説明

潜在性熱硬化型組成物およびその硬化物

【課題】保存安定性が良好で、昇温時に大気中においてすばやく硬化し、その硬化物は、種々の基材に対する接着性や低硬化収縮性に優れると共に、電気絶縁性も良好であり、しかも金属を腐食させることがない熱潜在性硬化型組成物を提供すること。
【解決手段】(a)脂環式エポキシ化合物、(b)アルミニウム錯体、(c)水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂、からなる熱硬化型組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により硬化塗膜を形成し、形成された塗膜が、塗料、接着剤、インキ、フィルムコーティング、電子材料用コーティング材料などに有用な熱硬化型組成物およびその硬化物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
熱または、光のエネルギーを硬化反応に利用しイオン的に硬化するエポキシ化合物系硬化材料は、(a)酸素による硬化阻害を受けないため表面および薄膜硬化性に優れる、(b)硬化収縮が小さく幅広い基材に対し良好な接着性を有する、(c)活性種の寿命が長く、一旦熱や光により硬化が開始されるとその後エネルギーを積極的に注入しなくても硬化が進む、(d)その結果残留モノマー量を低く抑えることが可能、等の点で、ラジカル的に硬化するアクリル系硬化材料に比べ優れた特長を有する。これらの特徴を生かして、塗料、接着剤、ディスプレイ用シール剤、印刷インキ、立体造形、シリコーン系剥離紙、フォトレジスト、電子部品用封止剤等への応用がなされている(非特許文献1)。
【0003】
エポキシ系化合物の硬化は、アミン系硬化剤、熱酸発生剤、光酸発生剤などを使用して行う方法が一般的である。これらの硬化系で主に用いられる化合物としてグリシジル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物(特許文献1、特許文献2)、が例示できる。またこれらの化合物と併用が可能なものとして、オキセタン化合物(非特許文献2)、ビニルエーテル化合物(特許文献3、4、5、6)などが例示できる。
アミン系硬化剤は主にグリシジルエポキシ化合物の硬化に使用されるが、2液型になるため取り扱いに難点がある。熱酸発生剤や光酸発生剤を使用した場合、硬化物中にこれらに由来する強酸が存在する可能性があり、これらの酸は基材の金属を腐食させ、基材の劣化の原因となりやすい。特に電子デバイス用途では、強酸の存在は問題となる可能性が大きい。強酸の発生機構としては、熱や光により発生した酸が硬化反応(重合反応)に使用されずにそのまま残ったものや、下記反応により、成長ポリマーの活性端であるオキシラニウムイオンが系内に存在する微量の水により失活することにより発生する酸が考えられる。
【0004】
【化1】

【0005】
上記問題の発生が少ない技術として、アルミニウム錯体からなる非強酸系の開始剤が報告されている(非特許文献3、特許文献7)。
実用上の観点からは、硬化組成物は、主剤、硬化触媒、開始剤、硬化剤、などが一体になって含まれる一液型が好ましいが、上記のアミン系硬化剤やアルミニウム錯体は室温においても硬化活性があるので、一液型にした場合には保存安定性が良くない。
【0006】
一般的に、一液型硬化組成物の技術としては、マイクロカプセル型触媒が開発されている。例えば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物系では、感温性のマイクロカプセル型アミン系触媒が開発されており(特許文献8)、脂環式エポキシ化合物系においては、多孔性樹脂に吸着されたアルミニウム錯体が提案されている(特許文献9)。しかし、マイ
クロカプセル型硬化触媒は、不均一系であるために硬化組成物の透明性が低下したり、フィラー混合系の場合に、マイクロカプセルがフィラーにより機械的に破壊されたりする可能性があり、課題を有する。従って、均一系の潜在性熱硬化型組成物が望まれているが、室温以下で保存安定性に優れ、昇温時に触媒活性に優れる潜在性熱硬化型組成物は開発されていない。
【0007】
【特許文献1】米国特許第3794576号明細書
【特許文献2】WO 2005/019299号明細書
【特許文献3】特開平6−298911号公報
【特許文献4】特開平9−328634号公報
【特許文献5】特許第2667934号公報
【特許文献6】特開平4−120182号公報
【特許文献7】特開2006−22342号公報
【特許文献8】特開昭61−190521号公報
【特許文献9】特開2006-70051号公報
【非特許文献1】角岡正弘、他著「カチオン硬化技術の工業展開」 MATERIAL STAGE、 技術情報協会、2002年5月10日、第2巻、第2号、P.39−92
【非特許文献2】3-Ethyl-3-hydroxymethyloxetane/Epoxide配合系の光カチオン重合性,佐々木 裕, 東亞合成研究年報TREND 2005 第8号
【非特許文献3】S. Hayase, T. Ito, S. Suzuli, and M. Wada,“Polymerization of Cyclohexene Oxide with Al(acac)3-Silanol Catalyst,” J. Polymer Science: Polymer Chemistry Edition, vol. 19, 2185-2149(1981).
【非特許文献4】岩田敬治 ポリウレタン樹脂ハンドブック 日刊工業新聞社 初版 p.420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の組成物は、大気中の酸素により硬化反応が阻害されず優れた熱硬化性を有し、その硬化物が樹脂、金属、ガラス等の様々な基材に対する良好な密着性を示し、室温以下において保存安定性が良好であり、昇温時の硬化速度が速く、硬化組成物の絶縁性が良好な、しかも金属を腐食させることがないエポキシ系の潜在性熱硬化型組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、脂環式エポキシ化合物、が、アルミニウム錯体および、水酸基がイソシアナート化合物でブロックされたフェノール樹脂の存在下で、昇温時に迅速に硬化し、上記課題が解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
1.(a)脂環式エポキシ化合物、(b)アルミニウム錯体、(c)水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂、からなる潜在性熱硬化型組成物、
2.アルミニウム錯体が、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)およびまたはトリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)である1.に記載の潜在性熱硬化型組成物、
3.(a)脂環式エポキシ化合物、(b)アルミニウム錯体、(c)水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂、からなる潜在性熱硬化型組成物を熱硬化させた硬化物、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化型組成物は保存安定性の良好な熱潜在型硬化型組成物であり、昇温時に大気中においてすばやく硬化し、その硬化物は、種々の基材に対する接着性や低硬化収縮性に優れると共に、電気絶縁性も良好であり、しかも金属を腐食させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明において使用される(a)脂環式エポキシ化合物とは、分子内に一つあるいは複数の脂環式エポキシ基を有する化合物であって、シクロヘキセンオキシド構造を有する化合物が例示できる。より具体的な例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−
3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、プロピレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、等が挙げられる。
工業的に入手しやすい2官能脂環式エポキシ化合物としてはセロキサイド2021、2080、3000(ダイセル化学工業社製)、UVR−6110、6105、6128、ERLX−4360(ダウ・ケミカル日本社製)、3官能以上の多官能脂環式エポキシ化合物としてはエポリードGT300、GT400(ダイセル化学工業社製)等を用いることができる。
【0012】
本発明で使用される(b)アルミニウム錯体としては、種々の配位子の錯体が使用可能であり、アルミニウムのカルボン酸塩、アルミニウムアルコキシド、塩化アルミニウム、アルミニウム(アルコキシド)アセト酢酸キレート、アセトアセトナトアルミニウム、エチルアセトアセタトアルミニウムなどが例示できる。これらの中で、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)(Al(CHCOCHCOCH)トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)(Al(CHCOCHCOOC)が触媒活性に優れているので好ましい。アルミニウム錯体の使用量は、組成物全体に対して、0.01質量%−10質量%が好ましい。10質量%を超えると硬化物の電気絶縁性が低下する。
【0013】
本発明で使用される、水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂とは、下記のいずれかの繰り返し単位で表される化合物、または両者の共重合体である。
【化2】

(ここで、R1はアルキル基またはアリール基を表す。ポリマーの末端は、アルキル基または水素基であるか、あるいは一般式の両端が環状に接続されている。)
【0014】
【化3】

(ここで、R1はアルキル基またはアリール基を表し、R2はアルキル基をあらわす。ポリマーの末端は、アルキル基または水素基であるか、あるいは一般式の両端が環状に接続されている。)
【0015】
塗料の分野において、フェノールはポリイソシアネートのブロック剤として使用できることが知られている。(非特許文献4)この場合、ブロックドポリイソシアネートと呼ばれ、所定の温度でブロック剤であるフェノール類が外れてポリイソシアネートが発生し、このポリイソシアネートが、多官能アルコールや多官能アミンと反応し、ポリウレタンやポリウレアとなる。フェノールは解離後に揮散する。一方本願では、多価フェノール樹脂であるノボラック樹脂がイソシアネートによりブロックされており、所定の温度で多価フェノール樹脂が生成し、この多価フェノール樹脂がエポキシ樹脂の硬化剤となる。この場合、ブロックド多価フェノール樹脂と言うことができる。ブロックド多価フェノール樹脂は、室温の領域では、フェノール性水酸基が不活性化されており、およそ120℃以上でイソシアナートを放出してフェノール性水酸基が活性化することにより優れた潜在製熱硬化活性を発揮する。発生したイソシアネートは、揮散するかあるいは系内にアルコールやアミンなどの活性水素を有する化合物があればこれらと反応する。実用上は、系内に、イソシアネートと反応するかイソシアネートを吸収する物質があることが好ましい。イソシアネート化合物は、モノイソシアネートでもポリイソシアネートでも良いが、モノイソシアネートは多価フェノール樹脂と反応させた場合にゲル化を引き起こすことが無いので好ましい。上記の化合物は、対応する多価フェノール樹脂とイソシアネート化合物を反応させることにより得られる。芳香族イソシアネートを用いた場合よりも脂肪族イソシアネートを用いた場合の方が、解離温度が高くなる。ブロック化反応は、触媒を使用しても使用しなくても可能である。また、溶媒を使用しても使用しなくても可能である。溶媒としてエポキシ化合物を使用することが可能であり、この場合、硬化反応において他の溶媒を使
用せずに済むので好ましい。
【0016】
モノイソシアネートとしては、ベンジルイソシアネート、2−ビフェニルイソシアネート、2−ブロモフェニルイソシアネート、3−ブロモフェニルイソシアネート、4−ブロモフェニルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、tet−ブチルイソシアネート、2−クロロエチルイソシアネート、3−クロロ−4−メチルフェニルイソシアネート、4−クロロ3−ニトロフェニルイソシアネート、2−クロロフェニルイソシアネート、3−クロロフェニルイソシアネートイソシアネート、4−クロロフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、2,3−ジクロロフェニルイソシアネート、2,4−ジクロロフェニルイソシアネート、2,5−ジクロロフェニルイソシアネート、3,4−ジクロロフェニルイソシアネート、3,5−ジクロロフェニルイソシアネート、2,6−ジメチルフェニルイソシアネート、エチルイソシアネート、2−フルオロフェニルイソシアネート、3−フルオロフェニルイソシアネート、4−フルオロフェニルイソシアネート、n−ヘプチルイソシアネート、n−ヘキシルイソシアネート、3−イソプロペニルクミルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、2−メトキシフェニルイソシアネート、3−メトキシフェニルイソシアネート、4−メトキシフェニルイソシアネート、メチルベンジルイソシアネート、1−ナフチルイソシアネート、(1−ナフチル)エチルイソシアネート、4−ニトロフェニルイソシアネート、n−オクタデシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、フェニルエチルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、iso−プロピルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、o−トルイルイソシアネート、m−トルイルイソシアネート、p−トルイルイソシアネート、トリクロロメチルイソシアネート、2,4,6−トククロロフェニルイソシアネート、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、2−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、3−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、等が例示できる。
【0017】
多官能イソシアネートとしては、パラフェニレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、2−クロロ−1,4−フェニルジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、m−キシシレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、トリレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、トリジンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、リジンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびこれから誘導されるポリイソシアネート、等が例示できる。
また、上記多官能イソシアネート分子の一つのイソシアネート基を残し、他のイソシアネート基をアルコールまたはアミンと反応させたモノイソシアネートも本発明において使用可能である。
【0018】
本発明の組成物の硬化機構は明らかになっていないので推定の域を出ないが、アルミニ
ウム錯体に、硬化温度条件でブロック剤が外れたノボラック樹脂が配位することにより、フェノール性水酸基の水素が活性化され、カチオン重合機構で硬化反応が進行する機構が考えられる。 非特許文献3では、フェノールは、アルミニウム錯体と組み合わせても、シクロヘキセンオキサイドの重合活性が無いと報告されている。特許文献7では、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン誘導体から熱によりフェノール性水酸基を発生させ、これがアルミニウム錯体と供に硬化触媒となって硬化反応が進行することが報告されている。一方、本発明においては、アルミニウム錯体とブロックド多価フェノール樹脂の組み合わせにより、脂環式化合物等が100以上で重合することが見出された。この場合、当該ノボラック樹脂は、硬化触媒と架橋剤を兼ねていると推定される。
ノボラック樹脂(c)の使用量は目標物性に合わせて調整されるが、脂環式エポキシ化合物(a)単独、又はそれと下記に述べるその他の硬化性材料(d)の合計に対して、(c)/[(a)、又は((a)+(d))]の質量比が1/99−90/10の範囲にあることが好ましく、1/99−50/50がより好ましい。また、ノボラック樹脂の分子量としては、幅広く使用可能であるが、繰り返し単位で表した重合度が10以下であることが熱硬化性組成物の粘度が低くなるので特に好ましい。
また、(b)アルミニウム錯体の使用量は、(c)ノボラック樹脂100質量部に対して0.01−100質量部が好ましく、0.01−50質量部がより好ましい。
【0019】
本発明においては、脂環式エポキシ化合物以外のカチオン重合可能な化合物(d)を併用することができる。このような化合物(d)としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、プロペニルエーテル化合物、オキセタン化合物、テトラアルコキシシラン、環状カーボネート化合物、スピロオルソカーボネート化合物などが例示できる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘプタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン・フェノール付加型グリシジルエーテル、メチレンビス(2,7−ジヒドロキシナフタレン)テトラグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0020】
ビニルエーテル基を有する化合物とは、下記の一般式を有する化合物である。
【化4】

(Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、ビニル基を有するアルキル基、アリール基を有するアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を表す。)
【0021】
より具体的には、単官能ビニルエーテルとしてメチルビニルエーテル、エチルビニルエ
ーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが例示できる。
多官能ビニルエーテルとしては、エチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、グリセロールトリビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。
【0022】
水酸基を有するビニルエーテル化合物としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、ネオペンチルグリコールモノビニルエーテル、グリセロールジビニルエーテル、グリセロールモノビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパンモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジオールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールモノビニルエーテル等を挙げることができる。
異種の官能基を有するビニルエーテルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが例示できる。
これらの中で水酸基を有するビニルエーテル化合物は、水酸基が、ブロックド多価フェノールの熱解離により発生したイソシアネートと反応し、またエポキシ基と反応して架橋構造を形成するので特に好ましい。
【0023】
プロペニルエーテル化合物とは、下記一般式で表される化合物である。
【化5】

(ここで、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、ビニル基を有するアルキル基、アリール基を有するアルキル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を表す。)
【0024】
オキセタン化合物とは、下記一般式で表される化合物である。
【化6】

(ここでR1は水素、アルキル基、アリール基、オキセタニルアルキル基、シリルアルキル基、アリールアルキル基、ヒドロキシアルキル基、オキシアルキレン基、オキセタニルオキシフェニレン基、フェノキシアルキル基、を表す。R2はアルキル基、アリール基、アリールアルキル基をあらわす。)
【0025】
より具体的には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス([(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル)ベンゼン、ビス[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル
)メトキシ]ベンゼン、4,4‘−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]ビフェニル、フェノールノボラックオキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン等が例示できる。これらの中で、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等のヒドロキシル基を有するオキセタンは、その水酸基がブロックドフェノールより発生するイソシアネートと反応し、その結果として、ポリマー鎖中にイソシアネートを取り込むことが可能であるため好ましい。また水酸基はエポキシ基と反応してオキセタニル基と共に架橋構造を形成する理由からも特に好ましい。
【0026】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランなどが例示できる。これらの中で、テトラエトキシシランが硬化性に優れており好ましい。テトラアルコキシシランは、酸を触媒として、ポリシロキサンを生成する。テトラアルコキシシランを用いることで、粘度が低く、高度と柔軟性のバランスに優れた硬化膜を得ることができる。
【0027】
その他の使用可能な硬化性化合物としては、分子中に水酸基を2個以上有する脂肪族多価アルコール化合物が例示できる。分子中に水酸基を2個以上有する脂肪族多価アルコール化合物は、エポキシ基と反応するために、硬化膜の機械的強度の向上、表面硬度の向上、基材密着性の向上させる効果がある。脂肪族多価アルコールとは、芳香環を含まない脂肪族系の多価アルコールであり、低分子でもオリゴマーでも高分子でも良い。その分子内に、水酸基を除いた酸素原子を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。脂肪族多価アルコールの構成部分として、水酸基を除く酸素原子が含まれる場合を例示すると、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アセタール結合などがあげられる。また、脂肪族多価アルコールは、非環式、単環式、橋かけ環状、スピロ環状の多価アルコールが幅広く使用可能である。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ジメチロールシクロヘキサン、トリシクロデカンジメタノール(ジ(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5,2,1,0 2,6]デカン)、ヒドロキシエチルメタクリレートを含むポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエステルジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンジオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトンポリオール、水添ポリフェノール系樹脂、水添テルペン系樹脂などが例示できる。
さらに、本発明の熱硬化型組成物には、ノボラック樹脂以外のフェノール樹脂やその誘導体、テルペン系樹脂などの反応性または非反応性樹脂を熱硬化膜の機械的物性や接着性改良のために併用することが可能である。
【0028】
本発明の熱硬化型組成物には、さらに必要に応じて、レベリング剤、ワックス類、酸化防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤等を添加することもできる。
微粒子無機フィラーおよびシランカップリング剤の添加は、塗膜の非透湿性能を向上させたり、絶縁性を向上させるのに有効である。このような微粒子無機フィラーとしては、一次粒子の平均径が0.005〜10μmの無機フィラーであり、具体的にはシリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、雲母等が挙げられる。微粒子無機フィラーは、表面未処理のもの、および表面処理したもの共に使用でき、表面処理した微粒子無機フィラーとしては例えば、メトキシ化、トリメチルシリル化、オクチルシリル化、またはシリコーンオイルで表面処理したものが挙げられ、これらの1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、シランカップリング剤としては、エポキシ基、カルボキシル基、メタクリロイル基等の反応性基を有するアルコキシシラン化合物であり、具体的にはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリル安息香酸、γ―
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0029】
本発明の熱硬化型組成物は、その優れた熱硬化性、低硬化収縮性および種々の基材に対する優れた接着性を有することから、塗料、接着剤、インキ、コーティング材料等として有用である。より具体的には、建材用塗料、自動車用塗料、航空機用塗料、電気製品用塗料、グラビア印刷用インク、フレキソ印刷用インク、オフセット印刷用インク、スクリーン印刷用インク、金属印刷用インク、印刷物用のOPニスが例示できる。また、液晶、有機EL、電子ペーパー等のディスプレイパネル用シール材、光ディスクの貼り合わせ用接着剤、次世代光ディスクであるBlu−rayディスクの表面保護層形成材、反射防止膜形成用コーティング材、ハードコーティング材、半導体製造用コーティング材料、カバーレイ、微細配線用材料、太陽電池シール剤、汎用接着剤、電子材料用接着剤、構造材料用接着剤等として有用である。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例に基づいて説明する。
なお、硬化性(タックフリー時間)は、以下の方法で行った。
・タックフリー時間:銅試験片に硬化用樹脂を塗布し、加熱硬化開始後被膜を指触観察し、表面が硬化しベタツキがなくなるのに必要な加熱時間を求めた。
銅試験片は、60mm×60mm×2mmの大きさのものを使用した。
【0031】
[実施例1]
乾燥窒素でシールされた200mLの四つ口フラスコを用い、UVR−6105(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ダウケミカル社製)86.92g中に、PAPS−PTBPN01(p−tert−ブチルフェノール・ホルムアルデヒド重縮合物、旭有機材工業(株)製、繰り返し単位で表した重合度は約4)5.00gを室温で溶解させた。この溶液を80℃に昇温後、イソシアン酸o−トリル4.2gを添加し、6時間反応させブロックド多価フェノール樹脂を得た。反応が終了していることを、FT−IRでイソシアネート基の吸収ピーク(約2270cm−1)の大きさで確認した。次に、温度を80℃に維持したまま、OXT−101(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、東亜合成(株)製)3.65gを添加し、2時間で過剰のイソシアネートをOXT−101の水酸基と反応させた。反応混合物を室温の冷却後、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)(Al(CHCOCHCOOC)0.25gを0.5gのトルエンに溶解させた溶液を添加し、熱硬化型組成物とした。
【0032】
当該熱硬化型組成物の粘度をE型粘度計で測定したところ、379mPa・s(25℃)であった。これを室温および5℃で保管し、15時間後の粘度を測定したところ、それぞれ394mPa・s(25℃)と389mPa・s(25℃)であり、優れた貯蔵時の粘度安定性を示した。
上記熱硬化型組成物を、ワイヤーバーを用いて、銅試験片、に12μmの厚みで塗工した。これらの試験片を150℃のホットプレート上に置いて加熱したところ、硬化反応が進行し、約15分でタックフリーの状態に達し、良好な潜在性熱硬化性を示した。硬化後の試験片を80℃、湿度90%RHの恒温恒室槽に24時間放置したが、銅の変色は見られず金属腐食が無いことを確認した。
【0033】
[実施例2]
乾燥窒素でシールされた200mLの四つ口フラスコを用い、UVR−6105(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレ
ート、ダウケミカル社製)85.73g中に、PAPS−PTBPN01(p−tert−ブチルフェノール・ホルムアルデヒド重縮合物、旭有機材工業(株)製、繰り返し単位で表した重合度は約4)5.00gを室温で溶解させた。この溶液を80℃に昇温後、イソシアン酸ベンジル4.61gを添加し、8時間反応させブロックド多価フェノール樹脂を得た。反応が終了していることを、FT−IRでイソシアネート基の吸収ピーク(約2270cm−1)の大きさで確認した。次に、温度を80℃に維持したまま、OXT−101(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、東亜合成(株)製)4.41gを添加し、2時間で過剰のイソシアネートをOXT−101の水酸基と反応させた。反応混合物を室温の冷却後、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)(Al(CHCOCHCOOC)0.25gを添加し、熱硬化型組成物とした。
【0034】
当該熱硬化型組成物の粘度をE型粘度計で測定したところ、387.2mPa・s(25℃)であった。これを5℃で保管し、24時間後の粘度を測定したところ、389.5mPa・s(25℃)であり、優れた貯蔵安定性を示した。
上記熱硬化型組成物を、ワイヤーバーを用いて、銅試験片、に12μmの厚みで塗工した。これらの試験片を165℃のホットプレート上に置いて加熱したところ、硬化反応が進行し、約13分でタックフリーの状態に達し、良好な潜在性熱硬化性を示した。硬化後の試験片を80℃、湿度90%RHの恒温恒室槽に24時間放置したが、銅の変色は見られず金属腐食が無いことを確認した。
【0035】
[比較例]
乾燥窒素でシールされた200mLの四つ口フラスコを用い、UVR−6105(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ダウケミカル社製)86.92gを仕込み、これを80℃に昇温後、イソシアン酸o−トリルを4.21g、OXT−101を3.65g仕込み、2時間ウレタン化反応を行った。反応が終了している(即ち、イソシアネート基の全てがOXT−101の水酸基と反応している。)ことを、FT−IRでイソシアネート基の吸収ピーク(約2270cm−1)の大きさで確認した。この溶液を室温に冷却し、PAPS−PTBPN01を5.00g添加し溶解させ、さらにトリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)(Al(CHCOCHCOOC)0.25gを0.5gのトルエンに溶解させた溶液を添加し、ノボラック樹脂の水酸基をブロックしていない熱硬化型組成物とした。
【0036】
当該熱硬化型組成物の粘度をE型粘度計で測定したところ、246mPa・s(25℃)であった。これを室温および5℃で保管し、15時間後の粘度を測定したところ、それぞれ357mPa・s(25℃)と289mPa・s(25℃)であり保存時の粘度安定性は低かった。
上記熱硬化型組成物を、ワイヤーバーを用いて、銅試験片、に12μmの厚みで塗工した。これらの試験片を150℃のホットプレート上に置いて加熱したころ、硬化反応が進行し、約8分でタックフリーの状態に達した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の熱硬化型組成物は保存安定性の良好な熱潜在型硬化型組成物であり、昇温時に大気中においてすばやく硬化し、その硬化物は、種々の基材に対する接着性や低硬化収縮性に優れると共に、電気絶縁性も良好であり、しかも金属を腐食させることがない。用途として、塗料、接着剤、インキ、コーティング、半導体保護用コーティング剤などに使用可能である。より具体的には、建材用塗料、自動車用塗料、航空機用塗料、電気製品用塗料、インクジェット印刷用インク、グラビア印刷用インク、フレキソ印刷用インク、オフセット印刷用インク、スクリーン印刷用インク、金属印刷用インク、印刷物用のOPニスが例示できる。また、液晶、有機EL、電子ペーパー等のディスプレイパネル用シール材
、光ディスクの貼り合わせ用接着剤、次世代光ディスクであるBlu−rayディスクの表面保護層形成材、反射防止膜形成用コーティング材、ハードコーティング材、半導体製造用コーティング材料、カバーレイ、微細配線用材料、太陽電池シール剤、汎用接着剤、電子材料用接着剤、構造材料用接着剤、導電性接着剤等として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂環式エポキシ化合物、(b)アルミニウム錯体、(c)水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂、からなる潜在性熱硬化型組成物。
【請求項2】
アルミニウム錯体が、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)およびまたはトリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム(III)である請求項1に記載の潜在性熱硬化型組成物。
【請求項3】
(a)脂環式エポキシ化合物、(b)アルミニウム錯体、(c)水酸基がイソシアネート化合物によりブロックされたノボラック樹脂、からなる潜在性熱硬化型組成物を熱硬化させた硬化物。

【公開番号】特開2008−24817(P2008−24817A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198843(P2006−198843)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】