説明

潜像画像を有する印刷物

【課題】 本発明は、緻密な網点構成を用いることにより、可視光源下における拡散光領域及び正反射光領域、さらには赤外線光源下という異なる観察条件において、三つの画像を視認可能な印刷物を提供する。
【解決手段】 基材上の少なくとも一部に、三つの網点を用いて画像が形成された印刷領域を有し、第1の網点が、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて複数配置されることにより連続階調の可視画像を形成し、第2の網点は、赤外線吸収色素を含む材料により第1の網点内に配置されて第一の潜像画像を形成し、第3の網点は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料により、第2の網点内に配置されて第二の潜像画像が形成され、第1の網点、第2の網点及び第3の網点を拡散光領域において等色になるように形成した印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、有価証券、商品タグ及び各種証明書等に偽造及び複製の防止用として施す潜像画像を有する印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機の高機能化及び高画質化により、銀行券、旅券、有価証券等の貴重印刷物の偽造製品が出回り、深刻な問題となっている。そのため、従来から貴重印刷物には、複写機で色、光沢又は発光等の再現が困難な機能性インキが多く用いられている。機能性インキには、金インキ、銀インキ又はパールインキ等の金属光沢インキ、赤外線領域において吸収特性を示す赤外線吸収インキ等がある。赤外線吸収インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、赤外線カメラ等の鑑定装置を必要とすることから、鑑定装置がなければ目視で赤外線吸収インキ印刷部を判別することは困難である。反対に、金属光沢インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、光沢や色の変化に留意するだけで良く、誰でも簡単に目視で判別することができる。
【0003】
そこで、本出願人は、背景画像部と潜像画像部のどちらか一方を金属光沢インキを用い、他方を赤外線吸収インキ又は赤外線透過インキを用いて、可視光源下において等色となるように印刷することで、観察角度を変化させることにより潜像画像が視認可能な印刷物を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、本出願人は、真偽判別の際には、赤外線カメラ等の鑑定装置を要するものの、特殊な網点構成を用いることで、現在の写真製版装置での複製が非常に困難であり、偽造防止効果に優れた網点印刷物を開示している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
本出願人が先に出願した特許文献2は、二つの領域が複数配置されることで階調画像を構成している印刷物であって、第2の領域の周囲が第1の領域によって囲まれ、第2の領域は、赤外線吸収色素を含むブラックインキにより構成された第2aの領域と、赤外線吸収色素を含まないインキにより黒色系に構成された第2bの領域から成り、第1の領域及び第2bの領域は、一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3原色インキを用いている。
【0006】
この特許文献2に記載の印刷物は、特殊な網点構成による複製防止効果を奏するだけではなく、赤外線吸収色素を含むブラックインキにより構成された第2aの領域において、潜像画像を形成していることから、赤外線カメラ等の鑑定装置で観察すると、可視光源下で観察された階調画像とは異なる画像が視認可能となるものである。
【0007】
この特許文献2に記載の印刷物は、前述のとおり、赤外線光源下において画像を視認可能とするために、潜像画像を構成する第2aの領域に、赤外線吸収色素を含むブラックインキを用い、その第2aの領域と等色となるように、第2bの領域も黒色系に構成しているため、印刷物自体としては、比較的に低明度(高濃度)のデザインとなってしまう。
【0008】
そこで、さらに、本出願人は、潜像画像を形成するための領域に、赤外線吸収色素を含むブラックインキではなく、金属材料を用いた偽造防止用印刷物を開示している(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
この特許文献3に記載の印刷物は、特許文献2記載の印刷物と同様に、可視光源下において視認可能な階調画像と、赤外線光下において視認可能な潜像画像を備えていると共に、潜像画像を構成するための領域に、金属材料を用いることで、特許文献2における比較的低明度(高濃度)なデザインを解消している。
【0010】
なお、金属材料を用いることで、材料及び色によっては、金属光沢を発することも有り得るため、その金属光沢を抑える目的として、潜像画像を構成している領域において、金属材料の上に無色透明のマット層又は白インキを重ねて印刷することを開示している。
【0011】
【特許文献1】特開2007−152805号公報
【特許文献2】特許第3544536号公報
【特許文献3】特開2008−132601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1により開示されている印刷物は、金属光沢インキを用いることで、観察角度を異ならせることにより、潜像画像を視認可能としたものであるが、その構成は単純なベタ刷りによるものであり、一様な(階調の少ない)デザインに限られてしまうと共に、偽造防止効果としては、あまり高度なものではなかった。
【0013】
また、特許文献2及び特許文献3による印刷物は、緻密な網点構成を用いていることから、写真製版装置による複製が困難であると共に、可視光源下による画像と赤外線光源下による画像とが明瞭にスイッチして確認できるという偽造防止効果の高い印刷物ではあるが、赤外線カメラ等の鑑定装置を必要とするため、例えば、銀行、入国管理審査等の各種窓口業務において、目視等の簡易検査による真偽判別を行うことができないという問題点があった。そこで、特殊な鑑定装置を用いずに、目視によって簡易的に真偽判別することが可能な技術が付与された偽造防止印刷物が求められている。
【0014】
本発明は、このような従来の問題を解決することを目的としたもので、緻密な網点構成を用いることで、複製を困難にさせると共に、観察角度を異ならせるだけで簡単に第一の潜像画像を確認することが可能であり、さらには、赤外線カメラ等の鑑定装置により第二の潜像画像を確認することが可能であることから、異なる条件下において適切な真偽判別が可能な印刷物を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基材上の少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域には、3種類の網点により連続階調の可視画像及び二つの潜像画像が形成され、観察条件を異ならせることにより各画像が視認可能となる印刷物であって、第1の網点が、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて複数配置されることにより連続階調の可視画像を形成し、第2の網点は、赤外線吸収色素を含む材料により第1の網点内に重畳して配置されて連続階調の第一の潜像画像を形成し、第3の網点は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料により第2の網点内に重畳して配置されて連続階調の第二の潜像画像を形成し、第1の網点、第2の網点及び第3の網点を、可視光源下における拡散光領域において等色になるように形成することで、印刷物は、拡散光領域において可視画像が視認され、赤外線光源下において第一の潜像模様が観察され、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより第二の潜像模様が視認可能となることを特徴とする潜像画像を有する印刷物である。
【0016】
本発明は、基材上の少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域には、3種類の網点により連続階調の可視画像及び二つの潜像画像が形成され、観察条件を異ならせることにより各画像が視認可能となる印刷物であって、基材は、少なくとも印刷領域に対応する領域が、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料により形成され、基材上に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、基材を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色を変化させない隠蔽材料を用いて隠蔽領域が形成され、隠蔽領域は、基材を隠蔽する隠蔽材料を施す領域及び基材を一部露出させる隠蔽材料を施さない領域から成り、隠蔽材料を施す領域上に、第1の網点及び第2の網点が配置され、第1の網点が、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて複数配置されることにより連続階調の可視画像を形成し、第2の網点は、赤外線吸収色素を含む材料により、第1の網点内に一部空白領域を有して配置されて連続階調の第一の潜像画像を形成し、第2の網点の空白領域と隠蔽領域における隠蔽材料を施さない領域が同じ位置に配置されることにより、基材が露出されることで形成された第3の網点により連続階調の第二の潜像画像が形成され、第1の網点、第2の網点及び第3の網点を、可視光源下における拡散光領域において等色になるように形成することで、印刷物は、拡散光領域において可視画像が視認され、赤外線光源下において第一の潜像模様が観察され、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、第2の網点及び第3の網点の色差ΔEが所定の値変化し、第二の潜像模様が視認可能となることを特徴とする潜像画像を有する印刷物である。
【0017】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第2の網点の空白領域と、隠蔽領域における隠蔽材料を施さない領域は、形状及び大きさが同じであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第2の網点は、第1の網点内に設定した一定の網点径よりも小さく、第3の網点は、第2の網点内に設定した一定の網点径よりも小さいことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料は、定位置の照明光源に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域における第2の網点との色差ΔEに対して、正反射光領域における第2の網点との色差ΔEが5以上変化する材料であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料が、光輝性材料であり、光輝性材料が金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の赤外線吸収色素を含む材料は、赤外線領域において少なくとも一つの波長ピークを有する材料を含んだ有色インキであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の赤外線吸収色素を含まない材料は、シアン、マゼンタ及びイエローの有色インキ又は単色の特色インキであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の潜像画像を有する印刷物は、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで第二の潜像画像が視認可能となり、さらには、赤外線カメラ等の鑑定装置において第一の潜像画像が視認可能となることから、観察条件を異ならせることにより、三つの異なる画像を出現させることができる。
【0024】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、前述のとおり、異なる条件下において二つの潜像画像を出現させることが可能であることから、簡易的な真偽判別と、鑑定装置を用いた真偽判別という、二通りの真偽判別を行うことが可能である。したがって、真偽判別を行う環境及び状況に合わせた真偽判別が行える。
【0025】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、特殊な網点構成により、二つの画像を同一領域内に重なるようなデザインで作製することが容易であり、デザイン上の制約を受けることが無い。
【0026】
さらに、従来の金属光沢材料を用いて、観察角度を異ならせることによる潜像画像の出現を奏する印刷物が、単純なベタ刷りによる構成であることに対し、本発明の潜像画像を有する印刷物は、特殊な網点構成を用いているため、複製防止効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明における潜像画像を有する印刷物の一例を示す図である。
【図2】本発明における可視画像、第一の潜像画像及び第二の潜像画像の一例を示す図である。
【図3】本発明の網点構成における網点径の関係を説明するための図である。
【図4】本発明にかかわる基材、金属粉インキ及び赤外線吸収色素を含むインキの分光反射率の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の第2の実施形態における網点構成を説明するための図である。
【図6】本発明にかかわる白インク及びマゼンタインクの分光透過率の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の印刷物を観察するときの観察状態を説明するための図である。
【図8】本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第1の網点及び第2の網点の色差ΔEを示すグラフである。
【図9】本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第2の網点及び第3の網点の色差ΔEを示すグラフである。
【図10】可視画像が視認できるときの原理を説明するための図である。
【図11】第一の潜像画像が視認できるときの原理を説明するための図である。
【図12】第二の潜像画像が視認できるときの原理を説明するための図である。
【図13】本発明における潜像画像を有する印刷物の一例を示す図である。
【図14】本発明における可視画像、第一の潜像画像及び第二の潜像画像の一例を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態における網点構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0029】
図1は、本発明における潜像画像を有する印刷物(1)(以下「印刷物」という。)の一例を示す図である。この印刷物(1)は、図1(a)に示すように、基材(2)上の少なくとも一部に本発明における潜像画像が形成されている印刷領域(3)を有している。
【0030】
本発明における基材(2)は、特に限定されるものではなく、上質紙、コート紙、アート紙等の紙葉類、フィルム等を用いることができる。ただし、本発明の特徴点である定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、明度及び/又は色が変化する材料の特性を効果的に発揮させるために(この特徴点については後述する)、基材(2)の平滑度が1,000秒以上2,000秒未満であることが好ましい。なお、平滑度は、日本工業規格JIS P 8119に規定されている試験方法で行い、デジベック平滑度試験機(株式会社東洋精機製作所製、DB−2型)を用いて測定した。
【0031】
印刷領域(3)には、本発明において特徴となる三つの画像が形成されており、それぞれの画像を形成している網点構成を示したものが、図1(b)の一部拡大図である。
【0032】
図1(b)に示すように、本発明の印刷領域(3)を構成している網点構成は、三つの大きさの異なる網点が同一領域に配置されている。この三つの網点は、一番外側に配置されている第1の網点(4)、その第1の網点(4)内に配置されている第二の網点(5)、さらに第2の網点(5)内に配置されている第3の網点(6)と定義する。
【0033】
なお、これらの三つの網点が複数配置されることにより形成された各画像を示したものが図2である。図2(a)は、第1の網点(4)が複数配置されて形成された可視光源下の拡散光領域において視認可能な可視画像(7)であり、図2(b)は、第2の網点(5)が複数配置されて形成された赤外線光源下において視認可能な第一の潜像画像(8)であり、図2(c)は、第3の網点(6)が複数配置されて形成された可視光源下の正反射光領域において視認可能な第二の潜像画像(9)である。この三つの画像の視認原理については後述する。
【0034】
本発明における印刷物(1)は、前述のとおり、観察条件を異ならせることで出現する三つの画像を備えており、それぞれの画像は、三つの網点により形成されている。そこで、それぞれの網点について、以下、説明する。
【0035】
(第1の実施形態)
まず、第1の網点(4)について説明する。この第1の網点(4)は、可視光源下における拡散光領域において視認可能な可視画像(7)を形成する網点である。この第1の網点(4)の網点の大きさにより連続階調の可視画像(7)が形成可能である。
【0036】
第1の網点(4)は、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて形成する。第1の網点(4)は、赤外線吸収色素を含まない材料によって形成することで、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置を用いて観察した場合においては、可視画像(7)を視認することができなくなる。なお、赤外線吸収色素を含まない材料には、赤外線吸収特性を有さなければ特に限定されず、基本4色インキのうち、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)は、赤外線を吸収しない性質を持っており、これら3色を重ね合わせたもので黒色系を表現すれば赤外線を吸収しない色素と同様な効果が得られる。又は、クロモファインブラックインキ(大日精化工業株式会社製)やインクジェットプリンタ用の染料系インク(例えば、Canon製染料系ブラックインク等)を使用することもできる。さらに、赤外線吸収色素を含まない単色の特色インキにより第1の網点(4)を形成し、複数配置することにより連続階調の可視画像(7)を形成しても良い。
【0037】
次に、第2の網点(5)について説明する。この第2の網点(5)は、赤外線光源下において視認可能な第一の潜像画像(8)を形成する網点である。この第2の網点(5)の大きさにより連続階調の第一の潜像画像(8)が形成可能である。
【0038】
第2の網点(5)は、第1の網点(4)内に重ねて配置する。なお、第2の網点(5)は、第1の網点(4)内に設定した一定の網点径よりも小さくする。この一定の網点径とは、複数配置されている第1の網点(4)の中の最小サイズであり、第2の網点(5)は、この第1の網点(4)の最小サイズを超えない範囲で形成する。
【0039】
図3は、第2の網点(5)の大きさの限度を説明するための図である。図3においては、説明上、第1の網点(4)と第2の網点(5)のみを記載している。図3(a)と図3(b)には、それぞれ大きさの異なる第1の網点(4)と第2の網点(5)が図示されている。
【0040】
図3(b)に示した第1の網点(4)は、第1の網点(4)において最小サイズの網点径を有しており、その直径はXとなっている。したがって、第2の網点(5)の最大サイズは、第1の網点(4)の最小サイズである直径Xを超えない範囲で形成する。図3(a)において、第1の網点(4)の最小サイズ(A)を点線により示している。
【0041】
仮に、第2の網点(5)を第1の網点(4)の最小サイズ(A)を超えて形成すると、可視画像(7)に対して第2の網点(5)により形成される第一の潜像画像(8)が影響してしまい、鮮明な可視画像(7)を形成することができなくなってしまうからである。
【0042】
第2の網点(5)は、赤外線吸収色素を含む材料により形成する。赤外線吸収色素を含む材料としては、例えば、カーボンブラックを主体としたブラック(Bk)インキがあるが、本発明における第2の網点(5)を形成する材料としては、赤外線領域において少なくとも一つの波長ピークを有する材料(特にインキ)であれば良く、これに限定しない。
【0043】
第2の網点(5)を、赤外線吸収色素を含む材料により形成することで、可視光源下においては第一の潜像画像(8)は視認することができないが、赤外線光源下において観察すると、第一の潜像画像(8)を視認することが可能となる。
【0044】
次に、第3の網点(6)について説明する。この第3の網点(6)は、可視光源下における正反射光領域において視認可能な第二の潜像画像(9)を形成する網点である。この第3の網点(6)の大きさにより連続階調の第二の潜像画像(9)が形成可能である。
【0045】
第3の網点(6)は、第2の網点(5)内に重ねて配置する。なお、第3の網点(6)は、第2の網点(5)内に設定した一定の網点径よりも小さくする。この一定の網点径とは、複数配置されている第2の網点(5)の中の最小サイズであり、第3の網点(6)は、この第2の網点(5)の最小サイズを超えない範囲で形成する。
【0046】
この第3の網点(6)の大きさについては、前述した第2の網点(5)の大きさの制限と同様であるため、詳細は省略することとするが、可視画像(7)及び第一の潜像画像(8)に影響を与えないために、第2の網点(5)の最小サイズを超えない範囲において形成する。
【0047】
したがって、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)の各大きさの関係は、第1の網点(4)の最小径≧第2の網点(5)の最大径、第2の網点(5)の最小径≧第3の網点(6)の最大径となる。
【0048】
第3の網点(6)は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させると、第2の網点(5)との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成する。なお、本発明における色差は、CIE1976L表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L表色系での色差は、二色のLの差、aの差及びbの差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。
【0049】
色差ΔEが変化するとは、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させると、明度及び/又は色が変化することである。例えば、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで、明度及び/又は色が変化する材料を用いて印刷インキを作製し、紙等の基材上に印刷領域として付与して印刷物Aを作製する。同様に定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化しない材料を用いて印刷インキを作製し、前述の紙等の基材上に印刷部として付与して印刷物Bを作製する。印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEをXとする。次に、印刷物A及び印刷物Bを定位置に設置した照明光源下において、観察角度を変化させたのち、再度、印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEを測定する。その測定した際の色差ΔEが前述したXとは異なる値であるならば、色差ΔEが変化したことになる。前述のとおり、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料であるならば、その材料は観察角度によって色差ΔEが変化する材料となる。本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において受光角度が35〜55°となる領域のことを指す。なお、色差ΔEが所定の値変化する原理については、後述する。
【0050】
観察角度によって、色が変化し、他の領域との色差ΔEが所定の値変化する材料には、例えば、光輝性材料がある。光輝性材料とは、金属粉インキ、フォイル(金属箔)、金属蒸着により基材(1)上に形成したもの、金属、金属光沢調フィルム等がある。金属粉インキとは、一回の印刷で金属色を示すインキである。金属粉インキは、ビヒクルに微細な金属粉を混和して作製する。金属粉インキには、金インキ及び銀インキがある。金インキとは、ビヒクルに微細な黄銅粉末を混和して作製したインキであり、銀インキとは、ビヒクルに微細なアルミニウム粉末を混和して作製したインキである。
【0051】
また、金属粉インキの代わりにフォイル(金属箔)を紙基材の上に形成してもよい。フォイルとしては、金箔や銀箔などがある。フォイルは、ホットスタンプ方式又はコールドフォイル方式により基材上へ付与する。ホットスタンプ方式は、シート状のフォイルを基材に重ね、高温の金属刻印で加圧して基材に箔押しする方式である。また、コールドフォイル方式は、基材に接着剤を塗布し、シート状のフォイルを基材に重ね、加圧して箔を転写する方式である。
【0052】
フォイル(金属箔)の代わりに金属蒸着によりアルミ等を基材(1)上に形成したもの(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg等)でもよい。また、基材(1)自体をステンレスやアルミ等の金属としてもよい。さらに、基材(1)に金属光沢調フィルム(東レ株式会社製、PICASUS等)を用いても良い。金属光沢調フィルムとは、異種ポリマーを多層積層し形成した、ポリエステルフィルムであり、金属を使用せずに金属調の光沢を得ることが可能な材料のことである。
【0053】
第3の網点(6)は、可視光源下における正反射光領域において、第1の網点(4)及び第2の網点(5)との色差ΔEが所定の値変化する材料により形成されているため、第3の網点(6)を複数配置することで形成された第二の潜像画像(9)が視認できるものであることから、可視光源下における拡散光領域においては、第二の潜像画像(9)が視認できてしまうと、可視画像(7)が鮮明に視認できなくなってしまう。
【0054】
したがって、拡散光領域においては、第1の網点(4)及び第2の網点(5)と、この第3の網点(6)を等色に形成する必要がある。拡散光領域において三つの網点を等色とすることで、可視画像(7)を視認する際に、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)が影響を及ぼすことが無くなる。
【0055】
本発明における等色とは、可視光源下の拡散光領域で観察した際に、色差ΔEab(以下「ΔE」という。)が6未満のことを示す。一般的に、色差ΔEが6前後においては、異なった色として視認される可能性がある。ただし、本発明においては、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は、肉眼ではそれぞれの領域を区別して視認することが出来ない微細な網点により構成している。そのことから、前述のとおり、色差ΔEが6未満であれば、可視光源下の拡散光領域において肉眼で第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)を視認することが出来ず、かつ、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は、等色として視認される。
【0056】
なお、メタメリズムの関係により、可視光源下の拡散光領域において観察した際に、肉眼で等しい色に視認された色が、特定の光源下の拡散光領域において観察した際に、異なる色で視認された場合においても、本発明においては、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は等色に形成されていることとする。
【0057】
図4は、本発明に関わる基材(2)、金属粉インキ及び赤外線吸収色素を含むインキの分光反射率の一例を示す図である。図4のグラフにおける(a)は、本発明における基材(2)の分光反射率であり、測定サンプルとして、インクジェットプリンタ用写真用紙(EPSON製 写真用紙<光沢>)を用いた。(b)は、本発明における第3の網点(6)の分光反射率であり、測定サンプルとして、金属粉インク(日本ペイント株式会社製、金コロイドインク)を用いて、インクジェット印刷によりベタ印刷を施したものを用いた。(c)は、本発明における第2の網点(5)を形成するための赤外線吸収色素を含む材料の分光反射率であり、カーボンブラック(EPSON製 マットブラック)を用いてインクジェット印刷によりベタ印刷を施したものを用いた。なお、分光反射率は、自記分光光度計(HITACHI製、U−4000形)を用いて測定した。
【0058】
400〜760nmの可視光領域と、760〜800nmの赤外線領域において、分光反射率の変化をそれぞれ比較すると、写真用紙(a)における分光反射率は、いずれの領域においても90%前後とほぼ一定である。金属粉インク(b)における分光反射率は、可視光領域、赤外線領域、いずれの領域においても低く、赤外線領域においては、金属粉インク(b)も40%前後と低い値となっている。赤外線吸収材料(c)は、いずれの領域においても10%前後とほぼ一定であった。なお、同一波長においては、分光反射率が高い方が濃度が低く(白っぽく)視認され、反対に、分光反射率が低い方が濃度が高く(黒っぽく)視認される。なお、赤外線カメラを用いて観察した際には、写真用紙(a)は白く、金属粉インク(b)はグレーに、また、赤外線吸収色素を含む材料(c)は、黒く観察された。
【0059】
したがって、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は可視光源下における拡散光領域では等色であるため、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)は視認できない。また、可視光源下における正反射光領域では、第1の網点(4)及び第2の網点(5)は等色であるため、均一な平網状態となり、肉眼では第一の潜像画像(8)は視認することができない。
【0060】
また、赤外線カメラ等の特殊な装置を用いて赤外線領域で観察した場合においては、前述のとおり、第2の網点(5)は黒く、第3の網点(6)はグレーに視認される。したがって、黒く視認される第2の網点(5)内に配置されているグレーに視認される第3の網点(6)は、実際には確認が困難となることから、赤外線領域では、第3の網点(6)により形成されている第二の潜像画像(9)は確認することができず、第一の潜像画像(8)のみが確認できる。
【0061】
第1の網点(4)内に配置されている第2の網点(5)及び第2の網点(5)内に配置されている第3の網点(6)は、それぞれ重畳又は毛抜き合わせにより形成することが可能である。ただし、毛抜き合わせにより形成した場合は、高い刷り合わせ精度が要求されることとなるため、重畳して形成することが好ましい。
【0062】
仮に、刷り合わせ精度が低くなってしまうと、可視画像(7)において、第一の潜像画像(8)及び第2の潜像画像(9)が影響してしまったり、第一の潜像画像(8)において、第二の潜像画像(9)が影響してしまうこととなり、鮮明な各画像を形成することができなくなってしまう恐れがある。
【0063】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明することとするが、第1の実施形態と同様の構成等については一部省略する。
【0064】
第2の実施形態は、基材(2’)自体が、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料で形成されており、その基材(2’)の上に、基材(2’)を定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色を変化させないような隠蔽材料を、一部を除いて形成され、さらに、第1の実施形態において形成されている第3の網点(6’)領域には印刷を行わず、その第3の網点(6’)に該当する箇所と、基材(2’)を隠蔽するための隠蔽材料を除いた領域を同じ箇所とすることで、基材(2’)自体を一部露出させて第3の網点(6’)を形成するものである。それにより得られる印刷物は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射領域へと変化させることにより、後述する隠蔽材料を施さない領域(11)を介して、基材(2’)である光輝性材料を一部露出させることにより形成された第3の網点(6’)と、第2の網点(5’)との色差ΔEが所定の値変化することで、第二の潜像画像(9)が視認可能となる。つまり、基材(2’)自体に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料とは、印刷物となった際に、第3の網点(6’)と、第2の網点(5’)との色差ΔEが所定の値変化する材料のことである。その詳細について、以下、図面を用いて説明する。
【0065】
図5は、第2の実施形態における印刷領域(3)内に形成された一つの網点の拡大図である。図5(a)に示すように、第2の実施形態における網点構成も、印刷領域(3)上に形成されたものを上方から確認すると、第1の実施形態と同じ網点構成となっており、第1の網点(4’)内に第2の網点(5’)が配置され、さらに、その第2の網点(5’)内に第3の網点(6’)が配置されている。
【0066】
ただし、この第2の実施形態における網点構成の詳細は、図5(b)及び図5(c)に示すように、三つの層によって構成されている。
【0067】
まず、最下層となる基材(2’)は、第2の実施形態の特徴点であり、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料によって形成されている。この場合、基材(2’)自体が色が変化する材料を用いても良いし、所定の材料(例えば、上質紙等)の上に、金属粉インキ又はフォイル(金属箔)を、印刷領域(3)又は所定の材料の全面に施しても良い。いずれの場合でも、第2の実施形態では、基材(2’)が、色が変化する材料により形成されていることとする。
【0068】
この基材(2’)上に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、基材(2’)を定位置の可視光源下に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色を変化させないための材料(以下、「隠蔽材料」という。)を用いて、隠蔽領域(10)を形成する。なお、この隠蔽領域(10)は、基材(2’)を露出させるために、一部、隠蔽材料を施さない領域(11)を有している。そうすることで、第3の網点(6’)は、隠蔽材料を施さない領域(11)を介して、基材(2’)の光輝性を確認できることとなり、結果的には、第3の網点(6’)は、光輝性材料により形成されていることになる。
【0069】
なお、隠蔽材料は、白インキ、マットインキ(マットタイプのOPニス)等を用いることが可能だが、赤外線吸収色素を含まず、かつ、基材(2’)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色を変化させない材料であればこれに限定されない。なお、白インキには、オフセット印刷用UVインキとしてDIC株式会社製 ダイキュアRTX 白、インクジェット印刷用UVインクとして東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト等がある。白インキは、その上に形成する第1の網点(4’)により形成される可視画像(7)への影響が極力少なくなるため、第1の実施形態において、紙基材上に本発明の網点構成を形成した場合と同様の視覚効果を奏することが可能となる。
【0070】
隠蔽材料を光輝性の基材(2’)の上に印刷するのは、第3の網点(6’)以外の本発明の第2の実施形態によって形成される第二の潜像画像(9)の視認性に影響を与えないために、光輝性を隠蔽する役割を担っているからである。
【0071】
また、赤外線吸収色素を含まない隠蔽材料を用いるのは、本発明の網点構成によって形成される第一の潜像画像(8)の視認性に影響を与えないためである。赤外線吸収色素を含む隠蔽材料を用いた場合には、本発明の網点構成により得られた印刷物を赤外線光源下において観察した際、第1の網点(4’)、第2の網点(5’)及び第3の網点(6’)は、全て濃度が高く(黒っぽく)観察される。そのため、第2の網点(5’)を、他の網点と識別することができず、その結果、赤外線光源下において観察可能な第一の潜像画像(8)を、視認することができなくなる。
【0072】
さらに、隠蔽材料により形成された隠蔽領域(10)は、赤外線領域での透過率が80%以下であることが好ましい。隠蔽領域(10)の赤外線領域での透過率が80%以上となった場合には、本発明の網点構成により得られた印刷物を赤外線光源下において観察した際、基材(2’)を隠蔽する隠蔽領域(10)が透過し、第1の網点(4’)は、全て透過し基材(2’)が観察されるため、濃度が高く(黒っぽく)観察される。そのため、第2の網点(4’)を、他の領域と識別することができず、その結果、赤外線光源下において観察可能な第一の潜像画像(8)を、視認することができなくなり好ましくない。
【0073】
図6は、本発明にかかわる白インク及びマゼンタインクの分光透過率の一例を示すグラフである。図6(a)は、本発明における隠蔽材料の分光透過率であり、測定サンプルとして白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムにベタ印刷を施したものを用いた。図3(b)は本発明における隠蔽材料の分光透過率であり、測定サンプルとして白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムに、図6(a)に示したサンプルに対し印刷濃度を下げて印刷を施したものを用いた。
【0074】
図6(c)は、本発明における赤外線吸収色素を含まない材料の分光透過率であり、測定サンプルとしてマゼンタインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 マゼンタ)を用いて、インクジェット印刷によりPETフィルムにベタ印刷を施したものを用いた。なお、図6に示した分光透過率は、各測定サンプルの分光透過率から、基材であるPETフィルム単体の分光透過率を除算したものを示しており、分光透過率は、自記分光光度計(HITACHI製、U−4000形)を用いて測定した。
【0075】
760〜800nmの赤外線領域において、分光透過率の変化をそれぞれ比較すると、隠蔽材料(a)における分光透過率は、いずれの領域においても50%程度とほぼ一定である。印刷濃度を下げて印刷した隠蔽材料(b)における分光透過率は、赤外線領域において80%程度とベタ印刷した隠蔽材料(a)と比べると高い値となっている。赤外線吸収色素を含まない赤外線透過材料(c)は、赤外線領域においては、95%程度とベタ印刷した白インク(a)及び印刷濃度を下げて印刷した白インク(b)に比べ、高い値となっている。なお、同一の波長においては、赤外線吸収色素を含まない材料の場合、分光透過率が低い方が、濃度が高く(白っぽく)視認され、反対に分光透過率が高い方が、濃度が低く(透明っぽく)視認される。なお、赤外線カメラを用いて観察した際には、隠蔽材料(a)は白く、印刷濃度を下げて印刷した隠蔽材料(b)は淡い白に、また赤外線透過材料(c)はほぼ透明に観察された。
【0076】
また、基材(2’)自体を光輝性材料により形成することでも良いが、紙等の基材(2’)全面に金属粉インキやフォイル(金属箔)を形成しても良い。
【0077】
前述した隠蔽領域(10)の上に、第1の網点(4’)が形成され、さらに第1の網点(4’)内に第2の網点(5’)が形成されている。第1の網点(4’)内に第2の網点(5’)が形成されている点は、第1の実施形態と同様であるが、第2の実施形態では、図5(b)及び図5(c)に示すように、第2の網点(5’)内には、第1の実施形態における第3の網点(6)は形成されず、空白領域(12)となっている。
【0078】
この空白領域(12)と、隠蔽領域(10)内の隠蔽材料を施さない領域(11)が同じ位置に配置されることで、その位置には、基材(2’)が露出(確認)されることとなる。したがって、結果的に作製された第2の実施形態における網点は、図5(a)に示すように、第3の網点(6’)が、第2の網点(5’)内に形成されていることとなる。ただし、第3の網点(6’)は、実質上、基材(2’)が形成していることとなる。それにより得られる印刷物は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射領域へと変化させることにより、隠蔽材料を施さない領域(11)を介して、基材(2’)である光輝性材料を一部露出させることにより形成された第3の網点(6’)と、第2の網点(5’)との色差ΔEが所定の値変化することで、第二の潜像画像(9)が視認可能となる。なお、以下の説明においては、第3の網点(6’)が、実質上基材が露出されて形成されていても、第3の網点(6’)は、定位置の可視光源下に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第2の網点(5’)との色差ΔEが所定の値変化する材料で形成されていることとする。
【0079】
(各画像の観察原理)
各画像を形成するための各網点について説明したところであるが、ここで、前述した各網点構成における本発明の可視画像(7)、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)の視認原理について説明する。
【0080】
まず、可視画像(7)及び第二の潜像画像(9)を視認するために必要となる観察位置について説明する。前述のとおり、第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)は、可視光源下の拡散光領域においては等色で視認されることで、肉眼では可視画像(7)が視認でき、反対に、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)は視認できない。また、可視光源下の正反射光領域においては、肉眼で第二の潜像画像(9)を視認可能となるように構成する。一般的に物体の色は、光源、観察環境(温度)、物体の分光反射率等により決定される。これらの観察条件により視認する色の感じ方はそれぞれ異なるが、本発明においての観察条件は、一定の条件であるものとする(例えば、観察条件:光源がD65で観察環境が20℃)。
【0081】
図7は、本発明に関わる印刷物(1)を、定位置の可視光源(R)に対して、観察角度を拡散光領域及び正反射光領域で観察した際の可視光源(R)、視点(E1、E2)及び印刷物(1)の三つの位置関係を示した図である。可視光源(R)と視点(E1)と印刷物(1)が図7(a)に示す位置関係にあるとき、拡散光領域で観察したこととなる。また、可視光源(R)と視点(E2)と印刷物(1)が図7(b)に示す位置関係にあるときは、正反射光領域で観察したこととなる。
【0082】
次に、観察角度の変化により、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEが所定の値変化する原理について説明する。前述のとおり、本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が35〜55°となる領域のことである。印刷物(1)において、第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)は、図7(a)に示す拡散光領域を意味する位置関係では等色であり、肉眼ではそれぞれの領域を区別することができず、可視画像(7)のみ視認できる。
【0083】
反対に、図7(b)に示す正反射光領域において、第3の網点(6、6’)は、観察角度を変化させることで、色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成しているので、観察角度を照明光源に対して拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、明度及び/又は色が変化し、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEが所定の値変化する。よって、第3の網点(6、6’)によって形成された第二の潜像画像(9)は視認可能となる。
【0084】
図8(a)は、可視光源下の拡散光領域における第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEを示すグラフであり、図8(b)は、可視光源下の正反射光領域における第2の網点(5、5’)及びと、第3の網点(6、6’)の色差ΔEを示すグラフである。なお、この図8における網点構成は、図1(b)に示した構成と同じとする。
【0085】
測定サンプルは、第1の網点(4)を、線数80線で直径70μmの円形として、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第2の網点(5)及び第3の網点(6)を印刷せずに第1の網点(4)をプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルA(4×4cm)と、第2の網点(5)を、第1の網点(4)と同じ線数及び直径とし、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第1の網点(4)及び第3の網点(6)を印刷せずに第2の網点(5)を黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルB(4×4cm)を、それぞれ用いて測定した。
【0086】
図8(a)に示した拡散光領域における第1の網点(4)及び第2の網点(5)の色差ΔEを示すグラフと、図8(b)に示した正反射光領域における第1の網点(4)及び第2の網点(5)の色差ΔEは、変角分光光度計GSP−2型((株)村上色彩技術研究所製。以下、「測定装置」という。)を用いて、前述した測定サンプルA及び測定サンプルBのLの値、aの値、及びbの値を測定し、得られた値から色差ΔEを算出した。
【0087】
ただし、図7(a)に示した拡散光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を−10゜から10゜まで変化させて測定した。また、図7(b)に示した正反射光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を35゜から55゜まで変化させて測定した。なお、測定装置校正は、標準白色板4020Aを用いて、入射光角度45゜、受光角度0゜、すなわち標準白板に対して完全拡散面で校正を実施した。
【0088】
図8(a)に示したように、拡散光領域においては、第1の網点(4)及び第2の網点(5)の色差ΔEは、1.46〜1.49を示しており、相対的に小さい値であり、第1の網点(4)及び第2の網点(5)は肉眼で識別することが困難である。その結果、可視画像(7)内に形成された第1の潜像画像(8)は視認することができない。また、図8(b)に示した正反射光領域においても、第1の網点(4)及び第2の網点(5)の色差ΔEは、1.24〜5.16を示しており、相対的に小さい値であり、第1の網点(4)及び第2の網点(5)は肉眼で識別することが困難である。つまり、可視光源下においては、第1の網点(4)及び第2の網点(5)は肉眼で識別することが困難であり、可視画像(7)内に形成された第一の潜像画像(8)を視認することはできない。
【0089】
図9は、本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域又は正反射光領域における、それぞれの第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEを示すグラフであり、図9(a)は、拡散光領域における第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEを示し、図9(b)は、正反射光領域における第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEを示す。
【0090】
測定サンプルは、第2の網点(5)を、線数80線で直径35μmの円形として、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第1の網点(4)及び第3の網点(6)を印刷せずに第2の網点(5)を黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルC(4×4cm)と、第3の網点(6)を、第2の網点(5)と同じ線数及び直径とし、基材(EPSON製 写真用紙<光沢>)上に、第1の網点(4)及び第2の網点(5)を印刷せずに第3の網点(6)を金属粉インク(日本ペイント株式会社製 金コロイドインク)を用いてインクジェット印刷により印刷し作製した測定サンプルD(4×4cm)を、それぞれ用いて測定した。
【0091】
図9(a)に示した拡散光領域における第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEを示すグラフと、図9(b)に示した正反射光領域における第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEは、測定装置を用いて測定した。ただし、図7(a)に示した拡散光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を−10゜から10゜まで変化させて測定した。また、図7(b)に示した正反射光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を35゜から55゜まで変化させて測定した。なお、測定装置校正は、標準白色板4020Aを用いて、入射光角度45゜、受光角度0゜、すなわち標準白板に対して完全拡散面で校正を実施した。
【0092】
図9(a)に示したように、拡散光領域においては、第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEは、1.43〜1.47と相対的に小さい値を示している。前述した通り、色差ΔEが6未満であれば等色であることから、拡散光領域においては、常に第2の網点(5)及び第3の網点(6)は等色といえる。よって、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は肉眼で識別することが困難であり、その結果、可視画像(7)内に形成された第二の潜像画像(9)は視認することができない。
【0093】
反対に、図9(b)に示した正反射光領域においては、第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEが、7.38を示す受光角度が存在する。拡散光領域(例えば、受光角度0°)における、第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEが1.45に対して、正反射光領域(例えば、受光角度45°)における、第2の網点(5)及び第3の網点(6)の色差ΔEは7.38である。つまり、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色差ΔEは、1.45から7.38へと5.93変化する。よって、色差ΔEが5以上変化することで、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は肉眼で識別することが可能となり、その結果、可視画像(7)内に形成された第二の潜像画像(9)を視認することが可能となる。
【0094】
なお、同じ観察条件下においては、印刷物(1)を傾けることにより、拡散光領域と正反射光領域は切り替えられる。つまり、印刷物(1)を傾けることで、第3の網点(6、6’)は肉眼で識別することが可能となる。その結果、可視画像(7)内に形成された第二の潜像画像(9)を視認することが可能となる。
【0095】
(本発明における可視画像の視認原理)
さらに詳細に可視画像が視認できる原理を説明する。図10は、本発明に関わる印刷物(1)の印刷領域(3)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。図10(a)に示した印刷領域(3)は、図10(b)に示す一部拡大図のように、可視光源(R)下の拡散光領域において、第1の網点(4、4’)は肉眼で視認可能となる。つまり、可視画像(7)を視認することが可能となる。第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)は、可視光源下の拡散光領域において等色で視認されることで、肉眼では区別することが不可能となる。つまり、第2の網点(5、5’)で形成した第一の潜像画像(8)及び第3の網点(6、6’)で形成した第二の潜像画像(9)は、肉眼で視認することはできない。したがって、可視光源(R)下の拡散光領域において印刷物(1)の印刷領域(3)を肉眼で確認した際には、可視画像(7)のみ視認可能となる。
【0096】
図10(c)は、本発明に関わる印刷物(1)の印刷領域(3)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の模式図である。図10(c)を用いて、可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼では、可視画像(7)のみが視認可能となる原理について説明する。印刷物(1)の印刷領域(3)を、可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した際には、まず、第1の網点(4、4’)においては、可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、拡散光領域では拡散光が得られる。
【0097】
第2の網点(5、5’)においては、可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、拡散光領域では拡散光が得られる。また、第3の網点(6、6’)においては、可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、拡散光領域では拡散光が得られる。第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)は、可視光源下の拡散光領域で観察した時に等色になるように形成されていることから、それぞれの網点における拡散光の差異は、肉眼では確認できない。
【0098】
本発明の網点構成においては、第1の網点(4、4’)内に第2の網点(5、5’)を重畳して配置し、さらに、第2の網点(5、5’)内に第3の網点(6、6’)を重畳して配置している。第1の網点(4、4’)における最大径及び最小径、第2の網点(5、5’)における最大径及び最小径、第3の網点(6、6’)における最大径及び最小径の大小関係は、第1の網点(4、4’)の最小径≧第2の網点(5、5’)の最大径、第2の網点(5、5’)の最小径≧第3の網点(6、6’)の最大径となっている。
【0099】
可視光源下における拡散光領域においては、可視画像(7)、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)の拡散光の強さは、ほぼ一定である。よって、第1の網点(4、4’)内に第2の網点(5、5’)を重畳して配置し、第2の網点(5、5’)内に第3の網点(6、6’)を重畳して配置し、第1の網点(4、4’)を、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)が等色で視認されることで、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)は視認されず、可視画像(7)のみを視認することができる。
【0100】
(本発明における第一の潜像画像の視認原理)
図11は、本発明に関わる網点構成により形成した印刷物(1)の印刷領域(3)を、赤外線光源(K)下において、赤外線表示装置を介して観察した場合の平面図及び模式図である。図11を用いて、赤外線光源(K)下において、第一の潜像画像(8)が観察可能となる原理について説明する。図11(b)に示す一部拡大図のように、赤外線光源(K)下において、赤外線表示装置で印刷物(1)の印刷領域(3)を観察した場合、第1の網点(4、4’)は、赤外線吸収性色素を含まない材料を用いて構成されているので明るく観察される。なお、図面上、点線にて示唆しているが、実際には点線は視認されない。
【0101】
第3の網点(6、6’)は、図4(a)及び図4(b)に示したように、赤外線領域において分光反射率が、基材(2)である写真用紙(a)に比べ、40%程度低いことから、基材(2)に対して濃度が高く(暗く)観察される。また、第2の網点(5、5’)は、赤外線吸収色素を含む材料を用いて構成されているが、拡散光領域において第3の網点(6、6’)と等色に設定することで、赤外吸収領域において観察した際に、図4(b)と同じ濃度で観察される。つまり、赤外線領域において第一の潜像画像(8)を観察することができる。
【0102】
(本発明における第二の潜像画像の視認原理)
図12は、本発明に関わる網点構成により形成した印刷物(1)の印刷領域(3)を、定位置の可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。図12(a)に示した印刷物(1)は、図12(b)に示す一部拡大図のように、可視光源(R)下の正反射光領域において、第3の網点(6、6’)は、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)と、色差ΔEが変化して視認されることで、肉眼で区別することが可能となる。つまり、第二の潜像画像(9)を肉眼で視認することができる。
【0103】
図12(c)は、可視光源(R)下の正反射光領域において視認した場合の模式図である。図12(c)を用いて、可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で、第二の潜像画像(9)が視認可能となる原理について説明する。印刷物(1)の印刷領域(3)を、可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した際には、まず、第1の網点(4、4’)においては、可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、正反射光が得られる。
【0104】
第二の潜像画像(9)を形成する第3の網点(6、6’)では、可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、正反射光が得られる。また、第2の網点(5、5’)では可視光源(R)からの入射光(r)によって、正反射光と拡散光が生じ、正反射光が得られる。よって、第3の網点(6、6’)は、観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料を用いたインキで形成しており、第3の網点(6、6’)の正反射光は、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)のそれぞれの正反射光よりも高くなり、その明度の差異によって第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)に対して、第3の網点(6、6’)に色差Δが生じて潜像画像として第二の潜像画像(9)を視認することができる。よって、可視光源下の正反射光領域においては、印刷物(1)を観察した場合、第二の潜像画像(9)を視認することができる。
【0105】
なお、可視光源下の正反射光領域において、可視光源(R)からの入射光の強度、基材(2)の光沢度、又はそれぞれの領域の光沢度の差により、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)のそれぞれの正反射光に差異が生じ、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)の色差ΔEが変化する場合もある。
【0106】
しかし、第3の網点(6、6’)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)の色差ΔEの変化量は、第1の網点(4、4’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔE、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEの変化量に比べ少なくなる。よって、いわゆる視覚マスキング効果により、可視光源下の正反射光領域においては第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)は、肉眼では等色に視認されるため、それぞれを肉眼で区別することが不可能となり、可視画像(7)内に形成された第二の潜像画像(9)が視認可能となる。
【0107】
視覚マスキング効果とは、人間の視覚認識の特性によるもので、大小の二つの刺激が時間的空間的に接近して与えられると、大きな刺激が認識され、小さな刺激は認識されなく、また認識されにくくなり、結果として小さい刺激が見えなくなるマスキング現象(大きな刺激のみが見える)のことである。なお、第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の面積比の設定や、第3の網点(6、6’)を形成する材料の選定によっては、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEの変化量が、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)の色差ΔEの変化量に近似し、視覚マスキング効果が弱まり、第二の潜像画像(9)の視認性が低下する場合がある。よって、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の色差ΔEの変化量が、第1の網点(4、4’)及び第2の網点(5、5’)の色差ΔEの変化量よりも大きくなるように、第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)の面積比や、第3の網点(6、6’)を形成する材料を適宜選定することが好ましい。
【0108】
以上、本発明の構成においては、三つの網点を用いて、可視画像(7)、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)を形成すること方法を説明してきたが、この本発明の三つの網点において第1の網点(4、4’)を配置せずに、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)のみで構成すると、可視画像(7)は、赤外線吸収色素を含む材料により形成された第2の網点によって形成される。ただし、この第2の網点(5、5’)は、前述のとおり、赤外線吸収色素を含む材料により形成されていることとなるため、第2の網点(5、5’)によって形成された画像は、赤外線光源下において観察可能な第一の潜像画像(8)ともなり、可視画像(7)と第一の潜像画像(8)が観察条件を異ならせても同じ画像として確認することができる。
【0109】
この第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)のみで形成した印刷物を正反射光領域で観察すると、第3の網点(6、6’)が定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで、明度及び/又は色が変化する材料で形成されていることから、第二の潜像画像が確認できることとなることは言うまでもない。
【0110】
また、本発明の網点については、第2の網点(5、5’)を赤外線吸収色素を含む材料により形成し、その第2の網点(5、5’)の内側に第3の網点(6、6’)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料により形成しているとして説明してきたが、第2の網点(5、5’)を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第3の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料により形成し、第3の網点(6、6’)を、赤外線吸収色素を含む材料により形成しても良い。
【0111】
ただし、この場合には、基材(2)を傾けて、正反射光領域で観察した際に確認できる画像内に、本来であれば赤外線光源下で確認可能な画像も若干確認できてしまうこととなる。
【0112】
本発明により形成する可視画像(7)、第一の潜像画像(8)及び第二の潜像画像(9)は、文字、数字、記号、絵柄、風景等を適宜設定することが可能であるが、第二の潜像画像(9)においては、文字、数字、記号、絵柄等の場合にはポジ画像で形成することが好ましく、人物や風景等の場合には、ネガ画像で形成することが好ましい。また、前述の説明では、第1の網点(4、4’)、第2の網点(5、5’)及び第3の網点(6、6’)は、網点形状として円形ドットを用いていたが、円形に限定されるものではなく、三角、四角、多角形等の形状、ランダムな形状、又は本出願人が出願した特許第3478474号公報で開示している自由度のある網点形状を用いても良い。
【0113】
本網点構成を形成する材料としては、公知のグラビアインキ、スクリーンインキ、プロセスインキ、インクジェットプリンタ用インク、フォイル(金属箔)等を使用することができる。また、基材(2)にそれぞれの網点を形成する方法としては、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ、金属蒸着、ホットスタンプ、コールドスタンプ等、特に限定されるものではない。
【0114】
以下、本発明における潜像画像を有する印刷物について、実施例を用いて詳細に説明するが、以下の実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的な範疇であれば、適宜、変更が可能なことは言うまでもない。
【実施例1】
【0115】
実施例1として、図1(a)に示すような、左下部に本発明における印刷領域(3)を形成した商品券(1)を作製した。この商品券(1)を可視光源下における拡散光領域で観察すると、印刷領域(3)は、図2(a)に示したゴシック体の「NPB」の文字が確認でき、商品券(1)を赤外線光源下において観察すると、図2(b)に示した「家」が確認でき、さらには、商品券(1)を可視光源下における正反射光領域で観察すると、図2(c)に示した明朝体の「NPB」の三つの文字が確認できるものである。
【0116】
本実施例1における商品券(1)の基材(2)は、インクジェットプリンタ用写真用紙
(EPSON製 写真用紙<光沢>)を用いた。この基材(2)に対して、インクジェットプリンタ(EPSON製 PX−G930)により印刷を行った。なお、少なくとも印刷領域(3)における網点構成は、図1(b)に示した円形ドットの三つの網点を重畳して形成したものである。
【0117】
それぞれの網点は、線数65線で同一とし、網点径は、第1の網点(4)の最大径が180μmで最小径が130μmで、第2の網点(5)は、最大径が第1の網点(4)の最小径を超えない範囲とし、最小径は50μmとし、第3の網点(6)は、最大径が第2の網点(5)の最小径を超えない範囲とし、最小径は0μmとした。
【0118】
また、第1の網点(4)は、赤外線吸収色素を含まないプロセスインク(EPSON製シアン、マゼンタ、イエロー)を用いて形成し、第2の網点(5)は、赤外線吸収色素を含む黒色インク(EPSON製 マットブラック)及びプロセスインク(EPSON製シアン、マゼンタ、イエロー)を用いて形成し、第3の網点(6)は、金インク(日本ペイント株式会社製 金コロイドインク)を用いて形成した。なお、第1の網点(4)、第2の網点(5)及び第3の網点(6)は、可視光源下における拡散光領域において等色となるように形成した。
【0119】
以上の構成により作製した商品券(1)の印刷領域(3)を、照明光源が定位置の可視光源下の拡散光領域において肉眼で観察したところ、図2(a)に示した可視画像(7)であるゴシック体の「NPB」の文字が確認でき、その時には、第一の潜像画像(8)である「家」の模様と第二の潜像画像(9)である明朝体の「NPB」の文字は確認することができなかった。
【0120】
可視画像(7)が確認できた状態から商品券(1)を傾け、正反射光領域において印刷領域(3)を観察したところ、図2(c)に示した第二の潜像画像(9)である明朝体の「NPB」の文字が確認でき、その時には、可視画像(7)であるゴシック体の「NPB」の文字と第一の潜像画像(8)である「家」の模様は、確認することができなかった。
【0121】
さらに、商品券(1)の印刷領域(3)を赤外線表示装置(ワテック株式会社製のCCDカメラWAT−704Rに富士写真フィルム株式会社製のシャープカットフィルターIR−80を装着したもの)を介して観察したところ、第一の潜像画像(8)である「家」の模様が確認でき、その時には、可視画像(7)であるゴシック体の「NPB」の文字と第二の潜像画像(9)である明朝体の「NPB」の文字は、確認することができなかった。
【実施例2】
【0122】
実施例2として、図13(a)に示すような、右下部に本発明における印刷領域(3’)を形成した商品券(1’)を作製した。この商品券(1’)を可視光源下における拡散光領域で観察すると、印刷領域(3’)は、図14(a)に示した複数の「星」が確認でき、商品券(1’)を赤外線光源下において観察すると、印刷領域(3’)は、図14(b)に示した「スマイルの模様」が確認でき、さらには、商品券(1’)を可視光源下における正反射光領域で観察すると、印刷領域(3’)は、図14(c)に示した「¥1000」の文字が確認できるものである。
【0123】
本実施例2における商品券(1’)の基材(2’)は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料をアルミ蒸着により紙基材の上に形成したもの(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg)を用いた。この基材(2’)に対して、インクジェット印刷装置(株式会社トライテック製 Patterning JET)により印刷を行った。なお、少なくとも印刷領域(3’)における網点構成は、図13(b)に示した円形ドットの三つの網点構成としたものである。
【0124】
図13(b)に示した印刷領域(3’)に形成した三つの網点構成の詳細を示したのが図15である。図15(a)は、印刷領域(3’)に形成した複数の網点の中の一つを上方から見た拡大図である。それぞれの網点は、線数65線で同一とし、網点径は、第1の網点(4’)の最大径が180μmで最小径が130μmで、第2の網点(5’)は、最大径が第1の網点(4’)の最小径を超えない範囲とし、最小径は50μmとし、第3の網点(6’)は、最大径が第2の網点(5’)の最小径を超えない範囲とし、最小径は0μmとした。
【0125】
それぞれの網点は、第1の網点(4’)を赤外線吸収色素を含まないプロセスインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 シアン、マゼンタ、イエロー)を用いて形成し、第2の網点(5’)は、赤外線吸収色素を含む黒色インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ブラック)及びプロセスインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 シアン、マゼンタ、イエロー)を用いて形成した。
【0126】
第3の網点(6’)については、図15(b)に示すように、前述したプロセスインクを印刷せず、空白領域(12’)とし、第1の網点(4’)及び第2の網点(5’)の下で、基材(2’)上の金属蒸着により形成したアルミ上に、アルミの光沢性を抑える隠蔽材料である白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、第3の網点(6’)となる空白領域(12’)と同じ位置となる領域のみ印刷を行わないようにベタ印刷した。したがって、図15(c)の断面図に示すように、空白領域(12’)及び白インキを印刷していない領域(11’)を介して、基材(2’)上の定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射領域へと変化させることにより、色が変化する材料(13)のアルミにより、第3の網点(6’)が形成されていることとなる。なお、第1の網点(4’)、第2の網点(5’)及び第3の網点(6’)は、可視光源下における拡散光領域において等色となるように形成した。
【0127】
以上の構成により作製した商品券(1’)の印刷領域(3’)を、照明光源が定位置の可視光源下の拡散光領域において肉眼で観察したところ、図14(a)に示した可視画像(7’)である複数の「星」の模様が確認でき、その時には、第一の潜像画像(8’)である「スマイル」の模様と第二の潜像画像(9’)である「¥1000」の文字は確認することができなかった。
【0128】
可視画像(7’)が確認できた状態から商品券(1’)を傾け、正反射光領域において印刷領域(3’)を観察したところ、図14(b)に示した第二の潜像画像(9’)である「¥1000」の文字が確認でき、その時には、可視画像(7’)である複数の「星」の模様と第一の潜像画像(8’)である「スマイル」の模様は、確認することができなかった。
【0129】
さらに、商品券(1’)の印刷領域(3’)を赤外線表示装置(ワテック株式会社製のCCDカメラWAT−704Rに富士写真フィルム株式会社製のシャープカットフィルターIR−80を装着したもの)を介して観察したところ、第一の潜像画像(8’)である「スマイル」の模様が確認でき、その時には、可視画像(7’)である複数の「星」の模様と第二の潜像画像(9’)である「¥1000」の文字は、確認することができなかった。
【符号の説明】
【0130】
1 潜像画像を有する印刷物
2、2’ 基材
3 印刷領域
4、4’ 第1の網点
5、5’ 第2の網点
6、6’ 第3の網点
7 可視画像
8 第一の潜像画像
9 第二の潜像画像
10 隠蔽領域
11 隠蔽材料を施さない領域
12 空白領域
13 色が変化する材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域には、3種類の網点により可視画像及び二つの潜像画像が形成され、観察条件を異ならせることにより各画像が視認可能となる印刷物であって、
第1の網点が、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて複数配置されることにより前記可視画像を形成し、
第2の網点は、赤外線吸収色素を含む材料により前記第1の網点内に重畳して配置されて第一の潜像画像を形成し、
第3の網点は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、前記第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料により前記第2の網点内に重畳して配置されて第二の潜像画像を形成し、
前記第1の網点、前記第2の網点及び前記第3の網点を、可視光源下における拡散光領域において等色になるように形成することで、
前記印刷物は、拡散光領域において前記可視画像が視認され、赤外線光源下において前記第一の潜像模様が観察され、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより前記第二の潜像模様が視認可能となることを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項2】
基材上の少なくとも一部に印刷領域が形成され、前記印刷領域には、3種類の網点により可視画像及び二つの潜像画像が形成され、観察条件を異ならせることにより各画像が視認可能となる印刷物であって、
前記基材は、少なくとも前記印刷領域に対応する領域が、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料により形成され、
前記基材上に、赤外線吸収色素を含まず、かつ、前記基材を、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色を変化させない隠蔽材料を用いて隠蔽領域が形成され、
前記隠蔽領域は、基材を隠蔽する隠蔽材料を施す領域及び基材を一部露出させる隠蔽材料を施さない領域から成り、
前記隠蔽材料を施す領域上に、第1の網点及び第2の網点が配置され、第1の網点が、赤外線吸収色素を含まない材料を用いて複数配置されることにより前記可視画像を形成し、
第2の網点は、赤外線吸収色素を含む材料により、前記第1の網点内に一部空白領域を有して配置されて第一の潜像画像を形成し、
前記第2の網点の空白領域と前記隠蔽領域における隠蔽材料を施さない領域が同じ位置に配置されることにより、前記基材が露出されることで形成された第3の網点により第二の潜像画像が形成され、
前記第1の網点、前記第2の網点及び前記第3の網点を、可視光源下における拡散光領域において等色になるように形成することで、
前記印刷物は、拡散光領域において前記可視画像が視認され、赤外線光源下において前記第一の潜像模様が観察され、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、前記第2の網点及び前記第3の網点の色差ΔEが所定の値変化し、前記第二の潜像模様が視認可能となることを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項3】
前記第2の網点の空白領域と、前記隠蔽領域における隠蔽材料を施さない領域は、形状及び大きさが同じであることを特徴とする請求項2記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項4】
前記第2の網点は、前記第1の網点内に設定した一定の網点径よりも小さく、前記第3の網点は、前記第2の網点内に設定した一定の網点径よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項5】
前記第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料は、定位置の照明光源に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域における前記第2の網点との色差ΔEに対して、正反射光領域における前記第2の網点との色差ΔEが5以上変化する材料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項6】
前記第2の網点との色差ΔEが所定の値変化する材料が、光輝性材料であり、光輝性材料が金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする請求項5記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項7】
前記赤外線吸収色素を含む材料は、赤外線領域において少なくとも一つの波長ピークを有する材料を含んだ有色インキであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項8】
前記赤外線吸収色素を含まない材料は、シアン、マゼンタ及びイエローの有色インキ又は単色の特色インキであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−148129(P2011−148129A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9555(P2010−9555)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】