説明

滴定装置

【課題】滴定までの待機中に滴定用試薬液導入管内にある試薬液が酸化等により変質してしまうことによる不具合を簡単な構成で防ぐことができる滴定装置を提供する。
【解決手段】試薬液導入機構3が、前記試料容器11内に挿入され、その先端341が当該試料容器11内に試料液が貯留されている際の液位よりも下側に設けられている滴定用試薬液導入管34と、前記滴定用試薬液導入管34内の試薬液を吐出又は吸引する試薬液ポンプ部35と、を具備し、前記制御装置5が、前記液体排出機構4を制御して前記試料容器11から液体を排出させた後に、前記試薬液ポンプ部35に吸引動作を行わせて、前記滴定用試薬液導入管34内に先端341から所定の長さだけ気層342を形成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば酸化還元滴定や中和滴定等などの種々の滴定を行うための滴定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水質汚染の指標の一つであるCOD(化学的酸素要求量)を計測する場合、過マンガン酸カリウムにより試料液中の有機物等の被酸化物を酸化し、過剰のシュウ酸ナトリウムで酸化を停止して、その後、酸化に必要となった過マンガン酸カリウムの量を測定するために、再び過マンガン酸カリウムを用いて逆滴定を行っている。
【0003】
上述したような滴定を自動で行うCOD自動測定装置は、少なくとも、試料容器内に試料液を導入する試料液導入機構と、滴定用の試薬を導入する試薬液導入機構と、測定終了後に前記試料容器内の液体を排出する液体排出機構と、前記各機構を制御する制御装置とを備えている。
【0004】
滴定に特に関連する試薬液導入機構は、前記試料容器内に挿入される滴定用試薬液導入管と、前記滴定用試薬液導入管に接続されモータ等により試薬液の吐出又は吸引量が制御されるシリンジとを備えており、モータに入力する指令パルス数により押子の移動量を微小制御することで試料液に滴下する試薬の量を制御している。
【0005】
このように、試料液内に滴下する試薬液の量は正確に制御されているが、例えば滴下している試薬液が化学的に変質していると、別の物質が加えられることになるので、制御により加えようとしている試薬液の量と、実際に加えられた試薬液の量との間には誤差が生じる。あるいは、試料液中に当初の試薬液とは別の物質があることによって想定しているのとは別の反応が生じることにより、滴定の精度が低下してしまう。具体的には、自動COD測定装置において、試料液を交換しながら連続でCOD測定を行っている場合、前記滴定用試薬液導入管内には、滴定で試料液内に導入されなかった過マンガン酸カリウムが残っているので、滴定を行っていない間は多量の空気にさらされ続けることになる。そして、多量の空気がある環境下で過マンガン酸カリウムが放置されていると、4KMnO→2KO+4MnO+3Oで示される自己分解反応が促進されて固体の二酸化マンガンが管内に発生してしまうことがある。この二酸化マンガンは触媒効果を有するので、管内又は試料容器内に存在すると、試料液に滴定用に加える過マンガン酸カリウムが二酸化マンガンに変質する量が加速度的に増えてしまい、滴定精度に大きな影響がでてしまう。また、滴定用試薬液導入管内で二酸化マンガンが発生すると管が詰まってしまい、そもそも滴定自体が行えなくなる可能性もある。
【0006】
このような滴定が開始されるまでの待機時間中に自己分解等が生じて試薬液が変質するのを防ぐには、特許文献1に示される滴定装置のように滴定用試薬液導入管の先端を試料液の中に入れてしまい、試薬液が空気と接触しないようにすることが考えられる。また、このように滴定用試薬液導入管の先端を試料液中に入れると試料液と試薬液の接触により生じる拡散効果で試薬液を導入することができ、表面張力等によりある程度の量ごとにしか導入できない滴下による滴定方法に比べてより分解能を上げ、正確な滴定を行うことができる。
【0007】
しかしながら、このように滴定用試薬液導入管の先端を試料液中に入れてしまうと、滴定時には導入できる最小量を小さくすることはできるものの、滴定時以外においても試料液と試薬液が接触している。このため、滴定に使われるはずであった試薬液が、制御下にない間に試料液に流出してしまうことによって滴定の誤差が生じてしまう。例えばCOD測定のように試料液の酸化を待っている間等の待機時間中にも、試料液と試薬液が接触していると、試薬液は試料液に流出してしまうので、滴定を開始したときには既に幾分かの試薬液が予め加えられた状態で始まってしまうことになる。このような各液の接触による意図しない試薬液の流出量は、どの程度の量であるのかは分からず、補正を行うのも難しいので滴定時の誤差となって現れることになる。また、待機中において前記試薬液導入管の先端近傍で温度が上昇する等の環境変化があると、試薬液中に存在する微小な気泡が膨張するのに伴って、先端から試薬液が出て行ってしまい、この流出量も制御又は測定不可能な量であることから滴定の精度が悪くなる原因となってしまう。
【0008】
一方、試薬液の自己分解等による変質を防ぐためだけの構成としては、滴定用試薬液導入管の先端を試料液内に付けずに、特許文献2に示されるように滴定が終わるごとに、前記滴定用試薬液導入管の先端から前記シリンジの間に残った過マンガン酸カリウム等の試薬液を全て排出する方法がある。しかしながら、特許文献2に示されているように、滴定用のシリンジはその吐出容量が小さく、前記滴定用試薬液導入管の内部にある試薬液の全てを排出することはできないので、別途エアーポンプを設け、配管も複雑にする必要があり、滴定装置の構成が複雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−108917号公報
【特許文献2】特開2005−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述したような問題点を鑑みてなされたものであり、試料液を交換しながら連続で滴定を行ったとしても、滴定開始までの待機中に滴定用試薬液導入管内にある試薬液が酸化等により変質してしまうことによる不具合を簡単な構成で防ぐことができるとともに、試料液中に前記滴定用試薬液導入管の先端があったとしても意図しない試薬液の流出を防ぎ、滴定精度が悪化するのを防ぐことができる滴定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の滴定装置は、試料液が貯留される試料容器と、前記試料容器内に試料液を導入する試料液導入機構と、前記試料容器内に滴定用の試薬液を導入する試薬液導入機構と、前記試料溶液内から液体を排出する液体排出機構と、前記試料液及び前記試薬液の前記試料容器への導入及び試料容器からの排出を制御する制御装置とを備えた滴定装置であって、前記試薬液導入機構が、前記試料容器内に挿入され、その先端が当該試料容器内に試料液が貯留されている際の液位よりも下側に設けられている滴定用試薬液導入管と、前記滴定用試薬液導入管内の試薬液を吐出又は吸引する試薬液ポンプ部と、を具備し、前記制御装置が、前記液体排出機構を制御して前記試料容器から液体を排出させた後に、前記試薬液ポンプ部に吸引動作を行わせて、前記滴定用試薬液導入管内に先端から所定の長さだけ気層を形成させることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、滴定終了後に試料容器内から排液した後に、前記試薬液ポンプ部に吸引動作を行わせて、当該滴定用試薬液導入管内に先端から所定の長さだけ気層が形成されているので、次の滴定のために試料液が新たに導入されても試料液と試薬液とが接触しない。従って、前記試薬液ポンプ部を動作させて滴定が開始されるまでの間の待機時間において、試薬液が試料液に接触することにより勝手に流出してしまうことによる滴定誤差は一切発生しない。さらに、待機時間中においては前記滴定用試薬液導入管中の試薬液は、前記試料容器内の試料液との間にある気層中のわずかな酸素としか接触しないので、待機時間中に試薬液が酸化等により変質することを防ぐことができる。また、待機時間中において滴定を開始する下準備として試料液に加えられる熱等は前記気層により試薬液には伝熱されにくくなっているので、試薬液中に存在する微小な気泡が膨張することにより試薬液が管の外へと出てしまうのを防ぐことができる。加えて、試薬液ポンプ部の吸引動作により前記滴定用試薬液導入管内の先端部に気層を形成させるだけなので、管内の全ての試薬液を全て排出できるような吐出容量の大きいポンプを別途設ける必要がなく、滴定に用いる試薬液ポンプ部をそのまま用いることができるので、滴定装置の構成の複雑化を避けることができる。
【0013】
滴定動作の前に下準備として試料液が加熱される場合であっても、その熱により試薬液内の気泡等が膨張して、試薬液が管外へと出てしまうのを防ぐための具体的な実施の態様としては、前記試料容器が挿入され、試料液が加熱される反応槽を更に備え、前記制御装置が、前記滴定用試薬液導入管の先端から前記試料液よりも外側に至る長さの気層を形成させるように構成されたものが挙げられる。
【0014】
さらに確実に前記試料液が加熱される場合であっても、待機時間中において前記滴定用試薬液導入管から試料液へ試薬液が気泡の膨張により流出するのを防ぐには、前記反応槽が、前記試料容器を内部に収容するものであり、前記滴定用試薬液導入管が、当該加熱槽を貫通して前記試料容器内に挿入されており、前記制御装置が、前記滴定用試薬液導入管の先端から前記反応槽の外側に至る長さの気層を形成させるように構成されたものであればよい。このようなものであれば、前記蓋体により内部と外部を断熱させることができ、試薬液へ熱が加えられてしまうのを防ぎ、待機時間中の外部への流出を防ぐことができる。
【0015】
待機時間中には前記滴定用試薬液導入管内に気層を形成して保持するようにしつつ、滴定精度を保つことができるようにするには、前記制御装置が、気層を形成させた際の当該試薬液ポンプ部の吸引した量と同じ量だけ吐出させた後に滴定を開始するように構成されたものであればよい。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明の滴定装置によれば、試料容器内から液体を排出した後において前記試薬液ポンプ部を吸引動作させることにより、前記滴定用試薬液導入管の先端から所定の長さだけ気層を形成するように構成されているので、新たに試料液が導入され、滴定が開始されるまでの待機時間中における試料液と試薬液の接触がない。従って、待機時間における試薬液の流出や、外部からの熱の影響による想定外の流出を防ぎ、滴定時における誤差要因が発生するのを防ぐことができる。また、滴定に用いる試薬液ポンプ部により気層を形成するように構成されているので、別途ポンプ等を設ける必要がなく、滴定装置の構成の複雑化や製造コストの増加を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るCOD自動測定装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態におけるCOD測定全体の流れを示すフローチャート。
【図3】同実施形態における滴定に関する動作の流れを示すフローチャート。
【図4】同実施形態における排液工程時の滴定に関する動作を示す模式図。
【図5】同実施形態における試料液導入工程から酸化停止工程までの滴定に関する動作を示す模式図。
【図6】同実施形態における滴定開始及び滴定工程時の滴定に関する動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態の滴定装置は、水質の指標の一つであるCOD(化学的酸素要求量)を測定するCOD自動測定装置100として用いている。より具体的には、JISに定められた手順に基づいて、試料液を変更しながら、連続でCOD測定を行うように構成してある。
【0020】
すなわち、図1に示すように本実施形態のCOD自動測定装置100は、試料容器11貯留用の試料容器11が内部に収容される反応槽1と、試料容器11に試料液を導入する試料液導入機構2と、前記試料容器11にCOD測定に用いられる各種試薬液を導入するため試薬液導入機構3と、ある試料液についてCOD測定が終了した後に前記試料容器11内から液体を外部へと排出する液体排出機構4と、を備えたものである。そして、前記試料液導入機構2、前記試薬液導入機構3、前記液体排出機構4をシーケンス制御し、前記試料容器11内への試料容器11及び試薬液の導入及び排出制御する制御装置5を更に備えたものである。
【0021】
各部について簡単に説明すると、前記反応槽1は、図1に示すように試料液を貯留する試料容器11が挿入される伝熱体12と、前記伝熱体12を加熱するシートヒータ13と、前記伝熱体12及び前記試料容器11の上面側を覆うように設けられた蓋体14と、を備えたものである。
【0022】
前記試料容器11は、底面側がコーン形状で上面側が円筒形状のガラス製の容器であり、上面の開口から当該試料容器11内へ、各種導入管、滴定の終点を検出するための双白金電極15、撹拌翼16、液体排出管41が挿入してある。前記試料容器11内は、コーン状(概略逆円錐状)となっている底面側の部分、すなわち、底面側から上面側へ向かうに連れて横断面の面積が大きくなっている部分にのみ前記試料液を貯留するようにしてあり、試料液の量が少なくてもある程度の液位が出るようにしてある。このようにすることで、試料液が少なくても前記測定電極15や撹拌翼1616を試料液内に浸漬することができる。さらに、上面の開口において横断面積が最も大きくなるようにしてあるので、前述した各種機器を挿入する際にも機器同士が干渉することを防ぎ、容易に当該試料容器11内に挿入することができる。
【0023】
前記伝熱体12は、金属で形成されており、その縦断面が概略M字状になるように形成された回転体形状のものであり、上面に試料容器11が収容されるコーン状に凹ませてある収容部と、底面に放熱用の凹部121が形成してある。すなわち前記凹部121が形成してあることにより、伝熱体12の底面側中央部はコーン状に突出しており、その側面を形成する部材との間に空間が形成してある。このように凹部121を形成しておくことにより、熱容量を小さくするとともに、表面積を大きくして後述する酸化停止工程における冷却効率を向上させている。そして、前記伝熱体12の外側周面には前記シートヒータ13が巻き付けてあり、その上面には、前記試料容器11を密閉して覆うように概略平円筒形状の前記蓋体14が取り付けてある。すなわち、前記シートヒータ13で発生した熱は、前記伝熱体12を介して試料容器11に伝導し、試料液を加熱する。また、試料液を加熱するための熱は、前記蓋体14により反応槽1の外部へは極力伝達されないようにしてある。
【0024】
前記試料液導入機構2は、前記蓋体14を貫通させて取り付けられ、その先端が前記試料容器11内に挿入された試料液導入管21と、河川の水や工場排水等に希釈水を加えて試料液とし、生成した試料液を試料容器11内へと前記試料液導入管21を介して移動させる試料液送出部22とを備えたものである。
【0025】
前記試薬液導入機構3は、前記試料容器11内に貯留されている試料液に各種試薬を導入するものである。より具体的には、前記試薬液導入機構3は、過マンガン酸カリウムに関しては2通りの導入ラインを有しており、前記試料液中の有機物質等を酸化させるために決まった量の過マンガン酸カリウムを導入する酸化ラインL1と、試料液を酸化するのに必要であった過マンガン酸カリウムの量を逆滴定するために過マンガン酸カリウムを導入する滴定ラインL2とを備えている。
【0026】
前記酸化ラインL1は、過マンガン酸カリウムが貯留された試薬液タンク31と、過マンガン酸カリウムが計量される試薬液計量部32と、を備えたものである。前記試薬液計量部32と、前記反応槽1との間は酸化用試薬液導入管33で接続してあり、前記試薬液計量部32から過マンガン酸カリウムが試料液内に導入されるようにしてある。なお、シュウ酸ナトリウム、硝酸銀、硫酸、洗浄水についても同様の機構により前記試料容器内へ適量ずつ順番に導入されるように構成してある。
【0027】
前記滴定ラインL2は、過マンガン酸カリウムが貯留された試薬液タンク31と、前記反応槽1内の試料容器11中に挿入された滴定用試薬液導入管34と、前記滴定用試薬液導入管34内の試薬液に吐出又は吸引する試薬液ポンプ部35と、を備えたものである。試薬液タンク31、前記滴定用試薬液導入管34と、前記試薬液ポンプ部35は、電磁三方弁36によりそれぞれ接続されており、それぞれの接続を切り替えられるようにしてある。
【0028】
前記滴定用試薬液導入管34は、図1及び図4〜6に示すように試料容器11内に試料液が貯留されている状態において、その液位よりも先端341が下方となるように配置してある。さらに図4〜6の拡大図に示すように、前記滴定用試薬液導入管34は、先端部は上下方向に延びるように配置してあり、前記蓋体14を貫通して前記蓋体14から所定距離上方まで延びるように形成してある。
【0029】
前記試薬液ポンプ部35は、シリンジ351と、前記シリンジ351の押子の移動量を制御するモータ352とを備えたものであり、前記モータ352はパルス制御によりその移動量を微小に制御できる。すなわち、前記押子は押す又は引く量を制御することにより、前記滴定用試薬液導入管34内の過マンガン酸カリウムを所望の移動量だけ移動させることができるように構成してある。
【0030】
前記液体排出機構4は、前記試料容器11の底面まで先端が挿入された前記液体排出管41と、前記試料容器11内の液体を吸引する液体吸引機構42とを備えたものである。
【0031】
次に前記制御装置5について説明する。この制御装置5は、例えば、CPU、メモリ、入出力インターフェース、A/D、D/Aコンバータ等を備えたいわゆるコンピュータである。そして前記制御装置5は、図1に示す前記試料液導入機構2、前記試薬液導入機構3、前記液体排出機構4を制御して各種液体の移動を制御するものであり、少なくともシーケンス制御部51と、前記滴定制御部52としての機能を発揮するように構成してある。
【0032】
以下の説明では、COD自動測定装置100の動作についてフローチャートを参照しながら説明しつつ、前記シーケンス制御部51及び前記滴定制御部52の構成を説明する。
【0033】
まず、COD測定全体の流れを説明しつつ、その制御を行うように構成されたシーケンス制御部51について図2を参照しながら説明する。
【0034】
前記シーケンス制御部51は、試料液導入工程、前処理工程、酸化工程、酸化停止工程、滴定工程、排水工程、洗浄工程をこの順で行うものであり、具体的には各機構による試料液及び試薬液の移動等を制御している。
【0035】
すなわち、まず試料液導入工程では、試料液導入機構2により前記試料容器11内に試料液が導入され(ステップS1)、前処理工程では、試薬液導入機構3によりまず硫酸と、硝酸銀とが試料液中に加えられ、試料液中の塩素イオンを塩化銀として析出させる前処理が行われる(ステップS2)。そして、酸化工程では、試薬液導入機構3により試料液に過マンガン酸カリウムが所定量だけ加えられ(ステップS3)、前記反応槽1のシートヒータ13により試料液を100℃で30分間加熱することにより有機物質の酸化、分解が行われる(ステップS4)。
【0036】
次に、酸化停止工程では、試薬液導入機構3により試料液に酸化工程で加えられた過マンガン酸カリウムと当量のシュウ酸ナトリウムが加えられ(ステップS5)、反応が終了し、試料液の温度が60℃に冷却されるまで待機する(ステップS6)。
【0037】
そして、滴定工程では定電流が流れるように電圧制御された双白金電極15の電極間の電位が最大となるまで、前記滴定ラインL2から微小量ずつ過マンガン酸カリウムが試料液に加えていく。滴定の終点となったら、酸化工程で消費された過マンガン酸カリウムの量を算出し、その値に基づいてCOD値を算出する(ステップS7)。
【0038】
その後、次に控えている別の試料液のCOD測定を行うために排水工程が開始され、前記液体排出機構4により試料容器11内の液体が吸引排出される(ステップS8)。この排水工程の際、制御装置5内の図示しない試料液検知部は、少なくとも前記双白金電極15の白金電極が設けてある高さから、前記試料容器11内に試料液の液位が低下したかどうかを検知する。より具体的には、試料容器11内から試料液が排出される後排水工程において、前記試料液検知部はそれぞれの白金電極間に交流電圧を印加し、その際の導電率(電気伝導度)を測定するように構成してある。このように白金電極間に交流電流を印加することにより、試料液中にある場合において白金電極表面に分極が生じるのを防ぎ、電流値を測定することができる。また、試料液の有無を検知する具体的な構成としては、例えば試料液として用いられる河川の水や、工場排水等における基準導電率を予め測定しておき、測定された導電率と基準導電率を比較することによって判定するように前記試料液検知部を構成してある。このように双白金電極15を利用して、当該双白金電極15が試料液に浸漬しているかどうか、すなわち、試料容器11内から試料液が排出され、その液位が低下しはじめたかどうかを、フォトセンサや検出用の別の電極等を用いることなく検出できる。従って、例えば塩化銀が前記液体排出管41内に詰まる等して排液が開始できないといった異常を付加センサなしで検出することができ、しかも、余分なセンサを試料容器11内に挿入する必要がないので、試料容器11の小型化が可能となる。
【0039】
最後に、洗浄工程として試料容器11内や各種機構内での洗浄が行われ、一巡のCOD測定手順が終了する(ステップS9)。そして、再びステップ1に戻り次の試料液のCOD測定を連続して行うようにしてある。
【0040】
このようなシーケンス制御部51の制御と並行して、前記滴定制御部52は、滴定に関する動作の制御を行うように構成してある。より具体的には試料液導入機構2のうち滴定用ラインの制御を前記シーケンス制御部51による各種制御に合わせて行うように構成してある。以下においては、滴定に関する動作、特に滴定用試薬液導入管34内における過マンガン酸カリウムの動きに注目しながら図3のフローチャート及び図4〜6を参照しながら説明する。なお、図3のフローチャートは分かりやすさのため、全体工程のうちの排水工程をスタート地点、滴定工程をエンド地点として説明を行っている。また、図4〜6については分かりやすさのために、滴定用試薬液導入管34以外の配管を省略しており、滴定用試薬液導入管34についてもその配置や縮尺を変えて記載してある。
【0041】
図3のフローチャートに示すように、前記滴定制御部52は、ある試料液に関するCOD測定値が算出され、シーケンス制御部51により試料容器11内から液体が排出される排出工程が開始されると(ステップSS1)、まず、前記電磁三方弁36を前記滴定用試薬液導入管34と前記シリンジ351とが接続されるように制御する。そして、前記シリンジ351の所定量だけ吸引するように前記モータ352にパルスを与える。そして、図4に示すように滴定用試薬液導入管34の先端341から、前記反応槽1の外側であり、前記蓋体14よりも上方まで試薬液の液面を上昇させ、その間に気層342を形成させる(ステップSS2)。この時、吸引する際のパルス数は予め定めてあり、後の滴定工程でもこのパルス数を使用する。
【0042】
次に前記シーケンス制御部51が、洗浄工程から酸化停止工程までを行う間については、前記滴定制御部52は、前記シリンジ351の押子の位置を固定して、前記気層342を最初の長さのまま保持するようにしてある(ステップSS3)。従って、図5に示すように、新たな試料液が試料容器11内に導入されても気層342により前記滴定用試薬液導入管34内には先端341から試料液は浸入しない。つまり、試料液導入工程から酸化停止工程の間においては、試料液と試薬液は直接接触せず、また前記気層342も試料液により先端341は蓋がされているので、新たな空気が気層342内に流入する事はなく、密閉された環境となっている。従って、滴定工程が開始されるまでの50分以上の待機時間中は、限られた空気しか滴定用の過マンガン酸カリウムに接触しないので、二酸化マンガンが生成される過マンガン酸カリウムの自己分解反応はほとんど起こらない。このため、二酸化マンガンにより前記滴定用試薬液導入管34内が詰まる、あるいは、滴定時に二酸化マンガンによる滴定誤差が生じるのを防ぐことができる。また、酸化工程において試料液が30分間加熱されている間においても前記滴定用試薬液導入管34内の過マンガン酸カリウムは、反応槽1の外側にしかなく、酸化の際の熱で暖められにくい。従って、試薬液内にある微小な気泡が膨張することもなく、試薬液が滴定時以外に試料液へと流出することはない。
【0043】
そして、過マンガン酸カリウムによる試料液の酸化工程と並行して前記滴定制御部52はまず、電磁三方弁36を前記シリンジ351と試薬液タンク31とが接続されるように切り替え、シリンジ351に吸引動作を行わせて内部に過マンガン酸カリウムを補充する(ステップSS4)。次に、酸化停止工程が終了すると(ステップSS5)、電磁三方弁36を前記滴定用試薬液導入管34と前記シリンジ351とが接続されるように切り替えるとともに、図6に示すように前記排液工程において吸引した分だけ吐出させ、前記滴定用試薬液導入管34にある気層342を全て排除し、試料液と試薬液とが接する状態にする。具体的には、前記滴定制御部52は、前記排液工程でモータ352に入力したパルスと同じだけ吐出側へ動作するようにパルスを入力して滴定を開始できる状態にする(ステップSS6)。最後に、双白金電極15を用いた定電流分極電位差法により酸化還元滴定の終点が検出されるまでシリンジ351を駆動させ、開始状態からの終点までのパルスをカウントし、加えられた過マンガン酸カリウムの量を求める。そして、滴定量から試料液を酸化するのに必要であった過マンガン酸カリウムの量を算出し、その値に基づいてCOD値を算出する(ステップSS7)。
【0044】
このように構成された本実施形態のCOD自動測定装置100によれば、滴定工程以外では、前記滴定用試薬液導入管34内の先端341から所定の長さだけ気層342を形成してあるので、滴定を行っていないときに試薬液が試料液へと流出し、滴定誤差になってしまうことを確実に防ぐことができる。また、気層342を形成するのに滴定時に使用するシリンジ351を用いているので、別途ポンプ等を設ける必要がなく、配管等も複雑化しないので、非常に簡単な構成で滴定の精度を向上させることができる。
【0045】
その他の実施形態について説明する。
【0046】
前記実施形態では、前記滴定用試薬液導入管内の先端部に気層を作るのは、排液工程時に行っていたが、試料容器内から液体を排出し、管の先端部の近傍に液体が存在しないときであればいつでも構わない。例えば、洗浄工程中や、試料液導入工程の直前に気層を形成するようにしても構わない。また、気層の長さは前記実施形態の長さに限られるものではない。要するに試料液と試薬液とが直接接触しなければよく、気層が管の先端から試料液の外側まであるように形成してもよい。又は試料容器の外側まで延ばしてもよい。また、気層をもっと長く形成してもよく、次の滴定時に気層を排除するのにかかる時間と、COD測定の各工程に割り振れる時間との兼ね合い等から決めてもよい。気層を大きく形成しすぎると、管内において過マンガン酸カリウムと接触する空気の量が大きくなり、自己分解反応により過マンガン酸カリウムから二酸化マンガンが形成されやすくなる可能性があるので、滴定精度の観点から許容できる二酸化マンガンの生成量に基づいて気層の長さを制限してもよい。加えて、気層を排除してからのパルスをカウントするのではなく、気層のある時点からパルスをカウントして、排液工程において吸引時に使用したパルス分だけ差し引くことにより滴定量を算出しても構わない。
【0047】
また、本発明の滴定装置はCOD測定にのみ用いられるものではなく、その他の中和滴定や酸化還元滴定等に用いても構わない。また滴定用の試薬は過マンガン酸カリウムに限られるものではなく、その他の酸化剤等であっても構わない。
【0048】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0049】
100・・・COD自動測定装置(滴定装置)
1 ・・・反応槽
2 ・・・試料液導入機構
3 ・・・試薬液導入機構
4 ・・・液体排出機構
5 ・・・制御装置
34 ・・・滴定用試薬液導入管
341・・・先端
35 ・・・試薬液ポンプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液が貯留される試料容器と、前記試料容器内に試料液を導入する試料液導入機構と、前記試料容器内に滴定用の試薬液を導入する試薬液導入機構と、前記試料溶液内から液体を排出する液体排出機構と、前記試料液及び前記試薬液の前記試料容器への導入及び試料容器からの排出を制御する制御装置とを備えた滴定装置であって、
前記試薬液導入機構が、前記試料容器内に挿入され、その先端が当該試料容器内に試料液が貯留されている際の液位よりも下側に設けられている滴定用試薬液導入管と、前記滴定用試薬液導入管内の試薬液を吐出又は吸引する試薬液ポンプ部と、を具備し、
前記制御装置が、前記液体排出機構を制御して前記試料容器から液体を排出させた後に、前記試薬液ポンプ部に吸引動作を行わせて、前記滴定用試薬液導入管内に先端から所定の長さだけ気層を形成させることを特徴とする滴定装置。
【請求項2】
前記試料容器が挿入され、試料液が加熱される反応槽を更に備え、
前記制御装置が、前記滴定用試薬液導入管の先端から前記試料液よりも外側に至る長さの気層を形成させるように構成された請求項1記載の滴定装置。
【請求項3】
前記反応槽が、前記試料容器を内部に収容するものであり、前記滴定用試薬液導入管が、当該反応槽を貫通して前記試料容器内に挿入されており、
前記制御装置が、前記滴定用試薬液導入管の先端から前記反応槽の外側に至る長さの気層を形成させるように構成された請求項1又は2記載の滴定装置。
【請求項4】
前記制御装置が、気層を形成させた際の当該試薬液ポンプ部の吸引した量と同じ量だけ吐出させた後に滴定を開始するように構成された請求項1、2又は3記載の滴定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112735(P2012−112735A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260684(P2010−260684)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(592187534)株式会社 堀場アドバンスドテクノ (26)
【Fターム(参考)】