説明

漁網用生分解性樹脂組成物及びこれを利用した漁網の製造方法

【課題】漁網用生分解性樹脂組成物及びこれを利用した漁網の製造方法を提供する。
【解決手段】漁網の製造に使用される生分解性樹脂組成物は脂肪族ポリエステル系樹脂としてのポリブチレンコハク酸エステル樹脂85〜95wt%とポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂5〜15wt%との混合樹脂からなる。また、生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法は、ポリブチレンコハク酸エステル樹脂85〜95wt%とポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂5〜15wt%とをミキサーで混合し、130〜150℃の温度に加熱して、樹脂コンパウンドを製造する。製造された樹脂コンパウンドはペレット形態に押出成形され、シリンダー温度が180〜230℃に設定された紡糸機に投入されて、多段延伸を経て6.0〜7.0の延伸比とされた漁網用網糸を紡糸し、得られた網糸を利用して漁網とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物により分解される生分解性樹脂で漁網を製造しても従来の難分解性であるナイロン漁網と対等な水準の漁獲性能を維持できるように、強度が優秀であることに対し伸び率の低いポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylene succinate)樹脂と、前記PBS樹脂に比べて構造的な強度は低いが、伸び率に優れたポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂との混合樹脂を使用して漁網を製造できるようにすることによって、海水中において自然分解が可能な素材を漁網漁具に採用させることによって、廃漁具による沿岸海域の汚染とゴーストフィッシングの被害を最小化させうるようにする一方、漁網に求められる強度、柔軟性、及び伸張回復度を同時に確保できるようにした生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚は、漁網と釣りを利用して漁獲されており、漁網を利用した漁業は、刺し網、筌、トロール、底引き網、あんこう網、囲い網などが挙げられ、これらの漁網は、ひも、沈子、浮子などと結合して魚を捕まえる漁具として製作されている。
【0003】
かかる各種漁具の中で刺し網漁具は、漁網の上部にプラスチック浮きを取り付け、漁網の下部には、鉛からなる沈子を付けて水面の上部、中部、又は海底に漁具を付設することで、対象生物が漁網(網目))に刺されるか、からまるようにして捕まえる方式であるから、漁網の柔軟性が良くなければならない。
【0004】
また、筌漁具の場合は、針金を利用して円筒形又は円錘形の枠を作り、ここに漁網を取り囲んだ後、海底に付設してから、船上に引き上げる方式を使用し、トロール、あんこう網又は底引き網などの漁具は、漁網で袖網と袋網を作って対象生物が袋網中に入っていくように漁具を船舶に引く方式を使用するから、このような漁具に使用される漁網は、耐衝撃性が良くなければならない。
【0005】
前記刺し網漁具は、図2に示すように、四角形又はダイアモンド形の網目を有する漁網3が刺し網8の本体となり、その上端側には、漁網3を上部に展開させるための浮き5が連結され、その下端側には、漁網3を下部に伸ばすための沈子6が連結されている。
【0006】
このような刺し網8漁具を海水中に投入させると、浮き5の浮力と沈子6の沈降力によって、漁網3が上下に広まるようになることで、対象生物の捕獲が可能になり、刺し網8が付設される水深は、漁具の付設位置を表示するように、海水面に浮上されるブイ1を刺し網8と連結するブイ用ケーブル2の長さで調節するようになる。
【0007】
また、前記筌漁具は、図5及び図6に示すように、針金などを使用して円筒形又は円錘形の枠7を作り、その上に漁網3を取り囲んで筌9を製作するようになるから、従来の刺し網8や筌9などの漁具に使用される漁網3は、難分解性である芳香族高分子合成樹脂材質からなるものがほとんどであった。
【0008】
前記のような刺し網8と筌9漁具は、1日〜15日程度海に投入して置いてから引き上げるために、海況が荒いか、又は漁具を引っ張りながら操業する他の漁船によってブイ用ケーブル2が切断されることによって刺し網8や筌9に採用された漁網3が該当漁具と共に流出するという状況が頻繁に発生するようになる。
【0009】
上記の状況が発生する場合、既存の漁網3は、生物学的に分解されない難分解性芳香族高分子合成樹脂で製造されることによって、流出した漁具に水産生物がからまったり捕獲されたりするゴーストフィッシングが持続的に繰り返されることによって、水産資源の損失が大きくなり、かつ海底に積まれた漁具が水産生物の産卵場と生息場を汚染させるという問題点があった。
【0010】
以上のような問題点を防止するために、最近では、海水中において生物学的に分解が可能な生分解性樹脂を使用して各種漁網3を製造するようにしており、その代表的な例として、本出願人が先出願して登録された特許文献1に記載された生分解性脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及びこれを利用した漁具、並びにその製造方法が挙げられる。
【0011】
しかしながら、前記のような従来の生分解性樹脂として脂肪族ポリエステル系樹脂を使用して漁網3を製造する場合、海水中において自然分解が可能な素材を漁網3に適用させることによって、海に捨てられた漁網による沿岸海域の汚染とゴーストフィッシングの被害とを最小化させうるが、漁網3に必要となる柔軟性と弾性回復度が落ちるために、従来のナイロン漁網より漁獲性能が低下し、漁具を引き上げる過程で漁網3が破損しやすいという問題点が発生するようになる。
【0012】
言い換えれば、刺し網8漁具は、漁網3の網目に魚が容易に刺さるようにし、刺さった魚をはずすと、漁網3が本来の状態に回復されなければならず、筌9漁具は、誘引用トラップに沿って魚が容易に筌9内に入っていかなければならないが、柔軟性と弾性回復度との低い生分解性脂肪族ポリエステル系樹脂組成物で製造された漁網3の場合、漁獲性能が低下して実用的価値が落ちるようになるという意味である。
【0013】
これと共に、脂肪族ポリエステル系樹脂を使用して漁網3用網糸を5.0〜6.0の延伸比で紡糸し、該紡糸した網糸を編網した後、既存の熱風方式で漁網3を製造すると、漁網3に要求される強度、柔軟性及び弾性回復度が同時に低くなるので、漁獲性能が低下することはもちろん、漁網3が容易に破損されることによって、漁具としての実用的価値が大きく低下するという問題点も発生するようになった。
【0014】
上記のように、漁網3が揃えるべき強度、柔軟性及び弾性回復度などの不足によって、漁網3を利用した漁業の経済性が低下することはもちろんで、操業にともなう経営収支の改善側面にも良くない影響を及ぼすという問題点があったし、このような問題点によって漁網3の製造工程だけでなく、漁網3の素材に対する追加的な研究と実験が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】韓国登録特許第10−415812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記のような従来の問題点を解決するために案出されたものであって、海水中において自然分解が可能な脂肪族ポリエステル系のポリブチレンコハク酸エステルとポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂を一定の割合で重合して漁網に採用させることによって、廃漁具による沿岸海域の汚染とゴーストフィッシングの被害を最小化させうるようにすると共に、漁網に必要な強度と柔軟性及び弾性回復度を充分に確保できるようにすることで、漁獲量の減少と漁網の破損とを防止するようにして、漁網を利用した漁業の便宜性と経済性とを向上させ、操業による経営収支の改善側面においても大きく役に立つようにすることをその技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成すべく、本発明にかかる漁網用生分解性樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル系樹脂としてポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylene succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂5〜15wt%との混合樹脂からなることを特徴とし、前記PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂を100wt%にして、酸化防止剤、UV安定剤、及び分散剤を含む添加剤が1〜5wt%で混合されてなることを特徴とする。
【0018】
また、前記生分解性樹脂組成物を利用した本発明の漁網の製造方法は、脂肪族ポリエステル系樹脂として、ポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylenes succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂5〜15wt%とをミキサーで混合させる樹脂混合ステップと、前記樹脂混合ステップを経て混合された樹脂を130〜150℃の温度に加熱して樹脂コンパウンドを製造するコンパウンド化ステップと、前記コンパウンド化ステップを経て製造された樹脂コンパウンドをペレット(pellet)形態に押出成形させるペレット成形ステップと、前記ペレット成形ステップを経て製造された樹脂ペレットを70〜90℃の温度条件下で湿気を除去する除湿乾燥ステップ、前記除湿乾燥ステップを経た樹脂ペレットを紡糸機に投入して、6.0〜7.0の延伸比で漁網用網糸を紡糸する紡糸ステップと、前記紡糸ステップを経て得られた網糸を利用して漁網の編網した後、これをウェット方式で熱処理させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海水中において自然分解が可能な素材を漁網漁具に採用することによって、廃漁具による沿岸海域の汚染とゴーストフィッシングの被害を最小化させうるようにする一方、PBS樹脂とPBAT樹脂とが有する互いに異なる物的特性を利用することで、漁網漁具に必要な構造的な強度は充分に確保しながらも漁網に必要な柔軟性と弾性回復度を提供するという効果がある。
【0020】
これによって、網目に魚が刺さるようにして捕まえる刺し網漁具及び誘引用トラップに沿って魚が漁網の内部に入っていくようにする筌漁具においても、漁獲量の減少と漁網の破損とを未然に防止することができ、これによって実用的な価値が極めて優れた漁網を提供できるだけでなく、漁業にともなう便宜性と経済性とを向上させて操業の経営収支を改善させる側面においても役に立つ等の極めて有用な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る漁網の製造方法を示す工程ブロック図である。
【図2】刺し網漁業の操業図である。
【図3】刺し網部分を拡大して示した正面図である。
【図4】図3における漁網部分を抜萃して示す正面図である。
【図5】筌漁業の操業図である。
【図6】筌部分を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、上記の目的を達成するための本発明を、添付された図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明に係る漁網用生分解性樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル系樹脂であって、ポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylene succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂5〜15wt%との混合樹脂をその基礎とするもので、前記それぞれの樹脂は、(株) イレ化学(Ire Chemical Ltd.)において商品名EnPolとして生産されている製品である。
【0024】
通常、脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸(dicarboxylicacids)と脂肪族グリコール(glycols)の縮重合により重合されるものであって、原料の種類及び含量を変更することによって、多様な物性と融点とを有する製品を得ることができ、本発明に用いられる脂肪族ポリエステル樹脂としてホモポリエステルであるPBS樹脂とPBAT樹脂の分子構造及び特徴を下記の表に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
本発明に使用される前記PBS樹脂は、脂肪族グリコール(glycols)としてのブタンジオール(1,4−butanediol)と、脂肪族ジカルボン酸(dicarboxylic acids)としてのコハク酸(succinic acid)とを原料として、エステル化反応と縮重合反応とを経て得られる重合物になり、構造的な強度が偶数になる反面、結晶性が高くて伸び率が低い性質を有するという特徴がある。
【0027】
一方、本発明に用いられる前記PBAT樹脂は、脂肪族グリコールとしてのブタンジオール(1,4−butanediol)と、ジカルボン酸(dicarboxylicacids)として脂肪族成分であるアジピン酸(adipic acid)と、芳香族成分であるジメチルテレフタレート(DMT:dimethylterephthalate)を原料として使用した脂肪族/芳香族コポリエステル(co−polyester)となる。
【0028】
前記PBAT樹脂は、多成分の組み合わせによる共結晶化によって、結晶構造において無定形(アモルファス)領域が相当部分存在するために、エラストマーエラストマー(elastomer:弾性重合体)の性質を有するようになり、これによって伸び率が優秀した特徴を示すと同時に、ホモポリマーであるPBS樹脂に比べては、強度が低く、かつ固形化速度が遅いという特徴を示す。
【0029】
上記のように、PBS樹脂とPBAT樹脂とが有する互いに異なる物的特性を利用することで、漁網漁具に必要な構造的な強度を確保するようにする一方、柔軟性、弾性回復度及びこれを基礎とする耐衝撃性を同時に提供できることであり、このために、PBS樹脂の混合比率を85〜95wt%範囲内にする一方、PBAT樹脂の混合比率を5〜15wt%範囲内にしたことである。
【0030】
言い換えれば、PBS樹脂をメイン樹脂としてPBAT樹脂を混合させるものの、漁網漁具の構造的な強度を最優先に確保するようにした状態で、柔軟性や弾性回復度のような性質を付与できるように、PBS樹脂の含量をPBAT樹脂より高く策定したことであり、上述の混合比率は、本発明に適用されうる最適割合であって、必要によっては、PBS樹脂の含量を最大98wt%まで調整しても良いことはもちろんである。
【0031】
本発明に係る生分解性樹脂組成物をなす脂肪族ポリエステルとしてPBS樹脂とPBAT樹脂の合成に用いられる反応器は、通常の撹拌装置、コンデンサー及び冷却器が装着されたエステル化反応装置と、縮重合反応に必要な高真空を維持させうるように真空設備が装着されている縮重合反応装置からそれぞれ構成される。
【0032】
また、重合実験は、B/T(重合反応器)及びLab規模の合成設備(3kg)を使用した重合試験の結果に基づいて、準商業規模の寸法(semi−commercial 100L P/P)や商業規模の寸法(commercial 5m)でスケールアップテスト(scaleup test)を行うことで、重合工程から発生する各種問題点を解決する一方、これらの樹脂に適した重合条件を選定するようになる。
【0033】
前記PBS樹脂を重合するためには、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸と脂肪族グリコールである1,4−ブタンジオールとのモール比を1:1.5にして、窒素気流中にて昇温し、200〜220℃の温度条件下で2〜3時間の間にエステル化反応を行うことで、理論量の水を流出させた後、触媒を入れて温度を240〜250℃程度に上昇させる一方、1Torr以下の高真空条件下で縮重合反応を行うようになる。
【0034】
前記縮重合反応は、該当条件下で略3〜4時間程度を行うようになり、縮重合反応の終結時点は、反応器に含まれた撹拌器のトルク(torque)を観察して決定するようになり、このような一連のPBS樹脂重合過程は、以下の反応スキームに簡略に表した。
【0035】
【化1】

【0036】
一方、前記PBAT樹脂は、ジカルボン酸成分の中でアジピン酸とDMTとの混合比率を50:50にし、全体ジカルボン酸と脂肪族グリコールである1,4−ブタンジオールとのモール比を1:1.5にし、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸のみを使用するPBS樹脂とは異なり、PBAT樹脂の場合は、反応生成物が水とメタノールの2種類であるから、2段階の反応を行うようになる。
【0037】
まず、窒素気流の中で昇温してDMTと1,4−ブタンジオールとを原料として添加し、180℃の温度条件下で約2時間の間にエステル交換反応を行うことによって、理論量のメタノール(CHOH)を流出させるようになり、メタノールの流出量が理論値に到達すると、200〜220℃に昇温させた後、アジピン酸をさらに投入して約2〜3時間の間にエステル化反応を行わせることで、小重合体(oligomer)を形成させる一方、理論量の水を流出させるようになる。
【0038】
次に、触媒を入れて温度を240〜250℃程度に上昇させる一方、1Torr以下の高真空条件下で略3〜4時間程度縮重合反応を行うと、脂肪族/芳香族コポリエステル(aliphatic/aromatic co−polyester)が得られ、縮重合反応の終結時点は、PBS重合工程と同様に反応器に含まれた撹拌器のトルクを観察して決定するようになるが、このような一連のPBAT樹脂重合過程を以下の反応スキーム2に簡略に示した。
【0039】
【化2】

【0040】
以上説明されたようなPBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂からなる本発明の樹脂組成物を使用して漁網3を製造する際に、漁網3に付与される物性をさらに向上させうるように、PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂を100wt%にして、酸化防止剤、UV安定剤、及び分散剤を含む添加剤を1〜5wt%で混合させて使用することが最も好ましい。
【0041】
前記酸化防止剤は、合成樹脂やゴムなどの物質に添加して室温で空気中にある酸素とこれらの物質が結合する過程である自動酸化を抑制するために添加する化合物であって、通常、芳香族アミン類、フェノール類、アミノフェノール類などの有機化合物が酸化防止剤として使用され、代表的な例には、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)やブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0042】
前記UV安定剤は、本発明の生分解性樹脂組成物で製造された漁網3が紫外線に長期間露出しても、機械的性質の低下又は変色などに対する安定度を有するようにする一方、漁網3の製造時に強度のような物的特性を向上させる目的として添加されるものであり、代表的な例には、高分子型光安定剤(high molecular HALS)やベンゾトリアゾル(benzotriazole)などが挙げられる。
【0043】
株)HALS:Hindered Amino Light Stabilizer
そして、前記分散剤は、通常、界面活性剤とも呼ばれ、本発明の生分解性樹脂組成物を混合させて漁網3用網糸を放す際、各樹脂成分間の界面抵抗を減少させることで、網糸の柔軟性を向上させるための目的として添加され、ポリエチレングリコールとポリビニールアルコールのような高分子系の非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0044】
上記のように、酸化防止剤、UV安定剤、及び分散剤を含む添加剤をPBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂に基づいて1wt%未満に添加すると、それぞれの添加剤が有する固有な機能が正しく発揮されず、添加剤の混合量が5wt%を超えると、それぞれの添加剤による物性の向上側面と添加剤の使用量側面を同時に比較する場合、非経済的になる。
【0045】
また、添加剤の全体量を基準とする場合、酸化防止剤、UV安定剤、分散剤の混合比率は、それぞれ1:1:1になるようにすることが最も好ましいが、PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂を基準とすると、その添加量が極めて少ないため、一部添加剤が1.5程度の比率分だけさらに混合されても良く、樹脂の物性を低下させない範囲内で添加剤の含量は適切に調整できる。
【0046】
前記のような生分解性樹脂組成物を使用して漁網3を製造する本発明に係る工程過程は、図1の工程ブロック図に示されているように、PBS樹脂とPBAT樹脂とを混合する樹脂混合ステップ(S1)と、混合された樹脂のコンパウンド化ステップ(S2)と、樹脂コンパウンドをペレット(pellet)化させるペレット成形ステップ(S3)と、ペレットを乾燥させる除湿乾燥ステップ(S4)と、樹脂ペレットを利用した網糸の紡糸ステップ(S5)と、紡糸された網糸を利用した漁網の編網ステップ(S6)と、編網された漁網の熱処理ステップ(S7)とを含んでなる。
【0047】
前記樹脂混合ステップ(S1)は、脂肪族ポリエステル系樹脂としてポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylenes succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−coterephthalate)樹脂5〜15wt%をミキサーにて混合させるステップである。
【0048】
前記樹脂混合ステップ(S1)にて用いられるミキサーは、混合タンクの内部に撹拌翼が設けられた装置を代表的な例として挙げることができ、通常、糸状に紡糸された各々の樹脂成分を短い長さに切断するか、々の樹脂成分を短繊維状に紡糸して製造するか、又は各々の樹脂成分を小さなチップ状に製造した後、これを混合タンクの内部で均一に混合させる過程を経るようになる。
【0049】
上述のように、混合タンクの内部で各々の樹脂を均一に混合させるようにする一方、PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂100wt%を基準として、酸化防止剤、UV安定剤及び分散剤を含む添加剤を混合タンクの内部に1〜5wt%分だけ追加投入させることで、各々の添加剤が樹脂成分と共に均一に混合されるようにし、前記添加剤の機能、種類及びその添加量と混合比率に対する限定理由は、上述したとおりである。
【0050】
前記のような樹脂混合ステップ(S1)を経た後には、PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂又はこれに添加剤が含まれた混合樹脂を130〜150℃の温度に加熱させることで、各々の樹脂成分が一つの塊り形態でかたまった樹脂コンパウンド(resin compound)を製造するコンパウンド化ステップ(S2)を経るようになる。
【0051】
前記コンパウンド化ステップ(S2)に用いられる装置としては、バーナー又は電熱線のような加熱手段が装着された溶融槽を代表的な例に挙げることができ、混合樹脂の加熱温度は、PBAT樹脂の融点(125℃)より高い130℃を最小の加熱温度にするものの、樹脂の物性値変化及びエネルギーの浪費を防止できるように、最大加熱温度は、150℃以下に調整することが好ましい。
【0052】
前記のようなコンパウンド化ステップ(S2)を経た後には、樹脂コンパウンドを押出機に投入して、樹脂コンパウンドを紡糸加工用のペレット又はチップ(chip)に成形させるペレット成形ステップ(S3)を経るようになるため、このように樹脂コンパウンドを小さな粒子のペレットやチップに形成させるようになると、漁網3用網糸の紡糸加工時に各々の樹脂成分が2次的に均一に混合される結果を導いて漁網3の品質向上側面に寄与できるようになる。
【0053】
前記ペレット成形ステップ(S3)に使用される押出機は、樹脂コンパウンドを一定の圧力で抽出できる一方、出口を介して圧密されて出る樹脂コンパウンドを回転式カッターなどによって一定の大きさに切断できる装置を代表的な例として挙げることができ、樹脂コンパウンドによって成形されるペレットやチップのサイズは小さいほど有利であるが、約5mm内外のサイズであれば充分である。
【0054】
上述のように、ペレット成形ステップ(S3)を経て小さな粒子に成形された樹脂ペレット又は樹脂チップを70〜90℃の温度条件下で除湿及び乾燥させる除湿乾燥ステップ(S4)を経ることが必要であり、樹脂ペレット又は樹脂チップを水冷方式で冷却させる場合、除湿乾燥ステップ(S4)は必須に経なければならない。
【0055】
上述のように、除湿乾燥ステップ(S4)を経て樹脂ペレットや樹脂チップの表面に存在する湿気を除去すると、紡糸ステップ(S5)における作業性と網糸の結晶化度にさらに有利な利点を提供できる。
【0056】
一方、除湿及び乾燥に必要な温度は、樹脂ペレット又は樹脂チップの迅速な乾燥のために、最小70℃以上になるようにするものの、樹脂ペレット又は樹脂チップ間のかたまり現象とエネルギーの浪費を防止できるように、最大温度は、90℃以下に調整することが好ましく、乾燥方式には、熱風を利用した乾燥方式又は単純に温度のみを利用した乾燥方式が採用されうる。
【0057】
上述のようなペレット成形ステップ(S3)と除湿乾燥ステップ(S4)を経た後には、樹脂ペレット又は樹脂チップを紡糸機に投入させて、180〜230℃のシリンダー温度の条件下で多段延伸を経て6.0〜7.0の延伸比を有する漁網3用網糸を製造する紡糸ステップ(S5)、及び前記紡糸ステップ(S5)を経て製造された網糸を編網機(網を編む機械)で二重結び目又は単結び目で四角形又はダイアモンド形網目を有する漁網3を製造する編網ステップ(S6)を経るようになる。
【0058】
前記紡糸ステップ(S5)にて使用される紡糸機と編網ステップ(S6)にて使用される編網機は、多少複雑な器具であるが、漁網3の製造に通常広く使用されるものであるから、それについての具体的な説明は省略し、前記紡糸ステップ(S5)にて使用される紡糸機と、これを利用した網糸の紡糸過程は、本出願人が2009年に先出願(韓国特許出願第10919号)して特許登録(韓国特許登録10−942258号)された技術内容にも記載されている。
【0059】
前記紡糸ステップ(S5)にて漁網3用網糸を製造するにおいて最も重要な部分は、6.0〜7.0の延伸比になるように網糸を紡糸することであり、このように網糸の延伸比を6.0〜7.0に限定したのは、延伸比が6.0未満になると、漁網3用網糸の伸び率は大きくすることができるものの、強度が弱くなり、延伸比が7.0を超えると、紡糸する途中に網糸が切断されて作業性が悪くなるためである。
【0060】
また、紡糸機のシリンダー温度を180〜230℃の範囲に限定する理由は、紡糸口金を介して押出される樹脂の流動性を充分に確保して、網糸の製造にともなう作業性を向上させるようにし、かつ過度な加熱による樹脂成分の酸化を防止し、経済的な作業を行うことができる最適の範囲になるためであり、紡糸機ごとに押出し温度が異なりうるため、前記温度範囲を基準として、ある程度の誤差は生じうる。
【0061】
上述のように、紡糸ステップ(S5)と編網ステップ(S6)とを経ることだけでも漁網3の製造が可能になるが、さらに好ましくは、編網ステップ(S6)を経て二重結び目又は単結び目で製造された漁網3の網目結び目を一層硬くすることができるように、80〜90℃のウェット槽に漁網3を浸漬させて約10〜20分間ウェット方式で漁網3を熱処理する熱処理ステップ(S7)を経るようにすることである。
【0062】
上述のように、熱処理ステップ(S7)にて漁網3の熱処理条件として80〜90℃の温度範囲と10〜20分の時間範囲を限定した理由は、樹脂の溶融温度が115℃で、熱に弱いために過度な加熱による漁網3の強度低下を防止し、経済的な作業を行うことができる最適の範囲になるためであり、熱処理器ごとに処理温度と時間が異なりうるため、前記温度と時間範囲を基準としてある程度の誤差は生じうることはもちろんである。
【0063】
上記のように、本発明に係る一連の工程過程を経て製造された漁網3が採用されうる漁具の代表的な例としては、図3及び図4に示す刺し網8漁具、又は図5及び図6に示す筌9漁具となる。
【0064】
前記刺し網8漁具は、図3に示すように、編網過程で漁網3の上端と下端に0.5〜1マッシュ程度の幅を有する保護網3a、3bとこれらの保護網3a、3bの上、下部に各々かごなわ(bolch lines)4a、4bが付着された状態で熱処理され、漁具の組立過程で各々のかごなわ4a、4bに浮き5と沈子6とを連結させるようになる。
【0065】
前記筌9漁具の場合にも、図4に示す形態のように、編網過程で漁網3の上端と下端とにかごなわ4a、4bが付着されて熱処理され、図6に示すように、漁具の組立過程で筌用枠7に適するように漁網3を切断して枠7に沿って付着させるようになる。
【0066】
前記保護網3a、3bは、漁網3を保護するためのものであるから、従来に採用された難分解性芳香族高分子合成樹脂を使用して製造しても良く、必要によっては、本発明の生分解性樹脂組成物で製造することも可能であることを明らかにする。
【0067】
上記のように、本発明に係る生分解性樹脂組成物を使用して漁網3を製造すると、PBS樹脂とPBAT樹脂とが有する互いに異なる物的特性を同時に適用させうるため、漁網3に必要な構造的な強度は充分に確保しながらも漁網3に必要な柔軟性と伸張回復度とを同時に付与できるようになる。
【0068】
従って、前記漁網3を網目に魚が刺さるようにして魚が容易に刺さるようにして捕まえる刺し網8漁具及び誘導用トラップに沿って魚が漁網3の内部に入るようにする筌9漁具に採用すると、漁獲量の減少と漁網3の破損とを未然に防止でき、これによって、実用価値が優秀な漁網3を提供でき、かつ漁業による便宜性と経済性とを向上させて、操業の経営収支を改善させる側面においても役に立つ。
【0069】
上記の製造方法によって直径0.284mmの生分解性漁網糸を紡糸した後、網目の長さが51mmである刺し網8を製作して、海上にてイシモチを対象として従来のナイロン刺し網と本発明により開発された生分解性刺し網による幅当たりの漁獲性能を試験して比較した結果を表1に示した。両者間に漁獲性能の差はなく、かつ生分解性刺し網を人力及び機械で揚網する過程でも破網されないことから実用性が高いことと現れた。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例1)
PBS樹脂95wt%と、PBAT樹脂5wt%と、酸化防止剤、UV安定剤、分散剤が1:1:1に混合された添加剤2wt%とをミキサーで混合させた後、この混合樹脂を130℃の温度に加熱して樹脂コンパウンドを製造し、前記樹脂コンパウンドを5mmサイズの樹脂ペレットで成形させ、前記樹脂ペレットを80℃の温度で除湿及び乾燥させた後、前記樹脂ペレットを紡糸機に投入して、6.5:1の延伸率で0.284mm直径の網糸を紡糸した後、前記網糸を使用して網目のサイズが51mmになるように編網機で二重結び目した後、86℃のウェット槽に漁網を16分間熱処理して漁網を製作した。
【0072】
(実施例2)
PBS樹脂95wt%と、PBAT樹脂5wt%と、酸化防止剤、UV安定剤、分散剤が1:1:1に混合された添加剤2wt%とをミキサーで混合させた後、この混合樹脂を130℃の温度に加熱して樹脂コンパウンドを製造し、前記樹脂コンパウンドを5mmサイズの樹脂ペレットで成形させ、前記樹脂ペレットを80℃の温度に除湿及び乾燥させた後、前記樹脂ペレットを紡糸機に投入して6.7:1の延伸率で0.403mm直径の網糸を紡糸した後、前記網糸を使用して網目のサイズが240mmになるように編網機で二重結び目した後、84℃のウェット槽に漁網を18分間熱処理して漁網を製作した。
【0073】
(実施例3)
PBS樹脂95wt%と、PBAT樹脂5wt%と、酸化防止剤、UV安定剤、分散剤が1:1:1に混合された添加剤2wt%とをミキサーで混合させた後、この混合樹脂を130℃の温度に加熱して樹脂コンパウンドを製造し、前記樹脂コンパウンドを5mmサイズの樹脂ペレットで成形させ、前記樹脂ペレットを80℃の温度に除湿及び乾燥させた後、前記樹脂ペレットを紡糸機に投入して6.2:1の延伸率で0.2mm直径の網糸を紡糸した後、前記網糸12すじをツイストさせて、網目のサイズが22mmになるように編網機で単結び目した後、84℃のウェット槽に漁網を18分間熱処理して漁網を製作した。
【符号の説明】
【0074】
1 ブイ
2 ブイ用ケーブル
3 漁網
3a、3b 保護網
4a、4b かごなわ
5 浮き
6 沈子
7 枠8
8 刺し網
9 筌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁網の製造に使用される生分解性樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル系樹脂としてポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylene succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂5〜15wt%との混合樹脂からなることを特徴とする漁網用生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、PBS樹脂とPBAT樹脂との混合樹脂を100wt%にして、酸化防止剤、UV安定剤、及び分散剤を含む添加剤が1〜5wt%で混合されてなることを特徴とする請求項1に記載の漁網用生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法であって、
脂肪族ポリエステル系樹脂として、ポリブチレンコハク酸エステル(PBS:poly butylenes succinate)樹脂85〜95wt%と、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT:poly butylene adipate−co−terephthalate)樹脂5〜15wt%とをミキサーで混合させる樹脂混合ステップ(S1)と、
前記樹脂混合ステップ(S1)を経て混合された樹脂を130〜150℃の温度に加熱して樹脂コンパウンドを製造するコンパウンド化ステップ(S2)と、
前記コンパウンド化ステップ(S2)を経て製造された樹脂コンパウンドをペレット(pellet)形態に押出成形させるペレット成形ステップ(S3)と、
前記ペレット成形ステップ(S3)を経て製造された樹脂ペレットを紡糸機に投入して、紡糸機のシリンダー温度を180〜230℃にし、多段延伸を経て6.0〜7.0の延伸比で漁網用網糸を紡糸する紡糸ステップ(S5)と、
前記紡糸ステップ(S5)を経て得られた網糸を利用した漁網の編網ステップ(S6)とからなることを特徴とする生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法。
【請求項4】
前記編網ステップ(S6)を経た後には、編網された漁網を80〜90℃のウェット槽で熱処理する熱処理ステップ(S7)をさらに経てなることを特徴とする請求項3に記載の生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂混合ステップ(S1)では、PBS樹脂85〜95wt%とPBAT樹脂5〜15wt%との混合樹脂を100wt%にして、酸化防止剤、UV安定剤、及び分散剤を含む添加剤を1〜5wt%でさらに混合させることを特徴とする請求項3又は4に記載の生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法。
【請求項6】
前記ペレット成形ステップ(S3)と紡糸ステップ(S5)との間には、70〜90℃の温度条件下で樹脂ペレットを除湿及び乾燥させる除湿乾燥ステップ(S4)が含まれることを特徴とする請求項3又は4に記載の生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法。
【請求項7】
前記ペレット成形ステップ(S3)と紡糸ステップ(S5)との間には、70〜90℃の温度条件下で樹脂ペレットを除湿及び乾燥させる除湿乾燥ステップ(S4)が含まれることを特徴とする請求項5に記載の生分解性樹脂組成物を利用した漁網の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−234718(P2011−234718A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103814(P2011−103814)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(504088201)大韓民国国立水産科学院 (1)
【Fターム(参考)】