説明

漏洩CO2検出方法及び漏洩CO2検出装置、地中貯留CO2の漏洩モニタリング方法

【課題】CO貯留層からの漏洩があることを的確に判定する。
【解決手段】海上部30は、船舶に搭載されて測定者によって直接制御され、海中部20を遠隔操作する。海中部20は、漏洩COを検知すべき海中に投入される。気泡等103が存在すると判定された、あるいはPHが所定の値以下であった場合には、海中制御部22又は海上制御部32は、COが存在する可能性があると認識する。この場合、海中制御部22は、サンブリング部(試料採取部)24にこの部分の海水を採取させる。第1の分析部34では、CO成分が実際にこの中に存在するか否かが判定される。ここでCOが検出された場合には、第2の分析部35は、採取されたCOに対して質量分析を行い、その13C/12Cの存在比率(同位体比)を算出する。海上制御部32は、この同位体比が、ある所定の値以下であるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に貯留した炭酸ガスの漏洩を検出する漏洩CO検出方法、及び漏洩CO検出装置に関する。また、これらを利用した地中貯留COの漏洩モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の最大の原因として知られる炭酸ガス(CO)を減少させることが全世界的に問題になっている。ただし、COは産業上の様々な分野で発生するため、COの生成を抑制することだけによってこれに対処することは困難であり、生成されたCOを大気中に放出せず、地下や海底下に貯留するという方法も提案、実施されている。ここで減少させる対象となるCOは、主に燃料(化石燃料、バイオマス原料等)の燃焼によって生成されたCOである。
【0003】
図3は、この貯留の状況を模式的に表した図である。図においては、第1の地層100、第2の地層101、海水102からなる自然の地形の断面が示されている。この構成においては、地上におけるCO圧入設備91から、海底下の地中にあるCO貯留層92まで配管93が設けられており、地上からCOが輸送され、貯留CO94となる。また、海上にCO圧入用浮体95から配管96を介してCOを輸送することも可能である。海底下のCO貯留層92は、貯留CO94の上方に強固な保護層921が存在しているため、貯留CO94が高圧であるにもかかわらずCOの漏洩は通常発生しない。従って、COが大気中に拡散して温暖化の原因となることが抑制できる。なお、図3においては、便宜上第1の地層100と第2の地層101とを分けて記載しているが、CO貯留槽92を形成できる構造であればよく、これらが明確に区別される構造をもつ必要はない。
【0004】
しかしながら、例えば地震により第2の地層101に衝撃が発生して第2の地層101や保護層921にクラック120が生じ、貯留CO94の一部が海水101中に漏洩する可能性がある。通常CO貯留層92は安定な岩盤下に存在するため、このクラック(漏洩)の有無を検知することは困難であるが、CO貯留層92を設けた目的に鑑みて、これを検知することは極めて重要である。
【0005】
この際にCOは、海中に漏洩して気泡となるか、深い海底中においては圧力が高いために気泡がそのまま液体COとなった状態(以下、この状態を液滴と呼称する)として存在する。これらの気泡や液滴(以下気泡等)103は、クラック120の上部に発生する。このCOを検出する方法が、例えば特許文献1に記載されている。この技術においては、船舶からデータキャリア(水中応答器)が海中に投入される。データキャリアは、例えば海中のPHを測定することによって、COが漏洩し、気泡等103が水中に溶存して生成される炭酸を検知する。データキャリアで検出されたデータは、音響通信を利用して船舶の送受信器に送信される。これによって、COの漏洩を間接的に検出することができる。これによって、CO貯留層92にクラックが生じたことを知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−191111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにCO貯留層92に貯留されたCOの他に、自然発生するCOも存在し、例えば、火山活動に伴ってCOが発生することもある。このため、実際にはCO貯留層92からの漏洩CO以外に、自然発生したCOも同様に検出される。従って、人工的に貯留された漏洩COのみを正確に検出することは困難であり、CO貯留層92からの漏洩があることを的確に判定することは困難であった。
【0008】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に係る漏洩CO検出方法は、燃料の燃焼によって生成されたCOを貯留したCO貯留層からの漏洩COを検出する漏洩CO検出方法であって、前記CO貯留層の周囲の環境から被分析試料を採取する採取ステップと、前記被分析試料中においてCOが存在するか否かを判定するCO検出ステップと、前記被分析試料中に存在したCOにおける安定同位体同士の存在比率を測定する同位体分析ステップと、前記存在比率に基づいて、前記COには前記漏洩COが含まれるか否かを判定する判定ステップと、を具備することを特徴とする。
この発明においては、採取ステップにおいて採取された非分析試料中にCOが存在するか否かがCO検出ステップにおいて判定される。その後、検出されたCO中の安定同位体同士の存在比率が同位体分析ステップにおいて測定され、この存在比率に基づいてこのCOに漏洩COが含まれるか否かが判定ステップにおいて判定される。
また、本発明の漏洩CO検出方法において、前記安定同位体同士の存在比率は、13Cと12Cとの存在比率であることを特徴とする。
この発明においては、前記の安定同位体として13Cと12Cが特に用いられ、これらの存在比率が算出され、判定ステップではこの存在比率に基づいて判定がなされる。
また、本発明の漏洩CO検出方法は、前記採取ステップの前に、前記CO貯留層近傍の環境に対して超音波を照射することによって気泡又は液滴の有無を認識する探査ステップを具備し、前記採取ステップにおいて、前記気泡又は液滴が確認された箇所から前記被分析試料を採取することを特徴とする。
この発明においては、COが存在している可能性が高いと認識された箇所から被分析試料が採取される。COが存在している可能性が高いことは、気泡や液滴(液状のCO)からの超音波の反射の有無を利用して認識される。
また、本発明の漏洩CO検出方法は、前記採取ステップの前に、前記CO貯留層近傍の環境のPH値を計測する探査ステップを具備し、前記採取ステップにおいて、前記PH値が所定の値よりも低い箇所から前記被分析試料を採取することを特徴とする。
この発明においても、COが存在している可能性が高いと認識された箇所から被分析試料が採取される。COが存在している可能性が高いことは、水のPH値が低いことで認識される。
また、本発明の漏洩CO検出方法は、前記CO検出ステップにおいて、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つを用いてCOの分析を行うことを特徴とする。
この発明においては、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つによって、被分析試料中のCOの有無を認識することができる。
また、本発明の漏洩CO検出方法は、前記CO検出ステップ及び前記同位体分析ステップにおいて、ガスクロマトグラフ質量分析器を用いてCOの分析及び安定同位体同士の存在比率の測定を行うことを特徴とする。
この発明においては、単一のガスクロマトグラフ質量分析器によって、CO成分の有無の認識(CO検出ステップ)と、このCO中の安定同位体の分析(同位体分析ステップ)とが共に行われる。
【0010】
本発明の請求項7に係る地中貯留COの漏洩モニタリング方法は、漏洩CO検出方法を用いて、海底の地中に設けたCO貯留層からの漏洩COを検出することを特徴とする。
この発明においては、前記漏洩CO検出方法を、特に海底の地中に設けたCO貯留層の漏洩モニターに適用する。
また、本発明の地中貯留COの漏洩モニタリング方法は、海上又は海中の船舶を用いて前記漏洩CO検出方法を実施することを特徴とする。
この発明においては、海上又は海中の船舶を用いてモニタリングが行われる。
【0011】
本発明の請求項9に係る漏洩CO検出装置は、燃料の燃焼によって生成されたCOを貯留したCO貯留層からの漏洩COを検出する漏洩CO検出装置であって、前記CO貯留層の周囲の環境から被分析試料を採取する試料採取部と、前記被分析試料中におけるCOを検出するCO検出部と、前記被分析試料中に存在したCOにおける安定同位体同士の存在比率を測定する同位体分析部と、前記存在比率に基づいて、前記COに前記漏洩COが含まれるか否かを判定する制御部と、を具備することを特徴とする。
この発明においては、試料採取部によって被分析試料が採取され、CO検出部によって被分析試料中のCOが検出される。その後、同位体分析部によって、検出されたCO中の安定同位体同士の存在比率を測定される。制御部は、この存在比率に基づいてこのCOに漏洩COが含まれるか否かを判定する。
また、本発明の漏洩CO検出装置において、前記安定同位体同士の存在比率は、13Cと12Cとの存在比率であることを特徴とする。
この発明においては、前記の安定同位体として13Cと12Cが特に用いられ、これらの存在比率が算出され、制御部は、この存在比率に基づいて判定を行う。
また、本発明の漏洩CO検出装置は、前記CO貯留層近傍の環境に対して超音波を照射し、かつ該超音波の反射波を検出する探査部を具備し、前記制御部は、前記反射波の分析結果に基づいて前記被分析試料を前記試料採取部に採取させることを特徴とする。
この発明においては、試料採取部は、COが存在している可能性が高いと認識された箇所から被分析試料を採取する。COが存在している可能性が高いことは、探査部が気泡等からの超音波の反射を確認することによって認識する。
また、本発明の漏洩CO検出装置は、前記CO貯留層近傍の環境のPH値を計測する探査部を具備し、前記制御部は、前記PH値の測定結果に基づいて前記被分析試料を前記試料採取部に採取させることを特徴とする。
この発明においても、試料採取部は、COが存在している可能性が高いと認識された箇所から被分析試料を採取する。COが存在している可能性が高いことは、探査部が測定した水のPH値が低いことで認識される。
また、本発明の漏洩CO検出装置は、前記CO検出部において、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つによる分析が行われることを特徴とする。
この発明においては、CO検出部が、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つを行うことによって、被分析試料中のCOの有無を認識する。
また、本発明の漏洩CO検出装置において、前記CO検出部及び前記同位体分析部は、単一のガスクロマトグラフ質量分析器であることを特徴とする。
この発明においては、ガスクロマトグラフ質量分析器が、CO検出部と同位体分析部とを兼ねる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の漏洩CO検出方法、検出装置は、以上のように構成されているので、CO貯留層からの漏洩があることを的確に判定することができる。
この際、安定同位体同士の存在比率として13Cと12Cとの存在比率を用いた場合には、漏洩COと天然COとの識別を特に容易に行うことができる。
この際、探査ステップ(探査部)を用いれば、COが検出される可能性が高い箇所から選択的に被測定試料を採取することができるので、測定の効率を高めることができる。更に、超音波の反射波を検出すること、水のPH値を測定することによって、COが検出される可能性の有無を容易に判定することができる。
また、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法によれば、特にCOの検出を容易に行うことができる。
更に、ガスクロマトグラフ質量分析器を用いれば、CO検出ステップと同位体分析ステップとを同一の装置を用いて一度に行うことができるため、装置構成や検査工程が簡略化される。
また、本発明の地中貯留COの漏洩モニタリング方法によれば、特に検出が困難であった海底の地中にあるCO貯留層からの漏洩を的確に検知することができる。この際、上記の漏洩CO検出方法を海上又は海中の船舶から実施することが可能であるため、広範囲にわたりこの漏洩のモニタリングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態となる漏洩CO検出装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態となる漏洩CO検出方法を示すフローチャートである。
【図3】COを地中に貯留する際の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態となる漏洩CO検出装置について説明する。図1は、この漏洩CO検出装置10の構成を示す図である。この漏洩CO検出装置10によって検出されるのは、図3におけるCO貯留層92から海水101中(水中)に漏洩したCO(以下、漏洩CO)や、これ以外の天然に存在するCO2、例えば地下に天然に存在し、海中に漏洩してきたCO(以下、天然CO)である。これらのCOは、図3における気泡や液滴(気泡等103)として存在するか、これらが海水101に溶存した形態として存在する。特にこの漏洩CO検出装置10においては、漏洩COと、天然COとを区別して認識することができる。従って、CO貯留層92からの漏洩を的確に検出することができる。この漏洩CO検出装置10は、図1、3に示されるように、海中部20と、海上部30とに分かれて構成される。海上部30は、船舶98に搭載されて測定者によって直接制御され、海中部20を遠隔操作する。海中部20は、漏洩COを検知すべき海中に投入される。
【0015】
また、この漏洩CO検出装置の動作(漏洩CO検出方法)を示すフローチャートが図2である。
【0016】
測定者は、海上部30における設定部31を制御し、探査や分析のパラメータを設定する。これらのパラメータは、海上制御部(制御部)32(例えばパーソナルコンピュータ)に入力され、海上送受信部33を介して、海中に投入された海中部20における海中送受信部21に送信される。これらの間の通信は無線によってもよく、有線によってもよい。
【0017】
海中部20における海中制御部22(例えば、CPU)は、この通信によって得られた海上部30からの指令に基づき、探査部23を用いて、COが海水102中に存在する可能性があるか否かを探査する(S1:探査ステップ)。ここでは、可能性があるか否かを探査すればよく、COが実際に存在しているか否かを判定する必要はない。また、ここでは漏洩COと天然COの区別も行う必要はない。
【0018】
この探査方法としては、例えば、図3における気泡等103を認識するという方法が考えられる。この場合には、ソナー等を用いて超音波を水中に発振し、気泡からの反射波を検知することができる。また、気泡ではなく、圧力が高いために液体となったCO(液滴)が存在しても、同様に反射波が発生するため、気泡や液滴(気泡等103)が存在すれば、これからの反射波を検出することが可能である。また、COは水中に溶解して炭酸となるため、海水102のPHを調べ、PHの値がある所定の値(例えば6.8程度)以下である場合にCOが存在すると認識するという方法を用いることもできる。この所定の値は、予めわかっているこの地域での海水のPH値を基準にして適宜設定できる。
【0019】
従って、探査部23としては、ソナーやPHセンサ等を用いることができる。ここでは漏洩CO自身を探知するのではなく、COが含まれる可能性があるか否かを認識すれば充分であるため、これら以外にも、電気的な方法、光学的な方法等、任意の方法を使用することができる。気泡等103が存在すると判定されない、あるいはPHが所定の値以下ではない場合のように、COは存在しないと判定された場合(S2:No)には、漏洩COは存在しない、すなわち、CO貯留層92からの漏洩は発生していないと認識される(S3)。なお、海中制御部22がこの判定を行ってもよいが、海中送受信部21及び海上送受信部33を介して測定データを海上制御部32が入手し、海上制御部32がこの判定を行う設定とすることもできる。
【0020】
気泡等103が存在すると判定された、あるいはPHが所定の値以下であった場合(S2:Yes)には、海中制御部22又は海上制御部32は、COが存在する可能性があると認識する。この場合、海中制御部22は、サンプリング部(試料採取部)24にこの部分の海水を採取させる(S4:採取ステップ)。サンプリング部24の形態は任意であり、例えば下側にのみ開口部を設けた筒状の容器であれば、気泡等103が存在した場合、COを主として採取することが可能である。特にCOが気泡である場合は、下側にのみ開口部を設けた筒状の容器にCOが充満した段階で容器を閉じ、CO主成分として採取することが可能となる。また、液状のCOや溶液に対しては、これらの存在箇所に容器を持って行き、これらを容器に満たした後、容器を閉じることによってCOを主成分として採取することが可能となる。
【0021】
この採取されたサンプル(被分析試料)の主成分はCOであると期待されるが、例えば、発振された超音波に対して類似の反射波を発生する他の気泡や液体、COと同レベルのPH値を示す他の溶液である場合もある。このサンプルは、ホース40を通り、海中部20から、海上部30における第1の分析部(CO検出部)34に輸送される。あるいは、サンプリング部24にサンプルを保管し、海中部20を船舶98側に引き上げてからこれを第1の分析部(CO検出部)34に輸送してもよい。
【0022】
第1の分析部34では、CO成分が実際にこの中に存在するか否かが判定される(S5:CO検出ステップ)。ここで行われる分析は、サンプルの中にCOが存在しているか否かであり、このCOにおける漏洩COと天然COとは、区別なく同様に検出される。この分析方法としては、ガスクロマトグラフ法が好ましく用いられるが、COを検出できる分析方法であれば、これに限定されない。例えば、気化したサンプルに対する赤外線の吸収スペクトルを調べてCOの存在を調べる赤外分光法や、試薬等を用いることによって溶存COを検出する方法を用いてもよい。ただし、CO成分のみを分離して取り出すことのできるガスクロマトグラフ法が特に好ましい。
【0023】
海上制御部32は、ここでCOが検出されない場合(S5:No)には、COは存在せず、漏洩COも存在しないと認識する(S3)。
【0024】
ここでCOが検出された場合(S5:Yes)には、海上制御部32は、第2の分析部(同位体分析部)35に更にこのサンプルの質量分析を行わせる。ここでは、漏洩COと天然COとを分離して分析する。これらの識別方法について以下に説明する。
【0025】
一般に、炭素には12Cと13Cの安定同位体が自然界において見られ、その大部分は12Cであるが、これらの存在比率は、試料の起源等に応じて異なる。これらにおいては、原子(原子核)の質量のみが異なり、化学的性質は同様であるため、どちらもCOを同様に構成する。ここで、この存在比率を示す量として、δ13Cという下記の式で表される量(単位は‰:パーミル)が用いられる。δ13Cは、試料における13Cの12Cに対する存在比率と、標準物質におけるこれらの存在比率との比率の1からの偏差を示す。
【0026】
【数1】

【0027】
また、各種の物質において実測されたδ13Cの値の例を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
この結果より、化石燃料(石油、石炭)と植物バイオマス燃料に含まれる炭素においては特にδ13Cが−23以下と小さい、すなわち、13C含有量が少ない。これらの燃料を燃焼させることによって生成されたCOにおいても、δ13Cの値は同様となる。一方、天然COの代表例として火山ガスや海底からの天然の湧き出しガスに含まれる炭素におけるδ13Cは−7以上であり、上記の値よりも大きい。大気中のCOは、天然に存在するCOと燃料を燃焼させることによって生成されたCOの混合物である。従って、そのδ13Cは、これらの中間的な値となっている。
【0030】
上記の漏洩CO検出装置10で検出すべき漏洩COは、化石燃料や植物バイオマス燃料を燃焼させることによって生成されたCOであるため、そのδ13Cの値は通常の大気や海水に含まれる天然COよりも低い。従って、上記の結果より、大気中や海水中に含まれるCOにおける13Cの12Cに対する存在比率を調べることによって、このCOが漏洩COか天然COであるかの判定を行うことができる。
【0031】
従って、第2の分析部35は、採取されたCOに対して質量分析を行い、その13C/12Cの存在比率(同位体比)、あるいはδ13Cを算出する(S6:同位体分析ステップ)。この質量分析の手法としては、周知の質量分析法を用いることができ、分析対象は13Cと12Cのみとすることができる。ここで、リファレンス用COが充填されたリファレンス用COボンベ36が第2の分析部35に接続され、第2の分析部35は、このリファレンス用COを参照資料として用いることができる。すなわち、このリファレンス用COを用いて式(1)における標準試料の13C/12Cを算出することができる。ただし、特にリファレンス用COボンベ36を用いずに、海上制御部32が予め求められた標準試料の13C/12Cを記憶し、この値を用いてδ13Cを算出する設定とすることもできる。なお、表1の結果より、漏洩COや天然COの存在しない箇所の海水(δ13C=0)を標準試料として用いることもできる。
【0032】
海上制御部32は、この同位体比又はδ13Cが、ある所定の値以下であるか否かを判定する(S7:判定ステップ)。例えば、δ13Cの値が−15以下であれば(S7:Yes)、漏洩COが存在すると認識し(S8)、−15よりも大きければ(S7:No)、漏洩COはないと認識する(S3)。
【0033】
従って、この漏洩CO検出方法においては、天然COと漏洩COとを的確に識別して認識することができる。これによって、CO貯留層92の漏洩を的確に判定することができる。
【0034】
なお、第1の分析部34におけるCOの分析方法は、13Cや12Cの原子核を壊変させない限りにおいて任意である。従って、ガスクロマトグラフ法の他にも、任意の分析方法を用いることができる。ただし、ここでは、常温で気体であるCOが分析対象であるため、気体の分析が容易であり、かつCO成分のみを分離でき、同位体分析ステップで用いることのできるガスクロマトグラフ法を使用することが好ましい。
【0035】
また、図1の構成においては、第1の分析部34と第2の分析部35とが用いられていたが、これらを単一の分析装置とすることもできる。例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いれば、COの同定と、その質量分析とを同時に行うことができる。従って、単一の分析装置を用いて13C/12Cあるいはδ13Cを求めることができ、装置構成を簡略化することが可能であり、上記の漏洩を検査する工程も簡略化される。
【0036】
また、図1、3の構成においては、海上部30を船舶98に搭載したが、これに限られるものではなく、上記の測定を行うことができる限りにおいて、任意の形態をとることができる。例えば、海上部30をそのまま陸上に設けてもよいし、海中の他の箇所、例えば海中部20よりも浅い海中に設けてもよい。また、海中部20と海上部30の構成はそれぞれ図1に示される通りとしたが、上記の測定を行うことができる限りにおいて、図1全体に示された構成要素を図1の構成とは異なるように適宜選択して海中部20と海上部30に設け、機能させることもできる。あるいは、この漏洩CO検出装置の全ての構成要素を海中部20に設けた構成とすることもできる。
【0037】
また、上記の例では、探査部23あるいは探査ステップ(S1)、COが存在する可能性有無の判定(S2)が用いられていたが、これらを用いず、例えば、定地点において定期的にサンプルをサンプリング部24が採取する設定とすることもできる。ただし、COの検出(S6)や同位体の分析(S7)に要する時間が長い場合には、COが存在しないことが確実な場合(S5:No)にはCOの検出(S6)や同位体の分析(S7)を省略することができるため、より効率的な測定が可能である。
【0038】
なお、上記の例では、この漏洩CO検出装置10は水中(海中)のCOを検出するものとしたが、これに限られるものではない。例えば、CO貯留層からの漏洩を大気中で同様に検出することも可能である。この場合にも、探査ステップを特に行わず、気体(大気)のサンプルを適宜採取し、その赤外分光スペクトルを測定することによって、CO成分が通常の大気よりも多く含まれるか否かを判定することができる(CO検出ステップ)。その後は、上記と同様に同位体分析ステップ等を行えばよい。
【0039】
また、前記の例では炭素の安定同位体である13Cと12Cとの存在比率(δ13C)を用いたが、他の元素の安定同位体を用いることもできる。例えば、COを構成する酸素(O)には、16O、17O、18Oが安定同位体として自然界において見られ、その大部分は16Oである。13C、12C同様にこれらの存在比率も試料の起源等に応じて異なり、どれもCOを同様に構成する。これらの存在比率を示す量として、式(1)と同様に、δ17O及びδ18Oという量を定義することができる。すなわち、δ17Oは、式(1)における13Cの代わりに17Oを用い、12Cの代わりに16Oを用いた量であり、δ18Oは、式(1)における13Cの代わりに18Oを用い、12Cの代わりに16Oを用いた量である。これらの酸素同位体の地球全体における存在比は、それぞれ、16O:99.763%、17O:0.0375%、18O:0.1995%である。従って、上記の13Cと12Cとの存在比率(δ13C)の代わりに、例えばδ18Oを用いることができる。表2は、δ18Oの自然界の各種物質における値である。
【0040】
【表2】

【0041】
この結果より、物質毎にδ18Oの値(範囲)は異なることが明らかである。従って、漏洩COと天然COのδ18Oを識別する閾値を予め設定しておき、第2の分析部34が18Oと16Oの組成比を求め、海上制御部32がこの値(δ18O)に応じて上記と同様の判定を行うことにより、漏洩COの存在を認識する構成とすることもできる。すなわち、上記の漏洩CO検出装置又は漏洩CO検出方法においては、必ずしも13Cと12Cとの組成比に基づいた判定を行うことは必要ではなく、他の2つの安定同位体を適宜選択し、これらの安定同位体同士の組成比を用いて同様の判定を行うこともできる。
【0042】
また、前記のように、この漏洩CO検出方法は、特に海底の地中に設けたCO貯留層からの漏洩を的確に検知することができるため、地中貯留COの漏洩モニタリング方法として特に好ましく用いることができる。この場合、他の検出方法では検出が困難であった海底深くの地中に設けられたCO貯留層からの漏洩をモニタリングすることができる。特にこの場合には、天然COがサンプルに混入する確率が高くなるために、このモニタリング方法は有効である。この際、海上の船舶や、海中の潜水艦等に上記の漏洩CO検出装置を設置すれば、広範囲の領域における測定を適宜行うことができる。従って、特に的確に漏洩を検知することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 漏洩CO検出装置
20 海中部(漏洩CO検出装置)
21 海中送受信部
22 海中制御部
23 探査部
24 サンプリング部(試料採取部)
30 海上部(漏洩CO検出装置)
31 設定部
32 海上制御部(制御部)
33 海上送受信部
34 第1の分析部(CO検出部)
35 第2の分析部(同位体分析部)
36 リファレンス用COボンベ
40 ホース(漏洩CO検出装置)
91 CO圧入設備
92 CO貯留層
93、96 配管
94 貯留CO
95 CO圧入用浮体
98 船舶
100 第1の地層
101 第2の地層
102 海水
103 気泡等
120 クラック
921 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって生成されたCOを貯留したCO貯留層からの漏洩COを検出する漏洩CO検出方法であって、
前記CO貯留層の周囲の環境から被分析試料を採取する採取ステップと、
前記被分析試料中においてCOが存在するか否かを判定するCO検出ステップと、
前記被分析試料中に存在したCOにおける安定同位体同士の存在比率を測定する同位体分析ステップと、
前記存在比率に基づいて、前記COには前記漏洩COが含まれるか否かを判定する判定ステップと、
を具備することを特徴とする漏洩CO検出方法。
【請求項2】
前記安定同位体同士の存在比率は、13Cと12Cとの存在比率であることを特徴とする請求項1に記載の漏洩CO検出方法。
【請求項3】
前記採取ステップの前に、
前記CO貯留層近傍の環境に対して超音波を照射することによって気泡又は液滴の有無を認識する探査ステップを具備し、
前記採取ステップにおいて、前記気泡又は液滴が確認された箇所から前記被分析試料を採取することを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩CO検出方法。
【請求項4】
前記採取ステップの前に、
前記CO貯留層近傍の環境のPH値を計測する探査ステップを具備し、
前記採取ステップにおいて、
前記PH値が所定の値よりも低い箇所から前記被分析試料を採取することを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩CO検出方法。
【請求項5】
前記CO検出ステップにおいて、
ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つを用いてCOの分析を行うことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の漏洩CO検出方法。
【請求項6】
前記CO検出ステップ及び前記同位体分析ステップにおいて、
ガスクロマトグラフ質量分析器を用いてCOの分析及び安定同位体同士の存在比率の測定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の漏洩CO検出方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の漏洩CO検出方法を用いて、海底の地中に設けたCO貯留層からの漏洩COを検出することを特徴とする地中貯留COの漏洩モニタリング方法。
【請求項8】
海上又は海中の船舶を用いて前記漏洩CO検出方法を実施することを特徴とする請求項7に記載の地中貯留COの漏洩モニタリング方法。
【請求項9】
燃料の燃焼によって生成されたCOを貯留したCO貯留層からの漏洩COを検出する漏洩CO検出装置であって、
前記CO貯留層の周囲の環境から被分析試料を採取する試料採取部と、
前記被分析試料中におけるCOを検出するCO検出部と、
前記被分析試料中に存在したCOにおける安定同位体同士の存在比率を測定する同位体分析部と、
前記存在比率に基づいて、前記COに前記漏洩COが含まれるか否かを判定する制御部と、
を具備することを特徴とする漏洩CO検出装置。
【請求項10】
前記安定同位体同士の存在比率は、13Cと12Cとの存在比率であることを特徴とする請求項9に記載の漏洩CO検出装置。
【請求項11】
前記CO貯留層近傍の環境に対して超音波を照射し、かつ該超音波の反射波を検出する探査部を具備し、
前記制御部は、前記反射波の分析結果に基づいて前記被分析試料を前記試料採取部に採取させることを特徴とする請求項9又は10に記載の漏洩CO検出装置。
【請求項12】
前記CO貯留層近傍の環境のPH値を計測する探査部を具備し、
前記制御部は、前記PH値の測定結果に基づいて前記被分析試料を前記試料採取部に採取させることを特徴とする請求項9又は10に記載の漏洩CO検出装置。
【請求項13】
前記CO検出部において、ガスクロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ質量分析法、赤外分光法のうちの少なくとも一つによる分析が行われることを特徴とする請求項9から請求項12までのいずれか1項に記載の漏洩CO検出装置。
【請求項14】
前記CO検出部及び前記同位体分析部は、単一のガスクロマトグラフ質量分析器であることを特徴とする請求項9から請求項13までのいずれか1項に記載の漏洩CO検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243178(P2010−243178A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88840(P2009−88840)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】