説明

潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条、織編物及びその製造方法

【課題】 ストレッチ性などの風合いに優れた織編物を得ることができるものであると同時に、織物における経糸の分散配置や編物における糸条選別というような特別な措置を要することなく、織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生するのを十分に防止しうる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を提供する。
【解決手段】 熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーが並列型又は偏心芯鞘型に接合してなる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条において、個々の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維同士が収束しており、顕在捲縮率(X)が10.0〜40.0%である3次元スパイラル状顕在捲縮を呈していることを特徴とする潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条とこの糸条を用いてなる織編物、及び該織編物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ストレッチ性に優れた織編物として、潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を用いてなる織編物が知られている。潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条の代表的なものに、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーを並列型に接合した複合繊維からなる糸条があり、リラックス処理が施されるとスパイラル状の捲縮を発現する。
【0003】
このような糸条を用いてストレッチ性に優れた織編物を得る方法としては、上記複合繊維糸条にリラックス処理を施し、しかる後に製編織して所望の織編物を得る方法(例えば、特許文献1参照)や、上記複合繊維糸条を用いて生機を得た後、該生機にリラックス処理を含む後加工を施して所望の織編物を得る方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
これらの方法で得られる織編物は、優れたストレッチ性を有するだけでなく衣料用織編物としての好ましい風合いなども併せ持つ。これらの織編物では、潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条が空洞状の中空構造を呈することにより、そのような特性を有するのである。
【特許文献1】特開平11−81069号公報
【特許文献2】特開平11−43835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記織編物においては、後加工における捲縮発現のバラツキにより、捲縮形態の異なる部分が生じると、その部分が織編物表面にいわゆる経筋及び/又は緯段となって現れるという問題がある。
【0006】
この問題を改善するため、織物においては、経糸準備工程においてワーパー及び/又はビーミングを行う際、糸ずらしを実施して経糸を分散配置させ、錯覚によって上記問題を改善する手段が採用される。
【0007】
一方、編物においては、織物の場合と異なり糸条を分散配置させる手段がないため、全使用糸に対してパーン毎に筒編試料を作成して染色試験を行い、色相が一定範囲にあるパーンの糸条だけを選別して編成に用いることで上記問題の改善が図られている。
【0008】
しかしながら、そのような糸条選別によれは、単に糸条の沸水収縮を考慮した色差のみに基づいて糸条を選別するものにすぎず、後加工における張力の影響を考慮したものではないため、上記の問題を十分には解決できない。その理由として、編物は、構造上糸条の密集度合いが粗いため、張力の影響を受け易く、特に後加工における熱セット(中間セット、仕上げセット)など耳部付近に大きな張力の掛かる工程を通過すると、耳部付近での複合繊維糸条の捲縮が、地部と比べコイル径が小さい状態で熱固定され易い。このため、地部と耳部付近との間において複合繊維の捲縮形状に差が生じるため、いわゆる緯段が発生することになるからである。さらに付言すれば、編成のたびに糸条選別を行うことは、著しく生産効率を低下させるという問題も含んでいる。
【0009】
このような現状に鑑み、本発明は、ストレッチ性などの風合いに優れた織編物を得ることができるものであると同時に、経糸の分散配置や糸条選別というような特別な措置を要することなく、織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生するのを十分に防止しうる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を提供することを課題とする。本発明はまた、ストレッチ性などの風合いに優れるとともに表面品位の優れた織編物を提供すること、及びそのような織編物を簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決できるものであって、第一に、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーが並列型又は偏心芯鞘型に接合してなる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条において、個々の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維同士が収束しており、下記式(1)で示される顕在捲縮率(X)が10.0〜40.0%である3次元スパイラル状顕在捲縮を呈していることを特徴とする潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を要旨とする。
【0011】
【数1】

【0012】
本発明は、第二に、上記した潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条が用いられてなることを特徴とする織編物を要旨とする。
【0013】
また、第三に、上記した潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条に下記式(2)で示される撚係数(α)8000〜25000の撚糸を施しながら、胴体に緩衝材を備えてなるボビンに巻取った後、65〜85℃×30〜45分の撚止めセットを施し、得られた撚糸を用いて製織編した後、120〜135℃のリラックス処理を施し、しかる後に染色、仕上げセット及びスチームリラックスを施すことを特徴とする上記の織編物の製造方法を要旨とする。
【0014】
【数2】

【発明の効果】
【0015】
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条は、織編物に用いて、ストレッチ性、ハリ・コシ感及び膨らみ感などの風合いに優れた織編物が得られると同時に、特別な手間を要することなく織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生するのを十分に防止しうるものである。そして、この糸条を用いてなる本発明の織編物は、ストレッチ性、ハリ・コシ感及び膨らみ感などの風合いに優れるとともに、経筋や緯段などの欠点が少ない表面品位の良好な織編物であり、特に衣料用途に好適である。また、本発明の織編物の製造方法によれば、そのような優れた織編物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条(以下、単に、本発明の複合繊維糸条ということがある)は、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマー、すなわち、熱収縮性が相対的に低い低熱収縮性ポリエステルポリマーと、熱収縮性が相対的に高い高熱収縮性ポリエステルポリマーとが並列型又は偏心芯鞘型に接合した潜在捲縮性ポリエステル複合繊維からなる、マルチフィラメントの糸条である。
【0017】
本発明において、ポリエステルポリマーの熱収縮特性が異なるとは、具体的には、繊維に形成された状態で湿熱処理が施された際の熱収縮率が異なることをいう。つまり、本発明の複合繊維糸条を構成する複合繊維は、繊維状に形成された熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーが並列型又は偏心芯鞘型に接合した構造であるため、潜在捲縮性を具備するものとなり、後加工において湿熱処理されると両ポリエステルポリマー間に熱収縮差が生じ、3次元スパイラル状の強くて細かい捲縮が発現するのである。
【0018】
本発明に用いられるポリエステルポリマーとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の繊維形成性のポリエステルポリマーを任意に選択して用いることができる。具体的には、繰り返し単位が実質的に全てエチレンテレフタレートからなるホモポリエチレンテレフタレートポリマー(以下、ポリエチレンテレフタレートをPETと略記する)を用いることができる。また、全繰り返し単位の85%以上がエチレンテレフタレートであって、他の成分が共重合されてなる共重合PETポリマーを用いることができる。そのような共重合PETポリマーにおける共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンなどが挙げられる。特に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合成分として用いると、本発明の複合繊維糸条がカチオン可染糸となって商品価値が高まるので好ましい。
【0019】
本発明では、上記に挙げたようなポリエステルポリマーから、熱収縮性特性の異なる2種類のポリエステルポリマーを選択して用いるのであるが、2種類といっても、同種のポリマー、例えば互いに熱収縮特性の異なるホモPETポリマー同士を用いてもよく、このような場合も熱収縮性特性の異なる2種類のポリエステルポリマーであるといえる。
【0020】
熱収縮性の異なる2種類のポリエステルポリマーを同種のポリエステルポリマーから選択することは、極限粘度の異なるものとすることにより達成できる。例えば、ホモPETポリマーで、極限粘度に0.10〜0.25の差があるもの同士を選択することにより、相対的に極限粘度の低い方のホモPETポリマーを低熱収縮性ポリエステルポリマー、極限粘度の高い方のホモPETポリマーを高熱収縮性ポリエステルポリマーとして用いることができる。この場合、極限粘度の差が0.10未満では、複合繊維の捲縮発現が不足する傾向にあり、一方、極限粘度の差が0.25を超えると捲縮発現が過度になって品位を損なう傾向にあるので好ましくない。
【0021】
また、異種のポリエステルポリマーを用いる場合、極限粘度が同じでも熱収縮性が異なり得るため、極限粘度に差を設ける必要は無く、高熱収縮性ポリエステルポリマーの方が極限粘度が低いということもあり得る。例えば、高熱収縮性ポリエステルポリマーとしてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンのうちいずれか1種以上の成分が共重合された共重合PETポリマーを用い、かつ低熱収縮性ポリエステルポリマーとしてホモPETポリマーを用いた場合は、共重合PETポリマーの熱収縮率が相対的に高いので、いずれのポリエステルポリマーの極限粘度が相対的に高くてもよく、極限粘度差は0.02〜0.10程度が好ましい。
【0022】
なお、上記したような同種のポリマー同士を用いる場合、異種のポリマーを用いる場合のいずれの場合においても、製糸性や繊維物性を考慮すれば、低熱収縮性ポリエステルポリマーの極限粘度を0.35〜0.70の範囲に設定し、高熱収縮性ポリエステルポリマーの極限粘度を0.50〜0.80の範囲に設定するのが好ましい。
【0023】
また、極限粘度としては、ウベローデ型粘度計を用い、フェノ−ルと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した値を採用する。
【0024】
本発明の複合繊維糸条を構成する複合繊維は、上記したように、2種のポリエステルポリマーを並列型又は偏心芯鞘型に接合した繊維であるが、その接合形態としては、任意の繊維断面における両ポリマーの接合線が湾曲するような具合に、繊維長手方向に連続的に両ポリマーが接合されていることが好ましい。このような接合形態を採用すると、後加工後において複合繊維の3次元スパイラル状の捲縮がより強くて細かいものとなり、織編物におけるストレッチ性、ハリ・コシ感及び膨らみ感などの風合いをより高めることができるので好ましいのである。
【0025】
また、上記複合繊維において接合されている低熱収縮性ポリエステルポリマーと高熱収縮性ポリエステルポリマーとの質量比率としては、40:60〜60:40であることが好ましい。質量比率が上記の範囲を外れると、複合繊維が後加工において十分に捲縮発現しない傾向にあり、好ましくない。
【0026】
なお、複合繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、艶消し剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、抗菌剤又は導電性付与剤などが含有されていてもよい。
【0027】
また、本発明の複合繊維糸条における繊度としては、特に限定されるものではないが、単糸繊度としては1〜10dtex、トータル繊度としては33〜330dtexであることが好ましく、そのような繊度を選択することにより、衣料用織編物に好適に用いることができる。
【0028】
本発明の複合繊維糸条においては、糸条長手方向に沿って個々の複合繊維同士が収束していることが重要である。複合繊維同士が収束せずにばらけていると、後加工により捲縮を発現させた際には繊維が一層ばらけてしまい、捲縮状態に乱れを生じることが避けられず、織編物表面に多数の経筋及び/又は緯段が発生することになってしまうからである。
【0029】
また、本発明の複合繊維糸条は、潜在捲縮性であると同時に、3次元スパイラル状の顕在捲縮を有していることが重要である。この顕在捲縮は、主に、複合繊維を構成する2種類のポリエステルポリマー間の熱収縮率差に起因して、紡糸、延伸等の過程で生じるものであるが、本発明者らが見出したところによれば、本発明の潜在捲縮性顕在捲縮率と後加工で生じる捲縮(つまり、潜在捲縮性が捲縮発現して生じるもの)との間には密接な関係がある。それは、顕在捲縮率が大きいほど、後加工により生じる捲縮も大きなものとなり、織編物のストレッチ性を向上させる、しかし同時に、捲縮のバラツキも大きくなり、織編物の品位を低下させるということを本発明者らは知見した。そこで、鋭意検討した結果、上記の顕在捲縮率を一定の範囲とすることで、織編物における優れたストレッチ性と品位の良さを両立し得る本発明の複合繊維糸条を発明するに到ったのである。
【0030】
すなわち、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条が有する3次元スパイラル状顕在捲縮については、下記式(1)で示される顕在捲縮率(X)が10.0〜40.0%である必要がある。この顕在捲縮率は、顕在捲縮の大きさを表す指標として、糸条の形態が通常のフラット糸と比べてどの程度スパイラル化しているかを定量的に表すことができるものであり、顕在捲縮率が大きいほど、コイル径の大きい及び/又はコイルピッチの短い顕在捲縮を発現していることになる。
【0031】
【数3】

【0032】
なお、上記した顕在捲縮率を求めるにあたって、上記L及びLを測定する際に糸条へ負荷する90.91×10−3cN/dtexという荷重(又は張力)は、繊維が塑性変形を起こさない範囲で実質的に捲縮していない状態に糸条を引き伸ばすべく設定したものである。同様に、1.67×10−4cN/dtexという荷重は、捲縮形状が保持されると共に糸条が外気の風圧により位置がずらされない程度に固定されるよう設定したものである。
【0033】
本発明の複合繊維糸条において、上記した顕在捲縮率が10.0%未満であると、後加工による捲縮の発現が小さくなるため、織編物としたときのストレッチ性、ハリ・コシ感又は膨らみ感などの風合いを十分に付与できないものとなる。一方、顕在捲縮率が40.0%を超えると、織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生する。
【0034】
ここで、顕在捲縮率が大きすぎると織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生するということについては、本発明者らの知見によれば、次の二つの理由がある。第一の理由としては、パッケージの解舒量と送り出し量とのバランスが崩れ、給糸張力が大きく変動することがあげられる。つまり、複合繊維糸条が巻かれたパッケージから複合繊維糸条を解舒する際、顕在捲縮があることにより過解舒され易くなる。その結果、パッケージの解舒量と送り出し量とのバランスが崩れ、生機製造の際、糸条の給糸張力が大きく変動する。すると、得られた生機を後加工へ投入して複合繊維糸条に潜在していた捲縮を発現させると、捲縮形状が糸条長手方向で不均一なものとなり、織編物表面に経筋及び/又は緯段が発生することになるのである。
【0035】
また、第二の理由としては、前述したように顕在捲縮率が大きいほど後加工により生じる捲縮(潜在していた捲縮)も大きくなるが、大きく生じた捲縮のコイルピッチは非常に短いものとなり、潜在捲縮性糸条を用いた織編物に通常施されるところである熱セット(中間セット、仕上げセット)の際に、地部と耳部付近との間において複合繊維糸条の捲縮形状に差が生じ易いことがあげられる。つまり、熱セットにおいては、織編物の自重により耳部付近に掛かる張力は地部に掛かる張力より僅かに大きくなるのが必然であるが、コイルピッチが非常に短いと、僅かな張力差によっても糸条の引き伸ばされ度合いに無視できない差が生じる。そのため、地部と耳部付近との間において複合繊維糸条の捲縮形状が大きく異なり、織編物表面に緯段が発生することになるのである。
【0036】
本発明の複合繊維糸条において、顕在捲縮率を所定の範囲とすることは、複合繊維中のポリエステルポリマーの組み合わせに応じて、未延伸糸を延伸する際の延伸時熱処理温度及び延伸糸巻取張力を調整することにより可能である。例えば、延伸時熱処理温度を高く設定すれば、ポリエステルポリマー間の熱収縮の差が小さくなるので、顕在捲縮率を小さくすることができる。この延伸時熱処理温度は、第1ローラー表面温度やホットプレート温度によって適宜調整することができ、第1ローラー表面温度としては75〜90℃、ホットプレート温度としては160〜175℃が好ましい。
【0037】
例えばまた、延伸糸巻取張力を高く設定すれば、糸条の弾性回復率が大きくなるので、顕在捲縮率を大きくすることができる。この延伸糸巻取張力は、延伸糸巻取の際のトラベラ質量、巻取速度又はスピンドル回転数などによって適宜調整することが、トラベラ質量(延伸糸換算)としては6.8×10−4〜13.6×10−4g/dtex、巻取速度としては500〜800m/分が好ましい。また、初期スピンドル回転数としては、複合繊維糸条のトータル繊度(延伸糸換算)が84dtex未満の場合には5000〜7000rpmが、84dtex以上の場合には6000〜8000rpmが好ましい。
【0038】
次に、本発明の複合繊維糸条を製造する方法について説明する。
【0039】
本発明の複合繊維糸条を製造するには、まず、通常の複合紡糸型溶融紡糸機などを用い、既述した2種類のポリエステルポリマーを並列型又は偏心芯鞘型に接合するように合流させ、同一紡糸孔から吐出させて溶融紡糸する。この場合、紡糸温度は各ポリエステルポリマーの溶融温度によって適宜選択されるが、通常280〜310℃が好ましい。
【0040】
紡糸された糸条は、引き続き冷却固化された後に紡糸油剤が付与され、複合繊維同士が収束され、1000〜4000m/分の糸速で引き取られる。
【0041】
そして、引取った糸条を一旦未延伸糸として巻取った後、延伸機により熱延伸するか、もしくは引取った糸条を巻取ることなく連続して熱延伸することで、本発明の複合繊維糸条を得ることができる。
【0042】
なお、延伸倍率としては、引取った時点での未延伸糸の残留伸度に応じて、延伸後の複合繊維糸条の残留伸度が15〜40%の範囲になるように設定することが好ましい。残留伸度が15%未満であると延伸時に糸切れし易い傾向にあり、一方、40%を超えると複合繊維が十分に捲縮発現しない傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0043】
次に、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を用いた織編物(以下、本発明の織編物ということがある)について説明する。
【0044】
本発明の織編物は、上記した本発明の複合繊維糸条が用いられてなるものであるが、発明の効果をより高めるためには、構成糸条の40質量%以上に本発明の複合繊維糸条が用いられていることが好ましい。
【0045】
なお、本発明の複合繊維糸条以外の糸条を併用する場合、併用するための方法としては特に限定されるものではなく、例えば、引き揃え、合撚、混繊など糸条同士を複合する方法、あるいは、交編織、配列など製織編の際に複合する方法などを採用できる。
【0046】
また、本発明の織編物では、本発明の複合繊維糸条が撚糸された状態にあることが好ましく、この場合、下記式(2)で示される撚係数(α)が10000〜34000であることが好ましい。
【0047】
【数4】

【0048】
撚係数(α)がこの範囲にあると、織編物表面が平滑となり、織編物に抗ピリング性が付与されると共にハリ・コシ感及び膨らみ感などの風合いも向上するので好ましい。
【0049】
なお、撚方向については、S撚、Z撚のいずれであっても差し支えない。
【0050】
また、本発明の織編物の組織については、特に限定されるものではないが、例えば織物では、5枚朱子又は二重組織など、一完全組織における組織点の数が少ない組織が、織物のストレッチ性を向上させるという点から好ましい。
【0051】
次に、本発明の織編物を製造する方法について説明する。
【0052】
本発明の複合繊維糸条を用いて本発明の織編物を製造するために、本発明の複合繊維糸条には、撚糸を施すことが好ましい。撚糸を施すには、ダブルツイスター又はリング式撚糸機を用いればよく、中撚から強撚領域ではダブルツイスターを用い、甘撚領域ではリング式撚糸機を用いると、生産性及び品質向上の点で好ましい。
【0053】
上記のように複合繊維糸条を撚糸する場合の撚係数については、特に限定されるものでないが、下記式(2)に示す撚係数(α)が8000〜25000となるように撚糸すると、織編物表面が平滑となり、織編物に抗ピリング性が付与されると共にハリ・コシ感及び膨らみ感などの風合いも向上するので好ましい。
【0054】
【数5】

【0055】
なお、最終的に得られる織編物における複合繊維糸条の撚係数は、後加工での複合繊維糸条の熱収縮及び捲縮発現により向上するので、上記したように撚係数が8000〜25000の撚糸を施しておけば、後加工を経由して最終的に得られる織編物における撚係数は10000〜34000となる。
【0056】
上記のようにして撚糸された糸条をボビンに巻き取ってパッケージとする際には、パッケージ内の糸条の熱収縮を均一化する目的で、胴体に緩衝材を備えてなるボビンに巻き取ることが好ましい。通常の撚糸された複合繊維糸条のパッケージにおいて、内層部分に巻かれた糸条は、ボビン本体が障壁となってセット熱による熱収縮が阻害されるため、内層以外の部分に巻かれた糸条との間に熱収縮差が生じることにより、潜在捲縮性に差異が生じる。このため、織編物となって後加工された際に、内層部分に巻かれていた糸条で構成された箇所が、内層以外の部分に巻かれていた糸条で構成された箇所よりも大きく熱収縮するという現象が起こり、それが織編物表面に経筋又は緯段となって現れることがある。したがって、胴体に緩衝材を備えてなるボビンを用い、この緩衝材の上から糸条を巻き取ることにより、パッケージ内の糸条の熱収縮が均一化することで、織編物表面に経筋又は緯段が発生するのを防止できるのである。
【0057】
なお、上記の緩衝材の材質としては、複合繊維糸条の熱収縮を実質的に阻害しないものであれば特に限定されるものではないが、例えばゴム製シートやダンボール紙などが好ましく用いられる。
【0058】
上記のようにして撚糸して巻き取った複合繊維糸条には、ビリの発生を抑えるために、真空糸蒸機などを用いて撚止めセットを施しておくことが好ましい。この撚止めセットの条件としては、温度65〜85℃にて、30〜45分かけて行なうことが好ましい。この範囲の条件とすることで、製織編時のビリの発生が適度に抑制され、かつ製織編後の後加工で複合繊維糸条が熱収縮しながら十分に捲縮発現することができるので好ましい。
【0059】
上記のようにして撚糸及び撚止めセットされた糸条を製織編に供する。製織編に用いる織機や編機としては、特に限定されるものではないが、織機についてのコスト面からは、本発明の織編物の加工収縮が大きいゆえ、通巾190cm以上の織機が好ましい。
【0060】
製織編後は、得られた生機に後加工を施す。後加工工程としては、まず、リラックス処理を施し、しかる後に染色、仕上げセット及びスチームリラックスを施こすことが好ましい。
【0061】
リラックス処理の温度については、一般のポリエステル織編物のリラックス温度は、100〜115℃程度であるが、本発明では、織編物表面における経筋又は緯段の発生を抑制すべく、リラックス温度を通常のものよりも高い120〜135℃に設定するのが好ましい。リラックス温度がこの範囲であると、複合繊維糸条が熱収縮しながら十分に捲縮発現するため、織編物の風合いを向上させることができる点でも好ましい。また、染色温度としては、分散染料を用いた一般の染色と同様に120〜135℃程度が好ましい。
【0062】
次いで行なう仕上げセットとしては、常法によりピンテンターなどを用いて行なえばよく、セット温度としては、一般のポリエステル織編物の場合と同様に170〜180℃程度が好ましい。
【0063】
なお、この仕上げセットにおいては、織編物の巾が、最終的な目標値より1.5〜10.0%広く、かつ織編物の長さが最終的な目標値より5.0〜10.0%長くなるようにセットするのが好ましい。これは、仕上げセット後に織編物にスチームリラックスを施して複合繊維糸条をさらに捲縮発現させることによる。
【0064】
仕上げセット後のスチームリラックスとしては、織編物に張力を掛けずに95〜100℃の蒸気を10〜40秒間織編物へ吹き付けて行なうのが好ましい。このスチームリラックスを施すことにより、複合繊維糸条の捲縮形状がより均斉化されるため、経筋及び/又は緯段の発生を抑制でき、織編物の風合いを向上させることができる。さらに付随的な効果として、織編物のアイロン収縮率や洗濯収縮率などを低下させることもできる。
【0065】
なお、本発明の織編物の商品価値をさらに向上させたい場合、例えば寸法安定性を向上させたい場合は、リラックス処理後に織編物へ中間セットを施すのが好ましく、また、ソフト感を向上させたい場合は、リラックス処理後にアルカリ減量を施すのが好ましい。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例、比較例における糸条及び織編物の評価方法は下記の通りである。
【0067】
1.極限粘度
三角フラスコへポリエステルチップを200mg入れた後、ホールピペットを用いてフェノ−ルと四塩化エタンとの等質量混合物を前記三角フラスコへ40mL加え、前記チップを加温溶解する。溶解後直ちに冷却し、ウベローデ型粘度計を用いて、温度20℃で外挿法により測定する。
【0068】
2.顕在捲縮率(X)
潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条に90.91×10−3cN/dtexの張力をかけつつ、円周1.125mの検尺機に10回巻きつけてカセとし、カセの両端を縛る。そのカセに1.67×10−4cN/dtexの荷重を掛けた状態で放置して、30分間放置した時点での長さ(L)を測定する。次いで、荷重を1.67×10−4cN/dtexから90.91×10−3cN/dtexに代え、直ちに長さ(L)を測定する。そして、下記式(1)に基づき顕在捲縮率(X)を算出する。
【0069】
【数6】

【0070】
3.緯段発生の評価
実施例及び比較例で得られた織編物50mに対し、検反板面として艶消黒板を有する傾斜面式検反機を用い、目視により緯段数を数えた。このとき、照度1200ルクスの人工光線(白色光)を上記検反面に対し直角に入射させ、巻シワが発生しない程度に織編物に張力をかけつつ布速度10m/分で織編物を移動させ、長さ2cm以上の緯段のみを対象として緯段数を数えた。そのようにして計数された緯段数に基づいて、下記の基準によりA〜Cの3段階で評価した。
(評価基準)
A:緯段数5以下
B:緯段数6〜8
C:緯段数9以上
【0071】
4.風合い評価
実施例及び比較例で得られた織編物の風合いを20人のパネラーによる官能検査により1〜5級で評価した。評価基準としては、等級数が大きくなるほど性能が優れるものとし、3級以上を合格とした。
(実施例1)
【0072】
複合繊維を構成する高熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、PETを主体とし、共重合成分として2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン(以下、BP−A/EOと略記する)を全繰り返し単位に対し4.0モル%、イソフタル酸(以下、IPAと略記する)を同じく5.0モル%含有する、極限粘度0.66の共重合PETポリマーを用いた。一方、低熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、極限粘度0.62のホモPETポリマーを用いた。そして、両ポリエステルポリマーを複合紡糸型溶融押出機に等質量供給し、紡糸温度295℃で溶融し、紡出孔を24個有する紡糸口金から両ポリエステルポリマーが並列型に接合した状態で紡出し、冷却固化した。その後、紡糸油剤を付与しながら個々の繊維同士を集束させ、表面速度が3300m/分の引取ローラーを介して、174dtex/24fの未延伸糸として巻取った。続いて、前記未延伸糸を延伸機へ供給し、下記表1に示す条件で延伸し、110dtex/24fの本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を得た。得られた複合繊維糸条は、個々の複合繊維同士が収束していると共に3次元スパイラル状の顕在捲縮を有していた。
【0073】
次に、上記で得られた本発明の複合繊維糸条をパーンワインダー(村田機械(株)製、No.303型)で巻取った後に、ダブルツイスター(村田機械(株)製、No310C型)にて、S撚り1500T/M(撚係数α=15732に相当)の撚糸を施した。なお、撚糸された糸条の巻き取りに用いるボビンには、緩衝材として厚さ4mmのダンボール紙を胴体に巻き付けてなる金属シリンダーを用いた。続いて、この撚糸に80℃×40分の撚止めセットを施した。
【0074】
上記のようにして撚糸及び撚止めセットを施した複合繊維糸条を単独で用いて、針密度26本/2.54cm、釜径84cmの丸編機((株)福原精機製作所製)にて、インターロック組織の生機を編成した。次に、この生機に130℃×30分のリラックス処理を施した後、180℃×40秒の中間セットを施し、さらに、130℃×30分の染色を施した。その後、ピンテンターにて170℃×40秒の仕上げセットを施した。なお、仕上げセットにあたっては、編物の長さが最終的な目標値より7.0%長く、かつ巾が最終的な目標値より5.0%広くなるようにセットした。
【0075】
そして、上記仕上げセット後の織編物に対し、スチームリラクサー(コーコク機械(株)製)を用い、張力を掛けずに98℃の蒸気を20秒間吹き付けてスチームリラックス処理を施して、本発明の織編物を得た。
(実施例2)
【0076】
複合繊維を構成する高熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、PETを主体とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸(以下、SIPと略記する)を全繰り返し単位に対し2.0モル%含有する、極限粘度0.57の共重合PETポリマーを用いたこと、並びに、低熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、極限粘度0.64のホモPETポリマーを用いたこと以外については、実施例1と同様に行い、本発明の織編物を得た。
(実施例3)
【0077】
複合繊維を構成する高熱収縮性ポリエステルポリマーとしては極限粘度0.64のホモPETポリマーを用いたこと、並びに、低熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、極限粘度0.45のホモPETポリマーを用いたこと以外については、実施例1と同様に行い、本発明の織編物を得た。
(比較例1)
【0078】
未延伸糸の延伸において、第1ローラー表面温度を80℃、トラベラ質量を27.3×10−4g/dtex(0.3g)、初期スピンドル回転数を8500rpmにそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、比較用の織編物を得た。
(比較例2)
【0079】
複合繊維を構成する高熱収縮性ポリエステルポリマーとしては、PETを主体とし、共重合成分としてBP−A/EOを全繰り返し単位に対し6.0モル%、IPAを同じく4.0モル%含有する、極限粘度0.73の共重合PETポリマーを用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、比較用の織編物を得た。
(比較例3)
【0080】
未延伸糸の延伸において、第1ローラー表面温度を97℃に変更したこと以外は、実施例3と同様に行い、比較用の織編物を得た。
(比較例4)
【0081】
低熱収縮性ポリエステルポリマーに用いるホモPETポリマーを極限粘度0.60のものに変更する以外は、実施例3と同様に行い、織編物を得た。
上記実施例及び比較例におけるポリエステルポリマーの性状、未延伸糸の延伸条件、得られた糸条の顕在捲縮率、並びに織編物の風合い及び緯段発生の評価結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の結果から分るように、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条を用いた織編物(実施例1〜3)は、緯段発生が低く抑えられており、ストレッチ性などの風合いにも優れるものであった。
【0084】
対して、比較例1では、複合繊維糸条の顕在捲縮率が大きすぎたため、織編物表面に緯段が多数発生した。第1ローラー表面温度がやや低いうえ、初期スピンドル回転数が高くトラベラ質量が重い、つまり、延伸時熱処理温度がやや低く、延伸糸巻取張力が高いという条件で行なったことによる。
【0085】
比較例2でも、複合繊維糸条の顕在捲縮率が大きすぎたため、織編物表面に緯段が多数発生した。高熱収縮性ポリエステルポリマーとして用いた共重合PETポリマーの極限粘度と、低熱収縮性ポリエステルポリマーとして用いたホモPETポリマーの極限粘度との差が大き過ぎたことによる。
【0086】
比較例3では、複合繊維糸条の顕在捲縮率が小さすぎたため、織編物はストレッチ性などの風合いに欠けるものとなった。第1ローラー表面温度が高い、つまり、延伸時熱処理温度が高い条件で行なったことによる。
【0087】
比較例4でも、複合繊維糸条の顕在捲縮率が小さすぎたため、織編物はストレッチ性などの風合いに欠けるものとなった。複合繊維を構成する2種のポリエステルポリマーが同じ組成であり、かつ、両ポリマー間の極限粘度差が小さかったことによる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルポリマーが並列型又は偏心芯鞘型に接合してなる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条において、個々の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維同士が収束しており、下記式(1)で示される顕在捲縮率(X)が10.0〜40.0%である3次元スパイラル状顕在捲縮を呈していることを特徴とする潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条。
【数1】

【請求項2】
請求項1記載の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条が用いられてなることを特徴とする織編物。
【請求項3】
請求項1に記載の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維糸条に下記式(2)で示される撚係数(α)8000〜25000の撚糸を施しながら、胴体に緩衝材を備えてなるボビンに巻取った後、65〜85℃×30〜45分の撚止めセットを施し、得られた撚糸を用いて製織編した後、120〜135℃のリラックス処理を施し、しかる後に染色、仕上げセット及びスチームリラックスを施すことを特徴とする請求項2に記載の織編物の製造方法。
【数2】


【公開番号】特開2006−83489(P2006−83489A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269890(P2004−269890)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】