説明

滑雪用塗膜形成コーティング組成物、滑雪用塗膜および滑雪用部材

【課題】 長期間良好な滑雪性能を維持し得る滑雪用塗膜を形成するためのコーティング組成物および滑雪用塗膜と滑雪用部材を提供する。
【解決手段】 (A)光触媒性微粒子、(B)コロイダルシリカおよび(C)チタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーを含み、かつ固形分全量に基づき、(A)成分含有量が5〜50質量%、(B)成分含有量が、固形分として25〜75質量%および(C)成分含有量が、TiO換算固形分として10〜55質量%である滑雪用塗膜形成コーティング組成物、このコーティング組成物を用いて形成された滑雪用塗膜および有機基材上に中間膜を介して該塗膜を有する滑雪用部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑雪用塗膜形成コーティング組成物、滑雪用塗膜および滑雪用部材に関する。さらに詳しくは、本発明は、長期間良好な滑雪性能を維持することができる滑雪用光触媒膜を形成するためのコーティング組成物、このコーティング組成物を用いて形成されてなる滑雪用塗膜および有機基材上に該塗膜を有する滑雪用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒活性材料(以下、単に光触媒と称すことがある。)は、そのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、励起されて伝導帯に電子が生じ、かつ価電子帯に正孔が生じる。そして、生成した電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2-)を生成させると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去などが検討されている。
【0003】
また、光触媒のもう1つの機能として、該光触媒が光励起されると、光触媒表面は、水との接触角が10°以下となる超親水化を発現することも知られている(例えば、特許文献1参照)。このような光触媒の超親水化機能を応用して、例えば高速道路の防音壁やトンネル内照明、街路灯などに対する自動車の排ガスに含まれる煤などによる汚染防止用に、あるいは自動車のボディーコートやサイドミラー用フィルム、防曇性、セルフクリーニング性窓ガラス用などに光触媒を用いることが検討されている。
【0004】
このような光触媒としては、これまで種々の半導体的特性を有する化合物、例えば二酸化チタン、酸化鉄、酸化タングステン、酸化亜鉛などの金属酸化物、硫化カドミウムや硫化亜鉛などの金属硫化物などが知られているが、これらの中で、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンは実用的な光触媒として有用である。この二酸化チタンは、太陽光などの日常光に含まれる紫外線領域の特定波長の光を吸収することによって優れた光触媒活性を示す。
【0005】
ところで、滑雪用構造体としては表面凹凸の無いアルミニウム板が広く用いられるが、このアルミニウム板は、経時的に付着する汚れにより表面に凹凸が形成され、その滑雪性能は年々低下するという問題がある。
これを改良する目的で滑雪や着雪防止塗料が検討されている。特に、フッ素樹脂などの撥水塗料が広く検討されていたが、この撥水塗料も経時的に汚れが付着して、その特性が低下することが知られており、したがって、現在は撥水塗料に光触媒による防汚性を付与した研究が行われている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、撥水塗料も、汚れと共に光触媒で分解され、経時的に塗膜が薄くなることや、光触媒材料やフッ素樹脂の滑落、流出するという問題があった。
【0006】
一方、光触媒の超親水性と防汚性を同時に利用した滑雪も検討されている。しかしながら、この場合、光触媒の超親水機能によって初期の滑雪特性は十分であるが、いったん積雪すると、通常、超親水性を発現するために必要な紫外線が殆ど当たらなくなるため超親水性が低下し、滑雪機能が著しく低下する。そこで、それらを改善するため、例えばシリコンアルコキシドを加水分解、縮合して得られたシリカをバインダーおよび保水剤として含む塗工液が開示されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。しかしながら、前記塗工液を用いて形成された塗膜の場合も、その滑雪特性は初期的には十分であるが、屋外使用で想定される雨などの水分に曝されると、シリカバインダーが徐々に溶出し、その結果、暗所での親水性が著しく低下して、その滑雪機能が長期的には十分でなくなるおそれがあった。
【0007】
【特許文献1】国際特許公開96/29375号公報
【特許文献2】特開2001−38219号公報
【特許文献3】特開2001−47581号公報
【非特許文献1】「第10回光触媒シンポジウム予稿集」、第166〜167頁(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、長期間良好な滑雪性能を維持することができる、光触媒の超親水性を利用した滑雪用塗膜を形成するためのコーティング組成物、このコーティング組成物を用いて形成されてなる滑雪用塗膜および有機基材上に該塗膜を有する滑雪用部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、光触媒性微粒子と、コロイダルシリカと、チタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーとを所定の割合で含むコーティング組成物により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) (A)光触媒性微粒子、(B)コロイダルシリカおよび(C)チタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーを含み、かつ固形分全量に基づき、(A)成分含有量が5〜50質量%、(B)成分含有量が、固形分として25〜75質量%および(C)成分含有量が、TiO換算固形分として10〜55質量%であることを特徴とする、滑雪用塗膜形成コーティング組成物、
(2) (C)成分のバインダーが結晶化阻害物質を含む上記(1)項に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物、
(3) 結晶化阻害物質が、硝酸アルミニウムである上記(2)項に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物、
(4) (A)成分の光触媒性微粒子が、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子である上記(1)、(2)または(3)項に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物、
(5) 溶媒として、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、またはエチレングリコールモノアルキルエーテル類と炭素数4以下のモノアルコール類との混合物を含む上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物、
(6) 上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載のコーティング組成物を用いて形成されたことを特徴とする滑雪用塗膜、
(7) 紫外線の照射により、水接触角が3°未満となる塗膜であって、1mW/cmの紫外線を照射して塗膜の水接触角を3°未満とし、その塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間、および前記の水接触角が3°未満の塗膜に、サンシャインウエザーメーターによる1500時間の促進耐久試験を施した後、該塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間が、いずれも80時間以上である上記(6)項に記載の滑雪用塗膜、
(8) 有機基材上に、中間膜を介して上記(6)または(7)項に記載の塗膜を有することを特徴とする滑雪用部材、および
(9) 中間膜が、有機−無機複合傾斜膜である上記(8)項に記載の滑雪用部材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期間良好な滑雪性能を維持することができる、光触媒の超親水性を利用した滑雪用塗膜を形成するためのコーティング組成物、このコーティング組成物を用いて形成されてなる滑雪用塗膜および有機基材上に該塗膜を有する滑雪用部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の滑雪用塗膜形成コーティング組成物(以下、単にコーティング組成物と称することがある。)について説明する。
本発明のコーティング組成物、すなわち光触媒塗工液において、(A)成分として用いられる光触媒性微粒子としては、太陽光線の照射を受けて光触媒機能を発揮し得る微粒子であればよく、特に制限はないが、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子(以下、アナターゼ結晶酸化チタン微粒子と称することがある。)が好適である。この酸化チタン微粒子には、少量のルチル型結晶が混在していてもよく、また、窒化チタンや低次酸化チタン等を一部含む可視光応答型の光触媒微粒子も使用することができる。このアナターゼ結晶酸化チタン微粒子の平均粒子径は、1〜500nmの範囲が好ましく、1〜100nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲が優れた光触媒機能を有するために最も好ましい。上記平均粒子径は、レーザー光を利用した散乱法によって測定することができる。
【0013】
また、当該光触媒性微粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuの中から選ばれる少なくとも1種の金属および/または金属化合物を含有させると、一層高い光触媒機能を有するため好ましい。前記の金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどが挙げられる。第二成分の含有量はその物質の種類に応じて適宜選定される。
【0014】
前記アナターゼ結晶酸化チタン微粒子は、従来公知の方法によって製造することができるが、コーティング組成物中に均質に分散させるために酸化チタンゾルの形態で用いるのが有利である。該酸化チタンゾルを製造するには、例えば粉末状のアナターゼ結晶酸化チタンを酸やアルカリの存在下で解こうさせてもよいし、粉砕によって粒子径を制御してもよい。また、硫酸チタンや塩化チタンを熱分解あるいは中和分解して得られる含水酸化チタンを物理的、化学的な方法で結晶子径、粒子径の制御を行ってもよい。さらにゾル液中での分散安定性を付与するために、分散安定剤を使用することができる。
本発明のコーティング組成物において、(B)成分として用いられるコロイダルシリカは光触媒膜に、暗所保持時においても超親水維持性能を発現させる作用を有している。
【0015】
光触媒は、紫外線などの光の照射によって、その表面に存在する有機物質を分解する性質や、超親水化を発現するが、暗所では、一般にこのような光触媒機能が発現されない。しかし、本発明のように、光触媒膜中にコロイダルシリカを含有させることにより、該光触媒膜は、暗所でも超親水維持性能を発現する。
【0016】
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO)を水性媒体に分散させてコロイド状にした製品であって、平均粒子径は、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲である。シリカゾルや、シリコンアルコキシドの加水分解・縮合物では、反応が終結していないので、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性に劣る。一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
【0017】
本発明のコーティング組成物において、(C)成分として用いられるチタンアルコキシドの加水分解・縮合物は、耐水性のバインダーとして機能するものである。
前記チタンアルコキシドとしては、アルコキシル基の炭素数が1〜4のチタンテトラアルコキシドが好ましく用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明においては、前記チタンアルコキシドを加水分解・縮合させてバインダーを形成させるが、この加水分解・縮合反応は、後述の有機溶剤中において、例えばチタンテトラアルコキシドに対して、好ましくは0.5〜4倍モル、より好ましくは1〜3倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行うことができる。
【0019】
本発明におけるチタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーは、少なからず有機未反応基が含まれたTiO構造を有しており、有機基材の燃焼温度以下では結晶化が起こりにくい。すなわち200℃以下においてはアモルファス形態を維持し、結晶化に伴う塗膜の脆弱化などが起こりにくいものであって、例えば、過酸化チタンからなるアモルファス型チタン酸化物とは本質的に異なるものである。
【0020】
本発明のコーティング組成物においては、長期間良好な滑雪性能(超親水性の暗所保持性能が長期間低下しない)を維持する滑雪用塗膜を形成するには、固形分全量に基づき、前記(A)成分の光触媒性微粒子の含有量が5〜50質量%、(B)成分のコロイダルシリカの含有量が、固形分として25〜75質量%および(C)成分のバインダーの含有量が、TiO換算固形分として10〜55質量%であることが好ましく、特に、(A)成分含有量が10〜50質量%、(B)成分含有量が、固形分として30〜70質量%および(C)成分含有量が、TiO換算固形分として15〜45質量%であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、前記(C)成分であるチタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーは、所望により結晶化阻害物質を含むことができる。この結晶化阻害物質としては、効果の点から、無機塩類、有機塩類およびアルコキシド類の中から選ばれる化合物、具体的には、硝酸、酢酸、硫酸、塩化アルミニウムならびにジルコニウムの各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物が好適である。前記結晶化阻害物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この結晶化阻害物質は、前記(C)成分を含む液にそのまま添加すればよく、その添加順序については特に制限はない。
【0022】
本発明においては、前記結晶化阻害物質の使用量は、(C)成分のチタン原子に対して、通常5〜50モル%の範囲で選定される。使用量が5モル%以上であれば、良好な結晶化阻害効果が得られ、また50モル%以下では非晶質酸化チタンが本来有する物理的性質が良好に発揮される。結晶化阻害物質として硝酸アルミニウムを用いる場合の特に好ましい使用量は10〜30モル%の範囲である。
【0023】
本発明のコーティング組成物において、該組成物における各粒子の分散安定性などの点から、溶剤として、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、またはエチレングリコールモノアルキルエーテル類と炭素数4以下のモノアルコール類との混合物を含むことが好ましい。
【0024】
前記エチレングリコールモノアルキルエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、このエチレングリコールモノアルキルエーテル類と併用することができる炭素数4以下のモノアルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記、分散媒であるエチレングリコールモノアルキルエーテル類あるいは炭素数4以下のモノアルコール類との混合物は、基材を選ばず、特に各種有機基材とのぬれ性は良好で、成膜することが容易である。
【0026】
コーティング組成物は、ゲル化や沈殿物の生成を引き起こし易く、安定性に問題を生じたり、また成膜時に白味を帯びて透明性が失われたりする場合があるため、前記、エチレングリコールモノアルキルエーテル類とモノアルコール類は、質量比10:0ないし4:6の割合が好ましい。
【0027】
さらに、本発明のコーティング組成物においては、添加した粒子の凝集などを防ぐつまり、組成物の安定性の面から、その中に含まれる水の量と無機酸の量との関係は、水の濃度をXモル/リットル、無機酸の水素原子濃度をYモル/リットルとした場合、関係式
【0028】
D>Y>E ・・・(a)
0.019<Y<0.3 ・・・(b)
1<X<14 ・・・(c)
(ただし、
D=1.46×10−2−4.06×10−2X+3.93×10-2
E=−0.04×10−2+1.66×10−2X−2.88×10-2
である。)
【0029】
を満たすように、適宜加えることが好ましい。
【0030】
本発明のコーティング組成物の調製方法しては特に制限はないが、例えば以下のようにして調製することができる。
まず、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、またはエチレングリコールモノアルキルエーテル類と炭素数4以下のモノアルコール類との混合物からなる有機溶剤中に、所定量のチタンアルコキシドに対して0.5〜4倍モル、好ましくは1〜3倍モルの水と、所定量の無機酸を加え、0〜70℃程度、好ましくは20〜50℃の温度において、チタンアルコキシドの加水分解・縮合反応を行って形成されたバインダー液またはこれに結晶化阻害物質を加えた液を添加後、所定量のアナターゼ結晶酸化チタンゾルとコロイダルシリカを加え、均質に分散させることにより、本発明のコーティング組成物を調製することができる。
【0031】
次に、本発明の滑雪用塗膜(以下、塗膜を光触媒膜と称することがある。)について説明する。
前記ようにして調製されたコーティング組成物を適当な基材上に、公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗布し、成膜したのち、自然乾燥または加熱乾燥することにより、本発明の滑雪用光触媒膜が得られる。加熱乾燥する場合は、200℃以下の温度を採用することができる。このように、成膜したのち、低温での保持処理により、形成された滑雪用光触媒膜は、十分な光触媒機能を発現し得るので、基材としては、例えばセラミックス、ガラス、金属、合金などの耐熱性に優れる無機基材の他に、耐熱性に劣る有機基材も好適に用いることができる。
【0032】
本発明においては、前記滑雪用光触媒膜として、紫外線の照射により、水接触角が3°未満となる塗膜であって、1mW/cmの紫外線を照射して塗膜の水接触角を3°未満とし、その塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間、および前記の水接触角が3°未満の塗膜に、サンシャインウエザーメーターによる1500時間の促進耐久試験(JIS K 7350に準拠)を施した後、該塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間が、いずれも80時間以上、好ましくは96時間以上である性状を有するものを得ることができる。
【0033】
なお、暗所に放置して水接触角を測定するのは、雪が積もっていたり、天候が曇りであったりして、紫外線が当らないことを想定して、暗所に放置し、その際の親水性の劣化程度を評価するためである。水接触角が小さいほど滑雪しやすい。
また、水接触角が3°未満の塗膜をすぐに暗所に放置するのは、施工後1年目の冬を想定した場合であり、上記塗膜を促進耐久試験したのち、暗所に放置するのは、施工後数年経過した冬の積雪を想定した場合である。
【0034】
このような性状を有する光触媒膜は、形成直後の塗膜を暗所に放置した場合、および長期間太陽光に曝された後で暗所に放置した場合のいずれにおいても、超親水性状態を維持することができ、滑雪用塗膜として好適である、例えば施工後、3年以上を経た場合においても、滑雪性に優れている。
【0035】
次に、本発明の滑雪用部材について説明する。
本発明の滑雪用部材は、前述の光触媒膜を部材表面に有する部材であって、材質には特に制限はない。
例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その各種無機系材料からなる無機基材の表面には、本発明のコーティング組成物をそのまま、直接塗工することで滑雪用塗膜を形成することができる。
なお、本発明における無機基材は、無機系材料以外の材料、例えば樹脂系材料からなる基材の表面に、無機系塗膜を有するものも包含する。
【0036】
一方、例えば高分子化合物などの有機系材料からなる有機基材の表面には、中間膜を介して、本発明のコーティング組成物を塗工することで滑雪用塗膜を形成することができる。
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その各種無機系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0037】
このような有機基材上に直接光触媒膜を形成すると、該光触媒膜の光触媒作用により、有機基材は短期間で劣化するため、本発明においては、有機基材と光触媒膜との間に、有機基材の劣化を抑制するための中間膜が介挿される。この中間膜としては、これまで各種中間膜、例えばシリコーン樹脂膜、アクリル変性シリコーン樹脂膜、有機−無機複合傾斜膜などが知られているが、本発明においては、有機基材および光触媒膜との密着性および有機基材の劣化防止性などの点から、有機−無機複合傾斜膜が好ましく用いられる。
【0038】
この有機−無機複合傾斜膜は、有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつ金属成分の含有率が該膜の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものである。このような複合傾斜膜は、(X)分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基(以下、加水分解性金属含有基と称すことがある。)を有する有機高分子化合物と共に、(Y)加水分解により金属酸化物を形成し得る金属含有化合物を加水分解処理してなるコーティング剤を用いて形成させることができる。
【0039】
前記(X)成分の加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物は、例えば(a)加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と、(b)金属を含まないエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより、得ることができる。
上記(X)(a)成分である加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、一般式(I)
【0040】
【化1】

【0041】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、(Y)成分と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、Rが複数の場合には、各Rはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、Mはケイ素、チタン、ジルコニウム、インジウム、スズ、アルミニウムなどの金属原子、kは金属原子Mの価数である。)
で表される基を挙げることができる。
【0042】
上記一般式(I)において、Rのうちの加水分解により(Y)成分と化学結合しうる加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基、水酸基などが挙げられ、一方、(Y)成分と化学結合しない非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基などが好ましく挙げられる。
【0043】
一般式(I)における−Mk−1で表される金属含有基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルクロロシリル基、メチルジクロロシリル基、トリイソシアナトシリル基、メチルジイソシアナトシリル基など、トリメトキシチタニウム基、トリエトキシチタニウム基、トリ−n−プロポキシチタニウム基、トリイソプロポキシチタニウム基、トリ−n−ブトキシチタニウム基、トリイソブトキシチタニウム基、トリ−sec−ブトキシチタニウム基、トリ−tert−ブトキシチタニウム基、トリクロロチタニウム基、さらには、トリメトキシジルコニウム基、トリエトキシジルコニウム基、トリ−n−プロポキシジルコニウム基、トリイソプロポキシジルコニウム基、トリ−n−ブトキシジルコニウム基、トリイソブトキシジルコニウム基、トリ−sec−ブトキシジルコニウム基、トリ−tert−ブトキシジルコニウム基、トリクロロジルコニウム基、またさらには、ジメトキシアルミニウム基、ジエトキシアルミニウム基、ジ−n−プロポキシアルミニウム基、ジイソプロポキシアルミニウム基、ジ−n−ブトキシアルミニウム基、ジイソブトキシアルミニウム基、ジ−sec−ブトキシアルミニウム基、ジ−tert−ブトキシアルミニウム基、トリクロロアルミニウム基などが挙げられる。
この(a)成分のエチレン性不飽和単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
一方、上記(b)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(II)
【0045】
【化2】

【0046】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(II−a)
【0047】
【化3】

【0048】
(式中、Rは前記と同じであり、Rは炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(II−b)
【0049】
【化4】

【0050】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rはエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0051】
上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、Rで示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0052】
この一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
前記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体において、Rで示されるエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子がよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(II−a)におけるRの説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0054】
前記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。
【0055】
また、前記一般式(II)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
【0056】
前記(a)成分の加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と(b)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、(X)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
一方、(Y)成分の加水分解により金属酸化物を形成し得る金属含有化合物(加水分解性金属含有化合物)としては、一般式(III)
【0057】
【化5】

【0058】
(式中のRは非加水分解性基、Rは加水分解性基、Mは金属原子を示し、mは金属原子Mの価数であり、nは0<n≦mの関係を満たす整数である。)
で表される化合物又はその縮合オリゴマーが用いられる。
【0059】
上記一般式(III)において、Rが複数ある場合は、複数のRは同一であっても異なっていてもよく、Rが複数ある場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。Rで示される非加水分解性基としては、例えばアルキル基、アリール基、アルケニル基などが好ましく挙げられ、Rで示される加水分解性基としては、例えば水酸基、アルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基などが挙げられる。また、Mで示される金属原子としては、例えばケイ素、チタン、ジルコニウム、インジウム、スズ、アルミニウムなどが挙げられる。
【0060】
この一般式(III)で表される化合物又はその縮合オリゴマーとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなど、並びにこれらに対応するテトラアルコキシチタンおよびテトラアルコキシジルコニウム、さらにはトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどの金属アルコキシド、あるいは金属アルコキシドオリゴマー、例えば市販品のアルコキシシランオリゴマーである「メチルシリケート51」、「エチルシリケート40」(いずれもコルコート社製商品名)、「MS−51」、「MS−56」(いずれも三菱化学社製商品名)など、さらにはテトライソシアナトシラン、メチルトリイソシアナトシラン、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシランなどが挙げられるが、この(Y)成分としては、金属のアルコキシドが好適である。
【0061】
本発明においては、この加水分解性金属含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明においては、アルコール、ケトン、エーテルなどの適当な極性溶剤中において、前記(X)成分の有機高分子化合物および(Y)成分である少なくとも1種の加水分解性金属含有化合物からなる混合物を塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂を用い、通常0〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去したのち、さらに、所望により溶剤を留去または添加し、塗布するのに適した粘度に調節して塗工液からなるコーティング剤を調製する。温度が低すぎる場合は加水分解が進まず、高すぎる場合は逆に加水分解・重合反応が速く進みすぎ、制御が困難となり、その結果得られる傾斜塗膜の傾斜性が低下するおそれがある。
【0062】
次に、このようにして得られた塗工液からなるコーティング剤を、有機基材表面に乾燥後の平均厚みが40〜300nmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗膜を形成し、公知の乾燥処理、例えば40〜150℃程度の温度で加熱乾燥処理することにより、所望の有機−無機複合傾斜膜が形成される。
この複合傾斜膜の平均厚みが40nm未満では中間膜としての機能が充分に発揮されないし、300nmを超えるとクラックなどが発生するおそれがある。
【0063】
このようにして形成された有機−無機複合傾斜膜においては、表面層は、複合膜中の金属成分の含有率はほぼ100%であって、基材方向に逐次減少していき、基材近傍ではほぼ0%となる。すなわち、該有機−無機複合傾斜膜は、実質上、有機基材に当接している面が有機高分子化合物成分のみからなり、もう一方の開放系面が金属酸化物系化合物成分のみからなっている。
【0064】
本発明においては、このようにして形成された有機−無機複合傾斜膜上に、前述の本発明のコーティング組成物を塗布、成膜したのち、200℃以下の温度で保持処理して、光触媒膜を設けることができる。この光触媒膜の厚みは、通常10nm〜5μmの範囲で選定される。この厚みが10nm未満では光触媒機能が十分に発揮されないし、5μmを超えると厚みの割には光触媒機能の向上効果が認められず、むしろクラックが生じたりする原因となる。好ましい厚みは30nm〜3μmであり、特に30nm〜1μmの範囲が好ましい。
このようにして、有機基材上に中間膜を介して形成された光触媒膜を有する本発明の滑雪用部材は、長期間良好な滑雪性能を維持することができる。
【0065】
本発明の滑雪用部材の形状については特に制限はなく、例えばフィルム、シート、板状体、その他各種形状の構造体など、いずれであってもよい。例えば、道路標識、遮音板、看板、太陽電池パネル、電線、建物の屋根、建物の壁、鉄道車両、自動車などがあげられる。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた光触媒膜の性能は、以下に示す方法に従って評価した。
(1)初期滑雪性
30cm×30cmのアルミニウム板上に光触媒膜を形成してなる評価試料を、1mW/cmの紫外線をブラックライトで照射することにより、膜表面の水接触角をいったん3°未満にし、暗所で3日間放置した後、10°の傾斜をつけ架台に取り付けて、暗所、−10℃の雰囲気下で評価試料上に10cm降雪させた。そして、すぐに暗所、5℃の雰囲気下に曝し、20分後までに雪が滑り落ちる面積を確認し、下記の判定基準に従って評価した。
○:全ての雪が滑り落ちた。
△:一部の雪が滑り落ちなかった。
×:半分以上の雪が滑らず残った。
なお、この初期滑雪性は、施工1年目を想定した評価である。
【0067】
(2)長期間保持後の滑雪性
前記(1)の評価において、評価試料を1mW/cmの紫外線をブラックライトで照射することにより、膜表面の水接触角をいったん3°未満にする前に、JIS K 7350に準じ、カーボンアーク式サンシャインウエザーメータ試験機[試験機:スガ試験機(株)社製サンシャインウエザーメータ「S300」]により、促進耐久試験(サイクル:照射102分間、照射+降雨18分間の2時間1サイクル、ブラックパネル温度:63±3℃、相対湿度:55±5%)を1500時間施したこと以外は、同様の方法で評価した。なお、この促進試験は、3〜5年を経過した状態を想定している。
【0068】
(3)超親水性の暗所保持性
(イ)初期暗所保持性
30cm×30cmのアルミニウム板上に、直接、もしくは有機−無機複合傾斜膜付きのフィルムを介して、光触媒膜を形成してなる評価試料に、1mW/cmの紫外線をブラックライトで照射することにより、膜表面の水接触角をいったん3°未満にした。その後、すぐ暗所で放置して、水接触角が10°を超える時間を測定した。
【0069】
(ロ)長期間保持後の暗所保持性
30cm×30cmのアルミニウム板上に直接、もしくは有機−無機複合傾斜膜付きのフィルムを介して、光触媒膜を形成してなる評価試料に、前記(2)と同様にして促進耐久試験を1500時間行った後、暗所で水接触角が20°を越えるまで暗所で保持した後、1mW/cmの紫外線をブラックライトで照射することにより、膜表面の水接触角をいったん3°未満にしたのち、その後、すぐ暗所で放置して、水接触角が10°を超える時間を測定した。
【0070】
製造例1 バインダー液の作製
チタンテトライソプロポキシド10.00g(0.035モル)をエチルセロソルブ19.90g(0.221モル)に溶解した溶液に、60質量%硝酸水溶液1.68g(0.016モル)と水0.61g(0.034モル)とエチルセロソルブ7.80g(0.087モル)との混合溶液を撹拌しながらゆっくり滴下し、その後、30℃で4時間撹拌した。その後、エチルセロソルブ77.60g(0.863モル)を加え、TiO換算で固形分濃度2.38質量%のバインダー液を作製した。
ここで、バインダー液中の水は、60質量%硝酸水溶液に含まれる水(0.67g)と、添加した水(0.61g)の合計で、1.28g、60質量%硝酸水溶液に含まれる硝酸は、1.01gである。
【0071】
製造例2
有機−無機複合傾斜膜付きフィルムの作製
メチルメタクリレート10.9gおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.36gの混合溶液に、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを溶解させた後、撹拌しながら75℃で3時間反応させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量が約7万の共重合体を得た。この共重合体1.0gをメチルイソブチルケトン100mlに溶解させ、10g/リットル濃度の有機成分溶液を得た。
【0072】
チタンテトライソプロポキシド10.0g(0.036モル)をエチルセロソルブ19.9g(0.221モル)に溶解した溶液に、60質量%硝酸水溶液1.68g(0.016モル)と、水0.61g(0.034モル)とエチルセロソルブ7.8g(0.087モル)との混合溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、その後30℃で4時間攪拌して無機成分溶液を得た。
【0073】
有機成分溶液5mlをメチルイソブチルケトン20mlに加えた後、エチルセロソルブ16.7ml、次いで有機成分溶液8.8mlを加えて成分傾斜膜塗工液を調製した。この塗工液をマイヤーバーにて50μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム(株)社製、「テトロンHB−3」)上にバーコートし、溶剤を揮発させて、厚さ100nmの有機−無機複合傾斜膜付きフィルムを得た。
【0074】
実施例1
エチルセロソルブ94.11gとn−プロパノール133.59gとの混合物を攪拌しながら、これにバインダー液44.12gを添加し、次いで、60質量%硝酸水溶液0.81gと水20.40gの混合液をゆっくりと滴下した。次いで、ここにアナターゼ型結晶の酸化チタン粒子分散液[チタン工業(株)製「PC−201」、溶媒:水77.2質量%、硝酸2.1質量%、固形分濃度20.7質量%、平均粒径20〜40nm]1.45g、コロイダルシリカ[日産化学工業(株)製「snowtex IPA−ST」、溶媒:イソプロピルアルコール69.999質量%、硝酸0.001質量%、固形分濃度30質量%、平均粒径10〜20nm]5.50gを順次攪拌しながら、ゆっくり滴下することにより、光触媒塗工液(滑雪用塗膜形成コーティング組成物)を調製した。
【0075】
ここで、光触媒塗工液に含まれる水の量は、バインダー液中の0.48g、60質量%硝酸水溶液中の0.32g、添加した水の20.40g、アナターゼ型結晶の酸化チタン粒子分散液中の1.12gであり、合計は22.32gとなり、1.24モルである。また、硝酸の量は、バインダー液中の0.38g、60質量%硝酸水溶液中の0.50g、アナターゼ型結晶の酸化チタン粒子分散液中の0.03g、コロイダルシリカ分散液中の5.50×10−5gであり、合計は0.90gとなり、1.43×10−2モルである。上記調整した光触媒塗工液は300g、比重が0.86であることから、水の濃度は、3.6モル/リットル、硝酸の水素原子濃度は4.1×10−2モル/リットルであった。
【0076】
次に、製造例2で得た有機−無機複合傾斜膜付きフィルムの該傾斜膜上に、上記塗工液をマイヤーバーにて成膜し、溶剤を揮発させて厚さ45nmの光触媒膜を形成させた。これを粘着剤にて、30cm×30cmのアルミニウム板上に施工し、各種評価を行った。光触媒塗工液中の各成分構成比および各種評価結果を表1に示す。
【0077】
実施例2〜6
光触媒塗工液中の各成分の含有割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして光触媒塗工液を調製し、さらに光触媒膜を形成させた。
各光触媒塗工液の成分構成比および各種評価結果を表1に示す。
【0078】
実施例7
30cm×30cmのアルミニウム板に、実施例1で得られた光触媒塗工液をスピンコート(1000rpm、30秒)し、150℃で5時間加熱し、厚さ45nmの光触媒膜を直接形成させた。
各種評価結果を表1に示す。
【0079】
比較例1、2
光触媒塗工液中の各成分の含有割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして光触媒塗工液を調製し、さらに光触媒膜を形成させた。
各光触媒塗工液の成分構成比および各種評価結果を表1に示す。
【0080】
比較例3
実施例4においてコロイダルシリカの代わりに、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を用いた以外は、実施例4と同様にして光触媒塗工液を調製し、さらに光触媒膜を形成させた。
各光触媒塗工液の成分構成比および各種評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の滑雪用コーティング組成物は、長期間良好な滑雪性能を維持することができる滑雪用光触媒膜、およびこの光触媒膜を有する滑雪用部材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)光触媒性微粒子、(B)コロイダルシリカおよび(C)チタンアルコキシドの加水分解・縮合により形成されたバインダーを含み、かつ固形分全量に基づき、(A)成分含有量が5〜50質量%、(B)成分含有量が、固形分として25〜75質量%および(C)成分含有量が、TiO換算固形分として10〜55質量%であることを特徴とする、滑雪用塗膜形成コーティング組成物。
【請求項2】
(C)成分のバインダーが結晶化阻害物質を含む請求項1に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物。
【請求項3】
結晶化阻害物質が、硝酸アルミニウムである請求項2に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物。
【請求項4】
(A)成分の光触媒性微粒子が、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子である請求項1、2または3に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物。
【請求項5】
溶媒として、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、またはエチレングリコールモノアルキルエーテル類と炭素数4以下のモノアルコール類との混合物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の滑雪用塗膜形成コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物を用いて形成されたことを特徴とする滑雪用塗膜。
【請求項7】
紫外線の照射により、水接触角が3°未満となる塗膜であって、1mW/cmの紫外線を照射して塗膜の水接触角を3°未満とし、その塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間、および前記の水接触角が3°未満の塗膜に、サンシャインウエザーメーターによる1500時間の促進耐久試験を施した後、該塗膜を暗所に放置した際に塗膜の水接触角が10°を超える時間が、いずれも80時間以上である請求項6に記載の滑雪用塗膜。
【請求項8】
有機基材上に、中間膜を介して請求項6または7に記載の塗膜を有することを特徴とする滑雪用部材。
【請求項9】
中間膜が、有機−無機複合傾斜膜である請求項8に記載の滑雪用部材。

【公開番号】特開2006−111680(P2006−111680A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298556(P2004−298556)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】