説明

潜像画像を有する印刷物

【課題】 本発明は、緻密な網点構成を用いることにより、可視光源下における拡散光領域及び正反射光領域という異なる観察条件において、二つの画像を視認可能な印刷物を提供する。
【解決手段】 基材の少なくとも一部に印刷領域が形成され、この印刷領域は、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させると色が変化する材料から成る第1の層と、第1の層の上に、第1の層の色変化をさせない隠蔽材料により形成された第2の層と、第2の層の上に、有色インキを用いた網点により可視画像が形成された第3の層により構成され、第2の層と第3の層の同じ位置にくり抜き領域を形成して第1の層を露出させて潜像画像を形成した印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、有価証券、商品タグ及び各種証明書等に偽造及び複製の防止用として施す潜像画像を有する印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機の高機能化及び高画質化により、銀行券、旅券、有価証券等の貴重印刷物の偽造製品が出回り、深刻な問題となっている。そのため、従来から貴重印刷物には、複写機で色、光沢又は発光等の再現が困難な機能性インキが多く用いられている。機能性インキには、金インキ、銀インキ又はパールインキ等の金属光沢インキ、赤外線領域において吸収特性を示す赤外線吸収インキ等がある。赤外線吸収インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、赤外線カメラ等の鑑定装置を必要とすることから、鑑定装置がなければ目視で赤外線吸収インキ印刷部を判別することは困難である。反対に、金属光沢インキを用いた印刷物を真偽判別する際には、光沢や色の変化に留意するだけで良く、誰でも簡単に目視で判別することができる。
【0003】
そこで、本出願人は、背景画像部と潜像画像部のどちらか一方を金属光沢インキを用い、他方を赤外線吸収インキ又は赤外線透過インキを用いて、可視光源下において等色となるように印刷することで、観察角度を変化させることにより潜像画像が視認可能な印刷物を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、本出願人は、真偽判別の際には、赤外線カメラ等の鑑定装置を要するものの、特殊な網点構成を用いることで、現在の写真製版装置での複製が非常に困難であり、偽造防止効果に優れた網点印刷物を開示している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
本出願人が先に出願した特許文献2は、二つの領域が複数配置されることで階調画像を構成している印刷物であって、第2の領域の周囲が第1の領域によって囲まれ、第2の領域は、赤外線吸収色素を含むブラックインキにより構成された第2aの領域と、赤外線吸収色素を含まないインキにより黒色系に構成された第2bの領域から成り、第1の領域及び第2bの領域は、一般の商業印刷で使用されているシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3原色インキを用いている。
【0006】
この特許文献2に記載の印刷物は、特殊な網点構成による複製防止効果を奏するだけではなく、赤外線吸収色素を含むブラックインキにより構成された第2aの領域において、潜像画像を形成していることから、赤外線カメラ等の鑑定装置で観察すると、可視光源下で観察された階調画像とは異なる画像が視認可能となる偽造防止効果も奏するものである。
【0007】
この特許文献2に記載の印刷物は、前述のとおり、赤外線光下において画像を視認可能とするために、潜像画像を構成する第2aの領域に、赤外線吸収色素を含むブラックインキを用い、その第2aの領域と等色となるように、第2bの領域も黒色系に構成しているため、印刷物自体としては、比較的低明度(高濃度)なデザインとなってしまう。
【0008】
そこで、さらに、本出願人は、潜像画像を形成するための領域に、赤外線吸収色素を含むブラックインキではなく、金属材料を用いた偽造防止用印刷物を開示している(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
この特許文献3に記載の印刷物は、特許文献2記載の印刷物と同様に、可視光源下において視認可能な階調画像と、赤外線光下において視認可能な潜像画像を備えているとともに、潜像画像を構成するための領域に、金属材料を用いることで、特許文献2における比較的低明度(高濃度)なデザインを解消している。
【0010】
なお、金属材料を用いることで、材料及び色によっては、金属光沢を発することも有り得るため、その金属光沢を抑える目的として、潜像画像を構成している領域において、金属材料の上に無色透明のマット層又は白インキを重ねて印刷することを開示している。
【0011】
【特許文献1】特開2007−152805号公報
【特許文献2】特許第3544536号公報
【特許文献3】特開2008−132600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1により開示されている印刷物は、金属光沢インキを用いることで、観察角度を異ならせることにより、潜像画像を視認可能としたものであるが、その構成は単純なベタ刷りによるものであり、一様な(階調の少ない)デザインに限られてしまうとともに、偽造防止効果としては、あまり高度なものではなかった。
【0013】
また、特許文献2及び特許文献3による印刷物は、緻密な網点構成を用いていることから、写真製版装置による複製が困難であるとともに、可視光源下による画像と赤外線光源下による画像とが明瞭にスイッチして確認できるという偽造防止効果の高い印刷物ではあるが、赤外線カメラ等の鑑定装置を必要とするため、例えば、銀行、入国管理審査等の各種窓口業務において、目視等の簡易検査による真偽判別を行うことができないという問題点があった。そこで、特殊な鑑定装置を用いずに、目視によって簡易的に真偽判別することが可能な技術が付与された偽造防止印刷物が求められている。
【0014】
また、特許文献1、2及び3に記載の各印刷物は、基材は一般的な紙であり、光輝性基材のような特殊な基材には不向きであった。
【0015】
本発明は、このような従来の問題を解決することを目的としたもので、緻密な網点構成を用いることで、複製を困難にさせるとともに、特殊な基材である光輝性基材においても付与可能であり、観察角度を異ならせるだけで簡単に潜像画像を確認することが可能な印刷物を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、基材の少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料から成る第1の層と、第1の層の上に、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させても、色を変化させないように隠蔽するための隠蔽材料から成る第2の層と、第2の層の上に、有色インキにより形成された第3の層から成り、第2の層は、第1の層を隠蔽する第1の隠蔽領域と、隠蔽面積率が第1の隠蔽領域と同じ又は低い第2の隠蔽領域から成り、第2の隠蔽領域内には、一部がくり抜かれた第1のくり抜き領域を有し、第3の層は、連続階調画像を表現するための網点を構成する一つの第1の領域と、第1の領域に隣接し、かつ、第1の領域よりも小さい一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域の周囲が、複数の第1の領域により囲まれ、第3の層により可視画像が形成され、第2の領域は、一部がくり抜かれた第2のくり抜き領域と、第2のくり抜き領域を囲むカムフラージュ領域から成り、第1のくり抜き領域と、第2のくり抜き領域は同じ箇所に配置されることで潜像領域が形成され、潜像領域を複数配置することで潜像画像が形成され、カムフラージュ領域と潜像領域が拡散光領域において等色となるように形成されることにより、可視光源下の拡散光領域では可視画像が視認され、観察角度を異ならせることで潜像領域及びカムフラージュ領域の色差ΔEが所定の値変化し、潜像領域における第1の層の光沢により形成された潜像画像が視認可能なことを特徴とする潜像画像を有する印刷物である。
【0017】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第1のくり抜き領域と第2のくり抜き領域が、大きさ及び形状が等しいことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、基材の少なくとも一部に印刷領域が形成され、印刷領域は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料から成る第1の層と、第1の層の上に、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させても、色を変化させないように隠蔽するための隠蔽材料から成る第2の層と、第2の層の上に、有色インキにより形成された第3の層から成り、第2の層は、第1の層を隠蔽する第1の隠蔽領域と、隠蔽面積率が第1の隠蔽領域と同じ又は低い第2の隠蔽領域と、第2の隠蔽領域内に、第2の隠蔽領域よりも隠蔽面積率が低い第1の潜像領域から成り、第3の層は、連続階調画像を表現するための網点を構成する一つの第1の領域と、第1の領域に隣接し、かつ、第1の領域よりも小さい一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域の周囲が、複数の前記第1の領域により囲まれ、第3の層により可視画像が形成され、第2の領域は、透過率20%以上のインキ層で形成され、第2の隠蔽領域と第2の領域は同じ位置に積層されることで、第1の潜像領域と第1の潜像領域と同じ位置に積層された第2の領域により潜像領域が形成され、第1の潜像領域を除く第2の隠蔽領域と同じ位置に積層された第2の領域によりカムフラージュ領域が形成されて、潜像領域が複数配置されることで潜像画像が形成され、カムフラージュ領域と潜像領域が拡散光領域において等色となるように形成することにより、可視光源下の拡散光領域では可視画像が視認され、観察角度を異ならせることで、潜像領域及びカムフラージュ領域の色差ΔEが所定の値変化し、潜像領域における第1の層の光沢により形成された潜像画像が視認可能なことを特徴とする潜像画像を有する印刷物である。
【0019】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第2の領域が、透過率20%以上のインキ層で形成された第2の潜像領域と、第1の潜像領域と同じ位置に積層された第2の潜像領域と拡散光領域において等色となるように第2の隠蔽領域と同じ位置に積層されたインキ層で形成されたカムフラージュ領域から成り、第1の潜像領域と第2の潜像領域が同じ箇所に配置されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第2の潜像領域とカムフラージュ領域が、異なる色のインキにより形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第2の領域が、第1の領域の透過率と同じ又は高い透過率のインキ層で形成されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、第1の層が、基材自体が定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料により形成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物における第1の層は、基材が紙又はプラスチックフィルムから成り、基材の上に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料が付与されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、色が変化する材料が、定位置の照明光源に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域における潜像領域とカムフラージュ領域との色差ΔEに対して、正反射領域における潜像領域とカムフラージュ領域との色差ΔEが5以上変化する材料であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、色が変化する材料が、光輝性材料であり、光輝性材料が金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、有色インキが、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインキであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の潜像画像を有する印刷物は、可視光源下の拡散光領域で観察した際には可視画像が視認でき、印刷物を傾けて観察することで潜像画像が視認可能となり、簡易な手法による真偽判別が行える。
【0028】
また、本発明の潜像画像を有する印刷物は、特殊な網点構成により、二つの画像を同一領域内に重なるようなデザインで作製することが容易であり、デザイン上の制約を受けることが無い。
【0029】
また、印刷を付与するための基材についても、従来の一般的な紙基材ではなく、光輝性の基材を用いることが可能となり、基材に対する幅が広がる。
【0030】
さらに、従来の金属光沢材料を用いて、観察角度を異ならせることによる潜像画像の出現を奏する印刷物が、単純なベタ刷りによる構成であることに対し、本発明の潜像画像を有する印刷物は、特殊な網点構成を用いているため、複製防止効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明における潜像画像を有する印刷物の一例を示す図である。
【図2】本発明における可視画像と潜像画像の一例を示す図である。
【図3】印刷領域の層構成を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態における第2の層を説明するための図である。
【図5】第1の実施形態における第3の層を説明するための図である。
【図6】第1の実施形態における三つの層の層構成を説明するための図である。
【図7】本発明の印刷物を観察するときの観察状態を説明するための図である。
【図8】本発明にかかわる可視光源下の拡散光領域と正反射光領域における潜像領域及びカムフラージュ領域の色差ΔEを説明するための図である。
【図9】可視画像が視認できるときの原理を説明するための図である。
【図10】潜像画像が視認できるときの原理を説明するための図である。
【図11】第2の実施形態における第2の層を説明するための図である。
【図12】第2の実施形態における第3の層の一つ目の態様を説明するための図である。
【図13】第2の実施形態において、第3の層が一つ目の態様のときの三つの層の層構成を説明するための図である。
【図14】第2の実施形態における第3の層の二つ目の態様を説明するための図である。
【図15】第2の実施形態において、第3の層が二つ目の態様のときの三つの層の層構成を説明するための図である。
【図16】第1の領域及び第2の領域の形状の変形例を説明するための図である。
【図17】実施例2の証明書を説明する図である。
【図18】実施例2における可視画像と潜像画像を示す図である。
【図19】実施例2における三つの層の層構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0033】
図1は、本発明における潜像画像を有する印刷物(1)(以下「印刷物」という。)の一例を示す図である。この印刷物(1)は、図1(a)に示すように、少なくとも一部に本発明における潜像画像が形成されている印刷領域(2)を有している。
【0034】
この印刷物(1)は、可視光源下における拡散光領域では、図2(a)に示すような可視画像(3)が視認でき、印刷物(1)を傾けることにより、正反射光領域では図2(b)に示すような潜像画像(4)が視認できる効果を奏するものである。この二つの画像の視認原理については後述する。
【0035】
この印刷領域(2)は、印刷物(1)の断面図である図1(b)に示すように、三つの層から構成されている。印刷領域(2)については、図1に示すように、印刷物(1)の一部に形成しても良いが、印刷物(1)の全面を印刷領域(2)として形成しても良い。また、印刷領域(2)を構成している三つの層については、第1の層(5)、第2の層(6)及び第3の層(7)から形成されている。この三つの層について次に説明する。
【0036】
(第1の実施形態)
まず第1の層(5)について説明する。第1の層(5)は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させると、色が変化し、他の領域との色差ΔEが所定の値変化する材料を用いて形成されている。なお、本発明における色差は、CIE1976L表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L表色系での色差は、二色のLの差、aの差及びbの差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。
【0037】
色差ΔEが変化するとは、例えば、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで、明度及び/又は色が変化する材料を用いて印刷インキを作製し、紙等の基材(8)上に印刷領域として付与して印刷物Aを作製する。同様に定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化しない材料を用いて印刷インキを作製し、前述の紙等の基材上に印刷部として付与して印刷物Bを作製する。印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEがXとする。次に、印刷物A及び印刷物Bを定位置に設置した照明光源下において、観察角度を変化させたのち、再度、印刷物Aと印刷物Bの色差ΔEを測定する。その測定した際の色差ΔEが前述したXとは異なる値であるならば、色差ΔEが変化したことになる。前述のとおり、定位置の照明光源に対して観察角度を変化させることで明度及び/又は色が変化する材料であるならば、その材料は観察角度によって色差ΔEが変化する材料となる。
【0038】
本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において受光角度が35〜55°となる領域のことを指す。なお、色差ΔEが所定の値変化する原理については、後述する。
【0039】
観察角度によって、色が変化する材料には、例えば、光輝性材料がある。光輝性材料とは、金属粉インキ、フォイル(金属箔)、金属蒸着により基材(8)上に形成したもの、金属又は金属光沢調フィルム等がある。金属粉インキとは、一回の印刷で金属色を示すインキである。金属粉インキは、ビヒクルに微細な金属粉を混和して作製する。金属粉インキには、金インキ及び銀インキがある。金インキとは、ビヒクルに微細な黄銅粉末を混和して作製したインキであり、銀インキとは、ビヒクルに微細なアルミニウム粉末を混和して作製したインキである。
【0040】
また、金属粉インキの代わりにフォイル(金属箔)を紙基材の上に形成してもよい。フォイルとしては、金箔や銀箔などがある。フォイルは、ホットスタンプ方式又はコールドフォイル方式により基材上へ付与する。ホットスタンプ方式は、シート状のフォイルを基材に重ね、高温の金属刻印で加圧して基材に箔押しする方式である。また、コールドフォイル方式は、基材に接着剤を塗布し、シート状のフォイルを基材に重ね、加圧して箔を転写する方式である。
【0041】
フォイル(金属箔)の代わりに金属蒸着によりアルミ等を基材(8)上に形成したもの(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg等)でもよい。また、基材(8)自体をステンレスやアルミ等の金属としてもよい。また、光輝性材料が形成された基材上に有色インキや有色フィルムなどの透過性材料を形成したものでもよい。この場合、透過性材料は光輝性材料の光沢を視認できる材料とする必要がある。さらに、基材(8)に金属光沢調フィルム(東レ株式会社製、PICASUS等)を用いても良い。金属光沢調フィルムとは、異種ポリマーを多層積層し形成したポリエステルフィルムであり、金属を使用せずに金属調の光沢を得ることが可能な材料のことである。
【0042】
第1の層(5)について、紙基材(8)の上に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料を印刷インキ又はフォイルにより形成する例で説明したが、本発明の第1の層(5)はこれに限定されるものではなく、基材自体が色が変化する材料により形成されていても良い。
【0043】
例えば、図3(a)に示すように、印刷物(1)の一部に印刷領域(2)を形成する場合、基材(8)の一部が第1の層(5)により形成されていても良いし、図3(b)に示すように、基材(8)全体が第1の層(5)により形成されていても良い。なお、印刷物(1)の全面を印刷領域(2)とする場合には、図3(b)に示すように、第1の層(5)、第2の層(6)及び第3の層(7)は、いずれも印刷物(1)の全面に形成されることとなる。
【0044】
次に第2の層(6)について説明する。第2の層(6)は、下層にあたる第1の層(5)の光沢を抑えるための隠蔽層の役割を担っている。また、第2の層(6)は、後述する上層の第3の層(7)により形成される可視画像に影響を与えない色彩を有する必要がある。したがって、第2の層(6)は、白インキ、マットインキ(マットタイプのOPニス)等を用いることが可能だが、下層の光沢を抑えられる隠蔽材料、かつ、上層の可視画像(3)に影響を与えない材料であれば特に限定されない。本実施の形態では白インキを用いて形成することで説明する。なお、白インキには、オフセット印刷用UVインキとしてDIC株式会社製 ダイキュアRTX 白、インクジェット印刷用UVインクとして東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト等がある。
【0045】
この第2の層(6)は、図4に示すように、一部がくり抜かれた第1のくり抜き領域(9)を有している。図4(a)に示した第2の層(6)の構成については、後述する第3の層(7)の網点構成に対応した構成となっている。この網点構成は、本発明に用いる微細な網点構成となるものであるが、詳細は第3の層(7)の説明の際に行うこととする。
【0046】
図4(a)は、第2の層(6)の一部を拡大した模式図であるが、第2の層(6)は、後述する第3の層(7)に対応するように、二つの領域から形成されている。この二つの領域は、前述のとおり、下層である第1の層(5)の光沢を隠蔽する役割を持っていることから、第1の隠蔽領域(10)と、その第1の隠蔽領域の隠蔽面積率と同じ又はそれよりも低い隠蔽面積率によって形成されている第2の隠蔽領域(11)と定義する。
【0047】
ここで、隠蔽面積率とは、第2の層(6)における第1の隠蔽領域(10)又は第2の隠蔽領域(11)の単位面積当りの隠蔽材料を形成する面積の割合のことである。例えば、第2の隠蔽領域(11)において、隠蔽面積率80%とは、第1のくり抜き領域(9)を除く第2の隠蔽領域(11)に隠蔽材料を形成する面積の割合が80%のことである。この場合、第1のくり抜き領域(9)を除く第2の隠蔽領域(11)の面積の20%は、隠蔽材料が形成されていないため、下層である第1の層(5)が露出した状態となる。
【0048】
よって、第2の隠蔽領域(11)を第1の隠蔽領域(10)よりも隠蔽面積率を低くするというのは、隠蔽面積率を下げることにより下層である第1の層(5)の露出面積率を上げ、第1の隠蔽領域(10)よりも第2の隠蔽領域(11)の光輝性の低下を抑えることになる。つまり、印刷物(1)を定位置の照明光源に対して、拡散光領域から正反射光領域へ変化させた際に、第1の隠蔽領域(10)に対応する第3の層(7)の第1の領域(12)の正反射光よりも第2の隠蔽領域(11)に対応する第3の層(7)の第2の領域(13)の正反射光のほうが高くなり、結果的に正反射光領域における潜像画像(4)の視認性が向上することがあるからである。なお、第3の層(7)の構成については後述する。
【0049】
しかし、隠蔽面積率を低くしたことにより、第1のくり抜き領域(9)、すなわち第1の層(5)の正反射光と第2の隠蔽領域の正反射光の高さ(強さ)が近似し、正反射光領域における潜像画像(4)の視認性が低下する恐れもある。よって、第2の隠蔽領域(11)の隠蔽面積率は適宜設定する必要がある。
【0050】
また、第2の隠蔽領域(11)内に、第1のくり抜き領域(9)が形成されており、この図4(a)のX1−X2における(拡大)断面図である図4(b)に示すように、第1のくり抜き領域(9)には、白インキが施されていない。したがって、印刷物(1)を上方から観察すると、この第1のくり抜き領域(9)からは、下層の第1の層(5)が確認できることとなる。
【0051】
次に、第3の層(7)について説明する。第3の層(7)は、可視光源下の拡散光領域において視認可能な連続階調画像を含む可視画像(3)を網点により形成する。そこで、第3の層(7)の網点構成について図5を用いて説明する。なお、連続階調画像を含む可視画像(3)は、連続階調を有していない二値画像であってもよい。
【0052】
第3の層(7)は、図5(a)に示す可視画像(3)を形成しており、その網点構成は、図5(b)に一部拡大図として示した構成である。この網点構成は、第1の領域(12)及び第2の領域(13)により形成され、この第1の領域(12)と第2の領域(13)がマトリックス状に複数配置されている。この二つの領域をマトリックス状に配置することで、可視画像(3)及び潜像画像(4)は、モアレを発生することがなくなる。
【0053】
図5(b)に示すように、第1の領域(12)に囲まれるように第2の領域(13)が配置され、第2の領域(13)は、第1の領域(12)よりも小さい面積で第1の領域(12)の外周に沿って、等間隔に配置されている。第2の領域(13)を第1の領域(12)よりも大きい面積で形成した場合には、第2の領域(13)がノイズとなって、可視光源下における可視画像(3)の視認性を低下させてしまうこととなる。この網点構成の詳細については、本出願人が既に出願している特許第3544536号公報に開示されている。
【0054】
第1の領域(12)内には、第1の網点部(12a)が配置され、可視画像(3)は、第1の領域(12)内における第1の網点部(12a)と第1の網点部(12a)以外の領域との面積比率に応じて、複数配置された第1の領域(12)により階調を付与することが可能となる。
【0055】
第2の領域(13)は、可視光源下において印刷物(1)を傾けることにより視認可能な潜像画像(4)を形成するための領域であり、第2のくり抜き領域(13a)とカムフラージュ領域(13b)により構成されている。潜像画像(4)は、この第2のくり抜き領域(13a)とカムフラージュ領域(13b)との面積比率に応じて、複数配置された第2の領域(13)により階調を付与することが可能となる。
【0056】
ここで、第2の領域(13)によって潜像画像(4)が形成できる原理について説明する。第2の領域(13)内に形成される第2のくり抜き領域(13a)は、第2の層(6)に形成された第1のくり抜き領域(9)と同じ箇所に形成されることとなるが、この各層における各領域の位置関係について図6を用いて説明する。
【0057】
図6(a)は、図5で示した複数配置された第1の領域(12)及び第2の領域(13)の中の一組を取り出した際における第1の層(5)、第2の層(6)及び第3の層(7)の積層状態を示す斜視図であり、図6(b)は、図6(a)のY1−Y2の断面図である。
【0058】
図6(a)及び図6(b)に示すように、第2の層(6)の第1のくり抜き領域(9)と第3の層(7)の第2のくり抜き領域(13a)は、同じ大きさ、同じ形状かつ同じ位置に配置される。したがって、図6(b)に示すように、第1のくり抜き領域(9)と第2のくり抜き領域(13a)が同じ位置に配置されるため、各くり抜き領域が重なった箇所を印刷物(1)の上方から見ると、一番下層にある第1の層(5)が確認できることとなる。この第2の層(6)と第3の層(7)の各くり抜き領域が同じ位置に配置されて第1の層が確認できる領域を潜像領域(14)と定義する。
【0059】
なお、第2の層(6)における第1の隠蔽領域(10)と第2の隠蔽領域(11)の隠蔽面積率を同じとした場合には特に問題はないが、例えば、第1の隠蔽領域(10)よりも第2の隠蔽領域(11)の方を隠蔽面積率を低くした場合には、第2の層(6)と第3の層(7)の積層状態における位置関係については、第2の層(6)の第1の隠蔽領域(10)と第3の層(7)の第1の領域(12)を同じ位置に配置し、併せて、第2の層(6)の第2の隠蔽領域(11)と第3の層の第2の領域(13b)は同じ位置に配置することとなる。
【0060】
前述のとおり、第1のくり抜き領域(9)と第2のくり抜き領域(13a)が同じ位置に配置されるため、潜像領域(14)から第1の層(5)が確認できることとなるが、第1の層(5)は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させると、色が変化し、他の領域との色差ΔEが所定の値変化する材料によって形成されているため、本発明における潜像画像(4)を出現させるには、正反射光領域においてのみ第1の層(5)の光沢感を視認させることが必要となる。したがって、拡散光領域においては、第2の領域(13)内の他の領域であるカムフラージュ領域(13b)と潜像領域(14)は等色とする必要がある。
【0061】
拡散光領域において、カムフラージュ領域(13b)と潜像領域(14)(具体的には潜像領域(14)における第1の層(5))が拡散光領域において等色となることで、潜像画像(4)は確認できず、印刷物(1)を傾けて正反射光領域とすることで、潜像領域(14)における第1の層(5)は、カムフラージュ領域(13b)との色差ΔEが所定の値変化し、光輝性を発揮することにより、潜像領域(14)により形成された潜像画像(4)を確認することができることとなる。
【0062】
本発明における等色とは、可視光源下の拡散光領域で観察した際に、色差ΔEが6未満のことを示す。一般的に、色差ΔEが6前後においては、異なった色として視認される可能性がある。ただし、前述のとおり、本発明においては、第1の領域(12)及び第2の領域(13)は、肉眼ではそれぞれの領域を区別して視認することができない微細な網点により構成している。そのことから、前述のとおり、色差ΔEが6未満であれば、可視光源下の拡散光領域において肉眼で潜像領域(14)を視認することができず、かつ、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(13b)は、等色として視認される。
【0063】
なお、メタメリズムの関係により、可視光源下の拡散光領域において観察した際に、肉眼で等しい色に視認された色が、特定の光源下の拡散光領域において観察した際に、異なる色で視認された場合においても、本発明においては、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は等色に形成されていることとする。
【0064】
また、第1のくり抜き領域(9)と第2のくり抜き領域(13a)の関係については、位置関係は前述のとおり同じ位置に配置されることが必要であり、かつ、同一の形状及び同一の大きさである。形状及び大きさが異なると、潜像領域(14)により形成される潜像画像(4)の視認性に影響を及ぼすことになる。
【0065】
図5(b)に示した第3の層(7)を構成する網点構成における各領域の面積(縦×横)は、例えば、第1の領域(12)をm×mで形成し、第2の領域(13)をn×nで形成すると、m>n>0の範囲内で適宜設定することが可能である。
【0066】
第3の層(7)を構成する第1の領域(12)及びカムフラージュ領域(13b)を印刷するインキは、一般の商業印刷に用いるシアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のプロセス基本インキ、さらには、プロセス基本インキを除く特殊な色を有する特色インキがある。インキの種別としては、オフセットインキ、グラビアインキ、スクリーンインキ、インクジェットプリンタ用インク等がある。
【0067】
(各画像の観察原理)
各層の構成及び積層状態における位置関係等について説明したところであるが、ここで、前述した各層の構成及び位置関係における本発明の可視画像(3)及び潜像画像(4)の視認原理について説明する。
【0068】
まず、可視画像(3)及び潜像画像(4)を視認するために必要となる観察位置について説明する。前述のとおり、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(13b)は、可視光源下の拡散光領域においては等色で視認されることで、肉眼では潜像領域(14)(実際には、潜像領域(14)から確認できる第1の層(5))を視認できず、反対に、可視光源下の正反射光領域においては、肉眼で潜像領域(14)を視認可能となるように構成する。一般的に物体の色は、光源、観察環境(温度)、物体の分光反射率等により決定される。これらの観察条件により視認する色の感じ方はそれぞれ異なるが、本発明においての観察条件は、一定の条件であるものとする(例えば、観察条件:光源がD65で観察環境が20℃)。
【0069】
図7は、本発明に関わる印刷物(1)を、定位置の可視光源(R)に対して、観察角度を拡散光領域及び正反射光領域で観察した際の可視光源(R)、視点(E1、E2)及び印刷物(1)の三つの位置関係を示した図である。可視光源(R)と視点(E1)と印刷物(1)が図7(a)に示す位置関係にあるとき、拡散光領域で観察したこととなる。また、可視光源(R)と視点(E2)と印刷物(1)が図7(b)に示す位置関係にあるときは、正反射光領域で観察したこととなる。
【0070】
次に、観察角度の変化により、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(13b)との色差ΔEが所定の値変化する原理について説明する。前述のとおり、本発明における拡散光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が−10〜10°となる領域であり、正反射光領域とは、定位置の照明光源からの入射光角度が45°の場合において、受光角度が35〜55°となる領域のことである。印刷物(1)において、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は、図7(a)に示す拡散光領域を意味する位置関係では等色であり、肉眼ではそれぞれの領域を区別することができず、可視画像(3)のみ視認できる。
【0071】
反対に、図7(b)に示す正反射光領域において、潜像領域(14)から確認される第1の層(5)は、観察角度を変化させることで、色が変化する材料を用いて形成しているので、観察角度を照明光源に対して拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、明度及び/又は色が変化し、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(13b)との色差ΔEが所定の値変化する。よって、潜像領域(14)は視認可能となり、複数配置された潜像領域(14)によって形成された潜像画像(4)が視認可能となる。
【0072】
図8(a)は、拡散光領域における潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEを示すグラフであり、図8(b)は、正反射光領域における潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEを示すグラフである。なお、この図8における網点構成は、図5(b)に示した構成と同じとする。
【0073】
測定サンプルは、まず、測定サンプルA(4×4cm)は、第1の領域(12)を30×30ピクセル、第2の領域(13)を6×6ピクセルとして、第1の層(5)である基材(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg)上に、第2の層(6)として第2の隠蔽領域(11)における第1のくり抜き領域(9)の面積率を100%(第2の隠蔽領域(11)が全て第1のくり抜き領域(9)になっている状態)とし、白インク(東洋インキ製造株式会社製、LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷により第1の隠蔽領域(10)のみを隠蔽面積率100%(ベタ印刷)とし、第3の層(7)として第1の領域(12)を印刷せずに第2の領域(13)のカムフラージュ領域(13b)の面積率を0%(第2のくり抜き領域(13a)の面積率を100%)としてインクジェット印刷により作製した。
【0074】
また、測定サンプルB(4×4cm)は、第1の層(5)である基材(株式会社竹尾製、オフメタルN 銀 165kg)上に、第2の層(6)として第2の隠蔽領域(11)における第1のくり抜き領域(9)の面積率を0%(第2の隠蔽領域(11)に第1のくり抜き領域(9)がない状態)とし、白インク(東洋インキ製造株式会社製、LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷により第1の隠蔽領域(10)及び第2の隠蔽領域(11)を隠蔽面積率100%(ベタ印刷)し、第3の層(7)として第1の領域(12)を印刷せずに第2の領域(13)のカムフラージュ領域(13b)の面積率を100%(第2のくり抜き領域(13a)の面積率を0%)とし、プロセスインク(東洋インキ製造株式会社製、LIOJET FV03 シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)を用いて、インクジェット印刷により作製した。
【0075】
図8(a)に示した拡散光領域における潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEを示すグラフと、図8(b)に示した正反射光領域における潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEは、変角分光光度計GSP−2型((株)村上色彩技術研究所製。以下、「測定装置」という。)を用いて、前記測定サンプルA及び測定サンプルBのL*の値、a*の値、及びb*の値を測定し、得られた値から色差ΔEを算出した。
【0076】
ただし、図7(a)に示した拡散光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を−10゜から10゜まで変化させて測定した。また、図7(b)に示した正反射光領域を意味する位置関係を測定装置上で再現するために、各測定サンプルに対する可視光源の入射光を45゜に固定し、受光角度を35゜から55゜まで変化させ測定した。なお、測定装置校正は、標準白色板4020Aを用いて、入射光角度45゜、受光角度0゜、すなわち、標準白板に対して完全拡散面で校正を実施した。
【0077】
図8(a)に示したように、拡散光領域においては、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEは、いずれの受光角度においても0.15〜0.31と相対的に小さい値を示している。前述した通り、色差ΔEが6未満であれば等色であることから、拡散光領域においては、常に潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は等色といえる。よって、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は肉眼で識別することが困難であり、その結果、可視画像(3)内に形成された潜像画像(4)は視認することができない。
【0078】
反対に、図8(b)に示した正反射光領域においては、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEが、8.35を示す受光角度が存在する。拡散光領域(例えば、受光角度0°)における、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEが0.20に対して、正反射光領域(例えば、受光角度45°)における、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)の色差ΔEは8.35である。つまり、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色差ΔEは、0.20から8.35へと、8.15変化する。よって、色差ΔEが5以上変化することで、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は肉眼で識別することが可能となり、その結果、可視画像(3)内に形成された潜像画像(4)を視認することが可能となる。
【0079】
なお、同じ観察条件下においては、印刷物(1)を傾けることにより、拡散光領域と正反射光領域は切り替えられる。つまり、印刷物(1)を傾けることで、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は、肉眼で識別することが可能となる。その結果、可視画像(3)内に形成された潜像画像(4)を視認することが可能となる。
【0080】
(本発明における可視画像の視認原理)
さらに詳細に可視画像が視認できる原理を説明する。図9は、本発明に関わる印刷物(1)に形成された印刷領域(2)を、定位置の可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。印刷領域(2)は、可視光源(R)下の拡散光領域において、図9(b)に示した一部拡大図のように、第1の網点部(12a)が視認可能となり、逆に、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は、等色として視認されるため、それぞれの領域を区別することはできない。したがって、潜像領域(14)によって形成される潜像画像(4)を視認することはできず、図9(a)に示した可視画像(3)のみが視認できる。
【0081】
図9(c)は、可視画像(3)が視認できるときの印刷物(1)、光源(R)及び視点との関係を示す模式図である。印刷物(1)を可視光源(R)下の拡散光領域において、肉眼で視認した際には、まず、第1の領域(12)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R2)と拡散光(R3)が生じ、拡散光領域では、拡散光(R3)が得られる。
【0082】
第2の領域(13)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R4)と拡散光(R5)が生じ、拡散光領域では拡散光(R5)が得られる。また、第2の領域(13)は、潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)で構成されていることから、双方に対して、それぞれ正反射光(図示せず)と拡散光(図示せず)が得られる。潜像領域(14)及びカムフラージュ領域(13b)は、可視光源下の拡散光領域で観察したときに等色となるように形成されていることから、それぞれの領域における拡散光の差異は、肉眼では確認できない。
【0083】
本発明における第3の層(7)を構成する網点構成においては、第1の領域(12)は、第2の領域(13)より面積を大きく構成する。可視光源下における拡散光領域においては、第1の領域(12)及び第2の領域(13)の拡散光の強さは、ほぼ一定である。したがって、第1の領域(12)は、第2の領域(13)よりも面積を大きく構成することで、可視光源下における拡散光領域においては、第1の領域(12)における拡散光が、第2の領域(13)よりも支配的に観察されるため、可視画像(3)のみが視認可能となり、潜像領域(14)によって形成されている潜像画像(4)を視認することはできない。
【0084】
(本発明における潜像画像の視認原理)
次に、潜像画像(4)が視認できる原理の詳細を説明する。図10は、本発明に関わる印刷物(1)に形成された印刷領域(2)を、定位置の可視光源(R)下の正反射光領域において、肉眼で視認した場合の平面図及び模式図である。印刷領域(2)は、可視光源(R)下の正反射光領域において、図10(b)に示した一部拡大図のように、潜像領域(14)(第2の領域(13)における第2のくり抜き領域(13a))は肉眼で視認可能となる。つまり、潜像画像(4)を視認することが可能となる。
【0085】
これは、拡散光領域において等色となって区別がつかなかった潜像領域(14)とカムフラージュ領域(13b)が、正反射光領域においては、潜像領域(14)を実質上構成する第1の層(5)の色が変化して、第1の層(5)とカムフラージュ領域(13b)との色差ΔEが所定の値変化し、第1の層(5)とカムフラージュ領域(13b)とを肉眼で区別することが可能となったからである。
【0086】
図10(c)は、潜像画像(4)が視認できるときの印刷物(1)、光源(R)及び視点との関係を示す模式図である。印刷物(1)を可視光源(R)下の正反射光領域において肉眼で視認した際には、まず、第1の領域(12)においては、可視光源(R)からの入射光(R1)によって、正反射光(R2)と拡散光(R3)が生じ、正反射光領域では正反射光(R2)が得られる。
【0087】
また、潜像画像(4)を形成する潜像領域(14)では、正反射光(R4)と拡散光(R5)が生じ、正反射光領域では強い正反射光(R4)が得られる。さらに、カムフラージュ領域(13b)では、正反射光(R6)と拡散光(R5)が生じ、正反射光領域では正反射光(R6)が得られる。
【0088】
したがって、潜像領域(14)の正反射光(R4)は、第1の領域(12)及びカムフラージュ領域(13b)の正反射光(R2、R6)よりも強くなり、その光沢値の差異によってカムフラージュ領域(13b)に対して潜像領域(14)に色差Δが生じ、潜像画像(4)として視認することが可能となる。よって、可視光源下の正反射光領域においては、印刷物(1)の印刷領域(2)を観察した場合に、潜像画像(4)を視認することができる。
【0089】
(第2の実施形態)
次に、本発明の別の形態について説明するが、第1の層(5)については、第1の実施形態と同様であるため省略することとし、併せて、第2の層(6)及び第3の層(7)の一部についても第1の実施の形態と重複するところは省略することとする。
【0090】
第2の実施形態では、第1の実施形態と異なるところとして、第2の層(6)及び第3の層(7)において、それぞれの層にくり抜き領域を形成せず、隠蔽面積率及び透過率の差異により潜像領域(14)を形成するところである。
【0091】
まず、第2の層(6)における層構成について、図11を用いて説明する。第2の層(6)は、第1の実施形態と同様、第1の層(5)の光沢を隠蔽する役割を担っているため、やはり白インキを用いて形成する。ただし、第1の実施形態における第1のくり抜き領域(9)に該当する箇所にも白インキを印刷することとするが、周辺の隠蔽面積率よりも低い隠蔽面積率によって形成することとし、この領域を、第1の潜像領域(14a)と定義する。
【0092】
したがって、第2の層(6)を構成している第1の隠蔽領域(10)、第2の隠蔽領域(11)及び第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率の関係は、第1の隠蔽領域(10)≧第2の隠蔽領域(11)>第1の潜像領域(14a)となる。ただし、第1の潜像領域(14a)は、正反射光領域において下層の第1の層(5)の光沢を伴わせる必要があるため、隠蔽面積率については、0%以上100%未満の範囲とする必要がある。
【0093】
また、第1の隠蔽領域(10)及び第2の隠蔽領域(11)は、正反射光領域において下層の第1の層(5)の光沢を抑える必要があるため、隠蔽面積率については、0%よりも大きく、100%以下の範囲とする必要がある。なお、前述のとおり、第1の潜像領域(14a)は、白インキを印刷することで、第1の実施形態における第1のくり抜き領域(9)と区分けして定義しているが、第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率を0%としてもよい。例えば、第1の実施形態と同様、第1の隠蔽領域(10)の隠蔽面積率を100%、第2の隠蔽領域(11)の隠蔽面積率を100%、第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率を0%としてもよい。
【0094】
第1の潜像領域(14a)を、第1の隠蔽領域(10)及び第2の隠蔽領域(11)よりも隠蔽面積率を低くすることにより、前述のとおり、正反射光領域において第1の層(5)における光沢が視認できることとなるため、第1の潜像領域(14a)を複数配置することで、潜像画像(4)を形成することとなる。なお、第1の隠蔽領域(10)、第2の隠蔽領域(11)及び第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率を0%又は0%に近似した設定、すなわち、第2の層(6)をほぼ除いた設定とした場合でも、印刷物として第1の潜像領域(14a)の光沢性が第1の領域(12)及び第2の領域(13)よりも高ければ、正反射光領域における潜像画像(4)は視認可能である。しかし、第1の隠蔽領域(10)及び第2の隠蔽領域(11)と第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率が近似すると、正反射光領域における潜像画像(4)の視認性が低下する恐れもあるので、第1の隠蔽領域(10)、第2の隠蔽領域(11)及び第1の潜像領域(14a)の隠蔽面積率を適宜設定する必要がある。
【0095】
次に第2の実施形態における第3の層(7)について説明する。この第3の層(7)については、第1の実施形態同様、可視光源下における拡散光領域において視認可能な可視画像(3)を形成するものであり、可視画像を形成するための基本的な網点構成は、第1の実施形態と同じである。
【0096】
第1の実施形態では、潜像画像(4)を形成するために、第2の領域(13)内において、第2の層(6)内に形成した第1のくり抜き領域(9)と同じ位置に、第2のくり抜き領域(13a)を形成するものであったが、第2の実施形態においては、第1の実施形態における第2のくり抜き領域(13a)に該当する箇所にはくり抜きを行なわず、透過率の高いインキ層で形成し、最下層である第1の層(5)の光沢を伴わせることとする。
【0097】
第3の層(7)における第2の領域(13)については、二通りの形成方法があり、まず、一つ目について、図12を用いて説明する。
【0098】
図12に示すように、第3の層(7)は、可視画像(3)を形成するための第1の領域(12)と、潜像画像(4)を形成するための第2の領域(13)を備えているところは第1の実施形態と同様である。ただし、前述のとおり、第2の領域(13)内において、潜像画像(4)を形成するための第2のくり抜き領域(13a)は備えていない。図12(a)では、下層の第1の潜像領域(14a)との位置関係を示すため、第2の領域(13)内に円により図示しているが、図12(b)に断面図として示したように、実際には、第2の領域(13)に、第1の潜像領域(14a)に該当するような領域は存在しない。ただし、この円により図示している領域は、本第2の実施形態においては、潜像画像(4)を形成するための領域となるため、第1の実施形態と同様、潜像領域(14)と定義する。また、第2の領域(13)における、潜像領域(14)以外の領域は、潜像画像(4)をカムフラージュするための領域となるため、第1の実施形態と同様、カムフラージュ領域(15)と定義する。
【0099】
第2の領域(13)は、第1の実施形態における第2の領域(13)のカムフラージュ領域により全体を構成しているものである。ただし、下層である第2の層(6)における第1の潜像領域(14a)を介して、正反射光領域において最下層の第1の層(5)の光沢を視認できる程度の透過率とする必要がある。よって、第2の領域(13)の透過率は20%以上100%以下の範囲とする必要がある。
【0100】
また、この第2の領域(13)は、拡散光領域において潜像画像(4)が視認できない状態とするために、第2の領域(13)を形成することにより、拡散光領域において、第2の層(6)における第1の潜像領域(14a)を介して視認可能な第1の層(5)と第2の層(6)における第2の隠蔽領域(11)の色彩が等色となるようにする必要がある。いわゆる、拡散光領域において、第2の領域(13)内では、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(15)との色彩を等色となるように、第2の領域(13)を形成する。
【0101】
第2の実施形態における一つ目の層構成を図示したものが図13である。図13(a)に示すように、第1の層(5)の上に形成する第2の層(6)の第1の隠蔽領域(10)と、さらにその上に形成する第3の層(7)の第1の領域(12)は同じ位置に配置され、同様に、第2の隠蔽領域(11)と、第2の領域(13)は同じ位置に配置される。なお、図13(b)に示すように、実際に潜像画像(4)を形成する領域となる第2の層(6)に形成される第1の潜像領域(14a)と第2の隠蔽領域(11)の上には、潜像領域(14)とカムフラージュ領域(15)が拡散光領域において等色となるように形成した透過率20%以上100%以下の範囲の第2の領域(13)が配置されている。
【0102】
図13に示した層構成とすることで、第1の実施形態同様、可視光源下における拡散光領域では、第3の層(7)の第1の領域(12)によって形成された可視画像(3)が視認され、印刷物(1)を傾けて正反射光領域としたときに、透過率の高い第2の領域(13)を介し、さらに、第2の隠蔽領域(11)よりも隠蔽面積率の低い第1の潜像領域(14a)を介して第1の層(5)が確認できることで、潜像領域(14)が形成され、この潜像領域(14)が複数配置されたことにより形成された潜像画像(4)を視認することが可能となる。
【0103】
次に、第2の実施形態の第3の層(7)の二つ目の態様について図14を用いて説明する。第1の領域(12)については、一つ目の態様と同様であるが、第2の領域(13)においては、下層の第2の層(6)に形成する第1の潜像領域(14a)と同じ位置に該当する箇所、すなわち第2の潜像領域(14b)と、他の第2の領域(13)、いわゆる、カムフラージュ領域(13b)を形成する。したがって、第2の領域(13)は、カムフラージュ領域(13b)と第2の潜像領域(14b)の2色により形成されていることとなる。なお、第2の潜像領域(14b)は、透過率20%以上100%以下の範囲で形成する。この範囲よりも低いと、最下層の第1の層(5)の光沢を確認することができなくなってしまう。
【0104】
前述のとおり、第2の層(6)に形成した第1の潜像領域(14a)は、第1の層(5)の光沢を確認できる程度に隠蔽面積率が低く形成してあるため、第2の潜像領域(14b)の透過率を高く形成することで、下層である第1の潜像領域(14a)を介して、最下層の第1の層(5)の光沢が正反射光領域において確認可能となる。ただし、拡散光領域においては、潜像画像(4)を視認不可能とするため、カムフラージュ領域(13b)と第2の潜像領域(14b)は、拡散光領域においては、等色となるように形成する。
【0105】
第2の実施形態における二つ目の層構成を図示したものが図15である。図15(a)及び(b)に示すように、第1の層(5)の上に形成する第2の層(6)の第1の隠蔽領域(10)と、その上に形成する第3の層(7)の第1の領域(12)は同じ位置に配置され、同様に、第2の隠蔽領域(11)と、カムフラージュ領域(13b)は同じ位置に配置される。また、第1の潜像領域(14a)と、その上に形成する第2の潜像領域(14b)は同じ位置に配置される。
【0106】
図15に示した層構成とすることで、第1の実施形態及び第2の実施形態の一つ目の態様と同様、可視光源下における拡散光領域では、第3の層(7)の第1の領域(12)によって形成された可視画像(3)が視認され、印刷物(1)を傾けて正反射光領域としたときに、透過率の高い第2の潜像領域(14b)を介し、さらに、第2の隠蔽領域(11)よりも隠蔽面積率の低い第1の潜像領域(14a)を介して第1の層(5)が確認できることで、潜像領域(14)が形成され、この潜像領域(14)が複数配置されたことにより形成された潜像画像(4)を視認することが可能となる。
【0107】
なお、第2の実施形態では、第2の層(6)及び第3の層(7)のそれぞれの層にくり抜き領域を形成しないことを特徴としているが、第2の層(6)又は第3の層(7)のどちらか一方において、くり抜き領域を形成しても良い。
【0108】
本発明の第3の層(7)の第1の領域(12)により形成する可視画像(3)及び潜像領域(14)により形成する潜像画像(4)は、文字、数字、記号、絵柄、風景等を適宜設定することが可能であるが、潜像画像(4)については、文字、数字、記号、絵柄等の場合、ポジ画像で形成することが好ましく、人物や風景等の場合には、ネガ画像で形成することが好ましい。また、前述の説明では、第1のくり抜き領域(9)、第2のくり抜き領域(13a)、潜像領域(14)、第1の潜像領域(14a)及び第2の潜像領域(14b)は、網点形状として円形ドットを用いていたが、円形に限定されるものではなく、三角、四角、多角形等の形状、ランダムな形状、又は本出願人が出願した特許第3478474号公報で開示している自由度のある網点形状を用いても良い。
【0109】
また、本発明の第3の層(7)により形成する第1の領域(12)及び第2の領域(13)の形状は、前述の説明では、いずれも四角形としていたが、四角形に限定されるものではなく、第1の領域(12)及び第2の領域(13)を多角形としても良い。例えば、図16においては、別の多角形の一例として、第1の領域(12)を六角形、第2の領域(13)を三角形とした。
【0110】
本網点構成を形成する材料としては、公知のグラビアインキ、スクリーンインキ、プロセスインキ、インクジェットプリンタ用インク等を使用することができる。また、第1の層(5)を隠蔽するための第2の層(6)を形成する材料としては、白インキを使用することができる。さらに、第1の層(5)については、基材自体を光輝性材料により形成しても良いし、上質紙、コート紙、アート紙等の紙葉類、プラスチックフィルム等の上に、金属粉インキや金属箔を付与して形成しても良い。ただし、金属粉インキや金属箔を付与する場合には、基材の平滑度が1,000秒以上2,000秒未満であることが好ましい。なお、平滑度の測定は、日本工業規格のJIS P 8119に規定されている試験方法で行い、デジベック平滑度試験機(株式会社東洋精機製作所製、DB−2型)を用いて測定した。
【0111】
第1の層(5)、第2の層(6)及び第3の層(7)をそれぞれ形成する方法としては、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ、金属蒸着、ホットスタンプ、コールドスタンプ等、特に限定されるものではない。
【0112】
以下、本発明における潜像画像を有する印刷物について、実施例を用いて詳細に説明するが、以下の実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的な範疇であれば、適宜、変更が可能なことは言うまでもない。
【実施例1】
【0113】
実施例1として、図1(a)に示すように、左下部に本発明における印刷領域(2)を形成した商品券(1)を作製した。この商品券(1)を可視光源下における拡散光領域で観察すると、印刷領域(2)は、図2(a)に示したゴシック体の「NPB」が確認でき、商品券(1)を傾けて正反射光領域で確認すると、印刷領域(2)は、図2(b)に示した明朝体の「NPB」が確認できるものである。
【0114】
本実施例1における商品券(1)の基材(8)は、インクジェットプリンタ用写真用紙(EPSON製 写真用紙<光沢>)を用い、この基材(8)上の印刷領域(2)にあたる領域に、金インキ(日本ペイント株式会社製 金コロイドインキ)を用いて、インクジェットプリンタ(EPSON製、PX−G930)により、網点面積率100%(ベタ)の第1の層(5)を形成した。
【0115】
次に、金インクにより形成した印刷領域(2)上に、白インク(東洋インキ製造株式会社製、LIOJET FV03 ホワイト)を用いて、インクジェット印刷装置(株式会社トライテック製 Patterning JET)により印刷を行い、図4に示すような、第1の層の金インクの光沢性を抑えるための第1の隠蔽領域(10)及び第2の隠蔽領域(11)、さらには、第2の隠蔽領域内に、白インキを印刷しない領域(前述した実施の形態における「第1のくり抜き領域(9)」)を有するように、第2の層(6)を形成した。
【0116】
なお、第1の隠蔽領域(10)と第1のくり抜き領域(9)を除いた第2の隠蔽領域(11)は、共に隠蔽面積率100%(ベタ)で印刷した。また、白インクを印刷していない一部の領域は、この白インクの上に印刷する第3の層(7)の第2のくり抜き領域(13a)と対応した位置となっている。
【0117】
次に、白インクにより形成した第2の層(6)の上に、プロセスインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)を用いて、図5(b)に示すような網点構成により、図5(a)の模様となる第3の層(7)すなわち、第1の領域(12)及び第2の領域(13)を形成した。
【0118】
なお、図5(b)に示した網点構成において、第1の領域(12)の面積は、30×30ピクセルで形成し、第2の領域(13)は、6×6ピクセルで形成した。
【0119】
また、第2の領域(13)には、印刷を施さない第2のくり抜き領域(13a)を形成し、前述のとおり、第2の層(6)の白インキを印刷していない第1のくり抜き領域(9)と同じ位置としてある。したがって、第3の層(7)の第2のくり抜き領域(13a)と第2の層(6)の第1のくり抜き領域(9)が同じ位置となっていることから、その領域となった潜像領域(14)には、第1の層(5)の金インクが確認できる状態となっている。
【0120】
この潜像領域(14)によって形成する潜像画像(4)を、拡散光領域において視認させないために、第2の領域(13)に形成するカムフラージュ領域(13b)は、拡散光領域において潜像領域(14)と等色となるように形成した。拡散光領域(例えば、受光角度0°)における、カムフラージュ領域(13b)と潜像領域(14)との色差ΔEは1.14であった。
【0121】
なお、第1の網点部(12a)及び潜像領域(14)を形成するための第1のくり抜き領域並びに第2のくり抜き領域の形状については、円形ドットで形成した。
【0122】
以上の構成により形成した商品券(1)の印刷領域(2)を、可視光源下の拡散光領域において肉眼で観察したところ、図2(a)に示した可視画像(3)が視認でき、図2(b)に示した潜像画像(4)は確認することができなかった。
【0123】
また、その位置から正反射光領域まで商品券(1)を傾けて印刷領域(2)を観察したところ、図2(b)に示した潜像画像(4)が視認でき、逆に、図2(a)に示した可視画像(3)を確認することはできなかった。
【実施例2】
【0124】
実施例2として、図17に示すように、右下部に本発明における印刷領域(2’)を形成したカード型の証明書(1’)を作製した。この証明書(1’)を可視光源下における拡散光領域で観察すると、印刷領域(2’)は、図18(a)に示した複数の星が確認でき、証明書(1’)を傾けて正反射光領域で確認すると、印刷領域(2’)は、図18(b)に示した「合格」の文字が確認できるものである。
【0125】
本実施例2における証明書(1’)の基材(8’)は、0.2mmの厚さを有するアルミフォイルを用いた。したがって、本実施例2では、基材自体が第1の層(5’)となる光輝性材料を用いたこととなる。
【0126】
次に、基材(8’)上の印刷領域(2’)にあたる領域以外を、白インク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 ホワイト)を用いてベタ刷りし、印刷領域(2’)は、同じ白インクを用いて、図19に示すような、第1の層(5’)のアルミフォイルの光沢を抑えるための第1の隠蔽領域(10’)及び第2の隠蔽領域(11’)、さらには、第2の隠蔽領域(11’)内に、基材(8’)の光沢性を視認可能な程度の隠蔽面積率となる第1の潜像領域(14a’)を有するように、第2の層(6’)を形成した。
【0127】
なお、第1の隠蔽領域(10’)は隠蔽面積率100%、第1の潜像領域(14a’)を除いた第2の隠蔽領域(11’)は、隠蔽面積率100%、第1の潜像領域(14a’)は隠蔽面積率10%で印刷した。また、第1の潜像領域(14a’)は、この白インクの上に印刷する第3の層(7’)の第2の潜像領域(14b’)と対応した位置となっている。
【0128】
次に、白インクにより形成した第2の層(6’)の上の全面に、プロセスインク(東洋インキ製造株式会社製 LIOJET FV03 シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)を用いて第3の層(7’)を形成した。この第3の層(7’)については、印刷領域(2’)以外は網点による通常の印刷を行い、印刷領域(2’)は、図14(a)に示すような網点構成により図18(a)の模様を形成した。
【0129】
なお、少なくとも第3の層(7’)の印刷領域(2’)の網点構成は、第1の領域(12’)の面積が30×30ピクセルで形成し、第2の領域(13’)は、6×6ピクセルで形成した。
【0130】
第2の領域(13’)は、基材(8’)の光沢性を利用して潜像画像を形成するために、透過率の高いインキ層で形成した第2の潜像領域(14b’)と、拡散光領域において、第2の潜像領域(14b’)と等色となるようにカムフラージュ領域(13b’)をイエロー及びブラックのインキ層で形成した。なお、第2の潜像領域(14b’)は、透過率82%で形成した。拡散光領域(例えば、受光角度0°)における、カムフラージュ領域(13b’)と第2の潜像領域(14b’)との色差ΔEは0.65であった。
【0131】
本実施例2の証明書(1’)における印刷領域(2’)の構成と、その印刷領域(2’)以外の領域の構成を模式的に示したのが図19である。図19(a)は、印刷領域(2’)以外の領域の構成を示しており、光輝性の基材であるアルミフォイルの上に白インクが印刷され、さらにその上に、プロセスインクにより可視画像を形成するための網点が印刷されている。
【0132】
図19(b)は、印刷領域(2’)の構成を示しており、光輝性の基材であるアルミフォイルの上に、第1の隠蔽領域(10’)、第2の隠蔽領域(11’)及び第1の潜像領域(14a’)が白インクにより印刷され、第1の隠蔽領域(10’)の上には第1の領域(12’)を印刷し、第2の隠蔽領域(11’)の上には第2の印刷領域(13’)を印刷した。特にこの第2の隠蔽領域(11’)と第2の印刷領域(13’)については、第1の潜像領域(14a’)と第2の潜像領域(14b’)が同じ位置となるように印刷してある。
【0133】
このような層構成及び網点構成の位置関係としたことで、第2の潜像領域(14b’)において、第1の潜像領域(14a’)を介して基材(8’)の光沢性を確認することが可能となる。また、印刷領域(2’)以外の領域については、白インクにより基材の光沢性を抑えているため、光沢性のない状態で、白インクの上に印刷されているプロセスインクにより可視画像(3’)が形成されていることとなる。
【0134】
なお、第1の網点部(12a’)、第1の潜像領域(14a’)及び第2の潜像領域(14b’)の形状については、円形ドットで形成した。
【0135】
以上の構成により形成した証明書(1’)の印刷領域(2’)を、可視光源下の拡散光領域において肉眼で観察したところ、図18(a)に示した可視画像(3’)が視認でき、図18(b)に示した潜像画像(4’)は確認することができなかった。
【0136】
また、その位置から正反射光領域まで証明書(1’)を傾けて印刷領域(2’)を観察したところ、図18(b)に示した潜像画像(4’)が視認でき、逆に、図18(a)に示した可視画像(3’)を確認することはできなかった。
【符号の説明】
【0137】
1 潜像画像を有する印刷物
1’ 証明書
2、2’ 印刷領域
3、3’ 可視画像
4、4’ 潜像画像
5、5’ 第1の層
6、6’ 第2の層
7、7’ 第3の層
8、8’ 基材
9 第1のくり抜き領域
10、10’ 第1の隠蔽領域
11、11’ 第2の隠蔽領域
12、12’ 第1の領域
12a、12a’ 第1の網点部
13、13’ 第2の領域
13a 第2のくり抜き領域
13b、13b’、15 カムフラージュ領域
14 潜像領域
14a、14a’ 第1の潜像領域
14b、14b’ 第2の潜像領域
R 可視光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に印刷領域が形成され、
前記印刷領域は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料から成る第1の層と、
前記第1の層の上に、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させても、前記第1の層の色を変化させないように隠蔽するための隠蔽材料から成る第2の層と、
前記第2の層の上に、有色インキにより形成された第3の層から成り、
前記第2の層は、前記第1の層を隠蔽する第1の隠蔽領域と、隠蔽面積率が前記第1の隠蔽領域と同じ又は低い第2の隠蔽領域から成り、前記第2の隠蔽領域内には、一部がくり抜かれた第1のくり抜き領域を有し、
前記第3の層は、連続階調画像を表現するための網点を構成する一つの第1の領域と、前記第1の領域に隣接し、かつ、前記第1の領域よりも小さい一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の前記第2の領域の周囲が、複数の前記第1の領域により囲まれ、前記第3の層により可視画像が形成され、
前記第2の領域は、一部がくり抜かれた第2のくり抜き領域と、前記第2のくり抜き領域を囲むカムフラージュ領域から成り、
前記第1のくり抜き領域と、前記第2のくり抜き領域は同じ箇所に配置されることで潜像領域が形成され、前記潜像領域を複数配置することで潜像画像が形成され、
前記カムフラージュ領域と前記潜像領域が拡散光領域において等色となるように形成されることにより、可視光源下の拡散光領域では前記可視画像が視認され、観察角度を異ならせることで前記潜像領域及び前記カムフラージュ領域の色差ΔEが所定の値変化し、前記潜像領域における前記第1の層の光沢により形成された潜像画像が視認可能なことを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項2】
前記第1のくり抜き領域と、前記第2のくり抜き領域は、大きさ及び形状が等しいことを特徴とする請求項1記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項3】
基材の少なくとも一部に印刷領域が形成され、
前記印刷領域は、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで、色が変化する材料から成る第1の層と、
前記第1の層の上に、定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させても、色を変化させないように隠蔽するための隠蔽材料から成る第2の層と、
前記第2の層の上に、有色インキにより形成された第3の層から成り、
前記第2の層は、前記第1の層を隠蔽する第1の隠蔽領域と、隠蔽面積率が前記第1の隠蔽領域と同じ又は低い第2の隠蔽領域と、前記第2の隠蔽領域内に、前記第2の隠蔽領域よりも隠蔽面積率が低い第1の潜像領域から成り、
前記第3の層は、連続階調画像を表現するための網点を構成する一つの第1の領域と、前記第1の領域に隣接し、かつ、前記第1の領域よりも小さい一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の前記第2の領域の周囲が、複数の前記第1の領域により囲まれ、前記第3の層により可視画像が形成され、
前記第2の領域は、透過率20%以上のインキ層で形成され、
前記第2の隠蔽領域と前記第2の領域は同じ位置に積層されることで、前記第1の潜像領域と前記第1の潜像領域と同じ位置に積層された前記第2の領域により潜像領域が形成され、前記第1の潜像領域を除く前記第2の隠蔽領域と同じ位置に積層された前記第2の領域によりカムフラージュ領域が形成されて、前記潜像領域が複数配置されることで潜像画像が形成され、
前記カムフラージュ領域と前記潜像領域が拡散光領域において等色となるように形成することにより、可視光源下の拡散光領域では前記可視画像が視認され、観察角度を異ならせることで、潜像領域及びカムフラージュ領域の色差ΔEが所定の値変化し、前記潜像領域における前記第1の層の光沢により形成された潜像画像が視認可能なことを特徴とする潜像画像を有する印刷物。
【請求項4】
前記第2の領域は、透過率20%以上のインキ層で形成された第2の潜像領域と、前記第1の潜像領域と同じ位置に積層された前記第2の潜像領域と拡散光領域において等色となるように前記第2の隠蔽領域と同じ位置に積層されたインキ層で形成されたカムフラージュ領域から成り、前記第1の潜像領域と前記第2の潜像領域が同じ箇所に配置されていることを特徴とする請求項3記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項5】
前記第2の潜像領域と前記カムフラージュ領域は、異なる色のインキにより形成されていることを特徴とする請求項4記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項6】
前記第2の領域は、前記第1の領域の透過率と同じ又は高い透過率のインキ層で形成されていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項7】
前記第1の層は、基材自体が定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで色が変化する材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項8】
前記第1の層は、基材が紙又はプラスチックフィルムから成り、前記基材の上に定位置の照明光源に対して観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることで前記色が変化する材料が付与されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項9】
前記色が変化する材料は、定位置の照明光源に対して、観察角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることにより、拡散光領域における前記潜像領域と前記カムフラージュ領域との色差ΔEに対して、正反射領域における前記潜像領域と前記カムフラージュ領域との色差ΔEが5以上変化する材料であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項10】
前記色が変化する材料が、光輝性材料であり、光輝性材料が金属粉インキ、フォイル、金属又は金属光沢調フィルムのいずれかの材料であることを特徴とする請求項9記載の潜像画像を有する印刷物。
【請求項11】
前記有色インキは、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインキであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の潜像画像を有する印刷物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2011−218741(P2011−218741A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92854(P2010−92854)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】