説明

漢方医学的体質分類方法

【課題】「お血」「血虚」「水滞」「気滞」「気虚」「気逆」などという漢方医学的な体質傾向を客観的に判定できる簡便な方法およびその方法を用いたシステムを提供する。
【解決手段】漢方医学的体質評価において、1)額部の皮下水分量と、2)額部の皮下電解質濃度と、3)額部の皮膚表面角質水分量との測定値を用いて、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという体質傾向を客観的でかつ簡便に分類し判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという漢方医学的な体質傾向を客観的かつ簡便に判定でき、分類できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漢方医学的概念である「気・血・水」は、体を構成する基本物質である。そこで体の3要素である「気・血・水」のバランスが崩れた病態において、最も著明にあらわれる変調に対して対策を講ずる治療法が確立されている。
「気」は生命エネルギーといった形のないものであり、「気」は機能である。「血」は血液、「水」は体を潤す液体のことで血液以外の体液を意味し、「血・水」は物質である。
漢方医学では「気・血・水」のバランスが崩れたときに生じるからだの不調を診断するために、問診表による体質診断を行ない、例えば「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」という体質傾向に分類する。また、これ以外にも「水毒・気滞・お血・陰虚・気虚・血虚」という分類法もあり、さまざまな体質分類方法が存在する。
【0003】
漢方薬の選定には、漢方医学の考え方に基づいて作成した問診表を用いることが一般的に行われている。そこで、より簡便かつ高精度に「証」や体質を判定するために問診表の質問を簡易にしたり、個人でも容易に体質測定を行なえるような体質分析ツールやカウンセリング方法など数多く提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
さらには、体質分類の精度を向上させ、より客観的な評価を行なうために、皮膚の水分量や皮脂量等の物理化学的測定、皮膚状態等の測定も併せて行なわれている(例えば、特許文献5参照)。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−172769号公報
【特許文献2】特開2002−119513号公報
【特許文献3】特開2002−140434号公報
【特許文献4】特開2006−290802号公報
【特許文献5】特開2000−51153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら問診表による評価では、人間の主観に依存する側面が大きいために個人によるばらつきが大きく、精度に欠けるという欠点があった。また、客観的な評価方法として、「気・血・水」バランスを数値化して漢方医学的な体質傾向を判定する方法が提案されている。例えば、前頭葉の酸素化ヘモグロビン濃度及び/又はヘモグロビンの酸素飽和度変化量と額部の真皮水分量又は電荷総量を用いて測定する方法で、近赤外スペクトロスコピー(NIRS)のような特殊な装置を用いて、脳を活動させた時の血流変化を測定するが、時間や費用を要し、そのうえ被験者への負担も大きいことが課題であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などの漢方医学的な
体質傾向を客観的に判定できる簡便な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、漢方医学的体質分類において、1)額部の皮下水分量と、2)額部の皮下電解質濃度と、3)額部の皮膚表面角質水分量との測定結果に基づいて、「お血」「血虚」「水滞」「気滞」「気虚」「気逆」などに分類することを特徴とする漢方医学体質分類方法である。
また、「水毒」「気滞」「お血」「陰虚」「気虚」「血虚」といった一般的に知られている他の体質分類法にも用いることができる。
【0009】
第2の発明は、分極電流計を用いて前記発明の漢方医学体質分類を行うことができる漢方医学体質分類システムである。
【0010】
本発明者らは、「全身をコントロールする脳細胞は、ブドウ糖と酸素から大量のエネルギーをつくっていること」、「脳細胞は、全身で消費するエネルギーのうち20〜30%を消費していること」、また「前頭連合野は、人間の複雑な感情面や論理性などの高度な判断を司っていること」などに着目し、額部の皮膚水分に関して鋭意研究を進めた。
【0011】
その結果、1)額部の皮下水分量と、2)額部の皮下電解質濃度と、3)額部の皮膚表面角質水分量とを測定することにより、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという体質傾向を客観的に、簡便にかつ即座に判定できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという漢方医学的な体質傾向を客観的にかつ簡便に分類し判定できる方法である。
【0012】
具体的には、男性および月経期の女性を対象に、分極電流計を用いて、1)額部の皮下水分量と、2)額部の皮下電解質濃度と、3)額部の皮膚表面角質水分量とを測定し、その測定結果を本発明で見出したマトリックス表(図1)にあてはめることで、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという体質傾向を即座に分類し、判定することができることを見出した。
更に、「水毒」「気滞」「お血」「陰虚」「気虚」「血虚」といった一般的に知られている他の体質分類法に用いることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、「お血・血虚・水滞・気滞・気虚・気逆」などという体質傾向を客観的に分類し判定する方法を提供することが可能となった。
また、本発明は、患者に対し疾病の予防・軽減等に最適な漢方薬を提供するための販売支援ツールとして利用できる。一方、研究開発現場では、疾病の予防・軽減等に有効な新しい漢方薬のスクリーニングにも利用できる。
これらの効果は、NIRSのような高価な特殊装置を用いる必要がなくなったので低コストとなり、皮下水分の測定は、分極電流計に接続したプローブを肌に接触させるだけで判定できるので短時間で簡便となり、分極電流計を用いるので精度がよく、また再現性もよくなった。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】体質傾向の判定マトリックス表
【図2】体質傾向と皮膚水分との関係(単回帰分析)
【図3】体質傾向と皮膚水分との関係(対応のないt-検定)
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。

(額部の皮下水分量と額部の皮下電解質濃度及び額部の皮膚表面角質水分量の測定)
心身不調による体質傾向の特徴が現れやすい月経期の健常女性40名及び健常男性14名を対象として、寺澤らの問診表(和漢診療学:寺澤捷年)による体質傾向調査、分極電流計による額部の皮下水分量と額部の皮下電解質濃度の測定及び額部の皮膚表面角質水分量の測定を行い、体質傾向と皮膚水分との関係を解析した。
【0016】
皮下水分量及び電解質量は、(有)アミカ社製の分極電流計を用いて測定した。分極電流計とは、皮膚にパルス電圧(DC3v、500μsecの短形波)を印加し、1μsec単位で電極間を流れた電流量を精密に計測し、電気生理学的に皮膚の状態を測る装置である。
皮膚表面に電圧を加えると、水分の多い皮下の真皮層に電気が流れるが、最初に検出される電流(BP値、単位μA)は真皮層の断面積に比例することから、真皮水分量を推測でき、即ち皮下水分量とすることができる。
一方、IQ値は、基底膜に溜まった電気量(IQ値:単位μC)を示し、電解質が多くなるとIQ値が高くなる。したがって、IQ/BP値を、電解質濃度とすることができる。
また角質水分量は、誘電係数の違いにより、静電容量を測定し、皮膚表面の水分の相対値(1〜99)を測定する(株)ウェイブサイバー社製の油水分測定器を用いる。
【0017】
図2は男女全体(54名)、女性(40名)、男性(14名)について、従来方法である問診により分類された「お血」「水滞」「血虚」「気虚」「気鬱」「気逆」スコアと、額部4箇所及びほほ部(参考)の皮膚水分(BP値、IQ値、IQ/BP及び角質水分(相対値))との単回帰分析による相関関係を示した表である。図中の数値は、標準回帰係数とp値を示し、p<0.05を有意な相関とし、p値が0.2より小さいものを記した。
この表より、水滞スコアとBPとの間に有意な正の相関、お血スコアとIQ/BPとの間に正の相関、気虚・気欝・気逆スコアとIQ/BPとの間に有意な負の相関が認められた。また、気虚スコアと額部角質水分量との間に有意な負の相関が認められた。
【0018】
図3は、男女別に体質スコアの高低で分割し、スコア高値群と低値群について、額部4箇所及びほほ部(参考)の皮膚水分(BP値、IQ値、IQ/BP及び角質水分(相対値))をt-検定により比較した際のp値を示した。p<0.05を有意な差があるものとし、p値が0.2より小さいものを記した。
水滞高値群が低値群と比較してBP値が有意に高かった。また、気虚・気逆高値群は低値群と比較してIQ/BPが有意に低く、血虚・気欝高値群においてもIQ/BPが低かった。お血スコア高値群では低値群と比較して角質水分量が高く、気虚・気欝スコア高値群では角質水分量が有意に低かった。 また、問診での個別項目で抑うつ、頭重感、冷えのぼせや紅潮の有訴者では、それぞれの非有訴者と比べて有意にBPが高かった。
【0019】
以上、上記の結果を用いて、簡易に判定できるマトリックス表(図1)を完成させた。1)額部の皮下水分量と、 2)額部の皮下電解質濃度と、 3)額部の皮膚角質水分量との測定結果をマトリック表にあてはめを行えば、例えば、漢方医学的体質分類で「お血」「水滞」「血虚」「気虚」「気鬱」「気逆」の判定が可能となる。
【0020】
図1では、BP値、IQ/BP、角質水分量と関係が最も強い相関性と有意な差が認め
られた体質を↑↑(又は↓↓)、ある程度の相関性と有意な差が認められた体質を↑(又は↓)と標記した。
【0021】
高値、低値の基準値については、例えば、アミカ社製の分極電流計で直径5mmのプローブを用いた場合には、安静時の額部皮下水分量であれば基準値を2000〜2400μAに設定し、電解質濃度は0.60〜0.75μC/μA、油水分測定器で角質水分量を45〜55に閾値を設定することができる。
尚、この表は今回得られた結果の一例であり、漢方医学的な体質分類の方法が異なれば、評価基準も異なるものとなる。
また、角質水分測定法としては、誘電係数測定を用いる本法に限らず、コンダクタンス値による方法など知られている方法を用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漢方医学的体質分類において、1)額部の皮下水分量と、2)額部の皮下電解質濃度と、3)額部の皮膚表面角質水分量との測定結果に基づいて、「お血」「血虚」「水滞」「気滞」「気虚」「気逆」などに分類することを特徴とする漢方医学体質分類方法。
【請求項2】
分極電流計を用いて請求項1記載の漢方医学体質分類を行うことができる漢方医学体質分類システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−254990(P2011−254990A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132172(P2010−132172)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【Fターム(参考)】