説明

漁網防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜の形成方法、および該塗膜を表面に有する漁網、漁網用具又は水中構造物

【課題】広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮し、特に、イギス等の紅藻類及びヒドロ虫等の腔腸動物に対してより優れた防汚効果を発揮することができる漁網防汚塗料組成物を提供すること。
【解決手段】一般式(I):


(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン及び/又はビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を含有する漁網防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖用又は定置網用の漁網およびこれらに使用される浮き子、ロープ等の漁網用具、ならびに発電所の冷却水導管等の水中構造物等に水棲汚損生物が付着することを長期にわたって防止するための漁網防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜の形成方法、および該塗膜を表面に有する漁網、漁網用具又は水中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
漁網、漁網用具及び水中構造物などは、海中に長期間設置されるため、漁網用の防汚塗料での処理をせずに使用すると、アオサ、アオノリ等の緑藻類、イギス等の紅藻類、フジツボ等の甲殻動物、ヒドラ虫等の腔腸動物、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの種々の水棲汚損生物が付着する。これにより、漁網の網の目がふさがれて海水の流れが悪くなり、酸素欠乏で養殖魚が大量に死んだり、伝染病が発生して出荷できなくなったりし、大きな損害を受けることがある。
これらの水棲汚損生物の付着を防止するために、従来は有機錫化合物を用いた漁網用防汚塗料組成物が広く使用されてきたが、環境に対する配慮などから使用できなくなった。
【0003】
そこで、有機錫化合物に替わる防汚薬剤として種々の研究、提案がなされ、亜酸化銅、ロダン銅などの銅化合物、エチレンビスジチオカルバミン酸の亜鉛塩やマンガン塩などのチオカーバメイト化合物、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラクロロイソフタロニトリル、ジメチルフェニルジクロロマレイミド、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物、2−メルカプトピリジンN−オキシド金属塩類、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン、ビス(ジメチルカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛などの有効成分を防汚薬剤として使用する提案がされている。
【0004】
しかしながら、水棲汚損生物は、その種類が甲殻動物類、腔腸動物類、緑藻類、紅藻類など多岐にわたるため、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮する防汚薬剤は未だ見出されていない。例えば、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物はヒドロ虫等の腔腸動物及び緑藻類に対しての防汚効果が低く、2−メルカプトピリジンN−オキシド金属塩類は緑藻類には良好な防汚効果を示すものの腔腸動物及び甲殻動物に対しては防汚効果が低い。また、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンは腔腸動物、緑藻類及び紅藻類にはある程度の防汚効果を示すものの防汚期間が短く、フジツボ等の甲殻動物に対しては防汚効果が低い。更に、ビス(ジメチルカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛は腔腸動物には優れた防汚効果を示すが、それ以外の水棲汚損生物に対しては防汚効果が著しく悪いという欠点を有する。
【0005】
また、防汚薬剤を併用することにより、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮させようとする提案もされているが、長期にわたり安定した防汚効果を発揮するものは未だ開発されていない。例えば、亜酸化銅と2−メルカプトピリジンN−オキシド銅塩とを用いた防汚塗料組成物(特許文献1)、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物とテトラエチルチウラムジスルフィドとを用いた防汚塗料組成物(特許文献2〜5)等が提案されている。しかし、どちらの組成物もある程度の水棲汚損生物に対しては防汚効果を示すものの、腔腸動物に対しての防汚効果は満足できるものではない。また、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオアルバミン酸亜鉛と2−メルカプトピリジンN−オキシド金属塩類とを用いた防汚塗料組成物(特許文献6)が提案されている。しかし、この組成物は、腔腸動物及び藻類に対しての防汚効果は改善されたものの、フジツボ等の甲殻動物に対しての防汚効果は満足できるものではない。さらに、トリフェニルボラン・アルキルアミン錯体と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンとを用いた防汚塗料組成物(特許文献2)が提案されている。しかし、この組成物は、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮できるものではなく、防汚期間という面でも満足できるものではない。
【0006】
従って、漁網防汚塗料に係る産業界においては、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮できる漁網防汚塗料組成物の開発が切望されている。特に、水棲汚損生物の中でもイギス(紅藻類の一種)及びヒドラ虫(腔腸動物)等は、一旦網に付着して成長してしまうとカサが大きい為に漁網の網の目をふさぎ易いという問題があり、イギス等の紅藻類及びヒドロ虫等の腔腸動物に対してより優れた防汚効果を発揮する漁網防汚塗料組成物が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−265849号公報
【特許文献2】特開平11−199414号公報
【特許文献3】特開平11−322763号公報
【特許文献4】特開2004−43679号公報
【特許文献5】特開2001−348532号公報
【特許文献6】特開2007−100001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮し、特に、イギス等の紅藻類及びヒドロ虫等の腔腸動物に対してより優れた防汚効果を発揮することができる漁網防汚塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の防汚薬剤を含有する組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、漁網防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜の形成方法、および該塗膜を表面に有する漁網等に係る。
1.一般式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン及び/又はビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を含有する漁網防汚塗料組成物。
【0013】
2.一般式(I):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンとを含有する上記項1に記載の漁網防汚塗料組成物。
【0016】
3.固形分概算で前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物100重量部に対する、前記4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンの配合割合が10〜200重量部であり、前記ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛の配合割合が10〜600重量部である、上記項1に記載の漁網防汚塗料組成物。
【0017】
4.更に、シリコーンオイル、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類及びジアルキルスルフィド化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する上記項1〜3のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【0018】
5.更に、テトラエチルチウラムジスルフィド、亜酸化銅、銅粉、銅ピリチオン、及び亜鉛ピリチオンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の防汚薬剤を含有する上記項1〜4のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【0019】
6.前記シリコーンオイルが、親水親油バランス(HLB)が0.5〜9であるポリエーテル変性シリコーンオイルである上記項1〜5のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【0020】
7.一般式(I)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物がトリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン錯体化合物である上記項1〜6のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【0021】
8.上記項1〜7のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【0022】
9.上記項1〜7のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【0023】
10.上記項9に記載の防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具又は水中構造物。
【発明の効果】
【0024】
本発明の漁網防汚塗料組成物は、広範な水棲汚損生物に対して網羅的に防汚効果を発揮し、特に、イギス等の紅藻類及びヒドロ虫等の腔腸動物に対してより優れた防汚効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
漁網防汚塗料組成物
本発明の漁網防汚塗料組成物は、トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A](以下、「[A]成分」という場合もある)と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B] (以下、「[B]成分」という場合もある)及び/又はビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C] (以下、「[C]成分」という場合もある)を含有する。
【0026】
<トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]>
本発明に用いられるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]としては、一般式(I):
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物が用いられる。
【0029】
で表される炭素数2〜8の直鎖もしくは分枝鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1−エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、1−ブチルエチレン基、オクタメチレン基、2−エチルヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0030】
で表される炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、ステアリル等が挙げられる。
【0031】
前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物の具体例としては、例えば、トリフェニルボラン・3−エトキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・3−ブトキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・3−(2−エチルへキシルオキシ)プロピルアミン、トリフェニルボラン・3−ラウリルオキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・3−ステアリルオキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・4−(2−エチルヘキシルオキシ)ブチルアミン、トリフェニルボラン・4−ラウリルオキシブチルアミン、トリフェニルボラン・8−エトキシオクチルアミン、トリフェニルボラン・8−(2−エチルヘキシルオキシ)オクチルアミン、トリフェニルボラン・2−エチルヘキシルオキシフェニルアミン、トリフェニルボラン・ラウリルオキシフェニルアミン等がある。
【0032】
これらのトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物のうち、特に好ましいのはトリフェニルボラン・3−(2−エチルへキシルオキシ)プロピルアミンである。上記例示のトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物については、単独で用いてもよく、2種以上を組みあわせて用いてもよい。
【0033】
前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物は、公知の方法により合成できる。例えば、常温下又は加熱下、トリフェニルボランとアルコキシ基含有アミンとを有機溶剤中に溶解させた状態で反応させることによって得ることができる。有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジブチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール等を使用できる。トリフェニルボランとアルコキシ基含有アミンとの使用割合は、アルコキシ基含有アミンに対するトリフェニルボランのモル比として、1.0〜1.2が好ましく、1.0がより好ましい。前記反応は、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0034】
得られた反応混合物について、必要に応じて後処理を行ってもよい。後処理では、例えば有機溶剤を留去し、目的のトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物を晶出させる。また、必要により再結晶等を行い精製してもよい。
【0035】
前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、展着樹脂100重量部に対して1〜300重量部であり、好ましくは、1〜200重量部であり、さらに好ましくは、10〜100重量部である。
【0036】
<4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]>
本発明に用いられる4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]は、一般式(II):
【0037】
【化4】

【0038】
で表される化合物である。
【0039】
前記4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]は、水中分散性の観点から、平均粒子径が0.01〜20μm、好ましくは0.05〜5μmのものが用いられる。
【0040】
前記4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、シーナイン211(登録商標、ロームアンドハース社製)、ケーソン930(登録商標、ロームアンドハース社製)等が挙げられる。
【0041】
前記4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、展着樹脂100重量部に対して1〜150重量部が好ましく、10〜75重量部がより好ましい。
【0042】
<ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]>
本発明に用いられるビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]は、一般式(III):
【0043】
【化5】

【0044】
で表される化合物である。
【0045】
前記ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]は、水中分散性の観点から、平均粒子径が0.01〜20μm、好ましくは0.05〜5μmのものが用いられる。
【0046】
ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ビスダイセン(登録商標、ダウ・アグロサイエンス社製)、TOC3204F(ロームアンドハース社製)等が挙げられる。
【0047】
前記ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、展着樹脂100重量部に対して1〜300重量部が好ましく、10〜150重量部がより好ましい。
【0048】
本発明の漁網防汚塗料組成物には、トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]とを含有する組成物;トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]とを含有する組成物;及びトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]と、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]とを含有する組成物が含まれる。
【0049】
ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]は、キシレン等の溶剤に溶解しないため、長期保存した場合に容器の底に沈降しやすく、塗布作業時に塗料を撹拌する必要があるのに対し、トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]や4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]は、キシレン等の溶剤に溶解するため、塗布作業時の撹拌が必要ない。よって、これらの組成物の中でも、塗布作業性に優れるという観点からトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]とを含有する組成物が好ましい。
【0050】
トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]とを含有する組成物である場合、[A]成分と [B] 成分との配合割合としては、特に限定されないが、固形分換算で[A] 成分100重量部に対して、[B] 成分が10〜200重量部であり、好ましくは30〜150重量部であり、さらに好ましくは、50重量部〜100重量部である。[A]成分と[B] 成分とを上記の配合割合で併用することにより、想定している併用効果が発揮できるとともに、[B] 成分自身がもつ可塑性による塗膜の脆弱化を防ぐことで防汚期間を延ばすことができる。
【0051】
トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]とを含有する組成物である場合、 [A] 成分と[C] 成分との配合割合としては、特に限定されないが、固形分換算で、[A] 成分100重量部に対して、[C] 成分が10〜600重量部であり、好ましくは30〜500重量部であり、さらに好ましくは、50重量部〜350重量部である。[A]成分と [C] 成分とを上記の配合割合で併用することにより、想定している併用効果が発揮できるとともに、長期保存中に[C]成分が沈殿し、容器の底でハードケーキング等を起こすことを防ぐことができる。
【0052】
トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]と、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]とを含有する組成物である場合、[A] 成分と[B] 成分と[C] 成分との配合割合としては、特に限定されないが、固形分換算で、[A] 成分100重量部に対して、[B] 成分は10〜200重量部であり、好ましくは30〜150重量部であり、さらに好ましくは、50重量部〜100重量部であり、[C] 成分は、10〜600重量部であり、好ましくは30〜500重量部であり、さらに好ましくは、50重量部〜350重量部である。[A]成分と[B] 成分と[C] 成分とを上記の配合割合で併用することにより、想定している併用効果が発揮できるとともに、[B] 成分自身がもつ可塑性による塗膜の脆弱化を防ぐことで防汚期間を延ばすことができ、さらに長期保存中に[C]成分が沈殿し、容器の底でハードケーキング等を起こすことを防ぐことができる。
【0053】
本発明の組成物には、必要に応じて以下の成分を含有させることができる。
【0054】
<シリコーンオイル>
シリコーンオイルは溶出調整剤としての役割を果たすことができる。すなわち、シリコーンオイルを含有させることにより、塗膜の溶出速度を好適に抑制することができ、長期間、防汚効果を発揮させることができる。
【0055】
シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリアルキル(メチル)シロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、長鎖アルキル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、その他各種官能基による変性シリコーンオイル等が挙げられる。特に、親水親油バランス(HLB値)が0.5〜9のポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましく、具体的には0.5〜9のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが望ましい。さらに好ましいものとして、親水親油バランス(HLB値)が1〜5の範囲にあるポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが挙げられる。HLB値が0.5〜9の範囲内のシリコーンオイルを使用することで、十分な防汚性能を得ることができる。
【0056】
本発明では、これらのシリコーンオイルを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
シリコーンオイルの粘度は、塗工性能および塗膜物性の観点から、1000ポイズ以下が好ましく、100ポイズ以下がより好ましい。
シリコーンオイルの含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、展着樹脂100重量部に対して0.5〜150重量部であり、好ましくは0.5〜100重量部であり、さらに好ましくは、1〜50重量部である。
【0058】
<エチレン・α−オレフィン共重合体>
エチレン・α−オレフィン共重合体は溶出調整剤としての役割を果たすことができる。すなわち、エチレン・α−オレフィン共重合体を含有させることにより、塗膜の溶出速度を好適に抑制することができ、長期間、防汚効果を発揮させることができる。
【0059】
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、例えば、一般式(IV):
【0060】
【化6】

【0061】
(式中、Rは炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示し、x、yおよびpはそれぞれ同一又は異なって1以上の整数を示す)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
【0062】
で表される炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基としては、特に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0063】
一般式(IV)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンとα−オレフィンとを共重合させることにより得られる共重合体である。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0064】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ルーカントHC−10、ルーカントHC−20、ルーカントHC−40、ルーカントHC−100、ルーカントHC−150、ルーカントHC−600、ルーカントHC−2000(いずれも登録商標、三井化学株式会社製)等が挙げられる。これらのエチレン・α−オレフィン共重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体の数平均分子量(Mn)は、塗工性能および塗膜物性の観点から、10,000以下が好ましく、1,000〜3,000がより好ましい。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、0℃における粘度が20,000PaS以下のものが好ましく、500PaS以下のものがより好ましい。
【0066】
エチレン・α−オレフィン共重合体の含有量は、特に限定されないが、シリコーンオイル100重量部に対して、固形分換算で、1〜1000重量部であり、好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0067】
<ポリブテン類>
ポリブテン類は溶出調整剤としての役割を果たすことができる。ポリブテン類としては、ポリブテン、ポリイソブテン等が挙げられる。ポリブテン類としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ポリブテンLV−7、ポリブテンLV−10、ポリブテンLV−25、ポリブテンLV−50、ポリブテンLV−100、ポリブテンHV−35、ポリブテンHV−100、ポリブテンHV−300、ポリブテンHV−1900(いずれも日本石油化学株式会社製);ポリブテン0H、ポリブテン5H、ポリブテン10H、ポリブテン300H、ポリブテン2000H、ポリブテン0R、ポリブテン15R、ポリブテン35R、ポリブテン100R、ポリブテン350R(いずれも出光石油化学株式会社製);ポリブテン0N、ポリブテン06N、ポリブテン3N、ポリブテン10SH、ポリブテン200N(いずれも日油株式会社製)等が挙げられる。
【0068】
ポリブテンの含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、シリコーンオイル100重量部に対して1〜1000重量部であり、好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0069】
<パラフィン類>
パラフィン類としては、例えば、n−パラフィン、固形パラフィン、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。
【0070】
パラフィン類の含有量は、特に限定されないが、固形分換算でシリコーンオイル100重量部に対して1〜1000重量部であり、好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0071】
<ワセリン類>
ワセリン類としては、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン等が挙げられる。
【0072】
ワセリン類の含有量は、特に限定されないが、固形分換算でシリコーンオイル100重量部に対して1〜1000重量部であり、好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0073】
<ジアルキルスルフィド化合物>
ジアルキルスルフィド化合物としては、ジ−tert−ブチルデカスルフィド、ジペンチルテトラスルフィド、ジペンチルペンタスルフィド、ジペンチルデカスルフィド、ジオクチルテトラスルフィド、ジオクチルペンタスルフィド、ジノニルテトラスルフィド、ジノニルペンタスルフィド、ジ−tert−ノニルテトラスルフィド、ジ−tert−ノニルペンタスルフィド、ジデシルテトラスルフィド、ジドデシルテトラスルフィド、ジオクタデシルテトラスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィド等が挙げられる。
ジアルキルスルフィド化合物の含有量は、特に限定されないが、固形分換算でシリコーンオイル100重量部に対して1〜1000重量部であり、好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0074】
<防汚薬剤>
防汚薬剤として、前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]及びビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]以外にも、以下の無機防汚剤および有機防汚剤を含有させることができる。これにより、形成した塗膜がさらに好適な防汚効果を発揮させることができる。
【0075】
無機防汚剤としては、例えば、銅紛、キュプロニッケル、亜酸化銅、ロダン銅等の銅系無機化合物等が挙げられる。
【0076】
有機防汚剤としては、金属含有有機防汚剤および金属フリー有機防汚剤のいずれも使用できる。
【0077】
金属含有有機防汚剤としては、例えば、銅系有機化合物、亜鉛系有機化合物等が挙げられる。
【0078】
銅系有機化合物としては、例えば、銅ピリチオン等が挙げられる。
【0079】
亜鉛系有機化合物としては、例えば、亜鉛ピリチオン等が挙げられる。
【0080】
金属フリー有機防汚剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のテトラアルキルチウラムジスルフィド化合物等が挙げられる。その他、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N,N’−ジメチル−N’−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2’−エチル、6’−メチルフェニル)マレイミド、3−ベンゾ[b]チエン−2−イル−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキサイド、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール、テトラクロロイソフタロニトリル等を使用することもできる。
【0081】
前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物[A]、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン[B]及びビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛[C]と併用する防汚薬剤として、特に、テトラエチルチウラムジスルフィド、亜酸化銅、銅粉、銅ピリチオン、及び亜鉛ピリチオンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の防汚薬剤が好ましい。
【0082】
前記防汚薬剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の組成物中の不揮発分100重量部に対して0.1〜80重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0083】
<展着樹脂>
展着樹脂を含有させることにより、塗膜形成における作業性が向上する。また、被塗膜形成物との密着性に優れた塗膜を形成することができる。
【0084】
前記展着樹脂としては、合成樹脂および天然樹脂が用いられる。
【0085】
合成樹脂としては、例えば、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、塩素化ポリエチレン等を使用できる。前記ビニル樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル樹脂等を例示できる。
【0086】
また、天然樹脂としては、例えば、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジン等が挙げられる。
【0087】
前記展着樹脂としては、特に、アクリル樹脂を含有することが好ましい。
【0088】
前記展着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−100〜100℃が好ましく、−50〜80℃がより好ましい。
【0089】
前記展着樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。
【0090】
前記展着樹脂の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で防汚塗料組成物中に1〜50重量%使用され、好ましくは5〜30重量%である。
【0091】
<その他>
本発明の組成物には、必要に応じて公知の添加剤を含有させてもよい。
【0092】
公知の添加剤としては、例えば、染料、顔料、分散剤(例えば、ポリアマイド燐酸系分散剤、ポリアマイド系分散剤、不飽和ポリカルボン酸系分散剤等)、可塑剤(例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリクレジルフォスフェート等)、消泡剤、タレ止め剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0093】
これら添加剤については、本発明の効果を妨げない任意の配合割合で含有させることができる。
【0094】
本発明の組成物は、通常、水又は有機溶剤に溶解又は分散させておく。これにより、塗料として好適に用いることができる。
【0095】
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の芳香族系溶剤;イソブチルメチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル等のエステル系溶剤が使用できる。 また、低毒・低臭・低環境負荷を考慮した有機溶剤も使用することができ、例えば、ペガソールAN45、ペガソールAS100(いずれも登録商標、エクソンモービル製)、LAWS、HAWS(いずれもシェルケミカルズ製)等の芳香族・脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコール系エステル溶剤;エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、リカソルブ(登録商標)900(C9芳香族水添体)、リカソルブ(登録商標)1000(C10芳香族水添体)等の脂環式炭化水素系溶剤;シェルゾールD40(登録商標、シェルケミカルズ製)、エクソールD30、エクソールD40(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;アイソパーG、アイソパーH(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂肪族炭化水素混合溶剤なども使用することができる。
【0096】
これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0097】
本発明の組成物は、種々の漁業具、水中構造物等の防汚塗膜の形成に使用できる。特に、本発明の組成物は、漁網用防汚塗料組成物として好適に使用できる。
【0098】
本発明の漁網防汚塗料組成物は、上記[A]〜[C]成分、ならびに必要に応じて上記各成分を混合することにより調製できる。混合する際の各成分の添加量については、上記配合量および含有量となるよう適宜調整すればよい。各成分を混合する順序については特に制限されない。混合方法については、撹拌装置を用いて混合する等、公知の方法を採用すればよい。
【0099】
漁網防汚塗膜の形成方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の漁網防汚塗膜の形成方法は、上記漁網防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の形成方法により得られる防汚塗膜は、表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
被塗膜形成物としては、例えば、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0100】
本発明の漁網防汚塗膜は、上記漁網防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。
【0101】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。例えば、本発明の漁網防汚塗料組成物を漁網に塗布する場合、塗布方法としてはディッピング法を採用することが好ましい。
【0102】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、漁網防汚塗料の付着量に応じて適宜設定すればよい。
【0103】
前記漁網防汚塗料の付着量は、被塗膜形成物の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が漁網の場合、乾燥塗膜の付着量が漁網100重量部に対し、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは4〜15重量部である。
【0104】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0106】
実施例1〜6および比較例1〜7
表1に記載の成分を表1に記載の割合(重量%)で混合することにより、漁網防汚塗料組成物を得た。
【0107】
商品名「ニットールHN」…アクリル樹脂キシレン溶液(固形分40%、Tg=約20℃、Mw=約230000、日東化成(株)製)
商品名「OPA」…トリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(日東化成(株)製 純度99%)
商品名「Sea Nine211」(固形分30%キシレン溶液、ロームアンドハース社製)
商品名「TOC−3204F」…ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛(ロームアンドハース社製)
商品名「TET−G」…テトラエチルチウラムジスルフィド(三新化学(株)製)
商品名「PKボロン」…ピリジン・トリフェニルボラン(北興化学工業(株)製)
商品名「YN−18−20」…n−オクタデシルアミントリフェニルボラン(ベニートヤマ(株)製)
商品名「KF−6020」…ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「X−22−2516」・・・ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「ルーカントHC−40」…エチレン・α−オレフィン共重合体(Mn=1600、三井化学(株)製)
商品名「ポリブテン0N」…ポリブテン(日油(株)製)
商品名「DAF−1」…ジ−tert−ノニルペンタスルフィド(大日本インキ(株)製)
商品名「ディスパロン4200−20X」…酸化ポリエチレン(固形分20%、楠本化成(株)製)
商品名「ディスパロンFA−62」…アクリル系重合物とシリコーンとの混合物(固形分35%、楠本化成(株)製)
キシレン…キシダ化学(株)製、1級試薬
【0108】
【表1】

【0109】
試験例1(防汚効果確認試験)
ポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)を、実施例1〜6および比較例1〜7で得られた各漁網防汚塗料組成物に、乾燥塗膜の付着量が漁網100重量部に対し、8重量部になるように浸漬塗布し乾燥させた。塗膜を形成した漁網を40×60cmSUSの枠に固定し、岩手県大船渡地先の定置網にて、海面下1mに垂下浸漬して付着生物による漁網の汚損を6ヶ月間観察した。
【0110】
結果を表2に示す。
【0111】
表2中の数字は汚損生物の付着表面積(%)を表す。なお、汚損生物の付着表面積(%)は、試験期間(1、2、4又は6ヶ月)後に海面の上から漁網の写真を撮影し、漁網における汚損生物の占有面積を目視で評価した。
【0112】
また、表2中の付着生物における空欄は、6ヶ月後に、該当する生物が確認されなかったことを示している。
【0113】
【表2】

【0114】
表2から、比較例1〜7の漁網防汚塗料組成物を用いて形成された塗膜に比べ、本発明の漁網防汚塗料組成物(実施例1〜6)を用いて形成された塗膜には、長期間経過しても、ほとんど水棲汚損生物が付着していないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン及び/又はビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を含有する漁網防汚塗料組成物。
【請求項2】
一般式(I):
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜8の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物と、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンとを含有する請求項1に記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項3】
固形分概算で前記トリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物100重量部に対する、前記4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリンの配合割合が10〜200重量部であり、前記ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛の配合割合が10〜600重量部である、請求項1に記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項4】
更に、シリコーンオイル、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類及びジアルキルスルフィド化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項5】
更に、テトラエチルチウラムジスルフィド、亜酸化銅、銅粉、銅ピリチオン、及び亜鉛ピリチオンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の防汚薬剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記シリコーンオイルが、親水親油バランス(HLB)が0.5〜9であるポリエーテル変性シリコーンオイルである請求項1〜5のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項7】
一般式(I)で表されるトリフェニルボラン・アルコキシ基含有アミン錯体化合物がトリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン錯体化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の漁網防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【請求項10】
請求項9に記載の防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具又は水中構造物。

【公開番号】特開2011−63719(P2011−63719A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215880(P2009−215880)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】