説明

潤滑グリースの蒸発性および低温トルクを制御するためのPAO油の選択

基油および増稠剤を含み、特定の低温トルクおよび高温蒸発性要求を満たすグリース組成物は、実質的にポリオレフィンのダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物からなる基油を用い、前記オリゴマー混合物の10wt%未満は、ダイマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関する。より詳しくは、本発明は、オレフィンオリゴマーをグリースの基油として用いるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑グリースは、三種の主要成分、基油、増稠剤および添加剤を含む。基油は潤滑性を提供し、増稠剤は密度(body)および構造をグリースに与え、添加剤は酸化、錆、腐蝕などに対するグリースの耐性を増大する。
【0003】
従来、グリースに用いる基油には、鉱油、合成油およびそれらの混合物が含まれる。用いられる鉱油の例は、パラフィン系およびナフテン系油である。用いられる合成油の例は、エステル(ポリオールと二塩基酸のエステルに限定されない)、ポリグリコール、PAO(ポリアルファオレフィン)などの合成炭化水素およびシリコーン油である。
【0004】
広範な種類の物質が、増稠剤として潤滑グリースに用いられ、その選択は、しばしば、グリースの用途による。増稠剤のうち、潤滑グリースに用いることが意図されるものは、アルミニウム、バリウム、カルシウム、鉄、鉛、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、錫、チタン、亜鉛のセッケンおよびこれらの金属の錯体セッケン、または次の非セッケン増稠剤、即ちカルシウムスルホネート、粘土、顔料、ポリ尿素およびポリテトラフルオロエチレンである。
【0005】
グリースに用いる添加剤には、酸化防止剤、腐蝕防止剤、金属不活性化剤、着色剤などが含まれる。
【0006】
グリースは、意図する用途に基づいた性能基準を満たすという観点で処方される。例えば、航空用途で用いられる潤滑グリースはしばしば、低および高の両温度で特定の性能特性を有することを求められる。これらの特性の中には、低温トルクおよび高温蒸発性がある。低温トルクは、低温においてグリースが非常に硬く、ベアリングが自由な回転を妨げられるかどうかを決定するのに用いられる尺度である。良好な低温性能は、グリースに低粘度の油を用いることによって達成しうる。グリースの低温特性は、典型的にはASTM試験方法D1478(ボールベアリンググリースの低温トルク)を用いて測定される。これにより、グリースを封入したボールベアリングが特定温度に冷却された際に機能する自由度が測定される。D1478方法によるベアリング回転の自由度は、ベアリングの回転を開始し、それを維持するのに必要とされるトルクとして報告される。トルクは、典型的には、ニュートン−メートルの単位で報告される。
【0007】
航空用途に重要な潤滑グリースの高温特性の一つは、低蒸発性である。油が蒸発すると潤滑不可となり、グリース潤滑される部品の性能が危うくなる。そのようになるのは、航空機の潤滑剤が高温と共に低い気圧(飛行中に機能する場合)に曝されるときである。両条件は、グリースに用いる油の蒸発を促進しうる。過剰な蒸発を回避するためのアプローチは、高い基油粘度のグリースを用いることである。潤滑グリースの蒸発減量を測定するのに典型的に用いられる試験は、ASTM試験方法D972およびD2595(潤滑グリースの蒸発減量)である。これらの試験のそれぞれにおいては、加熱空気を、グリース表面に特定時間送る。空気は、航空機グリース規格で要求される特定温度に加熱される。
【0008】
一つの特定の規格、即ちボーイング物質規格(BMS 3−33A:グリース、航空機、一般用途)は、ASTM D1478試験における始動時の低温トルクが、0.10ニュートン−メートルを超えず、しかもグリースの蒸発重量減量が、ASTM D2595試験において121℃で500時間評価された際に、10.0wt%を超えないグリースを要求する。
【0009】
ボーイング物質規格(BMS 3−33A)を満たすグリース用に選択される油のタイプが、ポリアルファオレフィン(PAO)100%である場合、低温トルク要求を満たすのに必要な低粘度PAOは、顕著な高温蒸発をもたらすため困難が生じることが、経験的に示されている。この困難を克服する一つのアプローチは、合成エステルとのPAO混合物を、グリース基油として用いることである。しかし、エステルは高温・湿潤環境で加水分解し、種々の金属に対して腐蝕性でありうる種を生成しうる。従って、ポリエステルを含まず、かつボーイング規格を満たしうるPAO基油を有するグリースを提供することが望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は概して、グリース組成物に関する。前記グリース組成物は、主要量の潤滑粘度の油、および前記油をグリース稠度に増稠するのに十分な少量のグリース増稠剤を含み、前記潤滑粘度の油は、実質的に、ポリアルファオレフィンのダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物、ポリ内部オレフィン、並びにそれらの混合物からなり、前記オリゴマー混合物は、ダイマー10wt%未満を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられる基油は、ポリアルファオレフィンのダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物、ポリ内部オレフィン、並びにそれらの混合物である。好ましくは、基油は直鎖状アルファオレフィンから誘導されるPAO油の混合物である。これは重合され、その上水素添加されて、不飽和二重結合が除去されており、かつ分留されて、特定の生成物スレートが得られている。PAOは、概略の粘度を、センチストークス(100℃)で示すように、それらに割り振られた数値を有する。表1に、1−デセンから誘導されたいくつかのPAO油のセグメント分布を示す。例えば、炭素20個を含むセグメントはダイマーであり、炭素30個はトリマーであり、炭素40個はテトラマーである。本発明においては、PAOオリゴマーは、好ましくは、炭素原子約5〜約14個を有するアルファオレフィンから誘導される。実際、1−デセンは、オリゴマーを形成する際に用いられる特に好ましいアルファオレフィンである。加えて、基油は、粘度(40℃)25cSt以下を有することが好ましい。例えば、約13cSt〜約20cStの範囲の粘度(40℃)を有するベースPAO油の混合物は、本発明で用いるのに適切である。
【0012】
【表1】

【0013】
ボーイング規格BMS 3−33Aの低温トルクおよび高温蒸発性要求を満たすためには、グリースを処方する際に用いられるベースポリ−オレフィンオリゴマー油は、ダイマー10wt%未満、例えば5wt%〜10wt%を含む。典型的には、油はまた、トリマー約75wt%超、例えば75wt%〜約95wt%を含む。
【0014】
基油は、グリース組成物の主要量を構成する。例えば、グリースの全重量を基準として約65wt%〜約80wt%である。
【0015】
グリースはまた、油をグリース稠度に増稠するのに十分な少量の増稠剤を含む。典型的には、増稠剤は、グリースの約5wt%〜約20wt%を構成する。
【0016】
適切な増稠剤には、セッケン増稠剤および非セッケン増稠剤が含まれる。セッケン増稠剤の例には、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛などのセッケンが含まれる。非セッケン増稠剤の例には、カルシウムスルホネート、粘土、シリカゲル、尿素化合物などが含まれる。
【0017】
本発明の組成物はまた、少量ではあるが、有効量の他のグリース添加剤を含んでいてもよい。これには、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、防錆剤、極圧剤、顔料などが含まれる。
【0018】
組成物は、従来のグリース混合装置において、増稠剤を約150℃〜200℃までの温度で製造し、添加剤を一般には35℃〜約100℃の温度で完全に混合することによって調製される。
【0019】
本発明は更に、次の実施例によって例証される。
【実施例】
【0020】
実施例1
三種のPAO混合物を、表1に表記されるPAO油の種々の組み合わせから調製した。三種の混合物の組成を表2に示す。
【0021】
次いで、三種のPAO油混合物のそれぞれを、リチウム錯体増稠剤約9wt%(12−ヒドロキシ−ステアリン酸を基準とする)および添加剤(典型的な腐蝕防止剤、耐磨耗剤、極圧剤および酸化防止剤からなる)約17%を用いてグリースとした。次いで、得られたグリースをASTM試験D1478およびD2595に付した。試験の結果もまた表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
理解できるように、油混合物1は、BMS 3−33Aの低温トルク要求を満たすが、蒸発要求を満たさない。データはまた、ダイマーの量が減少するにつれて、高温蒸発特性が向上することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要量の潤滑粘度の油および前記油をグリース稠度に増稠するのに十分な少量のグリース増稠剤を含み、
前記潤滑粘度の油は、実質的に、ポリアルファオレフィン油のダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物、ポリ内部オレフィン油、並びにそれらの混合物からなり、前記オリゴマー混合物は、ダイマー10wt%未満を含む
ことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記油は、実質的に、炭素原子5〜14個を有するアルファオレフィンから誘導されるポリアルファオレフィンのオリゴマー混合物からなることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記油は、粘度(40℃)25cSt以下を有することを特徴とする請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記増稠剤は、前記組成物の全重量を基準として5wt%〜20wt%を構成することを特徴とする請求項2または3に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記増稠剤は、セッケン増稠剤および非セッケン増稠剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記増稠剤は、セッケン増稠剤であることを特徴とする請求項5に記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記セッケン増稠剤は、錯体リチウムセッケンであることを特徴とする請求項6に記載のグリース組成物。
【請求項8】
ASTM D1478によって測定される際、始動時には0.75ニュートン−メートルを超えない低温トルク、60分後には0.10ニュートン−メートルを超えない低温トルクを有し、更にASTM D2595によって測定される際、121℃で500時間後に10wt%を超えない蒸発重量減を有するグリース組成物であって、
主要量の潤滑粘度の基油;および
前記油をグリース稠度に増稠するのに十分な少量のグリース増稠剤
を含み、
前記潤滑粘度の油は、実質的に、粘度(40℃)25cSt以下を有するポリアルファオレフィン油のダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物からなり、かつダイマー10wt%未満を含む
ことを特徴とするグリース組成物。
【請求項9】
前記油は、トリマー75wt%超を含むことを特徴とする請求項8に記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記油は、ダイマー5〜10wt%およびトリマー75wt%〜95wt%を含み、残りは、より高級のオリゴマーであることを特徴とする請求項9に記載のグリース組成物。
【請求項11】
前記ポリアルファオレフィン油は、炭素原子5〜14個を有するアルファオレフィンから誘導されることを特徴とする請求項10に記載のグリース組成物。
【請求項12】
前記アルファオレフィンは、炭素原子10個を有することを特徴とする請求項11に記載のグリース組成物。
【請求項13】
主要量の、粘度(40℃)25cSt以下を有する油であって、実質的に、ポリアルファオレフィンのダイマー、トリマーおよびより高級のオリゴマーの混合物からなり、前記混合物は、ダイマー10wt%未満5wt%まで、トリマー75wt%超95wt%までを有し、残りは、より高級のオリゴマーである油;および
前記油をグリース稠度に増稠するのに十分な少量のグリース増稠剤
を含み、
その結果、始動時には0.75ニュートン−メートルを超えない低温トルク、60分後には0.10ニュートン−メートルを超えない低温トルク(各々ASTM D1478によって測定)を有し、121℃で500時間後に10wt%を超えないASTM D2595蒸発重量減を有する
ことを特徴とするグリース組成物。
【請求項14】
前記増稠剤は、リチウム錯体であり、前記組成物の5〜20wt%を構成することを特徴とする請求項13に記載のグリース組成物。

【公表番号】特表2007−511638(P2007−511638A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539695(P2006−539695)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/037126
【国際公開番号】WO2005/049771
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】