説明

潤滑システムの評価方法

【課題】潤滑油が複数の流通経路を経て複数の潤滑部位へ供給される場合に、その複数の潤滑部位に対する潤滑油の流量分配比を定量的に求めることができるようにする。
【解決手段】濃度と相関を持って変化する物理量を有するトレーサ30を分岐油路18a〜18cに順番に択一的に注入し、分岐油路18a〜18cの流量 qiniおよびトレーサ濃度Ciniを測定するとともに、3箇所の吐出穴22a〜22cから流出する流量qoutijおよびトレーサ濃度Coutij をそれぞれ測定することにより、それ等の流量 qini、qoutijおよび濃度Cini、Coutij に基づいて3つの分岐油路18a〜18cの各々から3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijを定量的に求めることができる。これにより、吸出し効果や流通抵抗等の相違に拘らず潤滑部位であるクラッチC1、C2、ブレーキB1に対する潤滑油の経路や供給量を適切に把握することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑システムの評価方法に係り、特に、潤滑油が複数の流通経路を経て複数の流出穴から流出させられる場合に流量分配比を定量的に求めることができる評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流入穴内に流入した潤滑油が複数の流通経路を経て複数の流出穴から流出させられ、所定の潤滑部位を潤滑する潤滑システムが、摩擦係合装置によってギヤ段や前後進が切り換えられる車両用自動変速機など種々の技術分野で用いられている。特許文献1に記載の車両用自動変速機はその一例で、油圧によって前後進切換機構の摩擦係合装置を係合させたりベルト式無段変速機を変速したりする制御用油圧回路以外に、潤滑のための油圧回路を備えており、シャフト等に設けられた油路を介して摩擦係合装置の摩擦係合部やベルト式無段変速機のベルト等を潤滑することにより、機械部品の摩耗や損耗、動力損失などを低減するようになっている。
【0003】
上記潤滑システムの評価に際しては、潤滑油量が少ないと十分な潤滑作用が得られず、多過ぎると却って動力損失を招く場合があるため、最適油量が供給されるようにすることが望まれる。このため、例えば流入穴が設けられるインタミディエイトシャフト単体について、各流入穴からの流出流量を計算或いは測定するなどして流量分配比を求め、所定の潤滑油量が得られるように穴径等を設計していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−227631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記インタミディエイトシャフトから流出した潤滑油は、更にその周囲に配設されたプラネタリギヤ等の部品に設けられた油路を通って摩擦係合部等の潤滑部位へ供給されるようになっており、流通抵抗等が複雑に変化しているため、実際に潤滑部位に供給される潤滑油量を適切に評価することは困難であった。例えば、インタミディエイトシャフトに比べてサンギヤ等が高速回転すると、吸出し効果によって潤滑油の流通量が増加する一方、他の潤滑部位への潤滑油の流通量が減少するため、インタミディエイトシャフト単体での評価とは異なる流量分配比となる。なお、インタミディエイトシャフトに限らず、他の部材に流入穴が設けられて複数の潤滑部位へ潤滑油を供給する場合も同様である。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、潤滑油が複数の流通経路を経て複数の潤滑部位へ供給される場合に、その複数の潤滑部位に対する潤滑油の流量分配比を定量的に求めることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、流入穴内に流入した潤滑油が複数の流通経路を経て複数の流出穴から流出させられ、所定の潤滑部位を潤滑する潤滑システムの評価方法であって、(a) 濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する流体若しくは微小固体から成るトレーサを前記流入穴内に注入し、前記潤滑油と共に前記複数の流通経路を経て前記複数の流出穴から流出させる一方、(b) 前記トレーサが注入された前記流入穴内における前記潤滑油の流量およびそのトレーサの濃度を測定するとともに、前記複数の流出穴から流出するその潤滑油の流量およびそのトレーサの濃度をそれぞれ測定し、(c) それ等の潤滑油の流量およびトレーサの濃度に基づいて、前記流入穴から前記複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比を定量的に求めることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の潤滑システムの評価方法において、(a) 前記流入穴を複数備えているとともに、その複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、その複数の流入穴内に流入した前記潤滑油が分岐、合流して前記複数の流出穴から流出させられる一方、(b) 前記複数の流入穴に対応して前記トレーサを複数種類用意し、その複数の流入穴に対してそれぞれ異なる種類のトレーサを同時に注入するとともに、その複数の流入穴内における前記潤滑油の流量およびトレーサの濃度をそれぞれ測定する一方、前記複数の流出穴から流出する部位では、その潤滑油の流量をそれぞれ測定するとともにトレーサの種類毎にそのトレーサの濃度を測定し、(c) 前記複数の流入穴の各々から前記複数の流出穴へ流通する前記潤滑油の流量分配比をそれぞれ求めることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明の潤滑システムの評価方法において、(a) 前記流入穴を複数備えているとともに、その複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、その複数の流入穴内に流入した前記潤滑油が分岐、合流して前記複数の流出穴から流出させられる一方、(b) 前記複数の流入穴に対して前記トレーサを順番に択一的に注入し、そのトレーサを注入する流入穴を変更する毎にトレーサが注入された流入穴内における前記潤滑油の流量およびトレーサの濃度をそれぞれ測定するとともに、前記複数の流出穴から流出する潤滑油の流量およびトレーサの濃度をそれぞれ測定し、(c) 前記複数の流入穴の各々から前記複数の流出穴へ流通する前記潤滑油の流量分配比をそれぞれ求めることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの潤滑システムの評価方法において、(a) 前記潤滑システムは車両用自動変速機を潤滑するためのもので、(b) 前記トレーサは濃度によって紫外線吸収強度が変化するトリクレジルホスフェートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような潤滑システムの評価方法においては、濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する流体若しくは微小固体から成るトレーサを流入穴内に注入し、その流入穴内における潤滑油の流量およびトレーサの濃度を測定するとともに、複数の流出穴から流出する潤滑油の流量およびトレーサの濃度をそれぞれ測定することにより、それ等の潤滑油の流量およびトレーサの濃度に基づいて流入穴から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比を定量的に求めることができる。これにより、吸出し効果や流通抵抗等の相違に拘らず複数の潤滑部位に対する潤滑油の経路や供給量を適切に把握することができる。
【0012】
第2発明は、流入穴を複数備えているとともに、その複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、複数の流入穴内に流入した潤滑油が分岐、合流して複数の流出穴から流出させられる場合で、複数の流入穴に対してそれぞれ異なる種類のトレーサを同時に注入し、そのトレーサの種類毎に濃度を測定することにより、複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比をそれぞれ求めることができる。このように、複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比がそれぞれ求められるため、複数の流入穴および流出穴を有する複雑な潤滑システムにおいて、複数の潤滑部位に対する潤滑油の経路や供給量を総合的に把握することができる。また、複数種類のトレーサを複数の流入穴に同時に注入し、トレーサの種類毎に濃度を測定するため、複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比を短時間で効率良く求めることができる。
【0013】
第3発明も、流入穴を複数備えているとともに、その複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、複数の流入穴内に流入した潤滑油が分岐、合流して複数の流出穴から流出させられる場合で、複数の流入穴に対してトレーサを順番に択一的に注入して濃度等を測定することにより、複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比をそれぞれ求めることができる。このように、複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比がそれぞれ求められるため、複数の流入穴および流出穴を有する複雑な潤滑システムにおいて、複数の潤滑部位に対する潤滑油の経路や供給量を総合的に把握することができる。また、複数の流入穴に対してトレーサを順番に択一的に注入して流量分配比を求めるため、1種類のトレーサを用いるだけで複数の流入穴の各々から複数の流出穴へ流通する潤滑油の流量分配比を適切に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明方法に従って潤滑システムを評価することができる車両用自動変速機の一例を説明する概念図である。
【図2】本発明方法に従って図1の車両用自動変速機の潤滑システムを評価する際に用いる潤滑評価装置の概略図、および流量分配比算出原理を説明する図である。
【図3】トレーサを注入する流入穴を変更して流量および濃度を測定する場合を説明する図で、図2の(a) に対応する概略図である。
【図4】複数の流入穴に対してそれぞれ異なる種類のトレーサを同時に注入して流量および濃度を測定する場合を説明する図で、図2の(a) に対応する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の評価方法は、車両用自動変速機の潤滑システムの潤滑油の経路や供給状態を把握する場合に好適に適用されるが、車両用自動変速機以外の各種の機械装置の潤滑システムを評価する場合にも適用され得る。
【0016】
トレーサとしては、濃度によって紫外線吸収強度が変化するトリクレジルホスフェートが好適に用いられるが、濃度によって所定の波長の光の吸収強度が変化するものや、濃度によって蛍光強度が変化するものなど、濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する他のトレーサを採用することもできる。例えば、クマリン、ピレン、ローダミン、フルオロセイン、エオシン等が好適に用いられる。また、インク等の顔料の色の濃度による判定を用いても良いし、金属粒子を用いることも可能である。
【0017】
潤滑油の流量およびトレーサの濃度に基づいて流量分配比を求める方法としては、例えば流入穴内のトレーサ濃度と流量を掛け算することにより総トレーサ量を求め、その総トレーサ量に対する複数の流出穴から流出する各トレーサ量(トレーサ濃度×流量)の割合を求めれば良い。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両用自動変速機10の潤滑システムを説明する概念図で、この車両用自動変速機10は、インタミディエイトシャフト12と、そのインタミディエイトシャフト12の周囲に相対回転可能に配設された遊星歯車装置等の複数の機械部品から成る周辺部品14と、ギヤ段や前後進を切り換えるための単板式或いは多板式のクラッチC1、C2、ブレーキB1を備えている。そして、これ等のクラッチC1、C2、ブレーキB1の摩擦係合部を潤滑するため、インタミディエイトシャフト12には軸方向油路16が設けられているとともに、その軸方向油路16から径方向に分岐して外周面に開口する複数の分岐油路18a、18b、18cが設けられており、軸方向油路16には図示しないポンプから潤滑油が圧送されるようになっている。また、周辺部品14には、上記分岐油路18a〜18cから出力される潤滑油をクラッチC1、C2、ブレーキB1の摩擦係合部に導くために複数の流通経路20が設けられており、クラッチC1、C2、ブレーキB1に対応して設けられた3箇所の吐出穴22a、22b、22cから潤滑油を吐出するようになっている。複数の流通経路20は、軸方向穴や径方向穴、軸方向溝、環状溝などによって構成されているとともに互いに連通させられており、複数の分岐油路18a〜18cから出力された潤滑油は、複数の流通経路20によって分岐、合流しつつ3箇所の吐出穴22a〜22cから吐出される。上記分岐油路18a、18b、18cは流入穴で、吐出穴22a、22b、22cは流出穴で、クラッチC1、C2、ブレーキB1は潤滑部位に相当し、潤滑油が供給される軸方向油路16から吐出穴22a、22b、22cに至る油路によって潤滑システムが構成されている。
【0019】
図2は、上記車両用自動変速機10に備えられた潤滑システムを評価するための装置、およびその装置を用いて流量分配比を求める手順を説明する図である。(a) は潤滑評価装置で、前記複数の分岐油路18a、18b、18cに対してそれぞれトレーサ30を含む潤滑油を注入する注入装置32a、32b、32cを備えている。トレーサ30は、濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する流体若しくは微小固体(粉末など)で、本実施例では濃度によって紫外線吸収強度が変化するトリクレジルホスフェートが用いられる。そして、図2の(b) に示す流量分配比算出原理に従い、注入装置32a〜32cにより複数の分岐油路18a〜18cに順番に択一的にトレーサ30を注入するとともに、流入部位および流出部位における潤滑油の流量 qini、qoutijおよびトレーサ30の濃度Cini、Coutij をそれぞれ計測し、その流量 qini、qoutijおよび濃度Cini、Coutij に基づいて流量分配比rijを算出する。潤滑油の流量 qini、qoutijは流量計等を用いて測定でき、トレーサ30の濃度Cini、Coutij は紫外線検出器で測定した紫外線強度から予め定められたデータマップや換算式等により求められる。
【0020】
図2の(a) は、注入装置32aにより分岐油路18aにトレーサ30を注入し、その分岐油路18aから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比を求める場合で、流入部位すなわち分岐油路18a内の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度が( qin1、Cin1)、流出部位すなわち吐出穴22a、22b、22cから流出する部分の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度がそれぞれ(qout11、Cout11 )、(qout12、Cout12 )、(qout13、Cout13 )である。そして、流入部位の流量 qin1および濃度Cin1を掛け算することにより総トレーサ量Wt1が求められ、その総トレーサ量Wt1に対する複数の流出部位の各トレーサ量(トレーサ濃度×流量)の割合を求めることにより、分岐油路18aから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比が算出される。すなわち、分岐油路18aから吐出穴22aへ流通する潤滑油の流量分配比r11=qout11×Cout11 /Wt1となり、分岐油路18aから吐出穴22bへ流通する潤滑油の流量分配比r12=qout12×Cout12 /Wt1となり、分岐油路18aから吐出穴22cへ流通する潤滑油の流量分配比r13=qout13×Cout13 /Wt1となる。
【0021】
図3の(a) は、注入装置32bにより分岐油路18bにトレーサ30を注入し、その分岐油路18bから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比を求める場合で、流入部位すなわち分岐油路18b内の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度が( qin2、Cin2)、流出部位すなわち吐出穴22a、22b、22cから流出する部分の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度がそれぞれ(qout21、Cout21 )、(qout22、Cout22 )、(qout23、Cout23 )である。そして、流入部位の流量 qin2および濃度Cin2を掛け算することにより総トレーサ量Wt2が求められ、その総トレーサ量Wt2に対する複数の流出部位の各トレーサ量(トレーサ濃度×流量)の割合を求めることにより、分岐油路18bから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比が算出される。すなわち、分岐油路18bから吐出穴22aへ流通する潤滑油の流量分配比r21=qout21×Cout21 /Wt2となり、分岐油路18bから吐出穴22bへ流通する潤滑油の流量分配比r22=qout22×Cout22 /Wt2となり、分岐油路18bから吐出穴22cへ流通する潤滑油の流量分配比r23=qout23×Cout23 /Wt2となる。
【0022】
また、図3の(b) は、注入装置32cにより分岐油路18cにトレーサ30を注入し、その分岐油路18cから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比を求める場合で、流入部位すなわち分岐油路18c内の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度が( qin3、Cin3)、流出部位すなわち吐出穴22a、22b、22cから流出する部分の潤滑油の流量およびトレーサ30の濃度がそれぞれ(qout31、Cout31 )、(qout32、Cout32 )、(qout33、Cout33 )である。そして、流入部位の流量 qin3および濃度Cin3を掛け算することにより総トレーサ量Wt3が求められ、その総トレーサ量Wt3に対する複数の流出部位の各トレーサ量(トレーサ濃度×流量)の割合を求めることにより、分岐油路18cから3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比が算出される。すなわち、分岐油路18cから吐出穴22aへ流通する潤滑油の流量分配比r31=qout31×Cout31 /Wt3となり、分岐油路18cから吐出穴22bへ流通する潤滑油の流量分配比r32=qout32×Cout32 /Wt3となり、分岐油路18cから吐出穴22cへ流通する潤滑油の流量分配比r33=qout33×Cout33 /Wt3となる。
【0023】
このように、本実施例の潤滑システムの評価方法によれば、濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する流体若しくは微小固体から成るトレーサ30を分岐油路18a〜18cに注入し、その分岐油路18a〜18c内における潤滑油の流量 qiniおよびトレーサ30の濃度Ciniを測定するとともに、3箇所の吐出穴22a〜22cから流出する潤滑油の流量qoutijおよびトレーサ30の濃度Coutij をそれぞれ測定することにより、それ等の潤滑油の流量 qini、qoutijおよびトレーサ30の濃度Cini、Coutij に基づいて3箇所の分岐油路18a〜18cの各々から3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijを定量的に求めることができる。これにより、吸出し効果や流通抵抗等の相違に拘らず複数の潤滑部位、すなわちクラッチC1、C2、ブレーキB1に対する潤滑油の経路や供給量を適切に把握することができる。
【0024】
また、本実施例の潤滑システムは、3つの分岐油路18a〜18cを備えているとともに、その3つの分岐油路18a〜18cに繋がる複数の流通経路20は互いに連通させられ、3つの分岐油路18a〜18cに流入した潤滑油がそれ等の流通経路20によって分岐、合流しつつ3箇所の吐出穴22a〜22cから吐出される場合で、3つの分岐油路18a〜18cに対してトレーサ30を順番に択一的に注入することにより、3つの分岐油路18a〜18cの各々から3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijをそれぞれ求めることができる。これにより、複数の分岐油路18a〜18cから複数の吐出穴22a〜22cへ流通する複雑な潤滑システムにおいて、複数の潤滑部位すなわちクラッチC1、C2、ブレーキB1に対する潤滑油の経路や供給量を総合的に把握することができる。また、3つの分岐油路18a〜18cに対してトレーサ30を順番に択一的に注入して流量分配比rijを求めるため、1種類のトレーサ30を用いるだけで複数の分岐油路18a〜18cから複数の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijを適切に求めることができる。
【0025】
なお、図4に示すように前記3つの分岐油路18a〜18cに対応して3種類のトレーサ40a〜40cを用意し、その3つの分岐油路18a〜18cに対してそれぞれ異なる種類のトレーサ40a〜40cを同時に注入するとともに、その3つの分岐油路18a〜18cにおける潤滑油の流量 qiniおよびトレーサ40a〜40cの濃度Ciniをそれぞれ測定する一方、3箇所の吐出穴22a〜22cから吐出する流出部位では、その潤滑油の流量qoutiをそれぞれ測定するとともにトレーサ40a〜40cの種類毎にそのトレーサ40a〜40cの濃度Coutij を測定することにより、前記実施例と同様に3つの分岐油路18a〜18cの各々から3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijをそれぞれ求めることができる。
【0026】
図4の濃度Cout11 〜Cout13 はトレーサ40aに関するもので、分岐油路18aから吐出穴22a〜22cへ流通する流量分配比r11〜r13に関与し、濃度Cout21 〜Cout23 はトレーサ40bに関するもので、分岐油路18bから吐出穴22a〜22cへ流通する流量分配比r21〜r23に関与し、濃度Cout31 〜Cout33 はトレーサ40cに関するもので、分岐油路18cから吐出穴22a〜22cへ流通する流量分配比r31〜r33に関与する。3種類のトレーサ40a〜40cとしては、濃度と相関を持って変化する物理量を同時に区別して測定できるものが選ばれ、例えばトリクレジルホスフェート、クマリン、ピレン、ローダミン、フルオロセイン、エオシンの中から適宜選択される。
【0027】
この場合には、3種類のトレーサ40a〜40cを3つの分岐油路18a〜18cに同時に注入し、3箇所の吐出穴22a〜22cではトレーサ40a〜40cの種類毎に濃度Coutij を測定するため、3つの分岐油路18a〜18cの各々から3箇所の吐出穴22a〜22cへ流通する潤滑油の流量分配比rijを短時間で効率良く求めることができる。
【0028】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0029】
10:車両用自動変速機 18a、18b、18c:分岐油路(流入穴) 20:流通経路 22a、22b、22c:吐出穴(流出穴) 30、40a、40b、40c:トレーサ C1、C2:クラッチ(潤滑部位) B1:ブレーキ(潤滑部位)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入穴内に流入した潤滑油が複数の流通経路を経て複数の流出穴から流出させられ、所定の潤滑部位を潤滑する潤滑システムの評価方法であって、
濃度と相関を持って変化する計測可能な物理量を有する流体若しくは微小固体から成るトレーサを前記流入穴内に注入し、前記潤滑油と共に前記複数の流通経路を経て前記複数の流出穴から流出させる一方、
前記トレーサが注入された前記流入穴内における前記潤滑油の流量および該トレーサの濃度を測定するとともに、前記複数の流出穴から流出する該潤滑油の流量および該トレーサの濃度をそれぞれ測定し、
該潤滑油の流量および該トレーサの濃度に基づいて、前記流入穴から前記複数の流出穴へ流通する該潤滑油の流量分配比を定量的に求める
ことを特徴とする潤滑システムの評価方法。
【請求項2】
前記流入穴を複数備えているとともに、該複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、該複数の流入穴内に流入した前記潤滑油が分岐、合流して前記複数の流出穴から流出させられる一方、
前記複数の流入穴に対応して前記トレーサを複数種類用意し、該複数の流入穴に対してそれぞれ異なる種類のトレーサを同時に注入するとともに、該複数の流入穴内における前記潤滑油の流量および該トレーサの濃度をそれぞれ測定する一方、前記複数の流出穴から流出する部位では、該潤滑油の流量をそれぞれ測定するとともに該トレーサの種類毎に該トレーサの濃度を測定し、
前記複数の流入穴の各々から前記複数の流出穴へ流通する前記潤滑油の流量分配比をそれぞれ求める
ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑システムの評価方法。
【請求項3】
前記流入穴を複数備えているとともに、該複数の流入穴に繋がる複数の流通経路の少なくとも一部は互いに連通させられ、該複数の流入穴内に流入した前記潤滑油が分岐、合流して前記複数の流出穴から流出させられる一方、
前記複数の流入穴に対して前記トレーサを順番に択一的に注入し、該トレーサを注入する流入穴を変更する毎に該トレーサが注入された流入穴内における前記潤滑油の流量および該トレーサの濃度をそれぞれ測定するとともに、前記複数の流出穴から流出する該潤滑油の流量および該トレーサの濃度をそれぞれ測定し、
前記複数の流入穴の各々から前記複数の流出穴へ流通する前記潤滑油の流量分配比をそれぞれ求める
ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑システムの評価方法。
【請求項4】
前記潤滑システムは車両用自動変速機を潤滑するためのもので、
前記トレーサは濃度によって紫外線吸収強度が変化するトリクレジルホスフェートである
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の潤滑システムの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216525(P2010−216525A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62068(P2009−62068)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】