説明

潜像印刷物

【課題】 本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード及び通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察することができる画像が観察角度の変化に応じて、異なる画像に変化する潜像印刷物に関するものである。
【解決手段】 基材上に、光輝性材料によって形成された第1の画像と、透明な材料によって形成された第2の画像が形成されて成る。第1の画像は、背景部及び情報部を備え、背景部は、背景要素が複数配置されて成る背景要素群によって形成され、情報部は、情報要素が複数配置されて成る情報要素群によって形成され、背景要素と情報要素は、隣接又は近接している。第2の画像は、第2の要素が複数配置されて成る第2の要素群によって形成され、第2の要素は、情報要素の上に重畳されず、かつ、背景要素の少なくとも一部に重なって形成される潜像印刷物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード及び通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察することができる画像が観察角度の変化に応じて、異なる画像に変化する潜像印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ及びカラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
しかし、ホログラムは、インキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間がかかり、かつ、極めて高価である。このことから、金属インキ、干渉マイカ、酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク及び光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキ又は塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様な画像変化を実現した一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が出現している。
【0004】
本出願人は、一般的で、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、特定の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明をすでに出願している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3398758号公報
【特許文献2】特開2008−188973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術に関しては、第1の印刷画像を構成する光輝性材料を用いて形成された面積率の極めて密な光輝性材料層と、第2の印刷画像を構成している光輝性材料に比較して可視光吸収性の高い色材料を用いて形成された面積率の極めて疎な色材料層を重ね合わせて、拡散光領域において同色(近似色)に見えるような適切な面積率の疎密差を見極めなければならない。光輝性材料層の上に、光輝性材料層とは色調が異なる色材料層を重ね合わせて画像を形成することから、可視光吸収性の高い色材料の種類と面積率を何通りにも変えて印刷し、第1の印刷画像から第2の印刷画像へ最適なスイッチ性が得られるような適正な条件を見極めるまでに多大な労力を必要とした。さらには、このような多大な労力を払って形成した印刷物であっても、拡散反射光下の観察において、本来可視化されてはならない潜像画像がわずかながらも視認されてしまうという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の技術においては、光輝性材料と透明なインキを重ね合わせて偽造防止印刷物を形成する技術であり、潜像形成に色材料を用いる特許文献1の技術と異なり、潜像を形成するインキは透明であることから、そもそも色調整を行う必要がなく、また潜像が拡散反射光下で可視化されることもなく、高い画像のスイッチ性を得ることができる技術であった。しかし、この技術はコート紙に印刷した場合には、極めて優れたスイッチ効果を実現することができるものの、上質紙に印刷した場合にはスイッチ効果が不明瞭になるという問題があった。
【0008】
具体的には、例えば、図1に示すように光輝性材料を含むインキ(例えば、金インキ)で可視画像(1)であるアルファベットの「A」の文字を形成し、その上に透明で低光沢なインキで潜像画像(2)であるアルファベットの「B」の文字を重ねて形成した場合、拡散反射光下での観察においては、コート紙を基材とした場合でも、平滑度の低い上質紙を基材として場合でも同様にアルファベットの「A」の文字が視認される。
【0009】
ただし、正反射光下での観察においては、コート紙を基材とした場合には、潜像であるアルファベットの「B」のみが視認される(3−a)が、上質紙を基材とした場合には、潜像であるアルファベットの「B」の文字の内部に可視画像(1)であるアルファベットの「A」の文字が重なって出現(3−b)してしまう。以上のように、スイッチ効果が基材に大きく左右されてしまい、使用する基材によってスイッチ効果が不明瞭になるという問題があった。
【0010】
また、基材として上質紙を用いて、特許文献2に記載の技術を形成する場合、可視画像(1)は、比較的色濃度の低い金色や銀色等のメタリックインキをそのまま用いて形成するのが一般的であり、同一の樹脂中にメタリック顔料と赤色や青色、黒色等の着色顔料を混合したインキを用いたり、メタリックインキと着色インキを混合したインキを用いたり、あらかじめ下地に着色インキで背景色を形成したのちに、銀インキを重ねて加刷する等の方法によって、可視画像(1)の色味を大きく変化させることは困難であった。これは、仮に着色顔料を混合して可視画像(1)を設計した場合、混合した着色顔料分だけ可視画像(1)の色濃度が高くなることから、正反射光下で可視画像(1)と潜像画像(2)が混ざり合って出現した場合に、潜像画像(2)中に現れる可視画像(1)がより強くなり、スイッチ効果が大きく低下する問題が発生するためである。よって、上質紙を基材として特許文献2の技術を形成する場合、可視画像(1)の色のバリエーションが乏しくなり、デザインの自由度が低くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、光輝性材料を含むインキと透明なインキを用いて形成する、拡散反射光下と正反射光下で画像がスイッチする効果を有する印刷物であって、画線構成に工夫を設けることで、色設計や製造が容易で、かつ安価であって、一般的な上質紙を基材として形成した場合でもスイッチ効果が低下しない、極めてスイッチ効果の高い潜像印刷物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の潜像印刷物は、基材上の少なくとも一部に印刷領域を有し、印刷領域は、光輝性材料を含み基材と異なる色の材料で形成された第一の画像の上に、透明な材料によって形成された第二の画像が形成されて成り、第1の画像は、背景部及び情報部を備え、背景部は、背景要素が、一定のピッチで規則的に特定の方向に複数配置されて成る背景要素群によって形成されて成り、情報部は、情報要素が、規則的に特定の方向に複数配置されて成る情報要素群によって形成されて成り、背景要素と情報要素は、隣接又は近接して形成されて成り、第二の画像は、第二の要素が、背景要素群を形成している背景要素と同じピッチで、規則的に特定の方向と同じ方向に複数配置されて成る第二の要素群によって形成され、第二の要素は、情報要素の上に重畳されず、かつ、背景要素の上に少なくとも一部が重なって形成され、拡散反射光が支配的な観察角度領域では第1の画像が観察でき、正反射光が支配的な観察角度領域では第二の画像を観察することができることを特徴とする。
【0013】
本発明の潜像印刷物は、背景要素、情報要素及び第二の要素は、画線及び/又は画素であることを特徴とする。
【0014】
本発明の潜像印刷物は、第二の要素の幅及び高さは、背景要素の幅及び高さ以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の潜像印刷物は、背景部の面積率は、30%以上85%以下で形成され、情報部の面積率は、背景部の面積率を越えず、かつ、15%以上50%以下で形成されることを特徴とする。
【0016】
本発明の潜像印刷物は、情報要素群における情報要素のピッチ、背景要素群における背景要素のピッチ及び第二の要素群における第二の要素のピッチは、0.03mm以上1mm以下で形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明の潜像印刷物は、透明な材料が機能性材料を混合して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の潜像印刷物おいて、潜像画像(第二の画像)を形成するために用いる透明インキは、物体色を有しないために、いかなる面積率で可視画像(第1の画像)の上に単に重ねても拡散反射光下では完全に不可視である。よって、特許文献1に記載の技術のように色設計や網点面積率の調整等、印刷物の設計にあたって多大な労力をはらう必要がない。
【0019】
また、特許文献1記載の技術において、潜像画像は着色インキを用いて形成することから拡散反射光下での潜像画像の隠ぺい性に配慮し、低い網点面積率で形成する必要があったが、本技術においては、潜像画像は透明インキを用いるために高い網点面積率で形成することができ、結果として正反射光下の観察で出現する潜像画像の視認性も極めて高く保つことができる。
【0020】
本発明の潜像印刷物は、特許文献2に記載の技術と異なり、上質紙を基材として印刷した場合でも正反射光下の観察において第1の画像と第二の画像が混ざり合って出現することがない。当然のことながら、コート紙、アート紙等の平滑度の高いコートを基材として場合でも正反射光下の観察において第1の画像と第二の画像が混ざり合って出現することはない。そのため、スイッチ効果が基材によって大きく左右されることがない。
【0021】
また、本発明の潜像印刷物では、そのスイッチ効果が向上したために、上質紙を用いた場合でも着色力の強い顔料、例えば、黒、赤又は青色等のあらゆる色を光輝性材料とともにインキ中に混合して、色彩豊かで濃度の高い第1の画像を形成することが可能となった。そのことにより、豊かな色彩を有する可視画像を形成することができるため、デザインの自由度が飛躍的に高まった。
【0022】
以上の手法で形成した潜像印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることから、コストパフォーマンスに優れ、また、最新のデジタル機器を用いたとしてもスイッチ効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、従来技術を形成する場合の可視画像を示し、(b)は、従来技術を形成する場合の潜像画像を示し、(c)は、コート紙を基材として従来技術を形成した場合に正反射光下で出現する画像を示し、(d)は、上質紙を基材として従来技術を形成した場合に正反射光下で出現する画像を示す。
【図2】本発明における潜像印刷物を示す。
【図3】(a)は、本発明における第1の画像を示し、(b)は、背景要素群によって形成された背景部と、(c)は、情報要素群によって形成された情報部を示す。
【図4】本発明における第二の画像を示す。
【図5】本発明における第1の画像と第二の画像の重ね合わせの位置関係を示す。
【図6】(a)は、本発明を画素で形成した場合における背景要素群及び情報要素群を画素によって形成する場合、(b)は、第二の要素群を画素によって形成する場合を示す。
【図7】本発明を画素で形成した場合における第1の画像と第二の画像の重ね合わせの位置関係を示す。
【図8】第1の画像を形成する場合の背景要素群と情報要素群の構成例を示す。
【図9】(a)は、観察者の視点が、拡散反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示し、(b)は、観察者の視点が、正反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示す。
【図10】本発明の実施例1における潜像印刷物を示す。
【図11】(a)は、本発明の実施例1における第1の画像を示し、(b)は、背景要素群によって形成された背景部と、(c)は、情報要素群によって形成された情報部を示す。
【図12】本発明の実施例1における第二の画像を示す。
【図13】本発明の実施例1における第1の画像と第二の画像の重ね合わせの位置関係を示す。
【図14】(a)は、観察者の視点が、拡散反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示し、(b)は、観察者の視点が、正反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示す。
【図15】本発明の実施例2における潜像印刷物を示す。
【図16】(a)は、本発明の実施例2における第1の画像を示し、(b)は、背景要素群によって形成された背景部と、(c)は、情報要素群によって形成された情報部を示す。
【図17】本発明の実施例2における第二の画像を示す。
【図18】本発明の実施例2における第1の画像と第2の画像の重ね合わせの位置関係を示す。
【図19】(a)は、観察者の視点が、拡散反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示し、(b)は、観察者の視点が、正反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示す。
【図20】本発明の実施例3における潜像印刷物を示す。
【図21】(a)は、本発明の実施例3における第1の画像を示し、(b)は、背景要素群によって形成された背景部と、(c)は、情報要素群によって形成された情報部を示す。
【図22】本発明の実施例3における第2の画像を示す。
【図23】(a)は、観察者の視点が、拡散反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示し、(b)は、観察者の視点が、正反射光が支配的な観察角度領域にある場合、潜像印刷物中に現れる画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0025】
まず、本発明について図面を用いて説明する。図2に、本発明における潜像印刷物(4)を示す。潜像印刷物(4)は、基材(5)上の少なくとも一部に印刷領域(6)を有し、印刷領域(6)中には、第1の画像(7)の上に第2の画像(8)が重なって形成されている。
【0026】
図3に、第1の画像(7)の構成を示す。図3(a)に示す第1の画像(7)は、図3(b)に示す背景要素(9)が複数配置されて成る背景要素群(11)によって形成される背景部と、図3(c)に示す情報要素(10)が複数配置されて成る情報要素群(12)によって形成される情報部から成る。背景部は、一定の濃度階調を有する印刷領域から成り、本発明を実施するための形態においては、図3に示す「円囲い」から成る。情報部は、本発明を実施するための形態においては、図3に示すアルファベットの「A」から成る。
【0027】
本発明における背景要素(9)及び情報要素(10)とは、画素及び/又は画線のことである。ここでいう「画素」とは、印刷画像を形成する一要素として用い、円形状、多角形状、図形形状、文字形状等、濃淡の変化を面積率(点の大小)で表現する網点形状のことである。また、「画線」とは、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術思想に含まれる。
【0028】
本発明における背景要素(9)は、画素及び/又は画線から成り、情報要素(10)は、画素及び/又は画線から成る。ただし、情報要素(10)の場合、情報要素(10)の一つである四角い形状の微細な画素を高密度に隙間なく隣接させて配置することで、ベタ画像の形態としても良く、更に、微細な画素の大小又は粗密によって階調画像の形態としても良い。このように、情報要素(10)においては、背景要素(9)と重複しないように、印刷領域(6)中の一部の面積率を占める形態であれば如何なる形態であっても良い。また、背景要素(9)と、情報要素(10)の組み合わせについては、画素及び/又は画線のすべての組み合わせにおいて本発明の潜像印刷物が作製可能である。なお、本発明を実施するための形態においては、背景要素(9)及び情報要素(10)のいずれもが画線の場合で説明する。
【0029】
図3(a)の一部拡大図に示すように、背景部を形成している印刷領域である「円囲い」は、特定の画線幅(W1)の背景要素(9)が、一定のピッチ(P1)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る背景要素群(11)によって形成されており、情報部を形成しているアルファベットの「A」は、特定の画線幅(W2)の情報要素(10)が、それぞれ背景要素(9)に隣接するように規則的に特定の方向に複数配置されて成る情報要素群(12)によって形成されている。本発明における「特定の方向」とは、背景要素(9)及び情報要素(10)が画線の場合、図面中におけるS1方向のことであり、画線と直交する方向に規則的に配置されている。
【0030】
本発明を実施するための形態において、背景部を構成する背景要素群(11)を形成して成る複数の背景要素(9)同士の間に、情報部を構成する情報要素群(12)を形成して成る複数の情報要素(10)が配置されており、複数の背景要素(9)と複数の情報要素(10)は、それぞれが隣接するように形成されて成り、重なり合って形成されることはない。
【0031】
背景要素(9)と情報要素(10)が重なって形成された場合、例えば、背景要素(9)と情報要素(10)がそれぞれ面積率100%より小さい値で形成されていた場合には、重なりあった領域には不必要な濃淡が生じてしまい、その濃淡は正反射光下で出現する第2の画像(8)に反映されてしまうことである。また、例えば、背景要素(9)と情報要素(10)がそれぞれ面積率100%のベタで形成されていた場合には、重なりあった領域でも100%以上の濃度には成り得ないことから、結果的に重なりあった領域分だけ情報要素(10)が占める面積が失われ、背景要素(9)と情報要素(10)間の階調差が小さくなり、第1の画像(7)の視認性が低くなるという問題が生じる。
【0032】
また、背景要素(9)と情報要素(10)は、隣接するように形成する必要はなく、近接させて形成しても良い。背景要素(9)と情報要素(10)を近接させて形成する場合の形態については後述する。
【0033】
第1の画像(7)は、光輝性材料を含むインキによって形成される。
【0034】
図4に、第2の画像(8)の構成を示す。第2の画像(8)は、特定の画線幅(W3)の第2の要素(13)が、背景要素群を形成している背景要素(9)と同じピッチ(P1)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る第2の要素群によって形成され、アルファベットの「B」の文字を表している。本発明における「特定の方向」とは、第2の要素(13)が画線の場合、図面中におけるS1方向のことであり、画線と直交する方向に規則的に配置されている。
【0035】
第2の画像(8)は、透明な材料によって、第1の画像(7)の上に重ねて形成される。
【0036】
なお、図面中の一部拡大図において、背景要素(9)は縦縞の画線で図示しており、情報要素(10)は黒のベタで図示しており、第2の要素(13)は白抜きで図示しているが、それぞれの要素の構成を区別しやすくするために縦縞、黒のベタ及び白抜きで図示しているものであって、実際の各要素を縦縞、黒のベタ及び白抜きの要素で形成されているわけではない。また、これ以降の図面においても、背景要素、情報要素及び第2の要素をそれぞれ縦縞、黒のベタ及び白抜きの要素で図示しているが、これらについても前述同様、それぞれの要素の構成を区別しやすくするために、縦縞、黒のベタ及び白抜きで図示しているものであって、実際の各要素を縦縞、黒のベタ及び白抜きの要素で形成されているわけではない。
【0037】
図5に、第1の画像(7)と第2の画像(8)の重ね合わせの適正な位置関係を示す。第2の画像(8)を形成している第2の要素(13)は、情報要素(10)の上に重ねて形成してはならず、第2の要素(13)は、背景要素(9)の上に重ねて形成する。第2要素(13)と情報要素(10)が重なって形成されると、特許文献2に記載の技術と同様に、正反射光下の観察において、第2の画像(8)の中に第1の画像(7)の情報部(12)が混ざって不明瞭な画像となって視認されてしまうという問題が生じる。そのため、この形成の条件を成立させるため、第2の要素(13)のピッチと背景要素(9)のピッチは等しく形成する必要がある。
【0038】
前述したとおり、背景要素(9)と情報要素(10)は隣接して形成されるとともに、第2の要素(13)は情報要素(10)と重ならない構成とするためには、第2の要素(13)の画線幅(W3)は背景要素(9)の画線幅(W1)以内の幅に留めて設計する必要がある。第2の要素(13)の画線面積率(一定面積中に閉める画線の面積)が大きいほど、正反射光下で出現する第2の画像(8)の視認性が高くなることから、背景要素(9)の画線幅(W1)とほぼ同じ画線幅で設計することが望ましいが、完全に同じ値の場合には製造時における刷り合わせズレの許容がなくなることから、印刷を行う機械における刷り合わせ精度を考慮して第2の要素(13)の画線幅(W3)を設計する必要がある。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、第2の要素の画線幅(W3)を、実施可能な画線幅(W1)における最大の画線幅よりもわずかに小さい値とした。また、第2の要素(13)は、情報要素(10)にさえ重ならなければ良く、背景要素(9)が形成されていない基材の上に重なっても良い。基材が上質紙の場合には、基材の上に重ねて形成された第2の要素(13)は、正反射光下で出現する第2の画像(8)には反映されない。
【0040】
なお、本発明の潜像印刷物は、前述の通り、情報要素(10)上に第2の要素(13)が重ならないことが第2の画像(8)の視認性を向上するための条件であるが、印刷時の刷り合わせズレにより情報要素(10)上に第2の要素(13)が若干重なったとしても、背景要素(9)上に重なる面積が大きいため、第2の画像(8)内に含まれる第1の画像(7)はほとんど視認されず、第2の画像(8)の視認性に影響されることはないため、第2の要素(13)が情報要素(10)上に若干重なった状態についても、本発明における効果の範囲内である。
【0041】
これまで、本発明の潜像印刷物は、基材上の少なくとも一部の印刷領域に、画線を複数配置して成る背景要素群と画線を複数配置して成る情報要素群によって、第1の画像が形成されており、さらに第1の画像の上に、画線を複数配置して成る第2要素群が重なって第1の画像が形成されて成る場合について説明してきた。しかし、前述したとおり、本発明においては、画線ではなく画素でも形成可能であり、基材上の少なくとも一部の印刷領域に、画素を複数配置して成る背景要素群と画素を複数配置して成る情報要素群によって、第1の画像が形成されており、さらに第1の画像の上に、画素を複数配置して成る第2要素群が重なって第1の画像が形成されて成る場合でも良い。
【0042】
ただし、図6(a)に示すように、第1の画像(7)における背景要素群及び情報要素群を画素によって形成する場合、背景部は、特定の画素幅(R1)の背景要素(9)が、一定のピッチ(P1)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る背景要素群(11)によって形成されており、情報部は、特定の画素幅(R2)の情報要素(10)が、それぞれ背景要素(9)に隣接又は近接して規則的に特定の方向に複数配置されて成る情報要素群(12)によって形成されている。なお、画素の高さ(H1)に関しては、画素幅(R1)と同一でも異なっていても良く、画素の高さ(H2)に関しても、画素幅(R2)と同一でも異なっていても良い。本発明における「特定の方向」とは、背景要素(9)及び情報要素(10)が画素の場合、図面中におけるS1方向及びS2方向の上下左右方向のことであり、図に示すようにマトリクス状に規則的に配置されて成る。
【0043】
さらに、図6(b)に示すように、第2の画像(8)における第2の要素群を画素によって形成する場合、第2の画像(8)は、特定の画素幅(R3)の第2の要素が、一定のピッチ(P1)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る第2の要素群によって形成されている。なお、画素の高さ(H3)に関しては、画素幅(R3)と同一でも良く違っても良い。本発明における「特定の方向」とは、第2の要素(13)が画素の場合、図面中におけるS1方向及びS2方向の上下左右方向のことであり、図に示すようにマトリクス状に規則的に配置されて成る。
【0044】
図7に、図6(a)に示した第1の画像(7)と図6(b)に示した第2の画像(8)の重ね合わせ位置の詳細な図を示す。第2の画像(8)を構成する第2の要素(13)は、第1の画像(7)の背景部(11)を構成する背景要素(9)の上にのみ重ね合わせて形成されて成る。
【0045】
背景要素群及び情報要素群の上に第2の要素群の重ね合わせる位置関係に関しては、画線の場合と同様であり、第2の画像(8)を形成している第2の要素(13)は、情報要素(10)の上に重ねて形成してはならず、第2の要素(13)は、背景要素(9)の上に重ねて形成する。そのために、第2の要素(13)の画素幅(R3)は背景要素(9)の画素幅(R1)以内の幅に留めて設計し、第2の要素(13)の画素高さ(H3)は背景要素(9)の画素高さ(H1)以内の幅に留めて設計する必要がある。
【0046】
以上のように、背景要素、情報要素及び第2の要素に関しては、画線の場合であっても画素の場合であっても、背景要素と情報要素は隣接又は近接して形成され、情報要素と第2の要素は重畳しないように形成され、第2の要素は背景要素と少なくとも一部が重畳するように形成することが条件となる。
【0047】
図8に、本発明の潜像印刷物における第1の画像を構成している背景部を形成する背景要素(9)と情報部を形成する情報要素(10)の組み合わせの一例を示す。背景要素(9)と情報要素(10)は、画線及び/又は画素で形成可能であり、図8(a)及び(b)に示すように画線と画線の組み合わせ、図8(c)及び(d)に示すように画素と画素の組み合わせ、図8(e)及び(f)に示すように画線と画素の組合せ、いずれの組み合わせを用いて形成しても良い。
【0048】
また、背景要素(9)と情報要素(10)は、図8(a)、(c)及び(e)のように隣接して形成しても、図8(b)、(d)及び(f)のように近接して形成しても良い。
【0049】
図9に、以上の構成で形成した潜像印刷物(4)の視認状態を示す。図9(a)に示すように、光源(14)と印刷物(4)と観察者(15a)の位置関係を、拡散反射光下(印刷物に入射する光の角度と、観察者と印刷物とを結ぶ角度が大きく異なる角度)で観察した場合、観察者には、図9(a)に示す第1の画像(7)が視認される。
【0050】
また、潜像印刷物(4)を、図9(b)に示すように、光源(14)と印刷物(4)と観察者(15b)の位置関係を、正反射光下(印刷物に入射する光の角度と、観察者と印刷物とを結ぶ角度がほぼ同じ角度)で観察した場合、観察者には、図9(b)に示す第2の画像(8)に、淡くなった第1の印刷画像の背景部(11)を重ねた画像が視認される。
【0051】
以上のように、拡散反射光下での観察では、第1の画像(7)が、正反射光下での観察では、第2の画像(8)が主として視認され、画像の優れたスイッチ効果を発揮する。また、本発明においては、上質紙上に形成したとしても、従来の技術で問題となる正反射光下の観察において、第2の画像(8)の中に第1の画像(7)(具体的には第1の画像の情報部(12))が混ざり合って視認されてしまうという現象は生じない。
【0052】
ここで、本発明において画像がスイッチする原理を説明するとともに、加えて基材(5)を上質紙として本発明の潜像印刷物(4)を形成した場合でも、第1の画像と第2の画像が混ざり合う現象が発生しない理由について以下に記す。
【0053】
基材と異なる色を有し、光輝性材料を含んで適切な面積率の範囲で背景部と情報部を有して形成された第1の画像の上に、透明な材料によって形成された第2の画像を重ねて印刷物を形成した場合、拡散反射光下においては、透明な材料によって形成されている第2の画像は不可視であることから、基材と異なる色を有して、光輝性材料を含んで形成されている第1の画像のみが視認される。また、この場合、第1の画像を構成する情報部と背景部間に存在する階調差を認識することができる。
【0054】
一方、正反射光下の観察では、光輝性材料を含んで形成された第1の画像は、入射した光を強く反射することによって一気に明度が上昇し、拡散反射光下で視認されていた色よりも極端に淡い色へと変化する。このとき、光輝性材料を含んで形成された第1の画像の面積率の最大値と最小値が適正な範囲(具体的には面積率差で50%以内)に収まって形成されていた場合、観察者には、第1の画像が備える情報部と背景部の階調差があたかも消失したかのように、第1の画像全体が一定の淡い階調の中に収束していると認識される。これは、光輝性材料が光を反射して、観察者の目に達する反射光量が極端に大きくなることで、第1の画像中に存在する面積率の大小や粗密差を認識することが難しくなるためである。
【0055】
また、第1の画像には、第2の画像を形成する透明な材料が重ねられている領域と、透明な材料で重ねられていない領域が存在する。透明な材料が重ねられている領域は、重ねられていない領域と比べて透明な材料下に存在する第1の画像まで達する光が大きく低下するため、第1の画像の明度上昇が抑制される。一方の透明な材料が重ねられていない領域は、入射した光は第1の画像まで遮られることなく第1の画像まで達し、第1の画像の明度が上昇する。
【0056】
以上のように、透明材料の有無、すなわち、第2の画像によって第1の画像が淡く変化するか、しないかが決定される。結果として、第2の画像が形成されている領域は、暗く観察され、形成されていない領域は明るく観察されるとともに、第1の画像中に存在する階調差が失われることで、第1の画像が消失し、第2の画像が可視化される。以上が、本発明において拡散反射光下では第1の画像が、正反射光下では第2の画像が視認される基本的な原理である。
【0057】
次に、本発明の効果が従来の技術の効果と比較して優れていることを示すために、以下に上質紙を基材として従来の技術(特許文献2に記載の技術)を形成した場合に、正反射光下の観察において第2の画像と第1の画像の情報部が混ざり合って出現する問題について記す。
【0058】
前述したスイッチ効果の発現の原理で明らかなように、正反射光下で第2の画像が可視化されるのは、第1の画像が光を反射して淡く変化したか、あるいは光を反射することができずに変化しなかったかに関わっている。第1の画像には情報部と背景部が存在し、光を反射した領域、すなわち、第2の画像が重ねられていない領域では、情報部と背景部の階調差を収束させる作用が働くが、光を反射しない領域、すなわち、第2の画像が重ねて形成されている領域では、その階調差は失われることなく、階調差はそのまま観察者に認識される。
【0059】
よって、図1に示したように、第1の画像(1)の上に、100%の網点面積率のベタで「B」の文字を形成した第2の画像(2)を重ねて形成した場合には、正反射光下の観察において、図1の(d)で示したように、本来単独で視認されるべき第2の画像の内部に、第1の画像の情報部が反映されて視認される結果となる。言うなれば、そもそもこの画像同士が混ざり合ってしまうという問題は、イレギュラーの状態ではなく従来の技術の本来の姿であるといえる。
【0060】
ただし、従来の技術を用いた場合でも、コート紙やアート紙のように、比較的高い艶を有する用紙を基材として形成した場合には、この第1の画像と第2の画像が混ざり合う現象は生じない。これは、第1の画像(1)と同様に基材自体も入射光を強く反射するためである。第1の画像(1)の背景部は、光輝性材料による網点や画線で構成されるが、完全なベタで構成されることはないために、網点や画線が存在しない非網点又は非画線領域には基材が露出している。
【0061】
コート紙やアート紙のような基材を用いた場合、この露出している基材自体も光輝性材料で形成された網点や画線と同様に正反射時に光を強く反射する効果を有する。よって、基材自体が光を反射する作用の低い上質紙と比較すると、第1の画像の上に第2の画像が重ねて形成されなかった領域と、第2の画像が重ねて形成された領域とでは、その第2の画像の有無によって、生じる明暗のコントラストが極めて大きくなる。この強いコントラストと比較すると、第2の画像の中に第1の画像の情報部が混ざり合うことによって生じる画像中の濃淡のコントラストは相対的に極めて小さい。よって、コート紙やアート紙を基材とした場合、正反射光下で観察される第1の画像と第2の画像が混ざり合って出現する現象は、観察者に認識されない。
【0062】
逆に、従来の技術を、上質紙を基材として形成した場合には、基材が光を反射する作用が極めて低く、第2の画像のコントラストの増大にほとんど寄与しないために、第2の画像の中に第1の画像の情報部が混ざり合うことによって生じる画像中の濃淡のコントラストがそのまま観察者に認識される。
【0063】
本発明においては、実施の形態で説明したように、第1の画像(7)の背景部(11)を構成する背景要素群の上にのみ第2の画像(8)を構成する第2の要素群を重ねる構造となっている。背景要素群は一定の面積率の複数の画線か、複数の画素で形成されることから、階調は一定であり濃淡が生じることはない。よって、正反射光下の観察において、従来の技術のように背景要素群の上に重ねて形成された第2の画像(8)に第1の画像(7)の濃淡が反映される現象は生じない。
【0064】
また、第1の画像(7)の情報部(12)には、光の入射を阻害する第2の要素群が重ねて形成されることはないことから、情報部(12)は、入射した光を受けて淡い色に変化するために、目視することが困難になる。よって、正反射光下の観察においては、第1の画像(7)が消失し、第2の画像(8)のみが認識される。
【0065】
以上のように、本発明の潜像印刷物(4)を拡散反射光下で観察した場合には、第1の画像(7)のみが視認され、正反射光下で観察した場合には、第2の画像(8)のみが視認される。このように、観察する角度の違いや、入射する光の角度の変化によって、まったく相関のない異なる画像が視認され、また、そのスイッチ効果は、画像同士が混ざり合うこともなく、明瞭であるため、真偽判別性に優れる。
【0066】
第1の画像(7)を形成するインキには、光輝性材料を含んだインキを用いる必要がある。これは、第1の画像(7)を正反射光下で一定の階調に収束させ、かつ、第2の画像を出現させるためには、第1の画像(7)を構成する画線が、入射する光によって明度が上がり淡く変化する特性を有する必要があるためである。
【0067】
コート紙やアート紙のような高光沢な用紙を基材として本潜像印刷物(4)を形成する場合に限れば、単にグロスタイプのインキを用いて第1の画像(7)を形成すれば、インキの樹脂自体の艶で明度上昇の効果を得ることができるために、本来、光輝性材料は必須ではない。ただし、上質紙のようなノンコート紙においては、樹脂成分が用紙中に浸透してしまうため、用紙中に浸透せず、用紙表面に留まって光を反射する光輝性材料が必須となる。よって、基材を選ばずに、より高いスイッチ効果を得ることを目的とする本発明においては、光輝性材料が必須となる。
【0068】
第1の画像(7)には、赤、青又は黒等の色を付与することもできる。方法としては、第1の画像(7)を形成するインキに、光輝性材料とともに着色顔料を混合したり、インキ同士を混ぜ合わせたりしても良く、あらかじめ着色インキで第1の画像(7)と同じ画像を形成し、その後、光輝性材料を含むインキで同じ第1の画像(7)を重ねあわせて形成しても良い。着色顔料の色は黒、赤、青又は黄色等のいずれの色相であっても良い。
【0069】
ただし、過剰な量の顔料を混合した場合には、第1の画像を適切な面積率の範囲で形成したとしても、第1の画像における階調差(濃淡の差)が大きくなり、インキ中の光輝性材料の混合割合が低下すること又は正反射光下での観察において第1の画像が消失しきらない事象が生じる。よって、顔料同士を混合する場合又はインキ同士を混合する場合においては、いずれの色の着色顔料を混合する場合でも、インキ中の光輝性材料の配合割合の2分の1の量を超えない範囲に留めることが望ましい。
【0070】
一方、下地に着色インキであらかじめ第1の画像と同じ画像を形成することで色を付与する場合には、いかなる色で、いかなる濃度のインキを用いたとしても、十分なスイッチ効果を得ることができる。
【0071】
前述した光輝性材料は、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末又はリン化鉄等の一般的な金属粉顔料であっても良い。
【0072】
また、虹彩色パール顔料及び鱗片状顔料等の一般的なパール顔料、ガラスフレーク顔料又はコレステリック液晶顔料等の機能性顔料を用いた場合には、第1の画像の明度のみが変化する明暗フリップフロップ性(主に明度のみが変化する特性)のみでなく、第1の画像の色調も変化するカラーフリップフロップ性(明度だけでなく、色調も変化する特性)を付与することができる。なお、光輝性材料に蛍光顔料、燐光顔料又は蓄光顔料等の発顔料やIR吸収顔料、フォトクロミック顔料、示温材料及びサーモクロミック材料等の機能性材料を加えても良く、この場合、別効果が追加されることはいうまでもない。
【0073】
第2の画像(8)を形成するインキは、透明である必要がある。インキは透明であればグロス系でもマット系でも良いが、基材を問わずに高いスイッチ効果を発現させるにはマット系の透明インキを用いることが望ましい。マット系のインキを使用した方が第1の画像(7)に達する光の量を遮る割合が高く、第2の画像(8)の視認性が高くなるためである。また、この透明なインキに蛍光顔料や燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料やIR吸収顔料、フォトクロミック顔料、示温材料、サーモクロミック材料等の機能性材料を加えても良く、この場合、画像のスイッチ効果に加えて各種の機能性を追加することができる。
【0074】
背景部(11)の面積率は、30%以上85%以下の範囲で形成され、情報部(12)の面積率は、背景部(11)の面積率を越えず、かつ、15%以上50%以下で形成される。
【0075】
これは、背景部(11)の面積率が30%よりも小さい場合には画線の明度上昇の効果が低くなり、第1の画像(7)の消失効果が充分でなくなる場合があり、背景部(11)の面積率が85%を超える場合には、情報部(12)の面積率が必然的に15%以下となり、情報部(12)と背景部(11)の間に充分な階調差が生まれず、拡散反射光下において第1の画像(7)が示す情報を観察者が視認しづらくなるためである。
【0076】
また、情報部(12)の面積率が15%以下の場合の問題は前述の通りであり、50%を超えた場合には、情報部(12)と背景部(11)の間に生じる階調差が大きくなり過ぎ、正反射光下の観察において第1の画像(7)が消失しきらない問題が生じるためである。
【0077】
また、情報部(12)及び背景部(11)をいずれの値とした場合でも、情報部(12)及び背景部(11)の面積率差は、50%以内に留める必要がある。面積率の差が50%を超えた場合には、情報部(12)と背景部(11)の間に生じる階調差が大きくなりすぎ、正反射光下の観察において第1の画像(7)が消失しきらない問題が生じるためである。
【0078】
情報要素群における情報要素のピッチ、背景要素群における背景要素のピッチ及び第2の要素群における第2の要素のピッチについては、0.03mmより大きく1mmを超えない範囲にする。0.03mmより小さいピッチでは品質管理し得る画線や画素を含んで構成することが難しく、1mmを超えたピッチでは解像度の低い画像しか形成できないためである。画線で形成する場合は画線幅を0.03mm以上1mm以下で形成することが望ましい。理由はピッチと同様である。
【0079】
本発明における潜像印刷物の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷及び凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、金属インクを用いることが可能であればIJPやレーザプリンタ、昇華型プリンタ等の各種デジタル出力機でも形成でき、この場合には、一枚、一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
【0080】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
本発明の実施例1について、図10から図14を用いて説明をする。実施例2では、背景要素、情報要素及び第2の要素をそれぞれ画線で形成した例を記載する。基材(2−1)としては、白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0082】
図10に、本発明における潜像印刷物(4−1)を示す。潜像印刷物(4−1)は、基材(5−1)の上に印刷領域(6−1)を有し、印刷領域(6−1)中には、基材と異なる色を有し、光輝性材料を含む材料によって第1の画像(7−1)が形成されており、第1の画像(7−1)の上には透明なインキによって第2の画像(8−1)が重ねて形成されて成る。
【0083】
図11に、第1の画像(7−1)の具体的な構成を示す。第1の画像(7−1)は、漢字の「日本」の文字を楕円が囲んだ画像であり、楕円を成す背景部(11−1)と「日本」の文字を成す情報部(12−1)とが組み合わされて成る。
【0084】
背景部(11−1)は、画線幅0.2mmの背景要素(9−1)がピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された背景要素群によって形成され、一方の情報部(12−1)は画線幅0.2mmの情報要素(10−1)がピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された情報要素群によって形成されている。情報要素群と背景要素群とは、半ピッチ分位相が上下にずれて形成されるために、接する部分は存在するが、重なり合う領域は存在しない。
【0085】
第1の画像(7−1)を一般的なメタリックインキである銀インキ(DIC製 ニューチャンピオン シルバー)を用いてオフセット印刷によって基材(5−1)である上質紙の上に形成した。
【0086】
図12に、第2の画像(8−1)を示す。第2の画像は、桜の花びらが舞う様子を表した画像であり、第2の画像(8−1)は、画線幅0.2mmの第2の要素(13−1)がピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された第2の要素群によって形成されて成る。要素の画線幅とピッチ、及び画線の配置方向は第1の画像(7−1)を形成している背景要素群と等しい。この第2の画像(8−1)を図13に示す位置関係で第1の画像(7−1)の上に重ね合わせて形成した。
【0087】
第2の画像(8−1)の形成にあたっては、一般的な透明インキであるOPニス(T&K TOKA製 BEST ONE マットメジウム)を用いて形成した。
【0088】
図13に、第1の画像(7−1)と第2の画像(8−1)の重ね合わせ位置の詳細な図を示す。第2の画像(8−1)を構成する第2の要素(13−1)は、第1の画像(7−1)の背景部(11−1)を構成する背景要素(9−1)の上にのみ重ね合わせて形成されて成る。
【0089】
図14に、本発明の潜像印刷物(4−1)の効果を記す。図14(a)は、観察者が拡散反射光下で本潜像印刷物(4−1)を観察した場合に観察される画像であり、印刷領域(6−1)の中には第1の画像(7−1)のみが視認される。このとき、第1の画像(7−1)の色は銀色の物体色である濃い灰色として認識される。図14(b)は、観察者が正反射光下で本潜像印刷物(4−1)を観察した場合に観察される画像であり、第2の画像(8−1)と、その周辺を取り囲む第1の画像(7−1)の背景部(11−1)が視認される。このとき、第2の画像(8−1)は、銀色の物体色である濃い灰色で視認され、第1の画像(7−1)の背景部(11−1)は、淡い灰色で視認される。
【0090】
以上のように、本発明の潜像印刷物(4−1)において、観察する角度を変えることで第1の画像(7−1)と第2の画像(8−1)が明瞭に変化し、かつ、正反射光下における観察において、上質紙を基材(5−1)とした場合でも第2の画像(8−1)と第1の画像(7−1)が混ざり合って出現することがないことを確認することができた。
【実施例2】
【0091】
本発明の実施例2について、図15から図19を用いて説明をする。実施例2では、背景要素、情報要素及び第2の要素をそれぞれ画素で形成した例を記する。基材(5−2)としては、実施例1同様に一般的な白い色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0092】
図15に、本発明における潜像印刷物(4−2)を示す。潜像印刷物(4−2)は、基材(5−2)の上に、印刷領域(6−2)を有し、印刷領域(6−2)中には基材と異なる色を有し、光輝性材料を含む材料によって第1の画像(7−2)が形成されており、第1の画像(7−2)の上には、透明なインキによって第2の画像(8−2)が重ねて形成されて成る。
【0093】
図16に、第1の画像(7−2)の具体的な構成を示す。第1の画像(7−2)は、実施例1同様に漢字の「日本」の文字を楕円が囲んだ画像であり、楕円を成す背景部(11−2)と「日本」の文字を成す情報部(12−2)とが組み合わされて成る。
【0094】
背景部(11−2)は、直径0.3mmの塗りつぶされた円である背景要素(9−2)がピッチ0.4mmでS1方向及びS2方向に複数配置された背景要素群によって形成され、一方の情報部(12−2)は直径0.4mmの塗りつぶされた円の中から中心を共有する直径0.3mmの円を抜き出した形である情報要素(10−2)が、ピッチ0.4mmでS1方向及びS2方向に複数配置された情報要素群によって形成されている。情報要素群と背景要素群とは、各要素の中心の位相が完全に一致しているために、接する部分は存在するが、重なり合う領域は存在しない。
【0095】
第1の画像(7−2)を一般的なメタリックインキである金インキ(T&K TOKA製 UVゴールドMG(赤口))を用いてオフセット印刷によって基材(5−2)である上質紙の上に形成した。
【0096】
図17に、第2の画像(8−2)を示す。第2の画像は、実施例1同様に桜の花びらが舞う様子を表した画像であり、第2の画像(8−2)は、直径0.3mmの塗りつぶされた円である第2の要素(13−2)がピッチ0.4mmでS1方向及びS2方向に複数配置された第2の要素群によって形成されて成る。要素の直径、ピッチ及び配置方向は、第1の画像(7−2)を形成している背景要素群と等しい。この第2の画像(8−2)を図17に示す位置関係で第1の画像(7−2)の上に重ね合わせて形成した。
【0097】
第2の画像(8−2)の形成にあたっては、一般的な透明インキであるOPニス(T&K TOKA製 BEST ONE マットメジウム)を用いて形成した。
【0098】
図18に、第1の画像(7−2)と第2の画像(8−2)の重ね合わせ位置の詳細な図を示す。第2の画像(8−2)を構成する第2の要素(13−2)は、第1の画像(7−2)の背景部(11−2)を構成する背景要素(9−2)の上にのみ重ね合わせて形成されて成る。
【0099】
図19に、本発明の潜像印刷物(4−2)の効果を記す。図19(a)は、観察者が拡散反射光下で本潜像印刷物(4−2)を観察した場合に観察される画像であり、印刷領域(6−2)の中には第1の画像(7−2)のみが視認される。このとき、第1の画像(7−2)の色は、金色の物体色である濃いオレンジ色として認識される。図19(b)は、観察者が正反射光下で本潜像印刷物(4−2)を観察した場合に観察される画像であり、第2の画像(8−2)と、その周辺を取り囲む第1の画像(7−2)の背景部(11−2)が視認される。このとき、第2の画像(8−2)は、金色の物体色である濃いオレンジ色で視認され、第1の画像(7−2)の背景部(11−2)は、淡いオレンジ色で視認される。
【0100】
以上のように、本発明の潜像印刷物(4−2)において、観察する角度を変えることで第1の画像(7−2)と第2の画像(8−2)が明瞭に変化し、かつ、正反射光下における観察において、上質紙を基材(5−2)とした場合でも第2の画像(8−2)と第1の画像(7−2)が混ざり合って出現することがないことを確認することができた。
【実施例3】
【0101】
本発明の実施例3について、図20から図23を用いて説明をする。実施例3では、背景要素、情報要素及び第2の要素をそれぞれ画線で形成し、実施例1及び実施例2のように第1の画像及び第2の画像をそれぞれ二値画像ではなく、複雑な濃淡を有する階調画像として形成した例を記載する。基材(5−3)としては、実施例1及び実施例2同様に一般的な白い色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0102】
図20に、本発明における潜像印刷物(4−3)を示す。潜像印刷物(4−3)は、基材(5−3)の上に、印刷領域(6−3)を有し、印刷領域(6−3)中には基材と異なる色を有し、光輝性材料を含む材料によって第1の画像(7−3)が形成されており、第1の画像の上には透明なインキによって第2の画像(8−3)が重ねて形成されて成る。
【0103】
図21に、第1の画像(7−3)の具体的な構成を示す。第1の画像は、複雑な階調を有する薔薇の画像を長方形が囲んだ画像であり、長方形を成す背景部(11−3)と薔薇の画像を形成する情報部(12−3)とが組み合わされて成る。
【0104】
背景部(11−3)は、画線幅0.2mmの背景要素(9−3)がピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された背景要素群によって形成され、一方の情報部(12−3)は、幅0.2mmの情報要素(10−3)が、ピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された情報要素群によって形成されて成る。情報要素(10−3)は、微細な画素、いわゆる印刷網点を大小組み合わせて高密度に配置することで、階調を有する薔薇のベタ画像を形成している。情報要素群と背景要素群とは、半ピッチ分だけ位相がずれているために、接する部分は存在するが、重なり合う領域は存在しない。
【0105】
第1の画像(7−3)を表1に示す着色メタリックインキを用いて、オフセット印刷によって基材(5−3)である上質紙の上に形成した。表1に示すインキは、拡散反射光下では、やや彩度の低い紅色であり、正反射光下では、淡い紅色に変化する特性を有する。
【0106】
【表1】

【0107】
図22に、第2の画像(8−3)を示す。第2の画像(8−3)は、複雑な階調を有する蝶を表した画像であり、幅0.2mmの第2の要素(13−3)がピッチ0.4mmでS1方向に複数配置された第2の要素群によって形成されて成る。第2の要素(13−3)は、微細な画素、いわゆる印刷網点を大小組み合わせて高密度に配置することで、階調を有する蝶のベタ画像を形成している。要素の幅、ピッチ及び画線配置方向は、第1の画像(7−3)を形成している背景要素群と等しい。この第2の画像(8−3)を実施例1と同様に、第1の画像(7−3)の背景要素(11−3)の上にのみ第2の要素(13−3)が重なり合う位置関係で、第1の画像(7−3)の上に重ね合わせて形成した(図示せず)。
【0108】
第2の画像(8−3)の形成にあたっては、一般的な透明インキであるOPニス(T&K TOKA製 BEST ONE マットメジウム)を用いて形成した。
【0109】
図23に、本発明の潜像印刷物(4−3)の効果を記す。図23(a)は、観察者が拡散反射光下で本潜像印刷物(4−3)を観察した場合に観察される画像であり、印刷領域(6−3)の中には第1の画像(7−3)のみが視認される。このとき、第1の画像(7−3)の色は表1に示した着色メタリックインキの物体色である紅色として認識される。図23(b)は、観察者が正反射光下で本潜像印刷物(4−3)を観察した場合に観察される画像であり、第2の画像(8−3)と、その周辺を取り囲む第1の画像(7−3)の背景部(11−3)が視認される。このとき、第2の画像(8−3)は、金色の物体色である紅色で視認され、第1の画像(7−3)の背景部(11−3)は、淡い紅色で視認される。
【0110】
以上のように、本発明の潜像印刷物(4−3)において、上質紙を基材(5−3)とした場合でも金色、銀色以外の有彩色を用いて第1の画像(7−3)が形成可能であって、観察する角度を変えることで第1の画像(7−3)と第2の画像(8−3)が明瞭に変化し、かつ、正反射光下における観察において、第2の画像(8−3)と第1の画像(7−3)が混ざり合って出現することがないことを確認することができた。
【符号の説明】
【0111】
1 従来の技術における第1の画像
2 従来の技術における第2の画像
3−a 従来の技術をコート紙の上に形成した場合の、正反射光下で観察される画像
3−b 従来の技術を上質紙の上に形成した場合の、正反射光下で観察される画像
4、4−1、4−2、4−3 潜像印刷物
5、5−1、5−2、5−3 基材
6、6−1、6−2、6−3 印刷領域
7、7−1、7−2、7−3 第1の画像
8、8−1、8−2、8−3 第2の画像
9、9−1、9−2、9−3 背景要素
10、10−1、10−2、10−3 情報要素
11、11−1、11−2、11−3 背景部
12、12−1、12−2、12−3 情報部
13、13−1、13−2、13−3 第2の要素
14 光源
15a、15b 観察者の視点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に印刷領域を有し、
前記印刷領域は、光輝性材料を含み基材と異なる色の材料で形成された第1の画像の上に、透明な材料によって形成された第2の画像が形成されて成り、
前記第1の画像は、背景部及び情報部を備え、前記背景部は、背景要素が、一定のピッチで規則的に特定の方向に複数配置されて成る背景要素群によって形成されて成り、前記情報部は、情報要素が、規則的に前記特定の方向に複数配置されて成る情報要素群によって形成されて成り、前記背景要素と前記情報要素は、隣接又は近接して形成されて成り、
前記第2の画像は、第2の要素が、前記背景要素群を形成している前記背景要素と同じピッチで、規則的に前記特定の方向と同じ方向に複数配置されて成る第2の要素群によって形成され、
前記第2の要素は、前記情報要素の上に重畳されず、かつ、前記背景要素の上又は前記背景要素の上に少なくとも一部が重なって形成され、
拡散反射光が支配的な観察角度領域では前記第1の画像が観察でき、正反射光が支配的な観察角度領域では前記第2の画像が観察することができることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
前記背景要素、前記情報要素及び前記第2の要素は、画線及び/又は画素であることを特徴とする請求項1記載の潜像印刷物。
【請求項3】
前記第2の要素の幅及び高さは、前記背景要素の幅及び高さ以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【請求項4】
前記背景部の面積率は、30%以上85%以下で形成され、前記情報部の面積率は、前記背景部の面積率を越えず、かつ、15%以上50%以下で形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜像印刷物。
【請求項5】
前記情報要素群における前記情報要素のピッチ、前記背景要素群における前記背景要素のピッチ及び前記第2の要素群における前記第2の要素のピッチは、0.03mm以上1mm以下で形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の潜像印部物。
【請求項6】
前記透明な材料が、機能性材料を混合して成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の潜像印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−218655(P2011−218655A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89718(P2010−89718)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】