潜像画像形成体
【課題】
再帰性反射材料を用いて形成する潜像画像において、人物の顔、風景等の高い解像度が要求される画像でも立体的に表現することが可能であって、加えて画像のチェンジ効果、アニメーション効果を備えた潜像画像形成体を提供する。
【解決手段】
基材の上に積層された再帰性反射材料において、マイクロレンズに対応した光遮断層に、基材に対して所定の角度の方向に貫通した孔で成る潜像画像要素を複数形成し、同じ角度で形成された複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像を形成する。
再帰性反射材料を用いて形成する潜像画像において、人物の顔、風景等の高い解像度が要求される画像でも立体的に表現することが可能であって、加えて画像のチェンジ効果、アニメーション効果を備えた潜像画像形成体を提供する。
【解決手段】
基材の上に積層された再帰性反射材料において、マイクロレンズに対応した光遮断層に、基材に対して所定の角度の方向に貫通した孔で成る潜像画像要素を複数形成し、同じ角度で形成された複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、反射光下では潜像画像が不可視であって、透過光下では立体感を伴った潜像画像が出現し、加えて透過光下で印刷物をわずかに傾けて観察することで出現した潜像画像が変化する、特殊な視覚効果を備えた潜像画像形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
文字や図形などの画像が立体的に浮き上がって見える立体的な視覚効果や、画像が動いて見える動画的な視覚効果は、人目を惹きやすく、また容易に偽造することは困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として多く用いられる傾向にある。この代表例は、米国のビザカードにおいて貼付されているホログラムであり、1983年に発行されたもので、鳩の立体画像が形成されている。
【0003】
ホログラム以外にも、パララックスバリアやレンチキュラー等の公知技術を用い、これらの技術が備える、わずかな観察角度の違いで画像を変化させられるという特徴を活かし、画像が立体的に視認できる効果や、画像が動いて見える動画的な視覚効果を備えたセキュリティ印刷物はすでに広く存在している。
【0004】
しかし、一般的なパララックスバリアやレンチキュラーを用いた立体画像は、バリア効果やレンズ効果を機能させるために印刷物に一定の厚み(100μm以上)が必要となるという問題があった。加えて、パララックスバリアのバリア層あるいはレンチキュラーのレンズ層に対して、その下部に位置する潜像画像の位相がわずかでも適性位置からずれた場合には、立体的な視覚効果や動画的な視覚効果が不明瞭なものとなることから、製造にあたっては厳密な刷り合せの管理を必要とするという問題があった。
【0005】
このような問題のうち、レンズとその下部に位置する潜像画像の位置合わせを要することなく、反射光による観察で複数の異なる角度から画像が観察される印刷物が、2008年1月23〜日25日にサンフランシスコで開催された「ODS(Optical Document Security)」で発表されている。この印刷物は、直接、レンチキュラーに複数の異なる角度からレーザー彫刻して、画像が形成されて成り、レーザー彫刻によって形成される画像は、異なる角度から観察したときの女性の顔が形成されている。そして、この印刷物を反射光下で観察すると、両眼視差に基づいた立体的な女性の顔が観察される。
【0006】
また、近年、再帰性反射材料と呼ばれる特殊な材料を利用して立体画像が出現するシートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。再帰性反射材料とは、例えば多数のマイクロレンズが高い密度でベース基材に埋没したシートにおいて、マイクロレンズと基材の間に光を反射する材料(例えばアルミ)で光反射層を形成したものである。この再帰性反射材料は、特定の方向から光が入射した場合、主として入射した光の方向を中心に光を強く反射するという特徴を有しているため、従来から反射板や道路標識等に用いられている。特許文献1に記載の、再帰性反射材料を用いて立体画像を形成する技術とは、マイクロレンズ下の光反射層の感光特性を利用するものであって、マイクロレンズを通して強い光を照射し、マイクロレンズ下の光反射層に任意の画像を焼き付けることによって形成される。この方法によって、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の記録と再生が可能であり、比較的薄く(100μm以下)立体画像を形成できるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−524205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般にセキュリティ印刷物は、万人が確実に真偽判別を行うために、反射光下で観察される画像と、例えば、透かして観察するといった、真偽判別を行う場合に要求される特定の条件下で観察される画像とが、異なっていることがより望ましいと考えられている。しかし、前述した技術は、印刷物の真偽判別を行うために、反射光下で立体画像を観察するものであり、真偽判別を要求されるか否かに関係なく、いずれかの画像が常時出現している。よって、前述した技術は、前述したような効果を有していないことから、真偽判別を要求されるセキュリティ印刷物としては問題がある。また、レンチキュラーに画像を形成する場合は、再帰性反射材料と比較すると立体画像が視認される角度範囲が狭いという問題があった。
【0009】
一方、特許文献1記載の技術において、立体的な画像は反射マスクを用いた強い光源による露光か、強い光による描画によって形成されるが、いずれの場合も画像はレーザーのような強い光を凹レンズや分散レンズを通して大きく拡散させ、その拡散光や散乱光に変換された光によって画像を描画する。この方法は、短時間で立体画像を形成することが可能な反面、人物の顔のように複雑な階調と高い解像度を要求する画像を形成することができず、形成できる画像は解像度の低い単純な画像、すなわち文字や記号、マーク等しか表現できないという問題があった。
【0010】
加えて、特許文献1記載の技術を用いて得られる画像は、観察位置に応じて画像を上下左右に平行移動させることで形成可能な遠近感の表現や、ある画像を異なる視点から見た画像へと変化させる3Dの表現は可能であるものの、特許文献1の発明において、マイクロレンズに焼き付けられる画像は、マスクを透過した光の拡散光や散乱光によって焼き付けられるため、ある画像を異なる画像へと変化させる、いわゆるチェンジング効果、モーフィング又はアニメーションのような動画的な視覚効果を付与することは不可能であるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、再帰性反射材料を用いて形成する潜像画像において、人物の顔や風景等の高い解像度が要求される画像でも表現することが可能な潜像画像形成体を提供する。また、特定の形成方法に従って複数の画像を再帰性反射材料の一領域に形成することによって、極めて自然な立体感を備えた潜像画像を形成するとともに、潜像画像のチェンジ効果及び/又はアニメーション効果を備えた潜像画像形成体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の潜像画像形成体は、複数のマイクロレンズと、マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つのマイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る一つの潜像画像要素を有し、潜像画像要素はマイクロレンズの中心に対して所定の角度を成して形成され、所定の角度を成す複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像が形成され、透過光による観察において、所定の角度の方向から観察すると、複数の潜像画像要素を透過する光によって潜像画像が観察されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の潜像画像形成体は、複数のマイクロレンズと、マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つのマイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る潜像画像要素を少なくとも一つ有し、少なくとも一つの潜像画像要素は、基材に対して互いに異なる第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)で形成された第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素のいずれかであり、第一の潜像画像要素の集合によって第一の潜像画像が形成され、第二の潜像画像要素の集合によって第二の潜像画像が形成され、・・・、第nの潜像画像要素の集合によって第nの潜像画像が形成され、透過光による観察において、基材を第一の角度に傾けて観察した場合には、第一の潜像画像が観察され、第二の角度に傾けて観察した場合には、第二の潜像画像が観察され、・・・、第nの角度に傾けて観察した場合には、第nの潜像画像が観察されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の潜像画像形成体は、一つのマクロレンズに対応した光遮断層に、第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素(nは2以上の自然数)のうち、二つ以上の異なる潜像画像要素が形成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の潜像画像形成体は、第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)は、一つの任意の立体物を異なる角度から観察する角度であり、第一の潜像画像、第二の潜像画像、・・・第nの潜像画像は、一つの任意の立体物を第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)から観察した、相互に異なる画像によって構成され、透過光による観察において、任意の立体物が潜像画像として立体的に観察されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の潜像画像形成体は、凹レンズや分散レンズを用いてレーザー光を拡散させる必要はなく、再帰性反射材料に直接レーザー光を照射して潜像画像を描画するため、人の顔や風景といった複雑な階調を有し、かつ、高い解像度を要求する画像も表現することができる。また、同様の理由で描画データを容易に変更することができるため、立体的な視覚効果の表現に留まらず、ある画像を異なる画像へと変化させる、いわゆるチェンジング効果、モーフィング又はアニメーションのような動画的な視覚効果を容易に付与することができる。加えて、本発明の潜像画像形成体は、反射光下で観察した場合に潜像画像は完全に不可視であり、透過光で観察した場合にのみ観察できる、いわゆるすかしのような効果を有する。また出現する潜像画像には立体的な視覚効果又は動画効果が付与されており、これを模倣することは極めて困難であることから、偽造抵抗力が高く、かつ、真偽判別性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の潜像画像形成体の層構造を示す図である。
【図2】本発明の潜像画像形成体を示す図である。
【図3】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図4】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図5】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図6】マイクロレンズと潜像画像の配置と、マイクロレンズに形成される潜像画像要素を示す図である。
【図7】本発明の潜像画像形成体を形成する装置の一例を示す図である。
【図8】潜像画像の観察原理を示す図である。
【図9】実施例1における潜像画像形成体を示す図である。
【図10】実施例1の潜像画像を示す図である。
【図11】潜像画像要素を形成するときの再帰性反射材料の配置を示す図である。
【図12】マイクロレンズに形成される潜像画像要素を示す図である。
【図13】実施例2における潜像画像形成体を示す図である。
【図14】実施例2の潜像画像を示す図である。
【図15】実施例3の潜像画像形成体を示す図である。
【図16】実施例4の潜像画像形成体を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0019】
(基材構成)
本発明の潜像画像形成体(1)は、図1(a)に示すように、基材(2)上の少なくとも一部に再帰性反射材料(3)が積層されて成り、再帰性反射材料(3)は、少なくとも、マイクロレンズ(5)と光遮断層(6)を備える。本発明で用いる再帰性反射材料(3)は、図1(a)に示すように、マイクロレンズ(5)が接着樹脂層(4)に半球のみが埋没し、残りが表面に露出して成る。そして、接着樹脂層(4)に埋没したマイクロレンズ(5)一つ一つの表面に対応して光遮断層(6)が付与される構成となっている。なお、一般的には、再帰性反射材料(3)においてマイクロレンズ(5)の下面に存在するのは、「光を反射する材料」によって構成された「光反射層」と呼ばれるが、再帰性反射材料(3)に用いられている光を反射する材料の多くは、光を反射する特性の他に光を遮断する性質も有しており、本説明においては、本発明で必要とされる性質を鑑みて、便宜上、「光を遮断する材料」によって構成された「光遮断層(6)」とする。
【0020】
図1(b)は、基材(2)上に積層された再帰性反射材料(3)の平面図を示す図である。本発明において、マイクロレンズ(5)の大きさは同じ大きさでもよいし、異なる大きさであってもよい。図1(b)に示すように、マイクロレンズ(5)が配置される密度は、後述する潜像画像(8)を形成するために、ほぼ一様である必要があるが、固定されたピッチで規則的に配置される必要はない。なお、実際のマイクロレンズは、直径が20〜100μm程度であるため、目視で確認することができないが、図1(b)は、マイクロレンズ(5)が一様に配置されている状態を模式的に示している。
【0021】
本発明の潜像画像形成体(1)は、基材(2)を透過する光によって出現する画像を観察するものであるため、基材(2)には、光透過性を有した材料を用いる必要がある。このような材料としては、紙、プラスチック、ガラスがあり、潜像画像形成体(1)の真偽判別を要求される環境における照明条件に応じて、適正な透過率の基材(2)を適宜選択して用いる必要がある。仮に、蛍光灯の下で潜像画像(8)を観察するためには、透過率が10%以上の材料を用い、太陽光の下で潜像画像(8)を観察するためには、透過率が6%以上の材料を用いるのが好ましい。
【0022】
光遮断層(6)については、太陽光や蛍光灯のような一般的な照明程度の光の透過を完全に遮る特性を有する必要があり、かつ、レーザーのような強い光を照射した場合に限っては、消失する特性を有する必要がある。光遮断層(6)は、具体的には一般的な再帰性反射材料に用いられているアルミ、金、銀、スズ、ニッケル、ステンレス等が適当である。また、接着樹脂層(4)としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム系樹脂、ビニル系樹脂等の各種合成樹脂を用いることができる。
【0023】
本発明において、光遮断層(6)は、図1(a)に示すように、光遮断層(6)が所定の角度で部分的に除去された貫通孔が形成され、これによって潜像画像が形成される。以降、所定の方向に光遮断層(6)が部分的に除去された貫通孔のことを「潜像画像要素(7)」として説明する。なお、潜像画像要素(7)を形成する方法については、後述し、続いて潜像画像について説明する。
【0024】
図2(a)は、本発明の潜像画像形成体(1)の平面図であり、再帰性反射材料(3)に形成された潜像画像(8)を示している。なお、図2(a)では、潜像画像(8)の構成を示すために、マイクロレンズ(5)の図は省略している。本発明の潜像画像形成体(1)は、再帰性反射材料(3)に一つの潜像画像(8)を形成してもよいし、第1の潜像画像〜第nの潜像画像(nは2以上の自然数)まで複数の潜像画像(8)を形成してもよい。なお、本実施の形態では、潜像画像(8)の数「n」が3で、第1の潜像画像、第2の潜像画像及び第3の潜像画像が形成される例で説明する。また、三つの潜像画像(8)は、「異なる方向から観察した女性の顔」で構成される潜像画像形成体(1)の例で説明する。以降、三つの潜像画像(8)を区別するため、第1の潜像画像の符号を「8A」、第2の潜像画像の符号を「8B」、第3の潜像画像の符号を「8C」として説明する。図2(a)では、便宜上、第1の潜像画像(8A)のみを記載しているが、本実施の形態において、第1の潜像画像(8A)は、図2(b)に示すように、「真正面から見た女性の顔」であり、第2の潜像画像(8B)は、図2(c)に示すように、「左側から見た女性の顔」であり、第3の潜像画像(8C)は、図2(d)に示すように、「右側から見た女性の顔」で構成される。これら三つの潜像画像(8)は、一度に観察することができるものではなく、潜像画像形成体(1)を所定の角度に傾けて透過光で観察した場合に、それぞれの潜像画像(8)が視認されるものである。なお、潜像画像(8)が観察される原理については後述する。
【0025】
本発明において、潜像画像(8)は、本実施の形態の3つの潜像画像(8)に示すように、「一つの立体物(本実施の形態では、女性の顔を立体物の対象としている。)を異なる角度から観察した画像」が形成される例に限定されるものではなく、例えば、それぞれの潜像画像(8)を相互に相関のある動きを表現した画像とし、パラパラ漫画のように画像の動きを表現する動画的構成や、それぞれの潜像画像(8)を全く異なる図柄で構成し、一つの画像から、全く相関のない異なる画像に変化する、いわゆるチェンジングと呼ばれる画像変化に富んだ構成であってもよい。また、本実施の形態においては、潜像画像(8)を「女性の顔」としているが、本発明の潜像画像形成体(1)に形成する潜像画像(8)は、これに限定されるものではなく、任意の画像を形成することができ、例えば、文字、数字、記号、風景画等でもよい。また、本実施の形態は、三つの潜像画像(8)が形成される例であるが、本発明において、潜像画像の数は三つに限定されるものではなく、更に多数の潜像画像(8)を形成することができ、その構成については、実施例で具体的に説明する。
【0026】
続いて、本実施の形態の潜像画像(8)を形成する方法について説明する。なお、図2(a)に示す潜像画像形成体(1)の横方向を「X軸」、縦方向を「Y軸」、基材(2)に対して垂直方向を「Z軸」として以降説明する。
【0027】
(潜像画像の形成方法)
前述したように、潜像画像(8)は、光遮断層(6)が部分的に除去された潜像画像要素(7)によって形成され、潜像画像要素(7)は、再帰性反射材料(3)に対して、マイクロレンズ(5)側からレーザー光を照射することによって形成される。はじめに、三つの潜像画像(8)のうち、第1の潜像画像(8A)を形成する方法について説明する。
【0028】
図3(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第1の潜像画像(8A)が形成される状態を示す図である。
【0029】
図3(b)は、図3(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示しており、レーザー光(11)がマイクロレンズ(5)を通して光遮断層(6)に照射され、光遮断層(6)が部分的に除去されて潜像画像要素(7)が形成される。このとき、レーザー光(11)が照射されるマイクロレンズ(5)において、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、所定の角度(α)からレーザー光(11)が照射されて潜像画像要素(7)が形成される。以降、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第1の角度(αA)」とし、形成される潜像画像要素を第1の潜像画像要素(7A)とする。本発明において、この所定の角度(α)の範囲は、垂直方向を基準とし、0度から60度未満の範囲である。この理由は、レーザー光(11)が照射される角度が60度を超える場合には、光遮断層(6)上に潜像画像要素(7)が形成されないためである。なお、図3(b)に示すように、一つ一つの潜像画像要素(7)を形成するときに照射されるレーザー光(11)の対象は、狭義の意味でマイクロレンズ(5)とし、潜像画像(8)全体を形成するときに照射されるレーザー光(11)の対象は、広義の意味で再帰性反射材料(3)として以降説明する。
【0030】
図3(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)のうち、第1の潜像画像(8A)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、基材(2)に対して垂直方向からレーザー光(11)が照射されて第1の潜像画像要素(7A)が形成され、第1の潜像画像要素(7A)の集合によって第1の潜像画像(8A)が形成される。
【0031】
ここで、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、「潜像画像(8)に相当する位置」について説明する。例えば、網点で形成される印刷物は、微小な点である網点が密集することによって、一つの画像を形成している。本発明の潜像画像形成体(1)においても、これと同様であって、一つのマイクロレンズ(5)に形成される潜像画像要素(7)は、潜像画像(8)の一部を構成するだけであり、複数のマイクロレンズ(5)に形成される潜像画像要素(7)が集まって、一つの潜像画像(8)が形成される。従って、「第1の潜像画像(8A)に相当する位置」とは、仮に、本発明の第1の潜像画像(8A)を網点印刷に置き換えたときに、網点が形成される位置のことであり、後述する第2の潜像画像(8B)及び第3の潜像画像(8C)においてもこれと同様である。
【0032】
このように、第1の潜像画像(8A)は、図3に示すように、レーザー光(11)が垂直方向から再帰性反射材料(3)に入射することによって形成された第1の潜像画像要素(7A)の集合によって形成される。
【0033】
続いて、第2の潜像画像(8B)を形成する方法について説明する。本発明において、複数の潜像画像(8)を形成する場合には、それぞれの潜像画像(8)を形成するレーザー光(11)の照射角度(所定の角度(α))を前述した角度の範囲で各々変える必要がある。これは、同じ照射角度で異なる潜像画像(8)を形成した場合には、透過光下で複数の画像が混ざり合って出現してしまうためである。
【0034】
図4(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第2の潜像画像(8B)が形成される状態を示す図である。本実施の形態において、第2の潜像画像(8B)が形成される場合、図4(a)に示すように、基材(2)がY軸を中心に時計回りの方向に、所定の角度(α)傾いた状態で、かつ、X軸を中心には傾いていない状態でレーザー光(11)が照射される。
【0035】
図4(b)は、図4(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示している。基材(2)を、Y軸を中心に時計回りの方向に、所定の角度(α)傾けることによって、レーザー光(11)は、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、反時計回りの方向に、所定の角度(α)から照射される。このように、レーザー光(11)が照射される角度(α)は、基材(2)を傾ける角度と同じになるため、本説明では、基材(2)を傾ける角度とレーザー光(11)が照射される角度を同じ符号を用いて説明する。また、第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)は、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第1の角度(αA)と異なるため、以降、第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第2の角度(αB)」とし、形成される潜像画像要素を第2の潜像画像要素(7B)として説明する。
【0036】
図4(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、第2の潜像画像(8B)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、図4に示す方向からレーザー光(11)が照射され、第2の潜像画像要素(7B)の集合によって第2の潜像画像(8B)が形成される。なお、図4(b)では、第2の潜像画像要素(7B)の位置が、第1の潜像画像要素(7A)の位置と異なることを示すために、第1の潜像画像要素(7A)を破線で示している。
【0037】
続いて、第3の潜像画像(8C)を形成する方法について説明する。図5(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第3の潜像画像(8C)が形成される状態を示す図である。本実施の形態において、第3の潜像画像(8C)が形成される場合、図5(a)に示すように、基材(2)がY軸を中心に反時計回りの方向に、所定の角度(α)傾いた状態で、かつ、X軸を中心に傾いていない状態でレーザー光(11)が照射される。
【0038】
図5(b)は、図5(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示している。基材(2)を、Y軸を中心に反時計回りの方向に、所定の角度(α)傾けた場合、レーザー光(11)は、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、時計回りの方向に、所定の角度(α)から照射される。また、第3の潜像画像(8C)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)は、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第1の角度(αA)及び第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第2の角度(αB)と異なるため、以降、第3の潜像画像(8C)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第3の角度(αC)」とし、形成される潜像画像要素を第3の潜像画像要素(7C)として説明する。
【0039】
図5(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、第3の潜像画像(8C)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、図5に示す方向からレーザー光(11)が照射され、第3の潜像画像要素(7C)の集合によって第3の潜像画像(8C)が形成される。なお、図5(b)では、第3の潜像画像要素(7C)の位置が、第1の潜像画像要素(7A)及び第2の潜像画像要素(7B)の位置と異なることを示すために、第1の潜像画像要素(7A)及び第2の潜像画像要素(7B)を破線で示している。
【0040】
このように本発明の潜像画像形成体(1)において、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)は、それぞれ異なる方向から照射されるレーザー光(11)によって形成され、第1の潜像画像要素(7A)の集合によって第1の潜像画像(8A)が形成され、第2の潜像画像要素(7B)の集合によって第2の潜像画像(8B)が形成され、第3の潜像画像要素(7C)の集合によって第3の潜像画像(8C)が形成される。前述したように、本発明において、潜像画像(8)の数は三つに限定されるものではなく、更に多数の潜像画像(8)を形成することができ、仮に、潜像画像(8)の数「n」を4とした場合は、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)が形成される角度と異なる第4の角度でレーザー光(11)が照射されて第4の潜像画像要素が形成され、第4の潜像画像要素の集合によって第4の潜像画像が形成される。同様に、第nの潜像画像は、第nの角度でレーザー光(11)が照射されて第nの潜像画像要素が形成され、第nの潜像画像要素の集合によって形成される。
【0041】
続いて、一様に配置されるマイクロレンズ(5)に、前述した方法で形成される潜像画像要素(7)と、三つの潜像画像(8)の関係について説明する。
【0042】
図6(a)は、本実施の形態の潜像画像形成体(1)において、一様に配置されるマイクロレンズ(5)と三つの潜像画像(8)の配置を示す図である。図6(b)は、図6(a)の太線で囲む部分における一つのマイクロレンズ(5)を拡大した図であり、上側に示す図は、マイクロレンズ(5)を上から見たときの平面図であり、下側に示す図は、潜像画像要素(7)が形成される部分の断面図である。図6(a)において、太線で囲む部分は、三つの潜像画像(8)のそれぞれ一部が重なる領域であり、このような領域では、図6(b)に示すように、一つのマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)に第1の潜像画像(8A)を構成する第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像(8B)を構成する第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像(8A)を構成する第3の潜像画像要素(7C)が形成される。また、前述したように、Y軸を中心に基材(2)を傾けてレーザー光(11)を照射するため、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)X軸上に形成される。
【0043】
図6では、三つの潜像画像(8)が形成される領域のマイクロレンズ(5)について説明したが、本実施の形態において、三つの潜像画像(8)の内、一つの潜像画像(8)のみが形成される部分のマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)には、一つの潜像画像(8)を構成する潜像画像要素(7)が形成され(図示せず)、二つの潜像画像(8)が形成される部分では、それらを構成する二つの潜像画像要素(7)が形成される(図示せず)。当然、潜像画像(8)に相当する位置ではないマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)には潜像画像要素(7)は形成されない。
【0044】
以上、本実施の形態の潜像画像形成体(1)では、Y軸を中心に基材(2)を傾けてレーザー光(11)を照射することによって、三つの潜像画像(8)が形成される例について説明したが、これに限定されるものではなく、X軸を中心に基材(2)を傾けて潜像画像(8)を形成することも同様に可能であり、かつ、X軸とY軸のそれぞれを中心に基材(2)を傾けて潜像画像(8)を形成することもできる。
【0045】
(潜像画像要素の加工装置)
以上説明した三つの潜像画像(8)を形成する方法において、潜像画像要素(7)を形成するための加工装置(20)の一例を図7に示す。図7に示す加工装置(20)は、再帰性反射材料(3)を備えた基材(2)を載せるための回転ステージ(23)と、レーザー光(11)を照射するレーザー加工装置(22)と、回転ステージ(23)の回転を制御するとともに、レーザー加工装置(22)によるレーザー光(11)の照射する位置を制御するコンピュータ(21)で構成される。なお、主軸(24x、24y)の回転によって、X軸、Y軸の二つの軸を中心に回転ステージ(23)を自在に回転させて角度を変更することができる。このような加工装置(20)を用いて、第1の角度(αA)から第1の潜像画像(8A)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射し、第2の角度(αB)から第2の潜像画像(8B)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射し、第3の角度(αC)から第3の潜像画像(8C)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射することで、本発明の潜像画像形成体(1)を作製することができる。なお、レーザー加工装置(22)で用いる光の波長としては、マイクロレンズ(5)を傷つけることなく透過し、かつ、光遮断層(6)に欠損を生じさせる特性を必要とすることから、可視波長か、それに近い赤外線であることが望ましい。具体的にはYAG、サファイア、YVO4等のレーザーが適している。ここで、以降の説明で記載する、「潜像画像」に対する「形成」と「描画」の違いについて説明する。再帰性反射材料(3)に対する潜像画像(8)の加工という意味では、どちらも同じ意味であるが、潜像画像(8)を形成するための具体的な手段として、文章中にレーザー加工装置(22)又はそれと同様な手段を記載している箇所(当該文章を受けて説明する箇所を含む。)では、「描画」という語句を用いて説明し、具体的な手段を記載していない箇所では、「形成」という語句を用いて説明する。
【0046】
(潜像画像の観察原理)
以降、本発明の潜像画像形成体(1)の3つの潜像画像(8)のうち、所定の観察角度において、いずれかの潜像画像(8)のみが観察される原理について説明する。
【0047】
図8は、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)を形成するときにレーザー光(11)が照射された第1の角度(αA)、第2の角度(αB)及び第3の角度(αC)から、観察者が本発明の潜像画像形成体(1)を観察している状態を示している。図8において、視点(10A)は、第1の角度(αA=0度)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10A)は、第1の潜像画像要素(7A)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9A)は、第1の潜像画像要素(7A)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側に位置する光源を示している。図8において、視点(10B)は、第2の角度(αB)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10B)は、第2の潜像画像要素(7B)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9B)は、第2の潜像画像要素(7B)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側の面に位置する光源を示している。図8において、視点(10C)は、第3の角度(αC)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10C)は、第3の潜像画像要素(7C)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9C)は、第3の潜像画像要素(7C)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側の面に位置する光源を示している。
【0048】
このような、潜像画像形成体(1)、光源(9A、9B、9C)及び視点(10A、10B、10C)の配置において、視点(10A)から透過光で観察した場合、光源(9A)の光は第1の潜像画像要素(7A)を透過し、第1の潜像画像要素(7A)を透過した光がマイクロレンズ(5)を通して観察者の視点(10A)に達する。一方、光源(9B)の光は第2の潜像画像要素(7B)を透過するが、第2の潜像画像要素(7B)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10A)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第1の潜像画像(8A)の視認性に影響することは無い。同様に、光源(9C)の光は第3の潜像画像要素(7C)を透過するが、第3の潜像画像要素(7C)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから、視点(10A)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第1の潜像画像(8A)の視認性に影響することは無い。
【0049】
続いて、視点(10B)から観察した場合について説明する。視点(10B)から透過光で観察した場合、光源(9B)の光は第2の潜像画像要素(7B)を透過し、第2の潜像画像要素(7B)を透過した光がマイクロレンズ(5)を通して観察者の視点(10B)に達する。一方、光源(9A)の光は第1の潜像画像要素(7A)を透過するが、第1の潜像画像要素(7A)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10B)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第2の潜像画像(8B)の視認性に影響することは無い。同様に、光源(9C)の光は第3の潜像画像要素(7C)を透過するが、第3の潜像画像要素(7C)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10B)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第2の潜像画像(8B)の視認性に影響することは無い。視点(10C)から観察した場合については、前述した原理によって、光源(9C)の光の第3の潜像画像要素(7C)を透過した光が視点(10C)に達し、光源(9A、9B)の光は、第3の潜像画像(8C)の視認性に影響することは無い。このように、本発明の潜像画像形成体(1)は、マイクロレンズの中心(O)と潜像画像要素(7)を結ぶ線の延長線上に位置する光源(9)の光のみを選択的に透過する機能を有しており、視点(10)が、光遮蔽層(6)に形成された潜像画像要素(7)を透過する光源(9)の光を視認することで、潜像画像要素(7)の集合によって形成された潜像画像(8)を観察できる。よって、本発明の潜像画像形成体(1)は、視点(10A、10B、10C)のように見る位置を変えて観察することで、三つの潜像画像(8)が変化して観察される。
【0050】
なお、実際に、本発明の潜像画像形成体(1)の潜像画像(8)を観察できる環境とは、図8に示すマイクロレンズの中心(O)と潜像画像要素(7)を結ぶ線の延長線上に位置する光源(9)から光が照射されるような環境に限定されるものではなく、太陽光や蛍光灯で照らされる、我々が生活している一般的な環境で何ら問題ない。本発明の潜像画像形成体(1)を屋内や屋外において存在する太陽や蛍光灯にかざして透過光で観察することで、潜像画像(8)を観察することができる。
【0051】
本実施の形態では、潜像画像(8)が、「異なる方向から観察した女性の顔」で構成される例について説明したが、本発明の潜像画像(8)の一つ一つは、微小な潜像画像要素(7)の集合から成るので、高い解像度が要求される画像であっても形成することができる。また、光遮断層(6)に形成される潜像画像要素(7)の粗密によって、人の顔や風景といった複雑な階調を有する潜像画像(8)を形成することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、Y軸を中心に傾けて三つの潜像画像(8)が形成される例について説明したが、X軸を中心に傾けて潜像画像(8)を形成した場合には、Y軸方向に視点(10)の位置を変えることによって、潜像画像(8)が観察され、XY軸のそれぞれに傾けて潜像画像(8)を形成した場合には、XY軸を中心に視点(10)の位置を変えることによって、潜像画像(8)が観察される。
【0053】
また、本実施の形態では、発明の原理と効果を明瞭に説明するために、三つの潜像画像(8)が形成される例で説明したが、多数の潜像画像(8)を形成することによって、自然な立体感を有する画像を出現させることができ、更には、実施例2で後記する動画的な視覚効果や、単純なチェンジング、モーフィング、ズーム等のその他あらゆる視覚効果を形成することができる。
【0054】
本発明において、レーザー光(11)で描画した一つの潜像画像(8)が視認可能な角度範囲は、描画時のレーザー光(11)の強さによって決定されるが、描画する潜像画像(8)の解像度やその階調等にも左右されることから、潜像画像(8)の解像度やデザインに応じて、レーザー光(11)の出力を調整する必要がある。また、隣り合う潜像画像(8)の観察に影響しないように、潜像画像(8)の解像度やデザインに応じて、レーザー光(11)の出力を調整する必要がある。なお、隣り合う潜像画像(8)とは、本実施の形態でいう第1の潜像画像(8A)に対して第2の潜像画像(8B)であり、第3の潜像画像(8C)に対して第2の潜像画像(8B)であり、第2の潜像画像(8B)に対して第1の潜像画像(8A)と第3の潜像画像(8C)であって、互いに異なる角度の潜像画像要素(7)で形成される複数の潜像画像(8)において、一つの潜像画像(8)に対して、最も近い角度の潜像画像要素(7)で形成される潜像画像(8)のことである。具体的には、一つの潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度と、それに隣り合う潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度の差が小さすぎると、隣同士の潜像画像(8)が干渉して白くとんでしまう。逆に、隣り合う潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)を照射する角度の差が大きすぎると、潜像画像(8)を観察するときに、何も観察されない部分が生じてしまい、連続的に潜像画像(8)が出現する動画、立体画像を表現することができなくなる。このことから、隣同士の潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度についても、調整する必要がある。
【0055】
以下に、前述の発明を実施するための最良の形態にしたがって、具体的に作成した潜像画像形成体の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
実施例1において、わずかに観察角度の異なる画像を一定の規則に従って配置することによって、自然な立体感を付与した潜像画像形成体(1−1)の例を説明する。図9に、実施例1における潜像画像形成体(1−1)を示す。実施例1の潜像画像形成体(1−1)は、透明なプラスチック基材(2−1)の上に再帰性反射材料(3−1)を貼付して形成した。なお、再帰性反射材料(3−1)には、大創産業(株)製反射シールを用いた。そして、再帰性反射材料(3−1)に「異なる方向から観察した女性の顔」の潜像画像(8−1)を形成した。
【0057】
続いて、潜像画像(8−1)の詳細について説明する。図9は、便宜上、一つの潜像画像(8−1)のみを示しているが、実施例1の潜像画像形成体(1)の潜像画像(8−1)は、図10に示すように、36の異なる方向から観察した女性の顔画像で構成し、再帰性反射材料(3−1)に36個の顔画像を第1の潜像画像、第2の潜像画像・・・第36の潜像画像として形成した。実施例1では、36個の潜像画像(8−1)を区別するため、潜像画像(8−1)毎に、図10に示す符号を用いている。なお、符合の意味については後述する。
【0058】
図10において、中央位置(A)を基準位置として、B方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を左方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって左方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、C方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を右方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって右方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、D方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を上方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって上方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、E方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を下方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって下方向から観察する角度が徐々に大きくなる。
【0059】
続いて、図10に示す潜像画像(8−1)の符号について説明する。例えば、符号「8−B1−D4−11」において、符号「B1」と「D1」は、それぞれ、B方向とD方向に配置されている画像であることを示しており、「B1」と「D4」の数字は、B方向に1列目、D方向に4列目に配置されていることを意味している。そして、1列目は3度、2列目は6度、3列目は9度、4列目は12度、5列目は15度の各方向にずれた位置から観察した画像である。従って、符号「8−B1−D4−11」は、B方向、すなわち、女性の顔に対して左方向に3度ずれた位置であり、かつ、女性の顔に対して上方向に12度ずれた位置から観察した画像であることを示している。また、符号の中の最後の数字は、何番目の潜像画像であるかを示しており、「8−B1−D4−11」の場合、第11の潜像画像であることを示している。
【0060】
このように、実施例1の潜像画像(8−1)は、符号の列数が1増える毎に、観察角度が3度変わる規則性のある画像で構成した。以上のような画像を3DCGソフトウェア(Newtek社製 ライトウェーブ)によって作成した。これらの画像の解像度はすべて500dpiとし、画像のサイズは35mm×35mmで作成した。なお、潜像画像(8−1)を形成するために用いたレーザーマーカー(キーエンス製 MD―V)は、入力された画像をグレースケール画像に変換したときに、濃度の高い部分、例えば、女性の顔の「目の瞳」や「髪」の部分にレーザー光を照射する。このため、図10に示す潜像画像(8−1)をレーザーマーカーで描画する場合、画像の濃淡を反転させた。
【0061】
以上の構成で成る36個の潜像画像(8−1)を、図11(a)に示す再帰性反射材(3−1)が水平に置かれ、再帰性反射材(3−1)にレーザー光(11)が垂直方向から照射される状態を基準とし、レーザーマーカーを用いて、以下に示す順に描画した。なお、使用したレーザー光(10)は、波長1090nmの赤外線レーザーであり、36個の潜像画像(8−1)を形成するためのレーザー光(11)の出力は、一定とし、レーザーパワー4.5%、スキャンスピード4000mm/s、Qスイッチ周波数100kHzとした。
【0062】
まず、第13の潜像画像(8−B1−0−13)を形成するため、図11(b)に示すように、基準に対して再帰性反射材料(3−1)を、Y軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして、第13の潜像画像(8−B1−0−13)をレーザー光(11)によって再帰性反射材料(3−1)に直接描画した。第13の潜像画像(8−B1−0−13)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−1)を基準から同じ方向に9度傾けた状態として第5の潜像画像(8−B3−0−5)を描画した。第5の潜像画像(8−B3−0−5)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−1)を基準から同じ方向に15度傾けた状態として第1の潜像画像(8−B5−0−1)を描画した。
【0063】
続いて、符号が「C1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(c)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してY軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第24の潜像画像(8−C1−0−24)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増える毎に基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第32の潜像画像(8−C3−0−32)及び第36の潜像画像(8−C5−0−36)を形成した。
【0064】
続いて、符号が「D1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(d)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してX軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして第18の潜像画像(8−0−D1−18)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増えるごとに基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第17の潜像画像(8−0−D3−17)及び第16の潜像画像(8−0−D5−16)を形成した。
【0065】
続いて、符号が「E1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(e)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してX軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第19の潜像画像(8−0−E1−19)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増える毎に基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第20の潜像画像(8−0−E3−20)及び第21の潜像画像(8−0−E5−21)を形成した。
【0066】
以上の手順で、再帰性反射材料(3−1)をX軸、Y軸にそれぞれ傾けて、各方向からレーザー光(11)を照射して、36個の潜像画像(8−1)を描画して、本発明の潜像画像形成体(1−1)を作製した。なお、作製した潜像画像形成体(1−1)において、複数のマイクロレンズ(5−1)に隣接した光遮断層(6−1)の中に、36個全ての潜像画像(8−1)の潜像画像要素(7−1)を有する光遮断層(6−1)が仮に存在する場合、図12に示すように、異なる36個の潜像画像要素(7−1)がそれぞれ重なり合わず、一定の間隔を有して光遮断層(6−1)に形成された状態となる(図12において、36個の潜像画像要素(7−1)を示す符号は、36個の潜像画像(8−1)の符号に対応している)。一方、前述したように、潜像画像(8−1)に相当する位置ではないマイクロレンズ(5−1)に隣接した光遮断層(6−1)には潜像画像要素(7−1)は形成されない。
【0067】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−1)は、透過光下で所定の角度(α)に傾けて観察した場合、観察する角度に対応して潜像画像(8−1)である女性の顔の向きが変化して観察される。その顔の向きの変化は、例えば、図9に示す基材(2−1)の左端を徐々に観察者に近づけるように傾けた場合には、潜像画像(8−1)は、左方向から見た女性の顔画像へと徐々に変化し、図9に示す基材(2−1)の右端を徐々に観察者に近づけるように傾けた場合には、潜像画像(8−1)は、右方向から見た女性の顔画像へと徐々に変化することから、あたかも画像の内部に本物の立体物が存在するかのような視覚効果を得ることができる。
【0068】
また、我々の右眼と左眼は水平方向に70〜75mm離れているために、観察者が潜像画像形成体(1−1)を観察した場合、右眼と左眼とでは潜像画像形成体(1−1)に対する角度がわずかに異なる。この角度差によって、潜像画像形成体(1−1)を観察する観察者は、右眼と左眼とでは異なる潜像画像(8−1)を捉える。例えば、右眼が図10に示した第24の潜像画像(8−C1−0−24)を捉えたとすると、左目は図10に示した第13の潜像画像(8−B1−0−13)を捉えることとなる。これは、通常我々が実際に存在する三次元構造物を観察する場合に生じる視差と全く同じであることから、潜像画像形成体(1−1)を傾けたりせず、単に正対して透過光で観察しただけでも潜像画像(8−1)は自然な立体感を伴って観察される。また、基材(2)を上下左右いずれの方向に傾けて観察しても、正対して観察した場合と同様に、右眼で観察される画像と左目で観察される画像とがわずかに異なっているために両眼視差に起因する自然な立体視の効果が発揮される。
【0069】
以上のように、いずれの方向から透過光下で所定の角度(α)に傾けて観察した場合、潜像印刷物(1−1)中の潜像画像(8−1)は立体感を伴い、しかもそれぞれの観察角度の変化に対応して女性の顔の向きが自然に変化する。これらの効果によって、潜像画像形成体(1−1)中の潜像画像(8−1)である女性の顔は、あたかもそこに女性が存在するかのような立体感を伴って観察される。
【0070】
(実施例2)
実施例2において、左右方向には実施例1と同様にわずかに観察角度の異なる画像を多数配置するとともに、上下方向にはわずかに形状の異なる画像を多数配置することによって、立体感だけでなく、動画的な視覚効果を付与した潜像画像形成体(1−2)の例を説明する。また、実施例2において、潜像画像形成体(1−2)を備えた貴重印刷シート(30)の例を説明する。実施例2の潜像画像形成体(1−2)について、実施例1と異なる点について説明する。
【0071】
実施例2の潜像画像形成体(1−2)は、図13に示すように、彩紋模様を潜像画像(8−2)として形成した。なお、基材(2−2)と再帰性反射材料(3−2)の構成は、実施例1と同じである。
【0072】
続いて、潜像画像(8−2)の詳細について説明する。図13は、便宜上、一つの潜像画像(8−2)のみを示しているが、実施例2の潜像画像(8−2)は、図14に示すように、それぞれ異なる25個の彩紋模様で構成し、再帰性反射材料(3−2)に25個の彩紋模様を第1の潜像画像、第2の潜像画像・・・第25の潜像画像として形成した。実施例2では、25個の潜像画像(8−2)を区別するため、潜像画像(8−2)毎に、図14に示す符号を用いている。なお、符合の意味については後述する。
【0073】
図14において、中央位置(A)を基準位置として、B方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−2)は、実施例1と同様に、彩紋模様を左方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって左方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図14において、中央位置(A)を基準位置として、C方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−2)は、彩紋模様を右方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるにしたがって右方向から観察する角度が徐々に大きくなる。また、潜像画像(8−2)を示すB方向及びC方向の符号については、実施例1と同様であり、1列目は3度、2列目は6度、3列目は9度、4列目は12度、5列目は15度の各方向にずれた位置から観察した画像である。符号の中の最後の数字は、実施例1と同様であり、何番目の潜像画像であるかを示している。
【0074】
上下方向(D方向及びE方向)に関しては、前述したように、形の異なる画像を配置している。本実施例においては、彩紋模様を花と見立て、花が蕾の状態から大きく開く画像へと変化する動画を構成することを意図しており、上下に隣り合う位置にある画像は花びらの開き具合が異なっている。例えば、D方向において、第12の潜像画像(8−0−D1−12)は、位置(A)にある第13の潜像画像(8−0−0−13)よりもわずかに大きく花びらが開いた画像となり、第11の潜像画像(8−0−D2−11)では、より大きく花びらが開いた画像となっている。また、E方向において、第14の潜像画像(8−0−E1−14)は、位置(A)にある第13の潜像画像(8−0−0−13)を基準としてわずかに花びらが閉じた画像となり、第15の潜像画像(8−0−E2−15)では、花びらがより閉じた蕾の状態の画像となっている。このように、潜像画像(8−2)を示す符号がD方向に増えると、花びらが開いた画像となり、E方向に増えると、花びらが閉じた画像となる。
【0075】
以上のような画像を3DCGソフトウェア(Newtek社製 ライトウェーブ)によって作成した。これらの画像の解像度はすべて350dpiであり、画像のサイズは30mm×30mmで作成した。なお、3DCGソフトウェアで作成した画像は、実施例1と同様に、図14に示す潜像画像(8−2)に対して濃淡反転させた画像を作成した。
【0076】
以上の構成で成る25個の潜像画像(8−2)を、図11(a)に示す再帰性反射材(3−2)が水平に置かれ、再帰性反射材(3−2)にレーザー光(11)が垂直方向から照射される状態を基準とし、レーザーマーカーを用いて、以下に示す順に描画した。なお、使用したレーザー光(10)は、波長1090nmの赤外線レーザーであり、25個の潜像画像(8−2)を形成するためのレーザー光(11)の出力は、一定とし、レーザーパワー4.0%、スキャンスピード6000mm/s、Qスイッチ周波数100kHzとした。
【0077】
まず、図11(a)に示すように、第13の潜像画像(8−0−0−13)をレーザー光(11)によって再帰性反射材料(3−1)に直接描画した。続いて、図11(b)に示すように、基準に対してY軸を中心に再帰性反射材料(3−2)を時計回りに3度傾けた状態にして、第8の潜像画像(8−B1−0−8)をレーザー光によって直接再帰性反射材料(3−2)に描画した。第8の潜像画像(8−B1−0−8)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−2)を基準から同じ方向に6度傾けた状態として第3の潜像画像(8−B2−0−3)を描画した。
【0078】
符号が「C1」の潜像画像(8−2)を形成するため、図11(c)に示すように、再帰性反射材料(3−2)を、基準に対してY軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第18の潜像画像(8−C1−0−18)をレーザー光(11)によって描画した。第18の潜像画像(8−C1−0−18)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−2)を基準から同じ方向に6度傾けた状態として第23の潜像画像(8−C2−0−23)を描画した。同様にして、符号が「D1」の潜像画像(8−2)を形成する場合は、基準に対して再帰性反射材料(3−2)を、X軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして描画し、符号の数字が増える毎に再帰性反射材料(3−2)の傾ける角度を3度ずつ大きくして描画した。また、符号が「E1」の潜像画像(8−2)を形成する場合は、基準に対して再帰性反射材料(3−2)を、X軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして描画し、符号の数字が増える毎に再帰性反射材料(3−2)の傾ける角度を3度ずつ大きくして描画した。
【0079】
以上の手順で、再帰性反射材料(3−2)をX軸、Y軸にそれぞれ傾けて、各方向からレーザー光(11)を照射して、25個の潜像画像(8−3)を描画した。
【0080】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−2)は、透過光下で上下方向(D方向及びE方向)に6度ずつ傾けて観察した場合に、閉じていた蕾が開いて花に変化するか、開いていた花が蕾の状態に閉じる動画的な視覚効果が発現する。加えて、左右方向(B方向及びC方向)にはわずかに異なる角度から観察した彩紋画像を形成していることから、実施例1と同様な両眼視差に基づく立体視の効果も同時に発現する。このように、潜像画像形成体(1−2)は、立体的な視覚効果と、動画的な視覚効果を同時に実出現することができる。
【0081】
以上のようにして作製した潜像画像形成体(1−2)を、図15(a)に示すように、シート基材(31)の上に貼り付けて貴重印刷シート(30)を作製した。なお、シート基材(31)には、坪量52g/m2、厚さ65μm、透過率23%の紙材を用いた。貴重印刷シート(30)は身分証明書として作製したものであり、図15(b)に示すように、シート基材(31)の上に、氏名、住所、発行日で構成される証明書情報(32)と印刷模様(33)を印刷した。
【0082】
このように、プラスチック材料に作製した潜像画像形成体(1−2)を、紙材で成るシート基材(31)に積層して作製した貴重印刷シート(30)においても、透過光で観察したときに潜像画像(8−2)を観察することができた。なお、実施例2は身分証明書を例に作製したものであるが、銀行券、パスポート、有価証券、通行券等のセキュリティ印刷物に、本発明の潜像画像形成体(1)を形成することによって、真偽判別が行えるとともに、偽造防止を図ることができる。
【0083】
(実施例3)
実施例3は、実施例1に対して、透過光下で所定の角度(α)に傾けたときに観察される潜像画像(8−3)が、異なる図柄に変化する潜像画像形成体(1−3)である。実施例3の潜像画像形成体(1−3)について、実施例1と異なる点について説明する。
【0084】
図16(a)は、実施例3の潜像画像形成体(1−3)を示す図である。実施例3の潜像画像形成体(1−3)において、潜像画像(8−3)の数「n」は3とし、第1の潜像画像(8−3−1)は図16(b)に示す「OK」の文字、第2の潜像画像(8−3−2)は図16(c)に示す「顔」、第3の潜像画像(8−3−3)は図16(d)に示すマークから成る構成とした。
【0085】
そして、第1の潜像画像(8−3−1)を形成するため、再帰性反射材料(3−3)を、Y軸を中心として時計回りの方向に10度傾けて第1の潜像画像(8−3−1)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。次に、第2の潜像画像(8−3−2)を形成するため、再帰性反射材料(3−3)がX軸と平行な状態で、第2の潜像画像(8−3−2)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。次に、Y軸を中心として反時計回りの方向に10度傾けて第3の潜像画像(8−3−3)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。
【0086】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−3)を、正面から透過光で観察した場合、図16(b)に示す第2の潜像画像(8B−3−2)が観察され、基材(2−3)を、Y軸を中心として時計回りの方向に10度傾けて透過光で観察した場合、図16(a)に示す第1の潜像画像(8−3−1)が観察され、基材(2−3)を、Y軸を中心として反時計回りの方向に10度傾けて透過光で観察した場合、図16(c)に示す第3の潜像画像(8−3−3)が観察された。このように、実施例4の潜像画像形成体(1−3)は、基材(2−3)を傾けて透過光で観察した場合、異なる潜像画像(8−3)が観察された。
【符号の説明】
【0087】
1 潜像画像形成体
2 基材
3 再帰性反射材料
4 接着樹脂層
5 マイクロレンズ
6 光遮断層
7 潜像画像要素
8 潜像画像
9 光源
10 視点
11 レーザー光
20 加工装置
21 コンピュータ
22 レーザー加工装置
23 回転ステージ
24x、24y 主軸
30 貴重印刷シート
31 シート基材
32 証明書情報
33 印刷模様
1−1 潜像画像形成体(実施例1)
2−1 基材
3−1 再帰性反射材料
8−1 潜像画像
1−2 潜像画像形成体(実施例2)
2−2 基材
3−2 再帰性反射材料
8−2 潜像画像
1−3 潜像画像形成体(実施例3)
2−3 基材
3−3 再帰性反射材料
8−3 潜像画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、反射光下では潜像画像が不可視であって、透過光下では立体感を伴った潜像画像が出現し、加えて透過光下で印刷物をわずかに傾けて観察することで出現した潜像画像が変化する、特殊な視覚効果を備えた潜像画像形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
文字や図形などの画像が立体的に浮き上がって見える立体的な視覚効果や、画像が動いて見える動画的な視覚効果は、人目を惹きやすく、また容易に偽造することは困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として多く用いられる傾向にある。この代表例は、米国のビザカードにおいて貼付されているホログラムであり、1983年に発行されたもので、鳩の立体画像が形成されている。
【0003】
ホログラム以外にも、パララックスバリアやレンチキュラー等の公知技術を用い、これらの技術が備える、わずかな観察角度の違いで画像を変化させられるという特徴を活かし、画像が立体的に視認できる効果や、画像が動いて見える動画的な視覚効果を備えたセキュリティ印刷物はすでに広く存在している。
【0004】
しかし、一般的なパララックスバリアやレンチキュラーを用いた立体画像は、バリア効果やレンズ効果を機能させるために印刷物に一定の厚み(100μm以上)が必要となるという問題があった。加えて、パララックスバリアのバリア層あるいはレンチキュラーのレンズ層に対して、その下部に位置する潜像画像の位相がわずかでも適性位置からずれた場合には、立体的な視覚効果や動画的な視覚効果が不明瞭なものとなることから、製造にあたっては厳密な刷り合せの管理を必要とするという問題があった。
【0005】
このような問題のうち、レンズとその下部に位置する潜像画像の位置合わせを要することなく、反射光による観察で複数の異なる角度から画像が観察される印刷物が、2008年1月23〜日25日にサンフランシスコで開催された「ODS(Optical Document Security)」で発表されている。この印刷物は、直接、レンチキュラーに複数の異なる角度からレーザー彫刻して、画像が形成されて成り、レーザー彫刻によって形成される画像は、異なる角度から観察したときの女性の顔が形成されている。そして、この印刷物を反射光下で観察すると、両眼視差に基づいた立体的な女性の顔が観察される。
【0006】
また、近年、再帰性反射材料と呼ばれる特殊な材料を利用して立体画像が出現するシートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。再帰性反射材料とは、例えば多数のマイクロレンズが高い密度でベース基材に埋没したシートにおいて、マイクロレンズと基材の間に光を反射する材料(例えばアルミ)で光反射層を形成したものである。この再帰性反射材料は、特定の方向から光が入射した場合、主として入射した光の方向を中心に光を強く反射するという特徴を有しているため、従来から反射板や道路標識等に用いられている。特許文献1に記載の、再帰性反射材料を用いて立体画像を形成する技術とは、マイクロレンズ下の光反射層の感光特性を利用するものであって、マイクロレンズを通して強い光を照射し、マイクロレンズ下の光反射層に任意の画像を焼き付けることによって形成される。この方法によって、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の記録と再生が可能であり、比較的薄く(100μm以下)立体画像を形成できるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−524205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般にセキュリティ印刷物は、万人が確実に真偽判別を行うために、反射光下で観察される画像と、例えば、透かして観察するといった、真偽判別を行う場合に要求される特定の条件下で観察される画像とが、異なっていることがより望ましいと考えられている。しかし、前述した技術は、印刷物の真偽判別を行うために、反射光下で立体画像を観察するものであり、真偽判別を要求されるか否かに関係なく、いずれかの画像が常時出現している。よって、前述した技術は、前述したような効果を有していないことから、真偽判別を要求されるセキュリティ印刷物としては問題がある。また、レンチキュラーに画像を形成する場合は、再帰性反射材料と比較すると立体画像が視認される角度範囲が狭いという問題があった。
【0009】
一方、特許文献1記載の技術において、立体的な画像は反射マスクを用いた強い光源による露光か、強い光による描画によって形成されるが、いずれの場合も画像はレーザーのような強い光を凹レンズや分散レンズを通して大きく拡散させ、その拡散光や散乱光に変換された光によって画像を描画する。この方法は、短時間で立体画像を形成することが可能な反面、人物の顔のように複雑な階調と高い解像度を要求する画像を形成することができず、形成できる画像は解像度の低い単純な画像、すなわち文字や記号、マーク等しか表現できないという問題があった。
【0010】
加えて、特許文献1記載の技術を用いて得られる画像は、観察位置に応じて画像を上下左右に平行移動させることで形成可能な遠近感の表現や、ある画像を異なる視点から見た画像へと変化させる3Dの表現は可能であるものの、特許文献1の発明において、マイクロレンズに焼き付けられる画像は、マスクを透過した光の拡散光や散乱光によって焼き付けられるため、ある画像を異なる画像へと変化させる、いわゆるチェンジング効果、モーフィング又はアニメーションのような動画的な視覚効果を付与することは不可能であるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、再帰性反射材料を用いて形成する潜像画像において、人物の顔や風景等の高い解像度が要求される画像でも表現することが可能な潜像画像形成体を提供する。また、特定の形成方法に従って複数の画像を再帰性反射材料の一領域に形成することによって、極めて自然な立体感を備えた潜像画像を形成するとともに、潜像画像のチェンジ効果及び/又はアニメーション効果を備えた潜像画像形成体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の潜像画像形成体は、複数のマイクロレンズと、マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つのマイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る一つの潜像画像要素を有し、潜像画像要素はマイクロレンズの中心に対して所定の角度を成して形成され、所定の角度を成す複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像が形成され、透過光による観察において、所定の角度の方向から観察すると、複数の潜像画像要素を透過する光によって潜像画像が観察されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の潜像画像形成体は、複数のマイクロレンズと、マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つのマイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る潜像画像要素を少なくとも一つ有し、少なくとも一つの潜像画像要素は、基材に対して互いに異なる第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)で形成された第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素のいずれかであり、第一の潜像画像要素の集合によって第一の潜像画像が形成され、第二の潜像画像要素の集合によって第二の潜像画像が形成され、・・・、第nの潜像画像要素の集合によって第nの潜像画像が形成され、透過光による観察において、基材を第一の角度に傾けて観察した場合には、第一の潜像画像が観察され、第二の角度に傾けて観察した場合には、第二の潜像画像が観察され、・・・、第nの角度に傾けて観察した場合には、第nの潜像画像が観察されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の潜像画像形成体は、一つのマクロレンズに対応した光遮断層に、第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素(nは2以上の自然数)のうち、二つ以上の異なる潜像画像要素が形成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の潜像画像形成体は、第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)は、一つの任意の立体物を異なる角度から観察する角度であり、第一の潜像画像、第二の潜像画像、・・・第nの潜像画像は、一つの任意の立体物を第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)から観察した、相互に異なる画像によって構成され、透過光による観察において、任意の立体物が潜像画像として立体的に観察されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の潜像画像形成体は、凹レンズや分散レンズを用いてレーザー光を拡散させる必要はなく、再帰性反射材料に直接レーザー光を照射して潜像画像を描画するため、人の顔や風景といった複雑な階調を有し、かつ、高い解像度を要求する画像も表現することができる。また、同様の理由で描画データを容易に変更することができるため、立体的な視覚効果の表現に留まらず、ある画像を異なる画像へと変化させる、いわゆるチェンジング効果、モーフィング又はアニメーションのような動画的な視覚効果を容易に付与することができる。加えて、本発明の潜像画像形成体は、反射光下で観察した場合に潜像画像は完全に不可視であり、透過光で観察した場合にのみ観察できる、いわゆるすかしのような効果を有する。また出現する潜像画像には立体的な視覚効果又は動画効果が付与されており、これを模倣することは極めて困難であることから、偽造抵抗力が高く、かつ、真偽判別性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の潜像画像形成体の層構造を示す図である。
【図2】本発明の潜像画像形成体を示す図である。
【図3】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図4】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図5】本発明の潜像画像形成体において、レーザー光で潜像画像を描画する場合の再帰性反射材料とレーザー光の位置関係と、その拡大図を示す図である。
【図6】マイクロレンズと潜像画像の配置と、マイクロレンズに形成される潜像画像要素を示す図である。
【図7】本発明の潜像画像形成体を形成する装置の一例を示す図である。
【図8】潜像画像の観察原理を示す図である。
【図9】実施例1における潜像画像形成体を示す図である。
【図10】実施例1の潜像画像を示す図である。
【図11】潜像画像要素を形成するときの再帰性反射材料の配置を示す図である。
【図12】マイクロレンズに形成される潜像画像要素を示す図である。
【図13】実施例2における潜像画像形成体を示す図である。
【図14】実施例2の潜像画像を示す図である。
【図15】実施例3の潜像画像形成体を示す図である。
【図16】実施例4の潜像画像形成体を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0019】
(基材構成)
本発明の潜像画像形成体(1)は、図1(a)に示すように、基材(2)上の少なくとも一部に再帰性反射材料(3)が積層されて成り、再帰性反射材料(3)は、少なくとも、マイクロレンズ(5)と光遮断層(6)を備える。本発明で用いる再帰性反射材料(3)は、図1(a)に示すように、マイクロレンズ(5)が接着樹脂層(4)に半球のみが埋没し、残りが表面に露出して成る。そして、接着樹脂層(4)に埋没したマイクロレンズ(5)一つ一つの表面に対応して光遮断層(6)が付与される構成となっている。なお、一般的には、再帰性反射材料(3)においてマイクロレンズ(5)の下面に存在するのは、「光を反射する材料」によって構成された「光反射層」と呼ばれるが、再帰性反射材料(3)に用いられている光を反射する材料の多くは、光を反射する特性の他に光を遮断する性質も有しており、本説明においては、本発明で必要とされる性質を鑑みて、便宜上、「光を遮断する材料」によって構成された「光遮断層(6)」とする。
【0020】
図1(b)は、基材(2)上に積層された再帰性反射材料(3)の平面図を示す図である。本発明において、マイクロレンズ(5)の大きさは同じ大きさでもよいし、異なる大きさであってもよい。図1(b)に示すように、マイクロレンズ(5)が配置される密度は、後述する潜像画像(8)を形成するために、ほぼ一様である必要があるが、固定されたピッチで規則的に配置される必要はない。なお、実際のマイクロレンズは、直径が20〜100μm程度であるため、目視で確認することができないが、図1(b)は、マイクロレンズ(5)が一様に配置されている状態を模式的に示している。
【0021】
本発明の潜像画像形成体(1)は、基材(2)を透過する光によって出現する画像を観察するものであるため、基材(2)には、光透過性を有した材料を用いる必要がある。このような材料としては、紙、プラスチック、ガラスがあり、潜像画像形成体(1)の真偽判別を要求される環境における照明条件に応じて、適正な透過率の基材(2)を適宜選択して用いる必要がある。仮に、蛍光灯の下で潜像画像(8)を観察するためには、透過率が10%以上の材料を用い、太陽光の下で潜像画像(8)を観察するためには、透過率が6%以上の材料を用いるのが好ましい。
【0022】
光遮断層(6)については、太陽光や蛍光灯のような一般的な照明程度の光の透過を完全に遮る特性を有する必要があり、かつ、レーザーのような強い光を照射した場合に限っては、消失する特性を有する必要がある。光遮断層(6)は、具体的には一般的な再帰性反射材料に用いられているアルミ、金、銀、スズ、ニッケル、ステンレス等が適当である。また、接着樹脂層(4)としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム系樹脂、ビニル系樹脂等の各種合成樹脂を用いることができる。
【0023】
本発明において、光遮断層(6)は、図1(a)に示すように、光遮断層(6)が所定の角度で部分的に除去された貫通孔が形成され、これによって潜像画像が形成される。以降、所定の方向に光遮断層(6)が部分的に除去された貫通孔のことを「潜像画像要素(7)」として説明する。なお、潜像画像要素(7)を形成する方法については、後述し、続いて潜像画像について説明する。
【0024】
図2(a)は、本発明の潜像画像形成体(1)の平面図であり、再帰性反射材料(3)に形成された潜像画像(8)を示している。なお、図2(a)では、潜像画像(8)の構成を示すために、マイクロレンズ(5)の図は省略している。本発明の潜像画像形成体(1)は、再帰性反射材料(3)に一つの潜像画像(8)を形成してもよいし、第1の潜像画像〜第nの潜像画像(nは2以上の自然数)まで複数の潜像画像(8)を形成してもよい。なお、本実施の形態では、潜像画像(8)の数「n」が3で、第1の潜像画像、第2の潜像画像及び第3の潜像画像が形成される例で説明する。また、三つの潜像画像(8)は、「異なる方向から観察した女性の顔」で構成される潜像画像形成体(1)の例で説明する。以降、三つの潜像画像(8)を区別するため、第1の潜像画像の符号を「8A」、第2の潜像画像の符号を「8B」、第3の潜像画像の符号を「8C」として説明する。図2(a)では、便宜上、第1の潜像画像(8A)のみを記載しているが、本実施の形態において、第1の潜像画像(8A)は、図2(b)に示すように、「真正面から見た女性の顔」であり、第2の潜像画像(8B)は、図2(c)に示すように、「左側から見た女性の顔」であり、第3の潜像画像(8C)は、図2(d)に示すように、「右側から見た女性の顔」で構成される。これら三つの潜像画像(8)は、一度に観察することができるものではなく、潜像画像形成体(1)を所定の角度に傾けて透過光で観察した場合に、それぞれの潜像画像(8)が視認されるものである。なお、潜像画像(8)が観察される原理については後述する。
【0025】
本発明において、潜像画像(8)は、本実施の形態の3つの潜像画像(8)に示すように、「一つの立体物(本実施の形態では、女性の顔を立体物の対象としている。)を異なる角度から観察した画像」が形成される例に限定されるものではなく、例えば、それぞれの潜像画像(8)を相互に相関のある動きを表現した画像とし、パラパラ漫画のように画像の動きを表現する動画的構成や、それぞれの潜像画像(8)を全く異なる図柄で構成し、一つの画像から、全く相関のない異なる画像に変化する、いわゆるチェンジングと呼ばれる画像変化に富んだ構成であってもよい。また、本実施の形態においては、潜像画像(8)を「女性の顔」としているが、本発明の潜像画像形成体(1)に形成する潜像画像(8)は、これに限定されるものではなく、任意の画像を形成することができ、例えば、文字、数字、記号、風景画等でもよい。また、本実施の形態は、三つの潜像画像(8)が形成される例であるが、本発明において、潜像画像の数は三つに限定されるものではなく、更に多数の潜像画像(8)を形成することができ、その構成については、実施例で具体的に説明する。
【0026】
続いて、本実施の形態の潜像画像(8)を形成する方法について説明する。なお、図2(a)に示す潜像画像形成体(1)の横方向を「X軸」、縦方向を「Y軸」、基材(2)に対して垂直方向を「Z軸」として以降説明する。
【0027】
(潜像画像の形成方法)
前述したように、潜像画像(8)は、光遮断層(6)が部分的に除去された潜像画像要素(7)によって形成され、潜像画像要素(7)は、再帰性反射材料(3)に対して、マイクロレンズ(5)側からレーザー光を照射することによって形成される。はじめに、三つの潜像画像(8)のうち、第1の潜像画像(8A)を形成する方法について説明する。
【0028】
図3(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第1の潜像画像(8A)が形成される状態を示す図である。
【0029】
図3(b)は、図3(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示しており、レーザー光(11)がマイクロレンズ(5)を通して光遮断層(6)に照射され、光遮断層(6)が部分的に除去されて潜像画像要素(7)が形成される。このとき、レーザー光(11)が照射されるマイクロレンズ(5)において、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、所定の角度(α)からレーザー光(11)が照射されて潜像画像要素(7)が形成される。以降、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第1の角度(αA)」とし、形成される潜像画像要素を第1の潜像画像要素(7A)とする。本発明において、この所定の角度(α)の範囲は、垂直方向を基準とし、0度から60度未満の範囲である。この理由は、レーザー光(11)が照射される角度が60度を超える場合には、光遮断層(6)上に潜像画像要素(7)が形成されないためである。なお、図3(b)に示すように、一つ一つの潜像画像要素(7)を形成するときに照射されるレーザー光(11)の対象は、狭義の意味でマイクロレンズ(5)とし、潜像画像(8)全体を形成するときに照射されるレーザー光(11)の対象は、広義の意味で再帰性反射材料(3)として以降説明する。
【0030】
図3(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)のうち、第1の潜像画像(8A)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、基材(2)に対して垂直方向からレーザー光(11)が照射されて第1の潜像画像要素(7A)が形成され、第1の潜像画像要素(7A)の集合によって第1の潜像画像(8A)が形成される。
【0031】
ここで、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、「潜像画像(8)に相当する位置」について説明する。例えば、網点で形成される印刷物は、微小な点である網点が密集することによって、一つの画像を形成している。本発明の潜像画像形成体(1)においても、これと同様であって、一つのマイクロレンズ(5)に形成される潜像画像要素(7)は、潜像画像(8)の一部を構成するだけであり、複数のマイクロレンズ(5)に形成される潜像画像要素(7)が集まって、一つの潜像画像(8)が形成される。従って、「第1の潜像画像(8A)に相当する位置」とは、仮に、本発明の第1の潜像画像(8A)を網点印刷に置き換えたときに、網点が形成される位置のことであり、後述する第2の潜像画像(8B)及び第3の潜像画像(8C)においてもこれと同様である。
【0032】
このように、第1の潜像画像(8A)は、図3に示すように、レーザー光(11)が垂直方向から再帰性反射材料(3)に入射することによって形成された第1の潜像画像要素(7A)の集合によって形成される。
【0033】
続いて、第2の潜像画像(8B)を形成する方法について説明する。本発明において、複数の潜像画像(8)を形成する場合には、それぞれの潜像画像(8)を形成するレーザー光(11)の照射角度(所定の角度(α))を前述した角度の範囲で各々変える必要がある。これは、同じ照射角度で異なる潜像画像(8)を形成した場合には、透過光下で複数の画像が混ざり合って出現してしまうためである。
【0034】
図4(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第2の潜像画像(8B)が形成される状態を示す図である。本実施の形態において、第2の潜像画像(8B)が形成される場合、図4(a)に示すように、基材(2)がY軸を中心に時計回りの方向に、所定の角度(α)傾いた状態で、かつ、X軸を中心には傾いていない状態でレーザー光(11)が照射される。
【0035】
図4(b)は、図4(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示している。基材(2)を、Y軸を中心に時計回りの方向に、所定の角度(α)傾けることによって、レーザー光(11)は、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、反時計回りの方向に、所定の角度(α)から照射される。このように、レーザー光(11)が照射される角度(α)は、基材(2)を傾ける角度と同じになるため、本説明では、基材(2)を傾ける角度とレーザー光(11)が照射される角度を同じ符号を用いて説明する。また、第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)は、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第1の角度(αA)と異なるため、以降、第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第2の角度(αB)」とし、形成される潜像画像要素を第2の潜像画像要素(7B)として説明する。
【0036】
図4(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、第2の潜像画像(8B)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、図4に示す方向からレーザー光(11)が照射され、第2の潜像画像要素(7B)の集合によって第2の潜像画像(8B)が形成される。なお、図4(b)では、第2の潜像画像要素(7B)の位置が、第1の潜像画像要素(7A)の位置と異なることを示すために、第1の潜像画像要素(7A)を破線で示している。
【0037】
続いて、第3の潜像画像(8C)を形成する方法について説明する。図5(a)は、レーザー加工装置(図示せず)からレーザー光(11)が照射されて、第3の潜像画像(8C)が形成される状態を示す図である。本実施の形態において、第3の潜像画像(8C)が形成される場合、図5(a)に示すように、基材(2)がY軸を中心に反時計回りの方向に、所定の角度(α)傾いた状態で、かつ、X軸を中心に傾いていない状態でレーザー光(11)が照射される。
【0038】
図5(b)は、図5(a)の一部を拡大した図であり、一つのマイクロレンズ(5)に照射されるレーザー光(11)を示している。基材(2)を、Y軸を中心に反時計回りの方向に、所定の角度(α)傾けた場合、レーザー光(11)は、基材(2)に対して垂直方向を基準とし、時計回りの方向に、所定の角度(α)から照射される。また、第3の潜像画像(8C)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)は、第1の潜像画像(8A)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第1の角度(αA)及び第2の潜像画像(8B)を形成するときにレーザー光(11)が照射される第2の角度(αB)と異なるため、以降、第3の潜像画像(8C)を形成するときにレーザー光(11)が照射される角度(α)を「第3の角度(αC)」とし、形成される潜像画像要素を第3の潜像画像要素(7C)として説明する。
【0039】
図5(b)は、一つのマイクロレンズ(5)にレーザー光(11)が照射される状態を示しているが、実際には、基材(2)上に、一様に配置されたマイクロレンズ(5)において、第3の潜像画像(8C)に相当する位置の複数のマイクロレンズ(5)に、図5に示す方向からレーザー光(11)が照射され、第3の潜像画像要素(7C)の集合によって第3の潜像画像(8C)が形成される。なお、図5(b)では、第3の潜像画像要素(7C)の位置が、第1の潜像画像要素(7A)及び第2の潜像画像要素(7B)の位置と異なることを示すために、第1の潜像画像要素(7A)及び第2の潜像画像要素(7B)を破線で示している。
【0040】
このように本発明の潜像画像形成体(1)において、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)は、それぞれ異なる方向から照射されるレーザー光(11)によって形成され、第1の潜像画像要素(7A)の集合によって第1の潜像画像(8A)が形成され、第2の潜像画像要素(7B)の集合によって第2の潜像画像(8B)が形成され、第3の潜像画像要素(7C)の集合によって第3の潜像画像(8C)が形成される。前述したように、本発明において、潜像画像(8)の数は三つに限定されるものではなく、更に多数の潜像画像(8)を形成することができ、仮に、潜像画像(8)の数「n」を4とした場合は、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)が形成される角度と異なる第4の角度でレーザー光(11)が照射されて第4の潜像画像要素が形成され、第4の潜像画像要素の集合によって第4の潜像画像が形成される。同様に、第nの潜像画像は、第nの角度でレーザー光(11)が照射されて第nの潜像画像要素が形成され、第nの潜像画像要素の集合によって形成される。
【0041】
続いて、一様に配置されるマイクロレンズ(5)に、前述した方法で形成される潜像画像要素(7)と、三つの潜像画像(8)の関係について説明する。
【0042】
図6(a)は、本実施の形態の潜像画像形成体(1)において、一様に配置されるマイクロレンズ(5)と三つの潜像画像(8)の配置を示す図である。図6(b)は、図6(a)の太線で囲む部分における一つのマイクロレンズ(5)を拡大した図であり、上側に示す図は、マイクロレンズ(5)を上から見たときの平面図であり、下側に示す図は、潜像画像要素(7)が形成される部分の断面図である。図6(a)において、太線で囲む部分は、三つの潜像画像(8)のそれぞれ一部が重なる領域であり、このような領域では、図6(b)に示すように、一つのマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)に第1の潜像画像(8A)を構成する第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像(8B)を構成する第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像(8A)を構成する第3の潜像画像要素(7C)が形成される。また、前述したように、Y軸を中心に基材(2)を傾けてレーザー光(11)を照射するため、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)X軸上に形成される。
【0043】
図6では、三つの潜像画像(8)が形成される領域のマイクロレンズ(5)について説明したが、本実施の形態において、三つの潜像画像(8)の内、一つの潜像画像(8)のみが形成される部分のマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)には、一つの潜像画像(8)を構成する潜像画像要素(7)が形成され(図示せず)、二つの潜像画像(8)が形成される部分では、それらを構成する二つの潜像画像要素(7)が形成される(図示せず)。当然、潜像画像(8)に相当する位置ではないマイクロレンズ(5)に隣接した光遮断層(6)には潜像画像要素(7)は形成されない。
【0044】
以上、本実施の形態の潜像画像形成体(1)では、Y軸を中心に基材(2)を傾けてレーザー光(11)を照射することによって、三つの潜像画像(8)が形成される例について説明したが、これに限定されるものではなく、X軸を中心に基材(2)を傾けて潜像画像(8)を形成することも同様に可能であり、かつ、X軸とY軸のそれぞれを中心に基材(2)を傾けて潜像画像(8)を形成することもできる。
【0045】
(潜像画像要素の加工装置)
以上説明した三つの潜像画像(8)を形成する方法において、潜像画像要素(7)を形成するための加工装置(20)の一例を図7に示す。図7に示す加工装置(20)は、再帰性反射材料(3)を備えた基材(2)を載せるための回転ステージ(23)と、レーザー光(11)を照射するレーザー加工装置(22)と、回転ステージ(23)の回転を制御するとともに、レーザー加工装置(22)によるレーザー光(11)の照射する位置を制御するコンピュータ(21)で構成される。なお、主軸(24x、24y)の回転によって、X軸、Y軸の二つの軸を中心に回転ステージ(23)を自在に回転させて角度を変更することができる。このような加工装置(20)を用いて、第1の角度(αA)から第1の潜像画像(8A)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射し、第2の角度(αB)から第2の潜像画像(8B)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射し、第3の角度(αC)から第3の潜像画像(8C)に相当する位置の再帰性反射材料(3)にレーザー光(11)を照射することで、本発明の潜像画像形成体(1)を作製することができる。なお、レーザー加工装置(22)で用いる光の波長としては、マイクロレンズ(5)を傷つけることなく透過し、かつ、光遮断層(6)に欠損を生じさせる特性を必要とすることから、可視波長か、それに近い赤外線であることが望ましい。具体的にはYAG、サファイア、YVO4等のレーザーが適している。ここで、以降の説明で記載する、「潜像画像」に対する「形成」と「描画」の違いについて説明する。再帰性反射材料(3)に対する潜像画像(8)の加工という意味では、どちらも同じ意味であるが、潜像画像(8)を形成するための具体的な手段として、文章中にレーザー加工装置(22)又はそれと同様な手段を記載している箇所(当該文章を受けて説明する箇所を含む。)では、「描画」という語句を用いて説明し、具体的な手段を記載していない箇所では、「形成」という語句を用いて説明する。
【0046】
(潜像画像の観察原理)
以降、本発明の潜像画像形成体(1)の3つの潜像画像(8)のうち、所定の観察角度において、いずれかの潜像画像(8)のみが観察される原理について説明する。
【0047】
図8は、第1の潜像画像要素(7A)、第2の潜像画像要素(7B)及び第3の潜像画像要素(7C)を形成するときにレーザー光(11)が照射された第1の角度(αA)、第2の角度(αB)及び第3の角度(αC)から、観察者が本発明の潜像画像形成体(1)を観察している状態を示している。図8において、視点(10A)は、第1の角度(αA=0度)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10A)は、第1の潜像画像要素(7A)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9A)は、第1の潜像画像要素(7A)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側に位置する光源を示している。図8において、視点(10B)は、第2の角度(αB)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10B)は、第2の潜像画像要素(7B)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9B)は、第2の潜像画像要素(7B)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側の面に位置する光源を示している。図8において、視点(10C)は、第3の角度(αC)から潜像画像形成体(1)を観察した状態を示している。また、視点(10C)は、第3の潜像画像要素(7C)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線(破線で図示)上にあり、かつ、再帰性反射材料(3)のマイクロレンズ(5)が露出している側に位置する観察者の視点を示しており、光源(9C)は、第3の潜像画像要素(7C)とマイクロレンズの中心(O)を結ぶ線の延長線上にあり、かつ、潜像画像形成体(1)を挟んで、観察者の視点と反対側の面に位置する光源を示している。
【0048】
このような、潜像画像形成体(1)、光源(9A、9B、9C)及び視点(10A、10B、10C)の配置において、視点(10A)から透過光で観察した場合、光源(9A)の光は第1の潜像画像要素(7A)を透過し、第1の潜像画像要素(7A)を透過した光がマイクロレンズ(5)を通して観察者の視点(10A)に達する。一方、光源(9B)の光は第2の潜像画像要素(7B)を透過するが、第2の潜像画像要素(7B)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10A)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第1の潜像画像(8A)の視認性に影響することは無い。同様に、光源(9C)の光は第3の潜像画像要素(7C)を透過するが、第3の潜像画像要素(7C)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから、視点(10A)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第1の潜像画像(8A)の視認性に影響することは無い。
【0049】
続いて、視点(10B)から観察した場合について説明する。視点(10B)から透過光で観察した場合、光源(9B)の光は第2の潜像画像要素(7B)を透過し、第2の潜像画像要素(7B)を透過した光がマイクロレンズ(5)を通して観察者の視点(10B)に達する。一方、光源(9A)の光は第1の潜像画像要素(7A)を透過するが、第1の潜像画像要素(7A)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10B)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第2の潜像画像(8B)の視認性に影響することは無い。同様に、光源(9C)の光は第3の潜像画像要素(7C)を透過するが、第3の潜像画像要素(7C)を透過した光は、マイクロレンズ(5)によって、屈折されることから視点(10B)に届くことはないか、届いたとしても透過光量は極めて小さくなり、第2の潜像画像(8B)の視認性に影響することは無い。視点(10C)から観察した場合については、前述した原理によって、光源(9C)の光の第3の潜像画像要素(7C)を透過した光が視点(10C)に達し、光源(9A、9B)の光は、第3の潜像画像(8C)の視認性に影響することは無い。このように、本発明の潜像画像形成体(1)は、マイクロレンズの中心(O)と潜像画像要素(7)を結ぶ線の延長線上に位置する光源(9)の光のみを選択的に透過する機能を有しており、視点(10)が、光遮蔽層(6)に形成された潜像画像要素(7)を透過する光源(9)の光を視認することで、潜像画像要素(7)の集合によって形成された潜像画像(8)を観察できる。よって、本発明の潜像画像形成体(1)は、視点(10A、10B、10C)のように見る位置を変えて観察することで、三つの潜像画像(8)が変化して観察される。
【0050】
なお、実際に、本発明の潜像画像形成体(1)の潜像画像(8)を観察できる環境とは、図8に示すマイクロレンズの中心(O)と潜像画像要素(7)を結ぶ線の延長線上に位置する光源(9)から光が照射されるような環境に限定されるものではなく、太陽光や蛍光灯で照らされる、我々が生活している一般的な環境で何ら問題ない。本発明の潜像画像形成体(1)を屋内や屋外において存在する太陽や蛍光灯にかざして透過光で観察することで、潜像画像(8)を観察することができる。
【0051】
本実施の形態では、潜像画像(8)が、「異なる方向から観察した女性の顔」で構成される例について説明したが、本発明の潜像画像(8)の一つ一つは、微小な潜像画像要素(7)の集合から成るので、高い解像度が要求される画像であっても形成することができる。また、光遮断層(6)に形成される潜像画像要素(7)の粗密によって、人の顔や風景といった複雑な階調を有する潜像画像(8)を形成することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、Y軸を中心に傾けて三つの潜像画像(8)が形成される例について説明したが、X軸を中心に傾けて潜像画像(8)を形成した場合には、Y軸方向に視点(10)の位置を変えることによって、潜像画像(8)が観察され、XY軸のそれぞれに傾けて潜像画像(8)を形成した場合には、XY軸を中心に視点(10)の位置を変えることによって、潜像画像(8)が観察される。
【0053】
また、本実施の形態では、発明の原理と効果を明瞭に説明するために、三つの潜像画像(8)が形成される例で説明したが、多数の潜像画像(8)を形成することによって、自然な立体感を有する画像を出現させることができ、更には、実施例2で後記する動画的な視覚効果や、単純なチェンジング、モーフィング、ズーム等のその他あらゆる視覚効果を形成することができる。
【0054】
本発明において、レーザー光(11)で描画した一つの潜像画像(8)が視認可能な角度範囲は、描画時のレーザー光(11)の強さによって決定されるが、描画する潜像画像(8)の解像度やその階調等にも左右されることから、潜像画像(8)の解像度やデザインに応じて、レーザー光(11)の出力を調整する必要がある。また、隣り合う潜像画像(8)の観察に影響しないように、潜像画像(8)の解像度やデザインに応じて、レーザー光(11)の出力を調整する必要がある。なお、隣り合う潜像画像(8)とは、本実施の形態でいう第1の潜像画像(8A)に対して第2の潜像画像(8B)であり、第3の潜像画像(8C)に対して第2の潜像画像(8B)であり、第2の潜像画像(8B)に対して第1の潜像画像(8A)と第3の潜像画像(8C)であって、互いに異なる角度の潜像画像要素(7)で形成される複数の潜像画像(8)において、一つの潜像画像(8)に対して、最も近い角度の潜像画像要素(7)で形成される潜像画像(8)のことである。具体的には、一つの潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度と、それに隣り合う潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度の差が小さすぎると、隣同士の潜像画像(8)が干渉して白くとんでしまう。逆に、隣り合う潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)を照射する角度の差が大きすぎると、潜像画像(8)を観察するときに、何も観察されない部分が生じてしまい、連続的に潜像画像(8)が出現する動画、立体画像を表現することができなくなる。このことから、隣同士の潜像画像(8)を形成するためのレーザー光(11)の照射角度についても、調整する必要がある。
【0055】
以下に、前述の発明を実施するための最良の形態にしたがって、具体的に作成した潜像画像形成体の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
実施例1において、わずかに観察角度の異なる画像を一定の規則に従って配置することによって、自然な立体感を付与した潜像画像形成体(1−1)の例を説明する。図9に、実施例1における潜像画像形成体(1−1)を示す。実施例1の潜像画像形成体(1−1)は、透明なプラスチック基材(2−1)の上に再帰性反射材料(3−1)を貼付して形成した。なお、再帰性反射材料(3−1)には、大創産業(株)製反射シールを用いた。そして、再帰性反射材料(3−1)に「異なる方向から観察した女性の顔」の潜像画像(8−1)を形成した。
【0057】
続いて、潜像画像(8−1)の詳細について説明する。図9は、便宜上、一つの潜像画像(8−1)のみを示しているが、実施例1の潜像画像形成体(1)の潜像画像(8−1)は、図10に示すように、36の異なる方向から観察した女性の顔画像で構成し、再帰性反射材料(3−1)に36個の顔画像を第1の潜像画像、第2の潜像画像・・・第36の潜像画像として形成した。実施例1では、36個の潜像画像(8−1)を区別するため、潜像画像(8−1)毎に、図10に示す符号を用いている。なお、符合の意味については後述する。
【0058】
図10において、中央位置(A)を基準位置として、B方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を左方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって左方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、C方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を右方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって右方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、D方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を上方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって上方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図10において、中央位置(A)を基準位置として、E方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−1)は、女性の顔を下方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって下方向から観察する角度が徐々に大きくなる。
【0059】
続いて、図10に示す潜像画像(8−1)の符号について説明する。例えば、符号「8−B1−D4−11」において、符号「B1」と「D1」は、それぞれ、B方向とD方向に配置されている画像であることを示しており、「B1」と「D4」の数字は、B方向に1列目、D方向に4列目に配置されていることを意味している。そして、1列目は3度、2列目は6度、3列目は9度、4列目は12度、5列目は15度の各方向にずれた位置から観察した画像である。従って、符号「8−B1−D4−11」は、B方向、すなわち、女性の顔に対して左方向に3度ずれた位置であり、かつ、女性の顔に対して上方向に12度ずれた位置から観察した画像であることを示している。また、符号の中の最後の数字は、何番目の潜像画像であるかを示しており、「8−B1−D4−11」の場合、第11の潜像画像であることを示している。
【0060】
このように、実施例1の潜像画像(8−1)は、符号の列数が1増える毎に、観察角度が3度変わる規則性のある画像で構成した。以上のような画像を3DCGソフトウェア(Newtek社製 ライトウェーブ)によって作成した。これらの画像の解像度はすべて500dpiとし、画像のサイズは35mm×35mmで作成した。なお、潜像画像(8−1)を形成するために用いたレーザーマーカー(キーエンス製 MD―V)は、入力された画像をグレースケール画像に変換したときに、濃度の高い部分、例えば、女性の顔の「目の瞳」や「髪」の部分にレーザー光を照射する。このため、図10に示す潜像画像(8−1)をレーザーマーカーで描画する場合、画像の濃淡を反転させた。
【0061】
以上の構成で成る36個の潜像画像(8−1)を、図11(a)に示す再帰性反射材(3−1)が水平に置かれ、再帰性反射材(3−1)にレーザー光(11)が垂直方向から照射される状態を基準とし、レーザーマーカーを用いて、以下に示す順に描画した。なお、使用したレーザー光(10)は、波長1090nmの赤外線レーザーであり、36個の潜像画像(8−1)を形成するためのレーザー光(11)の出力は、一定とし、レーザーパワー4.5%、スキャンスピード4000mm/s、Qスイッチ周波数100kHzとした。
【0062】
まず、第13の潜像画像(8−B1−0−13)を形成するため、図11(b)に示すように、基準に対して再帰性反射材料(3−1)を、Y軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして、第13の潜像画像(8−B1−0−13)をレーザー光(11)によって再帰性反射材料(3−1)に直接描画した。第13の潜像画像(8−B1−0−13)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−1)を基準から同じ方向に9度傾けた状態として第5の潜像画像(8−B3−0−5)を描画した。第5の潜像画像(8−B3−0−5)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−1)を基準から同じ方向に15度傾けた状態として第1の潜像画像(8−B5−0−1)を描画した。
【0063】
続いて、符号が「C1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(c)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してY軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第24の潜像画像(8−C1−0−24)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増える毎に基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第32の潜像画像(8−C3−0−32)及び第36の潜像画像(8−C5−0−36)を形成した。
【0064】
続いて、符号が「D1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(d)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してX軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして第18の潜像画像(8−0−D1−18)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増えるごとに基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第17の潜像画像(8−0−D3−17)及び第16の潜像画像(8−0−D5−16)を形成した。
【0065】
続いて、符号が「E1」の潜像画像(8−1)を形成するため、図11(e)に示すように、再帰性反射材料(3−1)を、基準に対してX軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第19の潜像画像(8−0−E1−19)をレーザー光(11)によって描画した。また、符号の数字が増える毎に基材(2)の傾ける角度を3度ずつ大きくしてレーザー光(11)を描画し、第20の潜像画像(8−0−E3−20)及び第21の潜像画像(8−0−E5−21)を形成した。
【0066】
以上の手順で、再帰性反射材料(3−1)をX軸、Y軸にそれぞれ傾けて、各方向からレーザー光(11)を照射して、36個の潜像画像(8−1)を描画して、本発明の潜像画像形成体(1−1)を作製した。なお、作製した潜像画像形成体(1−1)において、複数のマイクロレンズ(5−1)に隣接した光遮断層(6−1)の中に、36個全ての潜像画像(8−1)の潜像画像要素(7−1)を有する光遮断層(6−1)が仮に存在する場合、図12に示すように、異なる36個の潜像画像要素(7−1)がそれぞれ重なり合わず、一定の間隔を有して光遮断層(6−1)に形成された状態となる(図12において、36個の潜像画像要素(7−1)を示す符号は、36個の潜像画像(8−1)の符号に対応している)。一方、前述したように、潜像画像(8−1)に相当する位置ではないマイクロレンズ(5−1)に隣接した光遮断層(6−1)には潜像画像要素(7−1)は形成されない。
【0067】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−1)は、透過光下で所定の角度(α)に傾けて観察した場合、観察する角度に対応して潜像画像(8−1)である女性の顔の向きが変化して観察される。その顔の向きの変化は、例えば、図9に示す基材(2−1)の左端を徐々に観察者に近づけるように傾けた場合には、潜像画像(8−1)は、左方向から見た女性の顔画像へと徐々に変化し、図9に示す基材(2−1)の右端を徐々に観察者に近づけるように傾けた場合には、潜像画像(8−1)は、右方向から見た女性の顔画像へと徐々に変化することから、あたかも画像の内部に本物の立体物が存在するかのような視覚効果を得ることができる。
【0068】
また、我々の右眼と左眼は水平方向に70〜75mm離れているために、観察者が潜像画像形成体(1−1)を観察した場合、右眼と左眼とでは潜像画像形成体(1−1)に対する角度がわずかに異なる。この角度差によって、潜像画像形成体(1−1)を観察する観察者は、右眼と左眼とでは異なる潜像画像(8−1)を捉える。例えば、右眼が図10に示した第24の潜像画像(8−C1−0−24)を捉えたとすると、左目は図10に示した第13の潜像画像(8−B1−0−13)を捉えることとなる。これは、通常我々が実際に存在する三次元構造物を観察する場合に生じる視差と全く同じであることから、潜像画像形成体(1−1)を傾けたりせず、単に正対して透過光で観察しただけでも潜像画像(8−1)は自然な立体感を伴って観察される。また、基材(2)を上下左右いずれの方向に傾けて観察しても、正対して観察した場合と同様に、右眼で観察される画像と左目で観察される画像とがわずかに異なっているために両眼視差に起因する自然な立体視の効果が発揮される。
【0069】
以上のように、いずれの方向から透過光下で所定の角度(α)に傾けて観察した場合、潜像印刷物(1−1)中の潜像画像(8−1)は立体感を伴い、しかもそれぞれの観察角度の変化に対応して女性の顔の向きが自然に変化する。これらの効果によって、潜像画像形成体(1−1)中の潜像画像(8−1)である女性の顔は、あたかもそこに女性が存在するかのような立体感を伴って観察される。
【0070】
(実施例2)
実施例2において、左右方向には実施例1と同様にわずかに観察角度の異なる画像を多数配置するとともに、上下方向にはわずかに形状の異なる画像を多数配置することによって、立体感だけでなく、動画的な視覚効果を付与した潜像画像形成体(1−2)の例を説明する。また、実施例2において、潜像画像形成体(1−2)を備えた貴重印刷シート(30)の例を説明する。実施例2の潜像画像形成体(1−2)について、実施例1と異なる点について説明する。
【0071】
実施例2の潜像画像形成体(1−2)は、図13に示すように、彩紋模様を潜像画像(8−2)として形成した。なお、基材(2−2)と再帰性反射材料(3−2)の構成は、実施例1と同じである。
【0072】
続いて、潜像画像(8−2)の詳細について説明する。図13は、便宜上、一つの潜像画像(8−2)のみを示しているが、実施例2の潜像画像(8−2)は、図14に示すように、それぞれ異なる25個の彩紋模様で構成し、再帰性反射材料(3−2)に25個の彩紋模様を第1の潜像画像、第2の潜像画像・・・第25の潜像画像として形成した。実施例2では、25個の潜像画像(8−2)を区別するため、潜像画像(8−2)毎に、図14に示す符号を用いている。なお、符合の意味については後述する。
【0073】
図14において、中央位置(A)を基準位置として、B方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−2)は、実施例1と同様に、彩紋模様を左方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるに従がって左方向から観察する角度が徐々に大きくなる。図14において、中央位置(A)を基準位置として、C方向に向かうに直線上に配置される潜像画像(8−2)は、彩紋模様を右方向から観察したときの画像であり、中央位置(A)から離れるにしたがって右方向から観察する角度が徐々に大きくなる。また、潜像画像(8−2)を示すB方向及びC方向の符号については、実施例1と同様であり、1列目は3度、2列目は6度、3列目は9度、4列目は12度、5列目は15度の各方向にずれた位置から観察した画像である。符号の中の最後の数字は、実施例1と同様であり、何番目の潜像画像であるかを示している。
【0074】
上下方向(D方向及びE方向)に関しては、前述したように、形の異なる画像を配置している。本実施例においては、彩紋模様を花と見立て、花が蕾の状態から大きく開く画像へと変化する動画を構成することを意図しており、上下に隣り合う位置にある画像は花びらの開き具合が異なっている。例えば、D方向において、第12の潜像画像(8−0−D1−12)は、位置(A)にある第13の潜像画像(8−0−0−13)よりもわずかに大きく花びらが開いた画像となり、第11の潜像画像(8−0−D2−11)では、より大きく花びらが開いた画像となっている。また、E方向において、第14の潜像画像(8−0−E1−14)は、位置(A)にある第13の潜像画像(8−0−0−13)を基準としてわずかに花びらが閉じた画像となり、第15の潜像画像(8−0−E2−15)では、花びらがより閉じた蕾の状態の画像となっている。このように、潜像画像(8−2)を示す符号がD方向に増えると、花びらが開いた画像となり、E方向に増えると、花びらが閉じた画像となる。
【0075】
以上のような画像を3DCGソフトウェア(Newtek社製 ライトウェーブ)によって作成した。これらの画像の解像度はすべて350dpiであり、画像のサイズは30mm×30mmで作成した。なお、3DCGソフトウェアで作成した画像は、実施例1と同様に、図14に示す潜像画像(8−2)に対して濃淡反転させた画像を作成した。
【0076】
以上の構成で成る25個の潜像画像(8−2)を、図11(a)に示す再帰性反射材(3−2)が水平に置かれ、再帰性反射材(3−2)にレーザー光(11)が垂直方向から照射される状態を基準とし、レーザーマーカーを用いて、以下に示す順に描画した。なお、使用したレーザー光(10)は、波長1090nmの赤外線レーザーであり、25個の潜像画像(8−2)を形成するためのレーザー光(11)の出力は、一定とし、レーザーパワー4.0%、スキャンスピード6000mm/s、Qスイッチ周波数100kHzとした。
【0077】
まず、図11(a)に示すように、第13の潜像画像(8−0−0−13)をレーザー光(11)によって再帰性反射材料(3−1)に直接描画した。続いて、図11(b)に示すように、基準に対してY軸を中心に再帰性反射材料(3−2)を時計回りに3度傾けた状態にして、第8の潜像画像(8−B1−0−8)をレーザー光によって直接再帰性反射材料(3−2)に描画した。第8の潜像画像(8−B1−0−8)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−2)を基準から同じ方向に6度傾けた状態として第3の潜像画像(8−B2−0−3)を描画した。
【0078】
符号が「C1」の潜像画像(8−2)を形成するため、図11(c)に示すように、再帰性反射材料(3−2)を、基準に対してY軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして第18の潜像画像(8−C1−0−18)をレーザー光(11)によって描画した。第18の潜像画像(8−C1−0−18)の描画が完了した後、再帰性反射材料(3−2)を基準から同じ方向に6度傾けた状態として第23の潜像画像(8−C2−0−23)を描画した。同様にして、符号が「D1」の潜像画像(8−2)を形成する場合は、基準に対して再帰性反射材料(3−2)を、X軸を中心に時計回りに3度傾けた状態にして描画し、符号の数字が増える毎に再帰性反射材料(3−2)の傾ける角度を3度ずつ大きくして描画した。また、符号が「E1」の潜像画像(8−2)を形成する場合は、基準に対して再帰性反射材料(3−2)を、X軸を中心に反時計回りに3度傾けた状態にして描画し、符号の数字が増える毎に再帰性反射材料(3−2)の傾ける角度を3度ずつ大きくして描画した。
【0079】
以上の手順で、再帰性反射材料(3−2)をX軸、Y軸にそれぞれ傾けて、各方向からレーザー光(11)を照射して、25個の潜像画像(8−3)を描画した。
【0080】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−2)は、透過光下で上下方向(D方向及びE方向)に6度ずつ傾けて観察した場合に、閉じていた蕾が開いて花に変化するか、開いていた花が蕾の状態に閉じる動画的な視覚効果が発現する。加えて、左右方向(B方向及びC方向)にはわずかに異なる角度から観察した彩紋画像を形成していることから、実施例1と同様な両眼視差に基づく立体視の効果も同時に発現する。このように、潜像画像形成体(1−2)は、立体的な視覚効果と、動画的な視覚効果を同時に実出現することができる。
【0081】
以上のようにして作製した潜像画像形成体(1−2)を、図15(a)に示すように、シート基材(31)の上に貼り付けて貴重印刷シート(30)を作製した。なお、シート基材(31)には、坪量52g/m2、厚さ65μm、透過率23%の紙材を用いた。貴重印刷シート(30)は身分証明書として作製したものであり、図15(b)に示すように、シート基材(31)の上に、氏名、住所、発行日で構成される証明書情報(32)と印刷模様(33)を印刷した。
【0082】
このように、プラスチック材料に作製した潜像画像形成体(1−2)を、紙材で成るシート基材(31)に積層して作製した貴重印刷シート(30)においても、透過光で観察したときに潜像画像(8−2)を観察することができた。なお、実施例2は身分証明書を例に作製したものであるが、銀行券、パスポート、有価証券、通行券等のセキュリティ印刷物に、本発明の潜像画像形成体(1)を形成することによって、真偽判別が行えるとともに、偽造防止を図ることができる。
【0083】
(実施例3)
実施例3は、実施例1に対して、透過光下で所定の角度(α)に傾けたときに観察される潜像画像(8−3)が、異なる図柄に変化する潜像画像形成体(1−3)である。実施例3の潜像画像形成体(1−3)について、実施例1と異なる点について説明する。
【0084】
図16(a)は、実施例3の潜像画像形成体(1−3)を示す図である。実施例3の潜像画像形成体(1−3)において、潜像画像(8−3)の数「n」は3とし、第1の潜像画像(8−3−1)は図16(b)に示す「OK」の文字、第2の潜像画像(8−3−2)は図16(c)に示す「顔」、第3の潜像画像(8−3−3)は図16(d)に示すマークから成る構成とした。
【0085】
そして、第1の潜像画像(8−3−1)を形成するため、再帰性反射材料(3−3)を、Y軸を中心として時計回りの方向に10度傾けて第1の潜像画像(8−3−1)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。次に、第2の潜像画像(8−3−2)を形成するため、再帰性反射材料(3−3)がX軸と平行な状態で、第2の潜像画像(8−3−2)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。次に、Y軸を中心として反時計回りの方向に10度傾けて第3の潜像画像(8−3−3)に相当する部分にレーザー光(11)を照射した。
【0086】
以上の手順で作製した潜像画像形成体(1−3)を、正面から透過光で観察した場合、図16(b)に示す第2の潜像画像(8B−3−2)が観察され、基材(2−3)を、Y軸を中心として時計回りの方向に10度傾けて透過光で観察した場合、図16(a)に示す第1の潜像画像(8−3−1)が観察され、基材(2−3)を、Y軸を中心として反時計回りの方向に10度傾けて透過光で観察した場合、図16(c)に示す第3の潜像画像(8−3−3)が観察された。このように、実施例4の潜像画像形成体(1−3)は、基材(2−3)を傾けて透過光で観察した場合、異なる潜像画像(8−3)が観察された。
【符号の説明】
【0087】
1 潜像画像形成体
2 基材
3 再帰性反射材料
4 接着樹脂層
5 マイクロレンズ
6 光遮断層
7 潜像画像要素
8 潜像画像
9 光源
10 視点
11 レーザー光
20 加工装置
21 コンピュータ
22 レーザー加工装置
23 回転ステージ
24x、24y 主軸
30 貴重印刷シート
31 シート基材
32 証明書情報
33 印刷模様
1−1 潜像画像形成体(実施例1)
2−1 基材
3−1 再帰性反射材料
8−1 潜像画像
1−2 潜像画像形成体(実施例2)
2−2 基材
3−2 再帰性反射材料
8−2 潜像画像
1−3 潜像画像形成体(実施例3)
2−3 基材
3−3 再帰性反射材料
8−3 潜像画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロレンズと、前記マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つの前記マイクロレンズに対応した前記光遮断層は、貫通した孔で成る一つの潜像画像要素を有し、前記潜像画像要素は前記マイクロレンズの中心に対して所定の角度を成して形成され、前記所定の角度を成す複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像が形成され、透過光による観察において、前記所定の角度の方向から観察すると、前記複数の潜像画像要素を透過する光によって前記潜像画像が観察されることを特徴とする潜像画像形成体。
【請求項2】
複数のマイクロレンズと、前記マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つの前記マイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る潜像画像要素を少なくとも一つ有し、前記少なくとも一つの潜像画像要素は、基材に対して互いに異なる第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)で形成された第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素のいずれかであり、第一の潜像画像要素の集合によって第一の潜像画像が形成され、第二の潜像画像要素の集合によって第二の潜像画像が形成され、・・・、第nの潜像画像要素の集合によって第nの潜像画像が形成され、透過光による観察において、前記基材を前記第一の角度に傾けて観察した場合には、前記第一の潜像画像が観察され、前記第二の角度に傾けて観察した場合には、前記第二の潜像画像が観察され、・・・、前記第nの角度に傾けて観察した場合には、前記第nの潜像画像が観察されることを特徴とする潜像画像形成体。
【請求項3】
一つの前記マクロレンズに対応した前記光遮断層に、前記第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素(nは2以上の自然数)のうち、二つ以上の異なる潜像画像要素が形成されることを特徴とする請求項2記載の潜像画像形成体。
【請求項4】
前記第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)は、一つの任意の立体物を異なる角度から観察する角度であり、前記第一の潜像画像、第二の潜像画像、・・・第nの潜像画像は、一つの任意の立体物を第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)から観察した、相互に異なる画像によって構成され、透過光による観察において、前記任意の立体物が潜像画像として立体的に観察されることを特徴とする請求項2又は3記載の潜像画像形成体。
【請求項1】
複数のマイクロレンズと、前記マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つの前記マイクロレンズに対応した前記光遮断層は、貫通した孔で成る一つの潜像画像要素を有し、前記潜像画像要素は前記マイクロレンズの中心に対して所定の角度を成して形成され、前記所定の角度を成す複数の潜像画像要素の集合によって一つの潜像画像が形成され、透過光による観察において、前記所定の角度の方向から観察すると、前記複数の潜像画像要素を透過する光によって前記潜像画像が観察されることを特徴とする潜像画像形成体。
【請求項2】
複数のマイクロレンズと、前記マイクロレンズに隣接した光遮断層を備えた再帰性反射材料が、光透過性を有する基材の少なくとも一部に積層され、一つの前記マイクロレンズに対応した光遮断層は、貫通した孔で成る潜像画像要素を少なくとも一つ有し、前記少なくとも一つの潜像画像要素は、基材に対して互いに異なる第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)で形成された第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素のいずれかであり、第一の潜像画像要素の集合によって第一の潜像画像が形成され、第二の潜像画像要素の集合によって第二の潜像画像が形成され、・・・、第nの潜像画像要素の集合によって第nの潜像画像が形成され、透過光による観察において、前記基材を前記第一の角度に傾けて観察した場合には、前記第一の潜像画像が観察され、前記第二の角度に傾けて観察した場合には、前記第二の潜像画像が観察され、・・・、前記第nの角度に傾けて観察した場合には、前記第nの潜像画像が観察されることを特徴とする潜像画像形成体。
【請求項3】
一つの前記マクロレンズに対応した前記光遮断層に、前記第一の潜像画像要素、第二の潜像画像要素、・・・、第nの潜像画像要素(nは2以上の自然数)のうち、二つ以上の異なる潜像画像要素が形成されることを特徴とする請求項2記載の潜像画像形成体。
【請求項4】
前記第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)は、一つの任意の立体物を異なる角度から観察する角度であり、前記第一の潜像画像、第二の潜像画像、・・・第nの潜像画像は、一つの任意の立体物を第一の角度、第二の角度、・・・、第nの角度(nは2以上の自然数)から観察した、相互に異なる画像によって構成され、透過光による観察において、前記任意の立体物が潜像画像として立体的に観察されることを特徴とする請求項2又は3記載の潜像画像形成体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図4】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−13991(P2012−13991A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151028(P2010−151028)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
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