説明

漆黒性に優れたゴム変性アクリル系樹脂組成物、及びその成形体

【課題】 本発明の目的は、耐候性を損なわずに漆黒性、衝撃性の優れた成型品が得られる、樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、3mm厚の成形体の全光線透過率が85%以上である透明性を有するゴム変成アクリル系樹脂(A)にカーボンブラック(B)を配合してなる樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中に分散した該カーボンブラックの粒径が10〜40nmであることを特徴とする漆黒のゴム変性アクリル系樹脂組成物であり、その樹脂組成物の成型品は、高級な外観が必要とされる外観部材として好適であり、そのような車両用部材、家電製品部材、又はフイルムに使用出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐衝撃性、外観、及び成形加工性に優れるだけでなく、漆黒性にも優れた、ゴム変性アクリル系樹脂組成物、及びその樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル樹脂は、優れた耐候性、光沢および透明性を有しているが、耐衝撃性と耐候性と漆黒性を同時に満足するものが無く、使用範囲が限られている。
【0003】
このようなメタクリル樹脂の優れた耐候性を保持したまま耐衝撃性を付与する方法として、種々の多層構造を有するグラフト共重合体を混合する方法が提案されている。以下にその代表的な方法(a)、(b)、(c)について、概要を示す。
【0004】
なお、以下に述べる耐候性、光沢、耐衝撃性、加工性は、メタクリル樹脂単独あるいはメタクリル樹脂にグラフト共重合体を混合してえられるメタクリル樹脂組成物に関する特性を示している。
【0005】
(a)メタクリル樹脂の優れた耐候性を保持したまま耐衝撃性を付与するために、耐候性の優れたアクリル酸アルキルエステルを主成分とし、ガラス転移温度が室温以下であるゴム状重合体に、ガラス転移温度が室温以上であり、比較的硬質な重合体の構成単位になりうるメタクリル酸アルキルエステルなどの単量体成分(以下、硬質単量体成分という)をグラフト重合させたゴム状重合体−硬質重合体の2層構造を有するグラフト共重合体を混合することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
(b)メタクリル酸アルキルエステルなどの硬質単量体成分を70〜100 %(重量%、以下同様)含む硬質重合体の外殻にアクリル酸アルキルエステルを主成分とするゴム状重合体を形成させ、さらにその外殻にメタクリル酸アルキルエステルなどの硬質単量体成分をグラフト重合させた硬質重合体−ゴム状重合体−硬質重合体の3層構造を有するグラフト共重合体を混合することが提案されている(特許文献3)。
【0007】
(c)、(b) 法の最内層であるメタクリル酸アルキルエステルなどの硬質単量体成分にアクリル酸アルキルエステルを35〜45%共重合させることにより、ガラス転移温度を室温に近い半ゴム状とし、さらに1分子中にアクリロイルオキシ基および(または)メタクリロイルオキシ基を2個以上有する架橋性単量体で架橋した半ゴム状重合体を最内層に含有し、その外殻にアクリル酸アルキルエステルを主成分とするゴム状重合体を形成させ、さらにその外殻にメタクリル酸アルキルエステルなどの硬質単量体成分をグラフト重合させた半ゴム状−ゴム状−硬質の3層構造を有するグラフト共重合体を混合する方法が提案されている(特許文献4)。
【0008】
また、熱硬化性アクリル樹脂にアミノ−フェノールと置換され且つ2−ナフトールと結合されたモノ−アゾ染料の1:2クロム錯体含有する漆黒組成物は知られているが(特許文献5)、染料の耐光性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3808180 号
【特許文献2】米国特許第3843753 号
【特許文献3】米国特許第3793402 号
【特許文献4】特開昭62−230841号公報
【特許文献5】特公平06−089279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐候性、光沢、漆黒性、耐衝撃性、及び加工性の全てにおいて優れたメタクリル樹脂組成物をうることを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記特許文献5の如く、漆黒性を得るためアゾ化合物のような染料を添加したアクリル樹脂では、染料自体の耐候性や、染料の存在により影響された基材樹脂の耐候性の低下の為、漆黒性、及び耐候性に優れたアクリル樹脂が得ることが困難であることを見出し、このような前記課題を解決するために、それ自体の耐光性や基材樹脂への影響が小さい漆黒材料としてカーボンブラックを見出し、また、このカーボンブラックとアクリル樹脂との組み合わせにおいて、優れた漆黒性を得るための方法につき鋭意検討を重ねた結果、透明のゴム変成アクリル系樹脂にカーボンブラック配合し、樹脂組成物中にカーボンブラックの粒径が10〜40nmになるように分散させることにより前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、3mm厚の成形体の全光線透過率が85%以上である透明性を有するゴム変成アクリル系樹脂(A)にカーボンブラック(B)配合してなる樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中に分散した該カーボンブラックの粒径が10〜40nmであることを特徴とする漆黒のゴム変性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記ゴム変成アクリル系樹脂(A)100重量部が、
ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)5〜100重量部、及びアクリル樹脂(A2)95〜0重量部を含み、
前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)が、ゴム共重合体(A1c)の内層、及び該内層を覆うグラフト成分(A1s)の外層を、A1c:A1sの重量比が5:95〜85:15で含む多層構造グラフト共重合体であり、
前記ゴム共重合体(A1c)が、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、共重合可能な他のビニル単量体0〜49.9重量%、及び多官能性単量体0.1〜10重量%からなるゴム共重合体用単量体100重量%の重合体であり、
前記グラフト成分(A1s)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、及び共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体0〜50重量%からなるグラフト成分用単量体100重量%の重合体であり、かつ、
前記アクリル樹脂(A2)が、アクリル酸アルキルエステル0〜50重量%、及びメタクリル酸アルキルエステル100〜50重量%からなるアクリル樹脂用単量体の重合体である、前記ゴム変性アクリル系樹脂組成物とすることである。
本発明の組成物は、好ましくは、上述のように、本発明に係るカーボンブラックと共に、基材樹脂中に良く分散し、かつ、透明性や耐衝撃性の付与効果に優れた特定のゴム含有アクリル系グラフト共重合体を特定量含むので、耐光性に優れるだけでなく、基材樹脂が加水分解する可能性も低減されているので、耐水性にも優れる。
好ましい実施態様は、前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)の数平均粒子径を、30〜400nmとすることである。
好ましい実施態様は、前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)が、さらに、最内層重合体(A1a)を、A1a:(A1c、及びA1sの合計量)の重量比が10:90〜40:60で含み、かつ、
前記最内層重合体(A1a)の存在下に、前記ゴム共重合体用単量体が重合されてなる、少なくとも3層構造を有する多層構造グラフト共重合体であり、かつ、
前記最内層重合体(A1a)が、メタクリル酸アルキルエステル、及び芳香族ビニルからなる群から選ばれる1種以上40〜99.9重量%と、共重合可能な他のビニル単量体59.9〜0重量%と、多官能性単量体0.1〜5重量%と、からなる最内層重合体用単量体100重量%の重合体である、前記ゴム変性アクリル系樹脂組成物とすることである。
また本発明は、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
また本発明は、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体であって、鏡面仕上げの金型で射出成形した平板成形体を、JISZ−8722に規定される0〜45度後分光方式の色差計で測定した場合に、そのL値が0〜8の範囲であることを特徴とする成形体に関する。
また本発明は、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体であって、鏡面仕上げの金型で射出成形した平板成形体を、JIS K 7350−4に規定する、ブラックパネル63℃、雨有り、255W/m2の条件で1000hの時間、耐候性試験を行った、試験前後での色差計でのL値の変化が0〜1の範囲であることを特徴とする成形体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は成形加工性優れ、その成形体は、耐候性、光沢、漆黒性、及び耐衝撃性の全てにおいて優れたメタクリル樹脂組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ゴム変性アクリル系樹脂組成物)
本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、ゴム変成アクリル系樹脂(A)にカーボンブラック(B)配合してなる漆黒性に優れた樹脂組成物であって、この本発明に係る優れた漆黒性は、前記ゴム変成アクリル系樹脂(A)が、その3mm厚の成形体の全光線透過率が85%以上である透明性を有すること、及び、その樹脂組成物中に分散した前記カーボンブラックの粒径が10〜40nmであること、の2つの要因により特異的に奏される効果である。
【0016】
本発明に係るカーボンブラックの添加量は、十分な漆黒性を付与する観点から、本発明に係るゴム変成アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部であり、10重量部を越えても漆黒度は飽和するので経済的でない。
【0017】
(成形体)
本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、成形加工性に優れるので、既知の熱可塑性樹脂の成形方法、たとえば射出成形法、押出し成形法等により、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、フイルム等に成形され得る。この本発明の成形品は、耐候性、耐衝撃性、外観、及び成形加工性に優れるだけでなく、漆黒性や光沢にも優れるので、例えば高級な外観が必要とされる外観部材として好適であり、このような外観部材として、車両用部材や家電製品部材、フイルム用途に好適である。
【0018】
(ゴム変成アクリル系樹脂(A))
本発明に係るゴム変性アクリル系樹脂(A)は、上述したように、その3mm厚の成形体の全光線透過率が85%以上の透明性を有することを要し、優れた衝撃強度を得る観点から、その全体量を100重量として、好ましくは、ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)5〜100重量部、及びアクリル樹脂(A2)95〜0重量部を含む。
【0019】
(カーボンブラック(B))
本発明に係るカーボンブラックは、十分な漆黒性を本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物に付与する観点から、樹脂中に分散した時の平均粒子径、即ち、分散粒径が10〜40nmであることを要す。分散粒径はより好ましくは10〜30nmである。分散粒径はさらに好ましくは10〜25nmである。分散粒径は最も好ましくは10〜20nmである。平均粒子径が40nmを越えるものは、十分な漆黒度を示さないため好ましくなく、また、平均粒子径が10nm未満のものは、漆黒度を付与する能力は優れるものの一般に入手することが困難である。なお、本発明において、平均粒子径は、電子顕微鏡でカーボンブラック凝集体を観察し、輪郭を有して分離できない成分の大きさを測定しN=50個の算術平均したものである。また、カーボンブラックの供給形態としては、粉末状、あるいは粒状のものがあるが、そのまま添加するより、アクリル系樹脂と高濃度のカーボンブラックとを予備混練して粉砕するいわゆるマスターバッチの顔料を使用する方がカーボンブラックの分散性の観点から好ましい。
【0020】
このような本発明で用いるカーボンブラックの例としては、着色用カーボンブラックの一般呼称であるMCF(Medium Colour Furnace)以上の黒色度を有するもの(HCF: High Colour Furnace、HCC: High Colour Channnel)であることが好ましく、#2600、#980、#960(三菱化学製)、トーカブラック#8500、#7400、#7350、#7100(東海カーボン製)、Color Black FW200、FW2、S170、Printex 90、80(デグサ社製)、Raven 7000、5750、3500(コロンビヤン・ケミカルス社製)、Monarch 1400、1300、900、800、Black Pearls 1400、1300、900、800、Vulcan P(キャボット社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
(ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1))
本発明に係るゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)は、優れた衝撃強度、透明性を得る観点から、ゴム共重合体(A1c)の内層、及び該内層を覆うグラフト成分(A1s)の外層を、A1c:A1sの重量比が5:95〜85:15となるように含む多層構造グラフト共重合体とすることが好ましく、特に優れた衝撃強度を得る観点から、さらに、最内層重合体(A1a)を、A1a:(A1c、及びA1sの合計量)の重量比が10:90〜40:60となるように含み、かつ、この最内層重合体(A1a)の存在下に、前記ゴム共重合体用単量体が重合されてなるようにした、少なくとも3層構造を有する多層構造グラフト共重合体とすることがより好ましい。
【0022】
前記A1c:A1sの重量比は、衝撃強度をより高める観点から、A1c:A1sの重量比が25:75〜80:20がより好ましい。
【0023】
このようなゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)の数平均粒子径は、耐衝撃性と透明性とをバランスさせる観点から、30〜400nmとすることが好ましく、より好ましくは40〜300nmである。
【0024】
このようなゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)の製造方法には特に限定はなく例えば、懸濁重合法、乳化重合法等が用いられ得るが、共重合体粒子の粒径を揃えることにより、より優れた効果を発揮できるので、乳化重合法で製造するのが好ましい。
【0025】
(アクリル樹脂(A2))
本発明に係るアクリル樹脂(A2)は、前記グラフト成分(A1s)とともに、本発明の組成物の基材樹脂として、前記ゴム共重合体(A1c)、及び本発明に係るカーボンブラック(B)を包む連続層樹脂、即ち、マトリクス樹脂として機能する構成要素であり、優れた透明性を得る観点から、好ましくは、アクリル酸アルキルエステル0〜50重量%、及びメタクリル酸アルキルエステル100〜50重量%からなるアクリル樹脂用単量体の重合体である。
【0026】
このようなアクリル樹脂(A2)の製造方法には特に限定はなく例えば、懸濁重合法、乳化重合法等が用いられ得るが、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルを効率的に共重合させる観点から、懸濁重合法が好ましい。
【0027】
(ゴム共重合体(A1c))
前記ゴム共重合体(A1c)は、そのゴム弾性により本発明に係る耐衝撃性改良効果を主に担う構成要素であり、その屈折率は、グラフト成分(A1s)やアクリル樹脂(A2)の屈折率に近いほど、又その粒径が小さいほど、透明性になり易く、このようなゴム共重合体(A1c)の数平均粒子径は、耐衝撃性と透明性とをバランスさせる観点から、30〜400nmとすることが好ましく、より好ましくは40〜300nmである。
【0028】
またこのようなゴム共重合体(A1c)は、優れた衝撃強度、透明性を得る観点から、好ましくは、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、共重合可能なアクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体0〜49.9重量%、及び多官能性単量体0.1〜10重量%からなるゴム共重合体用単量体100重量%の重合体であるが、より好ましくは、アクリル酸アルキルエステル70〜99重量%、共重合可能なアクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体0〜29重量%、及び多官能性単量体0.1〜5重量%からなるゴム共重合体用単量体100重量%の重合体である。
【0029】
(グラフト成分(A1s))
前記グラフト成分(A1s)は、前記アクリル樹脂(A2)とともに、本発明の組成物の基材樹脂として、前記ゴム共重合体(A1c)、及び本発明に係るカーボンブラック(B)を包む連続層樹脂、即ち、マトリクス樹脂として機能する構成要素であり、優れた衝撃強度、透明性、及び成形加工性を得る観点から、好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、及び共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体0〜50重量%からなるグラフト成分用単量体100重量%の重合体であるが、より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル80〜100重量%、及び共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体20〜0重量%からなるグラフト成分用単量体100重量%の重合体である。本発明の組成物の流動性を向上させ成形加工性より向上させる観点から、グラフト成分用単量体100重量%に、さらに、ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン化合物を0.01〜5重量%加えることが好ましい。
【0030】
このグラフト成分(A1s)は、必要に応じて、それ自体を多層構造としても良い。
【0031】
(最内層重合体(A1a))
前記最内層重合体(A1a)は、本発明の樹脂組成物の衝撃強度、及び透明性をより向上させるために、前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)に付加される構成要素であり、好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル、及び芳香族ビニルからなる群から選ばれる1種以上40〜99.9重量%と、共重合可能な他のビニル単量体59.9〜0重量%と、多官能性単量体0.1〜5重量%と、からなる最内層重合体用単量体100重量%の重合体であるが、より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル、及び芳香族ビニルからなる群から選ばれる1種以上55〜90重量%と、共重合可能な他のビニル単量体45〜10重量%と、多官能性単量体0.1〜5重量%と、からなる最内層重合体用単量体100重量%の重合体である。この最内層重合体(A1a)の存在下に、前記ゴム共重合体用単量体が重合されることで、前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)において、概ね、その中央部に分布する層となる。
【0032】
(アクリル酸アルキルエステル)
前記アクリル酸アルキルエステルとしては、重合時の反応速度の観点から、そのアルキル基の炭素数が1〜8個であるものが好ましく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸−2−エチルヘキシル(2EHA)、アクリル酸−n−オクチル(nOA)等が挙げられるが、本発明に係る耐衝撃性を高める観点から、BA、2EHA、及びnOAからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、特に好ましくはBAである。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。前記アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
【0033】
(メタクリル酸アルキルエステル)
前記メタクリル酸アルキルエステルとしては、重合時の反応速度の観点から、そのアルキル基の炭素数が1〜4個であるものが好ましく、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられるが、本発明に係る加工性を高める観点から、好ましくはメタクリル酸メチルである。前記メタクリル酸アルキルエステルのアルキル基は直鎖状でも分岐鎖上でもよい。
【0034】
(芳香族ビニル)
前記芳香族ビニルとしては、好ましくはスチレン、α−メチルスチレン、及びビニルトルエンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、より好ましくはスチレンである。
【0035】
(多官能性単量体)
前記多官能性単量体は、1分子当たり2個以上の非共役二重結合を有する単量体であり、架橋剤、又はグラフト交叉剤として機能する成分であり、架橋性の観点から、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ビニル基含有多官能性単量体類、及びアリル基含有多官能性単量体類からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0036】
前記アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、及び/又は、メタクリル酸エステル、を意味する。
【0038】
前記ビニル基含有多官能性単量体類としては、ジビニルベンゼン、ジビニルアジペート等が挙げられる。
【0039】
前記アリル基含有多官能性単量体類としては、(メタ)アクリル酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0040】
(ビニル単量体)
本発明で使用できるビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の等の芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の非アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0041】
(紫外線吸収剤)
耐候性をさらに向上させる観点から、本発明の樹脂組成物に紫外線吸収剤を、その成形体の全光線透過率に影響を及ぼさない量、即ち、本発明に係るゴム変成アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜15重量部添加することが好ましく、より好ましくは0.2〜5重量部である。
【0042】
前記紫外線吸収剤としては、その紫外線吸収能の観点から、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、及びベンゾフェノン系の紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0043】
前記ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤の例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−sec−ブチル−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕、2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられ、前記ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤の例としては、2−ヒドロキシ−4−フェニルメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドレイトベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−フェニルプロポキシベンゾフェノン等が挙げられ、トリアジン系の紫外線吸収剤としては、2−(4,6ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0044】
(光安定剤)
耐候性をさらに向上させる観点から、本発明の樹脂組成物に光安定剤を、本発明に係るゴム変成アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜3重量部添加するのが好ましい。
【0045】
前記光安定剤としては、特に限定されず公知の光安定剤が使用できるが、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ドデシルコハク酸イミド、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルベンゾエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリル酸エステル、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルメチル)マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1−[(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジメチル縮合物、2−tert−オクチルアミノ−4,6−ジクロロ−s−トリアジン/N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン縮合物、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン/ジブロモエタン縮合物、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−tert−オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物などを挙げることができる。
【0046】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、各種の酸化防止剤、カーボンブラック以外の着色剤を添加することができる。
【実施例】
【0047】
つぎに具体的な実施例に基づいて本発明を説明するが、これらはいずれも例示的なものであり、本発明の内容を限定するものではない。
【0048】
(ゴム共重合体A1c−1の重合)
イオン交換水250.0重量部、ステアリン酸カリウム0.5重量部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01重量部、及び硫酸第一鉄・7水塩0.005重量部をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で攪拌しながら40℃に加熱し、アクリル酸n−ブチル(BA)84重量部、スチレン(ST)15重量部、及びメタクリル酸アリル(ALMA)1重量部からなるゴム共重合体用単量体と、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.1重量部と、からなる混合物を、4時間かけて滴下した。また、前記滴下と同時に、5重量%ステアリン酸カリウム水溶液40重量部(ステアリン酸カリウム2重量部)を4時間にわたり連続的に添加した。前記添加終了後、1.5時間攪拌を続け重合を完結させることで、ゴム共重合体A1c−1のラテックスを得た。重合転化率は98%(重合生成量/モノマー仕込量×100%)であり、得られたゴム共重合体A1c−1のラテックス中のゴム共重合体粒子の数平均粒子径は70nm(546nmの波長の光散乱を利用して求めた)であった。
【0049】
(ゴム共重合体A1c−2の重合)
上述の(ゴム共重合体A1c−1の重合)において、ステアリン酸カリウム0.5重量部を、ステアリン酸カリウム0.05重量部に変更し、また、ゴム共重合体用単量体を、BA99部、及びALMA1重量部とし、このゴム共重合体用単量体、及びクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部からなる混合物につき、その10%、一括で加え1時間重合後、残りの90%を4時間かけて滴下し、前記滴下と同時に、5重量%ステアリン酸カリウム水溶液30重量部(ステアリン酸カリウム1.5重量部)を4時間にわたり連続的に添加し、前記添加終了後、1.5時間攪拌を続け重合を完結させたこと以外は同様にして、ゴム共重合体A1c−2のラテックスを得た。重合転化率は97.5%(重合生成量/モノマー仕込量×100%)であり、得られたゴム共重合体A1c−2のラテックス中のゴム共重合体粒子の数平均粒子径は220nm(546nmの波長の光散乱を利用して求めた)であった。
【0050】
(ゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−1〜A1−4の製造)
イオン交換水220.0重量部、表1に示すゴム共重合のラテックスを固形分で表1に示す重量部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.05重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01重量部、及び硫酸第一鉄・7水塩0.005重量部をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で攪拌することで水性分散液とし、その状態を維持しながら60℃に加熱した。そこに、表1に示すグラフト組成、即ち、グラフト成分用単量体であるメタクリル酸メチル(MMA)、BA、及びアクリル酸メチル(MA)と、重合開始剤であるCHP、及びノルマル−ドデシルメルカプタン(n−DM)とが、表1に示す重量部混合された混合物を2時間にわたって連続的に添加した。添加終了後、さらに、CHP0.01重量部を添加し1時間攪拌を続けて重合を完結させることで、ゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−1〜A1−4のラテックスを得た。重合転化率は99%であった。得られたゴム含有アクリル系グラフト共重合体はゴム共重合体(A1c)の内層、及びこの内層を覆うグラフト成分(A1s)の外層からなる多層構造を有していた。これらのラテックスを公知の方法で塩析凝固、熱処理、乾燥を行ない白色粉末として、ゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−1〜A1−4を得た。
【0051】
なお、A1−4のラテックスの製造においては、上述のグラフト成分用単量体、及び重合開始剤からなるグラフト組成の混合物の2時間にわたる添加の途中、即ち、添加開始から1時間経過後に、ステアリン酸カリウムを、0.5重量部追加した。
【0052】
【表1】

【0053】
(3層構造のゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8の製造)
最内層重合体(A1a)を重合するために、イオン交換水220.0重量部、ほう酸0.3重量部、炭酸ナトリウム0.03重量部、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム0.09重量部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.09重量部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.006重量部、及び硫酸第一鉄・7水塩0.002重量部をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で撹拌しながら80℃に昇温した後、表2に示す最内層重合体用単量体と、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部からなる内層成分の混合液につき、まず、その25%を一括して仕込み、45分間重合を行なった。続いて、この混合液の残り75%を1時間に渡って連続追加した。追加終了後、同温度で2時間保持し重合を完結させることで、3層構造のゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8の最内層重合体(A1a)のラテックスを得た。なお、1時間にわたってモノマーを連続追加している時に、0.2重量部のN−ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを追加した。得られた最内層重合体(A1a)のラテックスは、架橋メタクリル系重合体ラテックスであり、その中の重合体粒子の数平均粒子径は、160nmであり、重合転化率は98%であった。但し、A1−8に於ける最内層重合体粒子の数平均粒子径は135nmであった。
【0054】
ゴム共重合体(A1c)を重合するために、上記で得た最内層重合体(A1a)のラテックスを、窒素気流中で80℃に保ち、そこに、過硫酸カリウム0.1重量部を添加した後、表2に示すゴム共重合体用単量体を5時間に渡って連続追加した。この5時間の間にオレイン酸カリウム0.1重量部を3回に分けて添加した。追加終了後、重合を完結させるためにさらに過硫酸カリウムを0.05重量部添加した後2時間保持することで、3層構造のゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8の、最内層重合体(A1a)、及びゴム共重合体(A1c)からなる2層構造までからなる重合体粒子のラテックスを得た。得られた2層構造までからなる重合体粒子の数平均粒子径は、各々表2に示す値であり、重合転化率は共通して99%であった。
【0055】
グラフト成分(A1s)を重合するために、上記で得た2層構造までからなる重合体粒子のラテックスラテックスを80℃に保ち、そこに、過硫酸カリウム0.02重量部を添加した後、表2に示すグラフト組成、即ち、グラフト成分用単量体であるMMA、BA、及びMAと、重合開始剤であるn−DMとが、表2に示す重合部混合された混合物を2時間に渡って連続追加した。混合物の追加終了後1時間保持することで、3層構造のゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8のラテックスを得た。重合転化率は共通して99%であった。得られた3層構造のゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8のラテックスを公知の方法で塩析凝固、熱処理、乾燥を行ない白色粉末として、ゴム含有アクリル系グラフト共重合体A1−5〜A1−8を得た。
【0056】
【表2】

【0057】
(カ−ボンブラックのマスターバッチの製造)
カーボンブラックの分散性を向上させるために、平均一次粒子が13nmのカーボンブラック(三菱化学製#2600)40重量部と、アクリル系可塑剤性樹脂(メタクリル酸メチル87重量%、及びアクリル酸メチル13重量%からなる共重合体で、メルトフロー(JIS K7210、230℃*37.3N)が15のもの)60重量部と、酸化防止剤(チバ・ジャパン製のイルガノックス1010)0.5重量部を、44mmの2軸押出機を用いて、240℃で2回ペレット化した後粉砕することで、カ−ボンブラックのマスターバッチ(CB−1)を製造した。
【0058】
比較のため、平均一次粒子が50nmのカーボンブラック(三菱化学製#20)を用い、同様にして、カ−ボンブラックのマスターバッチ(CB−2)を製造した。
【0059】
(実施例、及び比較例)
アクリル樹脂(A2)として下記の樹脂を使用した。
A2−1:メタクリル酸メチル97重量%、及びアクリル酸メチル3重量%からなるアクリル樹脂用単量体の共重合体で、メルトフロー(JIS K7210、230℃*37.3N)が2.0のもの。
A2−2:メタクリル酸メチル87重量%、及びアクリル酸メチル13重量%からなるアクリル樹脂用単量体の共重合体で、メルトフロー(JIS K7210、230℃*37.3N)が15のもの。
【0060】
表3示す重量部数で、ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)、及びアクリル樹脂(A2)からなるゴム変成アクリル系樹脂(A)と、カーボンブラックマスターバッチとを配合し、さらに、紫外線吸収剤であるチバ・ジャパン製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤「チヌビン234」(登録商標)0.5重量部、光安定剤である旭電化工業製のヒンダードアミン系光安定剤「アデカスタブLA−63」(登録商標)0.5重量部、及び酸化防止剤であるチバ・ジャパン製のヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1010」(登録商標)を0.5重量部添加した配合物を、44mmの2軸押出機を用いて、240℃でペレット化し、そのペレットを用いて、150*150*3mmの平板とバ−を成形した。なお、比較例4では、カーボンブラックマスターバッチを用いず、その代わりに、ニグロシン染料(オリヱント化学工業製 ニグロシンベース EX)をマスターバッチとせずに、そのまま添加した。
【0061】
このようにして得たバーサンプルを用いて、ASTM D−256に準拠して、1/4インチ、ノッチなし、23℃の条件でアイゾット衝撃試験を実施した。測定結果を表3に示す。
【0062】
また、平板サンプルを用いて、漆黒度を目視で評価した。評価結果を、表3に、◎:非常に優れている、○:優れている、X:劣っている(ボケ黒)として示す。
【0063】
さらに、カーボンブラックマスターバッチを配合しないこと以外は同様にして、150*150*3mmの平板を成形したサンプルを用いて、JIS K 7361−1に示される方法で全光線透過率を測定し、3mm厚の成形体の波長380〜780nmでの平均透過率の値により、透明性を評価した。
【0064】
耐候性の評価は、150*150*3mmの平板サンプルを、47*72*3mmに切断して、スガ試験機(株)製WEL−SUN−HCH・B型サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(サンシャインスーパーロングライフウェザロメーター)を用いて、ブラックパネル温度63℃で、60分照射中12分間水噴霧のサイクルという条件にて2000時間暴露する耐候性試験を実施し、この耐候試験後の漆黒度を、初期の漆黒度の評価方法と同様、目視にて評価することで実施した。
【0065】
耐水性の評価は、前記150*150*3mmの平板サンプルを、47*72*3mmに切断して、80℃の純水に100時間浸漬する耐水性試験を実施し、この耐水性試験後の漆黒度を、初期の漆黒度の評価方法と同様、目視にて評価することで実施した。
【0066】
上記各実施例、及び比較例の組成、及び評価結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示すように、本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、漆黒性、耐衝撃性、耐候性、及び耐湿性に優れる。
【0069】
(測定)
全光線透過率 日本電色 NDH−300A JIS K−7105
色差計 日本電色 SE2000 JISZ8722 0−45度 後分光方式 反射モード、2回 平均、開口部アタッチメントφ30
【0070】
(耐候性試験)
JIS K 7350−4に従い、ブラックパネル63℃、雨有り、照射エネルギー255W/m2にて実施した。
【0071】
(使用した樹脂)
アクリル樹脂1 三菱レイヨン アクリペット VH001 (カタログ値:荷重たわみ温度(JISK7191、1.80MPa)100℃、メルトフローレート(JISK7210、230℃、37.3N)2.0g/10min)
アクリル樹脂2 クラレ パラペット F1000
アクリル樹脂3 旭化成 デルペット 80NE (カタログ値:荷重たわみ温度(ISO75−1、75−2)97℃、メルトフローレート(ISO1133 cond13)2.3g/10min)
アクリル樹脂4 720V(カタログ値:荷重たわみ温度(ISO75−1、75−2)93℃、メルトフローレート(ISO1133 cond13)21g/10min)
アクリルゴム1 (株)カネカ製 アクリル系モディファイヤー カネエースM210 (多層構造のゴム粒子、コア:多層構造のアクリルゴム、シェル:メタアクリル酸メチルを主成分とするアクリル系ポリマー、おおよその粒子径:220nm)
【0072】
(カ−ボンブラック)
平均一次粒子径が13nmのカーボンブラック:40重量部、上記アクリル樹脂2:59重量部、酸化防止剤(イルガノックス1010):0.5重量部、分散剤(アルキル酸エステル):0.5重量部を、44mmの2軸押出機を用いて、260℃で2回ペレット化した後粉砕することで、カーボンブラックのマスターバッチ(CB−3)を製造した。
【0073】
比較例として、住化カラー、SPAB−8K500(カーボン濃度45%)を使用した。
【0074】
(その他配合剤)
配合表に記載した以外に、チバ・ジャパン、チヌビン234(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)。旭電化工業、アデカスタブLA−63(ヒンダードアミン系光安定剤)。チバ・ジャパン、イルガノックス1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)を、それぞれ0.5重量部ずつ使用した。
【0075】
(単軸押出)
40mmの単軸押出機を用いて、ダイヘッド温度を260℃に設定し、ドライブレンドした樹脂材料などを押し出してストランドとして、ペレタイザーでペレット化した。
【0076】
(二軸押出)
44mmの2軸押出機JSW−TEX44を用いて、ダイヘッド温度を260℃に設定し、同様にペレット化した。
【0077】
(射出成形)
FANUCオートショットFAS−150B(型締力150トン)射出成形機を用いて、ノズル先端温度を250℃に設定し、150*150*3mmの平板(鏡面仕上げ)を成形した。
東芝IS−75E(型締力75トン)射出成形機を用いて、ノズル先端温度を250℃に設定し、ASTM規格のバ−・ダンベルを成形した。
日精樹脂工業FN−1000(型締力80トン)射出成形機を用いて、ノズル先端温度を250℃に設定し、50*80*2mmのカラープレート(鏡面仕上げ)を成形した。
【0078】
(評価)
バーサンプルを用いて、ASTM D−256に準拠して、1/4インチ、ノッチあり、23℃の条件でアイゾット衝撃試験を実施した。単位:J/m
バーサンプルを用いて、ASTM D648に準拠して、0.45MPaの条件で、HDT試験を実施した。単位:℃
成形前のペレットを用いて、ASTM D1238に準拠して、230℃、5kgfの条件で、MFR試験を実施した。単位:g/10min
平板サンプルを用いて、漆黒度を目視で評価した。評価結果を、◎:非常に優れている、○:優れている、X:劣っている(ボケ黒)として示す。
平板およびカラープレート成形体の鏡面を用いて、色差計SE2000(日本電色工業)にて、Lab値を測定した。
表4に示す組成に従い、配合、単軸押出機による押出、成形、評価を行った、各実施例及び比較例の結果を示す。ただし、比較例7は、日産自動車のムラーノの外装部品であるCピラー(黒色鏡面)を取り外し、測定した。加えて、表4における、実施例16、17、18、比較例6には、リン系安定剤として、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトを、0.3重量部配合した。
【0079】
【表4】

【0080】
平板での比較において、表4の実施例10〜18に示すように、本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、L値:約5.0〜約6.0の範囲にあり、比較例5〜6に示されるL値:約8.2〜約8.8と比べて有意に値が低いため、本発明の組成物および成形体は、漆黒性が高いといえる。
【0081】
カラープレートの比較において、同様に、表4の実施例10〜18のL値:約5.7〜約6.5の範囲にあり、比較例5〜6に示されるL値:約9.4〜約9.9と比べて有意に値が低いため、本発明の組成物および成形体は、漆黒性が高いといえる。カラープレートのL値が全体的に平板よりも高くなっているのは、表面の樹脂配向によるものと思われる。
【0082】
いずれも、本実施例のL値は、比較例7のL値:約7.7と比べて低く、漆黒性が高いといえる。
【0083】
以上のように、実施例において、初期のL値が低いにもかかわらず、耐候性試験1000h前後でのL値の変化が1以内になっていることから、本件発明の材料は、漆黒度とともに、耐候性も優れていることが分かる。
【0084】
表5に示す組成に従い、配合、二軸押出機による押出、成形、評価を行った、各実施例及び比較例の結果を示す。比較例8は、BMWグループ製造のミニクーパーの外装部品であるAピラー(黒色鏡面)を取り外し、測定した。なお、このAピラーから削り取った材料を少量取り、メタノールに浸漬したところ、赤〜紫の色成分が抽出されてきたことから、当該ピラーは染料で着色されていることが分かった。このメタノール可溶成分のIRスペクトルは、アンスラキノン系染料のIRスペクトルとよく一致した。加えて、この少量削り取った材料をTHFで溶解させ、この可溶成分をKBr板にキャストして測定したIRスペクトルは、PMMA樹脂のIRスペクトルとよく一致した。さらに、この材料のTEM観察を行ったところ、アクリルゴム成分などのゴム粒子は見られなかった。
【0085】
【表5】

【0086】
平板において、表5の実施例19〜23に示すように、本発明のゴム変性アクリル系樹脂組成物は、L値:約5.2〜約5.8の範囲にあり、また、カラープレートにおいて、L値:約5.9〜約7.3の範囲にあり、溶融混錬の方法が異なっても、本発明の組成物および成形体は、漆黒性が高いといえる。
【0087】
以上のように、これらの実施例においても、初期のL値が低いにもかかわらず、耐候性試験1000h前後でのL値の変化が1以内になっていることから、本件発明の材料は、漆黒度とともに、耐候性も優れていることが分かる。その反面、比較例8においては、初期のL値は低いものの、耐候性試験1000h前後でのL値の変化が1を超えていることから、耐候性に劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3mm厚の成形体の全光線透過率が85%以上である透明性を有するゴム変成アクリル系樹脂(A)にカーボンブラック(B)を配合してなる樹脂組成物であって、
該樹脂組成物中に分散した該カーボンブラックの粒径が10〜40nmであることを特徴とする漆黒のゴム変性アクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム変成アクリル系樹脂(A)100重量部が、
ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)5〜100重量部、及びアクリル樹脂(A2)95〜0重量部を含み、
該ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)が、ゴム共重合体(A1c)の内層、及び該内層を覆うグラフト成分(A1s)の外層を、A1c:A1sの重量比が5:95〜85:15で含む多層構造グラフト共重合体であり、
該ゴム共重合体(A1c)が、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、共重合可能な他のビニル単量体0〜49.9重量%、及び多官能性単量体0.1〜10重量%からなるゴム共重合体用単量体100重量%の重合体であり、
該グラフト成分(A1s)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、及び共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル以外のビニル単量体0〜50重量%からなるグラフト成分用単量体100重量%の重合体であり、かつ、
該アクリル樹脂(A2)が、アクリル酸アルキルエステル0〜50重量%、及びメタクリル酸アルキルエステル100〜50重量%からなるアクリル樹脂用単量体の重合体である、請求項1に記載のゴム変性アクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)の数平均粒子径が30〜400nmである、請求項1、又は2に記載のゴム変性アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム含有アクリル系グラフト共重合体(A1)が、さらに、最内層重合体(A1a)を、A1a:(A1c、及びA1sの合計量)の重量比が10:90〜40:60で含み、かつ、
該最内層重合体(A1a)の存在下に、前記ゴム共重合体用単量体が重合されてなる、少なくとも3層構造を有する多層構造グラフト共重合体であり、かつ、
該最内層重合体(A1a)が、メタクリル酸アルキルエステル、及び芳香族ビニルからなる群から選ばれる1種以上40〜99.9重量%と、共重合可能な他のビニル単量体59.9〜0重量%と、多官能性単量体0.1〜5重量%と、からなる最内層重合体用単量体100重量%の重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載のゴム変性アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体であって、鏡面仕上げの金型で射出成形した平板成形体を、JISZ−8722に規定される0〜45度後分光方式の色差計で測定した場合に、そのL値が0〜8の範囲であることを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体であって、鏡面仕上げの金型で射出成形した平板成形体を、JIS K 7350−4に規定する、ブラックパネル63℃、雨有り、255W/m2の条件で1000hの時間、耐候性試験を行った、試験前後での色差計でのL値の変化が0〜1の範囲であることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2011−12247(P2011−12247A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54670(P2010−54670)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】