説明

漁網用糸及び漁網

【課題】本発明は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性に優れ、魚に対して滑り性が良い漁網用糸及びそれを用いた漁網を提供することができる。
【解決手段】本発明に係る漁網用糸10は、ポリフッ化ビニリデン繊維1aとポリエステル繊維1bとを混撚してなる。本発明に係る漁網用糸を用いて形成した漁網を箱網として用いることで、その高い比重及び高い剛性のため、潮流にふかれても設計どおりの網型を維持することができ、箱網の容積が減少することで魚が逃げるのを抑制して、漁獲量を向上することができる。また、本実施形態に係る漁網は、ポリフッ化ビニリデン繊維1aに由来して摩擦係数が小さいため、捕獲した魚が傷つくのを抑制し、かつ、箱網の引き上げ降ろしの抵抗を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性に優れた漁網用糸及びそれを用いた漁網に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚を捕獲するため定置網は、魚群の回遊を遮断する垣網と垣網に沿って移動してきた魚を捕獲する箱網とを有する。これらの定置網には、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使用されている(例えば、特許文献1 段落0013を参照。)。しかし、これらの繊維は、低比重であるため、漁網の沈降性が不足するという問題があった。そこで、硫酸バリウムなどの高比重無機粒子を主に芯成分に配合することで、高比重とした同心円状芯鞘型複合繊維が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0003】
さらに、箱網は、捕獲した魚を保管し、漁獲時には引き上げられる部分であるため、魚に対して滑りやすくする必要がある。滑らかな表面形態を有し、かつ、高比重の漁網用糸として、ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントが提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−205933号公報 段落0013
【特許文献2】特開平10−273828号公報
【特許文献3】特開平7−54211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の同心円状芯鞘型複合繊維は、鞘成分が摩耗すると、繊維の耐摩耗性が著しく低下するため、製品寿命が短いという問題がある。また、特許文献3に記載のポリフッ化ビニリデンモノフィラメントを用いて形成した漁網用糸は、撚り合わせが甘くなり、ほつれやすく、漁網に加工しにくいという問題がある。また、ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントは高価であるため、このモノフィラメントを用いた漁網が非常に高価になるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性に優れ、魚に対して滑り性が良い漁網用糸及びそれを用いた漁網を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る漁網用糸は、ポリフッ化ビニリデン繊維とポリエステル繊維とを混撚したことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る漁網用糸では、比重が1.50〜1.75であることが好ましい。沈降性が良好になり、かつ、漁網が潮流の影響を受けにくく、海中で設計どおりの網型を維持することができる。
【0009】
本発明に係る漁網用糸では、前記ポリフッ化ビニリデン繊維の平均繊維径が、前記ポリエステル繊維の平均繊維径よりも大きいことが好ましい。水中においても高い剛性を維持することができる。
【0010】
本発明に係る漁網用糸は、前記ポリフッ化ビニリデン繊維からなるヤーン同士及び前記ポリエステル繊維からなるヤーン同士を、それぞれ少なくとも一組隣り合わせて混撚することが好ましい。撚りを強くして、更に高強度にすることができる。また、表面の摩擦係数をより小さくすることができ、魚が傷つくのをより抑制することができる。
【0011】
本発明に係る漁網は、本発明に係る漁網用糸を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性に優れ、魚に対して滑り性が良い漁網用糸及びそれを用いた漁網を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す漁網用糸を用いて形成した漁網を形成するための紐を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
図1は、本実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。本実施形態に係る漁網用糸10は、ポリフッ化ビニリデン繊維1aとポリエステル繊維1bとを混撚してなる。
【0016】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)繊維1aは、主成分としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む単繊維(単糸)である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン単位を含む重合体であり、例えば、フッ化ビニリデン単独重合体若しくはフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体又はこれらの混合物である。フッ化ビニリデンと共重合するその他の成分としては、例えば、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニルである。これらは、単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が共重合体である場合には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン単位を70質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、80質量%以上含有する。さらに好ましくは、90質量%以上含有する。
【0017】
ポリフッ化ビニリデン樹脂のインヘレント粘度(ηinh)は、0.5〜1.7であることが好ましい。より好ましくは、0.6〜1.5であり、更に好ましくは0.7〜1.3である。
【0018】
ポリフッ化ビニリデン繊維1aは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を更に含有してもよい。添加剤の含有量は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下である。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン繊維1aの平均繊維径は、50〜300μmであることが好ましい。より好ましくは、100〜250μmであり、特に好ましくは、150〜200μmである。なお、本明細書において、ポリフッ化ビニリデン繊維1aの平均繊維径とは、ポリフッ化ビニリデン繊維1aについて任意の5〜100本の繊維径をマイクロメーターなどで測定して平均したものをいう。また、繊維が異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均を繊維径とする。
【0020】
ポリフッ化ビニリデン繊維1aは、図1に示すように、複数本を撚り合わせた撚糸(糸束)(以降、ポリフッ化ビニリデンヤーンという。)2aを形成することが好ましい。ポリフッ化ビニリデンヤーン2aを形成するポリフッ化ビニリデン繊維1aの本数は、その繊維径によって異なるが、例えばポリフッ化ビニリデン繊維1aの繊維径が100〜250μmである場合では、2〜10本であることが好ましい。より好ましくは3〜5本である。なお、複数本のヤーンは、全て同じ本数の繊維束で形成するか、又はそれぞれ異なる本数の繊維束で形成してもよい。
【0021】
ポリフッ化ビニリデンヤーン2aの直径は、100〜900μmであることが好ましい。より好ましくは、240〜750μmであり、特に好ましくは、340〜600μmである。ポリフッ化ビニリデンヤーン2aの直径は、例えば、マイクロメーターを用いて測定することができる。また、ヤーンが異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均をヤーンの直径とする。
【0022】
ポリエステル繊維1bは、主成分としてポリエステル系樹脂を含む単繊維(単糸)である。ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートである。この中で、耐摩耗性及び高強度である点で、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0023】
ポリエステル系樹脂の極限粘度(IV)は、0.5〜1.5であることが好ましい。より好ましくは、0.6〜1.4であり、更に好ましくは、0.7〜1.3である。
【0024】
ポリエステル繊維1bは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を更に含有してもよい。添加剤の含有量は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下である。
【0025】
ポリエステル繊維1bの平均繊維径は、20〜300μmであることが好ましい。より好ましくは、25〜100μmであり、特に好ましくは、30〜50μmである。なお、本明細書において、ポリエステル繊維1bの平均繊維径とは、ポリエステル繊維1bについて任意の5〜100本の繊維径をマイクロメーターなどで測定して平均したものをいう。また、繊維が異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均を繊維径とする。
【0026】
ポリエステル繊維1bは、図1に示すように、複数本を撚り合わせた撚糸(糸束)(以降、ポリエステルヤーンという。)2bを形成することが好ましい。ポリエステルヤーン2bを形成するポリエステル繊維1bの本数は、その繊維径によって異なるが、例えば、ポリエステル繊維1bの繊維径が30〜100μmである場合では、50〜80本であることが好ましい。より好ましくは60〜75本である。なお、複数本のヤーンは、全て同じ本数の繊維束で形成するか、又はそれぞれ異なる本数の繊維束で形成してもよい。
【0027】
ポリエステルヤーン2bの直径は、100〜900μmであることが好ましい。より好ましくは、240〜750μmであり、特に好ましくは、340〜600μmである。ポリエステルヤーン2bの直径は、例えば、マイクロメーターを用いて測定することができる。また、ヤーンが異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均をヤーンの直径とする。
【0028】
本実施形態に係る漁網用糸10では、比重が1.50〜1.75であることが好ましい。比重は、より好ましくは1.55〜1.70である。比重が1.50未満では、沈降性が不足する場合がある。また、漁網が潮流の影響を受けて変形するおそれがある。一方、比重が1.75を超えると、ポリフッ化ビニリデン繊維の割合を多くする必要があり、漁網への加工性が劣る場合がある。また、価格が高くなる。本実施形態に係る漁網用糸10の比重は、混撚するポリフッ化ビニリデン繊維1aとポリエステル繊維1bとの割合で調整することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン繊維1aの比重が1.78、ポリエステル繊維1bの比重が1.35であるとき、漁網用糸全体に占めるポリフッ化ビニリデン繊維1aの割合は、断面積換算で34〜93%であることが好ましい。より好ましくは、46〜82%である。具体例としては、平均粒子径が170μmのポリフッ化ビニリデン繊維1aを18本、平均粒子径が38.5μmのポリエステル繊維1bを264本用いて漁網用糸10を形成すると、漁網用糸10の比重を約1.60(1.57〜1.63)とすることができる。
【0029】
本実施形態に係る漁網用糸10では、図1に示すように、ポリフッ化ビニリデン繊維1aの平均繊維径が、ポリエステル繊維1bの平均繊維径よりも大きいことが好ましい。ポリフッ化ビニリデン繊維1aは、ほとんど吸水しないため、水中においても高い剛性を維持し、ポリフッ化ビニリデン繊維1aの平均繊維径を相対的に大きくすることで漁網用糸10の剛性を更に高めることができる。結果として、漁網が潮流の影響をより受けにくくなり、海中で設計どおりの網型を維持して魚の残存量を高くすることができる。また、箱網の容積を大きく確保することができ、漁獲量の向上を図ることができる。一方、ポリエステル繊維1bの平均繊維径を相対的に小さくすることで、漁網用糸が全体として柔軟になり、漁網に加工しやすくなる。また、漁網の取り扱い性を良好とすることができる。
【0030】
本実施形態に係る漁網用糸10は、図1に示すように、ポリフッ化ビニリデンヤーン2aとポリエステルヤーン2bとを、それぞれ複数本撚り合わせて形成した撚糸(ストランド)であることが好ましい。なお、図1では、ヤーン2(2a,2b)の本数を8本(ポリフッ化ビニリデンヤーン2a及びポリエステルヤーン2bを4本ずつ)とした形態を示したが、本発明はヤーン2(2a,2b)の本数に制限されない。
【0031】
漁網用糸10の直径は、1〜10mmであることが好ましい。より好ましくは、3〜5μmである。漁網用糸10の直径は、例えば、マイクロメーターを用いて測定することができる。また、漁網用糸10が異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均を漁網用糸10の直径とする。
【0032】
漁網用糸10の断面構造は、特に制限はなく、ポリフッ化ビニリデン繊維1a及びポリエステル繊維1bを均等に存在させるか、又はポリフッ化ビニリデン繊維1a若しくはポリエステル繊維1bを偏在させてもよい。ポリフッ化ビニリデン繊維1a又はポリエステル繊維1bを偏在させる第一の形態例としては、ポリフッ化ビニリデンヤーン2a同士及びポリエステルヤーン2b同士を、それぞれ少なくとも一組隣り合わせて混撚した形態である。すなわち、図1に示すように、漁網用糸10は、漁網用糸(ストランド)10の撚りを解いて、ヤーン2(2a,2b)を順に並べたとき、ポリフッ化ビニリデンヤーン2a同士及びポリエステルヤーン2b同士が、2本以上隣り合う部分構造を有することが好ましい。図1では、ポリフッ化ビニリデンヤーン2a同士が3本隣り合う部分構造とポリエステルヤーン2bが3本隣り合う部分構造とを有する。この第一の形態例では、漁網用糸10の表面にポリフッ化ビニリデン繊維1aが偏在した部分を形成することができるため、漁網用糸10の表面の摩擦係数を小さくすることができる。すると、得られる漁網において、魚が漁網に接触して傷つくのを抑制することができる。また、同じ材質のヤーン同士を隣り合わせることで、撚りを強くして、更に高強度にすることができる。
【0033】
ポリフッ化ビニリデン繊維1a又はポリエステル繊維1bを偏在させる第二の形態例としては、断面構造において、漁網用糸10の中心部にポリエステル繊維1bが偏在し、かつ、外周部にポリフッ化ビニリデン繊維1aが偏在する形態である。この第二の形態例では、漁網用糸10の表面の摩擦係数を小さくすることができ、魚が傷つくのを抑制する効果を高めることができる。また、ポリフッ化ビニリデン繊維1a又はポリエステル繊維1bを偏在させる第三の形態例としては、断面構造において、漁網用糸10の中心部にポリフッ化ビニリデン繊維1aが偏在し、かつ、外周部にポリエステル繊維1bが偏在する形態である。この第三の形態例では、漁網の剛性をより高くすることができ、網型を維持して魚の残存量を高めることができる。
【0034】
ヤーン2(2a,2b)又は漁網用糸10の撚りの方向、撚り姿又は撚り数などの撚りの種類は、形成する漁網の種類又は規模に応じて適宜設定することができる。図1には、一例として、複数本(3本又は5本)のポリフッ化ビニリデン繊維1aをS(右)方向に撚り合わせてポリフッ化ビニリデンヤーン2aを、複数本(64本又は72本)のポリエステル繊維1bをS(右)方向に撚り合わせてポリエステルヤーン2bを形成し、4本のポリフッ化ビニリデンヤーン2aと4本のポリエステルヤーン2bとをZ(左)方向に撚り合わせて漁網用糸(ストランド)10を形成した形態を示した。
【0035】
図2は、図1に示す漁網用糸を用いて形成した漁網を形成するための紐を示す分解斜視図である。本実施形態に係る漁網は、本実施形態に係る漁網用糸10を用いてなる。本実施形態に係る漁網は、図2に示すように、本実施形態に係る漁網用糸10をストランドとして用い、複数本のストランドを撚り合わせて形成した紐20を用いて形成することが好ましい。紐20を形成するストランドとしての漁網用糸10の本数は、求められる紐20の太さに合わせて適宜本数を増加することができる。図2では、一例として漁網用糸(ストランド)10が2本である形態を示した。また、漁網の編地構成、漁網用糸の結節方法などは、漁網の種類に応じて適宜設定することができる。
【0036】
本実施形態に係る漁網は、定置網として用いることが好ましい。定置網は、魚群の回遊を遮断する垣網と垣網に沿って移動してきた魚を捕獲する箱網とを有する。本実施形態に係る漁網は、箱網として用いることがより好ましい。本実施形態に係る漁網を箱網として用いることで、その高い比重及び高い剛性のため、潮流にふかれても設計どおりの網型を維持することができ、箱網の容積が減少することで魚が逃げるのを抑制して、漁獲量を向上することができる。また、本実施形態に係る漁網は、ポリフッ化ビニリデン繊維1aに由来して摩擦係数が小さいため、捕獲した魚が傷つくのを抑制し、かつ、箱網の引き上げ降ろしの抵抗を小さくすることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
<ポリフッ化ビニリデン繊維及びヤーンの作製>
インヘレント粘度(ηinh)1.0、比重1.78のポリフッ化ビニリデン樹脂を270℃で溶融紡糸し、155℃の乾熱槽で5.25倍に1段延伸し、更に175℃の乾熱槽で10%緩和して繊維径(単糸径)170μmのポリフッ化ビニリデン繊維(単糸)1aを得た。その単糸を5本束又は3本束として撚り合わせ、ポリフッ化ビニリデンヤーン(糸束)2aを形成した。
【0039】
<ポリエステル繊維及びヤーンの作製>
極限粘度(IV)0.9、比重1.35のポリエチレンテレフタレート樹脂を280℃で溶融紡糸し、直接紡糸延伸によって繊維径(単糸径)38.5μmのポリエチレンテレフタレート繊維(単糸)をポリエステル繊維1bとして得た。その単糸を64本束又は72本束として撚り合わせ、ポリエステルヤーン2bとしてポリエチレンテレフタレートヤーン(糸束)を形成した。
【0040】
<漁網用糸の作製>
得られた5本束のポリフッ化ビニリデンヤーンを3本と、3本束のポリフッ化ビニリデンヤーンを1本と、64本束のポリエチレンテレフタレートヤーンを3本と、72本束のポリエチレンテレフタレートヤーンを1本と、を図1のように撚り合わせ、1本の漁網用糸10を作製した。得られた漁網用糸の比重は1.60であった。
【0041】
<紐及び漁網の作製>
図2に示すように、得られた漁網用糸を2本撚り合わせて、漁網を形成するための紐20を作製した。この紐を用いて定置網に加工した。
【0042】
得られた定置網は、潮にふかれて変形することなく、特に魚を捕獲する箱網は、設計上の形状を維持して、魚との接触が少なかった。さらに、ポリフッ化ビニリデン繊維が低摩擦で滑りがよいため、魚が接触しても傷つかず、高品質の魚が得られた。また、魚に傷がつきにくいため、箱網の中に長時間捕獲したままで必要な数量だけ水揚げすることが可能になった。
【0043】
(比較例1)
<ポリフッ化ビニリデン繊維及びヤーンの作製>
インヘレント粘度(ηinh)1.0、比重1.78のポリフッ化ビニリデン樹脂を260℃で溶融紡糸し、直接紡糸延伸によって繊維径(単糸径)38.5μmのポリフッ化ビニリデン繊維(単糸)を得た。その単糸を64本束又は72本束として撚り合わせ、ポリフッ化ビニリデンヤーン(糸束)を形成した。
【0044】
<漁網用糸の作製>
実施例1において、64本束のポリエチレンテレフタレートヤーンに変えて、64本束のポリフッ化ビニリデンヤーンを用い、72本束のポリエチレンテレフタレートヤーンに変えて72本束のポリフッ化ビニリデンヤーンを用いた以外は、実施例1と同様に図1のように撚り合わせてポリフッ化ビニリデン繊維だけからなる1本の漁網用糸を作製した。得られた漁網用糸の比重は1.78であった。また、漁網用糸の直径は、実施例1と同様であった。
【0045】
この漁網用糸を2本撚り合わせて、漁網を形成するための紐を作製したところ、ポリフッ化ビニリデン繊維の滑りがよいため、紐の撚りが悪かった。また、撚りをしっかりかけようとすると、紐が硬くなり、網加工がしにくかった。
【0046】
(比較例2)
<ポリエステル繊維及びヤーンの作製>
極限粘度(IV)0.9、比重1.35のポリエチレンテレフタレート樹脂を280℃で溶融紡糸し、その後延伸して繊維径(単糸径)170μmのポリエチレンテレフタレート繊維(単糸)を得た。その単糸を5本束又は3本束として撚り合わせ、ポリエチレンテレフタレートヤーン(糸束)を形成した。
【0047】
<漁網用糸の作製>
実施例1において、5本束のポリフッ化ビニリデンヤーンに変えて、5本束のポリエチレンテレフタレートヤーンを用い、3本束のポリフッ化ビニリデンヤーンに変えて、3本束のポリエチレンテレフタレートヤーンを用いた以外は、実施例1と同様に図1のように撚り合わせてポリエチレンテレフタレート繊維だけからなる1本の漁網用糸を作製した。得られた漁網用糸の比重は1.35であった。また、漁網用糸の直径は、実施例1と同様であった。
【0048】
この漁網用糸を2本撚り合わせて、作製した紐で形成した箱網は、潮にふかれて変形し、網内部の容積が小さくなってしまった。また、箱網のそこの部分が浮き上がる現象が発生し、箱網の設計上の形状を維持することができなかった。
【0049】
<インヘレント粘度(ηinh)>
ポリフッ化ビニリデン樹脂のインヘレント粘度(ηinh)は、次の方法で測定した。すなわち、ポリフッ化ビニリデン樹脂を、N、N−Dimethylformamideに0.4g/dlの濃度で溶解させて、その溶液の30℃における粘度を、Ubbelohde型粘度計を用いて測定した。この溶液粘度と同温度での溶媒粘度の比である相対粘度ηの自然対数lnηに濃度の逆数(1/0.4)g/dlをかけて、インヘレント粘度ηinhを求めた。
【0050】
<極限粘度(IV)>
ポリエチレンテレフタレート樹脂の極限粘度(IV)は、次の方法で測定した。すなわち、ポリエチレンテレフタレート樹脂8gをオルソクロロフェノール100mlに溶解し、溶解粘度(η)をオストワルト粘度計を用いて25℃で測定し、次の近似式(数1)によって極限粘度(IV)を算出した。
(数1)IV=0.0242η+0.02634
【符号の説明】
【0051】
1a ポリフッ化ビニリデン繊維
1b ポリエステル繊維
2a ポリフッ化ビニリデンヤーン
2b ポリエステルヤーン
10 漁網用糸
20 紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン繊維とポリエステル繊維とを混撚したことを特徴とする漁網用糸。
【請求項2】
比重が1.50〜1.75であることを特徴とする請求項1に記載の漁網用糸。
【請求項3】
前記ポリフッ化ビニリデン繊維の平均繊維径が、前記ポリエステル繊維の平均繊維径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の漁網用糸。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン繊維からなるヤーン同士及び前記ポリエステル繊維からなるヤーン同士を、それぞれ少なくとも一組隣り合わせて混撚したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の漁網用糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の漁網用糸を用いてなることを特徴とする漁網。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−55910(P2013−55910A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196377(P2011−196377)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月11日 水産経済新聞社発行の「水産経済新聞 平成23年3月11日付日刊」に発表
【出願人】(390009830)クレハ合繊株式会社 (8)
【Fターム(参考)】