説明

潜在型高伸縮性ミシン糸

【課題】可縫性に問題がなく、仕上げ後の縫い目が高伸縮性を示すミシン糸を提供することにある。
【解決手段】架橋型ポリオレフィン系弾性糸と非弾性糸との複合糸を複数本交撚したミシン糸であって、該ミシン糸の乾式弾性率が200〜1000Kg/mm2、沸水処理後の伸度が40から100%、30%伸張時の回復率が50%以上であることを特徴とする潜在型高伸縮性ミシン糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸縮性と可縫性を併せ持つ高伸縮性ミシン糸に関するものである。更に詳しくは、縫製時には低伸度高モジュラス糸でありながら、縫製後の熱処理により伸縮性が発現するミシン糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシン糸として要求される特性としては一般に、強度、モジュラス、耐熱性、均一性が挙げられる。強度、耐熱性は縫製時の可縫枚数や可縫速度を左右する特性であり、モジュラスは、目とび(上糸が形成するループに下糸ボビンの剣先が貫通すると縫い目が形成されるが、下糸ボビンの剣先が貫通ミスすると目とびになる)の発生確率を左右する要因であり、高いモジュラスが望まれている。均一性は言うまでもなく縫い目の美しさを左右する要因である。強度については使用繊維の強度の依存性が高く、一般に高強力繊維が用いられ、耐熱性は摩擦特性に特に依存し、付与オイルや毛羽のある複合紡績糸等で改良されてきた。このような観点から、モジュラスの高い綿繊維はミシン糸として最適な素材として、永年使われてきている。また合成繊維においても高モジュラス化の提案もある(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
近年、快適衣服の追及からストレッチ性のある布帛の開発が進み、仮撚加工糸(ポリエステル、ナイロン、ポリテトラメチレンレンテレフタレート等)やポリウレタン弾性糸の混用で要求に合った布帛が提供されてきている。しかしながら、この布帛の伸度に追従するミシン糸がないため、縫合部のストレッチ性が損なわれ、衣服として十分に要求がみたされていないのが現状である。従来、着用時の伸度の大きいニット製品等は縫い目を形成するループ構造自体を3次元化(単環縫いまたは二重環縫い)して対応しているのが実状であり、十分とはいい難い。また環縫いの縫い目ループが大きく、薄地織物等には適さない。
【0004】
ストレッチミシン糸の開発が難しいことは、ミシン糸として最重要要件である可縫製を満たすには、低伸度高モジュラスとストレッチ性が相反する特性であるためである。ストレッチミシン糸として要求される特性は縫製時には低伸度高モジュラスであり、縫製後のループ形成時点でストレッチ性を発現することであり、この概念に属した発明もある(例えば特許文献3参照)。しかしながら該発明のミシン糸は同長の弾性糸と塑性変形可能な合成繊維とを複合させ、縫製時の張力を塑性変形可能な合成繊維に担持させ、縫製後の着用時の伸長により熱可塑性合成繊維を塑性変形して伸張し、着用以降の張力を複合相手の弾性糸に担持させることでストレッチ性を付与するメカニズムを採用する。このため、ミシン糸としては、縫製時のモジュラスが不十分であるばかりか、塑性変形した熱可塑性合成繊維は収縮率が大きいため、着用以降の熱(例えばアイロンがけやタンブラー乾燥等)に不安定となり、更には強度的な問題もある。
【特許文献1】実公昭 44−18034号公報
【特許文献2】特開昭 56−128336号公報
【特許文献3】特開平 6−248529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、可縫性に問題がなく、仕上げ後の縫い目が高伸縮性を示すミシン糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、架橋型ポリオレフィン系弾性糸と非弾性繊維との複合糸をミシン糸に用いることにより、縫製時には高弾性で耐熱性にも優れ、高度の可縫性を示し、仕上げ時の熱処理で初めて伸縮性を発現するミシン糸が得られることを究明した。すなわち本発明のミシン糸は、
1.架橋型ポリオレフィン系弾性糸と非弾性糸との複合糸を複数本交撚したミシン糸で あり、該ミシン糸の乾式弾性率が200から1000Kg/mm2で、沸水処理後の 伸度が40から100%で、30%伸張時の回復率が50%以上である潜在型高伸縮 性ミシン糸であり、
2.複合糸が非弾性短繊維よりなる複合紡績糸である潜在型高伸縮性ミシン糸で、
3.非弾性短繊維が綿繊維である潜在型高伸縮性ミシン糸で、
4.複合糸が非弾性長繊維よりなる複合加工糸である潜在型高伸縮性ミシン糸であり、 5.非弾性長繊維がポリエステル系フィラメント糸である潜在型高伸縮性ミシン糸
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のミシン糸は縫製時には高弾性で耐熱性にも富むため、縫い針が縫製する布帛を貫通後に上糸が形成するループが十分大きいため、下糸を包含するボビンの剣先が的確に該ループを貫通し、目とびが生ずることがない可縫性に優れたミシン糸であり、縫製後の熱処理で優れた伸縮性が発現し、生地の伸縮性を害することのないミシン糸である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう架橋型ポリオレフィン繊維は均一に分枝を有しており、実質的に線状であるオレフィンに架橋処理を施されてなる繊維を用いることが好ましい。
ここで均一に分枝していて実質的に線状であるオレフィン繊維とは、オレフィン系モノマーを重合させた重合物であり、その重合物の分岐度合いが均一であるものを言う。
例えばαオレフィンを共重合させた低密度ポリエチレンや特表平8−509530号公報記載の弾性繊維がこれに該当する。
また架橋処理の方法としては、例えばラジカル開始剤やカップリング剤などを用いた化学架橋や、エネルギー線を照射することによって架橋させる方法等が挙げられる。製品となった後の安定性を考慮するとエネルギー線照射による架橋が好ましいが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0009】
かかる架橋型ポリオレフィン繊維は、伸張状態で加熱するとその伸張状態を保ち、伸縮性が消失し(リジット化)、その後張力を加えずに加熱すると伸縮性を回復するというポリウレタン繊維には無い特性を有するものであり、リジット状態で縫製等の加工をおこない、その後染色工程等で伸縮性を回復させることにより、本願発明の目的を達成することができるものである。
【0010】
本発明の複合糸は芯に架橋型ポリオレフィン繊維を用いることが好ましく、複合糸中の弾性繊維の繊度は40dTex以上、160dTex以下であることが好ましい。40dtex未満では、十分な伸縮性が発現せず、160dtexを超えるとミシン糸として弾性応力が強すぎるからである。また該弾性糸はモノフィラメントでもマルチフィラメントでも用いることが出来る。ミシン糸は50dTex.から500dTex,の複合糸を2から5本交撚して得られる。
【0011】
複合糸は架橋型ポリオレフィン繊維を合成フィラメントで包まれた複合加工糸でも、架橋型ポリオレフィン繊維を合成繊維短繊維または綿や羊毛等の天然短繊維で包まれた複合紡績糸でもかまわない。トルクバランスを保つため、下撚りと上撚りは逆方向とすることが好ましい。架橋型ポリオレフィン繊維を用いる理由は優れた熱セット性と同弾性回復性および耐熱性に優れる点にある。架橋型ポリオレフィン繊維は伸張して70℃以上(ポリオレフィン系繊維の結晶融点)の温度でセットすると95%以上のセット率と次工程の弛緩熱処理で50%以上の弾性回復率を示す点にある。耐熱性は後述する非弾性繊維の高弾性率処理に必要な150℃以上の温度に耐え、弾性を高度に保つために必要である。
【0012】
第二の好ましい要件はミシン糸の乾式弾性率が200から1000Kg/mm2で、乾式伸度が20%以下であることにある。弾性率が200Kg/mm2未満では十分なループ形成ができず、目とびが発生しやすく、拘束縫製に追従できない。1000Kg/mm2以上になると、縫製後の縫い目がやや固く、製品の風合いを損ねるばかりか、製造時のコストが大きくなり、好ましくない。より好ましくは、複合加工糸(非弾性糸がフィラメントの場合)では500から700Kg/mm2、複合紡績糸(非弾性糸が短繊維の場合)は300から500Kg/mm2がより適している。500Kg/mm2以上の弾性率は通常の染色糸そのままでは到底得られる領域ではなく、染色後に再セットすることで得られる。再セットは非弾性繊維の素材により若干ことなるものの、おおむね乾熱130℃から180℃で1.1から1.3倍に延伸される。
【0013】
もう1つの架橋型ポリオレフィン繊維の重要な働きは弛緩熱処理での弾性回復性にある。架橋型ポリオレフィン繊維は結晶融点以上の温度で弛緩すると熱セットでリジッド化された複合糸の弾性糸が収縮し、複合糸としての弾性が回復する。この時の弾性複合糸の伸度は40から100%で、30%伸長時の回復率が50%以上あることが重要である。伸度が40%未満ではストレッチ性が不十分で目的にはずれ、100%を超えると、縫製品の形態安定性をつかさどる縫い目の保持性が悪くなる。より好ましくは40%以上80%未満である。また30%伸長時の回復性が50%未満では、着用中に縫い目開きが生じ、好ましくない。より好ましくは70%以上100%未満である。
【0014】
前述のように複合糸は鞘繊維がフィラメントの複合加工糸と短繊維の複合紡績糸に大別でき、目的に応じて選択すればよい。複合紡績糸は毛羽が存在することから耐熱性に優れ、限界可縫布枚数が多く、糸端がほつれにくいことに特徴があり、特に綿繊維は繊維自体の弾性率が高いことからより適している
【0015】
鞘繊維をフィラメント糸とする複合加工糸は繊維の均整度が高く強度利用率が高く、高強力のミシン糸が得られることや、光沢、発色性に富む利点がある。中でもポリエステルフィラメントは耐光性に優れることから最も優れている。難点は耐熱性が若干おとることから拘束縫製には不利とされているが、耐熱低摩擦オイルの開発で改善がなされてきている。またナイロンやポリエステルでは高重合度のポリマーを利用することで、産業資材用途のミシン糸としての利用も進んできている。
【0016】
ここで、本発明のミシン糸は縫製後に収縮させないと、伸縮性が発現しない欠点についてのべる。本発明を構成する弾性糸は縫製前はリジッドで殆ど伸縮性を示さず、縫製後に熱処理で収縮させることで、はじめて伸縮性が発現する。このため、縫い目には収縮するゆとりが必要であり、縫製条件に注意を要する。すなわち、伸長し易い布帛を縫製する場合は、伸長状態で布送りを実施(伸長しながら縫製する)し、縫製後に布がもどり、縫い目が若干浮き上がっている状態とする必要がある。また伸長率が低く伸びにくい布帛を縫製する場合は上下縫い糸とも給糸張力を極力低くし、縫い目が若干浮き上がっている状態とする。このようにすることで、縫製上がりで縫い目にゆとりを作っておき、後の熱処理(アイロン、プレス掛けやスチーム処理等)でミシン糸を収縮させ、伸縮性を発現させる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を用いて詳述するが、実施形態を限定するものではない。
【0018】
〔弾性率および伸度の測定方法〕
得られたミシン糸に同糸に用いた弾性糸の総繊度(dTex.)に0.0009を乗じたg数の荷重を掛け、テンシロン型伸長試験機にチャック間隔を20cmとして取り付く、20cm/分の伸長速度で引っ張り、得られたストレスーストレイン曲線より、弾性率および伸度を求める。弾性率は同曲線の最大勾配より、100%伸長時の応力(Kg)を求め、繊度より換算される糸断面積(mm2)で乗じて弾性率とする。伸度は伸長破断時の伸度を求める。
【0019】
〔沸水処理後の伸度と伸長回復率の測定方法〕
ミシン糸を無拘束状態でガーゼに包み、沸水で30分処理する。沸水より取り出した試料は室温まで放置し、室温状態でガーゼを解き3時間風乾する。同試料を前記弾性率の測定と同法でテンシロン型伸長試験機で伸度を測定する。
伸長回復率は同法でテンシロン型伸長試験機を用い、30%伸長時点で伸長を停止し、直ちに、伸長速度と同速でゆるめ、応力が0となる時点のチャック間隔(Lcm)より次式で伸長回復率を求める。
伸長回復率(%)={(20×1.3−L)/20×0.3}×100
【0020】
〔セット率、弾性回復率の測定方法〕
架橋型ポリオレフィン弾性糸を0.0008cN/dTex.の荷重下で10cm間隔の印をいれ、該糸を3倍に伸長して乾熱140℃で30秒間セットし、室温で徐冷し、室温下で伸長を開放し、0.0008cN/dTex.の荷重下で印間距離(l:cm)を測定し、セット率を次式より求める。
セット率(%)={l−10/(3×10−10)}×100
同糸をガーゼに包み、沸水処理、風乾後再度0.0008cN/dTex.の荷重下で印間距離(l1cm)を測定し、弾性回復率を次式より求める。
弾性回復率(%)=[(l−l1)/(l−10)]×100
【0021】
〔布帛の伸長率の測定方法〕
「風合い評価の標準化と解析」(日本繊維機械学会編集)の第IV章 「布の力学的特性の測定」に記載の方法にのっとり、測定した。幅20cm、長さ5cmの試料を布帛の経方向、緯方向に採取し、長さ方向に4.00×10-3 /sec一定で、最大荷重500gf/cmまで引張り、変形回復過程に移り、最大荷重時の伸長率を求めた。伸長率と変形回復過程の0応力到達時の歪み量の差の伸長率との比率を回復率とし、経方向と緯方向の平均値を伸長率及び回復率とした。但し、縫製後の試料は布帛が2枚重なるので、最大荷重1000gf/cmまで引張った。
伸長率の保持率は次式で算出した。
伸長率の保持率(%)
=(縫製セット後の布帛の伸張率/縫製前の布帛の伸張率)×100
【0022】
(実施例1)
平均繊維長が26mmの綿繊維よりなる粗糸をフロントローラーとバックローラー間で48倍にドラフトし、同時に架橋型ポリオレフィン繊維78デシテックスのモノフィラメントを3.0倍にドラフトしてフロントローラーに供給し、撚係数を4.3として70gの張力下で精紡コップに巻取り、40綿番手の芯鞘型複合紡績糸を得た。架橋型ポリオレフィン繊維の混用率は17.5%であった。該紡績を2本引き揃え、該紡績糸とは反対の撚り方向に760T/mで合撚し、チーズに巻き取り、反応染料(商品名:Sumifix Supra(住友化学工業株式会社製))で60℃×45分で染色した。得られた染色糸を1.2倍に延伸しながら非接触ヒーターで160℃で0.3秒セットし、シリコンを主体とするオイルを付与してミシン糸とした。このミシン糸の性能を表―1に示す。なお、表―1に示す糸切れ、目飛び評価は綿糸50番手を用いた天竺編地を4枚重ねて、平2本針ミシンで100枚縫製した時の欠点発生率で評価した。該ミシン糸を上糸と下糸に用い、緯方向の定荷重伸長率が18%であるストレッチ織物を同方向に2枚重ね、通常の縫製条件より30%過剰に縫い糸が供給されるように、ミシンの給糸テンションを調整後に緯方向に本縫いミシンで縫製した。この時縫い目は正常状態よりたるんでいた。該縫製布をホフマンプレスで100℃×30秒セットしたところ、縫い目は正常なきれいな縫い目になっていた。該布帛の定荷重伸長率を縫い目方向で測定したところ、縫製前の18%に対し17%と、ほとんど遜色ない伸長率を示した。回復後に縫い目を検査したところ、縫い糸の破断やたるみは認められなかった。
【0023】
(実施例2)
架橋型ポリオレフィン繊維78デシテックスのモノフィラメントを3.0倍にドラフトしながら、ポリエステルフィラメント135dTex.-36フィラメントをS方向に1000T/mでカバリングし、該加工糸を2本引き揃えてZ方向に750T/mで合撚した。該号撚糸をチーズに巻き上げ、分散染料で130℃×45分染色した。該染色糸を1.25倍に延伸しながら170℃×0.3秒セットしてシリコンを主体とするオイルを付与してミシン糸とした。このミシン糸の性能を表―1に示す。なお、表―1に示す糸切れ、目飛び評価は綿糸50番手を用いた天竺編地を4枚重ねて、平2本針ミシンで100枚縫製した時の欠点発生率で評価した。該ミシン糸を上糸と下糸に用い、緯方向の定荷重伸長率が25%であるストレッチ編み物を同方向に2枚重ね、通常の縫製条件より30%過剰に縫い糸が供給されるように、ミシンの給糸テンションを調整後に緯方向に単還縫いミシンで縫製した。この時縫い目は正常状態よりたるんでいた。該縫製布をホフマンプレスで100℃×30秒セットしたところ、縫い目は正常なきれいな縫い目になっていた。該布帛の定荷重伸長率を縫い目方向で測定したところ、縫製前の25%に対し23%と、ほとんど遜色ない伸長率を示した。回復後に縫い目を検査したところ、縫い糸の破断やたるみは認められなかった。
【0024】
(実施例3)
平均繊維長が26mmの綿繊維よりなる粗糸をフロントローラーとバックローラー間で48倍にドラフトし、同時に架橋型ポリオレフィン繊維78デシテックスのモノフィラメントを3.0倍にドラフトしてフロントローラーに供給し、撚係数を4.3として70gの張力下で精紡コップに巻取り、40綿番手の芯鞘型複合紡績糸を得た。架橋型ポリオレフィン繊維の混用率は17.5%であった。染色チーズに巻き上げた後、反応染料(商品名:Sumifix Supra(住友化学工業株式会社製))で60℃×45分で染色した。得られた染色糸を2本引き揃え、該紡績糸とは反対の撚り方向に760T/mで合撚し、85℃×20分のキヤーセットをした後、シリコンを主体とするオイルを付与してミシン糸とした。このミシン糸の性能を表―1に示す。なお、表―1に示す糸切れ、目飛び評価は綿糸50番手を用いた天竺編地を4枚重ねて、平2本針ミシンで100枚縫製した時の欠点発生率で評価した。該ミシン糸を上糸と下糸に用い、緯方向の定荷重伸長率が18%であるストレッチ織物を同方向に2枚重ね、通常の縫製条件より25%過剰に縫い糸が供給されるように、ミシンの給糸テンションを調整後に緯方向に本縫いミシンで縫製した。この時縫い目は正常状態よりたるんでいた。該縫製布をホフマンプレスで100℃×30秒セットしたところ、縫い目は正常なきれいな縫い目になっていた。
【0025】
(比較例1)
使用する弾性糸をポリウレタン弾性糸(東洋紡績株式会社製エスパT765)78dTex.とする以外は実施例―1と同法でミシン糸を得、同法で評価した。該布帛の定荷重伸長率を縫い目方向で測定したところ、縫製前の18%に対し18%と、差がない伸長率を示し、回復後に縫い目を検査したところ、縫い糸の破断やたるみは認められなかったが、目飛びが散見され、実用に耐えるものではなかった。
【0026】
(比較例2)
使用する弾性糸を低温セット性ポリウレタン弾性糸(東洋紡績株式会社製エスパM)78dTex.とする以外は実施例―1と同法でミシン糸を得、同法で評価した。目飛び、
糸切れ等可縫性に問題はなかったが、プレス後の縫い目のたるみが解消されず、縫い目開きが大きく実用に耐えられなかった。(比較例2−1)これを解消すべく、縫製時の張力を調整して、過剰給糸されない条件で縫製し、プレス後に該布帛の定荷重伸長率を縫い目方向で測定したところ、縫製前の18%に対し5%と、ほとんど伸長しない縫製品となった(比較例2−2)。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のミシン糸は、低伸度高弾性率であり、十分な可縫性を示し、得られる縫製品は布帛の伸縮特性を阻害しない、従来にない伸縮性布帛の縫製に理想的な性能をもっており、衣料は勿論のこと、産業資材、生活資材用途にも有用に利用し得るミシン糸である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋型ポリオレフィン系弾性糸と非弾性糸との複合糸を複数本交撚したミシン糸であって、該ミシン糸の乾式弾性率が200〜1000Kg/mm2、沸水処理後の伸度が40から100%、30%伸張時の回復率が50%以上であることを特徴とする潜在型高伸縮性ミシン糸。
【請求項2】
複合糸が非弾性短繊維よりなる複合紡績糸であることを特徴とする請求項1記載の潜在型高伸縮性ミシン糸。
【請求項3】
非弾性短繊維が綿繊維であることを特徴とする請求項1又は請求項2いずれかに記載の潜在型高伸縮性ミシン糸。
【請求項4】
複合糸が非弾性長繊維よりなる複合加工糸であることを特徴とする請求項1記載の潜在型高伸縮性ミシン糸。
【請求項5】
非弾性長繊維がポリエステル系フィラメント糸であることを特徴とする請求項1又は請求項4いずれかに記載の潜在型高伸縮性ミシン糸。

【公開番号】特開2006−283253(P2006−283253A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107614(P2005−107614)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】