説明

漿膜下筋膜を含む分離された細胞外マトリクス材料

動物の腹壁から分離され腹壁の漿膜下筋膜層を含む純化させた細胞外マトリクス材料が記載される。このような医療用材料は、損傷を受けた組織の治療に使用でき、ある側面においてはヘルニアの修復における組織の支持を提供する際に使用できる。関連する製造方法および使用方法についても記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には医療用材料の分野に属し、特に組織移植に有用な医療用材料の局面に関する。
【背景技術】
【0002】
さらに、背景として、さまざまな細胞外マトリクス(ECM)材料が、医療用移植、細胞培養、およびその他の関連する用途において使用するために提案されてきた。たとえば、小腸、胃または膀胱組織から得た粘膜下組織を含む医療用移植片および細胞培養材料が提案されてきた。例として、米国特許第4,902,508号、第4,956,178号、第5,281,422号、第5,554,389号、第6,099,567号、および第6,206,931号参照。加えて、インディアナ州ウェストラファイエットのクックバイオテック社(Cook Biotech Incorporated)は現在、小腸の粘膜下組織に基づくさまざまな医療用材料を、SURGISIS(登録商標)、STRATASIS(登録商標)、およびOASIS(登録商標)という登録商標の下で製造している。
【0003】
肝臓の基底膜から得た医療用材料も、たとえば米国特許第6,379,710号において提案されている。加えて、羊膜から得たECM材料(例として米国特許第4,361,552号および第6,576,618号参照)および腎被膜から得たECM材料(2003年1月9日に公開された国際PCT特許出願WO03/002165参照)が、医療用途および/または細胞培養用途のために提案されている。しかしながら、これらの材料の多くは、その大きさおよび強度が限られている。用途によっては、これらの材料からなる複数のストリップまたはシートは、所望の領域を覆うのに十分大きな移植片となるように結合または接合し、かつ、十分な強度を保ち再移植が必要とならないようにしなればならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記に関し、広範囲にわたる医療用途、特に大型および/または比較的伸張性のある移植片を要する医療用途において使用可能な代替医療用材料が必要であることは明らかである。本発明は、このような医療用材料ならびにその調製方法および使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
ある局面において、本発明は、組織移植片を提供する際に使用するのに適した材料を提供する。この材料は、動物、特にブタ(porcine animal)の腹壁から得られ、この動物の腹壁由来の漿膜下筋膜を含んでいる細胞外マトリクス材料の、分離されたシートを含む。この細胞外マトリクス材料は、コラーゲンおよびエラスチンを含み、天然細胞を実質的に含まないようにすることができる。この細胞外マトリクス材料は、望ましくは生体吸収性であり、いくつかの実施の形態では動物由来の天然の硫酸化グリコサミノグリカンを保持することができる。この細胞外マトリクス材料は、少なくとも1ポンドの引張破断強度および/または少なくとも約50%の破断伸びを有することができる。
【0006】
別の局面において、本発明は、細胞外マトリクス移植材料の調製方法であって、この方法は、動物、特にブタの腹壁から分離された組織のセグメントを提供することを含み、この組織のセグメントは、漿膜下筋膜と付着した漿膜下脂肪とを含む、方法を提供する。この漿膜下脂肪のうち少なくとも一部は、たとえば機械的に除去され、漿膜下筋膜を含む組織のコラーゲンの層を作る。このコラーゲンの層は、細胞を除去され、その脂質の含有量を減じるように処理することもできる。ある有益な形態では、処理後、この組織のコラーゲンの層は、天然の硫酸化グリコサミノグリカンを保持し、少なくとも1ポンドの引張破断強度を有し、および/または少なくとも約50%の破断伸びを有する。
【0007】
別の局面において、本発明は患者を治療するための方法を提供する。この方法は、患者に、本明細書に記載の細胞外マトリクス材料を移植することを含む。好ましい形態では、この移植は、たとえばヘルニア修復治療を施す際に、患者の軟組織を支持するために行なわれる。
【0008】
本発明のさらに他の実施の形態ならびに特徴および利点は、本明細書における以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、移植材料を調製するためにブタの腹壁の層から切片を採取する際に使用される、ブタの腹壁の層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
次に、本発明の原理の理解を促すために、図面に示される実施の形態を参照し、具体的な表現を用いてそれを説明する。しかしながら、これは本発明の範囲を限定することを意図しているのではなく、示された医療用材料における変形および変更、ならびに、本明細書に示される本発明の原理のさらなる用途は、本発明に関連する技術の当業者が通常想到するものであることが、理解されるであろう。
【0011】
先に開示したように、本発明は、医療処置用の組織移植片を提供する際に使用可能な、分離され、細胞を除去された細胞外マトリクス(ECM)材料を提供する。次に図面を参照すると、図1は、豚の腹壁10の層の図である。図1は、たとえばウシ科、ヒツジ、およびウマ科の動物を含む、ECM材料を得ることができる他の動物の腹壁も表わしている。これらの層は、壁側腹膜11、漿膜下筋膜12、漿膜下脂肪13、後部筋膜14、腹筋15、前部筋膜16、皮下脂肪17、および真皮18を含む。本明細書に記載の細胞外マトリクス移植材料は、漿膜下筋膜12を含み、任意に、腹壁の残りの構造層から剥がされた壁側腹膜11も含む。このように、本発明の好ましい細胞外マトリクス移植材料には、後部筋膜14、腹筋15、前部筋膜16、漿膜下脂肪17、および真皮18はないまたは本質的にない。本明細書で使用する「本質的にない」は、除外された構成要素が、たとえば移植材料の0.5重量%以下を構成する、わずかな残渣として検出される可能性があるものを除いて存在しないことを意味する。
【0012】
この移植材料の漿膜下筋膜は、動物、好ましくは温血脊椎動物、より好ましくは、ブタ、ヒツジ、ウシまたはウマ等の非ヒト温血脊椎動物の腹壁から得られる。供給源としてブタが特に好ましい。ある好ましい実施の形態では、本発明において有用な腹膜および筋膜は、腹壁を採取し、この壁から組織切片を剥がすことによって得ることができ、この壁は、壁側腹膜、漿膜下筋膜、およびこの組織供給源にある筋肉層および/またはその他の層を含む隣接する組織由来のその他の組織(たとえば脂肪組織)の少なくとも一部を含む。望ましくは、次に壁側腹膜および漿膜下筋膜を含むこの組織切片をさらに処理することによって、移植材料として使用するのに適した、コラーゲン含有(「コラーゲン性の」)およびエラスチン含有(「エラスチン性の」)シートを調製する。さらに壁側腹膜を除去するようにまたは壁側腹膜を保持するように処理を行なうことができる。このように、いくつかの実施の形態では、調製した移植材料には壁側腹膜がないまたは本質的になく、他のいくつかの実施の形態では、調製した移植材料は壁側腹膜を含む。
【0013】
壁側腹膜11、漿膜下筋膜12、および漿膜下脂肪13各々の少なくとも一部分を含む採取された組織切片を、任意の適切な手段を用いて処理することによって、漿膜下脂肪13を除去することができる。例として、適切な除去手段は、たとえば尖っていない刃を用いて脂肪組織を機械的に削り取ることを含むことができる。必要に応じて、さらなる漿膜下脂肪13またはそれ以外の脂肪組織を、この多層材料を、イソプロピルアルコールまたは脂肪組織を除去するのに適切なそれ以外の任意の液状媒体に、さらなる脂肪を除去するのに必要な期間、浸漬することによって除去することができる。ある好ましい実施の形態では、分離した材料をまず擦ることによって漿膜下脂肪13の部分を除去する。擦った後の材料を有機溶媒で処理、たとえばイソプロピルアルコール(IPA)(10体積部のIPAに対して1重量部の材料)に30分間浸漬させることによって、脂肪を除去する。この脂肪を除去するための処理ステップは、典型的には少なくとも1回行なうが、複数回行なってもよい(たとえば2、3、4または5回以上)。好ましい処理された本発明のECM移植材料は、天然脂肪含有量が15重量%未満、より好ましくは10重量%未満であり、いくつかの実施の形態では5重量%未満である。
【0014】
本明細書に記載の細胞外マトリクス材料の1つの利点は、腹壁組織から採取した一部分から大きなサイズの細胞外マトリクス材料を調製することができ、その一方で医療用途に十分な強度特性を保つ点にある。組織供給源から分離した多くの他の材料(たとえば他のECM材料)は、個々のシートのいずれよりも大きなシート移植片を調製するために材料の複数のシートを接合することを必要とし、これにより、1つのシート全体が、ヘルニア移植片といったいくつかの医療用途に十分な大きさおよび強度を有する。このように接合した構造物を必要に応じて形成できるが、本明細書に記載の細胞外マトリクス移植材料は、横方向に接合した複数の部分の使用の必要性を避けるために、十分に成長した大きな動物から採取することもできる。いくつかの実施の形態では、漿膜下筋膜のみを含むまたは壁側腹膜に隣接する処理された細胞外マトリクス移植片は、少なくとも20cm幅、少なくとも20cm長を有する。
【0015】
本発明の細胞外マトリクス材料を用いて、患者の組織損傷を含む医学的症状を含めさまざまな医学的症状を、患者にこの材料を移植することによって、治療できる。この点に関し、本発明の医療用材料を用いて、損傷を受けた組織を治療することができ、患者の外部構造(たとえば皮膚)に適用するか、またはたとえばヘルニア修復または骨盤底復元の場合のように組織を支持するために患者の中に移植することができる。このように、本発明の医療用材料は、使用の対象となる所望の部位に適したさまざまな形で構成できる。本発明の医療用材料は、1つ以上の薬剤またはそれ以外の医薬品を組込むことができ、患者への適用後にこういった物質を溶出することによって、その物質の全身投与の必要性を無くしまたは減じ、かつ全身毒性および副作用の危険性を最小にすることができる。
【0016】
一般的に、この医療用材料は、組織に適用するように構成される場合は、切断されるかさもなければ最終用途に応じた所望の大きさとなるように構成される。いくつかの実施の形態では、この材料の大きさを、適用する組織欠陥より大きくすることができる。材料の大きさをこのようにして定めることによって、周囲の組織に容易に取付けることができる。たとえば、適切な大きさに定めた医療用材料を、治療を要する領域の上、中または周囲に配置すれば、この医療用材料を、いくつかの周知の適切な装着手段のうちいずれかを用いて、周囲の組織またはその他の構造によりしっかりと取付けることができる。適切な装着手段は、たとえば、ステープリング、縫合、接着などを含む。好ましくは、この医療用材料を、縫合糸によって周囲の組織またはその他の構造によりしっかりと取付けることができる。現在、当該技術において縫合糸として利用できるさまざまな合成材料がある。例として、プロレン(Prolene)(登録商標)、バイクリル(Vicryl)(登録商標)、マーシレン(Mersilene)(登録商標)、パナクリル(Panacryl)(登録商標)、およびモノクリル(Monocryl)(登録商標)を含む縫合糸は、本発明で使用することが意図されている。これ以外の縫合材料は当業者には周知であろう。当該技術で一般的に知られている医療用接着剤も、本発明の医療用材料とともに使用することによって、この材料を組織またはその他の構造によりしっかりと取付けることができる。
【0017】
好ましい実施の形態では、腹膜とその下にある漿膜下筋膜とを含む細胞外マトリクス材料は、生体吸収性材料であることが可能であり、望ましくは患者に移植されたときに組織のリモデリングを助け、時間が経過すると患者の組織と入れ替わる。多くの場合、この医療用材料は、リモデリング可能な特性を示し、この特性により、リモデリング過程が数日または数週間で生じる。好ましい実施の形態では、このリモデリング過程は約5日から約12週間以内に生じ、その間に、移植された材料は、患者の組織によって再吸収され置き換えられる。この際、本発明の好ましいECM材料は、この材料への血管新生を助けまたは引起して新たな患者の組織の成長を容易にすることができる。これらの目的のために、本発明のいくつかの好ましいECM材料は、この材料が移植部分に永続することが無いように、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤では処理しない。
【0018】
しかしながら、ある状況において必要であれば、他の実施の形態では、この発明のECM材料は、導入された天然でない架橋を含んでもよい。たとえば、ECM材料を、元々存在していた部分から分離した後に任意の時点で架橋剤で処理することができる。この医療用材料内の架橋および/または2つ以上の医療用材料の重なり合う層の間の架橋の量(または数)を増やすことによって、その強度を高めることができる。しかしながら、医療用材料内に導入された架橋は、この材料が再吸収されて患者の組織にリモデリングされる機能に影響を及ぼす可能性もある。結果として、架橋が導入されたいくつかの実施の形態では、ECM材料のリモデリング可能な特性を保つように、ECM材料内に追加された架橋のレベルを、適切な判断によって制御することができる。
【0019】
ECM材料の導入された架橋を使用する場合、これは、光架橋技術によって、または、化学的架橋剤等の架橋剤を適用することによって、または、脱水もしくはそれ以外の手段によって生じるタンパク質の架橋によって、得ることができる。使用できる化学的架橋剤は、たとえば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類、カルボジイミド、たとえば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等のジイミド類、リボースまたはそれ以外の糖、アシルアジ化物、スルホ−N−ヒドロキシコハク酸アミド、またはポリエポキシド化合物を含み、これは、たとえばナガセケムテックス株式会社(日本、大阪)のデナコール(DENACOL)EX810の商標名で入手可能なエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、およびこれもナガセケムテックス株式会社から入手可能なデナコールEX313の商標名で入手可能なグリセロールポリグリセロールエーテルを含む。典型的には、ポリグリセロールエーテル類またはその他のポリエポキシド化合物は、使用される場合、1分子当たり2から約10のエポキシド基を有するであろう。
【0020】
2つ以上のECM材料の層を含む積層構造を意図する場合、この積層物の層をさらに架橋して、多数のECM材料の層をお互いに結合することができる。マトリクスを紫外線に晒し、コラーゲン系マトリクスをトランスグルタミナーゼおよびリシルオキシダーゼ等の酵素で処理し、光架橋を行なうことによって、ECM材料の架橋を触媒することもできる。よって、さらなる架橋を、個々の層に対して、そのお互いの結合の前に、お互いの結合の間に、および/またはお互いの結合の後に、追加してもよい。
【0021】
これに代えて、2つ以上の多層医療用材料セグメントを巻いてもしくは積重ねて、または、1つの材料セグメントを少なくとも一度折り畳み、次に、材料を、真空プレス、凍結乾燥、もしくはその他の脱水熱結合条件等の、化学的架橋以外の結合技術を用いて、および/または接着剤、糊もしくはその他の結合剤の使用によって、融着させるまたは結合させることができる。適切な結合剤は、たとえば、コラーゲンゲルもしくはペースト、ゼラチン、フィブリン接着剤、または、反応性モノマーもしくはポリマー、たとえばシアノアクリレート接着剤を含むそれ以外の材料を含み得る。同様に、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、エポキシド、ゲンピン、またはその誘導体、カルボジイミド化合物、ポリエポキシド化合物、または上記の説明で特定されたそれ以外のものを含む他の同様の物質等の化学的架橋剤を用いることによって、結合させまたは結合を促進させることができる。これらのうち1つ以上を、脱水で引起す結合と組合せることもできる。
【0022】
さまざまな脱水で引起す結合方法を用いて、この発明のECM材料の部分同士を融着できる。ある好ましい実施の形態では、多数のECM材料の層を脱水条件下で圧縮する。「脱水条件」という用語は、多層医療用材料からの水分の除去を促進しまたは引起す機械的条件または環境条件を含み得る。圧縮された材料の脱水を促進するために、マトリクス構造を圧縮する2つの表面のうち少なくとも1つを透水性にすることができる。任意として、この材料の脱水を、圧縮する表面の外側において、吸取り材料を与え、マトリクス構造を加熱し、または空気もしくはそれ以外の不活性ガスを吹付けることによって、高めることができる。ECM層同士を脱水結合する場合に特に有用な方法は、たとえばフリーズドライ等の凍結乾燥または気化冷却条件を含む。
【0023】
脱水結合のもう1つの方法は、真空プレスである。真空プレスの間、強制的に接触させた多層医療用材料を脱水することによって、これらの材料同士は、結合させるための他の薬剤がなくても効果的に結合する。ただし、脱水で引起す結合の少なくとも一部を利用しながら、このような薬剤を用いることもできる。十分な圧縮および脱水によって、この多層医療用材料は、全体的に一体化された積層構造を形成することができる。
【0024】
本発明のいくつかの局面においては、本発明のECM材料に対する潜在的な有害効果、たとえば天然コラーゲン構造および潜在的に存在する生物活性物質を最小にする、比較的温和な温度暴露条件下で、乾燥作業を行なうことが好都合である。このように、本発明のいくつかの形態において、人間の体温を超えるまたは人間の体温よりも少し高い温度に晒すことなく、または実質的に晒すことなく、すなわち約38℃以下で、行われる乾燥作業を使用することは好ましいであろう。これらは、たとえば、約38℃未満での真空プレス作業、約38℃未満での強制空気乾燥、またはほぼ室温(約25℃)で、積極的な加熱をせずにまたは冷却とともに、これらのプロセスのうちいずれかを行なうことを含む。当然ながら比較的低い温度条件は凍結乾燥条件も含む。
【0025】
調製したECM材料は、任意に、組織供給源に本来存在する生物活性成分を含んでいてもよい。たとえば、腹膜および/または筋膜は、フィブロブラスト成長因子2(FGF−2)、脈管内皮成長因子(VEGF)またはその組合せ等の天然成長因子を1つ以上、含み得る。加えて、この発明のECM材料は、ヘパリン硫酸等の硫酸化グリコサミノグリカン(sGAGs)の1つ以上、ヒアルロン酸等の非硫酸化グリコサミノグリカンの1つ以上、および/またはフィブロネクチン等の糖タンパク質の1つ以上など、その他の生体物質を含み得る。このように、一般的に言えば、この発明のECMは任意に、細胞の形態、増殖、成長、タンパク質または遺伝子発現等の細胞性応答を直接的または間接的に誘発する、天然の生物活性成分の1つ以上を保持するように処理してもよい。
【0026】
本発明の処理されたECM材料は典型的に十分なコラーゲンを含むであろう。このような天然由来ECM材料は、大部分、配向がランダムではないコラーゲン線維を含むであろう。処理されたECM材料は典型的にエラスチンも含むであろう。上記の天然生物活性成分を保持するように処理されると、ECM材料は、これらの成分を、コラーゲン線維の間に、上におよび/または中に散在する固体として保持することができる。本発明に使用するのに特に望ましい材料は、光学顕微鏡検査において適切に染色することによって容易に識別可能な、このように散在した非コラーゲン性および非エラスチン性の固体を大量に含むであろう。このような非コラーゲン性および非エラスチン性の固体は、本発明のいくつかの実施の形態において、この材料の乾燥重量のうち相当の割合、たとえば本発明のさまざまな実施の形態において少なくとも約1重量%、少なくとも約3重量%、および少なくとも約5重量%を、構成することが可能である。
【0027】
本発明のECM材料は、血管新生特性を示すこともあり、したがって、この材料を移植された受容者に血管新生を誘発するのに有効である。この点に関し、血管新生とは、身体が新たな血管を作り、より多くの血液の組織への供給を行なうプロセスである。よって、血管新生材料は、受容者の組織と接触すると、新たな血管の形成を促進または高める。生体材料の移植による血管新生のin vivo測定方法が最近開発された。たとえば、このような方法の1つは、皮下移植モデルを使用して材料の血管新生特性を求める。C.ヒーシェン(C.Heeschen)他、Nature Medicine 7(2001), No.7, 833-839参照。このモデルは、蛍光ミクロ血管造影技術と組合されて、生体材料への血管新生の定量的尺度および定性的尺度双方を提供することができる。C.ジョンソン(C.Johnson)他、Circulation Research 94(2004), No.2, 262-268。
【0028】
さらに、天然生体活性成分の包含に加えてまたはこれに代えて、組換技術またはその他の方法で合成によって製造されたもの等の非天然生体活性成分を、本発明のECM材料に組込んでもよい。こういった非天然生体活性成分は、組織内で自然に存在するがおそらく異なる種のものに相当する、天然由来のまたは組換技術で製造されるタンパク質(たとえばブタ等の他の動物に由来する組織に適用されるヒトタンパク質)であってもよい。いくつかの形態では、FGF−2、血小板に由来する成長因子(PDGF)および/またはVEGF等のといった非天然成長因子を1つ以上、ECM材料に追加することができる。この非天然生体活性成分は、薬物であってもよい。本発明に使用される材料の中におよび/またはその上に取込むことができる薬物の例には、たとえば、抗生物質、血液凝固因子等の血栓促進物質が含まれ、たとえば、トロンビン、フィブリノゲン、抗炎症剤、抗増殖剤、鎮痛剤、その他が挙げられる。これらの物質は、多層医療用材料に、製造前段階として、処置の直前に(たとえばこの材料をセファゾリン等の適切な抗生物質を含む溶液の中に浸漬させることによって)、または、材料が患者の中に生着している間またはその後に、適用してもよい。
【0029】
非天然生体活性成分を、任意の適切な手段によって、この発明のECM材料に適用することができる。適切な手段は、たとえば、吹付け、含浸、浸漬などを含むことができる。他の化学的または生物学的成分がECM材料に含まれる場合、非天然生体活性成分は、これらの他の成分の前に、これらとともに、またはこれらの後に適用できる。ある実施の形態では、非天然生体活性成分のコーティングを、ECM材料の片面または両面に形成できる。「コーティング」は、この非天然生体活性成分を適用してECM材料の表面の指定された部分を覆うことを意味する。いくつかの実施の形態では、非天然生体活性成分を適用し、この発明のECM材料の少なくとも片面の表面領域全体を実質的に覆うコーティングを形成できる。他の実施の形態では、本明細書に記載のもの等の非天然生体活性成分を、この発明のECM材料全体において実質的に均一的に組込むことができる。
【0030】
本発明のECM材料は、好ましくは、たとえばクック(Cook)他の米国特許第6,206,931号に記載のように高度に純化されたものである。したがって、好ましいECM材料は、1グラム当たり約12エンドトキシンユニット(EU)未満の、より好ましくは1グラム当たり約5EU未満の、最も好ましくは1グラム当たり約1EU未満のエンドトキシンレベルを示すであろう。さらに好ましくは、この発明のECM材料は、1グラム当たり約1コロニー形成単位(CFU)未満の、より好ましくは1グラム当たり約0.5CFU未満のバイオバーデンを有していてもよい。望ましくは、真菌レベルは同様に低く、たとえば1グラム当たり約1CFU未満、より好ましくは1グラム当たり約0.5CFU未満である。核酸レベルは、好ましくは約5μg/mg未満、より好ましくは約2μg/mg未満であり、ウイルスレベルは、好ましくは1グラム当たり約50プラーク形成単位(PFU)未満、より好ましくは1グラム当たり約5PFU未満である。米国特許第6,206,931号で教示されているECM組織のこれらおよびさらなる特性は、この発明のECM材料の特徴であろう。
【0031】
さらに他の実施の形態では、本発明のECM材料に対して、この材料を拡張させる処理を施すことができる。いくつかの形態では、このように拡張させた材料は、ECM材料を、この材料が拡張するまで1つまたはそれ以上のアルカリ性物質と接触させることによって形成できる。例として、この接触は、ECM材料を、当初の体積の少なくとも120%(すなわち1.2倍)に、または、形態によっては当初の体積の少なくとも約2倍に拡張させるのに十分でありうる。その後、拡張させた材料を、任意で、たとえば中和および/または濯ぎ落しによってアルカリ性媒体から分離することができる。この収集された拡張させた材料は、任意の適切なやり方で使用することができる。例として、拡張させた材料に対し、所望の形状または構成の移植片構造体の形成において、生体活性成分の富化、乾燥、および/または成形などを行なうことができる。いくつかの実施の形態では、拡張させたECM材料構造体は、高い圧縮性および拡張性を有することができるので、たとえばカニューレを挿入した送達装置の内腔の中から送達するために圧縮し、その後装置から取出した際に拡張させて患者の体内に固定し、患者の体内の経路を閉塞する、および/または止血することができる。
【0032】
拡張させた材料は、この発明のECM材料を、水酸化ナトリウムを含む水溶液またはその他の媒体に、制御した状態で接触させることによって形成できる。この材料をアルカリ処理することによって、この材料の物理的構造を変化させて拡張させることができる。このような変化は、材料の中のコラーゲンの変性を含み得る。いくつかの実施の形態では、この材料を、元の体積の少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、または少なくとも約6倍、またはそれ以上に拡張させることが好ましい。拡張の大きさは、たとえば、材料を拡張させる処理で使用される、アルカリ性媒体の濃度またはpH、暴露時間、および温度を含む、いくつかの要因に関連する。
【0033】
ECM材料は、典型的には、自然に存在する分子内架橋および自然に存在する分子間架橋を有するコラーゲン原線維の網状組織を含むであろう。本発明に記載の拡張処理を行なうと、この自然に存在する分子内架橋および自然に存在する分子間架橋は、処理されたコラーゲン性のマトリクス材料内で、コラーゲン性のマトリクス材料を完全なコラーゲン性のシート材料として保つのに十分な状態で保持することができる。しかしながら、コラーゲン性のシート材料内のコラーゲン原線維は、変性する可能性があり、コラーゲン性のシート材料は、出発材料の厚みよりも大きい、たとえば最初の厚みの少なくとも120%または最初の厚みの少なくとも2倍の、アルカリ処理された厚みを有する可能性がある。
【0034】
例として、ECM材料の処理のためのアルカリ性物質の濃度は、約0.5から約2Mの範囲にすることができ、より好ましい濃度は約1Mである。加えて、アルカリ性物質のpHは、いくつかの実施の形態では約8から約14の範囲にすることができる。好ましい局面において、アルカリ性物質は、約10から約14、最も好ましくは約12から約14のpHを有するであろう。
【0035】
濃度およびpHに加え、温度および暴露時間等のその他の要素が、上記の拡張の程度に影響するであろう。この点に関し、いくつかの変形例では、ECM材料のアルカリ性物質への暴露を、約4から約45℃の温度で実施する。好ましい実施の形態では、この暴露は、約25から約40℃の温度で、最も好ましくは37℃で行なわれる。さらに、暴露時間の範囲は少なくとも約1分から約5時間以上までとすることができる。いくつかの実施の形態では、この暴露時間は約1から約2時間である。特に好ましい実施の形態では、ECM材料を、pHが14であるNaOHの1M溶液に、約37℃の温度で約1.5から2時間暴露させる。このような処理によって、コラーゲンが変性し材料が実質的に拡張する。この材料のコラーゲンマトリクスの変性は、この材料のコラーゲン充填特性の変化、たとえば出発材料の密に結合したコラーゲン網の実質的な崩壊として、観察することができる。拡張していない材料は、裸眼で見たときまたは適度の倍率たとえば100倍の倍率で見たときに実質的に均一的で連続した表面を示す、密に結合したコラーゲン網を有することができる。逆に、拡張したコラーゲン性の材料は、同じ倍率たとえば約100倍の倍率で見たときに、この表面は連続しておらず、多くの領域において材料中の鎖または束の間の実質的な隙間によって分離されているコラーゲンの鎖および束を示している点で、全く異なる表面を有することができる。結果として、拡張したECM材料は典型的に、対応する拡張していないECM材料よりも多孔性の程度が高いように見える。さらに、多くの場合、拡張したECM材料は、たとえば水またはその他の流体通路に対する透過性の増加を測定することによって、処理していない出発材料と比較して多孔率が増したものとして、示されうる。拡張したECM材料をより泡状で多孔である構造にすることで、この材料を、医療用材料および装置の調製に使用するために、さまざまなスポンジまたは発泡形状に成型、さもなければ調製することができる。
【0036】
このようなアルカリ処理の後、ECM材料を、アルカリ性媒体から分離し、さらなる用途のために処理することができる。例として、収集した材料を、中和しておよび/または水で濯ぎ落してこの材料のアルカリ性を除去した後に、ECM材料をさらに処理して本発明の構造体またはそれ以外の組成物を形成することができる。
【0037】
出発材料(すなわちアルカリ性物質で処理する前)は、任意に、コラーゲンおよびエラスチン以外の天然成分を含むことができる。この材料をアルカリ性物質で処理することにより、このような天然成分のうちの1つ、いくつか、またはすべての量が減少することがある。いくつかの実施の形態では、この材料に対し、アルカリ性物質で、制御された処理を行なうことは、実質的に核酸および脂質がなく、かつ、潜在的に成長因子、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、およびプロテオグリカンもない材料を作るのに十分であろう。
【0038】
いくつかの実施の形態では、たとえば拡張処理の間にECM材料から除去されたものに類似する、外因性または内因性の生体活性成分を1つ以上、材料に戻すことができる。たとえば、拡張したECM材料に、成長因子、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、および/またはプロテオグリカンを補充することができる。これらの生体活性成分は、任意の適切な方法で材料に戻すことができる。たとえば、いくつかの形態では、これらの成分を含む米国特許第6,375,989号に記載の組織抽出物を調製し、これらを除去したECM材料に与えることができる。ある実施の形態では、ECM材料を組織抽出物の中で十分な時間にわたってインキュベートすることにより、その中に含まれる生体活性成分を材料に結合させることができる。この組織抽出物は、たとえば補充されることになる拡張したECM材料の調製で使用されたものと同一種類の拡張していないECM組織から得てもよい。生体活性成分を多層医療用材料に戻すまたは導入するための他の手段は、当該技術において周知の吹付け、含浸、浸漬などを含む。
【0039】
本明細書に記載のECM材料を使用して、適切な形状の組成物または装置を製造することができる。適切な形状は、たとえばシート、多孔性固体発泡体、粉体、プラグ、管、固体円柱、液状媒体内の懸濁物質、ゲル、または溶媒和されたECM成分を含む溶液を含む。
【0040】
本発明の分離され細胞を除去された単一ECM層の厚みは、動物の種類、年齢または大きさなどに基づく相違を含め、これを分離した動物によって異なる。好ましいこのような単一層は、厚み(水和された)が、約500から約1000ミクロン、より好ましくは約600から900ミクロン、最も好ましくは約750から約850ミクロンの範囲にある。単一ECM層は、望ましくは、水和されたときの引張破断強度が少なくとも約1ポンドでありいくつかの形態では約1から5ポンドの範囲にある。この単一ECM層は、望ましくは伸張性が高く、水和されたときの破断伸びが少なくとも約50%であり典型的には約50%から約80%の範囲にある。この点に関し、本明細書に記載の引張破断強度および破断伸びは、ASTM D882(2002)またはこれと等価の方法で求めることができる。この単一ECM層は、望ましくは、5−0プロレン縫合糸サイズおよび深さ2mmに基づけば、約0.5から約2ポンドの範囲の、水和されたときの縫合保持強度を示すであろう。同様に、単一ECM層は、望ましくは、約200から約1000kPaの範囲の、水和されたときの破裂強度を示すであろう。このような厚み、引張破断強度、破断伸び、縫合保持強度、および/または破裂強度を有する、この発明のブタ由来のECM層は特に好ましい。
【0041】
機械的またはその他の物理的性質を向上させるために必要であれば、ECM材料の多数の層は、加熱、非加熱または凍結乾燥条件下における脱水熱結合を含む任意の適切なやり方で、本明細書に記載の接着剤、糊、またはその他の結合剤、化学薬品との架橋、または放射(紫外線放射を含む)、またはこれらの任意の組合せ、または上記の他の適切な方法を用いて、相互に結合できる。たとえば、相互に結合された2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のECM層の構造体を調製できる。このような構造体の中で、ECM層を相互に直接積重ねて完全に重なり合うようにすることができ、または一部のみが重なり合うように配置して個々に見たときのECM層のいずれよりも大きな表面積を有する総体的なシートを作ることができる。本発明の構造体の形成において、完全に重なり合うECM層と一部のみが重なり合うECM層との組合せを使用することもできる。本発明の腹膜/漿膜下筋膜ECM層の1つの利点は、比較的大きな表面積の大きさで分離することができるので、別々のECM層を部分的に重ね合わせて比較的大きなシート構造物を得る必要性がなくなるまたは減少することである。常に、本発明のいくつかの好ましい実施の形態では、多数の層からなるシート構造物は、互いに結合され重なり合う領域を形成し、この重なり合う領域の表面積は少なくとも400cm2である、少なくとも2つの腹膜/漿膜下筋膜ECM層を含む。このような構造体において、この少なくとも2つのECM層を完全に重ね合わせた400cm2以上の表面積の構造体を提供でき、または、一部のみを重ね合わせているが重ね合わせた材料が少なくとも400cm2の重なり合う表面積を形成するのに十分である構造体を提供できる。各々の場合において、400cm2の重なり合う領域は、少なくとも20cmの長さおよび少なくとも20cmの幅(長さに垂直に測定)を含み得る。このような構造体は、たとえばヘルニア修復または骨盤床再生におけるように軟組織サポートを提供する際に使用するための、強化され安定した大きな材料領域を有するECMシート装置を提供できる。
【0042】
本明細書に記載のECM材料を用いて製造された滅菌医療用製品は、合成高分子材料等の合成材料を含まないようにすることができ、または、たとえば多層積層構造において1つ以上の合成材料(たとえば合成高分子材料)と組合されたECM材料を含むことができる。たとえば、多層医療用材料は、たとえば縫合糸、接着剤などで細胞外マトリクス組織に付着させた、合成によって製造された層を含むことができる。このように合成によって製造された材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、たとえばゴアテックス(GORE-TEX)(登録商標)材料)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコーン、ダクロン(DACRON)(登録商標)ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、グリコール酸と乳酸の共重合体(PLGA共重合体)、ポリカプロラクトン、または当該技術で周知の他の物質等の、非生体吸収性または生体吸収性の合成高分子材料を含むことができる。
【0043】
本発明のECM材料を含む医療用製品は、殺菌した形で医療用包装して提供できる。包装された製品の最終殺菌は、たとえば、照射、エチレンオキシドガス、または他の任意の適切な殺菌技術によって行なってもよく、これに応じて医療用包装の材料およびその他の特性を選択できる。
【0044】
本発明のECM材料を、脱水または水和状態で包装できる。ECM材料の脱水は、上記のものを含め当該技術で周知の任意の手段によって行なうことができる。好ましくは、包装されたECM材料は、凍結乾燥または真空プレスされた材料である。必要に応じて、滅菌水または滅菌水性緩衝液等の適切な液体を用いて、患者の治療に使用する前に、脱水したECM材料を再水和することができる。これに代えて、ECM材料を、脱水した形で患者に適用することができる。
【0045】
本発明の局面、その特徴および利点のさらなる理解を促すために以下の具体的な実施例を提供する。これらの実施例は例示であり本発明の局面を限定しないことが理解されるであろう。
【実施例1】
【0046】
細胞外マトリクス移植材料の調製
包装工場において、完全なブタの体腔を正中切開で開き前肋骨およびすべての器官を除去した処理ラインの時点で、組織切片を採取した。切開は、体の各側面上の体壁組織片の後端上で行ない、組織切片を体壁の各側面から剥がし取り、ほぼ同一の大きさ(1ft×1.5ft)の2つの組織切片を作った。これらの切片は、腹膜、漿膜下筋膜および漿膜下脂肪を含んでいた。後部の筋膜がこの組織切片の一部でないことを確認した。漿膜下脂肪の厚みはこの切片に沿った場所によって異なり約0.5から約1cmであった。腹膜の場所が特定され、腹膜は臓側腹膜および壁側腹膜双方を含んでいた。白く厚みのある血管網を有する薄く透明な膜として同定された臓側腹膜は処分した。
【0047】
脂肪を除去するために、この組織切片の両側を、テフロン(Teflon)(登録商標)シート(厚み1/8インチ)を用いて手で擦った。この作業の間、この組織切片に引裂き抵抗があることが観察された。擦った後の各組織切片の重量は約143gであった。
【0048】
重量を計測した後、各組織切片を、100mLのエタノール(200プルーフ)、12mLの過酢酸(PAA)、および1990mLの高純度水を含む溶液の中で殺菌した。これらの切片をこの溶液の中で約2時間振り、その後高純度水の中で1回につき5分間5回濯いだ。これらの切片を次に高純度水の中で保存した。観察は、ここに記載の処理の間に、これらの切片から壁側腹膜がなくなったまたは実質的になくなったことを示唆した。
【0049】
結果として得られた上記組織切片を、ピン留めされたデルリン(delrin)(登録商標)パネル上に置き凍結乾燥させた。これによって、明らかに滑らかな側面および粗い側面を有する白く厚みのある凍結乾燥したシートが得られた。これらのシートを純イソプロピルアルコール(IPA)の中で(10重量部のIPAに対し1重量部のシート)1回につき30分間2回濯いで脂質を除去した。IPA処理の後、これらのシートを高純度水の中で1回につき5分間2回濯いだ。次にこれらのシートを高純度水において保存した。水和させた1枚のシートの厚みおよびプローブ破裂(probe burst)について検査した。厚みの値は0.734mm、0.755mm、0.811mm、0.804mm、0.796mm、および0.818mmであり、厚みの平均値は0.786mm、標準偏差は0.034mmであった。観察されたプローブ破裂力(probe burst force)は125N、89.2N、および98Nであり、平均は104.1N、標準偏差は18.6Nであった。
【実施例2】
【0050】
天然脂質含有量の検査
2ロットの材料をほぼ実施例1に記載の通りにして得た。腹壁組織切片を、機械的に擦り、100%イソプロピルアルコール(IPA)(1:10 重量:体積)を用いた3回の処理によって化学的に脱脂し、過酢酸(PAA)溶液を用いて殺菌し、高純度水を用いて4回洗浄することによって、処理した。各ロットは2枚のシートからなり、合計4枚のシートを検査した。各シートから4×7cmのサンプルを4つ切出し、1ロットにつき8サンプル、合計16サンプルを得た。各サンプルの重量(初期重量)を計測し、各サンプルを巻き、10mLの100%エタノールを含む1.5mLの遠心分離管の中に入れた。管を管ホルダの中に置き、このホルダを横にして、室温でおよそ24時間回転攪拌器の上に置いた。24時間後、エタノールを排出し、10mLの100%アセトンを各管の中に入れた。次にホルダを攪拌器の上に戻し室温でほぼ24時間置いた。24時間後、アセトンを排出し、サンプルを換気フードの中でおよそ24時間空気乾燥した。その後サンプルをおよそ48時間乾燥し、重量(最終重量)を計測した。脂質含有量を、初期重量から最終重量を減算し、これを初期重量で除算することによって計算した。
【0051】
測定したこの材料内の平均脂質含有量は8.4%±6.4%であることがわかった。
【実施例3】
【0052】
天然ヒアルロン酸含有量の検査
2ロットの材料を、ほぼ実施例1に記載の通りにして得た。腹壁組織切片を、機械的に擦り、100%イソプロピルアルコール(IPA)(1:10 重量:体積)を用いた3回の処理によって化学的に脱脂し、過酢酸(PAA)溶液を用いて殺菌し、高純度水を用いて4回洗浄することによって、処理した。各ロットは2枚のシートからなり、合計4枚のシートを検査した。各シートから12mmの円板状のサンプルを4つ切出し、1ロットにつき8サンプル、合計16サンプルを得た。各サンプルの重量(初期重量)を計測し、各サンプルを巻き、450μlの無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)および50μlのプロテナーゼKを含む1.5mLの遠心分離管の中に56℃で45分間置いた。サンプルを次に1サンプル当たり90秒間組織粉砕機で粉砕した。サンプルを含む管を5分間4℃で12000gで遠心分離し、未分解の材料をペレットにした。上澄みの1:40の希釈液を、10μlの分解されたサンプルを390μlのPBSに添加することによって作り、次にボルテックスを行なった。ヒアルロン酸含有量は、コルゲニクス(Corgenix)HA ELISAキットを用いて製造者の指示に従って測定した。ヒアルロン酸の重量含有量を、サンプルのヒアルロン酸含有量をこのサンプルの初期重量で除算することによって計算した。
【0053】
測定したこの材料内の平均ヒアルロン酸含有量は13±24.5μg/gであることがわかった。
【実施例4】
【0054】
天然硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)含有量の検査
2ロットの材料を、ほぼ実施例1に記載の通りにして得た。腹壁組織切片を、機械的に擦り、100%イソプロピルアルコール(IPA)(1:10 重量:体積)を用いた3回の処理によって化学的に脱脂し、過酢酸(PAA)溶液を用いて殺菌し、高純度水を用いて4回洗浄することによって、処理した。各ロットは2枚のシートからなり、合計4枚のシートを検査した。各シートから12mmの円板状のサンプルを8つ切出し、1ロットにつき16サンプル、合計32サンプルを得た。各サンプルの重量(初期重量)を計測し、各サンプルを巻き、450μlの無菌PBSおよび50μlのプロテナーゼKを含む1.5mLの遠心分離管に56℃で45分間置いた。次にサンプルを組織粉砕機を用いて1サンプル当たり90秒間粉砕した。次にサンプルを含む管を15000rpmで10分間遠心分離し、未分解の材料をペレットにした。
【0055】
ブリスカン(Blyscan)sGAG分析を用いて32サンプルのうち16のサンプルのsGAG含有量を分析した。各検査サンプルは、90μlの高純度水と10μlのサンプル分解物とで構成される。すべての管を5秒間ボルテックスした後、1.0mLのブリスカン染料試薬を加えた。これらの管を、30分間室温でインキュベートし、1サンプル当たり5秒間4回ボルテックスした。次に、各サンプルを15000rpmで10分間回転させ、その結果生じた上澄みを取除いた。各ペレットを、ブリスカン分析キットからの1.0mLの解離試薬に再び懸濁させた。すべてのサンプルを攪拌によって1時間37℃でインキュベートし、1つの管につき5秒間3回ボルテックスした。こうして得られた溶液の100μlのアリコートを3つ作り、96ウェルプレートの2つのウェルにピペットで移した。656nmでの吸収度を測定した。ブリスカンsGAG分析に使用されるGAG基準のための標準曲線を作製した。
【0056】
残りの16のサンプルのsGAG含有量をDMMB法を用いて分析した。個々のサンプルを、1.5mLのエッペンドルフ遠心分離管の中に置き、180μlの無菌PBSおよび20μlのプロテナーゼK溶液を各管に加えた。サンプルを、間欠ボルテックスにより15分間56℃で分解した。20μg/mL、50μg/mLおよび100μg/mLの高純度水内の純化させたヘパリンを用いてヘパリン標準曲線を作製した。
【0057】
DMMBサンプルの100μlのアリコートを3つ作り、15mLの遠心分離管に入れた。ブランク(高純度水)の3つの100μlのアリコートおよびヘパリン標準も15mLの遠心分離管の中に入れた。各管に、2.5mLのDMMB溶液を加えた。溶液をボルテックスし、各管の100μlのアリコートを等分して96ウェルプレートの1つのウェルに入れた。600nmでの吸収度を測定した。ヘパリン標準濃度のための標準曲線を作製した。
【0058】
sGAG濃度を、ヘパリン標準曲線またはGAG標準曲線から計算した。sGAGの重量含有量は、sGAG含有量をサンプルの重量で除算することによって求めた。ブリスカン分析を用いて測定した平均sGAG含有量は、1656μg/g±3164μg/gであった。DMMB法を用いて測定した平均sGAG含有量は、1070μg/g±460μg/gであった。
【実施例5】
【0059】
さまざまな方法で処理した材料内の天然可視核および天然脂質含有量の検査
4ロットの材料をほぼ実施例1に記載の通りにして得た。腹壁組織切片を機械的に擦って処理することによって、高密度の脂肪組織層を除去した。各ロットは2枚のシートからなり合計8枚のシートを検査した。各シートを切断して9つの7×10cmのサンプルにした。各ロットからの1つのサンプルを、5体積%のエタノール水溶液中、0.2体積%の過酢酸で、2時間、攪拌によって化学的に処理した(「PAAグループ」)。また、各ロットからの1つのサンプルを、2007年10月23日に出願された国際出願PCT/US2007/082238であり、2008年6月5日に公開された国際公開公報WO2008067085(クックバイオテック)の実施例13におおむね記載されているように化学的に処理した(「‘085グループ」)。残りの28のサンプルをランダムに2つのグループに分けた。表1に示すように、第1のグループをイソプロピルアルコール(IPA)およびアセトン溶液で処理し、第2のグループをクロロホルムおよびメタノール溶液で処理した。その結果、天然脂質レベルが低下した。
【0060】
【表1】

【0061】
この処理の後、各アルコール処理グループからの2つのサンプルを、非コラーゲン成分の大部分の筋膜を剥がすように設計された7つの処理グループのうち1つに適用した。6つの処理グループが表2に要約されている。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
すべての処理の完了後、これらのサンプルを、0.2%PAAに加えて、2時間、オービタルシェーカー(orbital shaker)に置いた。湿組織の2×2cmのサンプルを、核の評価のために取出した。残りのサンプルを凍結乾燥させ、2×7cmのサンプルを脂質分析のために切出した。各テストについて合計32のサンプルを使用した。
【0065】
脂質分析のために、各サンプルの重量を計測し、開始重量を記録した。次に、各サンプルを巻き10mLの100%エタノールを含む15mLの遠心分離管の中に入れた。この管を管ホルダの中に置き、ホルダを横向きにして回転攪拌器の上に室温でほぼ24時間置いた。24時間後、エタノールを排出し、10mLの100%アセトンを各管の中に入れ、ホルダを攪拌器に戻し、その上に室温で約24時間置いた。24時間後、アセトンを排出し、サンプルを換気フードの中で約48時間空気乾燥させた。乾燥時間の最後に、各サンプルの重量を計測し、最終重量を記録した。抽出した脂質の量を、開始重量から最終重量を減算することによって計算した。次にこの量を開始重量で除算することによって材料が含有する脂質の重量%を計算した。
【0066】
各グループの平均全脂質含有量(重量%)は、PAAグループは16%、‘085グループは9%、IPA/アセトングループは3%、クロロホルム/メタノールグループは7%であった。
【0067】
可視核の評価のために、ヘキスト(Hoechst)33528染料の溶液を、サンプルを染色するために作製した。合計250mLの染色溶液を、1mg/mLのヘキストのメタノール保存溶液をリン酸緩衝生理食塩水で希釈して1μg/mLにする(250μlのヘキスト保存溶液を250mLのPBSに加える)ことによって作製した。各サンプルを、5mLのヘキスト染色溶液の中で15分間室温で振動させてインキュベートした。染色後、各サンプルを振動させて3回PBSで5分間室温で濯いだ。染色した各サンプルをガラスの顕微鏡スライドの上に置き、22mm×22mmのガラスのカバースリップを、サンプルの最上部の上に置き、軽く押して気泡を抜いた。次にこのスライドを顕微鏡の試料台の上に置いた。試料台を調整してサンプルを対物レンズの下のそのサンプルにとってランダムな位置に置いた。焦点を調整してその位置で可能な最大数の核に焦点が合った画像を得た。次にこの画像をSpotRTソフトウェアを用いて撮影した。その後、この画像をグレースケールおよびネガを選択することによって調整し、明るい背景上の暗いドットとして核染色が現れるようにした。輝度、コントラストおよびガンマを時折調整し、確実に核が容易に判断できるようにした。画像を紙の上に印刷した後、各画像上の可視核を一度数えた。数は、フィールド当たりの核の数として表示された。
【0068】
各サンプルの0.263mm2の代表的なフィールドの核の数を数えた。これらのサンプルは、可視フィールド内で約300よりも多い核を有しており、多すぎて数えられないと思われた。なぜなら、この処置は、核の決定的な定量化ではなく処理プロトコルの有効性のためのスクリーニング手段として使用されていたためである。
【0069】
IPAおよびアセトンによる処理の後は、処理のほとんどが、核を除去するのにより効果的であった。これは、IPA/アセトン処理が細胞を溶解しやすくするか、または、クロロホルム/メタノール処理が細胞を溶解しにくくすることを、示唆しているであろう。全体としては、NaOHで処理した組織は、残っている核の数が最も少ないが、処理後は幾分ゼリー状で拡張していた。この効果は、アルカリ溶液で処理したコラーゲンに典型的でなものであり、コラーゲン線維の組織に対する効果ゆえに材料の強度に影響を及ぼす可能性が高い。トリプシンで処理した組織も、核の除去という点では良好に機能したが、組織は簡単に引裂かれ、その液状の性質のために扱い難かった。これらの特徴は、潜在的ヘルニア修復材料には望ましくないので、この処理は除外された。SDSおよびTBEで処理した組織には可視核がほとんどなく、材料強度の変化の影響を受けないと思われた。
【実施例6】
【0070】
移植材料の機械的特性評価
各々が腹壁筋膜の組織の2つのスラブからなる6つのロットを得た。これら12の組織スラブを、高密度の脂肪組織層を機械的に除去することによって処理した。6枚のシート(各ロットから1枚)を、0.2%過酢酸(PAA)溶液に加えて、2時間、オービタルシェーカーに置いた。残りの6枚のシートを、イソプロピルアルコール(IPA)およびアセトン溶液の中で処理し、その後2つの処理グループに分割した。第1のグループは、1時間、1MのNaOHの中で処理した。第2のグループは、37℃の0.1%SDSの中に1時間、37℃の1xTBEの中に一時間置いた。両グループは、処理が完了した後、高純度水の中で4回濯ぎ、0.2%PAAの中で2時間殺菌した。高純度水の中で4回濯いだ後、すべての組織サンプルを高純度水の中で4℃で保存した。冷蔵保存で最低24時間の後に、すべてのシートを凍結乾燥させた。すべての処理および洗浄は、1:10の重量:体積比で行なった。
【0071】
引張強度の検査では、各凍結乾燥シートから、4つのイヌの骨の形状のサンプルを切出し、合計48のサンプルにした。これらのサンプルの長さは65mm、中央部の幅は5mm、末端部分の幅は12mmであった。各検査サンプルの引張破断強度を、その検査サンプルのデータファイルにおいて発見された最大荷重として計算した。インストロン(Instron)テーブルトップ油圧サーボ試験システム(8840シリーズ)を使用した。電力駆動グリップの移動速度は一定で100mm/分であった。負荷セル分解能は0.0025Nであった。較正において記録された最大誤差(張力:1−100N)は0.44%であった。各検査サンプルの引張破断強度を、検査サンプルの最大負荷を、その検査サンプルの最大負荷をその検査サンプルの幅および厚みで割ったものとして計算した。PAAで処理した材料サンプルの平均引張破断力は2.32Nであった。NaOHで処理した材料サンプルの平均引張破断力は3.41Nであった。SDSで処理した材料サンプルの平均引張破断力は3.03Nであった、検査したグループのうちいずれの間にも統計的差異はなく、これは、処理が材料の引張強度にほとんど影響しないことを示唆している。
【0072】
縫合保持強度の検査では、各凍結乾燥シートから4つの部分を切出し、合計48のサンプルにした。各検査品は、長さ2cm、幅1cmであった。5−0プロレン縫合糸と直径が同一の鋼線を、深さ2mmでサンプルに通した。検査サンプルの縫合保持強度を、個々の検査中にインストロン張力試験装置上で測定したピーク負荷として記録した。ステンレス鋼線が材料を通して引張ったので、検査されたすべてのサンプルは機能しなかった。検査したグループのうちいずれの間にも統計的差異はなく、このことは、この処理が材料の構造および強度にほとんど影響しないことを裏付けている。
【0073】
破裂強度の検査では、各凍結乾燥シートから4つの検査品を切出して合計48のサンプルにした。ムレン(Mullen)の破裂検査機、「CA」モデルを使用した。各サンプルは3インチ×3インチの正方形であった。検査サンプルの破裂圧力を、個々の検査について、自重圧力としてディジバースト(Digiburst)表示部の上に記録した。破裂圧力および自重圧力はいずれも、各検査サンプルに対して記録した。検査したグループのうちいずれの間にも統計的差異はなく、このことは、この処理が材料の構造および強度にほとんど影響しないことをさらに裏付けている。
【0074】
NaOHまたはSDS/TBEによる材料の処理は、材料の機械的特性のいずれに対しても重要な影響を及ぼさない。概して、この材料の極限荷重は2.77±0.77ポンド、平均縫合保持強度は1.28±0.46ポンド、平均破裂圧力は520±193kPaである。
【実施例7】
【0075】
移植材料の生化学的特性評価
腹壁筋膜の6つのロット(各々2つの組織スラブからなる)を、実施例1に記載したものと同様にして取得した。簡単に言えば、最初に12の組織スラブを、高密度の脂肪組織層を機械的に除去することによって処理した。続いて、6枚のシート(各ロットから1枚)を、0.2%過酢酸(PAA)に加えて、2時間、オービタルシェーカーに置いた。残りの6枚のシートを、イソプロピルアルコール(IPA)およびアセトン溶液の中で処理し、その後さらに2つの処理グループに分割した。第1のグループは、1時間、1MのNaOHの中で室温で処理した。第2のグループは、0.1%SDS(37℃)の中に1時間置いた後、さらに1xTBE(37℃)の中にさらに1時間置いた。両グループは、処理が完了した後、高純度水の中で4回濯ぎ、0.2%PAAの中で2時間殺菌した。高純度水の中で4回濯いだ後、すべての組織サンプルを高純度水の中で4℃で保存した。冷蔵保存で最低24時間の後に、すべてのシートを凍結乾燥させた。すべての処理および洗浄は、1:10の比率で行なった。
【0076】
脂質分析のために、冷蔵保存した各シートから4つの検査品を切出した。各サンプルの大きさは2cm×7cmであった。他のすべての検査については、各検査グループは冷蔵保存した各シートから切出した4つの12mmの円板からなる。合計288のサンプル(各検査に48、6つの検査)を検査した。
【0077】
脂質分析では、合計48の2cm×7cmの検査サンプルを評価した。抽出した脂質の量を、最終重量を初期重量から減算することによって計算した。次にこの量を初期重量で除算することによって、材料に含まれる脂質の重量パーセントを計算した。ECM製品内の脂質含有量は、基材からの細胞成分およびリポ多糖類の抽出を妨げることによって、生体内の炎症反応または免疫反応に寄与する可能性がある。したがって、ECM製品内の脂質含有量を減じる手段を備えることが有利である。機械的に擦り落とすことのみで脂質の低減を行なうと、結果として材料の平均脂質含有量は19.8%±2.8%であった。同じようにして処理された材料の脂質含有量を分析した先の研究は、平均8.4%±6.4%であることを示した(実施例3参照)。この材料をさらにイソプロピルアルコールおよびアセトンの中で処理すると、脂質含有量は効果的に平均2%に減少した(実施例6参照)。さらなる脂質の低減は1MのNaOHにおける三次処理によって生じる可能性があり、その結果組織の平均脂質含有量は0.6%となり、これはロットを揃えて比較すると95%の脂質の減少を表わす。
【0078】
FGF−2含有量について、合計48の12mmの円板状の検査サンプルを評価した。サンプルの重量を計測し記録した。個々のサンプルを1.5mLのエッペンドルフ遠心分離管の中に置き、500μlの無菌の10xPBSを各管に加えた。サンプルを、1サンプル当たり90秒間組織粉砕機で粉砕した。実施例2に記載したように1グラム当たりのFGF−2の含有量を計算した。FGF−2は、NaOHで基材から完全に除去されたことがわかった。SDSおよびTBE処理は、材料のFGF−2含有量に影響しなかった。
【0079】
sGAG含有量の検査では、合計48の12mmの円板状の検査サンプルを評価した。各サンプルの重量を計測し開始重量を記録した。個々のサンプルを1.5mLのエッペンドルフ遠心分離管の中に置き、450μlの無菌の1xPBSおよび50μlのプロテナーゼK溶液を各管に加えた。サンプルを、45分間56℃で分解し、次に15000rpmで10分間遠心分離して未分解の材料をペレットにした。各検査サンプルは、80μlの高純度水と20μlのサンプル分解物とで構成され、1.5mLの遠心分離管に置かれた。すべての管を5秒間ボルテックスした後、1.0mLのブリスカン染料試薬を加えた。これらの管を、1サンプル当たり4回の5秒間のボルテックスしつつ、30分間室温でインキュベートした。次に各サンプルを15000rpmで10分間回転させ、その結果生じた上澄みを取除いた。その後各ペレットをブリスカン分析キットからの1.0mLの解離試薬に再び懸濁させた。こうして得られた溶液の2つの100μlのアリコートを、96ウェルプレートの2つのウェルの中にピペットで移し、656nmの吸収度を測定した。実施例5に記載したように、サンプル濃度を、サンプル吸収度を標準曲線と比較することによって計算した。1グラム当たりのsGAGの含有量を、サンプルのsGAG含有量をサンプルの総重量で除算することによって計算した。基材におけるsGAG含有量に大きな相違はなかった。さらに、NaOHまたはSDS/TBEのいずれによっても、sGAGは大幅に減少しなかった。このことは、SDS/TBEもNaOHもGAGsに影響しないことを示唆している。
【0080】
フィブロネクチンの含有量について、合計48の12mmの円板状の検査サンプルを評価した。サンプルの重量を計測し記録した。個々のサンプルを1.5mLのエッペンドルフ遠心分離管の中に置き、500μlの無菌の10xPBSを各管に加えた。サンプルを、組織粉砕機を用いて1サンプル当たり90秒間粉砕した。2つにしたサンプルを、ベンダーメドシステム(Bender Medsystems)のHumen Fibronectin ELISAキットを用い、製造者の指示に従って検査した。1グラム当たりのフィブロネクチン含有量を、サンプルフィブロネクチン含有量をサンプルの総重量で除算することによって計算した。基材に最初に含まれていたフィブロネクチンの量は、SDS/TBEおよびNaOHを用いることによって除去できる。
【0081】
ヒアルロン酸の検査では、合計48の12mmの円板状の検査サンプルを実施例4に記載したように評価した。ヒアルロン酸の含有量を、サンプルヒアルロン酸含有量をサンプルの総重量で除算することによって計算した。検査したグループのうちいずれの間にも統計的差異はなかった。これはsGAGsの結果と一致する。
【実施例8】
【0082】
移植材料の可視核含有量
腹壁筋膜の6つのロット(各々2つの組織スラブからなる)を得て実施例1に記載したものと同様に調製した。要約すると、最初に12の組織スラブを、高密度の脂肪組織層を機械的に除去することによって処理した、続いて、6枚のシート(各ロットから1つ)を、0.2%過酢酸(PAA)に加えて、2時間、オービタルシェーカーに置いた。残りの6枚のシートを、イソプロピルアルコール(IPA)およびアセトン溶液で処理し、その後さらに2つの処理グループに分割した。第1のグループは1時間1MのNaOHにおいて室温で処理した。第2のグループを、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(37℃)の中に1時間置き、次に1xTBE(37℃)の中にさらに1時間置いた(TBE=89mMのトリス、ホウ酸、エチレンジアミン四酢酸溶液)。両グループを、処理の完了後、高純度水の中で4回濯ぎ、0.2%PAAの中で2時間殺菌した。高純度水の中で4回濯いだ後、すべての組織サンプルを4℃で保存した。
【0083】
材料の上で1つの2cm×2cmのサンプルを検査処置のために切出した。ヘキスト33528の溶液を、サンプルを染色するために作製した。合計90mLの染色溶液を、1mg/mLのヘキストのメタノール保存溶液をリン酸緩衝生理食塩水で希釈して1μg/mLにする(90μlのヘキスト保存溶液を90mLのPBSに加える)ことによって作製した。各サンプルを、5mLのヘキスト染色溶液の中で15分間室温で振動させてインキュベートした。染色後、各サンプルを振動させて3回PBSで5分間室温で濯いだ。染色したサンプルをガラスの顕微鏡スライド上に置いた。22mm×22mmのガラスのカバースリップを、サンプルの最上部の上に置き、軽く押して気泡を抜いた。次に染色したサンプルのあるこのスライドを顕微鏡の試料台の上に置いた。試料台を調整してサンプルを対物レンズの下のそのサンプルにとってランダムな位置に置いた。焦点を調整してその位置で可能な最大数の核に焦点が合った画像を得た。次にこの画像をSpotRTソフトウェアを用いて撮影した。この画像をグレースケールおよびネガを選択することによって調整し、明るい背景上の暗いドットとして核染色が現れるようにした。輝度、コントラストおよびガンマを調整し、確実に核が容易に判断できるようにした。4つの画像を各サンプル上のランダムな位置で撮影した。これらの画像をシートの上に印刷し、存在する核の数を数えた。画像が、200を超える核を含む場合、多すぎて数えられないと思われた。すべての計数が終了すると、各ロットの平均および標準偏差を求めた。数は、フィールド当たりの核の数として表示された。
【0084】
20xのフィールド(大きさ0.263mm2)についての基材上の核の平均数は、この実施例におけるSDS/TBE処理では、多すぎて数えられないと思われた。NaOHを用いたプロセスはすべての可視核を除去した。
【実施例9】
【0085】
追加の生体力学試験
化学的に処理して脂質を除去し殺菌した後凍結乾燥した追加の漿膜下筋膜ECM材料を、おおむね上記実施例7に記載したように、機械的特性について検査した。その結果を以下の表3に示し、クックバイオテック社(インディアナ州ウェストラファイエット)から入手可能な単一層ブタ小腸粘膜下組織(SIS)のものと比較した。
【0086】
【表4】

【0087】
腹壁筋膜ECMは、SISと比較して、優れた強度特性を有し、破断伸びの値によって立証されるように伸張性が非常に高いことがわかる。
【実施例10】
【0088】
ラット腹壁試験
追加の漿膜下筋膜ECM材料を、以下の表4に従い、ブタの腹壁組織切片から調製した。これらの材料を、ラット腹部モデルにおいて検査した。
【0089】
【表5】

【0090】
上記筋膜材料に加え、クックバイオテック社(インディアナ州ウェストラファイエット)から入手可能な4層ブタ小腸粘膜下組織(SIS)材料を用いて対照試料を準備した。
【0091】
筋膜およびSIS材料を用いて、ラットの腹壁に生じさせた2cm×2cmの欠陥の修復に使用する、2cm×2cmのサンプルを調製した。合計60匹のラットを使用した。各ラットに対して腹部皮膚および皮下切開を行ない腹壁を露出させた。各ラットの腹部に、約2cm×2cmの全層腹部/筋膜壁欠陥を生じさせた。筋膜サンプルまたはSISサンプルいずれかを使用して欠陥を修復した。移植したサンプルを、次のように異なる3つの時点で評価した。SIS移植した10匹のラットを2週間で、筋膜移植した8匹のラットを2週間で(2匹のラットは盲腸癒着のために死亡)、SIS移植した10匹のラットを4週間で、筋膜移植した10匹のラットを4週間で、SISの10匹のラットを8週間で、筋膜移植した10匹のラットを8週間で、評価した。外植時に、イヌの骨の形状の検査品を、移植した各サンプルの中心から切出した。検査品を、サンプルの極限張力として測定される破壊時の力について機械的に検査した。
【0092】
一般的に、材料双方について、修復の強度は時間の経過に伴って増す。加えて、どの時点でも筋膜とSISとの間に統計的差異はなかった。極限張力データは以下の表5にまとめられている。このデータは、これら2つの材料の間に時間の経過に伴う修復強度の差はないこと、および、どちらのサンプルについても材料の強度は時間の経過に伴って増すことを、示唆している。
【0093】
【表6】

【0094】
サンプルに対して極限張力の検査を行なった後、残りの移植サンプル各々の切片を収集しホルマリンに固定した。その後、固定したサンプルを埋込み、切開し、H&Eで染色した。2つの材料の間に、各時点における細胞浸潤およびリモデリングの相違はほとんどないという点で、組織学は機械的結果を裏付けた。2週間で、サンプル双方に何らかの細胞内部成長が見られた。4週間で、双方の材料は細胞浸潤およびリモデリングが進んでいることを示した。8週間で、双方のサンプルは通常の線維性血管性組織を示し、材料はほとんど残っていなかった。
【0095】
この実施例は、本明細書に記載のブタの腹壁から分離した移植材料が、SIS材料と比較して、時間の経過に伴い同様の強度を有することを示す。組織学はこの発見を裏付けており、本明細書に記載の腹壁筋膜ECM材料は、SISと同様のリモデリング特性を示す。
【0096】
本発明の記載の文脈において(特に以下の請求項の文脈において)使用される「1つの(“a”と“an”)」および「この(“the”)」ならびに類似する指示語は、本明細書で特に明記しない限りまたは明らかに文脈と矛盾しない限り、単一のものおよび複数のもの双方を含むと解釈されねばならない。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書で特に明記しない限り、その範囲に含まれる個々の値を個別に示すための簡略方法を意図しているに過ぎず、個々の値は、本明細書において個別に記載された場合と同じように明細書に含まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で特に明記しない限りまたは明らかに文脈と矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行できる。本明細書で使用されるすべての例または例示を示す表現(たとえば「等(“such as”)」)は、本発明をより明らかにすることを意図しているに過ぎず、特に請求項に記載しない限り本発明の範囲を限定しない。本明細書の表現は請求項に記載されていない要素が本発明の実施に不可欠であることを示すものではないと理解されねばならない。
【0097】
この発明の好ましい実施の形態は、発明者が認識しているこの発明を実施するためのベストモードを含めて、本明細書に記載されている。当然ながら、こういった好ましい実施の形態の変形は、当業者にとっては上記の記載を読めば明らかになるであろう。発明者らは当業者がこのような変形を適宜採用すると予測し、発明者らは本発明がこの明細書に具体的に記載されるのとは異なるやり方で実施されることを意図している。したがって、この発明は、適用法によって認められる以下の請求項に記載の主題のすべての変形および均等物を含む。さらに、その可能な変形すべてにおける上記の要素のいずれの組合せも、本明細書で特に明記しない限りまたは明らかに文脈と矛盾しない限り、本発明に含まれる。加えて、本明細書で引用されたすべての刊行物は、当業者の能力を示し、引用により個別に援用され全体が記載された場合と同じくその全体が本明細書に引用により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高弾性および高強度を有する、生体吸収性のコラーゲン性およびエラスチン性の細胞外マトリクス移植材料であって、
ブタの腹壁から分離した高伸縮性の細胞外マトリクス材料の分離した生体吸収性層を含み、
前記細胞外マトリクス材料は、コラーゲンおよびエラスチンを含み、前記腹壁に由来する漿膜下筋膜を含む天然層構造を有し、
前記細胞外マトリクス材料には本質的に天然細胞がなく、
さらに、前記細胞外マトリクス材料の引張破断強度は少なくとも1ポンドであり破断伸びは少なくとも約50%である、移植材料。
【請求項2】
前記細胞外マトリクス材料の脂質含有量は15重量パーセント未満である、請求項1の移植材料。
【請求項3】
前記天然層構造は、腹壁に由来する壁側腹膜も含む、請求項1の移植材料。
【請求項4】
前記材料は酸化殺菌剤で殺菌されている、請求項1の移植材料。
【請求項5】
前記酸化殺菌剤はパーオキシ化合物を含む、請求項4の移植材料。
【請求項6】
前記パーオキシ化合物は過酸である、請求項5の移植材料。
【請求項7】
前記パーオキシ化合物は過酢酸である、請求項6の移植材料。
【請求項8】
前記層の長さは少なくとも20cmであり、幅は少なくとも20cmである、請求項1の移植材料。
【請求項9】
前記細胞外マトリクス材料にFGF−2がない、請求項1の移植材料。
【請求項10】
前記細胞外マトリクス材料はヒアルロン酸を含む、請求項9の移植材料。
【請求項11】
互いに結合された少なくとも2つの前記層を含む、請求項1の移植材料。
【請求項12】
前記移植材料を通して流体を通過させる穿孔をさらに含む、請求項11の移植材料。
【請求項13】
前記シートは脱水熱的に互いに結合されている、請求項11の移植材料。
【請求項14】
脱水形態でパッケージ内に無菌状態で封止されている、請求項1から13のいずれかの移植材料。
【請求項15】
請求項1から13のいずれかに記載の移植材料を患者に移植することを含む、患者の治療方法。
【請求項16】
前記移植は患者の軟組織を支持するために行なわれる、請求項15の方法。
【請求項17】
前記移植はヘルニア修復のために行なわれる、請求項15の方法。
【請求項18】
高弾性を有する細胞外マトリクス移植材料の調製方法であって、
ブタの腹壁から分離した組織の切片を提供するステップであって、前記組織の切片は、前記腹壁に由来する少なくとも漿膜下筋膜と付着する漿膜下脂肪とを含む天然層構造を含む、ステップと、
前記漿膜下脂肪を前記組織の切片から機械的に除去することにより、前記漿膜下筋膜を含む組織のコラーゲン性の層を生成させるステップと、
前記組織のコラーゲン性の層を液状媒体で処理することにより天然脂質を除去するステップと、
前記組織のコラーゲン性の層に対して細胞を除去するステップとを含み、
前記処理および細胞除去の後、前記組織の層の引張破断強度は少なくとも1ポンドであり、破断伸びは少なくとも50%である、方法。
【請求項19】
酸化殺菌剤を含む溶液の中に組織のコラーゲン性のシートを浸漬させるステップをさらに含む、請求項18の方法。
【請求項20】
前記殺菌剤は過酢酸を含む、請求項19の方法。
【請求項21】
前記溶液はさらにエタノールを含む、請求項20の方法。
【請求項22】
前記方法はさらに組織のコラーゲン性のシートを殺菌するステップを含む、請求項18の方法。
【請求項23】
前記液状媒体は有機溶媒を含む、請求項18の方法。
【請求項24】
前記有機溶媒はイソプロピルアルコールである、請求項23の方法。
【請求項25】
前記処理および細胞除去の後、組織のコラーゲン性のシートを乾燥するステップをさらに含む、請求項18から24のいずれかの方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−526811(P2011−526811A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516772(P2011−516772)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/049079
【国際公開番号】WO2010/002799
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(506270592)クック・バイオテック・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】COOK BIOTECH INCORPORATED
【Fターム(参考)】