説明

漏洩トランス

【課題】一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたりコア形状を変えたりしなくても漏れインダクタンスを調整可能にする。
【解決手段】一次コイル(10)と二次コイル(20)とを横に並べて設けた漏洩トランスであって、一次コイル(10)を第1分割コイル(11)と第2分割コイル(12)とに2分割し、第1分割コイル(11)と第2分割コイル(12)の間に二次コイル(20)を挟んで配置する。
【効果】第1分割コイル(11)と第2分割コイル(12)の巻数比を変えることにより漏れインダクタンスを調整でき、一次コイル(10)と二次コイル(20)の間の空隙幅を変えたり、コア(1a,1b)の形状を変えたりしなくても済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩トランスに関し、更に詳しくは、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたりコア形状を変えたりしなくても漏れインダクタンスを調整することが出来る漏洩トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
一次コイルと二次コイルとを横に並べて設け、一対の断面E形コアを装着した漏洩トランスでは、従来、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたり、コア形状を変えたりすることで、漏れインダクタンスを調整していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−85004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えて漏れインダクタンスを調整する方法において、漏れインダクタンスを小さくするには空隙幅を小さくすればよいが、空隙幅を0にしたときの漏れインダクタンスが最小値であり、それ以下には漏れインダクタンスを小さくすることが出来ない問題点がある。一方、漏れインダクタンスを大きくするには空隙幅を大きくすればよいが、横方向サイズが大きくなってしまう問題点がある。
他方、コア形状を変えて漏れインダクタンスを調整する方法では、形状が異なるコア(ギャップの大きさが異なるコア)を用意しなければならず、部品管理が煩雑になる問題点がある。
そこで、本発明の目的は、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたりコア形状を変えたりしなくても漏れインダクタンスを調整することが出来る漏洩トランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、一次コイルと二次コイルとを横に並べて設けた漏洩トランスであって、前記一次コイルまたは二次コイルのうちの一方のコイルを第1分割コイルと第2分割コイルとに2分割し、それら第1分割コイルと第2分割コイルの間に前記一次コイルまたは二次コイルのうちの他方のコイルを挟んで配置したことを特徴とする漏洩トランスを提供する。
上記第1の観点による漏洩トランスでは、一次コイルまたは二次コイルのうちの一方で他方を挟んで配置した構成なので、単に一次コイルの横に並べて二次コイルを設けた構成に比べて、一次コイルと二次コイルの結合度を上げることができ、漏れインダクタンスの最小値を小さくすることが出来る。また、第1分割コイルと第2分割コイルの巻数比を変えることにより結合度を調整できる(巻数比を1:1に近づけるほど結合度は大きくなる)ので、漏れインダクタンスを調整でき、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたり、コア形状を変えたりしなくても済む。さらに、一次コイルまたは二次コイルのうちの一方を先に巻けば、第1分割コイルと第2分割コイルとが壁の役割をするので、それらの間に他方のコイルを巻きやすくなり、隔壁を設けなくて済み、小型化に資する。
なお、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたり、コア形状を変えたりすることを併用すれば、さらに結合度を調整することが出来るので、必要であれば、これらを併用してもよい。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による漏洩トランスにおいて、前記一次コイルまたは二次コイルのうちの一方のコイルはα巻きであることを特徴とする漏洩トランスを提供する。
上記第2の観点による漏洩トランスでは、一次コイルまたは二次コイルのうちの一方のコイルがα巻きであるため、第1分割コイルになる部分と第2分割コイルになる部分とを有する一つのコイルとして製造でき、第1分割コイルと第2分割コイルとを別体に製造してから両者を接続するよりも手間が省け、製造工数の削減や、接続端子等の部品を必要としない。
【0007】
第3の観点では、本発明は、前記第1または第2の観点による漏洩トランスにおいて、前記一次コイルおよび二次コイルのうちの一方あるいは他方あるいは両方とも、複数の導体素線を撚った撚線の外周に3層の樹脂絶縁層を備えた三層絶縁電線としたことを特徴とする漏洩トランスを提供する。
上記第3の観点による漏洩トランスでは、耐絶縁性に優れた三層絶縁電線を用いるため、一次コイル−二次コイル間に十分な絶縁耐圧が得られ、隔壁を設けなくて済み、小型化に資する。
【0008】
第4の観点では、本発明は、前記第3の観点による漏洩トランスにおいて、断面略円形の三層絶縁電線を複数本平行に並べて一つの扁平な巻線線材としたことを特徴とする漏洩トランスを提供する。
上記第4の観点による漏洩トランスでは、一つの巻線線材を扁平形状としたため、断面略円形の一つの巻線線材を用いるよりも線材間の空間を少なくでき、小型化に資する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の漏洩トランスによれば、単に一次コイルの横に並べて二次コイルを設けた構成に比べて漏れインダクタンスの最小値を小さくすることが出来る。また、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたりコア形状を変えたりしなくても漏れインダクタンスを調整することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係る漏洩トランスを示す断面図である。
【図2】実施例1に係る漏洩トランスを示す斜視図である。
【図3】実施例1に係る漏洩トランスのコアと一次コイルと二次コイルとを示す分解斜視図である。
【図4】実施例1に係る漏洩トランスの一次コイルを示す斜視図である。
【図5】実施例1に係る漏洩トランスの二次コイルを示す斜視図である。
【図6】実施例1に係る漏洩トランスの特性図である。
【図7】実施例2に係る漏洩トランスの特性図である。
【図8】比較例1に係る漏洩トランスの特性図である。
【図9】比較例2に係るトランスの特性図である。
【図10】実施例5に係る漏洩トランスを示す分解斜視図である。
【図11】実施例6に係る漏洩トランスを示す分解斜視図である。
【図12】実施例7に係る漏洩トランスの一次コイル及び二次コイルを示す斜視図である。
【図13】実施例8に係る漏洩トランスの一次コイル及び二次コイルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る漏洩トランス100を示す断面図である。
この漏洩トランス100は、コア1a,1bと、コイルボビン2と、一次コイル10と、二次コイル20とを具備している。
【0013】
コア1a,1bは、それぞれ短軸方向の断面がT字形であり、長軸方向の断面がE字形である。図3に、全体形状が表されている。
図2に示すように、コア1a,1bは、互いに突き合わせるように組み合わせられる。
【0014】
コイルボビン2は、コア1a,1bを入れるための空間を中央に有する筒部2aと、その筒部2aの両端の鍔部2b,2bを有している。
【0015】
一次コイル10は、55本の線径0.1mmの銅及び銅合金素線を撚った撚線の外周にテープ巻き或いは押出あるいはそれらの組合せにより3層の樹脂絶縁層を設けた断面略円形の三層絶縁電線を3本平行に並べて一つの扁平な巻線線材とし、その巻線線材をα巻きしたものであり、第1分割コイル11および第2分割コイル12の2つのコイル部がある。なお、第1分割コイル11および第2分割コイル12をつなぐ渡り部が通常のα巻きよりも長くなっている。10a,10bは、一次コイル引出線である。図4に全体形状が表されている。
一次コイル10の巻数は13ターンであり、第1分割コイル11の巻数を6ターンとし、第2分割コイル12の巻数を7ターンとしている。
【0016】
二次コイル20は、55本の線径0.1mmの銅及び銅合金素線を撚った撚線の外周にテープ巻き或いは押出あるいはそれらの組合せにより3層の樹脂絶縁層を設けた断面略円形の三層絶縁電線を3本平行に並べて一つの扁平な巻線線材とし、その巻線線材を積層巻きしたものであり、一次コイル10の第1分割コイル11と第2分割コイル12の間に巻かれている。20a,20bは、二次コイル引出線である。図5に全体形状が表されている。
二次コイル20の巻数は21ターンである。
【0017】
図2は、漏洩トランス100の斜視図である。
図3は、漏洩トランス100のコア1a,1bと一次コイル10と二次コイル20とを示す分解斜視図である。
図4は、一次コイル10を示す斜視図である。
図5は、二次コイル20を示す斜視図である。
【0018】
図6は、漏洩トランス100の特性図である。
二次コイル20をオープンにし、一次コイル10に測定器を接続して測定した結果、1次励磁インダクタンスは100kHzにおいて810μHであり、1次漏れインダクタンスは100kHzにおいて5.4μHであり、共振周波数は623kHzであった。
【0019】
実施例1の漏洩トランス100によれば、次の効果が得られる。
(1)一次コイル10の第1分割コイル11と第2分割コイル12とで二次コイル20を挟んで配置した構成なので、単に一次コイルの横に並べて二次コイルを設けた構成に比べて、一次コイル10と二次コイル20の結合度を上げることができ、漏れインダクタンスの最小値を小さくすることが出来る。
なお、実施例1では、第1分割コイル11と第2分割コイル12の巻数比が1:1に近いため、漏れインダクタンスの値5.4μHはほぼ最小値である。
【0020】
(2)第1分割コイル11と第2分割コイル12の巻数比を変えることにより漏れインダクタンスを調整でき、一次コイルと二次コイルの間の空隙幅を変えたり、コア形状を変えたりしなくても済む。
なお、実施例1では、第1分割コイル11と第2分割コイル12の巻数比が1:1に近いが、巻数比を1:1から遠ざければ(例えば一次コイル10の巻数13ターンは変えずに、第1分割コイル11の巻数を5ターンとし、第2分割コイル12の巻数を8ターンとする。)、漏れインダクタンスの値を最小値5.4μHよりも大きく出来る。
【0021】
(3)一次コイル10を先に巻くので、その第1分割コイル11と第2分割コイル12とが壁の役割をし、それらの間に二次コイル20を巻きやすくなり、隔壁を設けなくて済み、小型化できる。
【0022】
(4)一次コイル10がα巻きであるため、第1分割コイル11の部分と第2分割コイルになる部分とを有する一つのコイルとして製造でき、第1分割コイルと第2分割コイルとを別体に製造してから両者を接続するよりも手間が省け、製造工数の削減や、接続端子等の部品を必要としない。
【0023】
(5)耐絶縁性に優れた三層絶縁電線を用いるため、一次コイル−二次コイル間に十分な絶縁耐圧が得られ、隔壁を設けなくて済み、小型化できる。
(6)一つの巻線線材を扁平形状としたため、断面略円形の一つの巻線線材を用いるよりも、線材間の空間を少なくでき、小型化できる。
【0024】
−実施例2−
実施例1における巻線線材(三層絶縁電線を3本平行に並べて一つの扁平な巻線線材としたもの)の代わりに、扁平な編組線を用いてもよい。
図7は、線径0.1mmの銅及び銅合金素線240本を編組した編組線で一次コイル10を巻き、線径0.1mmの銅及び銅合金素線168本を編組した編組線で二次コイル20を巻いた構成の漏洩トランスの特性図である。
二次コイルS1をオープンにし、一次コイルP1に測定器を接続して測定した結果、1次励磁インダクタンスは100kHzにおいて846μHであり、1次漏れインダクタンスは100kHzにおいて5.9μHであり、共振周波数は397kHzであった。
実施例1と比べると、線材間の空間が少なくなり、共振周波数が低くなっている。
【0025】
−実施例3−
実施例1の一次コイル10を二次コイルとし、実施例1の二次コイル20を一次コイルとしてもよい。
【0026】
−実施例4−
実施例1の第1分割コイル11と二次コイル20の間および第2分割コイル12と二次コイル20の間に隔壁を設けてもよい。
【0027】
−比較例1−
図8の(a)は、単に一次コイルP1の横に並べて二次コイルS1を設けた構成の漏洩トランスの要部断面図である。図8の(b)は、その特性図である。なお、実施例1と同じ線材(断面略円形の三層絶縁電線を3本平行に並べた一つの扁平な巻線線材)を用いた。
二次コイルS1をオープンにし、一次コイルP1に測定器を接続して測定した結果、1次励磁インダクタンスは100kHzにおいて833μHであり、1次漏れインダクタンスは100kHzにおいて10.9μHであり、共振周波数は595kHzであった。
実施例1と比べると、1次漏れインダクタンスが2倍になっているが、これが最小値であり、これ以下にすることは出来ない。
【0028】
−比較例2−
図9の(a)は、第1の一次コイルP1の外周に二次コイルS1を巻き、その二次コイルS1の外周に第2の一次コイルP2を巻き重ねた構成のトランスの要部断面図である。図9の(b)は、その特性図である。なお、実施例1と同じ線材(断面略円形の三層絶縁電線を3本平行に並べた一つの扁平な巻線線材)を用いた。
二次コイルS1をオープンにし、一次コイルP1に測定器を接続して測定した結果、1次励磁インダクタンスは100kHzにおいて832μHであり、1次漏れインダクタンスは100kHzにおいて0.8μHであり、共振周波数は490kHzであった。
実施例1と比べると、1次漏れインダクタンスが小さすぎる。
【0029】
−実施例5−
図10は、実施例5に係る漏洩トランスを示す分解斜視図である。
この漏洩トランスは、例えば線径0.1mmの銅及び銅合金素線240本を編組した編組線によるエッジワイズコイルで第1分割コイル11及び第2分割コイル12を構成し、それらを接続して一次コイル10としたものである。一次コイル10以外の構成は、実施例1と同様である。
【0030】
−実施例6−
図11は、実施例6に係る漏洩トランスを示す分解斜視図である。
この漏洩トランスは、例えば線径0.1mmの銅及び銅合金素線240本を編組した編組線によるエッジワイズコイルで二次コイル20を構成したものである。二次コイル20以外の構成は、実施例5と同様である。
【0031】
−実施例7−
図12の(a)は、実施例7に係る漏洩トランスの一次コイル10及び二次コイル20を示す斜視図である。同図(b)は、一次コイル10のみの斜視図である。
この漏洩トランスは、例えば55本の線径0.1mmの銅及び銅合金素線を撚った撚線の外周にテープ巻き或いは押出あるいはそれらの組合せにより3層の樹脂絶縁層を設けた断面略円形の三層絶縁電線1本により整列巻コイルで第1分割コイル11及び第2分割コイル12を構成し、それらをα巻きのように一体的に巻いて一次コイル10としたものである。一次コイル10以外の構成は、実施例1と同様である。
【0032】
−実施例8−
図13の(a)は、実施例8に係る漏洩トランスの一次コイル10及び二次コイル20を示す斜視図である。同図(b)は、一次コイル10のみの斜視図である。
この漏洩トランスは、例えば55本の線径0.1mmの銅及び銅合金素線を撚った撚線の外周にテープ巻き或いは押出あるいはそれらの組合せにより3層の樹脂絶縁層を設けた断面略円形の三層絶縁電線1本により整列巻コイルで第1分割コイル11及び第2分割コイル12を構成し、それらを接続して一次コイル10としたものである。一次コイル10以外の構成は、実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の漏洩トランスは、放電灯の安定器、アーク溶接の安定器、電子レンジのマグネトロンの安定器、スイッチング電源、DC−DCコンバータなどに利用することが出来る。
【符号の説明】
【0034】
1a,1b コア
2 コイルボビン
2a 筒部
2b 鍔部
10 一次コイル
11 第1分割コイル
12 第2分割コイル
20 二次コイル
100 漏洩トランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと二次コイルとをの横に並べて設けた漏洩トランスであって、前記一次コイルまたは二次コイルのうちの一方のコイルを第1分割コイルと第2分割コイルとに2分割し、それら第1分割コイルと第2分割コイルの間に前記一次コイルまたは二次コイルのうちの他方のコイルを挟んで配置したことを特徴とする漏洩トランス。
【請求項2】
請求項1に記載の漏洩トランスにおいて、前記一次コイルまたは二次コイルのうちの一方のコイルはα巻きであることを特徴とする漏洩トランス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の漏洩トランスにおいて、前記一次コイルおよび二次コイルのうちの一方あるいは他方あるいは両方とも、複数の導体素線を撚った撚線の外周に3層の樹脂絶縁層を備えた三層絶縁電線としたことを特徴とする漏洩トランス。
【請求項4】
請求項3に記載の漏洩トランスにおいて、断面略円形の三層絶縁電線を複数本平行に並べて一つの扁平な巻線線材としたことを特徴とする漏洩トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−74144(P2013−74144A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212444(P2011−212444)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】