演奏補助装置及び楽器
【課題】あたかも実際の管楽器を吹奏しているかのような吹奏感を吹奏者に与える技術を提供する。
【解決手段】金管楽器2のマウスピース21には、音波を発生させる発音用アクチュエータ11が設けられている。吹奏者は、実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に唇5をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。第2マウスピース22のスロート部222とシャンク部223との間の位置に、音圧を検出するセンサ226が設けられている。センサ226の検出結果に基づいて発音用アクチュエータ11が駆動することにより、マウスピース21内に音波が発生し、これにより金管楽器2から演奏音が放音される。また、センサ226の検出結果に基づいてバックプレッシャ用アクチュエータ228が駆動され、これにより、吹奏者は、唇5においてバックプレッシャを感じることができる。
【解決手段】金管楽器2のマウスピース21には、音波を発生させる発音用アクチュエータ11が設けられている。吹奏者は、実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に唇5をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。第2マウスピース22のスロート部222とシャンク部223との間の位置に、音圧を検出するセンサ226が設けられている。センサ226の検出結果に基づいて発音用アクチュエータ11が駆動することにより、マウスピース21内に音波が発生し、これにより金管楽器2から演奏音が放音される。また、センサ226の検出結果に基づいてバックプレッシャ用アクチュエータ228が駆動され、これにより、吹奏者は、唇5においてバックプレッシャを感じることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹奏者に吹奏感を与えるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械によって自動的に楽器を演奏する技術は広く知られており、例えば、自動的に演奏を行う自動オルガンや自動ピアノなどは古くから生産されている。近年においては、鍵盤楽器だけでなく、吹奏楽器を自動的に演奏する機械も開発されており、特許文献1〜3では金管楽器を自動的に演奏するロボットが開示されている。
【特許文献1】特開2004−258443号公報
【特許文献2】特開2004−177828号公報
【特許文献3】特開2004−314187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の自動オルガン、自動ピアノあるいは特許文献1〜3に記載の技術においては、全ての演奏を機械が自動的に行うものであり、利用者は演奏を聴くだけであった。一方、演奏をしてみたいという要求を持つ人も多く、たとえ演奏技術が未熟であっても自分の演奏によって楽器を奏でて楽しみたいという要望も多い。このような要望に応じるために、実際の演奏音に代えて演奏者の演奏操作に応じた演奏音を発生させる演奏補助装置が提案されている。このような演奏補助装置によれば、たとえ演奏技術が未熟であっても、演奏者は、自身の演奏操作によって楽器を良好に奏でることができる。
【0004】
ところで、実際の楽器を演奏する演奏者は、様々なかたちで演奏感を感じながら演奏を行っている。例えば、トランペット等の金管楽器においては、吹奏者は、管楽器の管の共鳴により発生するいわゆる「バックプレッシャ」と呼ばれる背圧を唇で感じながら演奏している。しかしながら、上述の演奏補助装置を用いて演奏を行った場合には、良好な演奏音を奏でることができるものの、演奏者は、その演奏中に演奏感を感じることができず、違和感を覚える場合がある。
本発明は上述した背景に鑑みてなされたものであり、あたかも実際の管楽器を演奏しているかのような吹奏感を吹奏者に与える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好適な態様である演奏補助装置は、管楽器に装着されたマウスピースとは別途設けられた第2のマウスピースのスロート部とシャンク部との間の位置に設けられ、該第2のマウスピースの吹き込み口に吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出する音圧検出手段と、前記音圧検出手段によって検出された音圧に基づいて、前記管楽器の管内に音波を発生させる発音用アクチュエータと、前記音圧検出手段により検出された音圧に基づいて、該音圧が前記管楽器に装着されたマウスピース内に発生したときに該マウスピースの吹込み口に加わる背圧を算出する背圧算出手段と、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記第2のマウスピースに加える背圧用アクチュエータとを具備することを特徴とする。
【0006】
上述の態様において、前記背圧発生手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、予め定められた時間遅延させて、前記第2のマウスピースに加えてもよい。
また、上述の態様において、前記吹奏者による操作の内容を検出する操作検出手段を備え、前記背圧手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記操作検出手段により操作された操作内容に応じた時間だけ遅延させて、前記第2のマウスピースに加えてもよい。
また、上述の態様において、前記背圧算出手段は、閉閉管に音圧を発生させたときに該閉閉管内に表れる音圧を算出してもよい。
また、本発明の好適な態様である楽器は、上述の演奏補助装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吹奏者は、あたかも実際の管楽器を演奏しているかのような吹奏感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<構成>
図1はこの発明の実施形態である演奏補助装置1の構成を示す図である。演奏補助装置1は、トランペットなどの金管楽器2に装着されて用いられ、吹奏者による金管楽器2の吹奏を補助する装置である。図において、発音用アクチュエータ11は、金管楽器2に装着されたマウスピース21の管路に音波を発生させる装置であり、金管楽器2のマウスピース21に装着されて用いられる。マウスピース21には、第2マウスピース22が、装着部材3によって装着されている。吹奏者は、実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に唇5をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。
【0009】
次に、第2マウスピース22の構成について、図2を参照しつつ説明する。図2は、第2マウスピース22の構成を示す図である。第2マウスピース22は、カップ部221と、スロート部222と、シャンク部223と、吹込管224とで構成されている。図において、センサ226は、第2マウスピース22のスロート部222とシャンク部223との間の位置に、図中上側を貫通して設けられ、第2マウスピース22の上部の中空部に露出している。センサ226は、第2マウスピース22の吹き込み口225から吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出するセンサである。第2マウスピース22の吹込管224の図中右端には、排気機構227が設けられている。吹奏者の呼気は、吹き込み口225から吹入され、排気機構227から第2マウスピース22の外部へ排出される。
【0010】
図2において、バックプレッシャ用アクチュエータ228は、吹奏者の唇にバックプレッシャを与えるアクチュエータである。バックプレッシャとは、管楽器内を発振(発音)部から音波が伝わり、管の先端で反射して戻ってきて元の発振部に与える影響(圧力的作用)のことをいう。この戻りの音波の振幅位相が発振部の振幅位相と同期するときには発振部の振動を安定、増幅させる。逆に反同期の場合には発振部の振動の安定性を乱し、また振幅を抑制する働きがある。
【0011】
バックプレッシャ用アクチュエータ228は、スピーカ2281を備えている。スピーカ2281は、電磁型スピーカであり、振動板2282、ボイスコイル、マグネット(図示略)等を備え、制御部19から供給される信号に応じて、振動板2282を振動させる。振動板2282は、振動することによって第2マウスピース22の吹き込み口225に背圧(バックプレッシャ)を発生させる。
【0012】
図2に示すように、センサ226は、スロート部222よりバックプレッシャ用アクチュエータ228のほうへやや進んだ位置に設けられている。センサ226が図2に示す位置に設けられていることにより、センサ226によって検出されるバックプレッシャのループが金管楽器2のスロート部222から朝顔部25の間内でのループと同様になるように構成される。
【0013】
ここで、第2マウスピース22におけるセンサ226の位置とバックプレッシャの関係について、図3に示す他の構成のマウスピースと比較しながら説明する。
図3は、マウスピース22Bの構成を示す図である。図3に示すマウスピース22Bと図2に示す本実施形態に係るマウスピース22とが異なる点は、センサ226が設けられている位置が異なる点である。なお、図6に示す他の構成要素については図2に示すそれと同様であり、ここではその詳細な説明を省略する。
図2に示す第2マウスピース22は、センサ226がスロート部222よりやや進んだ位置に設けられているのに対し、図3に示す第2マウスピース22Bでは、センサ226はカップ部221に設けられている。
【0014】
金管楽器の共鳴は、マウスピースのカップ部〜スロート部の部分(図1の矢印Aに示す部分)と、マウスピースのスロート部〜管本体の朝顔先端部の部分(図1の矢印Bに示す部分)との2つの部分のカップリングにより成り立つ。なお、以下の説明においては、バックプレッシャに係る説明の便宜上、図1の矢印Aによって示される、マウスピースのカップ部からスロート部の間の部分を、「マウスピース共鳴部A」と称することとする。また、説明の便宜上、図1の矢印Bによって示される、マウスピースのスロート部から管楽器本体の朝顔部25の間の部分を、「管共鳴部B」と称することとする。
【0015】
マウスピース共鳴部Aで共鳴する(位相が同期する)周波数と、スロート部を反射点として管共鳴部B内で共鳴する(位相が同期する)周波数とは一致せず、むしろ逆の関係にある。
ここで、マウスピース共鳴部Aと管共鳴部Bとの共鳴特性の関係について、図4を参照しつつ以下に説明する。
図4は、トランペットの共鳴測定図である。図において、鎖線L1は、吹奏周波数(ピッチ)を示す。実線L2によって示される山谷が、管共鳴部Bにおける共鳴特性を示す。一方、実線L3によって示される山谷が、マウスピース共鳴部Aにおける共鳴特性を示す。実線L2と実線L3とに示されるように、管共鳴部Bの特性(実線L2)と、マウスピース共鳴部Aの特性(実線L3)とは、互いに相反するシーソーのような関係になっている。なお、実線L4は、マウスピース共鳴部Aと管共鳴部Bとのそれぞれの共鳴の凹凸が互いに反対の関係にあることを明示するための補助線である。
【0016】
図4において、周波数f1は、金管の基本的に吹奏できる最低音(ピッチ)である。一方、周波数f12は、一般的に吹奏できる最高音又はそれ以上である。なお、この最高音は奏者に依存する。図4の実線L3に示されるように、周波数f11,周波数f12あたりは共鳴特性が比較的平坦で奏者が音程を取りづらいとともに、演奏ピッチ領域の高音域であり、極めて吹奏困難な設定であることが見て取れる。
【0017】
ここで、本物の金管楽器のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性と、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性とについて、図5及び図6を参照しつつ以下に説明する。
図5は、自然楽器を演奏した際の、マウスピース共鳴部Aの共鳴特性を示す図である。一方、図6は、図3に示すマウスピース22Bを用いて演奏された際のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性を示す図である。
【0018】
図5と図6とを比較すると、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合には、ある程度本物の金管楽器で得られるバックプレッシャに近い感触が得られたが、構造原理からして必ずしも本物に近いとはいえず、一部の奏者しか満足に演奏することが出来なかった。
その理由は、本物の管楽器が演奏不能周波数音において管が共鳴し、演奏可能周波数(ピッチ)では共鳴効果がなく単なる音響伝達管の役割を果たしているのに対して、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合では、その逆(演奏可能周波数音(ピッチ)で共鳴する)様のフィードバックループを構成していた。
それ故、「音の当たり」(ちゃんと吹けるピッチ)の幅は狭く、逆に音の吹けない周波数は曖昧であった。そのため、音階吹奏時に各音の個別感は弱く(スラー的音の繋がり)、吹けるピッチの幅が狭いので、ピッチベンドは非常に困難であった。
【0019】
この観点に着眼し、この実施形態では、センサ226を、カップ部221ではなくスロート部222にセンサ226を設ける構成としている。この構成により、バックプレッシャの発生する構造が本物の金管楽器に非常に近くなり、吹奏者に、あたかも本物の金管楽器を吹奏しているかのような印象を与えることができる。
【0020】
図1の説明に戻る。センサ226から出力される信号は、制御部19のオペレーションアンプ12に出力される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号の所定レベル以下の信号を0にすることによって雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0021】
スイッチ161,162,163は、金管楽器2の第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233にそれぞれ設けられており、吹奏者の第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233に対する操作を検出し、検出結果を示す信号を遅延制御回路15に出力する。遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163から供給される信号に基づいて、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に出力する。
【0022】
ここで、遅延制御回路15が行う遅延処理の内容について、図面を参照しつつ説明する。
図7は、直管の閉閉管の音圧共鳴状態を示す図であり、図8は、クラリネットのような直管の開閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
本物の金管楽器の金管はテーパー管である。テーパー管の中を往復する音波の挙動は複雑で、これを電気的に擬似するのは難しい。そこで、直管内の音波の挙動を模擬すれば簡単になる。しかしここで実際の管楽器(例えばクラリネット)で使われているような開・閉管を用いるとその共鳴周波数モード列は基本周波数の奇数倍の周波数となり、テーパー間で実現されているように奇数倍、偶数倍両方の周波数は得られない。しかしながら両端の閉じた閉・閉管ではテーパー管と同様に奇数倍、偶数倍両方の周波数が得られる。そこで、この観点に着目し、この実施形態では、遅延制御回路15は、直管の閉閉管内の音波の挙動を模擬した遅延処理を行う。
【0023】
図9は、遅延制御回路15が行う遅延制御処理の内容を説明するための図である。
遅延制御回路15のBBD遅延制御回路151は、センサ226から出力される信号の遅延制御を行う。遅延制御回路15のBBD素子152には、金管楽器2の管の長さに応じた遅延時間Δtが予め設定されているとともに、スイッチ161,162,163に対応する遅延時間Δt1,Δt2,Δt3がそれぞれ予め設定されている。遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163からの信号に応じて、センサ226からの信号を遅延させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に出力する(図10参照)。具体的には、例えば、第1ピストンバルブ231のみが押下されている場合には、遅延制御回路15は、(Δt+Δt1)だけ信号を遅延させて出力し、また、例えば、第2ピストンバルブ232と第3ピストンバルブ233とが吹奏者によって押下されている場合には、遅延制御回路15は、センサ226からの信号を(Δt+Δt2+Δt3)だけ信号を遅延させて出力する。
なお、図9においては、説明を簡略にするため、オペレーションアンプ12,雑音低減回路13,パワーアンプ14,グラフィックエコライザ17及びパワーアンプ18の図示を省略している。
【0024】
図1の説明に戻る。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0025】
<動作>
上述した構成によるこの実施形態の動作は以下のとおりである。まず、吹奏者が第2マウスピース22に唇5をつけ、息を吹き込むと、第2マウスピース22に取り付けられたセンサ226によって、このときの音圧が検出される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅し、雑音低減回路13に出力する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号から一定レベル以下の信号を0にすることで雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0026】
これにより、金管楽器2の管内には、吹奏者の吹奏により第2マウスピース22内に発生した音圧に応じた音波が発生する。発生した音波は、金管楽器2の管内をとおって金管楽器2の朝顔部25から放出される。これにより、金管楽器2からは、吹奏者の吹奏動作に応じた音が放音される。このとき、雑音低減回路13で雑音成分の除去がされたり、また、パワーアンプ14で音波が増幅されたりすることにより、吹奏者の吹奏技術が未熟である場合であっても、良好な演奏音を奏でることができる。
【0027】
一方、遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163から供給される信号に基づいて、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に出力する。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整処理を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0028】
これにより、第2マウスピース22の管内には、バックプレッシャ用アクチュエータ228から発された圧力が発生する。これにより、吹奏者は、唇5において、あたかも本物の金管楽器を演奏しているかのようなバックプレッシャを感じることができる。
【0029】
このように、この実施形態では、金管本体に装着するマウスピース21には電磁型スピーカ等からなる発音用アクチュエータ11を装着し、奏者はその隣(横)に追加した第2マウスピース22を用いて吹奏する。演奏者が直接吹入する第2マウスピース22の先端には、本物の金管楽器ではなく、電磁スピーカ等からなるバックプレッシャ用アクチュエータ228を設け、奏者側の第2マウスピース22のスロート部222より少し先端よりでセンサ226により得られた吹奏音を拡大、制御してそのバックプレッシャ用アクチュエータ228へ信号として入力し、そのバックプレッシャ用アクチュエータ228からは本物の金管で得られるバックプレッシャに相当する音響信号を模擬して出力する。このようにすることで、吹奏者は、バックプレッシャ用アクチュエータ228から発生される音響信号によるバックプレッシャを受けるから、これにより、吹奏者に対して、あたかも吹奏者が本物の金管楽器を直接演奏しているに似た環境(抵抗感)を提供することができ、吹奏者は、あたかも本物の金管楽器を演奏しているときに得られる吹奏感を得ることができる。
【0030】
また、この実施形態では、音を拾うセンサ226が、第2マウスピース22のカップ部221内ではなく、スロート部222より少し先端に進んだ位置に設けられているから、本物の金管楽器にバックプレッシャの発生する構造が非常に近いので、あたかも本物の金管楽器を吹いている印象で違和感がない。
【0031】
また、この実施形態では、共鳴のピークは曖昧であるから、基本的なピッチの前後ある幅を持った周波数領域で演奏することができ、いわゆる「ブルーノート」と呼ばれるようなピッチベンドという奏法で演奏することが可能である。
【0032】
また、この実施形態によれば、演奏不能周波数の領域の幅は狭く、音程を上下するときに音がスラー的にはならず、切れるポイントが明確で、音の個別感に富んでいる。すなわち本物の管楽器の演奏音に似ている。
【0033】
また、フィードバックループは、発振源である唇部を含まず、しかも吹奏時には非共鳴(逆位相に相当)であるので、極めてハウリングが起こり難い。
【0034】
<変形例>
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。以下にその一例を示す。
(1)上述した実施形態では、トランペット等の金管楽器に本発明を適用した例を示したが、本発明は、金管楽器に限らず、木管楽器等の他の管楽器についても適用することができる。例えば、木管楽器の場合であっても、上述した実施形態と同様に、マウスピースのスロート部付近に、音圧を検出するためのセンサを設ける構成とすればよい。
【0035】
(2)上述した実施形態では、アナログ回路を用いて遅延処理を行ったが、遅延回路はこれに限定されず、例えば、A/D変換器を用いて信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号で遅延処理を行い、D/A変換器でアナログ信号に戻してもよい。
【0036】
(3)上述した実施形態では、金管楽器2に装着されて用いられる演奏補助装置について説明した。この演奏補助装置は、マウスピースに装着可能な装置としてマウスピースと別体として構成されていてもよく、また、マウスピースと一体となって構成されていてもよい。また、演奏補助装置は、管楽器に装着可能な装置として管楽器と別体として構成されていてもよく、また、管楽器と演奏補助装置とが一体となって構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】演奏補助装置の構成の一例を示す図である。
【図2】マウスピースの構成の一例を示す図である。
【図3】マウスピースの他の構成の一例を示す図である。
【図4】トランペットの共鳴測定図である。
【図5】マウスピース共鳴部の共鳴特性を示す図である。
【図6】マウスピース共鳴部の共鳴特性を示す図である。
【図7】直管の閉閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
【図8】直管の開閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
【図9】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【図10】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
1…演奏補助装置、2…金管楽器、3…装着部材、5…唇、11…発音用アクチュエータ、12…オペレーションアンプ、13…雑音低減回路、14…パワーアンプ、15…遅延制御回路、17…グラフィックエコライザ、18…パワーアンプ、21…マウスピース、22…第2マウスピース、161,162,163…スイッチ、221…カップ部、222…スロート部、223…シャンク部、224…吹込管、225…吹き込み口、226…センサ、227…排気機構、228…バックプレッシャ用アクチュエータ、231…第1ピストンバルブ、232…第2ピストンバルブ、233…第3ピストンバルブ、2281…スピーカ、2282…振動板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹奏者に吹奏感を与えるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械によって自動的に楽器を演奏する技術は広く知られており、例えば、自動的に演奏を行う自動オルガンや自動ピアノなどは古くから生産されている。近年においては、鍵盤楽器だけでなく、吹奏楽器を自動的に演奏する機械も開発されており、特許文献1〜3では金管楽器を自動的に演奏するロボットが開示されている。
【特許文献1】特開2004−258443号公報
【特許文献2】特開2004−177828号公報
【特許文献3】特開2004−314187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の自動オルガン、自動ピアノあるいは特許文献1〜3に記載の技術においては、全ての演奏を機械が自動的に行うものであり、利用者は演奏を聴くだけであった。一方、演奏をしてみたいという要求を持つ人も多く、たとえ演奏技術が未熟であっても自分の演奏によって楽器を奏でて楽しみたいという要望も多い。このような要望に応じるために、実際の演奏音に代えて演奏者の演奏操作に応じた演奏音を発生させる演奏補助装置が提案されている。このような演奏補助装置によれば、たとえ演奏技術が未熟であっても、演奏者は、自身の演奏操作によって楽器を良好に奏でることができる。
【0004】
ところで、実際の楽器を演奏する演奏者は、様々なかたちで演奏感を感じながら演奏を行っている。例えば、トランペット等の金管楽器においては、吹奏者は、管楽器の管の共鳴により発生するいわゆる「バックプレッシャ」と呼ばれる背圧を唇で感じながら演奏している。しかしながら、上述の演奏補助装置を用いて演奏を行った場合には、良好な演奏音を奏でることができるものの、演奏者は、その演奏中に演奏感を感じることができず、違和感を覚える場合がある。
本発明は上述した背景に鑑みてなされたものであり、あたかも実際の管楽器を演奏しているかのような吹奏感を吹奏者に与える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好適な態様である演奏補助装置は、管楽器に装着されたマウスピースとは別途設けられた第2のマウスピースのスロート部とシャンク部との間の位置に設けられ、該第2のマウスピースの吹き込み口に吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出する音圧検出手段と、前記音圧検出手段によって検出された音圧に基づいて、前記管楽器の管内に音波を発生させる発音用アクチュエータと、前記音圧検出手段により検出された音圧に基づいて、該音圧が前記管楽器に装着されたマウスピース内に発生したときに該マウスピースの吹込み口に加わる背圧を算出する背圧算出手段と、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記第2のマウスピースに加える背圧用アクチュエータとを具備することを特徴とする。
【0006】
上述の態様において、前記背圧発生手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、予め定められた時間遅延させて、前記第2のマウスピースに加えてもよい。
また、上述の態様において、前記吹奏者による操作の内容を検出する操作検出手段を備え、前記背圧手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記操作検出手段により操作された操作内容に応じた時間だけ遅延させて、前記第2のマウスピースに加えてもよい。
また、上述の態様において、前記背圧算出手段は、閉閉管に音圧を発生させたときに該閉閉管内に表れる音圧を算出してもよい。
また、本発明の好適な態様である楽器は、上述の演奏補助装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吹奏者は、あたかも実際の管楽器を演奏しているかのような吹奏感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<構成>
図1はこの発明の実施形態である演奏補助装置1の構成を示す図である。演奏補助装置1は、トランペットなどの金管楽器2に装着されて用いられ、吹奏者による金管楽器2の吹奏を補助する装置である。図において、発音用アクチュエータ11は、金管楽器2に装着されたマウスピース21の管路に音波を発生させる装置であり、金管楽器2のマウスピース21に装着されて用いられる。マウスピース21には、第2マウスピース22が、装着部材3によって装着されている。吹奏者は、実際の金管楽器2に装着されたマウスピース21とは別途設けられた第2マウスピース22に唇5をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。
【0009】
次に、第2マウスピース22の構成について、図2を参照しつつ説明する。図2は、第2マウスピース22の構成を示す図である。第2マウスピース22は、カップ部221と、スロート部222と、シャンク部223と、吹込管224とで構成されている。図において、センサ226は、第2マウスピース22のスロート部222とシャンク部223との間の位置に、図中上側を貫通して設けられ、第2マウスピース22の上部の中空部に露出している。センサ226は、第2マウスピース22の吹き込み口225から吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出するセンサである。第2マウスピース22の吹込管224の図中右端には、排気機構227が設けられている。吹奏者の呼気は、吹き込み口225から吹入され、排気機構227から第2マウスピース22の外部へ排出される。
【0010】
図2において、バックプレッシャ用アクチュエータ228は、吹奏者の唇にバックプレッシャを与えるアクチュエータである。バックプレッシャとは、管楽器内を発振(発音)部から音波が伝わり、管の先端で反射して戻ってきて元の発振部に与える影響(圧力的作用)のことをいう。この戻りの音波の振幅位相が発振部の振幅位相と同期するときには発振部の振動を安定、増幅させる。逆に反同期の場合には発振部の振動の安定性を乱し、また振幅を抑制する働きがある。
【0011】
バックプレッシャ用アクチュエータ228は、スピーカ2281を備えている。スピーカ2281は、電磁型スピーカであり、振動板2282、ボイスコイル、マグネット(図示略)等を備え、制御部19から供給される信号に応じて、振動板2282を振動させる。振動板2282は、振動することによって第2マウスピース22の吹き込み口225に背圧(バックプレッシャ)を発生させる。
【0012】
図2に示すように、センサ226は、スロート部222よりバックプレッシャ用アクチュエータ228のほうへやや進んだ位置に設けられている。センサ226が図2に示す位置に設けられていることにより、センサ226によって検出されるバックプレッシャのループが金管楽器2のスロート部222から朝顔部25の間内でのループと同様になるように構成される。
【0013】
ここで、第2マウスピース22におけるセンサ226の位置とバックプレッシャの関係について、図3に示す他の構成のマウスピースと比較しながら説明する。
図3は、マウスピース22Bの構成を示す図である。図3に示すマウスピース22Bと図2に示す本実施形態に係るマウスピース22とが異なる点は、センサ226が設けられている位置が異なる点である。なお、図6に示す他の構成要素については図2に示すそれと同様であり、ここではその詳細な説明を省略する。
図2に示す第2マウスピース22は、センサ226がスロート部222よりやや進んだ位置に設けられているのに対し、図3に示す第2マウスピース22Bでは、センサ226はカップ部221に設けられている。
【0014】
金管楽器の共鳴は、マウスピースのカップ部〜スロート部の部分(図1の矢印Aに示す部分)と、マウスピースのスロート部〜管本体の朝顔先端部の部分(図1の矢印Bに示す部分)との2つの部分のカップリングにより成り立つ。なお、以下の説明においては、バックプレッシャに係る説明の便宜上、図1の矢印Aによって示される、マウスピースのカップ部からスロート部の間の部分を、「マウスピース共鳴部A」と称することとする。また、説明の便宜上、図1の矢印Bによって示される、マウスピースのスロート部から管楽器本体の朝顔部25の間の部分を、「管共鳴部B」と称することとする。
【0015】
マウスピース共鳴部Aで共鳴する(位相が同期する)周波数と、スロート部を反射点として管共鳴部B内で共鳴する(位相が同期する)周波数とは一致せず、むしろ逆の関係にある。
ここで、マウスピース共鳴部Aと管共鳴部Bとの共鳴特性の関係について、図4を参照しつつ以下に説明する。
図4は、トランペットの共鳴測定図である。図において、鎖線L1は、吹奏周波数(ピッチ)を示す。実線L2によって示される山谷が、管共鳴部Bにおける共鳴特性を示す。一方、実線L3によって示される山谷が、マウスピース共鳴部Aにおける共鳴特性を示す。実線L2と実線L3とに示されるように、管共鳴部Bの特性(実線L2)と、マウスピース共鳴部Aの特性(実線L3)とは、互いに相反するシーソーのような関係になっている。なお、実線L4は、マウスピース共鳴部Aと管共鳴部Bとのそれぞれの共鳴の凹凸が互いに反対の関係にあることを明示するための補助線である。
【0016】
図4において、周波数f1は、金管の基本的に吹奏できる最低音(ピッチ)である。一方、周波数f12は、一般的に吹奏できる最高音又はそれ以上である。なお、この最高音は奏者に依存する。図4の実線L3に示されるように、周波数f11,周波数f12あたりは共鳴特性が比較的平坦で奏者が音程を取りづらいとともに、演奏ピッチ領域の高音域であり、極めて吹奏困難な設定であることが見て取れる。
【0017】
ここで、本物の金管楽器のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性と、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性とについて、図5及び図6を参照しつつ以下に説明する。
図5は、自然楽器を演奏した際の、マウスピース共鳴部Aの共鳴特性を示す図である。一方、図6は、図3に示すマウスピース22Bを用いて演奏された際のマウスピース共鳴部Aの共鳴特性を示す図である。
【0018】
図5と図6とを比較すると、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合には、ある程度本物の金管楽器で得られるバックプレッシャに近い感触が得られたが、構造原理からして必ずしも本物に近いとはいえず、一部の奏者しか満足に演奏することが出来なかった。
その理由は、本物の管楽器が演奏不能周波数音において管が共鳴し、演奏可能周波数(ピッチ)では共鳴効果がなく単なる音響伝達管の役割を果たしているのに対して、図3に示すマウスピース22Bを用いた場合では、その逆(演奏可能周波数音(ピッチ)で共鳴する)様のフィードバックループを構成していた。
それ故、「音の当たり」(ちゃんと吹けるピッチ)の幅は狭く、逆に音の吹けない周波数は曖昧であった。そのため、音階吹奏時に各音の個別感は弱く(スラー的音の繋がり)、吹けるピッチの幅が狭いので、ピッチベンドは非常に困難であった。
【0019】
この観点に着眼し、この実施形態では、センサ226を、カップ部221ではなくスロート部222にセンサ226を設ける構成としている。この構成により、バックプレッシャの発生する構造が本物の金管楽器に非常に近くなり、吹奏者に、あたかも本物の金管楽器を吹奏しているかのような印象を与えることができる。
【0020】
図1の説明に戻る。センサ226から出力される信号は、制御部19のオペレーションアンプ12に出力される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号の所定レベル以下の信号を0にすることによって雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0021】
スイッチ161,162,163は、金管楽器2の第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233にそれぞれ設けられており、吹奏者の第1ピストンバルブ231,第2ピストンバルブ232,第3ピストンバルブ233に対する操作を検出し、検出結果を示す信号を遅延制御回路15に出力する。遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163から供給される信号に基づいて、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に出力する。
【0022】
ここで、遅延制御回路15が行う遅延処理の内容について、図面を参照しつつ説明する。
図7は、直管の閉閉管の音圧共鳴状態を示す図であり、図8は、クラリネットのような直管の開閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
本物の金管楽器の金管はテーパー管である。テーパー管の中を往復する音波の挙動は複雑で、これを電気的に擬似するのは難しい。そこで、直管内の音波の挙動を模擬すれば簡単になる。しかしここで実際の管楽器(例えばクラリネット)で使われているような開・閉管を用いるとその共鳴周波数モード列は基本周波数の奇数倍の周波数となり、テーパー間で実現されているように奇数倍、偶数倍両方の周波数は得られない。しかしながら両端の閉じた閉・閉管ではテーパー管と同様に奇数倍、偶数倍両方の周波数が得られる。そこで、この観点に着目し、この実施形態では、遅延制御回路15は、直管の閉閉管内の音波の挙動を模擬した遅延処理を行う。
【0023】
図9は、遅延制御回路15が行う遅延制御処理の内容を説明するための図である。
遅延制御回路15のBBD遅延制御回路151は、センサ226から出力される信号の遅延制御を行う。遅延制御回路15のBBD素子152には、金管楽器2の管の長さに応じた遅延時間Δtが予め設定されているとともに、スイッチ161,162,163に対応する遅延時間Δt1,Δt2,Δt3がそれぞれ予め設定されている。遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163からの信号に応じて、センサ226からの信号を遅延させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に出力する(図10参照)。具体的には、例えば、第1ピストンバルブ231のみが押下されている場合には、遅延制御回路15は、(Δt+Δt1)だけ信号を遅延させて出力し、また、例えば、第2ピストンバルブ232と第3ピストンバルブ233とが吹奏者によって押下されている場合には、遅延制御回路15は、センサ226からの信号を(Δt+Δt2+Δt3)だけ信号を遅延させて出力する。
なお、図9においては、説明を簡略にするため、オペレーションアンプ12,雑音低減回路13,パワーアンプ14,グラフィックエコライザ17及びパワーアンプ18の図示を省略している。
【0024】
図1の説明に戻る。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0025】
<動作>
上述した構成によるこの実施形態の動作は以下のとおりである。まず、吹奏者が第2マウスピース22に唇5をつけ、息を吹き込むと、第2マウスピース22に取り付けられたセンサ226によって、このときの音圧が検出される。オペレーションアンプ12は、センサ226から出力される信号を増幅し、雑音低減回路13に出力する。雑音低減回路13は、オペレーションアンプ12から出力される信号から一定レベル以下の信号を0にすることで雑音を低減し、パワーアンプ14と遅延制御回路15に出力する。パワーアンプ14は、雑音低減回路13から出力される信号を増幅し、発音用アクチュエータ11に出力する。発音用アクチュエータ11は、パワーアンプ14から供給される電気信号に基づいた圧力の空気振動を発生させる。
【0026】
これにより、金管楽器2の管内には、吹奏者の吹奏により第2マウスピース22内に発生した音圧に応じた音波が発生する。発生した音波は、金管楽器2の管内をとおって金管楽器2の朝顔部25から放出される。これにより、金管楽器2からは、吹奏者の吹奏動作に応じた音が放音される。このとき、雑音低減回路13で雑音成分の除去がされたり、また、パワーアンプ14で音波が増幅されたりすることにより、吹奏者の吹奏技術が未熟である場合であっても、良好な演奏音を奏でることができる。
【0027】
一方、遅延制御回路15は、スイッチ161,162,163から供給される信号に基づいて、雑音低減回路13から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ17に出力する。グラフィックエコライザ17は、遅延制御回路15から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整処理を行い、パワーアンプ18に出力する。パワーアンプ18は、グラフィックエコライザ17からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ228に供給する。バックプレッシャ用アクチュエータ228は、パワーアンプ18から供給される信号に応じて振動板2282を振動させる。
【0028】
これにより、第2マウスピース22の管内には、バックプレッシャ用アクチュエータ228から発された圧力が発生する。これにより、吹奏者は、唇5において、あたかも本物の金管楽器を演奏しているかのようなバックプレッシャを感じることができる。
【0029】
このように、この実施形態では、金管本体に装着するマウスピース21には電磁型スピーカ等からなる発音用アクチュエータ11を装着し、奏者はその隣(横)に追加した第2マウスピース22を用いて吹奏する。演奏者が直接吹入する第2マウスピース22の先端には、本物の金管楽器ではなく、電磁スピーカ等からなるバックプレッシャ用アクチュエータ228を設け、奏者側の第2マウスピース22のスロート部222より少し先端よりでセンサ226により得られた吹奏音を拡大、制御してそのバックプレッシャ用アクチュエータ228へ信号として入力し、そのバックプレッシャ用アクチュエータ228からは本物の金管で得られるバックプレッシャに相当する音響信号を模擬して出力する。このようにすることで、吹奏者は、バックプレッシャ用アクチュエータ228から発生される音響信号によるバックプレッシャを受けるから、これにより、吹奏者に対して、あたかも吹奏者が本物の金管楽器を直接演奏しているに似た環境(抵抗感)を提供することができ、吹奏者は、あたかも本物の金管楽器を演奏しているときに得られる吹奏感を得ることができる。
【0030】
また、この実施形態では、音を拾うセンサ226が、第2マウスピース22のカップ部221内ではなく、スロート部222より少し先端に進んだ位置に設けられているから、本物の金管楽器にバックプレッシャの発生する構造が非常に近いので、あたかも本物の金管楽器を吹いている印象で違和感がない。
【0031】
また、この実施形態では、共鳴のピークは曖昧であるから、基本的なピッチの前後ある幅を持った周波数領域で演奏することができ、いわゆる「ブルーノート」と呼ばれるようなピッチベンドという奏法で演奏することが可能である。
【0032】
また、この実施形態によれば、演奏不能周波数の領域の幅は狭く、音程を上下するときに音がスラー的にはならず、切れるポイントが明確で、音の個別感に富んでいる。すなわち本物の管楽器の演奏音に似ている。
【0033】
また、フィードバックループは、発振源である唇部を含まず、しかも吹奏時には非共鳴(逆位相に相当)であるので、極めてハウリングが起こり難い。
【0034】
<変形例>
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。以下にその一例を示す。
(1)上述した実施形態では、トランペット等の金管楽器に本発明を適用した例を示したが、本発明は、金管楽器に限らず、木管楽器等の他の管楽器についても適用することができる。例えば、木管楽器の場合であっても、上述した実施形態と同様に、マウスピースのスロート部付近に、音圧を検出するためのセンサを設ける構成とすればよい。
【0035】
(2)上述した実施形態では、アナログ回路を用いて遅延処理を行ったが、遅延回路はこれに限定されず、例えば、A/D変換器を用いて信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号で遅延処理を行い、D/A変換器でアナログ信号に戻してもよい。
【0036】
(3)上述した実施形態では、金管楽器2に装着されて用いられる演奏補助装置について説明した。この演奏補助装置は、マウスピースに装着可能な装置としてマウスピースと別体として構成されていてもよく、また、マウスピースと一体となって構成されていてもよい。また、演奏補助装置は、管楽器に装着可能な装置として管楽器と別体として構成されていてもよく、また、管楽器と演奏補助装置とが一体となって構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】演奏補助装置の構成の一例を示す図である。
【図2】マウスピースの構成の一例を示す図である。
【図3】マウスピースの他の構成の一例を示す図である。
【図4】トランペットの共鳴測定図である。
【図5】マウスピース共鳴部の共鳴特性を示す図である。
【図6】マウスピース共鳴部の共鳴特性を示す図である。
【図7】直管の閉閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
【図8】直管の開閉管の音圧共鳴状態を示す図である。
【図9】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【図10】遅延制御回路が行う遅延処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
1…演奏補助装置、2…金管楽器、3…装着部材、5…唇、11…発音用アクチュエータ、12…オペレーションアンプ、13…雑音低減回路、14…パワーアンプ、15…遅延制御回路、17…グラフィックエコライザ、18…パワーアンプ、21…マウスピース、22…第2マウスピース、161,162,163…スイッチ、221…カップ部、222…スロート部、223…シャンク部、224…吹込管、225…吹き込み口、226…センサ、227…排気機構、228…バックプレッシャ用アクチュエータ、231…第1ピストンバルブ、232…第2ピストンバルブ、233…第3ピストンバルブ、2281…スピーカ、2282…振動板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器に装着されたマウスピースとは別途設けられた第2のマウスピースのスロート部とシャンク部との間の位置に設けられ、該第2のマウスピースの吹き込み口に吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出する音圧検出手段と、
前記音圧検出手段によって検出された音圧に基づいて、前記管楽器の管内に音波を発生させる発音用アクチュエータと、
前記音圧検出手段により検出された音圧に基づいて、該音圧が前記管楽器に装着されたマウスピース内に発生したときに該マウスピースの吹込み口に加わる背圧を算出する背圧算出手段と、
前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記第2のマウスピースに加える背圧用アクチュエータと
を具備することを特徴とする演奏補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の演奏補助装置において、
前記背圧発生手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、予め定められた時間遅延させて、前記第2のマウスピースに加えることを特徴とする演奏補助装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の演奏補助装置において、
前記吹奏者による操作の内容を検出する操作検出手段を備え、
前記背圧手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記操作検出手段により操作された操作内容に応じた時間だけ遅延させて、前記第2のマウスピースに加えることを特徴とする演奏補助装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の演奏補助装置において、
前記背圧算出手段は、閉閉管に音圧を発生させたときに該閉閉管内に表れる音圧を算出する
ことを特徴とする演奏補助装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1に記載の演奏補助装置を備える楽器。
【請求項1】
管楽器に装着されたマウスピースとは別途設けられた第2のマウスピースのスロート部とシャンク部との間の位置に設けられ、該第2のマウスピースの吹き込み口に吹奏者の呼気が吹入されることによって発生する音圧を検出する音圧検出手段と、
前記音圧検出手段によって検出された音圧に基づいて、前記管楽器の管内に音波を発生させる発音用アクチュエータと、
前記音圧検出手段により検出された音圧に基づいて、該音圧が前記管楽器に装着されたマウスピース内に発生したときに該マウスピースの吹込み口に加わる背圧を算出する背圧算出手段と、
前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記第2のマウスピースに加える背圧用アクチュエータと
を具備することを特徴とする演奏補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の演奏補助装置において、
前記背圧発生手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、予め定められた時間遅延させて、前記第2のマウスピースに加えることを特徴とする演奏補助装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の演奏補助装置において、
前記吹奏者による操作の内容を検出する操作検出手段を備え、
前記背圧手段は、前記背圧算出手段により算出された背圧を、前記操作検出手段により操作された操作内容に応じた時間だけ遅延させて、前記第2のマウスピースに加えることを特徴とする演奏補助装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の演奏補助装置において、
前記背圧算出手段は、閉閉管に音圧を発生させたときに該閉閉管内に表れる音圧を算出する
ことを特徴とする演奏補助装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1に記載の演奏補助装置を備える楽器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−224752(P2008−224752A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58955(P2007−58955)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
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