はまた、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットの製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用を提供する。
【0017】
そしてさらに、本発明は、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための組成物の製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用を提供する。
【0018】
4.図面の簡単な説明
図1Aは、正常ヒト成人組織(心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、膵臓、骨髄及び胎盤)、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)並びにSS外科標本(SS487及びSS582)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【0019】
図1Bは、結腸癌細胞系(LoVo、HT29及びSW480)並びにSS細胞系(SYO−1、HS−SY−2及びYaFuSS)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【0020】
図2A及び2Bは、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識した、アフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を示す写真である。
【0021】
図2Aは、いくつかの腫瘍細胞系、すなわちSS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)、結腸癌細胞系(SW480、LoVo、DLD1、HT29、HCT116、SNU−C4及びSNU−C5)、子宮頸部腺癌細胞系(HeLa)、並びに繊維肉腫細胞系(HT1080)におけるFZD10のウエスタンブロット分析を示す写真である。βアクチン発現をローディング対照として用いた。
【0022】
図2Bは、図2Aで調べたものと同じ腫瘍細胞系におけるFZD遺伝子ファミリーの半定量RT−PCR分析を示す写真である。β2ミクログロブリン遺伝子(β2MG)の発現を内部対照とした。FZDファミリーメンバーは、FZD10−ECDに対するアミノ酸配列の相同性の順に配置した。FZD9がFZD10−ECDに対して最も高い相同性を有した。
【0023】
図3A、3B及び3Cは、免疫細胞化学分析によるFZD10タンパク質の細胞内局在化を示す写真である。
【0024】
図3Aは、FZD10を安定に過剰発現するCOS7−FZD10細胞の確立を示すウエスタンブロットを示す写真である。S5、S9、S10、S3及びS11はCOS7−FZD10安定トランスフェクト細胞の代表例であり、細胞外に発現される産物は、SS細胞系であるHS−SY−2及びYaFuSSにおいて発現される内因性FZD10と同じサイズであった。
【0025】
図3Bは、抗myc抗体及びTT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。左側のパネルは、テキサスレッド結合抗mycにより免疫染色された細胞を示す。中央のパネルは、TT641 pAb(Alexa Flour 488)で処理した同じ細胞を示し、両方のシグナルを黄色シグナルとして二色画像において重ねている(右側のパネル)。
【0026】
図3Cは、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)における内因性FZD10の検出についての、TT641 pAbによる免疫細胞化学染色を示す写真である。
【0027】
図4は、いくつかの腫瘍細胞系におけるTT641 pAbを用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。実線はTT641 pAbにより検出されたFZD10(細胞表面抗原)の発現レベルを示し、破線は陰性対照として非免疫ウサギIgGと共にインキュベートした細胞のシグナルを表す。
【0028】
図5は、重複する合成線状ペプチドを用いたTT641 pAbのエピトープマッピングを示す写真である。1アミノ酸が重複し、FZD10−ECDの全長アミノ酸に対して作製した一連の10残基のペプチドを含む膜を、TT641 pAbと反応させ、その結合を、HRP結合ヤギ抗ウサギIgGを用いて検出した。太字は、FZD10−ECDの可能性あるコアエピトープを示す。
【0029】
図6A〜6Oは、正常ヒト成人組織、SS腫瘍組織、原発性結腸癌、及び結腸癌の転移肝臓病変における、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を示す写真である。これらの図において、A=胎盤、B=脳、C=心臓、D=肺、E=肝臓、F及びG=異なる個体由来の腎臓、H及びI=同じ個体由来の胃、J=結腸、K及びL=同じ二相SS標本のSS腫瘍細胞、M、N及びO=原発性結腸癌及び同じ患者の転移肝臓病変である。元の倍率は、A、B、C、D、E、F、G、I、J、K及びM=100倍、H及びN=40倍、L及びO=200倍である。
【0030】
図7Aは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。細胞傷害性は、細胞溶解時の放出乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の定量測定によりアッセイした。ここで、ターゲット細胞及びエフェクター細胞は、E:T比25:1で7μg/mlのTT641 pAbと共に同時インキュベートした。この図において、T=ターゲット細胞(SYO−1)、E=エフェクター細胞(PBMC)、Tspon=ターゲット細胞からの自発性LDH放出、Espon=エフェクター細胞からの自発的LDH放出、Ab=TT641 pAb。
【0031】
図7Bは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。いくつかのE:T比におけるFZD10過剰発現細胞に対する細胞媒介性細胞傷害は、培地に添加したTT641 pAbの量との正の相関を示す。
【0032】
図8は、TT641 pAbがSS異種移植片に対して増殖抑制作用を発揮したことを示すグラフである。腫瘍増殖は、TT641 pAbで処置した実験群(n=16)(黒丸)と非免疫ウサギIgGで処置した対照群(n=16)(白丸)において処置開始日に計算した腫瘍体積に対する、所定の日における腫瘍体積の比率として評価した。処置は、連続する5日間(第0〜4日)にわたり継続した。データは、平均+SDで表す。
【0033】
図9A〜9Lは、TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色を示す写真である。処置終了の2日後に、腫瘍を摘出し、10%ホルムアルデヒドで固定した。TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色は、細胞増殖能の信頼性ある指標であるため、これを非免疫ウサギ抗体(A、B、C、G、H及びI)並びにTT641 pAb(D、E、F、J、K及びL)で処置した腫瘍からのパラフィン包埋検体の連続切片に対して実施した。この図では、A、D、G及びJ=HE染色、B、E、H及びK=Ki−67についての免疫染色、C、F、I及びL=TUNEL分析である。元の倍率は、A〜F=40倍、G〜L=200倍、Lの差込図=400倍である。
【0034】
図10Aは、8種の正常マウス組織(心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣)におけるFZD10のノーザンブロット分析により検出された正常マウス組織中のマウスFZD10の発現を示す写真である。βアクチンの発現をローディング対照として用いた。
【0035】
図10B〜10Eは、正常マウスの腎臓(B)、胎盤(C)、肺(D)及び脳(E)組織における、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。
【0036】
図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。灰色の線は、各mAbにより検出された細胞表面抗原FZD10の発現を示し、黒色の線は、陰性対照として非免疫ウサギIgGと共にインキュベートした細胞の蛍光シグナルを示す。
【0037】
図12は、重複する合成線状ペプチドを用いて行った、mAb 1F2、5F2、5H4及び6C9のエピトープマッピングを示す写真である。
【0038】
図13は、SS異種移植片に対するmAb 5F2の増殖抑制作用を示すグラフである。腫瘍増殖は、mAb(5F2)で処置した実験群(5F2、n=5)(白丸)と非免疫ウサギIgGで処置した対照群(n=6)(黒丸)において処置開始日に計算した腫瘍体積に対する、所定の日における腫瘍体積の比率として評価した。処置は、連続する10日間(第0〜9日、矢印)にわたり継続した。データは、平均+SDで表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
5.発明の詳細な説明及び好ましい実施形態
本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患(FZD10関連疾患)を治療及び/又は予防する方法、並びに該疾患を診断及び/又は予後診断する方法に関する。これらの方法に有用な組成物もまた本発明の範囲内に包含される。
【0040】
本発明は、以下に説明するように、FZD10に対する特異的なポリクローナル抗体(TT641 pAb)及びFZD10に対するモノクローナル抗体(mAb)が、FZD10を過剰発現するSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の媒介、及びSS異種移植片の増殖の抑制に有効であるという知見に基づいている。また、本発明は、FZD10が滑膜肉腫を含む特定の腫瘍において特異的に発現され、これらの腫瘍がFZD10に対する特異的抗体を用いて検出可能であるという知見に基づいている。
【0041】
5.1 抗体の作製
本発明において使用可能な抗体は、FZD10関連疾患に由来するFZD10タンパク質と特異的に反応するものである。本明細書において「抗体」という用語は、抗原であるタンパク質又はその部分ペプチドに結合可能な抗体分子全体又はそのフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメントなど)を意味する。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいし、さらにはヒト化又はキメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)抗体などであってもよい。本発明において使用するための、抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体)は例えば以下の手法により作製することができる。
【0042】
5.1.1 免疫原(抗原)
本発明において使用可能な抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)として使用するタンパク質を調製する。免疫原タンパク質としては、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを用いる。本発明において免疫原として使用可能なFZD10タンパク質のアミノ酸配列及び該タンパク質をコードするcDNA配列は、GenBankにそれぞれアクセッション番号BAA84093(配列番号1)及びAB027464(配列番号2)として公開されている。従って、公開されているアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより、免疫原として使用するためのFZD10タンパク質又はその部分ペプチドを合成することができる。ここで、FZD10タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、FZD10タンパク質のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)に相当する、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜225を含むペプチドが挙げられる。また、例えばFZD10タンパク質(配列番号1)の43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、又は214〜225番のアミノ酸残基、あるいはこれらの部分配列うち少なくとも5残基、好ましくは6〜10残基を含むペプチドも免疫原として使用することが可能である。本発明においては特に、FZD10タンパク質(配列番号1)の214〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドを免疫原として使用することが好ましい。
【0043】
また、公知の遺伝子組換え手法を利用して、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドをコードするcDNAの配列情報を用いて当該タンパク質又はその部分ペプチドを生産することも可能である。以下、遺伝子組換え手法を用いたタンパク質又はその部分ペプチドの生産に関して説明する。
【0044】
タンパク質生産用組換えベクターは、上記cDNA配列を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、タンパク質生産用組換えベクターを、標的FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0045】
ベクターとしては、宿主において自律複製するファージ又はプラスミドを使用する。プラスミドDNAとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET28、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、及び他のプラスミドDNA)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、及び他のプラスミドDNA)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、及び他のプラスミドDNA)などが挙げられる。ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルスベクター及びワクシニアウイルスベクターなどの動物ウイルスベクターを用いることもできるし、バキュロウイルスベクターなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0046】
例えば以下の方法により、ベクターにFZD10又はその部分ペプチドをコードするDNA(以下、FZD10 DNAともいう)を挿入する。この方法では、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する。
【0047】
その他、哺乳動物細胞において用いられるタンパク質生産用組換えベクターには、プロモーター、FZD10 DNAのほか、所望によりエンハンサー及び他のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合部位(RBS)などが連結されていてもよい。
【0048】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、タンパク質生産用組換えベクターを作製する。
【0049】
形質転換に使用する宿主としては、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、宿主としては、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae等)、動物細胞(COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0050】
一例として、細菌を宿主として用いる場合は、タンパク質生産用組換えベクターが該宿主細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合部位、FZD10 DNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、組換えベクターは、プロモーターを制御する遺伝子を含んでもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BRLなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。
【0051】
細菌宿主への組換えベクターの導入は、当技術分野で公知の任意の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0052】
酵母、動物細胞、昆虫細胞などを宿主として用いる場合には、同様に、当技術分野で公知の手法に従って形質転換体を作製し、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを宿主(形質転換体)において生産することができる。
【0053】
本発明において免疫原として使用するFZD10タンパク質又はその部分ペプチドは、上記作製した形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体のホモジェネートのいずれをも意味するものである。上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0054】
大腸菌、酵母菌又は他の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類及び他の成分を含有し、形質転換体が効率的に増殖できる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0055】
形質転換体の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、25〜37℃で3〜6時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は、必要に応じて、組換え発現ベクターに挿入した選択マーカーに応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0056】
培養後、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞をホモジナイズすることによりタンパク質又はその部分ペプチドを抽出する。また、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により培地から菌体又は細胞の破砕物を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からFZD10タンパク質又はその部分ペプチドを単離精製することができる。
【0057】
FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが得られたか否かは、例えばSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0058】
次に、得られたFZD10タンパク質又はその部分ペプチドをバッファーに溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が挙げられる。これらのアジュバントは、単独で又は混合して用いることができる。
【0059】
5.1.2 ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体を作製する場合は、セクション4.1.1のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。必要に応じて完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等のアジュバントを用いることもできる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜7回の免疫を行う。その後、最終の免疫日から1〜7日後に、酵素免疫測定法(酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0060】
5.1.3 モノクローナル抗体
セクション5.1.1のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。必要に応じて完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等のアジュバントを用いることもできる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜3回の免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜7日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられる。
【0061】
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63−Ag.8.U1(P3U1)、NS−Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0062】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤(例えばポリエチレングリコール等)の存在のもとで融合反応を行う。また、エレクトロポレーションを利用した市販の細胞融合装置を用いて細胞融合させることもできる。
【0063】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液をウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、30日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0064】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清を、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドに反応する抗体が存在するか否かについてスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、又はラジオイムノアッセイ(RIA)等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。
【0065】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0066】
本発明において使用可能なモノクローナル抗体のグロブリンタイプは、FZD10タンパク質との特異的結合活性を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。
【0067】
組換えFZD10タンパク質に対して誘起されたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンであるマウス−マウスハイブリドーマ5F2 TK10P2は、2004年2月18日付で独立行政法人産業技術総合研究所 IPOD国際特許生物寄託センター(AIST、305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1−1、つくば中央6)に国際寄託され、受託番号FERM BP−08628が付与されている。本発明においてはこのハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を使用することが好ましい。しかしながら、本発明において使用可能な抗体は上記モノクローナル抗体に限定されるものではない。
【0068】
5.1.4 他の抗体
さらに、「キメラ抗体」の作製について開発されている技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314: 452-454)を使用してもよい。これらの技術では、適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子を適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングする。キメラ抗体は、異なる動物種に由来する異なる部分が存在する分子であり、例えばマウスmAb由来の可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体、例えば「ヒト化抗体」がある。
【0069】
あるいは、一本鎖抗体の作製について記載されている技術(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334: 544-546)を採用して、FZD10タンパク質又はそのペプチドに対する一本鎖抗体を作製することも可能である。一本鎖抗体は、アミノ酸架橋によってFv領域の重鎖フラグメントと軽鎖フラグメントとを連結し、一本鎖のポリペプチドを得ることにより形成される。大腸菌における機能性Fvフラグメントの構築に関する技術もまた用いることが可能である(Skerra et al., 1988, Science 242: 1038-1041)。
【0070】
5.1.5 抗体フラグメント
目的のタンパク質の一部(エピトープ)を特異的に認識する抗体フラグメントは、公知の技法により作製することができる。例えば、そのようなフラグメントとしては、限定されるものではないが、抗体分子のペプシン消化により作製しうるF(ab’)2フラグメント、及びF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより作製しうるFabフラグメントが挙げられる。
【0071】
あるいは、Fab発現ライブラリを構築し(Huse et al., 1989, Science, 246: 1275-1281)、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントを迅速かつ簡便に同定することも可能である。
【0072】
5.2 治療用途
以下に、本発明の抗体を用いた、FZD10関連疾患を治療及び/又は予防するための方法及び医薬組成物について説明する。治療の成果は、処置した被験体に少なくとも健康に良い効果をもたらすことであり、腫瘍の場合には、限定されるものではないが、腫瘍の寛解、腫瘍の症状の軽減、及び腫瘍の転移速度の制御などをもたらすことである。
【0073】
具体的には、本発明に係る、被験体におけるFZD10関連疾患の治療及び/又は予防方法は、その必要のある被験体に、上述の抗体又はフラグメント(セクション5.1参照)を投与することを含む。
【0074】
本明細書において「被験体」という用語は、FZD10関連疾患を罹患している被験体、またFZD10関連疾患を有することが疑われる被験体を意味する。本発明において被験体は、哺乳動物及び鳥類動物を含む動物でありうる。例えば、哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ及びイヌが挙げられる。
【0075】
本明細書において「FZD10関連疾患」という用語は、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。具体的には、FZD10関連疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。
【0076】
5.2.1 医薬組成物
本明細書に記載の抗体は、FZD10関連疾患を治療又は予防するために有効な量で被験体に投与することができる。有効量とは、治療対象の被験体に健康に良い効果をもたらすのに十分な抗体の量を意味する。医薬組成物が本発明の抗体を含む場合に採用しうる製剤及び投与方法を以下に記載する。
【0077】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、1以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を用いて慣用的に製剤化することができる。
【0078】
抗体は、注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与(すなわち静脈内又は筋肉内投与)用に製剤化しうる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプル又は複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。組成物は、懸濁剤、溶剤、又は油性若しくは水性ビヒクル中の乳剤のような剤形をとることができ、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤用薬剤を含みうる。あるいは、抗体は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成するための凍結乾燥粉剤としてもよい。
5.2.2 用量及び投与経路
本発明の抗体の毒性及び治療効力は、例えばLD50(集団の50%が致死となる量)及びED50(集団の50%に対して治療上有効な量)を決定するため、標準的な医薬の手順により、細胞培養物又は実験動物において決定することができる。毒性作用を示す用量と治療効果を示す用量の比は治療インデックスであり、比LD/EDとして表すことができる。
【0079】
治療インデックスが高い抗体が好ましい。毒性の副作用を示す抗体を用いる場合には、かかる抗体が罹患組織の部位に標的化するような送達系を設計して、非罹患細胞が受ける可能性のある損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減することに注意すべきである。
【0080】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを用いて、ヒトにおける使用のための用量範囲を決定しうる。そのような抗体の投与量は、ほとんど又は全く毒性のないED50を含む循環血漿濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、この範囲内で、使用する投与剤形、及び採用する投与経路に応じて異なる。本発明の方法において用いる抗体については、まず細胞培養アッセイから有効量を推定しうる。細胞培養で決定したIC50(すなわち、症状の最大半分の抑制を達成する試験抗体の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて決定しうる。このような情報は、ヒトにおける有効量をより詳細に決定するために用いることができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0081】
被験体の症状及び年齢、並びに/又は投与経路に応じて、当業者であれば、本発明の医薬組成物の適切な用量を選択することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を1日に被験体の体重1kg当たり約3〜約15μg、好ましくは被験者の体重1kg当たり約10〜約15μgの量を投与できるような量で投与される。投与間隔及び投与期間は、被験体の症状及び年齢、投与経路、並びに医薬組成物に対する応答を考慮して選択しうる。例えば、医薬組成物は、1〜5回、好ましくは5〜10日にわたり1日1回投与することができる。
【0082】
医薬組成物は、全身投与又は局所投与することができ、好ましくは、標的送達手段を用いて、有効成分が罹患部位に送達されるようにしてもよい。
【0083】
5.2.3 併用療法
特定の実施形態において、本発明の方法及び組成物は、化学療法剤、例えば限定されるものではないが、メトトレキセート、タキソール、メルカプトプリン、チオグアニン、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル及びドセタキセルなどの化学療法剤の1つ又はその組み合わせと共に、FZD10関連疾患の治療又は予防に用いる。
【0084】
放射線療法に関して、治療対象のFZD10関連疾患の種類に応じて、任意の放射線療法プロトコールを用いることができる。例えば限定されるものではないが、X線照射を実施しうる。γ線が放射する放射性同位体、例えばラジウム、コバルト及び他の元素の放射性同位体などを組織に照射してもよい。
【0085】
別の実施形態において、化学療法又は放射線療法は、本発明の抗体を含む方法及び組成物を用いた後、好ましくは少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1ヶ月、より好ましくは数ヶ月(例えば最大3ヶ月)にわたり実施しうる。化学療法又は放射線療法は、本発明の方法及び組成物を用いた処置の前、処置と同時、又は処置の後に実施することができ、当技術分野で公知の任意の方法により実施することができる。
【0086】
5.3 診断及び予後診断用途
また、セクション5.1.2に記載のFZD10タンパク質又はそのペプチド断片に対する抗体は、本明細書に記載のように、診断薬及び予後診断薬として用いることができる。そのような診断方法は、FZD10関連疾患の有無、及び該疾患を患うリスクを検出するために用いうる。本発明のFZD10関連疾患の診断及び/又は予後診断方法は、サンプル中の疾患に由来するFZD10タンパク質を、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、免疫学的に検出又は測定することを含む。具体的には、本発明に係る、被験体におけるFZD10関連疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法は、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む。
【0087】
本発明の診断及び/又は予後判定方法は、抗体を用いる測定法、すなわち免疫学的アッセイであれば任意の方法に基づいて実施することができる。本発明の抗体又はそのフラグメントをそのアッセイで使用される抗体として用いてFZD10タンパク質を検出することができる。例えば、このFZD10タンパク質の検出は、免疫組織化学的染色法、イムノアッセイ(酵素イムノアッセイ(ELISA、EIA)、蛍光イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及びウエスタンブロット法等)などを利用して実施される。
【0088】
本発明のFZD10関連疾患の診断及び/又は予後判定方法において被検対象となるサンプルとしては、FZD10関連疾患に由来するFZD10タンパク質が含まれる可能性のある生体サンプルであれば特に限定されるものではない。例えば、そのようなサンプルとしては、血液、血清、血漿、リンパ球培養上清、尿、髄液、唾液、汗、腹水などが挙げられる。特に腫瘍組織、腫瘍生検及び転移組織のようなサンプルにおいて、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて得られたFZD10タンパク質の測定値は、FZD10関連疾患の指標として有用である。
【0089】
例えば、セクション5.1に記載されるような、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、FZD10タンパク質を定量的又は定性的に検出しうる。本発明の抗体(又はそのフラグメント)はさらに、例えば免疫蛍光又は免疫電子顕微鏡のように、FZD10タンパク質のin situ検出のために、組織学的に用いてもよい。in situ検出は、被験体から組織学的サンプルを切除し(組織のパラフィン包埋切片など)、それに本発明の標識化抗体をアプライすることにより実施しうる。抗体(又はそのフラグメント)は、サンプルに標識化抗体(又はそのフラグメント)を積層することによってアプライすることが好ましい。当業者であれば、本発明を用いて広範囲の多様な組織学的方法(染色手法など)に変更を行って、そのようなin situ検出を実施しうることは容易に理解できるだろう。
【0090】
FZD10タンパク質についてのイムノアッセイは、典型的には、試験対象の被験体に由来するサンプル(例えば生体液、組織抽出物、新たに採取した細胞、又は細胞培養においてインキュベートしておいた細胞の溶解物など)を、本発明の検出可能に標識した抗体の存在下でインキュベートし、当技術分野で周知のいくつかの手法のいずれかにより結合した抗体を検出することを含む。
【0091】
サンプルは、固相支持体又は担体(ニトロセルロース、又は細胞、細胞粒子若しくは可溶性タンパク質を固定することができる他の固体支持体など)と接触させてもよいし、あるいはその上に固定してもよい。続いて支持体を適当なバッファーで洗浄し、FZD10に対する検出可能に標識した抗体を用いて処理する。次に固相支持体にバッファーを用いた2回目の洗浄を行って、未結合の抗体を除去する。そして固体支持体上の結合した標識の量を、慣用的な手段により検出する。
【0092】
「固相支持体又は担体」という用語は、抗原又は抗体と結合可能な任意の支持体を意味する。当業者であれば、抗体または抗原と結合させるための多くの好適な担体を認識しているか、又は通常の実験を用いてそれを確認することができる。
【0093】
所定の抗FZD10抗体の結合活性は、周知の方法に従って測定しうる。当業者であれば、通常の実験を用いることにより、各測定についての有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができる。
【0094】
本発明においては、本発明の抗体(又はそのフラグメント)と、サンプル中のFZD10関連疾患の罹患部位に由来するFZD10タンパク質との反応を容易に検出するために、本発明の抗体を標識することにより該反応を直接検出するか、又は標識二次抗体を用いることにより間接的に検出する。本発明の方法においては、良好な感度のため、後者の間接的検出(例えばサンドイッチアッセイ、ELISAの結合アッセイなど)を利用することが好ましい。
【0095】
本発明で使用するための標識の例としては以下のものが挙げられる。すなわち、酵素イムノアッセイの場合には、パーオキシダーゼ(POD)、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ及びビオチン−アビジン複合体等を用いることができる。蛍光イムノアッセイの場合には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート等を用いることができる。ラジオイムノアッセイの場合には、トリチウム、ヨウ素125及びヨウ素131等を用いることができる。また、発光イムノアッセイでは、NADH−FMNH2−ルシフェラーゼアッセイ、ルミノール−過酸化水素−POD系、アクリジニウムエステル系及びジオキセタン化合物系等を用いることができる。
【0096】
標識は、慣用の手法により抗体と結合させることができる。例えば、標識は、酵素イムノアッセイの場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法により、ラジオイムノアッセイの場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法により、抗体に結合させることができる。
【0097】
アッセイの操作法は、公知の方法(Ausubel, F.M.ら編, Short Protocols in Molecular Biology, Chapter 11 "immunology" John Wiley & Sons, Inc. 1995)により行うことができる。
【0098】
例えば、本発明の抗体を上記のように標識で直接標識する場合には、サンプルを標識した本発明の抗体と接触させて、FZD10タンパク質−抗体の複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を分離して、結合標識抗体量又は未結合標識抗体量よりサンプル中のFZD10タンパク質量を測定することができる。
【0099】
また例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体とサンプルとを反応させ(1次反応)、得られた複合体をさらに標識二次抗体を反応させる(2次反応)。1次反応と2次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、又は時間をずらして行ってもよい。1次反応及び2次反応により、FZD10タンパク質−本発明の抗体−標識二次抗体の複合体、又は本発明の抗体−FZD10タンパク質−標識二次抗体の複合体が形成される。そして未結合の標識二次抗体を分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量よりサンプル中のFZD10タンパク質量を測定することができる。
【0100】
以下に、本発明の好ましい実施態様の一例を示す。最初に、本発明の抗体を一次抗体としてサンプル(組織切片など)と接触させる。続いて、公知のブロッキング試薬を用いてこの一次抗体の非特異的結合をブロッキングする。次いで、サンプルをFZD10タンパク質と異なる部位で一次抗体(本発明の抗体)と反応する標識二次抗体とを接触させ、該標識からのシグナルを検出する。
【0101】
本明細書で用いる「FZD10タンパク質と異なる部位で一次抗体と反応する二次抗体」は、一次抗体とFZD10タンパク質との結合部位以外の部位を認識する抗体であれば特に制限はない。二次抗体は、上述したように、ポリクローナル抗体、抗血清、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またこれらの抗体のフラグメント(Fab、F(ab’)2、Fab’等)を用いることもできる。更に、二次抗体として複数種の抗体の混合物を用いてもよい。
【0102】
以上のようにして、被験体に由来するサンプル中のFZD10タンパク質レベルを測定し、必要であれば正常サンプル又はFZDタンパク質が発現しないことが知られている組織サンプル中のタンパク質量と比較し、該FZD10タンパク質レベルが増大又は低減を示す場合には、そのサンプルを採取した被験体が、FZD10関連疾患を患っているか、又は患うリスクがあると判定する。FZD10タンパク質量は各被験体の状態、性別、年齢及び他の要因によっても変動するため、正常な組織又はサンプル中のFZD10タンパク質量と、FZD10タンパク質が発現しない組織におけるFZD10タンパク質量とを比較し、それらに差があるかどうかを調べることによって、疾患の有無又はリスクを判定することもできる。また、予後診断を行う場合には、原発性腫瘍を有している被験体のサンプルを採取した時点におけるFZD10タンパク質量と比較することも有効である。
【0103】
さらに別の態様においては、本発明の抗体を放射性同位体で標識し、この標識抗体を被験体に非経口投与することにより、FZD10関連疾患の原発性腫瘍及びそれに関連する転移性腫瘍の局在を侵襲性なく速やかに知ることができる。このような診断方法は、腫瘍イメージングとして公知であり、当業者であればそのための手法を容易に理解することができる。標識抗体の投与経路は、好ましくは非経口経路、例えば静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
【0104】
5.3.1 キット
また本発明の抗体は、上述したように、FZD10タンパク質と特異的に反応するため、FZD10関連疾患の診断及び/又は予後診断用キットとして用いることができる。
【0105】
本発明の診断及び/又は予後診断用キットは、セクション5.1に記載した本発明の抗体を含むものである。従って、本発明の診断及び/又は予後診断用キットを用いて、FZD10関連疾患への罹患が疑われる被験体から採取したサンプル中に含まれるFZD10タンパク質を検出することによって、該被験体のFZD10関連疾患の罹患を迅速かつ簡便に判定することができる。このような免疫学的反応を利用した疾患の診断及び/又は予後診断用キットは周知であり、当業者であれば、抗体以外の適当な成分を容易に選択することができる。また本発明の診断及び/又は予後診断用キットは、イムノアッセイを行うための手法であればいずれの手法においても利用することができる。
【0106】
6.実施例
本発明をさらに以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例1】
【0107】
組換えタンパク質及びポリクローナル抗体
FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD;配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)とHisタグとを融合させた組換えタンパク質を、pET28発現系(Novagen, Madison, WI)を用いて大腸菌において産生させた。簡単に説明すると、タンパク質の発現は、25℃での3時間のインキュベーションによって0.5mMイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)により誘導され、その後Ni−NTA樹脂(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて製造業者の説明書にしたがって精製した。この精製された組換えタンパク質でウサギを免疫し(Medical & Biological Laboratories, Nagoya, Japan)、その後、カップリング溶液(20mM HEPES,150mM NaCl,pH8.0)中でFZD10−ECD組換えタンパク質を結合させたAffi−Gel15支持体(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて高力価の抗血清を精製した。ゲルに結合した抗体を0.1Mグリシン(pH2.5)でカラムから溶出し、直後に1M Tris(pH8.5)で中和した。アフィニティー精製されたポリクローナル抗体(以下、「TT641 pAb」と称する)の性質及び特異性は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びウエスタンブロッティングにより確認した。
【実施例2】
【0108】
FZD10の発現
(1)細胞系及び組織標本の調製
SS細胞系(HS−SY−2、YaFuSS及びSYO−1)、結腸癌細胞系(SW480、LoVo、DLD1、HT29、HCT116、SNU−C4及びSNU−C5)、子宮頸部腺癌細胞系(HeLa)、繊維肉腫細胞系(HT1080)、並びにCOS7を、10%ウシ胎仔血清及び1%抗生物質/抗真菌剤溶液(Sigma, St Louis, MO)を添加した適当な培地中で単層増殖させ、5%CO2含有空気中で37℃にて維持した。腫瘍サンプルは、切除直後に液体窒素中で簡易冷凍し、RNAの調製まで−80℃で保存した。また外科標本を10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋のために慣用法で処理した。パラフィン塊を5μm厚の薄片に連続的に切断し、病理学的評価のためにHE(ヘマトキシリン−エオシン)で染色した。分析する全てのサンプルについて京都大学医学部の倫理委員会による承認を受けた。
【0109】
(2)ノーザンブロット分析
上記(1)で調製した細胞系及び凍結外科標本から、TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて製造業者の説明書にしたがって総RNAを抽出した。DNaseI(Nippon Gene, Osaka, Japan)による処理の後、Micro−FastTrack(Invitrogen)を用いて製造業者の説明書に従ってmRNAを単離した。各mRNAの1μgアリコートを、心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、骨髄、膵臓及び胎盤から単離されたヒト正常組織ポリA(+)RNA(Clontech, Palo Alto, CA)と共に、1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に転写した。Megaprime DNA labeling system(Amersham Bioscience)の説明書に従ってランダムプライマーα32P−dCTP標識FZD10 cDNAプローブを用いたハイブリダイゼーションを行った。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション及び洗浄は製造業者の推奨に従って行った。ブロットは増感スクリーンを用いて−80℃にて3日間かけてオートラジオグラフィー観察した。
【0110】
ノーザンブロット分析により、FZD10は正常ヒト成人組織の中で胎盤において最も高レベルで発現されることが明らかとなったが(図1A)、これは以前の報告と一致するものである(Koike, J. et al., Biochem Biophys Res Commun. 262: 39-43., 1999)。胎盤における転写産物のレベルと比較して、FZD10遺伝子はSS細胞系(HS−SY−2、YaFuSS)及びSS外科標本(SS487、SS582)においてさらに高レベルで発現された。これらの知見は、FZD10の転写がSS腫瘍細胞において上昇していることを示す。
【実施例3】
【0111】
TT641 pAbによるFZD10の細胞外ドメインの特異的認識
(1)ウエスタンブロッティング
FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識するポリクローナル抗体を作製した(実施例1参照)。このアフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を調べるため、ウエスタンブロッティング分析を以下のように実施した:
全細胞タンパク質を完全に可溶化するため、接着細胞をLaemmliサンプルバッファー(BioRad)中に回収し、音波処理で溶解させ、5分間煮沸した。各サンプルを10%SDS−PAGEゲルに導入し、ニトロセルロース膜(Amersham Bioscience)にブロットし、0.1μg/mlのTT641 pAbと共に4℃にて一晩インキュベートした。抗ウサギHRP結合免疫グロブリン(Amersham Bioscience)と共に1時間インキュベートした後、高感度化学発光試薬(ECL)(Amersham Bioscience)を用いてシグナルを可視化した。タンパク質のローディング対照として、βアクチンをモノクローナル抗βアクチンAC−15(Sigma)で検出した。
【0112】
その結果、FZD10発現細胞系において、FZD10に相当する予想サイズの単一の68kDaバンドが明りょうに観察された(図2A)。しかしながら、他のFZD遺伝子ファミリーのタンパク質のサイズはFZD10タンパク質のサイズと類似しているため、TT641 pAbにより認識される単一のバンドがFZD10に特異的であるか否かは以下のように半定量RT−PCRにより確認した。
【0113】
(2)半定量RT−PCR
各細胞系から調製した総RNAの3μgアリコートを、オリゴ(dT)12−18プライマー及びSuperscript II(Invitrogen)を用いて逆転写し、一本鎖cDNAを合成した。半定量RT−PCRは、FZDファミリーの各メンバーに特異的なプライマー、又は内部対照としてβ2ミクログロブリン(β2MG)特異的プライマーを用いて行った。プライマー配列を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
結果を図2Bに示す。ウエスタンブロッティング(図2A)に見とめられる発現パターンを、種々の細胞系を用いたFZDファミリーの10種のメンバーの転写産物レベルと比較した(図2B)。図2A及び2Bに示すように、TT641 pAbを用いたウエスタンブロッティングにより検出された発現パターンは、FZDファミリーの10種のメンバーの中で半定量RT−PCRにより明らかにされたFZD10転写産物の発現パターン、特にHeLa及びLoVo細胞系における発現パターンときわめて類似していた。この知見は、TT641 pAbがFZD10の特定のエピトープを認識するが、FZD10遺伝子ファミリーの他のメンバーを認識しないことを示している。
【実施例4】
【0116】
細胞におけるFZD10の局在
(1)免疫細胞化学
FZD10タンパク質の細胞内局在を調べるために、免疫細胞化学分析を行った。最初に、pCAGGS−FZD10−Myc−Hisの発現構築物をCOS7細胞にトランスフェクトすることにより安定にFZD10を過剰発現するCOS7−FZD10細胞(S5、S9、S10、S3及びS11)を樹立した(図3A)。
【0117】
最初に、FZD10 cDNAの全長コード配列を、KOD−Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO, Osaka, Japan)を用いてRT−PCRにより増幅し、これを、CAG(サイトメガロウイルス極初期エンハンサー・ニワトリβアクチンハイブリッド)プロモーター(Niwa, H. et al, Gene. 108: 193-9., 1991)及びネオマイシン耐性付与遺伝子を有するpCAGGS哺乳動物発現ベクターの特有のEcoRI部位に挿入した。Myc及びHisエピトープタグを発現ベクターのC末端に配置した(pCAGGS−FZD10−Myc−His)。以下のフォーワード及びリバースプライマーを用いたDNA配列決定により構築物を確認した。すなわち、フォーワード5'-GTCCCCTTCTCCATCTCCAG-3'(配列番号23);リバース5'-TATTTGTGAGCCAGGGCATT-3'(配列番号24)である。
【0118】
続いて、COS7細胞を6ウエルプレート当たり5×104細胞で接種した。24時間後、6μlのFuGene6トランスフェクション試薬(Roche, Basel, Switzerland)を用いて、15分間プレインキュベートした2μgのpCAGGS−FZD10−Myc−His混合物で細胞をトランスフェクトした。0.4mg/mlのゲネチシン(Invitrogen)を含む選択培地における3週間の培養期間後、安定なトランスフェクト細胞を樹立した。
【0119】
FZD10を発現するCOS7に由来する安定なトランスフェクト細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、その後室温で1時間かけてブロッキング溶液(3%BSA)で被覆した。細胞溶解を最小限にするため、界面活性剤による透過性処理を行わなかった。次に細胞をマウス抗c−myc抗体(9E10、1000倍希釈)と共に、またブロッキング溶液中のTT641 pAb(2μg/ml)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。一次抗体をヤギ抗ウサギ二次蛍光抗体(Alexa Flour 488;500倍希釈、Molecular Probes)及びテキサスレッドと結合させたウマ抗マウス二次抗体(1000倍希釈、Vector Laboratories, Burlingame, CA)を用いて室温にて1時間かけて染色し、DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で染色し、ECLIPSE E 600顕微鏡(Nikon, Tokyo, Japan)で可視化した。FZD10の内因性発現パターンを検出するため、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)もまた同様に2μg/mlのTT641 pAbを用いて蛍光免疫染色した。
【0120】
COS7−FZD10細胞をテキサスレッド結合抗myc抗体で対比染色したところ、赤色シグナルがTT641 pAbの緑色シグナルと一致した(図3B)。これは、TT641 pAbのFZD10への特異的結合を支持するものである。さらに、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学分析によって、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)において観察された内因性発現パターンが、安定なトランスフェクト細胞と同様であることが明らかとなった(図3C)。推定FZD10タンパク質は7回膜貫通受容体であることが知られているが(Koike, J. et al., Biochem Biophys Res Commun. 262: 39-43., 1999)、FZD10が細胞質において点在して染色された理由は不明である。おそらく、細胞質において比較的低濃度で存在する成熟細胞表面抗原と細胞質における多量のプロセシングされていない抗原が免疫細胞化学において検出された可能性がある。
【0121】
(2)フローサイトメトリー分析
免疫細胞化学のセクションで生じた細胞内局在に関する疑問点を解決するため、フローサイトメトリー分析を実施した。
【0122】
5×106細胞をトリプシン処理により回収し、1.5μgのTT641 pAb及び非免疫ウサギIgG(DAKO, Kyoto, Japan)と共に4℃にて30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄後、2μgの蛍光抗ウサギIgG(Alexa Fluor 488, Molecular Probe)を細胞懸濁液に添加し、4℃で30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄した直後に、細胞をFACScan(Becton Dickinson, San Jose, CA)で分析した。
【0123】
3つのSS細胞系、すなわちYaFuSS、HS−SY−2及びSYO−1が、TT641 pAbにより特異的に標識された(図4)が、SW480、HT29又はLoVo細胞系において蛍光シグナルは検出されなかった。これらの観察結果は、ノーザンブロットにおいて観察されたFZD10の発現レベル(実施例1、図1B参照)と相関した。以上の結果から、これらの知見は、非変性及び変性条件下の両方において、TT641 pAbがFZD10の細胞表面抗原を特異的に認識するが、他のFZD10メンバーのいずれも認識しないことを示している(図2A及び2B)。
【実施例5】
【0124】
TT641 pAbのエピトープマッピング
TT641 pAbの特異性を決定するため、最初に以下のようにSPOTsシステムを用いてエピトープマッピングを行った。
【0125】
1アミノ酸が重複し、FZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)の全長配列に対して設計した一連の10残基の線状ペプチドを合成し、SPOT合成技法(SPOTs; Sigma Genosys)によりセルロース膜に共有結合させた。製造業者の推奨に従って、216個のペプチドスポットを有する膜をブロッキングバッファー(Sigma)と共に室温にて8時間プレインキュベートし、ブロッキングバッファー中でTT641 pAbと4℃で一晩かけてハイブリダイズさせた。膜を0.05%Tween20/TBS(50mM Tris、137mM NaCl及び2.7mM KCl、pH8.0)で洗浄後、ブロッキングバッファー中で西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギ免疫グロブリン(Amersham Bioscience)と共に室温にて2時間インキュベートした。0.05%Tween20/TBSで3回洗浄後、3−アミノ−9−エチルカルバゾールを含むシグナル現像溶液(Sigma)を用いて可視化した。
【0126】
その結果、TT641 pAbは、FZD10−ECDの6種のエピトープを異なる程度で認識した(図5)。これらのうち、TT641 pAbは、214〜225番の残基の範囲のエピトープと最大の反応性を示した。この部分は、TT641 pAbのFZD10−ECDへの特異的結合に重要な配列であると考えられる。
【実施例6】
【0127】
FZD10タンパク質の発現パターン
(1)免疫組織化学染色
TT641 pAbが組織切片中のFZD10タンパク質を特異的に認識することができるかどうか調べるため、最初に、正常な成人ヒト組織及びSS外科標本においてTT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を行った。
【0128】
パラフィン包埋標本の連続切片をそれぞれシラン化スライドにのせ、キシレン中で脱パラフィン処理し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に漬けて再水和した。次に切片を抗原を露出させるためにマイクロ波処理した。3%過酸化水素を用いて内因性のペルオキシダーゼ活性を抑制した後、一次抗体の非特異的結合をブロッキング試薬(DAKO)でブロックした。次にスライドをTT641 pAb(5μg/ml)と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、ウサギENVISIONポリマー試薬(DAKO)を二次抗体として添加して、室温で60分反応させた。最後に、ペルオキシダーゼ基質である3,3’−ジアミノベンチジン四酢酸塩(DAKO)を用いて免疫反応を可視化した。切片は、ヘマトキシリンで対比染色し、段階的な濃度のアルコール中で再水和し、キシレンで清浄し、カバースライドで覆った。陰性対照は、特異的抗体を非免疫正常ウサギIgG(DAKO)で置き換えて並行して実験した。ヒト成人正常組織のパラフィン包埋スライドは、DAKO及びBioChain(Hayward, CA)から購入し、上述と同様に免疫染色を行った。
【0129】
胎盤におけるFZD10の陽性染色(図6A)とは対照的に、正常脳(図6B)、心臓(図6C)、肺(図6D)、又は肝臓(図6E)の5つの異なる組織切片においては、ノーザンブロットの結果(実施例2、図1A参照)から予想されたように、TT641 pAbを用いた免疫染色によってFZD10の発現は検出されなかった。しかしながら、正常腎臓においては、近位及び遠位尿細管、並びに集合尿細管(図6F)において陽性染色が観察された。しかしその染色強度は個体間において変動していた(図6G)。正常胃組織においては、胃腺の上部において強力な免疫反応が観察されたが、腺の下部に位置する細胞では免疫染色ははるかに弱かった(図6H及び6I)。正常結腸組織においても、上皮細胞は腺窩の下部においてFZD10の弱い免疫反応を示したが、柔毛の表面では強力な染色強度が検出された(図6J)。対照的に、二相性SS標本のSS腫瘍細胞における細胞質パターンにおいてFZD10の強力な発現が観察された(図6K及び6L)。染色強度は上皮腫瘍細胞において特に強かったが、非上皮性の紡錘腫瘍細胞もわずかな免疫反応を示した。これらのデータは、FZD10タンパク質の発現レベルが、SS組織においては発現が増大されているのと比較して、正常な重要臓器においては検出されないか又は低いことを示唆している。さらに、原発及び転移病巣における結腸癌細胞もまた、TT641 pAbにより特異的に免疫染色されたが、その周囲の間質及び肝臓組織においてシグナルは検出可能ではなかった(図6M、6N及び6O)。
【実施例7】
【0130】
TT641 pAbは、FZD10発現SS細胞に対するADCCを媒介する
TT641 pAbがSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を誘導するか否かをさらに調べるために、細胞溶解時のSS細胞からのLDH放出を測定した。
【0131】
細胞傷害性は、細胞溶解時に放出される安定な細胞質酵素である乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を、CytoTox96非放射活性細胞傷害アッセイ(Promega, Madison, WI)を用いて定量測定することによりアッセイした。新鮮なエフェクター細胞を調製するため、末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll−Paque(Amersham Bioscience)密度勾配遠心により健常ドナーのヘパリン添加末梢血から単離した。製造業者の説明書に従って、96ウエル丸底プレートにおいて5%FBSを添加したフェノールレッド非含有RPMI1640の100μl中で、エフェクター細胞(E)及びターゲット細胞(T)(5×103/ウエル)を種々のE:T比で、TT641 pAb又は非免疫ウサギIgGと共に、37℃にて6時間にわたり四連で同時インキュベートした。培養上清(50μl)中の放出LDHは、テトラゾリウム塩の赤色ホルマザン生成物への変換を生じるため、比色アッセイにより測定した。標準的な96ウエルプレートリーダーを用いて490nmにおける吸光度データを採集した。バックグラウンドシグナルについてデータを補正した後、式:傷害性(%)=100×(実験LDH放出−エフェクターの自発性LDH放出−ターゲットの自発性LDH放出)/(ターゲットの最大LDH放出−ターゲットの自発性LDH放出)に従って特異的な細胞傷害性の割合(%)を算出した。対照は、ターゲット細胞又はエフェクター細胞のいずれかとTT641 pAbとのインキュベーションを含む。
【0132】
図7Aに示されるように、ターゲット細胞及びエフェクター細胞を、E:T比25:1で7μg/ml(0.7μg/ウエル)のTT641 pAbと共に同時にインキュベートした場合、TT641 pAb単独を用いた場合のターゲット細胞系(SYO−1)(T+Ab)において細胞傷害作用は観察されず、TT641 pAbとヒトエフェクター細胞との細胞傷害性相互作用(E+Ab)又はターゲット細胞とヒトエフェクター細胞との細胞傷害性相互作用(T+E)は示されなかった。一方、ターゲット細胞を抗体及びヒトエフェクター細胞と共にインキュベートした場合(T+E+Ab)には、細胞傷害作用が観察された。ターゲット細胞を種々のE:T比で種々の濃度のTT641 pAbと共にインキュベートした場合でさえ、抗体及びヒトエフェクター細胞の両方を同時に添加した場合のみで細胞傷害性が誘導された。
【0133】
図7Bに示されるように、1μgのTT641 pAbにより、E:T比25:1においてFZD10過剰発現細胞に対して78%の細胞媒介性細胞傷害が誘導された。この細胞傷害作用は、E:T比及び添加抗体量と正に相関した。ターゲット細胞に対しては、対照抗体によって有意なADCCは誘導されなかった。これらの結果は、FZD10に対するTT641 pAbがADCCを介したFZD10過剰発現腫瘍に対する増殖抑制効果を示す可能性を示唆している。
【実施例8】
【0134】
SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用
本実施例においては、マウスにSYO−1細胞を皮下接種して、SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用を調べた。
【0135】
動物の操作は動物施設においてその機関のガイドラインに従って行った。6週齢の無胸腺メスマウス(BALB/cA Jcl−nu)を用いた。マウスは3匹の群を、12時間の明/12時間の暗のスケジュールで温度制御した部屋において、層流フードの下、滅菌ケージに順応させ、収容し、オートクレーブ滅菌した食物と水を自由に摂取させた。
【0136】
細胞移植のため、SYO−1細胞を単層で増殖させ、トリプシン処理し、血清不含培地に再懸濁させた。最終濃度を5×107細胞/mlに調節し、細胞懸濁液を氷上に置いた。注射部位をエタノールで消毒した後、0.1ml(5×106細胞)の懸濁液をヌードマウスの横腹に皮下注射した。ダイアルカリパスを用いて腫瘍を測定し、体積を式:0.5×(最大直径)×(最小直径)2を用いて決定した。一次腫瘍は40〜75mm3のサイズであり、動物は2つの群にランダムに分けた。1つの群(n=16)には、10μgのTT641 pAbを75μlのPBS中の懸濁液として、連続する5日間(第0〜4日)にわたり腫瘍内注射した。対照として、別の群(n=15)には、非免疫ウサギIgG(DAKO)を投与した。腫瘍の増殖は、処置の最初の日に計算した腫瘍体積に対する所定の日における腫瘍体積に基づく増殖比の計算により評価した。
【0137】
図8に示すように、SS異種移植片の増殖は、非免疫ウサギIgGによる処置と比較して、TT641 pAbによる処置で低減した。抗体注射の開始から6日後に、TT641 pAb処置マウスにおけるSS異種移植片の増殖速度は、陰性対照で観察されたものよりも有意に低減した(p=1.71×10−5、スチューデントのt検定)。
TT641処置による増殖低減の理由を解明するため、本発明者はTUNEL分析を実施した。
【0138】
マウスを所定の時点で犠牲にし、腫瘍を採取して10%ホルムアルデヒドで固定した。in situターミナルトランスフェラーゼ媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイのため、パラフィン包埋検体の連続切片の1つをApopTag Apoptosis Detection Kit(Intergen)を用いて製造業者の説明書に従って染色した。さらに、細胞増殖能を評価するため、抗Ki−67マウスモノクローナル抗体(MIB−1, DAKO)を用いた免疫組織化学染色を、上記の免疫組織化学染色のセクションに記載の方法と同様に行った。
【0139】
TT641 pAbで処理した腫瘍組織の検体は、アポトーシス細胞のクラスターを示し(図9F及び9L)、これは細胞増殖マーカーであるKi−67について陰性染色(図9E及び9K)だったが、アポトーシス細胞は陰性対照の腫瘍検体においてはわずかであった(図9C及び9I)。腫瘍組織におけるアポトーシス細胞の周囲には多くの生存腫瘍細胞が存在し、Ki−67染色に陽性であった(図9E及び9K)。SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用は、腫瘍の急激な退行には不十分であると考えられた。
【実施例9】
【0140】
正常マウス組織におけるマウスFZD10の発現
ヒトFZD10とマウスFZD10とのアミノ酸同一性が約93%であることが明らかとなったため、ノーザンブロット及び免疫組織化学分析により正常マウス組織を用いてTT641 pAbがマウスFZD10タンパク質とも交差反応するか否かを調べた。ノーザンブロット分析では、正常マウスの心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣組織(図10A)においてバンドが検出されないことが明らかとなり、免疫組織化学分析では、マウスの腎臓(図10B)及び胎盤(図10C)、並びに正常なヒト組織において陽性染色が観察され、正常マウスの肺(図10D)においては弱い免疫反応が観察されたが、脳(図10E)では観察されなかった。
【実施例10】
【0141】
モノクローナル抗体(mAb)の作製
抗FZD10モノクローナル抗体(mAb 1F2、1F4、5F2、5H4及び6C9)を以下のように得た。
【0142】
精製されたFZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)組換えタンパク質(Medical & Biological Laboratories, Nagoya, Japan)を用いて、3匹の6週齢BALB/cマウスを免疫した。100μgの抗原(FZD10−ECD組換えタンパク質)をフロイントの完全アジュバント中に乳化し、各マウスの足底の両方に注射し、その後3日間隔で3回腹腔内注射した。150μlのフロイントの完全アジュバント中の100μgを1回追加免疫接種した2日後に、細胞融合と限界希釈によるクローニングを以下のように行った。選択したマウスからの合計6つのリンパ節をP3−U1ミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマをHAT(15%FCS/RPMI/HAT/BM−condimedH1)培地で選択した。融合から約2週間後、組換えFZD10−ECDを抗原として用いて細胞上清をELISAアッセイでスクリーニングした。42個の陽性ハイブリドーマ(ELISAにおけるOD450>0.1)を限界希釈により2回クローニングし、さらにSS細胞系YaFuSSを用いてフローサイトメトリー分析により選択した。最終的に、5つの単一クローンをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマとして選択した。各クローンの重鎖アイソタイプをELISAにより同定し、モノクローナル抗体濃度を免疫拡散により決定した。大量のmAbを生成するため、5×105個のクローニングしたハイブリドーマ細胞を、BALB/cマウスの腹水に投与した。投与の10日〜2週間後、腹水を採取しプールした。
【0143】
組換えFZD10タンパク質に対して誘起されたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンであるマウス−マウスハイブリドーマ5F2 TK10P2は、独立行政法人産業技術総合研究所(AIST;305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1−1つくば中央6)のIPOD国際特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP−08628として2004年2月18日に国際寄託されている。
【実施例11】
【0144】
抗FZD10モノクローナル抗体(mAb)の特異性
(1)FZD10タンパク質の特異性
本発明者は最初に、FZD10転写産物の高発現を示したSS細胞系(SYO−1及びYaFuSS)、ほとんど発現が検出されなかった結腸癌細胞系(SW480及びHT29)を用いたフローサイトメトリー分析により実施例10で得られたmAbの特異性を調べた。これらのmAbは全て、SYO−1又はYaFuSSにおける表面抗原としてのFZD10タンパク質を特異的に認識することができたが、SW480又はHT29においては蛍光シグナルが検出されなかった(図11A(1F2)、11B(1F4)、11C(5F2)、11D(5H4)、11E(6C9))。これらの結果は、実施例4で記載したTT641 pAbを用いて得られた結果と一致している。これらをまとめて検討すると、これらの結果は、抗FZD10mAbがまた未変性条件下にてFZD10の細胞外ドメインを特異的に認識することを示す。
【0145】
(2)エピトープマッピング
各mAbの特異性をさらに特性決定するため、実施例5と同様にエピトープマッピングを実施した。
【0146】
1アミノ酸が重複し、FZD10−ECDの全長配列に対して設計した一連の10残基の合成線状ペプチドを、実施例5に記載のように、セルロース膜に共有結合させた(SPOTs; Sigma Genosys, Woodlands, Texas)。216個のペプチドスポットを有する膜を抗FZD10 mAb(1F2、5F2、5H4及び6C9)と4℃で一晩かけてハイブリダイズさせた。HRP結合抗ウサギIgG(Amersham Bioscience, Piscataway, New Jersey)と共にインキュベートした後、スポットを3−アミノ−9−エチルカルバゾールを用いて可視化した。
【0147】
その結果、mAb 1F2、5F2、5H4及び6C9は、それぞれFZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)のアミノ酸残基157〜170(EPTRGSGLFPPLFR)、157〜170(EPTRGSGLFPPLFR)、161〜173(GSGLFPPLFRPQR)、156〜169(DEPTRGSGLFPPLF)を認識した(図12)。
【実施例12】
【0148】
5F2 mAbによるSS異種移植片の増殖の抑制
本発明者の動物施設において、施設のガイドラインに従って、in vivo実験を行った。0.1mlのSYO−1細胞懸濁液(5×106細胞)を6週齢の無胸腺メスマウス(BALB/cA Jcl−nu)の横腹に皮下注射した。腫瘍の体積は式:0.5×(最大直径)×(最小直径)2を用いて決定した。異種移植片は40〜75mm3のサイズであり、動物は2つの群にランダムに分けた。1つの群(n=5)には50μgのmAb 5F2を連続する10日間にわたり腫瘍内注射した。対照として、別の群(n=6)には、非免疫ウサギIgG(DAKO)を投与した。腫瘍の増殖は、処置の最初の日に計算した腫瘍体積に対する所定の日における腫瘍体積の比により評価した。
【0149】
SS異種移植片におけるTT641 pAbの増殖抑制作用を確認するため、抗FZD10 mAbである5F2及び1F2がSS異種移植片における抗腫瘍作用を示すかどうかを調べた。SS異種移植片の増殖は、非免疫ウサギIgGを用いた処置と比較して、mAb 5F2を用いた処置によって低減した(図13)。抗体処置の開始から10日目(図13において矢印で示す)に、mAb 5F2で処置したマウスにおけるSS異種移植片の増殖速度は、陰性対照で観察された速度よりも有意に低減した(図13)。これらの知見は、mAb 5F2がSS細胞の腫瘍増殖を抑制している可能性があることを示している。
【0150】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の精神及び範囲内で、当業者によって多数の変形及び改変をなしうることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1Aは、正常ヒト成人組織(心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、膵臓、骨髄及び胎盤)、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)並びにSS外科標本(SS487及びSS582)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。図1Bは、結腸癌細胞系(LoVo、HT29及びSW480)並びにSS細胞系(SYO−1、HS−SY−2及びYaFuSS)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【図2】図2A及び2Bは、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識した、アフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を示す写真である。
【図3】図3A、3B及び3Cは、免疫細胞化学分析によるFZD10タンパク質の細胞内局在化を示す写真である。
【図4】図4は、いくつかの腫瘍細胞系におけるTT641 pAbを用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図5】図5は、重複する合成線状ペプチドを用いたTT641 pAbのエピトープマッピングを示す写真である。
【図6】図6A〜6Oは、正常ヒト成人組織、SS腫瘍組織、原発性結腸癌、及び結腸癌の転移肝臓病変における、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を示す写真である。
【図7】図7Aは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。図7Bは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。
【図8】図8は、TT641 pAbがSS異種移植片に対して増殖抑制作用を発揮したことを示すグラフである。
【図9】図9A〜9Lは、TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色を示す写真である。
【図10A】図10Aは、8種の正常マウス組織(心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣)におけるFZD10のノーザンブロット分析により検出された正常マウス組織中のマウスFZD10の発現を示す写真である。
【図10B】図10B〜10Eは、正常マウスの腎臓(B)、胎盤(C)、肺(D)及び脳(E)組織における、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。
【図11A】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11B】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11C】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11D】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11E】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図12】図12は、重複する合成線状ペプチドを用いて行った、mAbである1F2、5F2、5H4及び6C9のエピトープマッピングを示す写真である。
【図13】図13は、SS異種移植片に対するmAb 5F2の増殖抑制作用を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
1.関連出願についての相互参照
本出願は、2003年7月11日出願の米国特許仮出願第60/486,195号の優先権を主張し、これを参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
2.発明の背景
2.1 発明の分野
本発明は、被験体におけるFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患(特に滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病)の治療及び/又は予防方法に関する。また本発明は、被験体におけるFZD10関連疾患の診断方法に関する。さらに本発明は、FZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.2 関連分野の説明
最近、ヒト化モノクローナル抗体、例えばErbB2に対するトラスツズマブ(ハーセプチン)(非特許文献1)、及びCD20に対するリツキシマブ(リツキサン)(非特許文献2)などを用いた分子標的治療が、乳癌及び悪性リンパ腫の数事例において治療結果の改善に寄与している。これらの有望な治療は、腫瘍細胞の表面上に存在する標的化タンパク質に直接結合する、ゲノム研究に基づく抗癌薬の最初の例である。ヒト化抗体は、細胞表面受容体の阻害による増殖シグナル伝達の阻害と、特異的抗体との相互作用及び/又は抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)による標的分子のダウンレギュレーションを介して、抗腫瘍作用を発揮すると考えられている。抗体に基づく抗腫瘍効果の正確な機構はまだ解明されていないが、これらの治療は、特に化学療法剤耐性癌又は放射線耐性癌の治療において有望な方法である。
【0004】
間葉組織に生じる悪性腫瘍として定義される肉腫のうち、骨肉腫、ユーイング肉腫及び黄紋筋肉腫は一般的に化学療法に対して感受性がある。しかしながら他の肉腫の多く(特に成人の紡錘細胞肉腫)は、化学療法剤耐性及び放射線耐性のために治療することが困難な疾患である(非特許文献3〜6)。滑膜肉腫(SS)は、そのような腫瘍の典型であり、SSの予後は集学的治療の発達により改善されているが、治療結果をさらに改善するには抗体に基づく治療を含む新規な治療方法を開発する必要がある。
【0005】
標的の腫瘍に対する抗体に基づく治療の開発については、標的腫瘍の大部分において過剰発現され、かつ正常な器官組織においては発現されないか最小限しか発現されない細胞表面分子を同定することが重要である。しかしながら、腫瘍において特異的に発現されるタンパク質を同定することは困難であり、抗体に基づく治療の確立が望まれている滑膜肉腫や他の腫瘍において特異的に発現されているタンパク質に関する報告はない。
【0006】
【非特許文献1】Fendly, B. M. et al., Cancer Res. 50: 1550-8., 1990年
【非特許文献2】Maloney, D. G. et al., Blood. 90:2188-95., 1997年
【非特許文献3】Crist, W. M. et al., J Clin Oncol. 19: 3091-102., 2001年
【非特許文献4】Wunder, J. S. et al., J Bone Joint Surg Am. 80: 1020-33., 1998年
【非特許文献5】Ferguson, W. S. and Goorin, A. M., Cancer Invest. 19: 292-315., 2001年
【非特許文献6】Adjuvant chemotherapy for localised resectable soft-tissue sarcoma of adults: meta-analysis of individual data. Sarcoma Meta-analysis Collaboration, Lancet. 350: 1647-54., 1997年
【発明の開示】
【0007】
3.発明の概要
滑膜肉腫の治療法の開発に関する上記の問題及び要求を検討した結果、本発明者のグループは、23,040種の遺伝子からなるcDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現パターンのゲノムワイドな分析によって、SSが神経冠細胞を起源とする可能性があることを報告し、またSSの生物学的特徴が悪性末梢神経鞘腫瘍に類似していることに着目した(Nagayama, S. et al., Cancer Res. 62:5859-66., 2002)。その結果、本発明者はSSにおいて共通してアップレギュレートされている26種の遺伝子を同定し、その産物が新規な治療薬の開発の好適な分子標的となりうると考えた。これらのアップレギュレートされる遺伝子のうち、本発明者は、以下の基準に沿ってSSの分子標的治療の開発に好適な1つの候補遺伝子を選択した。すなわち、(i)脳、心臓、肺、肝臓、腎臓及び骨髄などの重要な器官における発現が比較的低いため、決定的な有害な副作用を回避する;(ii)遺伝子産物が細胞膜内在性タンパク質であると予測される。これらの基準に基づき、本発明者はWntの細胞表面受容体の1つであり、7回膜貫通タンパク質のFrizzledファミリーに属するFrizzledホモログ10(FZD10)に着目した。FZD10の発現は原発性直腸結腸癌(Terasaki, H. et al., Int J Mol Med. 9: 107-12., 2002)及び原発性胃癌(Kirikoshi, H. et al., Int J Oncol. 19: 767-71., 2001)並びにSSにおいてアップレギュレートされることが証明されているが、腫瘍形成におけるFZD10の正確な生物学的作用は明らかとなっていない。従って、腫瘍増殖におけるFZD10の関与の可能性は、FZD10のシグナル伝達の阻害によって解明されうる。
【0008】
今回、本発明者は、滑膜肉腫(SS)の抗体に基づく治療の開発のために、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識する特異的なポリクローナル抗体(TT641 pAb)及びモノクローナル抗体(mAb)を作製した。上述の分子標的の選択に関する基準の通り、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析によって、FZD10が、いくつかの器官組織の上皮を除いて、正常な重要器官においては発現されない又は発現が低いことが明らかとなった。さらに、この特異的な抗体が、FZD10を過剰発現するSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の媒介に有効であることが証明された。加えて、ヌードマウスを用いたin vivo実験によって、TT641 pAbの腫瘍内注射によって、おそらく腫瘍細胞のアポトーシスの誘導によって、SS異種移植片の増殖が軽減したことが示された。
【0009】
以上の知見に基づいて、本発明者はFZD10に対する抗体がSS及び他のFZD10過剰発現腫瘍の治療及び診断において治療薬及び予防薬の可能性を有すると結論付けた。
【0010】
従って、一態様において、本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、有効量のFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを該被験体に投与することを含む方法を提供する。「FZD10に関連する疾患(FZD10関連疾患)」とは、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。そのような疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。
【0011】
本発明の方法において使用する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体でありうる。抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチド、特に配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されていることが好ましい。
【0012】
さらに、別の態様において、本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法であって、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む方法を提供する。
【0013】
「FZD10に関連する疾患(FZD10関連疾患)」とは、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。そのような疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。本発明の方法において使用する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体でありうる。抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチド、特に配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されていることが好ましい。
【0014】
またさらに、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメント、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0015】
さらにまた、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントを含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットを提供する。
【0016】
本発明はまた、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットの製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用を提供する。
【0017】
そしてさらに、本発明は、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための組成物の製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用を提供する。
【0018】
4.図面の簡単な説明
図1Aは、正常ヒト成人組織(心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、膵臓、骨髄及び胎盤)、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)並びにSS外科標本(SS487及びSS582)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【0019】
図1Bは、結腸癌細胞系(LoVo、HT29及びSW480)並びにSS細胞系(SYO−1、HS−SY−2及びYaFuSS)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【0020】
図2A及び2Bは、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識した、アフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を示す写真である。
【0021】
図2Aは、いくつかの腫瘍細胞系、すなわちSS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)、結腸癌細胞系(SW480、LoVo、DLD1、HT29、HCT116、SNU−C4及びSNU−C5)、子宮頸部腺癌細胞系(HeLa)、並びに繊維肉腫細胞系(HT1080)におけるFZD10のウエスタンブロット分析を示す写真である。βアクチン発現をローディング対照として用いた。
【0022】
図2Bは、図2Aで調べたものと同じ腫瘍細胞系におけるFZD遺伝子ファミリーの半定量RT−PCR分析を示す写真である。β2ミクログロブリン遺伝子(β2MG)の発現を内部対照とした。FZDファミリーメンバーは、FZD10−ECDに対するアミノ酸配列の相同性の順に配置した。FZD9がFZD10−ECDに対して最も高い相同性を有した。
【0023】
図3A、3B及び3Cは、免疫細胞化学分析によるFZD10タンパク質の細胞内局在化を示す写真である。
【0024】
図3Aは、FZD10を安定に過剰発現するCOS7−FZD10細胞の確立を示すウエスタンブロットを示す写真である。S5、S9、S10、S3及びS11はCOS7−FZD10安定トランスフェクト細胞の代表例であり、細胞外に発現される産物は、SS細胞系であるHS−SY−2及びYaFuSSにおいて発現される内因性FZD10と同じサイズであった。
【0025】
図3Bは、抗myc抗体及びTT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。左側のパネルは、テキサスレッド結合抗mycにより免疫染色された細胞を示す。中央のパネルは、TT641 pAb(Alexa Flour 488)で処理した同じ細胞を示し、両方のシグナルを黄色シグナルとして二色画像において重ねている(右側のパネル)。
【0026】
図3Cは、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)における内因性FZD10の検出についての、TT641 pAbによる免疫細胞化学染色を示す写真である。
【0027】
図4は、いくつかの腫瘍細胞系におけるTT641 pAbを用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。実線はTT641 pAbにより検出されたFZD10(細胞表面抗原)の発現レベルを示し、破線は陰性対照として非免疫ウサギIgGと共にインキュベートした細胞のシグナルを表す。
【0028】
図5は、重複する合成線状ペプチドを用いたTT641 pAbのエピトープマッピングを示す写真である。1アミノ酸が重複し、FZD10−ECDの全長アミノ酸に対して作製した一連の10残基のペプチドを含む膜を、TT641 pAbと反応させ、その結合を、HRP結合ヤギ抗ウサギIgGを用いて検出した。太字は、FZD10−ECDの可能性あるコアエピトープを示す。
【0029】
図6A〜6Oは、正常ヒト成人組織、SS腫瘍組織、原発性結腸癌、及び結腸癌の転移肝臓病変における、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を示す写真である。これらの図において、A=胎盤、B=脳、C=心臓、D=肺、E=肝臓、F及びG=異なる個体由来の腎臓、H及びI=同じ個体由来の胃、J=結腸、K及びL=同じ二相SS標本のSS腫瘍細胞、M、N及びO=原発性結腸癌及び同じ患者の転移肝臓病変である。元の倍率は、A、B、C、D、E、F、G、I、J、K及びM=100倍、H及びN=40倍、L及びO=200倍である。
【0030】
図7Aは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。細胞傷害性は、細胞溶解時の放出乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の定量測定によりアッセイした。ここで、ターゲット細胞及びエフェクター細胞は、E:T比25:1で7μg/mlのTT641 pAbと共に同時インキュベートした。この図において、T=ターゲット細胞(SYO−1)、E=エフェクター細胞(PBMC)、Tspon=ターゲット細胞からの自発性LDH放出、Espon=エフェクター細胞からの自発的LDH放出、Ab=TT641 pAb。
【0031】
図7Bは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。いくつかのE:T比におけるFZD10過剰発現細胞に対する細胞媒介性細胞傷害は、培地に添加したTT641 pAbの量との正の相関を示す。
【0032】
図8は、TT641 pAbがSS異種移植片に対して増殖抑制作用を発揮したことを示すグラフである。腫瘍増殖は、TT641 pAbで処置した実験群(n=16)(黒丸)と非免疫ウサギIgGで処置した対照群(n=16)(白丸)において処置開始日に計算した腫瘍体積に対する、所定の日における腫瘍体積の比率として評価した。処置は、連続する5日間(第0〜4日)にわたり継続した。データは、平均+SDで表す。
【0033】
図9A〜9Lは、TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色を示す写真である。処置終了の2日後に、腫瘍を摘出し、10%ホルムアルデヒドで固定した。TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色は、細胞増殖能の信頼性ある指標であるため、これを非免疫ウサギ抗体(A、B、C、G、H及びI)並びにTT641 pAb(D、E、F、J、K及びL)で処置した腫瘍からのパラフィン包埋検体の連続切片に対して実施した。この図では、A、D、G及びJ=HE染色、B、E、H及びK=Ki−67についての免疫染色、C、F、I及びL=TUNEL分析である。元の倍率は、A〜F=40倍、G〜L=200倍、Lの差込図=400倍である。
【0034】
図10Aは、8種の正常マウス組織(心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣)におけるFZD10のノーザンブロット分析により検出された正常マウス組織中のマウスFZD10の発現を示す写真である。βアクチンの発現をローディング対照として用いた。
【0035】
図10B〜10Eは、正常マウスの腎臓(B)、胎盤(C)、肺(D)及び脳(E)組織における、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。
【0036】
図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。灰色の線は、各mAbにより検出された細胞表面抗原FZD10の発現を示し、黒色の線は、陰性対照として非免疫ウサギIgGと共にインキュベートした細胞の蛍光シグナルを示す。
【0037】
図12は、重複する合成線状ペプチドを用いて行った、mAb 1F2、5F2、5H4及び6C9のエピトープマッピングを示す写真である。
【0038】
図13は、SS異種移植片に対するmAb 5F2の増殖抑制作用を示すグラフである。腫瘍増殖は、mAb(5F2)で処置した実験群(5F2、n=5)(白丸)と非免疫ウサギIgGで処置した対照群(n=6)(黒丸)において処置開始日に計算した腫瘍体積に対する、所定の日における腫瘍体積の比率として評価した。処置は、連続する10日間(第0〜9日、矢印)にわたり継続した。データは、平均+SDで表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
5.発明の詳細な説明及び好ましい実施形態
本発明は、被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患(FZD10関連疾患)を治療及び/又は予防する方法、並びに該疾患を診断及び/又は予後診断する方法に関する。これらの方法に有用な組成物もまた本発明の範囲内に包含される。
【0040】
本発明は、以下に説明するように、FZD10に対する特異的なポリクローナル抗体(TT641 pAb)及びFZD10に対するモノクローナル抗体(mAb)が、FZD10を過剰発現するSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の媒介、及びSS異種移植片の増殖の抑制に有効であるという知見に基づいている。また、本発明は、FZD10が滑膜肉腫を含む特定の腫瘍において特異的に発現され、これらの腫瘍がFZD10に対する特異的抗体を用いて検出可能であるという知見に基づいている。
【0041】
5.1 抗体の作製
本発明において使用可能な抗体は、FZD10関連疾患に由来するFZD10タンパク質と特異的に反応するものである。本明細書において「抗体」という用語は、抗原であるタンパク質又はその部分ペプチドに結合可能な抗体分子全体又はそのフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメントなど)を意味する。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいし、さらにはヒト化又はキメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)抗体などであってもよい。本発明において使用するための、抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体)は例えば以下の手法により作製することができる。
【0042】
5.1.1 免疫原(抗原)
本発明において使用可能な抗体を作製するにあたり、免疫原(抗原)として使用するタンパク質を調製する。免疫原タンパク質としては、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを用いる。本発明において免疫原として使用可能なFZD10タンパク質のアミノ酸配列及び該タンパク質をコードするcDNA配列は、GenBankにそれぞれアクセッション番号BAA84093(配列番号1)及びAB027464(配列番号2)として公開されている。従って、公開されているアミノ酸配列情報を利用して、当技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより、免疫原として使用するためのFZD10タンパク質又はその部分ペプチドを合成することができる。ここで、FZD10タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、FZD10タンパク質のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)に相当する、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜225を含むペプチドが挙げられる。また、例えばFZD10タンパク質(配列番号1)の43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、又は214〜225番のアミノ酸残基、あるいはこれらの部分配列うち少なくとも5残基、好ましくは6〜10残基を含むペプチドも免疫原として使用することが可能である。本発明においては特に、FZD10タンパク質(配列番号1)の214〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドを免疫原として使用することが好ましい。
【0043】
また、公知の遺伝子組換え手法を利用して、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドをコードするcDNAの配列情報を用いて当該タンパク質又はその部分ペプチドを生産することも可能である。以下、遺伝子組換え手法を用いたタンパク質又はその部分ペプチドの生産に関して説明する。
【0044】
タンパク質生産用組換えベクターは、上記cDNA配列を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、タンパク質生産用組換えベクターを、標的FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
【0045】
ベクターとしては、宿主において自律複製するファージ又はプラスミドを使用する。プラスミドDNAとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET28、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、及び他のプラスミドDNA)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、及び他のプラスミドDNA)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、及び他のプラスミドDNA)などが挙げられる。ファージDNAとしてはλファージ(λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルスベクター及びワクシニアウイルスベクターなどの動物ウイルスベクターを用いることもできるし、バキュロウイルスベクターなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0046】
例えば以下の方法により、ベクターにFZD10又はその部分ペプチドをコードするDNA(以下、FZD10 DNAともいう)を挿入する。この方法では、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する。
【0047】
その他、哺乳動物細胞において用いられるタンパク質生産用組換えベクターには、プロモーター、FZD10 DNAのほか、所望によりエンハンサー及び他のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合部位(RBS)などが連結されていてもよい。
【0048】
DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、タンパク質生産用組換えベクターを作製する。
【0049】
形質転換に使用する宿主としては、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、宿主としては、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae等)、動物細胞(COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0050】
一例として、細菌を宿主として用いる場合は、タンパク質生産用組換えベクターが該宿主細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合部位、FZD10 DNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、組換えベクターは、プロモーターを制御する遺伝子を含んでもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BRLなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。
【0051】
細菌宿主への組換えベクターの導入は、当技術分野で公知の任意の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0052】
酵母、動物細胞、昆虫細胞などを宿主として用いる場合には、同様に、当技術分野で公知の手法に従って形質転換体を作製し、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドを宿主(形質転換体)において生産することができる。
【0053】
本発明において免疫原として使用するFZD10タンパク質又はその部分ペプチドは、上記作製した形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体のホモジェネートのいずれをも意味するものである。上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0054】
大腸菌、酵母菌又は他の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類及び他の成分を含有し、形質転換体が効率的に増殖できる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0055】
形質転換体の培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、25〜37℃で3〜6時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は、必要に応じて、組換え発現ベクターに挿入した選択マーカーに応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0056】
培養後、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞をホモジナイズすることによりタンパク質又はその部分ペプチドを抽出する。また、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により培地から菌体又は細胞の破砕物を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からFZD10タンパク質又はその部分ペプチドを単離精製することができる。
【0057】
FZD10タンパク質又はその部分ペプチドが得られたか否かは、例えばSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。
【0058】
次に、得られたFZD10タンパク質又はその部分ペプチドをバッファーに溶解して免疫原を調製する。なお、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加してもよい。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント等が挙げられる。これらのアジュバントは、単独で又は混合して用いることができる。
【0059】
5.1.2 ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体を作製する場合は、セクション4.1.1のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。必要に応じて完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等のアジュバントを用いることもできる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜7回の免疫を行う。その後、最終の免疫日から1〜7日後に、酵素免疫測定法(酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0060】
5.1.3 モノクローナル抗体
セクション5.1.1のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに投与する。必要に応じて完全フロイントアジュバント(FCA)、不完全フロイントアジュバント(FIA)等のアジュバントを用いることもできる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜3回の免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜7日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられる。
【0061】
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63−Ag.8.U1(P3U1)、NS−Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0062】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤(例えばポリエチレングリコール等)の存在のもとで融合反応を行う。また、エレクトロポレーションを利用した市販の細胞融合装置を用いて細胞融合させることもできる。
【0063】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液をウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、30日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0064】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清を、FZD10タンパク質又はその部分ペプチドに反応する抗体が存在するか否かについてスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、又はラジオイムノアッセイ(RIA)等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。
【0065】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0066】
本発明において使用可能なモノクローナル抗体のグロブリンタイプは、FZD10タンパク質との特異的結合活性を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。
【0067】
組換えFZD10タンパク質に対して誘起されたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンであるマウス−マウスハイブリドーマ5F2 TK10P2は、2004年2月18日付で独立行政法人産業技術総合研究所 IPOD国際特許生物寄託センター(AIST、305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1−1、つくば中央6)に国際寄託され、受託番号FERM BP−08628が付与されている。本発明においてはこのハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を使用することが好ましい。しかしながら、本発明において使用可能な抗体は上記モノクローナル抗体に限定されるものではない。
【0068】
5.1.4 他の抗体
さらに、「キメラ抗体」の作製について開発されている技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314: 452-454)を使用してもよい。これらの技術では、適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子を適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングする。キメラ抗体は、異なる動物種に由来する異なる部分が存在する分子であり、例えばマウスmAb由来の可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体、例えば「ヒト化抗体」がある。
【0069】
あるいは、一本鎖抗体の作製について記載されている技術(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334: 544-546)を採用して、FZD10タンパク質又はそのペプチドに対する一本鎖抗体を作製することも可能である。一本鎖抗体は、アミノ酸架橋によってFv領域の重鎖フラグメントと軽鎖フラグメントとを連結し、一本鎖のポリペプチドを得ることにより形成される。大腸菌における機能性Fvフラグメントの構築に関する技術もまた用いることが可能である(Skerra et al., 1988, Science 242: 1038-1041)。
【0070】
5.1.5 抗体フラグメント
目的のタンパク質の一部(エピトープ)を特異的に認識する抗体フラグメントは、公知の技法により作製することができる。例えば、そのようなフラグメントとしては、限定されるものではないが、抗体分子のペプシン消化により作製しうるF(ab’)2フラグメント、及びF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより作製しうるFabフラグメントが挙げられる。
【0071】
あるいは、Fab発現ライブラリを構築し(Huse et al., 1989, Science, 246: 1275-1281)、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントを迅速かつ簡便に同定することも可能である。
【0072】
5.2 治療用途
以下に、本発明の抗体を用いた、FZD10関連疾患を治療及び/又は予防するための方法及び医薬組成物について説明する。治療の成果は、処置した被験体に少なくとも健康に良い効果をもたらすことであり、腫瘍の場合には、限定されるものではないが、腫瘍の寛解、腫瘍の症状の軽減、及び腫瘍の転移速度の制御などをもたらすことである。
【0073】
具体的には、本発明に係る、被験体におけるFZD10関連疾患の治療及び/又は予防方法は、その必要のある被験体に、上述の抗体又はフラグメント(セクション5.1参照)を投与することを含む。
【0074】
本明細書において「被験体」という用語は、FZD10関連疾患を罹患している被験体、またFZD10関連疾患を有することが疑われる被験体を意味する。本発明において被験体は、哺乳動物及び鳥類動物を含む動物でありうる。例えば、哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ及びイヌが挙げられる。
【0075】
本明細書において「FZD10関連疾患」という用語は、FZD10タンパク質の過剰発現に関連する疾患を意味する。具体的には、FZD10関連疾患としては、限定されるものではないが、滑膜肉腫(SS)、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病(CML)、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。
【0076】
5.2.1 医薬組成物
本明細書に記載の抗体は、FZD10関連疾患を治療又は予防するために有効な量で被験体に投与することができる。有効量とは、治療対象の被験体に健康に良い効果をもたらすのに十分な抗体の量を意味する。医薬組成物が本発明の抗体を含む場合に採用しうる製剤及び投与方法を以下に記載する。
【0077】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、1以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を用いて慣用的に製剤化することができる。
【0078】
抗体は、注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与(すなわち静脈内又は筋肉内投与)用に製剤化しうる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプル又は複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。組成物は、懸濁剤、溶剤、又は油性若しくは水性ビヒクル中の乳剤のような剤形をとることができ、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤用薬剤を含みうる。あるいは、抗体は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成するための凍結乾燥粉剤としてもよい。
5.2.2 用量及び投与経路
本発明の抗体の毒性及び治療効力は、例えばLD50(集団の50%が致死となる量)及びED50(集団の50%に対して治療上有効な量)を決定するため、標準的な医薬の手順により、細胞培養物又は実験動物において決定することができる。毒性作用を示す用量と治療効果を示す用量の比は治療インデックスであり、比LD/EDとして表すことができる。
【0079】
治療インデックスが高い抗体が好ましい。毒性の副作用を示す抗体を用いる場合には、かかる抗体が罹患組織の部位に標的化するような送達系を設計して、非罹患細胞が受ける可能性のある損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減することに注意すべきである。
【0080】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを用いて、ヒトにおける使用のための用量範囲を決定しうる。そのような抗体の投与量は、ほとんど又は全く毒性のないED50を含む循環血漿濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、この範囲内で、使用する投与剤形、及び採用する投与経路に応じて異なる。本発明の方法において用いる抗体については、まず細胞培養アッセイから有効量を推定しうる。細胞培養で決定したIC50(すなわち、症状の最大半分の抑制を達成する試験抗体の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて決定しうる。このような情報は、ヒトにおける有効量をより詳細に決定するために用いることができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0081】
被験体の症状及び年齢、並びに/又は投与経路に応じて、当業者であれば、本発明の医薬組成物の適切な用量を選択することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を1日に被験体の体重1kg当たり約3〜約15μg、好ましくは被験者の体重1kg当たり約10〜約15μgの量を投与できるような量で投与される。投与間隔及び投与期間は、被験体の症状及び年齢、投与経路、並びに医薬組成物に対する応答を考慮して選択しうる。例えば、医薬組成物は、1〜5回、好ましくは5〜10日にわたり1日1回投与することができる。
【0082】
医薬組成物は、全身投与又は局所投与することができ、好ましくは、標的送達手段を用いて、有効成分が罹患部位に送達されるようにしてもよい。
【0083】
5.2.3 併用療法
特定の実施形態において、本発明の方法及び組成物は、化学療法剤、例えば限定されるものではないが、メトトレキセート、タキソール、メルカプトプリン、チオグアニン、シスプラチン、カルボプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル及びドセタキセルなどの化学療法剤の1つ又はその組み合わせと共に、FZD10関連疾患の治療又は予防に用いる。
【0084】
放射線療法に関して、治療対象のFZD10関連疾患の種類に応じて、任意の放射線療法プロトコールを用いることができる。例えば限定されるものではないが、X線照射を実施しうる。γ線が放射する放射性同位体、例えばラジウム、コバルト及び他の元素の放射性同位体などを組織に照射してもよい。
【0085】
別の実施形態において、化学療法又は放射線療法は、本発明の抗体を含む方法及び組成物を用いた後、好ましくは少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1ヶ月、より好ましくは数ヶ月(例えば最大3ヶ月)にわたり実施しうる。化学療法又は放射線療法は、本発明の方法及び組成物を用いた処置の前、処置と同時、又は処置の後に実施することができ、当技術分野で公知の任意の方法により実施することができる。
【0086】
5.3 診断及び予後診断用途
また、セクション5.1.2に記載のFZD10タンパク質又はそのペプチド断片に対する抗体は、本明細書に記載のように、診断薬及び予後診断薬として用いることができる。そのような診断方法は、FZD10関連疾患の有無、及び該疾患を患うリスクを検出するために用いうる。本発明のFZD10関連疾患の診断及び/又は予後診断方法は、サンプル中の疾患に由来するFZD10タンパク質を、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、免疫学的に検出又は測定することを含む。具体的には、本発明に係る、被験体におけるFZD10関連疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法は、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む。
【0087】
本発明の診断及び/又は予後判定方法は、抗体を用いる測定法、すなわち免疫学的アッセイであれば任意の方法に基づいて実施することができる。本発明の抗体又はそのフラグメントをそのアッセイで使用される抗体として用いてFZD10タンパク質を検出することができる。例えば、このFZD10タンパク質の検出は、免疫組織化学的染色法、イムノアッセイ(酵素イムノアッセイ(ELISA、EIA)、蛍光イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及びウエスタンブロット法等)などを利用して実施される。
【0088】
本発明のFZD10関連疾患の診断及び/又は予後判定方法において被検対象となるサンプルとしては、FZD10関連疾患に由来するFZD10タンパク質が含まれる可能性のある生体サンプルであれば特に限定されるものではない。例えば、そのようなサンプルとしては、血液、血清、血漿、リンパ球培養上清、尿、髄液、唾液、汗、腹水などが挙げられる。特に腫瘍組織、腫瘍生検及び転移組織のようなサンプルにおいて、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて得られたFZD10タンパク質の測定値は、FZD10関連疾患の指標として有用である。
【0089】
例えば、セクション5.1に記載されるような、本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、FZD10タンパク質を定量的又は定性的に検出しうる。本発明の抗体(又はそのフラグメント)はさらに、例えば免疫蛍光又は免疫電子顕微鏡のように、FZD10タンパク質のin situ検出のために、組織学的に用いてもよい。in situ検出は、被験体から組織学的サンプルを切除し(組織のパラフィン包埋切片など)、それに本発明の標識化抗体をアプライすることにより実施しうる。抗体(又はそのフラグメント)は、サンプルに標識化抗体(又はそのフラグメント)を積層することによってアプライすることが好ましい。当業者であれば、本発明を用いて広範囲の多様な組織学的方法(染色手法など)に変更を行って、そのようなin situ検出を実施しうることは容易に理解できるだろう。
【0090】
FZD10タンパク質についてのイムノアッセイは、典型的には、試験対象の被験体に由来するサンプル(例えば生体液、組織抽出物、新たに採取した細胞、又は細胞培養においてインキュベートしておいた細胞の溶解物など)を、本発明の検出可能に標識した抗体の存在下でインキュベートし、当技術分野で周知のいくつかの手法のいずれかにより結合した抗体を検出することを含む。
【0091】
サンプルは、固相支持体又は担体(ニトロセルロース、又は細胞、細胞粒子若しくは可溶性タンパク質を固定することができる他の固体支持体など)と接触させてもよいし、あるいはその上に固定してもよい。続いて支持体を適当なバッファーで洗浄し、FZD10に対する検出可能に標識した抗体を用いて処理する。次に固相支持体にバッファーを用いた2回目の洗浄を行って、未結合の抗体を除去する。そして固体支持体上の結合した標識の量を、慣用的な手段により検出する。
【0092】
「固相支持体又は担体」という用語は、抗原又は抗体と結合可能な任意の支持体を意味する。当業者であれば、抗体または抗原と結合させるための多くの好適な担体を認識しているか、又は通常の実験を用いてそれを確認することができる。
【0093】
所定の抗FZD10抗体の結合活性は、周知の方法に従って測定しうる。当業者であれば、通常の実験を用いることにより、各測定についての有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができる。
【0094】
本発明においては、本発明の抗体(又はそのフラグメント)と、サンプル中のFZD10関連疾患の罹患部位に由来するFZD10タンパク質との反応を容易に検出するために、本発明の抗体を標識することにより該反応を直接検出するか、又は標識二次抗体を用いることにより間接的に検出する。本発明の方法においては、良好な感度のため、後者の間接的検出(例えばサンドイッチアッセイ、ELISAの結合アッセイなど)を利用することが好ましい。
【0095】
本発明で使用するための標識の例としては以下のものが挙げられる。すなわち、酵素イムノアッセイの場合には、パーオキシダーゼ(POD)、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ及びビオチン−アビジン複合体等を用いることができる。蛍光イムノアッセイの場合には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート等を用いることができる。ラジオイムノアッセイの場合には、トリチウム、ヨウ素125及びヨウ素131等を用いることができる。また、発光イムノアッセイでは、NADH−FMNH2−ルシフェラーゼアッセイ、ルミノール−過酸化水素−POD系、アクリジニウムエステル系及びジオキセタン化合物系等を用いることができる。
【0096】
標識は、慣用の手法により抗体と結合させることができる。例えば、標識は、酵素イムノアッセイの場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法により、ラジオイムノアッセイの場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法により、抗体に結合させることができる。
【0097】
アッセイの操作法は、公知の方法(Ausubel, F.M.ら編, Short Protocols in Molecular Biology, Chapter 11 "immunology" John Wiley & Sons, Inc. 1995)により行うことができる。
【0098】
例えば、本発明の抗体を上記のように標識で直接標識する場合には、サンプルを標識した本発明の抗体と接触させて、FZD10タンパク質−抗体の複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を分離して、結合標識抗体量又は未結合標識抗体量よりサンプル中のFZD10タンパク質量を測定することができる。
【0099】
また例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体とサンプルとを反応させ(1次反応)、得られた複合体をさらに標識二次抗体を反応させる(2次反応)。1次反応と2次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、又は時間をずらして行ってもよい。1次反応及び2次反応により、FZD10タンパク質−本発明の抗体−標識二次抗体の複合体、又は本発明の抗体−FZD10タンパク質−標識二次抗体の複合体が形成される。そして未結合の標識二次抗体を分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量よりサンプル中のFZD10タンパク質量を測定することができる。
【0100】
以下に、本発明の好ましい実施態様の一例を示す。最初に、本発明の抗体を一次抗体としてサンプル(組織切片など)と接触させる。続いて、公知のブロッキング試薬を用いてこの一次抗体の非特異的結合をブロッキングする。次いで、サンプルをFZD10タンパク質と異なる部位で一次抗体(本発明の抗体)と反応する標識二次抗体とを接触させ、該標識からのシグナルを検出する。
【0101】
本明細書で用いる「FZD10タンパク質と異なる部位で一次抗体と反応する二次抗体」は、一次抗体とFZD10タンパク質との結合部位以外の部位を認識する抗体であれば特に制限はない。二次抗体は、上述したように、ポリクローナル抗体、抗血清、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またこれらの抗体のフラグメント(Fab、F(ab’)2、Fab’等)を用いることもできる。更に、二次抗体として複数種の抗体の混合物を用いてもよい。
【0102】
以上のようにして、被験体に由来するサンプル中のFZD10タンパク質レベルを測定し、必要であれば正常サンプル又はFZDタンパク質が発現しないことが知られている組織サンプル中のタンパク質量と比較し、該FZD10タンパク質レベルが増大又は低減を示す場合には、そのサンプルを採取した被験体が、FZD10関連疾患を患っているか、又は患うリスクがあると判定する。FZD10タンパク質量は各被験体の状態、性別、年齢及び他の要因によっても変動するため、正常な組織又はサンプル中のFZD10タンパク質量と、FZD10タンパク質が発現しない組織におけるFZD10タンパク質量とを比較し、それらに差があるかどうかを調べることによって、疾患の有無又はリスクを判定することもできる。また、予後診断を行う場合には、原発性腫瘍を有している被験体のサンプルを採取した時点におけるFZD10タンパク質量と比較することも有効である。
【0103】
さらに別の態様においては、本発明の抗体を放射性同位体で標識し、この標識抗体を被験体に非経口投与することにより、FZD10関連疾患の原発性腫瘍及びそれに関連する転移性腫瘍の局在を侵襲性なく速やかに知ることができる。このような診断方法は、腫瘍イメージングとして公知であり、当業者であればそのための手法を容易に理解することができる。標識抗体の投与経路は、好ましくは非経口経路、例えば静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
【0104】
5.3.1 キット
また本発明の抗体は、上述したように、FZD10タンパク質と特異的に反応するため、FZD10関連疾患の診断及び/又は予後診断用キットとして用いることができる。
【0105】
本発明の診断及び/又は予後診断用キットは、セクション5.1に記載した本発明の抗体を含むものである。従って、本発明の診断及び/又は予後診断用キットを用いて、FZD10関連疾患への罹患が疑われる被験体から採取したサンプル中に含まれるFZD10タンパク質を検出することによって、該被験体のFZD10関連疾患の罹患を迅速かつ簡便に判定することができる。このような免疫学的反応を利用した疾患の診断及び/又は予後診断用キットは周知であり、当業者であれば、抗体以外の適当な成分を容易に選択することができる。また本発明の診断及び/又は予後診断用キットは、イムノアッセイを行うための手法であればいずれの手法においても利用することができる。
【0106】
6.実施例
本発明をさらに以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例1】
【0107】
組換えタンパク質及びポリクローナル抗体
FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD;配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)とHisタグとを融合させた組換えタンパク質を、pET28発現系(Novagen, Madison, WI)を用いて大腸菌において産生させた。簡単に説明すると、タンパク質の発現は、25℃での3時間のインキュベーションによって0.5mMイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)により誘導され、その後Ni−NTA樹脂(QIAGEN, Valencia, CA)を用いて製造業者の説明書にしたがって精製した。この精製された組換えタンパク質でウサギを免疫し(Medical & Biological Laboratories, Nagoya, Japan)、その後、カップリング溶液(20mM HEPES,150mM NaCl,pH8.0)中でFZD10−ECD組換えタンパク質を結合させたAffi−Gel15支持体(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて高力価の抗血清を精製した。ゲルに結合した抗体を0.1Mグリシン(pH2.5)でカラムから溶出し、直後に1M Tris(pH8.5)で中和した。アフィニティー精製されたポリクローナル抗体(以下、「TT641 pAb」と称する)の性質及び特異性は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びウエスタンブロッティングにより確認した。
【実施例2】
【0108】
FZD10の発現
(1)細胞系及び組織標本の調製
SS細胞系(HS−SY−2、YaFuSS及びSYO−1)、結腸癌細胞系(SW480、LoVo、DLD1、HT29、HCT116、SNU−C4及びSNU−C5)、子宮頸部腺癌細胞系(HeLa)、繊維肉腫細胞系(HT1080)、並びにCOS7を、10%ウシ胎仔血清及び1%抗生物質/抗真菌剤溶液(Sigma, St Louis, MO)を添加した適当な培地中で単層増殖させ、5%CO2含有空気中で37℃にて維持した。腫瘍サンプルは、切除直後に液体窒素中で簡易冷凍し、RNAの調製まで−80℃で保存した。また外科標本を10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋のために慣用法で処理した。パラフィン塊を5μm厚の薄片に連続的に切断し、病理学的評価のためにHE(ヘマトキシリン−エオシン)で染色した。分析する全てのサンプルについて京都大学医学部の倫理委員会による承認を受けた。
【0109】
(2)ノーザンブロット分析
上記(1)で調製した細胞系及び凍結外科標本から、TRIzol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて製造業者の説明書にしたがって総RNAを抽出した。DNaseI(Nippon Gene, Osaka, Japan)による処理の後、Micro−FastTrack(Invitrogen)を用いて製造業者の説明書に従ってmRNAを単離した。各mRNAの1μgアリコートを、心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、骨髄、膵臓及び胎盤から単離されたヒト正常組織ポリA(+)RNA(Clontech, Palo Alto, CA)と共に、1%変性アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に転写した。Megaprime DNA labeling system(Amersham Bioscience)の説明書に従ってランダムプライマーα32P−dCTP標識FZD10 cDNAプローブを用いたハイブリダイゼーションを行った。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション及び洗浄は製造業者の推奨に従って行った。ブロットは増感スクリーンを用いて−80℃にて3日間かけてオートラジオグラフィー観察した。
【0110】
ノーザンブロット分析により、FZD10は正常ヒト成人組織の中で胎盤において最も高レベルで発現されることが明らかとなったが(図1A)、これは以前の報告と一致するものである(Koike, J. et al., Biochem Biophys Res Commun. 262: 39-43., 1999)。胎盤における転写産物のレベルと比較して、FZD10遺伝子はSS細胞系(HS−SY−2、YaFuSS)及びSS外科標本(SS487、SS582)においてさらに高レベルで発現された。これらの知見は、FZD10の転写がSS腫瘍細胞において上昇していることを示す。
【実施例3】
【0111】
TT641 pAbによるFZD10の細胞外ドメインの特異的認識
(1)ウエスタンブロッティング
FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識するポリクローナル抗体を作製した(実施例1参照)。このアフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を調べるため、ウエスタンブロッティング分析を以下のように実施した:
全細胞タンパク質を完全に可溶化するため、接着細胞をLaemmliサンプルバッファー(BioRad)中に回収し、音波処理で溶解させ、5分間煮沸した。各サンプルを10%SDS−PAGEゲルに導入し、ニトロセルロース膜(Amersham Bioscience)にブロットし、0.1μg/mlのTT641 pAbと共に4℃にて一晩インキュベートした。抗ウサギHRP結合免疫グロブリン(Amersham Bioscience)と共に1時間インキュベートした後、高感度化学発光試薬(ECL)(Amersham Bioscience)を用いてシグナルを可視化した。タンパク質のローディング対照として、βアクチンをモノクローナル抗βアクチンAC−15(Sigma)で検出した。
【0112】
その結果、FZD10発現細胞系において、FZD10に相当する予想サイズの単一の68kDaバンドが明りょうに観察された(図2A)。しかしながら、他のFZD遺伝子ファミリーのタンパク質のサイズはFZD10タンパク質のサイズと類似しているため、TT641 pAbにより認識される単一のバンドがFZD10に特異的であるか否かは以下のように半定量RT−PCRにより確認した。
【0113】
(2)半定量RT−PCR
各細胞系から調製した総RNAの3μgアリコートを、オリゴ(dT)12−18プライマー及びSuperscript II(Invitrogen)を用いて逆転写し、一本鎖cDNAを合成した。半定量RT−PCRは、FZDファミリーの各メンバーに特異的なプライマー、又は内部対照としてβ2ミクログロブリン(β2MG)特異的プライマーを用いて行った。プライマー配列を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
結果を図2Bに示す。ウエスタンブロッティング(図2A)に見とめられる発現パターンを、種々の細胞系を用いたFZDファミリーの10種のメンバーの転写産物レベルと比較した(図2B)。図2A及び2Bに示すように、TT641 pAbを用いたウエスタンブロッティングにより検出された発現パターンは、FZDファミリーの10種のメンバーの中で半定量RT−PCRにより明らかにされたFZD10転写産物の発現パターン、特にHeLa及びLoVo細胞系における発現パターンときわめて類似していた。この知見は、TT641 pAbがFZD10の特定のエピトープを認識するが、FZD10遺伝子ファミリーの他のメンバーを認識しないことを示している。
【実施例4】
【0116】
細胞におけるFZD10の局在
(1)免疫細胞化学
FZD10タンパク質の細胞内局在を調べるために、免疫細胞化学分析を行った。最初に、pCAGGS−FZD10−Myc−Hisの発現構築物をCOS7細胞にトランスフェクトすることにより安定にFZD10を過剰発現するCOS7−FZD10細胞(S5、S9、S10、S3及びS11)を樹立した(図3A)。
【0117】
最初に、FZD10 cDNAの全長コード配列を、KOD−Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO, Osaka, Japan)を用いてRT−PCRにより増幅し、これを、CAG(サイトメガロウイルス極初期エンハンサー・ニワトリβアクチンハイブリッド)プロモーター(Niwa, H. et al, Gene. 108: 193-9., 1991)及びネオマイシン耐性付与遺伝子を有するpCAGGS哺乳動物発現ベクターの特有のEcoRI部位に挿入した。Myc及びHisエピトープタグを発現ベクターのC末端に配置した(pCAGGS−FZD10−Myc−His)。以下のフォーワード及びリバースプライマーを用いたDNA配列決定により構築物を確認した。すなわち、フォーワード5'-GTCCCCTTCTCCATCTCCAG-3'(配列番号23);リバース5'-TATTTGTGAGCCAGGGCATT-3'(配列番号24)である。
【0118】
続いて、COS7細胞を6ウエルプレート当たり5×104細胞で接種した。24時間後、6μlのFuGene6トランスフェクション試薬(Roche, Basel, Switzerland)を用いて、15分間プレインキュベートした2μgのpCAGGS−FZD10−Myc−His混合物で細胞をトランスフェクトした。0.4mg/mlのゲネチシン(Invitrogen)を含む選択培地における3週間の培養期間後、安定なトランスフェクト細胞を樹立した。
【0119】
FZD10を発現するCOS7に由来する安定なトランスフェクト細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、その後室温で1時間かけてブロッキング溶液(3%BSA)で被覆した。細胞溶解を最小限にするため、界面活性剤による透過性処理を行わなかった。次に細胞をマウス抗c−myc抗体(9E10、1000倍希釈)と共に、またブロッキング溶液中のTT641 pAb(2μg/ml)と共に、4℃にて一晩インキュベートした。一次抗体をヤギ抗ウサギ二次蛍光抗体(Alexa Flour 488;500倍希釈、Molecular Probes)及びテキサスレッドと結合させたウマ抗マウス二次抗体(1000倍希釈、Vector Laboratories, Burlingame, CA)を用いて室温にて1時間かけて染色し、DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で染色し、ECLIPSE E 600顕微鏡(Nikon, Tokyo, Japan)で可視化した。FZD10の内因性発現パターンを検出するため、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)もまた同様に2μg/mlのTT641 pAbを用いて蛍光免疫染色した。
【0120】
COS7−FZD10細胞をテキサスレッド結合抗myc抗体で対比染色したところ、赤色シグナルがTT641 pAbの緑色シグナルと一致した(図3B)。これは、TT641 pAbのFZD10への特異的結合を支持するものである。さらに、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学分析によって、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)において観察された内因性発現パターンが、安定なトランスフェクト細胞と同様であることが明らかとなった(図3C)。推定FZD10タンパク質は7回膜貫通受容体であることが知られているが(Koike, J. et al., Biochem Biophys Res Commun. 262: 39-43., 1999)、FZD10が細胞質において点在して染色された理由は不明である。おそらく、細胞質において比較的低濃度で存在する成熟細胞表面抗原と細胞質における多量のプロセシングされていない抗原が免疫細胞化学において検出された可能性がある。
【0121】
(2)フローサイトメトリー分析
免疫細胞化学のセクションで生じた細胞内局在に関する疑問点を解決するため、フローサイトメトリー分析を実施した。
【0122】
5×106細胞をトリプシン処理により回収し、1.5μgのTT641 pAb及び非免疫ウサギIgG(DAKO, Kyoto, Japan)と共に4℃にて30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄後、2μgの蛍光抗ウサギIgG(Alexa Fluor 488, Molecular Probe)を細胞懸濁液に添加し、4℃で30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄した直後に、細胞をFACScan(Becton Dickinson, San Jose, CA)で分析した。
【0123】
3つのSS細胞系、すなわちYaFuSS、HS−SY−2及びSYO−1が、TT641 pAbにより特異的に標識された(図4)が、SW480、HT29又はLoVo細胞系において蛍光シグナルは検出されなかった。これらの観察結果は、ノーザンブロットにおいて観察されたFZD10の発現レベル(実施例1、図1B参照)と相関した。以上の結果から、これらの知見は、非変性及び変性条件下の両方において、TT641 pAbがFZD10の細胞表面抗原を特異的に認識するが、他のFZD10メンバーのいずれも認識しないことを示している(図2A及び2B)。
【実施例5】
【0124】
TT641 pAbのエピトープマッピング
TT641 pAbの特異性を決定するため、最初に以下のようにSPOTsシステムを用いてエピトープマッピングを行った。
【0125】
1アミノ酸が重複し、FZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)の全長配列に対して設計した一連の10残基の線状ペプチドを合成し、SPOT合成技法(SPOTs; Sigma Genosys)によりセルロース膜に共有結合させた。製造業者の推奨に従って、216個のペプチドスポットを有する膜をブロッキングバッファー(Sigma)と共に室温にて8時間プレインキュベートし、ブロッキングバッファー中でTT641 pAbと4℃で一晩かけてハイブリダイズさせた。膜を0.05%Tween20/TBS(50mM Tris、137mM NaCl及び2.7mM KCl、pH8.0)で洗浄後、ブロッキングバッファー中で西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギ免疫グロブリン(Amersham Bioscience)と共に室温にて2時間インキュベートした。0.05%Tween20/TBSで3回洗浄後、3−アミノ−9−エチルカルバゾールを含むシグナル現像溶液(Sigma)を用いて可視化した。
【0126】
その結果、TT641 pAbは、FZD10−ECDの6種のエピトープを異なる程度で認識した(図5)。これらのうち、TT641 pAbは、214〜225番の残基の範囲のエピトープと最大の反応性を示した。この部分は、TT641 pAbのFZD10−ECDへの特異的結合に重要な配列であると考えられる。
【実施例6】
【0127】
FZD10タンパク質の発現パターン
(1)免疫組織化学染色
TT641 pAbが組織切片中のFZD10タンパク質を特異的に認識することができるかどうか調べるため、最初に、正常な成人ヒト組織及びSS外科標本においてTT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を行った。
【0128】
パラフィン包埋標本の連続切片をそれぞれシラン化スライドにのせ、キシレン中で脱パラフィン処理し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に漬けて再水和した。次に切片を抗原を露出させるためにマイクロ波処理した。3%過酸化水素を用いて内因性のペルオキシダーゼ活性を抑制した後、一次抗体の非特異的結合をブロッキング試薬(DAKO)でブロックした。次にスライドをTT641 pAb(5μg/ml)と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、ウサギENVISIONポリマー試薬(DAKO)を二次抗体として添加して、室温で60分反応させた。最後に、ペルオキシダーゼ基質である3,3’−ジアミノベンチジン四酢酸塩(DAKO)を用いて免疫反応を可視化した。切片は、ヘマトキシリンで対比染色し、段階的な濃度のアルコール中で再水和し、キシレンで清浄し、カバースライドで覆った。陰性対照は、特異的抗体を非免疫正常ウサギIgG(DAKO)で置き換えて並行して実験した。ヒト成人正常組織のパラフィン包埋スライドは、DAKO及びBioChain(Hayward, CA)から購入し、上述と同様に免疫染色を行った。
【0129】
胎盤におけるFZD10の陽性染色(図6A)とは対照的に、正常脳(図6B)、心臓(図6C)、肺(図6D)、又は肝臓(図6E)の5つの異なる組織切片においては、ノーザンブロットの結果(実施例2、図1A参照)から予想されたように、TT641 pAbを用いた免疫染色によってFZD10の発現は検出されなかった。しかしながら、正常腎臓においては、近位及び遠位尿細管、並びに集合尿細管(図6F)において陽性染色が観察された。しかしその染色強度は個体間において変動していた(図6G)。正常胃組織においては、胃腺の上部において強力な免疫反応が観察されたが、腺の下部に位置する細胞では免疫染色ははるかに弱かった(図6H及び6I)。正常結腸組織においても、上皮細胞は腺窩の下部においてFZD10の弱い免疫反応を示したが、柔毛の表面では強力な染色強度が検出された(図6J)。対照的に、二相性SS標本のSS腫瘍細胞における細胞質パターンにおいてFZD10の強力な発現が観察された(図6K及び6L)。染色強度は上皮腫瘍細胞において特に強かったが、非上皮性の紡錘腫瘍細胞もわずかな免疫反応を示した。これらのデータは、FZD10タンパク質の発現レベルが、SS組織においては発現が増大されているのと比較して、正常な重要臓器においては検出されないか又は低いことを示唆している。さらに、原発及び転移病巣における結腸癌細胞もまた、TT641 pAbにより特異的に免疫染色されたが、その周囲の間質及び肝臓組織においてシグナルは検出可能ではなかった(図6M、6N及び6O)。
【実施例7】
【0130】
TT641 pAbは、FZD10発現SS細胞に対するADCCを媒介する
TT641 pAbがSS細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を誘導するか否かをさらに調べるために、細胞溶解時のSS細胞からのLDH放出を測定した。
【0131】
細胞傷害性は、細胞溶解時に放出される安定な細胞質酵素である乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を、CytoTox96非放射活性細胞傷害アッセイ(Promega, Madison, WI)を用いて定量測定することによりアッセイした。新鮮なエフェクター細胞を調製するため、末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll−Paque(Amersham Bioscience)密度勾配遠心により健常ドナーのヘパリン添加末梢血から単離した。製造業者の説明書に従って、96ウエル丸底プレートにおいて5%FBSを添加したフェノールレッド非含有RPMI1640の100μl中で、エフェクター細胞(E)及びターゲット細胞(T)(5×103/ウエル)を種々のE:T比で、TT641 pAb又は非免疫ウサギIgGと共に、37℃にて6時間にわたり四連で同時インキュベートした。培養上清(50μl)中の放出LDHは、テトラゾリウム塩の赤色ホルマザン生成物への変換を生じるため、比色アッセイにより測定した。標準的な96ウエルプレートリーダーを用いて490nmにおける吸光度データを採集した。バックグラウンドシグナルについてデータを補正した後、式:傷害性(%)=100×(実験LDH放出−エフェクターの自発性LDH放出−ターゲットの自発性LDH放出)/(ターゲットの最大LDH放出−ターゲットの自発性LDH放出)に従って特異的な細胞傷害性の割合(%)を算出した。対照は、ターゲット細胞又はエフェクター細胞のいずれかとTT641 pAbとのインキュベーションを含む。
【0132】
図7Aに示されるように、ターゲット細胞及びエフェクター細胞を、E:T比25:1で7μg/ml(0.7μg/ウエル)のTT641 pAbと共に同時にインキュベートした場合、TT641 pAb単独を用いた場合のターゲット細胞系(SYO−1)(T+Ab)において細胞傷害作用は観察されず、TT641 pAbとヒトエフェクター細胞との細胞傷害性相互作用(E+Ab)又はターゲット細胞とヒトエフェクター細胞との細胞傷害性相互作用(T+E)は示されなかった。一方、ターゲット細胞を抗体及びヒトエフェクター細胞と共にインキュベートした場合(T+E+Ab)には、細胞傷害作用が観察された。ターゲット細胞を種々のE:T比で種々の濃度のTT641 pAbと共にインキュベートした場合でさえ、抗体及びヒトエフェクター細胞の両方を同時に添加した場合のみで細胞傷害性が誘導された。
【0133】
図7Bに示されるように、1μgのTT641 pAbにより、E:T比25:1においてFZD10過剰発現細胞に対して78%の細胞媒介性細胞傷害が誘導された。この細胞傷害作用は、E:T比及び添加抗体量と正に相関した。ターゲット細胞に対しては、対照抗体によって有意なADCCは誘導されなかった。これらの結果は、FZD10に対するTT641 pAbがADCCを介したFZD10過剰発現腫瘍に対する増殖抑制効果を示す可能性を示唆している。
【実施例8】
【0134】
SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用
本実施例においては、マウスにSYO−1細胞を皮下接種して、SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用を調べた。
【0135】
動物の操作は動物施設においてその機関のガイドラインに従って行った。6週齢の無胸腺メスマウス(BALB/cA Jcl−nu)を用いた。マウスは3匹の群を、12時間の明/12時間の暗のスケジュールで温度制御した部屋において、層流フードの下、滅菌ケージに順応させ、収容し、オートクレーブ滅菌した食物と水を自由に摂取させた。
【0136】
細胞移植のため、SYO−1細胞を単層で増殖させ、トリプシン処理し、血清不含培地に再懸濁させた。最終濃度を5×107細胞/mlに調節し、細胞懸濁液を氷上に置いた。注射部位をエタノールで消毒した後、0.1ml(5×106細胞)の懸濁液をヌードマウスの横腹に皮下注射した。ダイアルカリパスを用いて腫瘍を測定し、体積を式:0.5×(最大直径)×(最小直径)2を用いて決定した。一次腫瘍は40〜75mm3のサイズであり、動物は2つの群にランダムに分けた。1つの群(n=16)には、10μgのTT641 pAbを75μlのPBS中の懸濁液として、連続する5日間(第0〜4日)にわたり腫瘍内注射した。対照として、別の群(n=15)には、非免疫ウサギIgG(DAKO)を投与した。腫瘍の増殖は、処置の最初の日に計算した腫瘍体積に対する所定の日における腫瘍体積に基づく増殖比の計算により評価した。
【0137】
図8に示すように、SS異種移植片の増殖は、非免疫ウサギIgGによる処置と比較して、TT641 pAbによる処置で低減した。抗体注射の開始から6日後に、TT641 pAb処置マウスにおけるSS異種移植片の増殖速度は、陰性対照で観察されたものよりも有意に低減した(p=1.71×10−5、スチューデントのt検定)。
TT641処置による増殖低減の理由を解明するため、本発明者はTUNEL分析を実施した。
【0138】
マウスを所定の時点で犠牲にし、腫瘍を採取して10%ホルムアルデヒドで固定した。in situターミナルトランスフェラーゼ媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイのため、パラフィン包埋検体の連続切片の1つをApopTag Apoptosis Detection Kit(Intergen)を用いて製造業者の説明書に従って染色した。さらに、細胞増殖能を評価するため、抗Ki−67マウスモノクローナル抗体(MIB−1, DAKO)を用いた免疫組織化学染色を、上記の免疫組織化学染色のセクションに記載の方法と同様に行った。
【0139】
TT641 pAbで処理した腫瘍組織の検体は、アポトーシス細胞のクラスターを示し(図9F及び9L)、これは細胞増殖マーカーであるKi−67について陰性染色(図9E及び9K)だったが、アポトーシス細胞は陰性対照の腫瘍検体においてはわずかであった(図9C及び9I)。腫瘍組織におけるアポトーシス細胞の周囲には多くの生存腫瘍細胞が存在し、Ki−67染色に陽性であった(図9E及び9K)。SS異種移植片に対するTT641 pAbの増殖抑制作用は、腫瘍の急激な退行には不十分であると考えられた。
【実施例9】
【0140】
正常マウス組織におけるマウスFZD10の発現
ヒトFZD10とマウスFZD10とのアミノ酸同一性が約93%であることが明らかとなったため、ノーザンブロット及び免疫組織化学分析により正常マウス組織を用いてTT641 pAbがマウスFZD10タンパク質とも交差反応するか否かを調べた。ノーザンブロット分析では、正常マウスの心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣組織(図10A)においてバンドが検出されないことが明らかとなり、免疫組織化学分析では、マウスの腎臓(図10B)及び胎盤(図10C)、並びに正常なヒト組織において陽性染色が観察され、正常マウスの肺(図10D)においては弱い免疫反応が観察されたが、脳(図10E)では観察されなかった。
【実施例10】
【0141】
モノクローナル抗体(mAb)の作製
抗FZD10モノクローナル抗体(mAb 1F2、1F4、5F2、5H4及び6C9)を以下のように得た。
【0142】
精製されたFZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)組換えタンパク質(Medical & Biological Laboratories, Nagoya, Japan)を用いて、3匹の6週齢BALB/cマウスを免疫した。100μgの抗原(FZD10−ECD組換えタンパク質)をフロイントの完全アジュバント中に乳化し、各マウスの足底の両方に注射し、その後3日間隔で3回腹腔内注射した。150μlのフロイントの完全アジュバント中の100μgを1回追加免疫接種した2日後に、細胞融合と限界希釈によるクローニングを以下のように行った。選択したマウスからの合計6つのリンパ節をP3−U1ミエローマ細胞と融合し、ハイブリドーマをHAT(15%FCS/RPMI/HAT/BM−condimedH1)培地で選択した。融合から約2週間後、組換えFZD10−ECDを抗原として用いて細胞上清をELISAアッセイでスクリーニングした。42個の陽性ハイブリドーマ(ELISAにおけるOD450>0.1)を限界希釈により2回クローニングし、さらにSS細胞系YaFuSSを用いてフローサイトメトリー分析により選択した。最終的に、5つの単一クローンをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマとして選択した。各クローンの重鎖アイソタイプをELISAにより同定し、モノクローナル抗体濃度を免疫拡散により決定した。大量のmAbを生成するため、5×105個のクローニングしたハイブリドーマ細胞を、BALB/cマウスの腹水に投与した。投与の10日〜2週間後、腹水を採取しプールした。
【0143】
組換えFZD10タンパク質に対して誘起されたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンであるマウス−マウスハイブリドーマ5F2 TK10P2は、独立行政法人産業技術総合研究所(AIST;305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1−1つくば中央6)のIPOD国際特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP−08628として2004年2月18日に国際寄託されている。
【実施例11】
【0144】
抗FZD10モノクローナル抗体(mAb)の特異性
(1)FZD10タンパク質の特異性
本発明者は最初に、FZD10転写産物の高発現を示したSS細胞系(SYO−1及びYaFuSS)、ほとんど発現が検出されなかった結腸癌細胞系(SW480及びHT29)を用いたフローサイトメトリー分析により実施例10で得られたmAbの特異性を調べた。これらのmAbは全て、SYO−1又はYaFuSSにおける表面抗原としてのFZD10タンパク質を特異的に認識することができたが、SW480又はHT29においては蛍光シグナルが検出されなかった(図11A(1F2)、11B(1F4)、11C(5F2)、11D(5H4)、11E(6C9))。これらの結果は、実施例4で記載したTT641 pAbを用いて得られた結果と一致している。これらをまとめて検討すると、これらの結果は、抗FZD10mAbがまた未変性条件下にてFZD10の細胞外ドメインを特異的に認識することを示す。
【0145】
(2)エピトープマッピング
各mAbの特異性をさらに特性決定するため、実施例5と同様にエピトープマッピングを実施した。
【0146】
1アミノ酸が重複し、FZD10−ECDの全長配列に対して設計した一連の10残基の合成線状ペプチドを、実施例5に記載のように、セルロース膜に共有結合させた(SPOTs; Sigma Genosys, Woodlands, Texas)。216個のペプチドスポットを有する膜を抗FZD10 mAb(1F2、5F2、5H4及び6C9)と4℃で一晩かけてハイブリダイズさせた。HRP結合抗ウサギIgG(Amersham Bioscience, Piscataway, New Jersey)と共にインキュベートした後、スポットを3−アミノ−9−エチルカルバゾールを用いて可視化した。
【0147】
その結果、mAb 1F2、5F2、5H4及び6C9は、それぞれFZD10−ECD(配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜225番の残基)のアミノ酸残基157〜170(EPTRGSGLFPPLFR)、157〜170(EPTRGSGLFPPLFR)、161〜173(GSGLFPPLFRPQR)、156〜169(DEPTRGSGLFPPLF)を認識した(図12)。
【実施例12】
【0148】
5F2 mAbによるSS異種移植片の増殖の抑制
本発明者の動物施設において、施設のガイドラインに従って、in vivo実験を行った。0.1mlのSYO−1細胞懸濁液(5×106細胞)を6週齢の無胸腺メスマウス(BALB/cA Jcl−nu)の横腹に皮下注射した。腫瘍の体積は式:0.5×(最大直径)×(最小直径)2を用いて決定した。異種移植片は40〜75mm3のサイズであり、動物は2つの群にランダムに分けた。1つの群(n=5)には50μgのmAb 5F2を連続する10日間にわたり腫瘍内注射した。対照として、別の群(n=6)には、非免疫ウサギIgG(DAKO)を投与した。腫瘍の増殖は、処置の最初の日に計算した腫瘍体積に対する所定の日における腫瘍体積の比により評価した。
【0149】
SS異種移植片におけるTT641 pAbの増殖抑制作用を確認するため、抗FZD10 mAbである5F2及び1F2がSS異種移植片における抗腫瘍作用を示すかどうかを調べた。SS異種移植片の増殖は、非免疫ウサギIgGを用いた処置と比較して、mAb 5F2を用いた処置によって低減した(図13)。抗体処置の開始から10日目(図13において矢印で示す)に、mAb 5F2で処置したマウスにおけるSS異種移植片の増殖速度は、陰性対照で観察された速度よりも有意に低減した(図13)。これらの知見は、mAb 5F2がSS細胞の腫瘍増殖を抑制している可能性があることを示している。
【0150】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の精神及び範囲内で、当業者によって多数の変形及び改変をなしうることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1Aは、正常ヒト成人組織(心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、膵臓、骨髄及び胎盤)、SS細胞系(HS−SY−2及びYaFuSS)並びにSS外科標本(SS487及びSS582)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。図1Bは、結腸癌細胞系(LoVo、HT29及びSW480)並びにSS細胞系(SYO−1、HS−SY−2及びYaFuSS)におけるFZD10のノーザンブロット分析を示す写真である。
【図2】図2A及び2Bは、FZD10のN末端細胞外ドメイン(FZD10−ECD)を認識した、アフィニティ精製したFZD10−ECD抗体(TT641 pAb)の特異性を示す写真である。
【図3】図3A、3B及び3Cは、免疫細胞化学分析によるFZD10タンパク質の細胞内局在化を示す写真である。
【図4】図4は、いくつかの腫瘍細胞系におけるTT641 pAbを用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図5】図5は、重複する合成線状ペプチドを用いたTT641 pAbのエピトープマッピングを示す写真である。
【図6】図6A〜6Oは、正常ヒト成人組織、SS腫瘍組織、原発性結腸癌、及び結腸癌の転移肝臓病変における、TT641 pAbを用いた免疫組織化学分析を示す写真である。
【図7】図7Aは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。図7Bは、FZD10過剰発現細胞に対するTT641 pAbが媒介するADCCを示すグラフである。
【図8】図8は、TT641 pAbがSS異種移植片に対して増殖抑制作用を発揮したことを示すグラフである。
【図9】図9A〜9Lは、TUNEL分析及びKi−67についての免疫組織化学染色を示す写真である。
【図10A】図10Aは、8種の正常マウス組織(心臓、脳、脾臓、肺、肝臓、骨格筋、腎臓又は精巣)におけるFZD10のノーザンブロット分析により検出された正常マウス組織中のマウスFZD10の発現を示す写真である。
【図10B】図10B〜10Eは、正常マウスの腎臓(B)、胎盤(C)、肺(D)及び脳(E)組織における、TT641 pAbを用いた免疫細胞化学染色を示す写真である。
【図11A】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11B】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11C】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11D】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図11E】図11A〜11Eは、SS細胞系(SYO−1及びYaFuSS;上のパネル)、ならびに結腸癌細胞系(SW480及びHT29;下のパネル)における、抗FZD10 mAbである1F2(A)、1F4(B)、5F2(C)、5H4(D)及び6C9(E)を用いたフローサイトメトリー分析を示すグラフである。
【図12】図12は、重複する合成線状ペプチドを用いて行った、mAbである1F2、5F2、5H4及び6C9のエピトープマッピングを示す写真である。
【図13】図13は、SS異種移植片に対するmAb 5F2の増殖抑制作用を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、有効量のFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを該被験体に投与することを含む上記方法。
【請求項2】
FZD10に関連する疾患が、滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、157〜172番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法であって、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む上記方法。
【請求項7】
FZD10に関連する疾患が、滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項6記載の方法。
【請求項10】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメント、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項12】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントを含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキット。
【請求項13】
Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットの製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用。
【請求項14】
Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための組成物の製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用。
【請求項1】
被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防する方法であって、有効量のFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントを該被験体に投与することを含む上記方法。
【請求項2】
FZD10に関連する疾患が、滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、157〜172番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被験体においてFrizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患又は該疾患を発症する素因を診断又は予後診断する方法であって、
(a)該被験体由来のサンプルをFZD10タンパク質に対する抗体又はそのフラグメントと接触させるステップ、
(b)該サンプル中のFZD10タンパク質を検出するステップ、及び
(c)対照と比較した場合のFZD10タンパク質の相対存在量に基づいて、該被験体が上記疾患に罹患している又は該疾患を発症するリスクがあるか否かを判断するステップ、
を含む上記方法。
【請求項7】
FZD10に関連する疾患が、滑膜肉腫、結腸直腸癌、胃癌、慢性骨髄性白血病、及び急性骨髄性白血病からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項6記載の方法。
【請求項10】
抗体が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも43〜56番、61〜72番、156〜169番、157〜170番、157〜172番、161〜173番、174〜191番、189〜202番、214〜225番、又は1〜225番のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起されたものである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメント、及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項12】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントを含む、Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキット。
【請求項13】
Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を診断又は予後診断するためのキットの製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用。
【請求項14】
Frizzledホモログ10(FZD10)に関連する疾患を治療又は予防するための組成物の製造における、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基を含むペプチドに対して誘起された抗体又はフラグメントの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−526891(P2007−526891A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518502(P2006−518502)
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002144
【国際公開番号】WO2005/004912
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002144
【国際公開番号】WO2005/004912
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
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