説明

潜伏ヘルペスウイルス感染の治療および予防のためのアミノプリン抗ウイルス剤の使用

【課題】1型単純ヘルペスウイルスおよび2型単純ヘルペスウイルスを含むヘルペスウイルスのヒトにおける潜伏感染の治療および予防方法を提供すること。
【解決手段】ヒトを包含する哺乳動物におけるヘルペスウイルスの潜伏感染の治療方法であって、かかる治療を必要とする哺乳動物に有効量の式(A):


で示される化合物または生物学的前駆体、または上記のいずれかの医薬上許容される塩、リン酸エステルおよび/またはアシル誘導体を投与することを含む方法を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘルペスウイルスの潜伏感染の治療に関する。
本明細書の用語「治療」は予防を適宜包含する。
【背景技術】
【0002】
EP−A−141927(Beecham Group p.l.c.)には式(A):
【化1】

で示されるペンシクロビア(penciclovir)ならびにその塩、リン酸エステルおよびアシル誘導体が抗ウイルス剤として開示されている。ペンシクロビアナトリウム塩水和物はEP−A−216459(Beecham Group p.l.c.)に開示されている。ペンシクロビアおよびその抗ウイルス活性も'Abstract of 14th Int. Congress of Microbiology',Manchester,England 7-13 September 1986(Boyd et.al.)のアブストラクトP.V.11-5 193頁に開示されている。
【0003】
化合物(A)の経口的に活性のある生物学的前駆体は式(B):
【化2】

[式中、XはC1〜6アルコキシ、NHまたは水素である]
の化合物、および式(A)で定義されたごとくその塩および誘導体である。XがC1〜6アルコキシまたはNHである式(B)の化合物はEP−A−141927に開示されており、EP−A−182024(Beecham Group p.l.c.)に開示されたXが水素である式(B)の化合物は好ましいプロドラッグである。式(B)の化合物の特に好ましい例は、Xが水素であり、2個のOH基がアセチル誘導体の形態である化合物であり、EP−A−182024の実施例2に記載されている(以後、ファムシクロビル(famciclovir)という)。
【0004】
式(A)および(B)の化合物ならびにそれらの塩および誘導体は、1型単純ヘルペスウイルスおよび2型単純ヘルペスウイルスのごときヘルペスウイルスにより引き起こされる感染の治療において有用であると記載されている。
【0005】
以前の研究は、抗ウイルス治療が感染後数時間遅れた場合、潜伏が確立されることを示した。いったん潜伏感染が確立されると感染が再発しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
治療を感染18時間後(第1の実験)に開始して4日後(第2の実験)まで行った場合、ファムシクロビル治療は完全な潜伏の確立を妨げることができることが、今回マウスにおいて見いだされた。免疫無防備状態マウスでの実験において潜伏を妨げることができることも今回見いだされた。潜在的な臨床的利点は、接触から4日以内の患者をファムシクロビルで治療して、急性感染のみならず潜伏の進展をも妨げて再発を回避することができることである。さらにそのうえ、潜伏感染細胞のゆっくりとした自然消滅が存在する可能性があり、新たな細胞において潜伏を確立することによって潜伏感染細胞の負担を維持するためには再発的感染が必要となりうると考えられる。それゆえ、長期にわたる(数年間まで)ファムシクロビルでの抑制的治療は、新たな細胞が潜伏感染されるようになるのを妨ぐ可能性がある。その後、結果は治癒的治療となり、患者はその後再発しなくなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、ヒトにおけるヘルペスウイルスの潜伏感染の治療方法であって、かかる治療を必要とするヒトに有効量の式(A):
【化3】

で示される化合物または生物学的前駆体、または上記のいずれかの医薬上許容される塩、リン酸エステルおよび/またはアシル誘導体を投与することを特徴とする方法を提供する。
【0008】
本明細書の用語「アシル誘導体」は1個またはそれ以上のアシル基が存在する式(A)の化合物の誘導体を包含する。かかる誘導体は、それ自体生物学的に活性のある式(A)の化合物の誘導体として包含される他、式(A)の化合物の生物学的前駆体として包含される。
【0009】
式(A)の化合物はEP−A−216459(Beecham Group p.l.c.)に開示された形態のうちの1つであってもよい。
【0010】
生物学的前駆体、医薬上許容される塩および誘導体の例は、上記欧州特許文献に記載されたものであり、参照によりそれらの主題を本明細書に記載されているものとみなす。
【0011】
興味ある式(B)の特別な化合物は、9−(4−アセトキシ−3−アセトキシメチルブト−1−イル)−2−アミノプリンであり、ペンシクロビア(PCV)のよく吸収される経口形態であるファムシクロビル(FCV)として知られる。上記欧州特許文献に記載されたようにして式(A)の化合物、生物学的前駆体、塩および誘導体を製造することができる。
【0012】
詳細には、化合物ファムシクロビルを経口経路によりヒトに投与することができ、シロップ、錠剤またはカプセルの形態としてもよい。錠剤形態の場合、かかる固形組成物の処方に適する医薬担体、例えば、ステアリン酸マグネシウム、澱粉、ラクトース、グルコース、米粉、小麦粉および胡粉を用いることができる。化合物を消化可能カプセル、例えばゼラチンカプセルに入った形態としてもよく、あるいはシロップ、溶液または懸濁液の形態としてもよい。適当な液体医薬担体はエチルアルコール、グリセリン、セイラインおよび水を包含し、それに香料または着色料を添加してシロップを作ってもよい。除放性処方、例えば腸溶コーティングをした錠剤も考えられる。
【0013】
非経口投与には、化合物および滅菌賦形剤を含有する液体の1回分の剤型を調製する。賦形剤および濃度にもよるが、化合物を懸濁または溶解することができる。通常には、化合物を賦形剤に溶解し、適当なバイアルまたはアンプルに充填する前にフィルター滅菌し、次いで、密封することにより非経口用溶液を調製する。有利には、局所麻酔剤、保存料および緩衝化剤のごときアジュバントも賦形剤に溶解する。安定性を増大させるために、組成物をバイアル中に充填した後凍結し、減圧下で水分を除去することができる。
【0014】
化合物を賦形剤に溶解せずに懸濁し、さらに化合物を滅菌賦形剤に懸濁する前にエチレンオキサイドに曝露すること以外は実質的に同じ方法で非経口用懸濁液を調製する。有利には、界面活性剤または湿潤剤を組成物に入れて本発明化合物の均一な分散を容易にする。
【0015】
好ましい非経口処方は、滅菌水または通常のセイラインを用いたpH7.4付近の水性処方を包含し、詳細にはペンシクロビアナトリウム塩水和物を含有するものを包含する。
【0016】
通常の慣例であるが、普通には、医学的治療に関する使用のための手書きまたは印刷された説明書が組成物に添付されるであろう。
【0017】
適当な用量単位(dosage unit)は50mgないし1gの活性成分、例えば100ないし500mgを含む。かかる用量を1日1ないし4回あるいは通常には1日2または3回投与する。一般的には、化合物の有効用量は1日に体重1kgあたり0.2ないし40mg、より通常には1日に10ないし20mg/kgであろう。ファムシクロビルの場合には、用量単位は125mg、250mg、500mgまたは750mg、好ましくは125mgまたは250mgであろう。
【0018】
完全な潜伏の確立を妨げるためには、好ましくは、ウイルス接触後できるだけ早期に、好ましくは18時間以内に治療を行うが、4日目までであれば許容される。通常には、治療期間は3ないし14日間、より通常には5ないし10日間、しばしば7日間である。
【0019】
確立された再発性疾病の治療のためには、治療期間は5年まで、例えば、1、2、3、4および5年までである。
【0020】
また本発明は、ヘルペスウイルスの潜伏感染の治療に用いる医薬の製造における式(A)の化合物または生物学的前駆体、または上記のいずれかの医薬上許容される塩、リン酸エステルおよび/またはアシル誘導体の使用を提供する。かかる治療を上記方法で行うことができる。
【0021】
さらに本発明は、ヘルペスウイルスの潜伏感染の治療に用いる医薬組成物であって、有効量の式(A)の化合物または生物学的前駆体、または上記のいずれかの医薬上許容される塩、リン酸エステルおよび/またはアシル誘導体、および医薬上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。かかる組成物を上記方法で製造することができる。
【0022】
式(A)の化合物およびそのプロドラッグは、インターフェロンと組み合わされて相乗的抗ウイルス効果を示す。それゆえ、同じまたは異なる経路による逐次または同時投与のためのこれら2成分を組み合わせた製品を用いる治療は本発明の範囲内である。かかる製品はEP−A−271270(Beecham Group p.l.c.)に記載されている。
【0023】
動物実験による下記結果は本発明を説明する。
【0024】
HSV−1ウイルスに感染したマウスにおける実験
マウスの耳介にHSV−1(SC16)を接種することにより皮膚への注射を行い、潜伏ウイルス感染に対する経口ファムシクロビルの効果を調べた。
【0025】
3ないし4週齢のBALB/cのメスのマウス(Bantin and Kingman,Kingston,Hull,UK)を購入し、1週間後に接種した。5×10p.f.u.を含有するウイルス懸濁液(10μl)を左耳介の皮膚中に接種した。エンジニアのマイクロメータースクリューゲージ(Enginees'micrometre screw gauge)を用いて個々のマウスの皮膚の厚さを毎日測定した(Nash et al,1980,J.Gen.Virol.48,351〜357参照)。これらのマウスを3カ月間(実験1)または4カ月間(実験2)維持し、その後屠殺した。三叉神経節および頸後根神経節を取り、同時培養した。ウイルス複製を示すそれらの培養を陽性として記録した。
【実施例】
【0026】
実験例1
第1の実験において、マウスを感染後18時間以内に治療し、感染後10日目に治療をやめた。
【0027】
24匹の未治療対照マウスのうち、12匹は三叉神経節(TG)における潜伏感染を示し、20匹は頸後根神経節(DRG)における潜伏感染を示した。24匹の対照マウスはすべてTGまたはDRGにおける潜伏を示した。FCV治療マウスは潜伏を示さなかった。
【0028】
実験例2
第2の実験において、感染後(p.i.)1、2、3、4または5日目に抗ウイルス治療を開始し、p.i.10日目にやめた。化合物を飲料水中に入れて1mg/mlとして任意に与えた(約100mg/kg/日)。
【0029】
結果は下表のごとし:
(注:グループ1および2は同じ治療規則としたが結果を別々にアッセイした。)
【表1】

4カ月後、16匹のマウスすべてからの神経節外植片(対側および同側の三叉神経節および後根神経節)において潜伏ウイルスが再活性化される可能性があった。同側の神経節からの潜伏ウイルスおよびp.i.4日目またはp.i.5日目まで処理を遅らせて開始した場合のみを除けば、FCV治療マウスの神経節からの潜伏ウイルスは再活性化されなかった(p.i.4日目まで治療を遅らせた場合16匹中2匹で再活性化、p.i.5日目まで処理を遅らせた場合16匹中6匹で再活性化)。1回当たり50mg/kgとして1日2回化合物を強制栄養法により投与した場合、同様の結果が得られた。
【0030】
実験例3
−2日目から10日目(0日目が感染日)にわたりサイクロスポリンA
(CyA)でマウスを免疫抑制した。マウスのグループを未治療とするか、または感染22時間後から5.5日後もしくは10.5日後まで1日2回50mg/kgのファムシクロビルを経口投与して治療した。1カ月または4カ月後に感染ウイルスの再活性化について神経節を試験し、結果を下表に示す。
【0031】
【表2】

TG=三叉神経 DRG=後根神経節 L/R=左/右
【0032】
HSV−2ウイルスに感染したマウスにおける実験
マウスの耳にHSV−2(Bry)を接種することにより皮膚への注射を行い、潜伏ウイルス感染に対する経口ファムシクロビルの効果を調べた。治療は、感染22時間後から始めて5日間、50mg/kgを1日2回与えるものであった。表は、三叉神経節または頸後根神経節における潜伏感染陽性である、グループあたりのマウス数を示す。
【0033】
【表3】

TG=三叉神経 CRG=頸後根神経節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファムシクロビル、またはその医薬上許容される塩を有効成分として含み、感染後少なくとも18時間経過後に処置を開始する、ヒトにおけるヘルペスウイルスの潜伏感染の処置または予防のための経口用医薬組成物。
【請求項2】
処置が1型単純ヘルペスウイルスの潜伏感染に対するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
処置が2型単純ヘルペスウイルスの潜伏感染に対するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ファムシクロビルが125mg、250mg、500mg、750mgまたは1gの用量で1日1回、2回または3回投与される、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
感染後18時間〜4日目までに投与するための、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
3ないし14日間の治療期間のための、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
5年までの治療期間のための、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
同じまたは異なる経路による逐次または同時投与のためのインターフェロンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−184252(P2012−184252A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116810(P2012−116810)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2007−332489(P2007−332489)の分割
【原出願日】平成7年11月23日(1995.11.23)
【出願人】(302012969)ノバルティス・インターナショナル・ファーマシューティカル・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】