説明

漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法

【課題】漬け物の香味を維持させることの容易な漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法を提供する。
【解決手段】漬け物用添加剤には、有効成分としてオオバギ抽出物が含有されている。漬け物用添加剤には、有効成分としてカテキン類を含有させることが好ましい。漬け物の保存方法では、オオバギ抽出物を有効成分として含有する漬け物用添加剤を漬け物又はその原材料と混合して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の風味を向上させる風味向上剤が知られている(特許文献1参照)。特許文献1の風味向上剤は、甘蔗(サトウキビ)由来のエキスを有効成分とすることで、例えば食塩含有飲食品の塩風味を向上させる作用を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−265135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
漬け物は、香り及び味といった香味が経時的に変化し易い食品である。すなわち、所謂漬かり過ぎの状態に近づくにつれて、漬け物本来の香味が損なわれるおそれがある。このように漬け物は、同じ種類であったとしても、香り及び味といった香味が実際に食する日に応じて異なって感じられ易い傾向にある。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、漬け物の香味を維持させることの容易な漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の漬け物用添加剤は、オオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の漬け物用添加剤において、さらに、カテキン類を有効成分として含有することを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の漬け物用添加剤において、浅漬けに用いられることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の漬け物の保存方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の漬け物用添加剤を漬け物又はその原材料と混合して用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、漬け物の香味を維持させることの容易な漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の漬け物用添加剤、及び漬け物の保存方法を浅漬けに用いられる浅漬け用添加剤、及び浅漬けの保存方法を具体化した実施形態を詳細に説明する。
浅漬け用添加剤は、オオバギ抽出物を有効成分として含有している。オオバギ抽出物の原料であるオオバギ(大葉木)は、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)である。オオバギは、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などに生育している。また、オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0010】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、二種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。浅漬けの香味を維持する効果を顕著に発揮させるという観点から、原料には果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、及び分泌物(ワックス等)の少なくとも一種が含まれることが好ましい。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根、及び葉の占める割合は高い。このため、オオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰した状態、採取・乾燥後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、又は、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した後に乾燥させた状態として、抽出操作を行うことができる。抽出操作を効率的に行うべく、破砕した原料を用いることが好ましい。こうした破砕には、例えばカッター、裁断機、クラッシャー等を用いることができる。また、粉砕した原料を調製する際には、例えばミル、クラッシャー、グラインダー等を用いることができる。すり潰した原料を調製する際には、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0011】
上述した原料からオオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒であることが好ましい。抽出溶媒としては、例えば水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒が好ましい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、オオバギに含まれる有効成分を効率的に抽出できないおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0012】
なお、抽出溶媒中に、例えば有機塩、無機塩、緩衝剤、乳化剤及びデキストリンを溶解させてもよい。
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作又は加温を行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。
【0013】
ここで、オオバギ抽出物の主要な成分は、ニムフェオール類である。ニムフェオール類は、水に対して不溶の成分であるため、オオバギを例えば熱湯で煮沸することで、ニムフェオール類以外の不必要な侠雑物を効率的に除去することができる。
【0014】
抽出操作の後には固液分離操作が行われることで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の分離法としては、例えばろ過、遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたオオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮されてもよい。
【0015】
また、オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。こうした溶媒の除去は、例えば減圧下で加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。なお、浅漬け用添加剤にオオバギ抽出物を含有させる際には、液状の形態として含有させてもよいし、固体状の形態として含有させてもよい。
【0016】
オオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類としては、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、ニムフェオール−C及びイソニムフェオール−Bが挙げられる。特に、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cからなるニムフェオール類が浅漬け用添加剤の有効成分として寄与していると推測される。
【0017】
ニムフェオール−A(nymphaeol−A)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-geranylflavanone)である。ニムフェオール−B(nymphaeol−B)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-geranylflavanone)である。ニムフェオール−C(nymphaeol−C)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(3´´´,3´´´-ジメチルアリル)-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(3´´´,3´´´-dimethylallyl)-2´-geranylflavanone)である。イソニムフェオール−B(isonymphaeol−B)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-geranylflavanone)である。
【0018】
オオバギ抽出物には、プロポリンAが含有されている。プロポリンA(propolinA)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)である。オオバギ抽出物に含まれる微量成分としては、例えば5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimetyl-2´´-octenyl)-flavanone)、及び5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-ゲラニルフラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-geranylflavanone)が挙げられる。なお、オオバギの各部位から抽出された抽出液の中でも、花、種子及び実の部位(ワックスを含む)から抽出された抽出液には、ニムフェオールA,B,C及びイソニムフェオールBが他の部位と比べて高濃度で含有されている。
【0019】
浅漬け用添加剤は、カテキン類を有効成分として添加して含有させることが好ましい。浅漬け用添加剤にカテキン類を含有させることで、オオバギ抽出物の作用効果を顕著に高めることが容易である。カテキン類としては、例えばカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びカテキン重合物が挙げられる。カテキン類は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。カテキン類としては、エピカテキン、エピガロカテキンガレート及びカテキン重合物から選ばれる少なくとも一種が好ましい。カテキン類としては、入手が容易であるという観点から、緑茶、ジャスミン茶、ウーロン茶、紅茶、リンゴ、及びブドウの少なくとも一種の抽出物を由来とすることが好ましい。例えば、各抽出物に多く含まれる成分としては、緑茶及びジャスミン茶にはエピガロカテキンガレートが含有され、ウーロン茶及び紅茶にはカテキン重合物が含有され、リンゴにはエピカテキンが含有され、ブドウにはカテキン重合物が含有されている。
【0020】
浅漬け用添加剤には、必要に応じて上記の有効成分以外の添加物を含有させてもよい。添加物としては、特に限定されず、例えば調味料、酸味料及び糖類が挙げられる。調味料としては、例えば食塩、醤油、砂糖、酢、味噌、香辛料、及びアミノ酸が挙げられる。酸味料としては、例えばアジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、及びリン酸が挙げられる。糖類としては、ソルビット、デキストリン、還元水飴、及びオリゴ糖が挙げられる。
【0021】
浅漬け用添加剤は、固体状として構成してもよいし、液状として構成してもよい。浅漬け用添加剤を液状として構成する場合、オオバギ抽出物の溶解性が良好であるという観点から、エタノール(酒精)が好適である。
【0022】
浅漬け用添加剤は、浅漬け又はその原材料と混合して用いられる。浅漬けの原材料は、青果及び食塩を含む。青果は、野菜及び果物であり、野菜としては、例えば果菜類、茎菜類、葉菜類、根菜類、及び花菜類に分類される。果菜類としては、例えばキュウリ、ナス、及びオクラが挙げられる。茎菜類としては、例えばラッキョウ、レンコン、ニンニク、ショウガ、たけのこ、イモ類及びアスパラガスが挙げられる。葉菜類としては、例えば白菜、キャベツ、高菜、野沢菜、水菜、セリ、チンゲンサイ、小松菜、セロリ、及びシソが挙げられる。根菜類としては、例えばダイコン、カブ、ニンジン、レンコン、及びゴボウが挙げられる。花菜類としては、例えば菜の花、カリフラワー、及びミョウガが挙げられる。
【0023】
浅漬けに適している果物としては、例えば仁果類、核果類、及び柑橘類が挙げられる。仁果類としては、例えばリンゴが挙げられる。核果類としては、例えばウメが挙げられる。柑橘類としては、例えばレモン、及びスダチが挙げられる。浅漬けには、単独種の青果を用いてもよいし、複数種の青果を用いてもよい。
【0024】
浅漬けの原材料としての食塩は、青果の水分を排出する作用を発揮するとともに青果を調味する成分である。食塩としては、例えば海水塩、岩塩、及び天日塩が挙げられる。
浅漬け用添加剤を青果に混合する際には、食塩及び浅漬け用添加剤を含有する調味剤を予め調製した後に青果に混合してもよいし、食塩とは別の剤として青果に直接混合してもよい。食塩及び浅漬け用添加剤を含有する調味剤を調製する際には、エタノール(酒精)を含有させることで青果との混合性を高めることが容易である。
【0025】
浅漬けには、通常、浅漬けに添加される添加物を必要に応じて含有させてもよい。浅漬けの添加物としては、食品及び食品添加物が挙げられる。浅漬けの添加物の具体例としては、醤油、味噌、砂糖、酢、昆布、香辛料、アミノ酸類、酒精、糖類等が挙げられる。
【0026】
浅漬け又はその原材料に対する浅漬け用添加剤の添加量は、浅漬けの保存時の液分中の濃度において、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cからなるニムフェオール類を50質量%含有するオオバギ抽出物の添加量に換算した換算値で示すと、好ましくは1〜500ppmの範囲であり、より好ましくは1〜200ppmの範囲であり、さらに好ましくは10〜50ppmの範囲である。浅漬け用添加剤の添加量が上記換算値で1ppm以上の範囲とすることで、浅漬けの香味を維持させる効果が顕著に得られ易くなる。一方、浅漬け用添加剤の添加量が上記換算値で500ppmを超える範囲の場合、食後の口の中にオオバギ抽出物の匂いが感じられ易くなる傾向にある。特に、上記浅漬け用添加剤の添加量が、上記換算値で200ppm以下の範囲であることで、食後の口にオオバギ抽出物の匂いが感じられ難くなる。一方、オオバギ抽出物の精製度を高めることでオオバギ抽出物の匂いが感じられ難くなるため、精製度の高いオオバギ抽出物を用いた場合は添加量を多くしても良い。
【0027】
浅漬け用添加剤にカテキン類を含有させる場合、浅漬け又はその原材料に対するカテキン類の添加量としては、浅漬けの保存時の液分中の濃度において、好ましくは1〜500ppmの範囲であり、より好ましくは1〜200ppmの範囲であり、さらに好ましくは10〜50ppmの範囲である。カテキン類の添加量を1ppm以上の範囲とすることで、オオバギ抽出物の作用効果を高めることが容易となる。一方、カテキン類の添加量が500ppmを超える範囲の場合、カテキン類の匂い又は味が感じられ易くなるおそれがある。
【0028】
また、浅漬け用添加剤にカテキン類を含有させることで、オオバギ抽出物の作用効果を高めることができるため、浅漬け用添加剤の添加量を削減することができる。すなわち、浅漬け又はその原材料に対する浅漬け用添加剤の添加量を、浅漬けの保存時の液分中の濃度において、上記換算値で50ppm以下の範囲であっても、浅漬け用添加剤の香味を維持させる効果が顕著に得られるようになる。このとき、オオバギ抽出物の濃度が低濃度になることで、オオバギ抽出物に基づく匂いの影響を抑制することも容易となる。この点、上記浅漬け用添加剤の添加量は、上記換算値で、より好ましくは25ppm以下の範囲であり、さらに好ましくは20ppm以下の範囲である。またこのとき、カテキン類の添加量は、浅漬けの保存時の液分中の濃度において、上記オオバギ抽出物の質量に対して好ましくは1〜5倍の質量の範囲であり、より好ましくは1〜3倍の質量であり、さらに好ましくは1.5〜2.5倍の質量の範囲である。
【0029】
浅漬け用添加剤を用いた浅漬けの保存方法は、浅漬け又はその原材料に浅漬け用添加剤を混合する。ここで、古漬けは発酵を伴うものの、浅漬けは発酵を伴わない。こうした浅漬けの塩分濃度は、古漬けよりも低いのが一般的である。こうした浅漬けの塩分濃度は、青果100質量部に対して例えば1〜4質量部程度である。このような浅漬けは、低塩分濃度であり発酵を伴わないため、青果の香味が感じられ易いものの、香味が実際に食する日に応じて異なって感じられ易い傾向にある。この点、本実施形態の浅漬け用添加剤、及びそれを用いた浅漬けの保存方法によれば、浅漬け用添加剤に含有されるオオバギ抽出物の作用により、香味の経時変化が抑制されるようになる。
【0030】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)浅漬け用添加剤には、有効成分としてオオバギ抽出物が含有されている。オオバギ抽出物は、浅漬けの保存時において香味の経時変化を抑制するため、浅漬けの香味を維持させることの容易な浅漬け用添加剤及び浅漬けの保存方法を提供することができる。
【0031】
(2)浅漬け用添加剤には、さらにカテキン類を有効成分として含有されることが好ましい。カテキン類がオオバギ抽出物とともに含有されることで、浅漬けの香味を維持させることがさらに容易となる。ここで、浅漬けに含まれるオオバギ抽出物の量を高めることで、浅漬けの香味を維持させる効果は高まるものの、オオバギ抽出物に基づく匂いが浅漬けを食べた後に感じられ易くなることがある。この点、カテキン類を有効成分として含有させることで、オオバギ抽出物の含有量を削減することができるため、オオバギ抽出物によって生じる匂いを抑制し、かつ、浅漬けの香味を維持させることができるようになる。
【0032】
(3)食塩を含む調味料で野菜を処理する浅漬けは、短時間で調製することが可能であるため、手軽な食品として需要が高まっている。ところが、浅漬けでは、より高い塩分濃度で所定期間発酵する古漬けに比べて、香り及び味が経時変化し易い状態での流通を避けることが困難である。このため、同じ種類の浅漬けであったとしても、香り及び味といった香味が実際に食する日に応じて異なって感じられ易い傾向にある。こうした実情から、本実施形態の浅漬け用添加剤及び浅漬けの保存方法は極めて利用価値が高い。
【0033】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・浅漬け用添加剤は、浅漬けの原材料と混合して用いているが、食塩を含む調味液で青果を所定時間漬け込んだ後に、浅漬け用添加剤を添加してもよい。また、青果に浅漬け用添加剤を付着させる処理をした後に、その青果を他の原材料と混合してもよい。すなわち、浅漬けの製造過程のいずれの段階であっても、浅漬け用添加剤を添加することで、浅漬けの保存に際して香味を維持させる効果を得ることができる。
【0034】
・浅漬け用添加剤は、所定時間保存した後の浅漬けに添加してもよい。この場合であっても、浅漬け用添加剤を添加した後の保存において香味を維持させることが容易となる。
・浅漬け用添加剤は、浅漬けの製造過程から浅漬けの保存過程において、複数の段階に分けて添加してもよい。
【0035】
・浅漬けを漬け込む工程は、例えば下漬け工程、本漬け工程等の複数の工程で行ってもよい。
・前記浅漬け用添加剤及び浅漬けの保存方法は、漬け物用添加剤及び漬け物の保存方法として、古漬け、キムチ、発酵を伴った漬物や塩分濃度の高い漬物を一度水でさらして再度調味液に漬ける漬物、一般的な漬け物等を含む漬け物全般に適用することができる。
【0036】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)オオバギ抽出物を有効成分とする漬け物用添加剤を漬け物又はその原材料と混合して用いる漬け物の保存方法であって、漬け物の保存時の液分中における前記漬け物用添加剤の濃度が、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cからなるニムフェオール類を50質量%含有するオオバギ抽出物の添加量に換算した換算値で200ppm以下の範囲となるように、前記漬け物用添加剤を前記漬け物又はその原材料に添加する漬け物の保存方法。
【0037】
(ロ)オオバギ抽出物及びカテキン類を有効成分とする漬け物用添加剤を漬け物又はその原材料と混合して用いる漬け物の保存方法であって、漬け物の保存時の液分中における前記漬け物用添加剤の濃度が、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cからなるニムフェオール類を50質量%含有するオオバギ抽出物の添加量に換算した換算値で50ppm以下の範囲となるように、前記漬け物用添加剤を前記漬け物又はその原材料に添加する漬け物の保存方法。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<オオバギ抽出液の調製>
沖縄県で採集して冷凍したオオバギの生葉を解凍した後に、はさみでその生葉を細かくカットした。カットした生葉1kgに対し、90体積%エタノール水溶液20Lを加え、室温で2週間浸漬させて溶媒抽出を行った後、ろ過、濃縮、及び凍結乾燥の各操作を順に行うことで、粉末状のオオバギ抽出物を調製した。なお、オオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類の濃度は、以下に示されるHPLC条件で分析した結果、50質量%であった。なお、このニムフェオール類の濃度は、ニムフェオールA、ニムフェオールB、及びニムフェオール−Cを合計した濃度を示している。また、オオバギ抽出物の濃度は、ニムフェオール類の濃度を指標として示すことができる。
【0039】
(HPLC条件)
システム :PDA−HPLCシステム(島津製作所:LC10ADvp)
カラム :Intact製 CadenzaCD−C18 (4.6×250mm)
カラム温度:40℃
溶媒 :A:5%酢酸水溶液、B:メタノール
溶出条件 : 0−20min
(グラジエント溶出;A:B=80:20→A:B=30:70)
20−50min
(グラジエント溶出;A:B=30:70→A:B=0:100)
50−60min(A:B=0:100)
流速 : 0.6ml/min
PDA検出:UV190−370nm
注入量 : 20μl
次に、得られた粉末状のオオバギ抽出物を99.5vol%のエタノール水溶液に溶解することにより、2w/w%のオオバギ抽出液を調製した。
【0040】
<カテキン溶液の調製>
緑茶カテキン(江西緑康天然産物有限公司製、商品名:TP−98、ポリフェノール含量98%以上、総カテキン含量80%以上)を99.5vol%のエタノール水溶液に溶解することにより、2w/w%のカテキン溶液を調製した。
【0041】
(実施例1〜4、比較例1及び比較例2)
表1に示される市販品の浅漬けを必要な数準備して、各例の評価を行った。
【0042】
【表1】

まず、各浅漬けの袋を開封し、それら袋内の調味液(以下、基準液という。)を一つの滅菌ビンに移した後、基準液が均一になるように攪拌した。次に、各例用の袋(樹脂製、滅菌済)にそれぞれ同じ体積となるように基準液を分注した。白菜の葉部位及び芯部位は、約2cm幅にカットした後、同じ質量になるように各袋に入れた。各袋をシーラーで密封し、振とうした。
【0043】
表2に示されるように、各実施例では基準液にオオバギ抽出液を添加することで試験液とした。比較例1では基準液にカテキン溶液を添加することで試験液とした。表2に示される各成分の濃度は、試験液中における質量基準の濃度を示している。なお、オオバギ抽出液及びカテキン溶液にはエタノールが含まれるため、比較例2では基準液にエタノールを添加した試験液を調製することで、各実施例と適切な対比ができるようにした。
【0044】
続いて、各袋を再度シーラーで密封するとともに振とうした後、10℃の温度条件下で保存した。各袋から数日毎に試験液を抜き取り、試験液のpHを測定した。pHの低下が確認された時点で、浅漬けの保存を終了した。
【0045】
<評価方法>
保存の終了した浅漬けを各袋から取り出し、芯部位と葉部位と混ぜた状態で、プラスチックカップに約10〜15gずつ小分けしたものをブラインドテストによる官能評価に供した。また、賞味期限内の上記浅漬けの市販品を別途準備し、同様にプラスチックカップに小分けしたものを官能評価の対照とした。
【0046】
各例の浅漬けについて、官能能力において社内基準を満たした15人以上の被検者が食べる前の香り(評価項目1)、食べたときの酸味(評価項目2)、及び食後の口の中に残る匂い(評価項目3)を、上記対照と比較する官能評価をし、対照に近い順から順位付けした。
【0047】
評価項目1〜3について、1位を3点、2位を2点、3位を1点として各例の浅漬けについて合計点を算出した。
さらに、比較例2の浅漬けを基準とするために、実施例1〜4及び比較例1の各合計点から比較例2の合計点を減じて、これを被験者数で除して百分率に換算した。この結果を表2に併記している。
【0048】
【表2】

表2に示されるように、評価項目1及び2について、各実施例では比較例1よりも優れる結果が得られていることが分かる。
【0049】
(実施例5)
表3に示されるように、実施例5ではオオバギ抽出液及びカテキン溶液を基準液に添加することで試験液を調製した以外は実施例1〜4と同様にして浅漬けの保存及び評価を行った。
【0050】
【表3】

表3には、実施例5を実施例1及び比較例1と対比して示している。実施例5の試験液には、オオバギ抽出物に加えて緑茶カテキンが含有されているため、評価項目1〜3の各項目について、実施例1及び比較例1よりも優れることが分かる。このように実施例5並びに実施例1及び比較例1の結果から、オオバギ抽出物及び緑茶カテキンの相乗効果を確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする漬け物用添加剤。
【請求項2】
さらに、カテキン類を有効成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の漬け物用添加剤。
【請求項3】
浅漬けに用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漬け物用添加剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の漬け物用添加剤を漬け物又はその原材料と混合して用いることを特徴とする漬け物の保存方法。

【公開番号】特開2011−36195(P2011−36195A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187471(P2009−187471)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】