潜在性硬化剤
【課題】比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることが可能な
アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤を提供する。また、アルミニウムキレート剤系潜
在性硬化剤の硬化条件を比較的容易にコントロール可能なその製造方法を提供する。
【解決手段】潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持された構造を有する。アルミニウムキレート剤としては、配位子であるβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が好ましい。この潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌して界面重合させることにより製造できる。
アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤を提供する。また、アルミニウムキレート剤系潜
在性硬化剤の硬化条件を比較的容易にコントロール可能なその製造方法を提供する。
【解決手段】潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持された構造を有する。アルミニウムキレート剤としては、配位子であるβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が好ましい。この潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌して界面重合させることにより製造できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型のエポキシ樹脂組成物を、比較的低温でその硬化を開始させることができる潜在性硬化剤、その製造方法、それを含有する良好な貯蔵安定性を有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、各接着材料、成形材料等として汎用されているが、その硬化剤の一つとして、潜在性イミダゾール系硬化剤が用いられている。この潜在性イミダゾール系硬化剤は、通常の保存状態では硬化能を示さないので、熱硬化性エポキシ樹脂組成物を良好な取り扱い性と良好な保存安定性を有する一液型硬化組成物とするために広く用いられている。このような潜在性イミダゾール硬化剤の代表的な例としては、エポキシ樹脂を硬化させる能力を有するイミダゾール化合物粒子の表面をエポキシ樹脂硬化物で被覆したマイクロカプセル型のものが知られている。
【0003】
しかし、このようなマイクロカプセル型の潜在性イミダゾール硬化剤は、その被覆が機械的にも熱的にも比較的安定であるので、硬化反応を開始させるためには180℃以上に加熱加圧する必要があった。このため、近年の低温硬化型のエポキシ樹脂組成物には対応できないという問題があった。
【0004】
そこで、低温速硬化活性を示す潜在性硬化剤として、シランカップリング剤と共働してエポキシ樹脂をカチオン重合させることのできるアルミニウムキレート剤粒子(母粒子)の表面に、ハイブリダイゼーション法により、ポリビニルアルコール微粒子(子粒子)を付着させてなるマイクロカプセル型のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤(特許文献1)やフッ素樹脂系微粒子(子粒子)を付着させてなるマイクロカプセル型のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤(特許文献2)が提案されている。
【0005】
なお、アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の硬化工程の詳細は、前述の特許文献1の段落0007〜0010に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−212537号公報
【特許文献2】特開2002−363255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハイブリダイゼーション法を利用してマイクロカプセル化したアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の場合、母粒子に子粒子を衝突させてマイクロカプセル壁を形成しているため、表面に凹凸やムラが生じやすく、安定した硬化特性が得られないという問題があり、硬化条件をコントロールすることが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることが可能なアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤を提供すること、また、硬化条件を比較的容易にコントロール可能な、アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の製造方法を提供すること、及びその潜在性硬化剤を含有する熱硬化型樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、界面重合法を利用して、アルミニウムキレート剤の存在下で多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られるポリマーが、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなることを特徴とする潜在性硬化剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、上述の潜在性硬化剤の製造方法であって、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法を提供する。
【0012】
更に、本発明は、上述の潜在性硬化剤とシランカップリング剤と熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されているので、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることが可能である。また、本発明の潜在性硬化剤の製造方法によれば、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させているので、潜在性硬化剤の硬化条件を比較的容易にコントロール可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【図1B】図1Aの潜在性硬化剤粒子の中心付近の拡大電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例8で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図3】実施例9で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図4】実施例10で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図5A】実施例11の実験例11bで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5B】実施例11の実験例11cで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5C】実施例11の実験例11dで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5D】実施例11の実験例11eで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図6A】実施例11の実験例11bの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図6B】実施例11の実験例11eの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7A】実験例12aの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7B】実験例12bの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7C】実験例12cの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7D】実験例12dの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7E】実験例12eの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7F】実験例12fの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図8A】部分ケン化PVA使用した場合の従来の潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【図8B】完全ケン化PVA使用を使用した従来の潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなるものである。この潜在性硬化剤は、低温速硬化性を実現可能なアルミニウムキレート剤を使用しているので、この潜在性硬化剤を配合した熱硬化型樹脂組成物に良好な低温速硬化性を付与することができる。また、アルミニウムキレート剤が界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されているので、この潜在硬化剤を熱硬化型樹脂組成物に配合しても(一液化した状態でも)、熱硬化型樹脂組成物の貯蔵安定性を大きく向上させることができる。
【0016】
本発明の潜在性硬化剤においては、アルミニウムキレート剤コアの周囲を多孔性樹脂のシェルで被覆した単純な構造のマイクロカプセルではなく、潜在性硬化剤1の電子顕微鏡写真(図1A)とその中心付近の拡大電子顕微鏡写真(図1B)に示すように、多孔性樹脂マトリックス2中に存在する微細な多数の孔3にアルミニウムキレート剤が保持された構造となっている。
【0017】
ここで、本発明の潜在性硬化剤1は、界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5〜100μmであり、また、孔3の大きさは硬化性及び潜在性の点から、好ましくは5〜150nmである。
【0018】
また、潜在性硬化剤1は、使用する多孔性樹脂の架橋度が小さすぎるとその潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向があるので、使用目的に応じて、架橋度が調整された多孔性樹脂を使用することが好ましい。ここで、多孔性樹脂の架橋度は、微少圧縮試験により計測することができる。
【0019】
本発明の潜在性硬化剤1は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0020】
また、本発明の潜在性硬化剤1における多孔性樹脂とアルミニウムキレート剤との含有量は、アルミニウムキレート剤含量が少なすぎると熱応答性が低下し、多すぎると潜在性が低下するので、多孔性樹脂100質量部に対しアルミニウムキレート剤を、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部である。
【0021】
本発明の潜在性硬化剤において、アルミニウムキレート剤としては、式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基が挙げられる。
【0024】
式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0025】
多官能イソシアネート化合物は、好ましくは一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
上記(2)〜(4)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネートが挙げられる。
【0028】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる多孔性樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するものであり、多孔性ポリウレアである。このような多孔性樹脂とその孔に保持されたアルミニウムキレート剤とからなる潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されているアルミニウムキレート剤が、潜在性硬化剤と併存しているシランカップリング剤や熱硬化型樹脂と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0029】
なお、本発明の潜在性硬化剤の構造上、その最表面にもアルミニウムキレート剤が存在することになると思われるが、界面重合の際に系内に存在する水により不活性化し、アルミニウムキレート剤は多孔性樹脂の内部で保持されたものだけが活性を保持していることになり、結果的に得られる硬化剤は潜在性を獲得できたものと考えられる。
【0030】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0031】
この製造方法においては、まず、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、界面重合における油相となる溶液を調製する。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0032】
このような揮発性有機溶剤としては、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物との良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0033】
揮発性有機溶剤の使用量は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物の合計量100質量部に対し、少なすぎると潜在性が低下し、多すぎると熱応答性が低下するので、好ましくは100〜500質量部である。
【0034】
なお、揮発性有機溶剤の使用量範囲内において、揮発性有機溶剤の使用量を比較的多く使用すること等により、油相となる溶液の粘度を下げることができるが、粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能になり、結果的に得られる潜在性硬化剤粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。油相となる溶液の粘度は1〜2.5mPa・sに設定することが好ましい。
【0035】
また、多官能イソシアネート化合物を乳化分散する際にPVAを用いた場合、PVAの水酸基と多官能イソシアネート化合物が反応してしまうため、副生成物が異物として潜在性硬化剤粒子の周囲を付着してしまったり(図8A:部分ケン化PVA使用時)、および粒子形状そのものが異形化してしまったりする(図8B:完全ケン化PVA使用時)。この現象を防ぐためには、多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進すること、あるいは多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制することが挙げられる。
【0036】
多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進するためには、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とする。これにより、多官能イソシアネート化合物と水とが接触する確率が高くなり、PVAが油相滴表面に接触する前に多官能イソシアネート化合物と水とが反応し易くなる。
【0037】
また、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制するためには、油相中のアルミニウムキレート剤の配合量を増大させることが挙げられる。具体的には、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは等倍以上、より好ましくは1.0〜2.0倍とする。これにより、油相滴表面におけるイソシアネート濃度が低下する。さらに多官能イソシアネート化合物は水酸基よりも加水分解により形成されるアミンとの反応(界面重合)速度が大きいため、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応確率を低下させることができる。
【0038】
アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱してもよい。
【0039】
次に、この製造方法においては、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物が揮発性有機溶剤に溶解した油相溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させる。ここで、分散剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1〜10.0質量%である。
【0040】
油相溶液の水相に対する配合量は、油相溶液が少なすぎると多分散化し、多すぎると微細化により凝集が生ずるので、水相100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部である。
【0041】
界面重合における乳化条件としては、油相の大きさが好ましくは0.5〜100μmとなるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30〜80℃、撹拌時間2〜12時間、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0042】
界面重合終了後に、重合体微粒子を濾別し、自然乾燥することにより本発明の潜在性硬化剤を得ることができる。
【0043】
以上説明した本発明の製造方法によれば、多官能イソシアネート化合物の種類や使用量、アルミニウムキレート剤の種類や使用量、界面重合条件を変化させることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロールすることができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、反対に、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0044】
本発明の潜在性硬化剤は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤と同様の用途に使用することができ、好ましくは、シランカップリング剤と熱硬化型樹脂と併用することにより、低温速硬化性の熱硬化型樹脂組成物を与えることができる。
【0045】
熱硬化型樹脂組成物における潜在性硬化剤の含有量は、少なすぎると十分に硬化せず、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下するので、熱硬化型樹脂100質量部に対し1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0046】
シランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。このような、シランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0047】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0048】
熱硬化型樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、少なすぎると低硬化性となり、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、保存安定性)が低下するので、潜在性硬化剤100質量部に対し50〜1500質量部、好ましくは300〜1200質量部である。
【0049】
熱硬化型樹脂としては、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0050】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0051】
本発明の熱硬化型樹脂組成物には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、本発明の熱硬化型樹脂組成物には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、全体の1〜10質量%の配合量で配合することが好ましい。これにより、本発明の熱硬化型樹脂組成物を異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
【0052】
本発明の熱硬化型樹脂組成物は、潜在性硬化剤、シランカップリング剤、熱硬化型樹脂及び必要に応じて添加される他の添加剤とを、常法に従って均一に混合撹拌することにより製造することができる。
【0053】
このようにして得られた本発明の熱硬化型樹脂組成物は、硬化剤が潜在化しているので、一剤型であるにも拘わらず、保存安定性に優れている。また、潜在性硬化剤がシランカップリング剤と共働して、熱硬化型樹脂を低温速硬化でカチオン重合させることができる。
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0055】
実施例1
蒸留水800重量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日本油脂(株)社)0.05重量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ社)4重量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合した。この混合液に、更に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株)社)11重量部と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井武田ケミカル(株)社)11重量部とを、酢酸エチル30重量部に溶解した油相溶液を投入し、ホモジナイザー(11000rpm/10分)で乳化混合後、60℃で一晩界面重合させた。
【0056】
反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、界面重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥することにより粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0057】
実施例2
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、トルエンジイソシアネート(3モル)及びメチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−103M−2、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0058】
実施例3
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、トルエンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−103、三井武田ケミカル(株))を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0059】
実施例4
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、m−キシリレンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−110N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0060】
実施例5
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−120N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0061】
実施例6
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、イソホロンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−140N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0062】
実施例7
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体(Z−4470、住友バイエルウレタン(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0063】
実施例8
実施例1〜7で得られた潜在性硬化剤2重量部、脂環式エポキシ樹脂(CEL−2021P、ダイセル化学工業(株)社)90重量部、及びシランカップリング剤(A−187、日本ユニカー(株)社)8重量部を、均一に混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0064】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツルメント(株)社)を用いて熱分析した。得られた結果を表1及び図2に示す。ここで、潜在性硬化剤の硬化特性に関し、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化が活性となる温度を意味しており、発熱終了温度は硬化終了温度を意味しており、そしてピーク面積は発熱量を意味している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図2に示すように、実施例1〜6の潜在性硬化剤結果から、多官能イソシアネート化合物の種類を変えることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロール可能であることがわかる。実施例1では、潜在性硬化剤の硬化開始温度が100℃以下であった。
【0067】
また、ポリウレア構造のガラス転移温度が高くなると、発熱開始温度、発熱ピーク温度、発熱終了温度がいずれも高温側にシフトする傾向(硬化温度が高くなる傾向)があることがわかる(実施例3〜6)。
【0068】
実施例9
アルミニウムキレート剤であるアルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株)社)の配合量を表2に示すように代えること以外は、実施例1の操作に準じて、潜在性硬化剤を調製した(実験例9a〜9e)。表2に示すように、アルミニウムキレート剤の配合量が増加するにつれて、重合粒子が凝集しやすくなり、更に増加すると粒子状の界面重合体が得られなくなる傾向があることがわかる。また、それに伴い発熱ピーク温度が低下する傾向があることもわかる(図3参照)。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例10
実施例1で得られた潜在性硬化剤2重量部、脂環式エポキシ樹脂(CEL−2021P、ダイセル化学工業(株)社)90重量部、及び表3に示すシランカップリング剤8重量部を均一に混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物(実験例10a〜10h)を調製した。
【0071】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC6200、セイコーインスツルメント(株)社)を用いて熱分析した。得られた結果を図4に示す。図4から、シランカップリング剤の種類を変えることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロール可能であることがわかる。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例11
潜在性硬化剤粒子の粒度分布に対する、油相溶液の粘度の影響を調べるために、実施例1における、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物とを酢酸エチルに溶解した油相溶液について、酢酸エチルの添加量を増やし油相溶液の粘度を表4に示す値に代えること以外は、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより実験例11a〜11eの潜在性硬化剤を得た。なお、実験例11bは実施例1を繰り返したものである。
【0074】
油相溶液の粘度については、HAAK社製のレオメータPK100を使用して測定した。その結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
実験例11b〜11eの潜在性硬化剤の粒度分布を、電気抵抗式粒度分布測定装置(SD−2000、Sysmex製)を用いて測定し、それぞれの粒度分布チャート(体積換算)を図5A〜5Dに示す。これらの粒度分布チャートから分かるように、油相粘度が約2.5mPa.sであるときに、粒度分布が正規分布となった。更に、油相粘度が約2.0mPa.sであるときに、単分散ミクロンサイズの乳化粒子(中心径3μm)を得ることができた。また、油相粘度が約1.3mPa.sであるときに、単分散ミクロンサイズの乳化粒子(中心径2μm)を得ることができた。以上の結果から、単分散乳化粒子を得るためには、油相粘度を1〜2.5mPa.sとすることが有効であることがわかる。また、実験例11bおよび11eの潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真を図6Aおよび6Bにそれぞれ示すが、実験例11eの潜在性硬化剤粒子の粒度分布が、実験例11aの潜在性硬化剤に比べて、良好な単分散であることがこれらの写真からもわかる。
【0077】
実施例12
良好な単分散性を示し、かつ表面状態の良好な潜在性硬化剤粒子を製造するために、多官能イソシアネート化合物とアルミニウムキレート剤の配合割合の検討を行った。なお、単分散性の粒子を得るため、酢酸エチルの配合量は実施例11eと同等にした。アルミニウムキレート剤であるアルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)と多官能イソシアネート化合物であるメチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物とを、実施例11eと同量の酢酸エチルで溶解した油相溶液について、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物の添加量を以下の表5に示す量に代えること以外は、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより実験例12a〜12fの潜在性硬化剤を得た。
【0078】
【表5】
【0079】
得られた実験例12a〜12fの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真を図7A〜7Fに示す。得られた潜在性硬化剤の粒子の粒子径は、油滴が微細化した後に重合が進行するので最大粒子径5μm以下とすることができた。また、これらの結果から、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下とすると、粒子に異物の付着がないことがわかる。また、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で同量以上とすることによっても、粒子に異物の付着がないことがわかる。従って、良好な単分散性を示し、かつ表面状態の良好な潜在性硬化剤粒子を製造する場合には、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下もしくは同量以上とすることが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤は、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることができるので、低温で短時間で異方導電性接続が可能な異方導電性接着剤の硬化剤として有用である。
【符号の説明】
【0081】
1…潜在性硬化剤
2…多孔性樹脂マトリックス
3…孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型のエポキシ樹脂組成物を、比較的低温でその硬化を開始させることができる潜在性硬化剤、その製造方法、それを含有する良好な貯蔵安定性を有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、各接着材料、成形材料等として汎用されているが、その硬化剤の一つとして、潜在性イミダゾール系硬化剤が用いられている。この潜在性イミダゾール系硬化剤は、通常の保存状態では硬化能を示さないので、熱硬化性エポキシ樹脂組成物を良好な取り扱い性と良好な保存安定性を有する一液型硬化組成物とするために広く用いられている。このような潜在性イミダゾール硬化剤の代表的な例としては、エポキシ樹脂を硬化させる能力を有するイミダゾール化合物粒子の表面をエポキシ樹脂硬化物で被覆したマイクロカプセル型のものが知られている。
【0003】
しかし、このようなマイクロカプセル型の潜在性イミダゾール硬化剤は、その被覆が機械的にも熱的にも比較的安定であるので、硬化反応を開始させるためには180℃以上に加熱加圧する必要があった。このため、近年の低温硬化型のエポキシ樹脂組成物には対応できないという問題があった。
【0004】
そこで、低温速硬化活性を示す潜在性硬化剤として、シランカップリング剤と共働してエポキシ樹脂をカチオン重合させることのできるアルミニウムキレート剤粒子(母粒子)の表面に、ハイブリダイゼーション法により、ポリビニルアルコール微粒子(子粒子)を付着させてなるマイクロカプセル型のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤(特許文献1)やフッ素樹脂系微粒子(子粒子)を付着させてなるマイクロカプセル型のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤(特許文献2)が提案されている。
【0005】
なお、アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の硬化工程の詳細は、前述の特許文献1の段落0007〜0010に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−212537号公報
【特許文献2】特開2002−363255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハイブリダイゼーション法を利用してマイクロカプセル化したアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の場合、母粒子に子粒子を衝突させてマイクロカプセル壁を形成しているため、表面に凹凸やムラが生じやすく、安定した硬化特性が得られないという問題があり、硬化条件をコントロールすることが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることが可能なアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤を提供すること、また、硬化条件を比較的容易にコントロール可能な、アルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤の製造方法を提供すること、及びその潜在性硬化剤を含有する熱硬化型樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、界面重合法を利用して、アルミニウムキレート剤の存在下で多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られるポリマーが、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなることを特徴とする潜在性硬化剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、上述の潜在性硬化剤の製造方法であって、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法を提供する。
【0012】
更に、本発明は、上述の潜在性硬化剤とシランカップリング剤と熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されているので、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることが可能である。また、本発明の潜在性硬化剤の製造方法によれば、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させているので、潜在性硬化剤の硬化条件を比較的容易にコントロール可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【図1B】図1Aの潜在性硬化剤粒子の中心付近の拡大電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例8で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図3】実施例9で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図4】実施例10で調製した熱硬化型エポキシ樹脂のDSC測定図である。
【図5A】実施例11の実験例11bで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5B】実施例11の実験例11cで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5C】実施例11の実験例11dで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図5D】実施例11の実験例11eで調製した潜在性硬化剤の粒度分布チャートである。
【図6A】実施例11の実験例11bの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図6B】実施例11の実験例11eの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7A】実験例12aの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7B】実験例12bの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7C】実験例12cの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7D】実験例12dの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7E】実験例12eの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7F】実験例12fの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図8A】部分ケン化PVA使用した場合の従来の潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【図8B】完全ケン化PVA使用を使用した従来の潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなるものである。この潜在性硬化剤は、低温速硬化性を実現可能なアルミニウムキレート剤を使用しているので、この潜在性硬化剤を配合した熱硬化型樹脂組成物に良好な低温速硬化性を付与することができる。また、アルミニウムキレート剤が界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されているので、この潜在硬化剤を熱硬化型樹脂組成物に配合しても(一液化した状態でも)、熱硬化型樹脂組成物の貯蔵安定性を大きく向上させることができる。
【0016】
本発明の潜在性硬化剤においては、アルミニウムキレート剤コアの周囲を多孔性樹脂のシェルで被覆した単純な構造のマイクロカプセルではなく、潜在性硬化剤1の電子顕微鏡写真(図1A)とその中心付近の拡大電子顕微鏡写真(図1B)に示すように、多孔性樹脂マトリックス2中に存在する微細な多数の孔3にアルミニウムキレート剤が保持された構造となっている。
【0017】
ここで、本発明の潜在性硬化剤1は、界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5〜100μmであり、また、孔3の大きさは硬化性及び潜在性の点から、好ましくは5〜150nmである。
【0018】
また、潜在性硬化剤1は、使用する多孔性樹脂の架橋度が小さすぎるとその潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向があるので、使用目的に応じて、架橋度が調整された多孔性樹脂を使用することが好ましい。ここで、多孔性樹脂の架橋度は、微少圧縮試験により計測することができる。
【0019】
本発明の潜在性硬化剤1は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0020】
また、本発明の潜在性硬化剤1における多孔性樹脂とアルミニウムキレート剤との含有量は、アルミニウムキレート剤含量が少なすぎると熱応答性が低下し、多すぎると潜在性が低下するので、多孔性樹脂100質量部に対しアルミニウムキレート剤を、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部である。
【0021】
本発明の潜在性硬化剤において、アルミニウムキレート剤としては、式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基が挙げられる。
【0024】
式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0025】
多官能イソシアネート化合物は、好ましくは一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
上記(2)〜(4)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネートが挙げられる。
【0028】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる多孔性樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するものであり、多孔性ポリウレアである。このような多孔性樹脂とその孔に保持されたアルミニウムキレート剤とからなる潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されているアルミニウムキレート剤が、潜在性硬化剤と併存しているシランカップリング剤や熱硬化型樹脂と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0029】
なお、本発明の潜在性硬化剤の構造上、その最表面にもアルミニウムキレート剤が存在することになると思われるが、界面重合の際に系内に存在する水により不活性化し、アルミニウムキレート剤は多孔性樹脂の内部で保持されたものだけが活性を保持していることになり、結果的に得られる硬化剤は潜在性を獲得できたものと考えられる。
【0030】
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0031】
この製造方法においては、まず、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、界面重合における油相となる溶液を調製する。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0032】
このような揮発性有機溶剤としては、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物との良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0033】
揮発性有機溶剤の使用量は、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物の合計量100質量部に対し、少なすぎると潜在性が低下し、多すぎると熱応答性が低下するので、好ましくは100〜500質量部である。
【0034】
なお、揮発性有機溶剤の使用量範囲内において、揮発性有機溶剤の使用量を比較的多く使用すること等により、油相となる溶液の粘度を下げることができるが、粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能になり、結果的に得られる潜在性硬化剤粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。油相となる溶液の粘度は1〜2.5mPa・sに設定することが好ましい。
【0035】
また、多官能イソシアネート化合物を乳化分散する際にPVAを用いた場合、PVAの水酸基と多官能イソシアネート化合物が反応してしまうため、副生成物が異物として潜在性硬化剤粒子の周囲を付着してしまったり(図8A:部分ケン化PVA使用時)、および粒子形状そのものが異形化してしまったりする(図8B:完全ケン化PVA使用時)。この現象を防ぐためには、多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進すること、あるいは多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制することが挙げられる。
【0036】
多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進するためには、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とする。これにより、多官能イソシアネート化合物と水とが接触する確率が高くなり、PVAが油相滴表面に接触する前に多官能イソシアネート化合物と水とが反応し易くなる。
【0037】
また、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制するためには、油相中のアルミニウムキレート剤の配合量を増大させることが挙げられる。具体的には、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で好ましくは等倍以上、より好ましくは1.0〜2.0倍とする。これにより、油相滴表面におけるイソシアネート濃度が低下する。さらに多官能イソシアネート化合物は水酸基よりも加水分解により形成されるアミンとの反応(界面重合)速度が大きいため、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応確率を低下させることができる。
【0038】
アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱してもよい。
【0039】
次に、この製造方法においては、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物が揮発性有機溶剤に溶解した油相溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させる。ここで、分散剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1〜10.0質量%である。
【0040】
油相溶液の水相に対する配合量は、油相溶液が少なすぎると多分散化し、多すぎると微細化により凝集が生ずるので、水相100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部である。
【0041】
界面重合における乳化条件としては、油相の大きさが好ましくは0.5〜100μmとなるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30〜80℃、撹拌時間2〜12時間、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0042】
界面重合終了後に、重合体微粒子を濾別し、自然乾燥することにより本発明の潜在性硬化剤を得ることができる。
【0043】
以上説明した本発明の製造方法によれば、多官能イソシアネート化合物の種類や使用量、アルミニウムキレート剤の種類や使用量、界面重合条件を変化させることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロールすることができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、反対に、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0044】
本発明の潜在性硬化剤は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤と同様の用途に使用することができ、好ましくは、シランカップリング剤と熱硬化型樹脂と併用することにより、低温速硬化性の熱硬化型樹脂組成物を与えることができる。
【0045】
熱硬化型樹脂組成物における潜在性硬化剤の含有量は、少なすぎると十分に硬化せず、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下するので、熱硬化型樹脂100質量部に対し1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0046】
シランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。このような、シランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0047】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0048】
熱硬化型樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、少なすぎると低硬化性となり、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、保存安定性)が低下するので、潜在性硬化剤100質量部に対し50〜1500質量部、好ましくは300〜1200質量部である。
【0049】
熱硬化型樹脂としては、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0050】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0051】
本発明の熱硬化型樹脂組成物には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、本発明の熱硬化型樹脂組成物には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、全体の1〜10質量%の配合量で配合することが好ましい。これにより、本発明の熱硬化型樹脂組成物を異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
【0052】
本発明の熱硬化型樹脂組成物は、潜在性硬化剤、シランカップリング剤、熱硬化型樹脂及び必要に応じて添加される他の添加剤とを、常法に従って均一に混合撹拌することにより製造することができる。
【0053】
このようにして得られた本発明の熱硬化型樹脂組成物は、硬化剤が潜在化しているので、一剤型であるにも拘わらず、保存安定性に優れている。また、潜在性硬化剤がシランカップリング剤と共働して、熱硬化型樹脂を低温速硬化でカチオン重合させることができる。
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0055】
実施例1
蒸留水800重量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日本油脂(株)社)0.05重量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ社)4重量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合した。この混合液に、更に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株)社)11重量部と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井武田ケミカル(株)社)11重量部とを、酢酸エチル30重量部に溶解した油相溶液を投入し、ホモジナイザー(11000rpm/10分)で乳化混合後、60℃で一晩界面重合させた。
【0056】
反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、界面重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥することにより粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0057】
実施例2
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、トルエンジイソシアネート(3モル)及びメチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−103M−2、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0058】
実施例3
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、トルエンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−103、三井武田ケミカル(株))を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0059】
実施例4
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、m−キシリレンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−110N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0060】
実施例5
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−120N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0061】
実施例6
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、イソホロンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−140N、三井武田ケミカル(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0062】
実施例7
メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物に代えて、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体(Z−4470、住友バイエルウレタン(株)社)を使用する以外は、実施例1の操作に準じて、粒径10μm程度の球状の潜在性硬化剤を20重量部得た。
【0063】
実施例8
実施例1〜7で得られた潜在性硬化剤2重量部、脂環式エポキシ樹脂(CEL−2021P、ダイセル化学工業(株)社)90重量部、及びシランカップリング剤(A−187、日本ユニカー(株)社)8重量部を、均一に混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0064】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツルメント(株)社)を用いて熱分析した。得られた結果を表1及び図2に示す。ここで、潜在性硬化剤の硬化特性に関し、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化が活性となる温度を意味しており、発熱終了温度は硬化終了温度を意味しており、そしてピーク面積は発熱量を意味している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図2に示すように、実施例1〜6の潜在性硬化剤結果から、多官能イソシアネート化合物の種類を変えることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロール可能であることがわかる。実施例1では、潜在性硬化剤の硬化開始温度が100℃以下であった。
【0067】
また、ポリウレア構造のガラス転移温度が高くなると、発熱開始温度、発熱ピーク温度、発熱終了温度がいずれも高温側にシフトする傾向(硬化温度が高くなる傾向)があることがわかる(実施例3〜6)。
【0068】
実施例9
アルミニウムキレート剤であるアルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株)社)の配合量を表2に示すように代えること以外は、実施例1の操作に準じて、潜在性硬化剤を調製した(実験例9a〜9e)。表2に示すように、アルミニウムキレート剤の配合量が増加するにつれて、重合粒子が凝集しやすくなり、更に増加すると粒子状の界面重合体が得られなくなる傾向があることがわかる。また、それに伴い発熱ピーク温度が低下する傾向があることもわかる(図3参照)。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例10
実施例1で得られた潜在性硬化剤2重量部、脂環式エポキシ樹脂(CEL−2021P、ダイセル化学工業(株)社)90重量部、及び表3に示すシランカップリング剤8重量部を均一に混合することにより熱硬化型エポキシ樹脂組成物(実験例10a〜10h)を調製した。
【0071】
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC6200、セイコーインスツルメント(株)社)を用いて熱分析した。得られた結果を図4に示す。図4から、シランカップリング剤の種類を変えることにより、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロール可能であることがわかる。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例11
潜在性硬化剤粒子の粒度分布に対する、油相溶液の粘度の影響を調べるために、実施例1における、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物とを酢酸エチルに溶解した油相溶液について、酢酸エチルの添加量を増やし油相溶液の粘度を表4に示す値に代えること以外は、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより実験例11a〜11eの潜在性硬化剤を得た。なお、実験例11bは実施例1を繰り返したものである。
【0074】
油相溶液の粘度については、HAAK社製のレオメータPK100を使用して測定した。その結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
実験例11b〜11eの潜在性硬化剤の粒度分布を、電気抵抗式粒度分布測定装置(SD−2000、Sysmex製)を用いて測定し、それぞれの粒度分布チャート(体積換算)を図5A〜5Dに示す。これらの粒度分布チャートから分かるように、油相粘度が約2.5mPa.sであるときに、粒度分布が正規分布となった。更に、油相粘度が約2.0mPa.sであるときに、単分散ミクロンサイズの乳化粒子(中心径3μm)を得ることができた。また、油相粘度が約1.3mPa.sであるときに、単分散ミクロンサイズの乳化粒子(中心径2μm)を得ることができた。以上の結果から、単分散乳化粒子を得るためには、油相粘度を1〜2.5mPa.sとすることが有効であることがわかる。また、実験例11bおよび11eの潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真を図6Aおよび6Bにそれぞれ示すが、実験例11eの潜在性硬化剤粒子の粒度分布が、実験例11aの潜在性硬化剤に比べて、良好な単分散であることがこれらの写真からもわかる。
【0077】
実施例12
良好な単分散性を示し、かつ表面状態の良好な潜在性硬化剤粒子を製造するために、多官能イソシアネート化合物とアルミニウムキレート剤の配合割合の検討を行った。なお、単分散性の粒子を得るため、酢酸エチルの配合量は実施例11eと同等にした。アルミニウムキレート剤であるアルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)と多官能イソシアネート化合物であるメチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物とを、実施例11eと同量の酢酸エチルで溶解した油相溶液について、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物の添加量を以下の表5に示す量に代えること以外は、実施例1と同様の操作を繰り返すことにより実験例12a〜12fの潜在性硬化剤を得た。
【0078】
【表5】
【0079】
得られた実験例12a〜12fの潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真を図7A〜7Fに示す。得られた潜在性硬化剤の粒子の粒子径は、油滴が微細化した後に重合が進行するので最大粒子径5μm以下とすることができた。また、これらの結果から、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下とすると、粒子に異物の付着がないことがわかる。また、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で同量以上とすることによっても、粒子に異物の付着がないことがわかる。従って、良好な単分散性を示し、かつ表面状態の良好な潜在性硬化剤粒子を製造する場合には、アルミニウムキレート剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下もしくは同量以上とすることが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のアルミニウムキレート剤系潜在性硬化剤は、比較的低温で短時間の条件で熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させることができるので、低温で短時間で異方導電性接続が可能な異方導電性接着剤の硬化剤として有用である。
【符号の説明】
【0081】
1…潜在性硬化剤
2…多孔性樹脂マトリックス
3…孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなることを特徴とする潜在性硬化剤。
【請求項2】
アルミニウムキレート剤が、配位子であるβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物である請求項1記載の潜在性硬化剤。
【請求項3】
アルミニウムキレート剤が、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)である請求項1記載の潜在性硬化剤。
【請求項4】
請求項1記載の潜在性硬化剤の製造方法であって、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
揮発性有機溶剤が、低級アルキル酢酸エステルである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液の粘度を、1〜2.5mPa・sに調整する請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
アルミニウムキレート剤の配合量を、多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
アルミニウムキレート剤の配合量を、多官能イソシアネート化合物の重量で等倍以上とする請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の潜在性硬化剤とシランカップリング剤と熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物。
【請求項10】
熱硬化型樹脂が熱硬化型エポキシ樹脂である請求項9記載の熱硬化型樹脂組成物。
【請求項1】
アルミニウムキレート剤が、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂に保持されてなることを特徴とする潜在性硬化剤。
【請求項2】
アルミニウムキレート剤が、配位子であるβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物である請求項1記載の潜在性硬化剤。
【請求項3】
アルミニウムキレート剤が、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)である請求項1記載の潜在性硬化剤。
【請求項4】
請求項1記載の潜在性硬化剤の製造方法であって、アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液を、分散剤を含有する水相に投入し、加熱撹拌することにより界面重合させることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
揮発性有機溶剤が、低級アルキル酢酸エステルである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
アルミニウムキレート剤と多官能イソシアネート化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、得られた溶液の粘度を、1〜2.5mPa・sに調整する請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
アルミニウムキレート剤の配合量を、多官能イソシアネート化合物の重量で1/2以下とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
アルミニウムキレート剤の配合量を、多官能イソシアネート化合物の重量で等倍以上とする請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の潜在性硬化剤とシランカップリング剤と熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物。
【請求項10】
熱硬化型樹脂が熱硬化型エポキシ樹脂である請求項9記載の熱硬化型樹脂組成物。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図1A】
【図1B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図1A】
【図1B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2013−100559(P2013−100559A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−42937(P2013−42937)
【出願日】平成25年3月5日(2013.3.5)
【分割の表示】特願2009−118207(P2009−118207)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年3月5日(2013.3.5)
【分割の表示】特願2009−118207(P2009−118207)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
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