説明

演奏制御装置、楽器演奏ロボット、ロボットによる楽器演奏方法

【課題】接触位置の損傷による楽器の短命化を防止する。
【解決手段】ロボット6は、バチ先をドラム2の打撃面の垂直方向に移動させて演奏を行うとすると、指令分解部21は、入力されたバチ先の下死点位置を示す3次元の位置指令データを、水平方向成分と垂直方向成分とに分解する。ばらつき成分付加部22は、水平方向成分データにばらつき成分データを付加する。指令合成部23は、ばらつき成分が付加された水平方向成分データと、指令分解部21が分解した垂直方向成分データとを合成して位置指令データを生成する。演奏指令部24は、指令合成部23生成の位置指令データに従いマニピュレータ8へ動作指令信号を送出する。マニピュレータ8は、その指令信号に従いアーム10を下死点位置まで振り下ろすことで演奏を行うが、このとき打撃点はばらつき成分によりドラム2の打撃面上にばらつく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器を演奏するロボット、特にロボットの演奏動作の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
テーマパークのアトラクション等では、打楽器を自動演奏するロボットが活躍している。この打楽器演奏ロボットは、バチを持った手を構成するマニピュレータを具備しており、打楽器演奏ロボットのコントローラは、マニピュレータを曲目に合わせて動作制御することで演奏を行う。なお、マニピュレータを使って実際の楽器をロボットに演奏させる技術として、例えば特許文献1がある。この従来技術では、指揮者の振る指揮棒の動きを検出し、その検出した指揮棒の先端の動きに合わせてマニピュレータを動作させる。つまり、コントローラは、指揮棒の動き、すなわち演奏曲目のリズムに合わせてバチを振り下ろすことによってバチ先で打楽器の打撃面を打撃し、またバチを元の位置に戻す。打楽器演奏ロボットは、このようにして演奏を行う。また、演奏する際、指揮棒の先端位置の時系列変化を解析することによって得た加速度に応じてバチの振り下ろしスピードを調節し、これにより音の強弱(音量)を調節している。あるいは、バチの振り下ろしスピードを固定し、バチ先の最終的な到達位置(下死点)を調整することでの強弱を調節している。
【0003】
ところで、バチの振り下ろし動作は、コントローラが下死点を特定する位置指令データを演奏曲目のリズムに合わせてマニピュレータへ送出することで実現されるが、この位置指令データは、3次元データで表現されている。音量の調節を下死点位置の調整で実現する場合、打楽器の打撃面をXY軸方向で表すとすると、Z軸方向のデータ量を変化させることで音量を調節することになる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−177686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、マニピュレータを使って実際の楽器をロボットに演奏させる場合、音量の調節の際にZ軸方向のデータ、すなわち打撃面に対して垂直方向のデータ値は変化されるものの、XY軸方向で形成される打撃面水平方向のデータ値は変更する必要がない。このため、従来においては、X軸及びY軸方向の位置指令データは、常に同じデータ値としていた。つまり、マニピュレータは、Z軸方向のデータ値は変化されてもX軸及びY軸方向に関しては常に同じデータ値によってサーボ制御されるため、打楽器の打撃面上の同じ位置を常にたたくことになる。Z軸に対するバチ先の運動ベクトルの向きとの角度にもよるが、同じ音量で演奏する限り、マニピュレータは、打撃面上の1点を正確に打撃することになる。音量をバチの振り下ろしスピードで調節する場合には、下死点位置は常に同じであり、Z軸方向のデータ値も一定であるためZ軸とバチ先の運動ベクトルの向きとの角度に関係なく、打撃面上の1点のみを寸分違わず打撃することになる。
【0006】
従って、従来の打楽器演奏ロボットを用いて楽器演奏させると、打楽器の打撃面上のある1点(打撃点)のみの損傷によって打撃面が使用できなくなってしまい、打楽器の寿命を短くしてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、接触位置の損傷による楽器の短命化を防止する演奏制御装置、楽器演奏ロボット及びロボットによる楽器演奏方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る演奏制御装置は、楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに基づいて、楽器演奏ロボットに楽器接触部位を移動させることによって楽器を演奏させる演奏制御装置であって、位置指令データを、楽器演奏ロボットが楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のために移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解手段と、非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加手段と、前記ばらつき成分付加手段が出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解手段が分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成手段と、前記指令合成手段が合成した位置指令データに従い楽器演奏ロボットに演奏させる演奏指令手段とを有し、楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る楽器演奏ロボットは、楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに基づき演奏する楽器演奏ロボットであって、入力された位置指令データに従い演奏制御を行う演奏制御装置と、前記演奏制御装置による演奏制御に従い楽器接触部位を移動先位置まで移動させることによって演奏を行う楽器演奏機構とを有し、前記演奏制御装置は、位置指令データを、前記楽器演奏機構が楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のためには移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解手段と、非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加手段と、前記ばらつき成分付加手段が出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解手段が分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成手段と、前記指令合成手段が合成した位置指令データに従い前記楽器演奏機構に演奏させる演奏指令手段とを有し、楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とする。
【0010】
また、前記楽器演奏機構は、ロボットの手腕として動作し、手の部分に打楽器を打撃するバチが取り付けられたマニピュレータであり、楽器接触部位であるバチ先で打楽器の打撃面に打撃することで演奏を行うことを特徴とする。
【0011】
また、前記指令分解手段は、位置指令データを示す3次元の各方向成分データをそれぞれ、打楽器の打撃面と水平方向の成分と垂直方向の成分とに分解し、その分解した水平方向成分データを非演奏方向成分データ、垂直方向成分データを演奏方向成分データとすることによって打撃面上の打撃点を可変にすることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るロボットによる楽器演奏方法は、楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに基づいてロボットに楽器を演奏させる楽器演奏方法であって、位置指令データを入力する入力ステップと、入力された位置指令データを、前記ロボットが楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のためには移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解ステップと、非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加ステップと、前記ばらつき成分付加ステップが出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解ステップが分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成ステップと、前記指令合成ステップが合成した位置指令データに従い前記ロボットに演奏させる演奏指令ステップとを含み、前記ロボットによる楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る楽器演奏装置は、楽器接触部位の移動先位置を示す位置データに基づいて、前記楽器接触部位を移動させることで楽器を演奏する楽器演奏装置であって、前記位置データは、前記楽器接触部位を楽器の演奏のために移動させるべき方向を指示する演奏方向成分と、演奏のために移動させる必要のない方向を指示する非演奏方向成分データとを備え、前記非演奏方向成分データは、前記楽器接触部位が楽器と接触する位置を、演奏のために移動させる必要のない方向にばらつくように移動させることを特徴とする。
【0014】
上記各発明において、「楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データ」というのは、例えば打楽器の場合は、演奏のために打楽器の打撃面をたたく方向(打撃面に対する垂直方向)に楽器接触部位を移動させる必要があるが、この打楽器の打撃面をたたくために必要な移動方向のデータのことをいう。一方、「演奏のために移動させる必要のない非演奏方向成分データ」というのは、例えば打楽器の場合、打撃面に対する垂直方向ではない水平方向への楽器接触部位の移動は、打撃面をたたくための方向ではない。このように、打楽器の打撃面をたたくために必要でない移動方向、すなわち演奏には必要のない方向のデータのことをいう。また、「接触」というのは、楽器を演奏するために楽器と接触することをいい、例えば、打楽器を「打撃する」こと、弦楽器の弦を「弾く」こと、鍵盤楽器の鍵盤を「たたく」ことは、それぞれ楽器に接触するので「接触」に含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、位置指令データを、演奏方向成分と非演奏方向成分とに分解し、そのうち非演奏方向成分にばらつき成分を付加するようにしたので、ロボットにおける演奏の際に楽器と常に同じ位置で接し続けることはない。このように、例えば打楽器であれば打撃点等楽器との接触位置をばらつかせることができるので、接触位置の損傷を軽減でき、この結果、楽器を延命させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る楽器演奏ロボットの一実施の形態を示した打楽器演奏ロボットの全体構成図である。図1には、打楽器であるドラム2、バチ4でドラムを打撃することで演奏を行う打楽器演奏ロボットの本体(以下、単に「ロボット」)6、マニピュレータ8及びコントローラ20が示されている。コントローラ20は、入力された位置指令データに従いマニピュレータ8を駆動制御して演奏させる。マニピュレータ8は、ロボットの手腕となり、また手の部分にバチ4が取り付けられた多関節のアーム10と、各関節を駆動するモータ12と、モータ12を操作するドライバ14とを有しており、コントローラ20からの指令により特定される移動先位置までバチ先を移動させる。バチ先の移動先位置は、通常、ドラム2の打撃面下方に設定されるので、ロボット6は、所定の構え位置からのバチ4の振り下ろし動作によってドラム2をたたいて演奏する。
【0018】
コントローラ20は、指令分解部21、ばらつき成分付加部22、指令合成部23及び演奏指令部24を有している。指令分解部21は、演奏させるための元データである位置指令データを入力する。データソース源として、図1には、外部と位置指令データ記憶部25とを示した。指令分解部21が入力する位置指令データは、上記の通り3次元データであり、指令分解部21は、この3次元データをマニピュレータ8が楽器の演奏のために楽器を打撃する部位に相当するバチ先を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のためには移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する。ばらつき成分付加部22は、指令分解部21が分解により生成した非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データをばらつき成分データ記憶部26から取り出し付加する。ここで付加するばらつき成分データについては、追って詳述する。指令合成部23は、ばらつき成分付加部22が出力する非演奏方向成分データと、指令分解部21が分解した演奏方向成分データとを合成する。演奏指令部24は、指令合成部23による合成により生成された位置指令データを入力すると、その位置指令データの内容に基づきマニピュレータ8へ動作指令信号を送出することでマニピュレータ8の駆動制御を行う。
【0019】
コントローラ20に含まれる各構成要素21〜25における処理機能は、当該各処理機能を実現するプログラムを、コントローラ20に搭載されたCPUで実行するという、ソフトウェアとハードウェア資源との協調動作により実現される。
【0020】
なお、本実施の形態では、打楽器演奏ロボットにコントローラ20を搭載して構成するようにしたが、コントローラ20を単体の演奏制御装置として構成し、その単体装置にマニピュレータ8を接続し、そのマニピュレータ8の駆動制御を行うことでロボット6に演奏させるように構成してもよい。
【0021】
ここで、動作を説明する前に、本実施の形態の特徴について図2を用いて説明する。図2には、図1に示したドラム2とバチ4とを抽出した図である。
【0022】
前述したように、ロボット6にドラム演奏をさせるには、位置指令データに3次元で表す移動先位置情報を含めている。ここで、図2に示したように3次元空間においてドラム2の打撃面と水平する方向をX,Y軸方向で表し、打撃面の垂直方向をZ軸方向で表すとすると、バチ先の移動先位置は、前述したようにドラム2の打撃面下方、すなわち打撃面から垂直(Z軸)方向奥に入った点に設定される。本実施の形態では、説明を簡略化するために、バチ先はZ軸の1次元方向のみに移動するものとして説明する。なお、打撃面がないとしたならば、ロボット6がバチ4を振り下ろすことによってバチ先が到達する点(バチ先の移動先位置)を「下死点」若しくは「下死点位置」と称することにする。
【0023】
ロボット6は、上記の通り3次元の位置指令データに従いバチ4を所定の構え位置から振り下ろしてドラム2をたたくが、この振り降ろしたときの下死点は、Z軸方向成分のデータ(Zデータ)の設定値によって決まる。そして、たたいたときの音量を大きくしたければ、Zデータの設定値を大きくすることで、下死点を打撃面から奥方向(図面下方向)の相対的に離れた位置に設定する。一方、たたいたときの音量を小さくしたければ、Zデータの設定値を小さくすることで、下死点を打撃面から奥方向ではあるものの打撃面に相対的に近い位置に設定する。つまり、音量は、打撃面と下死点位置との垂直距離と相関関係がある。
【0024】
このように、位置指令データのうちZ軸方向成分の設定データを調整することで、音の強弱を調整でき、また演奏することが可能になる。これに対し、X軸とY軸方向の成分データは、ドラム2の打撃面上のバチ先の打撃点を決定するに留まり、バチ先を演奏のために移動させるのに必要な成分データではないと考えられる。つまり、位置指令データを構成するX軸とY軸方向の成分データは、演奏の際に特に変更する必要がないため一定値(通常は打撃面のほぼ中央を示すデータ値)でよい。従来においては、X軸とY軸方向の成分データが固定的な位置指令データを入力し、そして入力された位置指令データをそのまま用いてマニピュレータの駆動制御を行っていたので、楽器演奏ロボットは、機械的な動作を行うことで常に固定的な1点のみを正確に打撃する。これにより、その打撃点のみが損傷し、打撃点以外の打撃面は新品同様であっても交換せざるを得ない状態になり、結果としてドラム2の寿命を短くしていた。
【0025】
そこで、本実施の形態においては、X軸とY軸方向の成分データを一定値とせずにばらつきを持たせることで、打撃点を変動可能にしたことを特徴としている。以下、本実施の形態の演奏時における動作について図3に示したフローチャートを用いて説明する。
【0026】
指令分解部21は、ロボット6にドラム演奏を行わせるための元データとして、位置指令データを入力する(ステップ110)。この入力先は、指示された演奏曲目に応じて位置指令データ記憶部25からデータを取り出してもよいし、あるいは、ネットワーク等を経由して外部装置から送られてくる位置指令データを取得するようにしてもよい。また、ここで入力される位置指令データは、従来と同様のデータをそのまま用いることができる。
【0027】
なお、コントローラ20は、位置指令データを連続して入力することで演奏を行う。より具体的に言うと、演奏対象の楽曲データには、複数の位置指令データが含まれており、コントローラ20は、楽曲を構成する位置指令データを順次処理することによって、ロボット6に所定の構え位置からアーム10を振り下ろしてドラム2をたたかせ、また振り下ろした位置から所定の構え位置までアーム10を振り上げさせる。この動作を繰り返し行うことで楽曲を演奏する。本実施の形態では、アーム10の振り下ろし動作によってドラム2をたたく動作に特徴があるので、その動作を中心に説明する。
【0028】
指令分解部21は、入力された位置指令データを、演奏方向成分データであるZデータと、非演奏方向成分データであるX,Yデータとに分解する(ステップ120)。続いて、ばらつき成分付加部22は、指令分解部21による分解処理によって得たX,Yデータを入力すると、このデータにばらつき成分を付加する。指令分解部21から入力されるX,Yデータは共に、打撃面の水平方向を特定する成分データなので、ここでは「水平方向成分データ」と総称して説明すると、振り下ろし動作のために指令分解部21から順次入力されてくる各水平方向成分データ値は、常に一定である。そこで、ばらつき成分付加部22は、ばらつき成分データ記憶部26から所定のばらつき成分データを取り出し、これを水平方向成分データに付加する(ステップ130)。この処理により、水平方向成分データは、ばらつき成分データが付加されたことで常に一定の値とならない。なお、水平方向成分データに付加する「所定のばらつき成分データ」に関しては、追って詳述する。
【0029】
ばらつき成分付加部22により位置指令データの水平方向成分にばらつき成分が付加されると、指令合成部23は、ばらつき成分付加部22からばらつき成分が付加された水平方向成分データと、指令分解部21から垂直成分データ(Zデータ)とをそれぞれ入力する。そして、各方向成分データを合成して位置指令データを生成する(ステップ140)。この合成により生成される位置指令データには、指令分解部21に入力された位置指令データとは異なり、ばらつき成分が付加されていることになる。そして、演奏指令部24は、指令合成部23が合成した位置指令データの設定内容に基づき生成した動作指令信号を出力することでマニピュレータ8の駆動制御を行う(ステップ150)。
【0030】
マニピュレータ8のドライバ14は、動作指令信号に従い各モータ12を操作してアーム10を動かす。これにより、ロボット6は、バチ先が位置指令データにより特定された下死点まで移動するようにバチ4を振り下ろす。実際は、下死点位置の手前に打撃面が存在するので、この振り下ろし動作によって打撃面を打撃することになる。
【0031】
以上のバチ4の振り下ろし指令に続いてバチ4を所定の位置まで戻す指令があり、ロボット6は、その指令に従い所定の構え位置までアーム10を移動させる。このバチ4を振り下ろす動作と元の位置に戻す動作をそれぞれ含む位置指令データを順次、連続して処理することで演奏が行われる。
【0032】
このドラム2をたたく動作に着目すると、前述したようにばらつき成分付加部22が位置指令データの水平方向成分(X軸方向及びY軸方向)にばらつき成分を付加したので、ロボット6は、打撃面の常に同じ位置を打撃し続けることはない。このように、本実施の形態によれば、打撃点をばらつかせることができるので、ドラム2を延命させることができる。ここで、ばらつき成分付加部22が水平方向成分データに付加する「所定のばらつき成分データ」について説明する。
【0033】
上記のように、本実施の形態では、ドラム2の打撃面上の打撃点をばらつかせることで打撃面の1点のみが損傷しないようにした。つまり、1点のみを集中して打撃面をたたかなければよい。従って、連続して打撃面上の同じ位置をたたかないということに限定されるものではなく、数回ごとに打撃点を変更するようにしてもよい。ドラム2の打撃面中心を「打撃基準点」とすると、打撃基準点及び打撃基準点の周囲を1回以上の同等の回数でバランスよくたたくように配分するのが望ましいと考えるのであれば、このような打撃が可能となるようにばらつき成分データを生成すればよい。また、アーム10の移動量を考慮すると、各水平方向成分データに付加するばらつき成分データ値が、直前のばらつき成分データ値との差が大きくならないように設定する方が好適である。
【0034】
ばらつき成分データ記憶部26には、このように1点集中型としない打撃を実現するためのばらつき成分データが含まれている。従って、この目的が達成できるのであれば、ばらつき成分データ記憶部26に登録しておくばらつき成分データの構成は、特に限定する必要はなく、例えば、設定値の異なるデータを複数登録してもよい。あるいは、データ値そのものではなく、ばらつき成分付加部22が理解できるばらつき成分データの生成規則等のデータをばらつかせるための規則情報等を登録してもよい。また、ばらつき成分データ記憶部26に設定登録するばらつき成分データを、何らかの基準に従いソフトウェア若しくはハードウェアロジックなどで生成するようにしてもよいし、ランダムに生成するようにしてもよい。あるいは、ばらつき成分データ記憶部26を用いることなく、ばらつき成分付加部22のロジックにて自動生成するようにしてもよい。
【0035】
ところで、上記説明では、ばらつき成分付加部22において水平方向成分データにばらつき成分を無条件に付加したが、水平方向成分データのばらつきの有無を事前に判定し、ばらつきがないときのみばらつき成分を付加するようにしてもよい。これにより、ばらつき成分が予め付加された位置指令データがコントローラ20に入力された場合に、更にばらつき成分を付加せずに、そのまま位置指令データを利用することができる。また、ばらつき成分付加後の位置指令データに更にばらつき成分を付加しないことには、次のような効果がある。
【0036】
例えば、打撃基準点の周囲に打撃点がばらつくような内容のばらつき成分データが位置指令データに付加されていたとすると、このばらつき成分付加後の位置指令データに更に同一内容のばらつき成分を付加してしまうと、打撃範囲が更に拡がってしまう。このように、打撃基準点から大きく離れた位置を打撃してしまうと、好ましい音色を奏でることができなかったり、打撃点が打撃面から外れてしまったり、あるいはアーム10の移動距離が大きくなることからロボット6が演奏スピードについていけなかったりするなどの弊害が生じる可能性がある。従って、上記のように水平方向成分データのばらつきの有無を事前に判定するようにすれば、このような弊害を未然に防止することができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、XY軸方向とドラム2の打撃面が水平関係にあり、バチ先がZ軸の1次元方向のみに移動することを前提として説明した。つまり、位置指令データに含まれるZデータのみが演奏のためにバチ先を移動させるのに必要な成分データ(演奏方向成分データ)であり、他方、XデータとYデータが打撃面上の打撃位置を特定するためのデータであって演奏のためにバチ4を移動させるのに必要のない成分データ(非演奏方向成分データ)であることから、本実施の形態では、上記前提のもと、Zデータを演奏方向成分データ、XデータとYデータを非演奏方向成分データと、単純に分けて取り扱うことができた。しかし、バチ4の移動方向がZ軸方向の1次元方向のみでない場合、音量すなわち下死点位置の設定によって打撃点は常に1点ではなく多少ずれることになる。ただ、音量が可変であっても打撃点は極めて限られた数点となるため、このような場合でも本発明は有効である。
【0038】
なお、本実施の形態では、楽器の損傷が比較的早いと考えられる打楽器を例にして説明した。ただ、本発明は、演奏する楽器として打楽器のみに有効というわけではない。例えば、ピアノ等の鍵盤楽器でもロボットの指が鍵盤を打撃することになるので、鍵盤楽器をひくロボットにも好適である。また、打撃により演奏する場合に限らず、楽器に接触する限りは、その接触位置が摩耗する可能性がある。例えば、弦楽器の弦を弾く位置を固定すると、その位置の損傷、摩耗により弦が切れやすくなる。従って、弦楽器の弦の弾く位置を変動させることで弦の寿命を延ばすことができるため、本発明は、弦楽器の演奏にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る楽器演奏ロボットの一実施の形態を示した打楽器演奏ロボットの全体構成図である。
【図2】図1に示したドラムとバチによる打撃方向との関係を示した図である。
【図3】本実施の形態における演奏処理を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
2 ドラム、4 バチ、6 ロボット、8 マニピュレータ、10 アーム、12 モータ、14 ドライバ、20 コントローラ、21 指令分解部、22 ばらつき成分付加部、23 指令合成部、24 演奏指令部、25 位置指令データ記憶部、26 ばらつき成分データ記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに基づいて、楽器演奏ロボットに楽器接触部位を移動させることによって楽器を演奏させる演奏制御装置であって、
位置指令データを、楽器演奏ロボットが楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のために移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解手段と、
非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加手段と、
前記ばらつき成分付加手段が出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解手段が分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成手段と、
前記指令合成手段が合成した位置指令データに従い楽器演奏ロボットに演奏させる演奏指令手段と、
を有し、楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とする演奏制御装置。
【請求項2】
楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに基づいて楽器を演奏する楽器演奏ロボットであって、
入力された位置指令データに従い演奏制御を行う演奏制御装置と、
前記演奏制御装置による演奏制御に従い楽器接触部位を移動先位置まで移動させることによって演奏を行う楽器演奏機構と、
を有し、
前記演奏制御装置は、
位置指令データを、前記楽器演奏機構が楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のためには移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解手段と、
非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加手段と、
前記ばらつき成分付加手段が出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解手段が分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成手段と、
前記指令合成手段が合成した位置指令データに従い前記楽器演奏機構に演奏させる演奏指令手段と、
を有し、楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とする楽器演奏ロボット。
【請求項3】
請求項2記載の楽器演奏ロボットであって、
前記楽器演奏機構は、ロボットの手腕として動作し、手の部分に打楽器を打撃するバチが取り付けられたマニピュレータであり、楽器接触部位であるバチ先で打楽器の打撃面に打撃することで演奏を行うことを特徴とする楽器演奏ロボット。
【請求項4】
請求項3記載の楽器演奏ロボットであって、
前記指令分解手段は、位置指令データを示す3次元の各方向成分データをそれぞれ、打楽器の打撃面と水平方向の成分と垂直方向の成分とに分解し、その分解した水平方向成分データを非演奏方向成分データ、垂直方向成分データを演奏方向成分データとすることによって打撃面上の打撃点を可変にすることを特徴とする楽器演奏ロボット。
【請求項5】
楽器接触部位の移動先位置を示す3次元の位置指令データに従いロボットに楽器を演奏させる楽器演奏方法であって、
位置指令データを入力する入力ステップと、
入力された位置指令データを、前記ロボットが楽器の演奏のために楽器接触部位を移動させるべき演奏方向成分データと、演奏のためには移動させる必要のない非演奏方向成分データとに分解する指令分解ステップと、
非演奏方向成分データに、非演奏方向をばらつかせるためのばらつき成分データを付加して出力するばらつき成分付加ステップと、
前記ばらつき成分付加ステップが出力する非演奏方向成分データと、前記指令分解ステップが分解した演奏方向成分データとを合成して位置指令データを生成する指令合成ステップと、
前記指令合成ステップが合成した位置指令データに従い前記ロボットに演奏させる演奏指令ステップと、
を含み、前記ロボットによる楽器との接触位置を変動可能にしたことを特徴とするロボットによる楽器演奏方法。
【請求項6】
楽器接触部位の移動先位置を示す位置データに基づいて、前記楽器接触部位を移動させることで楽器を演奏する楽器演奏装置であって、
前記位置データは、前記楽器接触部位を楽器の演奏のために移動させるべき方向を指示する演奏方向成分と、演奏のために移動させる必要のない方向を指示する非演奏方向成分データとを備え、
前記非演奏方向成分データは、前記楽器接触部位が楽器と接触する位置を、演奏のために移動させる必要のない方向にばらつくように移動させることを特徴とする楽器演奏装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−41168(P2007−41168A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223502(P2005−223502)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 2005年日本国際博覧会、財団法人2005年日本国際博覧会協会、平成17年3月10日
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】