説明

漏話推定の効率を高めるための補間方法および装置

【課題】被害者回線に対して非同期のDMT信号を有する隣接回線からの外来漏話など、DSLシステムおよび他の形態の干渉におけるチャネル漏話推定値を効率的に得る。
【解決手段】非同期チャネルを含むことのあるDSLシステムおよび他の通信システムでチャネル漏話推定値を効率的に得る1つの方法は、データ信号が1つの送信機から複数の受信機に送信される複数の通信チャネルの第1部分に関する漏話の推定値の第1セットを得ること、および漏話の推定値の第1セットに基づき複数の通信チャネルの第2部分に関する漏話の推定値の第2セットを補間することを含む。複数の通信チャネルの第1部分は複数の通信チャネルの一部であってよく、複数の通信チャネルの第2部分は複数の通信チャネルの残余部分である。漏話の各推定値は、複数の通信チャネルの少なくとも1つと関連する少なくとも1つのトーンに関係し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、いずれも2007年8月31日に出願され、その開示が参照により本明細書に組み込まれている、第11/848,684号(整理番号De Lind Van Wijngaarden 21−10−18−7、名称「Method and Apparatus for Self−Turning Precoder」)、第11/897,877号(Kramer 9−16−6、名称「Determining a Channel Matrix by Measuring Interference」)および第11/897,809号(Guenach 1−12−1−1−1−1−1−20−1−9、名称「Determining Channel Matrices by Correlated Transmissions to Different Channels」)の米国特許出願に関係する。本出願はまた、2007年9月21日に出願され、その開示が参照により本明細書に組み込まれている第60/974,262号(整理番号Ashikhmin 18−23−13−2−15−4、名称「Methods for Optimizing Precoder Settings Using Average SINR Reports for Groups of Tones」)の米国仮特許出願に関係する。
【0002】
本発明は、一般には通信システム、より具体的には当該システムにおける通信チャネルと関連する漏話推定値を補間する技法に関する。
【背景技術】
【0003】
よく知られているように、通信システムは、当該システムの送信機と受信機との間で信号を通信するために複数の通信チャネルを利用することができる。例えば、様々な送信データ信号を互いに区別するために複数のチャネルを使用することができる。
【0004】
複数のチャネル通信システムで生じ得る問題は、様々なチャネル間の漏話に関係し、これはチャネル間漏話とも呼ばれる。例えば、典型的なデジタル加入者回線(DSL)システムでは、チャネルの各々は、より対線の銅線などの物理的通信リンクを介して送信される直交周波数分割多重(OFDM)トーンまたは離散マルチトーン(DMT)変調トーンを含むことができる。ある加入者回線での送信は他の加入者回線に対し、システムのパフォーマンス低下を招きかねない干渉を引き起こすことがある。より一般的には、ある「被害者(victim)」チャネルは、複数の「妨害者(disturber)」チャネルによる漏話を経験することがあり、これも望ましくない干渉につながることがある。当然ながら、干渉は相互に起こり得るもので、被害者チャネルが妨害者チャネルになることもあれば、妨害者チャネルが被害者チャネルになることもあることを理解すべきである。
【0005】
DSLプリコーダは、同時送信される信号間の漏話干渉を低減または除去するために当該信号に作用する行列デジタルフィルタである。この機能を理想的に実行するため、プリコーダは所与の回線間の相対的な漏話係数の正確な値を利用しなければならない。
【0006】
しかし、正確な漏話推定値を素早く提供することは難しく、その理由は、要求される正確性と、こうした係数が温度の変化や他の外部要因により経時変化することの両方にある。下りと上りの両方で測定対象となる数百のトーンがあり得るため、こうした推定値を得るプロセスは計算上かなり増大することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被害者回線に対して非同期のDMT信号を有する隣接回線からの外来漏話など、DSLシステムおよび他の形態の干渉におけるチャネル漏話推定値を効率的に得る技法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の原理は、非同期チャネルを含むことのあるDSLシステムおよび他の通信システムにおけるチャネル漏話推定値を効率的に得る技法を提供する。
【0009】
例えば、本発明の1つの態様では、1つの方法は、データ信号が1つの送信機から複数の受信機に送信される複数の通信チャネルの第1部分に関する漏話の推定値の第1セットを得ること、および漏話の推定値の第1セットに基づき複数の通信チャネルの第2部分に関する漏話の推定値の第2セットを補間することを含む。
【0010】
複数の通信チャネルの第1部分は複数の通信チャネルの一部であってよく、複数の通信チャネルの第2部分は複数の通信チャネルの残余部分であってよい。
【0011】
この方法はさらに、漏話の推定値の第1セットおよび第2セットの少なくとも一部に基づきデータ信号の1セットを調整することを含むことができる。漏話の推定値の第1セットは、複数の受信機の少なくとも一部から受信した信号対干渉雑音電力比(SINR)測定値から生成することができる。
【0012】
第1の実施形態では、補間ステップはさらに、漏話の推定値の第2セットを備える補間済みの位相および振幅の値を生成することを含むことができる。こうした補間済みの位相および振幅の値は、漏話の推定値の第1セットを備える測定済みの位相および振幅の値から生成することができる。補間済み位相値は、カーブフィッティング処理によって生成することができる。補間済み振幅値は、最も近い測定済み振幅値を選択することによって生成することができる。
【0013】
第2の実施形態では、補間ステップはさらに、有限応答フィルタを提供すること、有限応答フィルタを使用して漏話の推定値の第1セットの値の畳み込みを計算すること、計算された畳み込みに基づき漏話の推定値の第2セットに関する値を得ることを含む。
【0014】
本発明のこれらおよび他の目的、特徴および利点は、添付の図面と共に読まれるべき本発明の例示的な実施形態に関する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の例示的な実施形態による通信システムを示す図である。
【図2】本発明の例示的な実施形態による漏話を推定するために使用される補間アーキテクチャを示す図である。
【図3】本発明の例示的な実施形態による漏話推定の補間方法を示す図である。
【図4】本発明の別の例示的な実施形態による漏話推定の補間方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について、例示的な通信システムおよび当該システムにおける通信チャネル間の漏話を補正するための関連技法と共に以下で説明する。ただし、本発明は特定の種類の通信システムまたはチャネルの漏話測定用途での使用に限定されないことを理解すべきである。開示される技法は、様々な他の通信システムにおいて、また多くの代替的な漏話測定用途で使用するのに適している。例えば、以下ではDMTに基づくDSLシステムのコンテキストで説明するが、開示される技法は、セルラシステム、複数入力複数出力(MIMO)システム、Wi−FiまたはWiMaxシステムなど他の種類の有線または無線の通信システムに簡単に適合することができる。
【0017】
本明細書において使用される「チャネル」は、送信機と受信機との間で通信信号が送信される物理媒体であると理解すべきである。多くの場合、いくつかのこうしたチャネルが互いに極めて接近していることがあり、これが上述の干渉または漏話をもたらすことがある。「回線」またはワイヤラインは、銅線などのケーブルの使用またはユーザー間で信号を送信するその他の同等の手段によって構成されるチャネルの例である。DSLでは、回線を束ねていることが漏話につながる。さらに、有線アクセスおよび無線アクセスの両方で信号を送る1つの形態は、チャネルのスペクトルを「トーン」として知られる狭い周波数帯に分割することである。例えば、無線チャネルでは、OFDMにおける記号は、それぞれのトーンを介して送信される。DSLでも同様の分割が行われることが多い。
【0018】
図1は、複数の受信機104とそれぞれの通信チャネル106を介して通信する送信機102を備える通信システム100を示している。通信チャネル106は、有線チャネルまたは無線チャネルを含むことができる。図1に示すように、送信機102は、メモリ112Tおよびインタフェース回路114Tに結合されたプロセッサ110Tを備える。同様に、受信機104の任意の1つは、メモリ112Rおよびインタフェース回路114Rに結合されたプロセッサ110Rを備える。その他の受信機104も同様に構成されているものとする。
【0019】
例示的なシステム100では複数の受信機と通信する単一の送信機が示されているが、多くの他の構成が可能である。例えば、複数の送信機が複数の受信機と通信することができ、または単一の送信機が単一の受信機と通信することができる。本明細書で使用される「送信機」および「受信機」という用語は、単一のそれぞれの送信機および受信機の要素のほか複数のそれぞれの送信機および受信機の要素の組み合わせも包含するよう、一般的に解釈されることが意図されている。また、送信機102は、例えばDSLシステムにおける中央局またはセルラシステムにおける基地局の場合に複数の別個の送信ユニットを備えることができる。
【0020】
さらに、図示された種類の任意の通信デバイスは、受信機と送信機の両方として機能することができる。よって、システム100の要素102および104は、例示目的でそれぞれの送信機および受信機の要素を特徴とするが、各々がトランシーバ回路を備えて送信機と受信機の両方として機能するよう作動してよい。したがって、本明細書で開示される漏話補間技法は、要素104から要素102への送信に関して利用することができる。要素102および104は、モデム、コンピュータまたは他の通信デバイスといった通信システムのそれぞれの処理デバイスを備え、または当該処理デバイスに組み込まれてよい。多くのかかるデバイスは、当業者にはよく知られており、そのため本明細書ではこれ以上説明しない。
【0021】
システム100における漏話の推定、補間および補正ならびに関連する送信機および受信機の信号処理の実行のためのソフトウェアプログラムを、メモリ112に格納し、プロセッサ110が実行することができる。送信機102および受信機104はそれぞれ、複数の集積回路、デジタル信号プロセッサまたは他の種類の処理デバイスおよび関連するサポート回路を、任意の組み合わせでよく知られている従来の構成を用いて備えることができる。当然ながら、任意の組み合わせでのハードウェア、ソフトウェアまたはファームウェアの多くの代替的な構成を、送信機102および受信機104またはその特定の部分を実装する際に利用することができる。
【0022】
図示されているシステム100は、多くの様々な種類の通信システムの代表とみなすことができる。例えば、システム100は、DMTトーンを使用してデータが送信されるDSLシステムを含むことができる。かかるシステムの従来の態様は、よく知られており、そのため本明細書では詳しく説明しない。DMTを使用したDSLシステムにおけるチャネル間漏話は、例えば、遠端漏話(FEXT)を含むことがあるが、開示される技法は、様々な他の種類の漏話に対してより一般的に適用できる。DMTトーンは、使用される全周波数スペクトルに関して通常は比較的狭いため、特定の周波数における影響は、所与のトーンインデックスにおける所与の「妨害者」加入者回線から所与の「被害者」加入者回線への漏話を表す単一の複素係数hとしてモデル化できる。係数の振幅は、対応するDMTキャリアにおけるスケールの変化を示し、係数の位相は、当該キャリアにおける位相の変化を示す。
【0023】
システム100において送信機102が受信機104と通信する複数の通信チャネル106間の漏話を、プリコーディングと呼ばれ、事前補正としても知られる手法を用いて補正することができる。1つの事前補正手法では、受信機によって特定されて送信機に通信される漏話値を使用して、チャネル行列の係数を決める。効果的なプリコーディングは通常、正確なチャネル利得および位相情報を要求する。例えば、N個のチャネルを特徴付けるために線形漏話モデルを使用して、N×Nのチャネル行列を生成し、チャネル間漏話を特徴付ける上記の複素係数を示す行列の非対角要素を備えることができる。プリコーディングは、入力情報として、送信されるデータ信号のベクトルおよび上記のチャネル行列を受信し、そこから補正済みデータ信号のベクトルを生成する線形ZF(ゼロフォーシング)デジタルフィルタ(またはプリコーダ)を使用する送信機で用いることができる。
【0024】
チャネル間漏話の測定値が使用され得る別の用途が、本システムの様々なチャネルを管理する際にある。例えば、かかる測定値を使用して、チャネル間のパワーまたは他の資源の最適配分を決めることや、チャネルビットレートの安定をもたらすことができる。DSLの場合、これは当該測定値を利用して、動的スペクトル管理(DSL)のレベル2のパワー割り当てまたは安定性アルゴリズムを改善し、それにより所与の回線の宣言されたビットレートの維持を容易にすることができる。これらおよび他の資源配分用途は通常、それほど正確な推定値を要求せず、そのためチャネル位相情報を必要としないこともある。
【0025】
図1のシステム100の送信機102および受信機104は、チャネル間漏話の推定値または他の測定値が正確かつ効率的に生成されるよう有利に構成される。かかる漏話測定値を、受信機104から送信機102へ返信して、上述の種類のプリコーディングまたは資源配分などの用途で使用することができる。この測定値は、例えば、漏話を特徴付けるインパルス応答係数を備えることができる。あるいは、受信機によって生成される測定値は、送信機に返信され、そこでさらに処理されてインパルス応答係数を得ることもできる。
【0026】
例示的な実施形態に従い、漏話の推定値を得る技法について説明する。例えば、かかる漏話推定技法は、図1の通信システムの送信機102で実施することができる。
【0027】
本発明の原理は、すべてのトーンの漏話推定値を、当該トーンのごく一部のみを測定して当該トーンの残りの漏話推定値を補間することによって得るのが有利であることを踏まえている。有利なことに、これは重要な要素によって推定値を得るのに必要な時間を減らすことができる。また、少数のトーンにおいてより強力な測定信号を使用すること、またはさらにトーンにおける信号を完全に妨害するために測定することの準備ができる。さらに、補間値が十分に正確ではなくても、推定値を素早く調整することができる自己同調プリコーダなどのデバイスに当該補間値を渡すことができる。かかる自己同調プリコーダの例は、上述の第11/848,684号(整理番号De Lind Van Wijngaarden 21−10−18−7、名称「Method and Apparatus for Self−Turning Precoder」)で説明されている。最後に、かかるデバイスを使用して、補間によって提供される漏話係数の推定の正確性または効率性を判断することができる。
【0028】
正確な漏話推定値が利用可能で使用されているときでも、補間方法は漏話係数の変化を追跡する能力を高めることができる。例えば、多くの場合、測定される回線は、直線近似の周波数で決まる位相を有する。この場合、複数のトーンの位相推定値を使用して所与のトーンの位相を正確に推測することができ、それにより位相またはその同等物を得るのに必要な推定努力を大幅に軽減することができる。しかしこれは、位相あいまい性(すなわち、2π法)および小さな差異に対処するため2点を上回ることが好ましいこともある。さらに例を挙げると、補間を利用して、追跡が失われプリコーディングのパフォーマンスが低下しているトーンの漏話推定値を回復することができる。
【0029】
本発明の原理は、時間にわたって、かつ周波数にわたって補間することができる。よって、ある時点で漏話係数の一部または全部が十分なレベルの正確性を有することが分かっている場合、しばらくすると、漏話係数はある程度異なるだろう。また、物理的な面では、温度、湿度などの変化に応じて変化がいかに生じるかについて、一定の規則性またはモデルがあると想定することができる。
【0030】
上記を踏まえ、最初にプリコーダ測定の対象となったトーンの大部分に関する漏話係数を、物理的要素の変化を推定し、それを受けて次に残りの変化を特定することにより、最初にトーンのごく一部に関する漏話係数を正確に特定し、次に残り部分を推測することによって、推定することができる。
【0031】
本発明の補間技法はまた、漏話の振幅に基づきパワースペクトルを特定しようとするDSMレベル2アルゴリズムと共に用いることができる。DSMレベル2では、ユーザー間の干渉はトーン全体へのパワー割り当てによって制御され、それにより漏話の度合いを制御する。通常は、ユーザーの送信スペクトルを特定するために漏話の振幅の知識のみが必要とされる。補間は、実際の測定の利用を最小限にして一対の回線間における漏話の振幅の特定をシステムが行えるようにすることによって、漏話を減らす方法を向上させる。補間器は欠けた漏話の振幅に関する推定値を誤差推定値と共に提供し、次いでこれら2つを使用してパワースペクトル割り当てを決定することができる。よって、システム上の制約を回避することができる。また、必要な計算の複雑性は大幅に軽減される。
【0032】
要約すると、本発明の補間方法には、少なくとも2つの重要な特徴がある。第一に、この方法には、トーンの一部における推定に基づき、中間の測定されていないトーンにおける漏話の値を推定または予測する能力がある。第二に、この方法は補間値に対し誤差推定値を提供する。この誤差推定値を使用して、さらなるトーンの測定が必要か否かを判断することができる。また、誤差推定値を補間値と共に自己同調プリコーダなどのデバイスに渡すことができ、それにより、かかるデバイスは漏話を減らすにあたり対象とする回線を決定することができる。これは推定の補間段階の最後に行われる。
【0033】
図2は、本発明の実施形態による補間アーキテクチャを示している。図示されているように、アーキテクチャ200は、漏話推定器202、補間器204、調整制御器206、送信機208−v(「v」は、送信機が被害者通信チャネルまたは回線と関連することを表す)、送信機208−d(「d」は、送信機が妨害者通信チャネルまたは回線と関連することを表す)、顧客構内設備(CPE)210−v(「v」は、CPEが被害者通信チャネルまたは回線と関連することを表す)および顧客構内設備(CPE)210−d(「d」は、CPEが被害者通信チャネルまたは回線と関連することを表す)を含む。各CPEはモデム、コンピュータまたは他の通信デバイスを備えることができる。漏話推定器202、補間器204および調整制御器206は送信機208−vから離れたものとして図示されているが、これらの機能コンポーネントは送信機システムの一部であるのが望ましいことを理解すべきである。実際、送信機システムは、漏話推定器202、補間器204、調整制御器206、送信機208−vおよび送信機208−dを含むものとして考えることができる。そのため、機能コンポーネントは参照の便宜のために図面では別々に示されている。さらに、例えば、漏話推定器202、補間器204、調整制御器206および送信機208−vを、図1の通信システムの送信機102の中に実装できることを認識すべきである。CPEは図1の受信機(104)に対応する。しかし、本発明の原理はこの特定のアーキテクチャに限定されない。すなわち、代わりに、漏話推定器、補間器および調整制御器の1つまたは複数を、送信機から離れて実際に実装することができる。
【0034】
一般に、送信機208はCPE210に対し、それぞれの通信回線を介してデータ信号を同時送信する。図2に示す例示的なシナリオでは、複数の回線の1つ(妨害者回線d)からの漏話が、複数の回線の別の1つ(被害者回線v)に存在する。ここでは妨害者回線が1つだけ示されているが、実際には複数の回線が被害者回線に漏話をもたらすことがある。漏話推定データがCPE210−vから漏話推定器202にフィードバックされる。本発明による補間を利用しない漏話補正可能送信システムでは、被害者回線に漏話を引き起こす各回線(トーン)の漏話推定値が測定される。次いで、かかる推定値を使用して、システムの送信機によって送信される後続のデータ信号を調整する。次いでこのプロセスは、新たな推定値を取得し新たな調整を行う形で繰り返すことができる。理論的には、推定値が正確であれば、データ信号の調整によって被害者回線にある漏話が除去される。しかし、推定値が優れているほど、漏話の減少も大きくなることを認識すべきである。
【0035】
図2のアーキテクチャ200で使用できる漏話を補正するメカニズムの例示的な実施形態は、上述の第11/848,684号(整理番号De Lind Van Wijngaarden 21−10−18−7、名称「Method and Apparatus for Self−Turning Precoder」)で説明されている。この中では、妨害者回線から被害者回線への漏話を打ち消すため摂動ベースの推定値を用いる自己同調プリコーダのアーキテクチャについて説明されている。この中で説明されているように、プリコーダにおける行列(すなわち、プリコーダ行列)の現在の状態は、行列フィルタを導出するために使用される相対的な漏話推定値の行列によって特定される。信号対干渉雑音電力比(SINR)推定値が、特定の妨害回線に対する摂動前および摂動後に被害者CPEによって提供される。このフィードバックはプリコーダに提供され、プリコーダはまたプリコーダ行列で摂動に対する指令を出す。かかる指令は、対象回線vへの影響だけでなく、他の回線への影響も考慮して作られる。また、指令をプリコーダに送信して、誤差推定に従い新たなプリコーダ動作点に変更する(プリコーダ行列を更新する)ことができる。自己同調プリコーダは送信機にあり、送信機は顧客の中央局(CO)にある場合や遠隔端末ノードにある場合もある。説明を明快にするため、プリコーダは図2では明示されていないが、送信機208にあると想定できることを理解すべきである。また、他の技法(すなわち、プリコーダ行列を更新する以外の技法)を送信機で利用して、得られた漏話推定値に基づき漏話を補正することができる。
【0036】
しかし、上述の通り、また漏話の低減または除去に使用される補正技法に関わらず、すべてのトーン(回線)につき漏話の推定値を計算することは非常に大きな負担となりかねない。有利なことに、本発明の原理では、すべてのトーンの漏話推定値は、トーンのごく一部のみを測定してトーンの残余部分の漏話推定値を補間することによって得られる。これは補間器204を通じて達成される。
【0037】
補間器204は、入力情報として、漏話の振幅および位相に関するポイント推定値を、トーンの所与の一部に関する誤差推定値と共に受け取る。これらのトーンの大半は等間隔で存在するが、追加のトーンで測定することもできる。これを行う1つの理由は、帯域のあらゆる部分にわたって補間することはあまり効果的でない場合があることである。第二の理由は、補間の正確性を評価するために使用できる正確な推定値の追加ソースを提供することである。
【0038】
図2に全般的に示すように、漏話推定値の一部は、漏話推定器202によって計算される。推定値の一部は、補間器204に提供される。以下で(図3および4の実施形態のコンテキストで)詳しく説明する通り、補間器204は、受信した推定値の一部から補間済み推定値を生成する。次いで、補間済み漏話推定値がテストされる。次いで、推定値の全部(例:推定器202から受信した推定値の一部および補間器204によって補間された残りの推定値)が調整制御器206によって使用されて、送信機と関連するプリコーダを調整する(例:プリコーダ行列を更新する)。本発明の原理は補間済み漏話推定値の生成に焦点を当てているため、実際の推定値の一部がどのように測定されるか、または全部をどのように使用してデータ信号を調整するかに関する詳細は、本明細書で提示しない。かかる詳細は、例にすぎないが、上述の第11/848,684号(整理番号De Lind Van Wijngaarden 21−10−18−7、名称「Method and Apparatus for Self−Turning Precoder」)、第11/897,877号(Kramer 9−16−6、名称「Determining a Channel Matrix by Measuring Interference」)および第11/897,809号(Guenach 1−12−1−1−1−1−1−20−1−9、名称「Determining Channel Matrices by Correlated Transmissions to Different Channels」)の米国特許出願に見出すことができる。
【0039】
また、図2に示すように、制御ブロック206は補間器204に対してフィードバック制御を行うことができる。例えば、制御ブロック206は補間器204に対し、どの補間技法を使用すべきか指示することができる。また、制御ブロック206は、補間済み漏話推定値に関するテストを実施し、それにより、質の値(例:後述する誤差推定値)が決定、使用されて、さらなる補間を実施すべきか否かを判断する。様々なエンティティ間における通信の一部の回線のみが図2に示されており、よって、本発明の性質を変更することなく追加的または代替的な通信回線が存在し得ることを理解すべきである。
【0040】
本明細書の以下では、補間器204が利用できる漏話推定値を補間する2つの例示的実施形態について説明する。
【0041】
第1の実施形態では、位相および振幅で個々に実行できる補間手法を使用する。位相については、例えば、ある場合には直線を使用することによって、また他の場合には線形区分的カーブのフィッティングまたは他の適切な近似をごく少数のパラメータを使用して行うことによって、補間することができる。漏話の振幅の場合、最も近い測定値になるよう値を補間する。これらの技法はいずれも、補間に関して使用可能な結果を与えている。
【0042】
補間が実行された後、調整を開始するのに十分な程度に補間値が正確か否かが判断される。これは、誤差を調べることにより、またはプリコーディングの使用により推定値がSINRの上昇につながるかどうかを確かめることにより実行することができる。推定値が不適切であることが判明した場合、補間器は追加のトーンの測定を要求する。
【0043】
図3は、下り帯域全体の漏話推定値を作成する際に補間器204が利用する方法300を示している。以下の通り図示されている:
ステップ302:指定されたトーンの位相および振幅の推定値を要求する
ステップ304:残りのトーンの補間値を取得する
ステップ306:推定値が十分に正確な場合、ステップ308に進み、そうでない場合はステップ302に戻る
ステップ308:推定値を使用してプリコーダを調整する。
【0044】
レベル2のスペクトル管理において係数が使用されている場合、同様の一連のステップが実行される。
【0045】
第2の例示的な実施形態では、平滑化フィルタで測定済み漏話係数のベクトルを畳み込むことを含む手法を用いる。より具体的には、未知の漏話値を推定するためのフィルタリング方法を提示する。
【0046】
【数1】

を、回線v(被害者)と回線d(妨害者)との間の周波数ドメインにおける漏話係数のベクトルにする。係数hは、fおよび△が一定である周波数f=f+l・△に対応すると想定する。
【数2】

のL/r係数のみを測定することができると想定する。パラメータ「L」は周波数の数に関係し、「r」は測定済み係数のごく一部に関係し、例えば、r=10の場合、我々は10個の係数の中の1つを知っている。課題は、
【数3】

の欠けた係数を再作成(補間)することである。
【0047】
様々な種類および長さのケーブルについて実施された多くの測定結果によると、
【数4】

の最初の係数を再作成するのは難しい。このため、
【数5】

の最初のm個の係数h、h、...、hは、いくつかの適切な、例えば上述の第11/848,684号(整理番号De Lind Van Wijngaarden 21−10−18−7、名称「Method and Apparatus for Self−Turning Precoder」)、第11/897,877号(Kramer 9−16−6、名称「Determining a Channel Matrix by Measuring Interference」)および第11/897,809号(Guenach 1−12−1−1−1−1−1−20−1−9、名称「Determining Channel Matrices by Correlated Transmissions to Different Channels」)の米国特許出願で開示されたようなSINRフィードバックによって正確に測定される。シミュレーション結果は、20から30の範囲内にあるmの値について受け入れ可能な補間結果が得られることを示している。h以降では、
【数6】

のr個おきの係数、すなわち、
【数7】

であるサブサンプリングされたベクトル
【数8】

の係数のみが測定されていると想定する。他の係数はすべて、
【数9】

に基づき補間される。
【0048】
【数10】

が与えられた場合にベクトル
【数11】

を再作成するため、以下の方法を提案する。かかる方法400が図4に示されている。まず、遷移域[1−1/r,1]につき正規化周波数が使用される、当該遷移域でs−タップの有限応答フィルタ
【数12】

を設計する。これは、ステップ402に対応する。次に、
【数13】

によって示される
【数14】


【数15】

の畳み込みを計算する。これはステップ404に対応する。最後に、
【数16】

の近似として使用するベクトル:
【数17】

を形成する。これはステップ406に対応する。
【0049】
補間の質は通常、タップ数sが増すことによって改善され得るが、これはまた、補間手順の計算上の複雑性を高めることにも留意すべきである。次いで、図3の方法のように、図4の方法によって得られる補間済み推定値をテストし、測定済み推定値と共に使用してデータ信号を調整し、それにより漏話効果を低減または除去することができる。
【0050】
ここで、再作成されたベクトル
【数18】

の正確性を評価する方法を示す。十分に大きな規模の離散フーリエ変換(DFT)を利用して(実験では、215のDFTを使用した)、
【数19】

から
【数20】

を得る。ベクトル
【数21】

は通常、フィルタ遷移域[1−1/r,1]に1つまたは複数の大きなピークを有し、他の値|H|は通常、ピークの値に比べて小さな値を有する。Sによって、ピークを形成するコンポーネント|H|の指標を表す。次の2つのパワーを計算する:
【数22】

および
【数23】

【0051】
つまり、P
【数24】

のピークの総パワーであり、P
【数25】

のその他すべてのコンポーネントのパワーである。P/P比率が大きい場合、それは
【数26】


【数27】

の受け入れ可能な近似であることを強く示している。
【0052】
本発明の補間器は、補間済み漏話推定値の各々に関する(および測定済み漏話推定値に関する)質の値として誤差の度合いも提供できることを認識すべきである。次いで、この質の値は、パワーを割り当てる手段としてプリコーディングする際に、またDSMレベル2のアルゴリズムにおいて(例えば、より優れた推定値が得られるまではプリコーディングを控えることのある信頼できない領域の特定にも)使用することができる。補間を実施する際に生じる誤差の度合いを評価するためのよく知られている方法が沢山ある。例にすぎないが、1つの手法を挙げる。補間の際、少数の追加の測定がなされ、かかる測定の結果が、補間アルゴリズムによって予測される値と比較され、その結果、他のトーンについて誤差を推定し、推測することができる。さらなる例示は、上述のフィルタリング方法と関わる。
【0053】
当業者にはよく知られているように、漏話の十分に正確な推定値を得るのに必要な時間は、プリコーディングなどの用途やレベル2のアルゴリズムにおけるパワースペクトル割り当てにおいて重視すべき事項である。得られる漏話推定値の正確性も、重視すべき事項である。
【0054】
補間は、すべてのトーンを測定する作業を回避し、作業を少数の測定のみ行う必要がある状態まで軽減することによって、漏話係数の決定に必要な時間を削減する。次いで、補間アルゴリズムは、残り部分の推定値を迅速に得る。このプロセスは、十分な正確性が得られるまで、測定および補間のプロセスを交互に繰り返すことによって、さらに向上させることができる。
【0055】
補間においては、周波数の関数としての漏話位相の直線性など、DSLでよく知られている物理的関係を活用することにより、パフォーマンスがさらに向上する。ここでも、補間に時間がかかる場合、メモリおよび/またはデータベースによって提供された以前の推定値に基づき、現在の漏話を推測する際に知られている形態の規則性を利用することができる。
【0056】
補間プロセスにおける誤差の最も効率的な推定値を得るために、統計的技法を利用することができる。こうした技法は、測定されるトーンの選択(設計)において、また結果を分析する方法(推測)において使用することができる。
【0057】
また、特定のDSLシステムでプリコーダを効果的に使用するため、推定済み位相は実際の位相から0.1ラジアン以内に優に収まること、および推定済み振幅は実際の漏話の振幅から1デジベル以内であることが好ましい。
【0058】
さらに、当業者にはよく知られていることだが、漏話の測定はしばしば、例えば、どのトーンを同時測定できるかについて、またこうした測定の実施に必要な時間について制約を受ける。こうした制約は、例えば、起動時に顧客のモデムの初期設定が遅れることにより、アルゴリズムの反応性を損ねる。
【0059】
第二に、プリコーダなどのデバイスは同時に作動することのある回線およびトーンによって制約を受けることがある。これらは回線の数に関する、または対象となり得る回線セット自体に関する制約であることがある。
【0060】
したがって、一方では、ある回線セットを別の回線セットに優先して、または他方では、あるトーンセットを別のトーンセットに優先して選択することなどにより得られる利得に関する効果的な演繹的知識があると有利である。本発明によれば、補間は、すべてのトーンにわたって迅速に漏話の推定値を提供することによって、上記の情報を供給し、これにより早い段階で最適選択を行うことができ、その結果、不必要な測定を回避して時間を節約することになる。漏話推定値を利用する、同様の制約を抱える他の用途も、これと同じである。
【0061】
有利なことに、本明細書で説明してきたように、本発明の原理は、漏話の推定の効率性を高める補間技法を提供する。説明したように、この方法は、測定が行われるトーンのごく一部を使用する。これらは、DSLシステムのすべてのトーンおよび回線ペアにつき追加の推定値を得るために使用される。適切な推定値を限られた数しか入手できないときは、この方法を使用して漏話係数の変化を追跡することができる。スペクトルにわたり開始漏話係数の推定値を得るために後に使用される漏話係数の比較的少数の初期測定を使用するプリコーディングに対する戦略の一環として、この方法を使用することができる。次いで、これらの開始値は、自己同調プリコーダまたは他の同様のデバイスを用いて調整される。
【0062】
以前の測定および後続の以前の補間の結果に基づき、プリコーダを介して追加の測定を実施できることを認識すべきである。そのため、後続の補間処理を、1つまたは複数の以前の補間処理の結果に基づいて実施することができる。すなわち、本発明の原理は、漸進的な反復ベースの補間方法を提供する。
【0063】
さらに、補間済み推定値のみに基づき、無視されるトーンに優先してプリコーディングすべきトーンを決めることができる。これは、例えばプリコーディングできるのは最大100トーンであるなど、プリコーダの能力によって課せられる制約を考慮する。
【0064】
また、本発明の原理は、より正確な推定およびプリコーディングのために選択すべきトーンを特定する作業に適用できることを理解すべきである。これはプリコーディング自体ではなく、むしろ(プリコーダの制約と能力に関する我々の知識と大まかな推定自体を踏まえて)どのトーンをプリコーディングすべきかを決めることである。
【0065】
また、本発明の補間技法は、2007年9月21日に出願され、その開示が参照により本明細書に組み込まれている米国仮特許出願第60/974,262(整理番号Ashikhmin 18−23−13−2−15−4、名称「Methods for Optimizing Precoder Settings Using Average SINR Reports for Groups of Tones」)のトーンのグループ化技法と共に利用できることを理解すべきである。
【0066】
本明細書では添付の図面を参照して本発明の例示的な実施形態を開示してきたが、本発明はこうした実施形態そのものに限定されないこと、および本発明の範囲および精神から離れることなく当業者は様々な他の変更および修正を実施できることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号が1つの送信機から複数の受信機に送信される複数の通信チャネルの第1部分に関する漏話の推定値の第1セットを得ることと、
漏話の推定値の第1セットに基づき、複数の通信チャネルの第2部分に関する漏話の推定値の第2セットを補間することと
を含む、方法。
【請求項2】
漏話の各推定値が、複数の通信チャネルの少なくとも1つと関連する少なくとも1つのトーンに関係する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
漏話の推定値の第1セットおよび第2セットの少なくとも一部に基づき、データ信号の1セットを調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
補間ステップが、漏話の推定値の第1セットを備える測定済みの位相および振幅の値から、漏話の推定値の第2セットを備える補間済みの位相および振幅の値を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
補間ステップが、
有限応答フィルタを提供することと、
有限応答フィルタを使用して漏話の測定値の第1セットの値の畳み込みを計算することと、
計算された畳み込みに基づき漏話の推定値の第2セットの値を得ることと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
補間ステップが1つまたは複数の物理的要素の経時変化を考慮する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の以前の測定および1つまたは複数の後続の以前の補間の結果に基づき、プリコーダを介して1つまたは複数の追加の測定値を得るステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
漏話の推定値の補間済み第2セットに基づき、どのトーンをプリコーディングすべきかを決めるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
漏話の推定値の補間済み第2セットと関連する品質の値を決めるステップと、
品質の値を使用して漏話の追加の推定値を得るべきか否かを判断するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
データ信号が送信機システムから複数の受信機に送信される複数の通信チャネルの第1部分に関する漏話の推定値の第1セットを取得し、漏話の推定値の第1セットに基づき複数の通信チャネルの第2部分に関する漏話の推定値の第2セットを補間するよう構成された送信機システム
を備える、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−102450(P2013−102450A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−273407(P2012−273407)
【出願日】平成24年12月14日(2012.12.14)
【分割の表示】特願2010−532050(P2010−532050)の分割
【原出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(596092698)アルカテル−ルーセント ユーエスエー インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】