説明

潜像パターンを有する印刷物

【課題】本発明は、正面からの観察状態では視認できない文字や図柄などのパターンを所定の角度から観察することによって複数種類視認できる印刷物を提供することを目的とする。
【解決手段】印刷物の少なくとも一部に、有色のインキで印刷された万線状パターンからなる第1のパターンと、前記第1のパターンの少なくとも一部を共有するように配置され第1のパターンと平行な万線状の凹凸画素からなる第2のパターンと、が形成された印刷物であって、前記第1のパターンと前記第2のパターンは互いに異なるピッチの万線状パターンを含む潜像パターンを有する印刷物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
正面からの観察状態では視認できない文字や図柄などのパターンを所定の角度から観察することによって複数種類視認できる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の状態では視認できないパターンを、特定の条件を指定することによって視認可能とする技術が提供されている。
上記技術は、生成されるパターンを潜像パターンと称し、偽造防止手段として使用している(例えば特許文献1参照)。
前記特許文献1に記載の手法によれば、万線状のパターンを凹版印刷方式で印刷し、その上に若干位置をずらして凹版インキと非親和性のオフセットインキによって重ね刷りする方法によって、印刷されたものを傾けるとオフセット印刷方式で印刷した部分が凹版印刷方式で印刷した部分の影になって視認できなくなり、前述の通常の状態では視認できないパターンを、特定の条件を指定することによって視認可能とするものである。
【0003】
【特許文献1】特開平2−127078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術は、凹版印刷技術を使用するために特殊な紙質を必要とし、また、転移された厚いインキの乾燥のために印刷スピードが遅い,凹版印刷インキが高価である,などの課題が有った。
本発明は、正面からの観察状態では視認できない文字や図柄などのパターンを所定の角度から観察することによって複数種類視認できる印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、以下の各態様により達成した、本発明の潜像パターンを有する印刷物の第1の態様は、印刷物の少なくとも一部に、有色のインキで印刷された万線状パターンからなる第1のパターンと、前記第1のパターンの少なくとも一部を共有するように配置され第1のパターンと平行な万線状の凹凸画素からなる第2のパターンと、が形成された印刷物であって、前記第1のパターンと前記第2のパターンは互いに異なるピッチの万線状パターンを含むことを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、ピッチは、第1のパターンよりも第2のパターンの方が広いことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の第3の態様は、上記第1または第2何れかの態様において、第1のパターンのピッチと第2のパターンのピッチは、半ピッチ異なっていることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の第4の態様は、上記第1〜3何れかの態様において、第2のパターンは、エンボスにより形成されたパターンであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有色のインキで印刷された万線状の第1のパターンと、凹凸からなる画素の集合で構成された第2のパターンとによって、前記第1のパターンの一部が潜像として現われる印刷物が得られ、印刷万線と、凹凸万線のピッチを管理するだけで所定の潜像パターンを得ることができる。そのため、表示される潜像パターンの管理が容易であるという効果がある。
また、本発明によれば、すき入れなどの複雑な手段を用いないため、安価で、且つ、コピー装置によって複製できないセキュリティ性の高い潜像パターンを有する印刷物を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の潜像パターンを有する印刷物について説明する。
図1は、本発明の潜像パターンを有する印刷物の第1の実施形態について説明するための図,図2は、本発明の潜像パターンを有する印刷物の第2の実施形態について説明するための図,図3は、潜像の視認方法について説明するための概念図,図4は、図1のb図の一部拡大斜視図,図5は、図2のe図の一部拡大斜視図,図6は、図4の斜視図,図7は、本発明の潜像パターンを有する印刷物の製造手順の一実施形態について説明するための図,である。
【0011】
図1を参照して、本発明の潜像パターンを有する印刷物の、第1のパターンの万線のピッチと、第2のパターンの万線状の凹凸のピッチが異なっている場合の第1の実施形態について説明する。
本発明で“万線”とは、“ある幅を持たせた直線をその幅の2〜3倍のピッチで複数本並べた平行線の集まり”という意味である。
図1に示すa図、b図の第2のパターン“XYZ”は、説明し易いように着色しているが実際は、無色の万線状凹凸の集合で、第1のパターンである印刷万線パターン2aの真上から見た場合、印刷万線パターン2aだけが見える状態になっている。
図1で示すエンボスにより形成された凹凸状のパターン(以下、第2のパターンという。)“XYZ”3aは、万線状の画素で構成されており、そのピッチ30aは、印刷万線パターン(以下、第1のパターンという。)2aのピッチより広く、1.5倍になっている。
第2のパターン3aは、有色インキで印刷されている第1のパターン2aに重ねて形成される。
【0012】
b図は、第2のパターンと、第1のパターンとが交差する角度が0度、即ち平行状態となっている状態を示している。
第1のパターンの万線ピッチと、第2のパターンのピッチは半ピッチ異なっているために、図示しないが、第2のパターンを構成する最初の山と、4つ目の山に対して、第1のパターンの印刷された万線の最初の線と6番目の線が重なる。
【0013】
c図は、第3のパターンである。
第3のパターンは特殊な角度に対して反射する無色透明なインキ、淡色なインキ等、第1のパターンを形成するインキを隠蔽しないインキで印刷される。
c図において、第3のパターンは、長方形の塗りつぶしパターンの中に“ABC”の文字が白抜きの状態に嵌め込まれているが、逆に“ABC”の文字ターンであっても良い。
【0014】
図2を参照して、第1のパターンの万線の各線のピッチと、第2のパターンの凹凸の山と山(または、谷と谷)のピッチが同一の場合の一実施形態について説明する。
図2に示すd図,e図の第2のパターンは、説明し易いように着色しているが実際は無色の集合で、第1のパターンである印刷万線パターン2dの真上から見た場合、印刷万線パターン2dだけが見える状態になっている。
図2において、d図に示す第2のパターン3dは、万線状の画素で構成されており、そのピッチ30dは、第1のパターン2dのピッチと同一ピッチになっている。第2のパターン3dは、有色インキで印刷されている第1のパターン2dに重ねて形成される。
【0015】
e図は、第2のパターンを構成している万線状パターンと、第1のパターンとが交差する角度が0度、即ち平行状態となっている状態を示している。
第1のパターンの万線のピッチと、第2のパターンのピッチは同一ピッチとなっているために、図示しないが第2のパターンを構成する最初の山の部分と、2つ目の山の部分に対して、第1のパターンの万線の線、または、スペース部分が重なる。e図では、“XYZ”の山の部分が第1のパターンのスペース部分に重なっている場合である。
e図の状態から第2のパターンが半ピッチずれると、“XYZ”の山の部分が第1のパターンの印刷された線部に重なって、第2のパターンが有色で表示されている図面上では“XYZ”の文字が見えなくなる。
【0016】
前述、図1、図2の説明で明らかなように、第2のパターンの形成位置が好ましくない方向にずれて形成された場合、即ち第2のパターンの凸(山)部が第1のパターンのスペース部(または、非線部)に形成された場合は、第2のパターンが印刷基体の色のパターンとして表示される(図5,図6において詳細に説明する。)。そのために第1のパターンの印刷色によって第2のパターンによる潜像を認識させるためには、第1のパターンのピッチと第2のパターンのピッチを変える必要があることがわかる。
【0017】
図3を参照して潜像パターンを有する印刷物の潜像パターンを視認する方法について説明する。
図3は、潜像パターンを有する印刷物1が水平な位置に置かれた状態で、観察者が、塗りつぶした矢印6(6−1,2,3)の方角から潜像パターン表示エリア5を観察した場合にどのように視認されるかを図示している。
【0018】
潜像パターンを有する印刷物1の正面(真上)方向6−1から、潜像パターン表示エリア5を観察すると、第1のパターン2のみが鮮明に観察される。第2のパターンは、エンボスによる凹凸で形成されているために真上方向からは視認することができない。
また、第3のパターンは、無色透明、または、淡色なインキで印刷されているために視認することができない。
次に潜像パターン表示エリア5を斜め方向6−2から観察した場合は、第3のパターン4が鮮明に視認され、第1のパターン、および、第2のパターンによる潜像は微かに視認される状態である。
印刷物1に更に近づいた、斜め方向6−3から潜像パターン表示エリア5を観察した場合は、第3のパターン4、第1のパターン2は視認されず、第1のパターンと第2のパターンによる潜像(図示せず)だけが明瞭に視認される。
【0019】
図4を参照して、図1のb図の一部を拡大した状態について説明する。
図1に示すb図の一部は、図4に示すように、印刷による有色の第1のパターンと、潜像パターンの表示に係る第2のパターンが重なって形成されている。
第2のパターンは、凹凸状になっている。点線で示す部分が凹(谷)部31bで、一点鎖線で示す部分が凸(山)部32bである。図1の場合は、第1のパターンの万線のピッチと、第2のパターンのピッチが1対1.5になっているために、第1のパターンの1本目の線と、第2のパターンの最初の山が一致した後は、第1のパターンの6本目の線と、第2のパターンの4本目の山部で一致する。
潜像パターン表示エリア5bを矢印6で示す方向から観察すると、図に示すように第1のパターンの万線のうち、3本の万線が視認される。
【0020】
図5を参照して、図2のe図の一部を拡大した状態について説明する。
図2に示すe図の一部は、印刷により有色のインキで印刷された第1のパターンと、潜像パターンの表示に係る第2のパターンが重なり合って形成されていて、図5に示す状態になっている。
第2のパターンは、点線で示す凹(谷)部31eと、一点鎖線で示す凸(山)部32eに、複数本平行に形成されている。
図2で示す第1のパターンの万線ピッチと、第2のパターンの凹凸の凹部、または、凸部のピッチが同一であるために、第1のパターンの1本目の線と、第2のパターンの最初の凹部が一致する場合は、第1のパターンのその他の線と、第2のパターンのその他の凹部は全てで一致する。
このような状態を矢印6で示す方向から観察した場合、第1のパターンの万線20が第2のパターンの凸部に隠されて潜像パターン表示エリア5eには1本も視認されない。
【0021】
図6は、図4を印刷物に近い位置(図3の観察方向6−3)から斜めに観察した図であるが、第2のパターンの凸部の頂上、及び、その手前(観察側)に在ってその手前の山部に遮られない第1のパターン2の一部のみが観察される状態を示している。
【0022】
図7を参照して本発明の潜像パターンを有する印刷物の製造手順の一実施形態について説明する。
まず、第3のパターンを作製する。
例えば、ロゴマークのようなパターンをデザインし、版下から製版用原版を作成する(ステップ81)。ステップ(以下、Sという)81で作製した製版用原版によって印刷紙の大きさに応じて多面露光を行い、印刷用の版である刷版を作製(S82)し保管する。
【0023】
次に、第1のパターンを作製するために、万線スクリーンと未露光の製版用フィルムを密着させて実線幅とスペースの幅が1対2となるように万線スクリーン側から露光し、万線パターン原版を作製する。
得られた万線パターン原版を製版カメラで第2のパターンとの関連で所定の大きさに拡大撮影する(S83)。
また、同一面に印刷する絵柄のうち、第1のパターンである万線を印刷する色と同一の色の版を作製する(S84)。
S83で作製した万線パターンと、S84で作製した分色版を1つの版にするために合成し、合成原版を作製する(S85)。
合成原版を印刷紙の大きさに応じて多面露光を行い、印刷用の版である刷版を作製する(S86)。
前記、潜像パターンの表示に係る部分以外の図柄や、文字情報を印刷(S87)し、保管する。
前記図柄や、文字情報は万線パターンの後に印刷することもできる。
【0024】
S82で作製され、保管されている第3のパターンの印刷用の版(刷版)によって、第3のパターンを印刷する(S88)。
第3のパターンの印刷には、印刷物を所定の角度にすると印刷面が光を反射する無色透明なインキが使用される。前述のように、無色透明のインキの他に、第1のパターンとコントラストの強いインクで第1のパターンの下に印刷しても良い。この場合は、第1のパターンと第2のパターンによって表示される潜像が二つの色で視認されることになる。
ここで、無色透明なインキの一例として、パールインキについて説明する。
パールインキは、インキが乾燥した後のインキ表面が真珠のような光沢を有するためにパールインキと呼ばれる。
パールインキは、淡水魚の鱗の表面から採取されたグアニンの微結晶や、炭酸塩・ヒ酸塩系の材料を顔料として作られる。前記顔料は、何れも薄片状の結晶で、この結晶面に光が当たると規則的に多重反射されるために、真珠の表面のような光沢を呈する。
印刷インキとして使用された場合、乾燥したインキの表面は透明性を有し、上記のような反射特性を有する。
【0025】
次に、第2のパターン作製工程について説明する。
第2のパターンは、潜像を表示するパターンで、文字パターンの場合や、絵柄パターンの場合がある。
第2のパターンのピッチは、前述の第1のパターンとの関連で決める。
通常、第2のパターンのピッチを第1のパターンのピッチよりも広くする。
印刷物を部分的に加圧して第2のパターンである凹凸を形成するために、凹版を作製する。そこで、凹版作製のためのフィルム原版を作製する(S89)。
凹版作製手段として薬品によってエッチングし、凹部を作製する方法と、機械的に溝を形成して作製する方法があるが、いずれかの方法によって第2のパターン形成手段(押し型)を作製する(S90)。
【0026】
エンボスマシンに前記押し型を取り付け、S85で作製、保管していた印刷物に第2のパターンを形成する(S91)。
印刷物に上記エンボス特性を付与させるために、印刷紙として長繊維で比較的粗な特性を有する紙を使用する。
紙質を選択できない場合は、エンボス部に湿りを与え、エンボス面を軟らかくしてからエンボス加工を行う。
多面付け状態の印刷物を所定の大きさに裁断し、潜像パターンを有する1枚の印刷物に仕上げる(S92)。
多面の状態から1枚の印刷物に仕上げた後でエンボス加工を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の潜像パターンを有する印刷物の第1の実施形態について説明するための図である。
【図2】本発明の潜像パターンを有する印刷物の第2の実施形態について説明するための図である。
【図3】潜像の視認方法について説明するための概念図である。
【図4】図1のb図の一部拡大斜視図である。
【図5】図2のe図の一部拡大斜視図である。
【図6】図4の斜視図である。
【図7】本発明の潜像パターンを有する印刷物の製造手順の一実施形態について説明するための図である。
【符号の説明】
【0028】
1,10 潜像パターンを有する印刷物(印刷基体)
2,20 第1のパターン
3 第2のパターン
4 第3のパターン
5,5b,5e 潜像パターン表示エリア
6,6−1,6−2,6−3 潜像パターンの観察方向
30a,30b 第2のパターンのエンボスピッチ
31b,31e 凹凸の谷部
32b,32e 凹凸の山部
41 非反射部(非印刷部)
42 反射部(印刷部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の少なくとも一部に、有色のインキで印刷された万線状パターンからなる第1のパターンと、前記第1のパターンの少なくとも一部を共有するように配置され第1のパターンと平行な万線状の凹凸画素からなる第2のパターンと、が形成された印刷物であって、
前記第1のパターンと前記第2のパターンは互いに異なるピッチの万線状パターンを含むことを特徴とする潜像パターンを有する印刷物。
【請求項2】
請求項1に記載の潜像パターンを有する印刷物において、
ピッチは、第1のパターンよりも第2のパターンの方が広いことを特徴とする潜像パターンを有する印刷物。
【請求項3】
請求項1または2何れかに記載の潜像パターンを有する印刷物において、
第1のパターンのピッチと第2のパターンのピッチは、半ピッチ異なっていることを特徴とする潜像パターンを有する印刷物。
【請求項4】
請求項1〜3何れかに記載の潜像パターンを有する印刷物において、
第2のパターンは、エンボスにより形成されたパターンであることを特徴とする潜像パターンを有する印刷物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−111019(P2006−111019A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327097(P2005−327097)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【分割の表示】特願2002−271038(P2002−271038)の分割
【原出願日】平成14年9月18日(2002.9.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】