説明

滑車装置及びそれを用いた揚重方法

【課題】重量物を揚重する際に用いる滑車ブロックを複数個使用する滑車装置であって、装置全体の高さが低く、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使え、ワイヤの張力の不均衡による滑車間の干渉が生じにくい滑車装置、及び、それを用いた揚重方法を提供する。
【解決手段】1個のシーブを有する滑車ブロック2aを複数個組み合わせて使用する滑車装置1a、1bであって、それらの滑車ブロックを取付ける「へ」の字型の板状材からなる取付金具6a,6bと、その取付金具を吊荷の荷重を支える固定点の吊りピース10、あるいは、吊荷の吊りピース13に結合させる結合部材15a、15bとを有し、その結合部材と取付金具の結合点Aと滑車ブロックと取付金具の結合点B1、B2、B3、・・・、BmとがAを頂点とする「ヘ」の字型に並び、結合点B1、B2、B3、・・・、Bmが結合点Aの左右にほぼ同数配置されている滑車装置とそれを用いた揚重方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチとワイヤを用いて重量物を揚重する際に用いる滑車装置、及び、その滑車装置を用いた揚重方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吊荷の揚重は、揚重される位置より上に設けられ、吊荷の荷重を支える固定点に取付けられた定滑車と、吊荷側に取付けられて吊荷とともに上下に移動する動滑車とを組み合わせた滑車装置を用いて、それらに掛け渡されたワイヤをウインチで牽引して行なうことが多い。
吊荷が重量物の場合には、ウインチやワイヤにかかる荷重を軽減するため、定滑車と動滑車として複数個のシーブ(ロープ車)を有する滑車ブロックを用い、吊荷の巻き上げに関与するワイヤの本数を多くすることが一般に行なわれている。
【0003】
一方、複数個のシーブを有する市販の滑車ブロックは、吊荷の荷重を支える固定点に力を伝える固定部(フック、アイ、シャックル等の滑車ブロックを吊荷や固定点に固定するのに用いる部分)は同一のものを用い、単にシーブの数を増やすことにより標準化しているので、滑車ブロックの強度、すなわち、その滑車ブロックを用いて揚重できる荷重は固定部の強度で決まってしまう。
【0004】
言い換えれば、シーブが2個、すなわち、2車(以下、シーブの個数がN個のものを「N車」という。)、あるいは、3車の滑車ブロックを用いて、1車の場合に比べて揚重に関与するワイヤの本数を2倍、あるいは、3倍にし、個々のワイヤやシーブへかかる荷重を2分の1、あるいは、3分の1に軽減しても、滑車ブロック全体としての強度は1車の場合と変わらないので、1車の場合に比べて2倍、あるいは、3倍の荷重を揚重できるわけではない。
【0005】
そこで、複数のシーブを有する1個の滑車ブロックでは強度が不足する重い吊荷に対しては、定滑車と動滑車として、それぞれに1車の滑車ブロックを複数個用いて、それぞれの滑車ブロックの固定部を、定滑車の場合は揚重中の荷重を支える固定点に設けた複数個の吊りピースに、動滑車の場合は吊荷に設けた複数個の吊りピースに掛けて揚重を行なう。
実際には、固定点側、吊荷側とも吊りピースを複数個設けることは現実的ではないので、滑車ブロックの取付金具を工夫して、例えば、図7のように1車のシーブを複数個縦に並べる滑車装置や、図8のように1車の滑車ブロックを複数個横に並べる滑車装置が使用されている。
【0006】
しかし、図7の滑車装置では、滑車装置全体の高さが高くなり、吊荷を揚重すべき高さに比べて固定点の高さをその分だけ高く設定しないと吊り上げた際に定滑車と動滑車が干渉してしまう。固定点の高さを高く設定することは、多くの場合不経済であり、揚重作業を行なう場所の状況によっては不可能な場合も出てくる。
また、この滑車装置は、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使うことができず、特別に製作する必要がある。
【0007】
図8(a)の滑車装置では、滑車装置全体の高さはあまり高くならないので、複数のシーブを有する滑車ブロックを用いるのとほぼ同じ高さに固定点を設けて揚重をすることができるはずである。また、図7の場合と異なり、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使えるという利点がある。
【0008】
一方、ウインチでワイヤを巻き取っていくときに、各シーブには回転運動への抵抗があるので、ワイヤがシーブを経由する毎に張力は少しずつ小さくなることが知られている。
滑車ブロックの個体差、新品・旧品の差、給油等のメンテナンスの差、等の滑車の状態によって変わってくるが、一般にはシーブを1個経由する毎に5%程度張力が減少する。
【0009】
すなわち、ウインチから第1のシーブまでのワイヤの張力をTとすると、N個のシーブを経由した後のワイヤの張力は、T/1.05に減少する。
例えば、図8のように8個のシーブを有する場合には、最後のシーブを経由した後のワイヤの張力は0.68Tとなり、左右のワイヤで大きな張力の不均衡が生ずる結果となる。
【0010】
図8(a)の滑車装置では、この張力の不均衡により揚重作業を始めると図8(b)に示すように滑車装置を構成する取付金具が傾く。この張力の不均衡は揚重作業中ずっと持続されるので、取付金具の傾きはどんどん大きくなり、予想外の定滑車と動滑車、例えば、滑車ブロックEと滑車ブロックFの干渉が生じて、吊荷を揚重すべき高さまで上げられないと言う不具合が生じる。また、傾きが大きくなると隣り合う滑車ブロック同士、例えば、滑車ブロックFと滑車ブロックGが干渉すると言う不具合も生ずる。
【0011】
なお、出願人が知る限りでは、この問題の解決に寄与する特許文献や非特許文献は皆無である。
【特許文献1】無し
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明が解決しようとする課題は、重量物を揚重する際に用いる滑車ブロックを複数個使用する滑車装置であって、装置全体の高さが低く、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使うことができ、かつ、ワイヤの張力の不均衡による滑車間の干渉が生じにくい滑車装置、及び、それを用いた揚重方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は重量物を揚重する際に用いる滑車ブロックを複数個組み合わせて使用する滑車装置であって、
当該複数個の滑車ブロックは各々固定部を有し、
当該固定部を介して当該複数個の滑車ブロックを取付ける取付金具と、当該取付金具を揚重作業に当たり吊荷の荷重を支える固定点の吊りピース、あるいは、吊荷の吊りピースに結合させる結合部材とを有し、
当該結合部材と当該取付金具の結合点Aと当該固定部と当該取付金具の結合点B1、B2、B3、・・・、BmとがAを頂点とする「ヘ」の字型に並び、当該結合点B1、B2、B3、・・・、Bmが当該結合点Aを挟んでその左右にほぼ同数配置されており、当該結合部材は当該結合点Aより「ヘ」の字の上方に位置し、当該複数個の滑車ブロックは当該結合点B1、B2、B3、・・・、Bmより「ヘ」の字の下方に位置している滑車装置である。
【0014】
取付金具において、結合点Aと結合点B1、B2、B3、・・・、Bmとが結合点Aを頂点とする「へ」の字型に並び、結合点B1、B2、B3、・・・、Bmが結合点Aを挟んでその左右にほぼ同数配置され、かつ、結合部材は結合点Aより「ヘ」の字の上方に位置し、複数個の滑車ブロックは結合点B1、B2、B3、・・・、Bmより「ヘ」の字の下方に位置しさせると言う構成は、図1により容易に理解されよう。
【0015】
なお、図1において接合点の表示は、固定点側の滑車装置、すなわち、定滑車側には「a」を付して、Aa、B1a、B2b、・・・と表し、吊荷側の滑車装置、すなわち、動滑車側には、「b」を付して、Ab、B1b、B2b、・・・と表すことにする。
【0016】
図1(a)は、まだ揚重作業をしていない状態であり、シーブ間に掛け渡されたワイヤには荷重はかかっているが、移動はしていない。この状態で、固定点に取付けられた取付金具と、吊荷に取付けられた取付金具とは、それぞれ左右対称な位置関係にあるか、あるいは、多少傾いていても、手で僅かな力を加えることによりそれぞれを左右対称な位置関係に置くことができる状態である。
【0017】
この状態から揚重作業を始め、図1(b)のように、ウインチを用いて矢印の方向にワイヤを張力Tで牽引すると、各シーブ間に張り渡されたワイヤにその張力が伝達されるが、シーブの回転運動への抵抗によりシーブを1個経由する毎にワイヤには5%程度減少した張力が発生することが知られている。
【0018】
シーブの抵抗による張力の減少を5%と仮定して計算すると、図1(b)に示すようにワイヤの張力は、結合点B1bに取付けられた滑車ブロックを経由したところで0.95T、結合点B1aに取付けられた滑車ブロックを経由したところで0.91T、結合点B2bに取付けられた滑車ブロックを経由したところで0.86T、結合点B2aに取付けられた滑車ブロックを経由したところで0.82T、・・・と順次減少していき、結合点B4aに取付けられた滑車ブロックを経由したところでは0,68Tまで減少する。
【0019】
図から分かるように、結合点AaおよびAbそれぞれにおいて、左側、すなわち、ウインチで牽引する側にかかる張力は、右側にかかる張力より大きいので、固定点側の取付金具は反時計回りに傾き、吊荷側の取付装置は時計回りに傾く。
【0020】
本発明の構成を取ることにより、結合点Abの左側の結合点、例えば、結合点B1bにかかる張力Tによる回転モーメントは、取付金具が回転しない場合、すなわち、図1において、結合点Abと結合点B1bとを結ぶ線が水平と成す角度がα1の場合に生じたであろうT×L1から、図2のように、回転により角度がα1からα2に増加した場合のT×L2に減少する。ここで、L1は取付金具が回転しない場合の結合点Abと結合点B1bとの水平距離、L2は取付金具が回転した場合の結合点Abと結合点B1bとの水平距離であり、L2=(cosα2/cosα1)L1の関係がある。
【0021】
すなわち、上述の(cosα2/cosα1)はα2の増加により一方的に減少し、理論的にはα2=90°にて0になるから、回転モーメントT×L2も取付金具の回転に伴い0にむかって一方的に減少する。
【0022】
以上は結合点B1bにかかる張力Tを例として説明したが、結合点Aより左側に掛かる各ワイヤの張力による回転モーメントは、同様に取付金具の回転に伴い一方的に減少する。
【0023】
一方、結合点Abの右側の結合点、例えば、結合点B4bにかかる張力0.71Tによる回転モーメントは、取付金具が回転しない場合、すなわち、結合点Abと結合点B4bとを結ぶ線が水平と成す角度がα1の場合にに生じたであろう0.71T×L3から、回転により角度がα1からα3に減少した場合のT×L4に増加する。ここで、L3は取付金具が回転しない場合の結合点Abと結合点B4bとの水平距離、L4は取付金具が回転した場合の結合点Abと結合点B4bとの水平距離であり、L4=(cosα3/cosα1)L3の関係がある
【0024】
すなわち、(cosα3/cosα1)は、取付金具の回転に伴いα3が減少するとともに増加する。それに伴い、回転モーメント0.71T×L4も増加する。同様に、結合点Aの右側に掛かる各ワイヤの張力による回転モーメントは取付金具の回転に伴い増加する。
なお、α3がマイナス、すなわち、結合点B4bが結合点Aより下に位置するケースまで考えれば、回転モーメント0.71T×L4は再び減少に転ずることになるが、この構成から容易に分かるように、その減少は、たとえ生じたとしても回転モーメントT×L2の減少には追いつかない。
【0025】
その結果、複数の滑車ブロックを有する滑車装置にとって不可避のワイヤの張力の不均衡により生ずる結合点Aの左側に掛かる力の回転モーメントと結合点Aの右側に掛かる力の回転モーメントとのアンバランスは、本発明の構成を取ることにより取付金具がある角度傾いたところでバランスし、それ以上傾きを増加させることなく揚重作業を続行できる。
【0026】
出願人の試算によれば、図1のように定滑車、及び、動滑車としてそれぞれ4個の滑車ブロックを使い、L1=300mm、α1=26,44°とした場合で、動滑車では時計回りに、定滑車では反時計回りに、取付金具がそれぞれ僅か2°回転したところで左右バランスをした。
【0027】
取付金具が僅か2°の傾きでバランスすれば、結合点B1aとB1bの間の距離H1の減少量(H1−H2)は僅か21mmであり、その影響は極めて僅かである。
このような僅かな減少量であれば、吊荷を吊り上げるべき高さに対して大幅に固定点の高さを高く設定しなくてもよいし、予想外の定滑車と動滑車の干渉を避けることができる。また取付金具の傾きが小さいので、隣り合う滑車ブロック同士の干渉も生じない。
【0028】
また、この試算例では、結合点Abと結合点B1bとの高さの差は、149mmである。
図x2の場合に比べて装置全体の高さは僅か149mm、これを定滑車と動滑車として2台組み合わせて使用しても両方で298mmであり、図7のケースに比べて大幅に装置全体の高さを低減できる。
【0029】
なお、取付金具の傾きが生ずることにより、ウインチに近い側では回転モーメントが減少し、ウインチに遠いところでは回転モーメントが増大すればよいのであるから、「へ」の字型を構成する左右の辺は、必ずしも一直線でなくていい。また、水平と成す角度α1が、左右で多少異なっていても問題はない。
【0030】
さらに、図1の例では、結合点Aの左右に2個ずつの結合点B1とB2、および、B3とB4を配置したが、結合点Bの数が増減しても良いし、片方が2個で他方が3個という場合も同じ効果がえられる。したがって、結合点B1、B2、B3、・・・、Bmが結合点Aを挟んでその左右にほぼ同数配置されればよい。
【0031】
以上、図を用いて説明してきた滑車装置では、そこで使われる複数個の滑車ブロックの各々が1個のシーブを有している。
「背景技術」で述べたように、複数のシーブを有する1個の滑車ブロックでは強度的に不十分な場合の対応として発案された本発明の滑車装置であるから、1車の滑車ブロックを用いるのが通常ではあろうが、強度的に問題がないのであれば、複数のシーブを有する滑車ブロックを複数個用いて、あるいは、複数のシーブを有する滑車ブロックと1車の滑車ブロックを組み合わせて用いて、本発明の滑車装置を構成しても良い。いずれの場合でも、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使用することができる。
【0032】
また、以上説明してきた滑車装置では、「へ」の字型の板状材からなる取付金具を用いているが、それは本発明を実施するのに極めて妥当な一つの形態であるからである。
しかし、本発明の滑車装置がその効果を発揮するのは、取付金具の形状によってではなく、結合点Aと結合点B1、B2、B3、・・・、Bmとの位置関係によってである。したがって、本発明の滑車装置で用いる取付金具は、必ずしも「へ」の字型の板状材である必要はなく、他の形、例えば、矩形の板状材や、「へ」の字型に曲げたパイプ材であってもかまわない。
【0033】
さらに、本発明の滑車装置は、前記取付金具が「へ」の字型の2枚の板状材をその「へ」の字の頂点において直交する形で結合した形状を成し、当該「へ」の字の頂点、すなわち、当該2枚の板状材の交点に前記結合点Aを有し、当該交点から四方に伸びる板状材それぞれに前記結合点B1、B2、B3、・・・、Bmがほぼ同数配置されている滑車装置である。
【0034】
結合点Aと結合点B1、B2、B3、・・・、Bmとの配置は、必ずしも一平面内に限られることはなく、上述の条件を満たして結合点が立体的に配置された場合にも、本発明の滑車装置で得られる効果を享有できる。その一例がこの構成である。
【0035】
また、本発明の滑車装置は、、前記取付金具が傘の骨のように前記結合点Aを中心に放射状に複数の枝部を有する構造を成し、各々の枝部それぞれに前記結合点B1、B2、B3、・・・、Bmがほぼ同数配置されている滑車装置である。
【0036】
この形状は、2枚の板状材をその「へ」の字の頂点において直交する形で結合された形状が、四方に伸びる4枚の枝を有するのに対し、さらに枝の数を増やしたものといえる。
【0037】
これらの構成を取ることにより、左右方向ばかりでなく、それに直交する前後方向でも、あるいは、傘の枝のどの方向でも、取付金具が僅かに傾いたところでバランスが成り立ち、定滑車と動滑車の干渉や、隣り合う滑車ブロック同士の干渉を、容易に避けることができる。
【0038】
組み合わせて使用する滑車ブロックの数が多いにもかかわらず、揚重作業を行なう周囲の状況が、その滑車ブロックの数に応じた長さの1枚の板状材からなる取付金具の使用を許さず、かつ、立体的な取付金具の使用が許容される場合には、これらの取付金具の使用が有益である。
【0039】
さらに、本発明は、以上に説明した滑車装置を2組用いて、1組の当該滑車装置は前記「へ」の字型をその上下を逆さまにした状態で前記結合部材を用いて吊荷の吊りピースに結合させて動滑車として用い、他の1組の当該滑車装置は前記「へ」の字型をそのままの状態で前記結合部材を用いて吊荷の荷重を支える固定点の吊りピースに結合させて定滑車として用いて重量物を揚重する方法である。
【0040】
吊荷の吊りピースに結合させて動滑車として使う側の滑車装置は逆「へ」の字型の配置にし、吊荷の荷重を支える固定点の吊りピースに結合させて定滑車として使う側の滑車装置は「へ」の字型そのままの配置にすることにより、いずれの滑車装置においても、揚重作業を始めるとそれぞれの取付金具が傾き、それに伴ってワイヤの張力の大きい方の回転モーメントが減少し、ワイヤの張力の小さい方の回転モーメントが増加し、その取付金具が僅かに傾いたところで、両回転モーメントはバランスすることになる。
【0041】
その結果、ワイヤの張力の不均衡により揚重作業の進捗に伴って進行する取付金具の傾きによる予想外の定滑車と動滑車の干渉を避けることができ、また取付金具の傾きが小さいので、隣り合う滑車ブロック同士の干渉も生じない。したがって、極めてスムースに、計画どおりの揚重作業を行なうことができる。
【発明の効果】
【0042】
以上に説明した通り、本発明に係る滑車装置は、装置全体の高さが低く、市販の標準品の滑車ブロックをそのまま使うことができ、揚重作業に際しての取付金具の傾きも僅かなので、吊荷を吊り上げるべき高さに対して大幅に固定点の高さを高く設定する必要が無く、取付金具の傾きが小さく、しかも揚重作業中その傾きが安定しているので、予想外の定滑車と動滑車干渉が生じることが無く、また、取付金具の傾きが小さいので隣り合う滑車ブロック同士の干渉も生じないと言う効果を生ずる。
【0043】
また、本発明の揚重方法は、本発明の滑車装置を、動滑車としては逆「へ」の字型の配置し、定滑車としては「へ」の字型そのままの配置にして使用することにより、予想外の定滑車と動滑車の干渉を避けることができ、隣り合う滑車ブロック同士の干渉も生じないので、極めてスムースに揚重作業を行なうことができると言う効果を生ずる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明はかかる形態に限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造に種々の変更を加えて良いことは言うまでもない。
【0045】
図1は本発明の滑車装置の作用を示す説明図、図2は本発明の滑車装置の第1の実施例の説明図、図3は同実施例の模型を用いて揚重の実験を行なった状態を示す鳥瞰図、図4は本発明の滑車装置の第2の実施例の取付金具の説明図、図5は本発明の滑車装置の第3の実施例の取付金具の説明図、図6は本発明の揚重方法の説明図、図7は1車の滑車ブロックを複数個縦に並べる従来の滑車装置の説明図、そして、図8は1車の滑車ブロックを複数個横に並べる従来の滑車装置の説明図である。
【0046】
図2は本発明の滑車装置の第1の実施例の正面図(a)と側面図(b)を示す。本実施例は、先に本発明の作用を示す図1と同様に、定滑車及び動滑車として、それぞれ4個の1車の滑車ブロックを使用した滑車装置である。
以下の説明では、定滑車と動滑車において、同じ構造を有し、同じ機能を有する部品には同じ付番を付し、必要に応じその付番の最後に、定滑車側には「a」を、動滑車側には「b」を付け加えることにする。また、結合点の表示も図1と同様にする。
【0047】
本実施例の滑車装置1(1a,1b)は、それぞれ4個の1車の滑車ブロック2(2a、2b)を有する。各滑車ブロック2は市販の標準品であり、それぞれスイベルジョイント(図示されていない)を有するフック4(4a、4b)、および、それを取付金具6(6a、6b)に取付けるシャックル7(7a、7b)を有している。前述の固定部は、これらフック4とシャックル7の組み合わせに相当する。
【0048】
取付金具6は、揚重作業にあたって吊荷の荷重を支える固定点、例えば、上部の梁構造物9の吊りピース10、あるいは、吊荷12の吊りピース13に結合させる結合部材15(15a、15b)を有している。本実施例では結合部材15a、15bはいずれも2個のシャックルを組み合わせたものとしているが、必ずしもこの組み合わせに限らない。
【0049】
滑車装置1aでは、結合部材15aは結合点Aaにおいて取付金具6aに結合し、4個の滑車ブロック2aは、フック4a及びシャックル7aを介して、それぞれ結合点B1a、B2a、B3a、及び、B4aにおいて結合している。以下それぞれの結合点に結合している滑車ブロックを順に2a1、2a2、2a3、及び、2a4と表示する。
結合点Aaと結合点B1a、B2a、B3a、及び、B4aはAを頂点とする「へ」の字型に並び、Aを挟んでその左にB1aとB2a、その右にB3aとB4aと、左右同数配置されている。
【0050】
同様に、滑車装置1bでは、結合部材15bは結合点Abにおいて取付金具6bに結合し、4個の滑車ブロック2bは、フック4b及びシャックル7bを介して、それぞれ結合点B1b、B2b、B3b、及び、B4bにおいて結合している。それぞれの結合点に結合している滑車ブロックを順に2b1、2b2、2b3、及び、2b4と表示する。
結合点Abと結合点B1b、B2、B3b、及び、B4bの配置状況は滑車装置1aと同様になっている。しかし、全体として逆「へ」の字型の配置となり、滑車ブロック2bは取付金具6bの上方にあって滑車ブロック2aに対峙し、結合部材15bは取付金具6bの下方に位置して吊荷の吊りピース13に結合している。
【0051】
本実施例では、取付金具6a,6bは、それぞれ「へ」の字型の板状材から成っている。結合点A及びB1、B2、B3、および、B4の上述の配置を可能にし、かつ、揚重に必要な十分な強度を容易に得られる形状の一つである。
【0052】
地上におかれたウインチ(図示されていない)から伸びるワイヤ16は別途設けられた定滑車17を経由し、滑車ブロック2b1、滑車ブロック2a1、滑車ブロック2b2、・・・、滑車ブロック2b4、滑車ブロック2a4のシーブに順次掛け渡され、その端部は取付金具6bに設けられた固定用の穴18に固定される。
【0053】
ウインチを起動し、矢印19の方向にワイヤ16を牽引すると、その張力は各滑車のシーブ間のワイヤに伝達され、吊荷12の揚重が開始される。
【0054】
図1を用いて説明した通り、ワイヤ16の牽引を始めると、シーブの回転抵抗によりシーブを経由する毎にワイヤに発生する張力が少しずつ減少する。その結果、ウインチに近い側、すなわち、図2(a)の結合点Aa、Abより左側では、ウインチから遠い右側より大きな張力が働く。その張力の不均衡により、取付金具6a、6bには回転モーメントが生じて、取付金具6aでは反時計回りに、取付金具6bでは時計回りに傾けようとするが、僅かに傾いたところで回転モーメントはバランスし、それ以上傾くことはない。
【0055】
その結果、取付金具6a、6bが大きく傾くことによって揚重作業中に生じる恐れがある滑車ブロック2aと滑車ブロック2bとの間の干渉を避けることができる。
また、取付金具6a、6bが大きく傾くことにより生じる恐れがある同じ取付金具に結合した隣り合う滑車ブロック、例えば、滑車ブロック2a1と滑車ブロック2a2の間等の干渉も避けることができる。
【0056】
また、結合点A、及び、結合点B1、B2、B3、・・・を「へ」の字型に配置するだけであるから、従来使われてきた図8のケースに比べて滑車装置1の高さに大きな差はなく、吊荷を吊り上げる高さに対して、大幅に固定点の高さを高くする必要がない。
【0057】
図2では、本実施例をその静止状態を念頭に置いてやや模式的に示したが、本実施例の模型を用いて揚重の実験を行なった状態を鳥瞰図の形で図3に示す。理解を容易にするため図2と同じ機能を有する部品には、同じ付番を付すことにする。
【0058】
図3において滑車装置1a、1bは、図2の場合と同様にそれぞれ4個の1車の滑車ブロック2a1〜2a4、2b1〜2b4を有する。各滑車ブロックは、図2のフック4とシャックル7に替えて、簡単に紐14で取付金具6a、6bに取付けられている。この紐14が固定部に相当し、スイベルジョイント付きのフックを使ったように、自由に滑車ブロックを回転させることができることを意図している。
【0059】
取付金具6aは固定点の吊りピース10に、取付金具6bは吊荷12の吊りピース13に、ワイヤ等の結合部材15a、15bで結合されている。
図示されていないウインチから伸びるワイヤ16は、滑車ブロック2b1、滑車ブロック2a1、滑車ブロック2b2、・・・、滑車ブロック2b4、滑車ブロック2a4のシーブに順次掛け渡され、その端部は取付金具6bに設けられた固定用の穴18に固定されている。
【0060】
ウインチを起動し、矢印19の方向にワイヤ16を牽引すると、吊荷12の揚重が始まり、上述した試算のように、両滑車装置1a、1bの取付金物6a、6bは僅かに傾いた位置で安定し、揚重作業がスムースに施工できることがこの実験で確かめられた。
【0061】
ここで注目すべきは、滑車ブロック2の取付金具6への取付に回転自在なスイベルジョイント付きフックを模して紐14を使ったことにより、滑車ブロック2a1〜2a4、2b1〜2b4は、掛かっているワイヤの張力に応じて自由な向きを取っていることである。
【0062】
滑車ブロックが各々自由な向きを取ることにより、ワイヤに無理な力が掛かったり、ワイヤとシーブの溝壁が擦れ合ったりすることが減ずると言う効果が期待できる。
【0063】
図4は本発明の滑車装置の第2の実施例の取付金具21を示す。
取付金具21は、「へ」の字型の2枚の板状材をその「へ」の字の頂点において直交する形で結合した形状を有している。実際に製作するにあたっては、「へ」の字型の板状材22に、二つをつなぎ合わせれば「へ」の字型を構成する2枚の板状材23a、23bを、互いに直交するように配置して溶接等により結合すればよい。
【0064】
その交点に結合点Aを設け、板状材22,23a,23bに、結合点B1、B2、B3、・・・、B8が配置される。
実施例1の場合と同様に、結合点Aは結合部材を介して固定点や吊荷の吊りピースに結合され、結合点B1、B2、B3、・・・、B8は固定部を介して滑車ブロックを取付ける。
【0065】
図5は本発明の滑車装置の第3の実施例の取付金具25を示す。
取付金具25は、結合点Aを有する中心軸26から6枚の枝部27a〜27fがあたかも傘の骨のように放射状に伸びた形状を成し、それぞれの枝部に結合点B1、B2、B3、・・・、B12が配置される。
ここでも、実施例1の場合と同様に、結合点Aは結合部材を介して固定点や吊荷の吊りピースに結合され、結合点B1、B2、B3、・・・、B12は固定部を介して滑車ブロックを取付ける。
【0066】
図4の取付金具21、あるいは、図5の取付金具25を用いることにより、左右方向ばかりでなく、それに直交する前後方向でも、あるいは、傘の枝のどの方向でも、取付金具が僅かに傾いたところでバランスが成り立ち、定滑車と動滑車の干渉や、隣り合う滑車ブロック同士の干渉を、容易に避けることができる。
【0067】
吊荷の重量が大きいために組み合わせて使用する滑車ブロックの数が多くなるにもかかわらず、揚重作業を行なう周囲の状況が、それら滑車ブロックの数に応じた長さの1枚の板状材からなる取付金具の使用を許さず、かつ、立体的な取付金具の使用が許容される場合には、これらの取付金具の使用が有益である。
【0068】
次に、図6を用いて本発明の揚重方法を説明する。理解を容易にするために、ほぼ同じ形状と機能を有する部材には、図2で用いた付番を付することにする。
【0069】
吊荷12は、円筒形の圧力容器の壁の一部を成す弧状に成型された鋼板構造物であり、その重量は約40tonである。これを上部の梁構造物9を荷重を受ける固定点として、実線で描いた仮置き位置から、点線12’で描いた所定の位置まで揚重作業を行なう。
【0070】
梁構造物9に設けられた吊りピース10には、滑車装置1aが結合部材15aを介して取付けられる。同様に、吊荷12に設けられた吊りピース13には、滑車装置1bが結合部材15bを介して取付けられる。滑車装置1a、1bは、図2で説明した本発明の滑車装置の実施例1である。
【0071】
地上におかれたウインチ29から伸びるワイヤ16は、別途設けられた定滑車30及び定滑車17を経由して、図2で説明した通り滑車装置1a及び1bの各滑車ブロックに掛け渡され、その端部は滑車装置1bの取付金具に固定される。
【0072】
ウインチ29を起動し、矢印19の方向にワイヤ16を牽引すると、その張力は各滑車ブロックのシーブ間のワイヤに伝達され、吊荷12の揚重が開始される。
【0073】
シーブの回転抵抗により発生するワイヤ間の張力の不均衡により、滑車装置1a、1bではその取付金具6a、6bを傾けようとする回転モーメントが働くが、取付金具6a、6bが、それぞれ僅かに傾いたところで回転モーメントはバランスし、それ以上傾くことはない。
【0074】
したがって、取付金具6a、6bが大きく傾くことによって揚重作業中に生じる恐れがある滑車装置1aと滑車装置1bの滑車ブロック間の干渉を避けることができる。
また、取付金具6a、6bが大きく傾くことにより生じる恐れがある同じ取付金具に結合した隣り合う滑車ブロック間の干渉も避けることができる。
その結果、極めてスムースに所定の位置12’までの揚重作業を行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の滑車装置及びそれを用いた揚重方法は、建設・据付現場や工場内で重量物を揚重する際に極めて有効な手段として、広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の滑車装置の作用を示す説明図である。
【図2】本発明の滑車装置の第1の実施例の説明図である。
【図3】同実施例の模型を用いて揚重の実験を行なった状態を示す鳥瞰図である。
【図4】本発明の滑車装置の第2の実施例の取付金具の説明図である。
【図5】本発明の滑車装置の第3の実施例の取付金具の説明図である。
【図6】本発明の揚重方法の説明図である。
【図7】1車の滑車ブロックを複数個縦に並べる従来の滑車装置の説明図である。
【図8】1車の滑車ブロックを複数個横に並べる従来の滑車装置の説明図である。
【符号の説明】
【0077】
1、1a、1b 滑車装置
2、2a、2b、2a1、2a2、・・・、2b1、2b2、・・・滑車ブロック
4a、4b フック
6a、6b 取付金具
7a、7b シャックル
9 梁構造物
10、13 吊りピース
12 吊荷
15a、15b 結合部材
16 ワイヤ
17、30 別置きの定滑車
19 牽引方向
21 実施例2の取付金具
22、23a、23b 「へ」の字型板状材
25 実施例3の取付金具
26 中心軸
27a、27b、・・・ 枝部
29 ウインチ
A、Aa、Ab 結合部材と取付金具の結合点
B、B1、B2、B1a、B2a、・・・、B1b、B2b、・・・固定部と取付金具の結合点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量物を揚重する際に用いる滑車ブロックを複数個組み合わせて使用する滑車装置であって、
当該複数個の滑車ブロックは各々固定部を有し、
当該固定部を介して当該複数個の滑車ブロックを取付ける取付金具と、当該取付金具を揚重作業に当たり吊荷の荷重を支える固定点の吊りピース、あるいは、吊荷の吊りピースに結合させる結合部材とを有し、
当該結合部材と当該取付金具の結合点Aと当該固定部と当該取付金具の結合点B1、B2、B3、・・・、BmとがAを頂点とする「ヘ」の字型に並び、当該結合点B1、B2、B3、・・・、Bmが当該結合点Aを挟んでその左右にほぼ同数配置されており、当該結合部材は当該結合点Aより「ヘ」の字の上方に位置し、当該複数個の滑車ブロックは当該結合点B1、B2、B3、・・・、Bmより「ヘ」の字の下方に位置している滑車装置。
【請求項2】
請求項1記載の滑車装置であって、前記複数個の滑車ブロックの各々が1個のシーブ(ロープ車)を有する滑車装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の滑車装置であって、前記取付金具そのものが「へ」の字型の板状材からなる滑車装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の滑車装置であって、前記取付金具が「へ」の字型の2枚の板状材をその「へ」の字の頂点において直交する形で結合した形状を成し、当該「へ」の字の頂点、すなわち、当該2枚の板状材の交点に前記結合点Aを有し、当該交点から四方に伸びる板状材それぞれに前記結合点B1、B2、B3、・・・、Bmがほぼ同数配置されている滑車装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の滑車装置であって、前記取付金具が傘の骨のように前記結合点Aを中心に放射状に複数の枝部を有する構造を成し、各々の枝部それぞれに前記結合点B1、B2、B3、・・・、Bmがほぼ同数配置されている滑車装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の滑車装置を2組用いて、1組の当該滑車装置は前記「へ」の字型をその上下を逆さまにした状態で前記結合部材を用いて吊荷の吊りピースに結合させて動滑車として用い、他の1組の当該滑車装置は前記「へ」の字型をそのままの状態で前記結合部材を用いて吊荷の荷重を支える固定点の吊りピースに結合させて定滑車として用いて重量物を揚重する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−230755(P2007−230755A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57284(P2006−57284)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(593162361)日本建設工業株式会社 (9)